(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の蒸着マスクは前記特許文献に示される構成となっており、電鋳の手法を用いて枠体をマスク本体と適切に一体化していることで、蒸着工程で熱が加わった際のマスクと基板の相対変形を抑え、蒸着形成物の位置精度の悪化を防止することができる。
【0006】
ただし、近年の市場では蒸着形成物のさらなる高精度化の要求があり、マスクの薄型化や通孔パターンの微細化が図られるようになっており、これに伴ってマスクの位置精度の及ぼす影響は相対的に大きくなっている。
【0007】
従来の蒸着マスクのようにマスク本体と枠体との組合せ構造を採用する場合、マスク本体と枠体とを一体化する工程で、マスク本体は母型上に電着層として存在していることから、一体化は母型の精度がそのまま反映されることとなる。
【0008】
仮に、母型自体の精度の問題や、前工程の電鋳による影響等で母型に反りなどの歪みがある場合、母型上の電着層と枠体とが一体化されると、一体化の前後で母型の歪みは特に変化せずそのまま維持されることから、こうした母型の歪みの影響がマスク本体の位置精度に影響を与えることとなり、マスクのさらなる精度向上を困難にする、という課題を有していた。
【0009】
本発明は前記課題を解消するためになされたもので、めっき等の工程で、母型を所定の基準面に沿った適切な配置状態で保持固定し、母型の歪みの影響が母型上の形成物に及ぶのを抑えて、形成物の精度を向上させられる母型保持具、並びに、この母型保持具を用いるマスク製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の開示に係る母型保持具は、略平面状の基準面と、当該基準面に強磁性物質を磁力で吸着可能とする、一又は複数の磁力発生部とを備えてなり、強磁性物質を含んで板状とされる電鋳用の母型を、前記磁力発生部の磁力で吸引して、前記基準面に密着させた状態に保持可能であるものである。
【0011】
このように本発明の開示によれば、電鋳用の母型を磁力発生部の磁力で吸引して、略平面状の基準面に母型を密着させ、母型を基準面形状に合わせた状態で保持することにより、マスク製造に際しての、母型上の一次電着層に枠体を一体化するめっき工程に適用して、基準面に沿った適切な形状及び配置とした母型上の一次電着層と枠体に対し、めっきで金属層を形成すれば、枠体と一次電着層とを適切な位置関係のまま金属層で固定一体化して、母型分離後も枠体がそのまま適切な位置関係を維持するように機能させられることとなり、母型のコンディションの影響を受けずに同じ品質のマスクが確実に得られ、母型を原因とするマスクの精度のばらつきを抑えられ、マスクを用いた蒸着等の製造工程で精度よく均質な製品が得られる。
【0012】
また、本発明の開示に係る母型保持具は必要に応じて、前記磁力発生部が、所定の表面を前記基準面とされてなる板状の磁石部を有してなるものである。
【0013】
このように本発明の開示によれば、磁力発生部の要部として板状の磁石部を用い、磁石部の一表面となる基準面に、この基準面から生じている磁力で母型を吸引して密着させることにより、磁石そのものである基準面でむらなく均等に吸引力を母型に与えて、より確実に母型の基準面への密着状態が得られることとなり、母型を基準面形状に合わせた適切な形状及び配置とする状態に効率よく保持して、母型上の一次電着層に枠体を一体化するめっき工程で、枠体と一次電着層とを正しい位置関係で確実に一体化できる。
【0014】
また、本発明の開示に係る母型保持具は必要に応じて、容易に変形しない強度を有する板状体で形成され、前記磁石部における基準面とは反対側の面に一体に固定される、補強板を備えるものである。
【0015】
このように本発明の開示によれば、磁力発生部をなす板状の磁石部における、基準面の反対側となる面に、変形しない強度の補強板を固定して、磁石部が補強板で補強されて容易に変形しない状態が得られることにより、母型を密着させる基準面がその形状を確実に固定化された状態となって、この変形なく高い精度に保たれた基準面形状に母型を合わせるようにして、母型を所望の形状に高精度で一致させられることとなり、厳密に正しい形状及び配置とされた母型上でめっき工程が実行されることで、母型上で一次電着層と枠体との適切な位置関係を高い精度で確保しつつめっき工程を進められ、一次電着層と枠体とを一体化して得られるマスクの精度もより高いものとすることができる。
【0016】
また、本発明の開示に係るマスク製造方法は、多数の通孔を設けられる金属製のマスク本体と、マスク本体の外側を取り囲んで配置される金属製の枠体とを備えるマスクの製造方法において、母型上の複数の所定位置に金属の電鋳で前記マスク本体に対応する一次電着層を形成する第1の電鋳工程と、前記枠体を、前記一次電着層に対しあらかじめ設定された位置関係となるようにして母型上に配置する枠体配設工程と、前記枠体の一部又は全部の表面から前記一次電着層の一部表面にまたがる所定範囲に、金属層をめっき形成し、当該金属層を介して枠体と一次電着層とを離れないよう一体に連結する第2の電鋳工程と、前記母型と、一体の一次電着層、枠体及び金属層とを分離する分離工程とを含み、前記母型が、強磁性物質を材質として含む板状体とされ、少なくとも前記第2の電鋳工程が、母型の一次電着層及び枠体のある側とは反対側における面を、母型に沿って配置された略平面状の基準面に磁力によって吸着した状態で行われるものである。
【0017】
このように本発明の開示によれば、マスク本体に対応する一次電着層を母型上に電鋳で形成した後、一次電着層に枠体をめっきで一体化する工程では、母型を磁力で所定の基準面に吸着した状態としてから、めっきを実行することにより、母型を基準面に沿わせて、母型とこの母型上に形成された一次電着層とを常に同じ位置関係に強力に保持した上で、一次電着層と枠体に対し一体化めっきを実行でき、仮に母型ごとにそのコンディションが異なる場合でも、母型と一次電着層を適切な配置に修整して、めっきによる一体化を正しい位置関係の下に実行でき、最終的にマスクが得られた段階では、マスク本体と適切に一体化された枠体でマスク本体を補強支持してマスク本体各部の位置ずれを抑えるようにした、同じ品質のマスクとすることができ、マスクを用いて高精度で均質な製品を製造できる。
【0018】
また、本発明の開示に係るマスク製造方法は、必要に応じて、少なくとも前記第2の電鋳工程が、前記母型と、当該母型を磁力で吸引して前記基準面に密着させた状態に保持可能である母型保持具とを、所定の支持装置に取り付けた状態で行われ、前記支持装置は、矩形状の板状体である基板部と、当該基板部の矩形の各辺にそれぞれ対応する枠状体とされて基板部に着脱可能に取り付けられる枠状支持部と、金属製の薄板材で形成され、枠状支持部のうち少なくとも平行な二つの枠辺部分に重ねて設けられる母型への通電用の接点部とを備えるものであり、少なくとも前記第2の電鋳工程の前に、母型が母型保持具で保持され、且つ、母型保持具が前記支持装置の基板部に載置されている状態としてから、前記枠状支持部を基板部に取り付けて、枠状支持部と基板部との間に母型と母型保持具を挟むと共に、枠状支持部の二つの枠辺部分に重ねて設けられた接点部を母型表面端部に接触させて、接点部と母型とを導通状態としつつ、接点部のある枠状支持部の二つの枠辺部分から母型に対称に固定支持力を付与して、母型を基板部上に固定状態とするものである。
【0019】
このように本発明の開示によれば、一次電着層に枠体をめっきで一体化する第2の電鋳工程では、基板部、枠状支持部及び接点部を備える支持装置に、母型を取り付けるようにし、母型を母型保持具の基準面に密着させた状態としつつ、母型を支持装置の枠状支持部と基板部との間に挟むようにして、枠状支持部の二つの枠辺部分で接点部を母型表面に接触させ、母型を基板部上に固定することにより、枠状支持部の各接触部位から母型に加わる力が適切な大きさで且つ各接触部位間で均等となり、母型に加わる固定力が偏って母型に歪みを与えるようなことはなく、母型はその二つの端部で対称に固定支持力を受けて安定的に支持され、第2の電鋳工程を母型上で精度よく実行することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係る母型保持具を
図1ないし
図15に基づいて説明する。本実施形態においては、有機EL素子用蒸着マスクの製造に適用した構成の例について説明する。
前記各図において本実施形態に係る母型保持具50は、一表面を略平面状の基準面51aとされ、この基準面51aに強磁性物質を吸着可能とされる、前記磁力発生部としての略板状の磁石部51と、この磁石部51の基準面51aとは反対側の面に一体に固定される金属板製の補強板52とを備える構成である。
【0022】
前記磁石部51は、矩形板状の永久磁石であり、その一表面を略平面状の基準面51aとされ、この基準面51aに、例えばSUS430材などの強磁性物質を材質として含む母型10を吸着可能とされるものである。
【0023】
前記補強板52は、容易に変形しない十分な強度を有する、例えばSUS430材などからなる金属板であり、磁石部51の基準面51aとは反対側の面に一体に固定される構成である。
【0024】
この母型保持具50による吸引で、強磁性物質を有する金属部を備えた母型10が、母型保持具50の平坦な基準面51aに密着した状態となることで、母型10に歪みがある場合でもそうした歪みが矯正されて適切な状態とすることができる。
【0025】
母型保持具50で吸着保持される母型10は、蒸着マスクの製造工程で用いられる、ステンレス材や鋼等の導電性を有すると共に強磁性物質を含む材質製とされる矩形状又は方形状の板状体である。蒸着マスク製造工程における一次電着層15や金属層7の形成の際には、電解液中でこの母型10を介した通電がなされることで、母型10表面のレジストに覆われない通電可能な部分に、電鋳(めっき)により一次電着層15や金属層7といった電着金属の層が形成されることとなる。
【0026】
本実施形態に係る母型保持具50は、母型10と密着するように重なった状態で、電鋳やめっき工程用の支持装置60で支持される。
この支持装置60は、平坦な略板状の基板部61と、この基板部61上に枠状に配設される枠状支持部62と、枠状支持部62の所定箇所と基板部61との間に介在して母型と電気的に接触可能とされる接点部63とを備える構成である。
【0027】
前記基板部61は、容易に変形しない十分な厚さ(例えば、厚さ10mm)を有する矩形状の板状体であり、母型10を直接又は母型保持具50を介在させつつ重ねて配設される構成である。この基板部61は、母型10と共にめっき槽に建浴されることから、電鋳やめっきで用いる電解液の影響を受けない、例えば、塩化ビニル樹脂製とされる。
【0028】
前記枠状支持部62は、基板部61の各辺にそれぞれ対応する細長い四つの板状部材を枠状に組み合わせて基板部61にボルト及びナットで着脱可能に取り付けられるものである。枠状支持部62の枠内周部分には、この枠状支持部62の基板部61への取付状態で基板部61表面と所定間隔をなすようにされて、基板部61との間に母型10や母型保持具50を挟んで離脱不能に拘束する突出部62aが設けられる。
【0029】
枠状支持部62の突出部62aと基板部61との間に母型10や母型保持具50を挟んだ状態で、枠状支持部62の各部材をボルト及びナットで基板部61に取り付けることで、母型10や母型保持具50は基板部61から位置ずれや外れがないように拘束される。
【0030】
前記接点部63は、例えば0.3μm程度の厚さの、銅板などの金属製の薄板材で形成され、枠状支持部62のうち長辺となる二辺部分の板状部材における突出部62aに重ねて設けられるものである。この接点部63は、枠状支持部62の突出部62aと基板部61との間に母型10を挟むようにして枠状支持部62を基板部61に取り付けた状態で、母型10表面の二つの端部に電気的に接触可能とされる。この場合、枠状支持部62の前記二辺部分で、各接点部63が母型10と接触して枠状支持部62と母型10との間に隙間を生じさせないことで、母型10は基板部61上に固定状態となり、二つの端部で対称に固定支持力を受けて安定的に支持されることとなる。
【0031】
枠状支持部62の突出部62aと基板部61との間に母型10や母型保持具50を挟んだ状態で、枠状支持部62の各部材をボルト及びナットで基板部61に取り付けることで、母型10は基板部61から外れないよう支持されると共に、枠状支持部62に重なる二箇所の接点部63が母型10に密着することで、母型10は二つの端部で基板部61に押し付けられて二辺で対称に固定される。
【0032】
なお、接点部63は枠状支持部62のうち二箇所に対向配置されて、枠状支持部62を基板部61に取り付けた状態で二つの接点部63を母型10と密着させて母型10を対称な二箇所で固定支持する構成としているが、これに限らず、母型10を支持装置60の対称な四箇所で支持する構成とすることもできる。その場合、接点部63を枠状支持部62の四つの板状部材に同様に配置して支持する他、接点部63を枠状支持部62の所定の二辺部分に配置する一方、同じ厚さで電鋳やめっきに影響をあたえないダミー接点部を枠状支持部62の他の二辺部分に設ける構成とすることもできる。
【0033】
この他、接点部63を枠状支持部62の所定の二辺部分に配置する一方、枠状支持部62の他の二辺部分では枠状支持部62の突出部62aの厚さを接点部63の厚さ分増やしたものとして、前記同様に枠状支持部62の四辺部分で母型10の対称な四箇所を支持する構成とすることもできる。
【0034】
こうして支持装置60における枠状支持部62の四辺部分で母型10を支持する場合、より安定した固定状態にできるが、固定力が大きくなることで却って母型に歪みを与えることのないよう、枠状支持部62の各接触部位から母型に加わる力が適切な大きさで且つ各接触部位間で均等となるような支持機構とするのが好ましい。
【0035】
本実施形態に係る母型保持具50を用いて製造される蒸着マスク1は、多数の蒸着通孔8を所定パターンで設けられる複数のマスク本体2と、マスク本体2の外側を取り囲んで配置される枠体3とを備える構成である。
【0036】
前記マスク本体2は、ニッケルやニッケルコバルト等のニッケル合金、その他の電着金属を素材として、電鋳によりシート状に形成され、蒸着物質を通す独立した多数の蒸着通孔8を所定パターンで設けられる構成である。
【0037】
マスク本体2は、多数の蒸着通孔8を設けられる内部のパターン形成領域2aと、めっきにより形成される金属層7を介して枠体3と一体に接合される外周縁2bとを含むものである。パターン形成領域2aでは、多数の蒸着通孔8が、発光層形成用として、前後方向に直線的に並ぶ複数個の通孔群を列とし、複数個の列が左右方向に並列状に配設されたマトリクス状の蒸着パターン9を形成している。
【0038】
前記枠体3は、マスク本体2よりも肉厚の板状体を矩形の枠形状としたもので、マスク本体2の補強用としてマスク本体2の外側を取り囲んで配置され、マスク本体2と連結一体化される構成である。詳細には、枠体3は、全体として格子状に形成され、内側で複数区画された各開口領域に、マスク本体2がそれぞれ位置し、金属層7を介して枠体3と一体化される構成である。
【0039】
この枠体3は、低熱膨張係数の材質、例えば、ニッケル−鉄合金であるインバー材、あるいはニッケル−鉄−コバルト合金であるスーパーインバー材等のような材質で形成される。そして、枠体3は、めっきにより形成された金属層7により、マスク本体2のパターン形成領域2aの外周縁2bと互いに離れないよう連結一体化される。
【0040】
なお、枠体3の材質は、被蒸着基板であるガラス等に近い低熱膨張係数の材料、例えばガラスやセラミックのようなものを用いることもできる。この場合、これら材料の少なくとも表面に導電性を付与させることとなる。
【0041】
前記蒸着マスク1は、母型10の表面に、一次電着層15の非配置部分に対応させて一次パターンレジスト14が設けられた後、母型10上に電着金属の電鋳により一次電着層15を形成され、この一次電着層15のパターン形成領域2a対応部分を覆う二次パターンレジスト18を形成され、さらに、一次電着層15を囲むように枠体3を配置された後、枠体3の表面と一次電着層15の外周縁2b表面とを覆うようにめっきにより金属層7を形成されて、この金属層7を介して一次電着層15と枠体3とを離れないよう一体に連結された状態で、これら一体の一次電着層15、枠体3及び金属層7と母型10とを分離することで製造されるものである。
【0042】
母型10が一次電着層15や金属層7から分離される工程では(
図15(B)参照)、母型10がステンレス材の場合、力を加えて蒸着マスク側から物理的に引き剥がして除去する方法が採られ、また、母型10が他の金属材の場合、薬液を用いて溶解除去するエッチングの方法が用いられる。エッチングの場合、母型10は溶解するが一次電着層15や枠体3、金属層7をなす材質が冒されないような選択エッチング性を有するエッチング液を用いることとなる。
【0043】
前記一次電着層15は、電鋳に適したニッケルやニッケル−コバルト等のニッケル合金からなり、母型10上の一次パターンレジスト14のない部分に、電鋳で形成される構成である。蒸着マスク1において、一次電着層15は、被蒸着基板における発光層等の蒸着対象箇所に対応する蒸着通孔8を除いた、被蒸着基板の表面を覆うマスク本体2をなすものとして形成されることとなる。
【0044】
前記一次パターンレジスト14は、一次電着層15の電鋳で使用する電解液に対する耐溶解性を備えた絶縁性材で形成され、母型10上にあらかじめ設定される一次電着層15の非配置部分に対応させて配設され、一次電着層15の形成後には除去されるものである(
図8、
図9参照)。
【0045】
この一次パターンレジスト14は、母型10上に一次電着層15の形成に先立って配設され、感光性レジスト、例えば、ネガタイプの感光性ドライフィルムレジストを、母型10に所定の厚さ、例えば約20μmの厚さとなるようにして配設し、蒸着マスク1のマスク本体2位置、すなわち、一次電着層15の配置位置に対応する所定パターンのマスクフィルム12を載せた状態で、紫外線照射による露光での硬化、非照射部分のレジストを除去する現像等の処理を経て、一次電着層15の非配置部分に対応させた形状で形成される。
【0046】
前記二次パターンレジスト18は、金属層7のめっきで使用する電解液に対する耐溶解性を備えた絶縁性材で形成され、あらかじめ設定される金属層7の非配置部分に対応させて配設され、金属層7の形成及び母型10の分離後には除去されるものである(
図14、
図15参照)。
【0047】
この二次パターンレジスト18は、感光性レジスト、例えばネガタイプの感光性ドライフィルムレジストを、母型10及び既に配置された一次電着層15上に貼着配設すると共に、蒸着マスク1の金属層7及び枠体3の位置に対応する所定パターンのマスクフィルム17を載せた状態での紫外線照射による露光を行う一連の工程を、一回又は複数回繰り返し行って、必要なレジスト厚さとした後、露光における非照射部分の感光性材料を除去する現像等の処理を経て、金属層7の非配置部分(マスク本体2のパターン形成領域2a)に対応させた形状で形成される。
【0048】
前記金属層7は、ニッケルやニッケル−コバルト合金等からなり、母型10及び既に配置された一次電着層15及び枠体3上の、二次パターンレジスト18が配設されず露出した部分に、めっきで形成される構成である。
【0049】
この金属層7は、マスク本体2のパターン形成領域2aの外周縁2bと枠体3とを接合するものである。金属層7は、パターン形成領域の外周縁2bに係るマスク本体2の上面にめっきにより積層される。詳しくは、金属層7は、マスク本体2の外周縁2b部分にあたる一次電着層15の上面と、枠体3の上面及びパターン形成領域2a側の側面と、一次電着層15(マスク本体2)と枠体3との間隙部分に形成されており、これでマスク本体2の外周縁2bと枠体3の開口周縁とを離れないよう一体に連結する。
【0050】
次に、本実施形態に係る母型保持具を用いたマスク製造工程について説明する。
まず、母型10上にあらかじめ設定される、マスク本体2の蒸着通孔8、すなわち一次電着層15の非配置部分、に対応させて、母型10にレジスト層11を配設する(
図8参照)。具体的には、母型10の表面側に、例えば、ネガタイプの感光性ドライフィルムレジストを、形成する一次電着層15の高さに対応する所定厚さ(例えば約20μm)に合わせて一ないし数枚積層し、熱圧着によりレジスト層11を形成する(
図8(A)参照)。
【0051】
そして、レジスト層11の表面に、前記蒸着通孔8に対応する透光孔12aを有するなど、一次電着層15の配置位置に対応する所定パターンのマスクフィルム(ガラスマスク)12を密着させた後、紫外線照射による露光での硬化(
図8(B)、(C)参照)、マスクされていた非照射部分のレジストを除去する現像、乾燥、といった各処理を行う。こうして、一次電着層15の非配置部分に対応させた一次パターンレジスト14を母型10上に形成する(
図9(A)参照)。
なお、このような一次パターンレジスト14は、フォトレジスト等を使用したリソグラフィー法その他の任意の方法で形成することができ、その形成方法は上記に限定されるものではない。
【0052】
この一次パターンレジスト14を有する母型10は、支持装置60に取り付けた状態(
図9(B)、(C)参照)で、電鋳により一次電着層15を形成されることとなる。詳細には、まず、枠状支持部62を取り外した後の支持装置60の基板部61に母型10を載置してから、枠状支持部62を基板部61にボルト及びナットで取り付けて、枠状支持部62の突出部62aと基板部61との間に母型10を挟んで、母型10が基板部61から離脱しないよう拘束支持される状態とする。
【0053】
この時、枠状支持部62のうち長辺となる二辺部分の部材と重ねて設けられた接点部63が、母型10表面端部に電気的に接触して、接点部63と母型10が導通状態となる。また、各接点部63が母型10と接触して、これら接点部63のある二辺で枠状支持部62と母型10との間に隙間が生じないことで、母型10は枠状支持部62の二辺から対称に固定支持力を受けて、基板部61上に固定状態となる(
図10参照)。
【0054】
こうして母型10が支持装置60に対しずれないよう固定された状態で、母型10を支持装置60ごと、所定の条件に建浴した電鋳槽に入れ、支持装置60の接点部63を通じて母型10に通電することで、一次パターンレジスト14の厚さの範囲内で、母型10の一次パターンレジスト14で覆われていない表面(露出領域)に、ニッケル合金等の電着金属の電鋳により、例えば12μm厚の、マスク本体2となる一次電着層15を形成する(
図11(A)参照)。
【0055】
この電鋳の際、母型10を支持装置60における枠状支持部62の対向する二辺で固定していることで、固定力が偏り無くバランスよく加わり、母型10上に形成される一次電着層15の寸法精度が端部ごとに変化することなく安定したものとすることができる。
【0056】
電鋳終了後、電鋳槽から支持装置60と共に取り出した母型10を、支持装置60から取り外す(
図11(B)参照)。そして、母型10から一次パターンレジスト14を溶解除去することにより、所定の蒸着パターン9をなす独立した多数の蒸着通孔8を設けられたマスク本体2となる一次電着層15が得られる(
図11(C)参照)。
【0057】
一次電着層15が得られた後、この一次電着層15の形成部分を含む母型10の表面全体に、レジスト層16を配設する。具体的には、母型10の表面側に、例えば、ネガタイプの感光性ドライフィルムレジストを、あらかじめ設定された所定厚さ(例えば約15μm)に合わせて一ないし数枚積層し、熱圧着によりレジスト層16を形成する(
図12(A)参照)。
【0058】
そして、レジスト層16の表面に、
図12(B)に示すように、マスク本体2のパターン形成領域2aに対応する透光孔17aを有するマスクフィルム17を密着させた後、紫外線照射による露光を行う(
図12(B)、(C)参照)。これにより、パターン形成領域2aに対応する部分が露光により硬化したレジスト層16a、それ以外の部分が未露光のレジスト層16bとなる。
この後、表面に露出している未露光のレジスト層16bを溶解除去する処理を行って、パターン形成領域2aを覆う二次パターンレジスト18を形成する(
図13(A)参照)。
【0059】
こうして二次パターンレジスト18を形成した後、枠体形成工程を経て形成済みの枠体3の下面側にあらかじめ接着層19を配置したものを、一次電着層15上のあらかじめ設定された箇所に位置合せして配置する(
図13(B)参照)。
【0060】
この状態での枠体3は、接着層19の粘着性により、一次電着層15上に容易に動かないよう仮固定できる。
仮固定した枠体3に対しては、必要に応じて、枠体3の上から荷重を加えて圧着する工程を実行し、枠体3が一次電着層15からさらに離れにくい状態とすることもできる。
【0061】
枠体3を配置した後の母型10は、母型保持具50と共にあらためて支持装置60に取り付けた状態(
図13(C)参照)で、めっきにより金属層7を形成されることとなる。
詳細には、枠状支持部62を取り外した後の支持装置60の基板部61に母型保持具50を載置し、さらにこの母型保持具50上に母型10を載置する。母型10は強磁性を有することで、母型保持具50の磁力で吸引され、基準面51aに沿った状態で保持される。
【0062】
母型載置後、枠状支持部62を基板部61にボルト及びナットで取り付けて、枠状支持部62の突出部62aと基板部61との間に母型10と母型保持具50を挟んで、母型10及び母型保持具50が基板部61から離脱しないよう拘束支持される状態とする。
【0063】
この時、枠状支持部62の長辺部分に設けられた接点部63が、前記同様に母型10表面端部に電気的に接触して、接点部63と母型10が導通状態となる。また、各接点部63が母型10と接触して、これら接点部63のある二辺で枠状支持部62と母型10との間に隙間が生じないことで、母型10は枠状支持部62の二辺から対称に固定支持力を受けて、基板部61上に固定状態となる(
図4(B)、(C)参照)。
【0064】
さらにこの場合、母型保持具50に支持された母型10が、母型保持具50による吸引で、母型保持具50の基準面51aに沿った状態となっていることで、母型10に歪みがある場合でもそうした歪みが矯正されて、母型10は平面状の適切な形態を維持することができる。
【0065】
母型保持具50と共に支持装置60に取り付けられた母型10を、所定の条件に建浴しためっき槽に入れて、支持装置60の接点部63を通じて母型10に通電する。これにより、二次パターンレジスト18に覆われず、パターン形成領域2aの外周縁2bに係る表面に露出する一次電着層15の上面、枠体3下側の一次電着層15aとその側方で表面に露出する母型10の各露出面、及び枠体3の表面上に、電着金属のめっきにより金属層7が形成される(
図14(A)参照)。この金属層7により一次電着層15と枠体3とを離れないよう一体に連結できる。
【0066】
このめっきの際に、一次電着層15が形成された母型10を、母型保持具50で適切な形状をなすよう保持することで、金属層7による枠体3との一体化が正しい位置関係の下に実行され、母型10の歪みの影響を受けることなく一体化できる。
【0067】
金属層7の形成が完了したら、めっき槽から母型10を母型保持具50及び支持装置60と共に取り出す。母型10は、母型保持具50と共に支持装置60から取り外し(
図14(B)参照)、さらに、母型保持具50からも取り外した状態とする(
図15(A)参照)。
【0068】
そして、最終工程として、一体の一次電着層15、枠体3及び金属層7から母型10を分離する(
図15(B)参照)。
母型10の分離後、枠体3の下側に存在する一次電着層15aを接着層19と共に除去し、次いで二次パターンレジスト18を除去することで、蒸着マスク1の製造が完了となる(
図15(C)参照)。なお、枠体3の下側に接着層19が残存している場合は、二次パターンレジスト18の除去時に除去する。
【0069】
この他、二次パターンレジスト18の除去を母型10の分離前に行い、その後、母型10を分離し、枠体3の下側に存在する一次電着層15aを接着層19と共に除去する手順とするようにしてもよい。
【0070】
このように、本実施形態に係る母型保持具は、母型10上の一次電着層15に枠体3を一体化するめっき工程に際して、母型10を磁力で吸引して、母型保持具50の略平面状の基準面51aに母型10を密着させ、母型10を基準面形状に合わせた状態で保持することから、母型上の一次電着層15に枠体3を一体化するめっき工程で、基準面51aに沿った適切な形状及び配置となった母型10上の一次電着層15と枠体3に対しめっきで金属層7を形成すると、枠体3と一次電着層15とを適切な位置関係としたまま金属層7で固定一体化して、母型10の分離後も枠体3がそのまま適切な位置関係を維持するように機能させられることとなり、母型10のコンディションの影響を受けずに同じ品質のマスクが確実に得られ、母型10の歪み等を原因とするマスクの精度のばらつきを抑えられ、マスクを用いた蒸着等の製造工程で精度よく均質な製品が得られる。
【0071】
なお、前記実施形態に係る母型保持具を用いたマスク製造工程においては、一次電着層15と枠体3に対するめっき工程の際に、あらかじめ一次電着層15を形成した母型10を母型保持具50に保持させるようにして、めっき工程で母型10を適切な形状となるように支持する構成としているが、この他、一次電着層15の電鋳による形成工程においても、支持装置60に母型10と共に母型保持具50を取り付け、母型保持具50の基準面51aに母型10を密着させて、母型10を適切な形状及び配置となるように保持する構成とすることもでき、一次電着層15が枠体3と一体化されない段階でも母型10の歪みの影響を受けない適切な形状となるようにして、マスク完成時におけるマスク本体2の位置精度のより一層の向上が図れることとなる。
【0072】
また、こうした電鋳による一次電着層15の形成工程や、一次電着層15と枠体3とのめっきによる一体化工程で、母型10を支持固定する支持装置60や、母型10を保持する母型保持具50が、未露光のレジストの現像に用いる薬液と、電鋳やめっき工程後のレジスト除去に用いる薬液とに対し、それぞれ耐性を有して劣化しない材質製とされることに加え、母型10と母型保持具50を取り付けられた支持装置60が、レジストの形成から除去までの一連の工程で用いる各装置で母型10と共に無理なく取り扱え、且つ母型単独の場合と同様に支持装置60上の母型10に対しレジストに係る各工程を実行できる形状及び大きさである場合には、一次パターンレジスト形成の前から母型10を母型保持具50と共に支持装置60に取り付けて、母型10上の一次電着層15に枠体3を一体化するめっき工程の後まで、母型10を支持装置60に取り付けたままでマスク製造に係る各工程を経るようにし、電鋳やめっき以外でも母型10を支持装置60から取り外さないこととしてもよい。この場合、母型10の支持装置60に対する着脱を必要最小限とすることで、母型10に不要な力が加わって母型10の歪みを招く事態の発生を防止して、製造されるマスクへの母型10からの悪影響をさらに抑えられる。
【0073】
また、前記実施形態に係る母型保持具においては、磁力発生部としての板状の磁石部51を有して、基準面51a全体が磁石の表面となる構成としているが、これに限らず、磁力発生部としての磁石で十分な吸引力を発生させて母型10を保持具の基準面に均一に密着させることが可能であれば、基準面をなす別の平板状部材に複数の小型の磁石を部分的に点在する配置として設けて、基準面が磁石以外の部材の表面も含む構成としたり、磁石が保持具内部に配設されて表面に現れず、基準面が全て磁石以外の部材表面となる構成とすることもできる。この他、母型保持具で母型を吸引する磁力発生部としては、永久磁石に限られるものではなく、電磁石を使用してもかまわない。
【0074】
また、前記実施形態に係る母型保持具50は、電鋳やめっきの工程で母型10を支持する支持装置60とは別体の板状体とされて、必要に応じて母型10と共に支持装置60に取り付けて母型10の保持に使用する構成としているが、これに限られるものではなく、基準面と、これに母型10を吸着させる磁力発生部とを有していれば、支持装置60に一体に組み込んだ構成とすることもできる。この場合、支持装置60において母型10を重ねて配置される基板部61の表面が母型保持具の基準面を兼ねることとなる。磁石等の磁力発生部は、十分な吸引力を発生させて母型10を基準面である基板部61表面に均一に密着させられるものであれば、基板部61に設ける他、枠状支持部62に設ける構成とすることもできる。