(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6932054
(24)【登録日】2021年8月19日
(45)【発行日】2021年9月8日
(54)【発明の名称】整流装置
(51)【国際特許分類】
B62D 37/02 20060101AFI20210826BHJP
B60R 19/48 20060101ALI20210826BHJP
【FI】
B62D37/02 A
B60R19/48 Q
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-182950(P2017-182950)
(22)【出願日】2017年9月22日
(65)【公開番号】特開2019-59249(P2019-59249A)
(43)【公開日】2019年4月18日
【審査請求日】2020年8月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】特許業務法人イトーシン国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076233
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 進
(74)【代理人】
【識別番号】100101661
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100135932
【弁理士】
【氏名又は名称】篠浦 治
(72)【発明者】
【氏名】塚崎 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】綿貫 賢二
【審査官】
林 政道
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2010/0072777(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0169085(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 37/02
B62D 35/02
B60R 19/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の前部に設けられ、走行する際に前記車体の下に入り込む空気を誘導する誘導部と、
前記誘導部に配置され、前記空気を整流する少なくとも1つのプラズマアクチュエータとを備え、
前記誘導部は、前記車体の前後方向に前記誘導部を貫通する第1の導風孔と、前記第1の導風孔から路面に向かう方向に前記誘導部を貫通する第2の導風孔とを有し、
前記少なくとも1つのプラズマアクチュエータは、前記第1の導風孔の内周面に配置されていることを特徴とする整流装置。
【請求項2】
前記内周面は、前記第1の導風孔の、前記車体の上下方向における中心よりも上方に位置する上部を含み、
前記少なくとも1つのプラズマアクチュエータは、前記上部に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の整流装置。
【請求項3】
前記第1の導風孔は、前記車体の幅方向に長い形状を有し、前記車体の幅方向の中心と交差することを特徴とする請求項1に記載の整流装置。
【請求項4】
前記誘導部は、前記車体のフロントバンパーの下部に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の整流装置。
【請求項5】
前記誘導部は、前記車体のフロントバンパーの一部分であることを特徴とする請求項1に記載の整流装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行する際に車体の下に入り込む空気を整流する整流装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両では、走行時に車体が受ける空気抵抗が、走行安定性や燃費に大きく影響する。この空気抵抗を低減する手段の一つとして、走行する際に車体の下に入り込む空気の流れを抑制する整流装置が知られている。
【0003】
例えば、特開2011−68240号公報には、自動車の速度に応じて上下に駆動する翼状整流板を備え、車体の下に入り込む空気の流れを抑制する整流装置が記載されている。
【0004】
また、特開2007−317656号公報には、放電プラズマの作用により気流を発生させる気流発生装置が記載されている。この気流発生装置は、自動車などの気体中を移動する移動体の側面と同一面になるように配設される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−68240号公報
【特許文献2】特開2007−317656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特開2011−68240号公報に開示された技術では、翼状整流板を上下に駆動させる可動部を設ける必要があり、その結果、整流装置の構造が複雑になったり、車体の重量が増加したりするという問題がある。
【0007】
そこで、車体の下に入り込む空気の流れを抑制する代わりに、この空気を整流して、渦流の発生を抑制し、これにより、空気抵抗を低減することが考えられる。しかしながら、特開2007−317656号公報に開示された技術では、車体の下に入り込む空気を整流することは考慮されていない。
【0008】
そこで、本発明は、簡単な構造で、車体の下に入り込む空気を整流することができる整流装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様の整流装置は、車体の前部に設けられ、走行する際に前記車体の下に入り込む空気を誘導する誘導部と、前記誘導部に配置され、前記空気を整流する少なくとも1つのプラズマアクチュエータとを備え
、前記誘導部は、前記車体の前後方向に前記誘導部を貫通する第1の導風孔と、前記第1の導風孔から路面に向かう方向に前記誘導部を貫通する第2の導風孔とを有し、前記少なくとも1つのプラズマアクチュエータは、前記第1の導風孔の内周面に配置されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡単な構造で、車体の下に入り込む空気を整流することができる整流装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態に係る整流装置が設けられた自動車の車体を示す正面図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る整流装置を示す断面図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る整流装置を示す断面図である。
【
図4】本発明の実施の形態における1つのプラズマアクチュエータを示す正面図である。
【
図5】本発明の実施の形態におけるプラズマアクチュエータの構成の一例を示す説明図である。
【
図6】本発明の実施の形態における複数のプラズマアクチュエータを示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。始めに、
図1ないし
図3を参照して、本発明の実施の形態に係る整流装置の構成について説明する。
図1は、整流装置が設けられた自動車の車体を示す正面図である。
図2および
図3は、整流装置を示す断面図である。なお、
図2および
図3は、自動車の車体の幅方向の中心における断面を示している。
【0013】
本実施の形態に係る整流装置1は、誘導部10と、誘導部10に配置された少なくとも1つのプラズマアクチュエータとを備えている。
図1に示したように、誘導部10は、車体30の前部に設けられている。本実施の形態では特に、誘導部10は、自動車の車体30のフロントバンパー31の下部に取り付けられている。
【0014】
ここで、
図1ないし
図3を参照して、本実施の形態における方向の定義について説明する。本実施の形態では、車体30の幅方向を記号D1で表し(
図1参照)、車体30の前後方向を記号D2で表す(
図2および
図3参照)。方向D1と方向D2は、互いに直交する。方向D2は、自動車の進行方向の前後方向でもある。また、基準の位置に対して、路面40(
図1参照)から遠ざかる方向にある位置を「上方」と言い、基準の位置に対して、路面40に近づく方向にある位置を「下方」と言う。
【0015】
図1ないし
図3に示したように、誘導部10は、第1の導風孔11を有している。第1の導風孔11は、車体30の前後方向D2に誘導部10を貫通している。
図1において、記号Cを付した直線は、車体30の幅方向D1の中心を表している。第1の導風孔11は、車体30の幅方向D1に長い形状を有し、車体30の幅方向D1の中心Cと交差する。第1の導風孔11は、車体30の幅方向D1の中心Cに対して対称な形状を有することが好ましい。
【0016】
また、
図2および
図3に示したように、誘導部10は、更に、第2の導風孔12を有している。第2の導風孔12は、第1の導風孔11から路面40(
図1参照)に向かう方向に誘導部10を貫通している。図示しないが、第2の導風孔12は、車体30の幅方向D1に長い形状を有し、車体30の幅方向D1の中心Cと交差する。第2の導風孔12は、車体30の幅方向D1の中心Cに対して対称な形状を有することが好ましい。
【0017】
誘導部10は、走行する際に車体30の下に入り込む空気を誘導する機能を有している。
図2および
図3において、符号51,52を付した矢印は、走行時の空気の流れを表している。本実施の形態では、符号51を付した矢印で表されるように、車体30の前方から誘導部10に向かって流れてくる空気の一部は、第1の導風孔11によって誘導される。また、符号52を付した矢印で表されるように、車体30の前方から誘導部10に向かって流れてくる空気の他の一部は、第2の導風孔12によって誘導される。
【0018】
なお、
図2および
図3において、符号32を付した破線は、エンジンの下方に設けられたアンダーカバーを模式的に示している。
図2に示したように、整流装置1とアンダーカバー32の位置関係は、第1の導風孔11がアンダーカバー32の前端部よりも下方に位置するような関係であってもよい。この場合、第1および第2の導風孔11,12によって誘導された空気は、アンダーカバー32の下側に入り込む。
【0019】
あるいは、
図3に示したように、整流装置1とアンダーカバー32の位置関係は、第1の導風孔11がアンダーカバー32の前端部よりも上方に位置するような関係であってもよい。この場合、第1および第2の導風孔11,12によって誘導された空気は、アンダーカバー32の上面に沿って流れた後、アンダーカバー32の後端部(図示せず)から車体30の下に入り込む。
【0020】
図1ないし
図3に示したように、本実施の形態では、少なくとも1つのプラズマアクチュエータは、1つのプラズマアクチュエータ20である。
図4は、プラズマアクチュエータ20を示す正面図である。
図4に示したように、プラズマアクチュエータ20は、車体30の幅方向D1に長い形状を有し、車体30の幅方向D1の中心Cと交差する。プラズマアクチュエータ20は、車体30の幅方向D1の中心Cに対して対称な形状を有することが好ましい。
【0021】
また、
図2ないし
図4に示したように、プラズマアクチュエータ20は、第1の導風孔11の内周面11aに配置されている。以下、プラズマアクチュエータ20の配置について詳しく説明する。第1の導風孔11の内周面11aは、第1の導風孔11の、車体30の上下方向における中心よりも上方に位置する上部11a1と、前記中心よりも下方に位置する下部11a2とを含んでいる。プラズマアクチュエータ20は、上部11a1に配置されている。なお、第2の導風孔12は、下部11a2において開口している。プラズマアクチュエータ20は、第2の導風孔12に対向している。
【0022】
次に、
図5を参照して、プラズマアクチュエータ20の構成の一例について説明する。プラズマアクチュエータ20は、誘電体材料よりなる誘電体層21と、誘電体層21の上面に配置された導電材料よりなる電極22と、誘電体層21の下面に配置された導電材料よりなる電極23と、誘電体層21の上面および電極22を覆う絶縁材料よりなる絶縁層24と、電源25と、電源25と電極22,23とを電気的に接続する配線26とを有している。電極22,23は、それぞれ、平板状の形状を有している。電極23は、電極22よりも前方に配置されている。なお、電極23は、誘電体層21に埋め込まれていてもよい。
【0023】
図5に示したプラズマアクチュエータ20は、誘電体層21の下面が路面40(
図1参照)に向くような姿勢で、第1の導風孔11の内周面11aの上部11a1に取り付けられている。
【0024】
次に、プラズマアクチュエータ20の動作について説明する。プラズマアクチュエータ20は、その表面に沿って後方に流れる気流を発生させるものである。
図5に示した構造のプラズマアクチュエータ20の場合、電源25によって、電圧が数〜数十kVであり周波数が数〜数十kHzの交流電圧を電極22,23に印加すると、誘電体バリア放電が発生する。これにより、電極23から電極22に向かう方向に外力が発生する。その結果、誘電体層21の下面に沿って、後方に流れる気流が発生する。
【0025】
次に、本実施の形態に係る整流装置1の作用および効果について説明する。本実施の形態では、プラズマアクチュエータ20は、前述のように発生される気流によって、誘導部10によって誘導された空気を整流する。具体的には、前記気流によって、第1の導風孔11内を流れる空気の境界層の速度分布を変化させて、空気の剥離を抑制する。これにより、本実施の形態によれば、渦流の発生を抑制することができ、その結果、空気抵抗を低減して、走行安定性や燃費を改善することが可能になる。
【0026】
また、本実施の形態では、電極22,23に印加させる交流電圧を変化させることによって、気流の速度を制御することができる。これにより、本実施の形態によれば、自動車の車速に応じた適切な整流を実行することが可能になる。
【0027】
また、本実施の形態では、プラズマアクチュエータ20は、可動部を含んでいない。これにより、本実施の形態によれば、可動部を含む構造の整流装置に比べて、構造が簡単になると共に、車体30の重量の増加を抑制することができる。
【0028】
また、本実施の形態では、プラズマアクチュエータ20は、誘導部10の第1の導風孔11内に配置されている。これにより、本実施の形態によれば、車体30の表面にプラズマアクチュエータ20が配置されている場合に比べて、プラズマアクチュエータ20への異物の付着や、小石等の飛来物および障害物とプラズマアクチュエータ20との接触を防止することができる。
【0029】
また、本実施の形態では、誘導部10には、第1の導風孔11に加えて、第2の導風孔12が設けられている。これにより、本実施の形態によれば、第2の導風孔12が設けられていない場合に比べて、誘導部10によって誘導される空気の量を十分に多くすることができる。その結果、本実施の形態によれば、プラズマアクチュエータ20による整流効果を十分に大きくすることができる。
【0030】
また、本実施の形態では、プラズマアクチュエータ20は、第1の導風孔11の内周面11aの上部11a1に配置されている。これにより、本実施の形態によれば、誘導部10に、第2の導風孔12を設けることができる。また、主に、第1の導風孔11の内周面11aの上部11a1によって受けた空気が、車体30の下に入り込むように誘導される。そのため、本実施の形態によれば、プラズマアクチュエータ20が第1の導風孔11の内周面11aの下部11a2に配置されている場合に比べて、より効果的に、車体30の下に入り込む空気を整流することができる。
【0031】
[変形例]
次に、
図6を参照して、本実施の形態に係る整流装置1の変形例について説明する。変形例では、整流装置1は、プラズマアクチュエータ20の代わりに、複数のプラズマアクチュエータ120を備えている。
図6は、複数のプラズマアクチュエータ120を示す正面図である。
図6に示したように、複数のプラズマアクチュエータ120は、車体30の幅方向D1に一列に並ぶように配置されている。また、複数のプラズマアクチュエータ120は、第1の導風孔11の内周面11aの上部11a1に配置され、第2の導風孔12(
図2および
図3参照)に対向している。
【0032】
なお、複数のプラズマアクチュエータ120の各々の構造は、例えば、
図5に示したプラズマアクチュエータ20の構造と同様である。
【0033】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変えない範囲において、種々の変更、改変等が可能である。例えば、プラズマアクチュエータ20または120の構造は、
図5に示した例に限られず、任意である。
【0034】
また、プラズマアクチュエータ20または120は、その表面が、第1の導風孔11の内周面11aに一致するように、誘導部10に埋め込まれていてもよい。
【0035】
また、誘導部10は、フロントバンパー31の一部分であってもよい。この場合、第1および第2の導風孔11,12は、フロントバンパー31に設けられる。
【符号の説明】
【0036】
1…整流装置、10…誘導部、11…第1の導風孔、12…第2の導風孔、20…プラズマアクチュエータ、21…誘電体層、22,23…電極、24…絶縁層、25…電源、26…配線、30…車体、31…フロントバンパー、32…アンダーカバー、40…路面。