(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
導電性物質および20℃周波数60Hzでの誘電正接が0.01以上である絶縁材料を、前記導電性物質および前記絶縁材料が直接接した状態で含む、表面抵抗率が100Ω/□以上である吸収層と、
前記吸収層の電磁波が照射される面と反対面上に形成された、前記吸収層と接する面の表面抵抗率が20Ω/□以上である接触層と、
を備える、電磁波抑制シートであって、
周波数10kHzと周波数2GHzの電磁波に対して、下式(1)を満たす、電磁波抑制シート。
A+B≦70(1)
(ここで、Aは電磁波の反射率(%)であり、Bは電磁波の透過率(%)である。)
【背景技術】
【0002】
高度情報化社会の発展、マルチメディア社会の到来により、電子機器から発生する電磁波が他の機器に対して、また人体に対して悪影響を及ぼす電磁波障害が、大きな社会問題となりつつある。電磁波環境がますます悪化していく中、電磁波に対する防御手段の1つとして、電磁波シールド材が開発されている。
従来より、電磁波シールド材料として、軽量で柔軟性のある繊維、例えば合成高分子繊維からなる織物等の織編物に金属被膜を付与したものが使用されている。繊維に金属被膜を形成する手段としては、真空蒸着法、スパッタリング法および無電解めっき法等がある。上記したような金属で被覆された繊維で織成された織物は、薄いものが作製し難く、形状安定性が低く、加工性が良くないという問題があった。
近年、ハイブリッドカー、電気自動車社会が到来しているが、これらの自動車は400〜600Vの直流を用いている。この直流はスイッチングノイズが多く低周波ノイズの発生源となっている。しかしながら、発がん性への影響や電子機器の誤作動を与えうる1GHz近傍や人体に影響を及ぼす可能性がある10MHz以下の低周波数の電磁波に対する電磁波吸収体は、薄さや軽量性を満足していない。
電磁波シールド材のうち電磁波の吸収性能がある電磁波吸収体には吸収周波数に合わせて予め選択された材料が使用され、所望の吸収周波数やその周波数における最大吸収量等の条件を満たすために、その厚さを変化させる方法が用いられている。例えば、λ/4型電磁波吸収体では、100MHzの電磁波に対して50cm程度の厚さが必要である。それ以下の周波数では、それ以上の厚さが必要である。さらに、金属板の裏打ちを必要とするので、実用に供することは困難である。
ハイブリッドカーや電気自動車の車体の軽量化のためにも、低周波数、例えば1GHz以下、更には、10MHz以下の電磁波も含む広範囲の周波数を吸収できるより軽量の電磁波吸収体が必要とされている。
また、モータ、インバータの小型化、軽量化が進み、インバータから電気モータへ高周波大電流が流れることによる導線の発熱に耐えうる耐熱性の高い電磁波吸収材料が求められている。特に高電圧が付加される大型回転機などの電気・電子機器においては、機器の温度上昇も大きくなるため、耐熱性の高い材料が求められる。
電気絶縁物や薄葉構造材料として高耐熱性のアラミド紙が、前述の回転機(発電機、電動機)、変圧器分野および電気・電子機器の電気絶縁材料として広く用いられており、このアラミド紙にある程度の導電性を付与して電界緩和材料として用いることがこれまでに検討されてきた。
特開昭51−47103号公報及び特開昭57−115702号公報には、アラミドファイブリッドと、炭素繊維または金属繊維を使用した紙が開示されている。また、特表2008−542557号公報には、アラミド短繊維、アラミドファイブリッドと、炭素繊維などの導電性フィラーから構成された電磁波抑制シートが開示されている。
しかしながらいずれも上記電磁波吸収を目的としていないため、電磁波吸収特性として重要な関係のある特性、例えば、誘電損失特性、散乱特性を満足するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
(導電性物質)
本発明で用いる導電性物質としては、約10
-1Ω・cm以下の体積抵抗率を持つ導体から、約10
-1〜10
8Ω・cmの体積抵抗率を持つ半導体まで、広範囲にわたる導電性を有する繊維状または微粒子(粉末またはフレーク)状物などがあげられる。
本発明において導電性物質のサイズは少なくとも最小部分は照射される電磁波の波長の1/4以下であることが望ましい。ここで電磁波の波長は下式で表される。
λ=1/(ε
1/2×μ
1/2×f)
但し、λは電磁波の波長(m)、εは媒体の誘電率(m
-3kg
-1s
4A
2)、μは媒体の透磁率(H/m)、fは、電磁波の周波数(Hz)である。
例えば照射される電磁波の周波数が60Hz〜300GHzで媒体が真空や空気の場合、電磁波の波長は5000km〜1mmとなり、電磁波の波長の1/4は1250km〜0.25mmとなる。導電性物質の最小部分のサイズが電磁波の波長の1/4より大きいと、電磁波が吸収されないで透過する可能性が高まる。
尚、最小部分とは繊維状物質の場合、繊維の長さいわゆる繊維長ではなく、長さ方向に垂直な断面の短径をいう。また、フィルム状の小粒子では、フィルムの厚みの最小部分をいう。
このような導電性物質としては、例えば金属繊維、炭素繊維、カーボンブラックなどの均質な導電性を有する材料、あるいは金属めっき繊維、金属粉末混合繊維、カーボンブラック混合繊維など、導電材料と非導電材料とが混合されて全体として導電性を示す材料が挙げられるが、これらに限定されるものではない。この中で、本発明においては炭素繊維を使用することが好ましい。本発明で用いる炭素繊維は、繊維状有機物を不活性雰囲気にて高温焼成して炭化したものが好ましい。一般に炭素繊維は、ポリアクリロニトリル(PAN)繊維を焼成したものと、ピッチを紡糸した後に焼成したものに大別されるが、これ以外にもレーヨンやフェノールなどの樹脂を紡糸後、焼成して製造するものもあり、これらも本発明において使用することができる。焼成に先立ち酸素等を使用して酸化架橋処理を行い、焼成時の融断を防止することも可能である。
本発明で用いる導電性物質である繊維の繊度は、短径が照射される電磁波の1/4以下であれば、特に制限はない。また、繊維長は1mm〜20mmの範囲から選ばれる。
導電性物質の選択においては、導電性が高く、かつ、後述の湿式抄造法において良好な分散を示す材料を使用することがより好ましい。また、炭素繊維を選択する場合には、更に高強度、かつ脆化しにくいものを選択することが好ましい。そのような材料を選択することにより、電磁波抑制シートに適した導電性が得られる。また、熱圧加工により特定の範囲に緻密化された電磁波抑制シートを得ることが可能となる。
【0008】
(誘電正接が0.01以上の絶縁材料)
本発明において誘電正接が0.01以上の絶縁材料とは、20℃で60Hzの電磁波が照射される条件で誘電正接が0.01以上である物質をいう。絶縁材料は、一般に、下式で表される誘電損失が大きいほど、電磁波の吸収量が多くなる。
P=E
2×tanδ×2πf×ε
r×ε
0×S/d (W)
式中、Pは誘電損失(W)、Eは電圧(V)、tanδは絶縁材料の誘電正接、fは周波数(Hz)、ε
rは絶縁材料の比誘電率、ε
0は真空の誘電率(8.85418782 × 10
-12(m
-3kg
-1s
4A
2))、Sは導電性物質と絶縁材料の接触面積 (m
2)、dは導電性物質間の距離(m)を意味する。
絶縁材料の形状は、上式に表されるように、誘電損失は導電性物質と絶縁材料の接触面積に比例するため、接触面積が大きくなるようなフィルム状微小粒子が好ましいが、これに限定されるものではない。
絶縁材料のサイズは少なくとも最小部分は照射される電磁波の波長の1/4以下であることが好ましい。
絶縁材料の最小部分のサイズが電磁波の波長の1/4より大きいと、電磁波が吸収されないで透過する可能性がある。
尚、最小部分とは繊維状物質の場合、繊維の長さいわゆる繊維長ではなく、長さ方向に垂直な断面の短径のことを示す。また、フィルム状の小粒子では一般にフィルムの厚みの最小部分のことを示す。
絶縁材料の20℃周波数60Hzでの比誘電率は、4以下であることが好ましい。比誘電率が低いと電磁波が反射し難くなり、本発明の絶縁材料として好適であると考えられる。
絶縁材料としては、例えば、20℃、60Hzで誘電正接が0.01以上であるポリメタフェニレンイソフタルアミドおよびその共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート/スチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ナイロン6、ナイロン66などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
これらの絶縁材料のうちで、ポリメタフェニレンイソフタルアミドおよびその共重合体、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート/スチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ナイロン66が、20℃周波数60Hzでの比誘電率が4以下と小さく、電磁波が反射し難くなり、本発明の絶縁材料として好適であると考えられる。
これらの絶縁材料の中では、ポリメタフェニレンイソフタルアミドのファイブリッド、及び/または短繊維が、良好な成型加工性、難燃性、耐熱性などの特性を備えている点で好ましく用いられる。特にポリメタフェニレンイソフタルアミドのファイブリッドはそのフィルム状微小粒子の形態から、導電性物質との接触面積が増大され、上述の誘電損失が大きくなり、電磁波の吸収量が多くなるという点で好ましく用いられる。
【0009】
(ファイブリッド)
本発明で用いるファイブリッドとは、フィルム状微小粒子を意味し、例えば、ポリメタフェニレンイソフタルアミドからなるフィルム状微小粒子の場合には、アラミドパルプと称することもある。製造方法は、例えば特公昭35−11851号、特公昭37−5732号公報等に記載の方法が例示される。ファイブリッドは、通常の木材(セルロース)パルプと同じように抄紙性を有するため、水中分散した後、抄紙機にてシート状に成形することができる。この場合、抄紙に適した品質を保つ目的でいわゆる叩解処理を施すことができる。この叩解処理は、ディスクリファイナー、ビーター、その他の機械的切断作用を及ぼす抄紙原料処理機器によって実施することができる。この操作において、ファイブリッドの形態変化は、JIS P8121に規定の濾水度(フリーネス)でモニターすることができる。本発明において、叩解処理を施した後のアラミドファイブリッドの濾水度は、10〜300cm
3(カナディアンスタンダードフリーネス)の範囲内にあることが好ましい。この範囲より大きな濾水度のファイブリッドでは、それから成形されるシートの強度が低下する可能性がある。他方、10cm
3よりも小さな濾水度を得ようとすると、投入する機械動力の利用効率が小さくなり、また、単位時間当たりの処理量が少なくなることが多く、さらに、ファイブリッドの微細化が進行しすぎるため、いわゆるバインダー機能の低下を招きやすい。したがって、10cm
3よりも小さな濾水度を得ようとしても、格段の利点が認められない。
【0010】
(短繊維)
本発明で用いる短繊維とは、繊維を所定の長さに切断したものをいい、ポリメタフェニレンイソフタルアミドを原料とする繊維としては、例えば、帝人(株)の「テイジンコーネックス(登録商標)」、デュポン社の「ノーメックス(登録商標)」等の商品名で入手することができるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
短繊維は、短径が照射される電磁波の1/4以下であることが好ましい。サイズにおいて、特に制限はないが、好ましくは、0.05dtex以上25dtex未満の範囲内の繊度を有することができる。繊度が0.05dtex未満の繊維は、後述する湿式法での製造において凝集を招きやすいために好ましくなく、また、繊度が25dtex以上の繊維は、繊維直径が大きくなり過ぎるため、例えば、真円形状で密度を1.4g/cm
3とすると、直径45μm以上である場合、アスペクト比の低下、力学的補強効果の低減、電磁波抑制シートの均一性不良などの不都合が生じる可能性がある。電磁波抑制シートの均一性不良が生じた場合、電磁波抑制シートの導電性にバラツキが生じ、それにより求められる電磁波抑制機能が十分に発現できない可能性がある。
アラミド短繊維の長さは、1mm以上25mm未満、好ましくは2〜12mmの範囲から選ぶことができる。短繊維の長さが1mmよりも小さいと、電磁波抑制シートの力学特性が低下し、他方、25mm以上のものは、後述する湿式法での電磁波抑制シートの製造に際して「からみ」「結束」などが発生しやすく欠陥の原因となりやすいため好ましくない。
【0011】
(電磁波抑制シート)
図1に、本発明の電磁波抑制シートの一実施態様を示す。
図1に示す実施態様においては、電磁波抑制シート1は、1層の吸収層10と1層の接触層20とが積層された構成を有する。吸収層10は、導電性物質および20℃周波数60Hzでの誘電正接が0.01以上である絶縁材料を、前記導電性物質および前記絶縁材料が直接接した状態で含む。吸収層10の表面抵抗率は100Ω/□以上である。電磁波は、紙面上部より入射する。接触層20は、電磁波が照射される面と反対面30に積層されている。反対面30側における、接触層20の表面抵抗率は20Ω/□以上である。
吸収層は、上記導電性物質および上記絶縁材料を、導電性物質と絶縁材料とが直接接した状態で含む。直接接した状態とは、他の材料を介さずに、接触している状態を意味する。好ましくは、導電性物質と絶縁材料とは、吸収層内において、実質的に均一に混じりあっている。
導電性物質の含有量は、所定の表面抵抗率が得られる限りにおいて特に制限はないが、一般に、吸収層の重量を基準として、好ましくは0.5〜30wt%であり、より好ましくは1〜20wt%である。JIS C 2300−2で規定された(坪量/厚さ)より算出されるシートの密度が小さいほど、多く含有した方が、上式(1)、(2)を同時に満たすシートを作製しやすい。例えば、シートの密度が0.5〜0.8g/cm
3の範囲内である場合には、導電性物質の含有量は、吸収層の重量を基準として、1〜10wt%の値をとることが好ましい。シートの密度が0.1〜0.5g/cm
3の範囲である場合には、吸収層の重量を基準として、5〜20wt%の値をとることが好ましい。
絶縁材料の含有量は、吸収層の重量を基準として、好ましくは70〜99.5wt%であり、より好ましくは80〜99wt%である。例えば、シートの密度が0.5〜0.8g/cm
3の範囲内である場合には、吸収層の重量を基準として、90〜99wt%の値をとることが好ましい。シートの密度が0.1〜0.5g/cm
3の範囲である場合には、吸収層の重量を基準として、80〜95wt%の値をとることが好ましい。
【0012】
吸収層は、導電性物質および絶縁材料以外の材料を含んでいても良い。例えば、吸収層は、分散性向上剤、消泡剤、紙力増強剤、アクリル系樹脂、定着剤、高分子凝集剤、有機繊維、無機繊維などが、本発明の目的を阻害しない範囲で添加されてもよい。これらの他の添加物の含有量は、吸収層の重量を基準として、20wt%以下とするのが好ましい。
吸収層の厚みは、照射される電磁波の波長の1/4以下であることが好ましい。具体的には、吸収層の厚みは、好ましくは5〜1000μmであり、より好ましくは10〜700μmである。吸収層がこの範囲であると、電磁波の効率的な吸収が期待できる。
接触層は、吸収層と同じ構成の層が境界なく2層以上連続したものであっても良いし、異なる構成の層であってもよい。同じ構成の層が境界なく連続する場合には、2層目の層が接触層に相当する。接触層としては、例えば、接着剤による接着層、空気による空気層、フィルムなどによる絶縁層が挙げられる。吸収層と同じ構成の層が連続して積層される場合には、積層数には特に制限はない。積層の手間やシート厚みを考慮して、適宜積層数を決定すればよい。例えば、25層以下、20層以下、15層以下、12層以下、10層以下でありえる。吸収層と同じ構成の層を連続して積層する場合の接着手段は特に制限されない。接着剤や圧着などの化学的な接着なしに、単純に積層しただけであってもよい。
接触層は、吸収層と接する面の表面抵抗率が20Ω/□以上である。表面抵抗率が20Ω/□未満であると、その層で電磁波の電界が閉じることにより、吸収層に強い電界が発生しなくなり、電磁波を吸収する効果が激減する可能性がある。
接触層が厚くなりすぎると、例えば、後述する電気絶縁物へ据え付ける際に、省スペース化の障害となりやすい。したがって、接触層の厚みは、好ましくは5〜2000μmであり、より好ましくは50〜300μmである。
【0013】
本発明の電磁波抑制シートは、周波数10kHzの電磁波および周波数2GHzの電磁波に対して、下式(1)を満たすことが好ましい。
A+B≦70(1)
但し、Aは電磁波の反射率(%)、Bは電磁波の透過率(%)である。
A+B>70の場合には、電磁波抑制シートとしての十分な電磁波吸収機能を発現しないおそれがある。
また、本発明の電磁波抑制シートは、周波数10kHzと周波数2GHzの電磁波に対して、下式(2)を満たすことが好ましい。
0.9≦ C/D ≦1.1 (2)
但し、Cは周波数10kHzの電磁波に対する反射率(%)と透過率(%)の和であり、Dは周波数2GHzの電磁波に対する反射率(%)と透過率(%)の和である。
また、本発明の電磁波抑制シートは、周波数18GHzの電磁波の透過率が1%以下であることが好ましい。
また、本発明の電磁波抑制シートは、300℃、1時間における引張強度の保持率が90%以上であることが好ましい。
本発明の電磁波抑制シートの厚みには、特に制限はないが、一般に、10μm〜5000μmの範囲内の厚さを有していることが好ましく、より好ましくは300〜1000μmである。さらに好ましくは400〜700μmである。10μmよりも厚みが小さい場合、電磁波透過率が高くなり、電磁波抑制シートとしての電磁波透過抑制機能が十分になるおそれがある。他方、5000μmを超える場合、例えば、後述する電気絶縁物へ据え付ける際に、省スペース化の障害となりやすい。
【0014】
(電磁波抑制シートの製造)
本発明の電磁波抑制シートは、一般に、前述した導電性物質と誘電正接が0.01以上の絶縁材料を混合した後シート化する方法により製造することができる。具体的には、例えば、導電性物質、上記のファイブリッド及び短繊維を乾式でブレンドした後に、気流を利用してシートを形成する方法、導電性物質、上記のファイブリッド及び短繊維を液体媒体中で分散混合した後、液体透過性の支持体、例えば網またはベルト上に吐出してシート化し、液体を除いて乾燥する方法などを適用することができるが、これらの中でも水を媒体として使用する、いわゆる湿式抄造法が好ましく選択される。
湿式抄造法では、少なくとも導電性物質、上記のファイブリッド及び短繊維の単一または混合物の水性スラリーを抄紙機に送液し分散した後、脱水、搾水および乾燥操作を行うことによって、シートとして巻き取る方法が一般的である。抄紙機としては、例えば、長網抄紙機、円網抄紙機、傾斜型抄紙機及びこれらを組み合わせたコンビネーション抄紙機などを利用することができる。コンビネーション抄紙機での製造の場合、配合比率の異なる水性スラリーをシート成形し合一することにより、複数の紙層からなる複合シートを得ることも可能である。湿式抄造の際に必要に応じて分散性向上剤、消泡剤、紙力増強剤などの添加剤を使用することは差し支えなく、また導電性物質が粒子状物である場合には、アクリル系樹脂、定着剤、高分子凝集剤などを添加してもかまわないが、本発明の目的を阻害することがないよう、その使用には注意を払う必要がある。
また、本発明の電磁波抑制シートには、本発明の目的を阻害しない範囲で、上記成分以外に、その他の繊維状成分、例えば、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、セルロース系繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、ポリアリレート繊維、液晶ポリエステル繊維、ポリイミド繊維、ポリアミドイミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維などの有機繊維、ガラス繊維、ロックウール、ボロン繊維などの無機繊維を添加することもできる。尚、上記添加剤や他の繊維状成分を用いる場合には、電磁波抑制シート全重量の20wt%以下とするのが好ましい。
【0015】
このようにして得られる電磁波抑制シートは、例えば、一対の平板間または金属製ロール間にて高温高圧で熱圧加工することにより、機械的強度を向上させることができる。
熱圧加工の条件は、例えば、金属製ロール使用の場合、温度100〜400℃、線圧50〜1000kg/cmの範囲内を例示することができるが、高い引張強度と表面平滑性を得るために、ロール温度は330℃以上とすることが好ましく、より好ましくは330℃〜380℃である。又、線圧は50〜500kg/cmであるのが好ましい。該温度はポリメタフェニレンイソフタルアミドのガラス転移温度より高く、またポリメタフェニレンイソフタルアミドの結晶化温度に近いことから、該温度で熱圧加工することにより機械的強度が向上するだけでなく、電磁波抑制シートを構成する材料同士を強固に密着させることで、例えば、導電性物質と誘電正接が0.01以上の絶縁材料が接触した面積を増加させることができる。また、導電性物質が炭素繊維の場合にはその飛散を防ぐことができ、電磁波抑制シートの加工又は使用する現場において、繊維との直接接触や繊維の飛散による皮膚等への付着、及びそれによる痒みや痛み等の皮膚刺激を抑制し、作業環境の劣悪化を防ぐことができる。
上記の熱圧加工は複数回行ってもよく、また、上述の方法により得たシート状物を複数枚重ね合わせて熱圧加工を行ってもよい。
さらに、上述の方法により得たシート状物を接着剤などで貼り合わせて電磁波透過抑制性能、厚みを調整してもよい。
本発明の電磁波抑制シートは、(1)電磁波吸収性を有していること、(2)電磁波透過抑制性を有しており、λ/4型電磁波吸収体のように金属板によるシート裏打ちが必須でないこと、(3)低周波を含む広い範囲の周波数で、(1)、(2)の特性を発現すること、(4)耐熱性、難燃性を備えていること、(5)良好な加工性を有していることなどの優れた特性を有しており、電気電子機器、特に軽量化が必要とされるハイブリッドカー、電気自動車中の電子機器などの電磁波抑制シートとして好適に用いることができる。
【0016】
(電磁波抑制シートを含む電気絶縁物)
本発明における電磁波抑制シートは、種々の電気絶縁物に適用されうる。例えば、体積抵抗率が10
6(Ωcm)を超えるシート、筐体などに本発明の電磁波抑制シートが、接着剤を用いて貼りつけられる。体積抵抗率が10
6(Ωcm)を超える熱可塑性樹脂などを溶融し、本発明における電磁波抑制シートに含浸させてもよい。あるいは体積抵抗率が10
6(Ωcm)を超える熱硬化性樹脂などを、本発明における電磁波抑制シートに含浸、硬化させてもよい。
本発明における電磁波抑制シートは金属板によるシート裏打ちが必要ないので、上述のように樹脂などの電気絶縁物の表面に貼り付け、あるいは樹脂の内部に内包して使用することが可能であり、モータ、インバータなどの筐体の樹脂化・軽量化に寄与する。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。なお、これらの実施例は、単なる例示であり、本発明の内容を何ら限定するためのものではない。
(測定方法)
(1)シートの目付、厚み、密度
JIS C 2300−2に準じて実施し、密度は(目付/厚み)により算出した。
(2)引張強度
幅15mm、チャック間隔50mm、引張速度50mm/minで実施した。
(3)表面抵抗率
ASTM D−257に準じて実施した。
尚、不等号(>、<)は測定レンジ外であったことを表す。
(4)体積抵抗率
ASTM D−257に準じて実施した。
尚、不等号(>、<)は測定レンジ外であったことを表す。
(5)耐熱性
表3、4、6に示した温度で1時間保持した後、引張強度を測定した。
引張強度保持率は(保持した後の引張強度/保持する前の引張強度)で算出した。
(6)誘電率、誘電正接
JIS K6911に準じて実施した。
(7)電磁波抑制性能1(低周波領域)
同軸管タイプ シールド効果測定システム(ASTM D4935に準拠)に基づいて測定した。具体的には、同軸管内にサンプルシートを保持し、電磁波を発信し、その時の各周波数における反射率と透過率を、ネットワーク・アナライザーで測定した。
上記測定において、反射率および透過率は、以下のように定義される。
反射率(A)=反射波の電力/入射波の電力 ×100(%)
透過率(B)=透過波の電力/入射波の電力 ×100(%)
尚、同軸管タイプ シールド効果測定システムは測定システムが金属で密閉されているため、100−(A+B)はサンプルシートによる電磁波吸収率を表す。A+Bが小さいほど、サンプルシートによる電磁波吸収率が大きいと言える。
(8)電磁波抑制性能2(高周波領域)
自由空間法で測定した。具体的には、アンテナ、レンズ、サンプルシート、レンズ、アンテナの順に配置し、電磁波を発信し、その時の各周波数における反射率と透過率をネットワーク・アナライザーで測定した。
上記測定において、反射率および透過率は、以下のように定義される。
反射率(A)=反射波の電力/入射波の電力 ×100(%)
透過率(B)=透過波の電力/入射波の電力 ×100(%)
尚、自由空間法では測定システムが密閉されていないため、100−(A+B)はサンプルシートによる電磁波吸収率と電磁波散乱率の和を表す。A+Bが小さいほど、サンプルシートによる電磁波吸収率と電磁波散乱率の和が大きいと言える。
【0018】
(原料調製)
特開昭52−15621号公報に記載の、ステーターとローターの組み合わせで構成されるパルプ粒子の製造装置(湿式沈殿機)を用いて、ポリメタフェニレンイソフタルアミドのファイブリッド(以下「メタアラミドファイブリッド」と記載)を製造した。これを叩解機で処理し長さ加重平均繊維長を0.9mmに調節した(濾水度200cm
3)。一方、ポリメタフェニレンイソフタルアミドの短繊維として、デュポン社製メタアラミド繊維(ノーメックス(登録商標)、単糸繊度2.2dtex)を長さ6mmに切断(以下「メタアラミド短繊維」と記載)し抄紙用原料とした。
【0019】
(誘電率、誘電正接測定)
ポリメタフェニレンイソフタルアミドのキャストフィルムを作製し、ブリッジ法で誘電率、誘電正接を測定した結果を表1に示す。
【表1】
【0020】
(参考例1〜5)
(シート作製)
上記のとおり調製したメタアラミドファイブリッド、メタアラミド短繊維、及び炭素繊維(東邦テナックス株式会社製、繊維長3mm、単繊維径7μm、繊度0.67dtex、体積抵抗率1.6×10
-3Ω・cm)をそれぞれ水中に分散してスラリーを作製した。このスラリーを、メタアラミドファイブリッド、メタアラミド短繊維、及び炭素繊維が、表2に示す配合比率となるように混合し、タッピー式手抄き機(断面積325cm
2)で処理して表2に示すシート状物を作製した。次いで、得られたシートを1対の金属製カレンダーロールにより表2に示す条件で熱圧加工し、シート状物を得た。
また、インゴット状の銅を圧延し銅箔シートを得た。
このようにして得られたシートの主要特性値を表2に示す。
【表2】
【0021】
(実施例1〜7)
上記参考例で作製したシートを表3、4に示す構成になるように積層し、シートを得た。このようにして得られた電磁波抑制シートの主要特性値を表3、4に示す。
尚、実施例1、2に関しては電磁波照射側と反対側の透過側にサンプルシートとネットワーク・アナライザーの受信側アンテナの間に接触層として空気層が存在した。尚、空気層の表面抵抗率は>10
8Ω/□であった。
【表3】
【表4】
【0022】
尚、実施例6、7のシートについては厚みが大きいため、電磁波抑制性能1の測定では、誤差が大きくなるため、実施例2〜4の厚みとBの下記近似曲線により、Bの値を計算した値を表5に示す。
10kHz の近似曲線 B = 36.968e
-0.009×(シートの厚み(μm))
2GHz の近似曲線 B = 37.382e
-0.009×(シートの厚み(μm))
ここで、eは自然対数の底で、その値は2.7182である。
相関係数はいずれも0.91であった。
【表5】
【0023】
(比較例1〜5)
上記参考例で作製したシートを表6に示す構成になるように積層し、シートを得た。このようにして得られたシートの主要特性値を表6に示す。
【表6】
【0024】
表3〜5に示されるように、実施例1〜7の電磁波抑制シートは、10kHの低周波を含む広い範囲の周波数で、電磁波吸収性、電磁波透過抑制性、耐熱性について優れた特性を示した。
これに対して、表6に示されるように、比較例1〜5のシートの電磁波吸収性はいずれも低い値を示し、目的とする電磁波抑制シートとしては不十分であった。
本発明の電磁波抑制シートは、電気電子機器、特に特に軽量化が必要とされるハイブリッドカー、電気自動車中の電子機器などの電磁波吸収材料として有用な、電磁波吸収性を有する。金属板によるシート裏打ちなしに高い特性を発現し、加工性や耐熱性も高い。