特許第6932966号(P6932966)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6932966
(24)【登録日】2021年8月23日
(45)【発行日】2021年9月8日
(54)【発明の名称】圧電素子及び圧電素子応用デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01L 41/187 20060101AFI20210826BHJP
   H01L 41/09 20060101ALI20210826BHJP
   H01L 27/11507 20170101ALI20210826BHJP
   H01L 27/1159 20170101ALI20210826BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20210826BHJP
   C04B 35/495 20060101ALI20210826BHJP
【FI】
   H01L41/187
   H01L41/09
   H01L27/11507
   H01L27/1159
   B41J2/14 305
   B41J2/14 613
   C04B35/495
【請求項の数】5
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-63762(P2017-63762)
(22)【出願日】2017年3月28日
(65)【公開番号】特開2018-166188(P2018-166188A)
(43)【公開日】2018年10月25日
【審査請求日】2020年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116665
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 和昭
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】北田 和也
【審査官】 加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−146623(JP,A)
【文献】 特開2010−016018(JP,A)
【文献】 特開2016−225422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/187
B41J 2/14
C04B 35/495
H01L 27/11507
H01L 27/1159
H01L 41/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、
第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に挟持され、一般式ABO3で表されるペロブスカ
イト型複合酸化物の結晶を含む複数の圧電体膜の積層体である圧電体層とを有する圧電素
子であって、
前記複数の圧電体膜のうち、前記第1電極の直上に形成された第1の圧電体膜は、(1
00)面に優先配向し、カリウム、ナトリウム及びニオブを含んだペロブスカイト型複合
酸化物を有し、該ペロブスカイト型複合酸化物のAサイトに含まれるナトリウム量がカリ
ウム量よりも多く、
前記複数の圧電体膜のうち、前記第1の圧電体膜上に形成された第2の圧電体膜は、(
100)面に優先配向し、ビスマス、ナトリウム及び、チタンを含んだペロブスカイト型
複合酸化物を有することを特徴とする圧電素子。
【請求項2】
前記第1の圧電体膜は、前記ペロブスカイト型複合酸化物のAサイトに含まれるカリウ
ム(K)及びナトリウム(Na)の組成比が下記式(1)で表される関係を有することを
特徴とする請求項1に記載の圧電素子。
0.5<Na/(Na+K)≦0.9 ・・・(1)
【請求項3】
前記第1の圧電体膜は、前記ペロブスカイト型複合酸化物のBサイトに対するAサイト
のモル比(A/B)が下記式(2)で表される関係を有することを特徴とする請求項1又
は請求項2に記載の圧電素子。
0.8<A/B≦1.4 ・・・(2)
【請求項4】
前記第1の圧電体膜は、X線回折法により測定した前記ペロブスカイト型複合酸化物の
結晶における(100)面に由来するピークの半値幅が0.55°以下であることを特徴
とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の圧電素子。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れか一項に記載の圧電素子を具備することを特徴とする圧電
素子応用デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子及び圧電素子応用デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に圧電素子は、電気機械変換特性を有する圧電体層と、圧電体層を挟持する2つの電極とを有している。このような圧電素子を駆動源として用いたデバイス(圧電素子応用デバイス)の開発が、近年、盛んに行われている。圧電素子応用デバイスの一つとして、インクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッド、圧電MEMS素子に代表されるMEMS要素、超音波センサー等に代表される超音波測定装置、更には圧電アクチュエーター装置等がある。
【0003】
圧電素子の圧電体層の材料(圧電材料)として、例えばニオブ酸カリウムナトリウム((K,Na)NbO、以下「KNN」と称する)が提案されている。KNNは比較的高い圧電特性を示すことから、非鉛圧電材料の有力な候補と考えられている。多結晶のKNNからなる圧電体では、所定の面方位に配向させることで、耐久性の向上(例えば特許文献1参照)や変位量の向上が試みられている。
【0004】
また、バッファー層(配向制御層ともいう)として多結晶のランタン酸ニッケル(LaNiO、以下「LNO」と称する)を用いることや、ニオブ(Nb)をドープしたチタン酸ストロンチウム(Nb:SrTiO)の単結晶基板を使用すること等で、圧電体であるKNNを所定の面方位に配向させることが試みられている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−124233号公報
【特許文献2】特許第5716799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、LNOは高温での焼成時に圧電体中に拡散しやすく、圧電体の組成変動の要因となりやすい。また、LNOからなるバッファー層の誘電率が低い場合には、圧電体層に電圧が印加し難くなるといった種々の問題が生じる虞がある。一方、Nb:SrTiO単結晶基板は、コストの面から実用が難しい。
【0007】
なお、このような問題はインクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッドに搭載された圧電素子に限らず、他の圧電素子応用デバイスに用いられる圧電素子においても同様に存在する。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、(100)面に優先配向させ、且つ結晶性に優れたペロブスカイト型複合酸化物を含む圧電体層を有する圧電素子及び圧電素子応用デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の態様は、第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に挟持され、一般式ABOで表されるペロブスカイト型複合酸化物の結晶を含む複数の圧電体膜の積層体である圧電体層とを有する圧電素子であって、前記複数の圧電体膜のうち、前記第1電極の直上に形成された第1の圧電体膜は、(100)面に優先配向し、カリウム、ナトリウム及びニオブを含んだペロブスカイト型複合酸化物を有し、該ペロブスカイト型複合酸化物のAサイトに含まれるナトリウム量がカリウム量よりも多いことを特徴とする圧電素子にある。
かかる態様では、(100)面に優先配向させ、且つ結晶性に優れたペロブスカイト型複合酸化物を含む圧電体層を有する圧電素子を得ることができる。
【0010】
ここで、前記圧電素子において、前記第1の圧電体膜は、前記ペロブスカイト型複合酸化物のAサイトに含まれるカリウム(K)及びナトリウム(Na)の組成比が下記式(1)で表される関係を有することが好ましい。
0.5<Na/(Na+K)≦0.9 ・・・(1)
これによれば、更に(100)面に優先配向させ、且つ結晶性に優れたペロブスカイト型複合酸化物を含む圧電体層を有する圧電素子を得ることができる。
【0011】
また、前記圧電素子において、前記第1の圧電体膜は、前記ペロブスカイト型複合酸化物のBサイトに対するAサイトのモル比(A/B)が下記式(2)で表される関係を有することが好ましい。
0.8<A/B≦1.4 ・・・(2)
これによれば、更に(100)面に優先配向させ、且つ結晶性に優れたペロブスカイト型複合酸化物を含む圧電体層を有する圧電素子を得ることができる。
【0012】
また、前記圧電素子において、前記第1の圧電体膜は、X線回折法により測定した前記ペロブスカイト型複合酸化物の結晶における(100)面に由来するピークの半値幅が0.55°以下であることが好ましい。
これによれば、変位特性に優れたペロブスカイト型複合酸化物を含む圧電体層を有する圧電素子を得ることができる。
【0013】
また、本発明の他の態様は、上記何れか1つの圧電素子を具備することを特徴とする圧電素子応用デバイスにある。
かかる態様では、圧電・誘電特性が安定し、外部応力に対する強靭性(機械特性)を実現した圧電素子応用デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】インクジェット式記録装置の概略構成を示す斜視図。
図2】インクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図。
図3】インクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す平面図。
図4図3のA−A′線断面図。
図5図4のB−B′線拡大断面図。
図6】インクジェット式記録ヘッドの製造例を説明する断面図。
図7】インクジェット式記録ヘッドの製造例を説明する断面図。
図8】インクジェット式記録ヘッドの製造例を説明する断面図。
図9】インクジェット式記録ヘッドの製造例を説明する断面図。
図10】インクジェット式記録ヘッドの製造例を説明する断面図。
図11】インクジェット式記録ヘッドの製造例を説明する断面図。
図12】インクジェット式記録ヘッドの製造例を説明する断面図。
図13】サンプル1〜9のNa比、半値幅及び強度の関係を示すグラフ。
図14】サンプル10〜15のAサイト比、半値幅及び強度の関係を示すグラフ。
図15】サンプル16〜21のAサイト比、半値幅及び強度の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の説明は、本発明の一態様を示すものであって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更可能である。なお、各図面において同じ符号を付したものは同一の部材を示しており、適宜説明が省略されている。また、X,Y及びZは、互いに直交する3つの空間軸を表している。本明細書では、これらの軸に沿った方向を、それぞれ第1の方向X(X方向)、第2の方向Y(Y方向)及び第3の方向Z(Z方向)とし、各図の矢印の向かう方向を正(+)方向、矢印の反対方向を負(−)方向として説明する。X方向及びY方向は、板、層及び膜の面内方向を表し、Z方向は、板、層及び膜の厚さ方向又は積層方向を表す。
【0016】
また、各図面において示す構成要素、即ち、各部の形状や大きさ、板、層及び膜の厚さ、相対的な位置関係、繰り返し単位等は、本発明を説明する上で誇張して示されている場合がある。更に、本明細書の「上」という用語は、構成要素の位置関係が「直上」であることを限定するものではない。例えば、「基板上の第1電極」や「第1電極上の圧電体層」という表現は、基板と第1電極との間や、第1電極と圧電体層との間に、他の構成要素を含むものを除外しない。
【0017】
(実施形態1)
(液体噴射装置)
まず、液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置について、図面を参照して説明する。
図1は、インクジェット式記録装置の概略構成を示す斜視図である。図示するように、インクジェット式記録装置(記録装置)Iでは、インクジェット式記録ヘッドユニット(ヘッドユニット)IIが、カートリッジ2A,2Bに着脱可能に設けられている。カートリッジ2A,2Bは、インク供給手段を構成している。ヘッドユニットIIは、複数のインクジェット式記録ヘッド(記録ヘッド)1(図2等参照)を有しており、キャリッジ3に搭載されている。キャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に、軸方向に対して移動自在に設けられている。これらのヘッドユニットIIやキャリッジ3は、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出可能に構成されている。
【0018】
そして、駆動モーター6の駆動力が、図示しない複数の歯車及びタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達され、ヘッドユニットIIを搭載したキャリッジ3が、キャリッジ軸5に沿って移動されるようになっている。一方、装置本体4には搬送手段としての搬送ローラー8が設けられており、紙等の記録媒体である記録シートSが搬送ローラー8により搬送されるようになっている。なお、記録シートSを搬送する搬送手段は、搬送ローラーに限られずベルトやドラム等であってもよい。
【0019】
記録ヘッド1には、圧電アクチュエーター装置として圧電素子300(図2等参照)が用いられている。圧電素子300を用いることによって、記録装置Iにおける各種特性(耐久性やインク噴射特性等)の低下を回避することができる。
【0020】
(液体噴射ヘッド)
次に、液体噴射装置に搭載される液体噴射ヘッドの一例である記録ヘッド1について、図面を参照して説明する。図2は、インクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図である。図3は、インクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す平面図である。図4は、図3のA−A′線断面図である。なお、図2から図4は、それぞれ記録ヘッド1の構成の一部を示したものであり適宜省略されている。
【0021】
図示するように、流路形成基板(基板)10は、例えばシリコン(Si)単結晶基板からなる。なお、基板10の材料はSiに限らず、SOI(Silicon On Insulator)やガラス等であってもよい。
【0022】
基板10には、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12が形成されている。圧力発生室12は、同じ色のインクを吐出する複数のノズル開口21が併設される方向(+X方向)に沿って並設されている。
【0023】
基板10のうち、圧力発生室12の一端部側(+Y方向側)には、インク供給路13と連通路14とが形成されている。インク供給路13は、圧力発生室12の一端部側の開口の面積が小さくなるように構成されている。また、連通路14は、+X方向において、圧力発生室12と略同じ幅を有している。連通路14の外側(+Y方向側)には、連通部15が形成されている。連通部15は、マニホールド100の一部を構成する。マニホールド100は、各圧力発生室12の共通のインク室となる。このように、基板10には、圧力発生室12、インク供給路13、連通路14及び連通部15からなる液体流路が形成されている。
【0024】
基板10の一方の面(−Z方向側の面)上には、例えばSUS製のノズルプレート20が接合されている。ノズルプレート20には、+X方向に沿ってノズル開口21が並設されている。ノズル開口21は、各圧力発生室12に連通している。ノズルプレート20は、接着剤や熱溶着フィルム等によって基板10に接合することができる。
【0025】
基板10の他方の面(+Z方向側の面)上には、振動板50が形成されている。振動板50は、例えば、基板10上に形成された弾性膜51と、弾性膜51上に形成された絶縁体膜52とにより構成されている。弾性膜51は、例えば二酸化シリコン(SiO)からなり、絶縁体膜52は、例えば酸化ジルコニウム(ZrO)からなる。弾性膜51は、基板10とは別部材でなくてもよい。基板10の一部を薄く加工し、これを弾性膜51として使用してもよい。弾性膜51は、SiOに限定されず、例えば酸化アルミニウム(Al)、酸化タンタル(V)(Ta)、窒化シリコン(SiN)等を用いた膜であってもよい。
【0026】
絶縁体膜52上には、密着層56を介して、第1電極60と圧電体層70と第2電極80とを含む圧電素子300が形成されている。密着層56は、例えば酸化チタン(TiO)、チタン(Ti)、SiN等が用いられており、圧電体層70と振動板50との密着性を向上させる機能を有する。なお、密着層56は省略可能である。
【0027】
後述する圧電体層70の形成過程において、圧電体層70を構成する圧電体にカリウム(K)やナトリウム(Na)といったアルカリ金属が含まれる場合には、第1電極60中に拡散することがある。そこで、第1電極60と基板10との間に絶縁体膜52を設けることで、絶縁体膜52がストッパー機能を果たし、アルカリ金属の基板10への到達を抑制することができる。
【0028】
第1電極60は、圧力発生室12毎に設けられている。つまり、第1電極60は、圧力発生室12毎に独立する個別電極として構成されている。第1電極60は、±X方向において圧力発生室12の幅よりも狭い幅で形成されている。また、第1電極60は、±Y方向において圧力発生室12よりも広い幅で形成されている。即ち、第1電極60の両端部は、±Y方向において振動板50上の圧力発生室12に対向する領域より外側まで形成されている。第1電極60の一端部側(連通路14とは反対側)には、リード電極90が接続されている。
【0029】
圧電体層70は、第1電極60と第2電極80との間に設けられている。圧電体層70は、±X方向において第1電極60の幅よりも広い幅で形成されている。また、圧電体層70は、±Y方向において圧力発生室12の±Y方向の長さよりも広い幅で形成されている。圧電体層70のインク供給路13側(+Y方向側)の端部は、第1電極60の+Y方向側の端部よりも外側まで形成されている。つまり、第1電極60の+Y方向側の端部は、圧電体層70によって覆われている。一方、圧電体層70のリード電極90側(−Y方向側)の端部は、第1電極60の−Y方向側の端部よりも内側(+Y方向側)にある。つまり、第1電極60の−Y方向側の端部は、圧電体層70によって覆われていない。圧電体層70は、後述する所定の厚さを有する薄膜の圧電体である。
【0030】
第2電極80は、+X方向に亘って圧電体層70及び振動板50上に連続して設けられている。つまり、第2電極80は、複数の圧電体層70に共通する共通電極として構成されている。本実施形態では、第1電極60が圧力発生室12に対応して独立して設けられた個別電極を構成し、第2電極80が圧力発生室12の並設方向に亘って連続的に設けられた共通電極を構成しているが、第1電極60が共通電極を構成し、第2電極80が個別電極を構成してもよい。
【0031】
本実施形態では、電気機械変換特性を有する圧電体層70の変位によって、振動板50及び第1電極60が変位する。即ち、振動板50及び第1電極60が、実質的に振動板としての機能を有している。ただし、実際には、圧電体層70の変位によって第2電極80も変位しているので、振動板50、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80が順次積層された領域が、圧電素子300の可動部(振動部ともいう)として機能する。
【0032】
なお、本実施形態では、弾性膜51及び絶縁体膜52の何れかを省略して振動板として機能するようにしてもよいし、弾性膜51及び絶縁体膜52を省略して第1電極60のみが振動板として機能するようにしてもよい。基板10上に第1電極60を直接設ける場合には、第1電極60にインクが接触しないように、第1電極60を絶縁性の保護膜等で保護することが好ましい。
【0033】
圧電素子300が形成された基板10(振動板50)上には、保護基板30が接着剤35により接合されている。保護基板30は、マニホールド部32を有している。マニホールド部32により、マニホールド100の少なくとも一部が構成されている。本実施形態のマニホールド部32は、保護基板30を厚さ方向(Z方向)に貫通しており、更に圧力発生室12の幅方向(+X方向)に亘って形成されている。そして、マニホールド部32は、基板10の連通部15と連通している。これらの構成により、各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールド100が構成されている。
【0034】
保護基板30には、圧電素子300を含む領域に、圧電素子保持部31が形成されている。圧電素子保持部31は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有している。この空間は、密封されていても密封されていなくてもよい。保護基板30には、保護基板30を厚さ方向(Z方向)に貫通する貫通孔33が設けられている。貫通孔33内には、リード電極90の端部が露出している。
【0035】
保護基板30の材料としては、例えば、Si、SOI、ガラス、セラミックス、金属、樹脂等が挙げられるが、基板10の熱膨張率と略同一の材料で形成されていることがより好ましい。本実施形態では、基板10と同一材料のSiを用いて形成した。
【0036】
保護基板30上には、信号処理部として機能する駆動回路120が固定されている。駆動回路120は、例えば回路基板や半導体集積回路(IC:Integrated Circuit)を用いることができる。駆動回路120及びリード電極90は、貫通孔33を挿通させたボンディングワイヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線121を介して電気的に接続されている。駆動回路120は、プリンターコントローラー200(図1参照)に電気的に接続可能である。このような駆動回路120が、圧電アクチュエーター装置(圧電素子300)の制御手段として機能する。
【0037】
また、保護基板30上には、封止膜41及び固定板42からなるコンプライアンス基板40が接合されている。封止膜41は、剛性が低い材料からなり、固定板42は、金属等の硬質の材料で構成することができる。固定板42のマニホールド100に対向する領域は、厚さ方向(Z方向)に完全に除去された開口部43となっている。マニホールド100の一方の面(+Z方向側の面)は、可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0038】
このような記録ヘッド1は、次のような動作で、インク滴を吐出する。まず、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、マニホールド100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たす。その後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、圧電素子300を撓み変形させる。これにより、各圧力発生室12内の圧力が高まり、ノズル開口21からインク滴が吐出される。
【0039】
(圧電アクチュエーター装置)
次に、記録ヘッド1の圧電アクチュエーター装置として用いられる圧電素子300の構成について、図面を参照して説明する。
図5は、図4のB−B′線拡大断面図である。図示するように、圧電素子300は、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12が形成された基板10上に、弾性膜51と絶縁体膜52とにより構成された振動板50が形成され、その上に、密着層56、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80が順次積層され、これらにより可動部が形成されている。
【0040】
圧電体層70は、複数の圧電体膜74(図8参照)からなる積層体であり、圧電体層70を構成する圧電材料は、一般式ABOで表されるペロブスカイト型構造(ABO型ペロブスカイト構造)を有する複合酸化物(ペロブスカイト型複合酸化物)を含んでいる。複数の圧電体膜74のうち、第1電極60の直上に形成された第1の圧電体膜74aは、(100)面に優先配向している。また、カリウム(K)、ナトリウム(Na)及びニオブ(Nb)を含んだペロブスカイト型複合酸化物の結晶を含んでおり、ABO型ペロブスカイト構造のAサイトに含まれるNa量がK量よりも多くなるように形成されている。
【0041】
第1の圧電体膜74aを構成するKNN系複合酸化物は、ABO型ペロブスカイト構造のAサイトに含まれるNa量がK量よりも多くなるように形成されている。具体的には、Aサイトに含まれるK及びNaの組成比が、下記式(3)で表される関係を有することが好ましい。なお、下記式(3)中、Xは0.5<X≦0.9を満たす。
(K,Na1−X)NbO ・・・(3)
上記式(3)において、KNN複合酸化物のAサイトに含まれるK及びNaの組成比が下記式(1)で表される関係を有することが好ましい。
0.5<Na/(Na+K)≦0.9 ・・・(1)
【0042】
即ち、Naの含有量は、Aサイトを構成する金属元素の総量に対して50モル%超過90モル%以下である(言い換えると、Kの含有量が、Aサイトを構成する金属元素の総量に対して10モル%以上50モル%未満である)ことが好ましい。これによれば、(100)面に優先配向させ、且つ結晶性に優れたKNN系複合酸化物となり、圧電特性に有利な組成を有する複合酸化物を含む圧電体層70を得ることができる。
【0043】
第1の圧電体膜74aを構成する圧電材料は、KNN系複合酸化物であればよく、上記式(3)で表される組成に限定されない。例えば、ニオブ酸カリウムナトリウムのAサイトやBサイトに、他の金属元素(添加物)が含まれていてもよい。このような添加物の例としては、マンガン(Mn)、リチウム(Li)、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、ビスマス(Bi)、タンタル(Ta)、アンチモン(Sb)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銀(Ag)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)等が挙げられる。
【0044】
この種の添加物は、1つ以上含んでいてもよい。一般的に、添加物の量は、主成分となる元素の総量に対して20%以下、好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下である。添加物を利用することにより、各種特性を向上させて構成や機能の多様化を図りやすくなるが、KNNが80%より多く存在するのがKNNに由来する特性を発揮する観点から好ましい。なお、これら他の元素を含む複合酸化物である場合も、ABO型ペロブスカイト構造を有するように構成されることが好ましい。
【0045】
第1の圧電体膜74aにおけるAサイトのアルカリ金属(K及びNa)は化学量論の組成に対して過剰に加えられてもよい。また、Aサイトのアルカリ金属は、化学量論の組成に対して不足していてもよい。従って、第1の圧電体膜74aに含まれるKNN系複合酸化物は、下記式(4)でも表すことができる。なお、下記式(4)中、Xは0.5<X≦0.9を満たす。
(KαX,Naα(1−X))NbO ・・・(4)
【0046】
上記式(4)において、αは、過剰に加えられてもよいK及びNaの量、又は不足していてもよいK及びNaの量を表している。K及びNaの量が過剰である場合は1.0<αである。K及びNaの量が不足している場合は、α<1.0である。例えば、α=1.1であれば、化学量論の組成におけるK及びNaの量を100モル%としたときに、110モル%のK及びNaが含まれていることを表す。α=0.9であれば、化学量論の組成におけるK及びNaの量を100モル%としたときに、90モル%のK及びNaが含まれていることを表す。なお、Aサイトのアルカリ金属が化学量論の組成に対して過剰でなく不足もしていない場合は、α=1である。配向性及び結晶性の観点から、0.8<α≦1.4であることが好ましい。
【0047】
換言すれば、式(4)において、KNN系複合酸化物のBサイト(Nb)に対するAサイト(K+Na)のモル比(A/B)が、下記式(2)で表される関係を有することが好ましい。
0.8<A/B≦1.4 ・・・(2)
【0048】
圧電材料には、元素の一部が欠損した組成を有する材料、元素の一部が過剰である組成を有する材料、及び元素の一部が他の元素に置換された組成を有する材料も含まれる。圧電体層70の基本的な特性が変わらない限り、欠損・過剰により化学量論の組成からずれた材料や、元素の一部が他の元素に置換された材料も、本実施形態に係る圧電材料に含まれる。
【0049】
本明細書において「K、Na及びNbを含むABO型ペロブスカイト構造の複合酸化物」とは、K、Na及びNbを含むABO型ペロブスカイト構造の複合酸化物のみに限定されない。即ち、この複合酸化物は、K、Na及びNbを含むABO型ペロブスカイト構造の複合酸化物(例えば、上記に例示したKNN系複合酸化物)と、ABO型ペロブスカイト構造を有する他の複合酸化物とを含む混晶として表される圧電材料を含む。
【0050】
他の複合酸化物は特に限定されないが、環境負荷を軽減する観点からPbを含有しない非鉛系圧電材料であることが好ましく、例えば、ビスマス(Bi)及び鉄(Fe)を含む鉄酸ビスマス(BFO)系の複合酸化物、Bi、バリウム(Ba)、Fe及びTiを含む鉄酸ビスマス−チタン酸バリウム(BF−BT)系の複合酸化物、Bi、Fe、Mn、Ba及びTiを含む鉄酸マンガン酸ビスマス−チタン酸バリウム(BFM−BT)系の複合酸化物等のペロブスカイト型複合酸化物を用いることができる。なお、他の複合酸化物は、用途に応じてPb及びBiを含有しない非鉛系圧電材料であってもよい。これらによれば、生体適合性に優れ、また環境負荷も少ない圧電素子300となる。
【0051】
また、他の複合酸化物は、Pb、ジルコニウム(Zr)及びTiを含むチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)の他、このPZTに酸化ニオブ、酸化ニッケル、酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等を用いることができ、チタン酸鉛(PbTiO)、ジルコニウム酸鉛(PbZrO)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La),TiO)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O)、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O)等を用いることができる。
【0052】
圧電体層70を構成する第1の圧電体膜74aは、上述したKNN系複合酸化物を含む。具体的には、第1の圧電体膜74aは、結晶化により(100)の結晶面に優先配向したKNN結晶(KNN系複合酸化物の前駆体溶液から溶媒等の不要物を除去して熱処理により結晶化させたもの)からなるKNN膜である。
【0053】
本明細書において、優先配向とは、50%以上、好ましくは80%以上の結晶が、所定の結晶面に配向していることを示すものとする。例えば「(100)面に優先配向している」とは、圧電体層70の全ての結晶が(100)面に配向している場合と、半分以上の結晶(50%以上、好ましくは80%以上)が(100)面に配向している場合を含む。
【0054】
また、KNN結晶が(100)面に対して優先配向した第1の圧電体膜74aは、X線回折法により測定した前記ペロブスカイト型複合酸化物の結晶における(100)面に由来するピークの半値幅が0.55°以下である。これによれば、変位特性に優れたペロブスカイト型複合酸化物を含む圧電体層70を有する圧電素子300を得ることができる。
【0055】
一般に、圧電体層を構成する圧電体の結晶の配向性を制御する場合には、第1電極と圧電体層との間であって、例えば密着層上に配向制御層(バッファー層ともいう)を設けることが好ましい。配向制御層を設けることで、圧電体層を構成する圧電体を、所定の面方位、例えば(100)面に優先配向させることができる。
【0056】
一方、KNN結晶が(100)面に対して優先配向していないKNN膜をバッファー層として用いた場合やKNN膜の製法等によっては、ランダム配向、又は(110)面や(111)面といった他の面方位に優先配向する場合もあり得る。
【0057】
しかしながら、本実施形態では、圧電体層70を構成する複数の圧電体膜74のうち第1の圧電体膜74aに含まれるKNN系複合酸化物のAサイトに含まれるNa量及びK量を上記式(1)の通りに規定することで、(100)面に優先配向させ、且つ結晶性に優れた(配向の向きが良好である)KNN系複合酸化物となり、圧電特性に有利な組成を有する複合酸化物を含む圧電体層70を得ることができる。即ち、KNN系複合酸化物のAサイトに含まれるNa量及びK量を上記式(1)の通りに規定する限りにおいて、KNN系複合酸化物により圧電体層70を形成する際にバッファー層を設けなくてもよい。
【0058】
また、第1の圧電体膜74aを構成する圧電材料としてKNN系複合酸化物を用い、その上層に形成する複数の圧電体膜74を構成する圧電材料としてKNN系複合酸化物以外のペロブスカイト型複合酸化物を用いることもできる。KNN系複合酸化物以外のペロブスカイト型複合酸化物は、上述した非鉛系圧電材料や鉛系圧電材料であってもよい。この場合、Aサイトに含まれるNa量及びK量を上記式(1)の通りに規定したKNN系複合酸化物を用いた第1の圧電体膜74aが、バッファー層として機能する。これにより、結晶の配向性及び規則性に優れたペロブスカイト型複合酸化物を含んだ複数の圧電体膜74を形成することができる。
【0059】
更に、Na量及びK量を上記式(1)の通りに規定した第1の圧電体膜74aを、配向制御層として用いることで、例えば(110)面や(111)面に優先配向しやすい圧電材料を含んだ圧電体膜74を複数層形成して圧電体層70を得たとしても、結晶の面方位を(100)方向に優先配向させやすい。例えば、この第1の圧電体膜74aを配向制御層として用いることで、この配向制御層なしでは(100)の結晶面に優先配向させることが困難な、ニオブ酸カリウム(KNbO)、チタン酸ビスマスナトリウム((Bi0.5,Na0.5)TiO)、鉄酸ビスマス(BiFeO)等を配向させることができる。
そして、結晶の配向性及び結晶性に優れた圧電体層70は、ランダム配向又は他の結晶面に優先配向した圧電体層に比べて、各種の特性の向上を図りやすいという利点を有する。
【0060】
圧電素子300において、弾性膜51の厚さを0.1μm以上2.0μm以下とし、絶縁体膜52の厚さを0.01μm以上1.0μm以下とし、密着層56の厚さを0.005μm以上0.1μm以下とし、第1電極60の厚さを0.01μm以上1.0μm以下とし、圧電体層70の厚さを0.1μm以上3.0μm以下とし、第2電極80の厚さを0.01μm以上1.0μm以下とすることが好ましい。なお、バッファー層として第1の圧電体膜74aを形成する場合には、バッファー層の厚さを0.20μm以下、好ましくは0.01μm以上0.10μm以下とする。なお、ここに挙げた各要素の厚さは何れも一例であり、本発明の要旨を変更しない範囲内で変更可能である。
【0061】
第1電極60及び第2電極80の材料は、圧電素子300を形成する際に酸化せず、導電性を維持できる電極材料であればよい。そのような材料としては、例えば、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、金(Au)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、Ti、銀(Ag)、ステンレス鋼等の金属材料;酸化イリジウム(IrO)、酸化インジウムスズ(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)等の酸化スズ系導電材料、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)等の酸化亜鉛系導電材料、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO)、ニッケル酸ランタン(LaNiO)、元素ドープチタン酸ストロンチウム等の酸化物導電材料;導電性ポリマー等が挙げられる。電極材料として、上記材料の何れかを単独で用いてもよく、複数の材料を積層させた積層体を用いてもよい。第1電極60の電極材料と第2電極80の電極材料は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0062】
(圧電素子の製造方法)
次に、圧電素子300の製造方法の一例について、記録ヘッド1の製造方法とあわせて、図面を参照して説明する。図6から図12は、インクジェット式記録ヘッドの製造例を説明する断面図である。
【0063】
まず、図6に示すように、基板10としてSi単結晶基板を準備する。次に、基板10を熱酸化することによって、その表面にSiOからなる弾性膜51を形成する。更に、弾性膜51上にスパッタリング法や蒸着法等でジルコニウム膜を形成し、これを熱酸化することによって、ZrOからなる絶縁体膜52を得る。このようにして、基板10上に、弾性膜51と絶縁体膜52とからなる振動板50を形成する。次いで、絶縁体膜52上に、TiOからなる密着層56を形成する。密着層56は、スパッタリング法やTi膜の熱酸化等により形成することができる。次いで、密着層56上に、Ptからなる第1電極60を形成する。第1電極60は、電極材料に応じて適宜選択することができ、例えばスパッタリング法、真空蒸着法(PVD法)、レーザーアブレーション法等の気相成膜、スピンコート法等の液相成膜等により形成することができる。
【0064】
次に、図7に示すように、第1電極60上に所定形状のレジスト(図示なし)をマスクとして形成し、密着層56及び第1電極60を、同時にパターニングする。密着層56及び第1電極60のパターニングは、例えば、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)、イオンミリング等のドライエッチングや、エッチング液を用いたウェットエッチングにより行うことができる。なお、密着層56及び第1電極60のパターニングにおける形状は、特に限定されない。
【0065】
次に、図8に示すように、第1電極60上に第1の圧電体膜74aを形成し、その上に複数の圧電体膜74を形成する。圧電体層70は、第1の圧電体膜74a及び複数層の圧電体膜74によって構成される。圧電体層70は、例えば、金属錯体を含む溶液(前駆体溶液)を塗布乾燥し、更に高温で焼成することで金属酸化物を得る化学溶液法(湿式法)により形成することができる。その他、レーザーアブレーション法、スパッタリング法、パルス・レーザー・デポジション法(PLD法)、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、エアロゾル・デポジション法等によっても形成することができる。本実施形態では、圧電体層70の面方位を(100)方向に配向させる観点から、湿式法(液相法)を用いた。
【0066】
ここで、湿式法(液相法)とは、MOD法やゾル−ゲル法等の化学溶液法等により成膜する方法であり、スパッタリング法等の気相法と区別される概念である。本実施形態では、面方位が(100)方向に配向した圧電体層70を形成できるものであれば、気相法を用いてもよい。
【0067】
例えば、湿式法(液相法)によって形成された圧電体層70は、詳細は後述するが、前駆体溶液を塗布して前駆体膜を形成する工程(塗布工程)、前駆体膜を乾燥する工程(乾燥工程)、乾燥した前駆体膜を加熱して脱脂する工程(脱脂工程)、及び、脱脂した前駆体膜を焼成する工程(焼成工程)までの一連の工程によって形成された第1の圧電体膜74a及び複数層の圧電体膜74を有する。即ち、圧電体層70は、塗布工程から焼成工程までの一連の工程を複数回繰り返すことによって形成される。なお、上述した一連の工程において、塗布工程から脱脂工程までを複数回繰り返した後に、焼成工程を実施してもよい。
【0068】
湿式法によって形成された層や膜は、界面を有する。湿式法によって形成された層や膜には、塗布又は焼成の形跡が残り、このような形跡は、その断面を観察したり、層内(又は膜内)における元素の濃度分布を解析したりすることによって確認可能な界面となる。界面とは、厳密には層間又は膜間の境界を意味するが、ここでは、層又は膜の境界付近を意味するものとする。湿式法によって形成された層や膜の断面を電子顕微鏡等により観察した場合、このような界面は、隣の層や膜との境界付近に、他よりも色が濃い部分、又は他よりも色が薄い部分として確認される。また、元素の濃度分布を解析した場合、このような界面は、隣の層や膜との境界付近に、他よりも元素の濃度が高い部分、又は他よりも元素の濃度が低い部分として確認される。圧電体層70は、塗布工程から焼成工程までの一連の工程を複数繰り返して、或いは、塗布工程から脱脂工程までを複数回繰り返した後に焼成工程を実施して形成される(第1の圧電体膜74a及び複数層の圧電体膜74によって構成される)ため、第1の圧電体膜74a及び各圧電体膜74に対応して、複数の界面を有することとなる。
【0069】
圧電体層70を湿式法で形成する場合の具体的な手順の例は、次の通りである。まず、金属錯体を含むMOD溶液やゾルからなり、圧電体層70を形成するための前駆体溶液をそれぞれ調整する(調整工程)。そして、圧電体層70の前駆体溶液を、パターニングした第1電極60上に、スピンコート法等を用いて塗布して前駆体膜を形成する(塗布工程)。次に、この前駆体膜を所定温度、例えば130℃から250℃に加熱して一定時間乾燥させ(乾燥工程)、更に乾燥した前駆体膜を所定温度、例えば300℃から450℃に加熱して一定時間保持することによって脱脂する(脱脂工程)。更に、脱脂した前駆体膜をより高い温度、例えば500℃から800℃に加熱し、この温度で一定時間保持することによって結晶化させ、第1の圧電体膜74aを形成する(焼成工程)。この第1の圧電体膜74aを形成した後に、上記の塗布工程、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程を複数回繰り返すことにより、第1の圧電体膜74a及び複数層の圧電体膜74からなる圧電体層70を形成する。
【0070】
なお、上述の各前駆体溶液は、焼成により、ペロブスカイト型複合酸化物を形成し得る金属錯体を、それぞれ有機溶媒に溶解又は分散させたものである。つまり、圧電体層70の前駆体溶液は、金属錯体の中心金属として所定元素(第1の圧電体膜74aではK、Na及びNb)を含むものである。このとき、圧電体層70の前駆体溶液中に、所定元素以外の元素を含む金属錯体を更に混合してもよい。
【0071】
上記所定元素を含む金属錯体としては、例えば、アルコキシド、有機酸塩、β−ジケトン錯体等を用いることができる。上述の各前駆体溶液において、これらの金属錯体の混合割合は、ペロブスカイト型複合酸化物に含まれる所定元素が所望のモル比となるように混合すればよい。
【0072】
例えば、第1の圧電体膜74aに含まれるKNN系複合酸化物において、Kを含む金属錯体としては、2−エチルヘキサン酸カリウム、酢酸カリウム等が挙げられる。Naを含む金属錯体としては、2−エチルヘキサン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等が挙げられる。Nbを含む金属錯体としては、2−エチルヘキサン酸ニオブ、ペンタエトキシニオブ等が挙げられる。添加物としてMnを加える場合、Mnを含む金属錯体としては、2−エチルヘキサン酸マンガン等が挙げられる。このとき、2種以上の金属錯体を併用してもよい。例えば、Kを含む金属錯体として、2−エチルへキサン酸カリウムと酢酸カリウムとを併用してもよい。
【0073】
前駆体溶液の作製に用いられる有機溶媒としては、例えば、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、オクタン、デカン、シクロヘキサン、キシレン、トルエン、テトラヒドロフラン、酢酸、オクチル酸、2−n−ブトキシエタノール、n−オクタン等、又はこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0074】
前駆体溶液は、各金属錯体の分散を安定化する添加剤を含んでもよい。このような添加剤としては、2−エチルヘキサン酸やジエタノールアミン等が挙げられる。
乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程で用いられる加熱装置としては、例えば、赤外線ランプの照射により加熱するRTA(Rapid Thermal Annealing)装置やホットプレート等が挙げられる。
【0075】
次に、図9に示すように、圧電体層70をパターニングする。パターニングは、反応性イオンエッチングやイオンミリング等のドライエッチングや、エッチング液を用いたウェットエッチングによって行うことができる。なお、圧電体層70のパターニングにおける形状は、特に限定されない。その後、パターニングした圧電体層70上に第2電極80を形成する。第2電極80は、第1電極60と同様の方法により形成することができる。
【0076】
なお、圧電体層70上に第2電極80を形成する前後で、必要に応じて600℃から800℃の温度域で再加熱処理(ポストアニール)を行ってもよい。このように、ポストアニールを行うことで、密着層56と第1電極60、第1電極60と圧電体層70、圧電体層70と第2電極80との良好な界面を、それぞれ形成することができ、且つ圧電体層70の結晶性を改善することができる。
【0077】
本実施形態では、第1の圧電体膜74aの圧電材料にアルカリ金属(KやNa)が含まれる。アルカリ金属は、上記の焼成工程で第1電極60中に拡散しやすい。仮に、アルカリ金属が第1電極60を通り越して基板10に達すると、その基板10と反応を起こしてしまう。しかしながら、本実施形態では、上記のZrOからなる絶縁体膜52が、KやNaのストッパー機能を果たしている。従って、アルカリ金属がSi基板である基板10に到達することを抑制できる。
【0078】
次いで、図示しないが、リード電極90を形成すると共に所定形状にパターニングする(図4参照)。
次に、図10に示すように、図示しない流路形成基板用ウェハーの圧電素子300側に、シリコンウェハーであり複数の保護基板30となる図示しない保護基板用ウェハーを、接着剤35(図4参照)を介して接合した後、流路形成基板用ウェハーを所定の厚みに薄くする。
【0079】
次いで、図11に示すように、流路形成基板用ウェハーにマスク膜53を新たに形成し、所定形状にパターニングする。そして、図12に示すように、流路形成基板用ウェハーを、マスク膜53を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧電素子300に対応する圧力発生室12、インク供給路13、連通路14及び連通部15等(図4参照)を形成する。
【0080】
その後は、流路形成基板用ウェハー及び保護基板用ウェハーの外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハーの保護基板用ウェハーとは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハーにコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハー等を図2に示すような一つのチップサイズの基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッド(記録ヘッド1)とする。
【実施例】
【0081】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されない。
(サンプル1の製造)
まず、6インチの(100)面のSi単結晶基板(基板10)を熱酸化することで、当該基板10の表面にSiO膜(弾性膜51)を形成した。弾性膜51上にZr膜をスパッタリング法によって成膜し、Zr膜を熱酸化することで、ZrO膜(絶縁体膜52)を形成し、弾性膜51及び絶縁体膜52からなる振動板50を形成した。次いで、絶縁体膜52上に、スパッタリング法により、Ti層を形成し、当該Ti層を熱酸化することで、TiO層(密着層56)を形成した。次いで、密着層56上に、スパッタリング法により、450℃に加熱しながらPt電極膜を形成した。次いで、Pt電極膜上に所定のフォトレジストパターンを作製し、イオンミリングによりPt電極膜及び密着層56を所定形状にパターニングし、Pt電極(第1電極60)を形成した。
【0082】
次に、2−エチルヘキサン酸カリウム、2−エチルヘキサン酸ナトリウム及び2−エチルヘキサン酸ニオブからなる前駆体溶液を調整した。この前駆体溶液を用いることにより、後述するKNN系複合酸化物からなるKNN層(圧電体層70)は、1層目のKNN膜(第1の圧電体膜74a)のK及びNaの組成比と、2層目のKNN膜(圧電体膜74)のK及びNaの組成比とが、下記表1のサンプル1に示した通りの組成である(K0.8,Na0.2)NbOとなり、Aサイト比(A/B)は1とした。
【0083】
次に、調製した前駆体溶液を、スピンコート法により、1500rpm〜3000rpmで、第1電極60が形成された基板10(以下、単に「基板10」という)上に塗布した(塗布工程)。次いで、ホットプレート上に基板10を載せ、180℃で乾燥した(乾燥工程)。次いで、ホットプレート上に基板10に対して380℃で脱脂を行った(脱脂工程)。次いで、RTA装置を使用して600℃で3分間の加熱処理を行った(焼成工程)。そして、第1の圧電体膜74aを形成した。
【0084】
次に、このような塗布工程から焼成工程までを1回行うことで圧電体膜74を1層形成し、計2層の圧電体膜で構成された厚さが160nmのKNN層(圧電体層70)を形成し、これをサンプル1とした。
【0085】
(サンプル2〜9の製造)
圧電体層70を構成するKNN系複合酸化物の組成が、下記表1に示した通りになるように前駆体溶液を調整したこと以外はサンプル1と同様にして圧電体層70を形成し、それぞれサンプル2〜9とした。なお、サンプル8は、NaNbO(NN)からなるNN層により圧電体層70が構成され、サンプル9は、KNbO(KN)からなるKN層により圧電体層70が構成されている。
【0086】
【表1】
【0087】
(サンプル10〜15の製造)
最も強度が高かったサンプル5(Na/(Na+K)=0.6)のNa比を固定して、Aサイト比(A/B)を変更したサンプル10〜15を作製した。サンプル10〜15において、K及びNaの量が過剰である場合はA>1であり、K及びNaの量が不足している場合はA<1である。圧電体層70を構成するKNN系複合酸化物の組成が、下記表2に示した通りになるように前駆体溶液を調整したこと以外はサンプル1と同様にして圧電体層70を形成し、それぞれサンプル10〜15とした。
【0088】
【表2】
【0089】
(サンプル16〜21の製造)
サンプル6(Na/(Na+K)=0.8)のNa比を固定して、Aサイト比(A/B)を変更したサンプル16〜21を作製した。圧電体層70を構成するKNN系複合酸化物の組成が、下記表3に示した通りになるように前駆体溶液を調整したこと以外はサンプル1と同様にして圧電体層70を形成し、それぞれサンプル16〜21とした。
【0090】
【表3】
【0091】
(サンプル22の製造)
圧電体層70を構成するKNN系複合酸化物が、第1の圧電体膜74aのK、Na及びMnの組成比と、2層目の圧電体膜74のK、Na及びMnの組成比とが、下記表4に示した通りの組成である(K0.4,Na0.6)(Nb0.995Mn0.005)Oとなるように前駆体溶液を調整したこと以外はサンプル1と同様にして圧電体層70を形成し、サンプル22とした。
【0092】
(サンプル23の製造)
圧電体層70を構成するKNN系複合酸化物における第1の圧電体膜74aのK及びNaの組成比が下記表4に示した通りの組成である(K0.4,Na0.6)NbOとなるように前駆体溶液を調整し、更に、NaNbO(NN)用の前駆体溶液を調製して2層目の圧電体膜74を形成したこと以外はサンプル1と同様にして圧電体層70を形成し、サンプル23とした。
【0093】
(サンプル24の製造)
圧電体層70を構成するKNN系複合酸化物における第1の圧電体膜74aのK及びNaの組成比が下記表4に示した通りの組成である(K0.4,Na0.6)NbOとなるように前駆体溶液を調整し、更に、(Bi0.5,Na0.5)TiO(BNT)用の前駆体溶液を調製して2層目の圧電体膜74を形成したこと以外はサンプル1と同様にして圧電体層70を形成し、サンプル24とした。
【0094】
(サンプル25の製造)
圧電体層70を構成するKNN系複合酸化物における第1の圧電体膜74aのK及びNaの組成比が下記表4に示した通りの組成である(K0.4,Na0.6)NbOとなるように前駆体溶液を調整し、更に、BiFeO(BF)用の前駆体溶液を調製して2層目の圧電体膜74を形成したこと以外はサンプル1と同様にして圧電体層70を形成し、サンプル25とした。
【0095】
【表4】
【0096】
(XRD測定)
サンプル1〜25について、ブルカー・エイエックスエス株式会社製の「D8 Discover」を使用し、X線回折(XRD:X−ray diffraction)法により、圧電体層70のX線回折パターンの測定を室温で行った。この測定に際し、線源はCuKα、X線コリメータは0.1mmφ、検出器は2次元検出器(GADDS)を使用した。測定時の管電圧及び管電流はそれぞれ、50kV、100mAとした。測定条件は、ωを10とし、2θを35とし、積算時間を120秒とした。ここで得られた2次元測定結果を、積分範囲2θ=20〜50、χ=−95〜−85で1次元回折パターンとして、回折強度(ピーク強度)(Counts)及び半値幅(°)を算出した。
【0097】
一般に、KNN層(圧電体層70)のX線回折パターンでは、2θが22.5°近傍に(100)面に由来するピーク、32.0°近傍に(110)面に由来するピークが観察される。サンプル1〜7、サンプル11〜15及びサンプル17〜25は、2θが22.5°近傍にピークが観察され、32.0°近傍にピークが観察されなかった。これにより、サンプル1〜7、サンプル11〜15及びサンプル17〜25の圧電体層70は、(100)面に優先配向していることがわかった。また、各サンプルの(100)面に由来するピークの強度(Counts)及び半値幅(°)を算出して、これらを表1〜4に示した。なお、サンプル8〜10及びサンプル16は、(100)面に由来するピークが観察されなかったため、その強度が0になり半値幅を算出することができなかった。
【0098】
また、表1〜3に基づき、各サンプルにおける組成比、半値幅及びピーク強度の関係をグラフ化した。図13は、サンプル1〜9のNa比、半値幅及び強度の関係を示すグラフであり、図14は、サンプル10〜15のAサイト比、半値幅及び強度の関係を示すグラフであり、図15は、サンプル16〜21のAサイト比、半値幅及び強度の関係を示すグラフである。
【0099】
表1〜4及び図13〜15に示した通り、第1の圧電体膜74aを構成するKNN系複合酸化物のAサイトに含まれるカリウム及びナトリウムの組成比が0.5<Na/(Na+K)≦0.9の範囲内にあるサンプル4〜7は、(100)面に由来するピークの強度(Counts)が大きく、その半値幅(°)が0.55°以下であることが確認された。即ち、圧電体層70を構成するKNN系複合酸化物のカリウム及びナトリウムの組成比、及びBサイトに対するAサイトのモル比(A/B)を所定範囲内に調整することで、KNN系複合酸化物を(100)面に優先配向させ、且つ結晶性に優れた圧電体層70が得られることが明らかとなった。
【0100】
また、上記に加えてKNN系複合酸化物のBサイトに対するAサイトのモル比(A/B)が0.8<A/B≦1.4の範囲内にあるサンプル11〜15及びサンプル17〜21や、添加物として10モル%以下のMnを含むサンプル22、或いは、2層目の圧電体膜74がKNN系複合酸化物以外のペロブスカイト型複合酸化物であるサンプル23〜25についても、各種複合酸化物が配向性及び結晶性に優れていることが確認された。
【0101】
なお、実施例では示されていないが、サンプル4〜7、サンプル11〜15及びサンプル17〜25のように第1の圧電体膜74aを形成し、その上層に複数の圧電体膜74を形成して圧電体層70の厚さを、例えば0.1μm以上3.0μm以下としても、各種複合酸化物の優れた配向性及び結晶性を維持することができる。
【0102】
一方、上記条件から外れたサンプル1〜3、サンプル8〜10及びサンプル16は、KNN系複合酸化物が(100)面に優先配向しない圧電体層70、或いは、その結晶の規則性(配向の向き)に劣る圧電体層70であった。
【0103】
(他の実施形態)
上記実施形態では、圧電素子応用デバイスの一例として、液体噴射装置に搭載される液体噴射ヘッドを挙げて説明したが、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。また、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドとしては、例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイの発光層及び電荷輸送層の形成に用いられる有機EL材料噴射ヘッド、電極前駆動体溶液の描画により電極パターンを形成する電極材料噴射ヘッド、材料の噴射と光や熱による材料の硬化を繰り返すことで3次元の任意造形(3Dプリント)を行う硬化材料噴射ヘッド、圧電材料前駆体溶液の描画と熱処理により任意の圧電素子パターンを形成する圧電材料噴射ヘッド、バイオチップの製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【0104】
本発明の圧電素子及び圧電素子応用デバイスは、高い圧電特性を有することから、圧電アクチュエーターに好適に用いることができる。具体的な圧電アクチュエーター装置としては、例えば、超音波発信機、超音波モーター、振動式ダスト除去装置、圧電トランス、圧電スピーカー、圧電ポンプ、温度−電気変換器、圧力−電気変換器等が挙げられる。
【0105】
本発明の圧電素子及び圧電素子応用デバイスは、高い圧電性能を有することから、圧電方式のセンサー素子に好適に用いることができる。具体的なセンサー素子としては、例えば、超音波検出器(超音波センサー)、角速度センサー(ジャイロセンサー)、加速度センサー、振動センサー、傾きセンサー、圧力センサー、衝突センサー、人感センサー、赤外線センサー、テラヘルツセンサー、熱検知センサー(感熱センサー)、焦電センサー、圧電センサー等が挙げられる。その他、赤外線等の有害光線の遮断フィルター、量子ドット形成によるフォトニック結晶効果を使用した光学フィルター、薄膜の光干渉を利用した光学フィルター等のフィルター等に適用されてもよい。
【0106】
超音波センサーが搭載された超音波測定装置にあっては、例えば、本発明の圧電素子と、本発明の圧電素子により発信される超音波及び本発明の圧電素子により受信される超音波の少なくとも一方に基づく信号を利用して検出対象を測定する制御手段とを具備することで超音波測定装置を構成することもできる。このような超音波測定装置は、超音波を発信した時点から、その発信した超音波が測定対象物に反射されて戻ってくるエコー信号を受信する時点までの時間に基づいて、測定対象物の位置、形状及び速度等に関する情報を得るものであり、超音波を発生するための素子や、エコー信号を検知するための素子として圧電素子が用いられることがある。このような超音波発生素子やエコー信号検知素子として、優れた変位特性を有する超音波測定装置を提供することができる。
【0107】
本発明の圧電素子及び圧電素子応用デバイスは、高い強誘電性を有することから、強誘電体素子に好適に用いることができる。具体的な強誘電体素子としては、例えば、強誘電体メモリー(FeRAM)、強誘電体トランジスター(FeFET)、強誘電体演算回路(FeLogic)、強誘電体キャパシター等が挙げられる。
【0108】
本発明の圧電素子及び圧電素子応用デバイスは、電圧によりドメイン分域を制御することができるため、電圧制御型の光学素子に好適に用いることができる。具体的な光学素子としては、例えば、波長変換器、光導波路、光路変調器、屈折率制御素子、電子シャッター機構等が挙げられる。
【0109】
本発明の圧電素子及び圧電素子応用デバイスは、良好な焦電特性を示すことから、焦電素子に好適に用いることができ、また、上述した各種モーターを駆動源として利用したロボット等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0110】
I…記録装置、II…ヘッドユニット、S…記録シート、1…記録ヘッド、2A,2B…カートリッジ、3…キャリッジ、4…装置本体、5…キャリッジ軸、6…駆動モーター、7…タイミングベルト、8…搬送ローラー、10…基板、11…隔壁、12…圧力発生室、13…インク供給路、14…連通路、15…連通部、20…ノズルプレート、21…ノズル開口、30…保護基板、31…圧電素子保持部、32…マニホールド部、33…貫通孔、35…接着剤、40…コンプライアンス基板、41…封止膜、42…固定板、43…開口部、50…振動板、51…弾性膜、52…絶縁体膜、53…マスク膜、56…密着層、60…第1電極、70…圧電体層、74…圧電体膜、74a…第1の圧電体膜、80…第2電極、90…リード電極、100…マニホールド、120…駆動回路、121…接続配線、200…プリンターコントローラー、300…圧電素子
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