(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
板状の基材の一方の面に、前記基材の厚さ方向を法線とする第1面を主体に構成されている第1領域と、前記第1面に対して傾斜している第2面を主体に構成されている第2領域とが交互に複数並んでいる光学パターンを形成する光学パターン形成工程を含むエンコーダースケールの製造方法であって、
前記基材の前記一方の面には、前記第2領域に対応して凹部が設けられており、
前記光学パターンは、前記第1領域に配置されている金属膜を備え、
前記金属膜は、前記凹部側に突出している部分を有し、
前記第2領域と、前記部分とは、異方性エッチングにより形成することを特徴とするエンコーダースケールの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のスケールは、基材としてガラス基板を用いるため、形状の自由度が低く、また、低コスト化が難しいという問題がある。また、特許文献1に記載のスケールは、ガラス基板の金属膜の形成されていない部分の面が金属膜の面と同一方向に沿っているため、当該部分で透過せずに反射した光ビームの一部が光検出器で検出されてしまい、その結果、検出精度を高めることが難しいという問題もある。
【0005】
本発明の目的は、低コスト化を図りつつ、検出精度を高めることができるエンコーダースケールおよびその製造方法を提供すること、また、このエンコーダースケールを備えるエンコーダー、ロボットおよびプリンターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、下記の本発明により達成される。
本発明のエンコーダースケールは、板状の基材と、
前記基材の一方の面に設けられ、第1領域と第2領域とが交互に並んでいる光学パターンと、を備え、
前記第1領域は、前記基材の厚さ方向を法線とする第1面を主体に構成され、
前記第2領域は、前記第1面に対して傾斜している第2面を主体に構成されていることを特徴とする。
【0007】
このようなエンコーダースケールによれば、第1領域が基材の厚さ方向を法線とする第1面を主体に構成され、第2領域が第1面に対して傾斜している第2面を主体に構成されているため、第1領域および第2領域で反射した光の方向を互いに異ならせ、第1領域で反射した光のみを選択的に受光することができる。そのため、基材を透明材料で構成する必要がなく、基材の材料選択の自由度を高めることができ、その結果、より安価でかつ加工性に優れた材料を用いることができる。また、第1領域に光が照射されている状態とそうでない状態との受光量の差を大きくすることができ、その結果、検出精度を高めることができる。
【0008】
本発明のエンコーダースケールでは、前記基材は、異方性エッチングが可能な結晶材料で構成されていることが好ましい。
【0009】
これにより、光学パターンを高精度に形成することができる。また、結晶材料の結晶面を利用して第1面および第2面を形成することができる。
【0010】
本発明のエンコーダースケールでは、前記結晶材料は、単結晶シリコンであることが好ましい。
【0011】
単結晶シリコンは、他の結晶材料に比べて安価であり、高精度な加工が容易である。そのため、エンコーダースケールの基材が単結晶シリコンで構成されていることで、エンコーダースケールの低コスト化および高精度化が容易に図れるという利点がある。
【0012】
本発明のエンコーダースケールでは、前記単結晶シリコンの面方位が(100)であることが好ましい。
【0013】
これにより、単結晶シリコンの[100]面を利用して第1面を形成するとともに、[111]面を利用して第2面を形成することができる。また、[111]面は、基材の面内まわりの90°ごとに現れる。そのため、このような単結晶シリコンを用いることで、リニアエンコーダーだけでなく、ロータリーエンコーダーに適したエンコーダースケールを形成することができる。
【0014】
本発明のエンコーダースケールでは、前記第2面は、前記結晶材料の結晶面に沿って設けられていることが好ましい。
【0015】
これにより、第1面に対する傾斜角度のバラつきの少ない第2面を容易に形成することができる。
【0016】
本発明のエンコーダースケールでは、前記第1領域に配置されている金属膜を備えることが好ましい。
【0017】
これにより、基材の構成材料によらず、第1領域(第1面)の光の反射率を高めることができる。また、第2領域(第2面)をエッチングにより形成する場合、その際に用いる金属マスクを当該金属膜として利用することが可能であり、製造コストを低減することもできる。
【0018】
本発明のエンコーダースケールでは、前記基材の前記一方の面には、前記第2領域に対応して凹部が設けられていることが好ましい。
これにより、第2領域(第2面)をエッチングにより容易に形成することができる。
【0019】
本発明のエンコーダースケールでは、前記基材の前記第2領域には、複数の凸部が設けられており、
前記第2面は、前記凸部の側面を用いて構成されていることが好ましい。
【0020】
これにより、第2領域(第2面)をエッチングにより形成する場合、そのエッチング量を少なくすることができ、製造時間を短縮し、ひいては製造コストを低減することができる。
【0021】
本発明のエンコーダースケールの製造方法は、板状の基材の一方の面に、前記基材の厚さ方向を法線とする第1面を主体に構成されている第1領域と、前記第1面に対して傾斜している第2面を主体に構成されている第2領域とが交互に複数並んでいる光学パターンを形成する光学パターン形成工程を含むエンコーダースケールの製造方法であって、
前記第2領域は、異方性エッチングにより形成することを特徴とする。
【0022】
このようなエンコーダースケールの製造方法によれば、低コスト化を図りつつ、検出精度を高めることができるエンコーダースケールを得ることができる。
【0023】
本発明のエンコーダーは、本発明のエンコーダースケールを備えることを特徴とする。
このようなエンコーダーによれば、低コスト化を図りつつ、検出精度を高めることができる。
【0024】
本発明のエンコーダーは、エンコーダースケールと、
前記エンコーダースケールに向けて光を出射する光源部と、
前記エンコーダースケールからの前記光の反射光を受光する受光部と、を備え、
前記エンコーダースケールは、
板状の基材と、
前記基材の一方の面に設けられ、第1領域と第2領域とが交互に並んでいる光学パターンと、を備え、
前記第1領域は、前記基材の厚さ方向を法線とする第1面を主体に構成され、
前記第2領域は、前記第1面とは異なる方向に前記光を反射させる第2面を主体に構成されていることを特徴とする。
【0025】
このようなエンコーダーによれば、低コスト化を図りつつ、検出精度を高めることができる。
【0026】
本発明のロボットは、本発明のエンコーダースケールを備えることを特徴とする。
このようなロボットによれば、エンコーダースケールの低コスト化を図ることで、ロボットの低コスト化を図ることができる。また、エンコーダースケールを用いた高精度な検出結果に基づいて高精度な動作制御を行うことができる。
【0027】
本発明のプリンターは、本発明のエンコーダースケールを備えることを特徴とする。
このようなプリンターによれば、エンコーダースケールの低コスト化を図ることで、プリンターの低コスト化を図ることができる。また、エンコーダースケールを用いた高精度な検出結果に基づいて高精度な動作制御を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明のエンコーダースケール、エンコーダースケールの製造方法、エンコーダー、ロボットおよびプリンターを添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0030】
(エンコーダー)
まず、本発明のエンコーダースケールの説明に先立ち、本発明のエンコーダー(本発明のエンコーダースケールを備えるエンコーダー)について簡単に説明する。
【0031】
図1は、本発明の第1実施形態に係るエンコーダーを示す縦断面図である。
図2は、
図1に示すエンコーダーが備えるエンコーダースケールユニットの平面図である。なお、以下では、説明の便宜上、
図1中の上側を「上」、下側を「下」という。
【0032】
図1に示すエンコーダー10は、図示しないモーター等が有する回転軸20の端部に固定されているエンコーダースケールユニット30と、エンコーダースケールユニット30の回転状態を検出する光学センサー40と、を有する。
【0033】
エンコーダースケールユニット30は、回転軸20に固定されているハブ301と、ハブ301の支持部303にエポキシ系接着剤、アクリル系接着剤等の接着剤302により接着されているエンコーダースケール1と、を有する。
【0034】
ハブ301は、円板状をなしている支持部303と、支持部303の一方(
図1中下側)の面(下面)から突出している突出部304と、支持部303の他方(
図1中上側)の面(上面)から突出している凸部305と、突出部304の先端面(
図1中下側の面)に開口している凹部306と、を有し、これらが軸線axを中心として同軸的に設けられている。ここで、凹部306には、回転軸20の端部が挿入(例えば圧入)された状態で固定されている。このようなハブ301の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属材料が挙げられる。なお、凹部306に代えて、回転軸20が挿入される貫通孔をハブ301に設けてもよい。また、ハブ301は、回転軸20と一体で構成されていてもよい。
【0035】
支持部303の上面は、エンコーダースケール1が設置される設置面307である。この支持部303の上面(設置面307)には、エンコーダースケール1の面内方向での位置決めを行うための位置決め部として機能する凸部305が設けられている。本実施形態では、凸部305の外形は、
図2に示すように、軸線axに沿った方向から見たとき(以下、「平面視」ともいう)、円形をなしている。この凸部305は、その中心軸が回転軸20の中心軸(軸線ax)に一致するように形成されている。なお、凸部305の平面視での外形は、円形に限定されず、例えば、四角形、五角形等の多角形でもよい。
【0036】
エンコーダースケール1は、板状(円板状)をなしており、その中央部には、厚さ方向(
図1中上下方向)に貫通している孔11が形成されている。この孔11には、前述した凸部305が挿通されている。本実施形態では、孔11は、
図2に示すように、平面視で円形をなしている。ここで、凸部305の直径(常温)は、孔11の直径(常温)より小さく設定されている。なお、孔11の平面視での外形は、円形に限定されず、例えば、四角形、五角形等の多角形でもよく、また、前述した凸部305の平面視の外形と異なっていてもよい。
【0037】
また、エンコーダースケール1の上面には、
図2に示すように、エンコーダースケール1の回転量(角度)、回転速度等を検出し得るパターンとして、軸線axを中心とする周方向に沿って光LLの反射方向の異なる第1領域121および第2領域122を周方向に沿って交互に並べた光学パターン12が形成されている。ここで、第1領域121および第2領域122は、互いに異なる方向を法線とする面で構成されている。なお、エンコーダースケール1については、後に詳述する。
【0038】
光学センサー40は、エンコーダースケールユニット30のエンコーダースケール1に向けて光LLを出射するレーザダイオード、発光ダイオード等の発光素子を含む光源部42と、エンコーダースケール1からの光LL(反射光)を受光するフォトダイオード等の受光素子を含む受光部43と、を有し、これらが基板41に搭載されている。
【0039】
このような光学センサー40は、エンコーダースケール1の上面(照射面)に前述した光学パターン12が形成されているため、エンコーダースケール1の軸線axまわりの回転に伴って、光学パターン12で反射した光LLが受光部43に入射する状態(
図1中実線で示す光LLの状態)とそうでない状態(
図1中破線で示す光LLの状態)とを交互に繰り返す。そのため、受光部43からの出力信号(電流値)の波形は、エンコーダースケール1の軸線axまわりの回転に伴って変化する。このような受光部43からの出力信号に基づいて、エンコーダースケール1の回転状態(回転角度や回転速度等)を検出することができる。
【0040】
ここで、図示しないが、受光部43は、軸線axを中心とする周方向での異なる位置に設けられている2つの受光素子を有し、一方の受光素子がA相信号を出力し、他方の受光素子がA相信号とは位相が45°ずれたB相信号を出力する。なお、光源部42は、受光部43が有する2つの受光素子に対応する2つの発光素子を有していてもよいし、当該2つの受光素子に対応するようにスリット板等を用いて1つの発光素子からの光を分割してもよい。また、光源部42および受光部43は、それぞれ、レンズ等の光学素子を有していてもよい。
【0041】
以上、エンコーダー10について簡単に説明した。以下、エンコーダースケール1について詳述する。
【0042】
(エンコーダースケール)
図3は、
図2中A−A線断面図(エンコーダースケールの断面図)である。
図4は、
図3に示す第2領域の一部(複数の凸部)を示す斜視図である。
図5は、
図3に示す第2領域に設けられている凸部の平面図である。
図6は、単結晶シリコンを異方性エッチングすることで形成したエンコーダースケールの一部(第1領域および第2領域)を示すSEM写真である。
図7は、単結晶シリコンを異方性エッチングすることで形成したエンコーダースケールの一部(金属膜の縁部近傍の断面)を示すSEM写真である。
図8は、単結晶シリコンを異方性エッチングすることでエンコーダースケールを形成した場合における第2領域の光反射特性(回転角度と受光部での受光量との関係)を示すグラフである。なお、以下では、
図3中上側を「上」、下側を「下」という。
【0043】
前述したように、エンコーダースケール1の上面には、軸線axを中心とする周方向に沿って光LLの反射方向の異なる第1領域121および第2領域122を交互に並べた光学パターン12が形成されている。この光学パターン12の第1領域121および第2領域122は、それぞれ、エンコーダースケール1の半径方向に沿って延びている。なお、
図2では、エンコーダースケール1を軸線axに沿った方向から見たとき、第2領域122の幅がエンコーダースケール1の半径方向にわたって一定となっており、それに伴って、第1領域121の幅がエンコーダースケール1の半径方向での内側から外側に向けて大きくなっているが、これらの幅の関係は、図示と逆になっていてもよい。
【0044】
ここで、エンコーダースケール1は、板状(円板状)の基材2と、基材2の上面に設けられている金属膜3と、を有する。そして、基材2の上面には、複数の第2領域122に対応して複数の凹部21が設けられている。また、金属膜3には、複数の第2領域122に対応して複数の開口部31(貫通孔)が設けられている。したがって、第1領域121には、金属膜3が設けられ、この金属膜3の上面が反射面33として第1領域121を構成している。一方、第2領域122には、金属膜3が設けられておらず、金属膜3の開口部31から露出した基材2の表面、すなわち凹部21の内壁面(側壁面および底面)が第2領域122を構成している。凹部21の深さは、特に限定されないが、1μm以上10μm以下が好ましく、2μm以上4μm以下が好ましい。凹部21を後述のエッチングで形成する場合、このような深さであると容易に形成することができ、また、凹部21としての機能を必要かつ十分に発揮することができる。
【0045】
特に、凹部21の底面には、複数の凸部22が形成されている。各凸部22は、
図4に示すように、ピラミッド状(四角すい状)をなしており、基材2の上面23に対して傾斜角度θ2で傾斜した側面として4つの傾斜面221を有する。また、凹部21の側壁面(底面と上面23とを繋ぐ面)も、基材2の上面23に対して傾斜角度θ1で傾斜した傾斜面211となっている。このような傾斜面211、221は、それぞれ、光LLに対する反射性を有していてもいなくてもよい。傾斜面211、221が光LLに対する反射性を有しないようにするには、例えば、これらの面に微細孔アレイを形成する等の処理を行えばよく、これにより、第2領域122で反射して受光部43で受光される光LLの量をより低減することができる。また、このような処理を行わなければ、これらの面が光LLに対する反射性を有することとなり、また、製造工程が簡単化される。また、傾斜面211の傾斜角度θ1および傾斜面221の傾斜角度θ2は、それぞれ、反射面33と異なる方向に光LLを反射することができればよく、特に限定されない。
【0046】
また、図示では、複数の凸部22は、互いに大きさが等しく、かつ、規則的に配置されているが、互いに大きさが異なっていてもよく、また、ランダムに配置されていてもよい。また、各凸部22は、
図5に示すように、平面視で四角形をなしており、複数の凸部22の平面視での向きが揃っている。ここで、複数の凸部22は、平面視で、いかなる方向を向いていてもよいが、本実施形態では、複数の第2領域122間で互いに同じ方向を向いている。したがって、ある第2領域122に設けられている凸部22の平面視での各辺が当該ある第2領域122の延在方向Bに対して平行または直交である場合、当該ある第2領域122に対して軸線axまわりに55°異なる他の第2領域122に設けられている凸部22の平面視での各辺が当該他の第2領域122の延在方向Cに対して55°傾斜している。
【0047】
このように、エンコーダースケール1は、板状(円板状)の基材2と、基材2の一方(
図1および
図3中上側)の面に設けられ、第1領域121と第2領域122とが交互に並んでいる光学パターン12と、を備える。特に、第1領域121は、基材2の厚さ方向を法線とする「第1面」である反射面33を主体に構成され、第2領域122は、反射面33に対して傾斜した複数の「第2面」である傾斜面221を主体に構成されている。ここで、「第1領域121が反射面33(第1面)を主体に構成されている」とは、平面視で第1領域121内における反射面33(第1面)の面積占有率が50%以上(好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上)であることを言う。また、「第2領域122が傾斜面221(第2面)を主体に構成されている」とは、平面視で第2領域122内における傾斜面221(第2面)の面積占有率が50%以上(好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上)であることを言う。また、第2領域122は、反射面33と同様に基材2の厚さ方向を法線とする面(第1面)を含んでいてもよいが、その場合、平面視で、第2領域122内における当該面の面積占有率が第1領域121内における反射面33(第1面)の面積占有率よりも小さければよい。
【0048】
このようなエンコーダースケール1によれば、第1領域121が基材2の厚さ方向を法線とする反射面33で構成され、第2領域122が反射面33に対して傾斜している傾斜面221を含んで構成されているため、第1領域121および第2領域122で反射した光の方向を互いに異ならせ、第1領域121で反射した光LLのみを選択的に受光部43で受光することができる。そのため、基材2を透明材料で構成する必要がなく、基材2の材料選択の自由度を高めることができ、その結果、より安価でかつ加工性に優れた材料を用いることができる。また、第1領域121に光LLが照射されている状態とそうでない状態との受光部43での受光量の差を大きくすることができ、その結果、検出精度を高めることができる。より具体的には、第1領域121に光LLが照射されている状態での受光部43の受光量を光源部42からの光LLの光量に対して57%以上とし、第2領域122に光LLが照射されている状態での受光部43の受光量を光源部42からの光LLの光量に対して5%以下とすることができる。なお、エンコーダースケール1では、傾斜面211も「第2面」(反射面)を構成しているともいえる。
【0049】
これに対し、例えば、仮に第2領域122が第1領域121(反射面33)の法線と平行な法線の平坦面で構成されている場合、当該平坦面に光LLの反射を低減する処理(例えば、光を散乱させるために主に曲面を組み合わせて構成されている凹凸面とする粗面化、光吸収率を高める黒色化等)を施したとしても、第2領域122での反射率を十分(5%以下)に小さくすることが難しい。そのため、第2領域122に光源部42からの光LLが照射されている状態において、第2領域122で反射して受光部43に入射する光LLの量を十分に小さくすることができない。
【0050】
本実施形態では、エンコーダースケール1は、第1領域121に配置されている金属膜3を備える。これにより、基材2の構成材料によらず、第1領域121(第1面である反射面33)の光LLの反射率を高めることができる。また、後述するように、第2領域122(第2面である傾斜面211、221)をエッチングにより形成する場合、その際に用いる金属マスクを当該金属膜3として利用することが可能であり、製造コストを低減することもできる。金属膜3の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、チタン、タングステンなどの金属またはこれらを含む合金(複合材料)が挙げられる。金属膜3の形成方法は、例えば、蒸着、スパッタリング等の乾式メッキや、湿式メッキ、さらには、インクジェット、スクリーン印刷のような印刷法、転写法等が挙げられる。金属膜3の膜厚は、特に限定されないが、0.001μm以上100μm以下が好ましく、0.05μm以上0.5μm以下がより好ましい。
【0051】
ここで、金属膜3は、後述する異方性エッチングの際のサイドエッチングに起因して、凹部21側に突出している部分32を有する。これにより、傾斜面211での光LLの反射を低減することができる。なお、金属膜3を省略してもよく、この場合、基材2の上面23が「第1面」(反射面)を構成する。この場合でも、第1領域121の光反射性を比較的優れたものとすることが可能である。また、金属膜3の構成材料については、エンコーダースケール1の製造方法とともに後に詳述する。
【0052】
また、基材2は、いかなる材料で構成されていてもよいが、単結晶シリコン、シリコンカーバイト、水晶等の異方性エッチングが可能な結晶材料で構成されていることが好ましい。これにより、後述するように、光学パターン12を高精度に形成することができる。また、結晶材料の結晶面を利用して反射面33(第1面)および傾斜面221(第2面)を形成することができる。
【0053】
また、基材2に用いる結晶材料は、単結晶シリコンであることが好ましい。単結晶シリコンは、他の結晶材料に比べて安価であり、高精度な加工が容易である。そのため、エンコーダースケール1の基材2が単結晶シリコンで構成されていることで、エンコーダースケール1の低コスト化および高精度化が容易に図れるという利点がある。
【0054】
特に、基材2に用いる単結晶シリコンの面方位は、(100)であることが好ましい。これにより、単結晶シリコンの[100]面を利用して上面23および反射面33(第1面)を形成するとともに、[111]面を利用して傾斜面211、221(第2面)を形成することができる。また、[111]面は、基材2の面内まわりの90°ごとに現れる。そのため、このような単結晶シリコンを用いることで、リニアエンコーダーだけでなく、本実施形態のようにロータリーエンコーダーに適したエンコーダースケール1を形成することができる。このように単結晶シリコンを用いて形成したエンコーダースケール1のSEM写真を
図6および
図7に示す。また、単結晶シリコンを用いて形成したエンコーダースケール1の第2領域122で反射して受光部43で受光される光LLの量は、
図8に示すように、光源部42からの光LLの光量に対して3%以下とすることができる。
【0055】
このように、傾斜面211、221(第2面)は、基材2に用いる結晶材料の結晶面に沿って設けられていることが好ましい。これにより、基材2の上面23(第1面)に対する傾斜角度θ1、θ2のバラつきの少ない傾斜面211、221(第2面)を容易に形成することができる。ここで、基材2を単結晶シリコンで構成した場合、傾斜面221の傾斜角度θ2は、約55°(理論値)であり、傾斜面211の傾斜角度θ1は、エンコーダースケール1の周方向での位置によって異なる。
【0056】
また、基材2の一方(
図1および
図3中上側)の面には、第2領域122に対応して凹部21が設けられている。これにより、後述するように、第2領域122(第2面である傾斜面211、221)をエッチングにより容易に形成することができる。
【0057】
特に、基材2の第2領域122には、複数の凸部22が設けられており、傾斜面221(第2面)は、凸部22の側面を用いて構成されている。これにより、第2領域122(第2面である傾斜面221)をエッチングにより形成する場合、そのエッチング量を少なくすることができ、製造時間を短縮し、ひいては製造コストを低減することができる。これに対し、例えば、第2領域122を傾斜面211のみで構成する場合、基材2を深くエッチングする必要があり、製造に長時間を要し、その結果、製造コストの増大を招く。
【0058】
以上のように、エンコーダー10は、前述したエンコーダースケール1を備える。これにより、低コスト化を図りつつ、検出精度を高めることができる。
【0059】
すなわち、エンコーダー10は、エンコーダースケール1と、エンコーダースケール1に向けて光LLを出射する光源部42と、エンコーダースケール1からの光LLの反射光を受光する受光部43と、を備える。そして、前述したように、エンコーダースケール1は、板状の基材2と、基材2の一方(
図1および
図3中上側)の面に設けられ、第1領域121と第2領域122とが交互に並んでいる光学パターン12と、を備える。ここで、第1領域121は、基材2の厚さ方向を法線とする「第1面」である反射面33を主体に構成され、第2領域122は、反射面33とは異なる方向に光LLを反射させる「第2面」である傾斜面211、221を主体に構成されている。このようなエンコーダー10によれば、低コスト化を図りつつ、検出精度を高めることができる。
【0060】
(エンコーダースケールの製造方法)
図9は、
図3に示すエンコーダースケールの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【0061】
エンコーダースケール1の製造方法は、
図9に示すように、準備工程S10と、光学パターン形成工程S20と、外形形成工程S30と、を有する。以下、各工程を順次説明する。なお、以下では、基材2を(100)単結晶シリコンで構成する場合を例に説明する。
【0062】
[準備工程S10]
図10は、
図9に示す準備工程を説明するための断面図である。
【0063】
まず、
図10に示すように、(100)単結晶シリコン基板である基材2aを準備する。この基材2aは、単結晶シリコン基板をそのまま用いてもよいが、必要に応じて、単結晶シリコン基板の一方の面を研削して薄肉化した基板を用いる。
【0064】
[光学パターン形成工程S20]
図11は、
図9に示す光学パターン形成工程(マスク形成工程)を説明するための断面図である。
図12は、
図9に示す光学パターン形成工程(異方性エッチング工程)を説明するための断面図である。
【0065】
次に、
図11に示すように、基材2aの一方の面上に、金属膜3を形成する。この金属膜3は、例えば、基材2aの一方の面上に金属膜を一様に形成した後、当該金属膜上にフォトレジストでマスクを形成し、当該マスクを介して当該金属膜をエッチングし、その後、当該マスクを除去することで得られる。
【0066】
そして、
図12に示すように、金属膜3をマスクとして用いて、基材2aを異方性エッチングし、必要に応じて、基材2aを洗浄する。これにより、複数の凹部21および複数の凸部22を有する基材2bが得られる。
【0067】
この異方性エッチング(ウェットエッチング)は、特に限定されないが、例えば、KOHやTMAH等のアルカリエッチング液を用いる。
【0068】
本例では、金属膜3を最終的にエンコーダースケール1の反射面として用いるため、金属膜3の構成材料としては、前述したものが挙げられるが、その中でも、光LLに対する反射性および異方性エッチングに対する耐性を有する材料が好ましく、例えば、TiW等の金属材料を用いることができる。
【0069】
なお、最終的に得られるエンコーダースケール1が金属膜3を有しない場合、前述した金属膜3に代えて、基材2a表面を熱酸化したシリコン酸化膜、光LLに対する反射性を有しない材料を成膜した膜等の膜を用いてもよく、この場合、この膜は、異方性エッチングにおいてマスクとして用いた後にドライエッチングまたはウェットエッチングにより除去すればよい。
【0070】
[外形形成工程]
図示しないが、基材2aをドライエッチングすることで、エンコーダースケール1の外形(孔11を含む)を形成する。本工程では、例えば、ドライエッチングの前に、保護膜として金属膜3上にレジスト層を形成し、ドライエッチングの後に、当該レジスト層を除去する。なお、最終的に得られるエンコーダースケール1が金属膜3を有しない場合、この外形形成工程後に、金属膜3を除去すればよい。
【0071】
本工程のドライエッチングとしては、特に限定されないが、例えば、Si高速エッチング法、ボッシュプロセス法、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)、ICP(Inductively Coupled Plasma)等が挙げられる。また、エッチングガスとしては、Cl
2+HBr、SF
6等を用いることができる。
以上のようにして、エンコーダースケール1を製造することができる。
【0072】
以上のように、エンコーダースケール1の製造方法は、基材2aを準備する準備工程S10と、第1領域121および第2領域122が交互に複数並んでいる光学パターン12を形成する光学パターン形成工程S20と、を含む。ここで、光学パターン形成工程S20では、板状の基材2aの表面に、基材2aの厚さ方向を法線とする「第1面」である反射面33(または上面23)を主体に構成されている第1領域121と、反射面33(または上面23)に対して傾斜した「第2面」である傾斜面221を主体に構成されている第2領域122と、を形成する。第2領域122は、異方性エッチングにより形成する。このようなエンコーダースケール1の製造方法によれば、低コスト化を図りつつ、検出精度を高めることができるエンコーダースケール1を得ることができる。
【0073】
<第2実施形態>
図13は、本発明の第2実施形態に係るエンコーダースケールを示す断面図である。
図14は、
図13に示す第2領域に設けられている凸部の平面図である。なお、以下の説明では、本実施形態に関し、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項に関してはその説明を省略する。
【0074】
図13に示すエンコーダースケール1Aの一方の面には、周方向に沿って交互に複数並んでいる第1領域121Aおよび第2領域122Aを有する光学パターン12Aが設けられている。ここで、光学パターン12Aは、前述した第1実施形態の光学パターン12を反転した形状をなしている。具体的に説明すると、エンコーダースケール1Aは、板状(円板状)の基材2Aを有し、この基材2Aの上面には、複数の第2領域122Aに対応して複数の凸部21Aが設けられている。そして、基材2Aの上面の複数の凸部21Aを除く部分が反射面23Aとして第1領域121Aを構成している。一方、各凸部21Aの外壁面(側壁面および頂面)が第2領域122Aを構成している。
【0075】
特に、凸部21Aの頂面には、複数の凹部22Aが形成されている。各凹部22Aは、
図14に示すように、逆四角すい状をなしており、基材2Aの反射面23Aに対して傾斜した側面として4つの傾斜面221Aを有する。また、凸部21Aの側壁面(頂面と反射面23Aとを繋ぐ面)も、基材2Aの反射面23Aに対して傾斜した傾斜面211Aとなっている。このような傾斜面211A、221Aは、それぞれ、光LLに対する反射性を有していてもいなくてもよい。
【0076】
このようなエンコーダースケール1Aは、例えば、前述した第1実施形態のエンコーダースケール1の金属膜3を省略した構造体を型として用いて樹脂材料等を成形することで比較的簡単かつ安価に得ることが可能である。
【0077】
このように、エンコーダースケール1Aは、板状の基材2Aと、基材2Aの一方(
図13中上側)の面に設けられ、交互に複数並んでいる第1領域121Aおよび第2領域122Aを有する光学パターン12Aと、を備える。特に、第1領域121Aは、基材2Aの厚さ方向を法線とする「第1面」である反射面23Aを含んで構成され、第2領域122Aは、反射面23Aに対して傾斜した複数の「第2面」である傾斜面221Aを含んで構成されている。
【0078】
以上のような第2実施形態のエンコーダースケール1Aによっても、前述した第1実施形態と同様、低コスト化を図りつつ、検出精度を高めることができる。
【0079】
<第3実施形態>
図15は、本発明の第3実施形態に係るエンコーダースケールを示す平面図である。なお、以下の説明では、本実施形態に関し、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項に関してはその説明を省略する。
【0080】
図15に示すエンコーダースケール1Bは、板状をなす基材2Bを有し、その一方の面には、エンコーダースケール1Bの図中方向Eでの移動量、移動速度等を検出し得るパターンとして、方向Eに沿って第1領域121および第2領域122を交互に並べた光学パターン12Bが形成されている。このようなエンコーダースケール1Bは、リニアエンコーダーに用いることができる。
【0081】
ここで、光学パターン12Bの第1領域121および第2領域122は、それぞれ、平面視で、方向Eに直交する方向Dに沿って延びている。また、平面視で、第1領域121および第2領域122の幅がそれぞれ方向Dにわたって一定となっている。また、基材2Bの平面視での茎状も、方向Eを長辺とする長方形となっている。
【0082】
このようなエンコーダースケール1Bは、前述した第1実施形態と同様、(100)単結晶シリコンを用いて簡単かつ高精度に形成することができ、この場合、結晶方位(110)が方向Dに沿っていることが好ましい。これにより、第1領域121および第2領域122の寸法精度を容易に高めることができる。
【0083】
以上のような第3実施形態のエンコーダースケール1Bによっても、前述した第1実施形態と同様、低コスト化を図りつつ、検出精度を高めることができる。
【0084】
(ロボット)
以下、本発明のロボットについて単腕ロボットを例に説明する。
図16は、本発明のロボットの実施形態を示す斜視図である。
【0085】
図16に示すロボット1000は、精密機器やこれを構成する部品(対象物)の給材、除材、搬送および組立等の作業を行うことができる。このロボット1000は、6軸ロボットであり、床や天井に固定されるベース1010と、ベース1010に回動自在に連結されたアーム1020と、アーム1020に回動自在に連結されたアーム1030と、アーム1030に回動自在に連結されたアーム1040と、アーム1040に回動自在に連結されたアーム1050と、アーム1050に回動自在に連結されたアーム1060と、アーム1060に回動自在に連結されたアーム1070と、これらアーム1020、1030、1040、1050、1060、1070の駆動を制御する制御部1080と、を有している。また、アーム1070にはハンド接続部が設けられており、ハンド接続部にはロボット1000に実行させる作業に応じたエンドエフェクター1090が装着されている。
【0086】
また、ロボット1000が有する複数の関節部のうちの全部または一部には、エンコーダー10が搭載されており、制御部1080は、このエンコーダー10の出力に基づいて、関節部の駆動を制御する。なお、図示では、エンコーダー10は、アーム1040とアーム1050との間の関節部に設けられている。
【0087】
以上のように、ロボット1000は、エンコーダースケール1(または1A、1B)を備える。このようなロボット1000によれば、エンコーダースケール1の低コスト化を図ることで、ロボット1000の低コスト化を図ることができる。また、エンコーダースケール1を用いた高精度な検出結果に基づいて高精度な動作制御を行うことができる。
【0088】
なお、ロボット1000が有するアームの数は、図示では6本であるが、これに限定されず、1〜5本または7本以上であってもよい。
【0089】
(プリンター)
図17は、本発明のプリンターの実施形態を示す斜視図である。
図17に示すプリンター3000は、インクジェット記録方式のプリンターである。このプリンター3000は、装置本体3010と、装置本体3010の内部に設けられている印刷機構3020、給紙機構3030および制御部3040と、を備えている。
【0090】
装置本体3010には、記録用紙Pを設置するトレイ3011と、記録用紙Pを排出する排紙口3012と、液晶ディスプレイ等の操作パネル3013とが設けられている。
【0091】
印刷機構3020は、ヘッドユニット3021と、キャリッジモーター3022と、キャリッジモーター3022の駆動力によりヘッドユニット3021を往復動させる往復動機構3023と、を備えている。ヘッドユニット3021は、インクジェット式記録ヘッドであるヘッド3021aと、ヘッド3021aにインクを供給するインクカートリッジ3021bと、ヘッド3021aおよびインクカートリッジ3021bを搭載したキャリッジ3021cと、を有している。往復動機構3023は、キャリッジ3021cを往復移動可能に支持しているキャリッジガイド軸3023aと、キャリッジモーター3022の駆動力によりキャリッジ3021cをキャリッジガイド軸3023a上で移動させるタイミングベルト3023bと、を有している。
【0092】
給紙機構3030は、互いに圧接している従動ローラー3031および駆動ローラー3032と、駆動ローラー3032を駆動する給紙モーター3033と、給紙モーター3033の回転軸の回転状態を検出するエンコーダー10と、を有している。
【0093】
制御部3040は、例えばパーソナルコンピュータ等のホストコンピュータから入力された印刷データに基づいて、印刷機構3020や給紙機構3030等を制御する。
【0094】
このようなプリンター3000では、給紙機構3030が記録用紙Pを一枚ずつヘッドユニット3021の下部近傍へ間欠送りする。このとき、ヘッドユニット3021が記録用紙Pの送り方向とほぼ直交する方向に往復移動して、記録用紙Pへの印刷が行なわれる。
【0095】
以上のように、プリンター3000は、エンコーダースケール1(または1A、1B)を備える。このようなプリンター3000によれば、エンコーダースケール1の低コスト化を図ることで、プリンター3000の低コスト化を図ることができる。また、エンコーダースケール1を用いた高精度な検出結果に基づいて高精度な動作制御を行うことができる。
【0096】
以上、本発明のエンコーダースケール、エンコーダースケールの製造方法、エンコーダー、ロボットおよびプリンターを、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置換することができる。また、本発明に、他の任意の構成物が付加されていてもよい。
【0097】
また、本発明は、前述した実施形態のうちの、任意の2以上の構成(特徴)を組み合わせたものであってもよい。
【0098】
また、本発明のロボットは、アームを有していれば、単腕ロボットに限定されず、例えば、双腕ロボット、スカラーロボット等の他のロボットであってもよい。
【0099】
また、前述した実施形態ではエンコーダースケールユニットおよびエンコーダーをロボットおよびプリンターに適用した構成について説明したが、エンコーダースケールユニットおよびエンコーダーは、これら以外の各種電子機器にも適用することができる。また、エンコーダーは、プリンターに用いる場合、プリンターの紙送りローラーの駆動源に限定されず、例えば、プリンターのインクジェットヘッドの駆動源等に適用することもできる。
【0100】
また、本発明のエンコーダーは、ロボット以外の機器に組み込んでもよく、例えば、自動車等の移動体に搭載してもよい。