【実施例】
【0066】
実施例1.MCT−キトサン複合体:調製、データおよび用途
薬学グレードのキトサン(
1H NMRによる算出で92%の脱アセチル化度;特定の粘度測定法による算出で185kDaの平均分子量)を、Sigma Aldrich(St.Louis,MO,USA)から購入した。脱アセチル化度および平均分子量分布は、脱アセチル化度がより高くもしくは低く、および/または、平均分子量がより高くもしくは低くなるよう、キトサンを生成するためのMCT−キトサン複合体の生成において制御可能である。
【0067】
易変性コラーゲン組織(MCT)を海洋無脊椎棘皮動物から単離した。ウニ、ヒトデおよびナマコの成体試料を、特に中国、タヒチおよび日本におけるスキューバダイバーにより収集し、直ぐに解剖した。ウニの囲口膜、ヒトデの異常な腕の壁部およびナマコの全身の壁部のサンプルを集め、以後の、Ferrario C.,Leggio L.,Leone R.,Di Benedetto C.,Guidetti L.,Cocce V.,Ascagni M.,Bonasoro F.,La Porta CAM,Candia Carnevali MD,Sugni M,“Marine−derived collagen biomaterials from echinoderm connective tissues”,Mar Environ Res.Volume 128,pp.46−57に記載されているコラーゲン抽出プロトコルのために−20℃で保管した。動物の収集および実験の操作は、各国の法律および規則に則って行った。ウニ(囲口膜)およびヒトデ(異常な腕の壁部)は小片に切り分けし、人工海水ですすぎ、低張緩衝剤(10mMトリス、0.1%EDTA)中に12時間、室温で(室温)で静置し、次いで、脱細胞化溶液(10mMトリス、0.1%ドデシル硫酸ナトリウム)中に12時間、室温で静置した。リン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)中で数回洗浄した後、サンプルを脱凝集溶液(0.5M NaCl、0.1Mトリス−HCl pH8.0、0.1M β−メルカプトエタノール、0.05M EDTA−Na)中に入れた。得られたMCT懸濁液をろ過し、0.5M EDTA−Na溶液(pH8.0)に対して室温で3時間、および、dH
2Oに対して室温で一晩透析に供した。ヒトデサンプルは、脱細胞化と脱凝集溶液との間において、新鮮な組織中に存在する炭酸カルシウムの小骨を可能な限り除去するために、1mMクエン酸(pH3〜4)中の追加のステップに供した。すべてのステップは撹拌条件下で実施した。ナマコMCTを、異なるプロトコルに従って全身の壁部から抽出した。簡潔には、出発組織を小片に切断し、PBSおよびゲンタマイシン(40μg/mL)中に入れ、撹拌条件下に室温で少なくとも5日間静置してMCT懸濁液を得、これをその後ろ過した。次いで、3つの実験モデルで得られた懸濁液を使用するまで−80℃で保管した。
【0068】
MCT−キトサン複合体の調製:易変性コラーゲン組織(MCT)を室温で一晩かけて酢酸(0.5% v/v)中に溶解し、脱気し、その後、キトサンとのバイオマテリアルおよび複合体を調製した。キトサン溶液を、キトサン粉末を酢酸水溶液(0.5% v/v)中に室温で(室温)溶解することにより調製した。キトサン粉末が完全に溶解した後、この溶液を減圧ろ過によりろ過および脱気した。
図5Aは、実施形態に係るキトサン溶液の溶解および脱気を概略的に図示する。次いで、キトサン溶液(0.1〜0.5% w/v)を、異なるMCT−CHTモル比(100:0、80:20、60:40、50:50、40:60、20:80および10:90)で、棘皮動物から単離したMCT(2.0〜10.0% v/v)と混合した。溶液を、撹拌しながら、室温で1時間反応に供した。
図5Bは、実施形態に係るMCT−キトサン複合体の調製をさらに図示するものである。キトサンおよびMCTの濃度は、異なる比のそれぞれの構成成分を添加することにより複合体材料を形成するプロセスにおいて制御して、所望の組成物を得た。
【0069】
MCT−キトサン複合体バイオフィルムの調製:MCT−キトサン複合体溶液をガラスまたはケイ素製鋳型に流延し、ゆっくりと延展して均一な液体フィルムを形成した。次いで、液体フィルムを80℃で24時間、または、40℃で一晩蒸発させて、2D流延複合体バイオフィルムを得た。
図6は、実施形態に係るMCT−キトサンバイオフィルムを流延するステップを図示する。
【0070】
MCT−キトサン複合体3Dスポンジの調製:MCT−キトサン3Dスポンジは、減圧下における熱処理により行われる架橋法によって調製される。複合体スポンジ(直径=12mm、厚さ=6mm)を流延/凍結乾燥技術(ステップ3c)により調製した。
図7に図示のとおり、1グラムの水中の2% w/wキトサン溶液または酢酸中の0.5% v/vキトサン溶液をMCT水溶液(0.5〜2.5% v/v)と混合した。得られた混合物を適当なサイズのガラスまたはケイ素製鋳型中に注ぎ入れ、−20℃で凍結させ、凍結乾燥して溶剤を除去して、MCT−キトサン多孔性3Dスポンジを得た。MCT−キトサン複合体3Dスポンジは公知のキトサンスポンジと物理的に類似している。しかしながら、複合体3Dスポンジは、高い保水性(膨潤)、向上した機械特性および優れた生体適合性などの追加の特性を顕著に有している。MCT−キトサン複合体3Dスポンジは、キトサンの止血効果がMCT構成成分の免疫抑制特性によって高められているために、例えば向上した創傷および止血(血液凝固)被覆材を提供するために使用可能である。MCTを添加することで、機械的性能、細胞付着性および成長もまた改善される。
【0071】
MCT−キトサン複合体ヒドロゲルの調製:MCT(2% v/v)、キトサン(1% w/v)複合体溶液を−20℃で凍結させ、凍結乾燥して溶剤を除去して、粉末材料とした。
図8に図示のとおり、2グラムの凍結乾燥したMCT−キトサン複合体を100mLの脱イオン水中に溶解し、NaOH 6Nの濃縮溶液を滴下してpHを高めながら激しく撹拌した。一旦溶液が適当なpH値(約7.2)に達したら、複合体ヒドロゲルが自然に形成され、分散体の粘度が顕著に増加した。他の実施形態において、MCT−キトサンヒドロゲルはまた、高分子量(HMW)キトサンの最終濃度を2〜10% w/vに調節することにより、または、最終MCT−キトサン複合体と、とりわけヒドロキシエチルセルロース、グリセロールまたはポリエチレングリコールなどの増粘添加剤とを混合することにより生成可能である。
【0072】
エレクトロスピニングによるMCT−キトサン複合体ナノファイバーの調製:
図9Aおよび9Bに図示のとおり、MCT−キトサン不織ナノファイバーマットを、エレクトロスピニング技術により調製した。0.5〜2.0(%w/v)の範囲のキトサン濃度でMCT−キトサン複合体を脱イオン水中に溶解した。MCT−キトサン複合体の濃度は、その粘度および伝導性がエレクトロスピニングに好適となるよう調節した。分散体は、エレクトロスピニング実験前に完全な水和のために、冷蔵庫(4℃)中に一晩静置した。最大せん断速度は、2.78×10
-10m
3/sの体積流量(Q)および1mmの管内径(R=0.5×10
-3m)を有する管状の幾何学的形状の冪乗則材料に従っていた。エレクトロスピニングのためのMCT−キトサン複合体特性を向上するために、サンプルを、エレクトロスピニングアジュバントとしてポリビニルアルコール(PVA)と混合した。PVA(10% w/v)は、80℃で4時間激しく撹拌しながら水中に溶解した。MCT−キトサン複合体およびPVAブレンド分散体は、100:00、60:40、50:50、40:60および0:100質量比で混合した。MCT−キトサン/PVAブレンドサンプル(5mL)は、エレクトロスピニングデバイスおよび30−kVの電源供給(Gamma High Voltage Research,Ormond Beach,FL,USA)を用いてエレクトロスピニングした。ニードルチップとコレクタとの間の距離は20cmに設定し、電圧は20kVであり、溶液は1mL/時間で送出した。
図9Aにも図示のとおり、ナノファイバーをアルミニウムフォイル上に集め、さらなる特徴付けのためにデシケータ中において保管した。
【0073】
MCT−キトサンバイオフィルムの特徴付け:MCT−キトサン複合体バイオフィルムの機械特性を、引張強度および膨潤挙動を比較することにより評価した。膨潤は、バイオフィルムの物理的分解における最初のステップである。急速な膨潤は、バイオフィルムマトリックスからの有効成分(例えば、薬物および/または有害生物防除剤)の急速で無制御な放出を促進させる。グルタルアルデヒドは通例、キトサンバイオフィルムの作成において膨潤速度を遅くするために架橋剤として添加される。ヒドロゲル配合物においてグルタルアルデヒドを用いる欠点は、バイオフィルムの引張強度の低減である。MCT−キトサン複合体バイオフィルムを既述の方法に従って流延した。加えて、架橋バイオフィルムを、先ず予め流延したキトサンまたはMCT−キトサン複合体バイオフィルムをグルタルアルデヒド溶液(0.10% v/v)中に30分間浸漬し、続いて、脱イオン水で徹底的に洗浄し、続いて、80℃で2時間乾燥させることにより形成した。
【0074】
機械特性の評価:引張強度の計測を、汎用型の機械試験機(モデルTEST 108,GT Test製,France,Test Winner 920ソフトウェアを備えていた)により、10mm/分間のクロスヘッド速度および2kN静負荷細胞で行った。バイオフィルムを、ダンベル型ナイフ(H3タイプ)から17mm×4mm×0.08mm(長さ×幅×厚さ)の寸法に標準的な引っ張り試験用サンプルを切り取った。各タイプのバイオフィルムについて少なくとも5つのサンプルを、5±3%RHおよび湿度室中に23±2℃(CIAT,France)における好適な保管期間(3および20週間)の後に試験した。最大引っ張り応力(TS)を、フィルムを破断させる最大負荷を断面積により除することにより算出した。MCT−キトサン複合体バイオフィルムは、単独のキトサンバイオフィルムよりも高い引張強度を示した。
図10Aおよび10Bは、キトサン単独(0:100)と比した異なるMCT−キトサン複合体バイオフィルム(それぞれ、50:50および100:0質量比)の機械的挙動を図示する。データは、[平均±SD;n=5]として示されている。非架橋のものと比較すると、架橋剤(グルタルアルデヒド)を添加するとすべてのバイオフィルムの引張強度が低下した。
【0075】
膨潤挙動の評価:キトサンおよびMCT−キトサン複合体バイオフィルムの膨潤度を重量法により評価した。乾燥したバイオフィルムの各々を先ず分析用天秤(W
d)で計量した。計量の後、バイオフィルムを蒸留水中に室温で60分間沈めた。次いで、バイオフィルムを水から取り出し、5、10、20、30、40、50および60分間で計量した(W
s)。高精密天秤で計量する前に、各バイオフィルムサンプルは水浴から素早く取り出し、過剰な水をティッシュペーパーで吸い取って除去した。計量した後、バイオフィルムを水中に戻した。次いで、各バイオフィルムサンプルの膨潤度(%)を以下の式に従って算出した。
膨潤度(%)=[(Ws−Wd)/Ws]×100
【0076】
結果は、MCT−キトサン複合体バイオフィルムは、キトサンバイオフィルム単独と比して、膨潤速度が遅く、かつ、合計膨潤度が低いことを示す。
図10Bは、時間の関数としてMCT−キトサンヒドロゲルの膨潤度を図示する。
【0077】
これらの結果は、MCT−キトサン複合体材料が強力な架橋剤またはその均等物として作用し、バイオフィルムの引張強度を向上させながら複合体材料の膨潤を低減することを示す。MCTによってもたらされる特性は、キトサンバイオフィルム中のグルタルアルデヒド架橋剤よりも優れていた。MCTは従って、パッケージング、パッチおよび手術用バイオマテリアル用のバイオフィルムを形成するためのグルタルアルデヒドに対する好適で、信頼性が高く、生体適合性である「環境に優しい代替物(green alternatives)」である。
【0078】
MCT−キトサン複合体創傷被覆材テンプレート(バイオフィルム、3Dスポンジおよびエレクトロスピニングによるナノファイバー)の特徴付け:MCT−キトサン複合体創傷被覆材テンプレート(バイオフィルム、3Dスポンジおよびエレクトロスピニングによるナノファイバー)は、減衰全反射フーリエ変換赤外分光法(Nicolet 4700 ATR FT−IR,Thermo Scientific,Grand Island,NY,USA)を用いる化学プロファイル、および、熱重量分析(TGA,Q100,TA Instruments,Lindon,UT,USA)による熱特性に従って特徴付けた。熱分析(DScおよびTGA)は、窒素雰囲気(20mL/分)中において、20〜400℃の温度走査範囲にわたって5℃/分で行った。
図11Aおよび11Bは、MCT−キトサンバイオフィルムおよびその創傷被覆材テンプレートとしての潜在的な用途を図示する。ナノファイバーの形態を、SEM(Leo 1530−FE,Zeiss,Cambridge,UK)を用いて試験した。平均繊維径は、ImageJソフトウェアを用いて、SEM画像中において少なくとも20本の繊維を分析することにより測定した。
図11Cおよび11Dは、表面形態を図示する。
【0079】
キトサンバイオマテリアルと比したMCT−キトサン複合体バイオマテリアルの利点:MCT−キトサン複合体バイオマテリアル(
図12)は、キトサンバイオマテリアルと比して多様な用途のための顕著に向上した特性を提供する。MCT−キトサン複合体バイオマテリアルは、ナノ粒子、ヒドロゲル、バイオフィルム、3Dスポンジまたはエレクトロスピニングによるナノファイバーとして調製されることが可能である。バイオマテリアルのこれらの形態の各々は種々の対象用途に用いられることが可能であり、複合体バイオマテリアルの各々は、以下の表1にまとめられているとおり、キトサンバイオマテリアルを超える顕著な利点を有する。
【0080】
【表1】
【0081】
実施例2.GTR、創傷治癒およびティッシュエンジニアリングにおける用途のためのMCT−キトサン複合体3Dスポンジ。
キトサン(CHT)は、生体適合性および生体吸収性であると報告されている。特に、CHTは、良好な創傷治癒促進剤であると考えられている。他方で、コラーゲン(MCT)は、ティッシュエンジニアリングにおいてもっとも広範に用いられているマトリックスバイオマテリアルの一種である。高度に多孔性であるMCT単成分3Dスポンジが多くの種類の組織のインビトロ成長を支持するために用いられてきた。ハイブリッド3Dスポンジバイオマテリアルを、CHTおよびMCT(ナマコ試料から単離した)を異なる質量比で混合し、溶剤流延および凍結乾燥を含む既述の方法を適用することにより作成した。MCT/CHTハイブリッド3Dスポンジを、それらの吸水能、機械特性、熱挙動(TGA)および形態(SEM)に従って特徴付けた。ハイブリッド3Dスポンジは、単成分3Dスポンジと比して、向上した安定性、大きい間隙率、高い熱安定性および機械特性、ならびに、高い生分解性を示した。脂肪由来幹細胞(ADSC)との細胞培養インキュベーションおよびSEM画像化で、MCT/CHTハイブリッド3Dスポンジによって、インビトロでのADSC付着、拡散および増殖が可能であることが示された。
【0082】
MCT−キトサンハイブリッド3Dスポンジの作成:キトサン(CHT、2.0% w/v)を酢酸(0.1% v/v)中に溶解し、コラーゲン水溶液(MCT、5% w/v)とゆっくりと混合して、それぞれ、MCT−CHT 100:0、80:20、60:40および50:50のモル比でハイブリッド溶液を生成した。MCT−キトサンハイブリッド3Dスポンジを、各溶液をガラス製の鋳型に注ぎ入れ、溶剤流延および48時間凍結乾燥することにより作成した。さらなる特徴付けおよび細胞増殖研究、および、デシケータ中における制御された相対湿度での保管のために、これらのスポンジを小さなフラグメント(直径12mmおよび厚さ3mm)に切った。
【0083】
MCT−キトサンハイブリッド3Dスポンジの物理的および化学的特徴付け:作成したハイブリッドスポンジの光学顕微鏡による画像を、倒立顕微鏡(LIB−305,USA)により4×の倍率で集めた。MCT−キトサンハイブリッド3Dスポンジの形態を、走査型電子顕微鏡(SEM,JSM−5200,JEOL,USA)により20k×の倍率で試験した。各サンプルの傾斜角は30度であった。熱重量分析(TGA)をTGA−7機器(Perkin Elmer,USA)で行った。スポンジサンプル(5〜10mg)をアルミニウムホルダに注ぎ入れ、窒素雰囲気下(10mL/分)に、50〜600℃で設定した温度プログラムに従って10℃/分の加熱速度で分析した。MCT/CHTハイブリッド3Dスポンジの一軸機械圧縮テスト(n=5/状態)を、最大出力250Nの汎用型の引張り試験機(Tensilon RTG,Japan)ロードセルを用いることにより、周囲条件(20℃および50%相対湿度、RH)で行った。圧縮(mm)および荷重(N)を5mm/分のクロスヘッド速度で収集した。圧縮弾性率を、圧縮曲線の初期線形領域における応力−ひずみ曲線の接線勾配として算出した。圧縮強度は、15%ひずみで算出した(すべてのサンプルにおいて応力−ひずみ曲線が線形であった領域中)。乾燥3Dスポンジサンプルは、電子マイクロメータ(DMH Series 293,Mitotoyo,Japan)による計測で12mmの直径および3mmの厚さを有する円柱形であった。
【0084】
細胞付着性および増殖研究:脂肪由来幹細胞(ADSC)を生きているウマから単離した。ADSC(約10
5個の細胞/cm
2)を、MCT−キトサンハイブリッド3Dスポンジの各々の上に置いた。組織培養プレート(ポリスチレン)ウェルを対照として用いた。培養はインキュベータに1日間入れ、取り出してから、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、トリプシン処理した。得られた溶解した細胞懸濁液のアリコートを、コールターカウンターマルチサイザー(Model 0646,Coulter Electronics,Hialeah,FL,USA)でカウントした。直径8〜32μm間のカウントのみを用いた。細胞増殖はまた、培養中において1、3、7および10日後に上記のとおり細胞のカウントにより測定した。この実験においては、6つの複製サンプルを試験した。付着し、および/または、増殖したADSC細胞を、グルタルアルデヒド(2.5% v/v)により、0.1M PBS(pH7.4)中において30分間固定し、次いで、0.1M PBSですすいだ。固定した細胞サンプルを凍結乾燥し、走査電子顕微鏡検査(SEM,Hitachi Model S−2460N,Hitachi Ltd.,Tokyo,Japan)による形態分析のために金でスパッタコーティングした。
【0085】
データおよび統計分析:すべてのデータは、少なくとも3つの複製の平均±標準偏差として報告した。統計分析は、p=0.05に設定したJMP Pro(Version 10.0.0;SAS Institute Inc.,Cary,NC,USA)を用いて行った。独立した可変要素「サンプル」および「濃度」間の相互作用を含む二元ANOVAモデルで結果を分析して有意差を評価した。
【0086】
結果および考察
MCT−キトサンハイブリッド3Dスポンジの物理的および化学的特徴付け:キトサンは、利用可能なアミンおよび水酸基によってもたらされる水素結合相互作用によってコラーゲンに物理的に結合する。この相互作用によって、ナノ粒子、バイオフィルム、バイオフォームおよび組織スポンジなどの安定なバイオマテリアルの形成が可能となる(Madrigal−Carballo et al.,Polymer−liposome nanoparticles obtained by the electrostatic bio−adsorption of natural polymers onto soybean lecithin liposomes,Intl.J.Nanoparticles 5(3)(2012)196−209;Madrigal−Carballo et al.,Protein−loaded chitosan nanoparticles modulate uptake and antigen presentation of hen egg−white lysozyme by murine peritoneal macrophages,Intl.J.Nanoparticles 3(2)(2010)179−191;Ma et al.,‘A preliminary in vitro study on the fabrication and tissue engineering applications of a novel chitosan bilayer material as a sponge of human neofetal dermal fibroblasts’,Biomaterials,22(4)(2001),pp.331−336)。
図13Aは、作成されたMCT−キトサンハイブリッド3Dスポンジを示す。
図13Aから分かるとおり、図示のハイブリッド3Dスポンジは、異なるMCT/CHT質量比(50:50、60:40、80:20および100:0)で作成されている。
図13Bはスポンジの光学顕微鏡画像を示し、および、
図13Cは、作成された3Dスポンジの各々のSEM顕微鏡写真である。
図13Cにおいて、スケールバーは500μmである。
【0087】
図13C中のSEM顕微鏡写真は、MCTと組み合わされた場合における、キトサン単成分スポンジの表面形態の変化を示す。この変化は、MCT/CHTハイブリッド3DスポンジマトリックスにおけるMCTの添加に伴う外見上の孔径の縮小によって示されている。それ故、キトサンとのMCT相互作用が、恐らくは両方の巨大分子間で利用可能である強力な水素結合相互作用の数が多いことによる高い架橋密度をもたらし、それ故、分子の配向およびまとまり具合を高めているようである。
【0088】
図14は、熱重量測定(TG)によるMCT−キトサンハイブリッド3Dスポンジの熱分析のグラフであって、MCT/CHT(50:50)ハイブリッド3Dスポンジの熱挙動が、MCT/CHT(100:0)およびMCT/CHT(0:100)複合体スポンジの両方の間の中間であったことを示している。MCTが組み込まれているハイブリッド3Dスポンジは、平均分解温度が300℃で、キトサン単成分スポンジよりも良好な熱安定性を示し、これは、CHT単成分スポンジと比した場合に熱安定性の15倍の増大に相当する。
【0089】
生物学的3Dスポンジは、移植後における完全性を維持するために十分な機械特性を必要とする。従って、圧縮テストをMCT−キトサンハイブリッド3Dスポンジで行って応力−ひずみ機械曲線を得、表2に示すとおり、それぞれ、弾性モジュラスおよび圧縮応力(15%ひずみ)の両方を算出した。結果は、キトサン3DスポンジマトリックスへのMCTの添加で、機械特性に対する好ましい効果を示す。ハイブリッドMCT/CHT(50:50)3Dスポンジは、MCT/CHT(100:0)スポンジと比した場合に、約85倍の圧縮ヤング率の増加を示した。また、圧縮強度(15%ひずみ)は、MCT/CHT(60:40)ハイブリッド3Dスポンジ系については約78倍の増加が見出された。観察された機械的強度の増強は、マトリックスの機械的安定性を促進させる、コラーゲンとキトサンとの間における内部水素結合による高分子ネットワークの形成に関連している可能性があり、それ故、潜在的な移植目的に好適な3Dスポンジである可能性がある。
【0090】
【表2】
【0091】
膨潤特性は、水和および細胞の成長を促進するためにスポンジにおいて重要である。MCT−キトサン3Dスポンジは、MCTおよびキトサンの2種の単成分スポンジの中間の挙動を示し、ここで、キトサンの比がもっとも高いものがもっとも高い吸水能を示す。これらの結果は、コラーゲンのものよりも高い利用可能性を有するキトサン生体分子における水素結合点の存在によって説明が可能であり、これは、コラーゲンの第四級構造に起因する官能基の回転および易動性の低減に起因する。
【0092】
図15は、異なるMCT−キトサンハイブリッド3Dスポンジについて得られた吸水度挙動を示す。
図15において、データは、同一の時間点におけるMCT/CHT(100:0)単成分3Dスポンジと比して、平均±SD、n=3および(*)=p<0.05として表されている。
図15はまた、MCT/CHT(50:50)ハイブリッド3Dスポンジの膨潤挙動を示すために、例示を目的とする差し込まれた写真を含んでいる。
図15のグラフは、異なるハイブリッド3Dスポンジのすべてに対する、70%未満の相対湿度での類似性を示す。一方で、85%の相対湿度に達した後には、ハイブリッド3Dスポンジマトリックス中におけるMCTの比が高くなるに伴って、系の間に有意差が観察され、約300%ともっとも高い吸水能を示すMCT/CHT(50:50)ハイブリッド3Dスポンジと、50%に近い値を有するもっとも低い吸水能を示すMCT/CHT(100:0)単成分3Dスポンジとで、250倍にわたる吸水度の差が見られた。MCT/CHT(80:20)およびMCT/CHT(60:40)は、MCT/CHT(100:0)とMCT/CHT(50:50)との間の吸水能を示す。
【0093】
複合体スポンジの保水能は、皮膚のティッシュエンジニアリングに対する特性および適合性を評価するための重要な態様である。MCT−キトサンスポンジの水結合能は、その親水性および三次元構造の維持の両方に起因する性状である可能性がある。キトサンおよびMCTは、水をその微小構造中に保持することが可能であるヒドロキシル、アミノおよびカルボキシル基などの親水性基を豊富に有する。MCTは、高い相対湿度における親水性の増大を促進し、それにより、より高い吸水能をもたらしていると思われる。MCT−キトサンスポンジについて得られた吸水度の値は、既に報告されている同様の実験と一致する(Ma et al.,‘Chitosan porous sponges with improved biostability for skin tissue engineering’,Biomaterials.Elsevier,24(26)(2003),pp.4833−4841;Chhabra et al.,‘Optimization,characterization,and efficacy evaluation of 2% chitosan sponge for tissue engineering and wound healing’,Journal of pharmacy & bioallied sciences,Medknow Publications,8(4)(2016),p.300)。
【0094】
MCT−キトサンハイブリッド3Dスポンジ上での脂肪由来幹細胞(ADSC)の成長:ADSCとMCT−キトサンハイブリッド3Dスポンジとの間における相互作用を調べるために、およそ12mmの直径および3mmの厚さを有する多孔性構造を用いた。72時間培養した後、ADSCは、スポンジ上の90%を超えるコンフルエンスに達した。MCT/CHT(100:0)3Dスポンジの断面のSEM画像(
図16Aおよび16B)は、細胞の播種から72時間後に、ADSCが付着し、および、多孔性MCT−キトサン(100:0)3Dスポンジ表面に広がり、細胞が付着していないスポンジ系(
図16A)と比して、細胞間の接続が視認不可能なほどに相互に完全に合併した(
図16B)ことを示した。
図16Aおよび16Bにおいて、スケールバーは10μmを示す。多孔性スポンジの表面は、細胞と、細胞からの分泌されたECM沈殿物であることが可能であるフィルムとで埋まっていた(Lin,Li and Su,‘Three−dimensional chitosan sponges influence the extra cellular matrix expression in Schwann cells’,Materials Science and Engineering C,42(2014),pp.474−478;Ji et al.,‘Biocompatibility study of a silk fibroin−chitosan sponge with adipose tissue−derived stem cells in vitro’,Experimental and Therapeutic Medicine,6(2)(2013),pp.513−518)。
【0095】
図17は、15日間のインキュベーション期間後のMCT−キトサン(50:50)複合体3Dスポンジへの増殖レベルを示し、ここで、凡例(□)はMCT/CHT(100:0)3Dスポンジを示し、凡例(o)はMCT/CHT(0:100)単成分3Dスポンジを示し、および、凡例(△)はMCT/CHT(50:50)複合体3Dスポンジを示し、また、データは、同一の時間点におけるMCT/CHT(0:100)単成分3Dスポンジとの比較で、平均±SD、n=5、(*)=p<0.05として表されている。3つのグラフは、3DスポンジMCT/CHT(0:100)、MCT/CHT(100:0)およびMCT/CHT(50:50)複合体3Dスポンジを示している。MCT/CHT(50:50)複合体3Dスポンジは、MCT/CHT(0:100)およびMCT/CHT(100:0)3Dスポンジの両方と比した場合に、ADSCとの3日間のインキュベーションで開始する細胞付着性および増殖の顕著な増加を示した。
【0096】
ポリスチレンディッシュの表面は、良好な細胞付着性を有すると共に、インキュベーション中に早い細胞コンフルエンスを示すことで知られている(Jeong Park et al.,‘Platelet derived growth factor releasing chitosan sponge for periodontal bone regeneration’,Biomaterials,21(2)(2000),pp.153−159)。細胞付着および増殖の程度は、MCT−キトサンハイブリッド3Dスポンジは良好な細胞適応性を有することを示唆している。スポンジ上における細胞増殖の試験で、ADSCとの3日間のインキュベーション後には、実験グループと対照グループとの間には統計的な有意差が存在することが明らかになった。これは、ADSCのスポンジへの取り込みに続く適応プロセスからもたらされた可能性がある。3日間のインキュベーションの後にサンプル間の差異が有意なものとなり始めたという事実は、ADSCが、スポンジにおける初期のゆっくりとした増殖速度を示し、これに続いて、3日目以降におけるより標準的な増殖速度への復帰を示すことによる可能性がある。しかも、MCT/CHT(50:50)複合体3Dスポンジは、細胞付着性および増殖の顕著な増加を示した。15日間のインキュベーション期間で、MCT/CHT(0:100)およびMCT/CHT(100:0)3Dスポンジのものとは対照的に、MCT/CHT(50:50)複合体3Dスポンジでは約50倍と高い程度の細胞付着性および増殖が観察された。MCTは、骨芽細胞および靱帯線維芽細胞の増殖、化学走性およびコラーゲン様タンパク質合成を刺激することが知られている(Zhang et al.,‘Novel chitosan/collagen sponge containing transforming growth factor−β1 DNA for periodontal tissue engineering’,Biochemical and Biophysical Research Communications,344(1)(2006),pp.362−369)。また、MCTは、前駆細胞の増殖を増加させることが報告されている(Costa−Pinto et al.,‘Adhesion,proliferation,and osteogenic differentiation of a mouse mesenchymal stem cell line(BMC9)seeded on novel melt−based chitosan/polyester 3D porous sponges.’,Tissue engineering.Part A,14(6)(2008),pp.1049−1057)。MCTおよびキトサンの組み合わせは、細胞増殖応答を高めるためにきわめて有益であり得る。
【0097】
結論:急速に分解するコラーゲンとは対照的に、キトサンはインビトロでゆっくりと生分解される。コラーゲン3Dスポンジをキトサンで修飾することで、向上した機械的強度、熱安定性、生体適合性および生分解性がもたらされる。MCT−キトサンハイブリッド3Dスポンジは、ADSCの表面および内部の両方に、細胞付着性、遊走および増殖のための空間的特色を有する多次元的構造をもたらし、および、細胞成長を促進させる。72時間のインキュベーションの後、ADSCは合併され、ならびに、スポンジの表面がほとんど覆われており、および、少しの孔しか視認できず、および、少しの細胞が孔の中で遊走するよう、スポンジの表面上に完全な細胞層を形成していたことが見出された。MCT−キトサンハイブリッド3DスポンジはADSCの付着、増殖および分化を支持していた。SEM画像は、多孔性スポンジの大表面積によって、スポンジ上におけるADSCの付着、拡散および成長が可能となったことを示していた。平坦な形態、ならびに、相互に連結する多孔性構造の中およびその周囲への優れた拡散は、強固な細胞付着および細胞の成長を示していた。従って、MCT−キトサンハイブリッド3DスポンジはADSC付着に対する生体適合性を発揮し、それ故、ティッシュエンジニアリングにおける潜在的な用途に対する優れた候補である。
【0098】
実施例3.創傷治癒およびティッシュエンジニアリング用途における細胞増殖のための生体適合性スポンジとしての、エレクトロスピニングによるMCT−キトサン複合体ナノファイバー
エレクトロスピニングによるナノファイバー(ESNF)をMCT−キトサン複合体材料から調製した。ポリビニルアルコール(PVA)を助剤として用いた。異なる体積比(100:0、80:20、60:40、40:60、20:80および0:100)のMCT−キトサン/PVA混合溶液を調製し、エレクトロスピニングに好適である粘度および導電性で同様となるよう調節した。ESNFの形態を、走査電子顕微鏡検査(SEM)、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)および示差走査熱量測定法(DSC)を用いて試験した。研究は、ナノファイバー(NF)の化学的組成および熱特徴を特徴づけるために用いた。線維芽細胞増殖を支持するNFの能力を、最適化したMCT−キトサン/PVA溶液を用いてインビトロで調べた。結果は、MCT−キトサン系ESNFは線維芽細胞の成長にきわめて好適であり、PVAのESNFよりも相当に良好であることを示す。結果はまた、MCT−キトサンが、細胞増殖の支持に関して、キトサンのみの場合よりも良好であることを示す。
【0099】
エレクトロスピニングのためのMCT−キトサン複合体の調製:MCT−キトサン粉末を、均質な分散体(1% v/v)が得られるまで、激しく撹拌しながら脱イオン水中において膨潤させた。特徴付け実験に先行して、分散体を、完全な水和を達成するために、冷蔵庫(4℃)中に一晩静置した。MCT−キトサン複合体分散体を、コーン・プレート型のレオメータ(C−VOR,Bohlin Instruments,Malvern,UK)における応力スイープテストによる粘度の計測、および、0.7265cm
-1の電極導電率を有する導電率計(Orion Star A215,ThermoFisher,Waltham MA,USA)による25℃での導電性の計測により特徴付けた。
【0100】
MCT−キトサン複合体のエレクトロスピニング:MCT−キトサン複合体を、均質な分散体が得られるまで、激しく撹拌しながら水性アセトン(30% v/v)と混合した。複合体溶液の濃度は、それらの粘度および伝導性が同様であり、ならびに、エレクトロスピニングに好適であるよう調節した。分散体は、エレクトロスピニング実験前に完全な水和のために、冷蔵庫(4℃)中に一晩静置した 。各MCT−CHT複合体サンプルについて、最大せん断速度を、2.78×10
-10m
3/sの体積流量(Q)および1mmの管内径(R=0.5×10
-3m)を有する管状の幾何学的形状の冪乗則材料に従って算出した。
【0101】
エレクトロスピニングのための複合体特性を向上するために、サンプルを、エレクトロスピニングアジュバントとしてPVAと混合した。PVA(10% w/v)は、80℃で4時間激しく撹拌しながら水中に溶解した。MCT−キトサン複合体およびPVAブレンド分散体は、100:00、60:40、50:50、40:60および0:100体積比で混合した。MCT−キトサン/PVAブレンドサンプル(5mL)は、エレクトロスピニングデバイスおよび30−kVの電源供給(Gamma High Voltage Research,Ormond Beach,FL,USA)を用いてエレクトロスピニングした(
図9Aおよび9Bを参照のこと)。ニードルチップとコレクタとの間の距離は20cmに設定し、溶液は1mL/時間で送出した。ナノファイバーをアルミニウムフォイル上に集め、さらなる特徴付けのためにデシケータ中において保管した。
【0102】
MCT−キトサンESNFの特徴付け:ESNFは、減衰全反射フーリエ変換赤外分光法(Nicolet 4700 ATR FT−IR,Thermo Scientific,Grand Island,NY,USA)を用いる化学プロファイル、および、熱重量分析(TGA,Q100,TA Instruments,Lindon,UT,USA)による熱特性に従って特徴付けた。TGA分析は、窒素雰囲気(20mL/分)中において、100〜400℃の温度走査範囲にわたって5℃/分で行った。ナノファイバーの形態を、SEM(Leo 1530−FE,Zeiss,Cambridge,UK)を用いて試験した。平均繊維径は、ImageJソフトウェアを用いて、SEM画像中において少なくとも20本の繊維を分析することにより測定した。
【0103】
細胞増殖アッセイ:細胞増殖を、MTT細胞増殖アッセイにより生存細胞数について測定した。簡潔には、既に無菌条件下で収集しておいたESNFを培地を含む無菌細胞培養プレート中の異なるウェルに入れ、および、3mLの線維芽細胞懸濁液(L929、1.5×105)を各処理ウェルに加えた。細胞培養プレートを、37℃で、それぞれ、3、7および14日間、インキュベータ中に入れた。インキュベーションの後、培地を除去し、MTT溶液を、新たな培地との1:10希釈で各処理ウェルに加えた。プレートを37℃で4時間インキュベートし、吸光度を、マイクロプレートリーダ(SpectraMax Plus,Molecular Devices,Sunnyvale,CA,USA)を用いて560nmで計測した。細胞成長実験(7日目)の後、ESNFを回収し、培地で洗浄し、グルタルアルデヒド(2.5% v/v)により4℃で2時間固定し、SEMによる画像化の前に金でコーティングした。
【0104】
統計分析:統計分析は、AssistatVRソフトウェア(Statistics,Arlington,TX)を用いて行った。実験データは、平均±SD値として表した。対照グループと実験グループとを比較するために、データを、一般化線形モデル、続いて、最小二乗平均(SAS;Cary,NC)により分析した。差異は、P<0.05で統計的に有意であるとみなした。
【0105】
図18は、MCT/CHT(0:100)(「+」によって示す)およびMCT/CHT(100:0)(「o」によって示す)(別々)、ならびに、2種の異なるMCT/CHT複合体(60:40は「
*」によって示し、および、40:60は「x」によって示す)の、ESNFのATR−FTIRスペクトルのグラフを示す。図中の矢印は、MCTのキトサンへの添加に関連するナノファイバーFTIRスペクトル中における変化を示す。特に、高い吸収の傾向が、1650cm
-1および1000cm
-1の両方で見ることが可能である。これらは、それぞれ、キトサンの多糖性に付随する、カルボニル(実線矢印)および炭素−酸素(破線矢印)伸縮周波数に相当する。全体として、CHTとMCTとの間の差異はこの図において明らかである。これら2種の複合体については、グラフ中の特定の箇所で転換があるが、多くの箇所においては、かなりの共通点が存在しており、これは、CHTおよびMCTの比較的類似した割合の観点から意外ではない。
【0106】
図19はMCT/CHT複合体(100:0、60:40、40:60および0:100)のTGA熱分析を示すものであり、MCTの添加により得られるキトサン熱安定性に対する好ましい効果を示す。MCT−キトサン(60:40)複合体は、キトサンのみの場合を超える向上した熱安定性を示す。MCT−キトサン(60:40)複合体は、約320℃の平均分解温度を示す一方で、単独のキトサンは、約280℃の平均分解温度を示す。
【0107】
図20A〜20Fは、キトサンエレクトロスピニングによるナノファイバーおよびMCT−キトサンエレクトロスピニングによるナノファイバーのSEM顕微鏡写真を示す。
図20Aおよび20Dにおいて、スケールバーは10μmであり;
図21Bおよび20Eにおいて、スケールバーは2μmであり、ならびに、
図20Cおよび20Fにおいて、スケールバーは200nmである。点線による円は、キトサンESNFにおける劣ったエレクトロスピニングプロセスに関連する液滴の存在を示し、これは、MCT−キトサン複合体のESNFの改善を示す。
【0108】
図21は、キトサン、MCTおよびMCT−CHT複合体(50:50)ESNFと共に共培養したL929線維芽細胞の増殖を示す。この図は、PVA ESNFを対照として用いるMTT細胞増殖アッセイからのデータを示す。生存細胞±標準偏差の平均割合は、3回の異なる時に実施した実験に由来する。
図22A〜22Cはそれぞれ、キトサン、MCT−キトサン複合体およびMCTに対する細胞付着を示すSEM顕微鏡写真である。
【0109】
結論:MCT−キトサン複合体ナノファイバーはPVA(10% w/v)を助剤として用いるエレクトロスピニングにより成功裏に作成した。MCT−キトサン複合体ナノファイバーを作成するためのエレクトロスピニングパラメータを設定し、MCT対キトサンの質量比を50:50に最適化した。ATR−FTIR分析は、ESNF中のMCT−キトサン構成成分の存在を示す。MCT−キトサン複合体ESNFの熱安定性をキトサンのみの場合のものと比較したところ、MCTのキトサンへの添加はESNFの熱安定性を向上させることが示唆された。線維芽細胞増殖の結果は、7日間のインキュベーションの後に、MCT−キトサンESNFは、細胞成長に好適であることを示し、また、キトサンまたはMCT ESNFのみの場合よりも顕著に良好であることを示す。SEM画像は、MCT−キトサンESNFの大表面積によって、L929線維芽細胞の良好な付着、拡散および成長が実現されたことを示す。これらの結果は、MCT−キトサンESNFが線維芽細胞付着に係る生体適合性および活性を向上させ、それ故、ティッシュエンジニアリング、再生医学における用途、および、組織の火傷の処置のための創傷治癒被覆材としての用途のための創傷被覆材テンプレートの開発に有用であることを示す。
【0110】
図36〜38の以下の考察は、実施形態に係るGTRデバイスの構造および適用、ならびに、これらのデバイスの利点の概要を提供する。
【0111】
図36は、実施形態に係る3Dスポンジを示す。この図において、スポンジは、新生真皮(neodermis)の主構成成分であるコラーゲンおよびグリコサミノグリカンから組成されているMCTを含む。新生真皮は創傷治癒中に形成される新たな組織である。MCTのコラーゲン−GAG構造が、治癒プロセス中におけるインテグリン結合を促進させる。既述のとおり、MCTは、一態様において海洋無脊椎動物、より特定的な態様において棘皮動物、ならびに、さらなる特定的な態様においてウニおよび/またはナマコを含む海洋性の供給源に由来する。このMCTの超微細構造は、ヒト結合組織に対するいくらかの類似性を有するものであり、新生真皮形成などの有益なGTR効果を示唆するものである。
【0112】
図36中のスポンジはまた、水分の管理をもたらして、創傷閉鎖および治癒を促進させる。一態様において、スポンジはゲル化効果を有し、これが、治癒の最中における冷却、鎮静効果を通して患者の快適さを促進させる。MCTを架橋処理することで、得られる構造が、低い物理的分解性とタンパク質分解酵素に対する耐性とを示すために、最長で30日間にわたってスポンジが効果的とされる。特に、得られる構造が、タンパク質を分解可能であるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)などの過剰量の酵素を標的化し、非活性化する。このような標的化および非活性化は、創傷閉鎖および治癒を促進および改善する。
【0113】
図37は、いくつかの実施形態に係る3Dスポンジを示す。このスポンジは、実施形態に応じて、MCTから組成されているか、または、MCT−CHTのマトリックスから組成され得る。スポンジ中のこの材料が組織および血管の内殖を支持する。スポンジ構造の他の態様は、湿性環境を維持すると共に、滲出物を制御して、治癒および組織再生を促進させる、吸収性ゲル形成組成物を含む。
【0114】
図38は、処置の一部として皮膚の解放部に縫合された、MCTまたはMCT−CHTのマトリックスから組成されたものであり得るGTRデバイスを示す。この図は、治癒プロセスの一部として、デバイスの周囲の縫合材、ならびに、デバイスの下方に形成されている新生真皮を示す。
図38の一部分は新生真皮の分解立体図を示し、単独のMCT、または、インテグリン結合部位を伴うCHTと複合体マトリックスを形成しているMCTを示す。
【0115】
実施例4.美容用剤形
以下の配合物は、特にこれらに限定されないが、溶液、懸濁液、液体、ゲル、軟膏剤、ローションもしくはクリームを含む皮膚学的および/または薬学的に許容可能な局所的キャリアを利用する、本明細書に記載のMCTおよびMCT−キトサン(MCT−CHT)組成物の治療的または予防的投与に用いられ得る代表的な調合薬剤形を例示している。以下の例においては、ゲルまたはクリームが提供される。
【0116】
【表3】
【0117】
この配合物は、以下の個別のステージで調製する。混合物の要素Aは、Carbopolを水中に分散させ、次いで、他の構成成分中で撹拌することにより調製した。すべての要素B構成成分を一緒に混合し、70℃に加熱した。次いで、要素AおよびBを組み合わせ、トリエタノールアミンおよび香料を添加した(要素C)。得られたクリームは、安定およびなめらかであると共に、良好な湿性品質および皮膚への優れた触感を有していた。
【0118】
【表4】
【0119】
配合物を、すべての構成成分を一緒に混合することにより調製した。
【0120】
【表5】
【0121】
この配合物は、以下の個別のステージで調製する。混合物の要素Aは、Carbopolを水中に分散させ、次いで、他の構成成分中で撹拌することにより調製した。すべての要素B構成成分を一緒に混合し、70℃に加熱した。次いで、要素AおよびBを組み合わせ、トリエタノールアミンおよび香料を添加した(要素C)。得られたクリームは、優れた湿性化品質に富んでおり、皮膚上でグリス様の触感を与えた。
【0122】
【表6】
【0123】
調製手法:
1−150mgのビタミンEを計量し、これを、クリーム基剤分散体と穏やかに撹拌しながら混合する。
【0124】
2−1000mgのMCT−CHT凍結乾燥粉末(MCT:CHT質量比100:0〜70:30での形成)を計量し、これを、蒸留水(pH3.2)中に調製した5.00mLの酢酸(0.5M)に溶解させる。
【0125】
3−200mgのワサビノキ/ビタミンC抽出物を計量し、これを、MCT−CHTの水溶液に溶解させる。
【0126】
4−50mgのアスタキサンチンを計量し、これを、MCT−CHTおよびワサビノキ/ビタミンC抽出物を含有する水溶液に溶解させる。
【0127】
5−100mgのロイヤルゼリーを計量し、これを、MCT−CHT、ワサビノキ/ビタミンC抽出物およびアスタキサンチンを含有する水溶液と混合する。
【0128】
6−MCT−CHT、ワサビノキ/ビタミンC抽出物およびアスタキサンチンを含有する水溶液を、ビタミンEを含有するクリーム基剤と、均質な分散体が得られるまで、穏やかな撹拌を継続しながら混合する。
【0129】
7−均質な瘢痕クリーム配合物を適当なガラス容器に入れ、室温で保管する。
【0130】
上記の配合物は、薬学分野において周知である従来の手法によって調製され得る。上記の美容用組成物は、周知の薬学技術に従って、異なる量および型のMCT−CHT複合体を有効成分として含有するよう変更され得ることが認識されるであろう。
【0131】
既述の瘢痕クリーム組成物を数人の患者に適用した。
図30Aおよび30Bは、1人の患者に係る前後の結果を示す。
図30Aは、上記の瘢痕クリームを適用する前における、帝王切開から5年経過した瘢痕の写真である。
図30Bは、瘢痕クリームを2週間の間毎日適用した後の同一の瘢痕の写真である。
図30Bから明らかであるとおり、処置後の瘢痕は短くなっており、また、周囲の皮膚の色に近い異なる色となっている。
【0132】
図31Aおよび31Bは、他の患者に係る前後の結果を示す。
図31Aは、上記の瘢痕クリームを適用する前における、左膝関節下部における15年経過した瘢痕の写真である。
図31Bは、瘢痕クリームを適用した後の同一の瘢痕の写真である。
図31Bから明らかであるとおり、瘢痕は、周囲の皮膚の色に近い異なる色となっている。
【0133】
図32A〜32Cは、さらに他の患者に係る前後の結果を示す。
図32Aは、上記の瘢痕クリームを適用する前における、25年が経過した虫垂切除術による瘢痕の写真である。
図32Bは毎日適用した後の同一の瘢痕の写真であり、および、
図32Cは、実施形態に係る瘢痕クリームを8日間毎日適用した後の同一の瘢痕の写真である。
図32Bおよび32Cから明らかであるとおり、処置後の瘢痕は短くなっており、また、周囲の皮膚の色に近い異なる色となっている。
【0134】
図33Aおよび33Bは、さらに他の患者に係る前後の結果を示す。
図33Aは、膝手術から6ヶ月経過した瘢痕の写真であり、および、
図33Bは、上記の瘢痕クリームを7日間毎日適用した後の同一の瘢痕の写真である。
図33Aおよび33Bから明らかであるとおり、処置後の瘢痕は前よりもかなり目立たなくなっており、また、周囲の皮膚の色に近い異なる色となっている。患者には副作用または過形成は生じなかった。
【0135】
図34A〜Dは、瘢痕の処置における、さらに他の患者に係る進行結果を示す。
図34Aは火傷瘢痕の写真を示し、
図34Bおよび34Cは上記の瘢痕クリームを毎日適用している最中の瘢痕の写真を示し、ならびに、
図34Dは、7日間の処置後の瘢痕の写真を示す。これらの図から明らかであるとおり、処置後の瘢痕は実質的に治癒しており、処置前の瘢痕の外観と比して、色は周囲の皮膚の色に近くなっている。
【0136】
前述の処置例に追加して、瘢痕の形成は、例えば外傷、手術、塑性手術、または、他の修復および/または治癒手法その結果として、眼瞼の中およびその周囲を含む身体の種々の領域に生じる可能性がある。上記の瘢痕クリームは、この種の処置にも用いられて、良好な効果が得られている。
【0137】
先に前述した研究および実施した実施例の一部として、ナマコから抽出したMCTと、子ウシの皮膚組織から単離したウシコラーゲンとの間における構造的な差異を判定し示すために研究を行った。コラーゲンサンプルのアミノ酸組成物分析を(Cui F.,Li Z.,Zhang Y.,Dong P.,Fu X.,Gao X.,“Characterization and Subunit Composition of Collagen from the Body Wall of Sea Cucumber”,Stichopus Japonicus”,Food Chem.100(3)(2007):1120−5)に記載されているとおりに判定した。簡潔には、コラーゲンサンプルを6M HClにより110℃で24時間加水分解し、次いで、加水分解物の主なアミノ酸組成物を、SYKAMアミノ酸分析器S433D(SYKAM,Munich,Germany)を用いて分析した。
【0138】
以下の表3は、ナマコから単離した異なるMCTサンプル、および、子ウシの皮膚から単離したウシ(子ウシ−皮膚)コラーゲンに係るアミノ酸組成物を示す。以下の表における子ウシ−皮膚コラーゲンサンプル1〜4の分析は、以下の記事において見いだされ得るリサーチで行った:X.Cheng,Z.Shao,C.Li,L.Yu,M.A.Raja,C.Liu,“Isolation,Characterization and Evaluation of Collagen from Jellyfish Rhopilema esculentum Kishinouye for Use in Hemostatic Applications”,PLOS One,2017,0169731;Y.Han,J−R.Ahn,J−W.Woo,C−K.Jung,S−M.Cho,Y−B.Lee,S−B.Kim,“Processing Optimization and Physicochemical Characteristics of Collagen from Scales of Yellowfin Tuna(Thunnus albacares)”,Fisheries and Aquatic Sciences,Volume 13,Issue 2,2010,pp.102−111;H.Li,B.L.Liu,L.Z.Gao,H.L.Chen,“Studies on bullfrog skin collagen”,Food Chemistry,Volume 84,Issue 1,January 2004,pp.65−69;P.Kittiphattanabawon,S.Nalinanon,S.Benjakul,and H.Kishimura.“Characteristics of Pepsin−Solubilised Collagen from the Skin of Splendid Squid(Loligo formosana)”,Journal of Chemistry,Volume 2015,Article ID 482354,8 pages。
【0139】
【表7】
【0140】
表3は、易変性コラーゲン組織(MCT)およびウシコラーゲン(BC)のアミノ酸組成物を示す。MCTの主アミノ酸は、グリシン(19.0%)、グルタミン酸(14.0%)、プロリン(12.0%)、アラニン(9.0%)、アスパラギン酸(9.0%)、アルギニン(8.0%)およびヒドロキシプロリン(6.7%)であり、これらは、表4に示されているウシコラーゲンに見出されるものと同様であった(文献を参照のこと)。
【0141】
I型コラーゲンの一次構造は、Gly−X−Y配列(ここで、Xは主としてプロリンであり、および、Yは主としてヒドロキシプロリンである)の連続する繰り返し、ならびに、テロペプチドと呼ばれるきわめて短鎖のN−およびC−末端領域(15〜26アミノ酸残渣)を有するドメインを含有すると特徴付けられる。α1鎖におけるGly−X−Y繰り返し配列は、二次構造の三重らせん形成において重要な役割を果たす。Gelse K,Poeschl E,Aigner T.2003.Collagens−structure,function,and biosynthesis.Adv Drug Deliver Rev 55(12):1531−46;Gomez−Guillen M,Gimenez B,Lopez−Caballero M,Montero M.2011.Functional and bioactive properties of collagen and gelatin from alternative sources:a review.Food Hydrocolloid 25(8):1813−27.As an amino acid with the lowest molecular weight, glycine residues arranged in the center of triple helix can help helix structure to fold compactly[3]を参照のこと。Fraser R,MacRae T,Suzuki E.1979.Chain conformation in the collagen molecule.J Mol Biol 129(3):463−81を参照のこと。従って、グリシンは、ウシコラーゲン中における主アミノ酸である。既述の文献によれば、ウシコラーゲン中のグリシン含有量は、14〜33%の範囲であり、アミノ酸合計の約四分の一であり、これは、MCTグリシン含有量(19%)と一致していた。
【0142】
図23および24は、子ウシおよびニワトリコラーゲンと比した、海洋コラーゲンに係るコラーゲンマトリックスの純度分析の結果を示し、ならびに、海洋コラーゲンが子ウシおよびニワトリコラーゲンと同等に安全であり、従って、既述の用途における使用について十分に安全であることを示す。これらの図は三重らせん構造を示し、ここで、下部の幅広い青いバンドはαらせんであり、βまたはγらせんが上部にある。これらの図中のMCT1およびMCT2は、異なるMCTバッチを示し、結果の再現性を表している。
【0143】
図25Aにおいて、図中右側に「+」によって示されるピークは、子ウシコラーゲンを可溶化する加水分解を示す。比較用グラフはMCTを「o」で示す。
図25Bは比較用FTIRスペクトルを示すものであって、ナマコに対するMCT単離プロセスの有効性に係る結果の再現性を示しており、ここで、MCT1は「*」によって示されており、および、MCT2は「x」によって示されている。
図25Bは、バッチ毎についてのMCT化学プロファイルにおける高い程度での一致性を示す。
【0144】
図26は、コラーゲンサンプルの熱重量分析(TGA)の結果を示し、また、MCTサンプルに係る熱挙動における差異を示す。
図26においては、安定性の低下が、グラフの下方に向かうラインによって示されている。子ウシコラーゲンのラインは280℃で不安定性の増大を示すが、一方で、MCT1およびMCT2のラインは、400℃でも安定性を示している。このグラフは子ウシコラーゲンに係るものよりも良好なMCTに係る熱安定性を示し、MCT系生成物を保持する向上した能力を示している。
【0145】
イミノ酸(プロリンおよびヒドロキシプロリン)は、ピロリジン環によるコラーゲン三重らせんの安定性を維持することが可能であるために、α鎖中にGly−X−Y繰り返し配列を含む重要なアミノ酸である。Wong,DW.1989.Mechanism and theory in food chemistry.New York:Van Nostrand Reinholdを参照のこと。
図27に示されているとおり、MCT中のプロリンおよびヒドロキシプロリンの含有量は、20.0%の合計イミノ酸含有量(ウシコラーゲンについて見出される値よりもわずかに低い)に対して、それぞれ12.0および7.0%であった。
【0146】
プロリンおよびヒドロキシプロリンの含有量は、環境温度に関連することが見出されている。Zhong M,Chen T,Hu C,Ren C.2015.Isolation and Characterization of Collagen from the Body Wall of Sea Cucumber Stichopus monotuberculatus.Food Chem 80(4):C671−C679を参照のこと。しかしながら、ウシコラーゲンと比した場合、Gly対イミノ酸含有量の比(Hyp/Pro)は低く、それ故、MCT中のイミノ酸によるGly系三重らせんのより効率的な安定化が示唆される。
【0147】
コラーゲン安定性は、アミノ酸組成物、特にイミノ酸によって影響される可能性がある。プロリン(PRO)およびヒドロキシプロリン(HYP)は、ピロリジン環を伴うコラーゲンの空間的構造を維持することが可能であるが、一方で、ヒドロキシプロリンの水酸基は隣接する鎖と一緒に水素結合を形成して三重らせんの安定性を向上させる。MCTのアミノ酸組成物分析は、ウシコラーゲンよりも遅い分解速度を示す安定なコラーゲン三重らせんの形成に好適であるグリシンおよびイミノ酸が多く存在していることを示す。
【0148】
図27は、子ウシコラーゲンの複数のサンプルと比較する、MCT1およびMCT2サンプルに係るGLY、HYP、PROおよびイミノ酸(HYPおよびPROの和)の棒グラフである。MCTのきわめて好ましい一態様は、一貫して再現可能である、GLY対イミノ酸の約1:1の比である。比較として、もっとも好ましい子ウシコラーゲンサンプルであっても(図の中程)、MCT1およびMCT2サンプルのように1:1比に近い比は示さない。イミノ酸と比したGLYの高い含有量は安定性が劣っていることを示す。高いGLY含有量が好ましいが、GLY対イミノ酸の1:1の比がより高い安定性を示す。
【0149】
図28Aおよび28B、ならびに、
図29Aおよび29Bは、2つの異なる方法で形成されたMCTの走査電子顕微鏡検査(SEM)写真である。
図28Aおよび28Bは、溶剤流延技術を用いてMCT−キトサン複合体を形成した結果を示す。
図28Aは、MCT−キトサン被覆材テンプレート(例えば3Dスポンジ)の構造の形態を示す。
図28Bは、この構造に係る高い間隙率を示す。
図29Aおよび29Bは、エレクトロスピニング技術を用いてMCT−キトサン被覆材テンプレートを形成した結果を示す。
図28Aおよび28Bと同様に、それぞれ、
図29Aは構造の形態を示し、および、
図29Bは構造に係る高い間隙率を示す。間隙率は細胞付着性および成長を促進する組織再生誘導における重要な性状である。
【0150】
参照した刊行物、特許および特許文献はすべて、参照により個々に援用されているかのように本明細書において参照により援用されている。さらに、本発明の種々の態様が、種々の特定的で、かつ、好ましい実施形態および技術を参照して記載されている。しかしながら、本発明の趣旨および範囲内において多くの変形および修正を成し得ることが理解されるべきである。