(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記赤外線量を測定する装置の温度を検出するセンサの出力に含まれる測定誤差と、前記物体の周囲環境の温度を測定するセンサの出力に含まれる測定誤差とが、同一となるように、前記赤外線量を測定する装置の温度を検出するセンサ及び前記物体の周囲環境の温度を測定するセンサの少なくともいずれか一方の出力特性を較正する較正部をさらに備える請求項1に記載のくもり止め装置。
前記制御部は、前記物体に対して又は前記物体の周囲環境に対して調整された空気を供給する空調装置を備える請求項4から請求項7のいずれか一項に記載のくもり止め装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動車のフロントガラスに、物体の表面温度が露点温度よりも低くならないように、何らかの空調装置等を用いて調整する手法の原理を適用した技術が特許文献1から3に示されている。
まず、特許文献1には、露点温度がガラス温度より3℃低い状態まで接近したら、結露が起こるおそれがあるものとして、ガラスにヒーターによる加熱空気を吹き付けて温度を上げる技術が記載されている。
【0006】
特許文献2には、ガラス温度の測定に非接触型の温度センサを用いること、特に赤外線センサを用いることが有効である旨が記載されている。さらに、露点温度がガラス温度より5℃低い状態まで接近したら、結露が起こるおそれがあるものとしてガラス近傍の空気を乾燥させる技術も記載されている。
特許文献3には、特許文献1および2で共通に出現する露点温度とガラス温度の差分に対応するパラメータとして曇り度合予想値なるものを定義し、この曇り度合予想値と防曇判定値を比較することによって、空調の制御方法を決定する技術が記載されている。特許文献3に定義された防曇判定値は85%との記載があるが、この数値は露点温度とガラス温度の差分に換算するとおよそ3℃に相当する。
【0007】
これらの特許文献3通りともいずれも、物体の表面温度(ガラスの表面温度)が露点温度よりも3℃以上高く、理想的にはくもりや結露が起こりえない状況下でも防曇の調整をしている。つまり、防曇の恐れがないのに防曇のためにエアコンディショナやデフロスター等の空調装置を動作させることになる。これは空調エネルギーの使い過ぎに直結する。例えば自動車の場合、特にハイブリッド自動車(PHEV)や電気自動車(EV)においては、燃費(電費)の低下や航続距離の低下といった悪影響をもたらす。
このように、従来の技術において、実際にくもりや結露が起こる条件よりも厳しい条件で防曇調整を開始しなければならない理由としては、以下の2点に大別することができる。
【0008】
1点目は、各温湿度の測定場所が、くもりや結露の起こる場所からある程度離れた場所であることによるものである。車内での状況に鑑みると、特にフロントガラスの温度は、上部と吹き出し口のある下部とでは大きく異なる。また、車内の空中の湿度は、ガラス付近と運転手座席付近とで大きく異なる。しかしながら、このような状況はときどき発生するものの、各温湿度の測定場所を最適にすることにより比較的容易に解決可能である。
2点目は、各温湿度の測定値には誤差が含まれることを考慮していることによるものである。例えば、各温湿度の測定値に誤差として、物体の表面温度に±1℃、空中の温度に±1℃、空中の湿度の±3%の誤差があるものと仮定すると、最悪の場合には露点温度測定値が物体の表面温度測定値より3℃低くても、物体の表面温度の真値が露点温度の真値より低くなる。このときは理想的条件下であっても、くもりや結露が発生する。
【0009】
つまり、温湿度の測定場所とくもりや結露が生じる場所との違い、また、温湿度の測定値に含まれる誤差によりくもりや結露が生じることを防止するためのいわゆるマージン設定として、実際にくもりや結露が起こる条件よりも厳しい条件で防曇調整を開始している、と言うことができる。
本発明の目的は、自動車、特に電気自動車における燃費あるいは航続距離の向上のために、新たな制御方法を用いることによって前記マージンを最小限の設定値とすることで空調エネルギーの消費量をより低減することの可能なくもり止め装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係るくもり止め装置は、物体の表面温度と
前記物体の周囲環境の露点温度との比較結果に応じて、
前記物体のくもり又は結露を防止する制御を行うくもり止め装置において、前記物体から放射される赤外線量と当該赤外線量を測定する装置の温度とに基づいて前記物体の温度を測定する表面温度測定部と、前記物体の周囲環境の温度及び湿度に基づいて
前記露点温度を検出する露点温度測定部と、を備え、前記赤外線量を測定する
装置の温度を検出するセンサ及び前記物体の周囲環境の温度を測定するセンサは、前記赤外線量を測定する装置の温度を検出するセンサの出力に含まれる測定誤差と、前記物体の周囲環境の温度を測定するセンサの出力に含まれる測定誤差とが、同一となる特性を有することを特徴としている。
【0011】
また、本発明の他の態様に係るくもり止め装置は、物体から放射される赤外線量を測定する赤外線センサと、前記物体の周囲環境の温度を測定する温度センサと、前記物体の周囲環境の湿度を測定する湿度センサと、前記赤外線センサが測定した赤外線量と前記温度センサが測定した温度とに基づいて前記物体の表面温度を検出する表面温度検出部と、前記温度センサが測定した温度と前記湿度センサが測定した湿度とに基づいて
前記物体の周囲環境の露点温度を検出する露点温度測定部と、前記表面温度検出部が検出した表面温度と前記露点温度測定部が検出した
前記露点温度との比較結果に応じて、
前記物体のくもり又は結露を防止する制御を行う制御部と、を備え、前記温度センサは、前記表面温度検出部と前記露点温度測定部とで共通であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、くもり又は結露が生じ得ない条件をより正確に設定することができ、この条件にしたがってくもり止めのための空調制御を行うことにより、その分、空調エネルギーの使用を停止させることができる。このため、特に従来大きかった電気自動車の空調エネルギーの使用量等、空調エネルギーの消費量を圧倒的に減少させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の詳細な説明では、本発明の実施形態の完全な理解を提供するように多くの特定の具体的な構成について記載されている。しかしながら、このような特定の具体的な構成に限定されることなく他の実施態様が実施できることは明らかである。また、以下の実施形態は、請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、実施形態で説明されている特徴的な構成の組み合わせの全てを含むものである。
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態を説明する。以下の図面の記載において、図面は模式的なものである。
【0015】
(実施形態の構成)
図1は、本発明の一実施形態にかかるくもり止め装置100の構成例を示すブロック図である。
図1中、1は温度センサである。この温度センサ1は通常のいわゆる寒暖計などに用いられる水銀柱型などでも良いが、本発明の一実施形態にかかるくもり止め装置100においては占有面積の観点から、熱電対やサーミスタのような小型の半導体型センサが最適である。
【0016】
2は赤外線センサである。赤外線センサ2は、赤外線を受光し受光量に応じた信号Vを出力し、受光量が増加するほど信号Vは大きくなる。この赤外線センサ2の波長帯域は、通常の放射温度計と同様に5μm以上15μm以下程度と設定される。これは、環境の平均温度が15℃以上25℃以下程度であり、したがってヴィーンの変位則により赤外線センサ2の受けるピーク波長が10μm程度となるためである。
3は表面温度測定部である。詳細に言えば、表面温度測定部3は、くもり止め装置100によるくもり止めの対象となる物体の表面温度を非接触で測定するブロックである。以下では、くもり止め装置100によるくもり止めの対象である物体の典型的な例として、物体は、ガラス、特に自動車のフロントガラスとする。なお、物体とは自動車のフロントガラスに限るものではなく、くもりや結露が生じる物体であれば適用することができる。
【0017】
また、一般に赤外線センサ2を用いて非接触で物体の温度を測定するには、赤外線センサ2自身の温度も必要とする。本実施形態においては、赤外線センサ2の温度は温度センサ1で測定されるものとする。なお、この温度センサ1は表面温度測定部3で使われるだけではない。詳細は後述する。
表面温度測定部3は、赤外線センサ2から出力される受光量に応じた信号からなる赤外線出力Vと温度センサ1の出力とをもとに、物体の温度、つまり、フロントガラスの温度を検出する。
【0018】
4は湿度センサである。この湿度センサ4は通常のいわゆる乾湿球型などでも良いが、本実施形態においては、占有面積の観点から、静電容量型や抵抗型といった小型のセンサが最適である。
5は露点温度測定部である。一般に露点温度は環境の温度と相対湿度により求めることができる。したがって、まず相対湿度を測定するために湿度センサ4を用いる。
一方で、本実施形態における環境の温度を測定する温度センサ1は、表面温度測定部3で使われるものと同一(共通)のものを利用する。つまり、赤外線センサ2そのものの温度を測定するための温度センサ1を、環境温度を測定するための温度センサとしても用いる。
【0019】
ここで従来は、表面温度測定部3で使われる温度センサと、露点温度測定部5で使われる温度センサはまったく別のものであった。つまり、温度センサは2個存在していた。
これに対し、本実施形態では、温度センサは1個のみ存在する。これによって、省スペース化また低コスト化も可能となるが、実はもっと大きな効果がある。この詳細については後述する。
6はくもり結露判定部である。一般に、くもり又は結露の判定はガラス表面温度と露点温度との大小比較をすることによって行われるが、本実施形態でもこの原理を適用する。くもり結露判定部6は、ガラス表面温度と露点温度との比較結果に応じて、空調装置7を制御し、くもり又は結露を防止する制御を行う。空調装置7は、例えば、制御対象の物体、つまりフロントガラスに対して、又は、物体の周囲環境つまり車室内に対して、調整された空気を供給する、エアコンディショナやデフロスター等である。
【0020】
図2は、
図1に示すくもり止め装置100の各ブロックの動作を示したフローチャートである。
図2に示すフローチャートは単一の工程処理のみが許容されるシステムの一例であり、
図2に示す処理は、並列処理が可能なシステムに適用することも可能であり、
図2に示すフローチャート中の各工程の前後関係が逆転する場合も適用することができる。
くもり止め装置100は、オペレータ等により測定開始が命令されると、まず温度センサ1を用いて温度測定を行う(ステップS1)。この温度測定においては、温度センサ1に対して入力される情報はなく、出力情報は温度である。温度センサ1から出力される温度をTrとする。
【0021】
次に、赤外線センサ2を用いてフロントガラスから出力される赤外線量の測定を行う(ステップS2)。赤外線センサ2に対する入力情報はなく、出力情報は赤外線出力Vである。
続いて、表面温度測定部3にてガラス表面温度の測定を行う(ステップS3)。表面温度測定部3では、実際には、この工程での入力情報である、ステップS1で測定した温度TrとステップS2で測定した赤外線出力Vとから、ガラス表面温度Tbを演算し出力する。ガラス表面温度Tbの演算式のもっとも簡単な例は、次式で表すことができる。
Tb=V/b+Tr
なお、式中のbは赤外線センサ2の感度に相当する係数であり、
図2に示す処理を開始する前に予め与えられる係数である。
【0022】
さらに、湿度センサ4を用いて環境の相対湿度の測定を行う(ステップS4)。湿度センサ4に対する入力情報はなく、出力情報は相対湿度Hrである。
続いて、露点温度測定部5にて環境の露点温度の測定を行う(ステップS5)。露点温度測定部5では、実際には、この工程での入力情報である、ステップS1で測定した温度TrとステップS4で測定した相対湿度Hrとから露点温度Tdを演算し出力する。露点温度の演算例を以下に箇条書きで示す。
【0023】
(1)まず、温度Trから飽和水蒸気量を求める。飽和水蒸気量は、例えばテテンスの式を用いて算出すれば良い。
(2)次に、(1)で求めた飽和水蒸気量に相対湿度Hrを掛け算して、環境の絶対湿度を求める。
(3)次に、(2)で求めた絶対湿度が飽和水蒸気量となるような温度を見い出す。ここで見い出した温度が露点温度Tdに他ならない。
なお、温度や湿度の具体的数値を用いた実際の演算例は、後述の効果の箇所に詳しく記載している。
【0024】
最後に、ガラス表面温度Tbと露点温度Tdとを比較する(ステップS6)。比較方法としては、ガラス(一般には物体)の表面温度Tbが露点温度Tdよりも高ければ(Tb>Td)くもり又は結露は起きない。一方、Tb≦Tdであるならば、くもり又は結露が起こる、という理論(理想的環境)を大前提とする。この大前提に対し、実際の動作で生じる誤差等を考慮したのが、従来の技術で示したようなマージン(3℃又は5℃)の設定である。
【0025】
次に、従来の手法2通りとこれまで説明した本発明の手法とを比較することにより、本発明の一実施形態の効果を明らかにする。
(従来1通り目の手法)
従来1通り目の手法は、ガラス表面温度測定として赤外線センサでなく、本実施形態における温度センサ1とほぼ同様の半導体型センサをガラスに接触させて取り付けることにより測定するものである。従来技術で示した特許文献1と特許文献3はこの手法を用いたものである。さらに、特許文献2の一部分もこの場合に含まれる。
【0026】
仮に、環境温度の真値が25℃、環境湿度の真値が40%RHとする。このときの露点温度を前記の一般演算例にしたがって求めると、以下のようになる。
(1)温度25℃の飽和水蒸気量は23.0g/m
3。
(2)したがって、相対湿度40%RHの絶対湿度は9.2g/m
3。
(3)9.2g/m
3が飽和水蒸気量となるような温度は9.7℃。
したがって、露点温度は9.7℃である。つまり、理論の帰結として、ガラス温度の真値が9.7℃まで低くなるとくもり又は結露が起こり始める。
【0027】
ここで、この場合の測定される温度と相対湿度の各誤差を以下のように設定する。従来技術の項及び特許文献1〜3等でも示されている通り、この誤差はほぼ標準的な値とみてよい。
環境温度の誤差:±1℃
環境湿度の誤差:±2%RH
ガラス温度の誤差:±1℃
つまり、真値として25℃、40%RHであっても、誤差を伴う測定値として24℃、38%RHになる場合があることを示している。まったく同じやり方でこのときの露点温度を演算すると8.2℃となる。一方で、ガラス温度のほうも、真値として9.7℃であっても、誤差を伴う測定値として10.7℃になる場合がある。
【0028】
ここで、くもり又は結露を判定するやり方に再度鑑みると、前記の通りガラス温度と露点温度の大小(高低)比較をすれば良い。したがって、この従来1通り目の手法の場合には、誤差を考慮した場合の判定として、前述の限定的な実例のときを考慮しただけでも、ガラス温度に比べて露点温度が2.5℃低い状態ですでにくもり又は結露が発生した、と判定することが適切である。逆の立場に立って言えば、従来技術の誤差(3℃等)は非常に慎重に設定されていることの証明でもある。
なお、露点温度の測定に相対湿度測定を経由せず、直接的に絶対湿度を測定する場合もこの従来1通り目の手法に含まれる。なぜなら、直接的に絶対湿度を測定する素子は、温度計を他の温度計とは別に、絶対湿度を測定する素子に内在していることと等価だからである。同様のことは、下記従来2通り目の手法に対しても当てはまるが、本発明の一実施形態にかかる手法には当てはまらない。
【0029】
(従来2通り目の手法)
従来2通り目の手法は、ガラス表面温度測定演算に赤外線センサを用いる場合である。
さらに本発明の一実施形態とは異なり、この赤外線センサの温度測定を行う温度センサと、露点温度測定演算のための温度測定を行う温度センサとがまったく別のものである場合、つまり、二つの温度センサを備えている場合との比較である。従来技術で示した特許文献2はこの場合である。
【0030】
この場合の測定される温湿度、およびそれらの誤差を以下のように設定する。この誤差は従来1通り目の手法に倣ったものである。
環境温度の誤差:±1℃
環境湿度の誤差:±2%RH
赤外線センサ温度の誤差:±1℃
赤外線センサ出力の誤差:±1℃(に相当するセンサ出力値)
この設定値を詳しく説明すると、環境温湿度(露点温度)の誤差は1通り目の手法と変わらない。一方で、ガラス温度の誤差を考察すると、ガラス温度の測定に赤外線センサを使っている関係上、赤外線センサ自身の温度を測定する際に発生する誤差と、赤外線センサの出力値の誤差の両方が、それぞれ独立に発生する。したがって、誤差発生のメカニズムが従来1通り目の方法と異なっているため、改めてガラス温度の理論値の演算方法から考察する必要がある。
【0031】
先の
図2の説明文内にて述べたように、表面温度の測定における演算式のもっとも簡単な例は、次式(1)で表すことができる。
Tb=V/b+Tr …(1)
したがって、ガラス温度の真値Tbが9.7℃まで低くなると、くもり又は結露が起こり始めるのであるから、式(1)の右辺の各項は、赤外線センサ自身の温度Tr=25℃、赤外線センサ出力に相当する温度V/b=−15.3℃と測定されるものとして良い。
この数値条件が満たされる典型的な場合は、赤外線センサ2と湿度センサ4と温度センサ1がすべて同じ空間内で且つ近傍に存在する場合である。一方で、上記3つのセンサのどれか1つでも異なる空間に存在したり、遠隔の場所にある場合にはこの数値条件は満たされない。
【0032】
一方で、前記の誤差設定値と式(1)の各項の値とは以下のように対応している。
赤外線センサ温度の誤差 ±1℃ : 式(1)におけるTrの誤差
赤外線センサ出力の誤差 ±1℃ : 式(1)におけるV/bの誤差
したがって、最悪の場合、Tr=26℃、V/b=−14.3℃と測定される場合があるということである。つまり、誤差を伴うガラス温度は11.7℃として演算される。これを前出の露点温度(8.2℃)と比較すれば、3.5℃低い状態から早くも、くもり又は結露が発生したと判定せざるを得ないことになる。特許文献2の大きなマージン(5℃)はこのあたりを考慮しての設定値と考えられる。
【0033】
(本発明の一実施形態にかかる手法)
本発明の一実施形態にかかる手法の場合の誤差の値は、当然ながら従来技術2通りの手法の誤差の値に倣うものとする。さらに、本発明の一実施形態にかかる手法における誤差に関する特徴を併記すると以下のように設定される。
環境温度の誤差:±1℃、赤外線センサ温度と同じ誤差値を持つ。
環境湿度の誤差:±2%RH
赤外線センサ温度の誤差:±1℃、環境温度と同じ誤差値を持つ。
赤外線センサ出力の誤差:±1℃に相当するセンサ出力値
この場合の露点温度については、当然ながら真値9.7℃に対して誤差を伴う露点温度は従来技術2通りと同じ8.2℃となる。
【0034】
しかしながら、ガラス温度測定では本発明の一実施形態にかかる手法と従来技術2通りによる手法とで事情が大きく変わってくる。というのは、本発明の一実施形態にかかる手法では、同一つまり共通の温度センサ1の温度を利用しているため、赤外線センサ温度の誤差も環境温度の誤差とまったく同じとなるからである。つまり、誤差を伴う赤外線センサ温度は、従来技術2通りの手法では共通の26℃を仮定していたが、本発明の一実施形態にかかる手法では、26℃に仮定する必要はなく、24℃と設定することができる。これに誤差を伴う赤外線センサ出力「−16.3℃」以上「−14.3℃以下」を加えると、誤差を伴うガラス温度測定値は「7.7℃以上9.7℃以下」の範囲内として演算される。
【0035】
ここで、くもり又は結露の判定のために、ガラス温度と露点温度の大小(高低)比較を行うと、最悪の場合でも露点温度がガラス温度より1.5℃低い状態になって初めてくもり又は結露が発生したと判定することができる。つまり、本発明の一実施形態にかかる手法を適用することにより、従来1通り目の2.5℃と比べて1℃、従来2通り目の3.5℃と比べて2℃マージンを広げずに済ますことができる。
上記の数字を用いて、実際の自動車の空調システムに基づいて説明すると、以下のようになる。
【0036】
仮に、自動車の車内で、露点温度がガラス表面温度よりも4℃低い状態であったとする。この場合には、本発明の一実施形態にかかる手法、従来1通り目の手法、従来2通り目の手法のいずれの手法とも、くもり又は結露は発生したと判定されないため、くもり防止動作、つまり自動車におけるエアコンディショナや暖房など空調エネルギーを使用する必要はない。しかし、この4℃低い状態が3.5℃まで縮まったときは、少なくとも従来2通り目の手法の場合、自動車の運転手の視野確保の安全のためにくもり防止動作を開始せねばならない。そのため、このくもり防止動作に必要なエアコンディショナ又は暖房等の使用エネルギーが増える。さらに、2.5℃まで縮まると、従来1通り目の手法でもくもり防止動作をする必要がある。しかしながら、本発明の一実施形態にかかる手法を適用すると、これを1.5℃まで縮めても良い。したがって、くもり防止動作にかかるエネルギー従来と比較して削減することができる。
【0037】
以上の比較で容易にわかるように、本発明の手法は、まず1点目として、熱電対のような温度センサではなく、赤外線センサを用いた放射温度計を使うことによって効果が得られる。さらに2点目として、絶対湿度を直接測定するのではなく、相対湿度を測定する湿度センサを用いることによってさらなる効果が得られる。
ここで記載した2つの効果は、本質的には温度センサ1をガラスなどの物体の温度測定と空間の露点温度測定の両方に利用していることにより得ることができる。この原理を簡単に言うと、以下のようにまとめることができる。
【0038】
つまり、赤外線センサの出力から物体の表面温度を得る演算も、相対湿度から露点温度を得る演算も、両方とも環境の温度、本発明の一実施形態では温度センサ1で測定される温度に依存していて、なおかつ、物体の表面温度も露点温度も、両方とも環境の温度が高くなると高くなる、逆に両方とも環境の温度が低くなると低くなる、という特性がある。しかも、最終的には、物体の表面温度と露点温度の大小比較だけでくもり又は結露の判定ができる。すなわち、両方とも測定の絶対値は必要としない、相対的な比較であるから、環境の温度の絶対値に誤差があったとしても比較の結果には過大な影響を与えることはない。この原理により、従来1通り目の手法と比べてもマージンを広げずに済ますことができるのである。
上記の原理を用いれば、従来技術のような過大なマージン設定をする必要なく、できる限り真値に近くかつ余計なくもり防止動作をする必要がない空調システムを構築することができる。
【0039】
なお、上記実施形態においては、表面温度測定部3で使われる温度センサ、つまり赤外線センサ2の温度を検出するための温度センサと、露点温度測定部5で使われる温度センサ、つまり周囲環境の温度を測定する温度センサして一つの温度センサ1を共用にすることで、本来二つ必要なセンサの測定誤差を一致させた場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、
図3に示すように、測定誤差が同一となる特性を有する、表面温度測定部3で使われる専用の温度センサ3aと、露点温度測定部5で使われる専用の温度センサ5aとを設けてもよい。また、
図4に示すように、表面温度測定部3で使われる専用の温度センサ3bと、露点温度測定部5で使われる専用の温度センサ5bとを設け、温度センサ3bの出力に含まれる測定誤差と、温度センサ5bの出力に含まれる測定誤差とが、同一となるように、温度センサ5bの出力特性及び温度センサ3bの出力特性の少なくとも何れか一方を調整する較正部8を設けてもよい。較正部8は、温度センサ3bの測定誤差と温度センサ5bの測定誤差が同一となるように、定期的、或いは、所定のタイミングで較正を行うようにすればよい。
【0040】
較正部8により測定誤差を同一とする具体的な方法としては、例えば、下記のような方法が考えられる。
くもり止め装置100に組み込む前の温度センサ3b及び温度センサ5bを同じ温度環境に置き、そのときのそれら温度センサ3b及び温度センサ5bの出力を取得し、両者の差を較正値とする。そして、その較正値を、くもり止め装置100の較正部8に記憶し、実際の使用時には、較正値の分だけ温度センサ3b又は5bの出力を持ち上げる(或いは、目減りさせる)。
また、測定誤差が同一となる特性を有する温度センサ3a、5aは、例えば、多数の温度センサ3a、温度センサ5aを用意し、それらを同じ温度環境に置いたときに同じ温度値を示す組を探し、それら組となった温度センサ3a、5aを、測定誤差が同一となる特性を有する温度センサの組であるとみなし、この温度センサの組を、同じくもり止め装置100に組み込むようにすればよい。
【0041】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。