【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため、この発明では、以下の構成のチェーンテンショナを提供する。
軸方向の一端を閉塞端とし、軸方向の他端を開口端とする筒状のシリンダと、
前記シリンダに軸方向に摺動可能に挿入され、前記シリンダ内への挿入端が開口し、前記シリンダからの突出端が閉塞した筒状のプランジャと、
前記シリンダと前記プランジャとで囲まれる空間を、前記プランジャの軸方向移動に伴って容積が変化する圧力室と、前記プランジャが軸方向移動しても容積が変化しないリザーバ室とに軸方向に区画する隔壁部と、
前記シリンダの外側から供給されるオイルを前記リザーバ室に導入する給油通路と、
前記隔壁部を軸方向に貫通して形成された第1の貫通孔と、
前記第1の貫通孔の前記リザーバ室の側から前記圧力室の側へのオイルの移動のみを許容するチェックバルブと、
前記圧力室の容積が縮小する方向に前記プランジャが軸方向移動するときに前記圧力室からオイルをリークさせるリーク隙間と、
前記プランジャを前記シリンダから突出する方向に付勢するリターンスプリングと、を有し、
前記給油通路は、前記圧力室から前記リーク隙間を通ってリークしたオイルを前記給油通路に戻すように前記リーク隙間の出口側端部と接続して設けられ、
前記隔壁部を前記第1の貫通孔と並列に軸方向に貫通して形成された第2の貫通孔と、
前記第2の貫通孔に設けられ、前記圧力室内の圧力が予め設定した圧力よりも大きくなったときに前記圧力室から前記リザーバ室にオイルを逃がすリリーフバルブと、を更に有するチェーンテンショナ。
【0019】
このようにすると、圧力室内の圧力が予め設定した圧力よりも大きくなったときに圧力室からオイルを逃がすリリーフバルブが設けられているので、エンジンの高回転域において、リーク隙間によるダンパ力が過大となるのを防ぐことが可能となり、その結果、低回転域と高回転域の両方において最適なダンパ力を得ることが可能となる。
【0020】
また、リーク隙間の出口側端部が給油通路に接続しているので、圧力室の容積が縮小する方向にプランジャが軸方向移動するときに、圧力室からリーク隙間を通ってリークしたオイルが給油通路に戻る。さらに、リリーフバルブが、圧力室とリザーバ室の間を区画する隔壁部に形成された第2の貫通孔に配置されているので、リリーフバルブが開弁したときに、そのリリーフバルブを通って圧力室から流出するオイルがリザーバ室に戻る。そのため、チェーンテンショナでのオイル消費量を抑えることができる。
【0021】
前記第1の貫通孔は、前記プランジャの中心に対して偏心した位置に形成し、
前記第2の貫通孔は、前記プランジャの中心に対して、前記第1の貫通孔とは反対側に偏心した位置に形成すると好ましい。
【0022】
このようにすると、第1の貫通孔と第2の貫通孔とが、プランジャの中心に対して互いに反対側に偏心した配置となるので、第1の貫通孔の流路面積と第2の貫通孔の流路面積とをそれぞれ確保しやすい。そのため、チェックバルブの開弁時の流量を確保することで、チェーンの弛みに対する優れた追従性を得るとともに、リリーフバルブの開弁時の流量を確保することで、エンジンの高回転域のチェーンの張力が過大となるのを効果的に抑制することができる。
【0023】
前記第2の貫通孔は、前記隔壁部に直接形成された、前記圧力室の側を大径とし前記リザーバ室の側を小径とする段付き孔であり、
前記リリーフバルブは、前記第2の貫通孔の前記圧力室の側の端部に挿入して固定した第2の環状部材で前記第2の貫通孔内に保持されている構成を採用すると好ましい。
【0024】
このようにすると、圧力室内のオイルから受ける圧力やプランジャの振動などによるリリーフバルブの脱落を確実に防止することが可能となる。すなわち、リリーフバルブは、圧力室の側を大径としリザーバ室の側を小径とする段付き孔である第2の貫通孔に、圧力室の側から挿入される。そして、圧力室内のオイルからリリーフバルブに作用する圧力の方向が、段付き孔である第2の貫通孔へのリリーフバルブの挿入方向と同じ方向なので、圧力室内のオイルから受ける圧力やプランジャの振動などによってリリーフバルブが第2の貫通孔から脱落する事態を確実に防止することが可能となる。
【0025】
この場合、前記第1の貫通孔は、前記隔壁部に直接形成された、前記圧力室の側を大径とし前記リザーバ室の側を小径とする段付き孔であり、
前記チェックバルブは、前記第1の貫通孔の前記圧力室の側の端部に挿入して固定した第1の環状部材で前記第1の貫通孔内に保持されている構成を採用すると好ましい。
【0026】
このようにすると、チェックバルブおよびリリーフバルブを隔壁部に組み付けるときの第1の貫通孔に対するチェックバルブの挿入方向と、第2の貫通孔に対するリリーフバルブの挿入方向とが同じ方向となるので、チェックバルブおよびリリーフバルブを隔壁部に組み付けるときに、隔壁部の向きを変更する必要がなく、優れた組立作業性を得ることができる。
【0027】
前記第2の貫通孔は、前記隔壁部の前記リザーバ室の側の端面から前記圧力室の側に延びる内径が一定の第2の小径部と、前記第2の小径部から前記圧力室の側に拡径する第2の段部と、前記第2の段部から前記圧力室の側に延び、前記第2の小径部の内径よりも大きい内径をもつ第2の大径部とを有し、
前記リリーフバルブは、前記第2の環状部材に接触する閉弁位置とその閉弁位置から前記リザーバ室の側に移動した開弁位置との間で移動可能な第2の弁体と、前記第2の弁体を前記リザーバ室の側から前記圧力室の側に付勢する第2のバルブスプリングとを有し、
前記第2の段部で、前記第2のバルブスプリングの前記リザーバ室の側の端部が支持されている構成を採用することができる。
【0028】
このようにすると、第2の環状部材が、リリーフバルブのバルブシート(第2の弁体が着座する部材)として機能し、また、第2の貫通孔の第2の段部が、リリーフバルブのバルブリテーナ(第2の弁体と第2のバルブスプリングとを保持する部材)として機能するので、リリーフバルブの構成部品の部品点数を最小化することが可能となる。
【0029】
前記第2の貫通孔は、前記隔壁部の前記リザーバ室の側の端面から前記圧力室の側に延びる内径が一定の第2の小径部と、前記第2の小径部から前記圧力室の側に拡径する第2の段部と、前記第2の段部から前記圧力室の側に延び、前記第2の小径部の内径よりも大きい内径をもつ第2の大径部とを有し、
前記リリーフバルブは、環状の第2のバルブシートと、前記第2のバルブシートに接触する閉弁位置とその閉弁位置から前記リザーバ室の側に移動した開弁位置との間で移動可能な第2の弁体と、前記第2の弁体を前記リザーバ室の側から前記圧力室の側に付勢する第2のバルブスプリングと、前記第2のバルブシートと前記第2の弁体と前記第2のバルブスプリングとを一体のアセンブリとして保持するバルブスリーブとを有し、
前記バルブスリーブは、前記第2のバルブシートと前記第2の弁体と前記第2のバルブスプリングとを一体のアセンブリとして保持した状態で第2の大径部に挿入され、前記第2の環状部材で前記第2の大径部から抜け止めされている構成を採用することができる。
【0030】
このようにすると、リリーフバルブが、第2のバルブシートと第2の弁体と第2のバルブスプリングとを一体のアセンブリとして保持するバルブスリーブを有するので、リリーフバルブを第2の貫通孔に組み込む前に、リリーフバルブの構成部品をあらかじめ一体のアセンブリとして組み立て、そのアセンブリの状態で第2の貫通孔への組み込み作業を行なうことができる。
【0031】
前記チェックバルブは、前記第1の貫通孔を前記圧力室の側から開閉する第1の弁体と、前記第1の弁体が前記第1の貫通孔を閉じたときに前記第1の弁体が着座する第1のシート面とを有し、
前記リリーフバルブは、前記第2の貫通孔を前記リザーバ室の側から開閉する第2の弁体と、前記第2の弁体が前記第2の貫通孔を閉じたときに前記第2の弁体が着座する第2のシート面とを有する場合、
前記第1のシート面と前記第2のシート面とが形成された一体部材を前記隔壁部として採用すると好ましい。
【0032】
このようにすると、チェックバルブの第1のシート面と、リリーフバルブの第2のシート面とが共通の一体部材に形成されているので、チェックバルブおよびリリーフバルブの製造コストを低減することが可能となる。
【0033】
前記隔壁部は、樹脂または焼結合金で形成することができる。
【0034】
前記第1の弁体は球状に形成し、前記第2の弁体も球状に形成すると好ましい。
【0035】
このようにすると、チェックバルブの開閉動作およびリリーフバルブの開閉動作を、いずれも安定かつ確実なものとすることができる。
【0036】
前記第1のシート面は、前記第1の貫通孔の前記圧力室の側の端部開口の周縁に形成され、
前記チェックバルブは、前記第1の弁体が前記第1のシート面に着座する閉弁位置と、前記第1の弁体が前記閉弁位置から前記圧力室の側に移動して前記第1のシート面から離反する開弁位置との間で前記第1の弁体を移動可能に保持する第1のバルブリテーナと、前記第1の弁体を前記開弁位置から前記閉弁位置に向けて付勢する第1のバルブスプリングとを有し、
前記第1のバルブリテーナは、前記隔壁部の前記圧力室の側の軸方向端面に支持される第1のフランジ部と、前記第1のフランジ部から前記圧力室の側に軸方向に延び、前記第1の弁体を軸方向に移動可能に収容する第1の筒部と、前記第1の筒部の前記圧力室の側の軸方向端部に設けられ、前記第1のバルブスプリングを支持する第1の端板とで構成され、
前記第2のシート面は、前記第2の貫通孔の前記リザーバ室の側の端部開口の周縁に形成され、
前記リリーフバルブは、前記第2の弁体が前記第2のシート面に着座する閉弁位置と、前記第2の弁体が前記閉弁位置から前記リザーバ室の側に移動して前記第2のシート面から離反する開弁位置との間で前記第2の弁体を移動可能に保持する第2のバルブリテーナと、前記第2の弁体を前記開弁位置から前記閉弁位置に向けて付勢する第2のバルブスプリングとを有し、
前記第2のバルブリテーナは、前記隔壁部の前記リザーバ室の側の軸方向端面に支持される第2のフランジ部と、前記第2のフランジ部から前記リザーバ室の側に軸方向に延び、前記第2の弁体を軸方向に移動可能に収容する第2の筒部と、前記第2の筒部の前記リザーバ室の側の軸方向端部に設けられ、前記第2のバルブスプリングを支持する第2の端板とで構成することができる。
【0037】
このようにすると、チェックバルブの第1の弁体が、第1の貫通孔の圧力室の側の端部開口を開閉する構成であるため、チェックバルブが開弁したときの第1の貫通孔の流路面積を確保しやすい。また、リリーフバルブの第2の弁体が、第2の貫通孔のリザーバ室の側の端部開口を開閉する構成であるため、リリーフバルブが開弁したときの第2の貫通孔の流路面積を確保しやすい。そのため、チェックバルブの開弁時の流量とリリーフバルブの開弁時の流量とをいずれも大きく設定することが可能である。
【0038】
前記第1のシート面は、前記第1の貫通孔の内周に形成され、
前記第1の弁体は、前記第1の弁体が前記第1のシート面に着座する閉弁位置と、前記第1の弁体が前記閉弁位置から前記圧力室の側に移動して前記第1のシート面から離反する開弁位置との間で、前記第1の貫通孔の内部に軸方向に移動可能に収容され、
前記第1の貫通孔の内部に、前記第1の弁体を前記開弁位置から前記閉弁位置に向けて付勢する第1のバルブスプリングが設けられ、
前記第1の貫通孔の圧力室の側の端部開口に、前記第1のバルブスプリングを支持する第1のスプリング支持部材が設けられ、
前記第2のシート面は、前記第2の貫通孔の内周に形成され、
前記第2の弁体は、前記第2の弁体が前記第2のシート面に着座する閉弁位置と、前記第2の弁体が前記閉弁位置から前記リザーバ室の側に移動して前記第2のシート面から離反する開弁位置との間で、前記第2の貫通孔の内部に軸方向に移動可能に収容され、
前記第2の貫通孔の内部に、前記第2の弁体を前記開弁位置から前記閉弁位置に向けて付勢する第2のバルブスプリングが設けられ、
前記第2の貫通孔のリザーバ室の側の端部開口に、前記第2のバルブスプリングを支持する第2のスプリング支持部材が設けられている構成を採用することができる。
【0039】
このようにすると、チェックバルブを構成する第1の弁体および第1のバルブスプリングが、隔壁部の第1の貫通孔の内部に収容され、リリーフバルブを構成する第2の弁体および第2のバルブスプリングが、隔壁部の第2の貫通孔の内部に収容されているので、チェックバルブおよびリリーフバルブの軸方向寸法を短く抑えることができ、チェーンテンショナを小型化することが可能となる。
【0040】
前記隔壁部は、前記プランジャと軸方向に一体に移動するように前記プランジャに固定して設けられ、
前記リーク隙間は、前記プランジャの外周と前記シリンダの内周との間の環状隙間のうち、前記プランジャの前記シリンダ内への挿入端に近い側の端部に形成された第1の隙間であり、
前記プランジャの外周と前記シリンダの内周との間の環状隙間のうち、前記第1の隙間に対して前記プランジャの前記シリンダ内への挿入端から遠い側の部分に形成され、前記第1の隙間よりも大きい隙間寸法をもつ拡大隙間部と、
前記プランジャの外周と前記シリンダの内周との間の環状隙間のうち、前記拡大隙間部に対して前記プランジャの前記シリンダ内への挿入端から遠い側の部分に形成され、前記拡大隙間部よりも小さい隙間寸法をもつ第2の隙間と、を更に有し、
前記給油通路は、前記シリンダの外側から供給されるオイルを前記拡大隙間部に導入するように前記シリンダに形成されたシリンダ側油路と、前記拡大隙間部と、前記拡大隙間部と前記リザーバ室の間を連通するように前記プランジャの外周から内周に貫通して形成されたプランジャ側油路とで構成することができる。
【0041】
このようにすると、シリンダに対するプランジャの軸方向位置が変化したときにも、拡大隙間部を介して、シリンダ側油路とプランジャ側油路の間の連通を維持することが可能である。また、圧力室から、プランジャの外周とシリンダの内周との間の第1の隙間(リーク隙間)を通ってリークするオイルを給油通路(拡大隙間部)に戻すことが可能である。
【0042】
前記プランジャの外周のうち、前記プランジャの前記シリンダ内への挿入端に近い側の端部に円筒状の第1の大径外径面が形成され、
前記プランジャの外周のうち、前記第1の大径外径面に対して、前記プランジャの前記シリンダ内への挿入端から遠い側の部分に、前記第1の大径外径面よりも小さい外径寸法をもつ小径外径面が形成され、
前記プランジャの外周のうち、前記小径外径面に対して、前記プランジャの前記シリンダ内への挿入端から遠い側の部分に、前記第1の大径外径面と同じ外径寸法をもつ第2の大径外径面が形成され、
前記第1の隙間は、前記第1の大径外径面と前記シリンダの内周との間に形成される隙間であり、
前記拡大隙間部は、前記小径外径面と前記シリンダの内周との間に形成される隙間であり、
第2の隙間は、前記第2の大径外径面と前記シリンダの内周との間に形成される隙間である構成を採用すると好ましい。
【0043】
このようにすると、プランジャがシリンダに対して軸方向移動したときにも、リーク隙間の軸方向長さが変化せず一定なので、安定した大きさのダンパ力を得ることが可能である。
【0044】
前記シリンダ側油路は、前記シリンダの内周に開口する油出口を有し、
前記シリンダの内周には円周溝が形成され、その円周溝は、前記油出口の全体が前記円周溝内に収まるように形成されている構成を採用すると好ましい。
【0045】
このようにすると、シリンダの内周に、シリンダ側油路の油出口の全体を収める円周溝が形成されているので、シリンダ側油路をシリンダに加工したときに、そのシリンダ側油路のシリンダの内周に開口する油出口にバリが生じても、そのバリが、プランジャの外周の第1の大径外径面および第2の大径外径面に干渉するのを防止することができる。そのため、プランジャの安定した動作を確保することができる。