特許第6933914号(P6933914)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ メタウォーター株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6933914-膜ろ過方法 図000006
  • 特許6933914-膜ろ過方法 図000007
  • 特許6933914-膜ろ過方法 図000008
  • 特許6933914-膜ろ過方法 図000009
  • 特許6933914-膜ろ過方法 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6933914
(24)【登録日】2021年8月24日
(45)【発行日】2021年9月8日
(54)【発明の名称】膜ろ過方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20060101AFI20210826BHJP
   B01D 65/02 20060101ALI20210826BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20210826BHJP
   C02F 1/52 20060101ALI20210826BHJP
【FI】
   C02F1/44 D
   B01D65/02
   B01D71/02
   C02F1/52 K
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-68708(P2017-68708)
(22)【出願日】2017年3月30日
(65)【公開番号】特開2018-167236(P2018-167236A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2019年11月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】507214083
【氏名又は名称】メタウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(72)【発明者】
【氏名】角川 功明
(72)【発明者】
【氏名】加藤 康弘
(72)【発明者】
【氏名】佐尾 具視
【審査官】 片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−136851(JP,A)
【文献】 特開2008−221168(JP,A)
【文献】 特開2012−210593(JP,A)
【文献】 特開2001−070758(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/44、52−56
B01D 21/01、61/00−71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルスを含む下水である被処理水に、ウイルスを凝集可能な凝集剤を添加してセラミック製のろ過膜でろ過する膜ろ過工程と、
前記膜ろ過工程後、前記ろ過膜を洗浄する洗浄工程と、を有し、
前記膜ろ過工程と前記洗浄工程とを繰り返す膜ろ過方法であって、
前記膜ろ過工程に先立ち、前記ろ過膜に水を満たすための工程である水張り工程において、以下の(1)及び(2)の少なくとも一方の操作を行う膜ろ過方法。
(1)通常時に添加する前記凝集剤に比して多くの前記凝集剤を、前記被処理水に加する。
(2)通常時における前記被処理水のpHに比して、前記被処理水のpHする。
【請求項2】
前記膜ろ過工程において、前記水張り工程後、更にろ過開始から5分間以内の期間においても、前記(1)及び(2)の少なくとも一方の操作を行う、請求項1に記載の膜ろ過方法。
【請求項3】
前記水張り工程が、逆洗により前記ろ過膜を洗浄する工程の後に行われる請求項に記載の膜ろ過方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜ろ過方法に関する。更に詳しくは、ろ過初期におけるウイルスの除去率の低下を防止可能な膜ろ過方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水不足の地域を中心に下水の再利用が進められている。この下水の再利用においては、再利用される水の衛生学的な安全性を担保する観点からウイルスの除去が要求されており、これが水質項目の一つとなっている。
【0003】
このように、例えば下水処理の場合、下水(被処理水)に含まれるウイルスを低減することが重要である。そして、下水などの被処理水中のウイルスを低減させる方法としては、例えば、ウイルスを凝集させた後、ろ過すること(膜ろ過)により、被処理水からウイルスを除去する、ウイルス除去方法などが報告されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−25143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、実験の結果、膜ろ過においては、ろ過初期にウイルスの除去率が低くなっており、膜ろ過を継続していくにつれて除去率が安定する(高くなる)という知見を得た。ウイルスの除去率の低下は、新品のろ過膜を最初に使用するとき、更に、逆洗や薬品洗浄後に行うろ過のすべての場合で生じていることが分かった。
【0006】
そのため、再利用される水の安全性を担保するために、ウイルスの除去率が低いろ過初期のろ過水は捨てる必要があり、処理水量及び回収率の向上のためにはろ過初期のウイルスの除去率を向上させる(低下させない)必要がある。特に、膜ろ過では定期的に膜の洗浄が行われるため、洗浄の度にウイルスの除去率が低くなってしまう事態が生じることから、膜の洗浄直後(ろ過初期)の除去率の低下を防止することは重要である。この点、特許文献1では、このような問題には何ら着目されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下に示す、膜ろ過方法が提供される。
【0008】
[1] ウイルスを含む被処理水に凝集剤を添加してろ過膜でろ過する膜ろ過工程と、
前記膜ろ過工程後、前記ろ過膜を洗浄する洗浄工程と、を有し、前記膜ろ過工程と前記洗浄工程とを繰り返す膜ろ過方法であって、
前記膜ろ過工程では、そのろ過初期において、以下の(1)及び(2)の少なくとも一方の操作を行う膜ろ過方法。
(1)通常時に添加する前記凝集剤に比して多くの前記凝集剤を添加した前記被処理水をろ過する。
(2)通常時における前記被処理水のpHに比して、pHが低い前記被処理水をろ過する。
【0009】
[2] 前記膜ろ過工程におけるろ過初期が、少なくとも、前記ろ過膜に水を満たすための工程である水張り工程を含む期間である前記[1]に記載の膜ろ過方法。
【0010】
[3] 前記膜ろ過工程におけるろ過初期が、前記水張り工程後、更に5分間以内の期間である前記[2]に記載の膜ろ過方法。
【0011】
[4] 前記ろ過膜が、セラミックス製の膜である前記[1]〜[3]のいずれかに記載の膜ろ過方法。
【0012】
[5] 前記膜ろ過工程の前記ろ過初期は、前記洗浄工程後のろ過初期である前記[1]〜[4]のいずれかに記載の膜ろ過方法。
【0013】
[6] 前記洗浄工程が、逆洗により前記ろ過膜を洗浄する工程である前記[5]に記載の膜ろ過方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の膜ろ過方法によれば、ろ過初期におけるウイルスの除去率の低下を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の膜ろ過方法の一の実施形態によるろ過を行う膜ろ過システムを模式的に示す説明図である。
図2】実施例1、比較例1の結果を示すグラフである。
図3】実施例2、比較例2の結果を示すグラフである。
図4】実施例3、比較例3の結果を示すグラフである。
図5】実施例4、比較例2の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0017】
[1]膜ろ過方法:
本発明の膜ろ過方法の一の実施形態は、膜ろ過工程と洗浄工程とを有しており、これらの膜ろ過工程と洗浄工程とを繰り返しながらろ過を行う。膜ろ過工程は、ウイルスを含む被処理水に凝集剤を添加してろ過膜でろ過する工程であり、具体的には、凝集剤が添加された被処理水を凝集剤含有被処理水とするとき、この凝集剤含有被処理水をろ過膜でろ過して、この凝集剤含有被処理水から被除去物(ウイルスを含む)を除去してろ過水を得る工程である。洗浄工程は、膜ろ過工程後、ろ過膜を洗浄する工程である。そして、本発明においては、膜ろ過工程では、そのろ過初期において、以下の(1)及び(2)の少なくとも一方を行う。
(1)通常時に添加する凝集剤に比して多くの凝集剤を添加した被処理水をろ過する。
(2)通常時における被処理水のpHに比して、pHが低い被処理水をろ過する。
【0018】
このような膜ろ過方法によれば、膜ろ過工程において、上記(1)及び(2)の少なくとも一方を行うので、ろ過初期におけるウイルスの除去率の低下を防止できる。
【0019】
本発明の膜ろ過方法の一実施形態によるろ過は、例えば、図1に示すような膜ろ過システム100を用いることで行うことができる。図1に示す膜ろ過システム100は、ウイルスを含む被処理水を貯留する原水槽10と、この原水槽10から被処理水ポンプ12を介して供給される被処理水をろ過膜でろ過してろ過水を得る膜ろ過ユニット20と、を備えている。そして、更に、膜ろ過システム100は、被処理水ポンプ12(即ち、原水槽10)と膜ろ過ユニット20の間に設置され、被処理水と凝集剤を混合するスタティックミキサー30と、膜ろ過ユニット20のろ過膜の逆流洗浄(すなわち、逆洗)に用いる逆洗水を貯留する逆洗水槽16とを備えている。膜ろ過ユニット20は、後述するセラミックフィルタと、このセラミックフィルタを収納する収納体と、を備えている。なお、図1に示すような膜ろ過システム100は、被処理水のpHを調整するための酸(例えば、硫酸)注入ラインが設けられているが、凝集剤の注入量の調整のみ行う場合には、この酸注入ラインは不要である。
【0020】
本発明の膜ろ過方法においては、上記のように、原水槽10と膜ろ過ユニット20(ろ過膜)の間でのみ凝集剤が注入されるようにすることができる。即ち、膜ろ過システム100のようにろ過膜としてセラミックフィルタを用いる場合、原水槽10と膜ろ過ユニット20(ろ過膜)の流路の間で凝集剤を注入し混合することで、ろ過初期におけるウイルスの除去率の低下を防止できる。
【0021】
[1−1]膜ろ過工程:
膜ろ過工程は、上述の通り、ウイルスを含む被処理水に凝集剤を添加し、ろ過膜でろ過する工程である。
【0022】
「被処理水」としては、上水処理、下水処理、工業用水処理、排水処理などの各種水処理において、水処理の対象となるものであって、ウイルスを含むものをいう。下水処理などにおいては、この被処理水には、ウイルス以外に、汚濁物質などが含まれることがある。
【0023】
本発明においてろ過膜としては、特に限定されることなく、例えば、セラミックス製のろ過膜を用いることができる。このセラミックス製のろ過膜としては、例えば、アルミナ、チタニア、ジルコニア、シリカ、ムライト、スピネル、これらの混合物などからなるものを挙げることができる。
【0024】
ろ過基材としては、例えば、アルミナ、チタニア、ジルコニア、シリカ、ムライト、スピネル、これらの混合物などからなるものを採用することができる。
【0025】
セラミックフィルタの形状は、特に制限はなく、円柱状、楕円柱状などとすることができる。
【0026】
セラミックフィルタは、その通水孔が延びる方向が鉛直方向と平行になるように設置することができる。なお、セラミックフィルタの設置方向は、特に制限はなく、その通水孔が延びる方向が鉛直方向に対して斜めまたは直角になるように設置してもよい。
【0027】
凝集剤は、ウイルスを凝集することが可能なものである限り特に制限はなく適宜選択して使用することができる。この凝集剤には、有機凝集剤、無機凝集剤などがあり、これらを単独でまたは組み合わせて使用することができる。
【0028】
無機凝集剤としては、例えば、PAC(ポリ塩化アルミニウム)、硫酸バンド、塩化第二鉄などを挙げることができる。
【0029】
本発明において膜ろ過工程は、ろ過初期とこのろ過初期以降の本ろ過期間との2つの期間からなるということができ、ろ過初期においては、上記のように上記(1)及び(2)の少なくとも一方の条件を満たす操作を行うが、その後の本ろ過期間では、本来の条件とすることになる。「本来の条件」とは、凝集剤の添加量に関しては、被処理水の処理に必要十分な添加量(具体的には、後述するジャーテストなどの結果に応じて適宜決定される添加量)とすることを意味し、被処理水のpHに関しては、ろ過初期のように被処理水のpHを敢えて低くする操作を行わない条件(具体的には、後述するジャーテストなどの結果に応じて予め設定されるpH)を意味する。
【0030】
ここで、「ろ過初期」とは、膜ろ過工程における膜ろ過の開始時点を基準として0〜7分経過までの間の期間をいうものとする。ただし、この時間は膜の一次側容量、膜供給水量および膜ろ過流束などの条件により適宜調整することができる。また、「ろ過初期」とは、最初に膜ろ過を開始するときだけを意味するものではない。本発明では膜ろ過工程と洗浄工程とを繰り返すため、洗浄工程後に膜ろ過を開始するときにも「ろ過初期」が存在する。
【0031】
また、後述する水張り工程を行う場合、本発明では、水張り工程をろ過工程に含まれるものとして説明する。この場合、膜ろ過工程におけるろ過初期は、水張り工程の期間のみとしてもよく、水張り工程後、更に所定時間(例えば5分間)までの期間であることでもよい。なお、水張り工程の所要時間は、通常、30秒〜2分である。
【0032】
通常時における凝集剤の添加量は、例えば、処理しようとしている被処理水に対してジャーテストや膜ろ過実験を実施し、その結果に応じて、被処理水の処理に必要な凝集剤の添加量として適宜決定される添加量のことである。一例を挙げると、被処理水が下水二次処理水である芝浦水再生センターにおける再生水造水設備の場合、凝集剤の添加量(注入率)は、濁度等、原水の水質に応じて30〜70mg/Lで設定される。
【0033】
一方、本発明で(1)の操作(即ち、「通常時に添加する凝集剤に比して多くの凝集剤を添加した被処理水をろ過する」操作)を行うときには、ろ過初期において、上記のようにして決定される通常時の添加量よりも、多くの凝集剤を添加する。例えば、通常時に添加する凝集剤の添加量を「基準添加量」とした場合、上記基準添加量の1.5〜3倍とすることができる。
【0034】
本発明における「通常時に添加する凝集剤に比して多く」とは、被処理水の水質に応じて決定される添加量よりも多く、ということができる。特に洗浄工程後の膜ろ過の場合には、前回(直前)の膜ろ過で添加した凝集剤の添加量よりも多く、ということもできる。
【0035】
また、「通常時における被処理水のpH」は、処理しようとしている被処理水に対してジャーテストや膜ろ過実験を実施し、その結果に応じて、予め設定されるpHである。多くの場合には被処理水のpHは7以上であるが、被処理水によってはpHの調整が必要な場合があり、例えばpHを6.8程度に調整されることがある。このように被処理水のpHを調整する場合には、調整後のpH(この例ではpH6.8)が「通常時における被処理水のpH」となる。
【0036】
一方、本発明で(2)の操作(即ち、「通常時における被処理水のpHに比して、pHが低い被処理水をろ過する」操作)を行う場合には、ジャーテストや膜ろ過実験の結果によって設定されたpHよりも、更に凝集剤によるウイルスの除去作用が大きくなるようにpHを調整する(即ち、pHをより低下させる)。例えば、アルミ系凝集剤(PAC等)を凝集剤として使用する場合、ジャーテスト等の結果によってpHの調整が不要であると判断されたときには、被処理水のpHは、通常、7以上であるpHを、ろ過初期には6.8以下に調整することが好ましく、6.5以下に調整することが更に好ましい。一方、pHの調整が必要であると判断されたときには、通常時のpHが6.8程度に調整されるため、ろ過初期にはpH6.5以下に調整することが好ましい。
【0037】
つまり、本発明における「通常時における被処理水のpHに比して、pHが低い」とは、被処理水の水質に応じて決定されるpHよりも低く、ということができる。特に洗浄工程後の膜ろ過の場合には、前回(直前)の膜ろ過で処理された被処理水のpHよりも低く、ということもできる。
【0038】
被処理水のpHを調節する操作を採用する場合、膜ろ過システム100において凝集剤の注入点よりも前段に、pH調節部(不図示)を更に設けるようにすることができる。図1では、硫酸を添加することによってpHを調整することを示している。
【0039】
このように、ろ過初期で(1)及び(2)のいずれかの条件を満たす操作を行うと、凝集および膜ろ過において除去されるウイルスが増えることによって、ろ過初期であってもウイルスの除去率を高く維持することができる。また、上記のようにすると、ろ過初期にろ過水を捨てる必要がなく、ろ過水を捨ててしまう場合であっても捨てる水の量を低減することができる。
【0040】
本発明においては、上記(1)及び(2)の両方の条件を満たす操作を行うことでもよい。このようにすると、ろ過初期におけるウイルスの除去率の低下を非常に良好に防止できる。
【0041】
そして、上記(1)及び(2)のいずれの操作を採用するか、或いは、両方の操作を採用するかは被処理水の水質および設備事情などに応じて適宜決定すればよい。
【0042】
[1−2]洗浄工程:
洗浄工程は、膜ろ過工程後、ろ過膜を洗浄する工程である。この洗浄工程は、従来公知の操作と同様の手順を適宜採用することができる。ろ過膜を洗浄する方法としては、逆洗や薬品洗浄などを挙げることができる。
【0043】
洗浄工程は、具体的には、以下のように行うことができる(以下には、逆洗によりろ過膜を洗浄する方法を示す)。まず、図1に示すように、被処理水弁51、ろ過水弁52を閉じるとともに被処理水ポンプ12を停止し、逆洗弁61を開いた状態で、加圧空気を逆洗水槽16へと送り、ろ過膜を加圧した状態で保持する(加圧工程)。次に、逆洗排水弁62を開き、逆洗水を逆洗排水弁62から排出することによってろ過膜を逆洗する(逆洗工程)。なお、逆洗工程で排出される、ろ過膜の表面に付着したフロック等のファウリング原因物質を含む逆洗水(逆洗排水)は、逆洗排水弁62を介して排水処理設備へと送られ、処理される。
【0044】
なお、逆洗工程後、逆洗弁61を閉じ、エアーブロー用加圧空気弁81を開いてエアーブロー用加圧空気を膜ろ過ユニット20内のセラミックフィルタの通水孔内に流し(ブロー工程)、エアーブロー用加圧空気で通水孔内を更に洗浄することもできる。なお、本明細書では、ブロー工程は洗浄工程に含まれる。
【0045】
[1−3]水張り工程:
逆洗工程後にブロー工程を行う場合には、以下の水張り工程を行う。水張り工程は、ろ過膜に水を満たすための工程であり、下記例では、セラミックフィルタの一次側領域に水を満たす工程が該当する。ブロー工程を行わない場合には、水張り工程は不要である。なお、この水張り工程は、本発明においては上述したように、膜ろ過工程に含まれる工程として説明する。
【0046】
上記のように既に洗浄工程を行っている場合、この水張り工程は、上記ブロー工程が終了した後、逆洗排水弁62及びエアーブロー用加圧空気弁81を閉じ(なお、ろ過水弁52は閉じた状態を維持する)、被処理水弁51及び水張り弁83を開いた状態で被処理水ポンプ12を運転させ、一次側領域内の空気を水張りライン82から抜きつつ、セラミックフィルタの一次側領域に被処理水を満たすことにより行われる。この水張り工程を行った後に実際に被処理水のろ過を再開することができる。
【0047】
本発明においては、上述したように、この水張り工程を含む期間であるろ過初期に、上記(1)及び(2)の少なくとも一方の条件を満たす操作を行うことが好ましい。具体的には、セラミックフィルタの一次側領域に被処理水を満たす過程において、上記(1)及び(2)の少なくとも一方の条件を満たす操作を行う。そして、必要に応じて、被処理水のろ過を再開した際にも上記(1)及び(2)の少なくとも一方の条件を満たす操作を続けて行う。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
図1に示したような膜ろ過システム100を用い、本発明の膜ろ過方法によるろ過を行った。具体的には、膜ろ過工程の通常の(即ち、本ろ過期間における)凝集剤(PAC)の注入率を60mg/Lとし、膜ろ過工程のろ過初期における凝集剤(PAC)の注入率を120mg/Lとした。「ろ過初期」は、水張り工程(2分間)とその後5分までの時間とした。また、被処理水のpHは、7.6〜7.7であった。
【0050】
このとき、膜ろ過工程開始時からのウイルスの除去率を算出した。結果を、表1及び図2に示す。
【0051】
なお、本実施例で使用したウイルスは、大腸菌ファージMS2であり、原水槽10に高濃度の大腸菌ファージMS2を添加して、被処理水中のウイルス濃度がおよそ1,000,000PFU/mLとなるようにして実験を行った。ウイルスの定量に際しては、プラック形成法を採用した。なお、図1では、実験のためウイルスを原水槽10に添加することを示しているのであり、通常の水処理ではウイルスの添加は行わない。また、セラミックス製のろ過膜(セラミックフィルタ)は、公称孔径が0.1μmであり、膜面積が0.42mであった。そして、ろ過は、デッドエンド方式を採用し、定流量ろ過(膜透過流束)4.0m/dの条件で行った。
【0052】
本実施例において、PACの注入率を増加することで、ろ過初期におけるウイルスの除去特性が向上することを確認した。
【0053】
(比較例1)
膜ろ過工程における凝集剤(PAC)の注入率を60mg/Lで一定(ろ過初期及び本ろ過期間のいずれも同じ注入率)としたこと以外は、実施例1と同様の方法でウイルスの除去率を算出した。結果を、表1及び図2に示す。
【0054】
(実施例2)
膜ろ過工程における「ろ過初期」を、水張り工程(2分間)のみとしたこと以外は、実施例1と同様の方法でウイルスの除去率を算出した。結果を、表2及び図3に示す。
【0055】
本実施例においても、PACの注入率を増加させることで、ろ過初期のウイルスの除去特性が向上することが確認できた。
【0056】
(比較例2)
膜ろ過工程における凝集剤(PAC)の注入率を60mg/Lで一定(ろ過初期及び本ろ過期間のいずれも同じ注入率)としたこと以外は、実施例2と同様の方法でウイルスの除去率を算出した。結果を、表2及び図3に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
(実施例3)
膜ろ過工程のろ過初期における被処理水のpHが6.5となるように被処理水に硫酸を注入し、凝集剤(PAC)の注入率を60mg/Lとして膜ろ過を行った。なお、pHを6.5に下げる前(硫酸を注入する前)の被処理水のpHは、7.5であった。「ろ過初期」は、水張り工程(2分間)とその後の5分までの時間とした。ろ過初期以降は、硫酸の注入を停止して凝集剤のみ(注入率は、60mg/Lにて一定)を注入した。なお、ろ過初期以降の被処理水のpHは上昇し、ろ過開始から10分後でpH7.1となり、60分以降はpH7.2であった。
【0060】
このとき、膜ろ過工程の開始時からのウイルスの除去率を算出した。結果を、表3及び図4に示す。
【0061】
実施例3によれば、被処理水のpHを調整すること(pHを低くすること)で、ろ過初期のウイルスの除去特性が向上することが確認された。
【0062】
(比較例3)
膜ろ過工程における凝集剤(PAC)の注入率を60mg/Lで一定(ろ過初期及び本ろ過期間のいずれも同じ注入率)としたこと以外は、実施例1と同様の方法でウイルスの除去率を算出した。結果を、表3及び図4に示す。なお、実施例1では被処理水のpHを調整しておらず、本比較例においても被処理水のpHを調整していない。
【0063】
【表3】
【0064】
(実施例4)
膜ろ過工程における「ろ過初期」を、水張り工程(2分間)のみとしたこと以外は、実施例3と同様の方法でウイルスの除去率を算出した。結果を、表4及び図5に示す。なお、図5には、実施例4の結果以外に、参考として、比較例2の結果も併せて記載している。
【0065】
【表4】
【0066】
以上の結果から、本発明の膜ろ過方法によれば、ろ過初期におけるウイルスの除去率の低下を防止できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の膜ろ過方法は、下水処理水などのウイルスを含む被処理水から、除去率を維持しつつウイルスを除去可能な方法として採用することができる。
【符号の説明】
【0068】
10:原水槽、12:被処理水ポンプ、16:逆洗水槽、20:膜ろ過ユニット、30:スタティックミキサー、51:被処理水弁、52:ろ過水弁、61:逆洗弁、62:逆洗排水弁、81:エアーブロー用加圧空気弁、82:水張りライン、83:水張り弁、100:膜ろ過システム。
図1
図2
図3
図4
図5