特許第6933968号(P6933968)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6933968車両の規制風速決定方法、規制速度決定方法、及び規制速度決定手段を有する車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6933968
(24)【登録日】2021年8月24日
(45)【発行日】2021年9月8日
(54)【発明の名称】車両の規制風速決定方法、規制速度決定方法、及び規制速度決定手段を有する車両
(51)【国際特許分類】
   B61L 23/00 20060101AFI20210826BHJP
【FI】
   B61L23/00 Z
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-235682(P2017-235682)
(22)【出願日】2017年12月8日
(65)【公開番号】特開2019-99101(P2019-99101A)
(43)【公開日】2019年6月24日
【審査請求日】2020年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】特許業務法人 インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】菊地 勝浩
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 実
(72)【発明者】
【氏名】島村 泰介
【審査官】 冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−073908(JP,A)
【文献】 特開2013−082255(JP,A)
【文献】 特開2013−086722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
風速を決定又は測定する第1工程と、
走行速度を決定又は測定する第2工程と、
走行区域の条件及び車両の種類から最小転覆限界風速を計算する計算工程と、を備え、
前記風速と前記走行速度の関係において、前記風速及び前記走行速度が、前記最小転覆限界風速を超えないように規制風速が決定され、
前記規制風速は、任意の前記走行速度に応じて多段階に決定される
ことを特徴とする車両の規制風速決定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の規制風速決定方法において、
前記風速は、前記車両に取り付けられた風速計によって測定されることを特徴とする車両の規制風速決定方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両の規制風速決定方法において、
前記規制風速は、前記走行速度と前記風速との関係において、前記最小転覆限界風速と前記規制風速との差の分布を積分した面積ができるだけ小さくなるように決定されることを特徴とする車両の規制風速決定方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の車両の規制風速決定方法において、
前記規制風速は、任意の前記走行速度における前記最小転覆限界風速との差ができるだけ小さくなるように決定されることを特徴とする車両の規制風速決定方法。
【請求項5】
請求項1に記載の車両の規制風速決定方法において、
前記計算工程は、前記走行区域の条件及び前記車両の種類に区分して複数の最小転覆限界風速を計算し、前記複数の最小転覆限界風速のうち、少なくとも2以上の計算結果を重畳する重畳工程を備えることを特徴とする車両の規制風速決定方法。
【請求項6】
風速を決定又は測定する第1工程と、
走行速度を決定又は測定する第2工程と、
走行区域の条件及び車両の種類から最小転覆限界風速を計算する計算工程と、を備え、
前記風速と前記走行速度の関係において、前記風速が、前記最小転覆限界風速を超えないように規制速度が決定され、
前記規制風速は、任意の前記走行速度に応じて多段階に決定される
ことを特徴とする車両の規制速度決定方法。
【請求項7】
風速を測定する第1手段と、
走行速度を測定する第2手段と、
現在の走行位置を特定する第3手段と、
現在走行している走行区域の条件及び車両の種類から最小転覆限界風速を計算する計算手段と、を備え、
前記風速と前記走行速度の関係において、前記風速が、前記最小転覆限界風速を超えないように規制速度を決定する走行速度決定手段を備え、
前記規制風速は、任意の前記走行速度に応じて多段階に決定される
ことを特徴とする車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の規制風速決定方法、規制速度決定方法、及び規制速度決定手段を有する車両に関する。より具体的には、鉄道車両などの車両に対しての、強風時において、車両の安全な運行に鑑みた走行の停止又は徐行を決定する規制風速の決定方法、安全な走行を行うための規制速度の決定方法及び、このような規制速度決定手段を有する車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両を安全に運行するために強風時における車両の運行管理方法が種々開発されている。例えば、特許文献1や2に開示されているように、本願出願人も過去に当該開発を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4837623号公報
【特許文献2】特開2008−275568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1や2をはじめ従来からの運行管理方法は、車両が走行する場所の近傍に風速計を設置し、当該風速計にて風速を定点計測し、図11に示すように、所定の風速に達した際(例えば風速25m/s)に、車両を予め定められた速度(例えば走行速度25km/h)で徐行させ、さらに風速が強まった場合(例えば風速30m/s)、車両を停止させるという運行管理方法が採用されていた。
【0005】
このような運行管理方法は、車両の安全な運行を行う上では何ら問題はないが、上述した運行規制は、過去に起きた事故などの経験から規制風速値が設定されており、風規制に対して車両が転覆する可能性があることを示す転覆限界風速と比較してどの程度安全余裕を有しているのか定量的な検討がなされていないものである。同様に、規制風速値に対する走行速度についてもどの程度の走行速度まで速度を落として徐行を行うかについても過去の経験から定められているため、安全余裕を考慮して設定されている訳ではない。そのため、過度に安全余裕が見込まれて、車両の安定的な輸送が阻害されている可能性があった。
【0006】
また、近年の車両は、騒音や振動などの環境問題や省エネルギーなどの観点から軽量化が進められ、加えて利便性の向上から高速化が進められている。車両の軽量化や高速化は、強風による車両の転覆に対して、不利な条件となるため、このような軽量化や高速化がなされた車両については、強風に対する車両の走行安全性を精度良く評価することは重要となってきている。
【0007】
そこで、本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、車両の規制風速及び規制速度の決定について、強風に対する安全性を評価する指標を用いて安全かつ安定的に車両の運行を行うことができる車両の規制風速決定方法及び規制速度決定方法、並びに規制速度決定手段を有する車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明にかかる車両の規制風速決定方法は、風速を決定又は測定する第1工程と、走行速度を決定又は測定する第2工程と、走行区域の条件及び車両の種類から最小転覆限界風速を計算する計算工程と、を備え、前記風速と前記走行速度の関係において、前記風速及び前記走行速度が、前記最小転覆限界風速を超えないように規制風速が決定され、前記規制風速は、任意の前記走行速度に応じて多段階に決定されることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る車両の規制風速決定方法において、前記風速は、前記車両に取り付けられた風速計によって測定されると好適である。
【0010】
また、本発明に係る車両の規制風速決定方法において、前記規制風速は、前記走行速度と前記風速との関係において、前記最小転覆限界風速と前記規制風速との差の分布を積分した面積ができるだけ小さくなるように決定されると好適である。
【0011】
また、本発明に係る車両の規制風速決定方法において、前記規制風速は、任意の前記走行速度における前記最小転覆限界風速との差ができるだけ小さくなるように決定されると好適である。
【0013】
また、本発明に係る車両の規制風速決定方法において、前記計算工程は、前記走行区域の条件及び前記車両の種類に区分して複数の最小転覆限界風速を計算し、前記複数の最小転覆限界風速のうち、少なくとも2以上の計算結果を重畳する重畳工程を備えると好適である。
【0014】
また、本発明に係る車両の規制速度決定方法は、風速を決定又は測定する第1工程と、走行速度を決定又は測定する第2工程と、走行区域の条件及び車両の種類から最小転覆限界風速を計算する計算工程と、を備え、前記風速と前記走行速度の関係において、前記風速が、前記最小転覆限界風速を超えないように規制速度が決定され、前記規制風速は、任意の前記走行速度に応じて多段階に決定されることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る車両は、風速を測定する第1手段と、走行速度を測定する第2手段と、現在の走行位置を特定する第3手段と、現在走行している走行区域の条件及び車両の種類から最小転覆限界風速を計算する計算手段と、を備え、前記風速と前記走行速度の関係において、前記風速が、前記最小転覆限界風速を超えないように規制速度が決定され、前記規制風速は、任意の前記走行速度に応じて多段階に決定される走行速度決定手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る車両の規制風速決定方法,規制速度決定方法、及び規制速度決定手段を有する車両によれば、車両の任意の時点における風速と走行速度が予め計算された最小転覆限界風速を超えないように規制風速を決定するので、安全余裕を十分に考慮した安定輸送を実施することができる。
【0017】
また、本発明に係る車両の規制風速決定方法によれば、風速を車両に取り付けた風速計によって測定するので、車両が受ける実際の風速を測定することで、より精度よく規制風速を決定することができ、車両の安定かつ安全輸送に寄与することができる。
【0018】
また、本発明に係る車両の規制風速決定方法によれば、規制風速は、走行速度と風速との関係において、最小転覆限界風速と規制風速との差の分布を積分した面積ができるだけ小さくなるように決定されるので、定量的な規制風速の評価を行うことができる。
【0019】
また、本発明に係る車両の規制風速決定方法によれば、規制風速は、任意の走行速度における最小転覆限界風速との差ができるだけ小さくなるように決定されるので、定量的な規制風速の評価を行うことができる。
【0020】
また、本発明に係る車両の規制風速決定方法によれば、規制風速は、任意の走行速度に応じて多段階に決定されるので、規制風速が最小転覆限界風速に対してどの程度安全余裕があるのかを定量的に確認しながら規制風速値を決定できるので、走行速度を安全余裕を定量的に検討しながら決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施形態にかかる車両の規制風速及び規制速度決定方法を実施する際の状況の一例を説明するための図。
図2】本実施形態に係る車両の規制風速及び規制速度決定方法のフロー図。
図3】計算工程のフロー図。
図4】車両が受ける自然風の風向角を説明するための図。
図5】自然風の風向角と転覆限界風速の関係の一例を示すグラフ。
図6】走行速度と最小転覆限界風速の関係の一例を示すグラフ。
図7】規制風速の決定方法を示す図。
図8】三段階風規制を設定した場合の一例を示す図。
図9】無段階風規制を設定した場合の一例を示す図。
図10】本実施形態に係る車両の規制風速及び規制速度決定方法の適用例を示す図。
図11】従来の風規制を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本願発明の実施形態にかかる車両の規制風速及び規制速度決定方法について図面を用いて詳細に説明する。
【0023】
図1は、本実施形態にかかる車両の規制風速及び規制速度決定方法を実施する際の状況の一例を説明するための図であり、図2は、本実施形態に係る車両の規制風速及び規制速度決定方法のフロー図であり、図3は、計算工程のフロー図であり、図4は、車両が受ける自然風の風向角を説明するための図であり、図5は、自然風の風向角と転覆限界風速の関係の一例を示すグラフであり、図6は、走行速度と最小転覆限界風速の関係の一例を示すグラフであり、図7は、規制風速の決定方法を示す図であり、図8は、三段階風規制を設定した場合の一例を示す図であり、図9は、無段階風規制を設定した場合の一例を示す図であり、図10は、本実施形態に係る車両の規制風速及び規制速度決定方法の適用例を示す図である。
【0024】
図1に示すように、本実施形態にかかる車両の規制風速及び規制速度決定方法は、例えば、出発点であるA駅から目的点であるB駅まで走行する鉄道車両の速度を決定する場合に用いられる。次に、図2に示すように、風速,走行速度を測定又は決定し(第1工程及び第2工程)、構造物や軌道の線形等に応じた最小転覆限界風速を計算する(計算工程)。最小転覆限界風速とは、車両が横風を受けた場合に風上側の車輪がレールから浮き上がり、車両が転覆する可能性が生じる風速のうち最も小さい風速値をいい、具体的には、車両に横風などが作用すると風上側の輪重が減少し始め、ある風速に達したときに風上側の輪重がゼロになったときの風速をいう。なお、本実施形態にかかる車両の規制風速決定方法は、図1に示すような状況において用いられることに限定されることはなく、鉄道車両以外の車両、例えば自動車などに適用することも可能である。
【0025】
図2に示すように、本実施形態にかかる車両の規制風速及び規制速度決定方法にあっては、車両に取り付けられた風速計によって車両が受ける風速を測定するか、予め設定された風速を決定する第1工程(S101)と、車両の走行速度を測定するか、予め設定された走行速度を決定する第2工程(S102)と、最小転覆限界風速を計算する計算工程(S103)を備え、これらの風速値や走行速度が予め計算された最小転覆限界風速を超えないように規制風速又は規制速度を決定する工程(S104)とを備えている。
【0026】
転覆限界風速は、任意の地点の周辺の構造物、当該地点の軌道の線形及び走行する車両の形状から求めることができる。したがって、図1に示すように、A駅からB駅までの区間を構造物の種別や軌道の線形によって区分けし、それぞれの区間において最小転覆限界風速を計算すると好適である。なお、図3に示すように、計算工程(S103)では、車両の位置を決定又は測定する第3工程(S105)と、当該位置における周辺の構造物や軌道の線形並びに走行する車両の種類を特定する工程(S106)と、構造物、線形及び車両の種類から最小転覆限界風速を計算する工程(S107)とを備えている。なお、転覆限界風速の具体的な計算方法については、車両に働く外力による車輪及び軌道の接触点周りのモーメントのつり合いから転覆の危険率を求めるものであり、その詳細な計算は種々の計算方法によって求めることが可能である。
【0027】
最小転覆限界風速について詳述すると、最小転覆限界風速とは、ある走行速度での風向角と転覆限界風速との関係において、転覆を開始する可能性のある風速の最小値のことをいい、図4に示すように、車両10が受ける自然風の風向角αと転覆限界風速の関係を用いて最小転覆限界風速と走行速度との関係を求める。転覆限界風速は、図5に示すように、走行する区間の構造物や線形及び走行する車両の形状に応じて各走行速度毎に自然風の風向角と転覆限界風速の関係から求めることができる。具体的には、図4に示すように、鉄道車両の進行方向とのなす角を自然風の風向角αとし、この風向角αで自然風を受けた場合に各走行速度に対して車両が転覆する(風上側の車輪の輪重がゼロとなる)風速w(m/s)を算出したものである。
【0028】
次に、ある走行速度での風向角と転覆限界風速との関係において、転覆限界風速の最小値を当該走行速度における最小転覆限界風速を求め、走行速度と最小転覆限界風速との関係を求める。図6は、図5で算出された走行速度のうち当該走行速度で最小となる転覆限界風速の風速値を最小転覆限界風速wとしてプロットしたものである。
【0029】
次に、規制風速及び規制速度を決定する方法について説明を行う。図7に示すように、本実施形態に係る車両の規制風速決定方法では、横軸に風速、縦軸に走行速度をとるグラフを用い、上述した手法で求められた最小転覆限界風速Wcをグラフにプロットする。
【0030】
このとき、任意の走行速度において風速が最小転覆限界風速Wcを超えた場合には、車両が転覆する可能性が生じることから、任意の走行速度において風速が最小転覆限界風速Wcを超えないように規制風速Wr及び規制速度を決定することで、安全な車両の運行を実現することが可能となる。
【0031】
なお、風速の測定方法にあっては、上述したように予め車両に働く風速や走行速度を決定して転覆限界風速を算出するほか、車両や走行区間に備え付けられた風速計や速度計などから得られた風速や速度を用いて車両の走行に応じてリアルタイムに規制風速及び規制速度を決定しても構わない。この場合その測定手段は、特に限定されることはなく、従来公知の種々の風速測定手段を採用することができ、具体的には、風速計(例えば、三杯式風速計、プロペラ型風速計、超音波風速計)などを設置してもよいし、リモートセンシング(例えば、ドップラーレーダー、ドップラーライダー)で風速を面的に測定してもよい。これらの風速測定手段は地上に設置してもよいし、走行中の車両に設置してもよい。風速を測定するタイミングについても特に限定されることはなく、走行中の車両上において常時測定をしてもよく、地上の風速測定手段で所定の間隔をおいて、例えば1秒毎など定期的に測定してもよい。なお、風速計は、車両に設置すると車両が実際に受けている風速で風規制を評価することができるので、より好適である。
【0032】
また、走行速度の測定にあっても特に測定方法は限定されず、従来公知の種々の走行速度測定手段を採用することが可能である。また、走行速度を測定するタイミングについても特に限定されることはなく、走行中の車両上において常時測定をしてもよく、地上の走行速度測定手段で所定の間隔をおいて、例えば1秒毎など定期的に測定してもよい。
【0033】
また、規制風速Wrの決定方法は、最小転覆限界風速Wcと規制風速Wrとの差が安全の余裕分となることから、最小転覆限界風速Wcと規制風速Wrとの差の分布を積分した面積Sを安全余裕と定義することができ、この安全余裕が大きければ十分安全であるが、過度に安全余裕を見込むと風規制が頻繁に発令されて安定輸送を阻害することが定量的に把握できる。即ち、安全余裕を適切に設定することで安定輸送を阻害することなく安全な走行速度を定量的に設定することが可能となる。
【0034】
さらに、安全余裕は、最小転覆限界風速Wcと規制風速Wrとの差の分布を積分した面積Sから評価する以外に、任意の走行速度における最小転覆限界風速Wcと規制風速Wrの差(図7における横軸の距離)から求めることもできる。
【0035】
このように決定された風規制は、例えば図8に示すように、最小転覆限界風速Wcを超えないように、多段階に設定すると好適である。具体的には、風速が25m/sを超えた場合には、走行速度を70km/hまで落として走行し、風速が30m/sを超えた場合には、走行速度を20km/hで徐行し、風速が35m/sを超えた場合に車両を停止するといった風規制を実現することができる。
【0036】
また、図9に示すように、最小転覆限界風速Wcの傾きに沿って無段階に風規制を設定することも可能である。この場合、観測風速が35m/sの場合、走行速度が20km/hに設定され、安全余裕を極小化して安全かつ安定的な車両の運行を実現することが可能となる。
【0037】
このような本実施形態にかかる車両の規制風速決定方法によれば、従来の方法と異なり、現在の風速と走行速度との関係において、最小転覆限界風速を超えないように風速や走行速度を決定するので、定量的な風規制の評価が可能となり、安全余裕を見込んだ安定輸送を実現することが可能となる。
【0038】
次に、本実施形態に係る規制風速及び規制速度の決定方法の具体的な適用例について図10を参照して説明を行う。まず、本適用例は、図10(a)に示すように、図1における区間1〜7を車両a及び車両bが走行する場合に適用した場合について説明を行うものである。ここで、区間1〜7のそれぞれについて、車両a及び車両bについて、上述した第1工程(S101)、第2工程(S102)及び計算工程(S103)を用いて最小転覆限界風速c1a〜Wc7a並びにWc1b〜Wc7bを算出する。
【0039】
そして、算出された最小転覆限界風速Wc1a〜Wc7a並びにWc1b〜Wc7bに最も適した規制風速Wr1a〜Wr7a並びにWr1b〜Wr7bを決定する。
【0040】
このように、走行する車両や区間に応じて規制風速を設定することで、安全余裕が適切に設定され、安定輸送を阻害することなく安全な走行速度を定量的に設定することが可能となる。しかし、区間や車両に応じて規制風速を決定する場合は、規制風速の運用が極めて煩雑となる場合がある。この場合には、例えば、任意の項目ごとに規制風速を設定すればより簡潔な運用を行うことが可能となる。
【0041】
具体的には、図10(b)に示すように、車両に対して規制風速を決定する方法が採用できる。これは、図10(a)で算出された区間1〜7に対応する最小転覆限界風速Wc1a〜Wc7aを重畳させる重畳工程によって重畳された包絡線を求め、その包絡線に対して規制風速を設定している。
【0042】
このように規制風速を設定すれば、当該区間を走行する車両ごとに規制風速を設定することができるので、簡潔で安全余裕も十分に見込んだ安定輸送を行うことが可能となる。
【0043】
また、図10(c)に示すように、各区間ごとに規制風速を決定しても構わない。この適用方法によれば、走行する車両の種類に限らずに規制風速を適用することができるので、より簡潔で安全余裕も十分に見込んだ安定輸送を行うことが可能となる。
【0044】
さらに、図10(d)に示すように、対象区間の全ての最小転覆限界風速を重畳して求めた包絡線に対して規制風速Wrを決定しても構わない。この場合、走行する車両や走行する区間に限らずに一律に規制風速を適用することができるので、更に簡潔で安全余裕も十分に見込んだ安定輸送を行うことが可能となる。
【0045】
なお、本実施形態に係る車両の規制風速決定方法は、最小転覆限界風速に対して規制風速を設定する方法について説明を行ったが、規制風速を先に設定し、最小転覆限界風速が規制風速を上回っているか否かという車両の安全性の評価にも活用しても構わないし、最小転覆限界風速が規制風速を超えるように車両の設計又は選定を行うことも可能である。また、本実施形態に係る車両の規制風速及び規制速度を決定方法では最小転覆限界風速を用いて規制風速や規制速度の決定を行ったが、最小転覆限界風速の代わりに同様な基準風速を用いることも本発明の範囲に含まれる。また、本実施形態に係る車両の規制風速決定方法は、横軸に風速、縦軸に走行速度を取ったグラフを用いた場合について説明を行ったが、縦横軸をそれぞれ逆に取ったグラフを用いても構わない。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0046】
10 車両, α 風向角, Wr 規制風速, Wc 最小転覆限界風速。






図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11