特許第6934119号(P6934119)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6934119樹脂充填繊維基材、繊維強化複合材料及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6934119
(24)【登録日】2021年8月24日
(45)【発行日】2021年9月8日
(54)【発明の名称】樹脂充填繊維基材、繊維強化複合材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20210826BHJP
   B29C 70/16 20060101ALI20210826BHJP
   B29C 70/42 20060101ALI20210826BHJP
   D06M 15/564 20060101ALI20210826BHJP
【FI】
   C08J5/04CFF
   B29C70/16
   B29C70/42
   D06M15/564
【請求項の数】14
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2020-572350(P2020-572350)
(86)(22)【出願日】2020年2月14日
(86)【国際出願番号】JP2020005886
(87)【国際公開番号】WO2020166716
(87)【国際公開日】20200820
【審査請求日】2021年3月1日
(31)【優先権主張番号】特願2019-25613(P2019-25613)
(32)【優先日】2019年2月15日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 成相
【審査官】 岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/067711(WO,A1)
【文献】 特開平06−192436(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0108188(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04− 5/10,5/24
B29B 11/16
B29B 15/08−15/14
D06M 15/564
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材の繊維間の空間に、架橋剤が添加された充填用の熱可塑性ポリウレタンが充填されて構成され、前記充填用の熱可塑性ポリウレタンの前記繊維基材への付与量は、前記繊維基材100質量部に対し固形分換算で5質量部以上35質量部以下であり、
前記架橋剤は、オキサゾリン基含有化合物とカルボジイミド基含有化合物とのうちの少なくとも一方を含む、樹脂充填繊維基材。
【請求項2】
前記充填用の熱可塑性ポリウレタンの前記繊維基材への付与量は、前記繊維基材100質量部に対し固形分換算で10質量部以上20質量部以下であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂充填繊維基材。
【請求項3】
前記架橋剤の添加量は、前記繊維基材100質量部に対し固形分換算で0.1質量部以上2.0質量部以下であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂充填繊維基材。
【請求項4】
前記架橋剤の添加量は、前記繊維基材100質量部に対し固形分換算で0.4質量部以上1.0質量部以下であることを特徴とする請求項3に記載の樹脂充填繊維基材。
【請求項5】
前記繊維基材は、シート状又は糸束状であり、前記樹脂充填繊維基材はシート状又は紐状であることを特徴とする請求項1から4のうちいずれか1項に記載の樹脂充填繊維基材。
【請求項6】
前記充填用の熱可塑性ポリウレタンの粒子の平均粒径は、0.01μm以上0.2μm以下であることを特徴とする請求項1から5のうちいずれか1項に記載の樹脂充填繊維基材。
【請求項7】
請求項1からのうちいずれか1項に記載の前記樹脂充填繊維基材と熱可塑性樹脂で構成されたマトリックス樹脂が積層されて構成されていることを特徴とする繊維強化複合材料。
【請求項8】
前記マトリックス樹脂は、ポリプロピレンであることを特徴とする請求項に記載の繊維強化複合材料。
【請求項9】
請求項又はに記載の繊維強化複合材料で成形されていることを特徴とする繊維強化複合材料成形品。
【請求項10】
繊維基材に、充填用の熱可塑性ポリウレタンの粒子を水系媒体中に分散させた水系樹脂分散体及び架橋剤であるオキサゾリン基含有化合物とカルボジイミド基含有化合物とのうちの少なくとも一方を付与し、乾燥処理をして水系媒体を除去して、前記繊維基材の繊維間の空間に、前記架橋剤が添加された前記充填用の熱可塑性ポリウレタンを充填し、前記充填用の熱可塑性ポリウレタンを前記繊維基材100質量部に対し固形分換算で5質量部以上35質量部以下付与して成形することを特徴とする樹脂充填繊維基材の製造方法。
【請求項11】
前記架橋剤の添加量は、前記繊維基材100質量部に対し固形分換算で0.1質量部以上2.0質量部以下であることを特徴とする請求項10に記載の樹脂充填繊維基材の製造方法。
【請求項12】
前記繊維基材は、シート状又は糸束状であり、前記樹脂充填繊維基材はシート状又は紐状であることを特徴とする請求項10又は11に記載の樹脂充填繊維基材の製造方法。
【請求項13】
請求項10から12のうちいずれか1項に記載の樹脂充填繊維基材の製造方法で成形された樹脂充填繊維基材とマトリックス樹脂とを積層し、加圧すると共に加熱して、前記樹脂充填基材とマトリックス樹脂とを一体化して成形することを特徴とする繊維強化複合材料の製造
方法。
【請求項14】
請求項13に記載の繊維強化複合材料の製造方法で成形された繊維強化複合材料を単独で、積層し又は引き揃え、加圧下で加熱すると同時に所定の形状に成形することを特徴とする繊維強化複合材料成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2019年2月15日に出願された日本出願番号2019−025613号に基づくもので、ここにその記載内容を援用する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、樹脂充填繊維基材、繊維強化複合材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
従来から合成樹脂に炭素繊維やガラス繊維を添加して合成樹脂製品の引張強度等の物性を高める繊維強化複合材料が使用されている。そして、繊維強化複合材料のマトリックス樹脂としてはエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が主に使用されていた(特許文献1参照)。
【0004】
しかし、マトリックス樹脂として熱硬化性樹脂を使用した場合、繊維強化複合材料の成形時に熱硬化性樹脂の化学反応(硬化反応)を伴うので、硬化に時間がかかり、成形に要する時間が長くなり、生産性が低いという問題点があった。又、熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂として使用した繊維強化複合材料の中間生産品をプレス等により形状変更する再加工が容易ではないという問題点があった。
【0005】
一方、熱可塑性樹脂は熱硬化性樹脂と異なり、繊維強化複合材料の成形時に化学反応(硬化反応)を伴わないので、成形に要する時間を短縮することが出来ること、又、成形中間加工品を積層して加圧加熱することにより任意の形状に加工できること、更に、溶融することにより容易に別の形状の成形品に加工できるので、繊維強化複合材料のマトリックス樹脂として熱可塑性樹脂が使用され始めている。
【0006】
又、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として使用した場合に繊維との親和性が低く、繊維強化複合材料の強度が低いということから、繊維表面に熱可塑性樹脂と繊維との親和性を向上させる集束剤、サイジング剤を処理する技術が提案されている(特許文献2〜4)。
【0007】
従来、熱可塑性樹脂を用いた繊維強化複合材料の成形では、補強繊維を10mm以下程度に切断して、短繊維として、熱可塑性樹脂ペレットと混合してエクストルーダーを用いて押し出して金型で成形する方法が一般的である。しかし、このような材料・方法によると、補強繊維がエクストルーダー内でさらに短く且つランダムに配向するので、繊維の強度や弾性率を効率的に繊維強化複合材料に活用することは出来なかった。補強繊維の性能を有効に活用するためには、連続した長繊維を補強材として、連続繊維からなる基材に樹脂を付与して繊維強化複合材料を製造することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−132863号公報
【特許文献2】特開2006−124847号公報
【特許文献3】特開2011−21281号公報
【特許文献4】特開2011−214175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
マトリックス樹脂と繊維との親和性以外に繊維強化複合材料の性能に影響するものの1つとして、繊維強化複合材料の内部の空隙(ボイド)の量が挙げられる。そして、ボイドの量が少ないほど引張強度等の物性を高めることが出来るので、ボイドの量を少なくすることが望ましい。しかし、繊維強化複合材料に使用される補強繊維の形態は、直径が5〜10μm程度の単糸を数千本〜数万本束ねて構成する糸束であるので、成形に使用される樹脂の粘度が高いと、糸束内の単糸間や糸束間の隙間に樹脂を侵入させて埋め込むことが困難であり、ボイドが多く形成されて、力学特性の優れた繊維強化複合材料を成形することが困難となる。
【0010】
そして、熱可塑性樹脂の場合、熱硬化性樹脂の硬化前の粘度と比較して溶融粘度が高いので、単糸間や糸束間の隙間への樹脂の含浸が困難であり、特に強化繊維として連続した長繊維を用いた、繊維束の織物や不織布状の基材を用いた場合、ボイドのない繊維強化複合材料を生産することが困難であった。
【0011】
尚、特許文献1に記載の発明は、50℃における粘度が1,000ポイズを超え、20,000ポイズ以下のエポキシ樹脂と、オキシアルキレン単位を有するポリオールとポリイソシアネートとから得られる水酸基を有するウレタン化合物とからサイジング剤を形成し、該サイジング剤で炭素繊維を処理することに関する発明であり、サイジング剤の付着量が固形分換算で0.1〜10重量%である炭素繊維が開示されている。しかし、サイジング剤のこの程度の付着量では、連続繊維で構成する糸束の単糸間や糸束間の空隙を完全に埋め得る量ではなく、ボイドのない繊維強化複合材料を成形することが困難であった。
【0012】
又、特許文献2、3及び4に記載の発明は、連続繊維束に変成ポリオレフィンを集束剤として付与し、マトリックス樹脂としての熱可塑性樹脂と繊維との親和性を向上させる技術である。
【0013】
そして、特許文献2〜4に記載された技術は、集束剤の付与量が繊維に対して1〜10質量%であり、単糸間の隙間を完全に埋めて充填することが出来る量ではなく、単糸同士を点接触で連結させるものにすぎず、ボイドのない繊維強化複合材料を成形することが困難であった。又、乾燥処理をすると変成ポリオレフィンが熱硬化するので、熱可塑性樹脂をマトリックスとした連続繊維強化複合材料用の繊維基材に適用することは出来なかった。
【0014】
しかし、熱硬化性樹脂に比べ、成形容易等の熱可塑性樹脂の優位性から、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として用いた繊維強化複合材料を自動車等の軽量化の手段として適用することが強く要望されている。
【0015】
そこで、本開示は、強化繊維を用いて成形する、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とした繊維強化複合材料においてボイドの発生を防止し、強度及び弾性率等の力学特性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するための手段としての本開示は、繊維基材の繊維間の空間に、架橋剤が添加された充填用の熱可塑性ポリウレタンが充填されて構成され、前記充填用の熱可塑性ポリウレタンの前記繊維基材への付与量は、前記繊維基材100質量部に対し固形分換算で5質量部以上35質量部以下であることを特徴とする樹脂充填繊維基材であってもよい。
【0017】
又、上記樹脂充填繊維基材において、前記充填用の熱可塑性ポリウレタンの前記繊維基材への付与量は、前記繊維基材100質量部に対し固形分換算で10質量部以上20質量部以下であることを特徴とする樹脂充填繊維基材としてもよい。
【0018】
又、上記樹脂充填繊維基材において、前記架橋剤の添加量は、前記繊維基材100質量部に対し固形分換算で0.1質量部以上2.0質量部以下であることを特徴とする樹脂充填繊維基材としてもよい。
【0019】
又、上記樹脂充填繊維基材において、前記架橋剤の添加量は、前記繊維基材100質量部に対し固形分換算で0.4質量部以上1.0質量部以下であることを特徴とする樹脂充填繊維基材としてもよい。
【0020】
又、上記樹脂充填繊維基材において、前記繊維基材は、シート状又は糸束状であり、前記樹脂充填繊維基材はシート状又は紐状であることを特徴とする樹脂充填繊維基材としてもよい。
【0021】
又、上記樹脂充填繊維基材において、前記充填用の熱可塑性ポリウレタンの粒子の平均粒径は、0.01μm以上0.2μm以下であることを特徴とする樹脂充填繊維基材としてもよい。
【0022】
又、上記樹脂充填繊維基材において、前記架橋剤は、オキサゾリン基含有化合物とカルボジイミド基含有化合物とのうちの少なくとも一方を含むことを特徴とする樹脂充填繊維基材としてもよい。
【0023】
又、上記樹脂充填繊維基材と熱可塑性樹脂で構成されたマトリックス樹脂が積層されて構成されていることを特徴とする繊維強化複合材料であってもよい。
【0024】
又、上記繊維強化複合材料において、前記マトリックス樹脂は、ポリプロピレンであることを特徴とする繊維強化複合材料としてもよい。
【0025】
又、上記繊維強化複合材料で成形されていることを特徴とする繊維強化複合材料成形品であってもよい。
【0026】
更に、繊維基材に、充填用の熱可塑性ポリウレタンの粒子を水系媒体中に分散させた水系樹脂分散体及び架橋剤を付与し、乾燥処理をして水系媒体を除去して、前記繊維基材の繊維間の空間に、前記架橋剤が添加された前記充填用の熱可塑性ポリウレタンを充填し、前記充填用の熱可塑性ポリウレタンを前記繊維基材100質量部に対し固形分換算で5質量部以上35質量部以下付与して成形することを特徴とする樹脂充填繊維基材の製造方法であってもよい。
【0027】
又、上記樹脂充填繊維基材の製造方法において、前記架橋剤の添加量は、前記繊維基材100質量部に対し固形分換算で0.1質量部以上2.0質量部以下であることを特徴とする樹脂充填繊維基材の製造方法としてもよい。
【0028】
又、上記樹脂充填繊維基材の製造方法において、前記繊維基材は、シート状又は糸束状であり、前記樹脂充填繊維基材はシート状又は紐状であることを特徴とする樹脂充填繊維基材の製造方法としてもよい。
【0029】
又、上記樹脂充填繊維基材の製造方法で成形された樹脂充填繊維基材とマトリックス樹脂とを積層し、加圧すると共に加熱して、前記樹脂充填基材とマトリックス樹脂とを一体化して成形することを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法としてもよい。
【0030】
又、繊維強化複合材料の製造方法で成形された繊維強化複合材料を単独で、積層し又は引き揃え、加圧下で加熱すると同時に所定の形状に成形することを特徴とする繊維強化複合材料成形品の製造方法としてもよい。
【0031】
以上のような本開示によれば、繊維基材の繊維間の空間に充填用の熱可塑性ポリウレタンが充填されると共に充填用熱可塑性ポリウレタンに架橋剤が添加されているので、繊維間に合成樹脂を隙間なく充填させることが可能となると共に、繊維間に充填させた合成樹脂を強固に保持することが出来るので、強化繊維を用いて成形する熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とした繊維強化複合材料においてボイドの発生を防止し、繊維強化複合材料の強度や剛性などの力学特性を高めることが可能となった。
【0032】
又、成形が容易で、形体自由度の高い繊維強化複合材料を実現することが出来た。又、この繊維強化複合材料は熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として用いているので、再加熱して所望の形状の繊維強化複合材料に再成形することが容易となった。そして、これらの繊維強化複合材料の特性を生かして、自動車の躯体等に適用することにより、自動車の軽量化が出来、燃費を向上させることが出来た。
【0033】
又、熱可塑性樹脂は化学反応を伴わないので、繊維間に樹脂を短時間で含浸させることが出来るので、繊維強化複合材料の成形サイクルを短縮出来、生産性向上によりコストダウンが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下本開示の実施の一形態を説明する。本開示の樹脂充填繊維基材は、繊維基材の繊維間の空間に、架橋剤が添加された充填用の熱可塑性ポリウレタンが充填されて構成され、充填用の熱可塑性ポリウレタンの繊維基材への付与量は、繊維基材100質量部に対し5質量部以上35質量部以下である樹脂充填繊維基材である。ここで、繊維間とは単糸間及び単糸を束ねた糸束間を意味する。又、本開示の繊維強化複合材料は、本開示の樹脂充填繊維基材と熱可塑性樹脂で構成されたマトリックス樹脂が積層されて構成されている繊維強化複合材料である。又、本開示の繊維強化複合材料成形品は、1個又は2個以上の本開示の繊維強化複合材料で所定の形状に成形された成形品である。
【0035】
繊維基材は、合成樹脂の強化用の繊維を用いて構成する繊維強化複合材料の骨格部分であり、繊維及び繊維基材は熱可塑性樹脂で構成されるマトリックス樹脂を補強するためのものである。繊維基材の形状は特に限定されないが、シート状又は糸束状とすることが出来る。
【0036】
シート状の繊維基材の形態としては、これに限定されないが、単糸又は複数本の単糸を束状にした糸束を編んだ編物、単糸又は糸束を織った織物、単糸を織らずに接着又は絡み合わせた不織布又は単糸又は糸束を一方向に引き揃えた状態の物、すだれ状物、紙状物等が挙げられる。糸束状の繊維基材の形態としては、これに限定されないが、複数本の単糸を編んで、或いは編まないで束状にした糸束、複数本の糸束を編んで、或いは編まないで束状にした物等が挙げられる。
【0037】
編物、織物、糸束状及び一方向に引き揃えた状態の繊維基材の場合、繊維は繊維基材の一端から他端まで連続した繊維を用いることが好ましく、不織布の場合にも繊維基材の一端から他端まで連続する長さ以上の繊維を用いることが好ましい。即ち、繊維強化複合材料の補強を行う部分には連続した長繊維を用いることが好ましい。このような構成とすることで、繊維強化複合材料の強度を高めることが可能となる。又、繊維基材の厚さは、繊維強化複合材料以下の厚さであれば特に限定されない。
【0038】
熱可塑性樹脂の補強材としての繊維は、特に限定されないが、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ビニロン繊維、PBO繊維等を使用することが出来る。又、これらの繊維は1種のみの使用でもよいが、2種以上を併用してもよい。繊維の直径は特に限定されないが、5〜10μmのものを使用することが出来る。尚、単糸を束状にした糸束は、特に限定されないが、単糸を1,000〜50,000本程度を束ねたものを使用することが出来る。
【0039】
繊維基材の繊維間の空間には、架橋剤が添加された充填用の熱可塑性ポリウレタンが充填されている。
【0040】
充填用の熱可塑性ポリウレタンは、繊維基材の繊維間の空間を埋めて繊維強化複合材料のボイドの発生を防止するためのものであり、又、繊維強化複合材料の変位に対して応力を高めるためのものである。繊維基材の繊維間の空間に充填する充填用の熱可塑性樹脂として熱可塑性ポリウレタンを用いるのは、乾燥状態で単糸間をつなぐことのできる製膜性が良いからである。更に、熱可塑性ポリウレタンは、マトリックスとして使用する熱可塑性樹脂との接着力が高いからである。又、充填用の熱可塑性樹脂は、耐熱性が高いほど好ましく、少なくともマトリックス樹脂の耐熱性以上の耐熱性を有することが好ましいので、耐熱性に優れた熱可塑性ポリウレタンが好ましいからである。更に、繊維強化複合材料は1層或いは複数層に積層して他の形状に再形成するので、充填用の熱可塑性樹脂が乾燥又は硬化した後にも熱可塑性を有することが好ましく、充填用の熱可塑性樹脂として熱可塑性ポリウレタンは、乾燥又は硬化した後にも充分な熱可塑性を有して平板状等の繊維強化複合材料を、曲面を有する製品等に再成形することが容易であるので好ましいからである。
【0041】
又、充填用の熱可塑性ポリウレタンを繊維基材の繊維間の空間に充填する際の形態としては、特に限定されないが、繊維間の空間に確実且つ均一に充填するために、熱可塑性ポリウレタンの粒子を水媒体中に分散させた水系樹脂分散体の形態とすることが好ましい。
【0042】
熱可塑性ポリウレタンの粒子の平均粒径は特に限定されないが、繊維間に均一に充填するために、0.01〜1μm程度とすることが出来るが、繊維基材の繊維間の空間に短時間で充填するために、又、均一に充填させるため、繊維直径の1/10以下が好ましい。具体的には、繊維の直径は通常5〜10μmであるので0.5μm以下が好ましく、より好ましくは0.1μm以下、更により好ましくは0.03μm以下である。熱可塑性ポリウレタンの粒子の平均粒径は、0.01μm以上0.2μm以下であることが好ましい。なお、熱可塑性ポリウレタンの粒子の平均粒径とは、レーザー回析光散乱法により測定された50%粒子径(D50)を意味している。
【0043】
熱可塑性ポリウレタンの粒子を水に分散させた水系樹脂分散体の不揮発分の濃度は特に限定されないが、単糸間の空間に充填用の熱可塑性樹脂が行き渡り易くし、且つ単糸間の空間を完全に埋めるために、粘度が低いことが好ましい一方、濃度が濃いことが好ましいので、水系樹脂分散体中の熱可塑性樹脂の粒子の質量割合は、20〜40質量%が好ましく、更に好ましくは25〜36質量%が好ましい。
【0044】
充填用の熱可塑性ポリウレタンは、ポリオールは特に限定されず、ポリエーテル系、ポリエステル系又はポリカーボネート系等が使用されるが、特に、耐熱性に優れた高硬度の被膜を形成可能であるので、ポリエーテル系が好ましい。
【0045】
充填用の熱可塑性ポリウレタンの繊維基材への付与量は、繊維基材の繊維間の空間をより多く埋め得る量が好ましく、更には、完全に繊維基材の繊維間の空間を埋める以上の量がより好ましい。ここで、繊維束を構成する単糸の断面を円とし、繊維束中の単糸が細密充填状態にあるとすると、単糸間の空間の体積は次の式1で計算される。
(式1)100×(31/2−π/2)/(π/2)=10.2
【0046】
従って、充填用の熱可塑性ポリウレタンは、繊維束、即ち繊維基材の体積に対して10.2%の体積の量を付与することにより、完全に繊維基材の繊維間の空間を埋めることが可能となる。そこで、充填用の熱可塑性ポリウレタンの繊維基材への付与量は、繊維基材の体積に対して体積換算で、繊維基材の材質にもよるが、10〜37%とすることが出来るが、10%〜30%が好ましい。30%より多いと経済性が損なわれ、繊維基材の材質によっては、一部の条件では、力学特性が低下する場合があるからである。
【0047】
しかし、実際には単糸間の単糸表面を充填用の熱可塑性ポリウレタンで覆うことが好ましいと共に繊維束の外表面即ち繊維基材の外表面への過度な被覆を避けてマトリックス樹脂の特性を出させるために、又、ボイドのない熱可塑性樹脂複合材料を得るためには、充填用の熱可塑性ポリウレタンの繊維基材への付与量は、単糸間の空間を埋めるために必要とする体積以上の樹脂を連続繊維基材に付与することが好ましく、繊維基材の体積に対して、体積換算で11%〜30%の付与量がより好ましい。また、充填用の熱可塑性ポリウレタンの繊維基材への付与量は、繊維基材の体積に対して、体積換算で11%〜20%の付与量がさらに好ましい。
【0048】
そして、充填用の熱可塑性樹脂として熱可塑性ポリウレタンを用いた場合、充填用の熱可塑性ポリウレタンの繊維基材への付与量は、繊維基材100質量部に対し固形分換算で5質量部以上35質量部以下の付与量が好ましい。充填用の熱可塑性ポリウレタンの繊維基材への付与量は、繊維基材100質量部に対し固形分換算で5質量部以上30質量部以下の付与量が好ましい。また、熱可塑性ポリウレタンの繊維基材への付与量は、強度及び弾性率等の力学特性を向上させる観点から、繊維基材100質量部に対し固形分換算で、8質量部以上25質量部以下であることがさらに好ましく、10質量部以上20質量部以下であることがより一層好ましい。
【0049】
そして、充填用の熱可塑性ポリウレタンを繊維基材の繊維間の空間に充填させる方法としては、特に限定されないが、熱可塑性ポリウレタンの粒子を水系媒体中に分散させた水系樹脂分散体を用いて、公知のスプレー法、浸漬法、ローラー含浸法等の均一に必要量を付与することができる方法を用いることが出来る。又、充填用の熱可塑性ポリウレタンを繊維基材の繊維間に付与後、水系樹脂分散体中の水性媒体、架橋剤及び充填用の熱可塑性ポリウレタン以外の成分を除去するために乾燥処理を施す。乾燥方法としては、熱風、乾燥ローラーに接触させる方法、赤外線加熱、天日、その他の加熱等の通常用いられる乾燥方法を採用することが出来る。
【0050】
このように、熱可塑性ポリウレタンの粒子を水系媒体中に分散させた水系樹脂分散体を繊維基材に含浸させることにより、単糸間及び糸束間に充填用の熱可塑性ポリウレタンが行き渡り易くなり、繊維間の空間を熱可塑性ポリウレタンで完全に充填することが出来、ボイドの発生を防止することが出来、より力学特性の高い繊維強化複合材料を実現することが出来る。
【0051】
架橋剤は、繊維間の空間に充填された熱可塑性ポリウレタン分子同士を架橋して、繊維間の空間からの熱可塑性ポリウレタンの流出を防止するためのものである。又、架橋剤は、繊維間の空間に充填された熱可塑性ポリウレタン分子とマトリックス樹脂分子を架橋して、繊維間の空間からの熱可塑性ポリウレタンの流出を防止すると共に、マトリックス樹脂を繊維基材に確実に固定するためのものである。従って、架橋剤は、繊維強化複合材料の変位に対して応力を高めるためのものである。
【0052】
本開示における架橋剤としては、自己架橋性を有する架橋剤、カルボキシ基と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物を用いることができる。具体的には、オキサゾリン基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物、イソシアネート基含有化合物、エポキシ基含有化合物、メラミン化合物、尿素化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤等が挙げられ、必要に応じて複数のものを混合使用してもよい。中でも、取り扱い易さの観点から、オキサゾリン基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物、イソシアネート基含有化合物、エポキシ基含有化合物が好ましく、オキサゾリン基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物を使用することがより好ましい。すなわち、架橋剤として、オキサゾリン基含有化合物とカルボジイミド基含有化合物とのうちの少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0053】
オキサゾリン基含有化合物は、分子中に少なくとも2つ以上のオキサゾリン基を有しているものであれば特に限定されない。例えば、2,2′−ビス(2−オキサゾリン)、2,2′−エチレン−ビス(4,4′−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2′−p−フェニレン−ビス(2−オキサゾリン)、ビス(2−オキサゾリニルシクロヘキサン)スルフィド等のオキサゾリン基を有する化合物や、オキサゾリン基含有ポリマー等が挙げられる。これらの化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用することも出来る。これらの中でも、取り扱い易さの観点から、オキサゾリン基を有する化合物が好ましい。
【0054】
カルボジイミド基含有化合物は、分子中に少なくとも2つ以上のカルボジイミド基を有しているものであれば特に限定されない。例えば、p−フェニレン−ビス(2,6−キシリルカルボジイミド)、テトラメチレン−ビス(t−ブチルカルボジイミド)、シクロヘキサン−1,4−ビス(メチレン−t−ブチルカルボジイミド)等のカルボジイミド基を有する化合物や、カルボジイミド基を有する重合体であるポリカルボジイミドが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用することも出来る。これらの中でも、取り扱い易さから、ポリカルボジイミドが好ましい。ポリカルボジイミドの市販品としては、日清紡社製のカルボジライトシリーズが挙げられる。具体的な商品としては、例えば、水溶性タイプの「SV−02」、「V−02」、「V−02−L2」、「V−04」、エマルションタイプの「E−01」、「E−02」、有機溶液タイプの「V−01」、「V−03」、「V−07」、「V−09」、無溶剤タイプの「V−05」等が挙げられる。
【0055】
イソシアネート基含有化合物は、分子中に少なくとも2つ以上のイソシアネート基を有しているものであれば特に限定されない。例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン2,4′−又は4,4′−ジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、1,4−ジイソシアナトブタン、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,5−ジイソシアナト−2,2−ジメチルペンタン、2,2,4−又は2,4,4−トリメチル−1,6−ジイソシアナトヘキサン、1,10−ジイソシアナトデカン、1,3−又は1,4−ジイソシアナトシクロヘキサン、1−イソシアナト−3、3,5−トリメチル−5−イソシアナトメチル−シクロヘキサン、4,4′−ジイソシアナトジシクロヘキシルメタン、ヘキサヒドロトルエン2,4−又は2,6−ジイソシアネート、ぺルヒドロ−2,4′−又は4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレン1,5−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の多官能イソシアネート化合物、或いはそれらの改変生成物が挙げられる。ここで、改変生成物とは、多官能イソシアネート化合物の内のジイソシアネートを公知の方法で変性することによって得られるものであり、例えば、アロファネート基、ビューレット基、カルボジイミド基、ウレトンイミン基、ウレトジオン基、イソシアヌレート基等を有する多官能イソシアネート化合物、更にはトリメチロールプロパン等の多官能アルコールで変性したアダクト型の多官能イソシアネート化合物を挙げることができる。尚、上記イソシアネート基含有化合物には、20質量%以下の範囲でモノイソシアネートが含有されていてもよい。又、これらの化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用することも出来る。
【0056】
イソシアネート基含有化合物は、通常、多官能イソシアネート化合物と一価または多価のノニオン性ポリアルキレンエーテルアルコールと反応させて得ることができる。そのような水性の多官能イソシアネート化合物の市販品としては、住友バイエルウレタン社製のバイヒジュール(Bayhydur)3100、バイヒジュールVPLS2150/1、SBUイソシアネートL801、デスモジュール(Desmodur)N3400、デスモジュールVPLS2102、デスモジュールVPLS2025/1、SBUイソシアネート0772、デスモジュールDN、三井化学社製のタケネートWD720、タケネートWD725、タケネートWD730、旭化成社製のデュラネートWB40−100、デュラネートWB40−80D、デュラネートWX−1741、BASF社製のバソナート(Basonat)HW−100、バソナートLR−9056等が挙げられる。
【0057】
エポキシ基含有化合物は、分子中に少なくとも2つ以上のエポキシ基を有しているものであれば特に限定されない。例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールAβ−ジメチルグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、テトラヒドロキシフェニルメタンテトラグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ブロム化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、クロル化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物のジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールジグリシジルエーテル、エポキシウレタン樹脂等のグリシジルエーテル型、p−オキシ安息香酸グリシジルエーテル・エステル等のグリシジルエーテル・エステル型、フタル酸ジグリシジルエステル、テトラハイドロフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサハイドロフタル酸ジグリシジルエステル、アクリル酸ジグリシジルエステル、ダイマー酸ジグリシジルエステル等のグリシジルエステル型、グリシジルアニリン、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルイソシアヌレート、トリグリシジルアミノフェノール等のグリシジルアミン型、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油等の線状脂肪族エポキシ樹脂、3,4−エポキシ−6メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−6メチルシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシシクロヘキサン)カルボキシレート、ビス(3,4−エポキシ−6メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンジエポキサイド、ジシクロペンタジエンオキサイド、ビス(2,3−エポキシシクロペンチル)エーテル、リモネンジオキサイド等の脂環族エポキシ樹脂などが挙げられる。これらの化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用することも出来る。
【0058】
市販のエポキシ化合物としては、本開示に適した水系のものとして、例えば、ナガセケムテックス社製のデナコールシリーズ(EM−150、EM−101等)、アデカ社製のアデカレジンシリーズ等が挙げられる。
【0059】
又、架橋剤を繊維基材の繊維間の空間に充填する際の形態としては、繊維間の空間及び熱可塑性ポリウレタン分子同士間に確実且つ均一に充填するために、水溶液や、有機溶液等に分散させた形態とすることが好ましい。充填用の熱可塑性ポリウレタン及び架橋剤を含有する充填用組成物として繊維基材の繊維間の空間に充填することとしてもよい。例えばこれに限定されないが、熱可塑性ポリウレタンが水系樹脂分散体の形態である場合には、その水媒体中に架橋剤を分散させた形態の充填用組成物として、繊維基材の繊維間の空間に充填用の熱可塑性ポリウレタン及び架橋剤を充填することも出来る。
【0060】
架橋剤の添加量は、樹脂積層基材の加工性及びリサイクル性と強度及び弾性率等の力学特性の両立することから、これに限定されないが、繊維基材100質量部に対して、固形分換算で0.1質量部〜2.0質量部が好ましい。架橋剤の添加量は、強度及び弾性率等の力学特性を向上させる観点から、繊維基材100質量部に対して固形分換算で、0.2質量部以上1.5質量部以下がより好ましく、0.4質量部以上1.0質量部以下がさらに好ましい。又、架橋剤の添加量は、これに限定されないが、充填用の熱可塑性ポリウレタン100質量部に対して、固形分換算で1質量部〜15質量部が好ましい。架橋剤の添加量は、熱可塑性ポリウレタン100質量部に対して、固形分換算で2質量部以上12質量部以下がより好ましく、3質量部以上8質量部以下がさらに好ましい。
【0061】
繊維強化複合材料のマトリックス樹脂として用いられる熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、充填用の熱可塑性ポリウレタンとの接着力の高い熱可塑性樹脂が好ましい。又、マトリックス樹脂として用いられる熱可塑性樹脂は、耐熱性が高いほど好ましい。又、製造方法によっては、乾燥した充填用の熱可塑性ポリウレタンの熱分解温度以下で溶融する合成樹脂が好ましい。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ABS、ポリカーカーボネート、ポリエチレンサルファイド等を使用することが出来る。
【0062】
繊維強化複合材料の製造の際のマトリックス樹脂の形態は特に限定されないが、フィルム状、平板状、織物、編物等とすることが好ましい。このような構成とすることで、繊維強化複合材料の製造を容易とすることが出来る。フィルム状や平板状の厚さ等のマトリックス樹脂の付与量は特に限定されず、その繊維強化複合材料を用いて製造する製品等の用途に従い決定することが出来る。
【0063】
このように繊維強化複合材料は樹脂充填繊維基材とマトリックス樹脂とを積層して、樹脂充填繊維基材がマトリックス樹脂に挟まれた或いは被覆された構造とする。そして、その積層の形態は特に限定されず、樹脂充填繊維基材がシート状の場合、1枚の樹脂充填繊維基材の上下両面にマトリックス樹脂が配置された3層構造、複数の樹脂充填繊維基材とマトリックス樹脂が交互に積層された構造等とすることが出来る。又、樹脂充填繊維基材が紐状の場合、1本の樹脂充填繊維基材の外側面にマトリックス樹脂が配置された2層構造、更に、マトッリクス樹脂の外側に複数本の樹脂充填繊維基材が配置されると共に樹脂充填繊維基材の外側面にマトリックス樹脂が配置された4層以上の構造等とすることが出来る。
【0064】
繊維強化複合材料中の繊維の含有量、繊維強化複合材料中の充填用の熱可塑性ポリウレタンの含有量、繊維強化複合材料中のマトリックス樹脂の含有量は特に限定されず、所定の繊維強化複合材料を製造するために、繊維の種類、繊維基材の形態、マトリックス樹脂の種類等により選択することが出来る。
【0065】
繊維強化複合材料成形品は、1個又は2個以上の本開示の繊維強化複合材料を用いて所定の形状に成形された成形品であり、繊維強化複合材料を用いて製造する製品やその部品となるものである。
【0066】
次に、樹脂充填繊維基材及び繊維強化複合材料の製造方法について説明する。先ず、熱可塑性ポリウレタンの粒子及び架橋剤を水媒体中に分散させた充填用組成物としての水系樹脂分散体を用いて、公知のスプレー法やローラー含浸法等により、繊維基材と水系樹脂分散体とを接触させる。そして、繊維基材の繊維間の空間に充填用の熱可塑性ポリウレタンの粒子を充填させると共に繊維基材の外表面へ充填用の熱可塑性ポリウレタンの粒子を付着させ、同時に架橋剤を繊維基材の繊維間の空間内及び繊維の外表面に付着した熱可塑性ポリウレタン分子間に付着させて添加する。次に、水系樹脂分散体中の水媒体を除去するために、加熱乾燥等の乾燥処理を行い、樹脂充填繊維基材を形成する。
【0067】
尚、熱可塑性ポリウレタンの粒子を水媒体中に分散させた水系樹脂分散体を用いて、繊維基材の繊維間の空間に充填用の熱可塑性ポリウレタンの粒子を充填させると共に繊維基材の外表面へ充填用の熱可塑性ポリウレタンの粒子を付着させた後、水溶液や有機溶液に分散させた架橋剤を用いて、公知のスプレー法やローラー含浸法等により、繊維基材に付着した熱可塑性ポリウレタンの粒子と接触させ、架橋剤を繊維基材の繊維間の空間内及び繊維の外表面に付着した熱可塑性ポリウレタン分子間に充填させることとしてもよい。又、繊維基材の繊維間の空間及び外表面に架橋剤を付与した後、熱可塑性ポリウレタンの粒子を繊維基材の繊維間の空間及び外表面に付与し、架橋剤を、繊維基材の繊維間の空間内及び繊維の外表面に付着した熱可塑性ポリウレタン分子間に添加させることとしてもよい。
【0068】
そして、シート状の繊維基材の場合、繊維間の空間に充填用の熱可塑性ポリウレタン及び架橋剤が充填されたシート状の繊維基材、即ちシート状の樹脂充填繊維基材の上下両面にフィルム状のマトリックス樹脂を設置し、マトリックス樹脂で樹脂充填繊維基材を挟み込む。次いで、加圧下でマトリックス樹脂を加熱し、マトリックス樹脂を溶融させる。そして、マトリックス樹脂と樹脂充填繊維基材を接着させてシート状の繊維強化複合材料を製造する。
【0069】
複数のシート状の樹脂充填繊維基材とマトリックス樹脂とを積層して繊維強化複合材料を製造する場合、1枚の樹脂充填繊維基材の上下両面にマトリックス樹脂が配置された3層構造の繊維強化複合材料を製造し、更にその3層構造の繊維強化複合材料を複数積層して、加圧下で加熱し、マトリックス樹脂同士を溶融させ、接着させて製造することが出来る。
【0070】
又、シート状の樹脂充填繊維基材の上下両面及び他の積層された樹脂充填繊維基材に各1枚ずつのフィルム状のマトリックス樹脂を設置し、加圧下で加熱し、マトリックス樹脂を溶融させる。そして、マトリックス樹脂と樹脂充填繊維基材を接着させて繊維強化複合材料を製造することとしてもよい。
【0071】
又、糸束状の繊維基材の場合、繊維基材として糸束状の繊維束を使用して樹脂充填繊維基材を形成し、樹脂充填繊維基材の表面にフィルム状のマトリックス樹脂を設置し、マトリックス樹脂で樹脂充填繊維基材を被覆する。次いで、加圧下でマトリックス樹脂を加熱し、マトリックス樹脂を溶融させる。そして、マトリックス樹脂と樹脂充填繊維基材を接着させて繊維強化複合材料を製造する。尚、樹脂充填繊維基材とマトリックス樹脂とを積層するとは、マトリックス樹脂で樹脂充填繊維基材を被覆することも含まれる。
【0072】
複数の糸束状の樹脂充填繊維基材とマトリックス樹脂とを積層して繊維強化複合材料を製造する場合、1本の樹脂充填繊維基材の表面にマトリックス樹脂が配置された2層構造の繊維強化複合材料を製造し、更にその2層構造の繊維強化複合材料を複数本束ねて、加圧下で加熱し、マトリックス樹脂同士を溶融させ、接着させて製造することが出来る。
【0073】
又、複数の糸束状の樹脂充填繊維基材夫々の表面にフィルム状のマトリックス樹脂を設置し、束ねて、加圧下で加熱し、マトリックス樹脂を溶融させ、マトリックス樹脂と樹脂充填繊維基材を接着させると共にマトリックス樹脂同士接着させて繊維強化複合材料を製造することとしてもよい。
【0074】
又、フィルム状のマトリックス樹脂を用いる場合、樹脂充填繊維基材の全表面に設置してもよいが、シート状の樹脂充填繊維基材の上下面の一方のみに設置し、或いは糸束の長さ方向の両端面等には設置しないで製造し、樹脂充填繊維基材の一部表面にのみマトリックス樹脂を設置する構成としてもよい。
【0075】
尚、溶融したマトリックス樹脂を金型等に注入して、金型内に配置された樹脂充填繊維基材にマトリックス樹脂を付与し、繊維基材とマトリックス樹脂を接着固化させて積層して製造することも出来る。
【0076】
次に、繊維強化複合材料成形品の製造方法について説明する。繊維強化複合材料を単独で、金型に入れて、加圧下で加熱すると同時に所定の形状に成形する。又、複数の繊維強化複合材料を積層し、束ね又は引き揃え、型に入れて、加圧下で加熱すると同時に所定の形状に成形する。
【実施例】
【0077】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。繊維基材として、東レ株式会社製炭素ロービングT300−12Kを84本使用した幅250mmの一方向ノンクリンプファブリック(サカイ産業株式会社製)を用いた。250mm×250mmのこれらの繊維基材の夫々に、充填用の熱可塑性ポリウレタンとして第一工業製薬株式会社製水系ポリウレタン樹脂(スーパーフレックス130(SF−130)、無黄変、エーテル系、平均粒径0.03μm、固形分35wt%)を、繊維基材100質量部に対し固形分換算で5質量部以上35質量部以下の範囲で付与し、カルボジイミド系架橋剤として日清紡ケミカル社製「カルボジライトV−02−L2」(固形分40wt%)又はオキサゾリジン系架橋剤として日本触媒社製「エポクロスWS−700」(固形分25wt%)を繊維基材100質量部に対して、固形分換算で0.1質量部以上2.0質量部以下の範囲で添加し、天日乾燥後、100℃の真空乾燥機にて1時間乾燥して樹脂充填繊維基材を形成した。尚、スーパーフレックス130の乾燥膜のガラス転移温度は101℃、軟化温度は174℃、熱溶融温度は216℃である。
【0078】
そして、常温の平板金型にシリコン離型剤を塗布した後に、平板金型上に樹脂充填繊維基材6枚と目付が109g/mの無水マレイン酸変性ポリプロピレン(PP)フィルム7枚を交互に配置し、真空ポンプにて金型内部を真空に保持した。この状態で、200℃の加熱加圧装置内で5分間溶融し、200℃を維持したまま0.25kg/cmの圧力で加圧して一体化して、加圧したまま50℃まで水冷し、厚さが2mmの繊維強化複合材料を得た。(実施例1〜4)。
【0079】
比較例として、架橋剤を添加せず、その他の条件、形状は実施例と同一にして製造した
繊維強化樹脂複合材料を得た(比較例1)。
【0080】
ダイヤモンドカッターを用いて、これらの繊維強化複合材料を幅15mm、長さ100mmに切り出して試験片を作成し、JIS K7074に準拠して曲げ試験を以下の測定条件で実施し、曲げ強度を測定した。
クロスヘッド速度:5mm/min
スパン間距離:80mm
【0081】
結果を表1に示す。尚、表1中のPP、水系ポリウレタン樹脂SF−130(スーパーフレックス130)、カルボジイミド系架橋剤及びオキサゾリジン系架橋剤の数値は、繊維基材100質量部に対する質量部である。尚、水系ポリウレタン樹脂SF−130、カルボジイミド系架橋剤及びオキサゾリジン系架橋剤は、夫々有姿付着量と固形分換算付着量を記載した。
【表1】
【0082】
表1より明らかなように、充填用の熱可塑性ポリウレタン及び架橋剤を付与することにより、特に、充填用の熱可塑性ポリウレタンを繊維基材100質量部に対し5質量部以上35質量部以下付与することにより、更に、架橋剤を繊維基材100質量部に対して、固形分換算で0.1質量部以上2.0質量部以下の範囲で添加することにより、曲げ強度が高くなることが分かる。また、充填用の熱可塑性ポリウレタンを繊維基材100質量部に対し固形分換算で10質量部以上20質量部以下付与することにより、曲げ強度がより高くなることが分かる。また、架橋剤を繊維基材100質量部に対し固形分換算で0.4質量部以上1.0質量部以下付与することにより、曲げ強度がより高くなることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
熱可塑性ポリウレタンの粒子を水系媒体中に分散させた水系樹脂分散体及び架橋剤を繊維基材に含浸させて、繊維基材の繊維間の空間に熱可塑性ポリウレタン及び架橋剤を充填させた後に、熱可塑性樹脂のマトリックス樹脂で繊維基材を挟み込んで繊維強化複合材料を製造することにより、ボイドのない繊維強化熱可塑性樹脂複合材料を容易に製造することが出来、且つ製造時間の短縮を図ることが出来る。従って、力学特性の優れた繊維強化複合材料を確実に供給することが出来、例えば自動車等の様々な製品の軽量化や強度の向上に寄与することが出来、様々な製品の材料として使用することが出来る。