【実施例】
【0095】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例における
1H−NMRスペクトルは、JEOL製JNM−ECS400を用いて測定した(内部標準物質:テトラメチルシラン、溶媒:重クロロホルム(CDCl
3)、重ジメチルスルホキシド(DMSO−d
6))。
また、下記式で表されるイリジウム錯体(fac−Ir(ppy)
3)は、SIGMA−ALDRICHより購入して使用した。なお、式中の窒素原子とイリジウム原子との間の実線は配位結合である。
【0096】
【化18】
【0097】
〔実施例1〕
下記式で表されるイリジウム錯体(以下、「(ppy)
2Ir(ppy−5−CH
2OH)」とも称する)を以下の合成経路に従って合成した。なお、(ppy)
2Ir(ppy−5−CH
2OH)における式中の窒素原子とイリジウム原子との間の実線は配位結合である。
【0098】
【化19】
【0099】
(1) (6−フェニルピリジン−3−イル)メタノールの合成
フェニルボロン酸(3.1g,25.4mmol)、(6−クロロピリジン−3−イル)メタノール(3.4g,23.7mmol)及びテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(1.1g,0.95mmol)を、トルエン(75mL)、エタノール(25mL)及び2M炭酸ナトリウム水溶液(50mL)の混合液に加え、窒素ガス雰囲気下で6時間還流した。これを室温に冷却後、脱イオン水を加え、クロロホルムで抽出を行い、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル)を用いて精製した((6−フェニルピリジン−3−イル)メタノール,4.0g,21.6mmol,91%)。
1HNMR (400 MHz, CDCl
3) δ: 8.66(s, 1H), 7.99-7.98(d, 2H), 7.82-7.74(dd, 2H), 7.50-7.40(m, 3H), 4.77(s, 2H)
【0100】
(2) (ppy)
2Ir(ppy−5−CH
2OH)の合成
[Ir(ppy)
2Cl]
2(1.09g,1.02mmol)及び上記(1)で得た(6−フェニルピリジン−3−イル)メタノール(0.55g,2.97mmol)を2−エトキシエタノール(50mL)に溶解させ、20分間窒素バブリングを行った。その後、トリフルオロ酢酸銀(0.68g,3.08mmol)を素早く加え、窒素ガス雰囲気下110℃で溶液を18時間撹拌した。これを室温に冷却後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルムとメタノールの混液,クロロホルム:メタノール=96:4,v/v)を用いて精製した。さらにリサイクル型分取クロマトグラフィーを用いて精製した((ppy)
2Ir(ppy−5−CH
2OH),0.45g,0.65mmol,32%)。
1HNMR(400 MHz, DMSO-d
6) δ: 8.14-8.08 (m, 3H), 7.81-7.70 (m, 6H), 7.50-7.48 (d, 3H), 7.15-7.11 (t, 3H), 6.81-6.77 (m, 3H), 6.70-6.62 (m, 6H), 5.21-5.18 (t, 1H), 4.34-4.33 (d, 2H)
【0101】
〔実施例2〕
下記式で表されるイリジウム錯体(以下、「(ppy)
2Ir(ppy−5−CH
2COOH)」とも称する)を以下の合成経路に従って合成した。なお、(ppy)
2Ir(ppy−5−CH
2COOH)における式中の窒素原子とイリジウム原子との間の実線は配位結合である。
【0102】
【化20】
【0103】
(1) 2−(6−フェニルピリジン−3−イル)酢酸エチルの合成
フェニルボロン酸(3.5g,28.7mmol)、2−(6−クロロピリジン−3−イル)酢酸エチル(5.2g,26.1mmol)及びテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(1.1g,0.95mmol)を、シクロペンチルメチルエーテル(80mL)及び2M炭酸ナトリウム水溶液(40mL)の混合液に加え、窒素ガス雰囲気下で15時間還流した。これを室温に冷却後、脱イオン水を加え、クロロホルムで抽出を行い、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)を用いて精製した(2−(6−フェニルピリジン−3−イル)酢酸エチル,3.2g,13.3mmol,51%)。
1HNMR (400 MHz, CDCl
3) δ: 8.58(s, 1H), 7.97-7.95(d, 2H), 7.73-7.68(d, 2H), 7.50-7.40(m, 3H), 4.21-4.13(q, 2H), 3.67(s, 2H), 1.28-1.22(t, 3H)
【0104】
(2) (ppy)
2Ir(ppy−5−CH
2COOEt)の合成
2−フェニルピリジン(0.98g,6.3mmol)及び塩化イリジウム・3水和物(1.06g,3mmol)を、2−エトキシエタノール(100mL)と水(30mL)の混合液に懸濁させ、15時間還流を行った。これを室温に冷却後、生成した黄色沈殿をろ別し、この固形物をメタノール及びヘキサンで洗浄し、[Ir(ppy)
2Cl]
2を得た(1.4g,1.3mmol,87%)。次いで、[Ir(ppy)
2Cl]
2(0.54g,0.50mmol)及び上記(1)で得た2−(6−フェニルピリジン−3−イル)酢酸エチル(0.35g,1.45mmol)を2−エトキシエタノール(40mL)に溶解させ、20分間窒素バブリングを行った。その後、トリフルオロ酢酸銀(0.34g,1.54mmol)を素早く加え、窒素ガス雰囲気下110℃で溶液を18時間撹拌した。これを室温に冷却後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルムとメタノールの混液,クロロホルム:メタノール=98:2,v/v)を用いて精製した((ppy)
2Ir(ppy−5−CH
2COOEt),0.30g,0.40mmol,40%)。
1HNMR (400 MHz, DMSO-d
6) δ: 8.15-8.09 (m, 3H), 7.82-7.72 (m, 6H), 7.50-7.42 (m, 3H), 7.15-7.11 (t, 2H), 6.82-6.78 (t, 3H), 6.72-6.62 (m, 6H), 4.02-3.96 (q, 2H), 3.57 (s, 2H), 1.09-1.08(t, 3H)
【0105】
(3) (ppy)
2Ir(ppy−5−CH
2COOH)の合成
上記(2)で得た(ppy)
2Ir(ppy−5−CH
2COOEt)(250mg,0.34mmol)及び水酸化リチウム・1水和物(60mg,1.43mmol)を、テトラヒドロフラン(30mL)、エタノール(10mL)及び水(20mL)の混合液に溶解させ、80℃で15時間撹拌した。これを室温に冷却後、5N塩酸を加えて溶液のpHを約3にした。この溶液に脱イオン水を加え、クロロホルムで抽出を行い、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した((ppy)
2Ir(ppy−5−CH
2COOH),278mg,0.39mmol,98%)。
1HNMR (400 MHz, DMSO-d
6) δ: 8.18-8.08 (m, 3H), 7.78-7.70 (m, 6H), 7.50-7.42 (m, 3H), 7.14-7.10 (m, 2H), 6.82-6.75 (m, 3H), 6.70-6.60 (m, 6H), 3.46-3.42 (d, 2H)
【0106】
〔実施例3〕
下記式で表されるイリジウム錯体(以下、「(ppy)
2Ir(ppy−5−CH
2DM)」とも称する)を以下の合成経路に従って合成した。なお、(ppy)
2Ir(ppy−5−CH
2DM)における式中の窒素原子とイリジウム原子との間の実線は配位結合である。
【0107】
【化21】
【0108】
実施例2で得た(ppy)
2Ir(ppy−5−CH
2COOH)(74mg,0.1mmol)、HATU(80mg,0.21mmol)及びHOBT(26mg,0.19mmol)を、乾燥ジメチルホルムアミド(2mL)に溶解させた。この溶液に、N,N−ジメチルエチレンジアミン(100μL)及びN,N−ジイソプロピルエチルアミン(170μL)を加えて室温で15時間撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し減圧乾固させた。得られた粗生成物をアミノシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルムとメタノールの混液,クロロホルム:メタノール=98:2,v/v)を用いて精製した((ppy)
2Ir(ppy−5−CH
2DM),50mg,0.63mmol,63%)。
1HNMR (400 MHz, DMSO-d
6) δ: 8.13-8.11 (d, 2H), 8.09-8.07 (d, 1H), 7.94-7.92 (t, 1H), 7.80-7.68 (m, 6H), 7.49-7.45 (t, 3H), 7.39 (s, 1H), 7.14-7.11 (t, 2H), 6.82-6.76 (m, 3H), 6.70-6.60 (m, 6H), 3.27 (s, 2H), 3.07-3.03 (m, 2H), 2.20-2.18 (m, 2H), 2.10, (s, 6H)
【0109】
〔実施例4〕
下記式で表されるイリジウム錯体(以下、「(ppy)
2Ir(ppy−5−CH
2TPP)」とも称する)を以下の合成経路に従って合成した。なお、(ppy)
2Ir(ppy−5−CH
2TPP)における式中の窒素原子とイリジウム原子との間の実線は配位結合である。
【0110】
【化22】
【0111】
実施例2で得た(ppy)
2Ir(ppy−5−CH
2COOH)(74mg,0.1mmol)、HATU(75mg,0.20mmol)及びHOBT(19mg,0.14mmol)を、乾燥ジメチルホルムアミド(2mL)に溶解させた。この溶液に、(2−アミノエチル)トリフェニルホスホニウム臭素塩(78mg,0.2mmol)及びN,N−ジイソプロピルエチルアミン(170μL)を加えて室温で15時間撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し減圧乾固させた。得られた粗生成物をアミノシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルムとメタノールの混液,クロロホルム:メタノール=98:2,v/v)を用いて精製した((ppy)
2Ir(ppy−5−CH
2TPP),40mg,0.37mmol,37%)。
1HNMR (400 MHz, DMSO-d
6) δ: 8.42-8.40 (t, 1H), 8.15-8.13 (d, 1H), 8.08-8.04 (d, 2H), 7.88-7.62 (m, 21H), 7.48-7.44 (d, 2H), 7.36 (s, 1H), 7.11-7.07 (m, 2H), 6.72-6.76 (m, 3H), 6.70-6.60 (m, 6H), 3.70-3.64 (q, 2H), 3.19-3.17(d, 2H)
【0112】
〔実施例5〕
下記式で表されるイリジウム錯体(以下、「(ppy−5−CH
2OH)
3Ir」とも称する)を以下の合成経路に従って合成した。なお、(ppy−5−CH
2OH)
3Irにおける式中の窒素原子とイリジウム原子との間の実線は配位結合である。
【0113】
【化23】
【0114】
(6−フェニルピリジン−3−イル)メタノール(0.41g,2.2mmol)及び塩化イリジウム・3水和物(0.35g,1mmol)を、2−エトキシエタノール(30mL)と水(10mL)の混合液に懸濁させ、15時間還流を行った。これを室温に冷却後、生成した沈殿をろ別し、この固形物をメタノール及びヘキサンで洗浄し、[Ir(ppy−5−CH
2OH)
2Cl]
2を得た(0.48g,0.4mmol,80%)。[Ir(ppy−5−CH
2OH)
2Cl]
2(0.6g,0.50mmol)及び(6−フェニルピリジン−3−イル)メタノール(0.4g,1.66mmol)を2−エトキシエタノール(50mL)に溶解させ、20分間窒素バブリングを行った。その後、トリフルオロ酢酸銀(0.36g,1.64mmol)を素早く加え、窒素ガス雰囲気下110℃で溶液を18時間撹拌した。これを室温に冷却後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した。得られた粗生成物をジオールシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルムとメタノールの混液,クロロホルム:メタノール=98:2,v/v)を用いて精製した。さらにリサイクル型分取クロマトグラフィーを用いて精製した((ppy−5−CH
2OH)
3Ir,100mg,0.13mmol,13%)。
1HNMR (400 MHz, DMSO-d
6) δ: 8.11-8.09 (d, 3H), 7.74-7.70 (t, 6H), 7.51-7.50 (d, 2H), 7.48 (s, 1H), 6.81-6.87 (m, 3H), 6.70-6.60 (m, 6H), 5.22-5.20 (q, 3H), 4.37-4.35 (d, 1H), 4.34-4.33 (d, 2H)
【0115】
〔実施例6〕
下記式で表されるイリジウム錯体(以下、「(ppy)Ir(ppy−5−CH
2OH)
2」とも称する)を以下の合成経路に従って合成した。なお、(ppy)Ir(ppy−5−CH
2OH)
2における式中の窒素原子とイリジウム原子との間の実線は配位結合である。
【0116】
【化24】
【0117】
[Ir(ppy−5−CH
2OH)
2Cl]
2(0.69g,0.58mmol)及び2−フェニルピリジン(0.27g,1.75mmol)を2−エトキシエタノール(50mL)に溶解させ、20分間窒素バブリングを行った。その後、トリフルオロ酢酸銀(0.42g,1.90mmol)を素早く加え、窒素ガス雰囲気下110℃で溶液を18時間撹拌した。これを室温に冷却後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルムとメタノールの混液,クロロホルム:メタノール=96:4,v/v)を用いて精製した。さらにリサイクル型分取クロマトグラフィーを用いて精製した((ppy)Ir(ppy−5−CH
2OH)
2,150mg,0.21mmol,18%)。
1HNMR (400 MHz, DMSO-d
6) δ: 8.13-8.07 (m, 3H), 7.79-7.70 (m, 6H), 7.50-7.48 (d, 3H), 7.15-7.12 (t, 1H), 6.71-6.77 (3H), 6.70-6.60 (m, 6H), 5.22-5.20 (t, 2H), 4.34-4.33 (d, 4H)
【0118】
〔試験例1 吸収スペクトル及びりん光スペクトル〕
fac−Ir(ppy)
3、実施例1〜5で得たイリジウム錯体の吸収スペクトル及びりん光スペクトルを以下の条件で測定した。結果を
図1−1、
図1−2に示す。
(吸収スペクトル測定条件)
装置:紫外可視分光光度計(Jasco製Ubest−V550)
溶媒:アセトニトリル(空気飽和下)
測定温度:22℃
(りん光スペクトル測定条件)
装置:蛍光光度計(浜松ホトニクス製C10027−01)、絶対発光量子収率測定装置(浜松ホトニクス製C9920−01)、蛍光寿命計(浜松ホトニクス製C11367)
溶媒:アセトニトリル(真空脱気、空気飽和下)
測定温度:22℃
【0119】
図1−1、
図1−2に示すとおり、実施例1〜5で得たイリジウム錯体は、fac−Ir(ppy)
3と非常によく似た吸収スペクトル、りん光スペクトルを示した。特に、実施例1〜5で得たイリジウム錯体は、りん光極大波長が510〜540nm付近にあり、fac−Ir(ppy)
3と同様の緑色りん光を発することがわかった。
【0120】
〔試験例2 光物理特性〕
fac−Ir(ppy)
3、実施例1〜6で得たイリジウム錯体をアセトニトリルにそれぞれ溶解させ、絶対発光量子収率測定装置(浜松ホトニクス製C9920−01)及び蛍光寿命計(浜松ホトニクス製C11367)を使用し真空脱気下又は空気飽和下で、真空脱気下のりん光寿命(τ
p0 (μs))、空気飽和下のりん光寿命(τ
p (ns))、真空脱気下のりん光量子収率(Φ
p0)、空気飽和下のりん光量子収率(Φ
p)をそれぞれ測定した。そして、真空脱気下のりん光寿命と空気飽和下のりん光寿命からτ
p0/τ
pを算出し、真空脱気下のりん光量子収率と空気飽和下のりん光量子収率からΦ
p0/Φ
pを算出した。
結果を表1に示す。なお、τ
p0/τ
p又はΦ
p0/Φ
pの値が5を超えていれば低酸素応答性は概ね充分といえる。
【0121】
【表1】
【0122】
表1に示すとおり、実施例1〜6で得たイリジウム錯体は、fac−Ir(ppy)
3と同様にτ
p0/τ
p、Φ
p0/Φ
pの値が大きく、低酸素応答性が良好だった。
【0123】
〔試験例3 細胞内移行性(スフェロイド内移行性)〕
HT29細胞(1.2×10
6個)と10%(v/v)FBS含有DMEM培地10mLを混合して細胞懸濁液を調製した。次いで、3次元培養プレート(SCIVAXライフサイエンス社製NCP−LH384)のウェルに、細胞数が3,000cells/wellとなるように上記細胞懸濁液を添加し、5%炭酸ガス雰囲気下、37℃で6日間培養した。その後、fac−Ir(ppy)
3を5.0μMの最終濃度でウェルに添加し、fac−Ir(ppy)
3の添加から24時間経過後、NexCelome社製Celigo(蛍光チャネル:Green)を用いてりん光顕微画像を撮影し(ex/em:483nm/536nm、露光時間:10000μs)、スフェロイド内移行性を確認した。
また、実施例1〜4で得たイリジウム錯体についても、上記と同様の操作を行い、スフェロイド内移行性を確認した。さらに、実施例1〜4で得たイリジウム錯体については最終濃度10.0μMの試験も行った。
結果を
図2−1〜
図2−5に示す。なお、スフェロイドのサイズは約100μmになっていた。
【0124】
この結果、fac−Ir(ppy)
3はスフェロイド内への移行性に劣るものであることが判明した(
図2−1)。
これに対し、実施例1〜4で得たイリジウム錯体については、スフェロイド内への移行が確認された(
図2−2〜
図2−5)。
特に、実施例1で得た(ppy)
2Ir(ppy−5−CH
2OH)、実施例2で得た(ppy)
2Ir(ppy−5−CH
2COOH)は、5.0μM、10.0μMいずれの濃度でも非常に高い移行性を示した(
図2−2、
図2−3)。また、実施例1で得た(ppy)
2Ir(ppy−5−CH
2OH)は、バックグラウンドの上昇もみられなかった(
図2−2)。
【0125】
〔試験例4 細胞内移行性(平面培養細胞内移行性)〕
HeLa細胞と10%(v/v)FBS含有DMEM培地4mLを混合して細胞懸濁液を調製した。次いで、平面培養シャーレ(グライナー社製4区画シャーレ)のウェルに上記細胞懸濁液を添加した。次に、実施例1で得たイリジウム錯体を500nMの最終濃度でウェルに添加し、常酸素条件下(酸素濃度:21体積%)、37℃で2時間培養した。その後、10%(v/v)FBS含有DMEM培地、DMEM培地(FBS(−))でそれぞれ2回ずつ洗浄し、オリンパス社製IX−71及びPHOTOMETRICS社製Evolve512を用いてりん光顕微画像を撮影し(励起波長:450〜500nm、観測波長:515〜565nm、対物レンズ×100)、平面培養細胞内移行性を確認した。
また、実施例2〜4で得たイリジウム錯体についても、上記と同様の操作を行い、平面培養細胞内移行性を確認した。
結果を
図3に示す。
【0126】
この結果、実施例1〜4で得たイリジウム錯体は平面培養細胞内への移行性を有することが確認された。また、発光顕微画像の形態解析から、実施例1及び2で得たイリジウム錯体は小胞体に局在し、実施例3で得たイリジウム錯体はリソソームに局在し、実施例4で得たイリジウム錯体はミトコンドリアに局在することがわかった。
【0127】
〔試験例5 平面培養細胞内りん光強度〕
HeLa細胞(4.5×10
6個)と10%(v/v)FBS含有DMEM培地15mLを混合して細胞懸濁液を調製した。次いで、平面培養プレート(グライナー社製96穴ブラックプレート)のウェルに、細胞数が3.0×10
4cells/wellとなるように上記細胞懸濁液を添加した。次に、実施例1で得たイリジウム錯体を500nMの最終濃度でウェルに添加し、常酸素条件下(酸素濃度:21体積%)、37℃で2時間培養した。その後、10%(v/v)FBS含有DMEM培地、DMEM培地(FBS(−))でそれぞれ2回ずつ洗浄し、Tecan社製Infinite Pro 200を用いてりん光強度測定を実施した(励起波長:450nm、観測波長:530nm)。
また、実施例2〜4で得たイリジウム錯体についても、上記と同様の操作を行い、平面培養細胞内りん光強度を測定した。
その結果、実施例1、2、3で得たイリジウム錯体はりん光強度が特に強く、実施例4で得たイリジウム錯体の約3.7倍(実施例1)、約2.6倍(実施例2)、約12.2倍(実施例3)のりん光強度を示した。
【0128】
〔試験例6 平面培養細胞内低酸素応答性〕
実施例1、3で得たイリジウム錯体について、平面培養細胞内低酸素応答性を確認した。
すなわち、試験例5におけるりん光強度の測定を行った後に、実施例1、3で得たイリジウム錯体を添加したHeLa細胞を、酸素濃度10体積%、37℃で2時間更に培養し、Tecan社製Infinite Pro 200を用いてりん光強度を求めた(ex/em:450nm/530nm)。次に、酸素濃度2.5体積%、37℃で2時間更に培養し、Tecan社製Infinite Pro 200を用いてりん光強度を求めた(ex/em:450nm/530nm)。その後、試験例5で求めたりん光強度(常酸素条件下(酸素濃度:21体積%))を100%として、酸素濃度10体積%、酸素濃度2.5体積%で培養した後のりん光強度の相対値をそれぞれ算出した。
結果を表2に示す。
【0129】
【表2】
【0130】
〔試験例7 細胞毒性〕
HT29細胞又はPANC−1細胞(1.2×10
6個)と10%(v/v)FBS含有DMEM培地10mLを混合して細胞懸濁液を調製した。次いで、3次元培養プレート(SCIVAXライフサイエンス社製NCP−LH384)のウェルに、細胞数が3,000cells/wellとなるように上記細胞懸濁液を添加した。次に、fac−Ir(ppy)
3を0.5μM又は5.0μMの最終濃度でウェルに添加し、5%炭酸ガス雰囲気下、37℃で7日間培養した。その後、CellTiter−Glo(登録商標) Luminescent Cell Viability Assayを使用し、このキットのプロトコルに従って、イリジウム錯体を添加していないネガティブコントロールに対する細胞生存率を求めた。
また、実施例1、2、5で得たイリジウム錯体についても、上記と同様の操作を行い、細胞生存率を求めた。
結果を表3〜6に示す。
【0131】
【表3】
【0132】
【表4】
【0133】
【表5】
【0134】
【表6】
【0135】
〔試験例8 スフェロイド内りん光強度〕
A549細胞(1.2×10
6個)と10%(v/v)FBS含有DMEM培地10mLを混合して細胞懸濁液を調製した。次いで、3次元培養プレート(SCIVAXライフサイエンス社製NCP−LH384)のウェルに、細胞数が3,000cells/wellとなるように上記細胞懸濁液を添加し、5%炭酸ガス雰囲気下、37℃で6日間培養した。その後、実施例1で得たイリジウム錯体を、1.0μM、2.0μM、5.0μM、7.5μM又は10.0μMの最終濃度でウェルに添加し、イリジウム錯体の添加から24時間経過後、NexCelome社製Celigo(蛍光チャネル:Green)を用いてりん光顕微画像を撮影し(ex/em:531nm/629nm、露光時間:10000μs)、NexCelome社製Celigoの解析プログラムを使用して、直径40〜110μmの範囲のスフェロイド、直径1〜40μmの範囲のスフェロイドについて、スフェロイド内りん光強度をそれぞれ数値化した。
また、実施例5で得たイリジウム錯体を用いて上記と同様の操作を行い、直径40〜110μmの範囲のスフェロイド、直径1〜40μmの範囲のスフェロイドについて、スフェロイド内りん光強度をそれぞれ数値化した。
直径40〜110μmの範囲のスフェロイドについて解析した結果を
図4−1に示し、直径1〜40μmの範囲のスフェロイドについて解析した結果を
図4−2に示す。
なお、
図4−1、
図4−2の縦軸Total Intensityは、スフェロイドの個数とIntensityとの積である(n=2の平均値)。
【0136】
この結果、
図4−1では、実施例5で得た(ppy−5−CH
2OH)
3Irは、実施例1で得た(ppy)
2Ir(ppy−5−CH
2OH)の約3倍のりん光強度を示しており、実施例5で得た(ppy−5−CH
2OH)
3Irは大きいサイズのスフェロイドに移行しやすいことがわかった。
【0137】
〔試験例9 低酸素領域検出能〕
実施例1で得た(ppy)
2Ir(ppy−5−CH
2OH)の低酸素領域検出能を、市販の低酸素プローブ(SCIVAXライフサイエンス社製LOX−1)と比較した。なお、SCIVAXライフサイエンス社製LOX−1は、赤色りん光を発するイリジウム錯体を含有する低酸素プローブである。
すなわち、HT29細胞又はPANC−1細胞(1.2×10
6個)と10%(v/v)FBS含有DMEM培地10mLを混合して細胞懸濁液を調製した。次いで、3次元培養プレート(SCIVAXライフサイエンス社製NCP−LH384)のウェルに、細胞数が3,000cells/wellとなるように上記細胞懸濁液を添加し、5%炭酸ガス雰囲気下、37℃で6日間培養した。その後、実施例1で得た(ppy)
2Ir(ppy−5−CH
2OH)とLOX−1をそれぞれ2.5μMの最終濃度でウェルに添加し、当該添加から24時間経過後、NexCelome社製Celigoを用いて以下の条件でりん光顕微画像を撮影した。
((ppy)
2Ir(ppy−5−CH
2OH)のりん光顕微画像撮影条件)
蛍光チャネル:Green、ex/em:483nm/536nm、露光時間:4000μs
(LOX−1のりん光顕微画像撮影条件)
蛍光チャネル:Red、ex/em:531nm/629nm、露光時間:40000μs
実施例1で得た(ppy)
2Ir(ppy−5−CH
2OH)によるHT29細胞の低酸素領域検出結果を
図5−1に示し、LOX−1によるHT29細胞の低酸素領域検出結果を
図5−2に示す。
また、実施例1で得た(ppy)
2Ir(ppy−5−CH
2OH)によるPANC−1細胞の低酸素領域検出結果を
図5−3に示し、LOX−1によるPANC−1細胞の低酸素領域検出結果を
図5−4に示す。
【0138】
この結果、実施例1で得た(ppy)
2Ir(ppy−5−CH
2OH)が低酸素プローブとして有用であることが確認された。
【0139】
〔試験例10 細胞内多色イメージング〕
HeLa細胞と10%(v/v)FBS含有DMEM培地4mLを混合して細胞懸濁液を調製した。次いで、平面培養シャーレ(グライナー社製4区画シャーレ)のウェルに上記細胞懸濁液を添加した。次に、実施例1で得た(ppy)
2Ir(ppy−5−CH
2OH)と下記式で表されるBTPDM1(赤色りん光を発し、リソソームに局在化するイリジウム錯体)をそれぞれ500nMの最終濃度でウェルに添加し、常酸素条件下(酸素濃度:21体積%)、37℃で2時間培養した。
【0140】
【化25】
【0141】
その後、10%(v/v)FBS含有DMEM培地、DMEM培地(FBS(−))でそれぞれ2回ずつ洗浄し、オリンパス社製IX−71及びPHOTOMETRICS社製Evolve512を用いてりん光顕微画像を撮影した(励起波長:450〜500nm、観測波長:515〜565nm)。次に、励起波長:480〜550nm、観測波長:>590nmのフィルタ(オリンパス社製U−MSWG2)に変更してりん光顕微画像を再度撮影した。
(ppy)
2Ir(ppy−5−CH
2OH)とBTPDM1でイメージングしたりん光顕微画像を、
図6−1、
図6−2に示す。
また、実施例5で得た(ppy−5−CH
2OH)
3Irを用いて、上記と同様の操作で(ppy−5−CH
2OH)
3IrとBTPDM1による多色イメージングを行った。
(ppy−5−CH
2OH)
3IrとBTPDM1でイメージングしたりん光顕微画像をを、
図6−3、
図6−4に示す。
なお、
図6−1〜
図6−4の(a)は、励起波長:450〜500nm、観測波長:515〜565nmのフィルタを用いたりん光顕微画像であり、
図6−1〜
図6−4の(b)は、励起波長:480〜550nm、観測波長:>590nmのフィルタを用いたりん光顕微画像である。
【0142】
この結果、実施例1、5で得たイリジウム錯体が、共染色、多色イメージングに有用であることが確認された。また、実施例1、5で得たイリジウム錯体は小胞体に局在していた。