【文献】
大野慎一郎他, 「副作用のない短鎖型核酸医薬の開発」,東京医科大学雑誌, 2016.07.30, vol. 74, no.3, p. 348 (P1-13)
【文献】
"Accession: AB349931.1 GI: 158850637, DEFINITION: Mus musculus non-coding RNA, oocyte_piRNA747, complete sequence", NCBI Sequence Revision History [online], 2008.05.24 uploaded, NCBI,URL,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/158850637?sat=3&satkey=9181864
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書で使用する用語は、特に言及しない限り、当該技術分野で通常用いられる意味で用いることができる。
【0011】
(1)発現制御核酸分子
本発明の発現制御核酸分子は、前述のように、癌関連遺伝子の発現を制御する発現制御核酸分子であり、下記(a)〜(c)からなる群から選択された少なくとも一つのポリヌクレオチドからなることを特徴とする。
(a)配列番号1〜6のいずれかの塩基配列からなるポリヌクレオチド
(b)前記(a)のいずれかの塩基配列において、1もしくは数個の塩基が欠失、置換、挿入および/または付加された塩基配列からなり、前記癌関連遺伝子の発現を制御するポリヌクレオチド
(c)前記(a)のいずれかの塩基配列に対して、80%以上の同一性を有する塩基配列からなり、前記癌関連遺伝子の発現を制御するポリヌクレオチド
【0013】
前記表1に示す本発明の発現制御核酸分子は、例えば、ヒト末梢血細胞等に存在する核酸であるが、これらを同定し、且つ、機能を解明したのは、本発明者らが初めてである。
【0014】
本発明の発現制御核酸分子は、後述するように、癌関連遺伝子に対して発現制御を行う核酸分子である。なお、本発明の発現制御核酸分子は、例えば、癌関連遺伝子以外の発現制御を行ってもよい。
【0015】
本発明の発現制御核酸分子は、例えば、前記ポリヌクレオチドが、分子内でステムループ構造を形成する。本発明の発現制御核酸分子は、例えば、
図1の模式図に示すような構造を有する。なお、
図1において、丸が各ヌクレオチド分子を示すが、個数は例示であって、これには制限されない。本発明において、「ステムループ構造を形成する」とは、例えば、実際にステムループ構造を形成すること、ステムループ構造が形成されていなくても、条件によってステムループ構造を形成可能なことも含む。「ステムループ構造を形成」とは、例えば、実験的に確認した場合、および、コンピュータ等のシミュレーションで予測した場合の双方を含む。
【0016】
本発明の発現制御核酸分子は、長さが30塩基前後であり、その配列から、分子の内部で、ステム間にループを有するステムループ構造(以下、「ヘアピン構造」ともいう)またはステム間にループを有さないステム構造を形成する構造をとる。このため、本発明の発現制御核酸分子は、例えば、同じ一本鎖核酸であっても、shRNAよりも、相対的に短い全長である。また、siRNAのような二本鎖構造ではなく、一本鎖構造である。このため、本発明の発現制御核酸分子によれば、例えば、核酸に対する自然免疫の作動を回避して、標的遺伝子の発現抑制を行うことができる。
【0017】
本発明の発現制御核酸分子は、例えば、癌関連遺伝子の発現を抑制または促進できる。発現抑制とは、例えば、前記遺伝子の翻訳の抑制、すなわち、前記遺伝子がコードするタンパク質の翻訳の抑制を意味し、より詳細には、前記遺伝子のmRNAからの前記タンパク質の翻訳の抑制を意味する。前記遺伝子の発現抑制は、例えば、前記遺伝子からの転写産物の生成量の減少、前記転写産物の活性の減少、前記標的遺伝子からの翻訳産物の生成量の減少、または前記翻訳産物の活性の減少等によって確認できる。前記遺伝子の発現促進は、例えば、前記遺伝子からの転写産物の生成量の増加、前記転写産物の活性の増加、前記標的遺伝子からの翻訳産物の生成量の増加、または前記翻訳産物の活性の増加等によって確認できる。前記タンパク質は、例えば、成熟タンパク質、または、プロセシングもしくは翻訳後修飾を受ける前の前駆体タンパク質があげられる。
【0018】
本発明の発現制御核酸分子は、例えば、前述のステムループ構造をとることで、例えば、Dicer非依存で、発現抑制を行うことができる。一般的に、多くの腫瘍細胞ではDicerの発現が低下しているため、本発明の発現制御核酸分子は、例えば、Dicer非依存であることで、例えば、Dicerの発現が低下している腫瘍細胞においても有効に機能できる。また、自然免疫に関与するTLR family、RIG-I、MDA5による核酸認識は、核酸の長さに強く依存する。本発明の発現制御核酸分子は、例えば、全長が相対的に短いため、自然免疫反応を回避できる。さらに、本発明の発現制御核酸分子は、例えば、siRNAのように二本の一本鎖をアニーリングする必要もなく、安価に製造できる。
【0019】
本発明の発現制御核酸分子において、前記(b)のヌクレオチドは、前記(a)のいずれかの塩基配列において、1もしくは数個の塩基が欠失、置換、挿入および/または付加された塩基配列からなり、前記癌関連遺伝子の発現を制御するポリヌクレオチドである。前記(b)において、「1もしくは数個」は、例えば、前記(b)のポリヌクレオチドが、前記癌関連遺伝子の発現を制御する範囲であればよい。前記「1もしくは数個」は、前記(a)のいずれかの塩基配列において、例えば、1〜10個、1〜7個、1〜5個、1〜3個、1または2個である。本発明において、塩基数および配列数等の個数の数値範囲は、例えば、その範囲に属する正の整数を全て開示するものである。つまり、例えば、「1〜5塩基」との記載は、「1、2、3、4、5塩基」の全ての開示を意味する(以下、同様)。
【0020】
本発明の発現制御核酸分子において、前記(c)のヌクレオチドは、前記(a)のいずれかの塩基配列に対して、80%以上の同一性を有する塩基配列からなり、前記癌関連遺伝子の発現を制御するポリヌクレオチドである。前記(c)において、「同一性」は、例えば、前記(c)のポリヌクレオチドが、前記癌関連遺伝子の発現を制御する範囲であればよい。前記同一性は、例えば、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上である。前記同一性は、例えば、BLAST、FASTA等の解析ソフトウェアを用いて、デフォルトのパラメータにより算出できる(以下、同様)。
【0021】
本発明の発現制御核酸分子は、例えば、(d)前記(a)のいずれかの塩基配列からなるポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドに、相補的な塩基配列からなり、前記癌関連遺伝子の発現を制御するポリヌクレオチドでもよい。前記(d)において、「ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチド」は、例えば、前記(a)のポリヌクレオチドに対して、完全または部分的に相補的なポリヌクレオチドである。前記ハイブリダイズは、例えば、各種ハイブリダイゼーションアッセイにより検出できる。前記ハイブリダイゼーションアッセイは、特に制限されず、例えば、ザンブルーク(Sambrook)ら編「モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリーマニュアル第2版(Molecular Cloning: A Laboratory Manual 2
nd Ed.)」〔Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)〕等に記載されている方法を採用することもできる。
【0022】
前記(d)において、「ストリンジェントな条件」は、例えば、低ストリンジェントな条件、中ストリンジェントな条件、高ストリンジェントな条件のいずれでもよい。「低ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、32℃の条件である。「中ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、42℃の条件である。「高ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、50℃の条件である。ストリンジェンシーの程度は、当業者であれば、例えば、温度、塩濃度、プローブの濃度および長さ、イオン強度、時間等の条件を適宜選択することで、設定可能である。「ストリンジェントな条件」は、例えば、前述したザンブルーク(Sambrook)ら編「モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリーマニュアル第2版(Molecular Cloning: A Laboratory Manual 2
nd Ed.)」〔Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)〕等に記載の条件を採用することもできる。
【0023】
本発明の発現制御核酸分子は、例えば、その5’末端と3’末端とが未連結である、線状一本鎖核酸分子ということもできる。本発明の発現制御核酸分子は、例えば、両末端の未結合の維持のため、5’末端が非リン酸基であることが好ましい。
【0024】
本発明の発現制御核酸分子の構成単位は、特に制限されず、例えば、ヌクレオチド残基があげられる。前記ヌクレオチド残基は、例えば、リボヌクレオチド残基およびデオキシリボヌクレオチド残基があげられる。本発明の発現制御核酸分子において、前記ヌクレオチド残基は、例えば、リボヌクレオチド残基が好ましい。前記ヌクレオチド残基は、例えば、修飾されていない非修飾ヌクレオチド残基および修飾された修飾ヌクレオチド残基があげられる。本発明の発現制御核酸分子は、例えば、前記修飾ヌクレオチド残基を含むことによって、ヌクレアーゼ耐性を向上し、安定性を向上可能である。また、本発明の発現制御核酸分子は、例えば、前記ヌクレオチド残基の他に、さらに、非ヌクレオチド残基を含んでもよい。
【0025】
本発明の発現制御核酸分子が、例えば、前記非修飾リボヌクレオチド残基の他に前記修飾リボヌクレオチド残基を含む場合、前記修飾リボヌクレオチド残基の個数は、特に制限されず、例えば、「1個もしくは数個」であり、具体的には、例えば、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1または2個である。前記非修飾リボヌクレオチド残基に対する前記修飾リボヌクレオチド残基は、例えば、リボース残基がデオキシリボース残基に置換された前記デオキシリボヌクレオチド残基であってもよい。本発明の発現制御核酸分子が、例えば、前記非修飾リボヌクレオチド残基の他に前記デオキシリボヌクレオチド残基を含む場合、前記デオキシリボヌクレオチド残基の個数は、特に制限されず、例えば、「1もしくは数個」であり、具体的には、例えば、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1または2個である。
【0026】
前記ヌクレオチド残基は、例えば、構成要素として、糖、塩基およびリン酸を含む。前記リボヌクレオチド残基は、例えば、糖としてリボース残基を有し、塩基として、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)またはウラシル(U)を有し、前記デオキシリボヌクレオチド残基は、例えば、糖としてデオキシリボース残基を有し、塩基として、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)またはチミン(T)を有する。
【0027】
前記非修飾ヌクレオチド残基は、前記各構成要素が、例えば、天然に存在するものと同一または実質的に同一であり、具体的には、例えば、人体において天然に存在するものと同一または実質的に同一である。
【0028】
前記修飾ヌクレオチド残基は、例えば、前記非修飾ヌクレオチド残基の構成要素のいずれが修飾されてもよい。前記修飾ヌクレオチド残基は、例えば、天然に存在するヌクレオチド残基、人工的に修飾したヌクレオチド残基等があげられる。
【0029】
前記修飾ヌクレオチド残基は、例えば、前記非修飾ヌクレオチドの代替物の残基であってもよい。前記代替物は、例えば、人工核酸モノマー残基があげられる。具体例として、例えば、PNA(ペプチド核酸)、LNA(Locked Nucleic Acid)、ENA(2’−O,4’−C−Ethylenebridged Nucleic Acid)等があげられる。
【0030】
前記ヌクレオチド残基において、前記塩基は、特に制限されない。前記塩基は、例えば、天然の塩基でもよいし、非天然の塩基でもよい。前記塩基は、例えば、天然由来でもよいし、合成品でもよい。前記塩基は、例えば、一般的な塩基、その修飾アナログ等が使用できる。
【0031】
本発明の発現制御核酸分子は、例えば、標識物質を含み、前記標識物質で標識化されてもよい。前記標識物質は、特に制限されず、例えば、蛍光物質、色素、同位体等があげられる。前記標識物質は、例えば、ピレン、TAMRA、フルオレセイン、Cy3色素、Cy5色素等の蛍光団があげられ、前記色素は、例えば、Alexa488等のAlexa色素等があげられる。前記同位体は、例えば、安定同位体および放射性同位体があげられ、好ましくは安定同位体である。また、前記安定同位体は、例えば、標識した化合物の物性変化がなく、トレーサーとしての性質にも優れる。前記安定同位体は、特に制限されず、例えば、
2H、
13C、
15N、
17O、
18O、
33S、
34Sおよび
36Sがあげられる。
【0032】
本発明の発現制御核酸分子は、前述のように、前記癌関連遺伝子の発現を制御できる。前記癌関連遺伝子は、例えば、MET遺伝子、CDK2AP1遺伝子、SUV39H1遺伝子、CCL2遺伝子およびABCC6等である。本発明の発現制御核酸分子は、例えば、これらの遺伝子の発現を抑制できる。このため、本発明の発現制御核酸分子は、例えば、前記癌関連遺伝子が原因となる疾患(癌)の治療剤として使用できる。本発明において、「治療」は、例えば、前記疾患の予防、疾患の改善、予後の改善の意味を含み、いずれでもよい。前記癌疾患としては、例えば、乳がん、肺がん、胃がん、大腸がん、肝がん、膵がん、食道がん、前立腺がん、胆嚢がん、子宮体がん、子宮頸がん、卵巣がん、骨肉腫、白血病等のがん、肺線維症、肝線維症等の疾患があげられる。
【0033】
本発明の発現制御核酸分子の使用方法は、特に制限されず、例えば、前記癌関連遺伝子を有する投与対象に、前記発現制御核酸分子を投与すればよい。
【0034】
前記投与対象は、例えば、細胞、組織または器官があげられる。前記投与対象は、例えば、ヒト、ヒトを除く非ヒト哺乳類等の非ヒト動物があげられる。前記投与は、例えば、
in vivoでも
in vitroでもよい。前記細胞は、特に制限されず、例えば、HeLa細胞、293細胞、NIH3T3細胞、COS細胞等の各種培養細胞、ES細胞、造血幹細胞等の幹細胞、初代培養細胞等の生体から単離した細胞等があげられる。
【0035】
本発明の発現制御核酸分子の使用に関しては、後述する本発明の組成物、発現制御方法および治療方法等の記載を参照できる。
【0036】
本発明の発現制御核酸分子は、前述のように、前記癌関連遺伝子の発現を制御可能であることから、例えば、医薬品、診断薬および農薬、ならびに、農薬、医学、生命科学等の研究ツールとして有用である。
【0037】
本発明の発現制御核酸分子の合成方法は、特に制限されず、従来公知の核酸の製造方法が採用できる。前記合成方法は、例えば、遺伝子工学的手法による合成法、化学合成法等があげられる。遺伝子工学的手法は、例えば、インビトロ転写合成法、ベクターを用いる方法、PCRカセットによる方法があげられる。前記ベクターは、特に制限されず、プラスミド等の非ウイルスベクター、ウイルスベクター等があげられる。前記化学合成法は、特に制限されず、例えば、ホスホロアミダイト法およびH−ホスホネート法等があげられる。前記化学合成法は、例えば、市販の自動核酸合成機を使用可能である。前記化学合成法は、一般に、アミダイトが使用される。前記アミダイトは、特に制限されず、市販のアミダイトとして、例えば、RNA Phosphoramidites(2’−O−TBDMSi、商品名、三千里製薬)、ACEアミダイトおよびTOMアミダイト、CEEアミダイト、CEMアミダイト、TEMアミダイト等があげられる。
【0038】
(2)組成物
本発明の発現制御用組成物は、前述のように、癌関連遺伝子の発現を制御するための組成物であって、前記本発明の発現制御核酸分子を含むことを特徴とする。本発明の組成物は、前記本発明の発現制御核酸分子を含むことが特徴であり、その他の構成は、何ら制限されない。本発明の発現制御用組成物は、例えば、発現制御用試薬ということもできる。
【0039】
本発明によれば、例えば、前記癌関連遺伝子が存在する対象に投与することで、前記標的遺伝子の発現制御を行うことができる。
【0040】
また、本発明の薬学的組成物は、前述のように、前記本発明の発現制御核酸分子を含むことを特徴とする。本発明の薬学的組成物は、前記本発明の発現制御核酸分子を含むことが特徴であり、その他の構成は何ら制限されない。本発明の薬学的組成物は、例えば、医薬品ということもできる。
【0041】
本発明によれば、例えば、癌遺伝子が原因となる癌疾患の患者に投与することで、前記癌関連遺伝子の発現を抑制し、前記癌疾患を治療することができる。本発明において、「治療」は、前述のように、例えば、前記癌疾患の予防、癌疾患の改善、予後の改善の意味を含み、いずれでもよい。
【0042】
本発明において、治療の対象となる癌疾患は、特に制限されず、前記癌関連遺伝子の発現が原因となる疾患があげられる。前記癌疾患の種類に応じて、その癌疾患の原因となる癌関連遺伝子を標的遺伝子に設定すればよい。
【0043】
本発明の発現制御用組成物および薬学的組成物(以下、組成物という)は、その使用方法は、特に制限されず、例えば、前記癌関連遺伝子を有する投与対象に、前記発現制御核酸分子を投与すればよい。
【0044】
前記投与対象は、例えば、細胞、組織または器官があげられる。前記投与対象は、例えば、ヒト、ヒトを除く非ヒト哺乳類等の非ヒト動物があげられる。前記投与は、例えば、
in vivoでも
in vitroでもよい。前記細胞は、特に制限されず、例えば、HeLa細胞、293細胞、NIH3T3細胞、COS細胞等の各種培養細胞、ES細胞、造血幹細胞等の幹細胞、初代培養細胞等の生体から単離した細胞等があげられる。
【0045】
前記投与方法は、特に制限されず、例えば、投与対象に応じて適宜決定できる。前記投与対象が培養細胞の場合、例えば、トランスフェクション試薬を使用する方法、エレクトロポレーション法等があげられる。
【0046】
本発明の組成物は、例えば、本発明の発現制御核酸分子のみを含んでもよいし、さらにその他の添加物を含んでもよい。前記添加物は、特に制限されず、例えば、薬学的に許容された添加物が好ましい。前記添加物の種類は、特に制限されず、例えば、投与対象の種類に応じて適宜選択できる。
【0047】
本発明の組成物において、前記発現制御核酸分子は、例えば、前記添加物と複合体を形成してもよい。前記添加物は、例えば、複合化剤ということもできる。前記複合体形成により、例えば、前記発現制御核酸分子を効率よくデリバリーすることができる。
【0048】
前記複合化剤は、特に制限されず、ポリマー、シクロデキストリン、アダマンチン等があげられる。前記シクロデキストリンは、例えば、線状シクロデキストリンコポリマー、線状酸化シクロデキストリンコポリマー等があげられる。
【0049】
前記添加剤は、この他に、例えば、担体、標的細胞への結合物質、縮合剤、融合剤、賦形剤等があげられる。
【0050】
(3)発現制御方法
本発明の発現制御方法は、前述のように、癌関連遺伝子の発現を制御する方法であって、前記本発明の発現制御核酸分子を使用することを特徴とする。本発明の発現制御方法は、前記本発明の発現制御核酸分子を使用することが特徴であって、その他の工程および条件は、何ら制限されない。
【0051】
本発明の発現制御方法は、例えば、前記癌関連遺伝子が存在する対象に、前記発現制御核酸分子を投与する工程を含む。前記投与工程により、例えば、前記投与対象に前記発現制御核酸分子を接触させる。前記投与対象は、例えば、細胞、組織または器官があげられる。前記投与対象は、例えば、ヒト、ヒトを除く非ヒト哺乳類等の非ヒト動物があげられる。前記投与は、例えば、
in vivoでも
in vitroでもよい。
【0052】
本発明の発現制御方法は、例えば、前記発現制御核酸分子を単独で投与してもよいし、前記発現制御核酸分子を含む前記本発明の組成物を投与してもよい。前記投与方法は、特に制限されず、例えば、投与対象の種類に応じて適宜選択できる。
【0053】
(4)治療方法
本発明の治療方法は、前述のように、前記本発明の発現制御核酸分子を、患者に投与する工程を含むことを特徴とする。本発明の治療方法は、前記本発明の発現制御核酸分子を使用することが特徴であって、その他の工程および条件は、何ら制限されない。
【0054】
本発明の治療方法は、例えば、前記本発明の発現制御方法等を援用できる。前記投与方法は、特に制限されず、例えば、経口投与および非経口投与のいずれでもよい。
【0055】
(5)発現制御核酸分子の使用
本発明の使用は、前記癌関連遺伝子の発現制御のための、前記本発明の発現制御核酸分子の使用である。
【0056】
本発明の核酸分子は、疾患(例えば、癌疾患)の治療に使用するための核酸分子であって、前記核酸分子は、前記本発明の発現制御核酸分子であることを特徴とする。
【0057】
以下、実施例等により、本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
ghRNA−2(配列番号1)を合成し、MET遺伝子、CDK2AP1遺伝子およびSUV39H1遺伝子のmRNA発現の抑制を確認した。
【0059】
ghRNA−2を、UltraPure DNase/RNase−Free Distilled Water(Thermofisher社)で溶解し、100μmol/LのghRNA溶液を調製した。mRNAの検出には、ヒト非小細胞性肺がん細胞株(NCI―H1299、ATCC社)を使用した。培地は、10%FBSを含むRPMI―1640(Invitrogen社)を使用した。培養条件は、37℃、5%CO
2下とした。
【0060】
まず、前記細胞を前記培地中で培養し、その培養液を、24穴プレートに、500μLずつ、1×10
4細胞/ウェルとなるように分注した。さらに、前記ウェル中の細胞を24時間培養した後、前記ghRNA−2を、トランスフェクション試薬RNAi MAX Transfection Reagent(Life Technologies社)を用い、添付プロトコールに従って、トランスフェクションした。トランスフェクション後、前記ウェル中の細胞を2日間培養した。
【0061】
そして、得られた培養細胞について、ISOGEN reagent(ニッポンジーン社)を用い、添付のプロトコールに従って、RNAを回収した。
【0062】
次に、逆転写酵素(商品名M-MLV reverse transcriptase、Invitrogen社)を用い、添付のプロトコールに従って、前記RNAからcDNAを合成した。そして、合成した前記cDNAを鋳型として定量PCRを行い、各遺伝子のcDNA量を測定した。
【0063】
コントールとして、ghRNA−2未添加の細胞(Non-treated)、トランスフェクション試薬のみ添加の細胞(Mock)、ヒトのデータベース上の全ての転写産物に相補的でないコントロール核酸をトランスフェクションした細胞(Control)についても、同様にcDNA量を測定した。そして、Non-treatedのcDNA量を1として、相対値を求めた。
【0064】
これらの結果を
図2に示す。
図2は、各遺伝子の発現の相対値を示すグラフである。
図2に示すように、いずれの遺伝子も、ghRNA−2によって、発現が有意に抑制された。
【0065】
(実施例2)
ghRNA−2は、細胞内にも存在する核酸分子であることから、RNAスポンジにより内在ghRNA−2の機能をブロックした上で、外来ghRNA−2を細胞に導入し、内在ghRNA−2および外来ghRNA−2による発現への影響を確認した。なお、特に示さない限り、前記実施例1の方法を援用した。
【0066】
(1)内在ghRNA−2の機能をブロックした細胞の構築
図3に、RNAスポンジの概略を示す。
図3に示すように、ghRNA−2のシード領域のみが結合するghRNA−2スポンジmiRNA型、ghRNA−2の全体が結合するghRNA−2スポンジsiRNA型、ghRNA−2の逆向き配列が結合するghRNA−2スポンジコントロール、ghRNA−2の結合領域を持たないNon−スポンジコントロールを作成した。
【0067】
そして、前記各RNAスポンジを細胞に導入した以外は、前記実施例1と同様にghRNA−2を導入し、前記RNAスポンジに組み込んだホタル(Firefly)由来ルシフェラーゼとシーパンジー(Renilla)由来ルシフェラーゼの発光を測定し、その相対比を求めた。
【0068】
これらの結果を
図4に示す。
図4は、各細胞におけるルシフェラーゼ発光の相対比を示すグラフである。
図4において、各細胞に関するバーは、左からNon-treated、Mock、Control ghRNA、ghRNA-2である。
図4に示すように、ghRNA−2スポンジmiRNA型またはghRNA−2スポンジsiRNA型を導入した細胞の場合、ghRNA−2の添加により、ルシフェラーゼ活性の相対値が顕著に減少した。この結果から、ghRNA−2スポンジmiRNA型またはghRNA−2スポンジsiRNA型により内在ghRNA−2の機能がブロックされ、外来ghRNA−2により、内在ghRNA−2と同様の機能が回復していることが確認できた。
【0069】
(2)MET遺伝子の発現への影響
前記(1)で作成した、内在ghRNA−2の機能をブロックした細胞について、MET遺伝子の発現相対値を確認した。これらの結果を、
図5に示す。
図2は、MET遺伝子の発現の相対値を示すグラフである。
図5に示すように、内在性ghRNA−2の機能をブロックした細胞は、MET遺伝子の発現量が有意に増加した。この結果から、ghRNA−2は、MET遺伝子の発現抑制に関与していることが確認できた。
【0070】
(実施例3)
ghRNA−2による発現抑制活性と、AGOとの関係とを確認した。なお、特に示さない限り、前記実施例1の方法を援用した。
【0071】
(1)ghRNA−2のAGO1、2、3または4への依存
図6に、H1299細胞におけるAGO1〜AGO4のmRNAコピー数を示す。このH1299細胞のAGO1ノックアウト株、AGO2ノックアウト株、AGO3ノックアウト株、AGO4ノックアウト株について、前記実施例1と同様にして、ghRNA−2を導入し、各遺伝子(MET遺伝子、CDK2AP1遺伝子、SUV39H1遺伝子)のノックダウン効果を確認した。
【0072】
これらの結果を、
図7に示す。
図7は、各遺伝子に対するノックダウン効率を示すグラフである。
図7に示すように、MET遺伝子は、H1299におけるノックダウン効果が、AGO2ノックダウン株において減少していることから、ghRNA−2は、MET遺伝子に対してAGO2に依存的であることがわかった。また、CDK2AP1遺伝子およびSUV39H1遺伝子は、H1299におけるノックダウン効果が、AGO2ノックアウト株およびAGO3ノックアウト株において減少していることから、ghRNA−2は、CDK2AP1遺伝子およびSUV39H1遺伝子に対してAGO2およびAGO3に依存的であることがわかった。
【0073】
(2)ghRNA−2のAGOファミリーへの依存
H1299細胞と、そのAGO1、2および3ノックアウト株2種類(#1、#2)について、前記実施例1と同様にして、ghRNA−2を導入し、各遺伝子(MET遺伝子、CDK2AP1遺伝子、SUV39H1遺伝子)のノックダウン効果を確認した。
【0074】
これらの結果を、
図8に示す。
図8は、各遺伝子に対するノックダウン効率を示すグラフである。
図8に示すように、いずれの遺伝子も、H1299におけるノックダウン効果が、ノックアウト株(#1、#2)において減少していることから、ghRNA−2は、各遺伝子に対してAGOファミリーに依存的であることがわかった。
【0075】
以上、実施形態および実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。