特許第6934239号(P6934239)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6934239
(24)【登録日】2021年8月25日
(45)【発行日】2021年9月15日
(54)【発明の名称】高感度昇温脱離ガス分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20210906BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20210906BHJP
【FI】
   G01N27/62 F
   G01N27/62 V
   H01L21/66 L
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-34677(P2017-34677)
(22)【出願日】2017年2月27日
(65)【公開番号】特開2018-141657(P2018-141657A)
(43)【公開日】2018年9月13日
【審査請求日】2019年9月13日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業、東工大元素戦略拠点(TIES)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100124257
【弁理士】
【氏名又は名称】生井 和平
(72)【発明者】
【氏名】細野 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】半那 拓
(72)【発明者】
【氏名】平松 秀典
【審査官】 佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−032223(JP,A)
【文献】 特開平07−002277(JP,A)
【文献】 特開平06−103960(JP,A)
【文献】 特開2016−080679(JP,A)
【文献】 特開平10−267872(JP,A)
【文献】 特開平04−048254(JP,A)
【文献】 特開平05−045309(JP,A)
【文献】 特開平09−118943(JP,A)
【文献】 特開2013−253970(JP,A)
【文献】 広畑優子,昇温脱離法(TDS)による水素の定量分析,J. Vac. Soc. Jpn (真空),1999年,Vol.42, No 10, (1999),Pages 879-885
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
・IPC
G01N 27/60−27/70、27/92
H01J 49/00−49/42、
H01L 21/64−21/66
・JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルから放出される超微小量のガスを検出可能な高感度昇温脱離ガス分析装置であって、該高感度昇温脱離ガス分析装置は、
ガス含有量の低い超低ガス放出処理済材料からなる真空チャンバと、
前記真空チャンバ内に配置され、超低ガス放出処理済材料からなり、サンプルの置かれるサンプル台と、
前記真空チャンバの外部からサンプル台に置かれるサンプルを非接触で加熱するための加熱手段と、
前記真空チャンバに接続され超低ガス放出処理済材料からなる測定室と、サンプルから脱離するガスを測定室内で測定するための質量分析計とを有する検出部と、
前記真空チャンバ内を真空状態とするために真空チャンバに接続される測定室に接続され、複数のポンプを直列接続することでガス圧縮率を高めるように構成されるタンデム型ポンプと、
前記タンデム型ポンプと測定室との間に配置され、サンプルから脱離するガスの放出速度よりも大きくなる範囲でタンデム型ポンプによる測定室からの排気速度を小さくすると共に測定室側へのガスの戻りを抑制するためのオリフィスと、
を具備することを特徴とする高感度昇温脱離ガス分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の高感度昇温脱離ガス分析装置において、前記超低ガス放出処理済材料は、ベリリウム銅からなることを特徴とする高感度昇温脱離ガス分析装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の高感度昇温脱離ガス分析装置であって、さらに、前記真空チャンバに接続される成膜装置を具備することを特徴とする高感度昇温脱離ガス分析装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の高感度昇温脱離ガス分析装置において、前記ガスは、水素であることを特徴とする高感度昇温脱離ガス分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高感度昇温脱離ガス分析装置に関し、特に、サンプルから放出される超微小量のガスを検出可能な高感度昇温脱離ガス分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体等の試料を評価するために、試料を真空中で加熱し、その試料から脱離するガスを質量分析計で計測する昇温脱離ガス分析装置が知られている(例えば特許文献1)。昇温脱離ガス分析装置による不純物の定量では、試料に含まれる測定対象の総量が検出限界を決定するため、例えば1017atom/cm以下の水素不純物濃度を定量するには、体積の大きいバルク試料を分析対象とせざるを得ない。
【0003】
一般的な昇温脱離ガス分析装置では、測定室内の残留不純物によるバックグラウンドノイズの除去と、試料以外の部分が過熱されることで生じるガス放出の除去が、高感度化のための課題として挙げられる。後者の課題を解決するものとして、例えば特許文献2の昇温脱離ガス分析装置が知られている。これは、熱脱離後に水分子や水素をトラップする装置を用いて測定室内の水分子や水素を取り除き、試料から脱離したガスのみを正確に分析することを意図したものである。
【0004】
また、昇温脱離ガス分析装置等でも用いられる真空チャンバに、ガス放出の最も少ない超高真空対応の材料を用いたものも知られている(例えば特許文献3)。これは、純銅又はりん青銅、クロム銅、ベリリウム銅等の低蒸気圧銅合金を真空チャンバや真空部品に用いて、真空チャンバ等からの脱離ガスを抑えたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−48254号公報
【特許文献2】特開2012−32223号公報
【特許文献3】特開平7−2277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術のようなトラップ装置を用いた昇温脱離ガス分析装置であったとしても、測定室が加熱されることによる一部の影響を抑えるのみであり、真空チャンバ自体や検出器自体から放出されるガスの影響については考慮されていなかった。このため、特に残留ガスの除去が困難な水素ガスについては、薄膜試料のように体積の小さいものから1016−1017atom/cmの不純物濃度を定量可能な装置は従来存在しなかった。さらに、昇温脱離ガス分析装置で用いられる真空チャンバ等を超高真空対応の材料で構成したとしても、従来の昇温脱離ガス分析装置では、排気速度の高い、即ち、開口径の大きいターボ分子ポンプを用いて強制排気しているため、ターボ分子ポンプからの戻り水素ガスにより、残留水素ガスの低減による高感度化には限界があった。逆に、水素ガス検出の高感度化を図るために排気速度を低減した場合、真空チャンバ内のバックグラウンドノイズを上昇させてしまうため、やはり高感度化には限界があった。
【0007】
本発明は、斯かる実情に鑑み、微小なサンプルから放出される超微小量のガスであっても高感度に検出可能な高感度昇温脱離ガス分析装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した本発明の目的を達成するために、本発明による高感度昇温脱離ガス分析装置は、ガス含有量の低い超低ガス放出処理済材料からなる真空チャンバと、真空チャンバ内に配置され、超低ガス放出処理済材料からなり、サンプルの置かれるサンプル台と、真空チャンバの外部からサンプル台に置かれるサンプルを非接触で加熱するための加熱手段と、真空チャンバに接続され、超低ガス放出処理済材料からなり、サンプルから脱離するガスを測定するための検出部と、真空チャンバ内を真空状態とするために真空チャンバに接続され、複数のポンプを直列接続することでガス圧縮率を高めるように構成されるタンデム型ポンプと、タンデム型ポンプと検出部との間に配置され、排気速度を小さくすると共に検出部側へのガスの戻りを抑制するためのオリフィスと、を具備するものである。
【0009】
ここで、超低ガス放出処理済材料は、ベリリウム銅からなるものであれば良い。
【0010】
さらに、真空チャンバに接続される成膜装置を具備するものであっても良い。
【0011】
また、ガスは、水素であれば良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明の高感度昇温脱離ガス分析装置には、微小なサンプルから放出される超微小量のガスであっても高感度に検出可能であるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の高感度昇温脱離ガス分析装置の全体構成を説明するための概略ブロック図である。
図2図2は、本発明の高感度昇温脱離ガス分析装置に用いられるタンデム型ポンプ50の構成を説明するための概略ブロック図である。
図3図3は、本発明の高感度昇温脱離ガス分析装置の検出感度を従来の一般的な高感度昇温脱離ガス分析装置と比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を図示例と共に説明する。図1は、本発明の高感度昇温脱離ガス分析装置の全体構成を説明するための概略ブロック図である。図示の通り、サンプル1中の超微小量のガスを検出可能な本発明の高感度昇温脱離ガス分析装置は、真空チャンバ10と、サンプル台20と、加熱手段30と、検出部40と、タンデム型ポンプ50と、オリフィス60とから主に構成されている。ここで、検出するガスとしては、例えば水素であれば良い。本発明の高感度昇温脱離ガス分析装置は、サンプル1中から放出された水素等の超微小量のガスのみを高感度に検出できる。
【0015】
真空チャンバ10は、ガス含有量の低い超低ガス放出処理済材料からなる。昇温脱離ガス分析法は、真空中でサンプル1を昇温加熱した際に、サンプル1の表面や内部から脱離するガスを分析する手法である。この際に真空状態の空間を提供するのが、真空チャンバ10である。本発明の高感度昇温脱離ガス分析装置においては、サンプル1が置かれる空間に対して、極力ガス放出を抑制するように構成している。即ち、真空チャンバ10を構成する材料には、ガス含有量の低い超低ガス放出処理済材料が用いられている。ここで、超低ガス放出処理済材料とは、例えば焼きだしや表面処理により低ガス放出化された材料をいう。例えば、真空チャンバ10を真空状態で加熱し、真空チャンバ10を構成する材料に吸蔵されているガスを強制的に脱ガスし、その後のガス放出を少なくさせる。また、例えば本発明の高感度昇温脱離ガス分析装置の真空チャンバ10を構成する材料は、ベリリウム銅(BeCu合金)からなるものが好ましい。その他、純銅やりん青銅、クロム銅等のガス含有量の低い超低ガス放出処理済材料であれば良い。
【0016】
サンプル台20は、真空チャンバ10内に配置されるものである。サンプル台20には、サンプル1が置かれる。サンプル台20も、真空チャンバ10と同様に、超低ガス放出処理済材料からるものであれば良い。また、後述の加熱手段による加熱の効率化や、ステージの加熱による周辺部品への熱伝導の抑制のために、サンプル台20のサンプル1が置かれるステージ部分は、透明であることが好ましい。このため、ステージ部分は例えば無水シリカ製のものを用いれば良い。これにより、ステージからのガス放出も抑えることが可能となる。
【0017】
加熱手段30は、真空チャンバ10の外部からサンプル台20に置かれるサンプル1を非接触で加熱するためのものである。具体的には、レーザ光源やハロゲンランプ光源等であれば良い。これらの加熱手段30は、真空チャンバ10の外部に配置され、真空チャンバ10に設けられる加熱用窓11を介して真空チャンバ10の内部のサンプル1を加熱可能なものであれば良い。これにより、加熱手段30からのガス放出の影響を受けないように構成可能となる。
【0018】
検出部40は、真空チャンバ10に接続されるものであり、サンプル1から脱離するガスを測定するものである。具体的には、検出部40は、例えば質量分析計42が測定室41に接続されて構成されている。質量分析計42により、サンプル1から脱離するガスを検出し定量すれば良い。検出部40も、真空チャンバ10と同様に、超低ガス放出処理済材料からなるものであれば良い。即ち、測定室41は、、ベリリウム銅(BeCu合金)からなるものであれば良い。また、質量分析計42についても、超低ガス放出処理済材料を用いたもので構成されれば良い。例えば、質量分析計42の少なくとも測定室41内に露出する部分をベリリウム銅で構成することで、超低ガス放出処理を施せば良い。さらに、質量分析計42に低消費電力化を施すことで、イオン源の温度上昇を抑えることも有効である。測定室41は、具体的には、例えば565ml程度の容量であれば良い。また、測定室41内の真空レベルは、検出部40の質量分析計42により計測可能な状態である例えば5×10−9Paに保持されれば良い。
【0019】
タンデム型ポンプ50は、真空チャンバ10内を真空状態とするために真空チャンバ10に接続されるものである。タンデム型ポンプ50は、複数のポンプを直列接続することでガス圧縮率を高めるように構成されるものである。真空チャンバ10からのガス放出が極めて少ない本発明の高感度昇温脱離ガス分析装置においては、排気系の排気速度はもはや重要ではなくなる。このため、従来技術のような排気量の大きいターボ分子ポンプは不要となる。本発明の高感度昇温脱離ガス分析装置における排気系では、ガス圧縮率が重要となる。そこで、圧縮率を最大限に利用できるタンデム型ポンプ50を排気系に用いれば良い。
【0020】
図2に本発明の高感度昇温脱離ガス分析装置に用いられるタンデム型ポンプ50の構成を説明するための概略ブロック図を示す。図中、図1と同一の符号を付した部分は同一物を表している。タンデム型ポンプ50は、例えば2つのターボ分子ポンプ51,52を直列に接続したものである。ターボ分子ポンプ51,52は、タービン型の翼を持つロータ及びステータからなる分子ポンプである。より具体的には、例えば、アジレントテクノロジー社製のVaclon Plus 500を2台直列接続することでタンデム型ポンプ50とすれば良い。また、ターボ分子ポンプ51,52は、ある程度の真空中で使用する必要があるため、ロータリーポンプやダイヤフラムポンプ、ドライポンプ等の補助ポンプ53が接続される。
【0021】
なお、さらにNEGポンプ等の排気システムを検出部40の測定室41に接続しても良い。
【0022】
オリフィス60は、タンデム型ポンプ50と検出部40との間に配置されるものである。オリフィス60は、排気速度を小さくすると共に検出部40側へのガスの戻りを抑制するために設けられている。本発明の高感度昇温脱離ガス分析装置では、真空チャンバ10からのガス放出が極めて少ないため、排気速度を遅くすることが可能である。このため、オリフィス60によりタンデム型ポンプ50の開口径を絞ることで、検出部40、具体的には測定室41へのガスの戻りを抑制することが可能となる。オリフィス60による排気速度の制限は、サンプル1からのガス放出よりも十分に大きな排気速度となるように調整されれば良い。オリフィス60は、例えば銅製であり、中心に数ミリ程度の穴が開けられたものである。中心の穴の大きさによって排気速度が調整可能となるため、サンプル1からのガス放出量やタンデム型ポンプ50の排気速度、測定室41の大きさ等に応じて適宜調整されれば良い。
【0023】
なお、上述の図示例では、真空チャンバ10と測定室41が別の空間で構成される例を示したが、本発明はこれに限定されず、真空チャンバ10に質量分析計42やタンデム型ポンプ50を接続し、真空チャンバ10をそのまま測定室として用いても良い。
【0024】
さらに、本発明の高感度昇温脱離ガス分析装置は、成膜装置70を具備するものであっても良い。成膜装置70は、例えばスパッタリング蒸着装置であれば良い。より具体的には、マグネトロンスパッタリング蒸着装置であれば良い。成膜装置70は、トランスファチャンバを介して真空チャンバ10に接続される。このような構成により、サンプル1を成膜後に大気中等に暴露することなく、サンプル1からの放出ガスを測定することが可能となる。即ち、試料作製から評価までを、真空一貫プロセスにより行うことが可能となる。
【0025】
図3は、本発明の高感度昇温脱離ガス分析装置の検出感度を従来の一般的な高感度昇温脱離ガス分析装置と比較したグラフである。図中、横軸が測定時間であり縦軸が標準化強度である。また、実線が本発明の高感度昇温脱離ガス分析装置の質量分析計42からの検出信号であり、点線が従来の一般的な高感度昇温脱離ガス分析装置の質量分析計からの検出信号である。但し、従来の検出信号については、二次電子増倍管により1万〜10万倍に増幅して検出している。なお、比較対象である従来の高感度昇温脱離ガス分析装置としては、ESCO社製のTDS1400TVを用い、同一の標準サンプルに対して本発明の高感度昇温脱離ガス分析装置と比較した。図示の通り、本発明の高感度昇温脱離ガス分析装置は、高感度であるため増倍管を用いなくても十分な検出感度であることが分かる。S/N比では、従来例では50のところ、本発明の高感度昇温脱離ガス分析装置では、116,000となっており、従来例と比較して感度が約2000倍も上昇していることが分かる。
【0026】
なお、本発明の高感度昇温脱離ガス分析装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0027】
1 サンプル
10 真空チャンバ
11 加熱用窓
20 サンプル台
30 加熱手段
40 検出部
41 測定室
42 質量分析計
50 タンデム型ポンプ
51,52 ターボ分子ポンプ
60 オリフィス
70 成膜装置
図1
図2
図3