【文献】
Munetaka Hirose, et al,,Development of a Hemodynamic Model Using Routine Monitoring Parameters for Nociceptive Responses Evaluation During Surgery Under General Anesthesia,MEDICAL SCIENCE MONITOR,2018年05月20日,2018, 24,3324-3331
【文献】
Yuan Wu, et al,Grid multi-category response logistic models,BMC Medical Informatics & Decision Making,2015年,15:10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
NR決定部が、複数の時点における心拍数(HR)、収縮期血圧(SBP)、および血流指標(BFI)の測定値を用いて指標値NRを連続的に算出するように構成されている、請求項1または2に記載の装置。
血流指標(BFI)が、パルスオキシメータにより得られる灌流指標、パルスオキシメータ測定時の光電脈波における脈波高、またはレーザ血流計により得られる血流量である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の装置および方法について詳細に説明する。
【0015】
本発明の対象となる被験者は、麻酔下にあり、かつ、生体情報、特に侵害受容刺激反応レベルの監視が所望される対象であれば限定されない。被験者は、通常、哺乳動物であり、例えば、霊長類(例、ヒト、サル)、げっ歯類(例、マウス、ラット、モルモット)の他、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタなどといったペットや家畜となる動物であってよい。被験者は、好ましくはヒトであり、特に好ましくは外科手術を受けているヒト患者である。
【0016】
麻酔の種類は特に限定されず、全身麻酔、局所麻酔であってよいが、好ましくは意識の影響を受けない侵害受容刺激反応という点から全身麻酔である。麻酔は自体公知の方法により行うことができ、例えば、麻酔導入のためにプロポフォール、セボフルラン、デスフルラン、フェンタニル、レミフェンタニル、ロクロニウムなど、麻酔維持のためにセボフルラン、デスフルラン、フェンタニル、レミフェンタニル、ロクロニウムなどの慣用されている麻酔薬を静脈内注射もしくは吸入することにより行うことができる。
【0017】
本発明を用いて監視される生体情報は、被験者における侵害受容刺激反応のレベルを含んでいればよく、任意に、他の生体情報も更に含むことができる。他の生体情報としては、心電図、心拍数、血圧、血流、呼吸、体温、脳波などの、術中に一般に監視されるものであってよい。本発明によれば侵害受容刺激反応のレベルを決定するために心拍数、収縮期血圧、および血流指標の測定値を用いるので、当該生体情報は、心拍数、血圧、および血流を少なくとも含むことが好ましい。
【0018】
本明細書において、「侵害受容刺激反応」(nociceptive response, nociceptive reaction;NR)とは、麻酔下の状態、好ましくは意識のない状態における痛み刺激による反応である。用語「侵害受容刺激反応」は、「痛み反応」、「侵害受容反応」などと互換的に使用され得る。
本明細書において、「侵害受容刺激反応のレベル」とは、特定の時点において被験者に生じている上記の侵害受容刺激反応の総体的な大きさをいう。
本明細書において、「侵害受容刺激反応のレベルの指標値」とは、上記の侵害受容刺激反応のレベルを定量的に示す数値をいう。
【0019】
(本発明の装置)
本発明の装置は、麻酔下の被験者における生体情報を監視するための装置であって、
所与の時点における心拍数(heart rate;HR)、収縮期血圧(systolic blood pressure;SBP)、および血流指標(blood flow index;BFI)の測定値から、下記の式(1):
【0021】
(式中、A
1、A
2、A
3、B
1、B
2およびB
3は予め定められた定数である。)を用いて、当該時点における侵害受容刺激反応のレベルの指標値NRを算出するNR決定部を有することを特徴とする。
【0022】
上記の式(1)において、定数A
1、A
2、A
3、B
1、B
2およびB
3は、予め定められた異なる侵害受容刺激に対するそれぞれのNRを、線形モデルによる順序ロジスティック解析や非線形モデルによるニューラルネットワークなどによる解析等を用いて、分離できる定数を計算することにより予め設定することができる。
以下に、定数A
1、A
2、A
3、B
1、B
2およびB
3の各値の好ましい範囲を例示する。以下に例示する各定数の数値範囲は、被験者がヒトである場合であって、かつ、指標値NRを0〜1の範囲内(0≦NR≦1)で表す場合のものである。
(定数A
1)
A
1の値の好ましい範囲としては−2.0〜−0.2が挙げられ、より好ましい範囲としては、−1.0〜−0.5が挙げられる。前記範囲のなかでも好ましいA
1の値としては−0.7が例示され、さらに好ましい値としては−1.0が例示される。
(定数A
2)
A
2の値の好ましい範囲としては+0.3〜+3.0が挙げられ、より好ましい範囲としては、+1.0〜+2.0が挙げられる。前記範囲のなかでも好ましいA
2の値としては+1.7が例示され、さらに好ましい値としては+2.0が例示される。
(定数A
3)
A
3の値の好ましい範囲としては+0.5〜+1.5が挙げられる。前記範囲のなかでも好ましいA
3の値としては1.0が例示される。
(定数B
1)
B
1の値の好ましい範囲としては−0.05〜−0.005が挙げられる。前記範囲のなかでも好ましいB
1の値としては−0.01が例示される。
(定数B
2)
B
2の値の好ましい範囲としては−0.05〜−0.005が挙げられ、より好ましい範囲としては、−0.02〜−0.01が挙げられる。前記範囲のなかでも好ましいB
2の値としては−0.01が例示され、さらに好ましい値としては−0.02が例示される。
(定数B
3)
B
3の値の好ましい範囲としては+0.05〜+0.5が挙げられ、より好ましい範囲としては、+0.10〜+0.20が挙げられる。前記範囲のなかでも好ましいB
3の値としては+0.10が例示され、さらに好ましい値としては+0.17が例示される。
【0023】
指標値NRは、麻酔科医の主観で判断していた手術中の侵害受容刺激反応の程度を数値化したものである。定数A
1、A
2、A
3、B
1、B
2およびB
3の各値は、指標値NRが麻酔科医の主観にある程度合致する数値になるように決定される。
後述のとおり、心拍数(HR)、収縮期血圧(SBP)、および血流指標(BFI)のそれぞれの測定値が取り得る範囲は、被験者がヒトである場合には、HR=20〜200、SBP=20〜200、BFI=0〜20である。
上記で例示した定数A
1、A
2、A
3、B
1、B
2、B
3の各値の範囲は、上記式(1)によって算出される指標値NRを0〜1の範囲内で表すように考慮されたものである。定数B
1、B
2、B
3は、HR、SBP、BFIを結合させるための係数であって、HR、SBP、BFIが指標値NRに対してそれぞれ寄与する割合を示している。
上記では、指標値NRを0〜1の範囲で表す場合の各定数の好ましい範囲を示しているが、「0〜1」という範囲それ自体は、医療従事者等が判断し易い表示範囲としての好ましい一例である。指標値NRが示す値の範囲は、0〜1の範囲に限定されることはなく、0〜5の範囲、0〜10の範囲、または0〜100の範囲など、指標値NRを利用する医療従事者等が分かり易い任意の範囲であってもよい。
該指標値NRの表示範囲を、0〜5の範囲、0〜10の範囲、または0〜100の範囲など、任意の範囲とする場合には、0〜1の範囲のために定数が決定された上記式(1)の右辺全体に、5倍、10倍、または100倍などの任意の倍率の数値k(k=5、10、または100など)を乗じ、該倍率の数値kを該右辺中の各定数に分配して、k倍に応じた新たな定数A
1、A
2、A
3、B
1、B
2、B
3を求めればよい。尚、その場合、該右辺の第2項の分母中の指数関数項の底であるネイピア数eに該数値kを乗じた状態にしておけば、その指数部分の定数B
1、B
2、B
3の数値範囲は、指標値NRを0〜1の範囲で表す場合について上記した各範囲を用いることができる。
また、被験者がヒト以外の動物の場合であっても、HRとSBPとBFIとを結合させた上記式(1)は、麻酔下の手術中の侵害受容刺激反応の程度を表す指標として利用可能であり、その場合における定数A
1、A
2、A
3、B
1、B
2、B
3のそれぞれの範囲もまた、例えば、既存の麻酔下の手術時のデータなどに基づいて、または、新たな実験によって、指標値NRが麻酔科医の主観にある程度合致する数値になるように適宜決定することができる。
【0024】
(被験者がヒトであって、指標値NRを0〜1の範囲内で表す場合の、定数A
1、A
2、A
3、B
1、B
2、B
3の組み合わせと、それによって決定される指標値NR)
上記した定数A
1、A
2、A
3、B
1、B
2、B
3の値は、それぞれ独立的に決定することができる。HR、SBH、BFIの値によっても異なるが、好ましい定数値による指標値NRは、0.6〜1.0程度となる。
具体的な実施形態において、例えば、血流指標(BFI)として灌流指標(PI)を用いる場合に、定数A
1、A
2、A
3、B
1、B
2、B
3の好ましい組み合わせは、以下に例示するものが挙げられる。
(定数の組み合わせの第1の例)
A
1=−0.7、
A
2=1.7、
A
3=1、
B
1=−1/100、
B
2=−1/100、
B
3=10/100
(定数の組み合わせの第2の例)
A
1=−1.0、
A
2=2.0、
A
3=1、
B
1=−1/100、
B
2=−2/100、
B
3=17/100
B
1=−1/100(−0.01)、B
2=−2/100(−0.02)、B
3=17/100(+0.17)の各値は、侵害受容刺激の異なる手術(鼓室形成>腹腔鏡下胆嚢摘出術>開腹胃手術の順に侵害受容刺激は強くなる)の皮膚切開時における指標値NRの違いが最も大きくなるように順序ロジスティック回帰分析により得られた数値である。
【0025】
上記の式(1)に代入される心拍数(HR)、収縮期血圧(SBP)、および血流指標(BFI)の測定値は、従来技術を用いて得られたものであってよい。これらのパラメータの測定の詳細は後述する。
【0026】
血流指標(BFI)は、被験者における血流の程度を定量的に示すものであれば限定されない。血流指標(BFI)としては、例えば、パルスオキシメータにより得られる灌流指標(perfusion index;PI;Masimo社特許)、パルスオキシメータ測定時の光電脈波における脈波高、レーザ血流計により得られる血流量(株式会社ジェイ・エム・エスなど)、などであってよい。灌流指標(PI)は、脈波形の大きさに基づいて算出されており、拍動性成分と無拍動性成分との比率、即ちPI(%)={(拍動成分)/(無拍動成分)}×100により定義される。
【0027】
NR決定部は、心拍数(HR)、収縮期血圧(SBP)、および血流指標(BFI)の測定値を受け取り、受け取ったこれらの測定値と、予め設定された各定数A
1、A
2、A
3、B
1、B
2およびB
3とから、上記の式(1)により侵害受容刺激反応のレベルの指標値NRを算出する。
【0028】
好ましい実施形態において、本発明の装置は、生体情報を連続的に監視するように構成されている。より具体的には、本発明の装置は、複数の時点における心拍数(HR)、収縮期血圧(SBP)、および血流指標(BFI)の測定値を用いて指標値NRを連続的に算出するように構成されていることが好ましい。一般に、心拍数(HR)および血流指標(BFI)は術中に連続測定されているが、収縮期血圧(SBP)は観血的血圧測定法により連続測定される場合と非観血的血圧測定法により数分毎に測定される場合がある。収縮期血圧(SBP)を非観血的血圧測定法により測定する場合は、例えば、ある時点で測定した収縮期血圧(SBP)を次の測定時点(例えば数分後)まで代用してもよい。本明細書において、「生体情報の連続的な監視」および「指標値NRの連続的な算出」とは、生体情報または指標値NRの経時的な変動を追跡するのに十分な程度の頻度で生体情報が監視または指標値NRが算出されるものである限り連続性の程度は問わない。指標値NRの連続的な算出は、例えば10秒以内、好ましくは1秒以内の間隔で指標値NRの算出が為されるものであってよい。
【0029】
一実施形態による本発明の装置の概略のブロック図を
図1に示す。
本例の装置1は、上記指標値NRを算出するNR決定部11、心拍数(HR)を測定する心拍数測定部12、収縮期血圧(SBP)を測定する収縮期血圧測定部13、血流指標(BFI)を測定する血流指標測定部14、制御部15、およびディスプレイ16を少なくとも有して構成されている。但し、本発明の装置においてNR決定部以外の機能部は必須の構成要素ではない。例えば、本発明の装置は、外部装置により測定された心拍数(HR)、収縮期血圧(SBP)、および/または血流指標(BFI)を利用するものであってもよい。従って、本発明の装置は、心拍数測定部、収縮期血圧測定部、および血流指標測定部のうちのいずれか1つのみ、いずれか2つのみ、またはこれら全てを含むものであってよい。また、本発明の装置において、制御部および/またはディスプレイを割愛することもできる。
【0030】
NR決定部11の構成は上述したものであってよい。NR決定部11および制御部15は、一つの制御装置として構成することができる。該制御装置は、好ましい実施形態においては、コンピュータであってよい。
コンピュータを用いて該制御装置を構成する場合、該コンピュータで実行されるプログラム(ソフトウェア)が、該コンピュータを制御部およびNR決定部として機能させるように構成される。該コンピュータに接続される心拍数測定デバイス、血圧測定デバイス、血流指標測定デバイスなどの外部測定機器は、有線または無線のインターフェイスを介して各測定データを該コンピュータに送るように接続される。該コンピュータで実行されるプログラムは、外部測定機器から送られる心拍数、収縮期血圧、血流指標を受入れ、所定の定数A
1、A
2、A
3、B
1、B
2、B
3の好ましい組み合わせを用い、上記式(1)の演算を行うよう構成される。
該コンピュータの記憶装置またはプログラム中には、定数A
1、A
2、A
3、B
1、B
2、B
3およびこれらの好ましい組み合わせが格納されることが好ましく、使用者が好ましい定数の組合せを選択または入力できるように構成されることが好ましい。
【0031】
制御部15は、心拍数測定部12、収縮期血圧測定部13および血流指標測定部14(あるいは、外部の心拍数測定デバイス、血圧測定デバイス、および/または血流指標測定デバイス)から、所定の時点における心拍数(HR)、収縮期血圧(SBP)および血流指標(BFI)の測定値を受け取り、これらの測定値をNR決定部11に引き渡すように構成されていてもよい。制御部15は、NR決定部11により算出された指標値NRを受け取り、これを出力するように構成されていてもよい。制御部15は、心拍数測定部12、収縮期血圧測定部13および血流指標測定部14を駆動するように構成されていてもよい。
【0032】
上述したように、好ましい実施形態において、装置1は、指標値NRを含む1以上の生体情報を連続的に監視するように構成されている。かかる連続的な監視は、例えば制御部15により制御されることができる。
【0033】
制御部15からの出力は、例えば、ディスプレイ16での表示、記憶装置(図示せず)への格納などであってよい。出力は、指標値NRに加えて、装置1により監視され得る上述したような他の生体情報を含んでいてもよい。この場合、同一時点に対応する各生体情報が互いに関連付けられて出力されることが好ましい。また、1以上の生体情報が連続的に監視される実施形態において、ディスプレイ16での表示は、該1以上の生体情報の少なくとも一部についての経時的な変動のグラフを含んでいてもよい。追加的または代替的に、1以上の生体情報が連続的に監視される実施形態において、装置1は、被験者において異常を検知した時に警告を発するように構成されていてもよい。該異常は、例えば、循環動態などの異常であってよい。異常(例えば、循環動態の異常)の検知は、例えば、指標値NRを考慮して行うことができる。即ち、安静状態、循環動態の異常、心停止、および過大な侵害受容刺激反応などの各状態に対応する指標値NRの範囲を、上記の式(1)において用いる血流指標(BFI)の種類および各定数A
1、A
2、A
3、B
1、B
2およびB
3の値に応じて予め設定しておき、連続的に算出されている指標値NRをこのように設定された範囲と連続的に比較することにより異常の発生を検知することができる。警告は、例えば、制御部15によりアラーム(図示せず)に信号を送信することにより行われてよい。また、警告は、例えばビープ音であってよい。
【0034】
心拍数測定部12による心拍数(HR)の測定は、従来技術と同様にして行うことができる。心拍数(HR)の測定のために、例えば、心電図法(Electrocardiography;ECG)、光電脈波法(Photoplethysmography;PPG)、振動測定法(血圧計法)、観血的動脈圧測定法などを用いることができ、連続測定という点から好ましくは心電図法、光電脈波法、観血的動脈圧測定法である。心拍数測定部12の構成は、従来公知の心拍数測定用デバイスと同様であってよく、構成要素として、例えば、酸素飽和度測定、血圧測定、脳波モニター、呼気ガス分析などを行うための手段を有してもよい。
本発明が適用され得る麻酔下の被験者の心拍数(HR)の範囲は、10〜500程度であり、とりわけ、麻酔下のヒトの心拍数(HR)の範囲は、20〜200程度である。
【0035】
収縮期血圧測定部13による収縮期血圧(SBP)の測定は、従来技術の血圧測定法を用いて行うことができる。血圧の測定は、観血的なものであってもよいし、非観血的なものであってもよい。観血的血圧測定法としては、橈骨動脈圧測定などが挙げられ、非観血的血圧測定法としては、マンシェット法などが挙げられる。これらのうち、連続測定という点から観血的動脈圧測定法が好ましい血圧測定法として挙げられる。収縮期血圧測定部13の構成は、従来公知の血圧測定用デバイスと同様であってよく、構成要素として、例えば、酸素飽和度測定、心電図、脳波モニター、呼気ガス分析などを行うための手段を有してもよい。
本発明が適用され得る麻酔下の被験者の収縮期血圧(SBP)の範囲は、10〜500程度であり、とりわけ、麻酔下のヒトの収縮期血圧(SBP)の範囲は、20〜200程度である。
【0036】
血流指標測定部14による血流指標(BFI)の測定は、従来技術の血流指標測定法を用いて行うことができる。上述の通り、血流指標(BFI)としては、例えば、パルスオキシメータにより得られる灌流指標(perfusion index;PI;Masimo社特許)、レーザ血流計により得られる血流量(株式会社ジェイ・エム・エスなど)、パルスオキシメータ測定時の光電脈波における脈波高などであってよく、絶対値という点から好ましくは灌流指標や脈波高である。血流指標測定部14は、測定する具体的な血流指標(BFI)の種類に応じて、従来公知の血流指標測定用デバイスと同様に構成されていてもよい。
本発明が適用され得る麻酔下の被験者の血流指標(BFI)の範囲は、0〜30程度であり、とりわけ、麻酔下のヒトの血流指標(BFI)の範囲は、0〜20程度である。
【0037】
装置1は、上述したNR決定部11、心拍数測定部12、収縮期血圧測定部13、血流指標測定部14、制御部15、およびディスプレイ16以外の追加の構成要素を必要に応じて含んでいてもよい。追加の構成要素としては、例えば、上述したアラームなどが挙げられる。
【0038】
(本発明の方法)
本発明の方法は、麻酔下の被験者における生体情報の監視を補助するための方法であって、
所与の時点における心拍数(HR)、収縮期血圧(SBP)、および血流指標(BFI)の測定値から、下記の式(1):
【0040】
(式中、A
1、A
2、A
3、B
1、B
2およびB
3は予め定められた定数である。)を用いて当該時点における侵害受容刺激反応のレベルの指標値NRを算出するNR決定工程を含むことを特徴とする。本発明の方法は、本発明の装置を用いて実施することができる。
【0041】
上記の式(1)に代入される心拍数(HR)、収縮期血圧(SBP)、および血流指標(BFI)の測定値および測定方法、ならびに定数A
1、A
2、A
3、B
1、B
2およびB
3は、好ましい実施形態も含めて、本発明の装置に関して上述した通りである。
【0042】
好ましい実施形態において、本発明の方法は、生体情報を連続的に監視することを含む。より具体的には、本発明の方法におけるNR決定工程は、複数の時点における心拍数(HR)、収縮期血圧(SBP)、および血流指標(BFI)の測定値を用いて指標値NRを連続的に算出することを含むことが好ましい。生体情報の連続的な監視および指標値NRの連続的な算出は、好ましい実施形態も含めて、本発明の装置に関して上述した通りである。
【0043】
本発明の方法は、NR決定工程において算出された指標値NR、および任意に他の生体情報を出力する工程を含んでもよい。出力は、好ましい実施形態も含めて、本発明の装置に関して上述したようなもの(例えば、ディスプレイでの表示、記憶装置への格納など)であってよい。また、本発明の装置に関して上述したように、1以上の生体情報が連続的に監視される実施形態において、本発明の方法は、被験者において異常を検知した時に警告を発することを含んでいてもよい。
【0044】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
実施例1
麻酔下でのヒトの手術における(HR、SBP、PI)の記録を用いて指標値NRを求め、求められた指標値NRとそのときの麻酔科専門医の判断との整合性を、後方視的に考察した。
〔1〕本発明の式(1)の具体例として、以下の式(2)を用いた。定数A
1、A
2、A
3、B
1、B
2、B
3の組み合わせは、上記した第1の例(A
1=−0.7、A
2=1.7、A
3=1、B
1=−1/100、B
2=−1/100、B
3=10/100)である。
【0046】
【数5】
【0047】
NR:侵害受容刺激反応(nociceptive response)
HR:心拍数(heart rate)
SBP:収縮期血圧(systolic blood pressure)
PI:灌流指標(perfusion index)
HR、SBP、PIは患者監視装置(Philips社製)の心電計、血圧計、パルスオキシメータにより測定した。
【0048】
式(2)によるNRは0〜1の値を取り、概しては、安静時には0.5〜0.6、0.5未満にて循環動態の異常、0.15で心停止を示すようであった。NR=0.5〜0.8を術中の目標値と考えた。
【0049】
〔2〕上記の式(2)を用いて周術期におけるNR値を算出した。
図2は、大腸全摘手術の周術期におけるNR値の推移を心拍数(HR)、収縮期血圧(SBP)および灌流指標(PI)の推移と共に示す。NR値は0.5〜0.8の間で安定しており、麻酔科専門医によっても侵害受容刺激反応は安定していると判断された。
図3は、肺切除手術の周術期におけるNR値の推移を心拍数(HR)、収縮期血圧(SBP)および灌流指標(PI)の推移と共に示す。この症例では気管挿管時と手術開始直後の侵害受容刺激反応は高すぎると麻酔科専門医は判断し、鎮痛薬を増量した。その時のNR値は0.8を超えている。
図4は、左大腿軟部腫瘍摘出術の周術期におけるNR値の推移を心拍数(HR)、収縮期血圧(SBP)および灌流指標(PI)の推移と共に示す。NR値は0.5〜0.8の間で安定しており、麻酔科専門医によっても侵害受容刺激反応は安定していると判断された。
【0050】
〔3〕上記の式(2)を用いて、鼓室形成術(軽度の手術侵襲)、腹腔鏡下胆嚢摘出術(中等度の手術侵襲)、および開腹胃摘出術(強度の手術侵襲)の周術期におけるNR値を算出した。
図5は、NR値の推移を心拍数(HR)、収縮期血圧(SBP)および灌流指標(PI)の推移と共に示す。
図5にも示される通り、HR、SBP、PIおよびNRのうちでNRだけが、鼓室形成術と腹腔鏡下胆嚢摘出術との間、鼓室形成術と開腹胃摘出術との間、および腹腔鏡下胆嚢摘出術と開腹胃摘出術との間の全てにおいて有意差を示した。
【0051】
〔4〕上記の式(2)を用いて、開腹胃手術における気管挿管および皮膚切開の際のNR値を算出した。
図6は、気管挿管および皮膚切開の際のNR値の経時的変化を、心拍数(HR)、収縮期血圧(SBP)および灌流指標(PI)の経時的変化と共に示す。
図6が示すように、皮膚切開より侵害受容刺激反応が強いとされる気管挿管に対して、皮膚切開前より気管挿管前の方が深い麻酔深度で対応することから、NRは予想通り皮膚切開後に増加を示した。
【0052】
〔5〕上記の式(2)を用いて、開胸肺切除術における気管挿管および皮膚切開の際のNR値を算出した。
図7は、気管挿管および皮膚切開の際のNR値の経時的変化を、心拍数(HR)、収縮期血圧(SBP)および灌流指標(PI)の経時的変化と共に示す。
図7が示すように、開胸肺切除術時の気管挿管では開腹胃手術で用いる気管チューブより太い二腔式気管チューブを用いることと、開腹胃手術よりも浅い麻酔深度で気管挿管を行ったことから、予測した通り気管挿管後のNRは皮膚切開と同程度に増加した。
【0053】
実施例2
本実施例では、上記実施例1で用いた上記式(2)に替えて、下記式(3)を用い、本発明を評価した。被験者は、上記実施例1と同様、ヒトであり、麻酔下でのヒトの手術における(HR、SBP、PI)の記録を用いて指標値NRを求めた。
本実施例では、上記式(1)における定数A
1、A
2、A
3、B
1、B
2、B
3の組み合わせとして、上記した第2の例(A
1=−1.0、A
2=2.0、A
3=1、B
1=−0.01、B
2=−0.02、B
3=0.17)を採用した。指標値NRを示す式は、下記式(3)のとおりである。
【0054】
【数6】
【0055】
〔1〕本実施例では、皮膚切開時の小切開(腹腔鏡手術)における指標値NR(上記式(3))と、大切開(開腹手術)における指標値NR(上記式(3))との比較を示す。
図8のグラフは、皮膚切開(小切開、大切開)の開始直前(0分)、開始0.5分後、開始1分後における、心拍数(HR)、収縮期血圧(SBP)、灌流指標(PI)、侵害受容刺激反応の指標値(NR)の値の分布を示すグラフ図(箱ひげ図)である。
小切開の手術と大切開の手術の両群において、心拍数(HR)と灌流指標(PI)は、有意な変化を示さなかった。また皮膚切開後の収縮期血圧(SBP)は、小切開の手術では変化を認めなかったが、大切開の手術では皮膚切開1分後においてのみ有意に増加した。一方、NRは、皮膚切開前と比較して皮膚切開0.5分後に大切開で有意に増加し、皮膚切開1分後では小切開、大切開ともに有意に増加した。
心拍数(HR)、灌流指標(PI)、収縮期血圧(SBP)は、小切開と大切開で有意差を認めなかったが、NRは皮膚切開1分後に有意差を認めた。
図8の各グラフから明らかなとおり、NRのみ、大切開と小切開で有意差が認められた。この結果から、上記式(3)によって求められるNRによって、それぞれの切開の違いが検出できることが明らかになった。
【0056】
〔2〕侵害受容刺激に対する刺激強度を0〜4の5段階に分け、それぞれの侵害受容刺激に相当する侵害受容刺激反応の指標値(NR)の評価基準を作成し、下記表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
〔3〕
図9は、刺激強度0〜4のうち、実際の手術中に生じた0〜3の刺激強度に対する、上記式(3)による侵害受容刺激反応の指標値(NR)を示すグラフ図である。
図9のグラフから明らかなとおり、刺激強度の増加に応じてNRが増加している。
【0059】
〔4〕
図10は、手術開始から手術終了までの間に測定した、上記式(3)による侵害受容刺激反応(NR)の平均値と、術後1日目に測定した血中C-反応性タンパク(CRP)値の関係を示すグラフ図である。
CRP値は、手術による炎症反応や組織損傷の強さに応じて増加することが知られている。様々な手術で測定した術中平均NR値は、術後1日目のCRP値と有意な相関関係を示した(有意確率p値<0.01)。このことから、手術中の平均NR値は、手術による炎症反応や組織損傷による刺激強度をモニターする指標であることが示された。
【0060】
実施例3
被験者がヒトであって、かつ、指標値NRを0〜1の範囲内で表す場合の、上記式(1)における定数A
1、A
2、A
3、B
1、B
2、B
3のそれぞれの値の例示範囲の最大値と最小値は、次のとおりである。
A
1:(−2.0、−0.2)
A
2:(+0.3、+3.0)
A
3:(+0.5、+1.5)
B
1:(−0.05、−0.005)
B
2:(−0.05、−0.005)
B
3:(+0.05、+0.5)
本実施例では、前記の定数A
1、A
2、A
3、B
1、B
2、B
3のそれぞれの値の最大値または最小値を任意に選んで組み合わせ、上記式(1)に代入し、NRを算出し、侵害受容刺激反応のレベルの指標値0〜1として利用可能であるかどうかを評価した。その結果、より好ましい組み合わせが存在するものの、いずれの数値の組み合わせも、侵害受容刺激反応のレベルの指標値として利用可能であることがわかった。
よって、上記した定数A
1、A
2、A
3、B
1、B
2、B
3のそれぞれの値の範囲がヒトに関して有効なものであることがわかった。
【0061】
また、被験者がヒト以外の動物である場合も、上記(1)によって求められる指標値NRは、麻酔下の被験者における侵害受容刺激反応レベルの指標値として利用可能である。その場合の定数A
1、A
2、A
3、B
1、B
2、B
3のそれぞれの範囲は、例えば、既存の麻酔下の手術時のデータなどに基づいて、または、新たな実験によって、適宜決定することができる。