【文献】
J. Plant Physiol.,2009年,Vol.166,pp.787-796
【文献】
Metab. Eng.,2011年,Vol.13,pp.169-176
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書における「脂質」は、中性脂質(トリアシルグリセロール等)、ろう、セラミド等の単純脂質;リン脂質、糖脂質、スルホ脂質等の複合脂質;及びこれらの脂質から誘導される、脂肪酸(遊離脂肪酸)、アルコール類、炭化水素類等の誘導脂質を包含するものである。
一般に誘導脂質に分類される脂肪酸は、脂肪酸そのものを指し、「遊離脂肪酸」を意味する。本発明では単純脂質及び複合脂質分子中の脂肪酸部分又はアシル基の部分を「脂肪酸残基」と表記する。そして、特に断りのない限り、「脂肪酸」は「遊離脂肪酸」と「脂肪酸残基」の総称として用いる。
また本明細書において、「脂肪族アルコール組成」とは、全脂肪族アルコールの重量に対する各脂肪族アルコールの重量割合を意味する。脂肪族アルコールの重量(生産量)や脂肪族アルコール組成は、実施例で用いた方法により測定できる。
【0012】
また本明細書において、脂肪族アルコールや、脂肪族アルコールを構成するアシル基の表記において「Cx:y」とあるのは、炭素原子数xで二重結合の数がyであることを表す。「Cx」は炭素原子数xの脂肪族アルコールやアシル基を表す。また、「Cx:y-COOH」は炭素原子数xで二重結合の数がyである脂肪酸を示し、「Cx:y-OH」は炭素原子数xで二重結合の数がyである脂肪族アルコールを示す。
さらに本明細書において、塩基配列及びアミノ酸配列の同一性は、Lipman-Pearson法(Science,1985,vol.227,p.1435-1441)によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx-Winのホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
また本明細書において「ストリンジェントな条件」としては、例えばMolecular Cloning−A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION[Joseph Sambrook,David W.Russell.,Cold Spring Harbor Laboratory Press]記載の方法が挙げられる。例えば、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.5%SDS、5×デンハート及び100mg/mLニシン精子DNAを含む溶液にプローブとともに65℃で8〜16時間恒温し、ハイブリダイズさせる条件が挙げられる。
さらに明細書において、遺伝子の「上流」とは、翻訳開始点からの位置ではなく、対象として捉えている遺伝子又は領域の5'側に続く領域を示す。一方、遺伝子の「下流」とは、対象として捉えている遺伝子又は領域の3'側に続く領域を示す。
【0013】
本発明者は、ナンノクロロプシス属に属する藻類由来のKASII、並びに、非特許文献1〜4に記載のAtFARと、AtFARのアミノ酸配列との同一性の高いBrFARに着目した。そして、前記KAS、AtFAR及びBrFARそれぞれの発現を宿主微生物の細胞内で促進させ、脂肪族アルコールの生成量を測定した。その結果、前記タンパク質をそれぞれ単独で発現を促進させても、長鎖脂肪族アルコールの生産は確認できなかった。
これに対し、後述の実施例でも示すように、大腸菌(
Escherichia coli)やシアノバクテリアなど、元来長鎖脂肪族アルコールの生産能を有さない微生物に対して、KAS遺伝子とFAR遺伝子の発現を促進することで、長鎖脂肪族アルコールの生産能を付与した形質転換体を作製できる。
【0014】
KASは、脂肪族アルコールの前駆体である脂肪酸の合成経路においてアシル基の鎖長伸長に関与する酵素である。KASは、アシル-ACPとマロニルACPとの縮合反応を触媒し、アシル−ACPの合成に関与する脂肪酸合成酵素の1種である。脂肪酸合成経路では一般的に、アセチル-CoAを出発物質とし、炭素鎖の伸長反応が繰り返され、最終的に炭素原子数16又は18のアシル-ACPが合成される。
脂肪酸合成の第一段階では、アセチル-CoAとマロニルACPとの縮合反応により、アセトアセチルACPが生成する。この反応をKASが触媒する。次いで、β-ケトアシル-ACPレダクターゼによりアセトアセチルACPのケト基が還元されてヒドロキシブチリルACPが生成する。続いて、β−ヒドロキシアシル-ACPデヒドラーゼによりヒドロキシブチリルACPが脱水され、クロトニルACPが生成する。最後に、エノイル-ACPレダクターゼによりクロトニルACPが還元されて、ブチリルACPが生成する。これら一連の反応により、アセチル-ACPからアシル基の炭素鎖が2個伸長されたブチリルACPが生成する。以下、同様の反応を繰り返すことで、アシル-ACPの炭素鎖が伸長し、最終的に炭素原子数16又は18のアシル-ACPが合成される。
KASはその基質特異性によってKAS I、KAS II、KAS III、又はKAS IVに分類される。KAS IIIは、炭素原子数2のアセチル-CoAを基質とし、炭素原子数2から4の伸長反応を触媒する。KAS Iは、主に炭素原子数4から16の伸長反応を触媒し、炭素原子数16のパルミトイル-ACPを合成する。KAS IIは、主に炭素原子数16から18までの長鎖アシル基への伸長反応を触媒し、長鎖アシル-ACPを合成する。KAS IVは主に炭素原子数6から14の伸長反応を触媒し、中鎖アシル-ACPを合成する。
【0015】
本発明で好ましく用いることができるKASとしては、主に炭素原子数16又は18の長鎖アシル-ACPの合成に関与するKAS IIが好ましい。このようなKAS IIの具体例としては、下記タンパク質(A)〜(F)が挙げられる。
(A)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつβ-ケトアシル-ACPシンターゼ活性(以下、「KAS活性」ともいう)を有するタンパク質。
(C)配列番号96で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(D)前記タンパク質(C)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
(E)配列番号98で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(F)前記タンパク質(E)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
【0016】
前記タンパク質(A)〜(F)(以下、「NoKASII」ともいう)はKASの1種であり、長鎖脂肪酸の合成に関与するタンパク質である。
前記タンパク質(A)は、ナンノクロロプシス属に属する藻類であるナンノクロロプシス・オキュラータ(
Nannochloropsis oculata)NIES2145株由来のKASの1つである。
また、ChloroP(http://www.cbs.dtu.dk/services/ChloroP/)やtargetP(http://www.cbs.dtu.dk/services/TargetP/)を用いた局在予測より、前記タンパク質(A)は葉緑体局在型のKASであり、N末端側のアミノ酸30〜40残基は葉緑体移行シグナル配列であると考えられる。
【0017】
前記タンパク質(A)〜(F)はいずれも、KAS活性を有する。本明細書において「KAS活性」とは、アセチル-CoAやアシル-ACPと、マロニルACPとの縮合反応を触媒する活性を意味する。タンパク質がKAS活性を有することは、例えば、宿主細胞内で機能するプロモーターの下流に前記タンパク質をコードする遺伝子を連結したDNAを、脂肪酸分解系が欠損した宿主細胞へ導入し、導入した遺伝子が発現する条件下で細胞を培養し、宿主細胞内又は培養液中の脂肪酸組成の変化を常法により分析することで確認できる。あるいは、宿主細胞内で機能するプロモーターの下流に前記タンパク質をコードする遺伝子を連結したDNAを宿主細胞へ導入し、導入した遺伝子が発現する条件下で細胞を培養した後、前記タンパク質を精製し、各種アシル-ACPを基質とした鎖長伸長反応を行うことにより確認できる。
さらに、前記タンパク質(A)〜(F)は、主に炭素原子数16から18の長鎖アシル基への伸長反応に関与するKASII型のKASのうち、炭素原子数18以上の長鎖β-ケトアシル-ACP合成活性を有するKASIIであることが好ましい。なお本明細書において「長鎖β-ケトアシル-ACP合成活性」とは、主に炭素原子数16以上のアシル-ACPを基質とし、炭素原子数18以上の長鎖アシル-ACP合成の伸長反応を触媒する活性のことをいう。
【0018】
KASの長鎖β-ケトアシル-ACP合成活性については、例えば、宿主細胞内で機能するプロモーターの下流にタンパク質をコードする遺伝子を連結したDNAを、脂肪酸分解系が欠損した宿主細胞へ導入し、導入した遺伝子が発現する条件下で細胞を培養して、宿主細胞又は培養液中の脂肪酸組成の変化を常法により分析することで確認できる。また、宿主細胞内で機能するプロモーターの下流にタンパク質をコードする遺伝子を連結したDNAを、宿主細胞へ導入し、導入した遺伝子が発現する条件下で細胞を培養した後、前記タンパク質を精製し、各種アシル-ACPを基質とした鎖長伸長反応を行うことにより確認できる。
【0019】
タンパク質(B)は、前記タンパク質(A)のアミノ酸配列との同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有する。
一般に、酵素タンパク質をコードしているアミノ酸配列は、必ずしも全領域の配列が保存されていなければ酵素活性を示さないというものではなく、アミノ酸配列が変化しても酵素活性に影響を与えない領域も存在することが知られている。このような酵素活性に必須でない領域においては、アミノ酸の欠失、置換、挿入又は付加といった変異が導入されても酵素本来の活性を維持することができる。本発明においても、このようにKAS活性が保持され、かつアミノ酸配列が一部変異したタンパク質を用いることができる。
【0020】
前記タンパク質(B)において、KAS活性の点から、前記タンパク質(A)のアミノ酸配列との同一性は65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。また、前記タンパク質(B)として、前記タンパク質(A)のアミノ酸配列に、1又は複数個(例えば1個以上190個以下、好ましくは1個以上166個以下、より好ましくは1個以上142個以下、より好ましくは1個以上118個以下、より好ましくは1個以上95個以下、より好ましくは1個以上71個以下、より好ましくは1個以上47個以下、より好ましくは1個以上38個以下、より好ましくは1個以上23個以下、より好ましくは1個以上9個以下、さらに好ましくは1個以上4個以下)のアミノ酸を欠失、置換、挿入又は付加したタンパク質が挙げられる。
またタンパク質(B)として、前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、KAS活性を有し、かつ葉緑体移行シグナル配列が削除されていてもよい。
またタンパク質(B)として、前記タンパク質(A)又は(B)のアミノ酸配列にタンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドが付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。
【0021】
前記タンパク質(C)は、配列番号1の41位〜475位のアミノ酸配列と、そのN末端側に付加したメチオニン残基からなる。なお前記タンパク質(B)は、タンパク質(C)も包含する。タンパク質(C)では、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質から、N末端側の葉緑体移行シグナル配列(配列番号1の1位〜40位のアミノ酸残基)が削除されている。
【0022】
前記タンパク質(D)において、KAS活性の点から、前記タンパク質(C)のアミノ酸配列との同一性は65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。また、前記タンパク質(D)として、前記タンパク質(C)のアミノ酸配列に、1又は複数個(例えば1個以上174個以下、好ましくは1個以上152個以下、より好ましくは1個以上130個以下、より好ましくは1個以上108個以下、より好ましくは1個以上87個以下、より好ましくは1個以上65個以下、より好ましくは1個以上43個以下、より好ましくは1個以上34個以下、より好ましくは1個以上21個以下、より好ましくは1個以上8個以下、さらに好ましくは1個以上4個以下)のアミノ酸を欠失、置換、挿入又は付加したタンパク質が挙げられる。
またタンパク質(D)として、前記タンパク質(C)又は(D)のアミノ酸配列にタンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドが付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。
【0023】
前記タンパク質(E)は、配列番号1の21位〜475位のアミノ酸配列と、そのN末端側に付加したメチオニン残基からなる。なお前記タンパク質(B)は、タンパク質(E)も包含する。タンパク質(E)では、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質から、N末端側の葉緑体移行シグナル配列の一部(配列番号1の1位〜20位のアミノ酸残基)が削除されている。
【0024】
前記タンパク質(F)において、KAS活性の点から、前記タンパク質(E)のアミノ酸配列との同一性は65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。また、前記タンパク質(F)として、前記タンパク質(E)のアミノ酸配列に、1又は複数個(例えば1個以上183個以下、好ましくは1個以上160個以下、より好ましくは1個以上137個以下、より好ましくは1個以上114個以下、より好ましくは1個以上92個以下、より好ましくは1個以上69個以下、より好ましくは1個以上46個以下、より好ましくは1個以上37個以下、より好ましくは1個以上23個以下、より好ましくは1個以上10個以下、さらに好ましくは1個以上5個以下)のアミノ酸を欠失、置換、挿入又は付加したタンパク質が挙げられる。
またタンパク質(F)として、前記タンパク質(E)又は(F)のアミノ酸配列にタンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドが付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。
【0025】
本発明において、前記KASとしては、タンパク質(E)又は(F)が好ましい。KASとしてタンパク質(E)又は(F)を用いることで、宿主微生物における長鎖脂肪族アルコールの合成能がより向上する。
【0026】
アミノ酸配列に変異を導入する方法としては、例えば、アミノ酸配列をコードする塩基配列に変異を導入する方法が挙げられる。変異を導入する方法としては、部位特異的な変異導入法が挙げられる。具体的な部位特異的変異の導入方法としては、SOE-PCR反応を利用した方法、ODA法、Kunkel法等が挙げられる。また、Site-Directed Mutagenesis System Mutan-SuperExpress Kmキット(タカラバイオ社)、Transformer TM Site-Directed Mutagenesisキット(Clonetech社)、KOD-Plus-Mutagenesis Kit(東洋紡社)等の市販のキットを利用することもできる。また、ランダムな遺伝子変異を与えた後、適当な方法により酵素活性の評価及び遺伝子解析を行うことにより目的遺伝子を取得することもできる。
【0027】
前記タンパク質(A)〜(F)は、通常の化学的手法、遺伝子工学的手法等により得ることができる。例えば、ナンノクロロプシス・オキュラータから単離、精製等することで天然物由来のタンパク質を取得することができる。また、配列番号1に示すアミノ酸配列情報をもとに人工的に化学合成することで、前記タンパク質(A)〜(F)を得ることができる。あるいは、遺伝子組み換え技術により、組換えタンパク質として前記タンパク質(A)〜(F)を作製してもよい。組換えタンパク質を作製する場合には、後述するβ-ケトアシル-ACPシンターゼ遺伝子を用いることができる。
なお、ナンノクロロプシス・オキュラータ等の藻類は、私的又は公的な研究所等の保存機関より入手することができる。例えば、ナンノクロロプシス・オキュラータNIES-2145株は、国立環境研究所(NIES)から入手することができる。
【0028】
前記KAS(好ましくは前記タンパク質(A)〜(F)のいずれか1つ)をコードする遺伝子(以下、「KAS遺伝子」ともいう)の一例として、下記DNA(a)〜(f)のいずれか1つからなる遺伝子(以下、「NoKASII遺伝子」ともいう)が挙げられる。
(a)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA。
(b)前記DNA(a)の塩基配列と同一性が60%以上の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(c)配列番号97で表される塩基配列からなるDNA。
(d)前記DNA(c)の塩基配列と同一性が60%以上の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(e)配列番号99で表される塩基配列からなるDNA。
(f)前記DNA(e)の塩基配列と同一性が60%以上の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
配列番号2の塩基配列は、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質(ナンノクロロプシス・オキュラータNIES2145株由来のKAS)をコードする遺伝子の塩基配列である。
【0029】
前記DNA(b)において、KAS活性の点から、前記DNA(a)の塩基配列との同一性は65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。また前記DNA(b)として、配列番号2で表される塩基配列において1又は複数個(例えば1個以上571個以下、好ましくは1個以上499個以下、より好ましくは1個以上428個以下、好ましくは1個以上357個以下、より好ましくは1個以上285個以下、より好ましくは1個以上214個以下、より好ましくは1個以上142個以下、より好ましくは1個以上114個以下、より好ましくは1個以上71個以下、より好ましくは1個以上28個以下、さらに好ましくは1個以上14個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつKAS活性を有する前記タンパク質(A)又は(B)をコードするDNAも好ましい。さらに前記DNA(b)として、前記DNA(a)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(A)又は(B)をコードするDNAも好ましい。
またDNA(b)として、前記DNA(a)の塩基配列との同一性が60%以上の塩基配列からなり、KAS活性を有する前記タンパク質(A)又は(B)をコードし、かつ葉緑体移行シグナル配列をコードする領域の塩基配列が削除されていてもよい。
また前記DNA(b)として、前記DNA(a)又は(b)の塩基配列に、タンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドをコードする塩基配列が付加された塩基配列からなるDNAであってもよい。
【0030】
前記DNA(c)は、配列番号2の121位〜1428位の塩基配列と、その5’末端側に付加した開始コドン(ATG)からなり前記タンパク質(C)(配列番号96で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質)をコードする。なお前記DNA(b)は、DNA(c)も包含する。DNA(c)では、配列番号2で表される塩基配列からなるDNAから、前記葉緑体移行シグナル配列をコードする塩基配列(配列番号2の1位〜120位の塩基配列)が削除されている。
【0031】
前記DNA(d)において、KAS活性の点から、前記DNA(c)の塩基配列との同一性は65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。また前記DNA(d)として、前記DNA(c)の塩基配列において1又は複数個(例えば1個以上523個以下、好ましくは1個以上457個以下、より好ましくは1個以上392個以下、より好ましくは1個以上327個以下、より好ましくは1個以上261個以下、より好ましくは1個以上196個以下、より好ましくは1個以上130個以下、より好ましくは1個以上104個以下、より好ましくは1個以上65個以下、より好ましくは1個以上26個以下、さらに好ましくは1個以上13個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつKAS活性を有する前記タンパク質(C)又は(D)をコードするDNAも好ましい。さらに前記DNA(d)として、前記DNA(c)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(C)又は(D)をコードするDNAも好ましい。
また前記DNA(d)として、前記DNA(c)又は(d)の塩基配列に、タンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドをコードする塩基配列が付加された塩基配列からなるDNAであってもよい。
【0032】
前記DNA(e)は、配列番号2の61位〜1428位の塩基配列と、その5’末端側に付加した開始コドン(ATG)からなり前記タンパク質(E)(配列番号98で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質)をコードする。なお前記DNA(b)は、DNA(e)も包含する。DNA(e)では、配列番号2で表される塩基配列からなるDNAから、前記葉緑体移行シグナル配列をコードする塩基配列(配列番号2の1位〜60位の塩基配列)が削除されている。
【0033】
前記DNA(f)において、KAS活性の点から、前記DNA(e)の塩基配列との同一性は65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。また前記DNA(f)として、前記DNA(e)の塩基配列において1又は複数個(例えば1個以上549個以下、好ましくは1個以上480個以下、より好ましくは1個以上412個以下、より好ましくは1個以上343個以下、より好ましくは1個以上275個以下、より好ましくは1個以上206個以下、より好ましくは1個以上138個以下、より好ましくは1個以上110個以下、より好ましくは1個以上69個以下、より好ましくは1個以上28個以下、さらに好ましくは1個以上14個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつKAS活性を有する前記タンパク質(E)又は(F)をコードするDNAも好ましい。さらに前記DNA(f)として、前記DNA(e)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(E)又は(F)をコードするDNAも好ましい。
また前記DNA(f)として、前記DNA(e)又は(f)の塩基配列に、タンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドをコードする塩基配列が付加された塩基配列からなるDNAであってもよい。
【0034】
本発明において、前記KAS遺伝子として、DNA(e)又は(f)からなる遺伝子が好ましい。KAS遺伝子としてDNA(e)又は(f)からなる遺伝子を用いることで、宿主微生物における長鎖脂肪族アルコールの合成能がより向上する。
【0035】
本明細書において「FAR」とは、アシル-CoA又はアシル-ACPを基質として脂肪族アルコールを生成する反応を触媒する、脂肪酸アシルCoAレダクターゼ活性(以下、「FAR活性」ともいう)を有する酵素である。FARは、脂肪酸アシルレダクターゼ、脂肪酸レダクターゼとも呼ばれる。アシル-CoA又はアシル-ACPを脂肪族アルコールに変換する方法は複数知られている。このうち、FARを介した脂肪族アルコールの生成では、1酵素反応によりアシル-CoA又はアシル-ACPから脂肪族アルコールが生成される。
タンパク質がFAR活性を有することは、例えば、FAR遺伝子欠損株を用いた系により確認することができる。あるいは、宿主細胞内で機能するプロモーターの下流に前記タンパク質をコードする遺伝子を連結したDNAをFAR遺伝子欠損株に導入し、脂肪族アルコールの生成を検討することで確認できる。あるいは、FAR又はこれを含有する細胞破砕液を調製し、脂肪酸アシル-CoA、脂肪酸アシル-ACPなどを含む反応液と反応させ、常法に従い脂肪族アルコール量の増加を測定することで確認できる。
【0036】
本発明における好ましいFARとしては、長鎖アシル-CoA又は長鎖アシル-ACPに対する基質特異性を有するFARが好ましい。このようなFARの具体例としては、下記タンパク質(G)〜(R)が挙げられる。下記タンパク質(G)〜(R)はいずれも、FAR活性を有する。
(G)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(H)前記タンパク質(G)のアミノ酸配列と同一性が80%以上のアミノ酸配列からなり、かつFAR活性を有するタンパク質。
(I)配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(J)前記タンパク質(I)のアミノ酸配列と同一性が80%以上のアミノ酸配列からなり、かつFAR活性を有するタンパク質。
(K)配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(L)前記タンパク質(K)のアミノ酸配列と同一性が80%以上のアミノ酸配列からなり、かつFAR活性を有するタンパク質。
(M)配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(N)前記タンパク質(M)のアミノ酸配列と同一性が80%以上のアミノ酸配列からなり、かつFAR活性を有するタンパク質。
(O)配列番号100で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(P)前記タンパク質(O)のアミノ酸配列と同一性が80%以上のアミノ酸配列からなり、かつFAR活性を有するタンパク質。
(Q)配列番号101で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(R)前記タンパク質(Q)のアミノ酸配列と同一性が80%以上のアミノ酸配列からなり、かつFAR活性を有するタンパク質。
【0037】
配列番号3のアミノ酸配列からなるタンパク質(タンパク質(G)、以下、「AtFAR1」ともいう。)、配列番号5のアミノ酸配列からなるタンパク質(タンパク質(I)、以下、「AtFAR3」ともいう。)、配列番号7のアミノ酸配列からなるタンパク質(タンパク質(K)、以下、「AtFAR4」ともいう。)、及び配列番号9のアミノ酸配列からなるタンパク質(タンパク質(M)、以下、「AtFAR5」ともいう。)はいずれも、シロイヌナズナ由来のFARの1種である。本明細書において、シロイヌナズナ由来の上記FARをまとめて、「AtFAR」ともいう。
配列番号100のアミノ酸配列からなるタンパク質(タンパク質(O)、以下、「BrFAR1」ともいう。)、及び配列番号101のアミノ酸配列からなるタンパク質(タンパク質(Q)、以下、「BrFAR5」ともいう。)はいずれも、ブラシカ・ラパ由来のFARの1種である。本明細書において、ブラシカ・ラパ由来の上記FARをまとめて、「BrFAR」ともいう。
【0038】
前記タンパク質(H)において、FAR活性の点から、前記タンパク質(G)のアミノ酸配列との同一性は85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。また、前記タンパク質(H)として、前記タンパク質(G)のアミノ酸配列に、1又は複数個(例えば1個以上99個以下、好ましくは1個以上74個以下、より好ましくは1個以上50個以下、より好ましくは1個以上40個以下、より好ましくは1個以上25個以下、より好ましくは1個以上10個以下、より好ましくは1個以上5個以下)のアミノ酸を欠失、置換、挿入又は付加したタンパク質が挙げられる。
【0039】
前記タンパク質(J)において、FAR活性の点から、前記タンパク質(I)のアミノ酸配列との同一性は85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。また、前記タンパク質(J)として、前記タンパク質(I)のアミノ酸配列に、1又は複数個(例えば1個以上99個以下、好ましくは1個以上74個以下、より好ましくは1個以上50個以下、より好ましくは1個以上40個以下、より好ましくは1個以上25個以下、より好ましくは1個以上10個以下、より好ましくは1個以上5個以下)のアミノ酸を欠失、置換、挿入又は付加したタンパク質が挙げられる。
【0040】
前記タンパク質(L)において、FAR活性の点から、前記タンパク質(K)のアミノ酸配列との同一性は85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。また、前記タンパク質(L)として、前記タンパク質(K)のアミノ酸配列に、1又は複数個(例えば1個以上99個以下、好ましくは1個以上74個以下、より好ましくは1個以上50個以下、より好ましくは1個以上40個以下、より好ましくは1個以上25個以下、より好ましくは1個以上10個以下、より好ましくは1個以上5個以下)のアミノ酸を欠失、置換、挿入又は付加したタンパク質が挙げられる。
【0041】
前記タンパク質(N)において、FAR活性の点から、前記タンパク質(M)のアミノ酸配列との同一性は85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。また、前記タンパク質(N)として、前記タンパク質(M)のアミノ酸配列に、1又は複数個(例えば1個以上100個以下、好ましくは1個以上75個以下、より好ましくは1個以上50個以下、より好ましくは1個以上40個以下、より好ましくは1個以上25個以下、より好ましくは1個以上10個以下、より好ましくは1個以上5個以下)のアミノ酸を欠失、置換、挿入又は付加したタンパク質が挙げられる。
【0042】
前記タンパク質(P)において、FAR活性の点から、前記タンパク質(O)のアミノ酸配列との同一性は85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。また、前記タンパク質(P)として、前記タンパク質(O)のアミノ酸配列に、1又は複数個(例えば1個以上99個以下、好ましくは1個以上74個以下、より好ましくは1個以上50個以下、より好ましくは1個以上40個以下、より好ましくは1個以上25個以下、より好ましくは1個以上10個以下、より好ましくは1個以上5個以下)のアミノ酸を欠失、置換、挿入又は付加したタンパク質が挙げられる。
【0043】
前記タンパク質(R)において、FAR活性の点から、前記タンパク質(Q)のアミノ酸配列との同一性は85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。また、前記タンパク質(R)として、前記タンパク質(Q)のアミノ酸配列に、1又は複数個(例えば1個以上100個以下、好ましくは1個以上75個以下、より好ましくは1個以上50個以下、より好ましくは1個以上40個以下、より好ましくは1個以上25個以下、より好ましくは1個以上10個以下、より好ましくは1個以上5個以下)のアミノ酸を欠失、置換、挿入又は付加したタンパク質が挙げられる。
【0044】
アミノ酸配列に変異を導入する方法としては、KASについて前述した方法が挙げられる。
一般に、酵素タンパク質をコードしているアミノ酸配列は、必ずしも全領域の配列が保存されていなければ酵素活性を示さないというものではなく、アミノ酸配列が変化しても酵素活性に影響を与えない領域も存在することが知られている。このような酵素活性に必須でない領域においては、アミノ酸の欠失、置換、挿入又は付加といった変異が導入されても酵素本来の活性を維持することができる。本発明においても、このようにFAR活性が保持され、かつアミノ酸配列が一部変異したタンパク質を用いることができる。
【0045】
本発明で使用することができるFARとして列挙した前述の各種植物由来のFAR間のアミノ酸配列の同一性を、表1にまとめて示す。
【0047】
前記タンパク質(G)〜(R)は、通常の化学的手法、遺伝子工学的手法等により得ることができる。例えば、シロイヌナズナやブラシカ・ラパから単離、精製等することで天然物由来のタンパク質を取得することができる。また、配列番号3、5、7、9、100又は101に示すアミノ酸配列情報をもとに人工的に化学合成することで、前記タンパク質(G)〜(R)を得ることができる。あるいは、遺伝子組み換え技術により、組換えタンパク質として前記タンパク質(G)〜(R)を作製してもよい。組換えタンパク質を作製する場合には、後述する、FARをコードする遺伝子を用いることができる。
【0048】
前記FAR(好ましくは前記タンパク質(G)〜(R)のいずれか1つ)をコードする遺伝子(以下、「FAR遺伝子」ともいう)として、下記DNA(g)〜(r)のいずれか1つからなる遺伝子が挙げられる。
(g)配列番号4で表される塩基配列からなるDNA。
(h)前記DNA(g)の塩基配列と同一性が80%以上の塩基配列からなり、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(i)配列番号6で表される塩基配列からなるDNA。
(j)前記DNA(i)の塩基配列と同一性が80%以上の塩基配列からなり、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(k)配列番号8で表される塩基配列からなるDNA。
(l)前記DNA(k)の塩基配列と同一性が80%以上の塩基配列からなり、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(m)配列番号10で表される塩基配列からなるDNA。
(n)前記DNA(m)の塩基配列と同一性が80%以上の塩基配列からなり、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(o)配列番号35で表される塩基配列からなるDNA。
(p)前記DNA(o)の塩基配列と同一性が80%以上の塩基配列からなり、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(q)配列番号36で表される塩基配列からなるDNA。
(r)前記DNA(q)の塩基配列と同一性が80%以上の塩基配列からなり、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【0049】
配列番号4の塩基配列は、配列番号3のアミノ酸配列からなるタンパク質(AtFAR1)をコードする遺伝子(以下、「AtFAR1遺伝子」ともいう)の塩基配列である。
配列番号6の塩基配列は、配列番号5のアミノ酸配列からなるタンパク質(AtFAR3)をコードする遺伝子(以下、「AtFAR3遺伝子」ともいう)の塩基配列である。
配列番号8の塩基配列は、配列番号7のアミノ酸配列からなるタンパク質(AtFAR4)をコードする遺伝子(以下、「AtFAR4遺伝子」ともいう)の塩基配列である。
配列番号10の塩基配列は、配列番号9のアミノ酸配列からなるタンパク質(AtFAR5)をコードする遺伝子(以下、「AtFAR5遺伝子」ともいう)の塩基配列である。
配列番号35の塩基配列は、配列番号100のアミノ酸配列からなるタンパク質(BrFAR1)をコードする遺伝子(以下、「BrFAR1遺伝子」ともいう)の塩基配列である。
配列番号36の塩基配列は、配列番号101のアミノ酸配列からなるタンパク質(BrFAR5)をコードする遺伝子(以下、「BrFAR5遺伝子」ともいう)の塩基配列である。
【0050】
前記DNA(h)において、FAR活性の点から、前記DNA(g)の塩基配列との同一性は85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。
また前記DNA(h)として、前記DNA(g)の塩基配列において1又は複数個(例えば1個以上296個以下、好ましくは1個以上222個以下、より好ましくは1個以上148個以下、より好ましくは1個以上119個以下、より好ましくは1個以上74個以下、より好ましくは1個以上30個以下、より好ましくは1個以上15個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNAも好ましい。
さらに前記DNA(h)として、前記DNA(g)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNAも好ましい。
【0051】
前記DNA(j)において、FAR活性の点から、前記DNA(i)の塩基配列との同一性は85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。
また前記DNA(j)として、前記DNA(i)の塩基配列において1又は複数個(例えば1個以上297個以下、好ましくは1個以上223個以下、より好ましくは1個以上149個以下、より好ましくは1個以上119個以下、より好ましくは1個以上75個以下、より好ましくは1個以上30個以下、より好ましくは1個以上15個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNAも好ましい。
さらに前記DNA(j)として、前記DNA(i)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNAも好ましい。
【0052】
前記DNA(l)において、FAR活性の点から、前記DNA(k)の塩基配列との同一性は85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。
また前記DNA(l)として、前記DNA(k)の塩基配列において1又は複数個(例えば1個以上297個以下、好ましくは1個以上223個以下、より好ましくは1個以上149個以下、より好ましくは1個以上119個以下、より好ましくは1個以上75個以下、より好ましくは1個以上30個以下、より好ましくは1個以上15個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNAも好ましい。
さらに前記DNA(l)として、前記DNA(k)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNAも好ましい。
【0053】
前記DNA(n)において、FAR活性の点から、前記DNA(m)の塩基配列との同一性は85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。
また前記DNA(n)として、前記DNA(m)の塩基配列において1又は複数個(例えば1個以上299個以下、好ましくは1個以上224個以下、より好ましくは1個以上150個以下、より好ましくは1個以上120個以下、より好ましくは1個以上75個以下、より好ましくは1個以上30個以下、より好ましくは1個以上15個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNAも好ましい。
さらに前記DNA(n)として、前記DNA(m)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNAも好ましい。
【0054】
前記DNA(p)において、FAR活性の点から、前記DNA(o)の塩基配列との同一性は85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。
また前記DNA(p)として、前記DNA(o)の塩基配列において1又は複数個(例えば1個以上297個以下、好ましくは1個以上223個以下、より好ましくは1個以上149個以下、より好ましくは1個以上119個以下、より好ましくは1個以上75個以下、より好ましくは1個以上30個以下、より好ましくは1個以上15個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNAも好ましい。
さらに前記DNA(p)として、前記DNA(o)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNAも好ましい。
【0055】
前記DNA(r)において、FAR活性の点から、前記DNA(q)の塩基配列との同一性は85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。
また前記DNA(r)として、前記DNA(q)の塩基配列において1又は複数個(例えば1個以上299個以下、好ましくは1個以上225個以下、より好ましくは1個以上150個以下、より好ましくは1個以上120個以下、より好ましくは1個以上75個以下、より好ましくは1個以上30個以下、より好ましくは1個以上15個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNAも好ましい。
さらに前記DNA(r)として、前記DNA(q)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNAも好ましい。
【0056】
本発明で使用することができるFAR遺伝子として列挙した前述の各種FAR遺伝子間の塩基配列の同一性を、表2にまとめて示す。
【0058】
前記KAS遺伝子及びFAR遺伝子の発現を促進させる方法としては、常法より適宜選択することができる。例えば、前記KAS遺伝子及びFAR遺伝子を宿主微生物に導入する方法、前記KAS遺伝子及びFAR遺伝子をゲノム上に有する宿主微生物において、当該遺伝子の発現調節領域(プロモーター、ターミネーター等)を改変する方法、などが挙げられる。なかでも、前記KAS遺伝子及びFAR遺伝子を宿主微生物に導入し、KAS遺伝子及びFAR遺伝子の発現を促進させる方法が好ましい。
以下本明細書において、目的のタンパク質をコードする遺伝子の発現を促進させたものを「形質転換体」ともいい、目的のタンパク質をコードする遺伝子の発現を促進させていないものを「宿主」又は「野生株」ともいう。
【0059】
KAS遺伝子及びFAR遺伝子の発現が促進されている本発明の形質転換体は、長鎖脂肪族アルコールの生産性に優れる。さらに本発明の形質転換体は、宿主自体に比べ、長鎖脂肪族アルコールの生産性(長鎖脂肪族アルコールの生産量、生産される全脂肪族アルコールに占める長鎖脂肪族アルコールの割合)が増加傾向にある。また、本来長鎖脂肪族アルコールの生産能を有さない宿主であっても、長鎖脂肪族アルコール生産能を獲得する。なお本明細書において「長鎖脂肪族アルコール」とは、脂肪族アルコールを構成するアシル基の炭素原子数が20以上、より好ましくは炭素原子数が20、22、24又は26、より好ましくは炭素原子数が20又は22、の脂肪族アルコールをいう。
本発明の形質転換体のうち、前記KAS遺伝子とFAR遺伝子の発現を促進させた形質転換体は、炭素原子数20以上の長鎖脂肪族アルコール、好ましくは炭素原子数20〜26の長鎖脂肪族アルコール、より好ましくは炭素原子数20〜26の飽和長鎖脂肪族アルコール若しくは1価の不飽和長鎖脂肪族アルコール、より好ましくは炭素原子数20又は22の飽和長鎖脂肪族アルコール若しくは1価の不飽和長鎖脂肪族アルコールの生産に好適に用いることができる。
なお、宿主や形質転換体の脂肪族アルコールの生産性については、実施例で用いた方法により測定することができる。
【0060】
前記KAS遺伝子及びFAR遺伝子を宿主微生物に導入して前記遺伝子の発現を促進させる方法について説明する。
前記KAS遺伝子及びFAR遺伝子は、通常の遺伝子工学的手法により得ることができる。例えば、配列番号1、96若しくは98に示すアミノ酸配列又は配列番号2、97若しくは99に示す塩基配列に基づいて、KAS遺伝子を人工的に合成できる。また同様にして、配列番号3、5、7、9、100若しくは101に示すアミノ酸配列又は配列番号4、6、8、10、35若しくは36に示す塩基配列に基づいて、FAR遺伝子を人工的に合成できる。
KAS遺伝子及びFAR遺伝子の合成は、例えば、インビトロジェン社等のサービスを利用することができる。また、ナンノクロロプシス・オキュラータやシロイヌナズナ、ブラシカ・ラパからクローニングによって取得することもできる。例えば、Molecular Cloning−A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION[Joseph Sambrook,David W.Russell,Cold Spring Harbor Laboratory Press(2001)]記載の方法等により行うことができる。また、使用する宿主の種類に応じて、前記遺伝子の塩基配列の一部を最適化してもよい。例えば、Thermo Fisher Scientific社のGeneArt人工遺伝子合成サービスを利用することができる。
なお、実施例で用いたナンノクロロプシス・オキュラータNIES-2145は、国立環境研究所(NIES)より入手することができる。
本発明で用いるKAS遺伝子及びFAR遺伝子はそれぞれ、1種でもよいし、2種以上の遺伝子を組合せて用いてもよい。
【0061】
本発明で好ましく用いることができる形質転換体は、前記KAS遺伝子及びFAR遺伝子を常法により宿主に導入することで得られる。具体的には、前記KAS遺伝子及びFAR遺伝子を宿主細胞中で発現させることのできる組換えベクターや遺伝子発現カセットを調製し、これを宿主細胞に導入して宿主細胞を形質転換させることにより作製できる。
【0062】
形質転換体の宿主微生物としては通常用いられるものより適宜選択することができる。
前記微生物は原核生物、真核生物のいずれであってもよく、エシェリキア(
Escherichia)属の微生物やバシラス(
Bacillus)属の微生物、シアノバクテリア(藍色細菌)等の原核生物、又は酵母や糸状菌等の真核微生物を用いることができる。なかでも原核生物が好ましく、長鎖脂肪族アルコールの生産能を付与する観点から、エシェリキア属の微生物及びシアノバクテリアがより好ましく、大腸菌又はシアノバクテリアがより好ましい。
【0063】
本発明の形質転換体の宿主として好ましく用いることができるシアノバクテリアはクロロフィルを用いた光合成を行う真正細菌の一群であり、光合成によって酸素を産生し、二酸化炭素を固定化する能力を有する。シアノバクテリアは、それらが10数億年前に真核生物に細胞内共生(1次共生)したことが葉緑体の起源であると考えられている。そのため、葉緑体の祖先生物として光合成研究に広く利用されている。また、シアノバクテリアは他の植物と比べて生育が速く、かつ高い光合成能力を有する。さらにシアノバクテリアは形質転換能も有する。
シアノバクテリアは多様性に富んでおり、細胞の形状のみを見ても、シネコシスティス・エスピー(
Synechocystis sp.)PCC6803株のような単細胞性のもの、ヘテロシストを形成し窒素固定を行うアナベナ・エスピー(
Anabaena sp.)PCC7120株のように多細胞がヒモ状に繋がっている糸状性のもの、又はらせん状や分岐状のもの等がある。
生育環境についても、別府温泉から単離されたサーモシネココッカス・エロンガタス(
Thermosynechococcus elongatus)BP-1のような好熱性のもの、海洋性で沿岸部に生息するシネココッカス・エスピー(
Synechococcus sp.)CC9311株、又は外洋に生息するシネココッカス・エスピーWH8102株など、様々な条件に適応した種が見られる。
また、種独自の特徴を持つものとして、ミクロシスティス・エルギノーサ(
Microcystis aeruginosa)のように、ガス小胞を持ち毒素を産生することのできるものや、チラコイドを持たず集光アンテナであるフィコビリソームが原形質膜に結合しているグロイオバクター・ビオラセウス(
Gloeobacter violaceus)PCC7421株、又は一般的な光合成生物のようにクロロフィルaでなくクロロフィルdを主要な(>95%)光合成色素として持つ海洋性のアクリオクロリス・マリナ(
Acaryochloris marina)なども挙げられる。
シアノバクテリアでは、光合成により固定された二酸化炭素は多数の酵素反応プロセスを経てアセチル-CoAへと変換される。脂肪酸合成の最初の段階は、アセチル-CoAカルボキシラーゼの作用による、アセチル-CoAと二酸化炭素からのマロニル-CoAの合成である。次に、マロニル-CoAがマロニルCoA:ACPトランスアシラーゼの作用によってマロニル-ACPへと変換される。その後、β-ケトアシル-ACPシンターゼの進行的作用時に、炭素単位2個の連続的付加が起こり、炭素が2個ずつ増加した、アシル-ACPが合成され、膜脂質等の合成中間体として利用される。
【0064】
本発明の形質転換体の宿主としては、あらゆる種類のシアノバクテリアを用いることができる。例えば、シネコシスティス(
Synechocystis)属、シネココッカス(
Synechococcus)属、サーモシネココッカス(
Thermosynechococcus)属、トリコデスミウム(
Trichodesmium)属、アカリオクロリス(
Acaryochloris)属、クロコスファエラ(
Crocosphaera)属、及びアナベナ(
Anabaena)属のシアノバクテリアが挙げられる。このうち、シネコシスティス属、シネココッカス属、サーモシネココッカス属又はアナベナ属のシアノバクテリアが好ましく、シネコシスティス属又はシネココッカス属のシアノバクテリアがより好ましい。また本発明で用いる宿主としては、シネコシスティス・エスピーPCC6803株、シネコシスティス・エスピーPCC7509株、シネコシスティス・エスピーPCC6714株、シネココッカス・エロンガタスエスピー(
Synechococcus elongatus sp.)PCC7942株、サーモシネココッカス・エロンガタスBP-1株、トリコデスミウム・エリスラエウム(
Trichodesmium erythraeum)IMS101株、アカリオクロリス・マリアナ(
Acaryochloris mariana)MBIC11017、クロコスファエラ・ワトソニー(
Crocosphaera watsonii)WH8501株、及びアナベナ・エスピー(
Anabaena sp.)PCC7120株がより好ましく、シネコシスティス・エスピーPCC6803株及びシネココッカス・エロンガタスエスピーPCC7942株がより好ましい。
【0065】
遺伝子発現用プラスミドベクター又は遺伝子発現カセットの母体となるベクター(プラスミド)としては、目的のタンパク質をコードする遺伝子を宿主に導入することができ、宿主細胞内で当該遺伝子を発現させることができるベクターであればよい。例えば、導入する宿主の種類に応じたプロモーターやターミネーター等の発現調節領域を有するベクターであって、複製開始点や選択マーカー等を有するベクターを用いることができる。また、プラスミド等の染色体外で自立増殖・複製するベクターであってもよいし、染色体内に組み込まれるベクターであってもよい。
本発明で好ましく用いることができる発現ベクターとしては、pBluescript(pBS) II SK(-)(Stratagene社製)、pSTV系ベクター(タカラバイオ社製)、pUC系ベクター(タカラバイオ社製)、pET系ベクター(タカラバイオ社製)、pGEX系ベクター(GEヘルスケア社製)、pCold系ベクター(タカラバイオ社製)、pHY300PLK(タカラバイオ社製)、pUB110(Mckenzie,T.et al.,1986,Plasmid 15(2),p.93-103)、pBR322(タカラバイオ社製)、pRS403(ストラタジーン社製)、pMW218/219(ニッポンジーン社製)pRI系ベクター(タカラバイオ社製)、pBI系ベクター(クロンテック社製)、及びIN3系ベクター(インプランタイノベーションズ社製)が挙げられる。
【0066】
また、前記発現ベクターに組み込んだ目的のタンパク質をコードする遺伝子の発現を調整するプロモーターの種類も、使用する宿主の種類に応じて適宜選択することができる。本発明で好ましく用いることができるプロモーターとしては、lacプロモーター、trpプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、T7プロモーター、SpoVGプロモーター、イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)の添加によって誘導可能な誘導体に関するプロモーター、Rubiscoオペロン(rbc)、PSI反応中心タンパク質(psaAB)、PSIIのD1タンパク質(psbA)、c-phycocyanin βサブユニット(cpcB)、リボゾームRNAをコードするrrnAオペロン遺伝子のプロモーター、カリフラワーモザイルウイルス35SRNAプロモーター、ハウスキーピング遺伝子プロモーター(例えば、チューブリンプロモーター、アクチンプロモーター、ユビキチンプロモーター等)、西洋アブラナ又はアブラナ由来
Napin遺伝子プロモーター、植物由来Rubiscoプロモーター、ナンノクロロプシス属由来のビオラキサンチン/クロロフィルa結合タンパク質遺伝子のプロモーター(VCP1プロモーター、VCP2プロモーター)(Oliver Kilian,et al.,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,2011,vol.108(52))、及びナンノクロロプシス属由来のオレオシン様タンパクLDSP(lipid droplet surface protein)遺伝子のプロモーター(Astrid Vieler, et al., PLOS Genetics, 2012;8(11):e1003064. doi: 10.1371)が挙げられる。
【0067】
また、目的のタンパク質をコードする遺伝子が組み込まれたことを確認するための選択マーカーの種類も、使用する宿主の種類に応じて適宜選択することができる。本発明で好ましく用いることができる選択マーカーとしては、アンピシリン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ブラストサイジンS耐性遺伝子、ビアラフォス耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、パロモマイシン耐性遺伝子、ゲンタマイシン耐性遺伝子、及びハイグロマイシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子が挙げられる。さらに、栄養要求性に関連する遺伝子の欠損等を選択マーカー遺伝子として使用することもできる。
【0068】
目的のタンパク質をコードする遺伝子の前記ベクターへの導入は、制限酵素処理やライゲーション等の常法により行うことができる。
また、導入する遺伝子は宿主微生物におけるコドン使用頻度にあわせてコドンを至適化されることが好ましい。各種生物が使用するコドンの情報は、Codon Usage Database(www.kazusa.or.jp/codon/)から入手可能である。
形質転換方法は、使用する宿主の種類に応じて常法より適宜選択することができる。例えば、自然形質転換法、カルシウムイオンを用いる形質転換方法、一般的なコンピテントセル形質転換方法、プロトプラスト形質転換法、エレクトロポレーション法、LP形質転換方法、アグロバクテリウムを用いた方法、パーティクルガン法、及び接合法が挙げられる。
【0069】
宿主微生物としてシアノバクテリアを用いる場合、シアノバクテリアに導入した前記KAS遺伝子及びFAR遺伝子は、相同組換え等によりシアノバクテリアのゲノム上に組み込まれていることが好ましい。前記KAS遺伝子及びFAR遺伝子がゲノム上に組み込まれる位置は適宜設定することができる。
【0070】
目的遺伝子断片が導入された形質転換体の選択は、選択マーカー等を利用することで行うことができる。例えば、薬剤耐性遺伝子が、形質転換時に目的DNA断片とともに宿主細胞中に導入された結果、形質転換体が獲得する薬剤耐性を指標に行うことができる。また、ゲノムを鋳型としたPCR法等によって、目的DNA断片の導入を確認することもできる。
【0071】
前記KAS遺伝子やFAR遺伝子をゲノム上に有する宿主において、当該遺伝子の発現調節領域を改変して、前記遺伝子の発現を促進させる方法について説明する。
「発現調節領域」とは、プロモーターやターミネーターを示し、これらの配列は一般に隣接する遺伝子の発現量(転写量、翻訳量)の調節に関与している。ゲノム上に前記遺伝子を有する宿主においては、当該遺伝子の発現調節領域を改変して前記遺伝子の発現を促進させることで、長鎖脂肪族アルコールの生産性を向上させることができる。
発現調節領域の改変方法としては、例えばプロモーターの入れ替えが挙げられる。ゲノム上に前記各種遺伝子を有する宿主において、当該遺伝子のプロモーターを、より転写活性の高いプロモーターに入れ替えることで、前記各種遺伝子の発現を促進させることができる。
前述のプロモーターの改変は、相同組換えなどの常法に従い行うことができる。具体的には、標的とするプロモーターの上流、下流領域を含み、標的プロモーターに代えて別のプロモーターを含む直鎖状のDNA断片を構築し、これを宿主細胞に取り込ませ、宿主ゲノムの標的プロモーターの上流側と下流側とで2回交差の相同組換えを起こす。その結果、ゲノム上の標的プロモーターが別のプロモーター断片と置換され、プロモーターを改変することができる。このような相同組換えによる標的プロモーターの改変方法は、例えば、Besher et al.,Methods in molecular biology,1995,vol.47,p.291-302等の文献を参考に行うことができる。
【0072】
本発明の形質転換体は、長鎖脂肪族アルコールの生産性が、KAS遺伝子及びFAR遺伝子の発現が促進されていない宿主又は野生株と比較して向上している。また、宿主微生物自体が元来、長鎖脂肪族アルコールの生産能を有していない場合であっても、KAS遺伝子及びFAR遺伝子それぞれの発現を促進させることで、長鎖脂肪族アルコールの生産能を獲得する。
したがって、本発明の形質転換体を適切な条件で培養し、次いで得られた培養物から長鎖脂肪族アルコールを回収すれば、長鎖脂肪族アルコールを効率よく製造することができる。ここで「培養物」とは培養した後の培養液及び形質転換体をいう。
【0073】
本発明の形質転換体の培養条件は、宿主に応じて適宜選択することができ、その宿主に対して通常用いられる培養条件を使用できる。また長鎖脂肪族アルコールの生産効率の点から、培地中に、例えば長鎖脂肪族アルコールの生合成系に関与する前駆物質を添加してもよい。
【0074】
宿主微生物として大腸菌を用いる場合、大腸菌の培養は、例えば、LB培地又はOvernight Express Instant TB Medium(Novagen社)で、30〜37℃、0.5〜1日間培養することができる。
【0075】
宿主微生物としてシアノバクテリアを用いる場合、BG-11培地(J.Gen.Microbiol.,1979,vol.111,p.1-61)、A培地(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,1980,vol.77,p.6052-6056)、AA培地(Plant Physiol.,1955,vol.30,p.366-372)など、シアノバクテリアの培養に通常用いられる培地を用いて、液体培養又はその変法により実施することができる。培養期間は、十分に菌体が増殖した条件で脂肪酸が高濃度に蓄積する期間であればよい。例えば、7〜45日間、好ましくは7〜30日間、より好ましくは10〜14日間、通気攪拌培養又は振とう培養がすることが好適である。
【0076】
培養物から長鎖脂肪族アルコールを採取する方法としては、常法から適宜選択することができる。例えば、前述の培養物又は生育物から、ろ過、遠心分離、細胞の破砕、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、クロロホルム/メタノール抽出法、ヘキサン抽出法、又はエタノール抽出法等により長鎖脂肪族アルコールを単離、回収することができる。より大規模な培養を行った場合は、培養物又は生育物より油分を圧搾又は抽出により回収後、脱ガム、脱酸、脱色、脱蝋、脱臭等の一般的な精製を行い、長鎖脂肪族アルコールを得ることができる。
【0077】
本発明の形質転換体が生産する全脂肪族アルコールに占める長鎖脂肪族アルコール量は、全脂肪族アルコール重量の1%以上が好ましく、2%以上がより好ましく、5%以上がより好ましく、10%以上がより好ましい。また上限値に特に制限はないが、99%以下が好ましく、95%以下がより好ましい。
【0078】
本発明の製造方法により得られる長鎖脂肪族アルコールは、乳化剤や界面活性剤として、化粧品、シャンプー、コンディショナー、潤滑油等利用することができる。
【0079】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の脂肪族アルコールの製造方法、長鎖脂肪族アルコールの生産能の付与方法、タンパク質、遺伝子、形質転換体、及び形質転換体の作製方法を開示する。
【0080】
<1>KAS及びFARの発現、又はKAS遺伝子及びFAR遺伝子の発現を促進させた微生物を培養し、長鎖脂肪族アルコールを生産する方法。
<2>KAS及びFARの発現、又はKAS遺伝子及びFAR遺伝子の発現を微生物の細胞内で促進させる、長鎖脂肪族アルコールの生産能を微生物(好ましくは、長鎖脂肪族アルコールの生産能を元来有さない微生物)に付与する方法。
【0081】
<3>KAS遺伝子及びFAR遺伝子の発現を前記微生物の細胞内で促進させ、KAS及びFARの発現を促進する、前記<1>又は<2>項記載の方法。
<4>KAS遺伝子及びFAR遺伝子を前記微生物に導入し、導入したKAS遺伝子及びFAR遺伝子の発現を促進させる、前記<1>〜<3>のいずれか1項記載の方法。
【0082】
<5>前記KASが、主に炭素原子数16又は18の長鎖アシル-ACPの合成に関与するKAS IIである、前記<1>〜<4>のいずれか1項記載の方法。
<6>前記KASが、下記タンパク質(A)〜(F)からなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質、好ましくは下記タンパク質(E)及び(F)からなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質、である、前記<1>〜<5>のいずれか1項記載の方法。
(A)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
(C)配列番号96で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(D)前記タンパク質(C)のアミノ酸配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
(E)配列番号98で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(F)前記タンパク質(E)のアミノ酸配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
【0083】
<7>前記タンパク質(B)が、前記タンパク質(A)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上190個以下、より好ましくは1個以上166個以下、より好ましくは1個以上142個以下、より好ましくは1個以上118個以下、より好ましくは1個以上95個以下、より好ましくは1個以上71個以下、より好ましくは1個以上47個以下、より好ましくは1個以上38個以下、より好ましくは1個以上23個以下、より好ましくは1個以上9個以下、さらに好ましくは1個以上4個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<6>項記載の方法。
<8>前記タンパク質(D)が、前記タンパク質(C)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上174個以下、より好ましくは1個以上152個以下、より好ましくは1個以上130個以下、より好ましくは1個以上108個以下、より好ましくは1個以上87個以下、より好ましくは1個以上65個以下、より好ましくは1個以上43個以下、より好ましくは1個以上34個以下、より好ましくは1個以上21個以下、より好ましくは1個以上8個以下、さらに好ましくは1個以上4個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<6>項記載の方法。
<9>前記タンパク質(F)が、前記タンパク質(E)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上183個以下、より好ましくは1個以上160個以下、より好ましくは1個以上137個以下、より好ましくは1個以上114個以下、より好ましくは1個以上92個以下、より好ましくは1個以上69個以下、より好ましくは1個以上46個以下、より好ましくは1個以上37個以下、より好ましくは1個以上23個以下、より好ましくは1個以上10個以下、さらに好ましくは1個以上5個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<6>項記載の方法。
<10>前記タンパク質(A)〜(F)が、長鎖β-ケトアシル-ACP合成活性(主に炭素原子数16以上のアシル-ACPを基質とし、炭素原子数18以上の長鎖アシル-ACP合成の伸長反応を触媒する活性)を有するKASである、前記<6>〜<9>のいずれか1項記載の方法。
【0084】
<11>前記KAS、好ましくは前記タンパク質(A)〜(F)のいずれか1つ、をコードする遺伝子が、下記DNA(a)〜(f)からなる群より選ばれる少なくとも1種のDNAからなる遺伝子、好ましくは下記DNA(e)及び(f)からなる群より選ばれる少なくとも1種のDNAからなる遺伝子、である、前記<1>〜<10>のいずれか1項記載の方法。
(a)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA。
(b)前記DNA(a)の塩基配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(c)配列番号97で表される塩基配列からなるDNA。
(d)前記DNA(c)の塩基配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(e)配列番号99で表される塩基配列からなるDNA。
(f)前記DNA(e)の塩基配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【0085】
<12>前記DNA(b)が、前記DNA(a)の塩基配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上571個以下、より好ましくは1個以上499個以下、より好ましくは1個以上428個以下、より好ましくは1個以上357個以下、より好ましくは1個以上285個以下、より好ましくは1個以上214個以下、より好ましくは1個以上142個以下、より好ましくは1個以上114個以下、より好ましくは1個以上71個以下、より好ましくは1個以上28個以下、より好ましくは1個以上14個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加された塩基配列からなり、かつKAS活性を有する前記タンパク質(A)又は(B)をコードするDNA、又は前記DNA(a)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(A)又は(B)をコードするDNAである、前記<11>項記載の方法。
<13>前記DNA(d)が、前記DNA(c)の塩基配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上523個以下、より好ましくは1個以上457個以下、より好ましくは1個以上392個以下、より好ましくは1個以上327個以下、より好ましくは1個以上261個以下、より好ましくは1個以上196個以下、より好ましくは1個以上130個以下、より好ましくは1個以上104個以下、より好ましくは1個以上65個以下、より好ましくは1個以上26個以下、より好ましくは1個以上13個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加された塩基配列からなり、かつKAS活性を有する前記タンパク質(C)又は(D)をコードするDNA、又は前記DNA(c)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(C)又は(D)をコードするDNAである、前記<11>項記載の方法。
<14>前記DNA(f)が、前記DNA(e)の塩基配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上549個以下、より好ましくは1個以上480個以下、より好ましくは1個以上412個以下、より好ましくは1個以上343個以下、より好ましくは1個以上275個以下、より好ましくは1個以上206個以下、より好ましくは1個以上138個以下、より好ましくは1個以上110個以下、より好ましくは1個以上69個以下、より好ましくは1個以上28個以下、より好ましくは1個以上14個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加された塩基配列からなり、かつKAS活性を有する前記タンパク質(E)又は(F)をコードするDNA、又は前記DNA(e)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(E)又は(F)をコードするDNAである、前記<11>項記載の方法。
【0086】
<15>前記FARが下記タンパク質(G)〜(R)からなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質である、前記<1>〜<14>のいずれか1項記載の方法。
(G)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(H)前記タンパク質(G)のアミノ酸配列と同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつFAR活性を有するタンパク質。
(I)配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(J)前記タンパク質(I)のアミノ酸配列と同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつFAR活性を有するタンパク質。
(K)配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(L)前記タンパク質(K)のアミノ酸配列と同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつFAR活性を有するタンパク質。
(M)配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(N)前記タンパク質(M)のアミノ酸配列と同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつFAR活性を有するタンパク質。
(O)配列番号100で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(P)前記タンパク質(O)のアミノ酸配列と同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつFAR活性を有するタンパク質。
(Q)配列番号101で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(R)前記タンパク質(Q)のアミノ酸配列と同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつFAR活性を有するタンパク質。
【0087】
<16>前記タンパク質(H)が、前記タンパク質(G)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上99個以下、より好ましくは1個以上74個以下、より好ましくは1個以上50個以下、より好ましくは1個以上40個以下、より好ましくは1個以上25個以下、より好ましくは1個以上10個以下、より好ましくは1個以上5個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<15>項記載の方法。
<17>前記タンパク質(J)が、前記タンパク質(I)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上99個以下、より好ましくは1個以上74個以下、より好ましくは1個以上50個以下、より好ましくは1個以上40個以下、より好ましくは1個以上25個以下、より好ましくは1個以上10個以下、より好ましくは1個以上5個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<15>項記載の方法。
<18>前記タンパク質(L)が、前記タンパク質(K)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上99個以下、より好ましくは1個以上74個以下、より好ましくは1個以上50個以下、より好ましくは1個以上40個以下、より好ましくは1個以上25個以下、より好ましくは1個以上10個以下、より好ましくは1個以上5個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<15>項記載の方法。
<19>前記タンパク質(N)が、前記タンパク質(M)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上100個以下、より好ましくは1個以上75個以下、より好ましくは1個以上50個以下、より好ましくは1個以上40個以下、より好ましくは1個以上25個以下、より好ましくは1個以上10個以下、より好ましくは1個以上5個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<15>項記載の方法。
<20>前記タンパク質(P)が、前記タンパク質(O)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上99個以下、より好ましくは1個以上74個以下、より好ましくは1個以上50個以下、より好ましくは1個以上40個以下、より好ましくは1個以上25個以下、より好ましくは1個以上10個以下、より好ましくは1個以上5個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<15>項記載の方法。
<21>前記タンパク質(R)が、前記タンパク質(Q)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上100個以下、より好ましくは1個以上75個以下、より好ましくは1個以上50個以下、より好ましくは1個以上40個以下、より好ましくは1個以上25個以下、より好ましくは1個以上10個以下、より好ましくは1個以上5個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<15>項記載の方法。
【0088】
<22>前記FAR、好ましくは前記タンパク質(G)〜(R)のいずれか1つ、をコードする遺伝子が、下記DNA(g)〜(r)からなる群より選ばれる少なくとも1種のDNAからなる遺伝子、である、前記<1>〜<21>のいずれか1項記載の方法。
(g)配列番号4で表される塩基配列からなるDNA。
(h)前記DNA(g)の塩基配列と同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(i)配列番号6で表される塩基配列からなるDNA。
(j)前記DNA(i)の塩基配列と同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(k)配列番号8で表される塩基配列からなるDNA。
(l)前記DNA(k)の塩基配列と同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(m)配列番号10で表される塩基配列からなるDNA。
(n)前記DNA(m)の塩基配列と同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(o)配列番号35で表される塩基配列からなるDNA。
(p)前記DNA(o)の塩基配列と同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(q)配列番号36で表される塩基配列からなるDNA。
(r)前記DNA(q)の塩基配列と同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【0089】
<23>前記DNA(h)が、前記DNA(g)の塩基配列に、1若しくは複数個、好ましくは1個以上296個以下、より好ましくは1個以上222個以下、より好ましくは1個以上148個以下、より好ましくは1個以上119個以下、より好ましくは1個以上74個以下、より好ましくは1個以上30個以下、より好ましくは1個以上15個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなり、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNA、又は前記DNA(g)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNAである、前記<22>項記載の方法。
<24>前記DNA(j)が、前記DNA(i)の塩基配列に、1若しくは複数個、好ましくは1個以上297個以下、より好ましくは1個以上223個以下、より好ましくは1個以上149個以下、より好ましくは1個以上119個以下、より好ましくは1個以上75個以下、より好ましくは1個以上30個以下、より好ましくは1個以上15個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなり、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNA、又は前記DNA(i)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNAである、前記<22>項記載の方法。
<25>前記DNA(l)が、前記DNA(k)の塩基配列に、1若しくは複数個、好ましくは1個以上297個以下、より好ましくは1個以上223個以下、より好ましくは1個以上149個以下、より好ましくは1個以上119個以下、より好ましくは1個以上75個以下、より好ましくは1個以上30個以下、より好ましくは1個以上15個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなり、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNA、又は前記DNA(k)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNAである、前記<22>項記載の方法。
<26>前記DNA(n)が、前記DNA(m)の塩基配列に、1若しくは複数個、好ましくは1個以上299個以下、より好ましくは1個以上224個以下、より好ましくは1個以上150個以下、より好ましくは1個以上120個以下、より好ましくは1個以上75個以下、より好ましくは1個以上30個以下、より好ましくは1個以上15個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなり、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNA、又は前記DNA(m)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNAである、前記<22>項記載の方法。
<27>前記DNA(p)が、前記DNA(o)の塩基配列に、1若しくは複数個、好ましくは1個以上297個以下、より好ましくは1個以上223個以下、より好ましくは1個以上149個以下、より好ましくは1個以上119個以下、より好ましくは1個以上75個以下、より好ましくは1個以上30個以下、より好ましくは1個以上15個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなり、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNA、又は前記DNA(o)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNAである、前記<22>項記載の方法。
<28>前記DNA(r)が、前記DNA(q)の塩基配列に、1若しくは複数個、好ましくは1個以上299個以下、より好ましくは1個以上225個以下、より好ましくは1個以上150個以下、より好ましくは1個以上120個以下、より好ましくは1個以上75個以下、より好ましくは1個以上30個以下、より好ましくは1個以上15個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなり、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNA、又は前記DNA(q)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつFAR活性を有するタンパク質をコードするDNAである、前記<22>項記載の方法。
【0090】
<29>前記微生物が原核生物、好ましくは大腸菌又はシアノバクテリア、である、前記<1>〜<28>のいずれか1項記載の方法。
<30>前記シアノバクテリアが、シネコシスティス属、シネココッカス属、サーモシネココッカス属、トリコデスミウム属、アカリオクロリス属、クロコスファエラ属、及びアナベナ属からなる群より選ばれるシアノバクテリア、好ましくはシネコシスティス属又はシネココッカス属のシアノバクテリア、である、前記<29>項記載の方法。
<31>前記KAS遺伝子及びFAR遺伝子をシアノバクテリアのゲノム上に導入して前記遺伝子の発現を促進させる、前記<29>又は<30>項記載の方法。
【0091】
<32>前記長鎖脂肪族アルコールが炭素原子数20以上の長鎖脂肪族アルコール、好ましくは炭素原子数20〜26の長鎖脂肪族アルコール、より好ましくは炭素原子数20〜26の飽和長鎖脂肪族アルコール若しくは1価の不飽和長鎖脂肪族アルコール、より好ましくは炭素原子数20又は22の飽和長鎖脂肪族アルコール若しくは1価の不飽和長鎖脂肪族アルコールである、前記<1>〜<31>のいずれか1項記載の方法。
<33>前記微生物が生産する全脂肪族アルコールに占める、長鎖脂肪族アルコールの含有量が、全脂肪族アルコール重量の1%以上、好ましくは2%以上、より好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、99%以下、好ましくは95%以下、である、前記<1>〜<32>のいずれか1項記載の方法。
【0092】
<34>KAS及びFARの発現、又はKAS遺伝子及びFAR遺伝子の発現が促進されている、微生物の形質転換体。
<35>KAS遺伝子及びFAR遺伝子の発現が前記微生物の細胞内で促進され、KAS及びFARの発現が促進されている、前記<34>項記載の形質転換体。
<36>KAS遺伝子若しくは当該遺伝子を含有する組換えベクター、並びにFAR遺伝子、又はKAS遺伝子若しくは当該遺伝子を含有する組換えベクターを含んでなる、微生物の形質転換体。
<37>KAS遺伝子及びFAR遺伝子、又はKAS遺伝子を含有する組換えベクター及びFAR遺伝子を含有する組換えベクターを、宿主微生物に導入する、形質転換体の作製方法。
<38>前記KASが、前記<6>〜<10>のいずれか1項で規定する前記タンパク質(A)〜(F)からなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質、好ましくは下記タンパク質(E)及び(F)からなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質、である、前記<34>〜<37>のいずれか1項記載の形質転換体、又はその作製方法。
<39>前記KAS遺伝子、好ましくは前記タンパク質(A)〜(F)からなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質をコードする遺伝子が、前記<11>〜<14>のいずれか1項で規定する前記DNA(a)〜(f)からなる群より選ばれる少なくとも1種のDNAからなる遺伝子、好ましくは下記DNA(e)及び(f)からなる群より選ばれる少なくとも1種のDNAからなる遺伝子、である、前記<34>〜<38>のいずれか1項記載の形質転換体、又はその作製方法。
<40>前記FARが、前記<15>〜<21>のいずれか1項で規定する前記タンパク質(G)〜(R)からなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質である、前記<34>〜<39>のいずれか1項記載の形質転換体、又はその作製方法。
<41>前記FAR遺伝子、好ましくは前記タンパク質(G)〜(R)からなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質をコードする遺伝子が、前記<22>〜<28>のいずれか1項で規定する前記DNA(g)〜(r)からなる群より選ばれる少なくとも1種のDNAからなる遺伝子である、前記<34>〜<40>のいずれか1項記載の形質転換体、又はその作製方法。
【0093】
<42>前記微生物が原核生物、好ましくは大腸菌又はシアノバクテリア、である、前記<34>〜<41>のいずれか1項記載の形質転換体、又はその作製方法
<43>前記シアノバクテリアが、シネコシスティス属、シネココッカス属、サーモシネココッカス属、トリコデスミウム属、アカリオクロリス属、クロコスファエラ属、及びアナベナ属からなる群より選ばれるシアノバクテリア、好ましくはシネコシスティス属又はシネココッカス属のシアノバクテリア、である、前記<42>項記載の形質転換体、又はその作製方法。
【0094】
<44>長鎖脂肪族アルコールを製造するための、前記<34>〜<43>のいずれか1項記載の形質転換体、又は形質転換体の作製方法により作製された形質転換体の使用。
<45>前記長鎖脂肪族アルコールが炭素原子数20以上の長鎖脂肪族アルコール、好ましくは炭素原子数20〜26の長鎖脂肪族アルコール、より好ましくは炭素原子数20〜26の飽和長鎖脂肪族アルコール若しくは1価の不飽和長鎖脂肪族アルコール、より好ましくは炭素原子数20又は22の飽和長鎖脂肪族アルコール若しくは1価の不飽和長鎖脂肪族アルコールである、前記<44>項記載の使用。
【0095】
<46>前記<15>〜<21>のいずれか1項で規定した、前記タンパク質(G)〜(R)。
<47>前記<46>項記載のタンパク質をコードする遺伝子。
<48>前記<22>〜<28>のいずれか1項で規定した、前記DNA(g)〜(r)からなる群より選ばれる少なくとも1種のDNAからなる遺伝子。
<49>前記<47>又は<48>項記載の遺伝子を含有する、組換えベクター。
【実施例】
【0096】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。ここで、本実施例で用いるプライマーの塩基配列を表3〜5に示す。
【0097】
【表3】
【0098】
【表4】
【0099】
【表5】
【0100】
作製例1 NoKASII遺伝子及びAtFAR遺伝子を大腸菌に導入してなる形質転換体の作製
(1)N末端側のオリゴヌクレオチドを改変したNoKASII遺伝子発現用プラスミドの構築
pBS-SK(-)プラスミド(アジレント・テクノロジー社製)を鋳型とし、表3記載のプライマーpBS-SK-fw及びプライマーpBS-SK-rvを用いてPCRを行い、pBS-SK(-)線状プラスミドを増幅した。
また、ナンノクロロプシス・オキュラータNIES-2145株より作製したcDNAライブラリーを鋳型として、表3記載の、プライマーpBS/NoKASII(-ATG)-fw及びプライマーpBS/NoKASII-rv、プライマーpBS/NoKASII(-20)-fw及びプライマーpBS/NoKASII-rv、プライマーpBS/NoKASII(-40)-fw及びプライマーpBS/NoKASII-rv、並びにプライマーpBS/NoKASII(-60)-fw及びプライマーpBS/NoKASII-rvをそれぞれ用いてPCRを行い、NoKASII(-ATG)断片、NoKASII(-20)断片、NoKASII(-40)断片、及びNoKASII(-60)断片を増幅した。
ここで、NoKASII(-ATG)断片は、配列番号2の7位〜1428位の塩基配列からなる。また、NoKASII(-20)断片は、配列番号2の61位〜1428位の塩基配列からなる。また、NoKASII(-40)断片は、配列番号2の121位〜1428位の塩基配列からなる。さらに、NoKASII(-60)断片は配列番号2の181位〜1428位の塩基配列からなる。
【0101】
前述のpBS-SK(-)線状プラスミドと、NoKASII(-ATG)断片、NoKASII(-20)断片、NoKASII(-40)断片、又はNoKASII(-60)断片とを、In-Fusion(登録商標)PCRクローニングシステム(Clontech社)を用いて連結し、pBS-SK(-)-NoKASIIプラスミド、pBS-SK(-)-NoKASII(-20)プラスミド、pBS-SK(-)-NoKASII(-40)プラスミド、及びpBS-SK(-)-NoKASII(-60)プラスミドを作出した。
なお、前記プラスミドは、NoKASIIのアミノ酸配列のN末端側に、pBS-SK(-)由来のlacZ29アミノ酸残基が融合する形で発現するように設計されている。
【0102】
(2)AtFAR遺伝子発現用プラスミドの構築
pBS-SK(-)プラスミド(アジレント・テクノロジー社製)を鋳型とし、表3記載のプライマーRBS/pBS-SK-rv及びプライマーpBS-SK-fwを用いてPCRを行い、pBS-SK(-)線状プラスミドを増幅した。
また、シロイヌナズナより作製したcDNAライブラリーを鋳型とし、表3記載のプライマーRBS/AtFAR1-fw及びプライマーpBS-SK/AtFAR1-rvを用いてPCRを行い、AtFAR1遺伝子断片(Gene ID:AT5G22500.1、配列番号4)を増幅した。
上記方法と同様に、表3記載の、プライマーRBS/AtFAR2(-120)-fw及びプライマーpBS-SK/AtFAR2-rv、プライマーRBS/AtFAR3-fw及びプライマーpBS-SK/AtFAR3-rv、プライマーRBS/AtFAR4-fw及びプライマーpBS-SK/AtFAR4-rv、並びにプライマーRBS/AtFAR5-fw及びプライマーpBS-SK/AtFAR5-rvをそれぞれ用いてPCRを行い、AtFAR2(-120)遺伝子断片(Gene ID:AT3G11980.1、配列番号29)、AtFAR3遺伝子断片(Gene ID:AT4G33790.1、配列番号6)、AtFAR4遺伝子断片(Gene ID:AT3G44540.1、配列番号8)、並びにAtFAR5遺伝子断片(Gene ID:AT3G44550.1、配列番号10)をそれぞれ増幅した。
前述のpBS-SK(-)線状プラスミドと、AtFAR1遺伝子断片、AtFAR2(-120)遺伝子断片、AtFAR3遺伝子断片、AtFAR4遺伝子断片、又はAtFAR5遺伝子断片とを、In-Fusion(登録商標)PCRクローニングシステム(Clontech社)を用いて連結し、pBS-SK(-)-AtFAR1プラスミド、pBS-SK(-)-AtFAR2(-120)プラスミド、pBS-SK(-)-AtFAR3プラスミド、pBS-SK(-)-AtFAR4プラスミド、及びpBS-SK(-)-AtFAR5プラスミドを作出した。
【0103】
(3)NoKASII遺伝子及びAtFAR遺伝子発現用プラスミドの構築
前述のpBS-SK(-)-NoKASIIプラスミド、pBS-SK(-)-NoKASII(-20)プラスミド、又はpBS-SK(-)-NoKASII(-40)プラスミドを鋳型とし、表3記載のプライマーpBS-SK-fw及びプライマーRBS/NoKASII-rvを用いてPCRを行い、pBS-SK(-)-NoKASII線状プラスミド、pBS-SK(-)-NoKASII(-20)線状プラスミド、及びpBS-SK(-)-NoKASII(-40)線状プラスミドをそれぞれ増幅した。
pBS-SK(-)-NoKASII線状プラスミドと、前述のAtFAR1遺伝子断片、AtFAR2(-120)遺伝子断片、AtFAR3遺伝子断片、AtFAR4遺伝子断片、又はAtFAR5遺伝子断片とを、In-Fusion(登録商標)PCRクローニングシステム(Clontech社)を用いて連結し、pBS-SK(-)-NoKASII-RBS-AtFAR1プラスミド、pBS-SK(-)-NoKASII-RBS-AtFAR2(-120)プラスミド、pBS-SK(-)-NoKASII-RBS-AtFAR3プラスミド、pBS-SK(-)-NoKASII-RBS-AtFAR4プラスミド、及びpBS-SK(-)-NoKASII-RBS-AtFAR5プラスミドを作出した。
同様に、pBS-SK(-)-NoKASII(-20)線状プラスミドと、前述のAtFAR1遺伝子断片、AtFAR2(-120)遺伝子断片、AtFAR3遺伝子断片、AtFAR4遺伝子断片、又はAtFAR5遺伝子断片とを、In-Fusion(登録商標)PCRクローニングシステム(Clontech社)を用いて連結し、pBS-SK(-)-NoKASII(-20)-RBS-AtFAR1プラスミド、pBS-SK(-)-NoKASII(-20)-RBS-AtFAR2(-120)プラスミド、pBS-SK(-)-NoKASII(-20)-RBS-AtFAR3プラスミド、pBS-SK(-)-NoKASII(-20)-RBS-AtFAR4プラスミド、及びpBS-SK(-)-NoKASII(-20)-RBS-AtFAR5プラスミドを作出した。
同様に、pBS-SK(-)-NoKASII(-40)線状プラスミドと、前述のAtFAR1遺伝子断片、AtFAR2(-120)遺伝子断片、AtFAR3遺伝子断片、AtFAR4遺伝子断片、又はAtFAR5遺伝子断片とを、In-Fusion(登録商標)PCRクローニングシステム(Clontech社)を用いて連結し、pBS-SK(-)-NoKASII(-40)-RBS-AtFAR1プラスミド、pBS-SK(-)-NoKASII(-40)-RBS-AtFAR2(-120)プラスミド、pBS-SK(-)-NoKASII(-40)-RBS-AtFAR3プラスミド、pBS-SK(-)-NoKASII(-40)-RBS-AtFAR4プラスミド、及びpBS-SK(-)-NoKASII(-40)-RBS-AtFAR5プラスミドを作出した。
【0104】
(4)N末端側のオリゴヌクレオチドを改変したNoKASII遺伝子発現用プラスミド、AtFAR遺伝子発現用プラスミド、及びNoKASII遺伝子及びAtFAR遺伝子発現用プラスミドの大腸菌への導入
LB培地1mLに植菌した大腸菌K27ΔFadD株(Coli genetic stock centerより入手、http://cgsc.biology.yale.edu/Strain.php?ID=5655参照)を37℃でOD600が0.3〜0.4程度になるまで培養した。
菌体を遠心により回収し、氷冷したTSS溶液(10%PEG6000、5%DMSO、35mM MgSO4)100μLと、前記プラスミド溶液とを混合し、30分間氷上で静置した。その後、42℃1分間のヒートショックを行い、アンピシリン含有LBプレートに塗布して30℃で一晩培養した。培養後、薬剤耐性を指標として、プラスミドが導入された株を選抜した。
【0105】
作製例2 NoKASII遺伝子及びBrFAR遺伝子を大腸菌に導入してなる形質転換体の作製
(1)BrFAR遺伝子発現用プラスミドの構築
ブラシカ・ラパより作製したcDNAライブラリーを鋳型とし、表3記載のプライマーRBS/BrFAR1-fw及びプライマーpBS-SK/BrFAR1-rvを用いてPCRを行い、BrFAR1遺伝子断片(NCBI Accession number:XM_009122403、配列番号35)を増幅した。
上記方法と同様に、表3記載のプライマーRBS/BrFAR5-fw及びプライマーpBS-SK/BrFAR5-rvを用いてPCRを行い、BrFAR5遺伝子断片(NCBI Accession number:XM_009152061、配列番号36)を増幅した。
【0106】
(2)NoKASII遺伝子及びBrFAR遺伝子発現用プラスミドの構築
作製例1と同様の方法で作製したpBS-SK(-)-NoKASII線状プラスミド、pBS-SK(-)-NoKASII(-20)線状プラスミド、又はpBS-SK(-)-NoKASII(-40)線状プラスミドと、BrFAR1遺伝子断片又はBrFAR5遺伝子断片とを、それぞれIn-Fusion(登録商標)PCRクローニングシステム(Clontech社)を用いて連結し、pBS-SK(-)-NoKASII-RBS-BrFAR1、pBS-SK(-)-NoKASII-RBS-BrFAR5プラスミド、pBS-SK(-)-NoKASII(-20)-RBS-BrFAR1、pBS-SK(-)-NoKASII(-20)-RBS-BrFAR5プラスミド、pBS-SK(-)-NoKASII(-40)-RBS-BrFAR1、及びpBS-SK(-)-NoKASII(-40)-RBS-BrFAR5プラスミドを作出した。
【0107】
(3)NoKASII遺伝子及びBrFAR遺伝子発現用プラスミドの大腸菌への導入
LB培地1mLに植菌した大腸菌K27ΔFadD株(Coli genetic stock centerより入手、http://cgsc.biology.yale.edu/Strain.php?ID=5655参照)を37℃でOD600が0.3〜0.4程度になるまで培養した。
菌体を遠心により回収し、氷冷したTSS溶液(10%PEG6000、5%DMSO、35mM MgSO4)100μLと、前記プラスミド溶液とを混合し、30分間氷上で静置した。その後、42℃1分間のヒートショックを行い、アンピシリン含有LBプレートに塗布して30℃で一晩培養した。培養後、薬剤耐性を指標として、プラスミドが導入された株を選抜した。
【0108】
試験例1 脂肪族アルコールの製造
作製例1及び2で得られた形質転換体のコロニーをOvernight Express Instant TB Medium(Takara社製)2mLに植菌し、30℃で24時間振とう培養(160rpm)した。
培養液1mLをガラス試験管に分取し、3,000rpmで遠心することにより菌体を回収した。上清を除去した沈殿を蒸留水0.5mLに懸濁し、内部標準としてクロロホルムに溶解したC23:0アルコール(1-トリコサノール)(1mg/mL)をそれぞれ25μLずつ添加した。これに、クロロホルム0.5mL、及びメタノール1mLを加えて攪拌し、30分間静置した。さらに、クロロホルム0.5mL、及び1.5%KCl溶液0.5mLを加えて攪拌し、3,000rpmで15分間遠心分離を行い、有機層(下層)をパスツールピペットでふた付き試験管に回収し、窒素ガスで乾固した。
乾固した脂質画分に0.5N KOHメタノール溶液0.7mLを加えて攪拌し、80℃で30分間けん化した。さらに、3フッ化ホウ素メタノール溶液1mLを加え、80℃で10分間メチルエステル化反応を行った。この反応液に、ヘキサン0.2〜0.5mL及び飽和食塩水1mLを加えて攪拌し、室温にて10分間遠心分離した後、上層のヘキサン層を回収した。
【0109】
回収したヘキサン層をねじ口試験管に移して窒素乾固し、ピリジンに溶解したヘキサメチルジシラザン及びトリメチルクロロシランを含むシリル化剤TMSI-H(ジーエルサイエンス社製)100μLを加えた。80℃で30分間反応させた後、ヘキサン300μLと1.5%KCl溶液0.5mLを加えて攪拌した。さらに、混合液を室温にて10分間遠心分離し、上層のヘキサン層を回収してGC解析に供した。
まず、ガスクロマトグラフ質量分析解析にて、脂肪酸メチルエステル及びTMS化脂肪族アルコールの同定を行った。次に、ガスクロマトグラフィー解析により得られた波形データのピーク面積より、各形質転換体が産出する総脂肪酸量に占める各種脂肪酸量の割合(%)、及び総脂肪族アルコール量に占める各種脂肪族アルコール量の割合(%)を算出した。
【0110】
ガスクロマトグラフ質量分析解析及びガスクロマトグラフィー解析の条件を示す。
<ガスクロマトグラフ質量分析解析>
分析装置:7890A GC system(Agilent社製)、5975 Inert XL MSD(Agilent社製)
キャピラリーカラム:DB-1 MS(30m×20μm×0.25μm、J&W Scientific社製)
移動相:高純度ヘリウム
カラム内流量:1.0mL/min
昇温プログラム:100℃(1分)→12.5℃/分(200℃まで)→5℃/分(250℃まで)→250℃(9分)
平衡化時間:0.5分
注入口:スプリット注入(スプリット比:0.1:1)
圧力:55.793 psi
注入量:5μL
洗浄バイアル:メタノール・クロロホルム
検出器温度:350℃
<ガスクロマトグラフィー解析>
分析装置:7890A GC system(Agilent社製)
キャピラリーカラム:DB-1 MS(30m×20μm×0.25μm、J&W Scientific社製)
移動相:ヘリウム
カラム内流量:0.25mL/分
昇温プログラム:80℃(0分)→15℃/分(320℃まで)
平衡化時間:0.5分
注入口:スプリット注入(スプリット比:75:1)
圧力:48.475 psi
注入量:5μL
洗浄バイアル:メタノール・クロロホルム
検出器温度:350℃
【0111】
各形質転換体の各種脂肪酸組成(%)を表6に、各種脂肪族アルコール組成(%)を表7〜10に、それぞれ示す。なおこれらの結果は、3連の培養実験の平均値と標準偏差を示している。
【0112】
【表6】
【0113】
【表7】
【0114】
【表8】
【0115】
【表9】
【0116】
【表10】
【0117】
表6に示すように、NoKASII、推定葉緑体移行シグナルを含むNoKASIIのN末端側のアミノ酸を20残基削除したNoKASII(-20)、又は40残基削除したNoKASII(-40)をコードする遺伝子を導入した形質転換体において、コントロールであるΔFadD株には見られない長鎖脂肪酸(炭素原子数20以上の脂肪酸)が検出された。ここで、長鎖脂肪酸は炭素原子数20以上の脂肪族アルコールの基質であり、NoKASII、NoKASII(-20)遺伝子又はNoKASII(-40)遺伝子を導入した形質転換体では、炭素原子数20以上のアシル-ACPの供給量が増加した。
【0118】
表7に示すように、各種FAR遺伝子を単独で導入した場合、炭素原子数が18以下の脂肪族アルコールは検出される。しかし、長鎖脂肪族アルコールは検出されない。
これに対して、表8〜10に示すようにNoKASII遺伝子、NoKASII(-20)遺伝子又はNoKASII(-40)遺伝子と、AtFAR1遺伝子、AtFAR3遺伝子、AtFAR4遺伝子、AtFAR5遺伝子、BrFAR1遺伝子又はBrFAR5遺伝子とを導入して共に発現した株において、炭素原子数が20〜26の脂肪族アルコールの生成が確認された。よって、長鎖脂肪族アルコールの生産には、KASII遺伝子とFAR遺伝子両方の発現が必要である。
但し、NoKASII遺伝子、NoKASII(-20)遺伝子、又はNoKASII(-40)遺伝子と、AtFAR2(-120)遺伝子とを導入して共に発現した株では炭素原子数が20以上のアルコールの生成は見られなかった。そのため、NoKASII遺伝子と炭素原子数が20以上のアシル-ACPを基質とするFAR遺伝子とを適切に組み合わせて用いる必要がある。なお、各種FARのアミノ酸配列に対するAtFAR2(-120)の同一性は、AtFAR1に対しては39%、AtFAR3に対しては38%、AtFAR4に対しては41%、AtFAR5に対しては40%、BrFAR1に対しては40%、BrFAR5に対しては40%であった。
また、長鎖脂肪族アルコールの全脂肪族アルコールに占める長鎖脂肪族アルコール量の割合は、同じFAR遺伝子を導入した場合でも、NoKASII(-20)遺伝子を導入した場合が最も高く、次いでNoKASII(-40)遺伝子を導入した場合、次いでNoKASII遺伝子を導入した場合が高い傾向にあった。
【0119】
作製例3 NoKASII遺伝子及びAtFAR遺伝子をシアノバクテリアに導入してなる形質転換体の作製
(1)カナマイシン耐性遺伝子発現用プラスミドの構築
シネココッカス・エロンガタスエスピーPCC7942株のゲノムDNAを鋳型とし、表4記載のプライマーpUC118/NS1up-F及びプライマーKmr/NS1up-Rを用いてPCRを行い、ニュートラルサイトNS1領域の上流断片(NS1up断片:配列番号73)を増幅した。また、前記ゲノムDNAを鋳型とし、表4記載のプライマーKmr/NS1down-F及びプライマーpUC118/NS1down-Rを用いてPCRを行い、ニュートラルサイトNS1領域の下流断片(NS1down断片:配列番号76)を増幅した。
さらに、pJH1プラスミド(Trieu-Cuot P et al., Gene, 1983, vol. 23, p. 331-341)を鋳型として、表4記載のプライマーKmr-F及びプライマーKmr-Rを用いてPCRを行い、カナマイシン耐性マーカー遺伝子断片(Kmr断片:配列番号45)を増幅した。
前記NS1up断片、NS1down断片及びKmr断片を、pUC118プラスミド(タカラバイオ社製)の
HincIIサイトに、In-Fusion(登録商標)PCRクローニングシステム(Clontech社)を用いて挿入し、pUC118-NS1::Kmプラスミドを取得した。
【0120】
(2)NoKASII遺伝子発現用プラスミドの構築
前記pUC118-NS1::Kmプラスミドを鋳型とし、表4記載のプライマーKmr-R及びプライマーNS1down-Fを用いてPCRを行い、pUC118-NS1::Kmプラスミドを線状化した。
次に、pTrc99Aクローニングプラスミド(NCBI Accession number:M22744)の配列より人工合成したtrcプロモーター配列を鋳型とし、表4記載のプライマーKmr/Ptrc-F及びプライマーPtrc-Rを用いてPCRを行い、trcプロモーター断片(Ptrc断片、配列番号80)を増幅した。
また、シネコシスティス・エスピーPCC6803株の野生型ゲノムDNAを鋳型とし、表4記載のプライマーTrbc-F及びプライマーNS1down/Trbc-Rを用いてPCRを行い、rbc遺伝子のターミネーター断片(Trbc断片、配列番号52)を増幅した。
さらに、ナンノクロロプシス・オキュラータNIES-2145株より作製したcDNAライブラリーを鋳型とし、表4記載のプライマーPtrc/NoKASII(-40)-F及びプライマーTrbc/NoKASII-Rを用いてPCRを行い、葉緑体移行シグナルを削除したNoKASII遺伝子断片(NoKASII(-40)断片、配列番号2の121位〜1428位の塩基配列の5'末端側に開始コドン(ATG)を付加した塩基配列、配列番号97)を増幅した。
【0121】
前述の線状化したpUC118-NS1::Kmプラスミド、Ptrc断片、Trbc断片、及びNoKASII(-40)断片を混合し、In-Fusion(登録商標)PCRクローニングシステム(Clontech社)を用いることで、シネココッカス・エロンガタスエスピーPCC7942由来のニュートラルサイトNS1領域中にカナマイシン耐性遺伝子カセット、trcプロモーター領域、NoKASII(-40)遺伝子、及びrbcターミネーターがこの順で挿入された、pUC118-NS1::Km-Ptrc-NoKASII(-40)-Trbcプラスミドを得た。
【0122】
(3)スペクチノマイシン耐性遺伝子発現用プラスミドの構築
シネココッカス・エロンガタスエスピーPCC7942の野生株のゲノムDNAを鋳型とし、表4記載のプライマーpUC118/orf1593up-F及びプライマーSp/orf1593up-Rを用いてPCRを行い、orf1593領域の上流断片(orf1593up断片:配列番号85)を増幅した。また、前記ゲノムDNAを鋳型とし、表4記載のプライマーSp/orf1594down-F及びプライマーpUC118/orf1594down-Rを用いてPCRを行い、orf1594領域の下流断片(orf1594down断片:配列番号88)を増幅した。
さらにpDG1726プラスミド(Guerout-Fleury et al., Gene, 1995, vol. 167, p. 335-336)を鋳型とし、表4記載のプライマーSp-F及びプライマーSp-Rを用いてPCRを行い、スペクチノマイシン耐性マーカー遺伝子断片(Sp断片:配列番号63)を増幅した。
【0123】
前述の、orf1593up断片、orf1594down断片、及びSp断片をpUC118プラスミド(タカラバイオ社製)の
HincIIサイトにIn-Fusion(登録商標)PCRクローニングシステム(Clontech社)を用いて挿入し、pUC118-orf1593/1594::Spプラスミドを取得した。
【0124】
(4)AtFAR遺伝子発現用プラスミドの構築
前記pUC118-orf1593/1594::Spプラスミドを鋳型とし、表4記載のプライマーSp-F及びプライマーorf1594up-Rを用いてPCRを行い、pUC118-orf1593/1594::Spプラスミドを線状化した。
次に、pTrc99Aクローニングプラスミド(NCBI Accession number:M22744)の配列より人工合成したtrcプロモーター配列を鋳型とし、表4記載のプライマーorf1593up/Ptrc-F及びプライマーPtrc-Rを用いてPCRを行い、trcプロモーター断片(Ptrc断片、配列番号80)を増幅した。同様に、シネココッカス・エロンガタスエスピーPCC7942のゲノムDNAを鋳型とし、表4記載のプライマーorf1593up/PrrnA-F及びプライマーPrrnA-Rを用いてPCRを行い、シネココッカス・エロンガタスエスピーPCC7942由来rrnAオペロン遺伝子のプロモーター断片(Prrn断片:配列番号93)を増幅した。
また、シネコシスティス・エスピーPCC6803株の野生型ゲノムDNAを鋳型とし、表4記載のプライマーTrbc-F及びプライマーSp/Trbc-Rを用いてPCRを行い、rbc遺伝子のターミネーター領域(Trbc断片:配列番号52)を増幅した。
さらに、シロイヌナズナより作製したcDNAライブラリーを鋳型とし、表4記載のプライマーPtrc99A2-AtFAR1-F及びプライマーTrbc/AtFAR1-rvを用いてPCRを行い、AtFAR1遺伝子断片(配列番号4)を増幅した。同様に、表4記載のプライマーPrrnA2-AtFAR4-F及びプライマーTrbc/AtFAR4-rvを用いてPCRを行い、AtFAR4遺伝子断片(配列番号8)を増幅した。
【0125】
前述の線状化したpUC118-orf1593/1594::Spプラスミド、Ptrc断片、Trbc断片、及びAtFAR1遺伝子断片を混合し、In-Fusion(登録商標)PCRクローニングシステム(Clontech社)を用いることで、シネココッカス・エロンガタスエスピーPCC7942株由来のorf1593/1594領域中にtrcプロモーター、AtFAR1遺伝子断片、rbcターミネーター、及びスペクチノマイシン耐性遺伝子カセットがこの順で挿入された、pUC118-orf1593/1594::Ptrc-AtFAR1-Trbc-Spプラスミドを得た。
上記方法と同様に、線状化したpUC118-orf1593/1594::Spプラスミド、PrrnA断片、Trbc断片、及びAtFAR4遺伝子断片を混合し、In-Fusion(登録商標)PCRクローニングシステム(Clontech社)を用いることで、シネココッカス・エロンガタスエスピーPCC7942株由来のorf1593/1594領域中にrrnAオペロン遺伝子のプロモーター、AtFAR4遺伝子断片、rbcターミネーター、及びスペクチノマイシン耐性遺伝子カセットがこの順で挿入された、pUC118-orf1593/1594::PrrnA-AtFAR4-Trbc-Spプラスミドを得た
【0126】
(5)NoKASII遺伝子発現用プラスミド及びAtFAR遺伝子発現用プラスミドのシアノバクテリアへの導入
得られたpUC118-NS1::Km-Ptrc-NoKASII(-40)-Trbcプラスミド、pUC118-orf1593/1594::Ptrc-AtFAR1-Trbc-Sp、及びpUC118-orf1593/1594::PrrnA-AtFAR4-Trbc-Spプラスミドを用いて、自然形質転換法によりシネココッカス・エロンガタスエスピーPCC7942株を形質転換し、カナマイシン耐性及びスペクチノマイシン耐性により選抜した。
このようにしてシネココッカス・エロンガタスエスピーPCC7942株のゲノム上のNS1領域中に、NoKASII(-40)遺伝子発現用コンストラクトを導入し、orf1593/1594領域中にAtFAR1遺伝子又はAtFAR4遺伝子を導入した、ΔNS1::NoKASII(-40)Δorf1593/1594::AtFAR1株、及びΔNS1::NoKASII(-40)Δorf1593/1594::AtFAR4株をそれぞれ取得した。
また、同様の方法で、NoKASII(-40)遺伝子発現用コンストラクトを導入したΔNS1::NoKASII(-40)株、orf1593/1594領域中にAtFAR4遺伝子を導入したΔorf1593/1594::AtFAR4株をそれぞれ取得した。
【0127】
試験例2 脂肪族アルコールの製造
下記表9に示す組成のBG-11液体培地20mLを加えた50mL三角フラスコ中で、作製例3で作製した形質転換体並びにシネココッカス・エロンガタスエスピーPCC7942株(wild type)を14日間培養した。培養は一定の照明下(60μE・m
-2・sec
-1)、30℃にてロータリーシェーカー(120rpm)を用いて行い、初発菌体濃度をOD
730=0.2に設定した。なお形質転換体を培養するBG-11培地には、適切な抗生物質を25μg/mLの濃度となるよう添加した。
【0128】
【表11】
【0129】
培養液2〜5mLをガラス試験管に分取し、3,000rpmで遠心することにより菌体を回収した。上清を除去した沈殿を蒸留水0.5mLに懸濁し、内部標準としてクロロホルムに溶解したC23:0アルコール(1-トリコサノール)(1mg/mL)をそれぞれ25μLずつ添加した。これに、クロロホルム0.5mL、メタノール1mLを加えて攪拌し、30分間静置した。さらに、クロロホルム0.5mL、及び1.5%KCl溶液0.5mLを加えて攪拌し、3,000rpmで15分間遠心分離を行い、有機層(下層)をパスツールピペットでふた付き試験管に回収し、窒素ガスで乾固した。
乾固した脂質画分に0.5N KOHメタノール溶液0.7mLを加えて攪拌し、80℃で30分間けん化した。さらに、3フッ化ホウ素メタノール溶液1mLを加え、80℃で10分間メチルエステル化反応を行った。この反応液に、ヘキサン0.2〜0.5mL及び飽和食塩水1mLを加えて攪拌し、室温にて10分間遠心分離した後、上層のヘキサン層を回収した。
【0130】
回収したヘキサン層をねじ口試験管に移して窒素乾固し、ピリジンに溶解したヘキサメチルジシラザン及びトリメチルクロロシランを含むシリル化剤TMSI-H(ジーエルサイエンス社製)100μLを加えた。80℃で30分間反応させた後、ヘキサン300μLと1.5%KCl溶液0.5mLを加えて攪拌した。さらに、混合液を室温にて10分間遠心分離し、上層のヘキサン層を回収してGC解析に供した。
まず、ガスクロマトグラフ質量分析解析にて、脂肪酸メチルエステル及びTMS化脂肪族アルコールの同定を行った。次に、ガスクロマトグラフィー解析により得られた波形データのピーク面積より、各形質転換体が産出する総脂肪族アルコール量に占める各種脂肪族アルコール量の割合(%)を算出した。ガスクロマトグラフ質量分析解析及びガスクロマトグラフィー解析の条件は試験例1と同様である。
ガスクロマトグラフ質量分析解析で得られたクロマトグラフを
図1に示す。また、各形質転換体の総脂肪族アルコール量に占める各種脂肪族アルコール量の割合(%)を算出した結果を表12に示す。
【0131】
【表12】
【0132】
図1に示すように、NoKASII遺伝子を導入することで、シネココッカス・エロンガタスエスピーPCC7942株は炭素原子数20の長鎖脂肪酸の生産能を獲得する。また、
図1と表12に示すように、野生株にAtFAR4遺伝子を導入した場合、炭素原子数が18の鎖長の脂肪族アルコールの産出が確認された。しかしこれらの菌株では、炭素原子数が20以上の脂肪族アルコールは検出されなかった。
これに対して、
図1と表12に示すように、NoKASII遺伝子とAtFAR4遺伝子とをシネココッカス・エロンガタスエスピーPCC7942株に導入することで、炭素原子数が20の鎖長の脂肪族アルコールの生産が確認された。
また、NoKASII遺伝子とAtFAR1遺伝子とをシネココッカス・エロンガタスエスピーPCC7942株に導入することで、炭素原子数が20及び22の鎖長の脂肪族アルコール生産能を付与できた。
以上のように、シアノバクテリアにおける長鎖脂肪族アルコールの生産能の獲得及び生産性の向上には、NoKASII遺伝子とAtFAR遺伝子両方の導入が重要である。
【0133】
作製例4 NoKASII遺伝子及びAtFAR遺伝子をシアノバクテリアに導入してなる形質転換体の作製
(1)カナマイシン耐性遺伝子発現用プラスミドの構築
シネコシスティス・エスピーPCC6803株のゲノムDNAを鋳型とし、表5記載のプライマーpUC118/slr0168up-F及びプライマーKmr/slr0168up-Rを用いてPCRを行い、ニュートラルサイトslr0168領域の上流断片(slr0168up断片:配列番号39)を増幅した。また、前記ゲノムDNAを鋳型とし、表5記載のプライマーKmr/slr0168down-F及びプライマーpUC118/slr0168down-Rを用いてPCRを行い、ニュートラルサイトslr0168領域の下流断片(slr0168down断片:配列番号42)を増幅した。
前述の、slr0168up断片、slr0168down断片、及び作製例3と同様の方法で作製したKmr断片をpUC118プラスミド(タカラバイオ社製)の
HincIIサイトに、In-Fusion(登録商標)PCRクローニングシステム(Clontech社)を用いて挿入し、pUC118-slr0168::Kmプラスミドを取得した。
【0134】
(2)NoKASII発現用プラスミドの構築
前記pUC118-slr0168::Kmプラスミドを鋳型とし、表4記載のプライマーKmr-F及び表5記載のプライマーslr0168up-Rを用いてPCRを行い、pUC118-slr0168::Kmプラスミドを線状化した。
次に、シネコシスティス・エスピーPCC6803株のゲノムDNAを鋳型とし、表5記載のプライマーslr0168up/Pcpc560-F及びプライマーPcpc560-Rを用いてPCRを行い、高発現cpc560プロモーター断片(Jie Z et al., Scientific Reports, 2014, vol. 4, p. 4500、Pcpc560断片:配列番号49)を増幅した。
また、シネコシスティス・エスピーPCC6803株のゲノムDNAを鋳型とし、表4記載のプライマーTrbc-F及び表5記載のプライマーKm/Trbc-Rを用いてPCRを行い、rbc遺伝子のターミネーター領域(Trbc断片:配列番号52)を増幅した。
さらに、ナンノクロロプシス・オキュラータNIES-2145株より作製したcDNAライブラリーを鋳型とし、表5記載のプライマーPcpc560/NoKASII(-40)-F及び表4記載のプライマーTrbc/NoKASII-Rを用いてPCRを行い、NoKASII(-40)遺伝子断片を増幅した。
【0135】
前述の線状化したpUC118-slr0168::Kmプラスミド、Pcpc560断片、Trbc断片、及びNoKASII(-40)遺伝子断片を混合し、In-Fusion(登録商標)PCRクローニングシステム(Clontech社)を用いることで、シネコシスティス・エスピーPCC6803株由来のニュートラルサイトslr0168領域中にcpc560プロモーター、NoKASII(-40)遺伝子断片、rbcターミネーター、及びカナマイシン耐性遺伝子カセットがこの順で挿入された、pUC118-slr0168::Pcpc560-NoKASII(-40)-Trbc-Kmプラスミドを得た。
【0136】
(3)スペクチノマイシン耐性遺伝子発現用プラスミドの構築
シネコシスティス・エスピーPCC6803の野生株のゲノムDNAを鋳型とし、表5記載のプライマーpUC118/sll0208up-F及びプライマーSp/sll0208up-Rを用いてPCRを行い、sll0208領域の上流断片(sll0208up断片:配列番号57)を増幅した。また、前記ゲノムDNAを鋳型とし、表5記載のプライマーSp/sll0209down-F及びプライマーpUC118/sll0209down-Rを用いてPCRを行い、sll0209領域の下流断片(sll0209down断片:配列番号60)を増幅した。
【0137】
前述の、sll0208up断片、sll0209down断片、及び作製例3と同様の方法で作製したSp断片をpUC118プラスミド(タカラバイオ社製)の
HincIIサイトにIn-Fusion(登録商標)PCRクローニングシステム(Clontech社)を用いて挿入し、pUC118-sll0208/0209::Spプラスミドを取得した。
【0138】
(4)AtFAR遺伝子発現用プラスミドの構築
前記pUC118-sll0208/0209::Spプラスミドを鋳型とし、表4記載のプライマーSp-F及び表5記載のプライマーsll0208up-Rを用いてPCRを行い、pUC118-sll0208/0209::Spプラスミドを線状化した。
次に、シネコシスティス・エスピーPCC6803株のゲノムDNAより、表5記載のプライマーsll0208up/Pcpc560-F及びプライマーPcpc560-Rを用いてPCRを行い、Pcpc560断片(配列番号49)を増幅した。
さらに、シロイヌナズナより作製したcDNAライブラリーを鋳型とし、表5記載のプライマーPcpc560/AtFAR1-fw及び表4記載のプライマーTrbc/AtFAR1-rvを用いてPCRを行い、AtFAR1遺伝子断片(配列番号4)を増幅した。同様に、表5記載のプライマーPcpc560/AtFAR4-fw及び表4記載のプライマーTrbc/AtFAR4-rvを用いてPCRを行い、AtFAR4遺伝子断片(配列番号8)を増幅した。
【0139】
前述の線状化したpUC118-sll0208/0209::Spプラスミド、Pcpc560断片、作製例3と同様に作製したTrbc断片、及びAtFAR1遺伝子断片又はAtFAR4遺伝子断片を混合し、In-Fusion(登録商標)PCRクローニングシステム(Clontech社)を用いることで、シネコシスティス・エスピーPCC6803株由来のニュートラルサイトslr0168領域中にcpc560プロモーター、AtFAR1遺伝子断片又はAtFAR4遺伝子断片、rbcターミネーター、及びスペクチノマイシン耐性遺伝子カセットがこの順で挿入された、pUC118-sll0208/0209::Pcpc560-AtFAR1-Trbc-Sp及びpUC118-sll0208/0209::Pcpc560-AtFAR4-Trbc-Spプラスミドを得た。
【0140】
(5)NoKASII遺伝子発現用プラスミド及びAtFAR遺伝子発現用プラスミドのシアノバクテリアへの導入
得られたpUC118-slr0168::Pcpc560-NoKASII(-40)-Trbc-Kmプラスミド、pUC118-sll0208/0209::Pcpc560-AtFAR1-Trbc-Spプラスミド、及びpUC118-sll0208/0209::Pcpc560-AtFAR4-Trbc-Spプラスミドを用いて、自然形質転換法によりシネコシスティス・エスピーPCC6803株を形質転換し、カナマイシン耐性とスペクチノマイシン耐性により選抜した。
このようにして、シネコシスティス・エスピーPCC6803株のゲノム上のslr0168領域中にNoKASII遺伝子発現用コンストラクトを導入し、sll0208/0209領域中にAtFAR1遺伝子又はAtFAR4遺伝子を導入した、Δslr0168::NoKASII(-40)Δsll0208/0209::AtFAR1株及びΔslr0168::NoKASII(-40)Δsll0208/0209::AtFAR4株を取得した。
また、同様の方法で、slr0168領域中にNoKASII(-40)遺伝子発現用コンストラクトを導入したΔslr0168::NoKASII(-40)株、並びに、sll0208/0209領域中にAtFAR1遺伝子又はAtFAR4遺伝子を導入したΔsll0208/0209::AtFAR1株及びΔsll0208/0209::AtFAR4株を取得した。
【0141】
試験例3 脂肪族アルコールの製造
試験例2と同様の方法で、作製例4で作製した形質転換体から脂質を抽出した。ガスクロマトグラフ質量分析解析にて脂肪酸メチルエステル及びTMS化脂肪族アルコールの同定を行い、ガスクロマトグラフィー解析により得られた波形データのピーク面積より、各形質転換体の総脂肪族アルコール量に占める各種脂肪族アルコール量の割合(%)を算出した。
ガスクロマトグラフ質量分析解析で得られたクロマトグラフの結果を
図2に示す。また、各形質転換体の総脂肪族アルコール量に占める各種脂肪族アルコール量の割合(%)を算出した結果を表13に示す。
【0142】
【表13】
【0143】
図2及び表13に示すように、シネココッカス・エロンガタスエスピーPCC7942株と同様、シネコシスティス・エスピーPCC6803株においても、NoKASII遺伝子とAtFAR遺伝子を導入することで、炭素原子数が20の鎖長の脂肪族アルコール生産能を付与できた。
【0144】
上記のように、前記KAS遺伝子とFAR遺伝子とを、大腸菌やシアノバクテリアなどの宿主微生物の細胞内で促進させることで、宿主微生物に長鎖脂肪族アルコールの生産能を付与できる。そして、前記遺伝子の発現が促進されていない宿主と比較して、長鎖脂肪族アルコールの生産量が増加傾向にある。このような効果は、前記KAS遺伝子とFAR遺伝子の発現を単独で促進させただけでは得られない。
よって、前記KAS遺伝子とFAR遺伝子の発現を共に促進させることで、長鎖脂肪族アルコールの生産性を獲得した形質転換体、又は長鎖脂肪族アルコールの生産性が向上した形質転換体を作製できる。そしてこの形質転換体を培養することで、長鎖脂肪族アルコールの生産性を向上させることができる。