(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
<ガスセンサの概略構成>
初めに、本実施の形態に係るセンサ素子101を含む、ガスセンサ100の概略構成について説明する。本実施の形態においては、ガスセンサ100が、センサ素子101によってNOxを検知し、その濃度を測定する、限界電流型のNOxセンサである場合を例として説明を行う。
【0021】
図1は、センサ素子101の長手方向に沿った垂直断面図を含む、ガスセンサ100の構成の一例を概略的に示す図である。また、
図2は、
図1のA−A’位置におけるセンサ素子101の長手方向に垂直な断面の概略図である。
【0022】
センサ素子101は、それぞれが酸素イオン伝導性固体電解質であるジルコニア(ZrO
2)からなる(例えばイットリウム安定化ジルコニア(YSZ)などからなる)、第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの固体電解質層が、図面視で下側からこの順に積層された構造を有する、平板状の(長尺板状の)素子である。また、これら6つの層を形成する固体電解質は緻密な気密のものである。なお、以降においては、
図1におけるこれら6つの層のそれぞれの上側の面を単に上面、下側の面を単に下面と称することがある。また、センサ素子101のうち固体電解質からなる部分全体を基体部と総称する。
【0023】
係るセンサ素子101は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工および回路パターンの印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
【0024】
センサ素子101の一先端部であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。
【0025】
ガス導入口10と、緩衝空間12と、第1内部空所20と、第2内部空所40とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されたセンサ素子101内部の空間である。
【0026】
第1拡散律速部11と、第2拡散律速部13と、第3拡散律速部30とはいずれも、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。なお、ガス導入口10から第2内部空所40に至る部位をガス流通部とも称する。
【0027】
また、ガス流通部よりも先端側から遠い位置には、第3基板層3の上面と、スペーサ層5の下面との間であって、側部を第1固体電解質層4の側面で区画される位置に基準ガス導入空間43が設けられている。基準ガス導入空間43には、NOx濃度の測定を行う際の基準ガスとして、例えば大気が導入される。
【0028】
大気導入層48は、多孔質アルミナからなる層であって、大気導入層48には基準ガス導入空間43を通じて基準ガスが導入されるようになっている。また、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。
【0029】
基準電極42は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4とに挟まれる態様にて形成される電極であり、上述のように、その周囲には、基準ガス導入空間43につながる大気導入層48が設けられている。また、後述するように、基準電極42を用いて第1内部空所20内や第2内部空所40内の酸素濃度(酸素分圧)を測定することが可能となっている。
【0030】
ガス流通部において、ガス導入口10は、外部空間に対して開口してなる部位であり、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれるようになっている。
【0031】
第1拡散律速部11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0032】
緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。
【0033】
第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0034】
被測定ガスが、センサ素子101外部から第1内部空所20内まで導入されるにあたって、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によってガス導入口10からセンサ素子101内部に急激に取り込まれた被測定ガスは、直接第1内部空所20へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの濃度変動が打ち消された後、第1内部空所20へ導入されるようになっている。これによって、第1内部空所20へ導入される被測定ガスの濃度変動はほとんど無視できる程度のものとなる。
【0035】
第1内部空所20は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
【0036】
主ポンプセル21は、第1内部空所20に面する第2固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられた天井電極部22aを有する内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6の上面(センサ素子101の一方主面)の天井電極部22aと対応する領域に外部空間に露出する態様にて設けられた外側ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた第2固体電解質層6とによって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。
【0037】
内側ポンプ電極22は、第1内部空所20を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6および第1固体電解質層4)、および、側壁を与えるスペーサ層5にまたがって形成されている。具体的には、第1内部空所20の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成され、そして、それら天井電極部22aと底部電極部22bとを接続するように、側部電極部22c(
図2)が第1内部空所20の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に形成されて、該側部電極部の配設部位においてトンネル形態とされた構造において配設されている。
【0038】
内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23とは、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPtとZrO
2とのサーメット電極)として形成される。なお、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極22は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0039】
主ポンプセル21においては、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に可変電源24によって所望のポンプ電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に正方向あるいは負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20に汲み入れることが可能となっている。
【0040】
また、第1内部空所20における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42によって、電気化学的なセンサセル、すなわち、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80が構成されている。
【0041】
主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80における起電力V0を測定することで第1内部空所20内の酸素濃度(酸素分圧)がわかるようになっている。
【0042】
さらに、起電力V0が一定となるようにVp0をフィードバック制御することでポンプ電流Ip0が制御されている。これにより、第1内部空所内20内の酸素濃度は所定の一定値に保たれるようになっている。
【0043】
第3拡散律速部30は、第1内部空所20で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所40に導く部位である。
【0044】
第2内部空所40は、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定に係る処理を行うための空間として設けられている。NOx濃度の測定は、主として、補助ポンプセル50により酸素濃度が調整された第2内部空所40において、さらに、測定用ポンプセル41が動作することによりなされる。
【0045】
第2内部空所40では、あらかじめ第1内部空所20において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第3拡散律速部を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル50による酸素分圧の調整が行われるようになっている。これにより、第2内部空所40内の酸素濃度を高精度に一定に保つことができるため、係るガスセンサ100においては精度の高いNOx濃度測定が可能となる。
【0046】
補助ポンプセル50は、第2内部空所40に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、センサ素子101と外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層6とによって構成される、補助的な電気化学的ポンプセルである。
【0047】
補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所20内に設けられた内側ポンプ電極22と同様なトンネル形態とされた構造において、第2内部空所40内に配設されている。つまり、第2内部空所40の天井面を与える第2固体電解質層6に対して天井電極部51aが形成され、また、第2内部空所40の底面を与える第1固体電解質層4には、底部電極部51bが形成され、そして、それらの天井電極部51aと底部電極部51bとを連結する側部電極部(図示省略)が、第2内部空所40の側壁を与えるスペーサ層5の両壁面にそれぞれ形成されたトンネル形態の構造となっている。
【0048】
なお、補助ポンプ電極51についても、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0049】
補助ポンプセル50においては、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間に所望の電圧Vp1を印加することにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第2内部空所40内に汲み入れることが可能となっている。
【0050】
また、第2内部空所40内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51と、基準電極42と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81が構成されている。
【0051】
この補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される起電力V1に基づいて電圧制御される可変電源52にて、補助ポンプセル50がポンピングを行う。これにより第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0052】
また、これとともに、そのポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80に入力され、その起電力V0が制御されることにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所40内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
【0053】
測定用ポンプセル41は、第2内部空所40内において、被測定ガス中のNOx濃度の測定を行う。測定用ポンプセル41は、第2内部空所40に面する第1固体電解質層4の上面であって第3拡散律速部30から離間した位置に設けられた測定電極44と、外側ポンプ電極23と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4とによって構成された電気化学的ポンプセルである。
【0054】
測定電極44は、多孔質サーメット電極である。測定電極44は、第2内部空所40内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。さらに、測定電極44は、第4拡散律速部45によって被覆されてなる。
【0055】
第4拡散律速部45は、アルミナ(Al
2O
3)を主成分とする多孔体にて構成される膜である。第4拡散律速部45は、測定電極44に流入するNOxの量を制限する役割を担うとともに、測定電極44の保護膜としても機能する。
【0056】
測定用ポンプセル41においては、測定電極44の周囲の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出することができる。
【0057】
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、測定電極44と、基準電極42とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82が構成されている。測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された起電力V2に基づいて可変電源46が制御される。
【0058】
第2内部空所40内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第4拡散律速部45を通じて測定電極44に到達することとなる。測定電極44の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて(2NO→N
2+O
2)酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定用ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された制御電圧V2が一定となるように可変電源46の電圧Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例するものであるから、測定用ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出されることとなる。
【0059】
また、測定電極44と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と基準電極42を組み合わせて、電気化学的センサセルとして酸素分圧検出手段を構成するようにすれば、測定電極44の周りの雰囲気中のNOx成分の還元によって発生した酸素の量と基準大気に含まれる酸素の量との差に応じた起電力を検出することができ、これによって被測定ガス中のNOx成分の濃度を求めることも可能である。
【0060】
また、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、外側ポンプ電極23と、基準電極42とから電気化学的なセンサセル83が構成されており、このセンサセル83によって得られる起電力Vrefによりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
【0061】
このような構成を有するガスセンサ100においては、主ポンプセル21と補助ポンプセル50とを作動させることによって酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれた被測定ガスが測定用ポンプセル41に与えられる。そして、測定電極44におけるNOxの還元によって発生する酸素が測定用ポンプセル41より汲み出されることによって流れるポンプ電流Ip2が、被測定ガス中のNOxの濃度に略比例することに基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を知ることができるようになっている。
【0062】
<ヒータ部>
センサ素子101は、さらに、基体部を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子101を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部70を備えている。
図3は、ヒータ部70の要部の概略的な平面配置を示す図である。
図4は、
図2と対比するために示す、従来のセンサ素子101の、
図1のA−A’位置に相当する断面の概略図である。
【0063】
ヒータ部70は、ヒータ電極71(71a、71b、71c)と、ヒータエレメント72と、ヒータリード72a(72a1、72a2)と、抵抗検出リード72bと、スルーホール73と、ヒータ絶縁層74とを備えている。ただし、
図3においてはスルーホール73とヒータ絶縁層74とは省略している。ヒータ部70は、ヒータ電極71を除いて、センサ素子101の基体部に埋設されてなる。
【0064】
ヒータ電極71(71a、71b、71c)は、第1基板層1の下面(センサ素子101の他方主面)に接する態様にて形成されてなる電極である。
【0065】
ヒータエレメント72は、第2基板層2と第3基板層3との間に設けられた抵抗発熱体である。ヒータエレメント72は、センサ素子101の外部から
の通電経路であるヒータ電極71、スルーホール73、およびヒータリード72aを通じて給電されること
により発熱する。ヒータエレメント72は、Ptにて、あるいはPtを主成分として、形成されてなる。ヒータエレメント72は、センサ素子101のガス流通部が備わる側の所定範囲に、素子厚み方向においてガス流通部と対向するように埋設されている。
【0066】
ヒータエレメント72の両端に接続された1対のヒータリード(ヒータリード72a1とヒータリード72a2)は、略同一の形状を有するように、つまりは、両者の抵抗値が同じであるように、設けられる。ヒータリード72a1、72a2はそれぞれ、対応するスルーホール73を介して異なるヒータ電極71a、71bと接続されている。
【0067】
さらに、ヒータエレメント72と一方のヒータリード72a2との接続部75から引き出される態様にて、抵抗検出リード72bが設けられている。なお、抵抗検出リード72bの抵抗値は無視できるものとする。抵抗検出リード72bは、対応するスルーホール73を介してヒータ電極71cと接続されている。
【0068】
センサ素子101においては、ヒータ電極71a、71bの間に電流を流し、ヒータエレメント72による加熱を行うことで、センサ素子101の各部を所定の温度に加熱、保温することができるようになっている。具体的には、センサ素子101は、ガス流通部付近の固体電解質の温度が750℃〜950℃程度になるように加熱される。係る加熱によって、センサ素子101において基体部を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性が高められる。
【0069】
ヒータエレメント72の抵抗値(ヒータ抵抗値)R
Hは、ヒータリード72a1とヒータリード72a2の抵抗値が同じであり、抵抗検出リード72bの抵抗値が無視できることから、ヒータ電極71a、71bの間の抵抗値をR
1とし、ヒータ電極71b、71cの間の抵抗値をR
2とした場合、
R
H=R
1−R
2 ・・・・(1)
なる式にて算出される。ヒータ抵抗値は、ヒータエレメント72により加熱を行う際の加熱温度の制御に用いられる。
【0070】
ヒータ絶縁層74は、ヒータエレメント72を覆う態様にて形成されてなる絶縁層である。ヒータ絶縁層74は、第2基板層2とヒータエレメント72との間の電気的絶縁性、および、第3基板層3とヒータエレメント72との間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。ヒータ絶縁層74は、センサ素子101の先端面および側面から200μm〜700μm程度離隔させた位置に設けられる。
【0071】
図1においては図示を省略しているが、
図2に示すように、本実施の形態に係るセンサ素子101においては、係るヒータ絶縁層74が、多孔質部74aと緻密部74bとの2つの部分から構成されてなる。係る構成は、全体が単一の多孔質層として設けられていた、従来のセンサ素子101に備わるヒータ絶縁層74の構成(
図4)とは相違する。多孔質部74aの気孔率は20%〜40%であり、緻密部74bの気孔率は4%以下である。緻密部74bはヒータエレメント72を覆うように設けられおり、その周囲の部分が多孔質部74aとなっている。
【0072】
多孔質部74aと緻密部74bはともに、Al
2O
3(アルミナ)を主成分として90wt%〜99.9wt%の重量比で含んでなる。その他、副成分として、原料粉末中に焼結助剤として含まれていたSiO
2およびMgCO
3に由来するSiの化合物およびMgの化合物を含んでなる。これらSiの化合物およびMgの化合物は、等量ずつ含まれるのが好適である。
【0073】
このような構成を有するヒータ絶縁層74の形成は、多孔質部74aと緻密部74bの形成に用いる材料の条件を違えることにより、実現されてなる。詳細については後述する。
【0074】
なお、本実施の形態において、ヒータ絶縁層74の気孔率は、センサ素子101のヒータ
エレメント72を含む長手方向に垂直な断面につき、研磨したうえでSEMにて撮像し、得られたSEM像を二値化処理することにより、算出するものとする。
【0075】
ヒータ絶縁層74が多孔質部74aと緻密部74bの2つの領域を有するように設けられるのは、センサ素子101の使用時に、アルミナを主成分とするヒータ絶縁層74とジルコニアからなる固体電解質層(特に第2基板層2および第3基板層3)との熱膨張係数差に起因したクラックが発生することを多孔質部74aによって抑制しつつ、ヒータエレメント72を構成するPtがヒータ絶縁層74の気孔内に拡散することを、緻密部74bによって防ぐためである。なお、ジルコニアの熱膨張係数は概ね10〜11(×10
−6/℃)であり、アルミナの熱膨張係数は概ね7〜9(×10
−6/℃)である。
【0076】
すなわち、本実施の形態に係るセンサ素子101においては、ヒータエレメント72の周囲の部分に気孔率が4.0%以下の緻密部74bを設けることで、センサ素子101を継続的に使用した場合にあっても、Ptの拡散に起因したヒータエレメント72の損傷が好適に抑制されている。それゆえ、従来のセンサ素子に比して、長寿命化が実現されてなる。
【0077】
なお、ヒータエレメント72からのPtの拡散の有無は、一定時間使用した後のセンサ素子101のヒータ絶縁層74を実際に露出させ、係る露出したヒータ絶縁層についてSEMなどによる像観察および組成分析を行うことによって直接に確認できるほか、次の(2)式にて算出される、使用前(初期)のヒータ抵抗値R0を基準としたときの使用後のヒータ抵抗値Rの上昇率(抵抗上昇率)からも把握できる。
【0078】
抵抗上昇率(%)=100×(R−R0)/R0 ・・・・(2)
ヒータ抵抗値は、一方のヒータ電極71から他方のヒータ電極71に至るまでのヒータ電流の経路における電気抵抗値であるが、その変動要因は主としてヒータエレメント72からのPtの拡散であることが、あらかじめ確認されている。それゆえ、使用初期と使用後の双方においてヒータ抵抗値を測定し、(2)式にて算出される抵抗上昇率が、所定の閾値を超えているか否かを判断することで、センサ素子101を破壊せずとも、センサ素子101を使用することでヒータエレメント72からPtが拡散しているか否かを判断することができる。
【0079】
具体的には、抵抗上昇率が2%以上である場合に、ヒータエレメント72からPtが拡散していると判断される。本実施の形態に係る、緻密部74bの気孔率が4.0%以下であるセンサ素子101においては、(2)式にて算出される抵抗上昇率が、2%未満に抑制される。
【0080】
また、本実施の形態に係るセンサ素子101においては、緻密部74bの周囲に気孔率が20%〜40%である多孔質部74aを設け、該多孔質部74aが周囲の固体電解質層(第2基板層2および第3基板層3)と隣り合う構成することにより、換言すれば、緻密部74bと固体電解質層とを隣り合わせるのではなく、両者の間に多孔質部74aを介在させた構成とすることにより、使用時の加熱と使用後の冷却という温度サイクルが繰り返される都度、熱膨張係数差に起因してヒータ絶縁層74と固体電解質層(特に第2基板層2および第3基板層3)との間に生じる応力が、多孔質部74aによって緩和されるようになっている。これにより、本実施の形態に係るセンサ素子101においては、係る応力の作用に起因するクラックの発生が、好適に抑制されたものとなっている。すなわち、本実施の形態に係るセンサ素子101は、クラック発生の抑制という観点からも、長寿命化が図られているといえる。
【0081】
より詳細には、ヒータ絶縁層74およびヒータエレメント72は、以下に示す寸法条件をみたすように設けられる。
【0082】
ヒータ絶縁層74の厚みt1:65μm〜235μm;
ヒータエレメント72の厚みt2:15μm〜35μm;
ヒータエレメント72上における多孔質部74aと緻密部74bの積層部分の総厚t3:25μm〜100μm;
積層部分における緻密部74bの厚み(以下、緻密部厚み)t4:5μm以上;
積層部分における厚みの比(緻密部74bの厚み/多孔質部74aの厚み、以下、厚比):0.05〜2.0。
【0083】
以下においては、これらのセンサ素子101各部の寸法に関する条件をセンサ素子寸法条件と総称する。なお、ヒータエレメント72の厚みt2の範囲は、ヒータ抵抗値がセンサ素子101の性能・寿命等の観点から定められる所定の範囲内の値となるようにする、という観点から定められる。また、ヒータ絶縁層74の厚みt1はその内側に存在するヒータエレメント72を含んだ値である。ただし、係る厚みt1は一定である必要はなく、ヒータエレメント72が存在する箇所としない箇所とで異なっていてもよい。
【0084】
なお、緻密部厚みt4は、気孔率の算出に用いるものと同様の、研磨後断面についてのSEM像を用意し、その任意の複数の箇所においてヒータ電極72に垂直な直線を引き、それぞれの直線上におけるヒータ
エレメント72と緻密部74bとの界面から当該界面に最も近い気孔までの距離を測定し、全ての測定値の平均を求めることによって得るものとする。
【0085】
本実施の形態に係るセンサ素子101においては、積層部分の総厚t3、緻密部厚みt4、および厚比に係るセンサ素子寸法条件が充足される場合に、多孔質部74aによる、ヒータ絶縁層74と固体電解質層との熱膨張係数差に起因したクラックの抑制と、緻密部74bによる、ヒータエレメント72を構成するPtのヒータ絶縁層74への拡散抑制との双方が、好適に実現されてなる。
【0086】
<センサ素子の製造プロセス>
次に、上述のような構成および特徴を有するセンサ素子101を製造するプロセスについて説明する。本実施の形態においては、ジルコニアなどの酸素イオン伝導性固体電解質をセラミックス成分として含むグリーンシートからなる積層体を形成し、該積層体を切断・焼成することによってセンサ素子101を作製する。
【0087】
以下においては、
図1に示した6つの層からなるセンサ素子101を作製する場合を例として説明する。係る場合、第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6とに対応する6枚のグリーンシートが用意されることになる。
【0088】
図5は、センサ素子101を作製する際の処理の流れを示す図である。
図6は、ヒータエレメント72とヒータ絶縁層74の形成に係る手順をより詳細に示す図である。
【0089】
センサ素子101を作製する場合、まず、パターンが形成されていないグリーンシートであるブランクシート(図示省略)を用意する(ステップS1)。6つの層からなるセンサ素子101を作製する場合であれば、各層に対応させて6枚のブランクシートが用意される。ブランクシートは、印刷時や積層時の位置決めに用いる複数のシート穴が設けられている。係るシート穴は、パターン形成に先立つブランクシートの段階で、パンチング装置による打ち抜き処理などで、あらかじめ形成されている。なお、対応する層が内部空間を構成するグリーンシートの場合、該内部空間に対応する貫通部も、同様の打ち抜き処理などによってあらかじめ設けられる。また、センサ素子101の各層に対応するそれぞれのブランクシートの厚みは、全て同じである必要はない。
【0090】
各層に対応したブランクシートが用意できると、それぞれのブランクシートに対してパターン印刷・乾燥処理を行う(ステップS2)。パターンや接着剤の印刷には、公知のスクリーン印刷技術を利用可能である。また、印刷後の乾燥処理についても、公知の乾燥手段を利用可能である。
【0091】
例えば、ヒータエレメント72、ヒータリード72a、および抵抗検出リード72
bとなるパターン(以下、ヒータパターン)とヒータ絶縁層74となるパターンの形成についてであれば、
図6に示すように、まず、焼成後に第2基板層2となるブランクシートが、印刷対象として用意される(ステップS21)。なお、印刷を繰り返すことによるブランクシートの変形等を考慮し、あらかじめ第1基板層1となるブランクシートと、第2基板層2となるブランクシートとが積層されたもの(先行積層シート)が、用意される態様であってもよい。
【0092】
これらブランクシートあるいは先行積層シートが用意されると、その上に、ヒータ絶縁層74のうち、第2基板層2に隣り合う多孔質部74aを形成するべく、多孔質部形成用の絶縁ペースト(以下、第1絶縁ペースト)が所定のパターンにて印刷される(ステップS22)。形成しようとする多孔質部74aの厚みによっては、係る印刷が複数回繰り返されてもよい。
【0093】
第1絶縁ペーストによるパターンが印刷されると、続いてその上に、ヒータ絶縁層74のうち、第2基板層2側の緻密部74bを形成するべく、緻密部形成用の絶縁ペースト(以下、第2絶縁ペースト)が所定のパターンにて印刷される(ステップS23)。形成しようとする緻密部74bの厚みによっては、係る印刷が複数回繰り返されてもよい。
【0094】
第2絶縁ペーストによるパターンが印刷されると、続いて、その上に、ヒータパターンを形成するべく、ヒータパターン形成用のペーストが積層印刷される(ステップS24)。なお、ヒータパターンの形成に際しては、形成対象(ヒータエレメント72、ヒータリード72a、および抵抗検出リード72
b)に応じて異なるペーストが使用されてもよい。
【0095】
ヒータパターンが形成されると、続いて、その上に、ヒータ絶縁層74のうち、第3基板層3側の緻密部74bを形成するべく、第2絶縁ペーストが所定のパターンにて再度印刷される(ステップS25)。その際には、先に印刷した緻密部形成用のパターンとの間で、ヒータパターンが隠れるようにする。形成しようとする緻密部74bの厚みによっては、係る印刷が複数回繰り返されてもよい。
【0096】
最後に、ヒータ絶縁層74のうち、第3基板層3に隣り合う多孔質部74aを形成するべく、第1絶縁ペーストが所定のパターンにて再度印刷される(ステップS26)。ヒータパターンおよび緻密部形成用のパターンが存在しない箇所においては、先に印刷した多孔質部形成用のパターンの上に、後から印刷した多孔質部形成用のパターンが重畳することになる。係る印刷についても、形成しようとするヒータ絶縁層74の厚みによっては複数回繰り返されてもよい。
【0097】
第1絶縁ペーストおよび第2絶縁ペーストとしては、あらかじめ主成分たるAl
2O
3と焼結助剤として添加されるSiO
2とMgCO
3とを湿式混合し、その後乾燥させることで得られる無機混合粉末と、あらかじめ溶解させたバインダー成分(分散剤、有機溶媒、ポリビニルブチラール樹脂、および非イオン性界面活性剤)とを混合し、所定の粘度に調整したものが、使用される。
【0098】
その際、緻密部74b形成用の第2絶縁ペーストに用いるAl
2O
3の原料粉末としては、α−アルミナであって、平均粒子径が0.05μm〜0.4μmであり、比表面積が10m
2/g〜30m
2/g程度のものを用いる。係る要件を充足する原料粉末の使用と焼結助剤の存在により、気孔率が4.0%以下と緻密であってPtの拡散が抑制できる緻密部74bを、設けることができる。Al
2O
3の原料粉末が異なる場合、例えばα−アルミナであっても上述の要件を満たさないものや、γ−アルミナやθ−アルミナを主相とする遷移アルミナ等を原料粉末とした場合、Ptの拡散が抑制できる程度に緻密な緻密部74bの形成は難しい。
【0099】
一方、多孔質部74a形成用の第1絶縁ペーストに用いるAl
2O
3の原料粉末には、20%〜40%という気孔率が実現される限りにおいて、第2絶縁ペースト用の原料粉末の要件をみたさないα−アルミナや、遷移アルミナ等を使用可能である。
【0100】
このような、第1絶縁ペーストと第2絶縁ペーストにおける原料粉末の相違が、多孔質部74aと緻密部74bとを有するヒータ絶縁層74を実現している。
【0101】
より詳細には、第1絶縁ペースト、第2絶縁ペースト、およびヒータパターン形成用のペーストによるパターンの形成は、焼成時の収縮を鑑み、最終的に得られるセンサ素子101において、上述したセンサ素子寸法条件が充足される態様にて行われる。その他、種々の電極等のパターン形成についても同様に、最終的に得られるセンサ素子101において形成対象物があらかじめ定められたサイズにて形成される条件にて、行われる。
【0102】
各ブランクシートに対するパターン印刷が終わると、各層に対応するグリーンシート同士を積層・接着するための接着用ペーストの印刷・乾燥処理を行う(ステップS3)。
【0103】
続いて、接着剤が塗布されたグリーンシートを所定の順序に積み重ねて、所定の温度・圧力条件を与えることで圧着させ、一の積層体とする圧着処理を行う(ステップS4)。係る圧着処理によって、ヒータパターンおよびこれを被覆するヒータ絶縁層形成用のパターンが、焼成後に第2基板層2になるグリーンシートと第3基板層3になるグリーンシートに挟み込まれた状態が得られる。
【0104】
具体的には、図示しない所定の積層治具に積層対象となるグリーンシートをシート穴により位置決めしつつ積み重ねて保持し、公知の油圧プレス機などの積層機によって積層治具ごと加熱・加圧することによって行う。加熱・加圧を行う圧力・温度・時間については、用いる積層機にも依存するものであるが、良好な積層が実現できるよう、適宜の条件が定められればよい。
【0105】
上述のようにして積層体が得られると、続いて、係る積層体の複数個所を切断してセンサ素子101個々の単位(素子体と称する)に切り出す(ステップS5)。より詳細には、係る切断は、焼成時の収縮を鑑みつつ、最終的に得られるセンサ素子101が所定の規格をみたすものとなるように、行われる。
【0106】
切り出された素子体を、1300℃〜1500℃程度の焼成温度で焼成する(ステップS6)。これにより、多孔質部74aと緻密部74bとを有するヒータ絶縁層74を含むセンサ素子101が生成される。
【0107】
このようにして得られたセンサ素子101は、所定のハウジングに収容され、ガスセンサ100の本体(図示せず)に組み込まれる。
【0108】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、固体電解質からなる基体部の内部にヒータ部を有する平板状のセンサ素子において、ヒータ絶縁層に気孔率が20%〜40%の多孔質部と気孔率が4.0%以下の緻密部とを設けつつ、上述したセンサ素子寸法条件が充足されるようにする。これにより、係るセンサ素子が継続的に使用され、使用時の加熱と使用後の冷却という温度サイクルが繰り返される場合における、Ptの拡散と、固体電解質層とヒータ絶縁層との熱膨張係数差に起因したクラックの発生とが、好適に抑制される。すなわち、本実施の形態によれば、平板状のセンサ素子の長寿命化が、実現される。
【0109】
<変形例>
上述の実施の形態においては、センサ素子101が、限界電流型のNOxセンサに備わる、直列2室構造型の平板状のセンサ素子である場合を例として説明を行っている。しかしながら、ヒータ絶縁層に多孔質部と緻密部とを設けつつ、センサ素子寸法条件が充足されるようにすることで、センサ素子の長寿命化を図るという態様は、同様の構成を有しかつ他のガス種を検知するセンサ素子はもとより、センサ部とヒータ部とが一体に構成された種々の平板状のセンサ素子に適用が可能である。
【0110】
例えば、3つの内部空所を有する限界電流型のガスセンサに備わるセンサ素子に適用される態様であってもよいし、上述の実施の形態とは内部空所の配置態様が異なるセンサ素子に適用される態様であってもよいし、混成電位型のガスセンサに備わるセンサ素子に適用される態様であってもよい。
【実施例】
【0111】
実施例1〜実施例4として、積層部分の総厚t3、緻密部厚みt4、および厚比の値の組み合わせを素子寸法条件の範囲内で種々に違えた、4種類のセンサ素子101を作製した。それぞれのセンサ素子101について、ヒータ部70による加熱を長時間継続させる耐久試験を行い、試験後の状態を評価した。
【0112】
多孔質部74aの形成に用いる第1絶縁ペースト用のAl
2O
3(アルミナ)は、平均粒径が0.5μm〜1.0μmで、比表面積が70m
2/g〜100m
2/g程度のものとした。一方、緻密部74bの形成に用いる第2絶縁用ペーストのAl
2O
3(アルミナ)は、上述の、α−アルミナであって平均粒子径が0.05μm〜0.4μmであり、比表面積が10m
2/g〜30m
2/g程度である、という要件を満たすものとした。
【0113】
第1絶縁ペーストおよび第2絶縁ペーストの作製はいずれも、次のようにした。まず、容積1Lのポリポット内に主成分たるAl
2O
3の粉末と、焼結助剤たるSiO
2およびMgCO
3の粉末と、溶媒としてのIPAと、Al
2O
3製の玉石とを投入し、該ポリポットを100rpmの回転数にて24時間混合して得られた混合物を乾燥させて、無機混合粉末を得た。係る無機混合粉末と、自動公転攪拌機にて4分間攪拌されることによって溶解されたバインダー成分(分散剤、有機溶媒、ポリビニルブチラール樹脂、および非イオン性界面活性剤)とを、自動公転攪拌機にて15分間、Al
2O
3製の玉石を用いて攪拌・混合することによって、解砕度が50μm以下で、粘度が20〜40Pa・sの絶縁ペーストを得た。なお、いずれの実施例においても、SiO
2およびMgCO
3は等量とした。
【0114】
また、緻密部74bの気孔率は2.0%とし、多孔質部74aの気孔率は31.0%とした。これらは、上述の原料を使用した場合においてそれぞれの値前後の気孔率が得られるときのセンサ素子101の作製条件(素子体の焼成条件)をあらかじめ実験的に特定し、当該条件のもとでセンサ素子101を作製した。具体的には焼成温度を1300℃〜1500℃程度の範囲内で違える所定の焼成プロファイルを実行することにより、上記の気孔率が実現された。
【0115】
なお、ヒータ絶縁層74の気孔率は次のようにして特定した。まず、センサ素子101の長手方向に垂直でかつヒータエレメント72を含む断面を脱粒のないように研磨した面についてSEM像(反射電子像、倍率1000倍、120万画素)を撮像した。係る断面SEM像のうち、多孔質部74aについては面積が2000μm
2以上である2つの領域を、緻密部74bについては面積が300μm
2以上である2つの領域を、それぞれの気孔率算出領域として特定した。多孔質部74a、緻密部74bともに、2つの領域のそれぞれについて画像処理により気孔率を算出し、得られた2つの値の平均値を気孔率とした。
【0116】
画像処理による気孔率の算出は、ソフトウェアとしてImage-Pro Premier 9.2(日本ローパー社製)を使用して行った。具体的には、それぞれの気孔率算出領域について、気孔以外の部分がマスク領域となるように二値化およびマスク画像生成を行い、マスク領域以外の領域について面積比(%)を求め、その値を当該気孔率算出領域についての気孔率とした。
【0117】
また、積層部分の総厚t3、緻密部厚みt4、および厚比については、以下のように違えた。なお、緻密部厚みt4の評価に際しては、倍率が1000倍のSEM像を用い、測定箇所は10箇所とした。
【0118】
t3:25μm、30μm、100μmの3水準;
t4:5μm、12.5μm、15μm、20μmの4水準;
厚比:0.05、1.00、2.00の3水準。
【0119】
耐久試験は、ヒータエレメント72による加熱を900℃で2000時間継続するという条件で行った。係る耐久試験後のセンサ素子101について、クラックの発生有無の確認と、SEM像に基づくヒータ絶縁層74におけるPtの拡散の有無の確認とを行ったほか、試験前後におい
てヒータ抵抗値を測定し、当該測定結果を(2)式に代入することにより試験後における抵抗上昇率を算出した。
【0120】
また、比較例1として、ヒータ絶縁層74を緻密部形成用の第2絶縁ペーストのみを用いて単一層に形成したほかは、実施例1と同じ条件にてセンサ素子101を作製した。ヒータ絶縁層74の気孔率は4.0%とした。
【0121】
一方、比較例2および比較例3として、ヒータ絶縁層74を多孔質部形成用の第1絶縁ペーストのみを用いて単一層に形成することによってセンサ素子101を作製した。比較例2に係るセンサ素子101は、他の条件は実施例1と同じとして作製した。比較例3に係るセンサ素子101は、比較例2に比してヒータ絶縁層74の気孔率が小さくなるように焼成条件を調整したほかは、実施例1と同じ条件にて作製した。
【0122】
さらに、比較例4として、緻密部の厚みt4を、センサ素子寸法条件として規定された範囲の下限値(5μm、実施例2に相当)よりも小さい4μmとしたほかは、実施例1と同じ条件でセンサ素子101を作製した。
【0123】
加えて、比較例5として、多孔質部74aと緻密部74bの積層部分における両者の厚比をセンサ素子寸法条件として規定された範囲の上限値(2.0、実施例3に相当)よりも大きい2.33としたほかは、実施例1と同じ条件でセンサ素子101を作製した。
【0124】
比較例1〜比較例5に係るセンサ素子101についても、実施例1〜実施例4に係るセンサ素子と同様に、ヒータ絶縁層74の気孔率を測定したほか、ヒータ部70による加熱を長時間継続させる耐久試験を行い、試験後の状態を評価した。
【0125】
実施例1〜実施例4のセンサ素子101の形成条件と各種評価結果とを表1に一覧にして示す。また、比較例1〜比較例5のセンサ素子101の形成条件と各種評価結果とを表2に一覧にして示す。なお、表1および表2においてはヒータ絶縁層74を単に「絶縁層」と記載している。
【0126】
【表1】
【0127】
【表2】
【0128】
実施例1〜実施例4のセンサ素子101については、耐久試験後において、クラックの発生とヒータ絶縁層74におけるPtの拡散の双方共に、確認されなかった。また、抵抗上昇率も1.1%以下に留まった。
【0129】
係る結果は、ヒータ絶縁層74を多孔質部74aと緻密部74bにて形成し、かつ、両者の積層部分の総厚t3、緻密部厚みt4、および厚比の全てについて、上述のセンサ素子寸法条件が全て充足されるようにした、センサ素子101においては、Ptの拡散と、ヒータ絶縁層74と固体電解質層(特に第2基板
層2および第3基板層3)との熱膨張係数差に起因したクラックの発生とが好適に抑制されることを、示している。
【0130】
一方、比較例1に係るセンサ素子101は、耐久試験後において、クラックの発生とPtの拡散の双方が確認された。また、抵抗上昇率は2.5%と、2%以上であった。
【0131】
比較例1に係るセンサ素子101にクラックが発生したのは、ヒータ絶縁層74の全体を緻密化層として形成しているために、ヒータ絶縁層74と周囲の固体電解質層(例えば第2基板層2および第3基板層3)との熱膨張係数差に起因する応力が十分に緩和されなかったためであると考えられる。また、ヒータ絶縁層74を緻密化層として形成しているにもかかわらず、Ptが拡散しているのは、形成されたクラックを介した拡散が生じたためであると考えられる。
【0132】
係る比較例1の結果と実施例1〜実施例4の結果とを併せ考えると、上述の実施の形態のように、ヒータ絶縁層74を固体電解質層と隣り合う多孔質部74aとヒータエレメント72の周囲に位置する緻密部74bとの2つの部分にて構成することが、センサ素子101におけるクラックの抑制とPtの拡散の抑制との双方の実現に有効であるといえる。
【0133】
また、比較例2および比較例3に係るセンサ素子101においては、ヒータ絶縁層74の気孔率がそれぞれ、35.1%、5.0%となった。
【0134】
これら比較例2および比較例3に係るセンサ素子101は、耐久試験後においてクラックの発生はみられない点においては実施例1〜実施例4と同様であったが、Ptの拡散が確認され、かつ、抵抗上昇率が2.0%以上となった。
【0135】
係る比較例2および比較例3の結果と実施例1〜実施例4の結果とを併せ考えると、ヒータ絶縁層74の気孔率が4.0%を上回る場合には、Ptの拡散が抑制されないといえる。
【0136】
また、比較例4に係るセンサ素子101においては、実施例1〜実施例4と同様、耐久試験後においてクラックの発生はみられなかったが、Ptの拡散が確認され、抵抗上昇率も2.6%と、2%以上であった。リーク電流の値は実施例1〜実施例9に比して著しく大きい105μAとなった。
【0137】
係る比較例4の結果と実施例1〜実施例4の結果とを併せ考えると、ヒータ絶縁層74を固体電解質層と隣り合う多孔質部74aとヒータエレメント72の周囲に位置する緻密部74bとの2つの部分にて構成したとしても、緻密部74bが5μmよりも薄い場合は、Ptの拡散が抑制されないといえる。
【0138】
さらに、比較例5に係るセンサ素子101においては、耐久試験後において、クラックの発生とPtの拡散の双方が確認された。また、抵抗上昇率は2.7%と、2%以上であった。
【0139】
比較例5に係るセンサ素子101にクラックが発生したのは、ヒータ絶縁層74において緻密部74bが占める割合が大きいために、ヒータ絶縁層74と周囲の固体電解質層(例えば第2基板層2および第3基板層3)との熱膨張係数差に起因する応力が十分に緩和されなかったためであると考えられる。また、ヒータ絶縁層74に緻密部74bを設けているにもかかわらず、Ptが拡散しているのは、形成されたクラックを介した拡散が生じたためであると考えられる。
【0140】
係る比較例5の結果と実施例1〜実施例4の結果とを併せ考えると、上述の実施の形態のように、ヒータ絶縁層74を固体電解質層と隣り合う多孔質部74aとヒータエレメント72の周囲に位置する緻密部74bとの2つの部分にて構成するにあたっては、多孔質部74aと緻密部74bの積層部分における両者の厚比(緻密部74bの厚み/多孔質部74aの厚み)を2.0以下とする必要があるといえる。