特許第6934312号(P6934312)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6934312
(24)【登録日】2021年8月25日
(45)【発行日】2021年9月15日
(54)【発明の名称】ゴム金属積層体およびガスケット
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/06 20060101AFI20210906BHJP
   B32B 15/092 20060101ALI20210906BHJP
   B32B 25/04 20060101ALI20210906BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20210906BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20210906BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20210906BHJP
   F16J 15/12 20060101ALI20210906BHJP
【FI】
   B32B15/06 Z
   B32B15/092
   B32B25/04
   C09J11/04
   C09J11/06
   C09J163/00
   F16J15/12 A
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-74111(P2017-74111)
(22)【出願日】2017年4月4日
(65)【公開番号】特開2018-176435(P2018-176435A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 伸明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 勲
【審査官】 磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−098541(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/011918(WO,A1)
【文献】 特開2004−250463(JP,A)
【文献】 特開2005−226064(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/185956(WO,A1)
【文献】 特開2017−008146(JP,A)
【文献】 特開昭60−127348(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 15/06
B32B 15/092
B32B 25/04
C09J 11/04
C09J 11/06
C09J 163/00
F16J 15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素ゴム部材と金属部材とが接着剤で接着されてなるゴム金属積層体であって、
前記金属部材が、リン酸亜鉛処理、リン酸鉄処理、電気亜鉛めっき、溶融亜鉛めっき、シリコーン化合物、チタン化合物またはジルコニウム化合物を含有する有機系化成剤による処理のいずれかで下地処理されており、
前記接着剤が、エポキシ樹脂、シリカおよびシランカップリング剤を含有し、
前記シランカップリング剤が、アミノシランである
ことを特徴とするゴム金属積層体。
【請求項2】
前記フッ素ゴムが、ポリオール架橋系フッ素ゴムおよびパーオキサイド架橋系フッ素ゴムのいずれかである請求項1に記載のゴム金属積層体。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂およびクレゾールノボラック型エポキシ樹脂のいずれかである請求項1または請求項2に記載のゴム金属積層体。
【請求項4】
前記接着剤の固形分中の各成分の質量比が、エポキシ樹脂:シリカ:シランカップリング剤=10〜98:1〜60:1〜60である請求項1〜3のいずれか1項に記載のゴム金属積層体。
【請求項5】
前記金属部材が鉄またはステンレス鋼からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のゴム金属積層体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のゴム金属積層体からなるガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム金属積層体と当該ゴム金属積層体からなるガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム金属積層ガスケットは、高温の冷却水(LLC、ロングライフクーラント)や冷却水蒸気(LLC蒸気)に浸漬あるいは暴露された場合であっても接着性を示すことができ、高温環境における耐熱性を奏することができるので、自動車用シリンダーヘッドガスケットや自動車の補機類として用いられている。
【0003】
自動車の補機類とは、例えば、カークーラーコンプレッサー用ガスケット、ウォーターポンプ用ガスケットなど冷媒と接触する用途に用いられるガスケット、インテークマニホールド用ガスケット、スロットルボディー用ガスケットなど燃料配管系のガスケット、カムカバー用ガスケット、タイミングベルトカバー用ガスケット、オイルパン用ガスケット、オイルストレーナー用ガスケット、オイルポンプ用ガスケット、ヒーターパイプ用ガスケットなどのエンジン系統に用いられるガスケットのほか、パワーステアリング用ガスケット、ブレーキシム用ガスケット、トランスミッションセパレートプレート用ガスケット、トランスミッションケース用ガスケットなどが挙げられる。
【0004】
自動車業界では、燃費向上のニーズにより、エンジンの効率向上の開発が盛んである。昨今では、エンジン始動時にアイドリングをほとんどしなくてもよい機構やアイドリングストップ機構などが各社で採用されている。更に、エンジンの小型化・軽量化の取り組みも盛んである。エンジンの燃焼室同士も昔と比較してかなり近接し、アルミ材質で製作されている。
【0005】
上記のような流れを受けて、シリンダーヘッドガスケットに要求される性能も変化しつつある。すなわち、シリンダーヘッドガスケットには、高温のLLCに対する耐久性、エンジン燃焼室同士が近接し冷却水が沸騰することによるLLC蒸気に対する耐久性、エンジン自体の温度が高温となったことに対する耐久性がより高いレベルで必要となってきている。
【0006】
メーカー各社は、上記性能を満足させるべく、シリンダーヘッドガスケットの研究開発を行っているものの、全ての性能を高いレベルで同時に満足するものは、いまだ開発されていない。本出願人も従来から種々の改良技術の開発を行ってきた。例えば、特許文献1には、フェノール樹脂またはエポキシ樹脂、シリカまたはハイドロタルサイト類縁化合物およびフッ素ゴム溶液からなる接着剤組成物によって加硫接着されたフッ素ゴム積層ステンレス鋼板が開示されている。また、特許文献2には、フェノール樹脂、ニトリルゴム(NBR)、ホワイトカーボンおよびビニルトリアルコキシシランカップリング剤を含有する接着剤で接着させたニトリルゴムと金属とのゴム金属積層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5152287号公報
【特許文献2】特許第4877380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1のフッ素ゴム積層ステンレス鋼板は、240℃以上の耐熱性の点においてさらなる改善の余地を有するものであった。また、特許文献2のゴム金属積層体は、LLC浸漬時のゴムと金属との密着性においてさらなる改善の余地を有するものであった。
【0009】
本発明は、前記の状況に鑑みてなされたものである。本発明の課題は、高温のLLCに対する耐久性、LLC蒸気に対する耐久性および耐熱性に優れたゴム金属積層体とそれを用いたガスケットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ゴム部材と金属部材との接着剤の組成について、鋭意検討を重ねた。その結果、接着剤がエポキシ樹脂、シリカおよびシランカップリング剤を含有することによって、各成分間の相乗効果によって耐LLC性と耐熱性が共に改善されることを見出した。すなわち、本発明は以下のような構成を有している。
【0011】
本発明のゴム金属積層体は、ゴム部材と金属部材とが接着剤で接着されてなるゴム金属積層体であって、前記接着剤が、エポキシ樹脂、シリカおよびシランカップリング剤を含有することを特徴としている。
また、前記接着剤の固形分中の各成分の質量比が、エポキシ樹脂:シリカ:シランカップリング剤=10〜98:1〜60:1〜60であることが好ましい。また、前記金属部材の接着面が下地処理されていることが好ましい。また、前記金属部材が鉄またはステンレス鋼からなり、前記ゴム部材がフッ素ゴムからなることが好ましい。
また、本発明のガスケットは、前記ゴム金属積層体からなるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のゴム金属積層体およびガスケットは、高温のLLCに対する耐久性、LLC蒸気に対する耐久性および耐熱性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、本発明の範囲は、以下に説明する実施形態に限定されるわけではない。
【0014】
本発明に係るゴム金属積層体は、ゴム部材と金属部材とが接着剤によって接着されている。ゴム部材は、金属部材の片面に接着されていてもよいし、両面に接着されていてもよい。
【0015】
(金属部材)
本発明において金属部材とは、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、銅等からなる。これらの中では、鉄またはステンレス鋼が好ましく用いられる。鉄は、特に限定されないが、冷間圧延鋼板(SPCC)、高張力鋼板、軟鋼板等が使用される。また、ステンレス鋼は、フェライト系、マルテンサイト系、オーステナイト系等を用いることができ、具体的には、SUS304、SUS301、SUS301H、SUS430等が好ましく使用される。アルミニウムは、アルミニウム板、アルミニウムダイキャスト板等が用いられる。金属部材は、アルカリ脱脂処理やスコッチブライト(登録商標)等の不織布表面処理材を用いて処理を行い、表面の洗浄度を向上させてから使用することが好ましい。金属部材の板厚は、ガスケット用途の場合であれば、通常、0.1〜2mm程度のものが好ましく用いられる。
【0016】
金属部材は、接着剤との接着面が下地処理(表面処理)されていることが好ましい。下地処理の方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。金属部材として冷間圧延鋼板、高張力鋼板等の鉄やステンレス鋼を用いるとき、下地処理の方法としては、リン酸亜鉛処理、リン酸鉄処理等の化成処理法や、電気亜鉛めっき、溶融亜鉛めっき等のめっき法が好ましい。また、金属部材の化成処理剤としては、シリコーン化合物、チタン化合物、ジルコニウム化合物等を含有する有機系の化成処理剤が好ましく用いられる。このとき、クロムを含有する化成処理剤は環境汚染が問題となるため、クロムを実質的に含まないクロムフリーの化成処理剤が好ましい。
【0017】
金属部材の化成処理剤による下地処理は、噴霧、浸漬、刷毛塗り、ロールコーター等の公知の塗工方法によって化成処理剤を金属部材上に塗工することによって行われる。塗工量は、乾燥・焼付け処理後に、片面10〜1000mg/mとなるように塗工することが好ましく、片面100〜500mg/mとなるように塗工することがより好ましい。化成処理剤の塗工後、約100〜250℃で約0.5〜20分間程度乾燥・焼付け処理が施されて、化成処理剤が固着される。
【0018】
(接着剤)
ゴム部材と金属部材との接着剤は、エポキシ樹脂、シリカおよびシランカップリング剤を含有している。以下、接着剤の各成分について説明する。
【0019】
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂は、フッ素ゴム等との密着性に寄与する成分である。エポキシ樹脂は、ビスフェノールA型、クレゾールノボラック型、ビフェニル型、臭素化エポキシ樹脂などから選択して使用される。これらのエポキシ樹脂のうち、いずれか1種を使用してもよいし、2種以上を併用して使用しても構わない。これらのエポキシ樹脂のうち、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とクレゾールノボラック型エポキシ樹脂は、市販品の入手が容易であることや耐熱性に優れていることから好ましい。ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、EPICLON 860、EPICLON 1055、EPICON 2050、EPICLON 3050、EPICLON 4050、EPICLON 7050、EPICLON HM-091(いずれもDIC社製)などが挙げられる。また、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、EPICLON N-660、EPICLON N-670、EPICLON N-680、EPICLON N-690(いずれもDIC社製)などが挙げられる。
【0020】
本発明者らの検討によると、エポキシ樹脂に代えて、後記するフェノール樹脂を接着剤の主たる樹脂成分として使用すると、フェノール樹脂の耐熱性が低いため、加熱時にフェノール樹脂が、脆化・分解し、接着剤とゴム部材の境界部分で剥離してしまうことが分かった。接着剤の主たる樹脂成分としてエポキシ樹脂を使用することによって、接着剤の耐熱性を向上させることが可能となった。
【0021】
(シリカ)
シリカは、シリカ表面のシラノール基がLLCやLLC蒸気をトラップするため、LLCやLLC蒸気がゴム層を通過して接着剤や金属部材の下地にダメージを与えることを抑制し、接着剤の耐水性を向上させることに寄与する成分である。シリカの具体例としては、コロイダルシリカ、気相法シリカ、オルガノシリカゾルなどが挙げられる。これらの中では、使用される処理液中の分散性の観点から、オルガノシリカゾルが好ましい。オルガノシリカゾルの市販品としては、例えば、メタノールシリカゾル(メタノール中に分散したもの)、スノーテックスIPA-ST(イソプロピルアルコール中に分散したもの)、スノーテックスEG-ST(エチレングリコール中に分散したもの)、スノーテックスMEK-ST(メチルエチルケトン中に分散したもの)、スノーテックスMIBK-ST(メチルイソブチルケトン中に分散したもの)(いずれも日産化学工業社製)などが挙げられる。コロイダルシリカの市販品としては、例えば、スノーテックスC、スノーテックスO、スノーテックスN、スノーテックスS、スノーテックスUP、スノーテックスPS-M、スノーテックスPS―L、スノーテックス20、スノーテックス40(いずれも日産化学工業社製)などが挙げられる。また、気相法シリカの市販品としては、例えば、アエロジル50、アエロジル130、アエロジル200、アエロジル300、アエロジル380、アエロジルTT600、アエロジルM0Z80、アエロジルM0Z170(いずれも日本アエロジル社製)などが挙げられる。
【0022】
(シランカップリング剤)
シランカップリング剤は、接着剤中のエポキシ樹脂と金属部材の下地処理との反応を促進させて、接着剤の耐水性、耐熱性、密着性を向上させる成分である。また、シリカとゴム部材との界面にシランカップリング剤が作用し、接着剤とゴム部材との密着性を向上させる成分でもある。シランカップリング剤としては、市販品であれば特に限定されないが、エポキシシラン、アミノシラン、ウレイドシラン、メルカプトシラン、イソシアネートシランが好ましく、より強固な反応が期待できるエポキシシラン、アミノシランがより好ましい。エポキシシランの市販品としては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(モメンティブパフォーマンス社製A-187)、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(モメンティブパフォーマンス社製A-1871)等が挙げられる。アミノシランの市販品としては、例えば、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン(A-1100)、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン(A-1110)、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン(A-1120)(いずれもモメンティブパフォーマンス社製)等が挙げられる。
【0023】
接着剤中の上記各成分の質量比は、接着剤の固形分中の質量比として、エポキシ樹脂:シリカ:シランカップリング剤=10〜98:1〜60:1〜60であることが好ましい。前記の質量比の範囲外であると、接着剤の安定性が低くなり、使用することが困難となる。エポキシ樹脂:シリカ:シランカップリング剤=20〜90:1〜50:1〜50であることがより好ましい。
【0024】
接着剤には、上記の3成分以外に、発明の効果を阻害しない範囲内で、フェノール樹脂、ゴム成分、エポキシ樹脂の硬化促進剤等を少量添加してもよい。
【0025】
フェノール樹脂は、エポキシ樹脂の硬化剤として有用であると共に、ゴム部材がニトリルゴムの場合は、接着性向上に寄与する成分である。ガスケットの製作工程の都合や積層するゴムタイプに応じて、フェノール樹脂を添加するか否かを判断すればよい。フェノール樹脂としては、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂を単独で使用してもよいし、併用してもよい。
【0026】
ノボラック型フェノール樹脂は、フェノール、p-クレゾール、m-クレゾール、p-第3ブチルフェノール、p-フェニルフェノール、ビスフェノールA等のフェノール性水酸基に対してo位および/またはp位に2個または3個の置換可能な水素原子を有するフェノール類またはこれらの混合物と、ホルムアルデヒドとを、塩酸、シュウ酸等の酸触媒の存在下において、縮合反応させることによって得ることができる。フェノール樹脂の軟化点は、約80〜150℃であることが好ましい。ノボラック型フェノール樹脂としては、m-クレゾールとp-クレゾールの混合物とホルムアルデヒドとから製造された軟化点100℃以上のフェノール樹脂がより好ましい。レゾール型フェノール樹脂は、上記の縮合反応を水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化マグネシウム、アンモニア等のアルカリ触媒の存在下で反応させることによって得ることができる。
【0027】
また、未架橋のゴム成分を添加すると、フェノール樹脂とゴム部材との相溶性が向上し、より高い密着性が期待できる。未架橋のゴム成分としては、熱処理されていないゴムが使用される。
【0028】
エポキシ樹脂の硬化促進剤は、ガスケットの製造時間をより短縮したいときに添加される。エポキシ樹脂の硬化促進剤としては、イミダゾール化合物(例えば、四国化成社製2E4MZ)、第3アミン化合物(例えば、サンアプロ社製DBU)等を使用することができる。
【0029】
上記の各成分を含有する接着剤は、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系有機溶媒またはこれらの混合溶媒を用いて、固形分濃度が約1〜10質量%の接着剤溶液として調製される。その後、金属部材の化成処理剤による下地処理のときと同様に、接着剤溶液は金属部材上に塗工される。塗工量は、乾燥・焼付け処理後に、片面で50〜2000mg/mとなるように塗工することが好ましい。接着剤溶液の塗工後、約100〜250℃で約1〜20分間程度乾燥・焼付け処理が施されて、接着剤層が形成される。
【0030】
(ゴム部材)
ゴム部材は、特に限定されないが、自動車用シリンダーヘッドガスケットや自動車の補機類等の用途に使用するときは、フッ素ゴムまたはニトリルゴムからなることが好ましく、フッ素ゴムからなることがより好ましい。ゴム部材は架橋させることによって、より優れた耐LLC性、耐熱性、密着性を発揮することができる。
【0031】
フッ素ゴムとしては、ポリオール架橋系フッ素ゴムおよびパーオキサイド架橋系フッ素ゴムのいずれのタイプのフッ素ゴムも使用することができる。
【0032】
ポリオール架橋系フッ素ゴムとしては、例えば、フッ化ビニリデンと他の含フッ素オレフィン、例えばヘキサフロオロプロペン、ペンタフルオロプロペン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロクロロエチレン、フッ化ビニル、パーフロオロ(メチルビニルエーテル)等の少なくとも1種との共重合体、含フッ素オレフィンとプロピレンとの共重合体などが挙げられる。これらのフッ素ゴムは、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン、ヒドロキノン等のポリヒドロキシ芳香族化合物によってポリオール架橋される。
【0033】
また、パーオキサイド架橋系フッ素ゴムとしては、例えば、分子中にヨウ素および/または臭素を有するフッ素ゴムなどが挙げられる。これらのフッ素ゴムは一般に、有機過酸化物によって架橋される。有機過酸化物によって架橋する場合は、有機過酸化物とともに、トリアリルイソシアヌレートによって代表される多官能性不飽和化合物を架橋促進剤として併用することが望ましい。
【0034】
未架橋のフッ素ゴムコンパウンドとしては、例えば下記のような配合例が示される。
<フッ素ゴムコンパウンドの配合例1>
フッ素ゴム(デュポン社製、バイトンE45) 100質量部
メタケイ酸カルシウム 40質量部
MTカーボンブラック 2質量部
酸化マグネシウム(協和化学社製、マグネシア#150) 6質量部
水酸化カルシウム 3質量部
架橋剤(デュポン社製、キュラティブ#30) 2質量部
架橋促進剤(デュポン社製、キュラティブ#20) 1質量部
【0035】
<フッ素ゴムコンパウンドの配合例2>
フッ素ゴム(デュポン社製、バイトンE60C) 100質量部
MTカーボンブラック 30質量部
酸化マグネシウム(協和化学社製、マグネシア#150) 10質量部
架橋剤(デュポン社製、ダイアックNo.3) 3質量部
【0036】
<フッ素ゴムコンパウンドの配合例3>
フッ素ゴム(ダイキン社製、ダイエルG901) 100質量部
メタケイ酸カルシウム 20質量部
MTカーボンブラック 20質量部
酸化マグネシウム(協和化学社製、マグネシア#150) 6質量部
水酸化カルシウム 3質量部
トリアリルイソシアヌレート 1.8質量部
有機過酸化物(日本油脂社製、パーヘキサ25B) 0.8質量部
【0037】
配合例1〜3で示されたフッ素ゴムコンパウンドを有機溶剤に溶解させて得られたフッ素ゴム溶液は、既存のロールコーターやナイフコーターを用いて、形成された接着剤層上に塗工される。その後、60℃×30分間程度で乾燥させ、約200〜240℃で約20〜120秒間程度加圧架橋して、フッ素ゴムからなるゴム部材を形成する。
【0038】
フッ素ゴムコンパウンドを溶解させる有機溶剤としては、フッ素ゴムを溶解できれば特に制限されないが、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系有機溶剤が好ましい。また、フッ素ゴム溶液は、塗工性を考慮して、全溶液に対してフッ素ゴムコンパウンドの固形分濃度が15〜25質量%程度となるように調製する。また、シリンダーヘッドガスケット用途を想定した場合、架橋後のゴム部材は、厚さが10〜199μm程度となるように調製する。
【0039】
本発明に係るゴム金属積層体は、ゴム部材と金属部材との接着において、エポキシ樹脂、シリカおよびシランカップリング剤を含有する接着剤を用いることによって、150℃以上の高温のLLCやLLC蒸気に対する耐久性と、240℃を超える温度域でも使用可能な耐熱性を有したものとなる。これらの優れた耐久性能を生かして、本発明のゴム金属積層体から、自動車用シリンダーヘッドガスケットや自動車の補機類としても使用可能なガスケットを得ることができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を用いて、本発明をより詳細に説明する。
(実施例1〜6、比較例1〜3)
[試料の作成方法]
アルカリ脱脂処理したステンレス鋼板(SUS301、厚さ0.2mm)上に、下記組成からなる下地処理剤を、ロールコーターを用いて塗布し、その後、200℃で、3分間乾燥・焼付け処理を施して、片面300mg/mの下地被膜を形成した。
【0041】
<下地処理剤>
フッ素非含有チタン化合物(マツモトファインケミカル社製、オルガチックスTC-300;チタンラクテートアンモニウム塩、チタン含有量6.5質量%)90質量%、
アルミナゾル(日産化学工業社製、アルミナゾル-200;アルミナ含有量10質量%)10質量%
【0042】
次に、表1に示す組成の接着剤成分を、メチルエチルケトンに溶解し、固形分濃度が5質量%となるように接着剤溶液を調製した。原料として用いた各成分は下記の通りである。
ビスフェノールA型エポキシ樹脂:DIC社製 EPICLON 860
シリカ:オルガノシリカゾル、日産化学工業社製、メタノールシリカゾル
シランカップリング剤:アミノシラン、モメンティブパフォーマンス社製A-1100
【0043】
調製した接着剤溶液を、ロールコーターを用いて、下地被膜を形成したステンレス鋼板上に塗工した。塗工後、室温で乾燥させた後、220℃で5分間の焼付け処理を行い、接着剤層を形成した。形成された接着剤層は、片面で1000mg/mであった。
【0044】
次に、前記した配合例1〜3で示すフッ素ゴムコンパウンドを、メチルエチルケトンで溶解し、フッ素ゴムコンパウンドの固形分濃度が25質量%となるように、フッ素ゴム溶液を調製した。調製したフッ素ゴム溶液を、ロールコーターを用いて、接着剤層の上に塗工した。塗工後、60℃で15分間乾燥させて、片面で25μm厚さの未加硫ゴム部材を形成した。その後、220℃、60kgf/cm(5.88MPa)、2分間の条件で加圧架橋を行って、ゴム金属積層体を作製した。
【0045】
【表1】
【0046】
得られたゴム金属積層体について、以下の内容の評価試験を行った。その評価結果を表1に示した。
【0047】
(LLC半浸漬試験)
LLC液(日本ケミカル社製、JCC310)の50質量%水溶液中に、ゴム金属積層体の垂直方向下部を半分のみ浸漬させて、150℃で100時間経過させた後、JIS K6894:2014に規定された描画試験を用いて、サンプル表面に半径4.5mmの螺旋を25回描き、下記の基準にて評価した。評価は、蒸気部(未浸漬部)と浸漬部とに分けて行った。
<評価基準>
5点:ゴム層が完全に残存している
4点:ゴム層が一部脱落している
3点:ゴム層の約半分が脱落している
2点:ゴム層がわずかに残存している
1点:ゴム層が完全に脱落している
【0048】
(耐熱性試験)
240℃に一定に保たれた恒温槽内で、500hr暴露放置したサンプルについて、JIS K5600:2006に規定される碁盤目試験を実施した。碁盤目試験は、サンプルに対し、縦横隙間間隔2mmとなるよう切り傷を付け、碁盤目の升目が合計100個となるように行った。粘着テープを升目上にしっかりと貼り付け、サンプルを動かないように固定する。粘着テープの端部を持ち、勢いよく、サンプルと粘着テープを引き剥がした。引き剥がした後のサンプルについて、下記の基準に従って評価した。
<評価基準>
(1)ゴムが残っている升目を数えた。
(2)1升目の中で、少しでもゴムが剥がれていた場合、剥がれありとして数えた
(3)残存数/100枡で評価し、残存数が少ないほど、密着性が悪いことを示す。
(4)全てのゴムが剥がれた場合は、0/100と示され、全く剥がれなかった場合は、100/100と示される。
【0049】
実施例1〜6は、LLC半浸漬試験および耐熱性試験において、いずれも優れた性能を有しており、高温のLLCに対する耐久性、LLC蒸気に対する耐久性および耐熱性に優れていた。比較例1は、接着剤にシランカップリング剤を添加していないものであるが、LLC蒸気に対する耐久性および耐熱性において、やや性能の低下が認められた。比較例2は、接着剤にシリカを添加していないものであるが、LLC半浸漬試験において性能が大きく低下した。比較例3は、接着剤にエポキシ樹脂を添加していないものであるが、ゴムとの密着性が著しく低下し、LLC半浸漬試験および耐熱性試験において性能が大きく低下した。