(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
現在、例えば、携帯型ガス検知器のある種のものにおいては、ガス検知部に被検ガスを導入するための手段として、例えばダイヤフラムポンプが利用されている。ダイヤフラムポンプにあっては、通常、ダイヤフラムによって形成されるポンプ室と連通する吸入流路および吐出流路の各々に、一方向の流体流を許容しその逆方向の流体流を禁止する逆止弁構造が採用されている。
【0003】
このようなダイヤフラムポンプにおいては、小型のものとして構成されることが望まれており、逆止弁構造を構成する逆止弁としては、例えば
図15に示すように、片持ち支持構造の弁体を備えた薄膜状のものが好適に用いられている。この逆止弁90は、固定部91と、先端部が自由端とされかつ基端部が固定部91に片持ち状に支持された弁体95とを備えている。弁体95は、基端が固定部91に連続する例えば平板状の連結部97と、連結部97の先端に連続する流体の流路を閉塞する例えば円板状の流路開閉部96とを有する。92は切り欠きである。
このような片持ち支持構造の弁体を備えた逆止弁は、例えば特許文献1に記載されている。
【0004】
このような逆止弁90による逆止弁構造においては、例えば
図16に示すように、ダイヤフラム(図示せず)の容積変化(膨張)によって、吸入流路Rの出口に形成された弁座100に密着する弁体95が弾性的に変形され、吸入流路Rが開放される。これにより、
外部から流体(
図16において白抜きの矢印で示す。)が吸入されてポンプ室Prに導入される。このとき、吐出流路の逆止弁構造においては、弁体が弁座に密着して吐出流路が閉塞された状態とされる。
一方、流体がポンプ室Prから吐出される際には、ダイヤフラムの容積変化(収縮)によって、ポンプ室Prからの吐出流路の出口に形成された弁座に密着する弁体が弾性的に変形される。これにより、吐出流路が開放されて流体が外部に吐出される。このとき、吸入流路Rの逆止弁構造においては、弁体95が弁座100に密着して吸入流路Rが閉塞された状態とされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
而して、片持ち支持構造の弁体を備えた逆止弁による逆止弁構造においては、流量特性が安定せず、製品毎の流量特性のバラツキが大きいという問題が生ずることが判明した。このような問題は、ダイヤフラムポンプが低温環境で使用される場合(低温の流体が吸引吐出される場合)において特に顕著に生ずる。
【0007】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、安定した流量特性を得ることのできるダイヤフラムポンプおよび当該ダイヤフラムポンプに好適に利用される逆止弁構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の逆止弁構造は、第一空間から第二空間へ向かう流体の流れを許容し、その逆方向への流体の流れを禁止する逆止弁構造において、
前記第一空間と連通する連通路を有し、当該連通路の出口に弁座部が形成された第一の弁保持部材と、当該第一の弁保持部材に対接されて設けられた、前記弁座部に対向する位置に前記第二空間と連通する弁室が形成された第二の弁保持部材と、先端部が自由端とされかつ基端部が前記第一の弁保持部材と前記第二の弁保持部材とによって狭持保持される固定部に片持ち状に支持された弁体を有する薄膜状の逆止弁とを備えており、
前記弁体
は、前記連通路を閉塞する流路開閉部と、前記流路開閉部の先端部に形成され当該流路開閉部に連続して外方に突出して延びる片状突出部とを有し、
当該片状突出部の少なくとも弁室側の面に
常時当接して当該弁体の可動範囲を制限する支持部が、前記第二の弁保持部材に形成
され、
前記弁体は、前記連通路が開閉されるに際して前記片状突出部が前記支持部に対して前記弁体の長さ方向に摺動されるよう構成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明のダイヤフラムポンプは、ポンプ室の内面の一部を画成する弾性変形可能なダイヤフラムと、
各々前記ポンプ室と連通する吸入側連通路および吐出側連通路を有し、当該吐出側連通路の出口に吐出側弁座部が形成されると共に当該吸入側連通路の入口に吸入側弁室が形成された、前記ダイヤフラムと共に前記ポンプ室を画成するポンプ室画成部材と、
当該ポンプ室画成部材に対接されて設けられた、前記吐出側弁座部に対向する位置に外部への吐出流路と連通する吐出側弁室が形成されると共に前記吸入側弁室に対向する位置に開口する外部からの吸入流路の出口に吸入側弁座部が形成されたポンプヘッドと、
各々先端部が自由端とされかつ基端部が前記ポンプ室画成部材と前記ポンプヘッドとによって狭持保持される固定部に片持ち状に支持された吸入側弁体および吐出側弁体を有する薄膜状の逆止弁と
を備えており、
前記吸入側弁体および前記吐出側弁体の各々
は、前記吸入側連通路または吐出側連通路を閉塞する流路開閉部と、前記流路開閉部の先端部に形成され当該流路開閉部に連続して外方に突出して延びる片状突出部とを有し、
前記吸入側弁体における片状突出部の少なくとも吸入側弁室側の面に
常時当接して当該吸入側弁体の可動範囲を制限する支持部が前記ポンプ室画成部材に形成されていると共に、前記吐出側弁体における片状突出部の少なくとも吐出側弁室側の面に
常時当接して当該吐出側弁体の可動範囲を制限する支持部が前記ポンプヘッドに形成され
、
前記吸入側弁体および前記吐出側弁体の各々は、前記吸入側連通路および吐出側連通路が開閉されるに際して前記片状突出部が前記支持部に対して前記弁体の長さ方向に摺動されるよう構成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明のダイヤフラムポンプにおいては、前記吸入側弁体および前記吐出側弁体は、基端部が互いに逆側に位置された状態で並設されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の逆止弁構造によれば、片持ち支持構造の弁体の自由端とされた先端部に形成された片状突出部が第二の弁体保持部材に形成された支持部に当接されていることにより、弁体の弾性的な変形によって流路が開閉されるに際して当該弁体の先端部が摺動するよう動作される。このため、弁体の動作を安定させることができる。
従って、このような逆止弁構造が採用されたダイヤフラムポンプによれば、安定した流量特性を得ることができて、製品毎の流量特性のバラツキを小さくすることができる。特に、ダイヤフラムポンプが低温環境下で使用される場合(低温の流体が吸引吐出される場合)に極めて有用なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の逆止弁構造の一例における構成を概略的に示す断面図である。
【
図2】
図1に示す逆止弁構造における流路が開放された状態を示す断面図である。
【
図3】本発明のダイヤフラムポンプの一例における構成を概略的に示す断面図である。
【
図4】
図3に示すダイヤフラムポンプにおける吸入流路の逆止弁構造を概略的に示す拡大断面図である。
【
図5】
図3に示すダイヤフラムポンプにおける吐出流路の逆止弁構造を概略的に示す拡大断面図である。
【
図6】
図3に示すダイヤフラムポンプにおけるポンプ部を構成するポンプ室画成部材の構成を示す平面図である。
【
図8】
図3に示すダイヤフラムポンプにおけるポンプ部を構成するポンプヘッドの構成を示す底面図である。
【
図9】逆止弁の一例における構成を示す図であって、(a)平面図、(b)(a)におけるB−B線断面図、(c)(a)におけるC−C線断面図である。
【
図10】
図3に示すダイヤフラムポンプにおけるダイヤフラム駆動機構の構成を概略的に示す断面図である。
【
図11】吸入流路の逆止弁構造において、吸入流路が開放された状態を概略的に示す断面図である。
【
図12】実験例において作製したポンプの流量特性を測定するための実験装置の構成を概略的に示す観念図である。
【
図13】実験例において作製した各々のポンプの、50℃の試験用ガスについての流量特性を示すグラフである。
【
図14】実験例において作製した各々のポンプの、−20℃の試験用ガスについての流量特性を示すグラフである。
【
図15】従来のダイヤフラムポンプの逆止弁構造において用いられる逆止弁の一構成例を示す図であって、(a)平面図、(b)D−D線断面図、(c)E−E線断面図である。
【
図16】吸入流路の逆止弁構造において、吸入流路が開放された状態を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
〔逆止弁構造〕
図1は、本発明の逆止弁構造の一例における構成を概略的に示す断面図である。
この例の逆止弁構造は、第一の弁保持部材10と、第二の弁保持部材15と、第一の弁保持部材10と第二の弁保持部材15との間に設けられた薄膜状の逆止弁20とを備えており、第一空間S1から第二空間S2へ向かう流体の流れを許容し、その逆方向への流体の流れを禁止する構成とされている。
【0015】
第一の弁保持部材10は、第一空間S1と連通する連通路11を有している。この例における第一の弁保持部材10においては、逆止弁20が配置される一面に凹所12が形成されており、当該凹所12内において、例えば円筒状の弁座部13が連通路11の出口の周囲を囲むよう形成されている。
【0016】
第二の弁保持部材15は、逆止弁20を介して第一の弁保持部材10に対接されて設けられている。第二の弁保持部材15における第一の弁保持部材10が対接される他面には、第二空間S2と連通孔16を介して連通する弁室17が、第一の弁保持部材10における弁座部13に対向する位置に形成されている。
【0017】
逆止弁20は、シート状基材に切り欠きが形成されることにより片持ち支持構造の弁体25が形成されて構成されている。この逆止弁20は、第一の弁保持部材10と第二の弁保持部材15とによって狭持保持される固定部21と、先端部が自由端とされかつ基端部が固定部21に片持ち状に支持された弁体25とを有する。22は切り欠きである。
弁体25は、第一の弁保持部材10における弁座部13のシート面に密着されて連通路11を閉塞する例えば円板状の流路開閉部26を備えている。流路開閉部26は、幅寸法が当該流路開閉部26の直径より小さい例えば平板状の連結部27を介して固定部21に連結されている。
【0018】
逆止弁20を構成する材料としては、例えばEPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)やクロロプレンゴムなどの低温特性(耐寒性)に優れたゴム材料を用いることができる。
【0019】
而して、上記の逆止弁構造において用いられる逆止弁20には、弁体25の先端部に、流路開閉部26に連続して外方に突出して延びる片状突出部28が形成されている。そして、当該片状突出部28の少なくとも弁室17側の面に当接して弁体25の可動範囲を制限する支持部18が第二の弁保持部材15に形成されている。
この例においては、片状突出部28は流路閉塞部26の先端に形成された構成とされているが、片状突出部28が形成される位置は流路閉塞部26の先端に限定されない。また、片状突出部28の形状は特に限定されるものではなく、複数の片状突出部28が形成されていてもよい。さらにまた、弁体25における片状突出部28の両面の各々に、第一の弁保持部材10および第二の弁保持部材15が当接して片状突出部28が支持された状態とされているが、少なくとも片状突出部28の少なくとも弁室17側の面が支持されていればよい。
【0020】
上記の逆止弁構造においては、
図2に示すように、流体(
図2において白抜きの矢印で示す。)が第一空間S1から連通路11を介して流入されると、弁座部13のシート面に密着する弁体25が例えば流体の圧力によって弾性的に変形されて流路が開放される。このとき、少なくとも第二の弁体保持部材15における支持部18が弁体25における片状突出部28の弁室17側の面に当接されて当該片状突出部28が支持されているため、自由端とされた弁体25の先端部は、弁体25の変形に伴って第一の弁保持部材10および第二の弁保持部材15間において弁体25の長さ方向に摺動される。従って、この逆止弁構造においては、弁体25の可動範囲が制限された状態で、流路が開放されることとなり、弁体25の動作を安定させることができる。このため、第二空間S2に導入される流体の流量特性を安定させることができる。一方、第一空間S1からの流体の流入が停止されると、逆止弁20自体の弾性によって弁体25の先端部が摺動されながら移動され、弁体25における流路開閉部26が弁座部13のシート面に密着して流路が閉塞された状態とされる。
【0021】
以下、上記の逆止弁構造をダイヤフラムポンプに適用した具体例について説明する。
【0022】
〔ダイヤフラムポンプ〕
図3は、本発明のダイヤフラムポンプの一例における構成を概略的に示す断面図である。
図4は、
図3に示すダイヤフラムポンプにおける吸入流路の逆止弁構造を概略的に示す拡大断面図である。
図5は、
図3に示すダイヤフラムポンプにおける吐出流路の逆止弁構造を概略的に示す拡大断面図である。以下においては、便宜上、
図3における上下方向を「高さ方向」、左右方向を「長さ方向」というが、ダイヤフラムポンプの使用形態等を限定するものではない。
このダイヤフラムポンプは、ダイヤフラム31を備えたポンプ部30と、ダイヤフラム31を駆動する駆動部60とにより構成されている。
【0023】
ポンプ部30は、外力の作用により容積が膨張収縮されるポンプ室Prの内面の一部を画成する弾性変形可能なダイヤフラム31と、ダイヤフラム31と共にポンプ室Prを画成するポンプ室画成部材40と、ポンプ室画成部材40に対接されて設けられた、管状の吸入部51aおよび管状の吐出部51bを有するポンプヘッド50と、ポンプ室画成部材40とポンプヘッド50との間に設けられた薄膜状の逆止弁20aとを備えている。
【0024】
ダイヤフラム31は、一方向(高さ方向)に延びる駆動ロッド75が設けられた例えば円錐台状の本体部32と、本体部32の周縁部分において周方向の全周に伸びるよう形成された径方向外方に突出する鍔部33とを有しており、鍔部33がポンプ室画成部材40と後述する駆動部60を構成するケーシング部材61とによって狭持されて保持されている。
【0025】
ダイヤフラム31を構成する材料としては、例えば、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)やクロロプレンゴムなどのゴム材料およびその他の弾性体を用いることができる。
【0026】
ポンプ室画成部材40は、
図6および
図7に示すように、平面形状が例えば略矩形状(方形状)に形成されており、一面における中央部に、底面が平坦面とされた逆止弁配置用凹所41が形成されている。逆止弁配置用凹所41の底面には、さらに、後述する逆止弁20aの吸入側弁体25aおよび吐出側弁体25bの各々に対応する位置に凹所42a、42bが並んで形成されている。吸入側弁体25aに対応する一方の凹所42aは、吸入側弁室を構成しており、当該一方の凹所42aには、ポンプ室Prと連通する吸入側連通路43を形成する吸入孔43aが形成されている。また、吐出側弁体25bに対応する他方の凹所42bには、ポンプ室Prと連通する吐出側連通路44を形成する吐出孔44aが吐出側弁体25bにおける流路開閉部26に対応する位置に開口するよう形成されていると共に、例えば円筒状の吐出側弁座部45が吐出側連通路44の出口の周囲を囲むよう形成されている。
【0027】
ポンプヘッド50は、
図8に示すように、平面形状が例えば略矩形状(方形状)に形成されており、内部に吸入部51aを介して外部に開放された吸入流路53(
図4参照。)および吐出部51bを介して外部に開放された吐出流路55(
図5参照。)を有する。この例においては、吸入部51aおよび吐出部51bは互いに同一方向に平行に延びるよう設けられているが、用途に応じて互いに異なる方向に延びるよう設けられていてもよい。
ポンプ室画成部材40と対接される面には、ポンプ室画成部材40における凹所42a、42bに対向する位置に、凹所52a,52bが形成されている。一方の凹所52aには、吸入流路53を形成する吸入孔53aが、吸入側弁体25aの流路開閉部26に対応する位置に開口するよう形成されていると共に、例えば円筒状の吸入側弁座部54が吸入流路53の出口の周囲を囲むよう形成されている。また、他方の凹所52bは、吐出側弁室を構成しており、当該他方の凹所52bには、吐出流路55を形成する吐出孔55aが形成されている。
【0028】
逆止弁20aは、シート状基材に切り欠きが形成されることにより片持ち支持構造の吸入側弁体および吐出側弁体が互いに平行に延びるよう形成されて構成されている。
この例の逆止弁20aは、
図9に示すように、ポンプ室画成部材40とポンプヘッド50とによって狭持保持される固定部21と、各々先端部が自由端とされかつ基端部が固定部21に片持ち状に支持された、互いに同一形状を有する吸入側弁体25aおよび吐出側弁体25bとを有する。22は切り欠きであり、29はポンプ室画成部材40に設けられた位置決めピン41aが挿入される係合用貫通孔である。
この例においては、吸入側弁体25aおよび吐出側弁体25bは、基端部が互いに逆側に位置された状態で並設された構成とされているが、基端部が互いに同一側に位置された状態で並設されていてもよい。
【0029】
吸入側弁体25aは、ポンプヘッド50における吸入側弁座部54の平坦なシート面に密着されて吸入流路53を閉塞する例えば円板状の流路開閉部26を備えている。流路開閉部26は、幅寸法が当該流路開閉部26の直径より小さい例えば平板状の連結部27を介して固定部21に連結されている。
吸入側弁体25aの自由端とされた先端部には、片状突出部28が流路開閉部26に連続して外方に突出して延びるよう形成されている。この例においては、
図4に示すように、吸入側弁体25aにおける片状突出部28の少なくとも吸入側弁室側の面が、ポンプ室画成部材40に形成された、吸入側弁体25aの可動範囲を制限する下面側支持部46に当接されており、片状突出部28が下面側支持部46によって摺動可能に支持されている。
【0030】
この例の吸入側弁体25aにおいては、片状突出部28は流路閉塞部26の先端に形成された構成とされているが、片状突出部28が形成される位置は、流路閉塞部26の先端に限定されない。また、片状突出部28の形状は特に限定されるものではなく、複数の片状突出部28が形成されていてもよい。さらにまた、吸入側弁体25aにおける片状突出部28の吸入側弁座側の面に当接する上面側支持部をポンプヘッド50に形成して片状突出部28の両面を摺動可能に支持する構成としてもよい。
【0031】
吐出側弁体25bは、ポンプ室画成部材40における吐出側弁座部45の平坦なシート面に密着されて吐出側連通路44を閉塞する例えば円板状の流路開閉部26を備えている。流路開閉部26は、幅寸法が当該流路開閉部26の直径より小さい例えば平板状の連結部27を介して固定部21に連結されている。
吐出側弁体25bの自由端とされた先端側には、片状突出部28が流路開閉部26に連続して外方に突出して延びるよう形成されている。この例においては、
図5に示すように、吐出側弁体25bにおける片状突出部28の少なくとも吐出側弁室側の面が、ポンプヘッド50に形成された、吐出側弁体25bの可動範囲を制限する上面側支持部56に当接されており、片状突出部28が上面側支持部56によって摺動可能に支持されている。
【0032】
この例の吐出側弁体25bにおいては、片状突出部28は流路閉塞部26の先端に形成された構成とされているが、片状突出部28が形成される位置は、流路閉塞部26の先端に限定されない。また、片状突出部28の形状は特に限定されるものではなく、複数の片状突出部28が形成されていてもよい。さらにまた、吐出側弁体25bにおける片状突出部28の吐出側弁座側の面に当接する下面側支持部をポンプ室画成部材40に形成して片状突出部28の両面を摺動可能に支持する構成としてもよい。
【0033】
逆止弁20を構成する材料としては、上述したように、例えばEPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)やクロロプレンゴムなどの低温特性(耐寒性)に優れたゴム材料などを用いることができる。
【0034】
駆動部60は、長さ方向の両端が開口する全体が略矩形筒状のケーシング部材61を備えている。ケーシング部材61には、長さ方向に延びる駆動用モータ収容空間および高さ方向に延びるダイヤフラム駆動機構配置空間がケーシング部材61の長さ方向に並んで形成されている。
【0035】
駆動用モータ収容空間には、駆動用モータ66がその駆動軸がポンプヘッド50における吸入部51aおよび吐出部51bと同一方向に延びる姿勢で収容されている。駆動用モータ66は、
図10にも示すように、ケーシング部材61の底壁に形成された当該底壁に垂直な隔壁部分61aに対して、駆動軸67が隔壁部分61aをその厚み方向に貫通して突出する状態で、ネジ止めされて固定されている。
【0036】
ケーシング部材61の上壁におけるダイヤフラム駆動機構収容空間を画成する部分には、開口が形成されており、その開口縁部には、上方に突出して延びる矩形筒状のポンプ部装着部62が形成されている。ポンプ部30は、ダイヤフラム31に設けられた駆動ロッド75が下方に向かって延びる姿勢で装着され、上述したように、ダイヤフラム31の鍔部33がポンプ室画成部材40とケーシング部材61とによって狭持保持される。
【0037】
ダイヤフラム駆動機構65は、駆動用モータ66と、駆動用モータ66の駆動軸67に対して偏心状態で固定された偏心部材70とを備えている。ここに、偏心量dは、例えば0.5〜2.0mmである。
【0038】
偏心部材70は、ダイヤフラム31に設けられた駆動ロッド75の先端部に形成された円筒状保持部76に、ベアリング(玉軸受け)68が介在する状態で、嵌合される偏心カム部分71と、この偏心カム部分71と一体に形成されたバランスウェイト部分72とを有する。バランスウェイト部分72は、いわば「フライホイール(はずみ車)」として機能するものであって、バランスウェイト部分72を有することにより、駆動用モータ66の回転安定性が得られることに加え、ポンプ始動性向上効果が得られる。
【0039】
上記ダイヤフラムポンプの一構成例を示すと、ポンプ室Prの容積は、例えば2.0〜3.0cm
3 、吐出流量は、例えば1L
/minである。
【0040】
而して、上記のダイヤフラムポンプにおいては、駆動用モータ66が駆動されて駆動軸67が回転されると、当該駆動軸67に偏心状態で固定された偏心部材70のカム作用によって駆動ロッド75が高さ方向に直線往復運動される。これに伴って、ダイヤフラム31の本体部32が高さ方向に往復動されてポンプ室Prの容積が膨張収縮される。これにより、例えばガスなどの流体の吸引吐出が行われる。そして、流体が外部から吸引される場合には、ポンプ室Prの容積の膨張に伴って、
図11に示すように、吸入側弁座部54のシート面に密着する吸入側弁体25aが弾性的に変形されて吸入流路53が開放される。このとき、吸入側弁体25aの自由端とされた先端部に形成された片状突出部28は、吸引側弁体25aの変形に伴って吸入側弁体25aの長さ方向に摺動される。また、吐出側弁体25bにおける流路開閉部26は、吐出側弁座部45のシート面に密着されて吐出流路55が閉塞された状態とされる。
一方、ポンプ室Pr内に吸引された流体が外部へ吐出される場合には、ポンプ室Prの容積の収縮に伴って、吸入側弁体25aにおける流路開閉部26が吸入側弁座部54のシート面に密着されて吸入流路53が閉塞される。また、吐出側弁座部45のシート面に密着する吐出側弁体25bが弾性的に変形されて吐出流路55が開放される。このとき、吐出側弁体25bの自由端とされた先端部に形成された片状突出部28は、吐出側弁体25bの変形に伴って吐出側弁体25bの長さ方向に摺動される。
【0041】
而して、上記のダイヤフラムポンプの逆止弁構造においては、片持ち支持構造の吸入側弁体25aおよび吐出側弁体25bの各々の自由端とされた先端部に片状突出部28が形成された逆止弁20aが用いられている。また、吸入側弁体25aにおける片状突出部28の吸入側弁室側の面に当接して吸入側弁体25aの可動範囲を制限する下面側支持部46がポンプ室画成部材40に形成されていると共に、吐出側弁体25bにおける片状突出部28の吐出側弁室側の面に当接して吐出側弁体25bの可動範囲を制限する上面側支持部56がポンプヘッド50に形成されている。このような構成とされていることにより、吸引側弁体25および吐出側弁体25bの弾性的変形に伴って吸引側弁体25および吐出側弁体25bの自由端とされた先端部が長さ方向に摺動するよう動作する。このため、上記構成のダイヤフラムポンプによれば、吸引側弁体25および吐出側弁体25bの動作を安定させることができて安定した流量特性を得ることができる。従って、上記構成のダイヤフラムポンプによれば、製品毎の流量特性のバラツキを小さくすることができる。また、後述する実験例の結果に示されるように、ダイヤフラムポンプが低温環境で使用される場合、すなわち、温度低下に伴って吸入側弁体25aおよび吐出側弁体25bを構成する例えばゴム材料が硬くなった場合であっても、高い動作の信頼性を得ることができる。
【0042】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
例えば、本発明の逆止弁構造は、ダイヤフラムポンプにおける逆止弁構造に限らず、その他の小型のポンプにおける逆止弁構造に適用することができる。また、ダイヤフラムポンプは、モータ駆動によるものに限定されず、電磁駆動式など他の駆動方式によるものであってもよい。
また、逆止弁としては、吸入側弁体および吐出側弁体が一体に形成されたものである必要はなく、互いに別個に構成された吸入側逆止弁および吐出側逆止弁が用いられてもよい。
【0043】
以下、本発明の効果を実証するために行った実験例について説明する。
【0044】
図3に示す構成に従った本発明に係るダイヤフラムポンプ、および、
図15に示す構成の逆止弁を用いたことの他は本発明に係るダイヤフラムポンプと同一の構成を有する比較用のダイヤフラムンプを、それぞれ、3個ずつ作製した。以下、本発明に係るダイヤフラムポンプを「ポンプa」〜「ポンプc」とし、比較用のダイヤフラムポンプを「ポンプd」〜「ポンプf」とする。ポンプa〜cの逆止弁構造を形成する逆止弁(
図9参照。)の仕様は、次に示すとおりであって、吸入側弁体および吐出側弁体は互いに同一形状を有する。ポンプd〜fの逆止弁構造を形成する比較用の逆止弁は、吸入側弁体および吐出側弁体が片状突出部を有さないものであることの他は、ポンプa〜cにおける逆止弁と同一の構成を有するものである。
〔逆止弁の仕様〕
材質:EPDM(ショア硬さHS=60°)
厚み:0.3mm
吸入側弁体(吐出側弁体)の流路開閉部:直径4mmの略円形状
吸入側弁体(吐出側弁体)の片状突出部:長さが2.5mm、幅が1.5mm
吸入側弁体(吐出側弁体)の連結部:長さが3.0mm、幅が1.5mm
【0045】
〔実験例1〕
上記において作製したポンプa〜fの各々を用いて
図12に示すような実験装置を作製した。
図12において、80はポンプa〜f、81および82は、それぞれポンプ80の吸入部に接続された流路に設けられた吸引側ニードル弁および吸引側圧力計、83および84は、それぞれポンプ80の吐出部に接続された流路に設けられた吐出側圧力計および吐出側ニードル弁である。
温度が50℃の環境下において、環境雰囲気の空気(50℃)を試験用ガスとして用い、吐出側ニードル弁84の開閉状態を全開とした状態において、吸引側ニードル弁81の開閉状態を適宜調整して試験用ガスの流量を連続的に変化させたときの、ポンプ80の吸引側の圧力を吸引側圧力計82によって測定した。なお、試験用ガスの流量は、流量計(図示せず)を吸引側ニードル弁81の上流側に接続することにより測定した。
また、吸引側ニードル弁81の開閉状態を全開とした状態において、吐出側ニードル弁84の開閉状態を適宜調整して試験用ガスの流量を連続的に変化させたときの、ポンプ80の吐出側の圧力を吐出側圧力計83によって測定した。なお、試験用ガスの流量は、流量計(図示せず)を吐出側ニードル弁84の下流側に接続することにより測定した
結果を
図13に示す。
図13において、吸引圧力は「負」の値、吐出圧力は「正」の値で示されている。
【0046】
〔実験例2〕
温度が−20℃の環境下において、環境雰囲気の空気(−20℃)を試験用ガスとして用いたことの他は、実験例1と同様の方法により、各々のポンプa〜fの流量特性を調べた。結果を
図14に示す。
【0047】
以上の結果より明らかなように、本発明に係るポンプa〜cによれば、安定した流量特性を得ることができ、製品毎のバラツキを小さくすることができることが確認された。
これに対して、比較用のポンプd〜fにおいては、流量特性が安定せず、製品毎の流量特性のバラツキが大きいことが確認された。また、このような現象は、試験用ガスが低温である場合に特に顕著に現れることが確認された。