特許第6934358号(P6934358)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6934358
(24)【登録日】2021年8月25日
(45)【発行日】2021年9月15日
(54)【発明の名称】有機性排水の処理装置及び処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/12 20060101AFI20210906BHJP
   C02F 3/06 20060101ALI20210906BHJP
   C02F 3/08 20060101ALI20210906BHJP
【FI】
   C02F3/12 F
   C02F3/12 M
   C02F3/06
   C02F3/08 B
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-158133(P2017-158133)
(22)【出願日】2017年8月18日
(65)【公開番号】特開2019-34286(P2019-34286A)
(43)【公開日】2019年3月7日
【審査請求日】2019年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】秦 良介
(72)【発明者】
【氏名】新庄 尚史
(72)【発明者】
【氏名】葛 甬生
【審査官】 片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−333489(JP,A)
【文献】 特開2008−207094(JP,A)
【文献】 特許第5786998(JP,B2)
【文献】 特開2005−349252(JP,A)
【文献】 特開昭61−209096(JP,A)
【文献】 特開昭58−089990(JP,A)
【文献】 特許第5223219(JP,B2)
【文献】 特開平11−019675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00−34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1曝気槽、第1分離槽、第2曝気槽、第2分離槽の順に配した水処理装置において、
前記第1曝気槽において生物膜を担持した高分子有機性材料からなる流動床担体又は固定床担体を槽容量の1〜30%収容し、該担体と有機性排水とを接触させながら前記第1曝気槽内で分散菌を増殖させるための好気処理を行い、第1曝気槽処理水を得る工程と、
前記第2分離槽から分離した原生生物を含む汚泥の少なくとも一部を前記第1分離槽に返送し、第1曝気槽処理水と接触させることにより、増殖した前記分散菌を前記原生生物に捕食させて前記第1曝気槽処理水中の有機物を前記汚泥に固定化させる工程と、
前記接触後の前記第1曝気槽処理水を前記第1分離槽で固液分離し、前記有機物が固定化された前記汚泥をエネルギー回収のために抜き出すことと、
前記第1分離槽からの第1分離槽処理水を前記第2曝気槽で好気処理することと、
前記第2曝気槽で得られた第2曝気槽処理水を前記第2分離槽で固液分離することと
を含むことを特徴とする有機性排水の処理方法。
【請求項2】
前記第2分離槽から分離した汚泥の一部を前記第1曝気槽へ返送することを更に含む請求項1に記載の有機性排水の処理方法。
【請求項3】
前記第2曝気槽において生物膜を担持した流動床担体又は固定床担体と前記第1分離槽処理水とを接触させることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機性排水の処理方法。
【請求項4】
前記第2曝気槽において、槽内に分割壁を設けることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機性排水の処理方法。
【請求項5】
前記第1分離槽及び前記第2分離槽において、重力沈殿式、浮上分離式、ろ過分離式のいずれかを用いて固液分離することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機性排水の処理方法。
【請求項6】
前記第1分離槽で得られる汚泥を嫌気性消化してメタンガスを得て発電することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機性排水の処理方法。
【請求項7】
前記第2分離槽から分離した前記原生生物を含む前記汚泥の少なくとも一部を前記第1分離槽に返送することが、前記第2分離槽から分離した前記汚泥を前記第2曝気槽へ返送し、残りの前記汚泥を全量前記第1分離槽内、又は前記第1曝気槽と前記第1分離槽との間の配管又は水路内、又は前記第1曝気槽と前記第1分離槽との間に設けられた混合槽内へ返送して前記第1曝気槽処理水と接触させることを含む請求項1に記載の有機性排水の処理方法。
【請求項8】
生物膜を担持した高分子有機性材料からなる流動床担体又は固定床担体を槽容量の1〜30%収容し、該担体と有機性排水とを接触させながら分散菌を増殖させるための好気処理を行い、第1曝気槽処理水を得る第1曝気槽と、
前記第1曝気槽処理水を固液分離する前記第1分離槽と、
前記第1分離槽からの第1分離槽処理水を好気処理する前記第2曝気槽と、
前記第2曝気槽からの第2曝気槽処理水を固液分離する前記第2分離槽と、
前記第2分離槽から分離した原生生物を含む汚泥を前記第2曝気槽へ返送するとともに前記第2分離槽から分離した残りの前記汚泥の全量を前記第1分離槽内、又は前記第1曝気槽と前記第1分離槽との間の配管又は水路内、又は前記第1曝気槽と前記第1分離槽との間に設けられた混合槽内へ返送し、第1曝気槽処理水と接触させる返送手段と
を備えることを特徴とする有機性排水の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性排水の処理装置及び処理方法に関し、特に、下水道、し尿、民間工場排水等の処理に好適な有機性排水の処理装置及び処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば下水処理場では最初沈殿池で固液分離した処理水を曝気槽に導入し、活性汚泥により処理をしているが、好気性微生物を維持するための酸素供給のための電気コストは膨大であり、省エネ技術の開発は喫緊の課題である。更に活性汚泥の増殖に伴い、余剰汚泥が増加し、汚泥処分には多大なコストも掛かっている。
【0003】
また、近年、バイオマスの利活用を目的として汚泥を嫌気性消化してメタンを得て、発電に利用するケースが増加している。エネルギーを多く得るには有機物を効率的に嫌気性消化槽へ導入する必要があるが、有機物の多くは曝気槽にて多大な動力を掛けて好気的に処理され、水と二酸化炭素に分解されている。すなわち有機物を可能な限り多く回収することがエネルギーを回収することに繋がる。
【0004】
微生物を用いた有機性排水の処理方法として、特許第4474930号公報(特許文献1)には、微生物の補食作用を利用した多段活性汚泥法として、2槽式の生物処理工程を有し、1槽目で分散菌体を生成させ、2槽目ではそのフロック化と微小生物との共存を図る技術が記載されている。
【0005】
特許第5223219号公報(特許文献2)には、有機性排水を2段で生物処理する方法として、第1の生物処理反応槽の後段に無薬注の浮上分離方式の固液分離手段を設け、その処理水を、流動床式の生物膜担体を有すると第2の生物処理反応槽で処理し、第2の生物処理反応槽で処理その処理水に無機凝集剤を添加して再度浮上分離した後に高度処理を行なうことが記載されている。
【0006】
国際公開第2016/148086号(特許文献3)には、有機性排水に余剰汚泥を水理学的滞留時間10分以下で混合させることで、排水中の有機物を余剰汚泥に吸着させ、この混合液を固液分離することで、有機物を回収すると共に高効率で安定的な処理が可能な水処理方法及び装置の例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4474930号公報
【特許文献2】特許第5223219号公報
【特許文献3】国際公開第2016/148086号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の従来技術に記載される有機性排水の処理方法及び装置のいずれも、余剰汚泥の削減技術とエネルギーの効率的な回収技術を両立するための知見に関してはまだ検討の余地がある。
【0009】
例えば、特許文献1では、余剰汚泥発生量の低減には一定の効果が得られているが、有機性排水から高効率で有機物を回収するという点に関しては具体的に考慮がされていない。特許文献2では、凝集剤を用いた場合の有機物負荷の増大や凝集剤に起因する金属塩の析出の問題を回避できることが記載されているが、凝集剤添加や水質改善に関する知見に留まっている。特許文献3では、有機性排水に余剰汚泥を添加し、接触させることで一部の有機物を吸着できることが記載されているが、本発明者らの検討の結果、特許文献3に記載された技術によってもまだ有機物が十分に回収できない場合がある。
【0010】
上記課題を鑑み、本発明は、エネルギー回収率の向上と余剰汚泥の削減を両立可能な有機性排水の処理装置及び処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、多段式の生物処理装置を用いて余剰汚泥の発生を抑制するとともに、有機物の回収効率向上のためには、特に余剰汚泥中の分散菌を主体とする細菌類が重要な役割を果たしていることを見いだし、本発明に至った。すなわち、余剰汚泥と有機物を含有する排水を接触させる時に、余剰汚泥中の分散菌が有機物の吸着への寄与率が高い。よって分散菌を効率的に増殖させることで有機物回収の効率を高めることができる。更に有機物を吸着した分散菌の回収には分散菌を捕食する原生動物を含有する余剰汚泥の添加が望ましい。
【0012】
上記の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、第1曝気槽、第1分離槽、第2曝気槽、第2分離槽の順に配した水処理装置において、第1曝気槽において生物膜を担持した流動床担体又は固定床担体と有機性排水とを接触させながら好気処理を行い、第1曝気槽処理水を得る工程と、第2分離槽から分離した汚泥の少なくとも一部を返送し、第1曝気槽処理水と接触させる工程と、接触後の第1曝気槽処理水を第1分離槽で固液分離することと、第1分離槽からの第1分離槽処理水を第2曝気槽で好気処理することと、第2曝気槽で得られた第2曝気槽処理水を第2分離槽で固液分離することを含む有機性排水の処理方法が提供される。
【0013】
本発明に係る有機性排水の処理方法は一実施態様において、第2分離槽から分離した汚泥の一部を第1曝気槽へ返送することを更に含む。
【0014】
本発明に係る有機性排水の処理方法は別の一実施態様において、第2曝気槽において生物膜を担持した流動床担体又は固定床担体と第1分離槽処理水とを接触させる。
【0015】
本発明に係る有機性排水の処理方法は別の一実施態様において、第2曝気槽において、槽内に分割壁を設ける。
【0016】
本発明に係る有機性排水の処理方法は更に別の一実施態様において、第1分離槽及び第2分離槽において、重力沈殿式、浮上分離式、ろ過分離式のいずれかを用いて固液分離する。
【0017】
本発明に係る有機性排水の処理方法は更に別の一実施態様において、第1分離槽で得られる汚泥を嫌気性消化してメタンガスを得て発電する。
【0018】
本発明は別の一側面において、生物膜を担持した流動床担体又は固定床担体と有機性排水とを接触させながら好気処理を行い、第1曝気槽処理水を得る第1曝気槽と、第1曝気槽処理水を固液分離する第1分離槽と、第1分離槽からの第1分離槽処理水を好気処理する第2曝気槽と、第2曝気槽からの第2曝気槽処理水を固液分離する第2分離槽と、第2分離槽から分離した汚泥の少なくとも一部を第1分離槽の上流側へ返送し、第1曝気槽処理水と接触させる返送手段とを備える有機性排水の処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、エネルギー回収率の向上と余剰汚泥の削減を両立可能な有機性排水の処理装置及び処理方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態に係る有機性排水の処理装置及び処理方法を説明する概略図である。
図2】本発明の実施の形態の第1変形例に係る有機性排水の処理装置及び処理方法を説明する概略図である。
図3】本発明の実施の形態の第2変形例に係る有機性排水の処理装置及び処理方法を説明する概略図である。
図4】本発明の実施の形態の第3変形例に係る有機性排水の処理装置及び処理方法を説明する概略図である。
図5】本発明の実施の形態の第4変形例に係る有機性排水の処理装置及び処理方法を説明する概略図である。
図6】実施例1〜3及び比較例1〜3の処理フローを表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであってこの発明の技術的思想は構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0022】
本発明の実施の形態に係る有機性排水の処理方法は、例えば、図1に示すように、第1曝気槽1、第1分離槽2、第2曝気槽3、第2分離槽4の順に配した水処理装置を用いて有機性排水を処理することができる。
【0023】
有機性排水としては特に限定されないが、少なくとも溶解性有機物や濁質などの汚染物を含む有機性排水が好適に用いられる。具体的には、下水、下水の一次処理水、下水の二次処理水、し尿、畜産排水、各種製造工場排水などが、本実施形態に係る排水として利用可能である。
【0024】
有機性排水は、第1曝気槽1に導入される。第1曝気槽1には、流動床もしくは固定床の担体11が配置されている。担体11として流動床担体が配置される場合は、第1曝気槽1の出口にスクリーンを設置して担体11の流出を防止することが好ましい。
【0025】
担体11の充填率は、処理対象となる有機性排水のBOD負荷量に応じて調節されるが、例えば、槽容量の1〜30%(体積比)の範囲とすることが望ましい。第1曝気槽1の担体11の材質はポリビニルアルコールの他、ポリウレタンなど高分子有機性材料を主体とする担体11が望ましい。
【0026】
第1曝気槽1では、好気性状態を維持するために、空気もしくは酸素を曝気する。担体11表面には分散菌が付着し有機性排水中の有機物が効率的に吸着及び固定化される。分散菌はこの有機物の栄養によって増殖するが、担体11に保持できない分散菌は再び水中に遊離する。そのため、第1曝気槽1の処理水である第1曝気槽処理水には、遊離した分散菌と残留する有機物が含まれる。
【0027】
そのため、本実施形態では、第2分離槽4から分離した余剰汚泥の少なくとも一部を返送手段5を介して第1分離槽2の上流側へと返送し、返送された汚泥と第1曝気槽処理水と接触させる工程を有する。接触させる場所は第1曝気槽1と第1分離槽2の間の配管や水路の途中、もしくは別途混合槽を設けても良い。第2分離槽4から得られる余剰汚泥には、細菌類の他、それらを捕食する原生動物も含有されている。第1曝気槽1やその処理水に含有される分散菌は食物連鎖の最下位に位置づけられ、原生生物などに捕食されるものである。第2分離槽4からの余剰汚泥を有機物を捕捉した分散菌と接触させることで、第1曝気槽処理水中の有機物を効率的に固定化することができる。
【0028】
なお、有機性排水を曝気処理した第1曝気槽処理水は、溶解性有機物の他に有機物を固定化した分散菌を多く含有しているため、曝気前の有機性排水(原水)に対して直接第2分離槽4からの汚泥を接触させる引用文献3の例よりも、より多くの有機物を第1分離槽2で沈殿させることができ、引用文献3よりも効率よく有機性排水中の有機物を回収することができる。
【0029】
第2分離槽4からの余剰汚泥は第2曝気槽3の活性汚泥量(MLSS)を維持するのに必要な量は第2曝気槽3に返送するが、その残りの全てを第1曝気槽処理水に対して返送、添加するのが望ましい。そうすることで余剰汚泥は第1分離槽1においてのみ分離回収されることになり、システムが簡素化する。例えば第2分離槽4からの余剰汚泥を汚泥処理して排出する必要がある場合、別途汚泥処理工程に移送するのにポンプが必要になることから、そうした余計な余剰汚泥排出のためのポンプなどの機器数を減らすことができる。
【0030】
余剰汚泥と接触後の第1曝気槽処理水は、第1分離槽2で固液分離される。第1分離槽2では重力沈殿式、浮上分離式、ろ過分離式の何れかの方法により固液分離することができる。第1分離槽2で得られた処理水(第1分離槽処理水)は、第2曝気槽3へ送られる。
【0031】
第2曝気槽3では、第1分離槽2からの第1分離槽処理水が好気処理される。本実施形態に係る第1分離槽処理水は、第1曝気槽1からの第1曝気槽処理水に対して第2分離槽4からの余剰汚泥が添加されて有機物が余剰汚泥に固定化され、第1分離槽2で有機物を固定化した余剰汚泥が取り除かれているため、余剰汚泥を添加しない場合に比べて有機物負荷が低減されている。これにより、第2曝気槽3で必要とする酸素量が従来に比べて少なくて済むため、第2曝気槽3の曝気動力を削減でき、装置の簡略化を図ることができる。
【0032】
第2曝気槽3で処理された第2曝気槽処理水は第2分離槽4へ送られる。第2分離槽4では、重力沈殿式、浮上分離式、ろ過分離式の何れかの方法で固液分離することができる。
【0033】
第2分離槽4で得られる余剰汚泥は、第2曝気槽3の活性汚泥量(MLSS)の維持のために第2曝気槽3へ返送されてもよく、その残りは第1分離槽2の上流側に戻される。なお、余剰汚泥は第1曝気槽1と第1分離槽2の間であれば良く、流路の途中に戻しても良いし、第1曝気槽1と第1分離槽2の間に混合槽を別途設けても良い。
【0034】
分散菌を優先的に培養し得る方法として主に余剰汚泥を削減する目的で利用される食物連鎖の現象を模した多段式の曝気槽を備える処理装置では、初段部分こそ分散菌にとって捕食者が少なく有機物が多い快適な環境である。本発明の実施の形態に係る有機性排水の処理装置及び処理方法によれば、有機性排水を一度生物処理して分散菌を増殖させた排水に対して分散菌を接触させることで、短時間に効率的に有機物を最大限吸着させることができる。
【0035】
有機物を吸着した分散菌を後段で原生生物に捕食分解させると有機物回収ができない場合がある。本実施形態では、第1曝気槽の処理水に第2分離槽4から引き抜いた余剰汚泥を添加し、接触させる。これにより、水中を漂う有機物を取り込んだ分散菌をより効率よく余剰汚泥に吸着させ、第1分離槽2で固液分離して汚泥として抜き出し、有機物濃度の高い汚泥を回収することができる。
【0036】
第1分離槽2で有機物を汚泥として回収することで、第2曝気槽3における有機物負荷量が減少し、酸素必要量が低減する。これにより、第2曝気槽3の曝気に必要な曝気動力の削減を図ることができる。これにより使用エネルギーを削減することができる。また第2曝気槽3では食物連鎖の現象を模した多段式の曝気槽を備えることで細菌、原生生物、後生生物の順序で通水することで細菌の増殖による活性汚泥の増加を抑制し、余剰汚泥を削減することが可能になる。
即ち、本発明によれば、エネルギー回収率の向上と余剰汚泥の削減を両立可能な有機性排水の処理装置及び処理方法が提供できる。
【0037】
(第1変形例)
本発明の第1変形例に係る有機性排水の処理方法及び処理装置は、図2に示すように、返送手段5が、第2分離槽4で分離された余剰汚泥の一部を第1曝気槽1に戻すことを更に含む。第1変形例によれば、第1曝気槽1内に遊離した分散菌を返送汚泥により効果的に固定化することができる。その他は、図1に示す有機性排水の処理方法及び処理装置と実質的に同様である。
【0038】
(第2変形例)
本発明の第2変形例に係る有機性排水の処理方法及び処理装置は、図3に示すように、第2曝気槽3に流動床もしくは固定床の担体31を保持したものである。第2曝気槽3に担体31を設置することにより、分散菌を捕食する原生生物や原生生物を捕食する後生生物を曝気槽内に効率的に維持することで余剰汚泥の発生量を削減することができる。第2曝気槽の担体31の材質は、ポリプロピレンの他、ポリ塩化ビニリデンやビニロンなど高分子有機性材料を主体とする担体31が望ましい。その他は、図1に示す有機性排水の処理方法及び処理装置と実質的に同様である。
【0039】
(第3変形例)
本発明の第3変形例に係る有機性排水の処理方法及び処理装置は、図4に示すように、第2曝気槽3内に1又は複数の分割壁32を設けることを含む。分割壁32により第2曝気槽3が多段に区切られることで、生物による食物連鎖を流路に合わせて行なわせ、より余剰汚泥の発生量を削減することができる。分割壁32は1つ以上あればよいが複数個配置して処理段数を多段にすることで細菌、原生生物、後生生物といった食物連鎖を構成する生物が住み分けを自然に成立させて各生物相を管理しながら食物連鎖の関係を把握しながら運転を安定化することができる。その他は、図1に示す有機性排水の処理方法及び処理装置と実質的に同様である。
【0040】
(第4変形例)
本発明の第4変形例に係る有機性排水の処理方法及び処理装置は、図5に示すように、第1分離槽2から得られた汚泥の具体的処理機構が記載されている点が、図1に示す処理方法及び処理装置と異なる。その他は、図1に示す有機性排水の処理方法及び処理装置と実質的に同様である。
【0041】
即ち、第1分離槽2から得られた汚泥は、嫌気性消化槽6へ供給されて嫌気性消化処理される。汚泥の嫌気性消化により、メタンを含む消化ガスが発生する。この消化ガスは、ガスホルダ7において貯留され、必要に応じて、ガス前処理装置8で消化ガスに対して硫化水素やシロキサンなどを用いた前処理が行われる。そして、前処理後の消化ガスを用いて発電機9により発電するものである。
【0042】
発電した電気は電力会社等に売電しても有機性排水の処理装置用の電力として使用しても良い。なお、図5では、第2曝気槽3の構成を図1の構成と同様に記載したが、図1の代わりに第2変形例又は第3変形例で示した形態を採用してもよいことは勿論である。
【実施例】
【0043】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0044】
図6に示すように、同一の有機性排水(下水)に対し、実施例1〜3と並列で比較例1〜3を運転した。本実施例1〜3では、対象とする有機性排水のBOD負荷に合わせて第1曝気槽にポリビニルアルコール製の流動床担体を槽容量の20%保持した。実施例1〜3及び比較例1〜3においては、第1分離槽2、20及び第2分離槽4、40には全て重力式沈殿池を採用した。
【0045】
(実施例1)
実施例1(図6の(a))では、第2分離槽4から得られる余剰汚泥を一部は第2曝気槽3での活性汚泥量を調節するために第2曝気槽3の入口に戻し、残りは返送手段5により返送して第1曝気槽処理水に添加し、混合して第1分離槽2に導入した。
【0046】
(実施例2)
実施例2(図6の(b))では、第2曝気槽3に固定床担体を設置した。担体の材質はポリプロピレン製の担体を槽容量の20%となるように設置した。余剰汚泥は全量を返送手段5を介して第1曝気槽処理水に添加、混合して第1分離槽2に導入した。
【0047】
(実施例3)
実施例3(図6の(c))では、第2曝気槽3において下部と上部を切り欠いた隔壁32を交互に設置することで5室に分割し、それぞれ雨流式に水が流れるように施した。各室には実施例2と同じポリプロピレン製の固定床担体を各室の容量の20%となるように設置した。余剰汚泥は全量を第1曝気槽処理水に添加、混合して第1分離槽2に導入した。
【0048】
(比較例1)
比較例1(図6の(d))では、第1分離槽20の処理水を曝気槽30に導入して処理し、第2分離槽40で再度固液分離した。第2分離槽40の余剰汚泥の一部は曝気槽30での活性汚泥量を調節するために曝気槽30に戻したが、残りは余剰汚泥として排出した。
【0049】
(比較例2)
比較例2(図6の(e))は第2分離槽40の余剰汚泥の一部は曝気槽30での活性汚泥量を調節するために曝気槽30に戻したが、残りは第1分離槽20の手前に戻し、有機性排水と接触させた。
【0050】
(比較例3)
比較例3(図6の(f))は有機性排水を直接曝気槽30に導入したが、曝気槽30は下部と上部を切り欠いた隔壁32を交互に設置することで5室に分割し雨流式に水が流れるように施し、各室には実施例2、3と同じポリプロピレン製の固定床担体を各室の容量の20%となるように設置した。
【0051】
(評価)
実施例1〜3と比較例1〜3に関し、第1分離槽2、20で得られた第1分離槽汚泥と第2分離槽4、40で排出される余剰汚泥について、有機物回収量と汚泥発生量を比較することにより評価した。有機物回収量は汚泥のCODcrを指標とした。汚泥のCODcr はJIS K 0102による加熱分解法に準じて測定した。汚泥発生量、汚泥のCODcr量については各々の処理法に基づいて、第1分離槽汚泥のみの場合と排出する余剰汚泥が発生する場合はその合計を評価した。
【0052】
各処理法での処理量は5m3/日で一定とし、曝気槽と分離槽の水の滞留時間HRTは同一とした。条件を表1に示す。90日間連続運転を行なった。90日間の平均による1日当たりの汚泥発生量とCODcr量について結果を表2に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
実施例1では、汚泥発生量は1081g/日、汚泥のCODcr量は1864g/日となり、比較例1と比較して汚泥発生量は1.1倍増加したが、汚泥CODcr量合計は1.3倍に増加でき、有機物回収率を向上させることができた。実施例2及び実施例3は第2曝気槽3にて担体を設置することで、実施例2、3は各々の汚泥発生量は874g/日、769g/日となり、余剰汚泥の発生が実施例1に比べて81%、71%程度に、低減させることができた。一方、汚泥CODcr量合計は実施例2と3は各々1719g/日、1623g/日であり、比較例1〜3に比べて有機物回収率を向上させることができた。
【0056】
実施例1〜3の結果から、実施例1〜3の態様は、各々の用途に応じて適宜選択すれば良く、例えば、有機物をできるだけ大量に回収したい場合は余剰汚泥を削減しない実施例1を採用することが望ましく、有機物も大量に回収したいが余剰汚泥の発生をより削減したい場合には、実施例2又は実施例3の態様が望ましいことが分かる。
【0057】
実施例1と比較例2を比べると、共に有機物をより多く回収する目的のフローであるが、第1曝気槽1の有無によって汚泥のCODcr量合計は実施例1で1864g/日、比較例2で1567g/日となり、実施例1では1.2倍に増加した。
【0058】
比較例3は有機物回収を目的とせず余剰汚泥を削減する目的のフローであるが、余剰汚泥は他の方式に比べると大きく減少する一方で有機物量も低下した。これは基本的に曝気槽において食物連鎖により余剰汚泥の発生が抑制されたものである。
【0059】
このように、実施例1〜3によれば、有機性排水処理プロセスから得られる有機物回収量を増加させることによって、汚泥を嫌気性消化により処理することでより多くのメタンガスを得ることができることが分かる。また、汚泥発生量を削減することも可能となる。
【符号の説明】
【0060】
1…第1曝気槽
2…第1分離槽
3…第2曝気槽
4…第2分離槽
5…返送手段
6…嫌気性消化槽
7…ガスホルダ
8…ガス前処理装置
9…発電機
11…担体
20…第1分離槽
30…曝気槽
31…担体
32…隔壁(分割壁)
40…第2分離槽
図1
図2
図3
図4
図5
図6