特許第6934451号(P6934451)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6934451
(24)【登録日】2021年8月25日
(45)【発行日】2021年9月15日
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/02 20060101AFI20210906BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20210906BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20210906BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20210906BHJP
【FI】
   C08L77/02
   C08L23/10
   C08K7/06
   C08K7/14
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-107803(P2018-107803)
(22)【出願日】2018年6月5日
(65)【公開番号】特開2019-210379(P2019-210379A)
(43)【公開日】2019年12月12日
【審査請求日】2019年6月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平井 隆行
(72)【発明者】
【氏名】福森 健三
(72)【発明者】
【氏名】小田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】永井 隆之
【審査官】 松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第95/034598(WO,A1)
【文献】 特開2018−053082(JP,A)
【文献】 特開2018−053085(JP,A)
【文献】 特開2017−226765(JP,A)
【文献】 特開2006−348107(JP,A)
【文献】 特表2016−501959(JP,A)
【文献】 特開平04−270758(JP,A)
【文献】 特開平06−200087(JP,A)
【文献】 特開平01−240561(JP,A)
【文献】 特開2018−162338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 − 101/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、及び強化繊維を含有する繊維強化樹脂組成物であって、
前記ポリアミド樹脂及び前記ポリオレフィン樹脂の合計100質量%に対して前記ポリアミド樹脂の含有量が2080質量%であり、前記ポリオレフィン樹脂の含有量が2080質量%であり、
前記ポリアミド樹脂及び前記ポリオレフィン樹脂の合計100質量部に対して前記強化繊維の含有量が10〜200質量部であり、
前記ポリアミド樹脂及び前記ポリオレフィン樹脂のうちの一方の樹脂を第1の樹脂、他方の樹脂を第2の樹脂として、第1の樹脂からなる連続相A及び第2の樹脂からなる連続相Bからなる共連続相と、連続相A内に分散された第2の樹脂からなる分散相a及び連続相B内に分散された第1の樹脂からなる分散相bのうちの少なくとも一方の分散相と、を備える共連続構造、又は、第1の樹脂からなる連続相Cと、連続相C内に分散された第2の樹脂からなる分散相cと、を備える海島構造を有しており、かつ、
顕微鏡で観察される樹脂相分離断面構造において、前記強化繊維の平均断面積以下の断面積を有する分散相の断面積の合計が全ての分散相の断面積の合計100面積%に対して20面積%以下である、
ことを特徴とする繊維強化樹脂組成物。
【請求項2】
顕微鏡で観察される前記樹脂相分離断面構造において、前記ポリアミド樹脂からなる相内に存在している強化繊維の断面積の合計が全ての強化繊維の断面積の合計100面積%に対して75面積%以上であることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリオレフィン樹脂が、プロピレンに由来する構成単位の含有量が全構成単位のうちの50モル%以上である重合体を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリオレフィン樹脂のメルトフローレートが0.1〜20g/10minであることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリアミド樹脂が、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、及びポリアミド11からなる群から選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項6】
前記強化繊維が、炭素繊維及びガラス繊維からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項7】
相容化剤をさらに含有することを特徴とする請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項8】
前記相容化剤の含有量が前記ポリアミド樹脂及び前記ポリオレフィン樹脂の合計100質量部に対して20質量部以下であることを特徴とする請求項7に記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項9】
ポリアミド樹脂と強化繊維とを混合(ただし、ポリオレフィン樹脂を混合しない)して混合物を得る工程と、前記混合物にポリオレフィン樹脂を混合して請求項1〜8のうちのいずれか一項に記載の繊維強化樹脂組成物を得る工程と、を含み、
前記混合物を得る工程において、前記ポリアミド樹脂と混合する前記強化繊維の配合量が、前記繊維強化樹脂組成物に配合される全ての強化繊維の合計100質量%に対して75質量%以上である、
ことを特徴とする繊維強化樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、樹脂の物性向上を目的として、性質の異なる樹脂同士を混合して樹脂の特性を改質するポリマーブレンド及びポリマーアロイが盛んに検討されている。しかしながら、このようなポリマーブレンド及びポリマーアロイにおいて、例えば、ポリアミド樹脂とポリオレフィン樹脂とのように極性の異なる樹脂同士を複合化させた樹脂組成物では、樹脂同士の相容性が悪いために強度が低下しやすいという問題を有していた。
【0003】
また、樹脂組成物に炭素繊維やガラス繊維等の強化繊維を含有させた繊維強化樹脂組成物も、その優れた衝撃強さや弾性率から、航空機、自動車、鉄道車両、船舶、その他特に高い機械的強度が求められる一般産業用途に広く用いられており、盛んに検討がなされている。例えば、特開平6−179784号公報(特許文献1)には、(A)メルトフローレート(MFR:JIS K 6758)が0.1〜4.0g/10minであるポリプロピレン系樹脂40〜55重量%、(B)相対粘度(96%HSO、25℃)[η]が2.0〜2.7であるポリアミド60〜45重量%、(C)上記の(A)+(B)=100重量部に対して不飽和カルボン酸又はその誘導体でグラフトされ、そのグラフト量が0.1〜3.0重量%である変性ポリプロピレン系樹脂10〜30重量部、及び(D)上記の(A)+(B)=100重量部に対してガラス繊維20〜150重量部を含んでなるポリプロピレン系組成物が記載されている。しかしながら、強化繊維を含有するこのような繊維強化熱可塑性樹脂組成物においては、ある程度優れた衝撃強さや弾性率等は達成されるものの、前記強化繊維末端への応力集中が主な原因と考えられる亀裂や、その亀裂の急激な伝搬による脆性的な破断(脆性破壊)が生じやすいという問題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−179784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、脆性破壊の発生が十分に抑制された繊維強化樹脂組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、及び強化繊維を含有する繊維強化樹脂組成物において、前記ポリアミド樹脂、前記ポリオレフィン樹脂、及び前記強化繊維の含有量をいずれも特定の範囲内とし;その樹脂相分離断面構造を、前記ポリアミド樹脂及び前記ポリオレフィン樹脂のうちの一方の樹脂を第1の樹脂、他方の樹脂を第2の樹脂として、第1の樹脂からなる連続相A及び第2の樹脂からなる連続相Bからなる共連続相と、連続相A内に分散された第2の樹脂からなる分散相a及び連続相B内に分散された第1の樹脂からなる分散相bのうちの少なくとも一方の分散相と、を備える共連続構造、又は、第1の樹脂からなる連続相Cと、連続相C内に分散された第2の樹脂からなる分散相cと、を備える海島構造とし;かつ、顕微鏡で観察される前記樹脂相分離断面構造において、前記分散相のうち、前記強化繊維の平均断面積よりも断面積の小さい分散相(小分散相)の割合(小分散相の合計断面積/全分散相の合計断面積)を十分に少なくすることにより、脆性が著しく改善されて、脆性破壊の発生が十分に抑制されることを見い出した。
【0007】
すなわち、本発明の繊維強化樹脂組成物は、
ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、及び強化繊維を含有する繊維強化樹脂組成物であって、
前記ポリアミド樹脂及び前記ポリオレフィン樹脂の合計100質量%に対して前記ポリアミド樹脂の含有量が2080質量%であり、前記ポリオレフィン樹脂の含有量が2080質量%であり、
前記ポリアミド樹脂及び前記ポリオレフィン樹脂の合計100質量部に対して前記強化繊維の含有量が10〜200質量部であり、
前記ポリアミド樹脂及び前記ポリオレフィン樹脂のうちの一方の樹脂を第1の樹脂、他方の樹脂を第2の樹脂として、第1の樹脂からなる連続相A及び第2の樹脂からなる連続相Bからなる共連続相と、連続相A内に分散された第2の樹脂からなる分散相a及び連続相B内に分散された第1の樹脂からなる分散相bのうちの少なくとも一方の分散相と、を備える共連続構造、又は、第1の樹脂からなる連続相Cと、連続相C内に分散された第2の樹脂からなる分散相cと、を備える海島構造を有しており、かつ、
顕微鏡で観察される樹脂相分離断面構造において、前記強化繊維の平均断面積以下の断面積を有する分散相の断面積の合計が全ての分散相の断面積の合計100面積%に対して20面積%以下である、
ことを特徴とするものである。
【0008】
本発明の繊維強化樹脂組成物としては、顕微鏡で観察される前記樹脂相分離断面構造において、前記ポリアミド樹脂からなる相内に存在している強化繊維の断面積の合計が全ての強化繊維の断面積の合計100面積%に対して75面積%以上であることが好ましい。
【0009】
また、本発明の繊維強化樹脂組成物としては、前記ポリオレフィン樹脂が、プロピレンに由来する構成単位の含有量が全構成単位のうちの50モル%以上である重合体を含有することが好ましく、前記ポリオレフィン樹脂のメルトフローレートが0.1〜20g/10minであることも好ましい。
【0010】
さらに、本発明の繊維強化樹脂組成物としては、前記ポリアミド樹脂が、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、及びポリアミド11からなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。また、前記強化繊維が、炭素繊維及びガラス繊維からなる群から選択される少なくとも1種であることも好ましい。
【0011】
さらに、本発明の繊維強化樹脂組成物としては、相容化剤をさらに含有することが好ましく、前記相容化剤の含有量が前記ポリアミド樹脂及び前記ポリオレフィン樹脂の合計質量100質量部に対して20質量部以下であることがより好ましい。
【0012】
また、本発明の繊維強化樹脂組成物の製造方法は、
ポリアミド樹脂と強化繊維とを混合(ただし、ポリオレフィン樹脂を混合しない)して混合物を得る工程と、前記混合物にポリオレフィン樹脂を混合して前記本発明の繊維強化樹脂組成物を得る工程と、を含み、
前記混合物を得る工程において、前記ポリアミド樹脂と混合する前記強化繊維の配合量が、前記繊維強化樹脂組成物に配合される全ての強化繊維の合計100質量%に対して75質量%以上である、
ことを特徴とするものである。
【0013】
なお、本発明の構成によって前記目的が達成される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明のポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、及び強化繊維を含有する繊維強化樹脂組成物においては、前記ポリアミド樹脂及び前記ポリオレフィン樹脂が互いに相容しないため、樹脂相分離断面構造として、分散相を含む2つの連続相からなる共連続構造か、分散相を含む連続相からなる海島構造を形成する。本発明に係る樹脂相分離断面構造においては、前記分散相のうち、その断面積が小さい、すなわち、前記強化繊維の平均断面積以下である分散相(小分散相)の割合が十分に少ないため、前記強化繊維に対して、同強化繊維が存在する相は十分に大きいものとなる。また、本発明の繊維強化樹脂組成物においては、曲げの力が加えられた際、応力集中点となって亀裂が生じやすい強化繊維末端に対して、前記強化繊維末端が存在する相(好ましくは、主にポリアミド樹脂からなる相)を囲む外側の相(好ましくは、主にポリオレフィン樹脂からなる相)がフィブリル化して、前記亀裂の発生及び進展を抑制すると考えられるが、これらの相が上記のように十分に大きいことによって、かかる亀裂の発生及び進展を抑制する効果が十分に発現し、脆性破壊の発生が抑制されるものと本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、脆性破壊の発生が十分に抑制された繊維強化樹脂組成物及びその製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】実施例1で得られた物性測定用試験片の断面の光学顕微鏡写真である。
図1B】実施例1で得られた物性測定用試験片の断面のモルフォロジー画像解析結果を示す図である。
図2】実施例2で得られた物性測定用試験片の断面の光学顕微鏡写真である。
図3】実施例3で得られた物性測定用試験片の断面の光学顕微鏡写真である。
図4】実施例4で得られた物性測定用試験片の断面の光学顕微鏡写真である。
図5】実施例5で得られた物性測定用試験片の断面の光学顕微鏡写真である。
図6】比較例1で得られた物性測定用試験片の断面の光学顕微鏡写真である。
図7】比較例2で得られた物性測定用試験片の断面の光学顕微鏡写真である。
図8】実施例1〜3で得られた物性測定用試験片について曲げ試験を実施して得られた応力−ひずみ曲線を示す。
図9】実施例4〜5で得られた物性測定用試験片について曲げ試験を実施して得られた応力−ひずみ曲線を示す。
図10】比較例1〜2で得られた物性測定用試験片について曲げ試験を実施して得られた応力−ひずみ曲線を示す。
図11】実施例1で得られた物性測定用試験片の亀裂面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図12】比較例2で得られた物性測定用試験片の亀裂面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0017】
(繊維強化樹脂組成物)
先ず、本発明の繊維強化樹脂組成物について説明する。本発明の繊維強化樹脂組成物は、
ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、及び強化繊維を含有する繊維強化樹脂組成物であって、
前記ポリアミド樹脂及び前記ポリオレフィン樹脂の合計100質量%に対して前記ポリアミド樹脂の含有量が7〜93質量%であり、前記ポリオレフィン樹脂の含有量が7〜93質量%であり、
前記ポリアミド樹脂及び前記ポリオレフィン樹脂の合計100質量部に対して前記強化繊維の含有量が10〜200質量部であり、
前記ポリアミド樹脂及び前記ポリオレフィン樹脂のうちの一方の樹脂を第1の樹脂、他方の樹脂を第2の樹脂として、第1の樹脂からなる連続相A及び第2の樹脂からなる連続相Bからなる共連続相と、連続相A内に分散された第2の樹脂からなる分散相a及び連続相B内に分散された第1の樹脂からなる分散相bのうちの少なくとも一方の分散相と、を備える共連続構造、又は、第1の樹脂からなる連続相Cと、連続相C内に分散された第2の樹脂からなる分散相cと、を備える海島構造を有しており、かつ、
顕微鏡で観察される樹脂相分離断面構造において、前記強化繊維の平均断面積以下の断面積を有する分散相の断面積の合計が全ての分散相の断面積の合計100面積%に対して20面積%以下である、
ことを特徴とするものである。
【0018】
〔ポリアミド樹脂〕
本発明において、ポリアミド樹脂とは、アミド結合(−NH−CO−)を介して複数の単量体が単独重合又は共重合されてなる鎖状骨格を有する重合体(ポリアミド)及びこれらの混合物を示す。
【0019】
前記ポリアミドを構成する単量体としては、アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸等のアミノ酸;ε−カプロラクタム、ウンデカンラクタム、ω−ラウリルラクタム等のラクタム等が挙げられる。これらの単量体としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
また、前記ポリアミドとしては、ジアミンとジカルボン酸とを単量体とする共重合体であってもよい。前記ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,13−ジアミノトリデカン、1,14−ジアミノテトラデカン、1,15−ジアミノぺンタデカン、1,16−ジアミノヘキサデカン、1,17−ジアミノヘプタデカン、1,18−ジアミノオクタデカン、1、19−ジアミノノナデカン、1,20−ジアミノエイコサン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタン、2−メチル−1,8−ジアミノオクタン等の脂肪族ジアミン;シクロヘキサンジアミン、ビス−(4−アミノシクロヘキシル)メタン等の脂環式ジアミン;キシリレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン等の芳香族ジアミンが挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシリン酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、オクタデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
このようなポリアミドとしては、例えば、前記単量体として炭素原子数が11である単量体を用いて得られるポリアミド11(PA11);ポリアミド12(PA12);炭素数が6である単量体のうち、ε−カプロラクタムを単独重合させて得られるポリアミド6(PA6);ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との共重合により得られるポリアミド66(PA66);植物油であるひまし油由来のセバシン酸と石油由来のヘキサメチレンジアミンとの共重合により得られるポリアミド610(PA610);ポリアミド612(PA612);ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸との共重合により得られるポリアミド6T(PA6T);ポリアミド6I(PA6I);ポリアミド9T(PA9T);ポリアミドM5T(PAM5T);ポリアミド1010(PA1010);ポリアミド1012(PA1012);ポリアミド10T;メタキシリレンジアミン(MXDA)とアジピン酸とから得られる結晶性のポリアミドであるポリアミドMXD6;ポリアミド6T/66;ポリアミド6T/6I;ポリアミド6T/6I/66;ポリアミド6T/2M−5T;ポリアミド9T/2M−8T等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
このようなポリアミドを得る方法としては、特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができ、また、市販のものを適宜用いてもよい。
【0023】
本発明に係るポリアミドの数平均分子量(Mn)としては、特に限定されないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)による数平均分子量(ポリスチレン換算)で、5,000〜500,000であることが好ましく、10,000〜100,000であることがより好ましい。
【0024】
これらのポリアミドの中でも、本発明に係るポリアミド樹脂としては、融点が比較的低く、混合時にポリオレフィン樹脂の分解をより抑制できる傾向にある観点から、分子内に芳香環を含まないポリアミドである脂肪族ポリアミド(例えば、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド612等)からなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましく、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、及びポリアミド11からなる群から選択される少なくとも1種を含有することがより好ましく、ポリアミド6、ポリアミド66、及びポリアミド610からなる群から選択される少なくとも1種(2種以上である場合には混合物)を、前記ポリアミド樹脂の全質量に対して80質量%以上、より好ましくは100質量%含有することが好ましい。
【0025】
〔ポリオレフィン樹脂〕
本発明において、ポリオレフィン樹脂とは、炭素−炭素二重結合を一つ含むアルケン(オレフィン)を単量体とする重合体(ポリオレフィン)及びこれらの混合物を示す。
【0026】
前記ポリオレフィンを構成する単量体としては、エチレン;炭素数3〜20の不飽和炭化水素化合物であるα−オレフィン(例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン)等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
このようなポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−α−オレフィン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。このようなポリオレフィンを得る方法としては、特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができ、また、市販のものを適宜用いてもよい。
【0028】
本発明に係るポリオレフィンの重量平均分子量(Mw)としては、特に限定されないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)による重量平均分子量(ポリスチレン換算)が、10,000〜500,000であることが好ましく、50,000〜450,000であることがより好ましく、100,000〜400,000であることがさらに好ましい。
【0029】
これらのポリオレフィンの中でも、本発明に係るポリオレフィン樹脂としては、結晶化して力学特性や耐薬品性が向上する傾向にある観点から、プロピレンに由来する構成単位の含有量が全構成単位のうちの50モル%以上である重合体を含有することが好ましく、プロピレンとエチレン及び/又は炭素数3〜8のα−オレフィンとの重合体からなる群から選択される少なくとも1種を含有することがより好ましく、プロピレンとエチレン及び/又は炭素数3〜8のα−オレフィンとの重合体(より好ましくはポリプロピレン)からなる群から選択される少なくとも1種(2種以上である場合には混合物)を、前記ポリオレフィン樹脂の全質量に対して80質量%以上、より好ましくは100質量%含有することが好ましい。
【0030】
また、本発明に係るポリオレフィン樹脂としては、繊維強化樹脂組成物の樹脂相分離断面構造において下記の小分散相の割合がより少なくなる傾向にある観点から、230℃、21.18Nにおいて、JIS K7210に準拠して測定されるメルトフローレート(MFR)が、0.1〜50g/10minであることが好ましく、0.1〜30g/10minであることがより好ましく、0.1〜20g/10minであることがさらに好ましい。
【0031】
〔強化繊維〕
本発明に係る強化繊維としては、樹脂の強化繊維として公知のものを適宜用いることができ、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維、BN繊維、アラミド繊維、PBO繊維等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、本発明に係る強化繊維としては、繊維強化樹脂組成物の強度及び弾性率がより高くなる傾向にある観点から、炭素繊維及びガラス繊維からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0032】
本発明において、前記強化繊維の形状には、繊維状、針状、板状、円柱状等の形状を含み、一次粒子の最長径と最短径との比で表されるアスペクト比(最長径/最短径)が3を超える(好ましくは10以上である)ことが好ましい。また、本発明に係る強化繊維としては、前記一次粒子の最長径が100〜10,000μm(より好ましくは300〜10,000μm)であることが好ましく、最短径が30〜30,000nm(より好ましくは15〜15,000nm)であることが好ましい。なお、本発明において、前記強化繊維の最長径及び最短径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察によって測定することができる。また、本発明において、一次粒子の最長径とは、SEMにより観察される一次粒子の長軸方向の長さのことをいい、前記最短径とは、同一次粒子の短軸方向の長さのことをいう。
【0033】
〔その他成分〕
本発明の繊維強化樹脂組成物は、相容化剤をさらに含有することができる。本発明において、前記相容化剤とは、前記ポリアミド樹脂と前記ポリオレフィン樹脂とを相容化させる相容化剤として機能するものを示し、例えば、前記ポリアミド樹脂と反応し得る反応性基を有するエラストマーである変性エラストマーが挙げられる。前記エラストマーとしては、オレフィン系熱可塑性エラストマー、及びスチレン系熱可塑性エラストマーからなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0034】
前記オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、エチレン;プロピレン、1−ブテン、1−ぺンテン、1−オクテン等のα−オレフィンのうちの2種以上を単量体とする共重合体が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、具体的には、例えば、エチレン−プロピレン共重合体(EPR)、エチレン−1−ブテン共重合体(EBR)、エチレン−1−ペンテン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体(EOR)、プロピレン−1−ブテン共重合体(PBR)、プロピレン−1−ペンテン共重合体、プロピレン−1−オクテン共重合体(POR)が挙げられる。
【0035】
前記スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体、及びその水添体が挙げられ、前記スチレン系化合物としては、例えば、スチレン;α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン等のアルキルスチレン;p−メトキシスチレン;ビニルナフタレンが挙げられ、前記共役ジエン化合物としては、ブタジエン、イソプレン、ピぺリレン、メチルぺンタジエン、フェニルブタジエン、3,4−ジメチル−1,3−ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン等が挙げられる。前記スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、具体的には、例えば、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)が挙げられる。
【0036】
前記ポリアミド樹脂と反応し得る反応性基としては、酸無水物基(−CO−O−OC−)、カルボキシル基(−COOH)、エポキシ基[−CO(2つの炭素原子と1つの酸素原子とからなる三員環構造)]、オキサゾリン基(−CNO)、イソシアネート基(−NCO)等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、前記ポリアミド樹脂との反応性がより高い傾向にあるという観点から、前記反応性基としては、酸無水物基であることが好ましい。
【0037】
また、前記エラストマーに前記反応性基を付与する方法としては特に制限されず、公知の方法を適宜用いることができる。このような方法としては、例えば、前記エラストマーの合成時に酸無水物を単量体として添加する方法が挙げられ、前記酸無水物としては、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ブテニル無水コハク酸等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
このような変性エラストマーとしては、具体的には、無水マレイン酸変性EPR、無水マレイン酸変性PBR、無水マレイン酸変性EBR、無水マレイン酸変性EOR、無水マレイン酸変性POR等の無水マレイン酸変性オレフィン系熱可塑性エラストマー;無水マレイン酸変性SEBS、無水マレイン酸変性SBS、無水マレイン酸変性SIS、無水マレイン酸変性SEPS等の無水マレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマー等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、前記変性エラストマーとしては、市販のものを適宜用いてもよい。
【0039】
前記変性エラストマーとしては、特に限定されないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)による重量平均分子量(ポリスチレン換算)が、10,000〜500,000であることが好ましく、20,000〜500,000であることがより好ましく、25,000〜400,000であることがさらに好ましい。
【0040】
本発明の繊維強化樹脂組成物が前記相容化剤をさらに含有する場合、当該相容化剤としては、前記ポリオレフィン樹脂とより相容しやすいという観点から、前記変性エラストマーからなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、無水マレイン酸変性SEBS(m−SEBS)、無水マレイン酸変性EBR(m−EBR)、及び無水マレイン酸変性EPR(m−EPR)からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0041】
また、本発明の繊維強化樹脂組成物としては、前記ポリアミド樹脂と前記相容化剤との反応物をさらに含有していてもよい。このようなポリアミド樹脂と相容化剤との反応物は、例えば、下記の繊維強化樹脂組成物の製造方法において、前記ポリアミド樹脂と前記相容化剤とを混合することによって該繊維強化樹脂組成物中に得られる。
【0042】
また、本発明の繊維強化樹脂組成物としては、本発明の効果を阻害しない範囲内において、さらに他の成分を含有していてもよい。前記他の成分としては、前記強化繊維以外の充填剤;前記ポリアミド樹脂及び前記ポリオレフィン樹脂以外の他の熱可塑性樹脂;難燃剤;難燃助剤;着色剤;抗酸化剤;抗紫外線剤;熱安定化剤;抗菌剤;帯電防止剤等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
前記強化繊維以外の充填剤としては、具体的には、ガラスビーズ、シリカ、黒鉛、珪酸化合物(珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー等)、金属酸化物(酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、アルミナ等)、炭酸塩、硫酸塩等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
前記他の熱可塑性樹脂としては、具体的には、ポリフェニレンオキシド系樹脂、ABS系樹脂、ポリエステル系樹脂(ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリ乳酸、ポリヒドロキシアルカン酸)、ポリカーボネート樹脂等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
前記難燃剤としては、具体的には、ハロゲン系難燃剤(ハロゲン化芳香族化合物)、リン系難燃剤(窒素含有リン酸塩化合物、リン酸エステル等)、窒素系難燃剤(グアニジン、トリアジン、メラミン、及びこれらの誘導体等)、無機系難燃剤(金属水酸化物等)、ホウ素系難燃剤、シリコーン系難燃剤、硫黄系難燃剤、赤リン系難燃剤等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
前記難燃助剤としては、具体的には、各種アンチモン化合物、亜鉛を含む金属化合物、ビスマスを含む金属化合物、水酸化マグネシウム、粘土質珪酸塩等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
前記着色剤としては、具体的には、顔料及び染料等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
〔繊維強化樹脂組成物の組成〕
本発明の繊維強化樹脂組成物において、前記ポリアミド樹脂の含有量(混合物である場合には合計含有量、以下同じ)は、前記ポリアミド樹脂及び前記ポリオレフィン樹脂の合計100質量%に対して7〜93質量%であることが必要である。前記ポリアミド樹脂の含有量としては、10〜90質量%であることが特に好ましく、20〜80質量%であることがさらに好ましい。前記ポリアミド樹脂の含有量が前記下限未満であると、繊維強化樹脂組成物の強度及び耐熱性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、脆性破壊の発生を抑制することが困難となる傾向にある。なお、本発明の繊維強化樹脂組成物が前記ポリアミド樹脂と前記相容化剤との反応物をさらに含有する場合、前記ポリアミド樹脂の含有量とは、前記ポリアミド樹脂の配合量換算での量を示す。
【0049】
また、本発明の繊維強化樹脂組成物において、前記ポリオレフィン樹脂の含有量(混合物である場合には合計含有量、以下同じ)は、前記ポリアミド樹脂及び前記ポリオレフィン樹脂の合計100質量%に対して7〜93質量%であることが必要である。前記ポリオレフィン樹脂の含有量としては、10〜90質量%であることが特に好ましく、20〜80質量%であることがさらに好ましい。前記ポリオレフィン樹脂の含有量が前記下限未満であると、脆性破壊の発生を抑制することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、繊維強化樹脂組成物の強度及び耐熱性が低下する傾向にある。
【0050】
さらに、本発明の繊維強化樹脂組成物において、前記ポリアミド樹脂の含有量と前記ポリオレフィン樹脂の含有量との比(ポリアミド樹脂の含有量:ポリオレフィン樹脂の含有量)としては、上記と同様の観点から、93:7〜7:93であり、90:10〜10:90であることがより好ましく、80:20〜20:80であることがさらに好ましい。
【0051】
本発明の繊維強化樹脂組成物において、前記強化繊維の含有量(混合物である場合には合計含有量、以下同じ)は、前記ポリアミド樹脂及び前記ポリオレフィン樹脂の合計100質量部に対して10〜200質量部であることが必要である。前記強化繊維の含有量としては、15〜150質量部であることが特に好ましく、20〜100質量部であることがさらに好ましい。前記強化繊維の含有量が前記下限未満であると、強化繊維による補強効果が十分に発揮されない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、繊維強化樹脂組成物の粘度が上昇して成形性が悪化する傾向にある。
【0052】
本発明の繊維強化樹脂組成物が前記相容化剤をさらに含有する場合、その含有量(混合物である場合には合計含有量、以下同じ)としては、前記ポリアミド樹脂及び前記ポリオレフィン樹脂の合計100質量部に対して20質量部以下であることが好ましく、0.1〜10質量部であることがより好ましい。前記相容化剤の含有量が前記上限を超えると、ポリアミド樹脂とポリオレフィン樹脂との相容化が進んで互いに分散するため、前記小分散相の割合が多くなり、脆性破壊が起こりやすくなる傾向にある。なお、本発明の繊維強化樹脂組成物が前記ポリアミド樹脂と前記相容化剤との反応物をさらに含有する場合、前記相容化剤の含有量とは、前記相容化剤の配合量換算での量を示す。
【0053】
さらに、本発明の繊維強化樹脂組成物がさらに上記の他の成分を含有する場合、その含有量(2種以上である場合には合計含有量、以下同じ)としては、前記繊維強化樹脂組成物の全質量に対して、20質量%以下であることが好ましく、0.01〜10質量%であることが好ましい。前記他の成分の含有量が前記上限を超えると、繊維強化樹脂組成物の力学特性や耐熱性が低下する傾向にある。
【0054】
〔繊維強化樹脂組成物の構造〕
本発明の繊維強化樹脂組成物は、前記ポリアミド樹脂及び前記ポリオレフィン樹脂からなる樹脂相分離断面構造を有しており、具体的には、前記ポリアミド樹脂及び前記ポリオレフィン樹脂のうちの一方の樹脂を第1の樹脂、他方の樹脂を第2の樹脂として、第1の樹脂からなる連続相A及び第2の樹脂からなる連続相Bからなる共連続相と、連続相A内に分散された第2の樹脂からなる分散相a及び連続相B内に分散された第1の樹脂からなる分散相bのうちの少なくとも一方の分散相と、を備える共連続構造、又は、第1の樹脂からなる連続相Cと、連続相C内に分散された第2の樹脂からなる分散相cと、を備える海島構造を有している。すなわち、本発明の繊維強化樹脂組成物は、
前記ポリアミド樹脂からなる連続相及び前記ポリオレフィン樹脂からなる連続相からなる共連続相と、前記ポリアミド樹脂からなる連続相内に分散された前記ポリオレフィン樹脂からなる分散相及び前記ポリオレフィン樹脂からなる連続相内に分散された前記ポリアミド樹脂からなる分散相のうちの少なくとも一方の分散相と、を備える共連続構造;
前記ポリアミド樹脂からなる連続相(海相)及び該連続相内に分散された前記ポリオレフィン樹脂からなる分散相(島相)を備える海島構造;及び
前記ポリオレフィン樹脂からなる連続相(海相)及び該連続相内に分散された前記ポリアミド樹脂からなる分散相(島相)を備える海島構造;
からなる群から選択される少なくとも1種の構造を形成している。これらのうちのいずれの構造を形成するかは前記ポリアミド樹脂とポリオレフィン樹脂との含有量比によるものであり、前記共連続構造は、前記ポリアミド樹脂の合計含有量と前記ポリオレフィン樹脂の合計含有量との比(断面積比)が1:1.5〜1.5:1である場合に形成され、それ以外の場合に形成される前記海島構造においては、より含有量の多い方の樹脂が海相(連続相)を、他方の樹脂が島相(分散相)を、それぞれ形成する。
【0055】
なお、本発明において、前記樹脂相分離断面構造は、顕微鏡を用いて確認することができ、より具体的には、射出成形でJIS K7162 1BA型に成形せしめた樹脂組成物の平行部分から長軸方向に垂直な断面を切り出して研磨し、この断面を光学顕微鏡を用いて観察することで確認することができる。なお、前記樹脂相分離構造における各相は、画像解析ソフト(例えば、「WinROOF(三谷商事株式会社製)」等)を用いて判別することができる。
【0056】
本発明の繊維強化樹脂組成物としては、上記の共連続構造及び海島構造のうちのいずれの構造を有していてもよいが、少なくとも、前記ポリアミド樹脂及び前記ポリオレフィン樹脂のうちの一方の樹脂からなる連続相(連続相A、B、C)内に分散された、他方の樹脂からなる分散相(分散相a、b、c)を1種以上有する。中でも、本発明の繊維強化樹脂組成物としては、前記ポリアミド樹脂及び前記ポリオレフィン樹脂のうちの一方の樹脂からなる連続相と該連続相内に分散された他方の樹脂からなる分散相とを備える海島構造を有していることが好ましく、加えて/又は、前記ポリオレフィン樹脂からなる連続相と該連続相内に分散された前記ポリアミド樹脂からなる分散相とを少なくとも有していることが好ましい。
【0057】
本発明の繊維強化樹脂組成物においては、前記樹脂相分離断面構造において、前記強化繊維の平均断面積以下の断面積を有する分散相(以下、場合により「小分散相」という)の断面積の合計(小分散相の合計断面積)が、全ての分散相の断面積の合計(全分散相の合計断面積)100面積%に対して20面積%以下であることが必要である。前記全分散相の合計断面積に対する小分散相の合計断面積の割合としては、0〜18面積%であることが特に好ましく、0〜15面積%であることがさらに好ましい。前記小分散相の合計断面積の割合が前記上限を超えると、繊維強化樹脂組成物において脆性が著しく悪化して脆性破壊が起こりやすくなる傾向にある。
【0058】
なお、本発明において、前記樹脂相分離構造における分散相の断面積及び強化繊維の平均断面積は、顕微鏡を用いて観察される前記樹脂相分離断面構造から算出することができる。より具体的には、先ず、射出成形でJIS K7162 1BA型に成形せしめた前記強化繊維を含有する樹脂組成物の平行部分から長軸方向に垂直な断面を切り出して研磨し、この断面の光学顕微鏡を用いて観察される200×300μmの範囲において、画像解析ソフト(例えば、「WinROOF(三谷商事株式会社製)」等)を用いて判別される全ての分散相及び全ての強化繊維の断面積をそれぞれ測定する。次いで、測定された全ての強化繊維の断面積を平均化した値を前記強化繊維の平均断面積とし、また、前記分散相のうち、断面積が前記強化繊維の平均断面積以下である相を小分散相とすることができる。
【0059】
本発明の繊維強化樹脂組成物において、前記強化繊維は、前記連続相内に存在していても前記分散相内に存在していてもよく、また、前記ポリアミドからなる相内に存在していても前記ポリオレフィンからなる相内に存在していてもよいが、本発明に係る強化繊維としては、顕微鏡で観察される前記樹脂相分離断面構造において、前記ポリアミド樹脂からなる相内に存在している強化繊維の断面積の合計が全ての強化繊維の断面積の合計100面積%に対して75面積%以上、より好ましくは80面積%以上であることが好ましい。前記強化繊維のポリアミド樹脂からなる相内に存在する割合が前記下限未満であると、繊維強化樹脂組成物の最大強度が低下する傾向にある。
【0060】
本発明において、前記強化繊維のポリアミド樹脂からなる相内に存在する割合は、上記の分散相の断面積及び強化繊維の平均断面積と同様にして全ての強化繊維の断面積を測定し、その合計面積に対する、ポリアミド樹脂からなる相内に存在している強化繊維の合計断面積の割合として求めることができる。なお、本発明の繊維強化樹脂組成物において、前記ポリアミド樹脂からなる相内に存在する強化繊維の割合は、配合時に前記ポリアミド樹脂と予め混合した強化繊維の割合と必ずしも一致しない。
【0061】
(繊維強化樹脂組成物の製造方法)
次いで、本発明の繊維強化樹脂組成物の製造方法について説明する。本発明の繊維強化樹脂組成物の製造方法は、ポリアミド樹脂と強化繊維とを混合して混合物を得る工程(工程1)と、前記混合物にポリオレフィン樹脂を混合して前記本発明の繊維強化樹脂組成物を得る工程(工程2)と、を含み、かつ、
前記混合物を得る工程において、前記ポリアミド樹脂と混合する前記強化繊維の配合量が、前記繊維強化樹脂組成物に配合される全ての強化繊維の合計100質量%に対して75質量%以上である、
ことを特徴とするものである。このような製造方法により、上記の特定の組成及び構造の本発明の繊維強化樹脂組成物を効率よく得ることができる。前記ポリアミド樹脂、前記強化繊維、前記ポリオレフィン樹脂、及び得られる繊維強化樹脂組成物としては、上記本発明の繊維強化樹脂組成物に記載のとおりである。
【0062】
本発明の製造方法においては、先ず、工程1において、前記ポリアミド樹脂と前記強化繊維とを混合する。本発明の製造方法においては、前記ポリアミド樹脂と予め混合する前記強化繊維の配合量が、前記繊維強化樹脂組成物に配合される全ての強化繊維の合計100質量%に対して75質量%以上であることが必要である。前記強化繊維の配合量としては、80〜100質量%であることが特に好ましく、90〜100質量%であることがさらに好ましい。前記強化繊維の配合量が前記下限未満であると、得られる繊維強化樹脂組成物において前記小分散相の割合が多くなり、脆性破壊が起こりやすくなる傾向にある。
【0063】
なお、工程1において、前記繊維強化樹脂組成物に配合される全量、すなわち、前記繊維強化樹脂組成物に配合される前記ポリアミド樹脂及び前記ポリオレフィン樹脂の合計100質量部に対して10〜200質量部(より好ましくは15〜150質量部、さらに好ましくは20〜100質量部)を、前記ポリアミド樹脂と予め混合しなかった場合、残分の強化繊維は、前記ポリオレフィン樹脂と予め混合してもよいし、下記の工程2において前記混合物を前記ポリオレフィン樹脂と混合する際に単独で添加して混合してもよい。
【0064】
工程1において、前記強化繊維と混合するポリアミド樹脂の配合量としては、前記繊維強化樹脂組成物に配合されるポリアミド樹脂の合計100質量%に対して75質量%以上であることが好ましく、80〜100質量%であることがより好ましく、90〜100質量%であることがさらに好ましい。前記ポリアミド樹脂の配合量が前記下限未満であると、得られる繊維強化樹脂組成物において前記小分散相の割合が多くなり、脆性破壊が起こりやすくなる傾向にある。
【0065】
なお、工程1において、前記繊維強化樹脂組成物に配合される全量、すなわち、前記繊維強化樹脂組成物に配合される前記ポリアミド樹脂及び前記ポリオレフィン樹脂の合計100質量%に対して7〜93質量%(より好ましくは10〜90質量%、さらに好ましくは20〜80質量%)を、前記強化繊維と予め混合しなかった場合、残分のポリアミド樹脂は、下記の工程2において前記混合物を前記ポリオレフィン樹脂と混合する際に単独で添加して混合してよい。
【0066】
工程1において、前記混合の方法としては、特に制限されないが、混練装置を用いて溶融混練する方法が挙げられる。前記混練装置としては、例えば、押出機(一軸スクリュー押出機、二軸溶融混練押出機等)、ニーダ、ミキサ(高速流動式ミキサ、パドルミキサ、リボンミキサ等)、射出成形機が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、2種以上を組み合わせて用いる揚合には、連続的に運転してもよく、回分的に(バッチ式で)運転してもよい。さらに、混合する各成分は一括して混練してもよいし、いずれかを複数回に分けて添加投入(多段配合)して混練してもよい。
【0067】
工程1における混合温度としては、特に制限されず、前記ポリアミド樹脂の種類によって適宜調整されるものであるため一概にはいえないが、溶融された状態で混合できる観点からは、例えば、200〜320℃であることが好ましく、230〜300℃であることがより好ましい。また、混合時間としても特に制限されないが、例えば、1分間〜1時間である。
【0068】
このようにして得られる混合物としては、ペレット化等により固形化された固形物であってもよいし、溶融物であってもよい。また、ダイセルポリマー株式会社製の炭素繊維強化ポリアミド(商品名:プラストロン)、東レ株式会社製の炭素繊維強化ポリアミド(商品名:トレカ短繊維ペレット、トレカ長繊維ペレット)等の市販のものを適宜用いてもよい。
【0069】
本発明の製造方法においては、次いで、工程2において、前記混合物と前記ポリオレフィン樹脂とを混合する。前記ポリオレフィン樹脂としては、前記繊維強化樹脂組成物に配合される全量、すなわち、前記繊維強化樹脂組成物に配合される前記ポリアミド樹脂及び前記ポリオレフィン樹脂の合計100質量%に対して7〜93質量%(より好ましくは10〜90質量%、さらに好ましくは20〜80質量%)をそのまま前記混合物と混合してもよいし、その少なくとも一部を前記強化繊維の残分と予め混合した混合物として混合してもよい。
【0070】
なお、工程2において、前記ポリオレフィン樹脂を前記強化繊維の残分と予め混合した混合物として混合する場合、前記強化繊維と混合するポリオレフィン樹脂の配合量としては、特に限定されないが、前記繊維強化樹脂組成物に配合されるポリオレフィン樹脂の合計100質量%に対して75質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。前記ポリオレフィン樹脂の配合量が前記上限を超えると、脆性破壊の発生を抑制することが困難となる傾向にある。
【0071】
工程2において、前記混合の方法としては、特に制限されないが、例えば、前記混合物、前記ポリオレフィン樹脂、及び必要に応じて、前記ポリアミド樹脂単独、前記強化繊維単独、前記ポリオレフィン樹脂と前記強化繊維との混合物、前記相容化剤や前記他の成分を予めドライブレンド等により混合した後、混練装置を用いて溶融混練する方法が挙げられる。前記混練装置及び混練方法としては上記の工程1に記載のとおりである。
【0072】
工程2における混合温度としては、特に制限されず、前記ポリアミド樹脂及び前記ポリオレフィン樹脂等の種類によって適宜調整されるものであるため一概にはいえないが、例えば、200〜330℃であることが好ましく、230〜300℃であることがより好ましい。また、混合時間としても特に制限されないが、例えば、1分間〜1時間である。
【0073】
本発明の製造方法としては、前記固形物及び/又は溶融物として工程1で得られた混合物と前記ポリオレフィン樹脂とを溶融混練してもよいし、多段配合式の混練装置等を用いて、上流側で前記混合物を調製した後に下流側で前記ポリオレフィン樹脂を添加して溶融混練することにより本発明の繊維強化樹脂組成物を得てもよい。また、得られる繊維強化樹脂組成物は、ペレット化等により固形化されたり、成形された固形物であってもよいし、溶融物であってもよい。
【0074】
(成形体)
本発明の繊維強化樹脂組成物はどのように成形してもよく、前記成形の方法としては、特に制限されず、樹脂組成物の成形方法として従来公知の方法を適宜採用することができる。例えば、射出成形、押出成形、吹込成形、圧縮成形(プレス成形)等、通常の熱可塑性樹脂に対して用いられる成形方法を採用することができる。
【0075】
また、本発明の繊維強化樹脂組成物としては、その形状、大きさ、及び厚さ等は特に制限されず、その用途も特に制限されない。例えば、本発明の繊維強化樹脂組成物は、自動車、鉄道車両、船舶、飛行機等の外装材、内装材及び構造材等として用いることができる。前記自動車の外装材、内装材及び構造材としては、自動車用外装材、自動車用内装材、自動車用構造材、自動車用衝撃エネルギー吸収材、自動車用歩行者保護材、自動車用乗員保護材、エンジンルーム内部品等が挙げられる。さらに、本発明の繊維強化樹脂組成物は、建築物、家具等の内装材、外装材及び構造材、具体的には、例えば、ドア表装材、ドア構造材、各種家具(机、椅子、棚、箪笥等)の表装材、構造材等としても用いることができ、その他、包装体、収容体(トレイ等)、保護用部材、パーティション部材、家電製品(薄型TV、冷蔵庫、洗濯機、掃除機、携帯電話、携帯ゲーム機、ノート型パソコン等)の筐体及び構造体としても用いることができる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、各実施例及び比較例において得られた樹脂組成物のモルフォロジー観察及び性能評価はそれぞれ以下に示す方法により行った。
【0077】
(モルフォロジー観察)
モルフォロジー観察により、樹脂相分離断面構造の確認及び小分散相割合の算出を行った。先ず、各実施例及び比較例で得られた物性測定用試験片の平行部分から長軸方向に垂直な断面を切り出してエポキシ樹脂に包埋し、機械研磨を行った。次いで、この断面を光学顕微鏡(「ECLIPSE LV100N」、ニコン株式会社製)を用いて倍率50倍で観察した。前記光学顕微鏡を用いて観察された200×300μmの範囲において、画像解析ソフト(「WinROOF」、三谷商事株式会社製)を用いて、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、及び強化繊維をそれぞれ識別した後、上記範囲内の全ての分散相及び全ての強化繊維の断面積をそれぞれ測定した。測定された全ての強化繊維の断面積を平均化して強化繊維の平均断面積とし、上記範囲内にある分散相のうち、断面積が前記強化繊維の平均断面積以下である相を小分散相として、小分散相割合[%]((小分散相の合計断面積/全分散相の合計断面積)×100)を求めた。また、上記範囲内において、全ての強化繊維の断面積の合計に対する、ポリアミド樹脂からなる相内に存在している強化繊維の断面積の合計の割合[%]((ポリアミド樹脂からなる相内に存在している強化繊維の合計断面積/全強化繊維の合計断面積)×100)を求めた。
【0078】
(性能評価)
〔曲げ弾性率・曲げ強度測定〕
各実施例及び比較例で得られた物性測定用試験片を80℃で12時間真空乾燥させた後、万能試験機(インストロン ジャパン カンパニイ リミテッド製)を用い、支点間距離:32mm、変位速度:1mm/min、温度:23℃の条件で曲げ試験を実施した。得られた応力[GPa]−ひずみ曲線の、ひずみ0.05%〜0.25%の間の傾きを曲げ弾性率[GPa]とし、最大応力を曲げ強度[GPa]とした。
【0079】
〔破壊形態評価〕
上記の曲げ試験において、最大応力を示した後の試験片の状態を肉眼で観察し、下記の基準:
評価A:最大応力を示した後に試験片が分割されなかった(折れ曲がり部分に亀裂が生じてもその進展が抑制されて分割されなかった)
評価B:最大応力を示した後に試験片が破断すると共に破断面で2つに分割され、脆性的な破断が起こった
に従って破壊形態を評価した。また、上記の曲げ試験によって最大応力を示した後に現れた亀裂面(破断面)を、走査型電子顕微鏡(SEM、「S−3600」、株式会社日立ハイテクマニファクチャ&サービス製)を用いて、加速電圧:15kV、倍率:500倍の条件で観察した。
【0080】
(実施例1)
先ず、ポリアミド6(PA)と炭素繊維(CF)とが3:2の質量比で予め混合された炭素繊維強化ポリアミドのペレット(PA−CF、「プラストロン PA6−CF40」、ダイセルポリマー株式会社製)を50質量部と、ポリプロピレン(PP、「E111G」、株式会社プライムポリマー製、MFR:0.5g/10min)を50質量部と、をドライブレンドした後、卓上射出成形機(株式会社新興セルビック製)を用いて、シリンダー温度:270℃の条件で溶融混練して樹脂組成物を得ると共に、金型温度:135℃の条件で射出成形を行い、樹脂組成物をJIS K7162 1BA型に成形した物性測定用試験片を作製した。
【0081】
(実施例2)
炭素繊維強化ポリアミドのペレット(PA−CF)を45質量部と、ポリプロピレン(PP)を47質量部と、ポリアミド6(PA、「A1030BRL」、ユニチカ株式会社製)を3質量部と、ポリプロピレン(PP、MFR:0.5g/10min)と炭素繊維とが3:2の質量比で予め混合された炭素繊維強化ポリプロピレンのペレット(PP−CF、「プラストロン PP−CF40」、ダイセルポリマー株式会社製)を5質量部と、をドライブレンドした後に用いたこと以外は実施例1と同様にして、物性測定用試験片を作製した。
【0082】
(実施例3)
炭素繊維強化ポリアミドのペレット(PA−CF)を40質量部と、ポリプロピレン(PP)を44質量部と、ポリアミド6(PA)を6質量部と、炭素繊維強化ポリプロピレンのペレット(PP−CF)を10質量部と、をドライブレンドした後に用いたこと以外は実施例1と同様にして、物性測定用試験片を作製した。
【0083】
(実施例4)
炭素繊維強化ポリアミドのペレット(PA−CF)を75質量部と、ポリプロピレン(PP)を25質量部と、をドライブレンドした後に用いたこと以外は実施例1と同様にして、物性測定用試験片を作製した。
【0084】
(実施例5)
炭素繊維強化ポリアミドのペレット(PA−CF)を45質量部と、ポリプロピレン(PP)を45質量部と、無水マレイン酸変性SEBS(m−SEBS、「FG1901G」、クレイトンポリマージャパン社製)10質量部と、をドライブレンドした後に用いたこと以外は実施例1と同様にして、物性測定用試験片を作製した。
【0085】
(比較例1)
炭素繊維強化ポリアミドのペレット(PA−CF)を35質量部と、ポリプロピレン(PP)を41質量部と、ポリアミド6(PA)を9質量部と、炭素繊維強化ポリプロピレンのペレット(PP−CF)を15質量部と、をドライブレンドした後に用いたこと以外は実施例1と同様にして、物性測定用試験片を作製した。
【0086】
(比較例2)
炭素繊維強化ポリアミドのペレット(PA−CF)を25質量部と、ポリプロピレン(PP)を35質量部と、ポリアミド6(PA)を15質量部と、炭素繊維強化ポリプロピレンのペレット(PP−CF)を25質量部と、をドライブレンドした後に用いたこと以外は実施例1と同様にして、物性測定用試験片を作製した。
【0087】
実施例1〜5及び比較例1〜2において配合したポリアミド樹脂(PA及び/又はPA−CF)、ポリオレフィン樹脂(PP及び/又はPP−CF)、並びに相容化剤(m−SEBS)の組成を下記の表1に示す。表1中の単位は「質量部」である。表1には、炭素繊維(CF)について、予めポリアミド樹脂と混合した配合量と予めポリオレフィン樹脂と混合した配合量とを各括弧内に示し、その配合比(CF配合比[PA内:PP内])も合わせて示す。
【0088】
【表1】
【0089】
実施例1〜5及び比較例1〜2で得られた物性測定用試験片についてモルフォロジー観察を実施して得られた断面の光学顕微鏡写真を、それぞれ、図1A図2図7に示す。また、図1Bには、モルフォロジー観察において、実施例1で得られた物性測定用試験片について画像解析を実施した結果を示す。なお、図1Bについては、参考資料として別途カラー図面を提出している。また、実施例1〜5及び比較例1〜2で得られた物性測定用試験片について性能評価を実施した。得られた応力−ひずみ曲線を図8図10に、実施例1及び比較例2で得られた物性測定用試験片の亀裂面(破断面)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図11図12に、それぞれ示す。さらに、モルフォロジー観察を実施して得られた小分散相割合[%]、性能評価を実施して得られた曲げ弾性率(弾性率[GPa])、曲げ強度(強度[GPa])、及び破壊形態評価の結果を、各実施例及び比較例における樹脂組成物の組成と合わせて下記の表2に示す。また、表2には、ポリアミド6及びポリプロピレンの合計質量部(PA+PP)におけるポリアミド6及びポリプロピレンの各含有量(PA+PP内%)、並びに、前記合計100質量部に対する炭素繊維及び無水マレイン酸変性SEBSの各質量部(対PA+PP)も各括弧内に合わせて示す。
【0090】
【表2】
【0091】
図1A及び図1Bに示すように、実施例1においては、ポリプロピレンからなる連続相(2)内に分散されたポリアミド6からなる分散相(1)を有しており、分散相(1)としては、炭素繊維(3)の平均断面積以下の断面積を有する小分散相(12)及び炭素繊維(3)の平均断面積よりも大きい断面積を有する大分散相(11)が存在していたが、表2に示すように、小分散相の割合は5%と、十分に少なかった。また、図2図5に示すように、実施例2〜5においても、ポリプロピレンからなる相及びポリアミド6からなる相はいずれも、大きな断面積を有する相を主に形成しており、表2に示すように、小分散相割合も少なかった。なお、実施例1〜5においてはいずれも、前記ポリアミド6からなる相内に存在している炭素繊維の断面積の合計が全ての炭素繊維の断面積の合計100面積%に対して75面積%以上であった。他方、図6図7に示すように、比較例1〜2においては、ポリプロピレンからなる相及びポリアミド6からなる相はいずれも、微細な分散相を有する構造を形成しており、表2に示すように、小分散相割合が多かった。
【0092】
さらに、小分散相割合が少なかった実施例1〜5においてはいずれも、表2に示すように、曲げ弾性率及び曲げ強度が十分に高いと共に、図8図9にも示すように、亀裂の進展が途中で抑制されて大きなひずみを受けても破断が起きず、脆性破壊の発生が抑制されることが確認された。他方、小分散相割合が20%を超える場合(比較例1〜2)には、表2に示すように、曲げ弾性率及び曲げ強度は高いものの、図10にも示すように、最大応力を超えた後に亀裂が急速に進展して破断が起き、脆性が著しく悪化してしまうことが確認された。
【0093】
また、図11図12より、実施例1では、曲げ試験で現れた亀裂面において炭素繊維の周辺からフィブリル状に延伸されたポリプロピレンからなる相がいくつも確認されたのに対して、比較例2では、亀裂面(破断面)にこのようなフィブリル化は確認されず、本発明の繊維強化樹脂組成物においては、変形時にポリオレフィンからなる相が引き伸ばされてひずみ硬化が起き、亀裂の進展が食い止められたことが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0094】
以上説明したように、本発明によれば、脆性破壊の発生が十分に抑制された繊維強化樹脂組成物及びその製造方法を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0095】
1…分散相、2…連続相、3…炭素繊維、11…大分散相、12…小分散相。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12