【実施例1】
【0014】
図1は、本発明の第1の実施例に係る油圧ショベルの側面図である。
【0015】
図1において、油圧ショベル100は、クローラ式の走行装置8を装備した下部走行体101と、下部走行体101上に旋回モータ7を介して旋回可能に取り付けられた上部旋回体102と、上部旋回体102の前部に上下方向に回動可能に取り付けられたフロント作業装置103とを備えている。上部旋回体102上には、オペレータが搭乗するキャブ104が設けられている。
【0016】
フロント作業装置103は、上部旋回体102の前部に上下方向に回動可能に取り付けられたブーム2と、このブーム2の先端部に上下または前後方向に回動可能に連結された作業部材としてのアーム4と、このアーム4の先端部に上下または前後方向に回動可能に連結された作業部材としてのバケット6と、ブーム2を駆動する液圧シリンダ(以下、ブームシリンダ)1と、アーム4を駆動する液圧シリンダ(以下、アームシリンダ)3と、バケット6を駆動する液圧シリンダ(以下、バケットシリンダ)5とを備えている。
【0017】
図2は、
図1に示す油圧ショベル100に搭載された液圧駆動装置の概略構成図である。なお、説明の簡略化のため、
図2では、ブームシリンダ1およびアームシリンダ3の駆動に関わる部分のみを示し、その他のアクチュエータの駆動に関わる部分は省略している。
【0018】
図2において、液圧駆動装置300は、ブームシリンダ1と、アームシリンダ3と、ブームシリンダ1およびアームシリンダ3の各動作方向および各要求速度を指示する操作装置としてのレバー51と、動力源であるエンジン9と、エンジン9の動力を配分する動力伝達装置10と、動力伝達装置10によって配分された動力で駆動される第1〜第4の液圧ポンプ12〜15およびチャージポンプ11と、第1〜第4の液圧ポンプ12〜15と液圧アクチュエータ1,3との接続を切換可能な切換弁40〜47と、比例弁48,49と、切換弁40〜47、比例弁48,49、および後述のレギュレータ12a,13a,14a,15aを制御するコントローラ50とを備えている。
【0019】
動力源であるエンジン9は、動力を配分する動力伝達装置10に接続されている。動力伝達装置10には、第1〜第4の液圧ポンプ12〜15、およびチャージポンプ11が接続されている。
【0020】
第1〜第4の液圧ポンプ12〜15は、一対の入出力ポートを持つ傾転斜板機構と、傾転斜板の傾斜角を調整するレギュレータ12a,13a,14a,15aを備えている。
【0021】
レギュレータ11a,12a,13a,14aは、コントローラ50からの信号により、第1〜第4の液圧ポンプ12〜15の傾転斜板の傾転角を調整する。
【0022】
第1および第2の液圧ポンプ12,13は、傾転斜板の傾転角を調整することにより、入出力ポートからの作動油の吐出流量と方向を制御できる。
【0023】
チャージポンプ11は、流路212に圧油を補充する。
【0024】
第1および第2の液圧ポンプ12,13は、圧油の供給を受けると液圧モータとしても機能する。
【0025】
第1の液圧ポンプ12の一対の入出力ポートに流路200,201が接続され、流路200,201には、切換弁40,41が接続されている。切換弁40,41は、コントローラ50からの信号により、流路の連通と遮断を切り換える。切換弁40,41は、コントローラ50からの信号が無い場合は、遮断状態である。
【0026】
切換弁40は、流路210,211をそれぞれ介してブームシリンダ1に接続されている。コントローラ50からの信号により、切換弁40が連通状態になると、第1の液圧ポンプ12は、流路200,201、切換弁40、および流路210,211を介して、ブームシリンダ1と接続されることにより閉回路を構成する。
【0027】
切換弁41は、流路213,214をそれぞれ介してアームシリンダ3に接続されている。コントローラ50からの信号により、切換弁41が連通状態になると、第1の液圧ポンプ12は、流路200,201、切換弁41、および流路213,214を介して、アームシリンダ3と接続されることにより閉回路を構成する。
【0028】
第2の液圧ポンプ13の一対の入出力ポートに流路202,203が接続され、流路202,203には、切換弁42,43が接続されている。切換弁42,43は、コントローラ50からの信号により、流路の連通と遮断を切り換える。切換弁42,43は、コントローラ50からの信号が無い場合は、遮断状態である。
【0029】
切換弁42は、流路210,211をそれぞれ介してブームシリンダ1に接続されている。コントローラ50からの信号により、切換弁42が連通状態になると、第2の液圧ポンプ13は、流路202,203、切換弁42、および流路210,211を介して、ブームシリンダ1と接続されることにより閉回路を構成する。
【0030】
切換弁43は、流路213,214をそれぞれ介してアームシリンダ3に接続されている。コントローラ50からの信号により、切換弁43が連通状態になると、第2の液圧ポンプ13は、流路202,203、切換弁43、および流路213,214を介して、アームシリンダ3と接続されることにより閉回路を構成する。
【0031】
第3の液圧ポンプ14の一対の入出力ポートの片側は、流路204を介して切換弁44,45、比例弁48、およびリリーフ弁21に接続されている。第3の液圧ポンプ14の一対の入出力ポートの反対側は、タンク25へ接続されている。
【0032】
リリーフ弁21は、流路圧が所定の圧力以上になったときに、作動油をタンク25に逃がし回路を保護する。
【0033】
切換弁44,45は、コントローラ50からの信号により、流路の連通と遮断を切り換える。コントローラ50からの信号が無い場合は、切換弁44,45は、遮断状態である。
【0034】
切換弁44は、流路210を介してブームシリンダ1に接続されている。
【0035】
切換弁45は、流路213を介してアームシリンダ3に接続されている。
【0036】
比例弁48は、コントローラ50からの信号により、開口面積を変化させ、通過流量を制御する。コントローラ50からの信号が無い場合、比例弁48は最大開口面積に保持される。また、切換弁44,45が遮断状態の時、コントローラ50は、第3の液圧ポンプ14の吐出流量に応じてあらかじめ決めた開口面積となるように比例弁48に信号を与える。
【0037】
第4の液圧ポンプ15の一対の入出力ポートの片側は、流路205を介して切換弁46,47、比例弁49、およびリリーフ弁22に接続されている。第4の液圧ポンプ15の一対の入出力ポートの反対側は、タンク25へ接続されている。
【0038】
リリーフ弁22は、流路圧が所定の圧力以上になったときに、作動油をタンク25に逃がし回路を保護する。
【0039】
切換弁46,47は、コントローラ50からの信号により、流路の連通と遮断を切り換える。コントローラ50からの信号が無い場合は、切換弁46,47は、遮断状態である。
【0040】
切換弁46は、流路210を介してブームシリンダ1に接続されている。
【0041】
切換弁47は、流路213を介してアームシリンダ3に接続されている。
【0042】
比例弁49は、コントローラ50からの信号により、開口面積を変化させ、通過流量を制御する。コントローラ50からの信号が無い場合、比例弁49は最大開口面積に保持される。また、切換弁46,47が遮断状態の時、コントローラ50は、第4の液圧ポンプ15の吐出流量に応じてあらかじめ決めた開口面積となるように比例弁49に信号を与える。
【0043】
チャージポンプ11の吐出口は、流路212を介して、チャージ用リリーフ弁20、およびチャージ用チェック弁26,27,28a,28b,29a,29bに接続されている。
【0044】
チャージポンプ11の吸込口は、タンク25に接続されている。
【0045】
チャージ用リリーフ弁20は、チャージ用チェック弁26,27,28a,28b,29a,29bのチャージ圧力を調整する。
【0046】
チャージ用チェック弁26は、流路200,201の圧力が、チャージ用リリーフ弁20で設定した圧力下回った場合、流路200,201にチャージポンプ11の圧油を供給する。
【0047】
チャージ用チェック弁27は、流路202,203の圧力が、チャージ用リリーフ弁20で設定した圧力下回った場合、流路202,203にチャージポンプ11の圧油を供給する。
【0048】
チャージ用チェック弁28a,28bは、流路210,211の圧力が、チャージ用リリーフ弁20で設定した圧力下回った場合、流路210,211にチャージポンプ11の圧油を供給する。
チャージ用チェック弁29a,29bは、流路213,214の圧力が、チャージ用リリーフ弁20で設定した圧力下回った場合、流路213,214にチャージポンプ11の圧油を供給する。
【0049】
流路200,201に設けられたリリーフ弁30a,30bは、流路圧が所定の圧力以上になったときに、作動油を、チャージ用リリーフ弁20を介して、タンク25に逃がし回路を保護する。
【0050】
流路202,203に設けられたリリーフ弁31a,31bは、流路圧が所定の圧力以上になったときに、作動油を、チャージ用リリーフ弁20を介して、タンク25に逃がし回路を保護する。
【0051】
流路210は、ブームシリンダ1のヘッド室1aに接続されている。
【0052】
流路211は、ブームシリンダ1のロッド室1bに接続されている。
【0053】
ブームシリンダ1は、作動油の供給を受けて伸縮作動する液圧片ロッドシリンダである。ブームシリンダ1の伸縮方向は作動油の供給方向に依存する。
【0054】
流路210,211に設けられたリリーフ弁32a,32bは、流路圧が所定の圧力以上になったときに、作動油を、チャージ用リリーフ弁20を介して、タンク25に逃がし回路を保護する。
【0055】
流路210,211に設けられたフラッシング弁34は、流路内の余剰油を、チャージ用リリーフ弁20を介して、タンク25に排出する。
【0056】
流路213は、アームシリンダ3のヘッド室3aに接続されている。
【0057】
流路214は、アームシリンダ3のロッド室3bに接続されている。
【0058】
アームシリンダ3は、作動油の供給を受けて伸縮作動する液圧片ロッドシリンダである。アームシリンダ3の伸縮方向は作動油の供給方向に依存する。
【0059】
流路213,214に設けられたリリーフ弁33a,33bは、流路圧が所定の圧力以上になったときに、作動油を、チャージ用リリーフ弁20を介して、タンク25に逃がし回路を保護する。
【0060】
流路210,211に設けられたフラッシング弁35は、流路内の余剰油を、チャージ用リリーフ弁20を介して、タンク25に排出する。
【0061】
流路210に接続された圧力センサ60aは、流路210の圧力を計測し、コントローラ50に入力する。圧力センサ60aは、流路210の圧力を計測することにより、ブームシリンダ1のヘッド室圧力を計測する。
【0062】
流路211に接続された圧力センサ60bは、流路211の圧力を計測し、コントローラ50に入力する。圧力センサ60bは、流路211の圧力を計測することにより、ブームシリンダ1のロッド室圧力を計測する。
【0063】
流路213に接続された圧力センサ61aは、流路213の圧力を計測し、コントローラ50に入力する。圧力センサ61aは、流路213の圧力を計測することにより、アームシリンダ3のヘッド室圧力を計測する。
【0064】
流路214に接続された圧力センサ61bは、流路214の圧力を計測し、コントローラ50に入力する。圧力センサ61bは、流路214の圧力を計測することにより、アームシリンダ3のロッド室圧力を計測する。
【0065】
レバー51は、オペレータからの各アクチュエータに対する操作量をコントローラ50に入力する。
【0066】
図3は、
図2に示すコントローラ50の機能ブロック図である。なお、
図3では、
図2と同様に、ブームシリンダ1およびアームシリンダ3の駆動に関わる部分のみを示し、その他のアクチュエータの駆動に関わる部分は省略している。
【0067】
図3において、コントローラ50は、要求速度演算部50aと、アクチュエータ圧力演算部50bと、要求トルク推定部50cと、要求速度制限部50dと、指令演算部50eとを備えている。
【0068】
要求速度演算部50aは、オペレータのレバー入力に対して、各アクチュエータの動作方向、および要求速度を演算し、要求トルク推定部50c、および要求速度制限部50dに出力する。
【0069】
アクチュエータ圧力演算部50bは、各部に設けた圧力センサ60a,60b,61a,61bの値から、アクチュエータ1,3の圧力(以下、アクチュエータ圧力)を演算し、要求トルク推定部50c、および指令演算部50eに出力する。
【0070】
要求トルク推定部50cは、要求速度演算部50aから入力された要求速度、およびアクチュエータ圧力演算部50bから入力されたアクチュエータ圧力に基づいて、オペレータのレバー入力に応じてアクチュエータ1,3を駆動した場合にエンジン9にかかるトルク(以下、要求トルク)を推定する。
【0071】
要求速度制限部50dは、要求トルク推定部50cから入力された要求トルクに基づき、要求トルクの変化率(以下、要求トルク変化率)を計算する。そして、要求トルク変化率がエンジン9の特性に基づいて予め設定された許容トルク変化率(後述)を超えないように、要求速度演算部50aから入力された要求速度を制限し、指令演算部50eに出力する。
【0072】
指令演算部50eは、アクチュエータ圧力演算部50bから入力されたアクチュエータ圧力、および要求速度制限部50dから入力された要求速度に基づき、切換弁40〜47、比例弁48,49、およびレギュレータ12a,13a,14a,15aへの指令値を演算する。
【0073】
次に、
図2に示した液圧駆動装置300の動作を説明する。
【0074】
(1)非操作時
図2において、レバー51が非操作時は、第1〜第4の液圧ポンプ12〜15は全て最小傾転角に制御され、切換弁40〜47は全て閉じられ、ブームシリンダ1およびアームシリンダ3は停止状態で保持される。
【0075】
(2)ブーム上げ動作時
図4に、液圧駆動装置300でブームシリンダ1の伸長動作を行った場合のレバー51の入力、レバー51の入力に基づく要求シリンダ速度、第1の液圧ポンプ12の要求吐出流量と第2の液圧ポンプ13の要求吐出流量の和、第3の液圧ポンプ14の要求吐出流量と第4の液圧ポンプ15の要求吐出流量の和、圧力センサ60a,60bで計測したブームシリンダ1のヘッド室圧力とロッド室圧力、エンジン負荷トルク、第1の液圧ポンプ12の吐出流量、第2の液圧ポンプ13の吐出流量、第3の液圧ポンプ14の吐出流量、および第4の液圧ポンプ15の吐出流量の変化を示す。
【0076】
時刻t0から時刻t1にかけて、レバー51の入力は0であり、ブームシリンダ1は静止している。
【0077】
時刻t1から時刻t2にかけて、レバー51の入力はブームシリンダ1を伸長する指令値が最大値まで上げられる。
【0078】
図5は、コントローラ50のポンプ負荷トルク制御の流れを示すフローチャートである。
【0079】
まず、ステップS1において、コントローラ50は、レバー51の入力値Linから要求シリンダ速度Vcyl_dを決定する。
【0080】
【数1】
【0081】
次に、ステップS2において、コントローラ50は、要求シリンダ速度Vcyl_dから、第1の液圧ポンプ12の要求吐出流量と第2の液圧ポンプ13の要求吐出流量の和Qcp_dと、第3の液圧ポンプ14の要求吐出流量と第4の液圧ポンプ15の要求吐出流量の和Qop_dを、例えば以下の様に計算する。
【0082】
要求シリンダ速度Vcyl_dでシリンダを伸長する場合、ロッドから流出する流量Qcyl_rは、ロッド室の受圧面積をAcyl_rとすると、
【0083】
【数2】
であり、ヘッド室に流入する流量Qcyl_hは、ヘッド室の受圧面積をAcyl_hとすると、
【0084】
【数3】
となる。
【0085】
シリンダと閉回路状に接続される第1の液圧ポンプ12の要求吐出流量と第2の液圧ポンプ13の要求吐出流量の和Qcp_dは、シリンダロッド室からの流出流量に等しいため、
【0086】
【数4】
となる。
【0087】
また、シリンダのロッド室とヘッド室を閉回路状に接続する際に、受圧面積差によって生じる流量不足分を補償するため、第3の液圧ポンプ14の要求吐出流量と第4の液圧ポンプ15の要求吐出流量の和Qop_dは、
【0088】
【数5】
となる。ここで、ロッド室の受圧面積をAcyl_rと、ヘッド室の受圧面積をAcyl_hの比を、
【0089】
【数6】
とすると、式(5)は、
【0090】
【数7】
となる。
【0091】
同じくステップS2において、コントローラ50は、圧力センサ60a,60bで計測したブームシリンダ1のヘッド室圧力Pcyl_hとロッド室圧力Pcyl_rと、第1の液圧ポンプ12の要求吐出流量と第2の液圧ポンプ13の要求吐出流量の和Qcp_dと、第3の液圧ポンプ14の要求吐出流量と第4の液圧ポンプ15の要求吐出流量の和Qop_dから、レバー51の入力通りにブームシリンダ1を駆動した場合に第1〜第4の液圧ポンプ12〜15が発生する要求トルクTp_dを、例えば以下の様に計算する。
【0092】
まず、シリンダを伸長させる場合の第1の液圧ポンプ12の要求トルクと第2の液圧ポンプ13の要求トルクの和Tcp_dは、
【0093】
【数8】
となる。ここで、Nengはエンジン回転数、Plossはシリンダからポンプまでの管路で発生する圧力損失、ηcpは第1の液圧ポンプ12と第2の液圧ポンプ13のポンプ効率である。
【0094】
また、シリンダを伸長させる場合の第3の液圧ポンプ14の要求トルクと第4の液圧ポンプ15の要求トルクの和Top_dは、
【0095】
【数9】
となる。ここで、ηopは第3の液圧ポンプ14と第4の液圧ポンプ15のポンプ効率である。
【0096】
以上より、液圧ポンプ12〜15が発生させる要求トルクTp_dは、以下の式で表される。
【0097】
【数10】
【0098】
次に、ステップS3において要求トルクTp_dの変化率(要求トルク変化率)を計算する。要求トルク変化率は、例えば、要求トルクTp_dからエンジン9が現在出力しているトルクを差し引いた値をコントローラ50の制御周期で除算することにより求められる。
【0099】
次に、ステップS4において、コントローラ50は、ステップS3で計算した要求トルク変化率が許容トルクTp_limの変化率(以下、許容トルク変化率)以下である場合はステップS6に進み、そうでない場合はステップS5に進む。許容トルクTp_limは、エンジン9が出力可能なトルクであり、エンジン9の燃料噴射量、ターボ圧等の情報から計算することができる。ここで、許容トルクTp_limおよび許容トルク変化率は以下の様に求めても良い。
【0100】
ターボ付きエンジンの場合、無負荷状態からエンジンに負荷が掛かると、ターボ圧が上昇するまで設計最大トルクが出力できない。例えば、
図6に示す通り、エンジンにt1からt2にかけて最小値から最大値まで負荷を上げると、要求トルクの上昇に対してエンジン出力トルクの上昇が間に合わず、エンジン回転数が許容最小回転数を下回ってしまう。一方、t1からt3にかけて最小値から最大値まで負荷を上げると、負荷トルクの上昇に対してエンジン出力トルクの上昇が間に合うため、エンジン回転数は許容最小回転数を下回ることはない。そこで、エンジン回転数の低下が許容最小回転数までに抑えられる最大トルク変化率を許容トルク変化率とし、許容トルク変化率を満たす最大出力トルクを許容トルクTp_limとする。例えば、現時点のエンジン出力トルクに許容トルク変化率とコントローラ50の制御周期との積を加算することにより求められる。すなわち、本発明における許容トルクTp_limは、現時点のエンジン出力トルクに応じて時々刻々と変化する。なお、ステップS4では、要求トルク変化率が許容トルク変化率以下であるか否かを判定しているが、この判定は、要求トルクTp_dが許容トルクTp_lim以下であるか否かの判定と同じである。
【0101】
ステップS5において、コントローラ50は、要求トルク変化率が許容トルク変化率以下になるように(すなわち、要求トルクTp_dが許容トルクTp_lim以下になるように)、要求シリンダ速度Vcyl_dを制限する。制限した要求シリンダ速度Vcyl_d’を、例えば以下の様に求めることができる。
【0102】
ステップS2において求めた要求トルクTp_dに対して、エンジン9は許容トルクTp_limまでしか出力できないため、第1の液圧ポンプ12の要求トルクと第2の液圧ポンプ13の要求トルクの和Tcp_dと、第3の液圧ポンプ14の要求トルクと第4の液圧ポンプ15の要求トルクの和Top_dを、
【0103】
【数11】
となるように抑制する必要がある。式(7),(8),(9)より、
【0104】
【数12】
となる。ここで、
【0105】
【数13】
である。更に式(2)より、
【0106】
【数14】
となるから、制限したシリンダ速度Vcyl_d’は、
【0107】
【数15】
と求めることができる。
【0108】
ステップS6において、コントローラ50は、要求シリンダ速度Vcyl_dに基づき、第1の液圧ポンプ12の要求吐出流量Qcp1_d、第2の液圧ポンプ13の要求吐出流量Qcp2_d、第3の液圧ポンプ14の要求吐出流量Qop1_d、および第4の液圧ポンプ15の要求吐出流量Qop2_dを計算する。
【0109】
図5に示す処理フローによれば、
図4に示す時刻t1から時刻t2にかけて、レバー51の入力がブームシリンダ1を伸長する指令値が最大値まで上げられると、コントローラ50は、レバー51の入力から要求シリンダ速度Vcyl_dを計算する。次に、コントローラ50は、要求シリンダ速度Vcyl_dから、式(2),(4)を用いて、第1の液圧ポンプ12の要求吐出流量と第2の液圧ポンプ13の要求吐出流量の和Qcp_dを計算し、式(3),(5)を用いて、第3の液圧ポンプ14の要求吐出流量と第4の液圧ポンプ15の要求吐出流量の和Qop_dを計算する。コントローラ50は、計算した要求吐出流量と、圧力センサ60a,60bで計測したブームシリンダ1のヘッド室圧力とロッド室圧力から、式(8),(9),(10)を用いて、要求トルクTp_dを計算する。
【0110】
図4に示す通り、要求トルクTp_dが時刻t1から時刻t2にかけて最大値に増加するのに対して、エンジン9の許容トルクTp_limが、エンジン9の定格最大トルクになるのに時刻t1から時刻t3までかかるとすると、時刻t1から時刻t3にかけて、コントローラ50は、要求トルクTp_dがエンジン9の許容トルクTp_lim以下になるように、式(15)を用いて、制限したシリンダ速度Vcyl_d’を計算する。
【0111】
コントローラ50は、制限したシリンダ速度Vcyl_d’に基づき、第1の液圧ポンプ12の吐出流量Qcp12、第2の液圧ポンプ13の吐出流量Qcp13、第3の液圧ポンプ14の要求吐出流量Qop14、および第4の液圧ポンプ15の要求吐出流量Qop15を計算する。
【0112】
以上の様に制御することにより、エンジン9をラグダウンさせることなく油圧ショベル100を動作させることが可能になる。
【0113】
なお、アクチュエータ圧に基づいて馬力を計算する場合、アクチュエータ圧の変動によりポンプ傾転角が振動的になってしまうのを防ぐため、例えば、エンジン回転数が安定し、圧力変動が規定値以下の間は移動平均等のフィルター処理によりアクチュエータ圧の変動を抑制してもよい。また、本実施例では、ポンプを1台ずつ立ち上げたが、同時に立ち上げてもよい。
【0114】
(3)ブーム下げ+アームダンプ動作時
図7に、液圧駆動装置300でブームシリンダ1の収縮動作とアームシリンダ3の収縮動作とを同時に行った場合のレバー51の入力、レバー51の入力に基づく要求シリンダ速度、圧力センサ60a,60bで計測したブームシリンダ1のヘッド室圧力とロッド室圧力、圧力センサ61a,61bで計測したアームシリンダ3のヘッド室圧力とロッド室圧力、第1および第2の液圧ポンプ12,13の各要求吐出流量、比例弁48,49の各要求通過流量、エンジン負荷トルク、第1および第2の液圧ポンプ12,13の各吐出流量、比例弁48,49の各通過流量の変化を示す。
【0115】
時刻t0から時刻t1にかけて、レバー51の入力は0であり、ブームシリンダ1とアームシリンダ3は静止している。
【0116】
時刻t1から時刻t2にかけて、レバー51の入力はブームシリンダ1とアームシリンダ3を収縮する指令値が最大値まで上げられる。
【0117】
図5に示す処理フローによれば、
図7に示す時刻t1から時刻t2にかけて、レバー51の入力がブームシリンダ1と、アームシリンダ3を収縮する指令値が最大値まで上げられると、コントローラ50は、レバー51の入力から要求ブームシリンダ速度Vcyl_boom_dと、要求アームシリンダ速度Vcyl_arm_dを計算する。
【0118】
ここで、コントローラ50は、ブームシリンダ1の駆動用に第1の液圧ポンプ12を割り当て、アームシリンダ3の駆動用に第2の液圧ポンプ13を割り当てる。
【0119】
コントローラ50は、要求ブームシリンダ速度Vcyl_boom_dから、式(2),(4)を用いて、第1の液圧ポンプ12の要求吐出流量Qcp12_dを計算する。また、コントローラ50は、要求アームシリンダ速度Vcyl_arm_dから、式(2),(4)を用いて、第2の液圧ポンプ13の要求吐出流量Qcp13_dを計算する。
【0120】
シリンダを収縮する場合、ヘッド室から流出する流量Qcyl_hと、ロッド室に流入する流量Qcyl_rの差分によって生じる余剰流量は、第1および第2比例弁48,49によりタンク25に排出される。第1および第2比例弁48,49の要求通過流量Qpv_dは、
【0121】
【数16】
となり、式(6)より、
【0122】
【数17】
となる。
【0123】
ここで、コントローラ50は、ブームシリンダ1の余剰流量排出用に比例弁48を割り当て、アームシリンダ3の余剰流量排出様に比例弁49を割り当てる。
【0124】
コントローラ50は、要求ブームシリンダ速度Vcyl_boom_dから、式(3),(16)を用いて、比例弁48の要求通過流量Qpv48_dを計算する。また、コントローラ50は、要求アームシリンダ速度Vcyl_arm_dから、式(3),(16)を用いて、比例弁49の要求通過流量Qpv49_dを計算する。
【0125】
シリンダを収縮する場合、第3の液圧ポンプ14と第4の液圧ポンプ15を使用しないため、第3の液圧ポンプ14の要求トルクと第4の液圧ポンプ15の要求トルクの和Top_dは、0になる。
【0126】
コントローラ50は、計算した要求流量と、圧力センサ60a,60bで計測したブームシリンダ1のヘッド室圧力とロッド室圧力、圧力センサ61a,61bで計測したアームシリンダ3のヘッド室圧力とロッド室圧力から、式(8),(10)を用いて、要求トルクTp_dを計算する。
【0127】
図7に示す通り、ブームシリンダ1のヘッド室圧力がロッド室圧力より高い場合、ブームシリンダ1を伸長するブーム上げの時は、第1の液圧ポンプ12の吐出圧が吸込圧より高くなるため、第1の液圧ポンプ12はポンプとして動作する。一方で、ブームシリンダ1を収縮するブーム下げ時は、第1の液圧ポンプ12の吸込圧が吐出圧より高くなるため、第1の液圧ポンプ12はモータとして動作する。
【0128】
図7に示す通り、アームシリンダ3のロッド室圧力がヘッド室圧力より高い場合、アームシリンダ3を収縮するアームダンプの時は、第2の液圧ポンプ13の吐出圧が吸込圧より高くなるため、第2の液圧ポンプ13はポンプとして動作する。一方で、ブーム下げ時は、第2の液圧ポンプ13の吸込圧が吐出圧より高くなるため、第2の液圧ポンプ13はモータとして動作する。
【0129】
従って、レバー51の入力がブーム下げ、アームダンプの場合、第1の液圧ポンプ12はモータとして動作し、第2の液圧ポンプ13はポンプとして動作するため、第1の液圧ポンプ12の要求トルクと第2の液圧ポンプ13の要求トルクの和Tcp_dは、第1の液圧ポンプ12と第2の液圧ポンプ13が共にポンプとして動作するブーム単独動作時よりも低くなる。
【0130】
図7に示す通り、要求トルクTp_dが時刻t1から時刻t2にかけて最大値に増加するのに対して、エンジン9の許容トルクTp_limが、時刻t1から時刻t2までに要求トルクを出力可能である場合、
図5に示す処理フローによれば、要求速度通りに出力可能になる。コントローラ50は、要求ブームシリンダ速度Vcyl_boom_dと、要求アームシリンダ速度Vcyl_arm_dから、第1の液圧ポンプ12の吐出流量Qcp1、第2の液圧ポンプ13の吐出流量Qcp2、比例弁48の通過流量Qpv48、および比例弁49の通過流量Qpv49を計算する。
【0131】
以上の様に制御することにより、エンジン9をラグダウンさせることなく油圧ショベル100を動作させることが可能になる。
【0132】
式(15)に示した通り、アクチュエータ圧に基づいて制限したシリンダ速度Vcyl_d’を計算する場合、アクチュエータ圧の振動により、シリンダ速度Vcyl_d’が振動的になってしまうのを防ぐため、例えば、エンジン回転数が安定し、圧力変動が規定値以下の間は移動平均等のフィルター処理によりアクチュエータ圧の振動を抑制してもよい。
【0133】
(4)ブーム上げ+アームダンプ動作時
図8に、液圧駆動装置300でブームシリンダ1の伸長動作とアームシリンダ3の収縮動作とを同時に行った場合のレバー51の入力、レバー51の入力に基づく要求シリンダ速度、圧力センサ60a,60bで計測したブームシリンダ1のヘッド室圧力とロッド室圧力、圧力センサ61a,61bで計測したアームシリンダ3のヘッド室圧力とロッド室圧力、第1〜第3の液圧ポンプ12〜14の各要求吐出流量、比例弁49の要求通過流量、エンジン負荷トルク、第1〜第3の液圧ポンプ12〜14の各吐出流量、比例弁49の通過流量の変化を示す。
【0134】
時刻t0から時刻t1にかけて、レバー51の入力は0であり、ブームシリンダ1とアームシリンダ3は静止している。
【0135】
時刻t1から時刻t2にかけて、レバー51の入力はブームシリンダ1を伸長する指令値と、アームシリンダ3を収縮する指令値が最大値まで上げられる。
【0136】
図5に示す処理フローによれば、
図8に示す時刻t1から時刻t2にかけて、レバー51の入力がブームシリンダ1と、アームシリンダ3を収縮する指令値が最大値まで上げられると、コントローラ50は、レバー51の入力から要求ブームシリンダ速度Vcyl_boom_dと、要求アームシリンダ速度Vcyl_arm_dを計算する。
【0137】
ここで、コントローラ50は、ブームシリンダ1の駆動用に第1の液圧ポンプ12と第3の液圧ポンプ14を、アームシリンダ3の駆動用に第2の液圧ポンプ13と比例弁49を割り当てる。
【0138】
コントローラ50は、要求ブームシリンダ速度Vcyl_boom_dから、式(2),(4)を用いて、第1の液圧ポンプ12の要求吐出流量Qcp12_dを計算する。また、コントローラ50は、要求アームシリンダ速度Vcyl_arm_dから、式(2),(4)を用いて、第2の液圧ポンプ13の要求吐出流量Qcp13_dを計算する。
【0139】
式(3),(5)を用いて、第3の液圧ポンプ14の要求吐出流量と第4の液圧ポンプ15の要求吐出流量の和Qop_dを計算する。
【0140】
コントローラ50は、要求ブームシリンダ速度Vcyl_boom_dから、式(3),(5)を用いて、第3の液圧ポンプ14の要求吐出流量Qop14_dを計算する。
【0141】
コントローラ50は、要求アームシリンダ速度Vcyl_arm_dから、式(3),(16)を用いて、比例弁49の要求通過流量Qpv49_dを計算する。
【0142】
コントローラ50は、計算した要求流量と、圧力センサ60a,60bで計測したブームシリンダ1のヘッド室圧力とロッド室圧力、圧力センサ61a,61bで計測したアームシリンダ3のヘッド室圧力とロッド室圧力から、式(8),(9)を用いて、第1の液圧ポンプ12の要求トルクTcp12_d、第2の液圧ポンプ13の要求トルクTcp13_d、第3の液圧ポンプ14の要求トルクTop14_dを計算する。この時、要求トルクTp_dは、
【0143】
【数18】
となる。
【0144】
図8に示す通り、要求トルクTp_dが時刻t1から時刻t2にかけて最大値に増加するのに対して、エンジン9の許容トルクTp_limが、エンジン9の定格最大トルクになるのに時刻t1から時刻t3までかかるとすると、時刻t1から時刻t3にかけて、コントローラ50は、
【0145】
【数19】
となるように、制限したブームシリンダ速度Vcyl_boom_d’と、制限したアームシリンダ速度Vcyl_arm_d’を計算する。式(2),(7),(8),(9)より、
【0146】
【数20】
となる。ここで、
【0147】
【数21】
である。要求ブームシリンダ速度Vcyl_boom_dと要求アームシリンダ速度Vcyl_arm_dの比を、
【0148】
【数22】
とし、これを一定に保つように制限したブームシリンダ速度Vcyl_boom_d’と、制限したアームシリンダ速度Vcyl_arm_d’を計算する。式(20),(22)より、制限したブームシリンダ速度Vcyl_boom_d’は、
【0149】
【数23】
となり、制限したアームシリンダ速度Vcyl_arm_d’は、
【0150】
【数24】
となる。コントローラ50は、制限したブームシリンダ速度Vcyl_boom_d’に基づき、第1の液圧ポンプ12の吐出流量Qcp12と第3の液圧ポンプ14の要求吐出流量Qop14を計算し、制限したアームシリンダ速度Vcyl_arm_d’に基づき、第2の液圧ポンプ13の吐出流量Qcp13、および比例弁49の通過流量Qpv49を計算する。
【0151】
以上の様に制御することにより、レバー51の入力によって決定した各アクチュエータの要求速度比を保ったまま、エンジン9をラグダウンさせることなく油圧ショベル100を動作させることが可能になる。
【0152】
本実施例では、エンジン9と、エンジン9によって駆動される可変容量型の液圧ポンプ12〜15と、液圧ポンプ12〜15から吐出された圧液によって駆動される液圧アクチュエータ1,3と、液圧アクチュエータ1,3と液圧ポンプ12〜15との接続を切換可能な制御弁40〜47と、液圧アクチュエータ1,3の各負荷圧を検出する圧力検出装置60a,60b,61a,61bと、液圧アクチュエータ1,3の各動作方向および各要求速度を指示する操作装置51と、操作装置51からの入力に応じて液圧ポンプ12〜15の各吐出流量を制御するコントローラ50とを備えた油圧ショベル100において、コントローラ50は、液圧アクチュエータ1,3の各要求速度と各負荷圧とに基づき、液圧ポンプ12〜15がエンジン9に要求する各トルクの合計である要求トルクTp_dを推定する要求トルク推定部50cと、要求トルクTp_dの変化率である要求トルク変化率が所定の変化率(許容トルク変化率)を上回った場合に、前記要求トルク変化率が前記所定の変化率以下になるように液圧アクチュエータ1,3の各要求速度を制限する要求速度制限部50dと、前記要求トルクの変化率である要求トルク変化率が前記所定の変化率を上回った場合に、前記要求トルク変化率が前記所定の変化率以下になるように液圧アクチュエータ1,3の各要求速度を制限する要求速度制限部50dと、要求速度制限部50dによって制限された液圧アクチュエータ1,3の各要求速度に基づき、液圧アクチュエータ1,3に対する液圧ポンプ12〜15の割り当てを決定し、液圧ポンプ12〜15の各吐出流量を演算する指令演算部50eとを有する。
【0153】
また、液圧ポンプ11,12は、それぞれ、一対の入出力ポートを有する両吐出型の液圧ポンプであり、制御弁40〜43は、液圧ポンプ11,12と液圧アクチュエータ1,3との接続を切換可能な切換弁である。
【0154】
以上のように構成した本実施例によれば、片吐出型の液圧ポンプ11,12からアクチュエータ1,3に供給される圧油の流れを切換弁40〜43で制御する液圧駆動装置300を搭載した油圧ショベル100において、液圧アクチュエータ1,3の要求速度および液圧アクチュエータ1,3の負荷圧に基づいてエンジン9に対する要求トルクTp_dが推定され、要求トルク変化率が所定の変化率(許容トルク変化率)を上回った場合に、要求トルク変化率が所定の変化率以下になるように液圧アクチュエータ1,3の要求速度が制限される。これにより、オペレータの操作内容や液圧アクチュエータ1,3の負荷状態にかかわらず、エンジン9のラグダウンを抑制することが可能となる。
【0155】
また、指令演算部50eは、液圧アクチュエータ1,3のうちの1つの液圧アクチュエータに2台以上の液圧ポンプを割り当てた状態で、要求トルク変化率が所定の変化率(許容トルク変化率)を上回った場合に、要求速度制限部50dによって制限された前記1つの液圧アクチュエータの要求速度に応じて前記1つの液圧アクチュエータに割り当てる液圧ポンプの台数を減らすように構成されている。これにより、使用中の液圧ポンプの燃費効率を向上するとともに、未使用の液圧ポンプの台数を増やすことにより、新たに操作されるアクチュエータに対する液圧ポンプの割り当てが容易となる。
【0156】
なお、本実施例では、式(1)によりレバー51の入力から要求シリンダ速度Vcyl_dが一意に決まるものとしたが、各アクチュエータの負荷状態や、レバー51の入力値のバランスにより、要求シリンダ速度Vcyl_dを変化させる計算機能をコントローラ50に持たせてもよい。
【実施例2】
【0157】
本発明の第2の実施例に係る油圧ショベル100について、第1の実施例との相違点を中心に説明する。
【0158】
図9は、本実施例における液圧駆動装置の概略構成図である。
図9において、第1の実施例(
図2に示す)との相違点は、アームシリンダ3を旋回モータ7に置き換えた点である。
【0159】
流路215は、旋回モータ7のaポートに接続されている。
【0160】
流路216は、旋回モータ7のbポートに接続されている。
【0161】
旋回モータ7は、作動油の供給を受けて回転する液圧モータである。旋回モータ7の回転方向は作動油の供給方向に依存する。
【0162】
流路215,216に設けられたリリーフ弁37a,37bは、流路圧が所定の圧力以上になったときに、作動油を、チャージ用リリーフ弁20を介して、タンク25に逃がし回路を保護する。
【0163】
流路215,216に設けられたフラッシング弁38は、流路内の余剰油を、チャージ用リリーフ弁20を介して、タンク25に排出する。
【0164】
流路215に接続された圧力センサ62aは、流路215の圧力を計測し、コントローラ50に入力する。圧力センサ62aは、流路215の圧力を計測することにより、旋回モータ7のaポート圧力Pswing_aを計測する。
【0165】
流路216に接続された圧力センサ62bは、流路216の圧力を計測し、コントローラ50に入力する。圧力センサ62bは、流路216の圧力を計測することにより、旋回モータ7のbポート圧力Pswing_bを計測する。
【0166】
図10は、
図9に示すコントローラ50のポンプ負荷トルク制御の流れを示すフローチャートである。
図10において、第1の実施例(
図5に示す)との相違点は、ステップS5に代えて、ステップS5a〜S5fを備えている点である。以下、相違点を説明する。
【0167】
ステップS5aにおいて、コントローラ50は、ブーム及び旋回の複合操作が行われている場合はステップS5bに進み、そうでない場合はステップS5fに進む。
【0168】
ステップS5bにおいて、コントローラ50は、旋回モータ7の要求トルクが全体の許容トルクTp_limの所定の割合以下になるように旋回モータ7の要求速度を制限する。
【0169】
ステップS5cにおいて、コントローラ50は、要求速度を制限した旋回モータ7の要求トルクと他の旋回モータ7以外のアクチュエータの要求トルクの合計が全体の許容トルクTp_limを超える場合はステップS5dに進み、そうでない場合はステップS5eに進む。
【0170】
ステップS5dにおいて、コントローラ50は、レバー51の入力値Linから旋回モータ7以外のアクチュエータの要求速度を決定する。
【0171】
ステップS5eにおいて、コントローラ50は、各アクチュエータの要求速度比を保ったまま各アクチュエータの要求トルクの合計が全体の許容トルクTp_lim以下になるように、旋回モータ7以外のアクチュエータの要求速度を制限する。
【0172】
ステップS5fにおいて、コントローラ50は、各アクチュエータの要求速度比を保ったまま各アクチュエータの要求トルクの合計が全体の許容トルクTp_lim以下となるように、各アクチュエータの要求速度を制限する。
【0173】
次に、
図9に示した液圧駆動装置300Aの動作を説明する。
【0174】
(1)非操作時
図9において、レバー51が非操作時は、第1〜第4の液圧ポンプ12〜15は全て最小傾転角に制御され、切換弁40〜44,46は全て閉じられ、ブームシリンダ1および旋回モータ7は停止状態で保持される。
【0175】
(2)ブーム上げ+旋回動作時
図11に、液圧駆動装置300でブームシリンダ1の伸長動作と旋回モータ7の旋回動作とを同時に行った場合のレバー51の入力、レバー51の入力に基づく要求シリンダ速度と要求旋回速度、圧力センサ60a,60bで計測したブームシリンダ1のヘッド室圧力とロッド室圧力、圧力センサ62a,62bで計測した旋回モータ7のaポート圧力とbポート圧力、第1〜第3の液圧ポンプ12〜14の各要求吐出流量、エンジン負荷トルク、および第1〜第3の液圧ポンプ12〜14の各吐出流量の変化を示す。
【0176】
時刻t0から時刻t1にかけて、レバー51の入力は0であり、ブームシリンダ1と旋回モータ7は静止している。
【0177】
時刻t1から時刻t2にかけて、レバー51の入力はブームシリンダ1を伸長する指令値と、旋回モータ7を回転する指令値が最大値まで上げられる。
【0178】
図5に示す処理フローによれば、
図11に示す時刻t1から時刻t2にかけて、レバー51の入力がブームシリンダ1と、旋回モータ7を回転する指令値が最大値まで上げられると、コントローラ50は、レバー51の入力から要求ブームシリンダ速度Vcyl_boom_dと、要求旋回速度Wswing_dを計算する。
【0179】
ここで、コントローラ50は、ブームシリンダ1の駆動用に第1の液圧ポンプ12と第3の液圧ポンプ14を、旋回モータ7の駆動用に第2の液圧ポンプ13を割り当てる。
【0180】
コントローラ50は、要求ブームシリンダ速度Vcyl_boom_dから、式(2),(4)を用いて、第1の液圧ポンプ12の要求吐出流量Qcp12_dを計算する。
【0181】
ここで、旋回モータ7の吐出容積をDswingとすると、旋回モータ7から流出する流量Qswingは、
【0182】
【数25】
となる。旋回モータ7と閉回路状に接続される第2の液圧ポンプ13の要求吐出流量Qcp_dは、旋回モータ7からの流出流量に等しいため、
【0183】
【数26】
となる。式(25),(26)を用いて、第2の液圧ポンプ13の要求吐出流量Qcp13_dを計算する。
【0184】
コントローラ50は、要求ブームシリンダ速度Vcyl_boom_dから、式(3),(5)を用いて、第3の液圧ポンプ14の要求吐出流量Qop14_dを計算する。
【0185】
コントローラ50は、計算した要求流量と、圧力センサ60a,60bで計測したブームシリンダ1のヘッド室圧力とロッド室圧力、圧力センサ62a,62bで計測した旋回モータ7のaポート圧力Pswing_aとbポート圧力Pswing_aから、式(8),(9)を用いて、第1の液圧ポンプ12の要求トルクTcp12_d、第2の液圧ポンプ13の要求トルクTcp13_d、および第3の液圧ポンプ14の要求トルクTop14_dを計算する。この時、要求トルクTp_dは、
【0186】
【数27】
となる。
【0187】
図11に示す通り、要求トルクTp_dが時刻t1から時刻t2にかけて最大値に増加するのに対して、エンジン9の許容トルクTp_limが、エンジン9の定格最大トルクになるのに時刻t1から時刻t3までかかるとすると、時刻t1から時刻t3にかけて、コントローラ50は、
【0188】
【数28】
となるように、制限したブームシリンダ速度Vcyl_boom_d’と、制限した旋回速度Wswing_d’を計算する。
【0189】
ここで、一般的な建設機械が平地で旋回動作を行う場合、
図11に示すとおり、停止中にはaポート圧とbポート圧が低く、旋回加速中に片側ポートの圧力が上がるという特徴がある。特に最大加速度で旋回する場合、片側のポート圧力は、リリーフ弁37a,37bの設定圧力まで上昇する。従って、最大加速度を越えるような要求速度が入力される場合、要求通りの流量をポンプから供給すると、一部の流量はリリーフ弁37a,37bの一方からタンク25へ排出され無駄になってしまう。
【0190】
例えば、第1の実施例の(4)ブーム上げ+アームダンプ動作時の様に、2つのアクチュエータの要求速度比を合わせようと制御する場合、旋回モータ7においては、一部の流量がリリーフ弁37a、または37bから排出され、旋回速度が出ないのみならず、ブームシリンダ1の速度も低くなってしまうことがある。
【0191】
これを抑制するために、ブームシリンダ1と旋回モータ7を組み合わせて動かす場合、旋回モータ7に割り当てる馬力の比率をブームシリンダ1に割り当てる馬力の比率よりも低く設定する。すなわち、エンジン9が出力可能な馬力の50%以下(例えば20%)を旋回モータ7に割り当てる。式(28)より、
【0192】
【数29】
【0193】
となり、
【0194】
【数30】
となる。
【0195】
式(2),(7),(8),(9),(24),(25)より、
【0196】
【数31】
となる。ここで、
【0197】
【数32】
である。式(29),(30),(31)より、制限したブームシリンダ速度Vcyl_boom_d’は、
【0198】
【数33】
となり、制限した旋回速度Wswing_d’は、
【0199】
【数34】
となる。コントローラ50は、制限したブームシリンダ速度Vcyl_boom_d’に基づき、第1の液圧ポンプ12の吐出流量Qcp12と第3の液圧ポンプ14の要求吐出流量Qop14を計算し、制限した旋回速度Wswing_d’に基づき、第2の液圧ポンプ13の吐出流量Qcp13を計算する。
【0200】
本実施例では、液圧アクチュエータ1,7は、1つ以上の液圧シリンダ1と、1つ以上の液圧モータ7とを含み、指令演算部50eは、液圧シリンダ1と液圧モータ7とを同時に駆動している状態で、要求トルク変化率が所定の変化率(許容トルク変化率)を上回った場合に、液圧モータ7に割り当てた液圧ポンプの要求トルクがエンジン9の出力トルクの所定の割合(例えば20%)以下となるように液圧ポンプ12〜15の各吐出流量を演算する。
【0201】
以上のように構成した本実施例に係る油圧ショベル100によれば、旋回開始時の旋回モータ7の圧力上昇に伴いブームシリンダ1の速度が著しく低下することを抑制しつつ、エンジン9をラグダウンさせることなく油圧ショベル100を動作させることが可能になる。