(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る履帯張り調整装置の実施の形態を、油圧ショベルの下部走行体に適用した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
【0014】
図1において、油圧ショベル1は、自走可能なクローラ式の下部走行体2と、下部走行体2上に旋回可能に搭載された上部旋回体3と、上部旋回体3の前側に俯仰動可能に設けられ土砂の掘削作業等を行う作業装置4とからなっている。
図2に示すように、下部走行体2は、後述のトラックフレーム5、遊動輪10、駆動輪11、履帯13、および履帯張り調整装置21を含んで構成されている。
【0015】
トラックフレーム5は、下部走行体2のベースを構成するもので、トラックフレーム5は、上部旋回体3が旋回可能に搭載されるセンタフレーム6と、センタフレーム6を挟んで左,右両側に設けられ、前,後方向に伸長した左,右(右側のみ図示)のサイドフレーム7とにより構成されている。
【0016】
図2、
図3に示すように、サイドフレーム7は、上板7A、下板7B、内側板7C、外側板7Dによって囲まれ前,後方向に延びる角筒体として形成されている。また、サイドフレーム7の外側板7Dには、前,後方向の一側寄りに位置して作業用開口7Eが形成されている。作業用開口7Eは、後述する履帯張り調整装置21の給脂弁32にグリースガン等の給脂具(図示せず)を接続する作業を行うための開口である。さらに、サイドフレーム7の内部には厚肉な支持板7Fが固着して設けられている。支持板7Fには、後述するフレーム側ロッド24のホルダ26が嵌合するホルダ取付孔7Gが形成されている。
【0017】
遊動輪ブラケット8は、サイドフレーム7の前,後方向の一端側に設けられている。この遊動輪ブラケット8は、サイドフレーム7の端部に溶接等によって接合されたフランジ板8Aと、該フランジ板8Aから前側に突出し後述の遊動輪10を支持するために左,右方向で対向した内支持板8B、外支持板8Cと、これら各支持板8B,8Cの上部を一体に連結した上連結板8Dとを含んで構成されている。また、フランジ板8Aには、前,後方向に貫通し後述のヨーク9等が遊挿される貫通孔8Eが形成されている。各支持板8B,8Cの内面側には、後述のヨーク9を前,後方向に摺動可能に案内するガイド部8F,8Gが前,後方向に延びて設けられている。
【0018】
ヨーク9は、遊動輪ブラケット8内に設けられている。このヨーク9は、遊動輪ブラケット8のガイド部8F,8Gに沿って前,後方向に移動可能に配置され、後述の遊動輪10を前,後方向に移動可能に支持するものである。
【0019】
図4に示すように、ヨーク9は、後述するばね部材27の一端側を受ける環状のばね受け部9Aと、ばね受け部9Aから二又状に分岐した左腕部9Bおよび右腕部9Cとにより全体としてV型に形成されている。そして、ばね受け部9Aの内周側は、後述のヨーク側ロッド23が摺動可能に挿通されるロッド挿通孔9Dとなっている。左,右の腕部9B,9Cの先端部には、後述する遊動輪10の軸受部10Bがそれぞれ取付けられている。
【0020】
遊動輪10は、サイドフレーム7の一端側に位置して遊動輪ブラケット8内に回転可能に支持されている。この遊動輪10の中心部には、左,右方向に延びる支持軸10Aが設けられている。支持軸10Aの両端側は、左,右の軸受部10B(右側のみ図示)に回転可能に支持されている。そして、左,右の軸受部10Bは、ヨーク9の左,右の腕部9B,9Cの先端部にボルトを用いて取付けられている。これにより、遊動輪10は、ヨーク9と共に遊動輪ブラケット8のガイド部8F,8Gに沿って前,後方向に移動可能となっている。
【0021】
駆動輪11は、サイドフレーム7の前,後方向の他端側に駆動輪ブラケット12を介して設けられている。駆動輪11は、スプロケット等により構成されている。そして、駆動輪11は、走行用の油圧モータ(図示せず)によって回転駆動されることにより、後述の履帯13を周回動作させるものである。
【0022】
履帯13は、遊動輪10と駆動輪11との間に巻回して取付けられている。この履帯13は、サイドフレーム7の上側では各上ローラ14によりガイドされている。一方、履帯13は、サイドフレーム7の下側では各下ローラ15によりガイドされている。そして、履帯13は、駆動輪11を回転駆動することにより、駆動輪11と遊動輪10との間で周回動作し、不整地等においても油圧ショベル1を安定して走行させる。
【0023】
次に、サイドフレーム7と遊動輪10との間に設けられた履帯張り調整装置21について説明する。
【0024】
履帯張り調整装置21は、サイドフレーム7の内部に設けられている。この履帯張り調整装置21は、遊動輪10と駆動輪11との間で履帯13の張りを調整するものである。そして、履帯張り調整装置21は、チューブ22、ヨーク側ロッド23、フレーム側ロッド24、ばね部材27、グリース室28、グリース通路29、めねじ孔30、給脂弁32、および給脂弁抜止め板41を含んで構成されている。
【0025】
チューブ22は、サイドフレーム7内に前,後方向に延びて設けられている。このチューブ22は、全体として段付円筒状に形成されている。ここで、チューブ22の内周側は、ロッド挿通部22Aとなり、チューブ22の外周側には、前,後方向の他側(駆動輪11側)に位置して鍔状のばね受け部22Bが一体形成されている。
【0026】
ヨーク側ロッド23は、基端側がチューブ22内に摺動可能に挿嵌され、先端側がヨーク9側に突出している。このヨーク側ロッド23は、基端側がチューブ22のロッド挿通部22Aに抜止め状態で摺動可能に挿嵌された円柱状のロッド本体23Aと、ロッド本体23Aの先端側周面部に螺刻されたロッドおねじ部23Bに螺合するナット23Cとを含んで構成されている。
【0027】
ここで、ロッド本体23Aの先端側は、ヨーク9のばね受け部9Aに設けられたロッド挿通孔9Dに摺動可能(移動可能)に挿通されている。そして、ヨーク9のばね受け部9Aは、ロッド本体23Aのロッドおねじ部23Bに螺合するナット23Cによって抜止めされている。また、ナット23Cは、ロッド本体23Aの先端部に設けられた緩止め部材23Dによって緩止めされている。このように、ヨーク側ロッド23とヨーク9とは一体化されており、ヨーク側ロッド23の先端側はヨーク9のロッド挿通孔9Dに移動可能に挿通されている。
【0028】
フレーム側ロッド24は、基端側がチューブ22内に挿嵌され先端側がヨーク9とは反対側(サイドフレーム7の支持板7F側)に向けて突出している。このフレーム側ロッド24は、基端側がチューブ22のロッド挿通部22Aに摺動可能に挿嵌された円柱状のロッド本体25と、ロッド本体25の先端側に圧入等の手段を用いて一体的に取付けられたホルダ26とを含んで構成されている。
【0029】
図4から
図7に示すように、ホルダ26は、ロッド本体25の先端側が圧入される有底筒状のロッド挿嵌筒部26Aと、ロッド挿嵌筒部26Aからロッド本体25とは反対側に向けて突出する取付突起部26Bとを含んで構成されている。ロッド挿嵌筒部26Aは、直方体状の筒体からなり、外周面26A1のうち作業用開口7Eに対応する位置には後述のめねじ孔30が形成されている。また、ロッド挿嵌筒部26Aのチューブ22側の側面26A2には、後述する給脂弁抜止め板41を取付けるためのねじ穴26Cが形成されている。
【0030】
フレーム側ロッド24は、ホルダ26のロッド挿嵌筒部26A内にロッド本体25の先端側が圧入状態で挿嵌されることにより、ロッド本体25とホルダ26とが一体化されている。そして、フレーム側ロッド24のホルダ26は、サイドフレーム7内に設けられた支持板7Fのホルダ取付孔7Gに取付突起部26Bを嵌合させることにより、サイドフレーム7に対して位置決めされている。
【0031】
ばね部材27は、チューブ22とヨーク9のばね受け部9Aとの間に設けられている。このばね部材27は、コイル状の圧縮ばねからなり、チューブ22のばね受け部22Bとヨーク9のばね受け部9Aとの間に縮装されている。ばね部材27は、ヨーク9のばね受け部9Aをヨーク側ロッド23のナット23Cに向けて常時付勢することにより、ヨーク9に支持された遊動輪10を駆動輪11から離間する方向に押圧する。
【0032】
即ち、履帯張り調整装置21は、ばね部材27のばね力によって遊動輪10を駆動輪11から離間する方向に常時押圧し、これにより履帯13に適度な張りを与えている。そして、油圧ショベル1の走行時に履帯13が地面の起伏等に応じて変形したときには、ばね部材27が撓み変形することにより遊動輪10と駆動輪11との間の距離が適宜に変化して履帯13に対して過大な荷重(張力)が作用するのを抑える。
【0033】
グリース室28は、ヨーク側ロッド23の基端とフレーム側ロッド24の基端との間に位置してチューブ22内に形成されている。このグリース室28には、後述のグリース通路29を通じてグリースが供給または排出される。これにより、フレーム側ロッド24は、グリース室28内のグリース量に応じてチューブ22からの突出量が調整される。
【0034】
次に、フレーム側ロッド24に設けられたグリース通路29について説明する。
【0035】
グリース通路29は、一端側がグリース室28に連通し、他端側がフレーム側ロッド24の外周面26A1に開口した開口部となっている。グリース通路29の開口部は、一端側がロッド挿嵌筒部26Aの外周面26A1に形成された開口30Aとなり、他端側の底部がねじ座30Bとなっためねじ孔30となっている。このめねじ孔30には、後述の給脂弁32が螺合して取付けられる。そして、グリース通路29は、軸方向通路部29A、供給通路部29B、排出通路部29C、およびめねじ孔30を含んで構成されている。
【0036】
グリース通路29の軸方向通路部29Aは、グリース室28からホルダ26に向けてフレーム側ロッド24(ロッド本体25)の軸方向に延びている。軸方向通路部29Aは、一端側がグリース室28に連通し、他端側が供給通路部29Bおよび排出通路部29Cに連通している。この軸方向通路部29Aには、グリース室28に供給されるグリースまたはグリース室28から排出されるグリースが流通する。
【0037】
供給通路部29Bは、軸方向通路部29Aからめねじ孔30のねじ座30Bに向けて延びている。具体的には、供給通路部29Bは、軸方向通路部29Aの先端(他端)からロッド本体25とホルダ26との径方向に延びてめねじ孔30のねじ座30Bに連通している。この供給通路部29Bは、グリース室28内にグリースを供給するときのグリース供給専用の通路となっている。従って、供給通路部29Bには、グリースがめねじ孔30から軸方向通路部29Aに向けて一方向に流通する。
【0038】
排出通路部29Cは、軸方向通路部29Aからねじ座30Bよりもグリース通路29の開口30A側に位置するめねじ孔30の周面30Cに向けて延びている。即ち、排出通路部29Cは、一端側が供給通路部29Bとは別の位置で軸方向通路部29Aに連通し、他端側がめねじ孔30の周面30Cに連通している。
図5、
図6に示すように、排出通路部29Cは、軸方向通路部29Aから径方向外側に向けて延びる径方向通路29C1と、径方向通路29C1とめねじ孔30の周面30Cとの間を接続する接続通路29C2とにより構成されている。
【0039】
径方向通路29C1と供給通路部29Bとは、フレーム側ロッド24の軸方向に並んで形成されている。
図5に示すように、接続通路29C2は、めねじ孔30のねじ座30Bおよび供給通路部29Bからめねじ孔30の開口30A側に寸法Aをもって離間した位置でめねじ孔30に開口している。また、ホルダ26の側面26A2には、接続通路29C2をドリル等で穿設したときの開口が形成されている。この開口には、接続通路29C2からグリースが漏れるのを抑制する栓部材31が固着されている。排出通路部29Cは、グリース室28内からグリースを排出するときのグリース排出専用の通路となっている。従って、排出通路部29Cには、グリースが軸方向通路部29Aからめねじ孔30に向けて一方向に流通する。
【0040】
次に、めねじ孔30に螺合して取付けられる給脂弁32について説明する。
【0041】
給脂弁32は、グリース通路29の開口部となるめねじ孔30に設けられている。この給脂弁32は、一般的にグリースニップルと呼ばれる逆止弁により構成され、弁ケーシング33内にグリース通路29とグリース室28との間でグリースの給脂を行う弁機構38が設けられている。
図8〜
図10に示すように、給脂弁32は、筒状の弁ケーシング33と、弁ケーシング33の基端側に設けられた工具係合部34と、弁ケーシング33内に設けられた弁機構38とを含んで構成されている。
【0042】
弁ケーシング33の先端側外周には、めねじ孔30に螺出入するおねじ部33Aが設けられている。工具係合部34は、厚肉な六角形の板状に形成され、おねじ部33Aをめねじ孔30に対して締付け、弛緩するスパナ等の工具(図示せず)が係合する。
【0043】
そして、給脂弁32は、おねじ部33Aをめねじ孔30に螺合することにより、フレーム側ロッド24に取付けられている。
図5に示すように、おねじ部33Aの先端部位33A1は、全周面でめねじ孔30に螺合することにより、グリース通路29の供給通路部29Bを閉塞して、供給通路部29Bからグリースが流出するのを抑制する。また、給脂弁32のおねじ部33Aは、排出通路部29Cの接続通路29C2とグリース通路29(めねじ孔30)の開口30A側との間を閉塞して、排出通路部29Cからグリースが流出するのを抑制する。
【0044】
ストッパ部35は、おねじ部33Aと工具係合部34の間に設けられている。このストッパ部35は、工具係合部34と同様な六角形の板状に形成され、工具係合部34とは軸方向で間隔をもって対面している。ストッパ部35と工具係合部34との間には、後述の給脂弁抜止め板41が挿入される。ストッパ部35は、給脂弁32をめねじ孔30から緩めたときに給脂弁抜止め板41に当接して給脂弁32の抜止めを行う。
【0045】
図10に示すように、給脂弁32の弁ケーシング33の内周側には、グリースが流れる補給通路部36が形成されている。補給通路部36は、工具係合部34側に位置してグリースが流入する流入通路36Aと、流入通路36Aから給脂弁32の軸方向に延びる連結通路36Bと、連結通路36Bに連通してグリースが流出する流出通路36Cとを含んで構成されている。
【0046】
流入通路36Aには、工具係合部34から突出するニップル37が螺着されている。このニップル37には、チューブ22のグリース室28内にグリースを供給するときにグリースガン等の給脂具(図示せず)が接続されると共に、グリース室28に充填されたグリースをグリース室28内に保持する。
【0047】
弁機構38は、流出通路36C内に設けられ、グリースの逆流を抑制するものである。この弁機構38は、連結通路36Bと流出通路36Cとの境界部に形成されたテーパ面36Dに着座することにより連結通路36Bを閉塞する球状の弁体38Aと、弁体38Aをテーパ面36Dに向けて付勢するばね部材38Bとにより構成されている。そして、弁機構38は、流出通路36Cから連結通路36Bおよび流入通路36Aに向かうグリースの流れを禁止し、外部にグリースが流出するのを阻止する。
【0048】
グリース排出溝39は、弁ケーシング33の外周側に軸方向に延びるように形成されている。このグリース排出溝39は、給脂弁32をめねじ孔30に取付けた状態で、一端側がグリース通路29(めねじ孔30)の開口30A側に連通し、他端側が弁ケーシング33(おねじ部33A)の軸方向途中部位まで延びている。
【0049】
図8から
図10に示すように、グリース排出溝39は、弁ケーシング33の外周面をストッパ部35側から軸方向の途中部位まで切欠くことにより、軸方向に延びる1本の凹陥溝として形成されている。
図5に示すように、グリース排出溝39は、給脂弁32を緩めたときに排出通路部29Cの接続通路29C2に連通するように、ストッパ部35からの寸法Bがめねじ孔30の開口30Aから排出通路部29Cの接続通路29C2までの寸法Cよりも長く形成されている。
【0050】
図6に示すように、グリース排出溝39は、給脂弁32を緩めたときに排出通路部29Cに連通する。即ち、給脂弁32を緩めてグリース排出溝39を排出通路部29Cの接続通路29C2に合致させたときには、排出通路部29Cとグリース通路29の開口30Aとがグリース排出溝39を介して連通する。これにより、グリース室28内のグリースは、軸方向通路部29Aから排出通路部29Cおよびグリース排出溝39を通じてめねじ孔30の開口30Aから外部に排出される。
【0051】
排出溝マーク40は、グリース排出溝39に対応する位置で工具係合部34に設けられている。この排出溝マーク40は、グリース排出溝39の位置を示すもので、工具係合部34から突出している。これにより、給脂弁32がめねじ孔30に挿入されている状態で作業用開口7Eからグリース排出溝39の位置を確認することができる。これにより、グリース室28内のグリースを排出させるときに、給脂弁32をどの程度緩めればよいかを認識することができる。
【0052】
また、排出溝マーク40は、給脂弁32をめねじ孔30に螺合するときに給脂弁32の挿入開始位置を示している。一例を挙げると、排出溝マーク40を例えば真上に向けた状態で給脂弁32をめねじ孔30に螺合させることにより、おねじ部33Aがめねじ孔30のねじ座30Bに着座したときに、グリース排出溝39を排出通路部29Cの接続通路29C2から外れた位置とすることができる。これにより、給脂弁32をめねじ孔30に螺合させるときの作業性を向上させることができる。
【0053】
給脂弁抜止め板41は、フレーム側ロッド24のホルダ26に設けられている。この給脂弁抜止め板41は、給脂弁32を緩めたときに給脂弁32がめねじ孔30から脱落しないように抜止めするものである。
図5から
図7に示すように、給脂弁抜止め板41は、ホルダ26の側面26A2と対面する取付板部41Aと、取付板部41Aから給脂弁32の工具係合部34とストッパ部35との間に向けて延びる当接板部41BとによりL字状に形成されている。当接板部41Bには、工具係合部34とストッパ部35との間に係合する二又状の切欠部41Cが形成されている。
【0054】
給脂弁抜止め板41は、ボルト42をワッシャ43を介してホルダ26のねじ穴26Cに螺合することにより、ホルダ26の側面26A2に取付けられる。
図5に示すように、給脂弁32をめねじ孔30のねじ座30Bに着座するまで締付けたときには、給脂弁抜止め板41の当接板部41Bが工具係合部34に当接する。また、給脂弁32を緩めたときには、給脂弁32のストッパ部35に当接板部41Bが当接して、給脂弁32がこれ以上めねじ孔30から抜けるのを抑制する。
【0055】
本実施形態による履帯張り調整装置21は、上述の如き構成を有するもので、次にその作動について説明する。
【0056】
まず、給脂弁32をめねじ孔30に取付けるには、例えば排出溝マーク40を上側に向けた状態で給脂弁32を作業用開口7Eからめねじ孔30に螺入させて弁ケーシング33の先端側をめねじ孔30のねじ座30Bに着座させる。これにより、給脂弁32は、グリース排出溝39が排出通路部29Cの接続通路29C2から外れた状態でめねじ孔30に取付けられる。即ち、給脂弁32は、給脂弁32の弁ケーシング33(おねじ部33A)が排出通路部29Cの接続通路29C2を閉塞した状態でめねじ孔30に取付けられる。そして、給脂弁抜止め板41の切欠部41Cを給脂弁32の工具係合部34とストッパ部35との間に係合させて、ボルト42を用いて給脂弁抜止め板41をホルダ26に取付ける。
【0057】
そして、履帯張り調整装置21によって履帯13の張力を高める場合には、サイドフレーム7の外側板7Dに開口した作業用開口7Eにグリースガンを挿入して、グリースガンの先端部を給脂弁32のニップル37に接続する。その後、グリースガンを用いてグリースを注入することにより、給脂弁32の弁機構38が開弁してグリース通路29の供給通路部29Bから軸方向通路部29Aを通じてグリース室28にグリースを充填する。これにより、グリース室28に充填されたグリースの分だけヨーク側ロッド23をチューブ22から伸長させることができる。その結果、遊動輪10を駆動輪11から離間する方向に移動させて、履帯13の張力を高めることができる。
【0058】
一方、例えば履帯13に対する整備作業を行うために、履帯張り調整装置21によって履帯13の張力を弱める場合には、グリース室28内に充填されたグリースを外部に排出させることにより、チューブ22内にフレーム側ロッド24を縮小させる。この場合、給脂弁32の工具係合部34にスパナ等の工具を係合させて給脂弁32をめねじ孔30に対して弛緩する(緩める)ことにより、グリース室28内のグリースを外部に排出させることができる。
【0059】
ところで、上述した従来技術では、給脂弁を緩めて弁座から離座させることにより、グリース通路とグリース排出溝とを連通させて、グリース室内のグリースを開口から外部に排出させている。この場合、グリース通路内のグリースには、大きい圧力が掛かっているので、給脂弁を緩めたときにグリースが一気に排出される虞がある。そこで、グリースの排出を止めるには、給脂弁を逆方向に回転させて、給脂弁を弁座に着座させるまで再度締付けなければならない。従って、従来技術による履帯張り調整装置では、グリースの排出量を調整するのに給脂弁の回転方向を正回転と逆回転とで切換えなければならないので、履帯張り調整作業の作業性が低下する虞がある。
【0060】
そこで、本実施形態では、給脂弁32をめねじ孔30に対して一方向に回転させることで、グリース室28内のグリースの排出および排出止めを行うことができる。具体的には、
図6に示すように、給脂弁32を緩めて給脂弁32のグリース排出溝39を排出通路部29Cの接続通路29C2に合致させる。この場合、工具係合部34には、排出溝マーク40が設けられているので、作業者はグリース排出溝39の位置を確認して、グリースが排出されるタイミングを認識することができる。
【0061】
グリース排出溝39と排出通路部29Cとが連通したときには、グリース室28内のグリースが軸方向通路部29Aおよび排出通路部29Cを通じてグリース排出溝39に流通し、めねじ孔30の開口30Aから外部に排出される。そして、グリースの排出を止めたい場合には、給脂弁32をグリース排出溝39が排出通路部29Cの接続通路29C2から外れるまで緩める方向に回転させる。これにより、給脂弁32の弁ケーシング33(おねじ部33A)は、接続通路29C2を閉塞するのでグリースの排出を止めることができる。
【0062】
また、再度グリースを排出させたいときには、給脂弁32を緩める方向に回転させてグリース排出溝39を接続通路29C2に合致(連通)させることができる。この場合、給脂弁抜止め板41がストッパ部35に当接することにより、給脂弁32がめねじ孔30から抜落ちるのを抑制している。即ち、グリースの排出および排出止めは、給脂弁32がめねじ孔30のねじ座30Bに着座した位置から給脂弁抜止め板41がストッパ部35に当接するまでの間で適宜に行うことができる。
【0063】
かくして、本実施形態の履帯張り調整装置は、トラックフレーム5を構成するサイドフレーム7内に設けられたチューブ22と、基端側が前記チューブ22内に摺動可能に挿嵌され先端側がヨーク9側に突出したヨーク側ロッド23と、基端側が前記チューブ22内に挿嵌され先端側が前記ヨーク9とは反対側に突出したフレーム側ロッド24と、前記ヨーク側ロッド23の基端と前記フレーム側ロッド24の基端との間に位置して前記チューブ22内に形成されたグリース室28と、前記フレーム側ロッド24に設けられ一端側が前記グリース室28に連通し他端側が前記フレーム側ロッド24の外周面に開口した開口部となったグリース通路29と、前記グリース通路29の前記開口部に設けられ底部がねじ座30Bとなっためねじ孔30と、前記めねじ孔30に螺合して取付けられ弁ケーシング33内に前記グリース通路29と前記グリース室28との間でグリースの給脂を行う弁機構38が設けられた給脂弁32とが備えられている。
【0064】
そして、前記グリース通路29は、前記グリース室28から前記フレーム側ロッド24の軸方向に延びる軸方向通路部29Aと、前記軸方向通路部29Aから前記めねじ孔30の前記ねじ座30Bに向けて前記フレーム側ロッド24の径方向に延びる供給通路部29Bと、前記供給通路部29Bと異なる位置で前記軸方向通路部29Aから前記フレーム側ロッド24の径方向に延び前記ねじ座30Bよりも前記グリース通路29の開口30A側に位置して前記めねじ孔30の周面30Cに向けて開口する排出通路部29Cとを有し、前記給脂弁32は、前記弁ケーシング33の外周に設けられ前記めねじ孔30に螺出入されるおねじ部33Aと、前記弁ケーシング33に設けられ一端側が前記グリース通路29の前記開口30A側に連通し他端側が前記弁ケーシング33の外周を軸方向途中部位まで延びて前記給脂弁32を緩めたときに前記排出通路部29Cに連通するグリース排出溝39とを有している。
【0065】
これにより、給脂弁32を一方向(例えば、緩める方向)に回転させることで、グリース室28内のグリースを外部に排出させたり、グリースの排出を止めたりすることができる。従って、グリース排出中にグリースの排出を速やかに止めることができるので、履帯張り調整作業の作業性を向上することができる。
【0066】
また、前記給脂弁32には、前記おねじ部33Aを前記めねじ孔30に対して締付け、弛緩するための工具が係合する工具係合部34が設けられ、前記給脂弁32の前記工具係合部34には、前記グリース排出溝39に対応する位置に排出溝マーク40が設けられている。これにより、作業者は、めねじ孔30内でグリース排出溝39がどの位置にあるかを認識することができるので、給脂弁32がグリース保持位置にあるかグリース排出位置にあるかを確認することができる。また、作業者は、給脂弁32をどの程度緩めればグリースを排出させることができるかを確認することができるので、グリースを排出させる作業の作業性を向上することができる。
【0067】
なお、上述した実施形態では、フレーム側ロッド24のホルダ26に形成された供給通路部29Bと排出通路部29Cとをドリル等を用いた機械加工により形成した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば
図11に示す第1変形例のように、鋳造によりホルダ26を製造して供給通路部29Bと排出通路部29Cとを形成してもよい。このことは、フレーム側ロッド24のロッド本体25についても同様である。
【0068】
また、上述した実施形態では、給脂弁32のグリース排出溝39を弁ケーシング33の周方向に1個形成した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば
図12、
図13に示す第2変形例のように、グリース排出溝39は、給脂弁32の弁ケーシング33の周方向に離間して複数個(例えば、4本)形成してもよい。これにより、給脂弁32の僅かな(少ない)回転で、グリースの排出と排出止めとを切換えることができるので、履帯張り調整作業の作業性を向上することができる。このことは、第1変形例についても同様である。
【0069】
また、上述した実施形態では、排出溝マーク40を工具係合部34から突出させた突起物とした場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば排出溝マークは、工具係合部34を窪ませたり、工具係合部34に色を付けたりしてもよい。このことは、第1,第2変形例についても同様である。
【0070】
さらに、上述した実施形態では、油圧ショベル1の下部走行体2に用いられる履帯張り調整装置21を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば油圧クレーン、ブルドーザ等のクローラ式の下部走行体を有する車両に広く適用することができる。