(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記棒状部の前記曲げ部が形成される反対側に、前記棒状部と着脱不能に又は着脱可能に接続される把持部を備える請求項1〜3のいずれか1項に記載の眼科手術用器具。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態を図面を参照しつつ説明する。
図1に示す眼科手術用器具1(以下単に器具という場合がある)は眼球の特定の部位(例えば線維柱帯)を切除するための器具である。器具1は、眼科手術の際に眼球に挿入される棒状部2と、棒状部2の基端部17に接続されて眼科手術の際に施術者に把持される把持部3とを備える。
【0024】
棒状部2は硬質な材質(例えば金属)により形成される。棒状部2は、直線状(換言すれば棒状)に伸びた本体部4と、本体部4の先端側において本体部4に対して角度が付けられた曲げ部7とを備える。本体部4は、本体部4の中心軸線100が伸びた方向における一方の端部(
図1に示す基端部17)から他方の端部(
図1、
図2、
図3に示す先端開口部6)へと貫通する単一の通路5(
図2、
図3参照)を内部に有する。棒状部2の内部には、通路5とは別の通路が存在しない。この通路5は、眼科手術の際に流出用の液を流すための通路であり、又は曲げ部7にて切除された眼球の部位若しくは廃液を吸引するための通路である。また、通路5には他の部材(例えば、切除機能(刃部や放電部など)を有した部材、液流出又は吸引のための通路を有した部材など)が設けられない。したがって、通路5に液や吸引物が流れる場合、それら液、吸引物は通路5の内壁に直接に接触した形態で該通路5を流れる。
【0025】
本体部4の先端開口部6以外の部分における、中心軸線100に直交する断面は環状である。すなわち、その断面は、真円状の外周線(本体部4の外形線)と、その外周線の内側において外周線と同心の真円状の内周線(通路5の壁面の線)とを有した形状に形成される。また、本体部4の先端開口部6以外の部分は、中心軸線100の方向に沿って外径及び内径が変化しない形状に形成される。このように、本体部4は一定径の円筒状に形成される。
【0026】
本体部4の先端開口部6は、中心軸線100が伸びた方向に開口を形成するように設けられる。つまり、先端開口部6は、先端開口部6の内周線8(
図3参照)で囲まれた領域に中心軸線100が交差するように設けられる。また先端開口部6は中心軸線100に対して斜めに形成される。すなわち、先端開口部6を形成する端面(
図3において先端開口部6の内周線8と外周線9とで囲まれた面)には、中心軸線100に直交する部位は存在せず、かつ、中心軸線100に平行な部位は存在しない。ここで、先端開口部6のうちの最も本体部4の基端部17側に寄った点6a(
図2、
図3参照)を開口開始点と定義し、この開口開始点6aから中心軸線100に平行に直線状に伸びた本体部4の外形線104(
図2、
図3参照)を第1外形線と定義する。本実施形態では、
図2の側面視で見て、開口開始点6aから、先端開口部6と曲げ部7との境界部10(角部)への方向に沿って、中心軸線100に対する先端開口部6の傾斜角は一定又はほぼ一定である。なお、これに限定されずに、上記傾斜角は、開口開始点6aから境界部10への方向に沿って連続的に又は段階的に変化してもよい。
【0027】
上記第1外形線104と先端開口部6の面との成す角度θ1(
図2参照)は90度より大きく180度より小さい。角度θ1は、先端開口部6の面のうち開口開始点6aの位置での第1外形線104に対する角度である。好ましくは、角度θ1は120度以上160度以下である。角度θ1が120度以上であれば、先端開口部6の開口開始点6aから曲げ部7の角部10を経て曲げ部7の先端13までの長さを長くでき、棒状部2の製造工程において曲げ部7を容易に形成することができる。また角度θ1が160度以下であれば、開口開始点6aと曲げ部7との間の空間150(
図2参照)が大きくなりすぎるのを抑制でき、眼科手術の際に先端開口部6から流出させる液を曲げ部7の方に到達させやすくでき、又は曲げ部7で切除された切除対象部位(例えば線維柱帯)を先端開口部6に吸引しやすくできる。なお、先端開口部6の傾斜角が途中で変化する場合であっても、先端開口部6のうち開口開始点6aの位置での上記第1外形線104に対する角度θ1が、90度より大きく180度より小さく、好ましくは120度以上160度以下である。
【0028】
また、先端開口部6のエッジ(
図3に示す内周線8又は外周線9)の全部又は一部(例えば、先端開口部6の、曲げ部7との境界部10からの一部)には刃部(鋭利形状)が形成されている。なお、これに限定されず、先端開口部6に刃部が形成されなくてもよい。曲げ部7に加えて先端開口部6にも刃部が形成されることで、切除機能を向上できる。先端開口部6の全部に刃部が形成されることで、先端開口部6の一部に刃部が形成される場合、又は先端開口部6に刃部が形成されない場合に比べて、切除機能を向上できる。また、先端開口部6の一部に刃部が形成される場合、又は先端開口部6に刃部が形成されない場合には、切除非対象部位(例えばシュレム管など)が損傷してしまうのを抑制できる。
【0029】
曲げ部7は本体部4と同一の材質で一体に形成される。また曲げ部7は、先端開口部6に連続して形成される。つまり、曲げ部7と先端開口部6との間には、中心軸線100に平行に伸びた部位は存在しない。詳しくは、曲げ部7は、先端開口部6のうち開口開始点6aから最も離れた点(換言すれば、先端開口部6のうち中心軸線100の方向に最も突出した点)を開口終了点として、その開口終了点から曲げが開始するとともに、上記第1外形線104(換言すれば開口開始点6a又は中心軸線100)に接近する方向に曲げられた形態で設けられる。言い換えれば、曲げ部7は、先端開口部6の一部を空間150を介して覆うように設けられる。さらに言い換えれば、曲げ部7は空間150を介して先端開口部6に対峙するように設けられる。
【0030】
曲げ部7は、本体部4の外側の面に連続した面11(以下外側の面という)と、本体部4の内側の面(通路5の壁面)に連続した面12(以下内側の面という)と、それら面11、12を接続するエッジ部14、15とを有する(
図2、
図3参照)。外側の面11は先端開口部6の反対方向を向いている。内側の面12は先端開口部6の方を向いている。エッジ部14、15は、
図3の正面視において、本体部4の径方向に平行な方向における曲げ部7の両端に位置する端部である。なお、
図3は、中心軸線100に直角な方向のうち曲げ部7の先端13及び斜めの先端開口部6が正面となる方向から見た図であり、
図2のB方向から見た図である。
図2は、中心軸線100に直角な方向のうち、
図3の方向に対して90度回転させた方向から見た図である。
【0031】
曲げ部7は、角部10(本体部4との境界部)から先端13に近づくにしたがって次第にエッジ部14、15間の間隔が小さい形状に形成される。つまり曲げ部7は先細り形状に形成される。また、先端13は、眼球の切除対象部位を突き刺すことが可能な形状、つまり尖った形状に形成される。この場合、先端13も刃部として機能する。
【0032】
曲げ部7の両方のエッジ部14、15には刃部が形成されている。すなわち、エッジ部14、15の刃部が形成される部分は鋭利な形状に形成される。刃部は、エッジ部14、15の全範囲に形成されても良いし、一部範囲(例えば、先端13に連続する一部範囲)に形成されてもよい。エッジ部14、15の先端13から角部10までの全範囲に亘って刃部が形成される場合には、器具1の切除機能を向上できる。エッジ部14、15の先端13から角部10までの範囲の一部のみに刃部が形成される場合には、切除非対象部位(シュレム管など)が損傷してしまうのを抑制できる。
【0033】
ここで、
図2の側面視において、中心軸線100に対して第1外形線104の対称位置(180度反対側)にある、中心軸線100に平行に直線状に伸びた本体部4の外形線102を第2外形線と定義する。また、曲げ部7の角部10(本体部4との境界部)の外側の面は、
図2の側面視で見て円弧を描く形状となっているが、その角部10の外側の面のうち本体部4に繋がる端部10aを角開始端部、その反対側の端部10bを角終了端部と定義する。
【0034】
曲げ部7と、第2外形線102を角開始端部10aから第2外形線102と同一方向に外側に延長させた延長線103(
図2参照)との成す角度θ2(
図2参照)は90度より大きい。角度θ2は、曲げ部
7の角部10における延長線103に対する角度である。角度θ2は、詳しくは、上記角終了端部10bにおける
図2の側面視での接線105のうちの上記延長線103との交点106よりも角終了端部10b側の部分と、上記延長線103のうちの上記交点106よりも角開始端部10aと反対側の部分との成す角度である。また、角度θ2は、曲げ部7の先端13等の部分が先端開口部6から本体部4の通路5内に入り込まないように設定される。換言すれば、角度θ2は、曲げ部7と先端開口部6の間に空間150が形成されるように設定される。具体的には角度θ2は例えば160度以下に設定される。
【0035】
さらに、
図2の側面視で見て、曲げ部7と先端開口部6との成す角度θ3は、0度より大きく90度より小さい。なお、角度θ3は、曲げ部7の内側の面12(先端開口部6の方を向いた面)の外周線と、先端開口部6の外周線9(
図3参照)との成す角度である。
【0036】
また、曲げ部7は、
図2の側面視で見て、角部10から先端13にいくにしたがって次第に開口開始点6aに接近するように設けられる。曲げ部7のうち、棒状部2の軸線100の方向に最も突出した部位16(
図2参照)は角部10又は角部10付近に位置し、先端13とは異なる位置にある。また、曲げ部7のうち開口開始点6aに最も接近した部位は先端13である。また、曲げ部7は、角部10から先端13にかけて直線状又はほぼ直線状に伸びている。すなわち、
図2の側面視において、曲げ部7の外側の面11と内側の面12の中間を通り、角部10から先端13の方に伸びた線107を曲げ部中心線と定義したとき、その曲げ部中心線107は直線状又はほぼ直線状に伸びている。曲げ部中心線107は、
図3の正面視で見て、本体部4の径方向に平行な方向における曲げ部7の両端に位置するエッジ部14、15の中間を通る線である。なお、曲げ部中心線107が直線状又はほぼ直線状に伸びる場合に限定されず、曲線状に伸びていても良い。
【0037】
また、
図4の断面視において、曲げ部7の先端13を原点、本体部4の中心軸線100が伸びた方向のうち基端部17から先端開口部6への方向と同一方向C1を0度、方向C1と反対方向C2を180度、方向C1に直角な方向のうち角部10から離れる方向C3を90度と定義したときに、方向C1に対する先端13が向いた方向bの角度θ4は90度より大きい。つまり、先端13は先端開口部6に接近する方向に向いている。また、角度θ4は180度より小さい値に設定され、好ましくは160度以下である。角度θ4が160度以下であれば、先端13を切除対象部位に容易に当てることができる。なお、先端13の方向bは、
図4の断面視において、曲げ部7の先端13の尖った形状を構成する外側の面11と内側の面12との中間を通る直線108の方向である。なお、
図4の断面は、本体部4の中心軸線100に平行な平面かつ曲げ部中心線107を面内に包含する平面で曲げ部7を切った断面である。
【0038】
また、
図2の側面視において、曲げ部7の先端13は、本体部4の径方向(中心軸線100に直角な方向)における本体部4の外径D1(
図2参照)と同じ位置又は外径D1よりも内側に位置してもよいし、外径D1よりも外側に位置してもよい。つまり、本体部4の径方向に平行な方向における曲げ部7の角部10から先端13までの幅D2(
図2参照)は、本体部4の外径D1以下でもよいし、外径D1より大きくてもよい。幅D2が外径D1以下の場合(換言すれば先端13が外径D1以下の位置にある場合)には、後述の
図7の管部材300を通して棒状部2を眼球に挿入するときに、小径の管部材300を用いることができ、管部材300を眼球に装着する際に眼球に形成される切り口を小さくできる。他方、幅D2が外径D1より大きい場合(換言すれば先端13が外径D1より外側に位置する場合)には、曲げ部7の範囲を大きくできるので、より一層、切除機能を向上できる。なお、幅D2が外径D1より大きい場合、後述する
図7の管部材300として、曲げ部7の幅D2よりも大きい内径の管部材を採用することで、管部材300を通して棒状部2を眼球に挿入できる。
【0039】
先端13は、
図2の側面視で見て、中心軸線100を先端開口部6から外側に延長させた延長線101よりも角部10に遠い側に位置しても良いし、角部10に近い側に位置しても良い。先端13が延長線101よりも角部10に遠い側に位置する場合には、刃部としての曲げ部7を大きくできるので、眼球の切除対象部位を切除しやすくなる。他方、先端13が延長線101よりも角部10に近い側に位置する場合には、先端開口部6が曲げ部7で覆われる範囲を小さくできるので、先端開口部6からの液流出又は先端開口部6への吸引がしやすくなる。
【0040】
なお、先端13は、本体部4の径方向において、本体部4の内径D3(
図2参照)(通路5の径でもある)よりも内側に位置しても良いし、外側に位置しても良い。
【0041】
また、
図3の正面視において、本体部4の径方向に平行な方向における曲げ部7の幅D4は本体部4の外径D1以下である。これによれば、後述の
図7の管部材300を通して棒状部2を眼球に挿入するときに、小径の管部材300を用いることができ、管部材300を眼球に装着する際に眼球に形成される切り口を小さくできる。なお、幅D4は、曲げ部7の一方のエッジ部14から他方のエッジ部15までの最大幅をいう。
【0042】
なお、器具1には、棒状部2の外側を覆う他の筒状部材は設けらない。つまり、棒状部2は他の筒状部材内に配置される部材ではなく、外部に露出した形態に設けられる部材である。
【0043】
図1に戻って、把持部3は、一体成形、圧入、又は接着剤等で棒状部2に着脱不能に接続される。また把持部3は例えば樹脂により形成される。把持部3は、本体部4の外径D1(
図2、
図3参照)よりも大きい外径の棒状に形成される。把持部3の中心軸線109は、棒状部2の中心軸線100と同一直線上に位置する。把持部3は、把持部3の軸線109方向における一方の端部から他方の端部へと貫通する通路18を内部に有する。通路18は、棒状部2の通路5と導通するように設けられる。
【0044】
把持部3は、棒状部2に接続される反対側に、他の流路と着脱可能に接続する接続部19を有する。接続部19は、把持部3の、棒状部2に接続される反対側の端面3aから凹んだ凹部として形成される。接続部19は通路18に導通している。なお、把持部3は、凹部の接続部19に代えて、把持部3の端面3aから突出した凸部の接続部を備えてもよい。
【0045】
図1の器具1は、眼科手術の際に、
図5に示す液供給装置20又は
図6に示す吸引装置26に接続される形態で使用される。
図5の液供給装置20は、眼科手術の際に眼球内に供給するための液(洗浄液、水など)の供給制御を行う液供給部21と、一端が液供給部21に接続されて液供給部21からの流出液を案内する流路を形成するチューブ22と、チューブ22の、液供給部21が接続される反対側の端部に接続されて、他の流路に着脱可能に接続する接続部23とを備える。液供給部21は、液収容部(図示外)に収容された液を吸い込んで吐出するポンプ等から構成される。液供給部21は、例えば、眼球内の圧力(液体を眼球内に供給する際の圧力)をモニターする機能を備えており、この圧力が一定に保持されるようにチューブ22及びこれに接続される器具1を介して眼球内に液体を供給する。チューブ22は例えば柔軟性を有する材質で形成される。接続部23は筒状に形成される。つまり、接続部23は、一方の端部から他方の端部へと貫通する通路24を内部に有する。その通路24は、チューブ22の流路に導通する形態で設けられる。接続部23は軸方向に突出する凸部25を有する。この凸部25が、把持部3の凹部19(接続部)に嵌まることで、器具1と液供給装置20とが接続される。なお、把持部3の接続部が凸部として構成される場合には、液供給装置20の接続部は凹部として構成される。
【0046】
図6の吸引装置26は、吸引制御を行う(換言すれば吸引力を発生させる)吸引部27と、一端が吸引部27に接続されて他端から入った吸引物を吸引部27の方に案内する流路を形成するチューブ28と、チューブ28の、吸引部27が接続される反対側の端部に接続されて、他の流路に着脱可能に接続する接続部29とを備える。吸引部27は、吸引空気を生じさせるポンプ等から構成される。チューブ28は例えば柔軟性を有する材質で形成される。接続部29は、
図5の接続部23と同様の形状に形成される。接続部29が把持部3の凹部19に嵌まることで、器具1と吸引装置26とが接続される。
【0047】
なお、液供給装置20及び吸引装置26は、一体の装置として設けられても良いし、別体の装置として設けられても良い。また液供給装置20及び吸引装置26は緑内障手術以外の手術(例えば硝子体手術)に使用される装置であってもよい。器具1とこれに接続される液供給装置20又は吸引装置26とで眼科手術装置が構成される。
【0048】
器具1は、例えば緑内障の外科的処置における線維柱帯の切除手術において使用される。
図7に示された眼の構造の概要図を参照しつつ説明すると、眼の虹彩204の図示下部に位置する毛様体において房水は生成される。通常、この房水は、水晶体205に押し寄せた後に、前眼房201の周方向にある隅角から流れ出る。隅角には線維柱帯202やシュレム管203が存在する。線維柱帯202は房水の流出を制限するフィルタの役目を果たす。シュレム管203は房水が流れ出るための構造を有する。
【0049】
線維柱帯202が異常に変形したり機能異常を起こした場合、前眼房201を出る房水の流れが制限される。それにより眼圧が異常に増加し、緑内障となる。器具1は、この緑内障に対する外科的処置において効果的な器具である。器具1を用いた手術方法の一例は以下の通りである。
【0050】
手術の準備として、線維柱帯202が隅角鏡を通して正面から見えるように、顕微鏡を施術者側に30から45度傾けると同時に患者の頭位も決める。その後、
図7に示すように角膜200に眼球の内外を導通させるための管部材300(トロッカー、カニューレともいう)を装着させる。管部材300は例えば眼球の内側から外側への房水の逆流を防ぐ逆止弁301を有する。
【0051】
その後、施術者は器具1の把持部3を持って、棒状部2を管部材300に通して前眼房201に挿入させる。なお、角膜200に管部材300が装着されなくてもよく、この場合には、ナイフで角膜200を切開して、その切開した箇所から棒状部2を前眼房201に挿入させればよい。
【0052】
なお、器具1と、
図5の液供給装置20又は
図6の吸引装置26との接続は、棒状部2を前眼房201に挿入する前に予め行っても良いし、棒状部2を前眼房201に挿入した後に行っても良い。
【0053】
棒状部2を前眼房201に挿入した後、棒状部2の先端の曲げ部7を線維柱帯202に位置させる。その後、曲げ部7及び先端開口部6に形成された刃部で線維柱帯202を切除していく。具体的には、曲げ部7の先端13で線維柱帯202を刺して切除の切っ掛けとなる切り口を形成しつつ、曲げ部7を線維柱帯202内に入り込ませる。その後、
図8に示すように、棒状部2を、中心軸線100に交差する方向であって曲げ部7の角部10から見て先端13側の方向eに移動させることで、該方向eに沿って線維柱帯202を切除していく。このとき、棒状部2を方向eに移動させることで、曲げ部7で線維柱帯202が切断されていくとともに、切断された線維柱帯202が曲げ部7の内側の面及びこれに連続する斜めの先端開口部6に案内されて手前側(
図8の前眼房201側)に引き出されていく。方向eは、換言すれば、
図9に示すように、棒状部2の上記第2外形線102(
図2参照)を中心とした円160における、曲げ部7の先端13が位置する方向である。なお、
図9は、第2外形線102に直角な平面視の図である。
【0054】
また、線維柱帯202の切除と共に、棒状部2から液を流出させ、又は棒状部2内に線維柱帯202を吸引させる。具体的には例えば器具1と
図5の液供給装置20とを接続させて、器具1で線維柱帯202を切除している最中に、液供給部21を作動させることで先端開口部6から液(洗浄液、水等)を流出させる。この液の流出により、前眼房201の圧力を保持でき、前眼房201への血液の流出を抑制できる。これにより、施術者に、前眼房201において線維柱帯202がどこに位置するのか容易に把握させることができ、線維柱帯202を容易に切除させ、線維柱帯202以外の部位が切除されてしまうのを抑制できる。
【0055】
線維柱帯202を切除した後に、例えば器具1と液供給装置20との接続に代えて、器具1と
図6の吸引装置26とを接続する。このとき、棒状部2を前眼房201に挿入したままで、器具1と液供給装置20との接続から器具1と吸引装置26との接続に代えてもよいし、棒状部2を一旦前眼房201から抜いた状態で、器具1と液供給装置20との接続から器具1と吸引装置26との接続に代えてもよい。そして、曲げ部7を、先に線維柱帯202の切除を行った範囲内に位置させつつ、吸引部27を作動させることで、切除後に残存した線維柱帯202や廃液を器具1内の通路5を介して吸引装置26に吸引(回収)する。この吸引の際には、吸引に用いている器具1とは別の器具(器具1と同形状の器具又は異形状の器具)により前眼房201に眼圧保持のための液を供給してもよい。これにより、吸引の際に、前眼房201に血液が流出するのを抑制でき、線維柱帯202の吸引がしやすくなる。
【0056】
上述の方法では、器具1と液供給装置20とを接続して線維柱帯202の切除を行った後に、器具1と吸引装置26との接続に代えて吸引を行う例である。これに代えて、最初から器具1と吸引装置26とを接続し、器具1で線維柱帯202を切除するのと同時に器具1に線維柱帯202を吸引してもよい。この場合、器具1による線維柱帯202の切除及び吸引の最中に、切除及び吸引に用いている器具1とは別の器具(器具1と同形状の器具又は異形状の器具)により前眼房201に眼圧保持のための液を供給してもよい。
【0057】
以上説明したように、本実施形態の器具1では、先端に曲げ部7を有し、その曲げ部7に刃部が形成されるので、周方向に沿って形成される線維柱帯202を周方向に沿って容易に切除できる。また、曲げ部7の曲げ角度θ2(
図2参照)が90度より大きく、さらに、曲げ部7の先端13の向きの角度θ4(
図4参照)も90度より大きいので、曲げ部7の刃部(先端13を含む)が、線維柱帯202の奥側に位置するシュレム管203(
図8参照)に当たってシュレム管203が損傷してしまうのを抑制できる。また、棒状部2を移動させながら線維柱帯202を切除する際に、曲げ部7が線維柱帯202から外れてしまうのを抑制できる。
【0058】
また、曲げ部7の角度θ2が例えば160度以下であるので、160度より大きい場合に比べて、曲げ部7の刃部(先端13を含む)を切除対象部位(線維柱帯202)に当てやすい。また、曲げ部7と先端開口部6の間の空間150を確保でき、換言すれば、曲げ部7で切除対象部位を引っ掛ける空間150を容易に確保できる。
【0059】
また、先端開口部6は中心軸線100に対して斜めに形成されるので、中心軸線100に直角に形成される場合に比べて、先端開口部6を大きくできる。これにより、先端開口部6からの液流出機能又は先端開口部6への吸引機能を向上できる。また、先端開口部6が斜めに形成されることで、曲げ部7を容易に形成できる。
【0060】
また、先端開口部6が、中心軸線100が伸びた方向に開口を形成するように設けられることで、先端開口部6は曲げ部7に対峙した位置に設けられる。これにより、先端開口部6を液流出口として用いる場合には、先端開口部6から曲げ部7の方に液を容易に供給でき、曲げ部7付近の圧力を保持でき、曲げ部7付近での血液の流出を抑制できる。また、先端開口部6を吸引口として用いる場合には、曲げ部7で切除された切除対象部位を容易に先端開口部6に吸引できる。
【0061】
また、棒状部2内には単一の通路5が形成され、この通路5は液を流出させるための通路又は吸引するための通路として用いられるので、簡素な構造で液流出機能又は吸引機能を備えた切除用器具1を提供できる。
【0062】
また、器具1は、通路5と他の流路とを着脱可能に接続する接続部19を備えるので、器具1と液供給装置20又は吸引装置26とを容易に接続できる。また、手術の途中で、器具1と接続する装置を液供給装置20から吸引装置26に又は吸引装置26から液供給装置20に切り替えることができる。つまり、通路5を、液を流出させるための通路と、吸引するための通路とで兼用することができる。
【0063】
(第2実施形態)
次に本発明の第2実施形態を上記実施形態と異なる部分を中心に説明する。
図10は第2実施形態における眼科手術用器具31(以下単に器具という場合がある)とそれに接続された外部装置36の概略構成図を示している。
【0064】
器具31は、棒状部32と把持部33とチューブ34と切替部35とを備えている。棒状部32は眼科手術の際に眼球に挿入される部分であって、第1実施形態の棒状部2(
図2、
図3参照)と同様の形状である。把持部33は、棒状部32の基端部に接続されて眼科手術の際に施術者に把持される部分である。把持部33は、棒状部32よりも大径、かつ、棒状部32の通路に導通する通路を内部に有した筒状に形成される。把持部33は第1実施形態と同様に棒状部32に着脱不能に接続されても良いし、後述の第3実施形態と同様に棒状部32に着脱可能に接続されても良い。
【0065】
チューブ34は一端が把持部33に接続され、他端が切替部35に接続されて、切替部35と把持部33との間の流路を形成する部分である。チューブ34は例えば柔軟性を有する材質で形成される。なお、チューブ34を省略して、把持部33と切替部35とが直接に接続されてもよい。
【0066】
切替部35は、複数の外部流路のうち棒状部32の通路に導通させる流路を切り替える部分である。切替部35は、例えば手動式又は電動式の3方弁として構成される。
図11は、手動式の切替部35を例示している。
図11の切替部35は、第1接続部41と第2接続部42と第3接続部43とを有する。各接続部41〜43はそれぞれ内部に流路41a〜43aを有する。切替部35は、3つの流路41a〜43aのうち導通させる流路及び遮断させる流路を切り替えるための操作部44を有する。操作部44は、第1接続部41の流路41aと第2接続部42の流路42aとが導通し、第3接続部43の流路43aが遮断した第1操作位置(第1状態)と、第1接続部41の流路41aと第3接続部43の流路43aとが導通し、第2接続部42の流路42aが遮断した第2操作位置(第2状態)とを含んだ複数の操作位置のいずれかに切り替え可能に構成される。なお、操作部44の操作位置は、3つの流路41a〜43aの全てを遮断させる第3操作位置を含んでいても良い。操作部44は例えば使用者によって回転操作が行われる形態に構成される。
【0067】
第1接続部41は、
図10のチューブ34に着脱可能に接続される。つまり、第1接続部41の流路41aは、チューブ34及び把持部33の通路を介して棒状部32の通路に着脱可能に接続される。第2接続部42の流路42aは
図10の外部装置36の液供給部39の流路37に着脱可能に接続される。第3接続部43の流路43aは外部装置36の吸引部40の流路38に着脱可能に接続される。なお、切替部35(第2接続部42、第3接続部43)は、液供給部39又は吸引部40の流路37、38と、棒状部32の通路とを着脱可能に接続する接続部に相当する。
【0068】
操作部44が上記第1操作位置にあるときには、器具31と液供給部39とが導通し、器具31と吸引部40とが遮断する。操作部44が上記第2操作位置にあるときには、器具31と吸引部40とが導通し、器具31と液供給部39とが遮断する。
【0069】
なお、切替部35は状態が電動で切り替わるように構成されてもよい。この場合、切替部35は例えば電磁弁として構成することができる。
【0070】
図10の外部装置36は、
図5の液供給部21と同様の液供給部39と、
図6の吸引部27と同様の吸引部40と、一端が液供給部39に接続され、他端が上記第2接続部42に接続されるチューブ37(流路)と、一端が吸引部40に接続され、他端が上記第3接続部43に接続されるチューブ38(流路)とを備える。
【0071】
器具31は、第1実施形態と同様に例えば線維柱帯の切除手術において使用される。また器具31は
図10のように外部装置36に接続される形態で使用される。このとき、例えば、先ず、切替部35を上記第1状態にして、棒状部32の先端から液を流出させつつ、棒状部先端の曲げ部(刃部)で線維柱帯を切除する。これによれば、血液の流出を抑えながら線維柱帯を切除できる。その後、棒状部32を前眼房に挿入したまま、切替部35を上記第2状態にして、切除した線維柱帯を棒状部に吸引させて回収する。例えば、第1状態と第2状態との切り替えを繰り返すことで、線維柱帯を切除しつつ、液流出と吸引とを繰り返してもよい。
【0072】
このように、本実施形態では、第1実施形態と同様の効果が得られることに加えて、切替部35によって、棒状部32の通路に導通させる流路を、液供給部39と吸引部40との間で容易に切り替えることができる。これにより、例えば線維柱帯を切除しつつ、液流出と吸引とを頻繁に切り替えることができる。
【0073】
(第3実施形態)
次に本発明の第3実施形態を上記実施形態と異なる部分を中心に説明する。上記第1実施形態では、棒状部と把持部とが着脱不能に接続された例を示したが、第3実施形態では棒状部と把持部とが着脱可能に構成された例を示す。
【0074】
図12は第3実施形態における眼科手術用器具60(以下単に器具という場合がある)を示している。器具60は、棒状部61と、棒状部61の基端部に接続された接続部62と、接続部62に着脱可能な把持部64とを備える。棒状部61は、眼科手術の際に眼球に挿入される部分であって、第1実施形態の棒状部2(
図2、
図3参照)と同様の形状である。
【0075】
接続部62は、棒状部61の通路に導通した凹部63を有する。把持部64は、棒状部61より大径の棒状に形成される。把持部64は、把持部64の軸線方向におおける一方の端部から他方の端部へと貫通する通路65を内部に有する。把持部64の一方の端部には、軸線方向に突出する凸部66を有する。この凸部66は上記接続部62に着脱可能に接続する接続部である。凸部66が接続部62の凹部63に嵌合することで、棒状部61の通路と把持部64の通路65とを導通させた状態に、棒状部61と把持部64とが接続される。
【0076】
把持部64の、凸部66と反対側の端部には、把持部64の通路65を外部流路に着脱可能に接続する接続部67を有する。この接続部67は把持部64の端部から凹んだ凹部として構成されるが、凸部として構成されてもよい。接続部67は、
図5の液供給装置20又は
図6の吸引装置26に着脱可能に接続される。
【0077】
器具60は、第1、第2実施形態と同様に例えば線維柱帯の切除手術において使用される。この場合、棒状部61と把持部64とを接続した状態で第1実施形態又は第2実施形態と同様の手順で手術が行われる。
【0078】
本実施形態では、上記第1、第2実施形態と同様の効果が得られることに加えて、棒状部61と把持部64とが着脱可能であるので、把持部64を共通化しつつ、棒状部61を別の棒状部61に取り換えることができる。
【0079】
(第4実施形態)
次に本発明の第4実施形態を上記実施形態と異なる部分を中心に説明する。上記第1実施形態では、棒状部の先端開口部が棒状部の軸線に対して斜めに形成された例を示したが、第4実施形態では、先端開口部が棒状部の軸線に直角に形成された例を示す。
【0080】
図13は、第4実施形態における棒状部の先端側の一部を側方(
図2と同方向)から見た図を示している。
図13の棒状部70は、直線状に伸びた本体部71と、本体部71の先端側において本体部71に対して角度が付けられた曲げ部73と、本体部71と曲げ部73との間に位置する中間部75とを備える。本体部71は、上記各実施形態と同様に、液流出用又は吸引用の単一の通路72を内部に有する。本体部71の先端開口部74は、本体部71の中心軸線110に対して直角に形成されている。つまり、中心軸線110と先端開口部74の成す角度θ5は90度である。
【0081】
曲げ部73は、第1実施形態の曲げ部7(
図1〜
図4参照)と同様の形状に形成されている。中間部75は中心軸線110に平行に伸びた形状に形成されている。中間部75の外側の面75aは、本体部71の外側の面及び曲げ部73の外側の面に連続している。中間部75の内側の面75bは、本体部71の内面(通路72の壁面)及び曲げ部73の内側の面に連続している。中間部75の、中心軸線110に平行な方向における長さは、本体部71の、中心軸線110に平行な方向における長さよりも短い。
【0082】
本実施形態における棒状部70を備えた眼科手術用器具は第1実施形態と同様に用いられる。
【0083】
このように、本実施形態では、先端開口部74が中心軸線110に対して直角に形成されるので、先端開口部74から液を流出させる場合に、その流出方向を中心軸線110が伸びた方向にすることができ、ひいては、曲げ部73の側に流出液を効率的に供給できる。なお、第4実施形態は、
図2の角度θ1が90度より大きい場合に限定されず、90度でもよい例の実施形態である。
【0084】
(変形例)
本発明は上記実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載を逸脱しない限度で種々の変更が可能である。上記実施形態では、眼科手術用器具を線維柱帯の切除手術に用いた例を説明したが、他の眼科手術に使用してもよい。
【0085】
上記実施形態では、棒状部先端の曲げ部の角度(
図2の角度θ2)が90度より大きい例を示したが、0度より大きく、90度以下の角度であってもよい。この場合であっても、棒状部先端が真っすぐの場合(つまり、曲げ部が形成されない場合)に比べて、棒状部の軸線に交差する方向(換言すれば周方向)に沿って切除対象部位を容易に切除できる。
【0086】
また、上記第1実施形態では、棒状部の先端開口部が軸線に斜めに形成された例を示したが、先端開口部の面が軸線に直角な部位又は平行な部位を含んでいてもよい。これによっても、簡素な構造で、液流出機能又は吸引機能を備えた切除用器具を提供できる。
【0087】
上記実施形態では、棒状部の本体部が円筒状の例を示したが、円筒以外の筒状(例えば、中心軸線に直角な平面で切った断面が四角形となる角パイプ状)でもよい。
【0088】
また上記実施形態では、棒状部先端の曲げ部に刃部(鋭利形状)が形成された例を示したが、曲げ部に刃部が形成されなくてもよい。線維柱
帯であれば、刃部を有しない曲げ部でも剥がす(切除)することができる。つまり、切除対象部位によっては、刃部を有しない曲げ部でも、切除対象部位を切除するための部位(切除部)として機能させることができる。
【0089】
また
図3では、曲げ部7のエッジ部14、15間の間隔が先端13に近づくにしたがって次第に小さくなる例を示しているが、これに限定されない。例えば、エッジ部14、15が平行であってもよい。また、
図3では、曲げ部7の先端13が尖った形状に形成された例を示したが、尖っていなくてよく、つまり曲線を描くように形成されてもよい。
【0090】
上記実施形態では、把持部の通路が、棒状部の通路と同一直線上に真っすぐに伸びた例を示したが、棒状部の通路と導通する形態であれば、どのような位置又は形状に設けられてもよい。