(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献に記載のフィルタでは、透過率が可視光の波長領域(約350nm乃至650nmの波長領域)において高く、赤外光の波長領域(700nm以上の波長領域)では零となっている。しかし、フィルタが、例えば、延伸されたポリマフィルムを含むときは、フィルタに屈折率の異方性が生じて複屈折を示すようになる。このため、液晶パネルなどを含む表示部から出射された表示情報を有する直線偏波の可視光がフィルタを透過するとき、直線偏波から楕円偏波に変わることがある。楕円偏波の可視光がフロントウインドシールドによって反射されると、偏波成分に応じて可視光の反射率が変化するので、運転者が認識する表示情報が、表示部から出射されたときの表示情報と異なってしまい視認性に劣ることがある。運転者の視認性を維持した上で、表示部に入射する赤外光を遮断するためには、フィルタについての更なる改善が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る表示装置は、表示装置であって、表示情報を有する直線偏波の可視光を出射する表示部と、表示部からの可視光を透過させ、且つ表示部への赤外光の入射量を低減させる赤外光カット部と、赤外光カット部を透過した可視光を反射させる反射部と、を備え、赤外光カット部は、第1のポリマフィルム及び、当該第1のポリマフィルム上に配置された第2のポリマフィルムを有し、第1のポリマフィルム及び第2のポリマフィルムは、共に屈折率の異方性を有し、且つ屈折率の最も高い第1軸を有し、平面視で、第1のポリマフィルムの第1軸と第2のポリマフィルムの第1軸とは交差する。
【0006】
この態様によれば、赤外光カット部に含まれる第1のポリマフィルム及び第2のポリマフィルムの少なくとも一つは、表示部への赤外光の入射量を低減させるので、表示装置の外部の光、例えば、太陽光中の赤外光による表示部への熱エネルギーの影響が低減する。また、赤外光カット部は、表示情報を有する可視光を透過させるので、表示情報の明るさが保持される。さらに、赤外光カット部に含まれる第1のポリマフィルムの第1軸は、第2のポリマフィルムの第1軸と交差している。このため、屈折率の異方性を有する第1のポリマフィルムが複屈折を示しても、その複屈折は、第1のポリマフィルム上に配置された第2のポリマフィルムによって概ね補償される。これにより、表示部から出射された可視光が赤外光カット部を透過するとき、可視光が、直線偏波から楕円偏波に変化する割合を大幅に減少させることができる。その結果、楕円偏波の可視光がフロントウインドシールドなどの反射部によって反射され、偏波成分に応じて反射率が変化しても、赤外光カット部を透過した可視光に占める楕円偏波の割合が小さくなるので、運転者が認識する表示情報は、表示部から出射された表示情報に近似するようになる。
【0007】
別の態様に係る表示装置において、第1のポリマフィルム及び第2のポリマフィルムは、共に多層のポリマフィルムを含んでもよい。
【0008】
別の態様に係る表示装置において、第1のポリマフィルムの第1軸と第2のポリマフィルムの第1軸との交差角度は、45〜90度であってもよい。
【0009】
別の態様に係る表示装置において、赤外光カット部は、第1のポリマフィルム及び第2のポリマフィルムの少なくとも一方に積層され、赤外光の透過量を低減させる赤外光カット層を有してもよい。
【0010】
さらに本発明の一態様に係る赤外光カットフィルムは、一方の面からの可視光を透過させ、他方の面からの赤外光の入射量を低減させる赤外光カットフィルムであって、屈折率の異方性を有する第1のポリマフィルムと、屈折率の異方性を有し、且つ第1のポリマフィルム上に配置された第2のポリマフィルムと、を備え、第1のポリマフィルム及び第2のポリマフィルムは、共に屈折率の最も高い第1軸を有し、平面視で、第1のポリマフィルムの第1軸と第2のポリマフィルムの第1軸とは交差する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一側面によれば、表示情報の視認性を維持した上で、表示部への赤外光の入射量を低減し易くなる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態は、表示装置であって、表示情報を有する直線偏波の可視光を出射する表示部と、表示部からの可視光を透過させ、且つ表示部への赤外光の入射量を低減させる赤外光カット部と、赤外光カット部を透過した可視光を反射させる反射部と、を備え、赤外光カット部は、第1のポリマフィルム及び、当該第1のポリマフィルム上に配置された第2のポリマフィルムを有し、第1のポリマフィルム及び第2のポリマフィルムは、共に屈折率の異方性を有し、且つ屈折率の最も高い第1軸を有し、平面視で、第1のポリマフィルムの第1軸と第2のポリマフィルムの第1軸とは交差する。
【0014】
この態様によれば、赤外光カット部に含まれる第1のポリマフィルム及び第2のポリマフィルムの少なくとも一つは、表示部への赤外光の入射量を低減させるので、表示装置の外部の光、例えば、太陽光中の赤外光による表示部への熱エネルギーの影響が低減する。また、赤外光カット部は、表示情報を有する可視光を透過させるので、表示情報の明るさが保持される。さらに、赤外光カット部に含まれる第1のポリマフィルムの第1軸は、第2のポリマフィルムの第1軸と交差している。このため、屈折率の異方性を有する第1のポリマフィルムが複屈折を示しても、その複屈折は、第1のポリマフィルム上に配置された第2のポリマフィルムによって概ね補償される。これにより、表示部から出射された可視光が赤外光カット部を透過するとき、可視光が、直線偏波から楕円偏波に変化する割合を大幅に減少させることができる。その結果、楕円偏波の可視光がフロントウインドシールドなどの反射部によって反射され、偏波成分に応じて反射率が変化しても、赤外光カット部を透過した可視光に占める楕円偏波の割合が小さくなるので、運転者が認識する表示情報は、表示部から出射された表示情報に近似するようになる。
【0015】
なお、本明細書における「表示情報」とは、視認によって特定の意味を把握させたり、識別させたりすることが可能な情報を広く含み、例えば、車載の表示装置の場合には、地図や交通標識、その他のナビ情報が広く含まれる。「表示部への赤外光の入射量を低減させる」とは、赤外光を吸収または反射することで表示部への赤外光の入射量を低減させることを意味する。また、「屈折率の異方性」とは、ポリマフィルムなどの二次元的な媒質において、屈折率が二次元平面の各方向によって相違すること、つまり屈折率が面内異方性を有することを意味する。
【0016】
以下、図面を参照しながら、表示装置及び赤外光カットフィルムの実施形態について詳細に説明する。本説明において、同一要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る表示装置の一例を示す図である。
図1は、本発明に係る表示装置が車両用ヘッドアップディスプレイとして適用された例を示している。表示装置1は、車両2内において、光源10、表示部20、赤外光カット部30、及び反射部40を備える。光源10は、例えば、キセノンランプ、ハロゲンランプ、発光ダイオード又は冷陰極管を含み、表示部20に向けて直線偏波の可視光L1を出射する。表示部20は、例えば、液晶パネル、有機ELパネル、デジタルミラーデバイス、MEMSディスプレイ、レーザーディスプレイを含み、表示情報を有する。表示部20は、光源10からの可視光L1を受けて、表示情報を有する直線偏波の可視光L2を赤外光カット部30に向けて出射する。表示部20が有機ELパネルを含むときは、表示部20と光源10とが一体化されていてもよいので、この光源10と一体化された表示部20が、可視光L2を赤外光カット部30に向けて出射することができる。
【0018】
赤外光カット部30は、赤外光カットフィルム3を含む。赤外光カット部30は、表示部20からの可視光L2を透過させ、透過後の可視光L3を反射部40に向けて出射し、また、表示部20への赤外光の入射量を低減させる。反射部40は、例えば、フロントウインドシールドを含み、赤外光カット部30を透過した可視光L3を運転者D1に向けて反射させる。この反射された可視光L4を受けて、運転者D1は、フロントウインドシールド越しに、車両2の外部前方の視界に加えて、位置SRにおいて表示情報を視認することができる。
【0019】
図2は、本発明の実施形態に係る赤外光カットフィルムの一例を示す図である。赤外光カットフィルム3は、その一方の面からの可視光を透過させ、他方の面からの赤外光の入射量を低減させることができる。
図2の(a)部に示されるように、赤外光カットフィルム3は、例えば、第1のポリマフィルム31及び第2のポリマフィルム32を有し、第2のポリマフィルム32は、第1のポリマフィルム31上に配置されることができる。
【0020】
第1のポリマフィルム31及び第2のポリマフィルム32は、単層のポリマフィルム又は多層のポリマフィルムであることができる。第1のポリマフィルム31及び第2のポリマフィルム32の少なくとも一方が単層のポリマフィルムであるときには、その単層のポリマフィルムは、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、オレフィン系樹脂、ポリイミド樹脂を含むことができ、厚さは、例えば、50〜200μmである。
【0021】
図2の(b)部に示されるように、第1のポリマフィルム31及び第2のポリマフィルム32の少なくとも一方が多層のポリマフィルムであるときには、その多層のポリマフィルムは、第1のポリマ層51と第2のポリマ層52とが交互に積層された構造を有することができる。
【0022】
第1のポリマ層51は、例えば、結晶質、半結晶質、又は液晶のポリマ及びコポリマなどを含む。第1のポリマ層51の平均厚さは、例えば、0.5ミクロン以下である。
【0023】
第1のポリマ層51に含まれる好適な材料は、例えば、ナフタレンジカルボン酸ポリエステルのポリエチレンナフタレート(PEN)及びその異性体(例えば、2,6−、1,4−、1,5−、2,7−、及び2,3−PEN)、ポリブチレンナフタレート、ポリアルキレンテレフタレート(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)、ポリイミド(例えば、ポリアクリル酸イミド)、ポリエーテルイミド、アタクチックポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメタクリレート(例えば、ポリイソブチルメタクリレート、ポリプロピルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、及びポリメチルメタクリレート)、ポリアクリレート(例えば、ポリブチルアクリレート及びポリメチルアクリレート)、シンジオタクチックポリスチレン(sPS)、シンジオタクチックポリ-α-メチルスチレン、シンジオタクチックポリジクロロスチレン、これらの任意のポリスチレンから成るコポリマ及びブレンド、セルロース誘導電体(例えば、エチルセルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、及びニトロセルロース)、ポリアルキレンポリマ(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリイソブチレン、及びポリ(4−メチル)ペンテン)、フッ素化ポリマ(例えば、ペルフルオロアルコキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化エチレン−プロピレンコポリマ、ポリフッ化ビニリデン、及びポリクロロトリフルオロエチレン)、塩素化ポリマ(例えば、ポリ塩化ビニリデン及びポリ塩化ビニル)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリエーテルアミド、イオノマ樹脂、エラストマ(例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、及びネオプレン)、ならびにポリウレタンを含む。
【0024】
第1のポリマ層51に含まれる好適な他の材料は、例えば、coPEN、即ち、PENのコポリマ(例えば、2,6−、1,4−、1,5−、2,7−、及び/又は2,3−ナフタレンジカルボン酸あるいはそれらのエステルと、(a)テレフタル酸もしくはそのエステル、(b)イソフタル酸もしくはそのエステル、(c)フタル酸もしくはそのエステル、(d)アルカングリコール、(e)シクロアルカングリコール(例えば、シクロヘキサンジメタノールジオール)、(f)アルカンジカルボン酸、及び/又は(g)シクロアルカンジカルボン酸(例えば、シクロヘキサンジカルボン酸)とのコポリマ)、ポリアルキレンテレフタレートのコポリマ(例えば、テレフタル酸もしくはそのエステルと、(a)ナフタレンジカルボン酸もしくはそのエステル、(b)イソフタル酸もしくはそのエステル、(c)フタル酸もしくはそのエステル、(d)アルカングリコール、(e)シクロアルカングリコール(例えば、シクロヘキサンジメタノールジオール)、(f)アルカンジカルボン酸、及び/又は(g)シクロアルカンジカルボン酸(例えば、シクロヘキサンジカルボン酸)とのコポリマ)、スチレンコポリマ(例えば、スチレン−ブタジエンコポリマ及びスチレン−アクリロニトリルコポリマ)、並びに4,4‘−二安息香酸及びエチレングリコールのコポリマなどのコポリマを含む。
【0025】
第1のポリマ層51には、それぞれ、2つ以上の上記のポリマ又はコポリマのブレンド(例えば、sPSとアタクチックポリスチレンとのブレンド)が含まれていてもよい。また、coPENは、ペレットのブレンドであってもよく、少なくとも1つの成分がナフタレンジカルボン酸を基材とするポリマであり、かつ他の成分がPET、PEN、又はcoPENなどの他のポリエステル又はポリカーボネートであることができる。
【0026】
PENは、第1のポリマ層51に含まれる材料として特に好適であり、約155℃から約230℃まで熱に対して安定である。PENの他には、例えば、ポリブチレンナフタレートならびに他の結晶質ナフタレンジカルボン酸ポリエステルが、特に好適な材料として挙げられる。
【0027】
第1のポリマ層51では、その屈折率が実質的に変更されない範囲で、少量のコモノマがナフタレンジカルボン酸ポリエステル中に置換されてもよい。好適なモノマとしては、イソフタル酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、二安息香酸、テレフタル酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、又はシクロヘキサンジカルボン酸に基づくものが挙げられる。少量のコモノマがナフタレンジカルボン酸ポリエステル中に置換されると、屈折率が低下する場合がある。しかし、屈折率が低下しても、所定のポリマ層への接着、フィルム作製時の押出温度の低下、溶融粘度のマッチングの良化、及びフィルム作製時のフィルム延伸のためのガラス転移温度のマッチングの良化のいずれかによって補償されることができる。
【0028】
第2のポリマ層52は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はcoPENを含むことができる。第2のポリマ層52の平均厚さは、例えば、0.5ミクロン以下であり、第1のポリマ層51に含まれる樹脂と第2のポリマ層52に含まれる樹脂との屈折率は0.03以上異なっていてもよい。
【0029】
第1のポリマ層51に含まれる材料と第2のポリマ層52に含まれる材料とは、共に類似する溶融粘度を持ち、それらの作製時において均一な多層押出を可能にすることが好ましい。第1のポリマ層51に含まれる材料は、押出時の典型的な剪断速度において、第2のポリマ層52に含まれる材料の5倍以内の溶融粘度を有することが好ましい。第1のポリマ層51と第2のポリマ層52とは、互いに良好な接着性を呈する一方で、多層のポリマフィルム内で別々の層として存在することができる。
【0030】
また、第1のポリマ層51に含まれる材料と第2のポリマ層52に含まれる材料とは、互いにほぼ等しいガラス転移温度を有することが好ましい。このときには、作製時にフィルムが延伸されても、どちらか一方のポリマ層に亀裂が生じるということが起こり難い。ほぼ等しいガラス転移温度とは、第2のポリマ層に含まれる材料のガラス転移温度が第2のポリマ層に含まれる材料のガラス転移温度よりも低いことを意味する。第2のポリマ層に含まれる材料のガラス転移温度が第1のポリマ層に含まれる材料のガラス転移温度よりもわずかに高くなってもよいが、その温度差は40℃を超えないことが好ましい。
【0031】
多層のポリマフィルムに含まれる各層の数は、多層のポリマフィルムの厚さ、可撓性、及び経済性などの理由から最小の数の層によって所望の光学的性質を達成するように選ばれる。各層の数は、好ましくは約10,000未満、より好ましくは約5,000未満、更に好ましくは約2,000未満である。
【0032】
本実施形態において、第1のポリマフィルム31上に第2のポリマフィルム32を配置する方法は、特に制限されず、従来公知の方法によって行うことができる。一つの配置方法として、接着剤を使用して各フィルムを固定的に配置してもよい。具体的には、例えば、感圧接着剤、ホットメルト接着剤、活性エネルギー線硬化型接着剤、湿気硬化型接着剤、熱硬化型接着剤、嫌気型接着剤等が使用でき、その種類は、各ポリマフィルムの材質等によって適宜決定できる。例えば、アクリル系、ビニルアルコール系、シリコーン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリエーテル系等の接着剤が使用でき、透明性の高い接着剤が使用できる。これらの接着剤は、例えば、そのまま各ポリマフィルムの表面に塗布してもよいし、接着剤から構成されたテープまたはシート等の層をポリマフィルムの表面の全面または一部に貼り付けてもよい。また、別の第1のポリマフィルムに第2のポリマフィルムを配置する方法として、少なくとも部分的に各ポリマフィルムの端部を囲むことができるフレームを用意し、そのフレームで第1のポリマフィルムと第2のポリマフィルムとを重ね固定的に配置してもよい。
【0033】
図3は、実施形態に係る赤外光カットフィルムの一例を示す図である。
図3に示されるように、一例としての赤外光カットフィルム3は、第1のポリマフィルム31及び第2のポリマフィルム32の少なくとも一方に積層された赤外光カット層33を有する。赤外光カット層33は、赤外光の透過量を低減させる。
【0034】
図3の(a)部に示されるように、第1のポリマフィルム31及び第2のポリマフィルム32のどちらか一方、例えば、第2のポリマフィルム32に赤外光カット層33が積層されていてもよい。また、赤外光カットフィルム3は、
図3の(b)部に示されるように、第1のポリマフィルム31及び第2のポリマフィルム32の両方に積層された赤外光カット層33を有していてもよい。なお、
図3の(b)部に示される例では、第1のポリマフィルム31と第2のポリマフィルム32とが互いに接し、第1のポリマフィルム31及び第2のポリマフィルム32の接触面とは反対側の面に、それぞれ赤外光カット層33が積層されている。しかしながら、この例に限られず、第1のポリマフィルム31と第2のポリマフィルム32との間に赤外光カット層33を配置してもよい。いずれの構成であっても、赤外光カット部30は、同様の光学特性を有することができる。
【0035】
赤外光カット層33は、例えば、金属、金属合金、又は酸化物半導体を含み、主として、波長1μm以上の近赤外域及び赤外域の光を反射する。金属は、例えば、銀、金、銅、又はアルミニウムを含む。銀は、薄いフィルム形状にし易く、また、近赤外域及び赤外域の光を反射し易いので、特に好ましい金属である。金属合金は、銀合金、ステンレス鋼、又はインコネルを含む。金属合金のうち、少なくとも30重量%の銀を含有する銀合金は、薄いフィルムの作製を容易にし、また、近赤外域及び赤外域の光を反射し易いので、特に好ましい材料である。銀、50質量%未満の金及び/又は20質量%未満の銅を含む銀合金も、耐久性に優れるので、好ましい材料である。酸化物半導体は、例えば、二酸化スズ(SnO
2)、酸化亜鉛(ZnO)、又は酸化スズインジウム(ITO)を含み、特にITOを含むことが好ましい。金属、金属合金、又は酸化物半導体は、単一の層を形成してもよいし、複数の層を形成してもよい。
【0036】
赤外光カット層33の形成は、例えば、熱分解、粉末塗布、蒸着、カソードスパッタ、イオンプレーティングなどによって行われ、金属、酸化物半導体、又は金属合金がポリマフィルム上に形成される。カソードスパッタ及びイオンプレーティングは、均一なフィルム構造や厚さが得られるので、好ましい作製法である。赤外光カット層33は、接着剤を用いて多層のポリマフィルムにラミネートされる別の金属化ポリマ又はガラスシートであってもよい。接着剤は、例えば、ホットメルト接着剤(例えば、4040 Embassy Parkway Akron,Ohio44333のShell Chemical Companyから入手可能なVITEL 3300接着剤)又は感圧接着剤(例えば、St.Paul,MM55144の3M Companyから入手可能な90/10 IOA/AA及び95/5 IOA/アクリルアミドのアクリル系接着剤)を含む。
【0037】
金属及び金属合金は、約10nm〜約40nm、好ましくは約12nm〜約30nmの厚さに塗布されることができる。酸化物半導体層は、約20nm〜約200nm、好ましくは約80nm〜約120nmの厚さに塗布されることができる。赤外光カット層33が、多層のポリマフィルムにラミネートされた金属化ポリマ又はガラスシートであるときには、シート上の金属又は金属合金のコーティングの厚さは、例えば、約10nm〜約40nmであり、シート上の酸化物半導体コーティング厚さは、例えば、約20nm〜約200nmである。
【0038】
本実施形態に係る赤外光カットフィルム3は、赤外光カット層33を有するので、赤外光カット部30として用いた場合に、表示部20への赤外光の入射量を低減できる。具体的には、赤外光カット部30として用いられた赤外光カットフィルム3は、表示部20側の面と、表示部20側とは反対となる反射部40側の面とを有する。そして赤外光カットフィルム3により、反射部40側の面に入射される外部の光、例えば、太陽光中の赤外光による表示部への熱エネルギーの影響が低減する。また、赤外光カット部30は、表示情報を有する可視光を透過させるので、表示情報の明るさが保持される。なお、本実施形態では、赤外光カット層33を有する形態を説明しているが、第1のポリマフィルム31及び第2のポリマフィルム32の少なくとも一方が多層のポリマフィルムである場合、程度の差はあるものの、赤外光カット層33を設けなくても表示部20への赤外光の入射量を低減できる。
【0039】
第1のポリマフィルム31及び第2のポリマフィルム32は、それらの作製工程において、単層及び多層のフィルムの双方において、それぞれのフィルムに含まれるポリマ材料が同時押出されて形成されることができる。フィルムの作製工程では、次に、所定の温度下で延伸によってフィルムの配向処理がなされ、所望の厚さを有するフィルムが形成されることができる。必要に応じて、所定の温度で熱硬化処理がなされることもある。押出処理及び配向処理は、同時になされることができる。
【0040】
第1のポリマフィルム31及び第2のポリマフィルム32は、屈折率の最も高い第1軸を有する。フィルムの作製時に、一方向にのみフィルムが延伸(一軸配向)されたときは、その延伸方向が、第1軸Ax1となる。フィルムの作製時に、二方向にフィルムが延伸(二軸配向)されたときは、その二つの延伸方向のうちどちらかが第1軸Ax1となる。
【0041】
なお、延伸によって作製されたポリマフィルムの場合、フィルム内に屈折率の異方性が生じて複屈折を示すようになる。このため、例えば、このポリマフィルム単体に赤外光カット層を積層するなどして赤外光カットフィルムを作製し、この赤外光カットフィルムを赤外光カット部として用いた場合、直線偏波の可視光が赤外光カットフィルムを透過するとき、直線偏波から楕円偏波に変わることがある。この場合、楕円偏波の可視光がフロントウインドシールドによって反射されると、偏波成分に応じて可視光の反射率が変化し、その結果、運転者が認識する表示情報(反射された可視光に含まれる表示情報)が、表示部から出射されたときの表示情報と異なってしまい視認性に劣ることがある。
【0042】
一方、本実施形態では、単体のポリマフィルムを用いるのではなく、第1のポリマフィルム31上に第2のポリマフィルム32が配置された赤外光カットフィルム3を赤外光カット部30として用いている。更に、赤外光カット部30では、平面視で、第1のポリマフィルム31の第1軸Ax1と第2のポリマフィルム32の第1軸Ax1とが交差する。このため、屈折率の異方性を有する第1のポリマフィルム31が複屈折を示しても、その複屈折は、第1のポリマフィルム31上に配置された第2のポリマフィルム32によって概ね補償される。これにより、表示部20から出射された可視光L2が赤外光カット部30を透過するとき、可視光L2が直線偏波から楕円偏波に変化する割合を大幅に減少させることができる。その結果、楕円偏波の可視光L3がフロントウインドシールドなどの反射部40によって反射され、偏波成分に応じて反射率が変化しても、赤外光カット部30を透過した可視光L3に占める楕円偏波の割合が小さくなっているので、運転者D1が認識する表示情報は、表示部20から出射された表示情報に近似するようになる。
【0043】
図4は、赤外光カット部30を通過した直線偏波の可視光の偏波状態を調べる測定系を示す概略図である。この測定系では、光源10及び表示部20として、液晶モニタLM(EIZO社製DuraVision FDX1503、15インチTN型カラー液晶モニタ)が用いられ、反射部40として、フロート板ガラスFGが用いられる。フロート板ガラスFGは、可視域でほぼ透明であり、その厚さは約1mmである。反射部40への可視光L3の入射角φは、約45度である。運転者D1に該当する観察者への可視光L4の反射角も45度であり、観察者は、その正面で反射部40を観察することができる。
【0044】
この測定系では、赤外光カットフィルム3としては、第1のポリマフィルム31及び第2のポリマフィルム32を含む多層のポリマフィルムが用いられる。第1のポリマフィルム31及び第2のポリマフィルム32は、共に、3M
TMスコッチティント
TMウインドウフィルムマルチレイヤーNANO90S(3M社製)である。ポリマフィルムのサイズは、約20cm×30cmであり、ポリマフィルムNANO90Sからは、粘着剤層と表面ハードコート層とが取り除かれている。第1のポリマフィルム31及び第2のポリマフィルム32は、共に、200層以上のレイヤーを有する。
【0045】
液晶モニタLMは、直線偏波の可視光L2を反射部40としてのフロート板ガラスFGに向けて出射する。出射される可視光L2の偏波方向は、液晶モニタの偏光方向Px1にほぼ沿っている。偏波状態を調べる測定では、液晶モニタLM上に第1のポリマフィルム31が載せられ、その第1のポリマフィルム31の上に、第2のポリマフィルム32が載せられる。偏光方向Px1と第1のポリマフィルム31の第1軸Ax1とのなす角は、ほぼ0度である。
【0046】
図5は、第1のポリマフィルムの第1軸と第2のポリマフィルムの第1軸との交差角度を示す図である。偏波状態を調べる測定では、初めに、交差角度θを0度として、液晶モニタLMからの可視光を観察した。フロート板ガラスFGによって反射された可視光L4には、虹色の虹彩模様が見られた。この結果は、屈折率の異方性を有する第1のポリマフィルム31を通過した可視光L3の直線偏波の一部が、第1のポリマフィルム31の複屈折によって楕円偏波に変化し、更に、その楕円偏波の一部が、第2のポリマフィルム32の複屈折によっては十分に補償されずに、楕円偏波として残ったことを意味する。赤外光カット部30を透過した可視光L3が楕円偏波を含み、また、フロート板ガラスFGによる反射時に楕円偏波の各偏波成分の反射率が互いに異なるので、可視光L4が虹色の虹彩模様として視認されたことになる。交差角度θが0度のとき、フロート板ガラスFGを反射した後の可視光L4から視認される色彩は、反射する前の可視光L3から視認される色彩と異なる。
【0047】
次に、交差角度θを45度として、液晶モニタLMからの可視光L4を観察した。フロート板ガラスFGによって反射された可視光L4において、虹色が薄まって薄い青色又は薄い黄色が視認されるように改善された。虹色の虹彩模様から薄い青色又は薄い黄色に変化したことは、交差角度θが0度のときに比べて、可視光L3に占める楕円偏波の割合が減少したことを意味する。
【0048】
交差角度θを75度とした測定では、観察者がフロート板ガラスFGによって反射された可視光L4を観察すると、可視光L4の色づきが著しく低減することを確認できた。このことは、観察者の目視による観察レベルでは、可視光L3に占める楕円偏波の割合が、観察者の視認する色に対して色づきが現れない程度にまで減少したことを意味する。偏波状態を調べる測定の結果から、交差角度θが45度から90度に向けて増大するに従って、第1のポリマフィルム31の複屈折によって生じた楕円偏波が、第2のポリマフィルム32の複屈折によって補償されて、可視光L3に占める直線偏波の割合が増大することが示される。
【0049】
交差角度θが45度〜90度、より好ましくは75度〜90度になると、屈折率の異方性を有する第1のポリマフィルム31が複屈折を示しても、その複屈折は、第1のポリマフィルム31上に配置された第2のポリマフィルム32によって概ね補償されることができる。このため、表示部20から出射された可視光L2は、赤外光カット部30を透過した後に、直線偏波から楕円偏波に変化する割合を大幅に減少させることができる。その結果、楕円偏波の可視光L3がフロントウインドシールドなどの反射部40によって反射され、偏波成分に応じて反射率が異なっても、赤外光カット部30を透過した可視光L3に占める楕円偏波の割合が小さくなるので、観察者が認識する表示情報は、表示部20から出射された表示情報に近似するようになる。
【0050】
本実施形態では、第1のポリマフィルムにおける複屈折が、その第1のポリマフィルム31の上に、第2のポリマフィルム32を一枚のみ配置されることによって補償される例が示されたが、必要に応じて複数枚の第2のポリマフィルム32を使うこともできる。