【文献】
Xian-Chun Tang et al.,Identification of human neutralizing antibodies against MERS-CoV and their role in virus adaptive evolution,PNAS,2014年04月28日,Vol.111,No.19,pp.E2018-E2026
【文献】
Tianlei Ying et al.,Exceptionally Potent Neutralization of Middle East Respiratory Syndrome Coronavirus by Human Monoclonal Antibodies,Journal of Virology,2014年04月30日,Vol.88,No.14,pp.7796-7805
【文献】
Liwei Jiang et al.,Potent Neutralization of MERS-CoV by Human Neutralizing Monoclonal Antibodies to the Viral Spike Glycoprotein,Science Translational Medicine,2014年04月30日,Vol.6,No.234,pp.1-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS−CoV)スパイクタンパク質に特異的に結合する、単離された組換え抗体またはその抗原結合フラグメントであって、前記抗体またはその抗原結合フラグメントは、
配列番号66/74と少なくとも90%の配列同一性を有する重鎖可変領域(HCVR)/軽鎖可変領域(LCVR)アミノ酸配列対を含み、ここで、前記HCVR/LCVRアミノ酸配列対は、配列番号66/74のHCVR/LCVRアミノ酸配列対に含有される3つの重鎖相補性決定領域(CDR)(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)ならびに3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)を含む、
前記抗体またはその抗原結合フラグメント。
配列番号68−70−72−76−78−80の6つのCDRのセット(HCDR1−HCDR2−HCDR3−LCDR1−LCDR2−LCDR3)を含む、請求項1または2に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
請求項1〜6のいずれか1項に記載の単離された抗体またはその抗原結合フラグメントであって、DPP4へのMERS−CoV−S結合を遮断する前記抗体またはその抗原結合フラグメント。
請求項7に記載の単離された完全ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントであって、配列番号457のアミノ酸残基367〜606を含むアミノ酸配列と相互作用する前記完全ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメント。
請求項1〜8のいずれか1項に記載の単離された組換えヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントであって、MERS−CoVスパイクタンパク質に特異的に結合し、EMC/2012、Jordan−N3/2012、England−Qatar/2012、Al−Hasa_1_2013、Al−Hasa_2_2013、Al−Hasa_3_2013、Al−Hasa_4_2013、Al−Hasa_12、Al−Hasa_15、Al−Hasa_16、Al−Hasa_17、Al−Hasa_18、Al−Hasa_19、Al−Hasa_21、Al−hasa_25、Bisha_1、Buraidah_1、England1、Hafr−Al−batin_1、Hafr−Al−Batin_2、Hafr−Al−Batin_6、Jeddah_1、KFU−HKU1、KFU−HKU13、Munich、Qatar3、Qatar4、Riyadh_1、Riyadh_2、Riyadh_3、Riyadh_4、Riyadh_5、Riyadh_9、Riyadh_14、Taif_1、UAE、およびWadi−Ad−Dawasirからなる群より選択されるMERS−CoV単離物の該スパイクタンパク質と相互作用する前記組換えヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメント。
少なくとも第1の抗体もしくはその抗原結合フラグメント、または第2の抗体もしくはその抗原結合フラグメントは、DPP4へのMERS−CoV−S結合を遮断する、請求項14に記載の医薬組成物。
第1および第2のエピトープは、MERS−CoVスパイクタンパク質の受容体結合ドメインに存在し、かつ別個であり、オーバーラップしない、請求項14または15に記載の医薬組成物。
MERS−CoV感染症の少なくとも1つの症状または徴候を予防するか、処置するか、または改善する方法において使用するための請求項1〜12のいずれか1項に記載の抗体もしくはその抗原結合フラグメント、もしくは請求項13〜17のいずれか1項に記載の医薬組成物であって、前記方法は、前記医薬組成物または前記抗体もしくはその抗原結合フラグメントを、それを必要とする対象に投与することを含む、前記医薬組成物または前記抗体もしくはその抗原結合フラグメント。
少なくとも1つの症状または徴候は、肺における炎症、肺胞の損傷、ウイルス負荷、発熱、咳、息切れ、肺炎、下痢、臓器不全、敗血性ショックおよび死からなる群より選択される、請求項18に記載の医薬組成物または抗体もしくはその抗原結合フラグメント。
医薬組成物または抗体もしくはその抗原結合フラグメントは、免疫不全状態の個人、年齢が65歳より高い者、中東にあるエリアへの旅行者、医療労働者、医学的問題の既往歴を有する人、ラクダもしくはコウモリと職業上もしくは娯楽上接触する人、ならびにMERS感染症を有することが確認されたもしくは疑われる人と接触する人からなる群より選択される対象に予防的に投与される、請求項20に記載の医薬組成物または抗体もしくはその抗原結合フラグメント。
第2の治療剤は、抗炎症薬(コルチコステロイド、および非ステロイド系抗炎症薬のような)、抗ウイルス薬、MERS−CoVスパイクタンパク質に対する異なる抗体、MERS−CoVのためのワクチン、抗生物質、抗酸化剤のような栄養補助剤、ならびにMERS感染症を処置するための任意の他の対症療法からなる群より選択される、請求項23に記載の医薬組成物または抗体もしくはその抗原結合フラグメント。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本方法が記載される前に、本発明は、記載される特定の方法および実験条件に制限されず、方法および条件自体が変動することは理解されるべきである。本明細書において用いられる専門用語は、特定の実施形態を記載する目的のためのみであることも理解されるべきであり、本発明の範囲は、添付の請求項によってのみ制限されるので、制限であることは意図されない。
【0050】
別段定義されない限り、本明細書において用いられる全ての技術および科学用語は、本発明が属する当業者により一般的に理解されるのと同一の意味を有する。本明細書において記載されるものと類似または均等な任意の方法および材料は、本発明の実施または試験において用いられるが、好ましい方法および材料がここで記載される。本明細書において述べられる全ての刊行物は、全体として参照によって本明細書に組み入れられる。
【0051】
定義
「MERSコロナウイルス」としても呼ばれる、用語「MERS−CoV」は、2012年にアラビア半島において最初に単離され(Zakiら2012年、NEJM 367:1814〜1820頁)、重篤な急性呼吸器系疾患の大流行の原因として同定された、新たに出現した中東呼吸器症候群−コロナウイルスを指す。それは、ヒトコロナウイルス−EMC(Erasmus Medical Centre;hCoV−EMC)と当初呼ばれた。それは、ベータコロナウイルス系統2cに属し、2002年に中国において出現した、重篤な急性呼吸器系症候群コロナウイルス(SARS−CoV)に類似した、重篤な呼吸器系疾患を引き起こす。MERSコロナウイルスは、コウモリおよびラクダにおいて見出されたコロナウイルスと密接に関連することが見出された。それは、ウイルスのスパイクタンパク質を介してヒト宿主細胞受容体ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP4)に結合する。MERS−CoVスパイクタンパク質は、他の種、特に、コウモリおよびラクダのDPP4に結合することが見出された(Rajら2013年、Nature495:251〜254頁)。
【0052】
「Sタンパク質」とも呼ばれる、用語「MERS−CoV−S」は、MERSコロナウイルスのスパイクタンパク質を指す。MERS−CoVスパイクタンパク質は、エンベロープ化されたMERSコロナウイルス粒子の表面上のスパイクまたはペプロマーを構成する3量体にアセンブルする、1353個のアミノ酸のタイプI膜糖タンパク質である。タンパク質は、2つの必須の機能、宿主受容体結合および膜融合を有し、それは、Sタンパク質のN末端(S1、アミノ酸残基1〜751)およびC末端(S2、アミノ酸残基752〜1353)の半分による。MERS−CoV−Sは、その同族受容体、ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP4)にS1サブユニットに存在する約230アミノ酸長の受容体結合ドメイン(RBD)を介して結合する。Mouら(2013年)は、J.Virology(87巻、9379〜9383頁)において、MERS−CoV RBDが、スパイクタンパク質の残基358〜588内に位置することを示した。全長MERS−CoVスパイクタンパク質のアミノ酸配列は、受託番号AFS88936.1としてGenBankにおいて提供されるMERS−CoV単離物EMC/2012のスパイクタンパク質のアミノ酸配列(配列番号457)により例示される。用語「MERS−CoV−S」はまた、異なるMERS−CoV単離物、例えば、Jordan−N3/2012、England−Qatar/2012、Al−Hasa_1_2013、Al−Hasa_2_2013、Al−Hasa_3_2013、Al−Hasa_4_2013、Al−Hasa_12、Al−Hasa_15、Al−Hasa_16、Al−Hasa_17、Al−Hasa_18、Al−Hasa_19、Al−Hasa_21、Al−Hasa_25、Bisha_1、Buraidah_1、England1、Hafr−Al−Batin_1、Hafr−Al−Batin_2、Hafr−Al−Batin_6、Jeddah_1、KFU−HKU1、KFU−HKU13、Munich、Qatar3、Qatar4、Riyadh_1、Riyadh_2、Riyadh_3、Riyadh_4、Riyadh_5、Riyadh_9、Riyadh_14、Taif_1、UAE、およびWadi−Ad−Dawasirから単離されたMERS−CoVスパイクタンパク質のタンパク質変異体も含む。用語「MERS−CoV−S」は、組換えMERS−CoVスパイクタンパク質またはそのフラグメントを含む。用語はまた、例えば、ヒスチジンタグ、マウスもしくはヒトFc、もしくはROR1のようなシグナル配列に結合したMERS−CoVスパイクタンパク質またはそのフラグメントも包含する。例えば、用語は、全長MERS−CoVスパイクタンパク質のアミノ酸残基367〜606に結合した、C末端におけるマウスFc(mIgG2a)またはヒトFc(hIgG1)を含む、配列番号458において示される配列より例示される配列を含む。用語はまた、全長MERS−CoVスパイクタンパク質のアミノ酸残基367〜606に結合した、C末端におけるヒスチジンタグを含む、タンパク質変異体も含む。
【0053】
用語「DPP4」は、ジペプチジルペプチダーゼ4、MERS−CoVについての受容体を指す。DPP4は、細胞表面上に2量体形態で存在する766個のアミノ酸のタイプII膜貫通型糖タンパク質である。それは、プロリンアミノ酸残基の後のホルモンおよびケモカインからジペプチドを切断し、それにより、それらの生物活性を制御する、エキソペプチダーゼである。ヒトにおいて、DPP4は、腎臓、小腸、肝臓および前立腺における上皮細胞上、上および下気道における線毛性および非線毛性細胞上、ならびに免疫細胞(すなわち、CD4+、CD8+、樹状細胞およびマクロファージ)上で主に発現する。非ヒト種由来であると特定されない限り、本明細書において用いられる、用語「DPP4」は、ヒトDPP4を意味する。
【0054】
中東呼吸器症候群としても特徴付けられる、本明細書において用いられる、用語「MERS感染」または「MERS−CoV感染」はまた、MERSコロナウイルスにより引き起こされ、2012年にサウジアラビアにおいて最初に報告された、重篤な急性の呼吸性の病気を指す。用語は、しばしば下気道における、気道感染症を含む。症状は、高熱、咳、息切れ、肺炎、下痢のような胃腸の症状、臓器不全(腎不全および腎臓の機能障害)、敗血性ショック、および重篤なケースにおける死を含む。
【0055】
本明細書において用いられる用語「抗体」は、4つのポリペプチド鎖、ジスルフィド結合により相互結合された2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖を含む免疫グロブリン分子(すなわち、「完全抗体分子」)、ならびにその多量体(例えば、IgM)またはその抗原結合フラグメントを指すことが意図される。それぞれの重鎖は、重鎖可変領域(「HCVR」または「V
H」)、ならびに重鎖定常領域(ドメインC
H1、C
H2、およびC
H3を含む)を含む。それぞれの軽鎖は、軽鎖可変領域(「LCVR」または「V
L」)、および軽鎖定常領域(C
L)を含む。V
HおよびV
L領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存される領域が散在した相補性決定領域(CDR)と呼ばれる、高頻度可変性の領域にさらに細分される。それぞれのV
HならびにV
Lは、次の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4でアミノ末端からカルボキシ末端まで配置された、3つのCDRおよび4つのFRを含む。本発明のある種の実施形態において、抗体(もしくはその抗原結合フラグメント)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であるか、または天然または人工的に修飾される。アミノ酸連続配列は、2つまたはそれ以上のCDRの隣り合った解析に基づき定義される。
【0056】
1つもしくはそれ以上のCDR残基の置換、または1つもしくはそれ以上のCDRの除外も可能である。1つまたは2つのCDRを省いても結合する抗体が、科学文献において記載されている。Padlanら(1995年FASEB J.9:133〜139頁)は、公開された結晶構造に基づき、抗体とその抗原の間の接触領域を解析し、CDR残基の約5分の1〜3分の1のみが抗原と実際に接触すると結論付けた。Padlanはまた、1つまたは2つのCDRが、抗原と接触したアミノ酸を有していない、多くの抗体を見出した(Vajdosら2002年J Mol Biol320:415〜428頁も参照)。
【0057】
抗原と接触しないCDR残基は、従前の研究(例えば、CDRH2における残基H60〜H65はしばしば必要とされない)において、ChothiaCDRの外側にあるKabatCDRの領域から、分子モデリングにより、および/または実験的に同定される。CDRまたはその残基が除外されるなら、それは、別のヒト抗体配列または共通のかかる配列における対応する位置を占めるアミノ酸で通常置換される。置換するためのCDRおよびアミノ酸内の置換のための位置はまた、実験的に選択される。実験的置換は、保存的または非保存的置換である。
【0058】
本明細書において開示される完全ヒト抗MERS−CoV−Sモノクローナル抗体は、対応する生殖系列配列と比較して、重鎖および軽鎖可変ドメインのフレームワークおよび/またはCDR領域における1つまたはそれ以上のアミノ酸置換、挿入および/または欠損を含む。かかる変異は、本明細書において開示されるアミノ酸配列を、例えば、公開抗体配列データベースから入手可能な生殖系列配列と比較することにより、容易に確かめられる。本発明は、本明細書において開示されるアミノ酸配列のいずれかに由来する抗体およびその抗原結合フラグメントを含み、ここで、1つもしくはそれ以上のフレームワークおよび/またはCDR領域内の1個またはそれ以上のアミノ酸は、抗体が由来する生殖系列配列の対応する残基に、または別のヒト生殖系列配列の対応する残基に、または対応する生殖系列残基の保存的アミノ酸置換に変異される(かかる配列変更は、本明細書において「生殖系列変異」としてまとめて言及される)。当業者は、本明細書において開示される重鎖および軽鎖可変領域配列から出発して、1つもしくはそれ以上の個々の生殖系列変異またはその組み合わせを含む、多数の抗体および抗原結合フラグメントを容易に作り出す。ある種の実施形態において、V
Hおよび/またはV
Lドメイン内のフレームワークならびに/またはCDR残基の全てを変異させて、抗体が由来する元の生殖系列配列において見出される残基に戻す。他の実施形態において、ある種の残基のみ、例えば、FR1の最初の8個のアミノ酸内、もしくはFR4の最後の8個のアミノ酸内で見出される変異した残基、またはCDR1、CDR2、もしくはCDR3内で見出される変異した残基のみを変異させて、元の本来の生殖系列配列に戻す。他の実施形態において、フレームワークおよび/またはCDR残基の1つまたはそれ以上は、異なる生殖系列配列(すなわち、抗体が元々由来する生殖系列配列と異なる、生殖系列配列)の対応する残基に変異される。さらに、本発明の抗体は、フレームワークおよび/またはCDR領域内の2つもしくはそれ以上の生殖系列変異の任意の組み合わせを含有し、例えば、ここで、ある種の個々の残基は、特定の生殖系列配列の対応する残基に変異され、一方、元の生殖系列配列と異なるある種の他の残基は、維持されるか、もしくは異なる生殖系列配列の対応する残基に変異される。一旦得られると、1つまたはそれ以上の生殖系列変異を含有する抗体および抗原結合フラグメントは、結合特異性の好転、結合親和性の増大、アンタゴニストもしくはアゴニスト生物学的特性の好転または増強(場合によっては)、免疫原性の低減などのような1つまたはそれ以上の所望の特性について容易に試験される。この一般的な方法において得られる抗体および抗原結合フラグメントは、本発明に包含される。
【0059】
本発明はまた、1つもしくはそれ以上の保存的置換を有する、本明細書において開示されるHCVR、LCVR、および/またはCDRアミノ酸配列のいずれかの変異体を含む完全ヒト抗MERS−CoV−Sモノクローナル抗体も含む。例えば、本発明は、例えば、本明細書において開示されるHCVR、LCVR、および/もしくはCDRアミノ酸配列のいずれかに関連する10もしくはそれ以下、8つもしくはそれ以下、6つもしくはそれ以下、4つもしくはそれ以下などの保存的アミノ酸置換を有する、HCVR、LCVR、ならびに/またはCDRアミノ酸配列を有する抗MERS−CoV抗体を含む。
【0060】
本明細書において用いられる用語「ヒト抗体」は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変および定常領域を有する抗体を含むことが意図される。本発明のヒトmAbは、例えば、CDR、特に、CDR3において、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によりコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでの無作為もしくは部位特異的変異誘発、またはインビボでの体細胞変異により導入される変異)を含む。しかしながら、本明細書において用いられる用語「ヒト抗体」は、別の哺乳類種(例えば、マウス)の生殖系列に由来するCDR配列が、ヒトFR配列に移植されている、mAbを含むことは意図されない。用語は、非ヒト哺乳類において、または非ヒト哺乳類の細胞において組換え的に産生される抗体を含む。用語は、ヒト対象から単離された、またはヒト対象において生じた抗体を含むことは意図されない。
【0061】
本明細書において用いられる用語「組換え体」は、例えば、DNAスプライシングおよび遺伝子導入発現を含む、組換えDNA技術として当該技術分野において公知の技術もしくは方法により、作製されるか、発現されるか、単離されるか、もしくは得られる、本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントを指す。用語は、非ヒト哺乳類(遺伝子導入非ヒト哺乳類、例えば、遺伝子導入マウスを含む)、もしくは細胞(例えば、CHO細胞)発現系において発現されるか、または組換えコンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離される抗体を指す。
【0062】
用語「特異的に結合する」、または「に特異的に結合する」などは、抗体もしくはその抗原結合フラグメントが、生理的条件下で比較的安定である抗原との複合体を形成することを意味する。特異的結合は、少なくとも約1×10
−8Mまたはそれ以下の平衡解離定数により特徴付けられる(例えば、K
Dが小さいほど、より強固な結合を示す)。2つの分子が特異的に結合するかどうかを決定する方法は、当該技術分野において周知であり、例えば、平衡透析、表面プラズモン共鳴などを含む。本明細書において記載される通り、抗体は、表面プラズモン共鳴、例えば、BIACORE(商標)により同定され、MERS−CoV−Sに特異的に結合する。さらに、MERS−CoV−Sにおける1つのドメイン、および1つもしくはそれ以上のさらなる抗原に結合する多特異性抗体、またはMERS−CoV−Sの2つの異なる領域に結合する二重特異性抗体は、それにもかかわらず、本明細書において用いられる「特異的に結合する」抗体とみなされる。
【0063】
用語「高い親和性」抗体は、表面プラズモン共鳴、例えば、BIACORE(商標)または溶液親和性ELISAにより測定される、少なくとも10
−8M;好ましくは、10
−9M;より好ましくは、10
−10M、なおより好ましくは、10
−11M、なおより好ましくは、10
−12MのK
Dとして表される、MERS−CoV−Sに対する結合親和性を有するそのmAbを指す。
【0064】
用語「スローオフレート」、「Koff」、または「kd」は、表面プラズモン共鳴、例えば、BIACORE(商標)により決定される、1×10
−3s
−1もしくはそれ以下、好ましくは、1×10
−4s
−1もしくはそれ以下の速度定数でMERS−CoVから解離する抗体を意味する。
【0065】
本明細書において用いられる用語、抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合フラグメント」などは、任意の天然に生じる、酵素的に得られる、合成された、または遺伝子操作された、抗原に特異的に結合して複合体を形成するポリペプチドまたは糖タンパク質を含む。本明細書において用いられる用語、抗体の「抗原結合フラグメント」、または「抗体フラグメント」は、MERS−CoVスパイクタンパク質に結合する能力を保持する抗体の1つまたはそれ以上のフラグメントを指す。
【0066】
特定の実施形態において、本発明の抗体または抗体フラグメントは、リガンドのような部分、または抗ウイルス薬、第2の抗MERS−CoV−S抗体、もしくはMERS−CoVにより引き起こされる感染を処置するのに有用な任意の他の治療部分のような治療部分(「免疫複合体」)に結合する。
【0067】
本明細書において用いられる「単離された抗体」は、異なる抗原特異性を有する他の抗体(Ab)が実質的にない抗体(例えば、MERS−CoV−Sに特異的に結合する、単離された抗体またはそのフラグメントは、MERS−CoV−S以外の抗原に特異的に結合するAbが実質的にない)を指すことが意図される。
【0068】
本明細書において用いられる「遮断抗体」もしくは「中和抗体」(または「MERS−CoV−S活性を中和する抗体」もしくは「アンタゴニスト抗体」)は、MERS−CoV−Sへの結合が、MERS−CoVの少なくとも1つの生物学的活性の阻害をもたらす抗体を指すことが意図される。例えば、本発明の抗体は、DPP4へのMERS−CoV結合を防ぐか、または遮断する。
【0069】
本明細書において用いられる用語「表面プラズモン共鳴」は、例えば、BIACORE(商標)システム(Pharmacia Biosensor AB、Uppsala、Sweden and Piscataway、N.J.)を用いた、バイオセンサーマトリックス内のタンパク質濃度の変化の検出による、リアルタイムの生体分子相互作用の解析を可能にする光学現象を指す。
【0070】
本明細書において用いられる用語「K
D」は、特定の抗体と抗原の相互作用の平衡解離定数を指すことが意図される。
【0071】
用語「エピトープ」は、パラトープとしても公知の抗体分子の可変領域における特異的抗原結合部位と相互作用する、抗原決定因子を指す。単一の抗原は、1つより多くのエピトープを有する。従って、異なる抗体は、抗原上の異なる範囲に結合し、異なる生物学的作用を有する。用語「エピトープ」はまた、Bおよび/またはT細胞が応答する抗原上の部位も指す。それはまた、抗体により結合される抗原の領域も指す。エピトープは、構造的または機能的として定義される。機能的エピトープは、一般に構造的エピトープのサブセットであり、相互作用の親和性に直接的に関与するその残基を有する。エピトープはまた立体構造でもあり、すなわち、非直線状のアミノ酸を含む。ある種の実施形態において、エピトープは、アミノ酸、糖側鎖、リン酸基、またはスルホニル基のような分子の化学的に活性な表面基である決定因子を含み、ある種の実施形態において、特異的な3次元の構造的特徴、および/または特異的な変更特徴を有する。
【0072】
本明細書において用いられる、用語「交差競合する」は、抗体もしくはその抗原結合フラグメントが、抗原に結合し、別の抗体もしくはその抗原結合フラグメントの結合を阻害するか、または遮断することを意味する。用語はまた、方向の両方、すなわち、第2の抗体に結合し、第2の抗体の結合を遮断する第1の抗体、および逆も真なり、における2つの抗体間の競合も含む。ある種の実施形態において、第1および第2の抗体は、同一のエピトープに結合する。あるいは、第1および第2の抗体は、異なるがオーバーラップするエピトープに結合することで、1つの結合が、第2の抗体の結合を、例えば立体障害を介して阻害するか、または遮断するようになる。抗体間の交差競合は、当該技術分野において公知の方法により、例えば、リアルタイム、ラベルフリーバイオレイヤーインターフェロメトリーアッセイにより測定される。2つの抗体間の交差競合は、自己と自己の結合(ここで、第1および第2の抗体は同一の抗体である)に起因するバックグラウンドシグナル未満である、第2の抗体の結合として表される。2つの抗体間の交差競合は、例えば、ベースラインの自己と自己のバックグラウンド結合(ここで、第1および第2の抗体は同一の抗体である)未満である第2の抗体の%結合として表される。
【0073】
核酸もしくはそのフラグメントに言及している場合、用語「実質的な同一性」または「実質的に同一の」は、適切なヌクレオチド挿入または欠損を伴うかたちで別の核酸(もしくはその相補鎖)と最適に整列されると、以下で考察される通り、FASTA、BLAST、またはGAPのような、配列同一性の任意の周知のアルゴリズムにより測定される、少なくとも約90%、より好ましくは、少なくとも約95%、96%、97%、98%、または99%のヌクレオチド塩基のヌクレオチド配列同一性が存在することを示す。参照核酸分子に対する実質的な同一性を有する核酸分子は、ある種の例において、参照核酸分子によりコードされるポリペプチドと同一または実質的に類似のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする。
【0074】
ポリペプチドに適用される場合、用語「実質的な類似性」または「実質的に類似の」は、2つのペプチド配列が、例えば、デフォルトギャップウェイトを用いたプログラムGAPまたはBESTFITにより、最適に整列されると、少なくとも90%の配列同一性、なおより好ましくは、少なくとも95%、98%、または99%の配列同一性を共有することを意味する。好ましくは、残基位置は、同一でなく、保存的アミノ酸置換により異なる。「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が、類似の化学的特性(例えば、電荷または疎水性)を有する側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基により置換されているものである。一般に、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能的特性を実質的に変化させない。2つまたはそれ以上のアミノ酸配列が、保存的置換により互いに異なる場合において、類似性の割合または程度は、置換の保存的性質を補正するよう上方調節される。この調節を成す手段は、当業者に周知である。例えば、Pearson(1994年)Methods Mol.Biol.24:307〜331頁を参照(参照によって本明細書に組み入れられる)。類似の化学的特性を有する側鎖を有するアミノ酸の群の例は、1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシン;2)脂肪族−ヒドロキシル側鎖:セリン、およびスレオニン;3)アミド含有側鎖:アスパラギン、およびグルタミン;4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン;5)塩基性側鎖:リジン、アルギニン、およびヒスチジン;6)酸性側鎖:アスパラギン酸塩、およびグルタミン酸塩、ならびに7)硫黄含有側鎖:システイン、およびメチオニンを含む。好ましい保存的アミノ酸置換基は:バリン−ロイシン−イソロイシン、フェニルアラニン−チロシン、リジン−アルギニン、アラニン−バリン、グルタミン酸塩−アスパラギン酸塩、およびアスパラギン−グルタミンである。あるいは、保存的置換は、Gonnetら(1992年)Science256:1443〜45頁(参照によって本明細書に組み入れられる)において開示されるPAM250対数尤度行列において正の値を有する任意の変化である。「中程度の保存的」置換は、PAM250対数尤度行列において負でない値を有する任意の変化である。
【0075】
ポリペプチドについての配列類似性は、配列解析ソフトウェアを用いて典型的に測定される。タンパク質解析ソフトウェアは、保存的アミノ酸置換を含む、様々な置換、欠損、および他の修飾に割り当てられる類似性の測定を用いて、類似の配列を一致させる。例えば、GCGソフトウェアは、生物の異なる種由来の相同な諸ポリペプチドの間、または野生型タンパク質とその変異タンパク質の間のような、密接に関連するポリペプチド間の配列相同性または配列同一性を決定するためのデフォルトパラメーターで用いられるGAPおよびBESTFITのようなプログラムを含む。例えば、GCG Version 6.1を参照。ポリペプチド配列はまた、デフォルトまたは推奨パラメーターを用いたFASTA;GCG Version 6.1におけるプログラムを用いても比較される。FASTA(例えば、FASTA2、およびFASTA3)は、クエリーと検索配列の間の最適オーバーラップの領域の整列化およびパーセント配列同一性をもたらす(上記、Pearson(2000年))。本発明の配列を、異なる生物由来の多数の配列を含有するデータベースと比較する上での別の好ましいアルゴリズムは、デフォルトパラメーターを用いた、コンピュータープログラムBLAST、特に、BLASTPまたはTBLASTNである。例えば、Altschulら(1990年)J.Mol.Biol.215:403〜410頁、および(1997年)Nucleic Acids Res.25:3389〜3402頁を参照(それぞれが、参照によって本明細書に組み入れられる)。
【0076】
語句「治療上有効量」によって、投与されるものに所望の作用を作り出す量が意味される。抽出量は、処置の目的に依存し、公知の技術(例えば、Lloyd(1999年)The Art、Science and Technology of Pharmaceutical Compoundingを参照)を用いて当業者により解明可能だろう。
【0077】
本明細書において用いられる用語「対象」は、ウイルス感染症のような疾患もしくは障害の改善、予防、および/または処置の必要な動物、好ましくは、哺乳類、より好ましくは、ヒトを指す。用語は、MERS感染を有するか、または有するリスクのあるヒト対象を含む。
【0078】
本明細書において用いられる、用語「処置する」、「処置すること」、または「処置」は、本発明の抗体のような治療剤のそれを必要とする対象への投与に起因する、MERS感染の少なくとも1つの症状もしくは徴候の重症度の低減または改善を指す。用語は、疾患の進行または感染の悪化の阻害を含む。用語はまた、疾患の正の進行も含み、すなわち、対象は、本発明の抗体のような治療剤の投与の際に、感染を有さないか、または低減したウイルスタイターを有するか、もしくは有さない。治療剤は、対象への治療用量にて投与される。
【0079】
用語「予防する」、「予防すること」または「予防」は、本発明の抗体の投与の際に、MERS感染の所見もしくはMERS感染の任意の症状もしくは徴候の阻害を指す。用語は、ウイルスに曝露されたか、またはMERS感染を有するリスクのある対象における感染の広がりの予防を含む。
【0080】
本明細書において用いられる用語「抗ウイルス薬」は、対象においてウイルス感染症を処置、予防、もしくは改善するために用いられる任意の抗ウイルス薬または療法を指す。用語「抗ウイルス薬」は、リバビリン、オセルタミビル、ザナミビル、インターフェロン−アルファ2b、鎮痛剤、およびコルチコステロイドを含むが、これらに限定されない。本発明の文脈において、ウイルス感染は、MERS−CoV、HCoV_229E、HCoV_NL63、HCoV−OC43、HCoV_HKU1、およびSARS−CoVを含むが、これらに限定されない、ヒトコロナウイルスにより引き起こされる感染を含む。
【0081】
一般的な説明
感染性疾患の予防または処置のための受動免疫療法は、通常、高タイターの中和抗体を含有する回復期のヒト血清の形態で1世紀より長い間用いられてきた(Goodら1991年;Cancer68:1415〜1421頁)。今日、複数の精製されたモノクローナル抗体が、抗微生物剤としての使用のため前臨床および臨床開発に現在ある(Marascoら2007年;Nature Biotechnology25:1421〜1434頁)。
【0082】
本発明者らは、MERS−CoV−Sに特異的に結合し、MERS−CoV−SのDPP4との相互作用を調節する完全ヒト抗体およびその抗原結合フラグメントを本明細書において記載した。抗MERS−CoV−S抗体は、MERS−CoV−Sに高親和性で結合する。ある種の実施形態において、本発明の抗体は遮断抗体であり、ここで、抗体は、MERS−CoV−Sに結合し、MERS−CoV−SのDPP4との相互作用を遮断する。ある実施形態において、本発明の遮断抗体は、MERS−CoV−SのDPP4への結合を遮断し、および/または宿主細胞のウイルス感染性を阻害するか、もしくは中和する。ある実施形態において、遮断抗体は、MERS感染に罹患している対象を処置するのに有用である。ある種の実施形態において、スパイクタンパク質への結合について交差競合しない選択された抗体を併用でカクテルとして用いて、いずれかの成分による選択圧に応答した変異を介してウイルスが回避する能力を低減する。抗体は、それを必要とする対象に投与されると、対象においてMERS−CoVのようなウイルスによる感染症を低減する。それらを用いて、対象においてウイルス負荷が低減される。それらは、単独で、またはウイルス感染を処置するための当該技術分野において公知の他の治療部分もしくは様式を用いた補助療法として用いられる。これらの抗体が、過去2年の間のウイルスの天然の進化中に保存されたSタンパク質上のエピトープに結合することも、本明細書において示される。さらに、新規の遺伝子導入マウスモデルを用いて、同定された抗体が、マウスを感染から予防的に保護し、ならびに接種後の処置パラダイムにおいて既に確立された感染を改善することが示された。実施例7において、感染の1日前における抗MERS−CoV−S抗体の投与が、MERS−CoV複製を生ウイルスアッセイにおける検出のレベル近くまで、およびウイルスRNAアッセイにおいて3logにより低減することができることを示す。この抗体は、感染の24時間後に与えられたより少ない用量の抗体が、より低い程度までMERS−CoVを遮断することができたので、用量依存的保護を示した。加えて、肺組織の組織学的解析は、抗体で予め処置されたマウスが、MERS−CoVにより誘導された細気管支周囲への細胞浸潤、肺胞肥厚、および全体的な炎症病巣の低減を示したことを実証した。
【0083】
全長MERS−CoVスパイクタンパク質の全長アミノ酸配列は、配列番号457において示される。ある種の実施形態において、本発明の抗体は、全長MERS−CoVスパイクタンパク質(配列番号457)のような1次免疫原、もしくはMERS−CoV−Sもしくは修飾されたMERS−CoV−Sフラグメント(例えば、配列番号458)の組換え形態、続いて2次免疫原で、またはMERS−CoV−Sの免疫学的に活性なフラグメントで免疫されたマウスから得られる。
【0084】
免疫原は、MERS−CoV−Sの生物学的に活性および/もしくは免疫原性フラグメント、またはその活性フラグメントをコードするDNAである。フラグメントは、MERS−CoV−SのN末端またはC末端のドメインに由来する。本発明のある種の実施形態において、免疫原は、配列番号457のアミノ酸残基367〜606の範囲にあるMERS−CoV−Sのフラグメントである。
【0085】
ペプチドは、タグ付けのため、もしくはKLHのような担体分子への結合の目的のためのある種の残基の付加または置換を含むよう修飾される。例えば、免疫のためのKLHへの結合のためのペプチドを調製するために、例えば、ペプチドのN末端もしくはC末端いずれかにシステインが付加されるか、またはリンカー配列が付加される。
【0086】
本発明のある種の抗MERS−CoV−S抗体は、MERS−CoV−Sに結合し、インビトロまたはインビボアッセイにより決定される、MERS−CoV−Sの活性を中和する。MERS−CoV−Sに結合し、MERS−CoV−Sの活性を中和する本発明の抗体の能力は、本明細書において記載される、結合アッセイ、もしくは活性アッセイを含む、当業者に公知の任意の標準的方法を用いて測定される。
【0087】
結合および遮断活性を測定するための非限定的な典型的インビトロアッセイは、本明細書における実施例4〜5において説明される。実施例4において、MERS−CoV−Sについての抗MERS−CoV−S抗体の結合親和性および解離定数は、表面プラズモン共鳴アッセイにより決定された。実施例5において、中和アッセイを用いて、MERS−CoVスパイクタンパク質を含有するウイルス様粒子の感染性が決定された。
【0088】
MERS−CoV−Sに特異的な抗体は、さらなる標識もしくは部分を含有しないか、またはそれらは、N末端またはC末端標識もしくは部分を含有する。1つの実施形態において、標識または部分はビオチンである。結合アッセイにおいて、(もしあれば)標識の位置は、ペプチドが結合される表面に関連してペプチドの方向が決定される。例えば、表面がアビジンでコートされるなら、N末端のビオチンを含有するペプチドは、ペプチドのC末端部分が表面の遠位であるように、方向付けられる。1つの実施形態において、標識は、放射性核種、蛍光色素、またはMRIで検出可能な標識である。ある種の実施形態において、かかる標識された抗体は、画像化アッセイを含む診断アッセイにおいて用いられる。
【0089】
抗体の抗原結合フラグメント
別段具体的に示されない限り、本明細書において用いられる用語「抗体」は、2つの免疫グロブリン重鎖、および2つの免疫グロブリン軽鎖を含む抗体分子(すなわち、「完全抗体分子」)、ならびにその抗原結合フラグメントを包含することは理解されるだろう。本明細書において用いられる用語、抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合フラグメント」などは、任意の天然に生じる、酵素的に得られる、合成された、または遺伝子操作された、抗原に特異的に結合して複合体を形成するポリペプチドもしくは糖タンパク質を含む。本明細書において用いられる用語、抗体の「抗原結合フラグメント」、または「抗体フラグメント」は、MERS−CoVスパイクタンパク質に特異的に結合する能力を保持する抗体の1つまたはそれ以上のフラグメントを指す。抗体フラグメントは、Fabフラグメント、F(ab’)
2フラグメント、Fvフラグメント、dAbフラグメント、CDRを含有するフラグメント、または単離されたCDRを含む。ある種の実施形態において、用語「抗原結合フラグメント」は、多特異性抗原結合分子のポリペプチドフラグメントを指す。抗体の抗原結合フラグメントは、例えば、タンパク質消化、または抗体可変および(場合により)定常ドメインをコードするDNAの操作および発現を伴う組換え遺伝子操作技術のような任意の適切な標準的技術を用いて、完全抗体分子から得ることができる。かかるDNAは公知であり、および/または例えば、市販の供給源、DNAライブラリー(例えば、ファージ−抗体ライブラリーを含む)から容易に入手可能であるか、もしくは合成される。DNAは、配列決定され、化学的に、または分子生物学技術を用いることにより操作されて、例えば、1つもしくはそれ以上の可変および/もしくは定常ドメインが適切な配置に配置されるか、またはコドンが導入されるか、システイン残基が作製されるか、アミノ酸が修飾されるか、付加されるか、もしくは欠損される。
【0090】
抗原結合フラグメントの非限定的な例は:(i)Fabフラグメント;(ii)F(ab’)
2フラグメント;(iii)Fdフラグメント;(iv)Fvフラグメント;(v)1本鎖Fv(scFv)分子;(vi)dAbフラグメント;および(vii)抗体の超可変領域を模倣するアミノ酸残基からなる最小認識単位(例えば、CDR3ペプチドのような単離された相補決定領域(CDR))、または限定されたFR3−CDR3−FR4ペプチドを含む。ドメイン特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメインが欠損した抗体、キメラ抗体、CDRが移植された抗体、二重特異性抗体、三重特異性抗体、四重特異性抗体、ミニボディ、ナノボディ(例えば、1価のナノボディ、2価のナノボディなど)、小モジュラー免疫薬(SMIP)、およびサメ可変IgNARドメインのような他の操作された分子もまた、本明細書において用いられる、表現「抗原結合フラグメント」に包含される。
【0091】
抗体の抗原結合フラグメントは、少なくとも1つの可変ドメインを典型的に含む。可変ドメインは、任意のサイズまたはアミノ酸組成であり、少なくとも1つのCDRを一般的に含み、1つもしくはそれ以上のフレームワーク配列に隣接されるか、もしくはインフレームである。V
Lドメインと繋がったV
Hドメインを有する抗原結合フラグメントにおいて、V
HおよびV
Lドメインは、任意の適切な配置で相対的に位置する。例えば、可変領域は、二量体であり、V
H−V
H、V
H−V
L、またはV
L−V
L二量体を含有する。あるいは、抗体の抗原結合フラグメントは、単量体V
HまたはV
Lドメインを含有する。
【0092】
ある種の実施形態において、抗体の抗原結合フラグメントは、少なくとも1つの定常ドメインに共有結合した少なくとも1つの可変ドメインを含有する。本発明の抗体の抗原結合フラグメント内で見出される可変および定常ドメインの非限定的な典型的配置は:(i)V
H−C
H1;(ii)V
H−C
H2;(iii)V
H−C
H3;(iv)V
H−C
H1−C
H2;(v)V
H−C
H1−C
H2−C
H3;(vi)V
H−C
H2−C
H3;(vii)V
H−C
L;(viii)V
L−C
H1;(ix)V
L−C
H2;(x)V
L−C
H3;(xi)V
L−C
H1−C
H2;(xii)V
L−C
H1−C
H2−C
H3;(xiii)V
L−C
H2−C
H3;および(xiv)V
L−C
Lを含む。上で挙げられる典型的な配置のいずれかを含む、可変および定常ドメインの任意の配置において、可変ならびに定常ドメインは、互いに直接的に結合されるか、または完全もしくは部分的ヒンジもしくはリンカー領域により結合されるか、のいずれかである。ヒンジ領域は、少なくとも2個(例えば、5個、10個、15個、20個、40個、60個もしくはそれ以上)のアミノ酸からなり、単一のポリペプチド分子における隣接する可変および/または定常ドメイン間の可動性または半可動性の結合をもたらす。さらに、本発明の抗体の抗原結合フラグメントは、(例えば、ジスルフィド結合による)互いにおよび/もしくは1つもしくはそれ以上の単量体V
HもしくはV
Lドメインと非共有結合的に会合した、上で挙げられた可変ならびに定常ドメイン配置のいずれかのホモ−二量体またはヘテロ−二量体(もしくは他の多量体)を含む。
【0093】
全抗体分子と同様に、抗原結合フラグメントは、単特異性または多特異性(例えば、二重特異性)である。抗体の多特異性抗原結合フラグメントは、少なくとも2つの異なる可変ドメインを典型的には含み、ここで、それぞれの可変ドメインは、別々の抗原、または同一抗原上の異なるエピトープに特異的に結合する能力がある。本明細書において開示される典型的な二重特異性抗体フォーマットを含む、任意の多特異性抗体フォーマットは、当該技術分野において利用可能な慣例的技術を用いて、本発明の抗体の抗原結合フラグメントの文脈において使用するために適合される。
【0094】
ヒト抗体の調製
遺伝子導入マウスにおいてヒト抗体を作製する方法は、当該分野で公知である。任意のかかる公知の方法を、本発明の文脈において用いて、MERS−CoVスパイクタンパク質に特異的に結合するヒト抗体が作られる。
【0095】
次のいずれか1つを含む免疫原を用いて、MERS−CoVスパイクタンパク質に対する抗体を作製する。ある種の実施形態において、本発明の抗体は、全長の天然MERS−CoVスパイクタンパク質(例えば、GenBank受託番号AFS88936.1を参照)(配列番号457)、またはタンパク質もしくはそのフラグメントをコードするDNAで免疫されたマウスから得られる。あるいは、スパイクタンパク質またはそのフラグメントは、標準的生化学技術を用いて作り出され、修飾され、免疫原として用いられる。1つの実施形態において、免疫原は、MERS−CoVスパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(S1)である。本発明のある種の実施形態において、免疫原は、配列番号457のおよそアミノ酸残基367〜606の範囲にあるMERS−CoVスパイクタンパク質のフラグメントである。
【0096】
ある実施形態において、免疫原は、エシェリキア・コリ(E.coli)において、またはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞のような任意の他の真核生物もしくは哺乳類細胞において発現された組換えMERS−CoVスパイクタンパク質受容体結合ドメインペプチドである。
【0097】
VELOCIMMUNE(登録商標)技術(例えば、US6,596,541、Regeneron Pharmaceuticals、VELOCIMMUNE(登録商標))、またはモノクローナル抗体を作製する任意の他の公知の方法を用いて、ヒト可変領域およびマウス定常領域を有する、MERS−CoV−Sに対する高親和性キメラ抗体が、まず単離される。VELOCIMMUNE(登録商標)技術は、マウスが、抗原刺激に応答して、ヒト可変領域およびマウス定常領域を含む抗体を産生するように、内在性マウス定常領域部位に作動可能に結合したヒト重鎖および軽鎖可変領域を含むゲノムを有する遺伝子導入マウスの作製に関与する。抗体の重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAが単離され、ヒト重鎖および軽鎖定常領域をコードするDNAに作動可能に結合される。次に、DNAは、完全ヒト抗体を発現する能力がある細胞において発現される。
【0098】
一般に、VELOCIMMUNE(登録商標)マウスは、目的の抗原を負荷され、リンパ系細胞(例えば、B細胞)が、抗体を発現するマウスから回収される。リンパ系細胞は、ミエローマ細胞株と融合されて、不死のハイブリドーマ細胞株を調製し、かかるハイブリドーマ細胞株が、目的の抗原に特異的な抗体を産生するハイブリドーマ細胞株を同定するためにスクリーニングされ、選択される。重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAが単離され、重鎖および軽鎖の所望のアイソタイプの定常領域に結合される。かかる抗体タンパク質は、CHO細胞のような細胞において産生される。あるいは、抗原特異的キメラ抗体、または軽および重鎖の可変ドメインをコードするDNAが、抗原特異的リンパ球から直接単離される。
【0099】
最初に、ヒト可変領域およびマウス定常領域を有する、高い親和性のキメラ抗体が単離される。以下の実験のセクションにあるように、抗体は、特徴付けられ、親和性、選択性、エピトープなどを含む、所望の特徴について選択される。マウス定常領域を、所望のヒト定常領域で置き換えて、本発明の完全なヒト抗体、例えば、野生型、または修飾されたIgG1もしくはIgG4を作製する。選択された定常領域が、特定の使用に従い変動する一方、高い親和性の抗原結合および標的特異性特徴は、可変領域に存在する。
【0100】
生物学的等価物
本発明の抗MERS−CoV−S抗体および抗体フラグメントは、記載される抗体のものと異なるが、MERS−CoVスパイクタンパク質に結合する能力を保持する、アミノ酸配列を有するタンパク質を包含する。かかる変異体抗体および抗体フラグメントは、親配列と比較された場合、アミノ酸の1つまたはそれ以上の付加、欠失、または置換を含むが、記載される抗体のものと実質的に等価物である生物学的活性を示す。同様に、本発明のDNA配列をコードする抗体は、開示される配列と比較された場合、ヌクレオチドの1つまたはそれ以上の付加、欠失、または置換を含むが、本発明の抗体または抗体フラグメントに実質的な生物学的等価物である抗体または抗体フラグメントをコードする配列を含む。
【0101】
2つの抗原結合タンパク質、または抗体は、例えば、吸収の速度および程度が、類似の実験条件下で同一のモル用量、単回用量もしくは複数回用量いずれかで投与される場合、有意な相違を示さない医薬等価物もしくは医薬代替物であるなら、生物学的等価物とみなされる。ある抗体は、その吸収の程度において等価物であるが、その吸収の速度において等価物でないなら、等価物または医薬代替物とみなされ、かかる吸収の速度における相違が意図的であり、標識において反映され、例えば、慢性的使用の際の有効な身体薬物濃度の到達に必須ではなく、研究される特定の薬物製品にとって医薬的に有意でないとみなされるので、生物学的等価物であると依然みなされる。
【0102】
1つの実施形態において、2つの抗原結合タンパク質の安全性、純度、または有効性において臨床上有意義な相違はないなら、2つの抗原結合タンパク質は生物学的等価物である。
【0103】
1つの実施形態において、2つの抗原結合タンパク質は、患者が、切り替えることなく継続される療法と比較して、免疫原性における臨床上有意な変化、もしくは損なわれた効能を含む副作用のリスクの増大を予期せずに、参照産物と生物学的産物の間で1回またはそれ以上切り替えられるなら、生物学的等価物である。
【0104】
1つの実施形態において、2つの抗原結合タンパク質は、それら両方が、使用の条件もしくは複数の条件についての作用の通常のメカニズムまたは複数のメカニズムにより、かかるメカニズムが公知である限り、作用するなら、生物学的等価物である。
【0105】
生物学的等価物は、インビボおよび/またはインビトロの方法により実証される。生物学的等価物の測定は、例えば、(a)抗体もしくはその代謝産物の濃度が、血液、血漿、血清、もしくは他の生物学的体液において時間の関数として測定される、ヒトまたは他の哺乳類におけるインビボ試験;(b)ヒトインビボバイオアベイラビリティデータと相関し、それを十分に予測するインビトロ試験;(c)抗体(もしくはその標的)の適切な急性薬理作用が、時間の関数として測定される、ヒトまたは他の哺乳類におけるインビボ試験;および(d)抗体の安全性、効能(efficacy)、もしくはバイオアベイラビリティもしくは生物学的均等性を確立する、十分に制御された臨床試験、を含む。
【0106】
本発明の抗体の生物学的等価物は、例えば、残基もしくは配列の種々の置換を成すこと、または生物学的活性のため必要とされない末端もしくは内部残基もしくは配列を欠損させることにより、構築される。例えば、生物学的活性に必須でないシステイン残基は、欠損されるか、または他のアミノ酸で置換されて、再生の際に不必要または不正確な分子内ジスルフィド架橋の形成が防止される。他の文脈において、生物学的等価物抗体は、アミノ酸変更を含む抗体変異体を含み、抗体のグリコシル化特徴、例えば、グリコシル化を除去するか、または取り除く変異を修飾する。
【0107】
Fc変異体を含む抗MERS−CoV−S抗体
本発明のある種の実施形態によると、例えば、中性pHと比較して酸性pHにおいて、FcRn受容体への抗体結合を増強するか、もしくは損なう1つまたはそれ以上の変異を含むFcドメインを含む抗MERS−CoV−S抗体が提供される。例えば、本発明は、FcドメインのC
H2またはC
H3領域における変異を含む抗MERS−CoV−S抗体を含み、ここで、変異は、酸性環境において(例えば、pHが約5.5〜約6.0の範囲にあるエンドソームにおいて)、FcRnに対するFcドメインの親和性を増大させる。かかる変異は、動物に投与される場合、抗体の血清半減期の増大をもたらす。かかるFc修飾の非限定的な例は、例えば、250位(例えば、EもしくはQ);250位および428位(例えば、LもしくはF);252位(例えば、L/Y/F/W、もしくはT)、254位(例えば、S、もしくはT)、ならびに256位(例えば、S/R/Q/E/D、もしくはT)における修飾;または428位および/もしくは433位(例えば、H/L/R/S/P/Q、もしくはK)および/もしくは434位(例えば、A、W、H、F、もしくはY[N434A、N434W、N434H、N434F、もしくはN434Y])における修飾;または250位および/もしくは428位における修飾;または307位もしくは308位(例えば、308F、V308F)、および434位における修飾を含む。1つの実施形態において、修飾は、428L(例えば、M428L)、ならびに434S(例えば、N434S)修飾;428L、259I(例えば、V259I)、ならびに308F(例えば、V308F)修飾;433K(例えば、H433K)、ならびに434(例えば、434Y)修飾;252、254、ならびに256(例えば、252Y、254T、および256E)修飾;250Q、ならびに428L修飾(例えば、T250Q、およびM428L);ならびに307、ならびに/または308修飾(例えば、308F、もしくは308P)を含む。なお別の実施形態において、修飾は、265A(例えば、D265A)、および/または297A(例えば、N297A)修飾を含む。
【0108】
例えば、本発明は、250Q、ならびに248L(例えば、T250Q、およびM248L);252Y、254T、ならびに256E(例えば、M252Y、S254T、およびT256E);428L、ならびに434S(例えば、M428L、およびN434S);257I、ならびに311I(例えば、P257I、およびQ311I);257I、ならびに434H(例えば、P257I、およびN434H);376V、ならびに434H(例えば、D376V、およびN434H);307A、380A、ならびに434A(例えば、T307A、E380A、およびN434A);ならびに433K、ならびに434F(例えば、H433K、およびN434F):からなる群より選択される変異の1つまたはそれ以上の対または群を含むFcドメインを含む抗MERS−CoV−S抗体を含む。前述のFcドメイン変異と、本明細書において開示される抗体可変ドメイン内の他の変異の全ての可能な組み合わせは、本発明の範囲内と考えられる。
【0109】
本発明はまた、キメラ重鎖定常(C
H)領域を含む抗MERS−CoV−S抗体も含み、ここで、キメラC
H領域は、1つより多い免疫グロブリンアイソタイプのC
H領域に由来するセグメントを含む。例えば、本発明の抗体は、ヒトIgG1、ヒトIgG2、もしくはヒトIgG4分子に由来するC
H3ドメインの一部または全てと組み合わされた、ヒトIgG1、ヒトIgG2、もしくはヒトIgG4分子に由来するC
H2ドメインの一部または全てを含むキメラC
H領域を含む。ある種の実施形態によると、本発明の抗体は、キメラヒンジ領域を有するキメラC
H領域を含む。例えば、キメラヒンジは、ヒトIgG1、ヒトIgG2、またはヒトIgG4ヒンジ領域に由来する「下部のヒンジ」配列(EUナンバリングによる228位〜236位のアミノ酸残基)と組み合わされた、ヒトIgG1、ヒトIgG2、またはヒトIgG4ヒンジ領域に由来する「上部のヒンジ」アミノ酸配列(EUナンバリングによる216位〜227位のアミノ酸残基)を含む。ある種の実施形態によると、キメラヒンジ領域は、ヒトIgG1、またはヒトIgG4上部のヒンジに由来するアミノ酸残基、およびヒトIgG2下部のヒンジに由来するアミノ酸残基を含む。本明細書において記載されるキメラC
H領域を含む抗体は、ある種の実施形態において、抗体の治療または薬物動態特性に有害に作用することなく、修飾されたFcエフェクター機能を示す。(例えば、2013年2月1日付けで出願された米国仮出願第61/759,578(全体として参照によって本明細書に組み入れられる)を参照。)
【0110】
抗体の生物学的特徴
一般に、本発明の抗体は、MERS−CoVスパイクタンパク質に結合することにより機能する。ある種の実施形態において、本発明の抗体は、MERS−CoVのスパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)の1つまたはそれ以上のアミノ酸に高い親和性で結合する。例えば、本発明は、例えば、本明細書における実施例4において定義されるアッセイフォーマットを用いて、表面プラズモン共鳴により測定される、(例えば、25℃において、または37℃において)約20nM未満のK
Dで2量体MERS−CoVスパイクタンパク質RBDに結合する抗体および抗体の抗原結合フラグメントを含む。ある種の実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、例えば、本明細書における実施例4において定義されるアッセイフォーマット、もしくは実質的に類似のアッセイを用いて、表面プラズモン共鳴により測定される、約20nM未満、約10nM未満、約5nM未満、約2nM未満、約1nM未満、約500pM未満、約250pM、もしくは約100pM未満のK
Dで2量体MERS−CoV−Sに結合する。
【0111】
本発明はまた、例えば、本明細書における実施例4において定義されるアッセイフォーマット、または実質的に類似のアッセイを用いて、25℃における表面プラズモン共鳴により測定される、約2.1分より長い解離半減期(t
1/2)でMERS−CoVスパイクタンパク質に結合する抗体およびその抗原結合フラグメントを含む。ある種の実施形態において、本発明の抗体または抗原結合フラグメントは、例えば、本明細書における実施例4において定義されるアッセイフォーマット(例えば、mAb捕捉または抗原捕捉フォーマット)、または実質的に類似のアッセイを用いて、25℃における表面プラズモン共鳴により測定される、約5分より長い、約10分より長い、約30分より長い、約50分より長い、約100分より長い、約150分より長い、約200分より長い、または約250分より長いt
1/2でMERS−CoVスパイクタンパク質に結合する。
【0112】
本発明はまた、例えば、本明細書における実施例4において定義されるアッセイフォーマット、または実質的に類似のアッセイを用いて、37℃における表面プラズモン共鳴により測定される、約1.5分より長い解離半減期(t1/2)でMERS−CoVスパイクタンパク質に結合する抗体およびその抗原結合フラグメントも含む。ある種の実施形態において、本発明の抗体または抗原結合フラグメントは、例えば、本明細書における実施例4において定義されるアッセイフォーマット(例えば、mAb捕捉もしくは抗原捕捉フォーマット)、もしくは実質的に類似のアッセイを用いて、37℃における表面プラズモン共鳴により測定される、約2分より長い、約5分より長い、約10分より長い、約25分より長い、約50分より長い、約100分より長い、約150分より長い、または約200分より長いt1/2でMERS−CoVスパイクタンパク質に結合する。
【0113】
本発明はまた、例えば、実施例2において示されるELISAベースのイムノアッセイアッセイ、または実質的に類似のアッセイを用いて決定される、DPP4へのMERS−CoV−S結合の90%超を遮断する抗体またはその抗原結合フラグメントも含む。
【0114】
本発明はまた、その宿主細胞についてのMERS−CoVの感染性を中和するか、もしくは阻害する抗体またはその抗原結合フラグメントも含む。ある種の実施形態において、抗体は、MERS−CoV様偽粒子(MERSpp)の感染性を中和する。ある実施形態において、抗体は、例えば、実施例5において示されるように、最適化されたウイルス様偽粒子(VLP)中和アッセイ、もしくは実質的に類似のアッセイにおいて、ヒト宿主細胞上のMERS−CoVの結合の90%超を阻害した。抗体は、58.9pM〜2.93nMの範囲にあるIC50でMERSpp感染性を中和した。
【0115】
ある実施形態において、本発明の抗体は、MERS−CoVスパイクタンパク質の受容体結合ドメインに、またはドメインのフラグメントに結合する。ある実施形態において、本発明の抗体は、1つより多くのドメインに結合する(交差反応性抗体)。ある種の実施形態において、本発明の抗体は、MERS−CoV−Sのアミノ酸残基367〜606を含む受容体結合ドメインに位置するエピトープに結合する。1つの実施形態において、抗体は、配列番号457に記載の配列セットのアミノ酸残基367〜606からなる群より選択される1個またはそれ以上のアミノ酸を含むエピトープに結合する。
【0116】
ある種の実施形態において、本発明の抗体は、アミノ酸配列が配列番号457に記載の、全長タンパク質の任意の他の領域もしくはフラグメントに結合することにより、MERS−CoVスパイクタンパク質に関連するDPP4−結合活性を遮断または阻害することにより機能する。
【0117】
ある種の実施形態において、本発明の抗体は二重特異性抗体である。本発明の二重特異性抗体は、あるドメインにおけるあるエピトープに結合し、MERS−CoVスパイクタンパク質の同じまたは異なるドメインにおける第2のエピトープにも結合する。ある種の実施形態において、本発明の二重特異性抗体は、同一ドメインにおける2つの異なるエピトープに結合する。
【0118】
1つの実施形態において、本発明は、MERS−CoVスパイクタンパク質に特異的に結合する単離された組換え抗体またはその抗原結合フラグメントを提供し、ここで、抗体またはそのフラグメントは、次の特徴の1つもしくはそれ以上を示す:(a)完全なヒトモノクローナル抗体である;(b)配列番号457において示される配列のアミノ酸残基367〜606から選択されるスパイクタンパク質の受容体結合ドメインにおける1つまたはそれ以上のアミノ酸残基と相互作用する;(c)表面プラズモン共鳴アッセイにおいて測定される、18.5nM未満の解離定数(K
D)でMERS−CoVスパイクタンパク質に結合する;(d)遮断ELISAアッセイにおいて測定される、ジペプチジルペプチダーゼ4へのMERS−CoVスパイクタンパク質結合を90%超遮断する;(e)VLP中和アッセイにおいて測定される、ヒト宿主細胞のMERS−CoV感染性を、4nM未満のIC
50で90%超中和する;(f)MERS−CoV感染性を中和し、ここで、MERS−CoVは、EMC/2012、Jordan−N3/2012、England−Qatar/2012、Al−Hasa_1_2013、Al−Hasa_2_2013、Al−Hasa_3_2013、Al−Hasa_4_2013、Al−Hasa_12、Al−Hasa_15、Al−Hasa_16、Al−Hasa_17、Al−Hasa_18、Al−Hasa_19、Al−Hasa_21、Al−hasa_25、Bisha_1、Buraidah_1、England1、Hafr−Al−batin_1、Hafr−Al−Batin_2、Hafr−Al−Batin_6、Jeddah_1、KFU−HKU1、KFU−HKU13、Munich、Qatar3、Qatar4、Riyadh_1、Riyadh_2、Riyadh_3、Riyadh_4、Riyadh_5、Riyadh_9、Riyadh_14、Taif_1、UAE、およびWadi−Ad−Dawasirからなる群より選択されるウイルスの単離物を含む;(g)MERS−CoVが感染した対象においてin vivoでMERS−CoV複製を遮断する;ならびに(h)MERS−CoVスパイクタンパク質の受容体結合ドメインにおける第1のエピトープに対する第1の結合特異性、ならびにMERS−CoVスパイクタンパク質の受容体結合ドメインにおける第2のエピトープに対する第2の結合特異性を含む二重特異性抗体であり、ここで、第1および第2のエピトープは、別個であり、オーバーラップしない。
【0119】
本発明の抗体は、前述の生物学的特徴の1つもしくはそれ以上、または任意のその組み合わせを有する。本発明の抗体の他の生物学的特徴は、本明細書における実施例を含む本開示の説明から当業者に明白であろう。
【0120】
エピトープマッピングおよび関連技術
本発明は、N末端のS1ドメイン(アミノ酸残基1〜751)およびC末端のS2ドメイン(アミノ酸残基752〜1353)を含む、MERS−CoVスパイクタンパク質分子の1つもしくはそれ以上のドメイン内で見出されたアミノ酸の1つまたはそれ以上と相互作用する抗MERS−CoV−S抗体を含む。抗体が結合するエピトープは、MERS−CoVスパイクタンパク質分子の前述のドメインのいずれかに位置する、3個またはそれ以上(例えば、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個もしくはそれ以上)のアミノ酸の単一の連続配列からなる(例えば、ドメインにおける直線エピトープ)。あるいは、エピトープは、スパイクタンパク質分子の前述のドメインのいずれかまたは両方に位置する、多数の非連続アミノ酸(もしくはアミノ酸配列)からなる(例えば、立体構造エピトープ)。
【0121】
当業者に公知の種々の技術を用いて、抗体が、ポリペプチドもしくはタンパク質内の「1個またはそれ以上のアミノ酸と相互作用する」かどうかが決定される。典型的な技術は、例えば、Antibodies、Harlow and Lane(Cold Spring Harbor Press、Cold Spring Harbor、NY)において記載されるもののような、慣例的交差−遮断アッセイを含む。他の方法は、アラニンスキャンニング変異解析、ペプチドブロット解析(Reineke(2004年)Methods Mol. Biol.248:443〜63頁)、ペプチド切断解析結晶研究、およびNMR解析を含む。加えて、抗原のエピトープ切除、エピトープ抽出、および化学修飾のような方法が利用される(Tomer(2000年)Prot.Sci.9:487〜496頁)。抗体が相互作用するポリペプチド内のアミノ酸を同定するために用いられる別の方法は、質量分析により検出される水素/ジュウテリウム交換である。一般的な用語において、水素/ジュウテリウム交換方法は、目的のタンパク質をジュウテリウム標識すること、続いて、抗体をジュウテリウムで標識されたタンパク質に結合させることを含む。次に、タンパク質/抗体複合体は水に移され、抗体複合体により保護されるアミノ酸内の交換可能なプロトンは、接触面の一部でないアミノ酸内の交換可能なプロトンより遅い速度でジュウテリウムから水素への逆交換を受ける。結果として、タンパク質/抗体接触面の部分を形成するアミノ酸は、ジュウテリウムを保持し、それ故、接触面に含まれないアミノ酸と比較して、比較的大きな質量を示す。抗体の解離後、標的タンパク質は、タンパク質分解酵素切断および質量分析の対象とされ、それにより、抗体が相互作用する特異的アミノ酸に対応するジュウテリウムで標識された残基が明らかにされる。例えば、Ehring(1999年)Analytical Biochemistry267:252〜259頁;EngenおよびSmith(2001年)Anal.Chem.73:256A〜265A頁を参照。
【0122】
用語「エピトープ」は、Bおよび/またはT細胞が応答する抗原上の部位を指す。B細胞エピトープは、タンパク質の3次フォールディングにより並べて置かれた連続アミノ酸または不連続アミノ酸両方から形成される。連続アミノ酸から形成されるエピトープは、変性溶媒への曝露の際に典型的に保持され、他方、3次フォールディングにより形成されるエピトープは、変性溶媒での処理の際に典型的に失われる。エピトープは、固有の空間立体構造において少なくとも3個、より通常には、少なくとも5個または8〜10個のアミノ酸を典型的に含む。
【0123】
抗原構造ベースの抗体プロファイリング(ASAP)としても公知の修飾補助プロファイリング(MAP)は、化学的または酵素的に修飾された抗原表面へのそれぞれの抗体の結合プロファイルの類似性により、同一の抗原に対して向けられた多数のモノクローナル抗体(mAb)を分類する方法である(US2004/0101920、参照によって全体として本明細書に組み入れられる)。それぞれのカテゴリーは、別のカテゴリーにより表されるエピトープと明らかに異なるか、または部分的に重複するいずれかの固有のエピトープを反映する。この技術は、特徴が、遺伝子学的に明確な抗体に焦点を当てられるように、遺伝子学的に一致する抗体の迅速な選別を可能にする。ハイブリドーマスクリーニングに適用される場合、MAPは、所望の特徴を有するmAbを産生する稀なハイブリドーマクローンの同定を促進する。MAPを用いて、本発明の抗体は異なるエピトープに結合する抗体の群に分類される。
【0124】
ある種の実施形態において、抗MERS−CoV−S抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号457において例示される天然の形態か、もしくは配列番号458において例示される組換え産生されているかのいずれかのMERS−CoVスパイクタンパク質において例示される領域の任意の1つまたはそれ以上の内のエピトープ、またはそのフラグメントに結合する。ある実施形態において、本発明の抗体は、MERS−CoVスパイクタンパク質のアミノ酸残基367〜606からなる群より選択される1個またはそれ以上のアミノ酸を含む細胞外領域に結合する。
【0125】
ある種の実施形態において、本発明の抗体は、およそ358位〜およそ450の範囲にあるアミノ酸残基;または配列番号457のおよそ451位〜およそ606位の範囲にあるアミノ酸残基からなる群より選択される少なくとも1個のアミノ酸配列と相互作用する。
【0126】
本発明は、
図1において挙げられる細胞株から得られる特異的な代表的な抗体のいずれかと同一のエピトープ、またはエピトープの部分に結合する抗MERS−CoV−S抗体を含む。同様に、本発明はまた、MERS−CoVスパイクタンパク質またはそのフラグメントへの結合について、
図1において挙げられるハイブリドーマから得られる特異的な代表的な抗体のいずれかと競合する抗MERS−CoV−S抗体も含む。例えば、本発明は、MERS−CoVスパイクタンパク質への結合について、
図1において挙げられるハイブリドーマから得られる抗体の1つまたはそれ以上と交差競合する抗MERS−CoV−S抗体を含む。
【0127】
当該技術分野において公知の慣例的方法を用いることにより、抗体が、参照抗MERS−CoV−S抗体と同一のエピトープに結合するか、または結合について参照抗MERS−CoV−S抗体と競合するかどうかを容易に決定することができる。例えば、試験抗体が、本発明の参照抗MERS−CoV−S抗体と同一のエピトープに結合するかを決定するために、参照抗体を飽和条件下でMERS−CoVスパイクタンパク質またはペプチドに結合させることを可能にする。次に、MERS−CoVスパイクタンパク質分子に結合する試験抗体の能力が評価される。試験抗体は、参照抗MERS−CoV−S抗体との飽和結合後にMERS−CoV−Sに結合することができるなら、試験抗体は、参照抗MERS−CoV−S抗体より異なるエピトープに結合すると結論付けられる。他方、試験抗体は、参照抗MERS−CoV−S抗体との飽和結合後にMERS−CoVスパイクタンパク質に結合することができないなら、次に、試験抗体は、本発明の参照抗MERS−CoV−S抗体により結合されるエピトープと同一のエピトープに結合する。
【0128】
抗体が、結合について参照抗MERS−CoV−S抗体と競合するかを決定するために、上で記載された結合方法論は、2つの方針で行われる。第1の方針において、参照抗体を、飽和条件下でMERS−CoVスパイクタンパク質に結合させることを可能にし、続いて、試験抗体のMERS−CoV−S分子への結合が評価される。第2の方針において、試験抗体を、飽和条件下でMERS−CoV−S分子に結合させることを可能にし、続いて、参照抗体のMERS−CoV−S分子への結合が評価される。両方の方針において、第1の(飽和)抗体のみが、MERS−CoV−S分子に結合する能力があるなら、次に、試験抗体と参照抗体は、MERS−CoV−Sへの結合について競合すると結論付けられる。当業者により理解される通り、結合について参照抗体と競合する抗体は、参照抗体と一致するエピトープに必ずしも結合しないが、重複または隣接するエピトープに結合することにより、参照抗体の結合を立体的に遮断する。
【0129】
2つの抗体は、それぞれが、他方の抗原への結合を競合的に阻害(遮断)するなら、同一または重複するエピトープに結合する。すなわち、1倍、5倍、10倍、20倍、または100倍過剰の一方の抗体が、他方の結合を、競合的結合アッセイにおいて測定される、少なくとも50%だが、好ましくは、75%、90%、もしくは99%でさえ阻害する(例えば、Junghansら、Cancer Res.1990年50:1495〜1502頁を参照)。あるいは、一方の抗体の結合を低減するか、もしくは除去する抗原における本質的に全てのアミノ酸変異が、他方の結合を低減するか、または除去するなら、2つの抗体は同一のエピトープを有する。一方の抗体の結合を低減するか、もしくは除去する、いくつかのアミノ酸変異が、他方の結合を低減するか、または除去するなら、2つの抗体は重複するエピトープを有する。
【0130】
次に、さらなる慣習的実験(例えば、ペプチド変異、および結合解析)を行い、試験抗体の結合の観察された欠如が、事実上、参照抗体と同一のエピトープへの結合に起因するかどうか、または立体的遮断(もしくは別の現象)が、観察された結合の欠如に関与するかが確認される。この選別の実験は、ELISA、RIA、表面プラズモン共鳴、フローサイトメトリー、または当該技術分野において利用可能な任意の他の定量的もしくは定性的抗体結合アッセイを用いて行われる。
【0131】
免疫複合体
本発明は、毒素、またはMERS感染を処置するための抗ウイルス薬のような、治療部分に結合したヒト抗MERS−CoV−Sモノクローナル抗体(「免疫複合体」)を包含する。本明細書において用いられる用語「免疫複合体」は、放射性剤、サイトカイン、インターフェロン、標的もしくはレポーター部分、酵素、ペプチドもしくはタンパク質、もしくは治療剤に化学的または生物学的に結合される抗体を指す。抗体は、その標的に結合することができる限り、分子に沿った任意の位置において、放射性剤、サイトカイン、インターフェロン、標的もしくはレポーター部分、酵素、ペプチド、または治療剤に結合される。免疫複合体の例は、抗体薬物複合体、および抗体と毒素の融合タンパク質を含む。1つの実施形態において、剤は、MERS−CoVスパイクタンパク質に対する第2の異なる抗体である。ある種の実施形態において、抗体は、ウイルス性に感染した細胞に特異的な剤に結合される。抗MERS−CoV−S抗体に結合される治療部分のタイプは、処置されるべき条件、および達成されるべき所望の治療効果を考慮する。免疫複合体を形成させるのに適切な剤の例は、当該分野で公知であり、例えば、WO05/103081を参照。
【0132】
多特異性抗体
本発明の抗体は、単特異性、二重特異性、または多特異性である。多特異性抗体は、1つの標的ポリペプチドの異なるエピトープに特異的であるか、または1つより多くの標的ポリペプチドに特異的な抗原結合ドメインを含有する。例えば、Tuttら、1991年、J.Immunol.147:60〜69頁;Kuferら、2004年、Trends Biotechnol.22:238〜244頁を参照。
【0133】
本発明の多特異性抗原結合分子のいずれか、またはその変異体は、当業者に公知であろう、標準的分子生物学的技術(例えば、組換えDNA、およびタンパク質発現技術)を用いて構築される。
【0134】
ある実施形態において、MERS−CoV−S特異的抗体は、MERS−CoVスパイクタンパク質の別個のドメインに結合する可変領域が、単一の結合分子内に二重−ドメイン特異性を付与するよう一緒に結合される、二重特異性フォーマット(「二重特異性」)で作製する。適切には、設計された二重特異性は、特異性および結合活性両方の増大を通じて、全体的なMERS−CoVスパイクタンパク質阻害性効能を増強する。個々のドメイン(例えば、N末端のドメインのセグメント)についての特異性を有する、または1つのドメイン内の異なる領域に結合する可変領域は、それぞれの領域が、別個のエピトープ、または1つのドメイン内の異なる領域に同時に結合することを可能にする、構造スキャフォールド上で対形成される。二重特異性についての1つの例において、1つのドメインについての特異性を有する結合剤由来の重鎖可変領域(V
H)を、第2のドメインについての特異性を有する、一連の結合剤由来の軽鎖可変領域(V
L)と再度組み合わせて、そのV
Hについての元の特異性を壊すことなく、元のV
Hと対形成させる、非同族V
Lパートナーが同定される。この方法において、単一のV
Lセグメント(例えば、V
L1)は、2つの異なるV
Hドメイン(例えば、V
H1、およびV
H2)と組み合わされて、2つの結合「アーム」(V
H1−V
L1、およびV
H2−V
L1)を含む二重特異性を生じる。単一のV
Lセグメントの使用は、システムの複雑さを低減し、これにより、単純化し、二重特異性を生じるために用いられるクローニング、発現、および精製方法における効率を増大させる(例えば、USSN13/022759、およびUS2010/0331527を参照)。
【0135】
あるいは、1つより多くのドメイン、および非限定的に、例えば、第2の異なる抗MERS−CoV−S抗体のような第2の標的に結合する抗体は、本明細書において記載される技術、または当業者に公知の他の技術を用いて、二重特異性フォーマットで調製される。別個の領域に結合する抗体可変領域を、例えば、MERS−CoV−Sの細胞外ドメイン上の関連部位に結合する可変領域と一緒に結合させて、単一の結合分子内の二重−抗原特異性が確かにされる。適切には、この性質の設計された二重特異性は、二重機能を果たす。細胞外ドメインについての特異性を有する可変領域は、細胞外ドメインの外側についての特異性を有する可変領域と組み合わされ、それぞれの可変領域が、別の抗原に結合することを可能にする、構造スキャフォールド上で対形成される。
【0136】
本発明の文脈において用いられる典型的な二重特異性抗体フォーマットは、第1の免疫グロブリン(Ig)C
H3ドメイン、および第2のIg C
H3ドメインの使用を含み、ここで、第1および第2のIg C
H3ドメインは、少なくとも1個のアミノ酸により互いに異なり、ここで、少なくとも1個のアミノ酸相違が、アミノ酸相違を欠く二重特異性抗体と比較して、タンパク質Aへの二重特異性抗体の結合を低減する。1つの実施形態において、第1のIg C
H3ドメインは、タンパク質Aに結合し、第2のIg C
H3ドメインは、H95R修飾(IMGTエキソンナンバリングによる;EUナンバリングによりH435R)のようなタンパク質A結合を低減するか、または消失させる、変異を含有する。第2のC
H3は、Y96F修飾(IMGTによる;EUによりY436F)をさらに含む。第2のC
H3内で見出されるさらなる修飾は:IgG1抗体の場合において、D16E、L18M、N44S、K52N、V57M、ならびにV82I(IMGTによる;EUにより、D356E、L358M、N384S、K392N、V397M、およびV422I);IgG2抗体の場合において、N44S、K52N、ならびにV82I(IMGT;EUにより、N384S、K392N、およびV422I);ならびにIgG4抗体の場合において、Q15R、N44S、K52N、V57M、R69K、E79Q、ならびにV82I(IMGTによる;EUにより、Q355R、N384S、K392N、V397M、R409K、E419Q、およびV422I)を含む。上で記載された二重特異性抗体フォーマットにおけるバリエーションは、本発明の範囲内であると考えられる。
【0137】
本発明の文脈において用いられる他の典型的な二重特異性フォーマットは、限定されることなく、例えば、scFv−ベースもしくは二重特異性抗体二重特異性フォーマット、IgG−scFv融合体、二重可変ドメイン(DVD)−Ig、クアドローマ、knobs−into−holes、共通軽鎖(例えば、knobs−into−holesを有する共通軽鎖など)、CrossMab、CrossFab、(SEED)body、ロイシンジッパー、Duobody、IgG1/IgG2、二重作用Fab(DAF)−IgG、ならびにMab
2二重特異性フォーマットを含む(例えば、前述のフォーマットの説明のため、Kleinら、2012年、mAbs4:6、1〜11頁、およびそこで引用される参考文献を参照)。二重特異性抗体はまた、ペプチド/核酸結合を用いても構築され、例えば、ここで、直交性化学反応性(orthogonal chemical reactivity)を有する非天然のアミノ酸を用いて、部位特異的抗体−オリゴヌクレオチド結合を生じ、次に、規定された組成、原子価、および幾何学を有する多量体複合体に自己アセンブルする(例えば、Kazaneら、J.Am.Chem.Soc.[Epub:2012年12月4日]を参照)。
【0138】
治療投与および製剤
本発明は、本発明の抗MERS−CoV−S抗体またはその抗原結合フラグメントを含む治療組成物を提供する。治療組成物は、本発明に従い、輸送、デリバリー、寛容の好転などをもたらすよう製剤に取り込まれる、適切な担体、賦形剤、および他の剤と共に投与される。多数の適切な製剤は、全ての医薬化学者に公知の処方書:Remington’s Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Company、Easton、PAにおいて見出される。これらの製剤は、例えば、粉末、ペースト、軟膏、ジェル、ワックス、油、脂質、脂質(陽イオンまたは陰イオン)含有ベシクル(例えば、LIPOFECTIN(商標))、DNA結合体、無水吸収ペースト、水中油型および油中水型エマルジョン、エマルジョンカルボワックス(種々の分子量のポリエチレングリコール)、半固体ジェル、ならびにカルボワックスを含有する半固体混合物を含む。Powellら、「Compendium of excipients for parenteral formulations」PDA(1998年)J Pharm Sci Technol52:238〜311頁も参照。
【0139】
抗体の用量は、投与されるべき対象の年齢およびサイズ、標的疾患、状態、投与経路などに依存して変動する。本発明の抗体が、成人患者において疾患もしくは障害を処置するために、またはかかる疾患の予防のため用いられる場合、本発明の抗体を、通常、体重1kg当たり約0.1〜約60mg、より好ましくは、体重1kg当たり約5〜約60、約10〜約50、または約20〜約50mgの単回用量で投与することが有利である。状態の重症度に依存して、処置の頻度および持続時間は調節される。ある種の実施形態において、本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントは、少なくとも約0.1mg〜約800mg、約1〜約500mg、約5〜約300mg、または約10〜約200mg、〜約100mg、もしくは〜約50mgの開始用量として投与される。ある種の実施形態において、開始用量に続き、開始用量のものとおよそ同一であるか、またはそれ未満である量における第2または多数の続く用量の抗体またはその抗原結合フラグメントが投与され、ここで、続く用量は、少なくとも1日〜3日;少なくとも1週;少なくとも2週;少なくとも3週;少なくとも4週;少なくとも5週;少なくとも6週;少なくとも7週;少なくとも8週;少なくとも9週;少なくとも10週;少なくとも12週;または少なくとも14週により隔てられる。
【0140】
種々のデリバリーシステムが公知であり、これを用いて、本発明の医薬組成物、例えば、リポソームにおけるカプセル封入、微粒子、マイクロカプセル、変異ウイルスを発現する能力がある組換え細胞、受容体により仲介されるエンドサイトーシスが投与される(例えば、Wuら(1987年)J.Biol.Chem.262:4429〜4432頁を参照)。導入の方法は、皮内、経皮、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、および経口経路を含むが、これらに限定されない。組成物は、任意の好都合な経路により、例えば、注入もしくはボーラス注射により、上皮もしくは皮膚粘膜裏層(例えば、経口粘膜、直腸、および腸粘膜など)を通じた吸収により、投与され、他の生物学的に活性な剤と一緒に投与される。投与は全身または局所である。医薬組成物はまた、ベシクル、特に、リポソームにおいてもデリバリーされる(例えば、Langer(1990年)Science249:1527〜1533頁を参照)。
【0141】
本発明の抗体をデリバリーするためのナノ粒子の使用も本明細書において考えられる。抗体結合ナノ粒子は、治療上および診断上の適用両方のため用いられる。抗体結合ナノ粒子、ならびに調製および使用方法は、Arruebo,M.ら、2009年(J. Nanomat.における「Antibody−conjugated nanoparticles for biomedical applications」2009巻、論文番号439389、24頁、doi:10.1155/2009/439389)(参照によって本明細書において組み入れられる)により詳細に記載される。ナノ粒子が開発され、ウイルス性に感染した細胞を標的化するための医薬組成物において含有される抗体に結合される。薬物デリバリー用ナノ粒子はまた、例えば、US8257740、またはUS8246995(それぞれ、参照によって、全体として本明細書に組み入れられる)においても記載される。
【0142】
ある種の状況において、医薬組成物は、制御放出システムにおいてデリバリーされる。1つの実施形態において、ポンプが用いられる。別の実施形態において、ポリマー材料が用いられる。なお別の実施形態において、制御放出システムは、組成物の標的の近くに置かれ、従って、少量の全身性用量のみが必要とされる。
【0143】
注射可能な調製物は、静脈内、皮下、皮内、頭蓋内、腹腔内および筋内注射用形態、点滴注入用形態などを含む。これらの注射可能な調製物は、公的に公知の方法により調製される。例えば、注射可能な調製物は、例えば、注射のため通常用いられる無菌の水性媒体もしくは油性媒体において、上で記載された抗体またはその塩を溶解、懸濁、または乳化することにより、調製される。注射用水性媒体として、例えば、生理的食塩水、グルコースを含有する等調溶液、および他の補助剤などが存在し、アルコール(例えば、エタノール)、多価アルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤[例えば、ポリソルベート80、HCO−50(硬化ヒマシ油のポリオキシエチレン(50mol)付加物)]などのような適切な溶解剤と併用で用いられる。油性媒体として、例えば、ゴマ油、大豆油などが利用され、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどのような溶解剤と併用して用いられる。従って、調製される注射は、適切なアンプルに好ましく充填される。
【0144】
本発明の医薬組成物は、標準的な針およびシリンジで皮下または静脈内にデリバリーされる。加えて、皮下デリバリーに関して、ペンデリバリー装置は、本発明の医薬組成物のデリバリーにおいて容易に適用される。かかるペンデリバリー装置は、再利用可能であるか、または使い捨てである。再利用可能なペンデリバリー装置は、医薬組成物を含有する置換可能なカートリッジを一般に利用する。カートリッジ内の医薬組成物の全てが投与されると、カートリッジは空になり、空のカートリッジは容易に廃棄され、医薬組成物を含有する新しいカートリッジで置き換えられる。次に、ペンデリバリー装置は再利用される。使い捨てのペンデリバリー装置において、置き換え可能なカートリッジは存在しない。むしろ、使い捨てのペンデリバリー装置は、装置内のリザーバーにおいて保持される医薬組成物で予め充填される。リザーバーは、医薬組成物が空になると、全体の装置は廃棄される。
【0145】
多数の再利用可能なペン、および自動注射デリバリー装置は、本発明の医薬組成物の皮下デリバリーにおいて適用される。例は、AUTOPEN(商標)(Owen Mumford、Inc.、Woodstock、UK)、DISETRONIC(商標)ペン(Disetronic Medical Systems、Burghdorf、Switzerland)、HUMALOG MIX75/25(商標)ペン、HUMALOG(商標)ペン、HUMALIN70/30(商標)ペン(Eli Lilly and Co.、Indianapolis、IN)、NOVOPEN(商標)I、II、およびIII(Novo Nordisk、Copenhagen、Denmark)、NOVOPEN JUNIOR(商標)(Novo Nordisk、Copenhagen、Denmark)、BD(商標)ペン(Becton Dickinson、Franklin Lakes、NJ)、OPTIPEN(商標)、OPTIPEN PRO(商標)、OPTIPEN STARLET(商標)、ならびにOPTICLIK(商標)(Sanofi−Aventis、Frankfurt、Germany)(2、3例のみを挙げる)を含むが、これらに限定されない。本発明の医薬組成物の皮下デリバリーにおいて適用される、使い捨てのペンデリバリー装置の例は、SOLOSTAR(商標)ペン(Sanofi−Aventis)、FLEXPEN(商標)(Novo Nordisk)、およびKWIKPEN(商標)(Eli Lilly)、SURECLICK(商標)Autoinjector(Amgen、Thousand Oaks、CA)、PENLET(商標)(Haselmeier、Stuttgart、Germany)、EPIPEN(Dey、L.P.)、ならびにHUMIRA(商標)ペン(Abbott Labs、Abbott Park、IL)(2、3例のみを挙げる)を含むが、確かにこれらに限定されない。
【0146】
有利には、上で記載された経口または非経口使用用医薬組成物は、有効成分の用量に適合するよう適した単位用量における投薬形態に調製される。単位用量におけるかかる投薬形態は、例えば、錠剤、ピル、カプセル剤、注射(アンプル剤)、坐剤などを含む。含有される抗体の量は、一般に、単位用量において;特に、注射の形態において1つの投薬形態当たり約5〜約500mg、他の投薬形態のため約5〜約100mg、および約10〜約250mgの抗体が含有されることが好ましい。
【0147】
抗体の治療上の使用
本発明の抗体は、MERS感染症のようなMERSコロナウイルスと関連する疾患、もしくは障害、もしくは状態の処置、および/もしくは予防に、ならびに/またはかかる疾患、障害、もしくは状態と関連する少なくとも1つの症状を改善するのに有用である。1つの実施形態において、本発明の抗体または抗原結合フラグメントは、治療用量にて、MERS感染を有する患者に投与される。
【0148】
ある種の実施形態において、本発明の抗体は、MERSコロナウイルスにより引き起こされる重篤かつ急性の呼吸器系感染症に罹患している対象を処置するのに有用である。ある実施形態において、本発明の抗体は、宿主におけるウイルスタイターの低減、またウイルス負荷の低減において有用である。1つの実施形態において、本発明の抗体は、MERSを有する対象の肺の炎症の予防または低減において有用である。1つの実施形態において、本発明の抗体は、MERSを有する対象における間質性、細気管支周囲もしくは血管周囲の炎症、肺胞の損傷、および胸膜の変化の予防または低減において有用である。
【0149】
本発明の1つまたはそれ以上の抗体を投与して、疾患または障害の症状または状態のうちの1つまたはそれ以上の重症度が、軽減されるか、または予防されるか、または低減される。抗体を用いて、高熱、咳、息切れ、肺炎、下痢、臓器不全(例えば、腎不全および腎臓の機能障害)、敗血性ショック、および死を含むが、これらに限定されないMERS感染症の少なくとも1つの症状の重症度を改善するか、または低減する。
【0150】
免疫不全状態の人、高齢者(年齢65歳より高い)、年齢2歳より小さい子供、中東にある国(例えば、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、およびカタール首長国)への旅行者、医療労働者、ラクダもしくはコウモリと職業上もしくは娯楽上接触する人、MERS感染症を有する人と密接な家族の一員、MERS感染症を有することが確認されたもしくは疑われる人と接触する成人もしくは子供、および医学的既往歴(例えば、肺の感染症、心臓疾患もしくは糖尿病の増大したリスク)を有する患者のようなMERS感染症を発症するリスクのある対象に、本発明の抗体の1つまたはそれ以上を予防的に使用することも、本明細書において考慮される。
【0151】
本発明のさらなる実施形態において、本抗体は、MERS感染症に罹患している患者を処置するための医薬組成物または医薬の調製のため用いられる。本発明の別の実施形態において、本抗体は、MERS感染症を処置し、もしくは改善するのに有用な、当業者に公知の任意の他の剤を用いた補助療法、または任意の他の療法として用いられる。
【0152】
併用療法および製剤
併用療法は、本発明の抗MERS−CoV−S抗体、および本発明の抗体、または本発明の抗体の生物学的に活性なフラグメントと有利に組み合わされる、任意のさらなる治療剤を含む。本発明の抗体は、MERSを処置するために用いられる薬物もしくは療法の1つまたはそれ以上と相乗的に併用される。ある実施形態において、本発明の抗体を、第2の治療剤と併用して、MERSを有する患者におけるウイルス負荷が低減されるか、または感染の症状の1つもしくはそれ以上が改善される。
【0153】
本発明の抗体は、抗炎症薬(コルチコステロイド、および非ステロイド系抗炎症薬のような)、抗感染症薬、MERS−CoVスパイクタンパク質に対する異なる抗体、抗ウイルス薬、インターフェロンアルファ−2bおよび筋肉内リバビリン、回復期の血漿、主要なウイルスタンパク質分解酵素の阻害剤、ならびにMERS−CoVスパイクタンパク質を標的にする侵入/融合阻害剤、MERS−CoVについてのワクチン、抗生物質、抗酸化剤のような栄養補助剤、またはMERS感染症を処置するための任意の他の対症療法との併用で用いられる。
【0154】
ある種の実施形態において、第2の治療剤は、MERS−CoVスパイクタンパク質に対する別の抗体である。MERS−CoVに対する広範な中和または阻害活性を有する抗体の併用(「カクテル」)を使用することが、本明細書において考慮される。ある実施形態において、非競合抗体を併用し、それを必要とする対象に投与して、選択圧の結果としての迅速な変異に起因しMERSウイルスが回避する能力を低減する。ある実施形態において、併用を含む抗体は、別個の、スパイクタンパク質上のオーバーラップしないエピトープに結合する。併用を含む抗体は、DPP4へのMERS−CoV結合を遮断するか、または膜融合を防ぐ/阻害する。併用を含む抗体は、EMC/2012、Jordan−N3/2012、England−Qatar/2012、Al−Hasa_1_2013、Al−Hasa_2_2013、Al−Hasa_3_2013、Al−Hasa_4_2013、Al−Hasa_12、Al−Hasa_15、Al−Hasa_16、Al−Hasa_17、Al−Hasa_18、Al−Hasa_19、Al−Hasa_21、Al−hasa_25、Bisha_1、Buraidah_1、England1、Hafr−Al−batin_1、Hafr−Al−Batin_2、Hafr−Al−Batin_6、Jeddah_1、KFU−HKU1、KFU−HKU13、Munich、Qatar3、Qatar4、Riyadh_1、Riyadh_2、Riyadh_3、Riyadh_4、Riyadh_5、Riyadh_9、Riyadh_14、Taif_1、UAE、およびWadi−Ad−Dawasirを含むが、これらに限定されない、MERS−CoV単離物の1つまたはそれ以上のMERS−CoV活性を阻害する。
【0155】
本発明の抗MERS−CoV−S抗体の併用を使用することも本明細書において考慮され、ここで、併用は、交差競合しない抗体の1つまたはそれ以上を含み、ある実施形態において、併用は、狭いスペクトルの単離物に対する活性を有し、第1の抗体と交差競合しない第2の抗体との広範な中和活性を有する第1の抗体を含む。
【0156】
本明細書において用いられる、用語「との併用で」は、さらなる治療上活性な成分が、本発明の抗MERS−CoV−S抗体の投与前、同時、または後に投与されることを意味する。用語「との併用」はまた、抗MERS−CoV−S抗体および第2の治療剤の連続または併用投与も含む。
【0157】
さらなる治療上有効な成分は、本発明の抗MERS−CoV−S抗体の投与に先立ち、対象に投与される。例えば、第1の成分が、第2の成分の投与の1週間前、72時間前、60時間前、48時間前、36時間前、24時間前、12時間前、6時間前、5時間前、4時間前、3時間前、2時間前、1時間前、30分前、15分前、10分前、5分前、または1分未満前に投与されるなら、第1の成分は、第2の成分「に先立ち」投与されるとみなされる。他の実施形態において、さらなる治療上有効な成分は、本発明の抗MERS−CoV−S抗体の投与後、対象に投与される。例えば、第1の成分が、第2の成分の投与の1分後、5分後、10分後、15分後、30分後、1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、12時間後、24時間後、36時間後、48時間後、60時間後、72時間後に投与されるなら、第1の成分は、第2の成分「の後に」投与されるとみなされる。なお他の実施形態において、さらなる治療上有効な成分は、本発明の抗MERS−CoV−S抗体の投与と同時に対象に投与される。本発明の目的上、「同時」投与は、例えば、単回投薬形態、または互いに約30分もしくはそれ以下の内に対象に投与される別の投薬形態における対象への抗MERS−CoV−S抗体、およびさらなる治療上活性な成分の投与を含む。別の投薬形態で投与されるなら、それぞれの投薬形態は、同一の経路を介して投与される(例えば、抗MERS−CoV−S抗体、およびさらなる治療上活性な成分両方が、静脈内などで投与される);あるいは、それぞれの投薬形態は、異なる経路を介して投与される(例えば、抗MERS−CoV−S抗体は静脈内投与され、さらなる治療上活性な成分は経口投与される)。任意の現象において、単回投薬形態、同一の経路による別の投薬形態、または異なる経路による別の投薬形態において成分を投与することは、本開示の目的のため、全て「併用投与」とみなされる。本開示の目的のため、さらなる治療上活性な成分の投与「に先立つ」、「同時」、または「の後の」(それらの用語は、本明細書において上で定義された通り)抗MERS−CoV−S抗体の投与は、さらなる治療上活性な成分「と併用した」抗MERS−CoV−S抗体の投与とみなされる。
【0158】
本発明は、医薬組成物を含み、ここで、本発明の抗MERS−CoV−S抗体は、本明細書において他の場所で記載される通り、さらなる治療上活性な成分の1つまたはそれ以上と共製剤化される。
【0159】
投与治療計画
ある種の実施形態により、1回用量の本発明の抗MERS−CoV−S抗体(または抗MERS−CoV−S抗体、および本明細書において言及される、さらなる治療上活性な剤のいずれかの併用を含む医薬組成物)が、それを必要とする対象に投与される。本発明のある種の実施形態によると、複数回用量の抗MERS−CoV−S抗体(または抗MERS−CoV−S抗体、および本明細書において言及される、さらなる治療上活性な剤のいずれかの併用を含む医薬組成物)は、定義される時間経過に渡り、対象に投与される。本発明のこの態様による方法は、対象に、複数回用量の本発明の抗MERS−CoV−S抗体を連続して投与することを含む。本明細書において用いられる「連続して投与すること」は、それぞれの用量の抗MERS−CoV−S抗体が、対象に、時間における異なる点において、例えば、予め決定された間隔(例えば、時間、日、週、または月)により隔てられた異なる日において投与されることを意味する。本発明は、患者に、単回開始用量の抗MERS−CoV−S抗体、続いて、1つまたはそれ以上の2次用量の抗MERS−CoV−S抗体、場合により、続いて、1つまたはそれ以上の3次用量の抗MERS−CoV−S抗体を連続して投与することを含む方法を含む。
【0160】
用語「開始用量」、「2次用量」、および「3次用量」は、本発明の抗MERS−CoV−S抗体の投与の時間的な並びを指す。従って、「開始用量」は、処置計画の開始時に投与される用量であり(「ベースライン用量」としても言及される);「2次用量」は、開始用量の後に投与される用量であり;「3次用量」は、2次用量後に投与される用量である。開始、2次、および3次用量は、全て、同一量の抗MERS−CoV−S抗体を含有するが、一般に、投与の頻度の点で互いに異なる。しかしながら、ある種の実施形態において、開始、2次、および/または3次用量において含有される抗MERS−CoV−S抗体の量は、処置の経過中、互いに異なる(例えば、必要に応じて、上方もしくは下方調節される)。ある種の実施形態において、2回またはそれ以上(例えば、2、3、4、もしくは5回)の用量は、処置治療計画の開始時に、「添加用量」として投与され、続いて、あまり頻繁でない基盤で投与される続く用量(例えば、「維持用量」)が投与される。
【0161】
本発明のある種の典型的な実施形態において、それぞれの2次および/または3次用量は、直前の先行する用量の後、1〜48時間(例えば、1、1
1/
2、2、2
1/
2、3、3
1/
2、4、4
1/
2、5、5
1/
2、6、6
1/
2、7、7
1/
2、8、8
1/
2、9、9
1/
2、10、10
1/
2、11、11
1/
2、12、12
1/
2、13、13
1/
2、14、14
1/
2、15、15
1/
2、16、16
1/
2、17、17
1/
2、18、18
1/
2、19、19
1/
2、20、20
1/
2、21、21
1/
2、22、22
1/
2、23、23
1/
2、24、24
1/
2、25、25
1/
2、26、26
1/
2、またはそれ以上)で投与される。本明細書において用いられる語句「直前の先行する用量」は、複数回投与の並びにおいて、中断のない用量の並びで、まさに次の用量の投与に先立ち患者に投与される、抗MERS−CoV−S抗体の用量を意味する。
【0162】
本発明のこの態様による方法は、患者に、任意の数の2次および/または3次用量の抗MERS−CoV−S抗体を投与することを含む。例えば、ある種の実施形態において、単回2次用量のみが患者に投与される。他の実施形態において、2回またはそれ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8回、もしくはそれ以上)の2次用量が患者に投与される。同様に、ある種の実施形態において、単回の3次用量のみが患者に投与される。他の実施形態において、2回またはそれ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8回、もしくはそれ以上)の3次用量が患者に投与される。
【0163】
本発明のある種の実施形態において、2次および/または3次用量が患者に投与される頻度は、処置治療計画の経過に渡り変動する。投与の頻度もまた、医師による処置の経過中、臨床検査に従い個々の患者のニーズに依存して調節される。
【0164】
抗体の診断上の使用
本発明の抗MERS−CoV−S抗体を用いて、例えば、診断の目的のため、試料中のMERS−CoVが検出され、および/または測定される。ある実施形態は、ウイルス感染症のような疾患もしくは障害を検出するためのアッセイにおいて、1つまたはそれ以上の本発明の抗体の使用を考慮する。MERS−CoVについての典型的な診断アッセイは、例えば、患者から得た試料を、本発明の抗MERS−CoV−S抗体と接触させることを含み、ここで、抗MERS−CoV−S抗体は、検出可能な標識もしくはレポーター分子で標識されるか、または患者試料からMERS−CoVを選択的に単離するための捕捉リガンドとして用いられる。あるいは、未標識の抗MERS−CoV−S抗体は、検出可能に標識されたそれ自体である2次抗体と組み合わせた診断適用において用いられる。検出可能な標識またはレポーター分子は、
3H、
14C、
32P、
35S、もしくは
125Iのようなラジオアイソトープ;フルオレセインイソチオシアネート、もしくはローダミンのような蛍光もしくは化学発光部分;またはアルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、もしくはルシフェラーゼのような酵素である。試料中のMERS−CoVを検出または測定するために用いられる特異的な典型的アッセイは、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、および蛍光活性化細胞分取(FACS)を含む。
【0165】
本発明によるMERS−CoV診断アッセイにおいて用いられる試料は、患者から得ることができる任意の組織または体液試料を含み、正常もしくは病理条件下で、MERS−CoVスパイクタンパク質、またはそのフラグメントいずれかの検出可能な量を含有する。一般に、健常患者(例えば、MERS−CoVと関連する疾患に苦しまない患者)から得られる特定の試料中のMERS−CoVスパイクタンパク質のレベルは、ベースライン、または標準的MERS−CoVレベルをまず確立するために測定される。次に、このMERS−CoVのベースラインレベルは、MERS−CoV関連状態、またはかかる状態に関連する症状を有することが疑われる個人から得られる試料において測定されるMERS−CoVのレベルに対して比較される。
【0166】
MERS−CoVスパイクタンパク質に特異的な抗体は、さらなる標識もしくは部分を含まず、またはそれらは、N末端もしくはC末端の標識もしくは部分を含有する。1つの実施形態において、標識または部分はビオチンである。結合アッセイにおいて、(もしあれば)標識の位置は、ペプチドが結合される表面に関連してペプチドの向きを決定する。例えば、表面がアビジンでコートされるなら、N末端のビオチンを含有するペプチドは、ペプチドのC末端部分が表面の遠位であるように、方向付けられる。
【実施例】
【0167】
以下の実施例は、当業者に本発明の方法および組成物の作り方、ならびに用い方の完全な開示または記載を提供するために記述するものであり、本発明者らが彼らの発明とみなすものの範囲を制限することは意図されない。用いた数字(例えば、量、温度など)に関する正確さを保証するよう試みられたが、実験上の誤差および自差がある程度あることは考慮されるべきである。別段示されなければ、部分は重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏におけるものであり、室温は約25℃であり、圧力は雰囲気においてであるか、または雰囲気に近い。
【実施例1】
【0168】
MERS−CoVスパイクタンパク質に対するヒト抗体の生成
ヒト免疫グロブリン重鎖およびカッパー軽鎖可変領域をコードするDNAを含むVELOCIMMUNE(登録商標)マウスに、MERS−CoVスパイクタンパク質に対するヒト抗体を作製した。全長MERS−CoVスパイクタンパク質をコードするDNA構築物、続いて、GenBank受託AFS88936.1(配列番号457)のアミノ酸367〜606の範囲にある精製したスパイクタンパク質のフラグメントを含むブースター用量で、マウスを免疫した。MERS−CoV Sタンパク質(EMC/2012−GenBank JX869059)をコードするコドン最適化cDNA配列をGeneArtにより合成し、標準的発現ベクターにクローニングした。受容体結合ドメイン(RBD)におけるMERS−CoV Sタンパク質変異体をコードするプラスミドを、製造元の指示に従い、QuikChange II(Agilent Technologies)を使用した変異誘発により生成した。
【0169】
MERS−CoV−S特異的イムノアッセイにより、抗体免疫応答をモニターした。所望の免疫応答を達成したら、脾細胞を回収し、マウスミエローマ細胞と融合させて生存能を保持し、ハイブリドーマ細胞株を形成させた。ハイブリドーマ細胞株をスクリーニングし、選択して、MERS−CoV−S特異的抗体を産生する細胞株を同定した。抗原特異的抗体を発現する合計696種のハイブリドーマのうち、182種が、DPP4とスパイクタンパク質の間の相互作用を遮断することを見出し、123種が、MERSppの標的細胞への侵入を遮断した。この方法で生成した代表的な細胞株を、HBVX06H05、HBVX11H04、HBVX11D02、HBVZ10E10、HBVY09F08、HBVZ05G02、HBVZ09B06、HBVY01F08、HBVY10G02、HBVY04B06、HBVY07D10、HBVZ08A09、HBVZ05G04、HBVY06C07、HBVY03H06、HBVZ10G06、HBVZ04F10、HBVX11E09、HBVY06H09、HBVZ05B11、HBVY02E05およびHBVZ04C07と命名した。細胞株を用いて、いくつかの抗MERS−CoV−Sキメラ抗体(例えば、ヒト可変ドメインおよびマウス定常ドメインを有する抗体)を得た;この方法で作成した代表的な抗体を、H1M15277N、H2aM15279N、H1M15280N、H2aM15278N、H2aM15271N、H1M15267N、H2bM15292N、H2bM15291N、H1M15290N、H1M15293N、H1M15289N、H1M15269N、H2aM15287N、H1M15288N、H2aM15268N、H2aM15270N、H2aM15281N、およびH2aM15272Nと命名した。
【0170】
表1は、対応するハイブリドーマ上清から得た選択したキメラ抗体を示す。
【0171】
【表1】
【0172】
米国特許7582298(参照によって、全体として本明細書に具体的に組み入れる)において記載される通り、ミエローマ細胞に融合させることなく、抗原陽性マウスB細胞から抗MERS−CoV−S抗体も直接的に単離した。この方法を用いて、いくつかの完全ヒト抗MERS−CoV−S抗体(すなわち、ヒト可変ドメインおよびヒト定常ドメインを有する抗体)を得て;この方法で作製した典型的な抗体を、:H4sH15188P、H1H15188P、H1H15211P、H1H15177P、H4sH15211P、H1H15260P2、H1H15259P2、H1H15203P、H4sH15260P2、H4sH15231P2、H1H15237P2、H1H15208P、H1H15228P2、H1H15233P2、H1H15264P2、H1H15231P2、H1H15253P2、H1H15215P、およびH1H15249P2と命名した。
【0173】
この実施例の方法に従い作製した典型的な抗体の生物学的特性を、以下で説明する実施例において詳細に記載する。
【実施例2】
【0174】
ハイブリドーマ上清の特徴決定
ELISA結合アッセイを行い、MERS−CoVスパイクタンパク質に結合した(上述のハイブリドーマから得た)抗体上清を同定した。C末端におけるヒトIgG1分子のFc部分(MERS RBD−hFc;配列番号458)と共に発現したMERS−CoV−Sの受容体結合ドメインを含む部分(アミノ酸E367〜Y606)を、2μg/mlにて、96ウェルプレート上、PBSバッファー中、一晩、4℃にてコートした。PBS中の0.5%(w/v)のBSAの溶液を用いて、非特異的結合部位を続いて遮断した。ハイブリドーマ上清を、遮断バッファー中1:50希釈し、MERS RBDでコートしたプレートに1時間、室温にて結合させた。洗浄後、HRP結合抗hFcポリクローナル抗体(Jackson Immunochemical)を用いて、結合した抗体を検出した。試料を3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン溶液(TMB;BD Biosciences)で展開して、比色分析反応を生じさせ、次に、1M硫酸で中和し、その後、Victorプレートリーダー(Perkin Elmer)上で450nmにおける吸光度を測定した。結果を
図1において示す。450nmにおけるシグナルの強度を用いて、さらなる特徴決定のため抗体を選択した。
【0175】
ハイブリドーマ上清への抗原結合についての結合会合および解離速度定数(それぞれ、k
aおよびk
d)、平衡解離定数および解離半減期(それぞれ、K
Dおよびt
1/2)を、Biacore 4000またはBiacore T200装置(詳細を実施例4において記載)上でのリアルタイム表面プラズモン共鳴バイオセンサーアッセイを用いて決定した。
図1において示す通り、22種のうち21種のハイブリドーマ抗体は、MERS−CoVスパイクタンパク質に245pM〜21.5nMの範囲にあるK
D値で結合した。
【0176】
抗MERSコロナウイルススパイクタンパク質抗体の、同族結合パートナー、ヒトジペプチジルペプチダーゼ4(hDPP4)へのMERSの受容体結合ドメイン(MERS−RBD)結合を遮断する能力を、ELISAベースのイムノアッセイで評価した。簡単に言うと、c末端において6×ヒスチジンタグと共に発現したヒトジペプチジルペプチダーゼ4(hDPP4−6His;R&D カタログ番号1180−SE)を、2μg/mLにて、96ウェルプレート上、PBSバッファー中、一晩、4℃にてコートした。非特異的結合部位を、PBS中の0.5%(w/v)のBSAの溶液を用いて続いて遮断した。このプレートを用いて、c末端においてヒトIgG1分子のFc部分(MERS RBD−hFc;配列番号458)と共に発現したMERS−RBD(アミノ酸E367〜Y606)を、抗MERS抗体上清の希釈液で予め平衡化したMERS RBD−hFc溶液で測定した。一定濃度300pM MERS RBD−hFcを、10%容量 抗MERS抗体上清と予め混合し、続いて、1時間、室温(RT)にてインキュベーションし、抗体と抗原結合を平衡状態に至らせた。次に、平衡化した試料溶液をhDPP4−6hisでコートしたプレートに移した。RTにおける1時間の結合後、プレートを洗浄し、結合したMERS RBDを、HRP結合抗hFcポリクローナル抗体(Jackson Immunochemical)を用いて検出した。試料を、TMB溶液(BD Biosciences、番号51−2606KCおよび番号51−2607KC)で展開して、比色分析反応を生じさせ、次に、1M硫酸で中和し、その後、Victor X5プレートリーダー上で450nmにおける吸光度を測定した。一定濃度のMERS RBD−hFc単独について測定した吸光度を、0%遮断として定義し、添加したMERS RBD−hFcのないものについて測定した吸光度を、100%遮断として定義した。パーセント遮断を、予め定義した100%遮断から減じたMERS RBD−hFc単独とバックグラウンドでのシグナル(HRP結合抗hFc抗体単独由来のシグナル)間の差に対する抗体の存在下で観察されたシグナルの低減の比として計算した。
【0177】
図1において示す通り、別個の独立したハイブリドーマからもたらされた22種のうち17種の抗MERS−CoV−S抗体は、DPP4へのMERS−CoVスパイクタンパク質の結合の90%超を遮断した。
【0178】
別個の独立したハイブリドーマからもたらされた抗MERS−CoV−S抗体を、MERS感染性の中和について試験した(実施例5においてアッセイを詳述する)。
図1において示す通り、22種のうち12種の細胞の抗MERS−CoV−Sハイブリドーマ抗体は、MERS感染性の90%超を、68.4pM〜3.58nMの範囲にあるIC
50で阻害するか、または中和した。
【実施例3】
【0179】
重鎖および軽鎖可変領域アミノ酸およびヌクレオチド配列
表2には、選択した本発明の抗MERS−CoV−S抗体の重鎖および軽鎖可変領域、ならびにCDRのアミノ酸配列識別名を記載する。
【0180】
【表2】
【0181】
対応する核酸配列識別名を表3に記載する。
【0182】
【表3】
【0183】
抗体は、本明細書において典型的には次の命名法によって言及する:Fc接頭辞(例えば、「H4xH」、「H1M」、「H2M」など)、続いて、数字で表した識別名(例えば、表2において示す「15177」、「15228」、「15268」など)、続いて「P」、「P2」、「N」、または「B」接尾辞。従って、この命名法により、本明細書において、例えば、「H1H15177P」、「H1H15228P2」、「H2M15268N」などとして抗体を指す。本明細書において用いた抗体名称上のH4sH、H1M、およびH2M接頭辞は、抗体の特定のFc領域アイソタイプを示す。例えば、「H4sH」抗体は、US20100331527において開示される2つまたはそれ以上のアミノ酸変更を有するヒトIgG4 Fcを有し、「H1M」抗体は、マウスIgG1 Fcを有し、「H2M」抗体は、マウスIgG2 Fc(aもしくはbのアイソタイプ)を有する(全ての可変領域は、抗体名称において最初の「H」により示す通り、完全ヒトである)。当業者が理解する通り、特定のFcアイソタイプを有する抗体を、異なるFcアイソタイプを有する抗体に変換することができる(例えば、マウスIgG1 Fcを有する抗体を、ヒトIgG4を有する抗体などに変換することができる)が、いずれの場合も、表2において示した数字で表した識別名により示した可変ドメイン(CDRを含む)は同一のままであり、抗原の結合特性はFcドメインの性質に関わらず、一致または実質的に類似であると予測した。
【実施例4】
【0184】
表面プラズモン共鳴により決定したMERS−CoV−Sへの抗体結合
Biacore 4000またはBiacore T200機器におけるリアルタイム表面プラズモン共鳴バイオセンサーアッセイを用いて、精製した抗MERS−CoV−S抗体またはハイブリドーマ上清への抗原結合について、結合ならびに解離速度定数(それぞれ、k
aおよびk
d)、平衡解離定数、ならびに解離半減期(それぞれ、K
Dおよびt
1/2)を決定した。Biacoreセンサー表面を、ポリクローナルウサギ抗マウス抗体(GE、番号BR−1008−38)、またはモノクローナルマウス抗ヒトFc抗体(GE、番号BR−1008−39)のいずれかで誘導体化して、それぞれ、マウスFcまたはヒトFcいずれかと共に発現させた、およそ100〜900RUの抗MERS−CoV−Sモノクローナル抗体を捕捉した。抗MERS−CoV−S抗体への結合について試験したMERS−CoV試薬は、C末端のヒトIgG1 Fcと共に発現した組換えMERS−CoV−S受容体結合ドメイン(MERS RBD−hFc;配列番号458)を含んでいた。Biacore 4000における流速30μL/分、またはBiacore T200における流速50μL/分において、抗MERS−CoV−Sモノクローナル抗体捕捉表面に渡り、200nM〜3.7nMの範囲にある異なる濃度のMERS−CoV試薬を注入した。捕捉したモノクローナル抗体へのMERS−CoV試薬の結合を、3〜5分間モニターし、一方、抗体からのそれらの解離を、HBSTランニングバッファー(0.01M HEPES pH7.4、0.15M NaCl、3mM EDTA、0.05%v/v 界面活性剤P20)において7〜10分間モニターした。25℃において実験を行った。データを処理し、Scrubber 2.0c曲線近似ソフトウェアを用いて1:1結合モデルに近似させることにより、動力学的結合(k
a)および解離(k
d)速度定数を決定した。次に、動力学的速度定数から、K
D(M)=k
d/k
a、およびt
1/2(分)=[ln2/(60
*k
d)]として、結合解離平衡定数(K
D)、ならびに解離半減期(t
1/2)を計算した。
【0185】
開始実験において、(実施例2において記載した)22種のハイブリドーマ上清について、結合解離平衡定数および解離半減期を決定した。
【0186】
続く実験において、上述の表面プラズモン共鳴アッセイを用いて、MERS−CoVスパイクタンパク質への結合について、精製した抗体を試験した。
【0187】
【表4】
【0188】
【表5】
【0189】
表4および5において示した通り、抗体は、MERS−CoVスパイクタンパク質に、25℃において77.5pM〜18.5nM、および37℃において127pM〜13.2nMの範囲にあるK
D値で結合した。抗体は、25℃において2.2〜262分、および37℃において1.8〜244分の範囲にある解離半減期(t1/2)値を示した。
【実施例5】
【0190】
MERS感染性の抗体により仲介される中和
材料および方法
偽粒子の生成
MERSスパイクタンパク質を発現するプラスミド構築物、HIV gag−pol、およびホタルルシフェラーゼをコードするHIVプロウイルスベクターの混合物を293T細胞に同時トランスフェクションすることにより、MERS偽粒子(MERSpp;ウイルス様粒子−VLPとも呼ばれる)を生成した。トランスフェクションの72時間後に、MERSppを含有する上清を回収し、遠心分離を用いて清澄化し、濃縮し、等分し、−80℃において凍結した。MERS−CoVスパイクタンパク質を発現するプラスミドをVesicular Stomatitis Virus Glycoprotein(VSVg)をコードするプラスミドで置き換えることにより、対照偽粒子を生成した。
【0191】
MERSppベースのアッセイ
抗体の希釈液をMERSppと1時間室温にてインキュベーションした。1%EDTAを用いて、完全DMEM培地中のHuh7細胞を剥離し、洗浄し、抗体/MERSpp混合物と72時間インキュベーションした。BrightGlo(登録商標)ルシフェラーゼアッセイ(Promega、San Luis Obispo、CA、米国)でのルシフェラーゼ検出により、感染有効性を定量し、Victor(登録商標)X3プレートリーダー(Perkin Elmer、Waltham、MA、米国)において光産生について読み取った。
【0192】
ウイルスベースのアッセイ
1ウェル当たり1×10
4ベロE6細胞を、実験の1日前に96ウェルプレートに播種した。500 TCID
50のMERS−CoV EMC/2012株を、通常のベロE6成長培地100μl中の所定量の抗体と混合し、室温にて30分間インキュベーションし、次に、混合物をベロE6細胞に加えた。感染の2日後において、製造元の指示に従い、CellTiter−Glo(登録商標)Luminescent Cell Viability Assay (Promega)を用いて、細胞死を評価した。Spectramax Mプレートリーダー(Molecular Devices)にて、発光を読み取った。データを、偽感染対照のパーセントとして表した。
【0193】
結果
抗MERS−CoV−S抗体によるMERS−CoVの中和
開始実験において、MERS感染性の中和について、別個の独立したハイブリドーマからもたらされた抗MERS−CoV−S抗体を試験した。
図1において示す通り、22種のうち12種の細胞の抗MERS−CoV−Sハイブリドーマ抗体は、MERS感染性の90%超を、68.4pM〜3.58nMの範囲にあるIC
50で阻害するか、または中和した。
【0194】
続く実験において、MERSppおよび生MERSウイルスの中和について、精製した抗体を試験した(単離物:EMC/2012)。結果を表6および7において示す。
【0195】
【表6】
【0196】
【表7】
【0197】
上記データは、本発明の抗MERS−CoV−S抗体が、MERS−CoVの感受性細胞への侵入を潜在的に遮断し、感染性を中和することを示唆する。
【0198】
抗MERS−CoV−S抗体による臨床上の単離物の中和
RNAウイルスは、低フィデリティーゲノム複製機構をコードするため、それらの宿主環境に容易に適応することが可能となる(Malpicaら2002年;Genetics 162:1505〜1511頁)。しかしながら、MERS−CoVのようなコロナウイルスは、3’−から−5’のエクソ−リボヌクレアーゼ活性を有する非構造タンパク質をコードし、これは、それらの複製中にプルーフリーディング機能をもたらし、変異性カタストロフを導くことなくゲノムのコード能力を非常に増大する(Cottonら2013年;Lancet doi:10.1016/S0140−6736(13)61887−5)。それにも関わらず、MERS−CoV流行の最初の2年の間に試料採取した複数の臨床上の単離物の配列決定により、ウイルスのMERS−CoV Sタンパク質が、進化することが明らかになった(Cottonら2014年;MBio 5 doi:10.1128/mBio.01062−13)。この研究のため、MERS−CoV臨床上の単離物の38種のNCBI寄託配列を整列させ、第1の単離した株、EMC/2012の配列と比較した。スクリーニングアッセイの設計に基づき、本発明の抗体は、MERS−CoV Sタンパク質のRBD内に結合すると予測し、故に、配列の比較が、アミノ酸367〜606に特異的に焦点を合わせた。配列決定した臨床上の単離物と原型EMC/2012配列、A431P、S457G、S460F、A482V、L506F、D509GおよびV534A間で異なる、7種の異なるアミノ酸を同定した(表8)。
【0199】
【表8】
【0200】
RBD内の保存された領域に結合し、2014年7月のものとして配列決定した全てのMERS−CoV臨床上の単離物を中和する抗体の能力を試験するために、部位特異的変異誘発を用いて、全てのSタンパク質変異体をコードするプラスミド構築物を作製した。これらを用いて、修飾したSタンパク質で偽型化したMERSppを生成し、中和アッセイを行った。上述の変異を有する生成したMERSppを用いて、MERS感染性の中和について、精製した抗体(実施例1において記載した)を試験した。表9および10は、MERSpp変異体のパーセント中和を示す。
【0201】
【表9】
【0202】
【表10】
【0203】
これらのデータは、本発明の抗体が、ウイルスの自然進化中に保存されるMERS−CoVスパイクタンパク質の領域に結合することを示唆する。
【0204】
本発明の抗MERS−CoV−S抗体は、従前に単離した抗MERS−CoV抗体より有効な中和剤である
本発明の選択した抗体の力価を、従前に単離したモノクローナル抗体と比較した。3つの群を、in vitro抗体単離方法、すなわち、ファージディスプレイ(Tangら2014年、PNAS doi:10.1073/pnas.1402074111;およびYingら2014年、J. Virol. doi:10.1128/JVI.00912−14)、ならびに酵母ディスプレイ(Jiangら2014年、Sci.Transl.Med. doi:10.1126/scitranslmed.3008140)を用いて、MERS−CoV Sタンパク質に結合し、ウイルス侵入を遮断する抗体を選択した。この研究のため、MERS−CoVを中和し、多様なエピトープに結合することを報告した、公開した可変ドメイン配列を有する3種の抗体のパネルを選択した。抗体3B12(Tangら2014年、PNAS doi:10.1073/pnas.1402074111)、MERS−4およびMERS−27(Jiangら2014年、Sci. Transl. Med. doi:10.1126/scitranslmed.3008140)についての配列を、ヒトIgG1定常ドメインにクローニングし、次に、選択した本発明の抗体と同様に発現させ、精製した。原型EMC/2012配列、および上述の全ての臨床上の単離物で生成した偽粒子を用いて、全ての抗体の中和有効性を試験した。
【0205】
MERSpp変異体に対する選択した抗体の中和IC50を、表11に示す。表11に示す通り、H1H15211Pは、1.3E−11M〜6.5E−11Mの範囲にあるIC
50値で全ての単離物を中和することができた。抗体に対して部分的な抵抗性を示したV534A変異体を除き、H1H15277Nについて、類似の値も観察された。しかしながら、このアミノ酸変化が、2012年に単離され、MERS−CoV系統樹の死部門である単一のMERS−CoV単離物(Riyadh_2)においてのみ観察されたことは注目すべきである。
【0206】
H1H15211PおよびH1H277Nは、最も強力なコンパレーター抗体、MERS−4より少なくとも1log小さいIC
50値でMERSppを中和する。加えて、3B12およびMERS−27の両方は、複数の臨床上の単離物の配列を有する偽粒子をこれらの抗体で中和できないので、MERS−CoV Sタンパク質上のあまり保存されていない部位に結合するように思われる。
【0207】
【表11】
【0208】
これらのデータは、本発明の抗体が、より広い範囲のMERS−CoV単離物を、in
vitro生化学特性に専ら基づき単離したいくつかの抗体と比較して、改良された力価で中和することができることを示唆する。
【実施例6】
【0209】
抗MERS−CoV S抗体間のOctet交差競合
Octet(登録商標)RED96 biosensor(Pall ForteBio Corp)上でのリアルタイム、ラベルフリーバイオレイヤーインターフェロメトリーアッセイを用いて、MERS−CoV S抗体間の結合競合を決定した。25℃にて、HBS−P Octetバッファー(10mM HEPES、150mM NaCl、および0.05%v/v 界面活性剤Tween−20、pH7.4、1mg/mL BSA)中、速度1000rpmでプレート振盪しながら、全実験を行った。抗体が、ヒトFcタグに融合した組換え発現させたMERSスパイクタンパク質受容体結合ドメイン(MERS RBD−hFc;配列番号458)上のそれらのそれぞれのエピトープへの結合について互いに競合することができるかどうかを評価するために、プレミックスアッセイフォーマットを採用し、50nM MERS−CoV−RBD−mFcを500nM 異なる抗MERSモノクローナル抗体(以後、mAb−2として言及する)と少なくとも2時間プレインキュベーション後、結合競合アッセイを行った。非特異的なモノクローナル抗体を、アイソタイプ対照としてMERS−RBS.mFcとインキュベーションした。抗hFcポリクローナル抗体(Pall ForteBio Corp.、カタログ番号18−5060)でコートしたOctetバイオセンサーを、50μg/mL溶液を含有するウェルに4分間まず浸し、およそ2nm 抗MERS抗体(以後、mAb−1と呼ぶ)を捕捉した。捕捉工程後、次に、Octetバイオセンサーを100μg/mL非特異的完全ヒトモノクローナル抗体を含有するウェルに浸すことにより、未結合の抗hFcポリクローナル抗体を飽和させた。最後に、バイオセンサーを、50nM MERS−RBD−mFcおよび500nM mAb−2のプレミックス試料を含有するウェルに4分間浸漬した。実験の全工程間で、バイオセンサーをHBS−P Octetバッファーにおいて洗浄した。実験の経過中、リアルタイム結合応答をモニターし、結合応答を、全工程の終わりに測定した。MERS−RBD−mFcおよびmAb−2のプレコンプレックスへのmAb−1結合の応答を比較し、異なる抗体MERSモノクローナル抗体の競合的/非競合的挙動を決定した。
【0210】
この実施例において用いた実験条件下で、例えば、(a)H2aM15281N、H1M15290N、H1M15293N、およびH2bM15291N;(b)H2aM15272N、H2bM15292N、およびH2aM15271N;ならびに(c)H2aM15268N、H1M15267N、H2M15279N、H1M15289N、およびH1M15277Nについて、交差競合(すなわち、両配向における抗体間の競合)が観察された(
図2)。
【0211】
別の実験において、抗原陽性マウスB細胞(実施例1において記載した)から直接単離した、選択した抗体間での結合競合を決定した。この実施例において用いた実験条件下で、例えば、(a)H1H15215P、H1H15177P、H1H15203P、およびH1H15211P;(b)H1H15188P、H1H15208P、H1H15228P2、H1H15233P2、H1H15237P2、H1H15253P2、およびH1H15259P2;ならびに(c) H1H15231P2、H1H15249P2、H1H15260P2、およびH1H15264P2について、交差競合(すなわち、両配向における抗体間の競合)が観察された(
図3)。
【0212】
別の実験において、2つの抗体H1H15211PおよびH1H15277N間の結合競合をモニターした。
【0213】
【表12】
【0214】
表12は、2つの抗体が互いに阻害しないこと、および1つの抗体のMERS−CoV RBDへの結合が、第2の抗体の結合を依然可能にすることを示す。これらのデータは、2つの抗体が、別々のオーバーラップしないエピトープに結合することを示唆する。1つの抗体による選択圧の結果としての1つのエピトープに変異が生じても、他方の結合には影響しないはずである。
【実施例7】
【0215】
抗MERS−CoV−S抗体のIn vivo有効性
材料および方法
ヒトDPP4ノックインマウスの作製
MERSスパイクタンパク質は、マウスDPP4と相互作用しないので、VelociGene(登録商標)テクノロジー(Valenzuelaら2003年、Nat. Biotechnol.21:652〜659頁)を用いて、MERS−CoV感染症のヒト化モデルを作製した。簡単に言うと、79kbマウスDpp4対応物配列を置き換えるための3’UTRを含むエクソン2〜26由来の82kbヒトDPP4ゲノムDNAを含有する、巨大な標的ベクター(LTVEC)を構築した。Blastを用いて、Dpp4遺伝子を含有するヒトBAC RP11−68L22およびマウスBAC RP23−362N15を同定し、イルミナベンチトップシーケンサーMiSeqを用いて、配列を確認した。LTVECを、F1ハイブリッド(129S6SvEvTac/C57BL6NTac)ES細胞にエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションの10日後に、G418耐性コロニーを拾い、アレルの消失アッセイにより、正しいターゲッティングについてスクリーニングした。VelociMouse(登録商標)方法を用い(Poueymirouら2007年;Nature Biotechnology25:91〜99頁)、ここで、ターゲッティングされたES細胞を、非緻密8細胞期Swiss Webster胚に注入し、ヒトDPP4遺伝子アレルを有するES細胞からもたらされたF0世代のマウスを作製した。NIHのCare and Use of Laboratory Animalsにおける推奨に厳密に従い、全ての動物の手法を行った。Regeneron Pharmaceuticals Institutional Animal Care and Use Committee(IACUC)により、プロトコールは承認された。この方法は、2014年9月17日付けで出願された米国特許出願第62/051,626号において詳細に記載され、全体として本明細書に組み入れられる。遺伝子導入マウスは、マウスゲノムにおけるhDPP4遺伝子の無作為挿入によっても作製した。
【0216】
動物実験
実験に依存して、感染の1日前または感染の1日後に、指定量の抗体または対照として無菌食塩水を、6〜8週齢のヒト化DPP4マウスに腹腔内(i.p.)注射した。鼻腔内接種に先立ち、キシラジン(0.38mg/マウス;Lloyd laboratories)およびケタミン(1.3mg/マウス;Henry Schein animal health)の混合物を用い、腹腔内注射によりマウスを麻酔し、PBS中に希釈して、マウス1匹当たり総量50μlを作製した。麻酔したら、総接種量50μlについてPBSまたはPBSに希釈した2×10
5pfu MERS−CoV(Jordan)のいずれかをマウスに鼻腔内接種した。実験中、感染前および実験の毎日、マウスの体重を測定し、MERS−CoVにより誘導される体重減少を評価した。致死用量のイソフルラン(Butler Animal Health Supply)を用いて、感染の2または4日後において、マウスを安楽死させた。MERS−CoV複製物のさらなる分析および病理のため、肺を回収した。
【0217】
MERS−CoV RNA分析
製造元の指示に従い、Magnalyzer(Roche)を用いて、Trizol(登録商標)(Life Technologies Inc)1mlにおけるホモジネートにより、マウスの肺からRNAを抽出した。エンベロープ遺伝子(UpE)のゲノム上流の領域;ヌクレオカプシドメッセンジャーRNAのリーダー配列(リーダープライマー)を標的とするLife Technologiesから得た2本鎖のプライマーを用いて、製造元の指示に従い、Taqman(登録商標)Fast virus one−step master mix(Applied Biosystems)を用いて、MERS−CoV RNAのレベルを評価し、マウス18S rRNA(内在性対照)と比較した。Microamp(登録商標)fast optical reaction plates(Applied Biosystems)におけるqPCR反応物を、7500 fast DX real−time PCR instrument(Applied Biosystems)上で読み取り、未感染の対照を1に設定した、デルタCt方法を用いて、データを分析した。アイソタイプ一致対照抗体で処置した感染マウスにおいて検出したRNAのレベルに対する、検出したパーセントMERS−CoV RNAを表した。
【0218】
MERS−CoVタイターについてのプラークアッセイ
Magnalyzer(Roche)を用いて、PBS1ml中、ガラスビーズで60秒間6000rpmにて、マウス肺をホモジネートした。次に、10分間、10,000rpmにてホモジネートを遠心分離し、ベロE6細胞上でのプラークアッセイにより、上清を分析して、処置後に残存するウイルスのレベルを定量した。プラークを出現させるため、3日間プレートをそのままにしたことを除き、従前に記載された通り、プラークアッセイを行った。
【0219】
組織学的分析
固定し、パラフィン包埋した組織の5μmの切片から、組織学スライドを調製し、ヘマトキシリンおよびエオジンで染色した。光顕微鏡により視野を調べ、分析した。間質性、細気管支周囲および血管周囲の炎症の程度を、0〜5にスコア化した。それぞれの実験群について、スライドを盲検化し、0〜5にスコア化し、表にして、株、時間ポイント、および処置を比較した。細気管支上皮および肺胞損傷の存在、胸膜の変化、ならびに気管支血管周囲の炎症の程度のような他の組織学的特性も、テキストにおけるそれぞれの群について述べた。それぞれのマウスについての全体的な炎症スコアを、それぞれの群について平均化し、それぞれの群および時間ポイントにおける全てのマウスの平均スコアとして提示した。
【0220】
結果
MERS−CoV感染症に感受性である、DPP4についてのヒト化マウス
抗ウイルス分子のIn vivo試験は、MERS−CoV感染症に感受性である、小動物モデルを必要とする。マウスはMERS−CoV感染症に感受性でない。マウスおよびヒトDPP4の配列の配列比較は、MERS−CoV Sタンパク質とその受容体の間の接触部位として従前に同定したアミノ酸が、2つの種の間で異なることを明らかにした。加えて、マウス細胞におけるヒトDPP4の発現は、MERSpp侵入およびMERS−CoV伝播を可能にするが、これは、ウイルスの侵入が、マウス細胞の感染における律速段階であることを示しており、マウスDPP4およびMERS−CoV糖タンパク質間での相互作用の欠如が、種についてのトロピズムをin vitroで定義する。
【0221】
本発明者らは、マウスDPP4の代わりにヒトDPP4を発現するマウスが、MERS−CoVに感受性であり、抗MERS−CoV治療剤のin vivo試験を可能にすると仮定した。VelociGene(登録商標)テクノロジーを利用して、マウスDpp4遺伝子79kbをそのヒトオルソログ82kbで置き換えた。得られたマウスは、マウス調節エレメントの制御下で完全ヒトDPP4を発現し、正しい発現調節およびタンパク質組織分布を保つ。
【0222】
1回の開始実験において、ヒト化マウスおよび遺伝子導入マウスが、MERS−CoV感染症を支持するかを試験するために、−1日目において抗MERS−CoV−S抗体またはアイソタイプ対照200μgで、遺伝子導入マウスを腹腔内処置し、0日目においてMERS−CoV(〜10
6pfu EMC2012)を鼻腔内感染させた。感染の4日後に、肺を回収し、ウイルスのRNAレベルをRT−PCRにより測定し、抗体のウイルス負荷に対する効果を調べた。表13は、ウイルスのゲノムRNAの平均レベルおよび発現した複製RNAをアイソタイプ対照のパーセンテージとして示す。H1H15211Pでの処置は、感染したマウスにおいてウイルスRNAの約500倍の低減をもたらした。
【0223】
【表13】
【0224】
別の実験において、6〜8週齢のヒト化DPP4(huDPP4)マウスに、MERS−CoVを鼻腔内接種した。疾患の死亡率または臨床兆候は4日目まで観察されなかったが、接種の2および4日後において、マウスを安楽死させ、それらの肺を解剖した。ウイルスRNAレベルを得るために、Trizol(登録商標)において肺をホモジネートし、MERS−CoVに特異的なプライマーを用いてリアルタイムPCRにより分析した(
図4および5)。ウイルスタイターを得るために、PBSにおいて肺をホモジネートし、遠心分離により清澄化し、ベロE6細胞においてタイター決定した(
図6)。肺における頑強なMERS−CoV複製は、感染の2および4日後において明らかであった。複製MERS−CoVのみを増幅するために設計した、MERS−CoVリーダーに特異的なプライマーセットを用いてRNAを定量したところ、2日目に集めた肺における高レベルのMERS−CoV複製RNAが示され、これらのレベルは感染の4日後まで維持された(
図5)。ベロE6細胞における肺ホモジネートのプラークアッセイによって、感染の2日後において〜7.27×10
4pfu/肺1g、および4日後において〜3.75x10
5pfu/肺1gのMERS−CoV(Jordan)レベルが定量され(
図6)、これは、huDPP4マウスの肺においてMERS−CoVが活発に複製していることを示している。これらのデータは、VelociGene(登録商標)テクノロジーを用いた受容体DPP4のヒト化によって、in vivoでのMERS−CoV処置を評価するために用いることができる、MERS−CoVの頑強なモデルがマウスにおいて作製されたことを示唆する。
【0225】
MERS−CoV(Jordan株)またはPBS(偽感染)のいずれかを鼻腔内接種したhuDPP4マウス由来の肺を、病理変化について分析した。感染の2日後において、細気管支周囲の炎症は、肺中で見出される細気管支細胞構造の変化から明らかであった。最小の血管周囲の炎症または肺胞構造に対する効果が、この時間ポイントにおいて認められた。感染の4日後において、血管周囲への細胞浸潤および広範な肺胞肥厚で、かなりの間質性浸潤を観察した。細気管支変化は、同様に依然存在した。重要なことに、この病理は、MERS−CoVを有するヒトにおいて観察した間質性肺炎およびかなりの肺疾患の発症のX線検査の知見と一致し、これは、MERS−CoV感染症のこのヒト化DPP4in vivoモデルが、ヒトのMERS−CoV感染症において見られる病理的続発症を繰り返すことを示唆する。
【0226】
さらなる実験(以下を参照)において、感染したマウスに、1回またはそれ以上の用量の精製した抗体(実施例1において記載した通り)または抗体の併用を予防的および/または治療的に投与して、MERS感染症に対するそれらの有効性を試験した。
【0227】
H1H15211PおよびH1H15277Nは、ヒト化DPP4マウスをMERS−CoV感染症から保護する
ヒト化DPP4マウスが、MERS−CoVに感受性であったことを確認し、このモデルを用いて、2つのモノクローナル抗体の活性をin vivoで評価した。1×10
5pfu MERS−CoV(Jordan株)での鼻腔内感染の24時間前に、H1H15211PもしくはH1H15277Nのいずれか200μg、20μgもしくは2μg、またはhIgG1アイソタイプ対照抗体200μgをマウスにi.p.注射した。
図7および8において示す通り、抗体の両方が、アイソタイプ対照抗体と比較して、1回のマウス用量当たり200μgにて2logを越えて、肺におけるMERS−CoV特異的RNAレベルを有意に低減することができた。H1H15211Pは用量20μgにおいて、MERS−CoV RNAレベルを低減する上で、同一用量におけるH1H15277Nと比較してより有効であった。いずれの抗体も投薬量2μgは、ウイルスRNAレベルを低減する上で、アイソタイプ対照で処置したマウスと比較して無効であった。MERS−CoVタイターを肺において分析したら(
図9)、H1H15211Pの用量200μgおよび20μgの両方が、ウイルスレベルを低減して、アッセイにおける検出のレベルまで近づける(2×10
3pfu/ml)ことが見出された。H1H15277Nは、H1H15211Pと、用量200μgにおいて同等に効率的であり、一方、20μgおよび2μgは、ウイルスの阻害の用量依存的阻害を示す。これらのデータは、H1H15211PおよびH1H15277Nが、MERS−CoV感染症をin vivoで有効に遮断することを示唆する。
【0228】
感染の4日後において、H1H15277N、H1H15211P、またはhIgG1アイソタイプ対照抗体で感染の24時前に処置したマウス由来の肺において、組織学的分析も行った。hIgGアイソタイプ対照抗体で予め処置したマウス由来の肺は、増大した間質性炎症、血管周囲への細胞浸潤、および肺胞中隔の肥厚を伴うかなりの肺病理を示した。H1H15277NまたはH1H15211Pのいずれか200μgで処置したマウスでは、間質における炎症細胞の最小病巣およびわずかな細気管支への細胞浸潤を伴った炎症が低減されていた。H1H15277NおよびH1H15211P20μgで予め処置したマウスでは、より高容量の抗体群と比較して中程度のレベルの血管周囲への細胞浸潤ならびに間質性炎症が見出された。対照的に、抗体2μgで予め処置した群は、かなりの間質性炎症および主な血管周囲の炎症を示すhIgG1アイソタイプ対照と類似の病理を有していた。盲検組織学的スコア化(
図10)は、処置したマウスについて低減した炎症スコアを反映する。これらの知見は、H1H15277NおよびREGN 3051が、MERS−CoV感染後の肺病理の用量依存的低減をもたらすことを示し、これは、これらのマウスについて決定されたウイルスRNAレベルおよびウイルスタイターを裏付ける。
【0229】
まとめると、これらのデータは、H1H15211PおよびH1H15277Nが、感染の1日前に注射したとき、MERS−CoV感染症および疾患をin vivoで遮断することを示す。本発明者らが知る限り、H1H15211PおよびH1H15277Nは、MERS−CoV感染症のin vivoモデルにおいて有効性を示すことが示された最初の完全ヒト抗体である。
【0230】
H1H15211PおよびH1H15277Nは、MERS−CoVが感染したヒト化DPP4マウスを処置する
感染後にMERS−CoV複製および肺病理を阻害する能力が、可能性のある治療剤における所望の形質である。H1H15211Pが,効果を治療上有するかどうかを評価するために、huDPP4マウスをMERS−CoVで感染させ、次に24時間後に、hIgGアイソタイプ対照500μg、またはH1H15211P500μgもしくは200μgをi.p.注射した。感染の4日後に、マウスを安楽死させ、ウイルスRNA、ウイルスタイター、および肺病理について、マウスの肺を分析した。H1H15211Pの用量500μgおよび200μgの両方がマウスの肺においてウイルスRNAレベルを、対照抗体で処置したマウスと比較して約10倍低減することができた(
図11および12)。同一マウスの肺タイターは肺におけるウイルスレベルの有意な低減を示し、感染の4日後において2log超低減していた(
図13)。これらのデータは、H1H15211Pが、ウイルス接種の24時間後に投与したときでさえ、ウイルス複製を優位に阻害することを示す。
【0231】
感染の24時間後にhIgG対照抗体、H1H15211P500μgまたは200μgで処置したマウスにおいて、組織学的分析を行った。対照抗体で処置したマウスは、かなりの間質性炎症、血管周囲への細胞浸潤、および肺胞中隔の肥厚を伴った、上記対照に類似の病理を示した。H1H15211P200μgまたは500μgのいずれかで処置したマウスは、肺中において、間質性炎症は最小限であり、血管周囲の炎症は低減された、限局的なものに過ぎなかった。盲検組織学的スコア化は、処置したマウスについて低減した炎症スコアを示す(
図14)。これらのデータは、治療用量のH1H15211Pが、感染の24時間後に投与したときでさえ、MERS−CoVにより誘導される肺病理を低減することを示す。
【0232】
本発明は、本明細書に記載される具体的な実施形態により、範囲において制限されるべきではない。実際、本明細書に記載されるものに加え本発明の種々の修飾は、前述の記載および添付の図面から当業者に明らかとなるだろう。かかる修飾は、添付の請求の範囲内にあることが意図される。