(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6934801
(24)【登録日】2021年8月26日
(45)【発行日】2021年9月15日
(54)【発明の名称】ラックブッシュおよびステアリング機構
(51)【国際特許分類】
B62D 3/12 20060101AFI20210906BHJP
F16C 27/06 20060101ALI20210906BHJP
F16C 25/04 20060101ALI20210906BHJP
F16C 17/02 20060101ALI20210906BHJP
F16C 29/02 20060101ALI20210906BHJP
【FI】
B62D3/12 503A
F16C27/06 A
F16C25/04 Z
F16C17/02 Z
F16C29/02
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-203677(P2017-203677)
(22)【出願日】2017年10月20日
(65)【公開番号】特開2019-77235(P2019-77235A)
(43)【公開日】2019年5月23日
【審査請求日】2020年8月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104570
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 光弘
(72)【発明者】
【氏名】池山 学
(72)【発明者】
【氏名】桑垣 隼哉
(72)【発明者】
【氏名】菊池 宏之
(72)【発明者】
【氏名】関根 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】中川 昇
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 勝紀
(72)【発明者】
【氏名】嶋山 浩輔
【審査官】
飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−137721(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/196582(WO,A1)
【文献】
米国特許第04215591(US,A)
【文献】
特開2008−151289(JP,A)
【文献】
実開平04−135874(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 3/12
F16C 27/06
F16C 25/04
F16C 17/02
F16C 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
径方向に伸縮自在なブッシュ本体と、
前記ブッシュ本体に装着された弾性リングと、を備え、
前記ブッシュ本体は、
外周面に周方向に形成され、前記弾性リングを装着するための装着溝を有し、
前記装着溝は、
軸心が前記ブッシュ本体の軸心から偏移しており、
前記ブッシュ本体は、
一方の端面から他方の端面に向かって形成されたスリットを有し、
前記スリットは、
前記装着溝の軸心よりも前記ブッシュ本体の軸心側において前記ブッシュ本体の円周方向に配置されている
ことを特徴とするラックブッシュ。
【請求項2】
請求項1に記載のラックブッシュであって、
前記ブッシュ本体の軸心よりも前記装着溝の軸心側における前記装着溝からの前記弾性リングの突出量が、前記装着溝の軸心よりも前記ブッシュ本体の軸心側における前記装着溝からの突出量より大きい
ことを特徴とするラックブッシュ。
【請求項3】
請求項1に記載のラックブッシュであって、
前記ブッシュ本体の前記外周面の半径と前記装着溝の軸心の前記ブッシュ本体の軸心からの偏移量との合計が、前記装着溝の溝底の半径と前記弾性リングを構成する弾性体の線径との合計以上となるように、前記装着溝の軸心の前記ブッシュ本体の軸心からの偏移量が設定されている
ことを特徴とするラックブッシュ。
【請求項4】
ラックアンドピニオン式のステアリング機構であって、
ラックバーの軸心方向の移動を許容しつつ、ラックバーに加わる荷重を支持する請求項1ないし3のいずれか一項に記載のラックブッシュと、
前記ラックブッシュの軸心方向の移動を拘束しつつ、当該ラックブッシュを収容する円筒状のハウジングと、を備え、
前記ラックブッシュは、
前記ブッシュ本体の軸心が、前記装着溝の軸心よりも、前記ラックバーに連結されたタイロッドを介してタイヤから前記ラックバーに入力される反力の入力方向と対向する前記ハウジングの内周面である反力支持面側に位置するように、前記ハウジング内に収容されている
ことを特徴とするステアリング機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラックアンドピニオン式のステアリング機構に関し、特に、ラックアンドピニオン式のステアリング機構に用いられるラックブッシュに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ラックアンドピニオン式のステアリング機構に用いられるラックブッシュが記載されている。このラックブッシュは、円筒状のハウジング内に軸心方向の移動が規制された状態で収容され、ラックバーの軸心方向の移動を許容しつつ、ラックバーに加わる荷重を支持するものであり、ラックバーが挿入され、径方向に伸縮自在な円筒状の軸受本体と、軸受本体に装着され、軸受本体を径方向内方に付勢する弾性リングと、を備えている。軸受本体は合成樹脂製であり、その外周面には、弾性リングを装着するための装着溝が周方向に形成されている。
【0003】
このラックブッシュによれば、弾性リングによって軸受本体が縮径し、軸受本体に挿入されたラックバーを締め付けるので、軸受本体の内周面とラックバーの外周面との間のクリアランスをゼロにして、軸受本体の内周面とラックバーの外周面との衝突による不快音の発生を防止することができる。また、ラックバーの外径寸法誤差による摩擦トルクの変動を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−151289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ラックアンドピニオン式のステアリング機構において、ステアリング操作によりステアリングシャフトが回転すると、このステアリングシャフトの先端に形成されたピニオンギアと、ラックバーに形成されたラックギアとの噛み合いにより、ステアリングシャフトの回転運動がラックバーの直線運動に変換される。これにより、ラックバーと連動するタイロッドがタイロッドエンドを介してステアリングナックルに、タイヤをキングピン周りに回転させるトルクを付与する。この際、タイヤからの反力がステアリングナックル、タイロッドエンド、およびタイロッドを介してラックバーに入力する。
【0006】
ここで、
図6(A)に示すように、特許文献1に記載のラックブッシュ8は、軸受本体80に装着された弾性リング81がハウジング90の内周面91と当接してハウジング90内に収容されている。このため、
図6(B)に示すように、タイロッド92を介してラックバー93に入力されたタイヤからの反力Nにより、弾性リング81が圧縮変形し、ラックバー93がラック軸方向Hに直線運動する前に、ラックブッシュ8、ラックバー93およびタイロッド92がラック軸直方向Vに変位してしまう(軸直方向変位量Δ)。これにより、ステアリング操作がなされてから実際にタイヤが向きを変えるまでのタイムラグが大きくなり、これがステアリング操作のフィーリングに悪影響を与えている。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ステアリング操作のフィーリングに与える影響を低減することができるラックブッシュを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明では、ラックバーが挿入されるブッシュ本体の外周面に周方向に形成され、弾性リングを装着するための装着溝の軸心を、ブッシュ本体の軸心から偏移させている。ここで、ブッシュ本体の外周面の半径と装着溝の軸心のブッシュ本体の軸心からの偏移量との合計が、装着溝の溝底の半径と弾性リングを構成する弾性体の線径との合計以上となるように、装着溝の軸心のブッシュ本体の軸心からの偏移量が設定されていることが好ましい。
【0009】
例えば、本発明のラックブッシュは、
径方向に伸縮自在なブッシュ本体と、
前記ブッシュ本体に装着された弾性リングと、を備え、
前記ブッシュ本体は、
外周面に周方向に形成され、前記弾性リングを装着するための装着溝を有し、
前記装着溝は、
軸心が前記ブッシュ本体の軸心から偏移して
おり、
前記ブッシュ本体は、
一方の端面から他方の端面に向かって形成されたスリットを有し、
前記スリットは、
前記装着溝の軸心よりも前記ブッシュ本体の軸心側において前記ブッシュ本体の円周方向に配置されている。
【0010】
また、本発明のステアリング機構は、
ラックアンドピニオン式のステアリング機構であって、
ラックバーの軸心方向の移動を許容しつつ、ラックバーに加わる荷重を支持する前記ラックブッシュと、
前記ラックブッシュの軸心方向の移動を拘束しつつ、当該ラックブッシュを収容する円筒状のハウジングと、を備え、
前記ラックブッシュは、
前記ブッシュ本体の軸心が、前記装着溝の軸心よりも、前記ラックバーに連結されたタイロッドを介してタイヤから前記ラックバーに入力される反力の入力方向と対向する前記ハウジングの内周面である反力支持面側に位置するように、前記ハウジング内に収容されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、弾性リングを装着するための装着溝の軸心をブッシュ本体の軸心から偏移させているので、弾性リングがブッシュ本体の外周面から大きく突出する弾性リング突出部と、弾性リングがブッシュ本体の外周面に埋没するか小さく突出する弾性リング埋没部と、が形成される。そして、弾性リング埋没部が、タイロッドを介してタイヤからラックバーに入力される反力の入力方向と対向するハウジングの内周面である反力支持面と対向するように、ラックブッシュをハウジングに装着することにより、弾性リングを介さずにブッシュ本体の外周面と反力支持面とを直接当接させることができる、あるいは、ブッシュ本体の外周面と反力支持面との隙間を小さくすることができる。このため、タイヤの反力に対する剛性が向上し、タイヤの反力よるラックバーのハウジング内の移動を抑制することができるので、ステアリング操作がなされてから実際にタイヤが向きを変えるまでのタイムラグが小さくなる。また、本発明では、タイヤの反力に対する剛性を向上させるために、弾性リングの内径を小さくして、ラックバーの締め付けを強くする必要がないので、ラックブッシュの摺動特性に影響しない。したがって、本発明によれば、ステアリング操作のフィーリングに与える影響を低減することができるラックブッシュを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態に係るラックアンドピニオン式のステアリング機構の一部の部分断面図である。
【
図2】
図2(A)および
図2(B)は、ラックブッシュ1の正面図および側面図であり、
図2(C)は、
図2(B)に示すラックブッシュ1のA−A断面図である。
【
図3】
図3(A)、
図3(B)および
図3(C)は、ブッシュ本体2の正面図、側面図および背面図であり、
図3(D)は、
図3(A)に示すブッシュ本体2のB−B断面図であり、
図3(E)は、
図3(B)に示すブッシュ本体2のC−C断面図である。
【
図4】
図4(A)および
図4(B)は、弾性リング3の正面図および側面図であり、
図4(C)は、
図4(A)に示す弾性リング3のD−D断面図である。
【
図5】
図5(A)および
図5(B)は、ラックブッシュ1の変形例1Aの正面図および側面図であり、
図5(C)は、
図5(B)に示すラックブッシュ1の変形例1AのE−E断面図である。
【
図6】
図6(A)および
図6(B)は、従来のラックブッシュ8の問題点を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
図1は、本実施の形態に係るラックアンドピニオン式のステアリング機構の一部の部分断面図である。
【0015】
図示するように、本実施の形態に係るラックアンドピニオン式のステアリング機構は、ラックバー5の軸心O方向の移動を許容しつつ、ラックバー5に加わる荷重を支持するラックブッシュ1と、ラックブッシュ1の軸心O方向の移動を拘束しつつ、ラックブッシュ1を収容する円筒状のハウジング4と、を備えている。
【0016】
図2(A)および
図2(B)は、ラックブッシュ1の正面図および側面図であり、
図2(C)は、
図2(B)に示すラックブッシュ1のA−A断面図である。
【0017】
図示するように、ラックブッシュ1は、ラックバー5が挿入されるブッシュ本体2と、ブッシュ本体2に装着された弾性リング3と、を備えている。本実施の形態では、2個の弾性リング3がブッシュ本体2に装着されている場合を例示しているが、1個または3個以上の弾性リング3がブッシュ本体2に装着されていてもよい。
【0018】
図3(A)、
図3(B)および
図3(C)は、ブッシュ本体2の正面図、側面図および背面図であり、
図3(D)は、
図3(A)に示すブッシュ本体2のB−B断面図であり、
図3(E)は、
図3(B)に示すブッシュ本体2のC−C断面図である。
【0019】
ブッシュ本体2は、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂等の摺動特性のよい合成樹脂で形成され、径方向に伸縮自在な円筒状部材であり、図示するように、内周面20に形成され、挿入されたラックバー5の外周面50と摺接する摺動面21と、周方向に等間隔で交互に配置された複数の第一スリット25および第二スリット26と、外周面22に形成された係合凸部27と、外周面22に周方向に形成され、弾性リング3を装着するための装着溝28と、を備えている。
【0020】
第一スリット25は、一方の端面23から他方の端面24に向けて軸心O方向に沿って形成され、第二スリット26は、他方の端面24から一方の端面23に向けて軸心O方向に沿って形成されている。ブッシュ本体2は、周方向に等間隔で交互に配置された複数の第一スリット25および第二スリット26により、縮径方向に変形することができる。
【0021】
係合凸部27は、一方の端面23側において外周面22から径方向外方に突出し、ハウジング4の一方の端面41において、内周面40を切り取るように形成された係合凹部(不図示)に収容される。これにより、ハウジング4内に収容されたラックブッシュ1の軸心O周りの回転が拘束される。また、係合凸部27がハウジング4の係合凹部に収容された状態で、ハウジング4の一方の端面41にリング状の蓋6が取り付けられる。これにより、ハウジング4内に収容されたラックブッシュ1の軸心O方向の移動が拘束される(
図1参照)。
【0022】
装着溝28は、周方向に沿って外周面22に形成されており、装着溝28の溝底29の軸心Pがブッシュ本体2の軸心Oから偏移している。ここで、外周面22の半径をroとし、装着溝28の溝底29の半径をrpとし、そして、弾性リング3を構成する弾性体の線径をd(
図4参照)とした場合、装着溝28の溝底29の軸心Pとブッシュ本体2の軸心Oとの偏移量sは、ro+s≧rp+dとなるように設定されている。このようにすることにより、ラックブッシュ1に、ブッシュ本体2の軸心Oよりも装着溝2
8の軸心P側において弾性リング3がブッシュ本体2の外周面22から大きく突出する弾性リング突出部10と、装着溝2
8の軸心Pよりもブッシュ本体2の軸心O側において弾性リング3がブッシュ本体2の外周面22に埋没する弾性リング埋没部11と、が形成される(
図2参照)。
【0023】
図4(A)および
図4(B)は、弾性リング3の正面図および側面図であり、
図4(C)は、
図4(A)に示す弾性リング3のD−D断面図である。
【0024】
弾性リング3は、合成ゴム、熱可塑性エラストマー等の弾性体で形成された円環状部材であり、ブッシュ本体2の装着溝28の溝底29の直径2×rpより小さな内径Riと、ハウジング4の内径Rj(
図1参照)より大きな外径Reと、を有している。
【0025】
弾性リング3は、ブッシュ本体2の装着溝28の溝底29の直径2×rpより小さな内径Riを有しているので、ブッシュ本体2の装着溝28に装着することにより、ブッシュ本体2を縮径方向に付勢して、ブッシュ本体2に挿入されたラックバー5を締め付ける。また、弾性リング3は、ハウジング4の内径Rjより大きな外径Reを有しているので、ラックブッシュ1をハウジング4に収容した場合に、ハウジング4の内周面40と圧接し圧縮変形する。これにより、ラックブッシュ1がハウジング4と嵌合する。
【0026】
図1において、ラックバー5に連結されたタイロッド(不図示)を介してタイヤ(不図示)からラックバー5に入力される反力Nの入力方向と対向するハウジング4の内周面40(ハウジング4の内周面40のうちラックバー5に入力される反力Nに対して最大の反力を発生させる部位を含む領域)を反力支持面42とした場合、上記構成のラックブッシュ1は、ブッシュ本体2の軸心Oが装着溝28の溝底29の軸心Pよりも反力支持面42側に位置するように、すなわち弾性リング埋没部11が反力支持面42側に位置するように、ブッシュ本体2の係合凸部27とハウジング4の係合凹部(不図示)との係合により位置決めされている。
【0027】
以上、本発明の一実施の形態について説明した。
【0028】
本実施の形態において、ラックブッシュ1は、装着溝28の溝底29の軸心Pがブッシュ本体2の軸心Oから偏移して、弾性リング3がブッシュ本体2の外周面22から大きく突出する弾性リング突出部10と、弾性リング3がブッシュ本体2の外周面22に埋没する弾性リング埋没部11と、を有しており、この弾性リング埋没部11が反力支持面42側に位置するように位置決めされて、ハウジング4に収容されている。
【0029】
このため、ハウジング4の反力支持面42側において、ブッシュ本体2の外周面22とハウジング4の内周面40とが弾性リング3を介さずに当接し、ブッシュ本体2の外周面22とハウジング4の内周面40との隙間がない。これにより、反力支持面42側における剛性が向上し、タイヤの反力Nよるラックバー5のハウジング4内の移動を抑制することができるので、ステアリング操作がなされてから実際にタイヤが向きを変えるまでのタイムラグが小さくなる。
【0030】
また、反力支持面42側における剛性を向上させるために、弾性リング3の内径Riを小さくして、ラックバー5の締め付けを強くする必要がないので、ラックブッシュ1の摺動特性に影響しない。
【0031】
したがって、本実施の形態によれば、ステアリング操作のフィーリングに与える影響を低減することができるラックブッシュ1を提供することができる。
【0032】
また、ラックブッシュ1は、ハウジング4に装着した場合、装着溝28の溝底29の軸心Pがブッシュ本体2の軸心Oと一致している従来のラックブッシュに比べて、軸心Oを挟んで反力支持面42と対向するハウジング4の内周面40である反力支持面対向面43側において、弾性リング3を構成する弾性体の圧縮変形量を増加させることができ、その反力としてのばね力がラックブッシュ1の内径方向に負荷される。このため、反力支持面42側に加えて、反力支持面対向面43側における剛性も向上し、ステアリング操作のフィーリングに与える影響をさらに低減することができる。
【0033】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形は可能である。
【0034】
例えば、上記の実施の形態では、ブッシュ本体2の外周面22の半径をroとし、装着溝28の溝底29の半径をrpとし、弾性リング3を構成する弾性体の線径をdとした場合に、装着溝28の溝底29の軸心Pとブッシュ本体2の軸心Oとの偏移量sが、ro+s≧rp+dとなるように設定している。しかし、本発明はこれに限定されない。
【0035】
装着溝28の溝底29の軸心Pとブッシュ本体2の軸心Oとの偏移量sは、弾性リング埋没部11において、弾性リング3がブッシュ本体2の外周面22に埋没するか、あるいは、弾性リング3のブッシュ本体2の外周面22からの突出量が弾性リング突出部10より小さくなるように設定されていればよい。このようにすることにより、ハウジング4の反力支持面42側において、ブッシュ本体2の外周面22とハウジング4の内周面40との隙間を小さくして、タイヤの反力Nよるラックバー5のハウジング4内の移動を抑制することができるので、ステアリング操作がなされてから実際にタイヤが向きを変えるまでのタイムラグが小さくなる。
【0036】
また、上記の実施の形態において、
図5(A)〜
図5(C)に示すラックブッシュ1の変形例1Aのように、弾性リング突出部10側(ブッシュ本体2の軸心Oよりも装着溝28の溝底29の軸心P側)の第一スリット25および第二スリット26をブッシュ本体2から省略してもよい。つまり、第一スリット25および第二スリット26を、弾性リング埋没部11(装着溝28の溝底29の軸心Pよりもブッシュ本体2の軸心O側)にのみ配置してもよい。このようにすることにより、反力支持面対向面43側において、弾性リング3が弾性変形して第一スリット25、第二スリット26内に逃げるのを回避して、弾性リング3を構成する弾性体の圧縮変形量をさらに増加させることができる。これにより、反力支持面対向面43側における弾性リング3の反力が大きくなり、反力支持面対向面43側における剛性がさらに向上する。
【0037】
また、上記の実施の形態では、ブッシュ本体2に、一方の端面23から他方の端面24に向けて複数の第一スリット25を軸心O方向に沿って形成するとともに、他方の端面24から一方の端面23に向けて複数の第二スリット26を軸心O方向に沿って形成している。しかし、本発明はこれに限定されない。ブッシュ本体2は、径方向に伸縮自在であればよく、例えば第一スリット25および第二スリット26のいずれか一方のみを備えるものでもよい。また、上記の実施の形態では、ブッシュ本体2の形状を円筒状としているが、挿入されるラックバー5の形状に適合する筒形状であればよい。
【符号の説明】
【0038】
1、1A:ラックブッシュ、 2:ブッシュ本体、 3:弾性リング、 4:ハウジング、 5:ラックバー、 6:蓋、 10:弾性リング突出部、 11:弾性リング埋没部、 20:ブッシュ本体2の内周面、 21:ブッシュ本体2の摺動面、 22:ブッシュ本体2の外周面、 23、24:ブッシュ本体2の端面、 25:第一スリット、 26:第二スリット、 27:係合部、 28:装着溝、 29:装着溝28の溝底、 40:ハウジング4の内周面、 41:ハウジング4の端面、 42:ハウジング4の反力支持面、 43:ハウジング4の反力支持面対向面