特許第6934856号(P6934856)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6934856複数の対象面を同時にイメージングする光シート顕微鏡
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6934856
(24)【登録日】2021年8月26日
(45)【発行日】2021年9月15日
(54)【発明の名称】複数の対象面を同時にイメージングする光シート顕微鏡
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/36 20060101AFI20210906BHJP
   G02B 21/06 20060101ALI20210906BHJP
【FI】
   G02B21/36
   G02B21/06
【請求項の数】19
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-502110(P2018-502110)
(86)(22)【出願日】2016年7月18日
(65)【公表番号】特表2018-520388(P2018-520388A)
(43)【公表日】2018年7月26日
(86)【国際出願番号】EP2016067033
(87)【国際公開番号】WO2017013054
(87)【国際公開日】20170126
【審査請求日】2019年7月18日
(31)【優先権主張番号】102015111698.7
(32)【優先日】2015年7月17日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】102016109717.9
(32)【優先日】2016年5月25日
(33)【優先権主張国】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】511079735
【氏名又は名称】ライカ マイクロシステムズ シーエムエス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Leica Microsystems CMS GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヴェアナー クネーベル
(72)【発明者】
【氏名】フローリアン ファールバッハ
【審査官】 岡田 弘
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2015/0177506(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0266655(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 19/00−21/00
G02B 21/06−21/36
G01N 21/62−21/74
G02B 7/28−7/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カメラ(50)と、
前記カメラ(50)から光シート(10)までの検出光路を定める検出光学系(30)と、
前記光シート(10)によって照明される複数の対象面を同時にイメージングするために、前記検出光路において前記カメラ(50)の前方に配置されたマイクロレンズアレイ(60,60’)と、
を有する光シート顕微鏡であって、
前記対象面は、前記検出光学系の焦点面の周囲に配置されており、
ガウシアンプロファイルを有する照明ビームが用いられており、
イメージングされる平面全体が実質的に等しい光強度で照明されるよう、前記照明ビームのガウシアンプロファイルを均質化する手段が設けられている、
光シート顕微鏡。
【請求項2】
前記マイクロレンズアレイ(60,60’)は、前記カメラ(50)に組み込まれている、
請求項1記載の光シート顕微鏡。
【請求項3】
前記マイクロレンズアレイ(60,60’)は、同じ焦点距離を有する複数のマイクロレンズまたは種々異なる焦点距離を有する複数のマイクロレンズを含み、
前記マイクロレンズアレイ(60,60’)のマイクロレンズの中心は、長方形もしくは正方形の格子上または六角形の格子上に配置されている、
請求項1または2記載の光シート顕微鏡。
【請求項4】
前記マイクロレンズアレイ(60,60’)は、チューブレンズ(TL)の像面に配置されているか、または、前記検出光学系(30)の、従来式の撮像のために画像センサ(S,50)が配置される位置に配置されている、
請求項1から3までのいずれか1項記載の光シート顕微鏡。
【請求項5】
前記マイクロレンズアレイ(60,60’)は、チューブレンズ(TL)の(仮想)像をセンサ(S,50)に結像するように配置されている、
請求項1から3までのいずれか1項記載の光シート顕微鏡。
【請求項6】
前記検出光学系(30)および再構成アルゴリズムは、FWHM被写界深度の照明ビームが約300μm(開口数およそ0.06に相当)である場合、前記カメラ(50)により、3つの平面の像が2μm間隔で形成されるか、または、5つの平面の像が1μm間隔で形成されるように、構成および相互調整されている、
請求項1から5までのいずれか1項記載の光シート顕微鏡。
【請求項7】
前記検出光学系(30)および再構成アルゴリズムは、FWHM被写界深度の照明ビームが約300μm(開口数およそ0.06に相当)である場合、前記カメラ(50)により、4μmのFWHM厚さの範囲にわたって、3個から5個までの個別画像が1μmの被写界深度で形成されるように、構成および相互調整されている、
請求項1から6までのいずれか1項記載の光シート顕微鏡。
【請求項8】
ビームプロファイルを均質化する前記手段は、照明光路に配置されたビーム整形光学素子を含み、
前記ビーム整形光学素子は、照明ビームにシルクハット状プロファイルを付与するように構成されており、
前記シルクハット状プロファイルの幅は、イメージングされる平面全体が実質的に等しい光強度で照明されるように選定されている、
請求項1から7までのいずれか1項記載の光シート顕微鏡。
【請求項9】
ビームプロファイルを均質化する前記手段は、照明光路に配置された光学素子、TAGレンズまたはETL(電気的に調整可能なレンズ)を含み、前記光学素子は、イメージングされる平面全体が実質的に等しい光強度で照明されるよう、前記照明ビームを軸線方向で短時間だけシフトさせる、
請求項1から7までのいずれか1項記載の光シート顕微鏡。
【請求項10】
ビームプロファイルを均質化するために、照明ビームを高い周波数を有するビーム方向で、最大で像野寸法に相当する区間にわたって往復シフトさせる素子が設けられている、
請求項1から9までのいずれか1項記載の光シート顕微鏡。
【請求項11】
対象面の像を形成する後処理装置が設けられている、
請求項1から10までのいずれか1項記載の光シート顕微鏡。
【請求項12】
前記検出光学系(30)の被写界深度の領域は、前記検出光学系(30)の被写界深度よりも格段に薄い光シートによって照明される、
請求項1から11までのいずれか1項記載の光シート顕微鏡。
【請求項13】
光シートを形成する照明光学系(20)の前方に配置された、走査ミラー(130)を含む手段が設けられており、これにより、光シートが、前記検出光学系(30)の検出軸(z)に沿って、種々の平面すなわち選択的に焦点面および各対象面が連続して照明されるように、相互にオフセットされた位置(100,110,120)へ連続的にまたは段階的に移動される、
請求項12記載の光シート顕微鏡。
【請求項14】
前記検出光路は、ビームスプリッタ(240)を含むビームスプリッタコンフィグレーション部により、前記マイクロレンズアレイ(60,60’)を経て前記カメラ(50)に通じる検出分路と、前記マイクロレンズアレイ(60,60’)の前置接続なしにカメラ(200)へ通じる検出分路と、に分割されている、
請求項1から13までのいずれか1項記載の光シート顕微鏡。
【請求項15】
前記ビームスプリッタコンフィグレーション部は、複数のミラー(260,270)を用いて、前記マイクロレンズアレイ(60,60’)を有する検出分路と、前記マイクロレンズアレイ(60,60’)なしの検出分路と、の双方が、同じカメラ(500)に並列的に結像されるように構成されている、
請求項14記載の光シート顕微鏡。
【請求項16】
請求項1から15までのいずれか1項記載の光シート顕微鏡を用いて、光シート(10)によって照明される複数の対象面を同時にイメージングする方法であって、
対象物ボリュームを、光シート構造にしたがって層状に検出およびイメージングする、
方法。
【請求項17】
検出された複数の対象面を対象物に対して相対的に移動させることにより、前記対象物ボリュームを時間的に連続してイメージングする、
請求項16記載の方法。
【請求項18】
検出軸に沿いかつナイキストの定理にしたがった走査のために、前記検出光学系(30)の有効被写界深度で必要とされる距離よりも相互に大きく離れた位置にある、照明される複数の対象面を同時に検出することにより、対象物ボリュームを同期して検出およびイメージングする、
請求項16または17記載の方法。
【請求項19】
大きな対象物ボリュームをイメージングするために、対象物が前記検出光学系(30)および前記マイクロレンズアレイ(60,60’)の焦点面に対して相対的に所定の刻み幅でシフトされるように、積層像を検出および撮影し、
前記所定の刻み幅は、ナイキストサンプリングは可能であるが、位置ごとに1ステップで検出される面の間隔より小さい、
請求項16から18までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光シート顕微鏡の分野、特に、同等の光効率において対象物に関するより多くの情報を取得可能な光シート顕微鏡、または同等の情報量においてより高い光効率を利用可能な光シート顕微鏡に関する。さらに本発明は、こうした光シート顕微鏡を基礎とした方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光シート顕微鏡検査もしくは光スライス顕微鏡検査または光スライス蛍光顕微鏡検査(LSFM)またはシングルプレーンイルミネーションマイクロスコピー(SPIM)は、試料内の典型的には数マイクロメートルの薄層のみを照明する蛍光顕微鏡検査法である。これは、従来の落射照明または透過照明の蛍光顕微鏡検査に比べ、良好な分解能および格段に低減された像背景が得られるものである。また、生体試料における褪色または光によって生じるストレスによる負の作用も軽減される。光シート顕微鏡検査は、細胞生物学、生体での蛍光検査、およびモデル生体での胚の発生(発生生物学)の長期間の観察において使用されている。
【0003】
光シート顕微鏡では、検出すべき平面が、光シート(light sheet)の形態の薄い光ビームによって一方側から照明される。屈折のために、光シートの厚さとその被写界深度との間にはトレードオフの関係が生じている。これに関連して、被写界深度とは、光シートの厚さがほぼ同等にとどまるかまたはビームウエストでの厚さが係数√2を超えない程度の、照明軸に沿った距離をいうものと理解されたい。このため、1つもしくは複数の対象物の最大寸法も制限されてしまう。1つもしくは複数の対象物は、顕微鏡の検出対物レンズを通して、良好な結像品質でセンサに結像可能である。光シートの厚さは、画像コントラストと検出軸に沿った分解能とを直接に定めるので、光シートはできるだけ薄いほうがよい。特に、光シートの厚さは、対象物の各部分の不鮮明な結像を回避するため、検出対物レンズの被写界深度よりも小さいことが望ましい。過去数年にわたって、深部の鮮鋭性を維持したまま光シートの(有効)厚さを低減することに多くの開発者は精力を傾けてきたが、これは高い技術コストをかけなければ可能でなく、しかもほぼつねに光シートによる試料への負荷が増大する。
【0004】
図1のaには、照明光学系2を通して光シート1で照明される大きな試料が示されており、この試料の厚さは、検出光学系3の被写界深度を上回る。したがって、チューブレンズ4を介した照明領域の一部が不鮮明にカメラ5に結像される。薄い光シート1bは、他方では、図1のbに示されているように、小さな被写界深度と強いコンバージェンスまたはダイバージェンスを生じさせるので、高い分解能および高いコントラストでは小さな像野しか観察できない。解決手段は、レンズを絞ることで(開口数の低減によって)検出光学系の被写界深度を増大させることである。しかし、このようにすると、検出軸に沿った対象物の位置に関する情報すなわち深度情報の形態の分解能は失われる。
【0005】
光シート顕微鏡およびこれに使用される顕微鏡検査の従来技術は、例えば、刊行物である米国特許第7936392号明細書(US7936392B2)、欧州特許第2244484号明細書(EP2244484B1)、欧州特許第2422525号明細書(EP2422525B1)および米国特許出願公開第2015/0177506号明細書(US2015/0177506A1)に開示されている。また、以下の学術文献もこうした従来技術に属する。
・Levoy M., Zhang Z. & McDowall I., "Recording and controlling the 4D light field in a microscope using microlens arrays" J.Microsc. 235, 144頁−162頁(2009)
・Broxton M. et al., "Wave optics theory and 3-D deconvolution for the light field microscope", pt.Express 21, 25418頁(2013)
・Skupsch C. & Bruecker C., "Multiple-plane particle image velocimetry using a light-field camera", Opt.Express 21, 1726頁−1740頁(2013)
・Prevedel R. et al., "Simultaneous whole-animal 3D imaging of neuronal activity using light field microscopy", Nature Methods 11, 727頁−730頁(2014)
・P.P.Mondal, S.Dilipkumar and M.Kavya, "Efficient Generation of Diffraction-Limited Multi-Sheet Pattern for Biological Imaging", Optics Letters 40, 609頁−612頁(2015)
・S.B.Purnapatra, M.Kavya and P.P.Mondal, "Generation of multiple sheets of light using spatial-filtering techniques", Optics Letters 39, 4715頁(2014)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、励起される蛍光の特に有効な利用を保証でき、照明ビームの厚さひいてはその被写界深度を低下させない、光シート顕微鏡およびその動作方法を提供することである。また、1つもしくは複数の対象物についてのできるだけ多くの深度情報が得られるとよい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、請求項1の特徴を有する光シート顕微鏡により、また請求項17の特徴を有する方法により、解決される。
【0008】
したがって、本発明は、カメラとこのカメラから光シートまでの検出光路を定める検出光学系とにより、光シートによって照明される複数の対象面を同時にイメージングする手段を有する、光シート顕微鏡を提供する。ここで、対象面は、検出光学系の焦点面の周囲に配置されている。
【0009】
言い換えれば、本発明は、光シート技術を利用して、検出レンズとカメラとの間に、対象物の複数の平面から成る対象物データを同時に形成する光学手段を配置する。この対象物データから、その後、検出光学系の焦点面を設けるために、後処理ユニットにおいて、複数の対象面のシャープな像を取得可能である。
【0010】
よって、本発明では、一方では、光効率を同等に保持したまま深度情報を著しく増大し、または深度情報を同等に保持したまま光効率を著しく増大することができる。他方では、複数の平面を同時にイメージングできる。このことは、多数のダイナミックプロセスにとって、特に種々の平面での事象を相互に相関させるべき場合に有利でありまたは完全に必須である。つまり、本発明の光シート顕微鏡によれば、大きなボリュームを同時に高速にイメージングでき、したがって、生体細胞でのオルガネラのトラッキング(追跡)およびきわめて迅速なプロセスの観察などのタスク設定に特に適する。この場合、例えば対象物および光シートの運動による隣り合う領域の連続走査、ひいては検出対物レンズおよび/または内部フォーカシング系の同期は不可能であるかまたは望ましくない。
【0011】
光シート顕微鏡における、対象面を形成するための空間フィルタを用いた相互に並列な複数の対象面の照明は、P.P.MondalらおよびS.B.Purnapartaらに開示されている。
【0012】
数百マイクロメートルの大きさの生体の観察域では、光シート技術は従来専ら広域照明と組み合わされて使用されており、このことは例えばPrevedelらおよびLevoyらおよびBroxtonらに説明されている。広域照明のために、対象物内の蛍光が数十の被写界深度を検出軸に沿って延在させ、厚い試料の像はきわめて小さいコントラストしか有さない。
【0013】
複数の平面を同時にイメージングする代替的な手法は、例えば米国特許出願公開第20130176622号明細書(US20130176622A1)に記載されたMFM(マルチフォーカスマイクロスコピー)である。この手法では、9個から25個の平面が並列的にセンサに結像される。しかし、このために必要な光学系は、ライトフィールド顕微鏡検査に比べて著しく複雑である。なお、MFMは透過照明またはエピフルオレセンス励起をベースとしている。国際公開第2014/147261号(WO2014/147261)には、光シート照明と組み合わされたMFM法が説明されている。
【0014】
米国特許出願公開第2015/0177506号明細書(US2015/0177506A1)には、光シート技術に適用されるプロセスが説明されている。当該プロセスは、試料照明に一方側からのビーム束を用いている。種々の空間角度から到来する成分は、シフト可能なアパーチャ絞りを経て検出対物瞳でフィルタリングされる。このことは、種々の試料成分が連続撮像されてしまうという欠点を有しており、これに対して、ライトフィールド顕微鏡では強く並列化された撮像が優先される(シングルショット)。
【0015】
Skupschらによれば、PIV(粒子画像流速測定法)のための、一方側からシリンドリカルレンズを通して複数の光シートによって照明され、マイクロレンズアレイを介した検出とライトフィールド技術による再構成とが行われる構造が提案されている。
【0016】
本発明の特に有利な実施形態によれば、光シートによって照明される複数の対象面を同時にイメージングするために、検出光学系からカメラまでの光路に、好ましくはカメラ内に組み込まれるマイクロレンズアレイ(MLA)が配置される。マイクロレンズアレイは、光路において、カメラから所定の距離を置いてその前方に配置される。当該距離は、好ましくは、少なくともピクセル数個およびマイクロレンズの焦点距離の数倍分である。なお、マイクロレンズアレイの各マイクロレンズは、ピクセル間隔よりも大きい。
【0017】
本発明によれば、再構成の2つの異なる形式を使用できる。使用される手法は、マイクロレンズアレイの選択位置に密接に関連している。マイクロレンズアレイは、チューブレンズ(TL)の像面に配置可能であるか、または従来の撮像系で画像センサ(S)またはカメラが配置される検出光学系の位置に配置可能である。この場合、画像センサは、マイクロレンズの焦点距離の位置に配置される。当該配置をタイプAと称する。この手法の欠点は、個々の対象面の像のピクセル数(ひいては分解能)がマイクロレンズの個数と1:1でスケーリングされるということである。つまり、像当たりのピクセル数はマイクロレンズ数と等しく、分解可能な平面の個数は、ピクセルとマイクロレンズとのエッジ長さの比によってスケーリングされる。例えば、1つのマイクロレンズのエッジ長さがセンサ上の5ピクセルに相当する場合、5つの平面を分解することができる。
【0018】
これに代えて、マイクロレンズアレイを、チューブレンズと共に望遠鏡が形成されるように配置することもできる。この場合、マイクロレンズアレイは、図8に示されているように、チューブレンズの(仮想)像をセンサに結像する(タイプB)。像の再構成は、相応に適応化された再構成アルゴリズムによって行われる。当該再構成アルゴリズムは、複数のマイクロレンズの像において対象物の点像を求め、そこから、例えば三角法および視差を用いて、対象物における位置を逆算する。z方向の分解能、ひいては分解可能な平面の数は、この場合、異なるマイクロレンズによる同じ対象点の像の間隔(三角法での底辺の長さ)によって与えられる。種々のマイクロレンズの像での対象点の同一性は、個々のマイクロレンズの像の相関を可能にする対象点の特徴の利用可能性の前提である。つまり、対象物の点の複数の像を点光源に対応づけできなければならない。言い換えれば、マイクロレンズ後方のセンサ上の位置により、対象物ボリュームにおいて、直線状の領域(またはマイクロレンズに対応する対象物ボリュームのPSF(点拡がり関数)の領域)が、結像された対象点に沿って定義される。こうした第2の直線状の領域は、同じ対象点の像の位置によりセンサ上で他のマイクロレンズの後方に定義される。この場合、対象点は、2つの直線状の領域の交点に配置しなければならない。
【0019】
焦点距離および直径またはマイクロレンズの開口数および光軸に沿ったMLAの位置は、主に結像系の品質に作用する重要な観点である。タイプAが使用される場合、マイクロレンズの開口数は、理想的にはチューブレンズの開口数に一致する。タイプBでは特に、センサに対して相対的なマイクロレンズアレイの位置と、マイクロレンズアレイのマイクロレンズの直径とが重要であり、これらについては後にもういちど述べる。対象点の分離可能性(光学系の分解能)は、センサ上での対象点の像のスポットサイズとその間隔とに依存する。これらは、マイクロレンズの焦点距離および直径またはマイクロレンズの開口数ならびに光軸に沿ったMLAの位置によって定められる。
【0020】
マイクロレンズ直径vの幾何学的近似におけるスポットサイズ直径s、マイクロレンズの焦点距離fML、MLAから中間像までの距離gに依存する、中間像平面(ZBE)からセンサまでの距離dは、
s=v(1−d/b)
から得られ、ここで1/fML=1/b+1/g、すなわちb=gfML/(g−fML)である。各パラメータは図9に示されている。
【0021】
gの変化分は、対物レンズ(OL)の焦点面(FE)に対する光軸zに沿った対象物での点光源の位置Δzから、このΔzの値が小さい場合、Δg=−MΔzによって得られる。
【0022】
MLAからZBEまでの距離がおよそgoptに相当するようにMLAおよびセンサが配置されれば、焦点面の点光源(PLQ)はシャープにセンサに結像される。また離れたPLQは、焦点面までの距離dzが大きくなるにつれて不鮮明に結像されるようになり、この場合はdz=(g−gopt)Mまたはg=gopt−dzMが当てはまる。
【0023】
当該評価は、基本的には、センサでの定められたスポットサイズを上回らない領域を求めることができれば充分である。ここで、もちろん、幾何光学系の妥当性の限界は考慮しなければならない。
【0024】
例えば、一実施形態において、MLAからセンサまでの距離dは、対物レンズの焦点面の対象物がシャープにセンサに結像されるように、すなわちΔz=0およびΔg=0に対してb=dすなわちd=gfML/(g−fML)となるマイクロレンズアレイの中間像の距離gが得られるように、選定される。結像の鮮鋭性(スポット直径s)は、gが低下する場合または増大する場合、低下する(スポットサイズsは増大する)。
【0025】
特に有利な実施例では、dは、d=gfML/(g−fML)となるように選定される。ここで、gは、対象物内の平面に対応する中間像平面を定義する。この平面は、焦点面に比べて、ガリレオ望遠鏡(図8a)ではおよそ検出対物レンズに近い位置に、またはケプラー望遠鏡(図8b)ではおよそ検出対物系から相当に離れた位置にある。この場合、対物レンズから相当に離れた平面または対物レンズに近い平面は、良好な分解能を有する領域にあり、一義的に再構成可能である。
【0026】
この場合、固定の限界は、(特にケプラー望遠鏡のケースで)g>fが満足される場合にのみgが低下する(またはΔgの値が増大する)ことを表す。そうでない場合、センサでのスポットサイズが大きくなることにより、一義的な再構成が困難となる。この場合、当該領域では、分解能もきわめて劣悪となる。
【0027】
別の重要なパラメータは、対象点を結像するマイクロレンズの数、すなわち光軸に対する横断方向の軸に沿った対物レンズのアパーチャを分割するマイクロレンズの数に関連する。当該数は、マイクロレンズの捕捉角度θML=arctan(v/2g)とチューブレンズの捕捉角度θTL=arctan(dTL/2/(fTL−Δg))との商から得られ、ここでdはチューブレンズのアパーチャである。センサでのスポットサイズおよび分解能は確かにθML/θTLには依存しないが、対物レンズボリュームでの相応のPSFは、近似的に0.61λ/NA×θML/θTLによって与えられる。
【0028】
Δgの値は、焦点面から大きく離れた平面における対象物または大きなΔzを有する対象物では、θML<<θTLであってそのつどきわめて多数のマイクロレンズが対象点を結像するような大きさとなりうる。これにより個々の画像内の信号が低下し、分解能も同様に大幅に低下してしまう。
【0029】
本発明における上述した評価の意義は、光シート照明において、従来こうしたコンテクストで使用されている照明形式(エピフルオレセンス励起)とは異なり、照明領域の厚さを検出光学系の被写界深度領域に(または逆に検出光学系の被写界深度領域を照明領域の厚さに)正確に適合化できることにある。したがって、(a)一義的な対応づけが可能な領域のみ、または(b)できるだけ高い分解能が得られる領域のみが照明される。
【0030】
ポイント(a)は、マイクロレンズアレイにあまりに近い(g<f)中間像を有する対象点を照明しないことにより達成される。これにより、再構成でのアーチファクトが回避される。ポイント(b)は、それぞれ光軸に対する横断方向の軸線に沿った少数のマイクロレンズ、例えば2つまたは3つのマイクロレンズ(すなわち全部で約4つから7つのマイクロレンズ)しか対象点を結像しない位置にある領域の対象点のみを照明することにより達成される。上述したように、こうした照明領域は、理想的には、スポットサイズが想定可能な値、例えば最小値の2倍を上回らないよう、さらに制限されるかまたはMLAに合わせて適合化されなければならない。
【0031】
検出対物レンズの焦点面の周囲の狭い領域の、上述した有利な選択性かつ所期の照明のために、本発明によれば理想的には光シート照明が扱われる。
【0032】
一般に、異なる2種のマイクロレンズアレイの使用、すなわち唯一の焦点距離を有するマイクロレンズのみを有し、ここではホモジニアスアレイとも称されるマイクロレンズアレイと、複数の異なる焦点距離、例えば3つの異なる焦点距離を有し、ここではヘテロジニアスアレイとも称されるマイクロレンズアレイとの使用を考察する。種々のマイクロレンズを複合したアレイを使用することの利点は、再構成像にいっそう高い分解能が得られることである。なぜなら、センサでのスポットサイズが焦点距離にも依存するからである。
【0033】
本発明ではさらに、有利なビームプロファイルについて論ずる。このことは、光シート顕微鏡の組み合わせ装置のコンテクストにおいて新規である。
【0034】
本発明の有利な一実施形態によれば、光シート顕微鏡の、検出光学系からカメラまでの検出光路に、目的にしたがってマイクロレンズアレイを導入し、カメラで記録された生データを後処理することにより、検出光学系のもとの焦点面の周囲に配置される複数の対象面の像が形成される。好ましくは、マイクロレンズアレイは、ライトフィールド顕微鏡の一部を形成することができる。
【0035】
有利には、特にマイクロレンズの高いパッケージング密度を保証するために、ひいてはマイクロレンズが配置される平面での高い分解能を保証するために、マイクロレンズアレイのマイクロレンズの中心が長方形または正方形の格子上またはこれに代えて六角形の格子上に配置される。高いパッケージング密度を保証するためには、マイクロレンズは六角形の格子上に配置される。ただし、標準的には、レンズは正方形の格子上に配置される。MLAが像平面に存在する再構成では、正方形の格子がふつうである。なぜなら、マイクロレンズの後方で集束される光を、正方形のピクセルを有する「通常の」像のピクセルにまとめることのほうが簡単だからである。MLAがイメージングを行う構成では、六角形のパターンが好ましい。
【0036】
有利には、FWHM被写界深度の照明ビームが約300μmである(開口数およそ0.06に相当)場合、カメラによって3つの平面の像が2μm間隔で形成されるように、または5つの平面の像が1μm間隔で形成されるように、顕微鏡の検出光学系とマイクロレンズアレイとが構成されかつ相互に調整される。この場合、本発明において、理想的には、4μmの範囲にわたって、3つから5つの個別像をそれぞれ1μmの被写界深度で形成する顕微鏡の検出光学系とマイクロレンズアレイとの組み合わせ装置が使用される。つまり、Skupschらとは異なり、検出光学系およびマイクロレンズアレイのユニットの被写界深度は、検出軸に沿った対象物の広がり(または関心対象物領域の広がり)を著しく下回る。また、より短い被写界深度またはより長い被写界深度との組み合わせを使用することもできる。
【0037】
ガウシアンプロファイルを有するビームでの照明の問題は、照明軸に沿った個々の対象物平面が同じ強度で照明されず、また隣り合う各平面が同じパワーで照明されないということである。この問題を克服するために、本発明によれば、像野全体が検出軸に沿って実質的に等しいビームプロファイルで照明されるように照明ビームのガウシアンプロファイルを均質化する手段が設けられる。理想的には、イメージングすべき平面全体も、実質的に等しい光強度で照明される。ビームプロファイル均質化手段の有利な実施形態では、照明光路に配置されるビーム整形光学素子が形成され、このビーム整形光学素子は、イメージングすべき平面全体が実質的に等しい光強度で照明されるように選択された幅を有するシルクハット状プロファイルを照明ビームに付与するように構成される。これに代えて、ビームプロファイル均質化手段が、照明光路に配置され、イメージングすべき平面全体が実質的に等しい光強度で照明されるように照明ビームを軸線方向で高頻度に往復シフトさせる光学素子、例えばTAGレンズまたはETL(電気的に調整可能なレンズ)を有するように構成してもよい。このことは特に、照明軸に沿った横方向のプロファイルが補償/消去に要する変調度を有するという前提条件において有利である。
【0038】
また、代替的な撮像モードを、検出対物レンズ(およびマイクロレンズアレイ)の有効な被写界深度で検出軸に沿いかつナイキストの定理にしたがった走査に必要なよりも相互に大きく離れた複数の平面を照明し、同期して検出することによって得ることもできる。この場合、対象物が検出対物レンズの焦点面に対して相対的に所定の刻み幅でシフトされるように、積層像を撮影することができる。ここでの所定の刻み幅は、ナイキストサンプリングは可能であるが、1ステップで/位置ごとに検出される平面の間隔よりは小さい刻み幅である。これにより、隣り合う各平面はもはや同時には撮影されないが、大きなボリュームをイメージング可能にする生の像の数を小さくすることで、速度を高めることができる。
【0039】
ライトフィールドカメラと光シート照明との組み合わせ装置の明瞭な利点は、検出光学系の被写界深度を大幅に増大できることによって得られる。各平面を同期してイメージングおよび照明でき、その間隔を「通常の」検出光学系(マイクロレンズアレイなしの純粋な対物レンズ)の被写界深度に比べて格段に大きくできる。このようにして高められた被写界深度において、光シートは、検出軸に沿った位置を良好に特定できるようにパターン化することもできる。
【0040】
複数の平面の照明は、もちろん、ガウシアンビームとは異なるビームで行うこともできる。上述したように、できるだけ平坦なビームプロファイルが推奨される。またこれに代えて、ベッセルビームおよびベッセル近似のビームも利用可能である。この場合、ベッセルビームのリング構造は、各リングが他の平面を照明するように検出光学系に適応化される。この場合、照明のために特に、例えば種々の部分ビームの干渉パターンとして検出平面に沿ったストライプパターンを形成するビームが所望される。このことは、例えば、単純な2ビーム干渉によって達成できる。特に有利には、Mathieuビーム、または向かい合うように原点に関して対称に位置する2つのリングセグメントから成る角度スペクトルを有するビームが使用される。リングセグメントの配向状態は、照明の光軸を中心とした領域に、検出軸に沿ったストライプパターンが所期の通りに形成され、種々の検出平面のできるだけ等しい強度での均等な照明を可能にするビーム整形が行われるように選択される。
【0041】
本発明の光シート顕微鏡のさらなる使用領域は、検出光学系の被写界深度の領域が検出光学系の被写界深度よりも格段に薄い光シートによって照明される場合に開拓される。当該前提条件で、有利には、光シートの形成のために照明光学系の前方に配置される、好ましくは走査ミラーを含む手段を設けることができ、これにより、光シートは、連続して種々の平面すなわち選択的に焦点面および各対象面が照明されるよう、検出光学系の検出軸に沿って段階的にまたは連続的に相互にオフセットされた位置へ移動される。これにより、光シートは、試料を通る像野寸法に対して垂直に移動可能となり、このことは、例えば、光シート顕微鏡による検査において特にその安定性のためにほとんど移動させることのできない生体試料が走査される際に有利である。
【0042】
本発明の顕微鏡の別の有利な実施形態によれば、検出光路は、ビームスプリッタを含むビームスプリッタコンフィグレーション部により、マイクロレンズアレイを経てカメラへ通じるさらなる検出分路と、マイクロレンズアレイの前置接続なしでカメラへ通じる検出分路と、に分割される。これにより、検出光学系の焦点面での高分解能の試料の結像が、前置接続されたマイクロレンズアレイを含む、相対的に低い分解能を有するカメラによる結像に加えて得られる。
【0043】
2つの検出分路を形成するためのビームスプリッタコンフィグレーション部は、ミラーを用いて、有利には、マイクロレンズアレイを有する検出分路とマイクロレンズアレイなしの検出分路とが並列的に同じカメラへ結像されるように構成可能である。本発明はまた、対象物ボリュームが光シート構造にしたがって層状に検出およびイメージングされる本発明の光シート顕微鏡を用いて、光シートによって照明される複数の対象面を同時にイメージングする方法を提供する。
【0044】
ビームスプリッタに代えて、マイクロレンズアレイを有する光路またはマイクロレンズアレイなしの光路を選択的に利用可能にするため、傾動ミラーを用いることもできる。2つの光路は、例えばレンズの焦点距離の異なる組み合わせによって、または付加的に組み込まれる望遠鏡によって、異なる寸法を有してもよい。
【0045】
当該方法では、対象物ボリュームが、有利には、検出された対象面の、対象物に対する相対運動により、時間的に連続してカメラに結像される。
【0046】
これに代えて、照明される複数の対象面を同時に検出することにより、各対象物ボリュームを同期して検出およびイメージングすることもできる。各対象面は、マイクロレンズアレイなしの検出光学系の有効被写界深度で必要となるよりも相互に遠く離れている。これにより、検出軸に沿いかつナイキストの定理にしたがった走査が行われる。
【0047】
有利には、大きな対象物ボリュームをイメージングするため、対象物が検出光学系の焦点面に対して所定の刻み幅でシフトされるよう、検出および撮像が行われる。ここでの刻み幅は、ナイキストサンプリングは可能であるが、位置ごとに1ステップで検出される面の間隔よりも小さい。
【0048】
有利には、本発明の光シート顕微鏡は照明光路に走査ミラーを含み、この走査ミラーを用いて、光シートを検出軸に沿ってシフトさせることができる。これにより、試料の複数の平面を所期の通りに連続して照明でき、光シートの各位置でカメラによって像を撮影できる。この場合、マイクロレンズアレイは、被写界深度を増大するために用いられる。光シートの位置に依存せず、センサが撮影したデータから、照明されるボリューム内の1つもしくは複数の対象面の像を再構成することができる。この場合相応に、光シートは、少なくとも1つの対物レンズ、マイクロレンズアレイおよび好ましくはチューブレンズを含む検出光学系の被写界深度よりも格段に薄い。
【0049】
以下に本発明を図に即して詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】a,bとも、それぞれ異なる厚さの光シートを用いた、従来の光シート顕微鏡の動作方式を示す図である。
図2】本発明の光シート顕微鏡の動作方式を示す図である。
図3図2の光シート顕微鏡の照明光学系によって形成される照明ビームの種々のビームプロファイルを示す図である。
図4図2の光シート顕微鏡のカメラ、検出光学系およびマイクロレンズアレイによって形成される対象面の像を示す図である。
図5】試料を通して像野寸法に対して垂直に運動可能な光シートを用いた、本発明の光シート顕微鏡の実施形態を示す図である。
図6】それぞれ異なるカメラへ通じる2つの検出路を形成する検出光路にビームスプリッタまたは傾動ミラーを含むビームスプリッタコンフィグレーション部を備えた、本発明の光シート顕微鏡の実施形態を示す図である。
図7】同じセンサへ通じる2つの検出路を形成する検出光路にビームスプリッタまたは傾動ミラーを含むビームスプリッタコンフィグレーション部を備えた、本発明の光シート顕微鏡の実施形態を示す図である。
図8】光路でのマイクロレンズアレイの配置を示す概略的な説明図である。
図9】光路でのマイクロレンズアレイの配置を示す概略的な説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
図1のa,bに示されている従来の光シート顕微鏡の動作方式については、既に上述した。
【0052】
図2には、図1のa,bの顕微鏡と同様に、光シート10を形成する照明光学系20と、チューブレンズ40を含む検出光学系30と、2次元検出器もしくはセンサの形態のカメラ50と、を含む、本発明の光シート顕微鏡の動作方式が示されている。付加的に、光シート顕微鏡は、チューブレンズ40とカメラ50との間の光路にマイクロレンズアレイ60を含む。好ましくはカメラ50に組み込まれており、これによりライトフィールドカメラを形成しているマイクロレンズアレイ60は、光シート10が照明した複数の対象面(対象面1,対象面2)を、検出光学系30を経てカメラ50により同時にイメージングする手段として用いられる。ここで、対象面1,2は、従来の方式で対象面を定める検出光学系の焦点面の周囲に配置されている。
【0053】
図2では光路に配置された状態で示されているマイクロレンズアレイ60は、同じ焦点距離を有する複数のマイクロレンズを含み、これらのマイクロレンズは同じ大きさの半球状のマイクロレンズ体によって略示されている。これに代えて、図2ではマイクロレンズアレイに対してオフセットされた位置に示されているマイクロレンズアレイ60’は、チューブレンズ40とカメラ50との間の光路で使用される。このマイクロレンズアレイ60’は、それぞれ異なる焦点距離を有する複数のマイクロレンズを含み、これらのマイクロレンズは異なる大きさの半球状のマイクロレンズ体によって略示されている。マイクロレンズアレイ60,60’のマイクロレンズ中心は、長方形もしくは正方形の格子上に配置されるか、またはこれに代えて六角形の格子上に配置される。
【0054】
図2に示されている例では、顕微鏡の検出光学系30およびチューブレンズ40とマイクロレンズアレイ60,60’とは、FWHM被写界深度の照明ビームが約300μm(開口数およそ0.06に相当)であるとき、カメラによって3つの平面の像が2μm間隔で形成されるように構成および相互に調整される。これに代えて、検出光学系30およびマイクロレンズアレイ60,60’の相応の構成により、5つの平面の像を1μm間隔で形成してもよいし、または10個の平面の像を0.5μm間隔で形成してもよい。
【0055】
図3には、図2の光シート顕微鏡に対し、照明光学系20によって光シート10の形態で形成される照明ビームが典型的にはガウシアンプロファイルを有し、このために種々の対象面がそれぞれ著しく異なる強度で照明されることが示されている。照明差をできるだけ有効に補償するために、イメージングすべき平面全体が実質的に等しい光強度で照明されるよう、照明ビームのガウシアンプロファイルを均質化する手段が設けられる。
【0056】
ビームプロファイル均質化手段は、照明光路に配置された(図示されていない)ビーム整形光学素子であり、このビーム整形光学素子は、本来ガウシアンビームプロファイルを有する照明ビームに、シルクハット状プロファイルを付与するように構成されている。このシルクハット状プロファイルの幅は、イメージングすべき平面全体が少なくとも像野の中心において実質的に等しい光強度で照明されるように選定されている。
【0057】
これに代えて、ビームプロファイル均質化手段は、照明光路に配置され、イメージングすべき平面全体が実質的に等しい光強度で照明されるよう、照明ビームを軸線方向でカメラの露光時間中に照明方向に沿って連続的にまたは所定の刻み幅でシフトする光学素子、例えばTAGレンズまたはETL(電気的に調整可能なレンズ)を含むこともできる。このようにして得られる2つのビームプロファイルは、対象面の領域にそれぞれ3つずつビーム極大部を有するストライプパターンを有し、図3にsin格子状ビームプロファイル/Mathieuビームプロファイルおよびトップハットsin格子状ビームの形態で示されている。相応のストライプパターンは、検出面または対象面の実質的に等しい強さの照明を保証するものであり、例えば各検出面に沿った2ビーム干渉によって形成可能である。この場合、照明ビームの運動の振幅は、像野寸法に合うように、または照明ビームの消失軸線方向の構造に合うように適応化される。ビームが例えば照明軸に沿った強度の変調度を周期pで有する場合、ビームは、少なくとも1/kを中心とした空間限界周波数kの変調度でシフトされる。
【0058】
図4には、図2の光シート顕微鏡のカメラ50と検出光学系30およびマイクロレンズアレイ60,60’とによって種々の位置および種々の相互間隔で形成された、3つの対象面(対象面1,2および第3の対象面に相当する焦点面)の像が示されている。当該対象面の種々の位置および種々の相互間隔は、検出光学系およびマイクロレンズアレイを相応に構成および調整することにより、また再構成アルゴリズムを適応化することにより、達成される。
【0059】
図5には、試料を通して光シートを伝搬方向yに対して垂直にシフトもしくは変位させるように構成された本発明の光シート顕微鏡の実施形態が示されている。このような手法により、例えば、光シート顕微鏡による検査の際に特にその安定性のために移動させることのできない生体試料の走査が可能となる。
【0060】
光シート顕微鏡のこの実施形態では、対物レンズ30、チューブレンズ40およびマイクロレンズアレイ60を含む検出光学系の被写界深度の領域が、検出光学系の被写界深度よりも格段に薄い光シートによって照明される。種々の平面、例えば光シート位置100の焦点面と光シート位置110の対象面1と光シート位置120の対象面2とが連続して照明されるよう、検出軸zに沿って薄い光シートを段階的にまたは連続的に相互にオフセットされた位置100,110,120へ移動させる手段が設けられる。当該手段は、照明光学系20によって光シートを形成するビーム束140を偏向する光学素子を含み、このビーム束140は、偏向により、照明光学系20の検出軸zに沿った種々の位置を通過する。図5の実施形態では、偏向素子は走査ミラー130から形成されている。
【0061】
カメラ50は、検出軸zの方向で種々にシフトされた光シート位置100,110,120に対し、各平面の像を撮影する。理想的には、ナイキスト基準を遵守するため、各平面の間隔をビーム幅の約1/2とする。また、速度を同等に保ったままボリュームサイズを増大するためまたはボリュームサイズを同等に保ったまま速度を高めるために、より大きな刻み幅も可能である。
【0062】
後処理は、図5の実施形態の場合、個別像から試料の3Dボリュームを最初に再構成する際に行われない。もちろん、この場合にも、薄い光シートによって照明される領域内で、上述したように複数の対象面の像を形成することはできる。なお、これに関連して特に有利には、試料の照明領域を近似的に平面と見なすことができ、照明すべき平面に対して検出光学系を後からフォーカシングする必要なしに、検出光学系を通してシャープな像を形成可能である。ここでは、再構成を支援するために、光シートの位置に関する情報も使用可能である。
【0063】
検出軸に沿った光シートの移動は、センサの露光時間中に連続的に行うこともでき、これにより、光シートよりも厚い領域が、カメラ50の撮影像において有効に照明される。ここで、当該手法の利点は、検出されたボリュームの照明の均質性を増大できることにある。
【0064】
これに対して、光シートの有効厚さの増大を回避するには、カメラの露光時間を光シートのシフトの走査速度に適応化しなければならない。このために、光シートは、露光時間中、その厚さの一部のみ、好ましくは10%未満のみ、好ましくは5%未満のみがシフトされる。
【0065】
図6には、試料の種々の平面すなわち焦点面および対象面1および対象面2のイメージングに加えて、図2図5に示されている光シート顕微鏡の実施形態に相応に、前置接続された低分解能のマイクロレンズアレイ60を含むカメラ50によって、個別の平面、例えば焦点面またはいずれかの対象面の試料の高分解能のイメージングが可能となる、本発明の光シート顕微鏡の実施形態が示されている。
【0066】
このために、検出光路の光はビームスプリッタ240を含むビームスプリッタコンフィグレーション部を経てチューブレンズ40およびマイクロレンズアレイ60を含むカメラ50へ通じる検出分路と、これに対して垂直に走行し、マイクロレンズアレイが前置接続されていない、チューブレンズ210を経てカメラ200へ通じる検出分路と、に分割される。ビームスプリッタ240は、この場合、スペクトル的にニュートラルに応答するように構成可能であるか、またはダイクロイックのショートパスフィルタもしくはロングパスフィルタとしてもしくはバンドパスフィルタとして構成可能である。同様に、ビームスプリッタ240を、光をレンズ210からカメラ200へ偏向するかまたはレンズ40およびマイクロレンズアレイ60からカメラ50へ偏向する可動の傾動ミラーとして構成することもできる。
【0067】
マイクロレンズなしの光シートの検出分路の被写界深度領域には参照番号230が付されており、一方、マイクロレンズを有する光シートの検出分路の被写界深度領域には参照番号220が付されている。
【0068】
好ましくは、図6のビームスプリッタコンフィグレーション部を、図7に示されているように、2つの部分光路が共通のカメラ500の同一のセンサに結像されるように構成できる。2つの部分光路で形成された像は、好ましくは並列的に、基本的には例えばダイクロイックスプリッタについて公知であるようなセンサに結像される。ただしこの場合、少なくとも1つの部分光路にマイクロレンズアレイが存在する。マイクロレンズアレイは、スプリッタ内で、もとの位置に対して共役な平面にある部分光路に配置されなければならない。このことは、図6のビームスプリッタコンフィグレーション部から出発して、図7から見て取れるように、マイクロレンズアレイなしの第2の検出分路がマイクロレンズアレイを含む第1の検出分路に対して平行に延在するよう、第2の検出分路をビームスプリッタ240の後方で90°偏向することにより達成される。第2の検出分路では、ビームスプリッタ後方に第1のレンズ210が配置され、第2のレンズ280の後方にビームスプリッタ290が配置され、このビームスプリッタ290を通って、この検出分路は、集光レンズ300を経て共通のカメラ500に達する。第1の検出分路は、マイクロレンズアレイ60の後方にレンズ250とこの検出分路をビームスプリッタ290へ向かって90°偏向するミラー260とを含み、ビームスプリッタ290を経て、集光レンズ300を通過して共通のカメラ500へ達する。このカメラ500において、第1の検出分路は、第2の検出分路と並列的に、同じセンサに結像される。ビームスプリッタ240,290は、この場合、スペクトル的にニュートラルに応答するように構成可能であるか、またはダイクロイックのショートパスフィルタもしくはロングパスフィルタとしてもしくはバンドパスフィルタとして構成可能である。これに代えて、ビームスプリッタ240,290を、光をレンズ40,250およびマイクロレンズアレイ60を経てカメラ500へ偏向するかまたはレンズ210,280を経てカメラ500へ偏向する可動の傾動ミラーとして構成することもできる。この場合、像は、2つの部分光路を通ってつねにセンサの同じ領域へ偏向される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8a
図8b
図9