【文献】
Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2010) Vol.107, No.20, pp.9222-9227
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
工程(ii)及び/又は工程(v)の第二の哺乳類の種由来の宿主胚と共培養工程において、混合培地中での共培養後、培地を第一の哺乳類の種に適した培養培地に変更してさらに共培養を行う、ことを含む、請求項1に記載の方法。
第一の哺乳類の種に適した培養培地が、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3阻害剤、プロテインキナーゼC阻害剤、MEK阻害剤及びサイクリン依存性キナーゼ阻害剤からなる群から選択される、阻害剤を含むことを特徴とする、請求項1−9のいずれか1項に記載の方法。
第二の哺乳類の種に適した培養培地が、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3阻害剤、プロテインキナーゼC阻害剤、MEK阻害剤及びサイクリン依存性キナーゼ阻害剤からなる群から選択される、阻害剤を含まないことを特徴とする、請求項1−10のいずれか1項に記載の方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ヒト等の霊長類にiPS細胞/ES細胞より産生したヒト臓器/臓器原器を移植するためには、その霊長類の細胞をブタ、ヒツジ等の異種の環境で目的臓器形成に誘導するステップが有効である。そのためには、異種間で生着性があり、かつキメラ形成能を維持した高品質の幹細胞を臓器形成の出発材料とする必要がある。
【0014】
本発明は、幹細胞を再樹立する方法、再樹立された幹細胞、再樹立された幹細胞の利用に関する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
限定されるわけではないが、本発明は以下の態様を含む。
【0016】
[態様1]
キメラ形成能を有する幹細胞を多段階工程により再樹立する方法であって、
第一種の多能性(pluripotent)幹細胞または複能性(multipotent)幹細胞を、第一の幹細胞とは培養条件の異なる第二種の細胞の宿主胚と共培養する工程を含む再樹立工程を少なくとも2回行い、ここにおいて、第一種の幹細胞を第二種の細胞の宿主胚と共培養する工程において、培養培地は第一種の幹細胞に適した培養培地と第二種の細胞に適した培養培地の混合培地を用いることを含み、そして、
キメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する、ここにおいて、再樹立されたキメラ形成能を有する幹細胞は、第二種の細胞に適した培養培地、第一種の幹細胞に適した培養培地、あるいは、第一種の幹細胞に適した培養培地と第二種の細胞に適した培養培地の混合培地、のいずれの培養培地でも培養可能である、
ことを含む、前記方法。
【0017】
[態様2]
異種間でキメラ形成能を有する幹細胞を、多段階工程により再樹立する方法であって、
第一の哺乳類の種由来の多能性(pluripotent)幹細胞または複能性(multipotent)幹細胞を第二の哺乳類の種由来の宿主胚と共培養する工程を含む再樹立工程を少なくとも2回行い、ここにおいて、第一の哺乳類の種由来の幹細胞を第二の哺乳類の種由来の宿主胚と共培養する工程において、培養培地は第一の哺乳類の種に適した培養培地と第二の哺乳類の種に適した培養培地の混合培地を用いることを含み、そして、
異種間でキメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する、ここにおいて、再樹立された異種間でキメラ形成能を有する幹細胞は、第二の哺乳類の種に適した培養培地、第一の哺乳類の種に適した培養培地、あるいは、培養培地は第一の哺乳類の種に適した培養培地と第二の哺乳類の種に適した培養培地の混合培地、のいずれの培養培地でも培養可能である、
ことを含む、前記方法。
【0018】
[態様3]
以下の工程:
(i−a)第一の哺乳類の種由来の多能性(pluripotent)幹細胞または複能性(multipotent)幹細胞を、第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞と共培養して細胞群を得る、ここにおいて、培養培地は第一の哺乳類の種に適した培養培地である;若しくは
(i−b)第一の哺乳類の種由来の多能性(pluripotent)幹細胞または複能性(multipotent)幹細胞を、第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞と合わせて細胞群を得る;
(ii)工程(i)で得られた細胞群を、第二の哺乳類の種由来の宿主胚と共培養する、ここにおいて、培養培地として第一の哺乳類の種に適した培養培地と第二の哺乳類の種に適した培養培地の混合培地を用いることを含む;
(iii)工程(ii)で共培養した宿主胚から内部細胞塊を分離する;
(iv)工程(iii)得られた内部細胞塊を培養する、ここにおいて、培養培地は第一の哺乳類の種に適した培養培地と第二の哺乳類の種に適した培養培地の混合培地である;
(v)工程(iv)の細胞群を第二の哺乳類の種由来の宿主胚と共培養する、ここにおいて、培養培地として第一の哺乳類の種に適した培養培地と第二の哺乳類の種に適した培養培地の混合培地を用いることを含む;
(vi)工程(v)で共培養した宿主胚から内部細胞塊を分離する;
(vii)工程(vii)で得られた内部細胞塊を培養し、異種間でキメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する、ここにおいて、培養培地は、第二の哺乳類の種に適した培養培地、第一の哺乳類の種に適した培養培地、あるいは、培養培地は第一の哺乳類の種に適した培養培地と第二の哺乳類の種に適した培養培地の混合培地のいずれであってもよい;
を含み、ここで当該第一の哺乳類の種と当該第二の哺乳類の種は異なる種である、
態様2に記載の方法。
【0019】
[態様4]
工程(ii)及び/又は工程(v)の第二の哺乳類の種由来の宿主胚と共培養工程において、混合培地中での共培養後、培地を第一の哺乳類の種に適した培養培地に変更してさらに共培養を行う、ことを含む、態様3に記載の方法。
【0020】
[態様5]
さらに、工程(vii)で再樹立した幹細胞について、工程(v)〜(vii)を繰り返すことを含む、態様3又は4に記載の方法。
【0021】
[態様6]
第一の哺乳類の種が、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、サル及びヒトからなる群より選択される、態様2−5のいずれか1項に記載の方法。
【0022】
[態様7]
第一の哺乳類の種が、霊長目に属する種である、態様2−5のいずれか1項に記載の方法。
【0023】
[態様8]
第二の哺乳類の種が、マウス、ラット、ウサギ及びブタからなる群より選択される、態様2−7のいずれか1項に記載の方法。
【0024】
[態様9]
第一の哺乳類の種がサルであり、第二の哺乳類の種がマウスである、態様2−8のいずれか1項に記載の方法。
【0025】
[態様10]
多能性幹細胞が、以下:ES細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、クローン胚由来ES細胞(ntES細胞)、及び生殖細胞(EG細胞)からなる群より選択され、そして、複能性幹細胞が以下:栄養芽幹細胞(TS細胞)、エピブラスト幹細胞(EpiS細胞)、多能性生殖細胞(mGS細胞)、造血幹細胞、神経幹細胞および間葉系幹細胞、からなる群より選択される、態様2−9のいずれか1項に記載の方法。
【0026】
[態様11]
第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞が、ES細胞またはiPS細胞である、態様2−10のいずれか1項に記載の方法。
【0027】
[態様12]
高品質な多能性幹細胞が、ナイーブ型の多能性幹細胞である、態様3−11のいずれか1項に記載の方法。
【0028】
[態様13]
宿主胚が、受精卵由来胚又は人工操作胚からなる群より選択される、態様1−12のいずれか1項に記載の方法。
【0029】
[態様14]
工程(ii)、工程(v)が、各々工程(i)、工程(iv)の細胞群を第二の哺乳類の種由来の受精卵由来胚または4倍体胚にマイクロインジェクションまたはアグリゲーションして共培養することにより行う、態様2−13のいずれか1項に記載の方法。
【0030】
[態様15]
第一の哺乳類の種に適した培養培地が、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3阻害剤、プロテインキナーゼC阻害剤、MEK阻害剤及びサイクリン依存性キナーゼ阻害剤からなる群から選択される、阻害剤を含むことを特徴とする、態様2−14のいずれか1項に記載の方法。
【0031】
[態様16]
第二の哺乳類の種に適した培養培地が、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3阻害剤、プロテインキナーゼC阻害剤、MEK阻害剤及びサイクリン依存性キナーゼ阻害剤からなる群から選択される、阻害剤を含まないことを特徴とする、態様2−15のいずれか1項に記載の方法。
【0032】
[態様17]
第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞はヒトES細胞ではなく、そして第二の哺乳類の種はヒトではない、態様2ないし16のいずれか1項に記載の方法。
【0033】
[態様18]
多能性幹細胞もしくは複能性幹細胞から再樹立した、霊長目の動物の幹細胞であって、以下:
・均一化されている;
・キメラ形成可能である;
・細胞集合体を形成可能である;および
・内部細胞塊のニッチ環境に親和性が高い;
からなる群より選択される特徴の1以上を有する、前記細胞。
【0034】
[態様19]
態様1ないし17に記載の方法により再樹立した、態様18に記載の細胞。
【0035】
[態様20]
以下:
・第二種の哺乳類の種に適した培地で培養可能である;および
・第二の哺乳類の種由来の宿主胚に同調しやすい
からなる群より選択される特徴の1以上を有する、態様19に記載の細胞。
【0036】
[態様21]
細胞を用いた薬効評価または病態解析を行う方法であって、以下:
(i)細胞を得る工程:ここで当該細胞は、(A)態様1ないし17のいずれか1項に記載の方法により再樹立したキメラ形成能を有する幹細胞であるか、(B)態様1ないし17のいずれか1項に記載の方法により再樹立したキメラ形成能を有する幹細胞を分化させることにより得た体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞であり、ここで当該体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞は、以下の(a)〜(c)のいずれかの方法により得られるものである:
(a)態様1ないし17のいずれか1項に記載の方法により再樹立したキメラ形成能を有する幹細胞からキメラ胚またはキメラ胎児/胎仔を作製し、そして当該キメラ胚またはキメラ胎児/胎仔由来の体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞を得る;
(b)(a)で得られたキメラ胚またはキメラ胎児/胎仔由来の体性幹細胞をインビトロで分化させて臓器前駆細胞または体性細胞を得る;
(c)態様1ないし17のいずれか1項に記載の方法により再樹立したキメラ形成能を有する幹細胞をインビトロで分化させることにより、体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞を得る;
(ii)工程(i)で得た細胞を用いて薬効評価または病態解析を行う工程;
を含む、前記方法。
【発明の効果】
【0037】
本発明の多段階再樹立法により、キメラ形成能を有する高品質な幹細胞を効率良く取得することが可能になった。本発明は特に、異種間でキメラ形成可能な高品質な幹細胞を効率良く取得することを可能にするものである。本発明の方法は、培養条件が異なる同種間の異なる幹細胞においても、広く適用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
なお、本出願人、本発明者の先願であるPCT/JP2015/078699(2015年10月2日出願)に記載の内容は、適宜本明細書に援用される。
【0041】
<定義>
本明細書で特段に定義されない限り、本発明に関連して用いられる科学用語および技術用語は、当業者によって一般に理解される意味を有するものとする。
【0042】
本明細書において、「幹細胞」とは、自己複製能と分化能を有する細胞である。ここで、自己複製能とは自分と同じ能力を持った細胞を複製する能力をいい、分化能とは異なる機能を持つ複数の細胞に分化する能力をいう。
【0043】
本明細書において、「多能性(pluripotent)幹細胞」とは、幹細胞であって、個体を形成するすべての細胞種へ分化可能な能力を有する細胞である。多能性幹細胞には、胚性幹細胞(ES細胞)および人工多能性幹細胞(iPS細胞)、クローン胚由来ES細胞(ntES細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)等が含まれる。
【0044】
本明細書において「複能性(multipotent)幹細胞」とは、幹細胞であって、複数の細胞種へ分化し得る能力を有する細胞である。複能性幹細胞には、栄養芽幹細胞(TS細胞)、エピブラスト幹細胞(EpiS細胞)、多能性生殖細胞(mGS細胞)、造血幹細胞、神経幹細胞、および、間葉系幹細胞、などが含まれる。
【0045】
本明細書において「多能性幹細胞等」と記載する場合、当該表現は多能性幹細胞および複能性幹細胞を含むものと理解される。
【0046】
キメラ胚/キメラ動物の作製は、多能性幹細胞等をホスト(別の個体)の受精卵由来胚又は発生工学的に作製した人工操作胚(4倍体胚など)等に移植し、発生させることにより行われる。キメラ胚は、移植された多能性幹細胞等が、生じるホストの胚体の全部または一部より作製される。キメラ動物は、移植された多能性幹細胞等が、生まれてくる個体の一部となることにより作製される。
【0047】
本明細書において、幹細胞が「キメラ形成能を有する」または「キメラ形成可能である」とは、幹細胞がホストの受精卵由来胚および発生工学的に作製した人工操作胚等に移植された場合に、生じるホストの胚体の全部もしくは一部、または生まれてくる個体中の様々な臓器の一部となる能力を、当該幹細胞が有することを意味する。あるいは、本明細書において幹細胞が「キメラ形成能を有する」または「キメラ形成可能である」という用語は、幹細胞がホストの受精卵由来胚又は人工操作胚等に移植された場合に、移植された多能性幹細胞等が内部細胞塊(ICM)の一部を構成する能力、すなわちICMに寄与する能力を、当該幹細胞が有することを意味する用語としても用いられる。しかし幹細胞、胚の発生時期、移植場所および寄与する場所を限定するものではない。また、上記説明からも理解される通り、「キメラ形成能」とは、キメラの「個体」を形成する能力のみを限定的に意味するものではない。
ここで、当該移植される幹細胞が由来する種とホストの種が異種である場合、特に「異種間でキメラ形成可能である」という。
【0048】
本明細書において「異種」または「異なる種である」とは、動物種が異なることをいう。特に言及しなければ、「異種」または「異なる種である」とは、属レベル以上で動物種が異なることをいう。
【0049】
本明細書において「同種」とは、同じ動物種に属することを意味する。特に言及しなければ、「同種」の範囲には、種のレベルで同じ動物種に属するもののみならず、属のレベルで同じ動物種に属する「同属異種」も含まれる。
【0050】
本明細書において、多能性幹細胞等が「高品質」であるとは、当該多能性幹細胞等が「ナイーブ型」であることを意味する。多能性幹細胞等が「ナイーブ型」であるとは、多能性幹細胞等が、ドーム型のコロニーを形成する、キメラ形成能を有する、および、精子・卵子などの生殖細胞系列に分化可能である、からなる群より選択される1以上、好ましくは2以上、さらに好ましくは3つすべての性質を有することを意味する。
【0051】
本明細書において「宿主胚」とは、キメラ胚/キメラ動物を作製する際に、多能性幹細胞を移植する、ホストとなる動物の胚を意味する。
【0052】
<幹細胞を多段階工程により再樹立する方法>
本発明は、キメラ形成能を有する幹細胞を多段階工程により再樹立する方法を提供する。
【0053】
第一種の多能性(pluripotent)幹細胞または複能性(multipotent)幹細胞を、第一の幹細胞とは培養条件の異なる第二種の細胞の宿主胚と共培養する工程を含む再樹立工程を少なくとも2回行い、ここにおいて、第一種の幹細胞を第二種の細胞の宿主胚と共培養する工程において、培養培地は第一種の幹細胞に適した培養培地と第二種の細胞に適した培養培地の混合培地を用いることを含み、そして、
キメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する、ここにおいて、再樹立されたキメラ形成能を有する幹細胞は、第二種の細胞に適した培養培地、第一種の幹細胞に適した培養培地、あるいは、第一種の幹細胞に適した培養培地と第二種の細胞に適した培養培地の混合培地、のいずれの培養培地でも培養可能である、
ことを含む。
【0054】
本発明の方法では、第二種の宿主胚との共培養を含む再樹立工程を少なくとも2回行うが、再樹立工程に用いる培地を、第一種の幹細胞に適した培養培地から第二の細胞に適した培養培地へと多段階的に培地組成を変更していくことを特徴とする。第一種の幹細胞を第二種の細胞の宿主胚と共培養する工程の少なくとも一時期において、培養培地は、第一種の幹細胞に適した培養培地と第二種の細胞に適した培養培地の混合培地を用いる。用いる混合培地は、再樹立の段階に応じて適宜至適化される。得られた再樹立細胞は、キメラ形成能を有し、そして、第二種の細胞に適した培養培地、第一種の幹細胞に適した培養培地、あるいは、第一種の幹細胞に適した培養培地と第二種の細胞に適した培養培地の混合培地、のいずれの培養培地でも培養可能である、という特徴を有する。好ましくは、第二種の細胞に適した培養培地が用いられる。
【0055】
本発明において、第一種の細胞と第二種の細胞とは、細胞の培養条件が実質的に相違する。例えば、第一種の細胞と第二種の細胞の由来する種が異なる「異種」である場合が含まれる。
【0056】
同種であっても、例えば、「多能性(pluripotent)幹細胞」の胚性幹細胞(ES細胞)および人工多能性幹細胞(iPS細胞)、クローン胚由来ES細胞(ntES細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)等、「複能性(multipotent)幹細胞」の栄養芽幹細胞(TS細胞)、エピブラスト幹細胞(EpiS細胞)、多能性生殖細胞(mGS細胞)、造血幹細胞、神経幹細胞、および、間葉系幹細胞等は、各細胞の種類に応じて培養条件が異なる。例えば、特に、ES細胞とiPS細胞、EG細胞、TS細胞、EpiS細胞、mGS細胞は、培養条件が異なる。このような場合も本発明を提供可能である。
【0057】
以下、本明細書において、第一種の細胞と第二種の細胞の由来する動物の種が異なる「異種」である場合を、第一種の細胞と第二種の細胞の例として説明する。
【0058】
本発明は、異種間でキメラ形成能を有する幹細胞を多段階工程により再樹立する方法を提供する。
【0059】
本発明の方法は、
第一の哺乳類の種由来の多能性(pluripotent)幹細胞または複能性(multipotent)幹細胞を第二の哺乳類の種由来の宿主胚と共培養する工程を含む再樹立工程を少なくとも2回行い、ここにおいて、第一の哺乳類の種由来の幹細胞を第二の哺乳類の種由来の宿主胚と共培養する工程において、培養培地は第一の哺乳類の種に適した培養培地と第二の哺乳類の種に適した培養培地の混合培地を用いることを含み、そして、 異種間でキメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する、ここにおいて、再樹立された異種間でキメラ形成能を有する幹細胞は、第二の哺乳類の種に適した培養培地、第一の哺乳類の種に適した培養培地、あるいは、培養培地は第一の哺乳類の種に適した培養培地と第二の哺乳類の種に適した培養培地の混合培地、のいずれの培養培地でも培養可能である、
ことを含む。
【0060】
本発明の方法では、第二種の宿主胚との共培養を含む再樹立工程を少なくとも2回行うが、再樹立工程に用いる培地を、第一の哺乳類の種に適した培養培地から第二の哺乳類の種に適した培養培地へと多段階的に培地組成を変更していくことを特徴とする。第一の哺乳類の種由来の幹細胞を第二の哺乳類の種由来の宿主胚と共培養する工程の少なくとも一時期において、培養培地は第一の哺乳類の種に適した培養培地と第二の哺乳類の種に適した培養培地の混合培地を用いる。用いる混合培地は、再樹立の段階に応じて適宜至適化される。得られた再樹立細胞は、異種間でキメラ形成能を有し、そして、第二の哺乳類の種に適した培養培地、第一の哺乳類の種に適した培養培地、あるいは、培養培地は第一の哺乳類の種に適した培養培地と第二の哺乳類の種に適した培養培地の混合培地のいずれの培養培地でも培養可能である、という特徴を有する。好ましくは、第二の哺乳類の種に適した培養培地が用いられる。
【0061】
本発明の方法の工程
非限定的に、本発明の方法は、一態様において以下の工程を含む。
(i−a)第一の哺乳類の種由来の多能性(pluripotent)幹細胞または複能性(multipotent)幹細胞を、第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞と共培養して細胞群を得る、ここにおいて、培養培地は第一の哺乳類の種に適した培養培地である;若しくは
(i−b)第一の哺乳類の種由来の多能性(pluripotent)幹細胞または複能性(multipotent)幹細胞を、第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞と合わせて細胞群を得る;
(ii)工程(i)で得られた細胞群を、第二の哺乳類の種由来の宿主胚と共培養する、ここにおいて、培養培地として第一の哺乳類の種に適した培養培地と第二の哺乳類の種に適した培養培地の混合培地を用いることを含む;
(iii)工程(ii)で共培養した宿主胚から内部細胞塊を分離する;
(iv)工程(iii)得られた内部細胞塊を培養する、ここにおいて、培養培地は第一の哺乳類の種に適した培養培地と第二の哺乳類の種に適した培養培地の混合培地である;
(v)工程(iv)の細胞群を第二の哺乳類の種由来の宿主胚と共培養する、ここにおいて、培養培地として第一の哺乳類の種に適した培養培地と第二の哺乳類の種に適した培養培地の混合培地を用いることを含む;
(vi)工程(v)で共培養した宿主胚から内部細胞塊を分離する;
(vii)工程(vii)で得られた内部細胞塊を培養し、異種間でキメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する、ここにおいて、培養培地は、第二の哺乳類の種に適した培養培地、第一の哺乳類の種に適した培養培地、あるいは、培養培地は第一の哺乳類の種に適した培養培地と第二の哺乳類の種に適した培養培地の混合培地のいずれであってもよい;
を含み、ここで当該第一の哺乳類の種と当該第二の哺乳類の種は異なる種である。
【0062】
工程(i)において、第一の哺乳類の種由来の多能性(pluripotent)幹細胞または複能性(multipotent)幹細胞と第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞とを含む、細胞群を得る。
(i−a)第一の哺乳類の種由来の多能性(pluripotent)幹細胞または複能性(multipotent)幹細胞を、第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞と共培養して細胞群を得る、ここにおいて、培養培地は第一の哺乳類の種に適した培養培地である;若しくは
(i−b)第一の哺乳類の種由来の多能性(pluripotent)幹細胞または複能性(multipotent)幹細胞を、第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞と合わせて細胞群を得る。
【0063】
好ましくは、第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞を、第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞と共培養する(工程(i−a))。工程(i−b)は、第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞を、第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞と合わせて、特に共培養をすることなく、そのまま工程(ii)の宿主胚との共培養に供する態様である。
【0064】
本発明の方法において、哺乳動物の種類は特に限定されない。好ましくは、第一の哺乳類の種は、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、サル及びヒトからなる群より選択される。好ましくは、サル又はヒトである。あるいは、好ましくは、第一の哺乳類の種は、霊長目に属する種である。
【0065】
「霊長目」は、哺乳綱に含まれる目でサル目とも呼ばれ、キツネザル下目、ロリス下目を含む曲鼻猿亜目(原猿類)と、それ以外の直鼻猿亜目(真猿類)に分かれる。直鼻猿亜目(真猿類)は、ヒト科、オラウータン科、テナガザル科、オナガザル科、マーモセット科、オマキザル科、メガネザル科等を含む、霊長目(サル目)には、約220種が含まれる。生物学的にはヒトは霊長目(サル目)の1種であるが、一般的にサル目からヒトを除いた総称を「サル」と呼称する。本明細書においても同様である。
【0066】
本発明においては、再樹立工程に用いる培地を、第一の哺乳類の種に適した培養培地から第二の哺乳類の種に適した培養培地へと多段階的に培地組成を変更していくことを特徴とする。よって、第二の哺乳類の種は、その培養培地が第一の哺乳類の種に適した培養培地とは実質的に異なるものであることが望ましい。非限定的には、第二の哺乳類の種は、好ましくは、マウス、ラット、ウサギ及びブタからなる群より選択される。
【0067】
より好ましくは、第一の哺乳類の種がサルであり、第二の哺乳類の種がマウスである。
【0068】
好ましくは、第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞はヒトES細胞ではなく、そして第二の哺乳類の種はヒトではない。
【0069】
「多能性幹細胞」は、ES細胞および人工多能性幹細胞(iPS細胞)、クローン胚由来ES細胞(ntES細胞)、及び生殖細胞(EG細胞)からなる群より選択される。そして「複能性幹細胞」は、栄養芽幹細胞(TS細胞)、エピブラスト幹細胞(EpiS細胞)、多能性生殖細胞(mGS細胞)、および、造血幹細胞、神経幹細胞、および、間葉系幹細胞、からなる群より選択される。好ましい態様において、第一の哺乳類の種由来の「多能性幹細胞または複能性幹細胞」は、ES細胞またはiPS細胞である。
【0070】
第二の哺乳類の種由来の「高品質な多能性幹細胞」は、ES細胞、iPS細胞、あるいはこれらの細胞の内部細胞塊を含む。「高品質な多能性幹細胞」は、好ましくはES細胞である。高品質な多能性幹細胞は、好ましくは、ナイーブ型の多能性幹細胞である。
【0071】
工程(i)において、細胞群を得た後に、工程(ii)の宿主胚との共培養の前に、得られた細胞群から、細胞集合体を形成し、かつ、第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞に由来する幹細胞を含む細胞群を選別する、ことを行っても良い。この工程はすなわち、第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞とともにコロニー形成(特にナイーブコロニー形成)する第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞に由来する幹細胞を含む細胞群を選別する工程である。このように、幹細胞が、ES細胞とともにコロニー形成する場合、当該幹細胞について「コロニー形成に寄与する幹細胞」と表現することがある。第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞とともにコロニー形成(特にナイーブコロニー形成)する第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞等に由来する幹細胞を含む細胞群の選別は、第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞等を選別前に適切な選抜マーカーで標識しておき、当該選抜マーカーを含むコロニーを選別することにより行うことができる。あるいは、第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞を適切な選抜マーカーで標識しておき、当該選抜マーカーを含まないコロニーを第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞等を含む細胞群として識別することもできる。適切な選抜マーカーの例として、クサビラオレンジ(huKO)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、Clover、DsRed、mCherry、ルシフェラーゼ、LacZ、ネオマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシンB耐性遺伝子、ブラストサイジン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、DT−A遺伝子、HSV−TK遺伝子、等が挙げられる。識別は、蛍光、発光、染色等による識別、または、薬剤耐性遺伝子等による薬剤選択により行うことができる。
【0072】
次いで、上記の方法の工程(ii)では、工程(i)の細胞群を第二の哺乳類の種由来の宿主胚と共培養する。工程(ii)の細胞群と第二の哺乳類の種由来の宿主胚との共培養により、キメラ胚が作製される。そして、工程(ii)の共培養では、内部細胞塊(ICM)が得られる初期胚盤胞の段階までキメラ胚を培養する。本発明において、第一の哺乳類の種由来の幹細胞を第二の哺乳類の種由来の宿主胚と共培養する工程の全部又は一部において、培養培地は第一の哺乳類の種に適した培養培地と第二の哺乳類の種に適した培養培地の混合培地を用いることを含む。
【0073】
好ましい態様において、当該工程の共培養は、工程(i)の細胞群を第二の哺乳類の種由来の宿主胚にマイクロインジェクションまたはアグリゲーションして共培養することにより行う。マイクロインジェクションは、宿主胚に細胞(幹細胞など)を移植することによりキメラ胚を作製する方法である。アグリゲーションは、宿主胚として桑実胚期までの初期胚を用い、これに幹細胞等を接触・集合させてキメラ胚を作製する方法である。より好ましくは、工程(ii)の共培養は、工程(ii)の細胞群を第二の哺乳類の種由来の宿主胚にマイクロインジェクションして共培養することにより行う。
【0074】
宿主胚は、特に限定されるものではない。受精卵由来胚、4倍体胚(テトラプロイド胚)などの人工操作胚等が含まれる。好ましい態様において、宿主胚は、受精卵由来胚または4倍体胚の初期胚である。
【0075】
初期胚は、2細胞期胚から胚盤胞期胚までの胚を意味する。
【0076】
4倍体胚は、野生型の2細胞期の割球を電気的に融合させて作製した胚である。4倍体胚を用いて多能性幹細胞と共培養することによりキメラ胚を作製すると、4倍体細胞は胚体自体には寄与できないが、胎盤などの胚体外組織には寄与できるという性質があるため、得られる胚体または個体は前記の多能性幹細胞にほぼ100%由来するものとなる。
【0077】
好ましくは、上記の方法の工程(ii)は、工程(i)の細胞群を第二の哺乳類の種由来の受精卵由来胚または4倍体胚にマイクロインジェクションまたはアグリゲーションして共培養することにより行われる。さらに好ましくは、上記の方法の工程(ii)は、工程(i)の細胞群を第二の哺乳類の種由来の受精卵由来胚または4倍体胚にマイクロインジェクションして共培養することにより行われる。
【0078】
次いで、工程(iii)では、工程(ii)で共培養した宿主胚から内部細胞塊を分離する。内部細胞塊の分離は、当業者に公知の手法を用いて行うことができる。好ましくは、内部細胞塊の分離は、顕微鏡手術法または免疫手術法にて行う。胚の状態を観察しながら内部細胞塊を取り出すには顕微鏡手術法が優れている。一方、免疫手術(Solter,D.and Knowless,B.B.,Proc.Nat.Acad.Sci.USA,72(12):5099−5102(1975))は、顕微鏡手術法よりも機械的損傷が少なく、胚盤胞の内部細胞塊を単離するのに優れている。どちらを用いてもよい。
【0079】
工程(iv)−(vi)において、工程(i)(具体的には工程(i−a))−工程(iii)の再樹立工程を繰り返し、2回目の再樹立工程を行う。
【0080】
本発明の方法では、第二種の宿主胚との共培養を含む再樹立工程を少なくとも2回行うが、再樹立工程に用いる培地を、第一の哺乳類の種に適した培養培地から第二の哺乳類の種に適した培養培地へと多段階的に培地組成を変更していくことを特徴とする。用いる混合培地は、再樹立の段階に応じて適宜至適化される。
【0081】
最終的に、工程(vii)において、工程(vii)で得られた内部細胞塊を培養し、異種間でキメラ形成能を有する幹細胞が再樹立される。ここにおいて、培養培地は、第二の哺乳類の種に適した培養培地、第一の哺乳類の種に適した培養培地、あるいは、培養培地は第一の哺乳類の種に適した培養培地と第二の哺乳類の種に適した培養培地の混合培地のいずれであってもよい。好ましくは、第二の哺乳類の種に適した培養培地である。
【0082】
さらに、工程(vii)で再樹立した幹細胞について、工程(v)〜(vii)を繰り返してもよい。
【0083】
工程(iii)、工程(vi)で宿主胚から分離された内部細胞塊について、工程(iv)、工程(vii)の培養を行うに際し、工程(vi)で得た内部細胞塊から第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞に由来する幹細胞をクローニングすることを行っても良い。
【0084】
内部細胞塊からの多能性幹細胞等のクローニングは当業者に公知の手法を用いて行うことができる。クローニングした細胞が、第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞に由来する幹細胞であることは、例えば、工程(ii)の前に適切な選抜マーカーで標識しておくことで識別可能である。あるいは、工程(ii)を行う前に宿主胚を適切な選抜マーカーで標識しておき、当該選抜マーカーを含まない細胞を第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞として識別し、クローニングすることもできる。適切な選抜マーカーの例として、クサビラオレンジ(huKO)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、Clover、DsRed、mCherry、ルシフェラーゼ、LacZ、ネオマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシンB耐性遺伝子、ブラストサイジン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、DT−A遺伝子、HSV−TK遺伝子、等が挙げられる。識別は、蛍光、発光、染色等による識別、または、薬剤耐性遺伝子等による薬剤選択により行うことができる。
【0085】
例えば、クサビラオレンジ(huKO)で標識された多能性幹細胞等をクローニングする場合は、以下のようにして行うことができる。胚盤胞を顕微鏡下で胚盤胞ごと除去するか、顕微鏡手術でその部分を取り除く。あるいは顕微鏡手術または免疫手術で内部細胞塊だけを取り出し、4穴プレートのフィーダー細胞上にそれぞれ別々に移して培養する。播種後増殖してきた内部細胞塊から良好な形態をし、蛍光顕微鏡にて赤色蛍光を有することを確認したモザイク状態のものだけを、増殖能と形態を指標に目視で選別しピックアップする。また、栄養膜様細胞、上皮様細胞、内胚葉様細胞等の形態を示すコロニーおよび細胞は取り除く。トリプシン処理して細胞塊を分散し、いくつかの新たな細胞塊に分解後、新しく準備したフィーダー細胞上にそれぞれ別々に移して培養する。播種後、さらに新しく形成されたコロニーから、蛍光顕微鏡にて赤色蛍光を有することを確認して状態の良いコロニー選抜をする。次に分散させるときはさらに少数の細胞数の細胞塊にまで分散させ、何度か工程を繰り返し多能性細胞だけのコロニーとする。
【0086】
工程(iv)の2段階目の再樹立を行う際は、工程(i)と同様に、第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞を加えても良いが、加えなくても良い。工程(i)−(iii)の1段階目の再樹立を経て、マウスICMから一緒にマウスES細胞が樹立され、既に共培養の状態になっているからである。
【0087】
培養培地
本発明の方法では、第二種の宿主胚との共培養を含む再樹立工程を少なくとも2回行うが、再樹立工程に用いる培地を、第一の哺乳類の種に適した培養培地から第二の哺乳類の種に適した培養培地へと多段階的に培地組成を変更していくことを特徴とする。第一の哺乳類の種由来の幹細胞を第二の哺乳類の種由来の宿主胚と共培養する工程の少なくとも一時期において、培養培地は第一の哺乳類の種に適した培養培地と第二の哺乳類の種に適した培養培地の混合培地を用いる。用いる混合培地は、再樹立の段階に応じて適宜至適化される。
【0088】
再樹立の開始段階、即ち工程(i)の段階ではドナー種である第一の哺乳類の種由来のナイーブ型の多能性幹細胞または複能性幹細胞の培養に適した条件、特に、第一の哺乳類の種に適した培養培地を用いる。
【0089】
当業者は、ドナー種である第一の哺乳類の種に応じて適宜適した培地を適用可能である。例えば、第一の哺乳類の種がヒトの場合、非限定的にリプロセル社(REPROCELL社)よる販売されている霊長類ES/iPS細胞用培地、RCHEMD001、RCHEMD001A、RCHEMD001B等を使用することが可能である(https://www.reprocell.com/products/research/hes−ipsc/medium)。ヒト用培養培地は例えば、bFGFを含む。
【0090】
例えば、第一の哺乳類の種がサルの場合、非限定的に、例えば、前記リプロセル社(REPROCELL社)よる販売されている霊長類ES/iPS細胞用培地に、STEMCELL Technologies社のTeSR2(ST−05860,ST−05880)(http://www.veritastk.co.jp/news.php?id=446)を加えたものを用いることができる。TeSR2(ST−05860,ST−05880)は、フィーダー細胞フリー、非ヒト由来成分フリー、毒劇物フリーという特徴を有する、ヒトを含む霊長類用のES/iPS細胞用培地である。
【0091】
サル用培地とヒト用培地は特に区別されず、いずれかに使用可能な培地は他方にも使用可能である。サル用培地とヒト用培地は、bFGFやTGFβを添加する場合、またBMPi,ROCKi,BRAFi,SRCi,アクチビン等を適宜添加する場合がある。例えば、以下の組成の培地を第一の哺乳類の種がサル又はヒトの場合に使用可能である。
DMEM/F12 (Invitrogen社)
Neurobasal (Invitrogen社)
N2 supplement (Invitrogen社)
B27 supplement (Invitrogen社)
GlutaMAX (Invitrogen社)
非必須アミノ酸(NEAA)溶液 (Invitrogen社)
2−メルカプトエタノール(2−ME) (Invitrogen社)
ペニシリン/ストレプトマイシン (Invitrogen社)
ウシ血清アルブミン(BSA) (Sigma社)
PD0325901 (Stemgent社) MEK1/2阻害剤
CHIR99021 (Stemgent社) GSK3阻害剤
フォルスコリン (Sigma社) AC(アデニル酸シクラーゼ)活性化剤
ヒトLIF(hLIF) (Millipore社)
ケンパウロン(Kenpaullone) (Sigma社)
サイクリン依存性キナーゼ(CDK)阻害剤
Go6983 (Sigma社) PKC阻害剤
【0092】
その他、例えばヒト又はサルのiPS細胞の培養培地としては、例えば以下の表1のものを用いることが可能である。
【0094】
当業者は、ドナー種である第二の哺乳類の種に応じて適宜適した培地を適用可能である。例えば、第二種の哺乳類がマウスES細胞、ナイーブ型ブタiPS細胞の場合、以下の組成の培養液を用いることができる。
【0095】
マウスES細胞の培養組成の例:
80%(v/v) D−MEM、20%(v/v) FCS、1 mMピルビン酸溶液、0.1mM 2−メルカプトエタノール、1xMEM非必須アミノ酸溶液、10
3U/mL mLIF(Wako)または1xrhLIF(Wako)を含む培養液
ナイーブ型ブタiPS細胞の培地組成の例:
82%(v/v) D−MEM、15%(v/v) FCS、0.1mM 2−メルカプトエタノール、1xMEM非必須アミノ酸溶液、1x GlutaMAX
TM−I(GIBCO)、1xrhLIF(Wako)、10μM Forskolinを含む培養液
【0096】
最終的に臓器/臓器原器形成を目的とするドナー種である第一の哺乳類の種(例えば、ヒト、サル等の霊長目)に適した培養培地は、宿主胚を提供する第二の哺乳類の種(ブタ、マウス等)に適した培養培地と比較して、成分が多く組成が複雑である。第一の哺乳類の種に適した培養培地の組成の例と第二の哺乳類の種に適した培養培地の例の組成の例を比較した。
【0098】
表1、表2に示された通り、一態様において、第一の哺乳類の種に適した培養培地は、好ましくは、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3阻害剤、プロテインキナーゼC阻害剤、MEK阻害剤及びサイクリン依存性ナーゼ阻害剤からなる群から選択される、阻害剤を含む。一方、一態様において、第二の哺乳類の種に適した培養培地は、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3阻害剤、プロテインキナーゼC阻害剤、MEK阻害剤及びサイクリン依存性キナーゼ阻害剤からなる群から選択される、阻害剤を含まない。
【0099】
再樹立工程に用いる培地を、第一の哺乳類の種に適した培養培地から第二の哺乳類の種に適した培養培地へと多段階的に培地組成を変更していく。第一の哺乳類の種由来の幹細胞を第二の哺乳類の種由来の宿主胚と共培養する工程の少なくとも一時期において、培養培地は第一の哺乳類の種に適した培養培地と第二の哺乳類の種に適した培養培地の混合培地を用いる。宿主胚と共培養には、一義的には、宿主胚が由来する第二の哺乳類の種の培養に適した培養培地を用いた培養が必要と考えられる。しかしながら、第二の哺乳類の種の培養に適した培養培地のみでは、第一の哺乳類の種由来の幹細胞が効率良く共培養されにくい。そこで、本発明においては、第二の哺乳類の種に適した培養培地に第一の哺乳類の種に適した培養培地を適宜加えた混合培地を使用(胚培養液の至適化)することを特徴とする。混合培地の使用により、第二の哺乳類の種由来の宿主胚における共培養において、第一の哺乳類由来の幹細胞を含む細胞塊が効率良く形成され、異種間でキメラ形成能を有する幹細胞の再樹立が可能となる。
【0100】
1回目の再樹立において初めて第二の哺乳類の種由来の宿主胚における共培養を行う工程(工程(ii))において、第一の哺乳類の種に適した培養培地を第二の哺乳類の種に適した培養培地に対し、非限定的に、好ましくは約10/1−1/10の範囲で、より好ましくは約2/1−1/2の範囲で加える。
【0101】
2回目の再樹立において第二の哺乳類の種由来の宿主胚における共培養を行う工程(工程(v))において、第一の哺乳類の種に適した培養培地を加える割合をさらに増加させることが可能であり、第一の哺乳類の種に適した培養培地を第二の哺乳類の種に適した培養培地に対し、非限定的に、好ましくは約100:1−1:100の範囲で、より好ましくは約10:1−1:10の範囲で加えたものを使用可能である。
【0102】
培養培地は第一の哺乳類の種に適した培養培地と第二の哺乳類の種に適した培養培地の混合培地は、血清または代用血清の有無、各種阻害剤の有無、各種増殖因子の有無、その他の微量成分の有無等により適宜調製されうる。
【0103】
工程(ii)及び/又は工程(v)の第二の哺乳類の種由来の宿主胚と共培養工程において、混合培地中での共培養後、培地を第一の哺乳類の種に適した培養培地に変更してさらに共培養を行ってもよい。
【0104】
工程(iii)において、宿主胚から分離された内部細胞塊を培養する(工程(iv))。工程(iv)における培養培地は、工程(i)と異なり、第一の哺乳類の種に適した培養培地ではなく、第一の哺乳類の種に適した培養培地と第二の哺乳類の種に適した培養培地の混合培地を使用可能となる。この場合、第一の哺乳類の種に適した培養培地を第二の哺乳類の種に適した培養培地に対し、非限定的に、好ましくは約1:3−3:1の範囲で、より好ましくは約1:2−2:1の範囲で加えたものを使用可能である。
【0105】
2回目の再樹立時、再樹立後(工程(vii))における培養培地は、第二の哺乳類の種に適した培養培地、第一の哺乳類の種に適した培養培地、あるいは、培養培地は第一の哺乳類の種に適した培養培地と第二の哺乳類の種に適した培養培地の混合培地のいずれであってもよい。好ましくは、第二の哺乳類の種に適した培養培地である。即ち、本発明の方法により再樹立された幹細胞は、レシピエントの培養条件に馴化可能である。混合培地における第一の哺乳類の種に適した培養培地と第二の哺乳類の種に適した培養培地の比率も適宜選択可能である。
【0106】
<多能性幹細胞もしくは複能性幹細胞から再樹立した幹細胞>
本発明は、多能性幹細胞もしくは複能性幹細胞から再樹立した、霊長目の動物の幹細胞も提供する。本発明の幹細胞は、以下:
・均一化されている;
・キメラ形成可能、特に異種間でキメラ形成可能である;
・細胞集合体を形成可能である;および
・内部細胞塊のニッチ環境に親和性が高い;
からなる群より選択される特徴の1以上を有する。好ましくは、上記性質の2以上、3以上、全部を有する。
【0107】
「均一化されている」とは、元々の細胞群が、より未分化な状態から比較的分化が進行した状態までの複数の性質を有する細胞が混在していた細胞群から、再樹立などにより、より性質の近似な細胞からなる細胞群へ変更された、ということを意味する。
【0108】
「キメラ形成可能」、「異種間でキメラ形成可能」とは、<定義>の項目において記載した通りである。
【0109】
「細胞集合体を形成可能である」とは、異なる細胞群の共培養という条件下で培養した場合に、細胞集合体を形成出来る能力を有する、または細胞同士が接着する、または細胞同士が同所に存在することが可能である、ということを意味する。
【0110】
「内部細胞塊のニッチ環境に親和性が高い」とは、内部細胞塊のニッチな環境、即ち、周辺近辺の状況に幹細胞が合わせて生存する能力が高いことを意味する。
【0111】
本発明の実施例において、再樹立された幹細胞のコロニー形状はきれいでかつ大きなドーム状を示し、テラトーマ形成実験にて三葉分化を示す多様性が確認された。さらに、テラトーマの由来をPCRで確認したところ、サルES細胞(第一の哺乳類ES細胞)に導入されたマーカー遺伝子の存在が確認された。
【0112】
本発明の幹細胞は、さらに、以下:
・第二種の哺乳類の種に適した培地で培養可能である;および
・第二の哺乳類の種由来の宿主胚に同調しやすい
からなる群より選択される特徴の1以上を有する。好ましくは、上記2つの条件の双方を意味する。
【0113】
「第二種の哺乳類の種に適した培地で培養可能である」とは、非限定的に、例えば、第二種の哺乳類の種に適した培地で培養した場合に、5回の継代以上生存可能である、例えばテラトーマ実験により確認されるように多能性を維持している、ドーム状のコロニーの形態を維持することが可能であるなどの要件のいずれかを具備することを意味する。
【0114】
「第二の哺乳類の種由来の宿主胚に同調しやすい」とは、本発明の再樹立された幹細胞を、ドナー種(第一の哺乳類の種)とは異種のレシピエント種(第二の哺乳類の種)由来の宿主胚において共培養した場合に、本発明の幹細胞の細胞周期が宿主胚の細胞の細胞周期に揃いやすい、ことを意味する。
【0115】
本発明の方法により再樹立された異種間でキメラ形成能を有する幹細胞は、特に限定されないが、以下の用途に利用され得る。
【0116】
本発明のキメラ形成能を有する幹細胞を利用して、胚盤胞補完法によりキメラ動物を作製することで、当該幹細胞に由来する臓器/臓器原基を形成することができる。このような臓器/臓器原基は再生医療において有用である。
【0117】
また、本発明のキメラ形成能を有する幹細胞を用いて胚盤胞補完法によりキメラ胚またはキメラ胎児/胎仔を作製し、当該キメラ胚またはキメラ胎児/胎仔由来の体性幹細胞、臓器前駆細胞および体性細胞を得ることができる。また、当該キメラ胚またはキメラ胎児/胎仔由来の体性幹細胞をインビトロで分化させて臓器前駆細胞および体性細胞を得ることもできる。あるいは、本発明のキメラ形成能を有する幹細胞をインビトロで分化させることにより、体性幹細胞、臓器前駆細胞および体性細胞を得ることもできる。これらの体性幹細胞、臓器前駆細胞および体性細胞は、薬効評価や病態解析に用いるために有用である。本発明のキメラ形成能を有する幹細胞は、キメラ形成能を維持した高品質な幹細胞であるので、当該細胞を出発細胞として効率よくキメラ胚/キメラ動物の作製を行ったり分化させたりすることができる。
【0118】
あるいは、本発明のキメラ形成能を有する幹細胞を利用して、テトラプロイドレスキュー法により、当該幹細胞が伝播された動物を作製することもできる。テトラプロイドレスキュー法は、4倍体胚にiPS/ES細胞等を注入することにより、4倍体細胞は胎盤へと発生し、iPS/ES細胞等のみが個体へと発生することを利用した方法である(Nagy,A.,et al.,Development,110,815−821(1990))。このような動物の作製法は、絶滅危惧種などの希少動物、ペットなどの愛玩哺乳動物、有用な商業動物の保存、再生、および/または維持に有効である。
【0119】
<細胞を用いた薬効評価または病態解析を行う方法>
本出願は、さらに、記の再樹立方法によって得られるキメラ形成可能な幹細胞、または当該キメラ形成可能な幹細胞を分化させて得た体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞、を用いて薬効評価または病態解析を行う方法を提供する。
【0120】
本発明の方法は、以下:
(i)細胞を得る工程:ここで当該細胞は、(A)本発明の方法により再樹立したキメラ形成能を有する幹細胞であるか、(B)態様1ないし17のいずれか1つに記載の方法により再樹立したキメラ形成能を有する幹細胞を分化させることにより得た体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞であり、ここで当該体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞は、以下の(a)〜(c)のいずれかの方法により得られるものである:
(a)態様1ないし17のいずれか1つに記載の方法により再樹立したキメラ形成能を有する幹細胞からキメラ胚またはキメラ胎児/胎仔を作製し、そして当該キメラ胚またはキメラ胎児/胎仔由来の体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞を得る;
(b)(a)で得られたキメラ胚またはキメラ胎児/胎仔由来の体性幹細胞をインビトロで分化させて臓器前駆細胞または体性細胞を得る;
(c)態様1ないし17のいずれか1つに記載の方法により再樹立したキメラ形成能を有する幹細胞をインビトロで分化させることにより、体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞を得る;
(ii)工程(i)で得た細胞を用いて薬効評価または病態解析を行う工程;
を含む、前記方法。
【0121】
上記の方法の工程(i)において、(A)の「キメラ形成能を有する幹細胞」は、上記「幹細胞を多段階工程により再樹立する方法」によって、多能性幹細胞または複能性幹細胞から再樹立して得ることができる。
【0122】
上記の方法の工程(i)において、(B)の「キメラ形成能を有する幹細胞を分化させることにより得た体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞」は、まず、「キメラ形成能を有する幹細胞」を(A)と同様にして得た後、以下の(a)〜(c)のいずれかの方法を行うことにより得ることができる。
(a)の方法は、キメラ形成能を有する幹細胞からキメラ胚またはキメラ胎児/胎仔を作製し、そして当該キメラ胎児/胎仔由来の体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞を得る、というものである。キメラ胚またはキメラ胎児/胎仔の作製方法は、上記「定義」の項目においてキメラ胚/キメラ動物の作製について記載した方法により行うことができる。キメラ胚またはキメラ胎児/胎仔から体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞を得るためには当該細胞を分取・樹立することにより行う。キメラ胚またはキメラ胎児/胎仔からの体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞の分取・樹立は、当業者が通常用いる方法により適宜行うことができる。
(b)の方法は、(a)で得られたキメラ胚またはキメラ胎児/胎仔由来の体性幹細胞をインビトロで分化させて臓器前駆細胞または体性細胞を得る、というものである。体性幹細胞をインビトロで分化させて臓器前駆細胞または体性幹細胞を得る方法は、当業者が通常用いる方法により適宜行うことができる。
(c)の方法は、キメラ形成能を有する幹細胞をインビトロで分化させることにより、体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞を得る、というものである。キメラ形成能を有する幹細胞をインビトロで分化させて、体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞を得る方法は、当業者が多能性幹細胞をインビトロで分化させるために通常用いる方法により適宜行うことができる。
【0123】
上記の方法の工程(i)において得られる「体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞」は、例えば、心臓、神経、腎臓、肝臓、膵臓、骨格筋、血球系細胞、等に関連する細胞であるが、特に限定されない。
【0124】
上記の方法の工程(ii)において、工程(i)で得た細胞を用いて薬効評価または病態解析を行う。薬効評価または病態解析は、細胞を用いた検査方法であれば特に限定されない。当業者が通常用いる方法により、適宜行うことができる。
【実施例】
【0125】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
【0126】
実施例1 ES細胞を用いた多段階再樹立法
本実施例は、ES細胞を用いた多段階再樹立法を記載する。サルES細胞(sESCs)は、カニクイザル(Macaca fascicularis)由来で、マーカー遺伝子として緑色蛍光タンパク質(GFP)とネオマイシン耐性遺伝子(neo)を導入した細胞株(CMK6G)(非特許文献5,6)で、さらに、ヒトnanogを発現する温度感受性センダイウイルス(SeV18+hNANOG/TS7dF)(非特許文献7)を導入したものを用いて、多段階の再樹立法を実施した。
【0127】
具体的には先ず、このES細胞を、サルES用培地[35.9%(v/v)DMEM/F12、48%(v/v) Neurobasal、1%(v/v) N2 supplement、2%(v/v) B27 supplement、1mM GlutaMAX、1%(v/v)非必須アミノ酸(NEAA)、0.1mM 2−メルカプトエタノール(2−ME)、1Xペニシリン/ストレプトマイシン、5mg/mLウシ血清アルブミン(BSA)、1μM PD0325901、1μM CHIR99021、10μM フォルスコリン、20ng/mL ヒトLIF、5μM ケンパウロン(Kenpaullone)、5μM Go6983]を用いて、マウスES細胞とともに共培養を行った。マウスES細胞の細胞塊とともに凝集してきたサルES細胞を選別した(工程(i))。
【0128】
得られたサルES細胞をマウス4倍体胚盤胞(MCH)40個にマイクロインジェクションした後、マウス用培地[80%(v/v) D−MEM、20%(v/v) FCS、1mM ピルビン酸溶液、0.1mM 2−ME、1xNEAA、10
3U/mL mLIF]に上記サル用ES培養液を1:1の割合で加えたマウス初期胚培養条件(mwm培養液、5%CO
2、37℃)で1日共培養した(工程(ii))。
【0129】
異常形状をしているもの、ICM以外にサルES胞がある胚盤胞を顕微鏡下で除去し、良好な胚だけを4穴プレートのフィーダー細胞上にそれぞれ別々に移して培養した。培養液は、サル用ES培養液を用いた。
【0130】
播種後増殖してきたICMから良好な形熊をし、蛍光顕微鏡(Axio Observer D1 system, Carl Zeiss)にて緑色蛍光を有することを確認したモザイク状態のものだけを、増殖能や良好なコロニーの形態を指標に目視で選別しピックアップした。0.025%トリプシン/0.1mM EDTA処理し、細胞塊を分散した(工程(iii))。その後、新しく準備した4穴プレートのフィーダー細胞上にそれぞれ別々に移して培養した。培養液は、サル用培地をマウス用培地に2:1の割合で加えたものを用いた。
【0131】
播種後、さらに新しく形成されたコロニーから、蛍光顕微鏡にて緑色蛍光を有することを確認し、状態の良いコロニーを選抜し培養した。これを第一段階の再樹立後のサルES細胞とした。当該の第一段階再樹立サルES細胞は、培養する際、サル用培地をマウス用培地と例えば1:1で混合した混合培養液にて培養することが可能となり、良好な増殖性とコロニーの形状を維持した(工程(iv))。
【0132】
当該の第一段階再樹立サルES細胞を、僅かなマウスICM由来のマウス4NES細胞とマウスICM寄与したマウスES細胞とともに、サル用培地をマウス用培地に2:1の割合で加えた混合培養液を用いて共培養を行い、増殖能や形態の良いコロニーを選別した。
【0133】
このサルES細胞をマウス4倍体胚盤胞(MCH)30個にマイクロインジェクションした後、サル用培地をマウス初期胚培養用培地に1:10の割合で加えたマウス初期胚培養条件(mwm培養液、5%CO
2、37℃)で1日共培養した(工程(v))。異常形状をしているもの、ICM以外にサルES細胞がある胚盤胞を顕微鏡下で除去し、良好な胚だけを4穴プレートのフィーダー細胞上にそれぞれ別々に移し、サル用培地をマウス用培地に2:1の割合で加えた混合培養液を用いて培養した。播種後増殖してきたICMから良好な形態をし、蛍光顕微鏡(Axio Observer D1 system, Carl Zeiss)にて緑色蛍光を有することを確認したモザイク状態のものだけを、増殖能や形態を指標に目視で選別しピックアップした。
【0134】
第二段階再樹立後のサルES細胞は、再樹立前に比べICMへの寄与率が格段に増加した。0.025%トリプシン/0.1mM EDTA処理し、細胞塊を分散した(工程(vi))。その後、新しく準備した4穴プレートのフィーダー細胞上にそれぞれ別々に移して培養した。培養液はサル用培地を用いた。
【0135】
播種後、さらに新しく形成されたコロニーから、蛍光顕微鏡にて緑色蛍光を有することを確認して状態の良いコロニーを選抜しネオマイシン添加(500μg/ml)培地で培養した。これを第二段階再樹立後のサルES細胞とした(工程(vii))(
図2)。
【0136】
二段階再樹立後のサルES細胞は、混合培養液にて再樹立を実施したが、2阻害薬を添加した改変マウス用培養液[80%(v/v) D−MEM、20%(v/v) FCS、1mMピルビン酸溶液、0.1mM 2−ME、1xNEAA、10
3U/mL hLIF、1μM PD0325901、1μMCHIR99021]においても良好な増殖能を保持し、形状と大きさの良好なコロニーの形成が可能であった(
図3上段)。
【0137】
実施例2 二段階再樹立後のES細胞の多能性の検討
本実施例において、二段階再樹立後のサルES細胞の多能性を、テラトーマ形成実験にて検討した。
【0138】
二段階再樹立後のサルES細胞をNOD−Scidマウスの睾丸に移植したところ、約3ヶ月後に睾丸部に大きな腫瘤が形成された。解剖後、腫瘍部分を4%パラホルムアルデヒド固定液にて固定後、HE(ヘマトキシリン・エオシン)染色標本を作製した。組織学的検討の結果、外胚葉としてロゼッタ構造を呈する神経上皮組織や神経膠組織、メラニン色素を含有する神経上皮組織、内胚葉として偽重層円柱上皮または単層円柱上皮で内張された管腔構造からなる上皮組織、中胚葉としてコラーゲンを産生する繊維性結合組織や筋組織が認められる(
図3中段、下段)。以上、二段階再樹立後のサルES細胞から、外胚葉、中胚葉、内胚葉由来の組織が形成されたことが確認された。
【0139】
実施例3 テラトーマのサルES細胞由来の確認
本実施例では、実施例2で形成されたテラトーマの由来が確かにサルES細胞であることを確認した。具体的には、テラトーマ組織からDNAを抽出し、PCRにてサルES細胞由来であるneo遺伝子およびサル由来遺伝子であるβ2 マイクログロブリン(β2MG)の検出を試みた。
【0140】
先ず、テラトーマ組織の一部を採取し、プロテアーゼ処理を実施した後DNAを抽出した。このDNAを用いて、PCR法にて先ずサルES細胞に導入されたマーカー遺伝子であるネオマイシン耐性遺伝子(neo)を検出した。neo遺伝子の検出には、以下の配列番号1及び2のプライマーセット、並びにrTaqを用いて、94℃30秒、55℃30秒、72℃30秒を35サイクル実施した。
プライマーセット
5’−AGC CGG TCT TGT CGA TCA GGA TGA TC−3’(配列番号1)および
5’−CTC GTC AAG AAG GCG ATA GAA GGC−3’(配列番号2)
【0141】
またサルβ2ミクログロブリン(β2MG)遺伝子の検出には、nestedPCRを用いた。一回目の増幅には、以下の配列番号3及び4のプライマーセット、並びにrTaqを用いて、94℃30秒、55℃30秒、72℃30秒を30サイクル実施した。
5’−CAG GTT TAC TCA CGT CAT CCA G−3’(配列番号3)および
5’−GGT TCA CAC GGC AGG CAT ACT C−3’(配列番号4)
【0142】
二回目の増幅には、以下の配列番号5及び6のプライマーセット、並びにrTaqを用いて、94℃30秒、55℃30秒、72℃30秒を25サイクル実施した。
5’−GTC TGG GTT TCA TCC ATC CG−3’(配列番号5)および
5’−GGT GAA TTC AGT GTA GTA CAA G−3’(配列番号6)
【0143】
PCRの特異性は高く、neo遺伝子およびサルβ2MG遺伝子は、陰性コントロールであるマウス肝臓とB6マウスtailのDNAでは検出せず、テラトーマ組織および再樹立後のサルES細胞でのみ検出された(
図5)。以上から、テラトーマはneo遺伝子を保有するサルES細胞由来であることが確認された。即ち、再樹立したサルES細胞は、三葉に分化したテラトーマを形成し多能性を有することを示した。
【0144】
以上、霊長類の多能性幹細胞において、形状のきれいなドーム型のコロニーを形成させ、三葉分化能を有する多能性を維持するのに、多段階再樹立法が有効であることが示された。なお、多段階再樹立後の多能性幹細胞が、マウス用培地にて培養可能な形質を獲得したことは、マウス等の異種間キメラ胚形成において有利であり、また多能性幹細胞の維持・増幅の点において費用や簡便性の観点からも有利である。
【0145】
実施例4 再樹立前及び後の細胞における遺伝子発現プロファイルの階層的クラスタリング
再樹立前のサルES細胞(sES cell)の培養用デッシュ3枚、再樹立後のサルES細胞(Re−sES cell)の培養用デッシュ3枚から、各々RNA抽出を行った。
【0146】
【表3】
【0147】
各細胞より抽出したRNAについて、イルミナ社HiSeq 2000を用いてRNA−Seqを行い、アカゲザルのトランスクリプトームのパイプラインでマッピングした結果、18,339の遺伝子数を同定した。サンプル間比較の組合せで検定された遺伝子の発現量をFPKM(Fragments Per Kilobase of exon per Million mapped fragments)値で示し、群平均法にてクラスタリングを行い、キャンベラ(canberra)アルゴリズムにて距離を測定した。
【0148】
サルES細胞の再樹立前および再樹立後の各細胞における遺伝子発現プロファイルの階層的クラスタリングの結果を、
図6に示す。再樹立前の細胞と再樹立後の細胞で、各々の遺伝子発現プロファイルは大きく2つの群にグループ化された。即ち、再樹立後の細胞の遺伝子発現プロファイルは、再樹立前のものとは異なり、特定の遺伝子発現パターンを示すことが明らかになった。
【0149】
実施例5 再樹立サルES細胞中の山中4因子およびNANOGの発現
実施例4で得られた再樹立前のサルES細胞(sES1、sES2、sES3)、及び、再樹立後のサルES細胞(Re_sES1、Re_sES2、Re_sES3)について、山中4因子に相当するサルの内在性遺伝子(PAU5F1(Oct4)、KLF4、SOX2、MYC)および多能性維持に重要なNANOG遺伝子の、再樹立前後による遺伝子発現量の変化を、FPKM値の変化に基づいて検討した。結果を
図7に示す。
図7Aは各遺伝子のFPKM値、そして
図7Bは、再樹立前後の遺伝子発現量の変化をlog
2値で示したものである。
図7Cは、それぞれのFPKM値、log
2値および有意の有無をまとめたものである。再樹立後のサルES細胞では、内因性の山中4因子であるPAU5F1(Oct4)、KLF4、SOX2、MYCの遺伝子発現量は有意に増加した。また、多能性維持に必要なNANOGの発現量も有意に増加した。以上から、再樹立後のサルES細胞では、多能性維持に重要な内因性遺伝子の発現上昇が認められた。
【0150】
実施例6 再樹立サルES細胞における遺伝子発現パターン
実施例6で得られたRNA−Seqの結果から、ナイーブ型多能性(naive pluripotency)、コア型多能性(core pluripotency)、プライム型多能性(primed pluripotency)、中胚葉/原始線条(Mesoderm/primitive steak)の各特性に関する遺伝子の発現についてサルES細胞の再樹立の前後で比較した結果を
図8に示す。上段は各遺伝子のFPKM値、そして下段は、再樹立前後の遺伝子発現量の変化をlog
2値で示したものである。再樹立により、KLF4、KLF5、DPPA3、ZFP42、TFCP2L1、PRDM14等のナイーブ型多能性(naive pluripotency)の特性に関する遺伝子、NANOG、SOX2、POU5F1、GDF3、SALL4、UTF1、FGF4等のコア型多能性(core pluripotency)の特性に関する遺伝子の発現量が増加した。一方、プライム型多能性(primed pluripotency)の特性に関するLEF1、CER1の発現量、および中胚葉/原始線条(Mesoderm/primitive steak)の特性に関するEOMES、MSX1の遺伝子発現量は減少した。以上から、再樹立によってサルES細胞が、より高品質な多能性幹細胞の状態になったことが理解される。
DPPA3 = STELLA
ZFP42 = REX1 = ZNF754
PRDM14 = メチルトランスフェラーゼ活性
KLF4 =Krueppel様因子4
[配列表]