特許第6935162号(P6935162)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6935162耐熱性シリコーン樹脂組成物及び耐熱性シリコーン樹脂複合材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6935162
(24)【登録日】2021年8月27日
(45)【発行日】2021年9月15日
(54)【発明の名称】耐熱性シリコーン樹脂組成物及び耐熱性シリコーン樹脂複合材料
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/04 20060101AFI20210906BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20210906BHJP
   C08K 7/22 20060101ALI20210906BHJP
   C08K 9/06 20060101ALI20210906BHJP
   C08K 5/3465 20060101ALI20210906BHJP
   C08K 5/3447 20060101ALI20210906BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20210906BHJP
【FI】
   C08L83/04
   C08K3/013
   C08K7/22
   C08K9/06
   C08K5/3465
   C08K5/3447
   C09K5/14 E
【請求項の数】14
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2021-517069(P2021-517069)
(86)(22)【出願日】2020年10月2日
(86)【国際出願番号】JP2020037637
【審査請求日】2021年3月31日
(31)【優先権主張番号】特願2020-22569(P2020-22569)
(32)【優先日】2020年2月13日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000237422
【氏名又は名称】富士高分子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】岩井 亮
(72)【発明者】
【氏名】鈴村 克之
(72)【発明者】
【氏名】中島 雄司
【審査官】 西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−140455(JP,A)
【文献】 特開平05−140471(JP,A)
【文献】 特開昭60−166343(JP,A)
【文献】 特開昭59−176347(JP,A)
【文献】 国際公開第2019/098290(WO,A1)
【文献】 特開2017−206624(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00− 13/08
C09K 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーン樹脂と耐熱性向上剤を含む耐熱性シリコーン樹脂組成物であって、
前記耐熱性向上剤は環状構造中に2級のアミノ基を1個以上、かつケトン基を1個以上含む有機多環芳香族化合物であり、インダンスレン、キナクリドン、ジケトピロロピロール及びこれらの化合物にエポキシ化合物を1モル倍以下混合又は反応した化合物から選ばれる少なくとも一つの化合物であり、
長さ100mm、幅20mm、厚さ2mmのシートを180℃、500時間で熱処理し、前記シートの長さ60mm部分を水平に保持し、残りの40mm部分を自重で垂れた状態としたとき、保持部の先端から自重で垂れたシートの先端部分を通る漸近線と、前記保持部からの水平線との角度θが30度以上であり、
前記耐熱性シリコーン樹脂組成物の熱伝導率は0.8W/m・K以上であり、発熱部からの熱を放熱体に熱伝導するための組成物であることを特徴とする耐熱性シリコーン樹脂組成物。
【請求項2】
前記耐熱性向上剤は、シリコーン樹脂100質量部に対して0.001〜10質量部含有されている請求項1に記載の耐熱性シリコーン樹脂組成物。
【請求項3】
前記耐熱性向上剤は、シリコーンオイルに希釈され添加されている請求項1又は2に記載の耐熱性シリコーン樹脂組成物。
【請求項4】
前記耐熱性シリコーン樹脂組成物は、液状、ゲル状及びゴム状から選ばれる少なくとも一つの状態である請求項1〜のいずれか1項に記載の耐熱性シリコーン樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜のいずれかに記載の耐熱性シリコーン樹脂組成物に無機充填剤及び有機充填剤から選ばれる少なくとも一つの充填剤が含有されていることを特徴とするシリコーン樹脂複合材料。
【請求項6】
前記充填剤は、シリコーン樹脂100質量部に対して1〜7000質量部である請求項に記載のシリコーン樹脂複合材料。
【請求項7】
前記シリコーン樹脂複合材料はゲル状及びゴム状から選ばれる少なくとも一つの状態であり、シートに成形されている請求項5又は6に記載のシリコーン樹脂複合材料。
【請求項8】
前記充填剤は、熱伝導性充填剤、電磁波吸収性充填剤、断熱性向上充填剤、及び強度向上用充填剤から選ばれる少なくとも一つの充填剤である請求項5〜7のいずれか1項に記載のシリコーン樹脂複合材料。
【請求項9】
前記熱伝導性充填剤は、アルミナ酸化亜鉛酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、水酸化アルミニウム、炭化ケイ素及びシリカから選ばれる少なくとも一つの無機粒子である請求項に記載のシリコーン樹脂複合材料。
【請求項10】
前記電磁波吸収性充填剤は、軟磁性金属粉及び酸化物磁性粉から選ばれる少なくとも一つの無機粒子である請求項8又は9に記載のシリコーン樹脂複合材料。
【請求項11】
前記断熱性向上充填剤は、ガラスバルーン、シリカバルーン、シラスバルーン、カーボンバルーン、アルミナバルーン、ジルコニアバルーン、フェノールバルーン、アクリロニトリルバルーン、及び塩化ビニリデンバルーンから選ばれる少なくとも一つの粒子である請求項8〜10のいずれか1項に記載のシリコーン樹脂複合材料。
【請求項12】
前記強度向上用充填剤は、シリカ、ガラスファイバー、炭素繊維、セルロースナノファイバー、グラファイト、及びグラフェンから選ばれる少なくとも一つである請求項8〜11のいずれか1項に記載のシリコーン樹脂複合材料。
【請求項13】
前記充填剤は無機充填剤であり、少なくとも一部がRSi(OR’)−a(Rは炭素数1〜20の非置換または置換有機基、R’は炭素数1〜4のアルキル基、aは0もしくは1)で示されるシラン化合物、もしくはその部分加水分解物のシランカップリング剤で表面処理されている請求項8〜12のいずれか1項に記載のシリコーン樹脂複合材料。
【請求項14】
前記無機充填剤100質量部に対し、前記シランカップリング剤は0.01〜10質量部付与されている請求項13に記載のシリコーン樹脂複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性の高いシリコーン樹脂組成物及びシリコーン樹脂複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のCPU等の半導体の性能向上はめざましくそれに伴い発熱量も膨大になっている。そのため発熱するような電子部品には放熱体が取り付けられ、半導体と放熱体との密着性を改善する為に熱伝導性シリコーンシートが使われている。機器の小型化、高性能化、高集積化に伴い熱伝導性シリコーンシートには柔らかさ、高熱伝導性が求められている。特許文献1には、酸化チタンと酸化鉄の組み合わせによるシリコーンゴムの耐熱性向上が提案されている。特許文献2にはフタロシアニン化合物を含むシリコーン熱伝導性材料が提案されている。特許文献3にはフタロシアニン化合物を含む熱安定性が改善されたゲル材料が提案されている。特許文献4にはジフェニルシラン架橋剤を有する耐熱性を有する縮合硬化型シリコーンが提案されている。特許文献5にはSi-O-Ce、Si-O-Ti結合を導入し耐熱性を向上させたシリコーン樹脂が提案されている。特許文献6には有機官能基を有する円盤状多環芳香族を添加した熱伝導材料が提案されている。特許文献7にはカーボンブラックまたはカーボンナノチューブを添加した耐熱性シリコーンゲルが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2016−518468号公報
【特許文献2】特表2014−503680号公報
【特許文献3】特表2014−534292号公報
【特許文献4】特開2017−057386号公報
【特許文献5】特開2019−167473号公報
【特許文献6】再表2017−131007号公報
【特許文献7】特開2017−014399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の熱伝導性シリコーンシートは、耐熱性は比較的高いものの、さらに高い耐熱性が要求されていた。具体的には、シリコーンシート高熱伝導化には、充填剤材の充填量増加や高熱伝導充填剤の使用により高温時に硬くなってしまう問題があり、改善が必要であった。同様に、封止剤、断熱剤、電磁波吸収剤などにおいても耐熱性は重要である。
また、半導体分野では、金属不純物による汚染が問題となっており、有機金属酸化物や有機金属錯体からなる耐熱向上剤及び顔料を使用しない放熱部材が必要とされていた。
【0005】
本発明は前記従来の問題を解決するため、有機系耐熱向上剤を使用し、耐熱性の高いシリコーン樹脂組成物及びシリコーン樹脂複合材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の耐熱性シリコーン樹脂組成物は、シリコーン樹脂と耐熱性向上剤を含む耐熱性シリコーン樹脂組成物であって、前記耐熱性向上剤は環状構造中に2級のアミノ基を1個以上、かつケトン基を1個以上含む有機多環芳香族化合物であり、インダンスレン、キナクリドン、ジケトピロロピロール及びこれらの化合物にエポキシ化合物を1モル倍以下混合又は反応した化合物から選ばれる少なくとも一つの化合物であり、長さ100mm、幅20mm、厚さ2mmのシートを180℃、500時間で熱処理し、前記シートの長さ60mm部分を水平に保持し、残りの40mm部分を自重で垂れた状態としたとき、保持部の先端から自重で垂れたシートの先端部分を通る漸近線と、前記保持部からの水平線との角度θが30度以上であり、前記耐熱性シリコーン樹脂組成物の熱伝導率は0.8W/m・K以上であり、発熱部からの熱を放熱体に熱伝導するための組成物であることを特徴とする。
【0007】
本発明の耐熱性シリコーン樹脂複合材料は、前記耐熱性シリコーン樹脂組成物に無機充填剤及び有機充填剤から選ばれる少なくとも一つの充填剤が含有されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の耐熱性シリコーン樹脂組成物および耐熱性シリコーン樹脂複合材料は、シリコーン樹脂と耐熱性向上剤を含み、前記耐熱性向上剤は環状構造中に2級のアミノ基を1個以上、かつケトン基を1個以上有し、アゾ基は存在しない有機多環芳香族化合物であることにより、耐熱性の高いシリコーン樹脂組成物及びシリコーン樹脂複合材料を提供できる。金属原子を含まない耐熱向上剤を使用し、高温時にも硬くなりにくい耐熱性シリコーン樹脂組成物及び耐熱性シリコーン樹脂複合材料とすることは、金属不純物による汚染問題がなく、半導体を含む電子・電気部品にとって大きな利点となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1A−Bは本発明の一実施例における試料の熱伝導率の測定方法を示す説明図である。
図2図2は本発明の一実施例における試料の耐熱性試験(屈曲性試験)の測定方法を示す説明図である。
図3図3は同、耐熱性試験(屈曲性試験)の測定写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、シリコーン樹脂と耐熱性向上剤を含む耐熱性シリコーン樹脂組成物である。耐熱性向上剤は、環状構造中に2級のアミノ基を1個以上、かつケトン基を1個以上有し、アゾ基は存在しない有機多環芳香族化合物である。この耐熱性向上剤は、例えばインダンスレン、キナクリドン、ジケトピロロピロールなどがある。
【0011】
またこれらの化合物に対して、その含有するアミノ基に対して1等量モル以下のエポキシ基を有する化合物を混合又は反応した化合物も有効である。エポキシ化合物の例としては、グリシジル基やシクロヘキシルエポキシ基を有する有機化合物や有機ケイ素化合物があげられる。エポキシ基を加えることにより、シリコーン化合物の熱劣化現象に対するアミノ基の影響がコントロールされ、より良好な耐熱性が得られたと考えられる。
【0012】
これらの化合物を加えると耐熱性が向上するメカニズムについては定かではないが、高温で発生する熱ラジカル等の熱分解の原因となる物質をこれらの化合物が吸収したり、抑えたりすることによると思われる。なお、本発明の耐熱向上剤の有機多環芳香族化合物には、アゾ基は存在しないことが好ましい。この理由は、アゾ基は熱や光により分解を起こす可能性があり、シリコーン樹脂や複合材料の特性への影響も懸念されうるためである。
【0013】
インダンスレンは例えば下記P.B.60(化1)で示される。P.B.60は英国染料染色学会および米国繊維科学技術・染色技術協会が共同で存率しているカラーインデックス(CI)名と番号である。以下に示す化合物に付記した番号はCI名と番号に準じている。
【0014】
【化1】
【0015】
キナクリドンは例えばP.V.19(化2)とP.R.122(化3)がある。
【0016】
【化2】
【0017】
【化3】
【0018】
ジケトピロロピロールP.R.264は(化4)で示される。
【0019】
【化4】
【0020】
インダンスレンにエポキシ化合物を1モル倍混合又は反応した化合物は、前記化学式(化1)で示されるインダンスレンに、エポキシ化合物として例えば下記化学式(化5)で示される3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランとを1モル倍混合又は反応した化合物があげられる。
【0021】
【化5】
【0022】
エポキシ化合物としては、さらに例えば、フェニルグリシジルエーテル、メチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、スチレンオキシド、ブチル酸グリジジル、ヘキサン酸グリシジル、ステアリン酸グリジジル、メタクリル酸グリジジル、1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン、2,2'−(4−ヒドロキシフェニル)プロパンジグリジジルエーテル、等のエポキシ基を有する有機化合物、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシヘキシルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、エポキシ変性シリコーンなどの有機ケイ素化合物を用いることができる。
【0023】
前記耐熱性向上剤は、シリコーン樹脂100質量部に対して0.001〜10質量部含有されているのが好ましく、より好ましくは0.002〜5質量部であり、さらに好ましくは0.003〜3質量部であり、とくに好ましくは0.003質量部以上0.5質量部未満である。前記の範囲であれば耐熱性が向上する。
【0024】
前記耐熱性シリコーン樹脂組成物は、液状、ゲル状又はゴム状などが好ましい。液状は、オイル、グリース及びパテなどである。また耐熱性向上剤は、粉末のまま添加しても良く、樹脂とマスターバッチ化して使用しても良い。マスターバッチに使用する樹脂はシリコーンポリマーが好ましく、硬化性シリコーンポリマーでも反応基のないシリコーンポリマーでも良く、またその両方を使用したものでも良い。これにより、耐熱性向上剤が均一にシリコーン樹脂に混合できる。
【0025】
本発明の耐熱性シリコーン樹脂複合材料は、前記耐熱性シリコーン樹脂組成物に充填剤が含有されている。充填剤は、耐熱性シリコーン樹脂100質量部に対して1〜7000質量部含有されているのが好ましく、より好ましくは10〜6000質量部であり、さらに好ましくは50〜5000質量部である。
【0026】
シリコーン樹脂複合材料はゲル状及びゴム状から選ばれる少なくとも一つの状態であり、シートに成形されていてもよい。シートに成形されていると発熱性電子部品と放熱器との間に組み込みやすい。前記シリコーン樹脂複合材料は、半導体などの発熱体と放熱体との間に介在させるTIM(Thermal Interface Material)として好適である。
【0027】
シリコーン樹脂組成物の硬さや粘度は特に規定されるものではない。非反応性のシリコーンオイルやガムに耐熱添加剤を加えた耐熱性シリコーン樹脂組成物の場合、その粘度は0.65mPa・secから100万mPa・secであり、さらに好ましくは50mPa・secから10万mPa・secである。充填剤を含まないシリコーンゲル硬化物として使用するにあたり、硬化後の針入度が20以上であることが好ましく、さらに好ましくは40以上であればシリコーンゲルとしての針入度(柔らかさ)は十分である。充填剤を含んだ柔軟性を持つシート状硬化物として使用するにあたっては、硬化後のアスカーC硬度が70以下であるのが好ましく、さらに好ましくは50以下である。アスカーC硬度が70以下であれば、硬度(軟らかさ)は十分である。さらにシート状シリコーン樹脂複合材料として使用するにあたり、シートが柔らかく部材に挟んで使用するにあたり、屈曲性が維持できることが重要である。屈曲性としては、軽い力で自在に屈曲できる90°以上に屈曲できることが好ましく、特に熱劣化にともなってシートの屈曲性が落ちない事が好ましい。屈曲性の程度については、30°、さらに好ましくは45°の角度に屈曲できる事が好ましい。さらに、成形加工したシリコーンゴム複合材料として使用する場合はゴム状を示すことが好ましく、硬さとしてデュロメーターAで20〜90であることが好ましく、さらに好ましくは30〜80である。シリコーン樹脂を硬化架橋させてシリコーン樹脂組成物およびシリコーン樹脂複合材料を得る場合、その硬化架橋方法は限定されるものではない。アルケニル基とSiH基を付加反応させる方法、過酸化物によりアルケニル基やアルキル基を架橋させる方法、シラノールやアルコキシ基を縮合させる方法、さらにそれらを組み合わせて架橋硬化を行う方法などがあるが、白金等の触媒を用いてアルケニル基とSiH基を付加反応させて硬化させる方法が、反応に伴う副生成物が生成しない事や反応速度がコントロールでき、成形物の深部までスムーズに硬化反応が進行するなどの点から好ましい。
【0028】
本発明の耐熱性シリコーン樹脂複合材料はシートに成形されているのが好ましい。シート成形されていると電子部品等へ実装するのに好適である。前記熱伝導性充填剤を含むシート状の耐熱性シリコーン樹脂複合材料の厚みは0.2〜10mmの範囲が好ましい。また、熱伝導性シートの熱伝導率は0.8W/m・K以上が好ましく、さらに好ましくは1.0W/m・K以上である。熱伝導率0.8W/m・K以上であれば、発熱部からの熱を放熱体に熱伝導するのに適している。
【0029】
以下、耐熱性シリコーン樹脂組成物および耐熱性シリコーン樹脂複合材料について一例を説明する。耐熱性シリコーン樹脂組成物について、オイル状、ガム状のものについては、下記(E)、(H)成分からなり、(H)成分100質量部に対して、(E)成分が0.001〜10質量部含まれる。またゲル状、ラバー状の耐熱性シリコーン樹脂組成物は(A)〜(C)、(E)成分を含み、及び任意成分として(F)(G)(H)成分等を混合し、架橋することが好ましい。また耐熱性シリコーン樹脂複合材料は下記(A)〜(E)成分を含み、及び任意成分として(F)(G)(H)成分等を混合し、架橋することが好ましい。
(A)ベースポリマー成分:1分子中にアルケニル基が結合したケイ素原子を平均1個以上含有するオルガノポリシロキサン
(B)架橋成分:1分子中に水素原子が結合したケイ素原子を平均1個以上含有するオルガノポリシロキサンが、前記A成分中のケイ素原子結合アルケニル基1モルに対して、0.01〜3モル
(C)触媒成分:白金族系金属触媒であり、A成分に対して金属原子重量単位で0.01〜1000ppmの量
(D)無機充填剤:付加硬化型シリコーンポリマー成分(A成分+B成分)100質量部に対して100〜4000質量部
(E)耐熱性向上剤:付加硬化型シリコーンポリマー成分(A成分+B成分)100質量部に対して0.001〜10質量部
(F)付加硬化型シリコーンポリマー成分(A成分+B成分)100質量部に対してさらにシランカップリング剤を0.1〜10質量部添加しても良い。
(G)付加硬化型シリコーンポリマー成分(A成分+B成分)100質量部に対してさらに無機粒子顔料0.5〜10質量部添加しても良い。
(H)付加硬化型シリコーンポリマー(A成分+B成分)100質量部に対してさらに付加硬化反応基を持たないオルガノポリシロキサン0.5〜50質量部添加しても良い。
【0030】
以下、各成分について説明する。
(1)ベースポリマー成分(A成分)
ベースポリマー成分は、一分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を1個以上含有するオルガノポリシロキサンであり、アルケニル基を2個含有するオルガノポリシロキサンは本発明の耐熱性シリコーン樹脂組成物および耐熱性シリコーン樹脂複合材料における主剤(ベースポリマー成分)である。このオルガノポリシロキサンは、アルケニル基として、ビニル基、アリル基等の炭素原子数2〜8、特に2〜6の、ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に2個以上有する。粘度は25℃で10〜100,000mPa・s、特に100〜10,000mPa・sであることが作業性、硬化性などから望ましい。
【0031】
ベースポリマーの例として、下記一般式(化6)で表される1分子中に平均1個以上かつ分子鎖両末端のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンを使用する。その他の置換基はアルキル基もしくはフェニル基で封鎖された直鎖状または分岐状のオルガノポリシロキサンである。25℃における粘度は10〜100,000mPa・sのものが作業性、硬化性などから望ましい。なお、このオルガノポリシロキサンは分岐状構造(三官能性シロキサン単位)を分子鎖中に含有するものであってもよいし、側鎖にアルケニル基を有していても良い。
【0032】
【化6】
【0033】
式中、R1は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基であり、Rはアルケニル基であり、kは0又は正の整数である。ここで、R1の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換の一価炭化水素基としては、例えば、炭素原子数1〜10、特に1〜6のものが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、並びに、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基、シアノエチル基等が挙げられる。Rのアルケニル基としては、例えば炭素原子数2〜8、特に2〜6のものが好ましく、具体的にはビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられ、好ましくはビニル基である。一般式(化6)において、kは、一般的には0≦k≦10000を満足する0又は正の整数であり、好ましくは5≦k≦2000、より好ましくは10≦k≦1200を満足する正の整数である。
【0034】
A成分のオルガノポリシロキサンとしては一分子中に例えばビニル基、アリル基等の炭素原子数2〜8、特に2〜6のケイ素原子に結合したアルケニル基を3個以上、通常、3〜30個、好ましくは、3〜20個程度有するオルガノポリシロキサンを併用しても良い。分子構造は直鎖状、環状、分岐状、三次元網状のいずれの分子構造のものであってもよい。好ましくは、主鎖がジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された、25℃での粘度が10〜100,000mPa・s、特に100〜10,000mPa・sの直鎖状オルガノポリシロキサンである。
【0035】
アルケニル基は分子のいずれかの部分に結合していればよい。例えば、分子鎖末端、あるいは分子鎖非末端(分子鎖途中)のケイ素原子に結合しているものを含んでも良い。なかでも下記一般式(化7)で表される分子鎖両末端のケイ素原子上にそれぞれ1〜3個のアルケニル基を有し(但し、この分子鎖末端のケイ素原子に結合したアルケニル基が、両末端合計で3個未満である場合には、分子鎖非末端(分子鎖途中)のケイ素原子に結合したアルケニル基を、(例えばジオルガノシロキサン単位中の置換基として)、少なくとも1個有する直鎖状オルガノポリシロキサンであって)、上記でも述べた通り25℃における粘度が10〜100,000mPa・sのものが作業性、硬化性などから望ましい。なお、この直鎖状オルガノポリシロキサンは少量の分岐状構造(三官能性シロキサン単位)を分子鎖中に含有するものであってもよい。
【0036】
【化7】
【0037】
式中、R3は互いに同一又は異種の非置換又は置換一価炭化水素基であって、少なくとも1個がアルケニル基である。R4は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基であり、R5はアルケニル基であり、l,mは0又は正の整数である。ここで、R3の一価炭化水素基としては、炭素原子数1〜10、特に1〜6のものが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基やシアノエチル基等が挙げられる。
【0038】
また、Rの一価炭化水素基としても、炭素原子数1〜10、特に1〜6のものが好ましく、上記R1の具体例と同様のものが例示できるが、但しアルケニル基は含まない。Rのアルケニル基としては、例えば炭素数2〜8、特に炭素数2〜6のものが好ましく、具体的には前記式(化6)のRと同じものが例示され、好ましくはビニル基である。
【0039】
l,mは、一般的には0<l+m≦10000を満足する0又は正の整数であり、好ましくは5≦l+m≦2000、より好ましくは10≦l+m≦1200で、かつ0<l/(l+m)≦0.2、好ましくは、0.0011≦l/(l+m)≦0.1を満足する整数である。
【0040】
(2)架橋成分(B成分)
本発明のB成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは架橋剤として作用するものであり、この成分中のSiH基とA成分中のアルケニル基とが付加反応(ヒドロシリル化)することにより硬化物を形成するものである。かかるオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、一分子中にケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)を2個以上有するものであればいずれのものでもよく、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は、直鎖状、環状、分岐状、三次元網状構造のいずれであってもよいが、一分子中のケイ素原子の数(即ち、重合度)は2〜1000、特に2〜300程度のものを使用することができる。
【0041】
水素原子が結合するケイ素原子の位置は特に制約はなく、分子鎖の末端でも側鎖でもよい。また、水素原子以外のケイ素原子に結合した有機基としては、前記一般式(化6)のRと同様の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基が挙げられる。
【0042】
B成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては一般式下記(化8)が例示できる。
【0043】
【化8】
【0044】
上記の式中、R6は互いに同一又は異種のアルキル基、フェニル基、エポキシ基、アクリロイル基、メタアクリロイル基、アルコキシ基、水素原子であり、少なくとも1つは水素原子である。Lは0〜1,000の整数、特には0〜300の整数であり、Mは1〜200の整数である。
【0045】
(3)触媒成分(C成分)
C成分の触媒成分は、本組成物の硬化を促進させる成分である。C成分としては、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒を用いることができる。例えば白金黒、塩化第2白金酸、塩化白金酸、塩化白金酸と一価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類やビニルシロキサンとの錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒などの白金族系金属触媒が挙げられる。C成分の配合量は、硬化に必要な量であればよく、所望の硬化速度などに応じて適宜調整することができる。A成分に対して金属原子重量として0.01〜1000ppm添加するのが好ましい。
【0046】
(4)無機充填剤(D成分)
無機充填剤は、熱伝導性無機充填剤、電磁波吸収性無機充填剤、断熱性向上無機充填剤、及び強度向上用無機充填剤から選ばれる少なくとも一つの無機充填剤が好ましい。熱伝導性無機充填剤としては、アルミナ,酸化亜鉛,酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、水酸化アルミニウム、炭化ケイ素、シリカなどがある。これらは単独でもよいし、組み合わせて添加してもよい。電磁波吸収性無機充填剤は、軟磁性金属粉又は酸化物磁性粉(フェライト粉)があり、軟磁性金属粉としては、Fe−Si合金、Fe−Al合金、Fe−Si−Al合金(センダスト)、Fe−Si−Cr合金、Fe−Ni合金(パーマロイ)、Fe−Ni−Co合金(ミューメタル)、Fe−Ni−Mo合金(スーパーマロイ)、Fe−Co合金、Fe−Si−Al−Cr合金、Fe−Si−B合金、Fe−Si−Co−B合金等の鉄系の合金粉、あるいはカルボニル鉄粉等があり、フェライト粉としては、Mn−Znフェライト、Mn−Mg−Znフェライト、Mg−Cu−Znフェライト、Ni−Znフェライト、Ni−Cu−Znフェライト、Cu−Znフェライト等のスピネル系フェライト、W型、Y型、Z型、M型等の六方晶フェライトがあるが、カルボニル鉄粉を使用するのが好ましい。これらはいずれも磁性粉である。
断熱性向上無機充填剤としては、ガラスバルーン、シリカバルーン、シラスバルーン、カーボンバルーン、アルミナバルーン、ジルコニアバルーンなどが用いられるが、ガラスバルーンが望ましい。これらはいずれも断熱効果を向上させるものである。前記断熱性向上無機充填剤に代えて、あるいは併用して断熱性向上有機充填剤も使用できる。断熱性向上有機充填剤としては、フェノールバルーン、アクリロニトリルバルーン、塩化ビニリデンバルーンなどがある。
強度向上用充填剤としては、シリカ、ガラスファイバー、炭素繊維、セルロースナノファイバー、グラファイト、グラフェン、などがあげられるが、シリカを用いるのが望ましい。これらのはいずれも複合材料の強度を向上させる充填材である。
本明細書において、無機充填剤は無機粒子ともいう。
【0047】
熱伝導性充填剤の場合は、付加硬化型シリコーンポリマー成分(A成分+B成分)100質量部に対して、1〜7000質量部、好ましくは100〜4000質量部添加するのが好ましい。これにより耐熱性熱伝導性組成物及び耐熱性熱伝導性シートの熱伝導率を0.8W/m・K以上とすることができる。熱伝導充填剤としては、アルミナ,酸化亜鉛,酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、水酸化アルミニウム、炭化ケイ素、及びシリカから選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。形状は球状,鱗片状,多面体状等様々なものを使用できる。熱伝導性充填剤の比表面積は0.06〜15m2/gの範囲が好ましい。比表面積はBET比表面積であり、測定方法はJIS R1626にしたがう。平均粒子径を用いる場合は、0.1〜100μmの範囲が好ましい。粒子径の測定はレーザー回折光散乱法により、体積基準による累積粒度分布のD50(メジアン径)を測定する。この測定器としては、例えば堀場製作所社製のレーザー回折/散乱式粒子分布測定装置LA−950S2がある。
【0048】
無機充填剤は平均粒子径が異なる少なくとも2つの粒子を併用してもよい。このようにすると大きな粒子径の間に小さな粒子径の粒子が埋まり、最密充填に近い状態で充填でき、熱伝導性や断熱性、電磁波吸収性、材料強度などの特性が高くなるからである。
【0049】
前記無機充填剤は、一部または全部がシランカップリング剤で表面処理されていてもよい。シランカップリング剤は予め無機充填剤と混合し、熱処理して前処理しておいてもよく(前処理法)、ベースポリマーと硬化触媒と無機粒子を混合する際に添加してもよい(インテグラルブレンド法)。前処理法及びインテグラルブレンド法の場合には、無機充填剤100質量部に対し、シランカップリング剤を0.01〜10質量部添加するのが好ましい。表面処理することでベースポリマーに充填しやすくなるとともに、無機充填剤へ硬化触媒が吸着されるのを防ぎ、硬化阻害を防止する効果がある。これは保存安定性に有用である。
【0050】
シランカップリング剤は、RSi(OR’)−a(Rは炭素数1〜20の非置換または置換有機基、R’は炭素数1〜4のアルキル基、aは0もしくは1)で示されるシラン化合物、もしくはその部分加水分解物が好ましい。前記のアルコキシシラン化合物(以下単に「シラン」という。)は、一例としてメチルトリメトキシラン,エチルトリメトキシラン,プロピルトリメトキシラン,ブチルトリメトキシラン,ペンチルトリメトキシラン,ヘキシルトリメトキシラン,ヘキシルトリエトキシシラン,オクチルトリメトキシシラン,オクチルトリエトキシラン,デシルトリメトキシシラン,デシルトリエトキシシラン,ドデシルトリメトキシシラン,ドデシルトリエトキシシラン,ヘキサデシルトリメトキシシラン,ヘキサデシルトリエトキシシラン,オクタデシルトリメトキシシラン,オクタデシルトリエトキシシラン等のシラン化合物がある。前記シラン化合物は、一種又は二種以上混合して使用することができる。表面処理剤として、アルコキシシランと片末端シラノールシロキサンや片末端トリメトキシシリルポリシロキサンを併用してもよい。ここでいう表面処理とは共有結合のほか吸着なども含む。
【0051】
(5)耐熱性向上剤(E成分)
E成分は、粉末のまま添加しても良く、樹脂とマスターバッチ化して使用しても良い。マスターバッチに使用する樹脂はシリコーンポリマーが好ましく、硬化性シリコーンポリマーでも反応基のないシリコーンポリマーでも良く、またその両方を使用したものでも良い。
【0052】
(6)その他添加剤
本発明の組成物には、必要に応じて前記以外の成分を配合することができる。例えばベンガラ、酸化チタン、酸化セリウムなどの耐熱向上剤、難燃助剤、硬化遅延剤などを添加してもよい。着色、調色の目的で有機或いは無機粒子顔料を添加しても良い。フィラー表面処理などの目的で添加する材料として、アルコキシ基含有シリコーンを添加しても良い。また、付加硬化反応基を持たないオルガノポリシロキサンを添加しても良い。25℃での粘度が10〜100,000mPa・s、特に100〜10,000mPa・sであることが作業性から望ましい。
【実施例】
【0053】
以下実施例を用いて説明する。本発明は実施例に限定されるものではない。各種パラメーターについては下記の方法で測定した。
<熱伝導率>
熱伝導性シリコーン複合材料シートの熱伝導率は、ホットディスク(ISO/CD 22007−2準拠)により測定した。この熱伝導率測定装置1は図1Aに示すように、ポリイミドフィルム製センサ2を2個の試料3a,3bで挟み、センサ2に定電力をかけ、一定発熱させてセンサ2の温度上昇値から熱特性を解析する。センサ2は先端4が直径7mmであり、図1Bに示すように、電極の2重スパイラル構造となっており、下部に印加電流用電極5と抵抗値用電極(温度測定用電極)6が配置されている。熱伝導率は以下の式(数1)で算出する。
【数1】
<耐熱性試験1:屈曲性試験>
図2に示すように、長さ100mm、幅20mm、厚さ2mmのシリコーン樹脂シート7を作製し、所定の温度、時間で熱処理した後、このシリコーン樹脂シート7を水平にして保持部8で保持する。シリコーン樹脂シート7のL1=40mm部分は出し、L2=60mm部分は保持する。シリコーン樹脂シート7’は保持部8から垂れた状態を示す。保持部8の先端から自重で垂れたシリコーン樹脂シート7’の先端部分を通る漸近線と、保持部8からの水平線との角度θを測定する。熱処理の初期は直角に垂れるので90°曲がるが、硬化劣化が進むと曲がらなくなるので0°に近づく。すなわち、角度θの高いほうが耐熱性は高い。屈曲性試験は試験数3の平均値とした。
図3は同、耐熱性試験(屈曲性試験)の測定写真である。
<耐熱性試験2:針入度試験>
所定の温度、時間で熱処理した後、このシリコーン樹脂サンプルをJIS K2220(1/4コーン)による針入度を測定した。針入度は高い数字のほうがシリコーン樹脂は柔らかく、耐熱性が高い。針入度は試験数3の平均値とした。
【0054】
(実施例1)
(1)ベースポリマー
硬化後シリコーンゲルとなる2液付加硬化型シリコーンポリマーを使用した。一方の液(A液)には、ベースポリマー成分(A成分)と白金族系金属触媒(C成分)が含まれており、他方の液(B液)には、ベースポリマー成分(A成分)と架橋剤成分(B成分)であるオルガノハイドロジェンポリシロキサンが含まれている。
(2)耐熱性向上剤
前記化学式(化1)で示されるインダンスレンP.B.60を0.04gと、エポキシ化合物として前記化学式(化5)で示される3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランとを0.94モル倍0.02gをジメチルシリコーンオイル(粘度300cs,25℃)30.0gに添加しで均一に混合し希釈した(以下「耐熱性向上剤1」という)。
(3)混合及び硬化物成形
前記2液付加硬化型シリコーンポリマー100gに前記耐熱性向上剤1を3.0g加え、均一に混合して組成物とした。耐熱性向上剤1はシリコーンオイルで希釈されており、シリコーンオイルをシリコーン樹脂に含めると、シリコーン樹脂100質量部に対して耐熱性向上剤1は0.0039質量部であった。
混合物を200mLビーカーに流し込んだ後、100℃、30分加熱し、シリコーンゲル硬化物を得た。
【0055】
(比較例1)
耐熱性向上剤を加えない以外は実施例1と同様に実施した。以上の結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
表1から明らかなとおり、実施例1の耐熱性シリコーン樹脂は高温で長時間熱処理しても軟らかく、比較例1に比べて耐熱性が高かった。
【0058】
(実施例2)
耐熱性向上剤として前記(化2)に示すキナクリドンP.V.19を使用し、熱伝導性充填剤を使用し、表2に示す組成とした以外は実施例1と同様に混合物を得た。離型処理をしたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムで組成物を挟み込み、ロールプレス機にて厚み2.0mmのシート状に成形し、100℃、30分加熱硬化し、シリコーンゲルシートを成形した。熱伝導性充填剤はシランカップリング剤:デシルトリメトキシシランで表面処理されたものを用いた。熱伝導性充填剤100質量部に対し、シランカップリング剤は0.66質量部付与し、120℃,12時間熱処理して固着させた(前処理法)。これにより、白金族系金属触媒(C成分)の触媒能である硬化反応が損なわれることを防いだ。なお、平均粒子径は、レーザー回折光散乱法による粒度分布測定において、体積基準による累積粒度分布のD50(メジアン径)である。この測定器としては、例えば堀場製作所製社製のレーザー回折/散乱式粒子分布測定装置LA−950S2がある。得られた熱伝導性シリコーンゲルシートの硬化後のアスカーC硬度は44であり、熱伝導率は4.4W/m・Kであった。
【0059】
【表2】
【0060】
(実施例3)
耐熱性向上剤として前記(化3)に示すキナクリドンP.R.122を使用した以外は実施例2と同様に実施した。
【0061】
(実施例4)
耐熱性向上剤として前記(化4)に示すジケトピロロピロールP.R.264を使用した以外は実施例2と同様に実施した。
【0062】
(実施例5)
耐熱性向上剤として前記(化1)に示すインダンスレンP.B.60を使用した以外は実施例2と同様に実施した。
【0063】
(実施例6)
耐熱性向上剤として前記(化1)に示すインダンスレンP.B.60と、エポキシ化合物として前記化学式(化5)で示される3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランとを1モル倍反応させた化合物を耐熱性向上剤として用いた以外は実施例2と同様に実施した。
【0064】
(実施例7)
耐熱性向上剤として前記(化3)に示すキナクリドンP.R.122を0.91質量部使用した以外は実施例2と同様に実施した。
【0065】
(実施例8)
耐熱性向上剤として前記(化3)に示すキナクリドンP.R.122を3.32質量部使用した以外は実施例2と同様に実施した。
【0066】
(実施例9)
耐熱性向上剤として前記(化3)に示すキナクリドンP.R.122を6.62質量部使用した以外は実施例2と同様に実施した。
【0067】
(比較例2)
耐熱性向上剤として下記(化9)に示すフタロシアニン銅(PcCu)を使用した以外は実施例2と同様に実施した。
【化9】
【0068】
(比較例3)
耐熱性向上剤として下記(化10)に示すペリレンP.R.149を使用した以外は実施例2と同様に実施した。
【化10】
【0069】
(比較例4)
耐熱性向上剤として下記(化11)に示すペリレンP.O.43を使用した以外は実施例2と同様に実施した。
【化11】
【0070】
(比較例5)
耐熱性向上剤として上記(化9)に示すフタロシアニン銅(PcCu)を1.33質量部使用した以外は実施例2と同様に実施した。
【0071】
(比較例6)
耐熱性向上剤として何も添加しない以外は実施例2と同様に実施した。
以上の耐熱性試験の結果は表3および表4に示す。
【0072】
【表3】
【0073】
【表4】
【0074】
表3、表4から明らかなとおり、実施例2〜9は180℃または200℃耐熱性屈曲性試験において、高い耐熱性を有することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の耐熱性シリコーン樹脂組成物及び耐熱性シリコーン樹脂複合材料は、電気・電子部品等の発熱部と放熱体の間に介在させるのに好適である。とくに、金属原子を含まない耐熱向上剤を使用し、高温時にも硬くなりにくい耐熱性シリコーン樹脂組成物及び耐熱性シリコーン樹脂複合材料とすることは、電子・電気部品にとって大きな利点となる。
【符号の説明】
【0076】
1 熱伝導率測定装置
2 センサ
3a,3b 試料
4 センサの先端
5 印加電流用電極
6 抵抗値用電極(温度測定用電極)
7,7’ シリコーンシート
8 保持部
θ 角度
【要約】
シリコーン樹脂と耐熱性向上剤を含む耐熱性シリコーン樹脂組成物であって、前記耐熱性向上剤は環状構造中に2級のアミノ基を1個以上、かつケトン基を1個以上含む有機多環芳香族化合物である。前記有機多環芳香族化合物としては、例えば下記(化1)に示すキナクリドン(P.V.19)がある。本発明のシリコーン樹脂複合材料は、前記耐熱性シリコーン樹脂組成物に無機充填剤及び有機充填剤から選ばれる少なくとも一つの充填剤が含有されている。これにより、耐熱性の高いシリコーン樹脂組成物及びシリコーン樹脂複合材料を提供する。
【化1】
図1
図2
図3