特許第6935170号(P6935170)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6935170
(24)【登録日】2021年8月27日
(45)【発行日】2021年9月15日
(54)【発明の名称】救命処置用シート
(51)【国際特許分類】
   A61H 31/00 20060101AFI20210906BHJP
   A61F 13/14 20060101ALI20210906BHJP
【FI】
   A61H31/00
   A61F13/14 A
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-86270(P2016-86270)
(22)【出願日】2016年4月22日
(65)【公開番号】特開2017-192649(P2017-192649A)
(43)【公開日】2017年10月26日
【審査請求日】2019年2月5日
【審判番号】不服2020-8604(P2020-8604/J1)
【審判請求日】2020年6月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 弘行
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 克紀
(72)【発明者】
【氏名】河村 秀高
【合議体】
【審判長】 千壽 哲郎
【審判官】 莊司 英史
【審判官】 倉橋 紀夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−186641(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0228205(US,A1)
【文献】 特開2011−104310(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0149157(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者に対して救命処置を施す際に、仰向けに横たわる前記患者の胸部を覆うように前記患者の胸部に掛けられる救命処置用シートであって、
前記患者の胸部を覆う大きさのシートに胸骨圧迫すべき箇所が描かれ、
前記患者の胸部に前記シートを覆った際に、前記患者の身長方向の寸法よりも前記患者の肩幅方向の寸法が大きく、
さらに、
前記肩幅方向における前記シートの両端部の各々には、前記患者に対する処置内容が互いに対向するように記載されており、
前記シートを前記患者の胸部に沿って屈曲させながら前記患者の胸部に被せた状態において、救護者から遠い側の前記シートの端部に記載される前記処置内容を説明する説明文の文字は、前記患者に胸骨圧迫を施す姿勢の救護者が前記肩幅方向に沿った方向から視認したとき、正立の向きで視認可能に記載されている、
救命処置用シート。
【請求項2】
前記シートは、前記患者の胸部に前記シートを覆った際に、前記患者の首に対応する部分に切り込み部を有する、
請求項1に記載の救命処置用シート。
【請求項3】
前記シートが半透明である、
請求項1または請求項2に記載の救命処置用シート。
【請求項4】
前記シートは、表面が防水面とされ、裏面が高摩擦面である、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の救命処置用シート。
【請求項5】
前記シートには、前記患者に対する処置内容を表す説明図が記載されている、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の救命処置用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者に救命処置を施す際に用いられる救命処置用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、心肺蘇生の手順などが表示されたシートがある(例えば、特許文献1参照)。このシートは、縦長に形成されており、心肺蘇生などの救命処置を施す際に、仰向けに横たわる患者の胸部を覆うように被せられる。このシートを用いれば、心肺蘇生法の知識や経験が乏しい人でも、倒れている患者の胸部に被せたシートの表示の手順に従うことで、心肺蘇生を実施することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−104310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年では、駅、空港あるいは商業施設などの公共の施設等にAED(自動体外式除細動器)が設置されている。このAEDを使用する場合、救命処置を要する患者の胸部を露出させ、2枚の電極パッドを患者の胸部の所定位置に貼り付ける必要がある。
【0005】
ところで、AEDを使用するとき、プライバシーの保護の観点から、露出させた患者の胸部を隠したいという要求がある。この場合、特許文献1に記載の縦長のシートを患者の胸部に掛けたとしても、患者の胸部を完全に覆いきれず、シートの両側から体の一部が露出してしまい、患者のプライバシーが十分に保護されないという問題があった。
【0006】
本発明は、患者の胸部を確実に覆い、救命処置を施す際の患者のプライバシーを確実に保護することが可能な救命処置用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる救命処置用シートは、
患者に対して救命処置を施す際に、仰向けに横たわる前記患者の胸部を覆うように前記患者の胸部に掛けられる救命処置用シートであって、
前記患者の胸部を覆う大きさのシートに胸骨圧迫すべき箇所が描かれ、
前記患者の胸部に前記シートを覆った際に、前記患者の身長方向の寸法よりも前記患者の肩幅方向の寸法が大きい。
【0008】
この救命処置用シートによれば、仰向けに横たわった患者の上半身に掛けることで、患者の胸部の全体を覆うことができる。そのとき、シートは、患者の身長方向の寸法よりも患者の肩幅方向の寸法が大きいので、患者の腕を含んだ胸部の両側も確実に覆うことができる。これにより、救命処置を施す際の患者のプライバシーを確実に保護することができる。特に、患者が女性である場合に、女性のプライバシーを確実に保護しつつ救命処置を施すことができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、患者の胸部を確実に覆い、救命処置を施す際の患者のプライバシーを確実に保護することが可能な救命処置用シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る救命処置用シートの平面図である。
図2】救命処置用シートを患者の胸部に被せた状態を示す平面図である。
図3図2におけるA矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る救命処置用シートの実施の形態の例を、図面を参照して説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る救命処置用シート11の平面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る救命処置用シート11は、人体の胸部を模った図柄12を有したシート13からなる。図柄12(胸部)には、緊急時に胸骨圧迫すべき箇所を使用者に案内するための図柄12A(手や目標点等)が重ねて描かれている。この救命処置用シート11は、例えば、AED(自動体外式除細動器)のケース内に収容され、AEDの使用時に用いられる。
【0013】
図2は、救命処置用シート11を患者Pの胸部に被せた状態を示す平面図である。図3は、図2におけるA矢視図である。
図2及び図3に示すように、救命処置用シート11は、患者Pに対して救命処置を施す際に、仰向けに横たわる患者Pの胸部を覆うように患者Pの胸部に掛けられる。
【0014】
シート13は、例えば、紙やシート状の合成樹脂からなるもので、平面視で長方形状に形成されている。シート13は、図柄12の胸部の上下方向に沿う縦方向の寸法L1よりも図柄12の胸部の左右方向に沿う横方向の寸法L2が大きく形成されている。患者Pの胸部にシート13を覆った際に、シート13の縦方向の寸法L1は、患者Pの身長方向における寸法に相当し、本例では、患者Pの頭部Hの約半分の位置から腹部に達する長さに形成されている。また、患者Pの胸部にシート13を覆った際に、シート13の横方向の寸法L2は、患者Pの肩幅方向における寸法に相当し、本例では、患者Pの両側部から側方へ延在する位置に達する長さに形成されている。
【0015】
また、シート13は、図柄12の胸部の首に対応する部分に切り込み部15を有している。切り込み部15は、円弧状に形成されており、この切り込み部15に患者Pの顎部を入り込ませることが可能とされている。切り込み部15は、患者Pの胸部にシート13を覆った際に、患者Pの首に対応する部分に配置され得る。
【0016】
シート13には、患者Pに対する処置内容21が記載されている。この処置内容21は、患者Pに対する胸骨圧迫などの処置内容を表す説明図D1及び説明文Sである。この処置内容21は、シート13における図柄12の胸部の左右両側から視認して把握可能な位置にそれぞれ記載されている。シート13の処置内容21は、患者Pの胸部にシート13を覆った際に、患者Pの左右両側から視認して把握可能な位置にそれぞれ記載されている。これにより、患者Pに対して救命処置を施す救護者は、患者Pの左右のいずれからでも処置内容21を視認して救命処置のやり方を把握することができる。また、この処置内容21は、シート13の左右の端の方に記載されている。
【0017】
また、シート13には、その中央にも、患者Pに対する処置内容22が記載されている。この処置内容22は、患者Pに対する胸骨圧迫位置及びその胸骨圧迫位置で胸骨圧迫する際の手の組み方などの処置内容を表す説明図D2である。
【0018】
シート13は、例えば、透明なシート材に着色したり、透明なシート材の表面を粗面化することで、半透明とされており、シート13を介して患者Pの胸部に装着した電極パッドを視認できる程度の光透過性を有している。また、シート13は、図柄12や処置内容21,22が記載された表面が、防水材を塗布したり、防水加工を施すことで防水面として形成されている。また、シート13は、患者Pと接触する裏面が、高摩擦材を塗布したり、粗面化することで高摩擦面として形成されている。また、シート13は、中央の図柄12及び処置内容22と両端の処置内容21との間が余白13Aとして形成されている。
【0019】
次に、上記の救命処置用シート11を使用する場合について説明する。
【0020】
AEDのケースを開け、電極パッドを引き出すとともに、ケース内に収容されている救命処置用シート11を取り出す。
【0021】
次に、救命処置が必要な仰向けに横たわる患者Pの胸部を露出させ、胸部の所定位置に電極パッドを貼り付ける。
【0022】
その後、救命処置用シート11を広げ、図柄12に合わせて患者Pの胸部に掛ける。このとき、シート13の切り込み部15を患者Pの首に合わせて患者Pに掛け、さらに、患者Pの胸部に沿って両側を屈曲させながら患者Pに被せる。これにより、患者Pは、露出された胸部の全体が救命処置用シート11で覆われた状態となり、プライバシーが確保される。なお、救命処置用シート11を患者Pの胸部に沿って屈曲させながら患者Pに被せることで、患者Pの左右両側を覆う部分に余白13Aが配置される。
【0023】
患者Pの胸部に救命処置用シート11を被せたら、救護者は、患者Pに対して胸骨圧迫などの処置を施す。このとき、救命処置用シート11には、シート13における図柄12の胸部の左右両側から視認して把握可能な位置に処置内容21を表す説明図D1及び説明文Sが記載されているので、救護者は、患者Pの左右のいずれからでも処置内容21を視認することができる。そして、救護者は、処置内容21によって処置の手順を把握するとともに、シート13の中央に記載された処置内容22に沿って、患者Pに対する胸骨圧迫位置及び胸骨圧迫する際の手の組み方を把握し、患者Pに対して救命処置を施す。
【0024】
さらに、救護者は、AEDから流れる音声にしたがってAEDを操作する。これにより、AEDによって患者Pの心電図が解析され、患者Pに対して必要に応じて電気ショックが行われる。
【0025】
このように、上記実施形態に係る救命処置用シート11によれば、シート13が図柄12の胸部の上下方向に沿う縦方向の寸法L1よりも図柄12の胸部の左右方向に沿う横方向の寸法L2が大きく形成されているので、図柄12に合わせて仰向けに横たわった患者Pに掛けることで、患者Pの胸部の全体を覆うことができる。そのとき、シート13は、図柄12の胸部の上下方向に沿う縦方向の寸法L1よりも図柄12の胸部の左右方向に沿う横方向の寸法L2が大きく形成されているので、患者Pの腕Arを含んだ胸部の両側も確実に覆うことができる。これにより、救命処置を施す際の患者Pのプライバシーを確実に保護することができる。特に、患者Pが女性である場合に、女性のプライバシーを確実に保護しつつ救命処置を施すことができる。
【0026】
しかも、図柄12の胸部の上下方向に沿う縦方向の寸法L1よりも図柄12の胸部の左右方向に沿う横方向の寸法L2が大きくされた形状になっているので、患者Pに対して救命処置を施す緊急時にも、シート13を迅速に広げて患者Pを覆うことができ、特に体の厚みが大きい人でも確実に覆うことができる。
【0027】
また、シート13は、人体の胸部を模った図柄12の首に対応する部分に切り込み部15を有する。したがって、シート13の切り込み部15を目印として患者Pの首に合わせることで、患者Pの胸部に位置決めして被せることができる。これにより、シート13をずれなく患者Pの胸部に容易にかつ迅速に被せて患者Pの胸部を覆うことができる。
【0028】
しかも、シート13には、患者Pに対する処置内容21が記載されている。したがって、この処置内容21の記載を視認して把握することで、患者Pに対する胸骨圧迫などの処置を施すことができる。また、処置内容21の記載が患者Pの左右両側から視認して把握可能であるので、患者Pの左右のどちらからでも患者Pに対する処置を把握して施すことができる。特に、胸骨圧迫は救護者が一人で長時間実施するのは体力的にかなりの負担であり、交代して行われることが多い。左右両側から視認できることで、救護者は入れ替わることなく交互に胸骨圧迫を実施できる。
【0029】
例えば、この処置内容21がシート13の中央寄りに記載されていると、患者Pに被せた際に患者Pの厚み部分に配置されて上方から視認しづらくなる。しかし、この処置内容21は、シート13の左右の端の方に記載されているので、この処置内容21が患者Pの厚み部分に配置されず、したがって、シート13を患者Pに被せた状態でも、上方から容易に視認できる。
【0030】
また、説明文Sおよび説明図D1は、図2および図3の符号21の位置(シート13の左右の端)に配置されている。このため、救護者が処置内容22を行う際、救護者は説明文Sおよび説明図D1を確認しようとして、救護者が患者Pの上に身を乗り出す姿勢になることが誘導され得る。この結果、救護者が、胸骨圧迫のための正しい姿勢に自然となることが期待できる。
【0031】
また、シート13は、半透明であるので、患者Pの胸部をシート13で覆った状態で、シート13の上から患者Pの胸部に装着した電極パッド等の救命処置用具を視認して装着位置を確認することができる。
【0032】
しかも、シート13は、表面が防水面であるので、屋外で使用する場合であっても、シート13の表面の防水面で雨水などの水によって電極パッド等の救命処置用具が装着された患者Pが濡れるのを防ぐことができる。また、シート13は、裏面が高摩擦面であるので、患者Pの胸部に被せた状態での位置ずれを防止することができる。
【0033】
また、シート13には、説明図D2からなる処置内容22が記載されているので、説明図D2を視認することで、患者Pに対する処置を容易に把握することができる。これにより、使用言語の違いなどに影響されることなく、患者Pに対して誰でも適切な処置を施すことができる。
【0034】
ここで、シート13を患者Pの胸部に沿って屈曲させながら患者の胸部に被せると、シート13の患者Pの両側を覆う部分は上方から視認することが難しくなる。このため、この上方からの視認が難しい部分を余白13Aとすることで、余白部分以外の部分に記された処置内容21,22を上方から容易に視認して把握することができる。特に患者Pの胸板が厚い場合でも、余白13Aを設けることで救護者は確実に説明図D1及び説明文Sを視認できる。
【0035】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が自在である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置場所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【符号の説明】
【0036】
11:救命処置用シート、12:図柄、13:シート、15:切り込み部、21,22:処置内容、D1,D2:説明図、L1:縦方向の寸法、L2:横方向の寸法、P:患者
図1
図2
図3