特許第6935213号(P6935213)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6935213
(24)【登録日】2021年8月27日
(45)【発行日】2021年9月15日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/22 20060101AFI20210906BHJP
   B60C 9/18 20060101ALI20210906BHJP
【FI】
   B60C9/22 G
   B60C9/22 D
   B60C9/18 K
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-69095(P2017-69095)
(22)【出願日】2017年3月30日
(65)【公開番号】特開2017-186000(P2017-186000A)
(43)【公開日】2017年10月12日
【審査請求日】2019年12月19日
(31)【優先権主張番号】特願2016-69414(P2016-69414)
(32)【優先日】2016年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100164448
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 雄輔
(72)【発明者】
【氏名】桑山 勲
【審査官】 市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−121868(JP,A)
【文献】 特開平05−116504(JP,A)
【文献】 特開2004−034907(JP,A)
【文献】 特開2006−193093(JP,A)
【文献】 特開2002−337510(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/041554(WO,A3)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C1/00−19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード部間にトロイダル状に跨るカーカスと、該カーカスのクラウン部のタイヤ径方向外側にタイヤ赤道を通って配置され、タイヤ周方向に対する傾斜角度が30°以上のコードを有する、少なくとも1層の傾斜ベルト層と、前記傾斜ベルト層のタイヤ径方向外側に配置されるトレッドと、を具える空気入りタイヤであって、
前記傾斜ベルト層のタイヤ径方向内側に配置され、タイヤ周方向に沿って延びるコードを有する少なくとも1層の第1周方向コード層と、
前記傾斜ベルト層のタイヤ幅方向端を覆ってタイヤ径方向外側に配置され、タイヤ周方向に沿って延びるコードを有し、コードのヤング率をY(GPa)、打ち込み数をn(本/50mm)とし、周方向コード層をm層として、X=Y×n×mと定義するとき、Xが前記第1周方向コード層のXよりも小さい、第2周方向コード層と、
を有し、
前記第1周方向コード層は、タイヤ幅方向における単位幅当たりのタイヤ周方向剛性が高い、タイヤ赤道を含む高剛性領域と、タイヤ幅方向における単位幅当たりのタイヤ周方向剛性が低い、前記高剛性領域のタイヤ幅方向両側の低剛性領域とを有し、
前記第2周方向コード層のXは、前記第1周方向コード層のXの5%以上50%以下であり、
前記第1周方向コード層のXは、1500≧X≧750、を満たすことを特徴とする、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記第1周方向コード層の高剛性領域は、タイヤ赤道に対してタイヤ幅方向に非対称配置されている、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記傾斜ベルト層は、タイヤ幅方向における単位幅当たりのタイヤ周方向剛性が高い、タイヤ赤道を含む高剛性領域と、タイヤ幅方向における単位幅当たりのタイヤ周方向剛性が低い、前記高剛性領域のタイヤ幅方向両側の低剛性領域とを有する、請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記傾斜ベルト層の高剛性領域は、タイヤ赤道に対してタイヤ幅方向に非対称配置されている、請求項3に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車走行中に転動するタイヤが発生させるタイヤ騒音は、タイヤ性能の一つとして捉えられ、タイヤ性能向上のための種々の改良が検討されている。タイヤ騒音を発生させる要因の一つに、トレッド部の振動による放射音が挙げられる。
ところで、近年、タイヤの転がり抵抗を低減するべくタイヤの軽量化が図られているが、軽量化に伴って、転動中のタイヤにおける振動の減衰性が低減し、タイヤから放出される放射音が大きくなる傾向がある。
放射音を低減するものとしては、例えば、操縦安定性能及び転がり抵抗性能を維持しながら騒音性能を向上させた空気入りタイヤ(特許文献1参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2013/161296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況の下、例えば、タイヤの軽量化等によりタイヤの転がり抵抗の低減等を図った場合であっても、トレッド部の振動による放射音をより効果的に抑制し得るタイヤが望まれている。
そこで、この発明の目的は、転がり抵抗を低減しつつ、制駆動性能を向上させた空気入りタイヤを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、この発明に係る空気入りタイヤは、一対のビード部間にトロイダル状に跨るカーカスと、該カーカスのクラウン部のタイヤ径方向外側にタイヤ赤道を通って配置され、タイヤ周方向に対する傾斜角度が30°以上のコードを有する、少なくとも1層の傾斜ベルト層と、前記傾斜ベルト層のタイヤ径方向外側に配置されるトレッドと、を具える空気入りタイヤであって、前記傾斜ベルト層のタイヤ径方向内側に配置され、タイヤ周方向に沿って延びるコードを有する少なくとも1層の第1周方向コード層と、前記傾斜ベルト層のタイヤ幅方向端を覆ってタイヤ径方向外側に配置され、タイヤ周方向に沿って延びるコードを有し、コードのヤング率をY(GPa)、打ち込み数をn(本/50mm)とし、周方向コード層をm層として、X=Y×n×mと定義するとき、Xが前記第1周方向コード層のXよりも小さい、第2周方向コード層と、を有することを特徴とする。
【0006】
上記傾斜ベルト層とは、タイヤ周方向に対し傾斜して延びるコードを有するベルト層であり、周方向コード層とは、タイヤ周方向に沿って延びるコードを有する層である。ここで、「タイヤ周方向に沿って延びる」とは、コードがタイヤ周方向に平行である場合や、コードがタイヤ周方向に対してわずかに傾斜している場合(タイヤ周方向に対する角度が5°程度以下のもの)を含むものとする。
この発明に係る空気入りタイヤによれば、転がり抵抗を低減しつつ、制駆動性能を向上させることができる。
【0007】
この発明の空気入りタイヤでは、前記第1周方向コード層は、タイヤ幅方向における単位幅当たりのタイヤ周方向剛性が高い、タイヤ赤道を含む高剛性領域と、タイヤ幅方向における単位幅当たりのタイヤ周方向剛性が低い、前記高剛性領域のタイヤ幅方向両側の低剛性領域とを有する、ことが好ましい。この構成によれば、騒音性能を改善することができる。
この発明の空気入りタイヤでは、前記第1周方向コード層の高剛性領域は、タイヤ赤道に対してタイヤ幅方向に非対称配置されている、ことが好ましい。この構成によれば、タイヤから生じる放射音をより一層低減することが可能になり、更なる騒音の改善ができる。
【0008】
この発明の空気入りタイヤでは、前記傾斜ベルト層は、タイヤ幅方向における単位幅当たりのタイヤ周方向剛性が高い、タイヤ赤道を含む高剛性領域と、タイヤ幅方向における単位幅当たりのタイヤ周方向剛性が低い、前記高剛性領域のタイヤ幅方向両側の低剛性領域とを有する、ことが好ましい。この構成によれば、騒音性能を改善することができる。
この発明の空気入りタイヤでは、前記傾斜ベルト層の高剛性領域は、タイヤ赤道に対してタイヤ幅方向に非対称配置されている、ことが好ましい。この構成によれば、タイヤから生じる放射音をより一層低減することが可能になり、更なる騒音の改善ができる。
この発明の空気入りタイヤでは、前記第2周方向コード層のXは、前記第1周方向コード層のXの50%以下である、ことが好ましい。この構成によれば、振動モードの改善効果が大きく、更に放射音を減少させることができる。
【0009】
本明細書において、上述したタイヤ幅方向幅等は、特に断りのない限り、タイヤを適用リムに装着して規定内圧を充填し、無負荷の状態で測定するものとする。
「適用リム」とは、タイヤサイズに応じて下記の規格に規定された標準リム(ETRTO STANDARDS MANUALでは「Measuring Rim」、TRA YEAR BOOKでは「Design Rim」)をいい、「規定内圧」とは、下記の規格において、最大負荷能力に対応して規定される空気圧をいい、「最大負荷能力」とは、下記の規格でタイヤに負荷されることが許容される最大の質量をいう。そして、その規格とは、タイヤが生産され、使用される地域に有効な産業規格であって、日本ではJATMA YEAR BOOK、欧州ではETRTO STANDARDS MANUAL、米国ではTRA YEAR BOOKを指す。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、転がり抵抗を低減しつつ、制駆動性能を向上させた空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】この発明の第1実施形態に係る空気入りタイヤを模式的に示し、(a)はタイヤ全体のタイヤ幅方向の断面図、(b)は(a)のトレッド部における層構造の平面説明図である。
図2】この発明の第2実施形態に係る空気入りタイヤを模式的に示し、(a)はトレッド部における層構造の平面説明図、(b)は他の例を示す(a)と同様の平面説明図である。
図3】この発明の第3実施形態に係る空気入りタイヤを模式的に示し、(a)はトレッド部における層構造の平面説明図、(b)は他の例を示す(a)と同様の平面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
(第1実施形態)
図1に示すように、この発明の第1実施形態に係る空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」とも称する)10は、一対のビード部11間にトロイダル状に跨るカーカス12と、カーカス12のクラウン部のタイヤ径方向外側に配置される傾斜ベルト層13と、傾斜ベルト層13のタイヤ径方向内側に配置される第1周方向コード層14と、傾斜ベルト層13のタイヤ幅方向端を覆ってタイヤ径方向外側に配置される第2周方向コード層(レイヤー層)15と、傾斜ベルト層13のタイヤ径方向外側に配置されるトレッド16(図1(a)参照)と、を具えている。この空気入りタイヤ10は、自動車に装着されて用いられるが、特に、乗用車用の空気入りタイヤとして適している。
【0013】
傾斜ベルト層13は、タイヤ周方向に対して傾斜するコードを有しており、タイヤ赤道CLを通って配置された、少なくとも1層、本実施形態では、タイヤ幅方向幅が相対的に広い広幅傾斜ベルト層13aと、タイヤ幅方向幅が相対的に狭い狭幅傾斜ベルト層13bの2層、からなる。ここで、少なくとも、広幅傾斜ベルト層13aのタイヤ幅方向中心とタイヤ赤道CLが一致することが好ましく、本実施形態では、広幅傾斜ベルト層13a及び狭幅傾斜ベルト層13bのタイヤ幅方向中心とタイヤ赤道CLが一致している。
この傾斜ベルト層13の最も幅の広い最大幅傾斜ベルト層(本実施形態では、広幅傾斜ベルト層13a)の幅は、トレッド16のタイヤ幅方向幅(トレッド幅)の90%〜115%、好ましくは100%〜105%(本実施形態では、105%)に設定されている。
【0014】
傾斜ベルト層13のコードの材質は、金属コード、特にスチールコードを用いることができるが、有機繊維コードを用いることも可能である(本実施形態では、スチールコード)。スチールコードは、スチールを主成分とし、炭素、マンガン、ケイ素、リン、硫黄、銅、クロムなど種々の微量含有物を含むことができる。また、モノフィラメントコードや、複数のフィラメントを撚り合せたコードを用いることができ、撚り構造も種々の設計が採用可能であり、断面構造、撚りピッチ、撚り方向、隣接するフィラメント同士の距離も様々なものを使用することができる。更には、異なる材質のフィラメントを撚り合せたコードを採用することもでき、断面構造としても、特に限定されず、単撚り、層撚り、複撚りなど様々な撚り構造を取ることができる。
【0015】
傾斜ベルト層13のコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は30°以上、85°以下、好ましくは50°以上、75°以下である。傾斜ベルト層13のコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度が30°未満の場合、タイヤ幅方向に対する剛性が低下するため、特にコーナリング時の操縦安定性能が十分得られないと共に、層間ゴムのせん断変形が増大するため、転がり抵抗性能が悪化する。また、傾斜ベルト層13のコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度を50°以上とすることにより、操縦安定性能及び転がり抵抗性能を高いレベルで維持することができる。
打ち込み数は、例えば、20〜60本/50mmの範囲であるが、この範囲に限定されるのもでは無く、また、広幅傾斜ベルト層13aと狭幅傾斜ベルト層13bで同じくしても異ならせても良い。
【0016】
第1周方向コード層14は、タイヤ周方向に沿って延びるコードを有しており、傾斜ベルト層13よりもタイヤ径方向内側に、少なくとも1層、本実施形態では1層のみ、が設けられている。このように、第1周方向コード層14を傾斜ベルト層13よりもタイヤ径方向内側に配置(内層化)したことで、曲げ変形の中立軸をトレッド16の表面からタイヤ径方向内側に移動させることになる。そのため、トレッド部の剪断力をより高くし、制駆動性が向上する。
第1周方向コード層14は、高剛性であることが好ましく、より具体的には、タイヤ周方向に延びるコードのゴム引き層からなり、該コードのヤング率をY(GPa)、打ち込み数をn(本/50mm)とし、第1周方向コード層14をm層として、X=Y×n×mと定義するとき、1500≧X≧750であることが好ましい。
【0017】
第1周方向コード層14のタイヤ幅方向幅は、最大幅傾斜ベルト層(本実施形態では、広幅傾斜ベルト層13a)のタイヤ幅方向幅の90%〜110%が好ましい。
第1周方向コード層14は、タイヤ幅方向においてトレッド16の略全域を占めており、第1周方向コード層14のタイヤ幅方向端は、狭幅傾斜ベルト層13bのタイヤ幅方向端よりも幅方向外側、且つ広幅傾斜ベルト層13aのタイヤ幅方向端部よりも幅方向内側に位置するのが好ましい。
また、第1周方向コード層14のコード材料としては、種々の材質のものが採用可能であり、代表的な例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アラミド、スチール等を採用することができる。軽量化の点からは、有機繊維コードが特に好ましい。
【0018】
このコードは、モノフィラメントコードや、複数のフィラメントを撚り合せたコード、更には、異なる材質のフィラメントを撚り合せたハイブリッドコードを採用することもできる。打ち込み数は、20〜60本/50mmの範囲とするが、この範囲に限定されるのもではない。
第1周方向コード層14は、コード層全体に渡って、同一種類の材質のコードにより形成するのが好ましい。
また、第1周方向コード層14は、スパイラル層として構成することが製造の観点から特に有利であるが、平面内において互いに平行に配列された複数本のコアワイヤを、その平行配列を維持したままラッピングワイヤによって束ねた、ストリップ状のコードをスパイラル状に巻回して形成してもよい。
【0019】
第2周方向コード層15は、タイヤ周方向に沿って延びるコードを有し、最大幅傾斜ベルト層(本実施形態では、広幅傾斜ベルト層13a)のタイヤ幅方向両端のそれぞれを少なくともタイヤ径方向外側から覆って、タイヤ径方向外側に配置されており(本実施形態では、広幅傾斜ベルト層13aの外側に設けている)、タイヤ幅方向幅としては20〜30mmであることが好ましい。
なお、傾斜ベルト層13が、最大幅傾斜ベルト層(本実施形態では、広幅傾斜ベルト層13a)と、最大幅傾斜ベルト層(本実施形態では、広幅傾斜ベルト層13a)の90%〜100%のタイヤ幅方向幅を有する傾斜ベルト層(本実施形態では、狭幅傾斜ベルト層13b)の2層からなる場合、2層両方の両端部それぞれを第2周方向コード層15により覆うことが好ましい。
【0020】
傾斜ベルト層13を覆う第2周方向コード層15を設けることにより、傾斜ベルト層13の端部の耐久性を向上させることができる。
この第2周方向コード層15のコードの弾性率は、第1周方向コード層14のコードの弾性率よりも小さく(第2周方向コード層15<第1周方向コード層14)設定されており、本実施形態では、第1周方向コード層14のコードの弾性率に対し50%以下、5%以上(5%≦第2周方向コード層15のコードの弾性率/第1周方向コード層14のコードの弾性率≦50%)、好ましくは25%以下に設定される。このように設定することにより、傾斜ベルト層端部の耐久性を向上させることができる。
【0021】
上述したコードの弾性率は、コードのヤング率をY(GPa)、打ち込み数をn(本/50mm)とし、第1周方向コード層14をm層として、X=Y×n×mと定義するとき、Xで比較し、第2周方向コード層15のXが第1周方向コード層14のXよりも小さく、即ち、第1周方向コード層14のXの50%以下にしている。第2周方向コード層15のコードの弾性率が、第1周方向コード層14のコードの弾性率に比べて大きすぎると、第2周方向コード層15の端部でのトレッドゴムの歪が大きくなり、転がり抵抗性能の向上等で不利になる。
第2周方向コード層15のコード材料としては、種々の材質のものが採用可能であり、代表的な例としては、ナイロンを採用することができる。軽量化の点からは、有機繊維コードが特に好ましい。
【0022】
このコードは、モノフィラメントコードや、複数のフィラメントを撚り合せたコード、更には、異なる材質のフィラメントを撚り合せたハイブリッドコードを採用することもできる。打ち込み数は、20〜60本/50mmの範囲とするが、この範囲に限定されるのもではない。
また、第2周方向コード層15は、スパイラル層として構成することが製造の観点から特に有利である。
【0023】
トレッド16のパターンは、タイヤ赤道CLを挟んでタイヤ幅方向に対称としたパターン、或いは非対称としたパターンの何れでもよい。トレッド16の接地幅内におけるネガティブ率は、例えば30%以下とすることができる。トレッド16に周方向主溝を設ける場合は、2〜4本程度が好ましく、周方向主溝の溝幅は、4〜10mm程度が好ましい。なお、周方向主溝がなくてもよく、リブ状陸部やブロック状陸部としてもよい。
トレッド16を構成するトレッドゴムは、タイヤ径方向に異なる種類の複数のゴム層を有する、CAP/BASE構造により形成してもよい。複数のゴム層としては、正接損失、モジュラス、硬度、ガラス転移温度、材質等が異なっているものを使用することができる。また、複数のゴム層のタイヤ径方向の厚みの比率は、タイヤ幅方向に変化していてもよく、また周方向溝底のみ等を、その周辺と異なるゴム層とすることもできる。
【0024】
また、トレッドゴムは、タイヤ幅方向に種類の異なる複数のゴム層からなる分割トレッド構造により形成しても良い。複数のゴム層としては、正接損失、モジュラス、硬度、ガラス転移温度、材質等が異なっているものを使用することができる。また、複数のゴム層のタイヤ幅方向の長さの比率は、タイヤ径方向に変化していてもよく、また周方向溝近傍のみ、トレッド端近傍のみ、ショルダ陸部のみ、センタ陸部のみといった、限定された一部の領域のみをその周囲とは異なるゴム層とすることもできる。
【0025】
タイヤ幅方向断面におけるカーカス12の延在輪部である、カーカスラインには、空気入りタイヤにおける様々な構造を採用することができ、例えば、タイヤ径方向におけるカーカス最大幅位置を、ビード部側に近づけることやトレッド側に近づけることもできる。一例として、カーカス最大幅位置を、ビードベース部からタイヤ径方向外側に、タイヤ高さ対比で50%〜90%の範囲に設けることができる。カーカスのコードの打ち込み数も、空気入りタイヤにおける様々な構造を採用することができ、例えば、20〜60本/50mmの範囲が好ましいが、この範囲に限定されるものではない。また、カーカスのコード配置は、バイアス構造でもラジアル構造でもよい(本実施形態では、ラジアル構造を採用)。
【0026】
カーカス12がビード部11のビードコアを折返したカーカス折返し部も、空気入りタイヤにおける様々な構造を採用することができ、例えば、カーカス12の折り返し端をビードフィラー端よりもタイヤ径方向内側に位置させることができ、また、カーカス折り返し端をビードフィラー端やタイヤ最大幅位置よりもタイヤ径方向外側まで伸ばし、場合によってはベルト層のタイヤ幅方向端よりもタイヤ幅方向内側まで伸ばすこともできる。更に、カーカス12が複数のカーカス層からなる場合には、カーカス折り返し端のタイヤ径方向位置を異ならせることもできる。また、そもそもカーカス折り返し部を存在させずに、複数のビードコア部材で挟み込んだ構造やビードコアに巻き付けた構造を採用することもできる。
【0027】
タイヤサイド部において、タイヤ最大幅位置は、ビードベース部からタイヤ径方向外側に、タイヤ高さ対比で50〜90%の範囲に設けることができ、また、リムガードを有する構造とすることもできる。
また、ビードフィラーを設けないビードフィラーレス構造とすることもできる。
ビードコアは、円形や多角形状等、空気入りタイヤにおける様々な構造を採用することができ、また、上述の通り、ビードコアにカーカスを巻き付ける構造の他、ビードコアを分割してその複数のビードコア部材によりカーカスを挟み込む構造とすることもできる。また、ビードコア周辺を補強するため、ビード部に補強等を目的としてゴム層・コード層等を更に設けることもできる。このような追加部材は、カーカスやビードフィラーに対して様々な位置に設けることができる。
【0028】
タイヤ内面に配置するインナーライナーを構成するゴム組成物の空気透過係数を、1.0×10−14cc・cm/(cm・s・cmHg)以上、6.5×10−10cc・cm/(cm・s・cmHg)以下とすることが好ましく、例えば、ブチルゴムを主体としたゴム層とすることが好ましい(本実施形態ではブチルゴム)。なお、ブチルゴムを主体としたゴム層の他、樹脂を主成分とするフィルム層によって形成することもできる。
また、タイヤ内面には、空洞共鳴音を低減するために、多孔質部材(スポンジ等)を配置し、或いは静電植毛加工を行ってもよく、タイヤパンク時の空気の漏れを防ぐためのシーラント部材を備えることもできる。
また、空気入りタイヤを、タイヤサイド部に三日月型の補強ゴムを有する、サイド補強型ランフラットタイヤとすることもできる。
【0029】
本実施形態の空気入りタイヤ10では、傾斜ベルト層13、第1周方向コード層14及び第2周方向コード層15は、タイヤ幅方向のタイヤ赤道CLを挟んで対称となるように配置されている(図1参照)。なお、ビードフィラー、カーカス折り返し端部、タイヤサイド部外形等の少なくとも何れか一つを非対称に配置しても良い。
(第2実施形態)
【0030】
この発明の第2実施形態に係る空気入りタイヤ20は、第1周方向コード層14を、タイヤ幅方向幅が異なる2層の周方向コード層21a,21bにより構成している他は、上記第1実施形態に係る空気入りタイヤ10と同様の構成及び作用を有している。
図2(a)に示すように、本実施形態において、空気入りタイヤ20は、傾斜ベルト層13のタイヤ径方向内側に位置し、タイヤ幅方向幅が異なる2層の周方向コード層21a,21b、即ち、タイヤ幅方向幅が相対的に広い広幅周方向コード層21aと、タイヤ幅方向幅が相対的に狭い狭幅周方向コード層21bとから構成し、広幅周方向コード層21aをタイヤ径方向下側に、狭幅周方向コード層21bをタイヤ径方向上側に位置させている。
【0031】
本実施形態において、狭幅周方向コード層21bは、周方向コード層21のタイヤ幅方向最大幅でもある広幅周方向コード層21aのタイヤ幅方向幅の約0.5倍のタイヤ幅方向幅を有しており、広幅周方向コード層21a及び狭幅周方向コード層21bは、何れもタイヤ幅方向中心をタイヤ赤道CLに配置されている(図2(a)参照)。従って、周方向コード層21は、少なくともタイヤ赤道CLを含む、タイヤ幅方向幅の中央部分となるセンタ領域を、広幅周方向コード層21a及び狭幅周方向コード層21bの2層構造とし、センタ領域の何れの部分のタイヤ周方向剛性を、センタ領域に隣接する両ショルダ領域の何れの部分のタイヤ周方向剛性よりも高くしている。
【0032】
即ち、第1周方向コード層21は、タイヤ幅方向における単位幅当たりのタイヤ周方向剛性が高い、タイヤ赤道CLを含む高剛性領域(本実施形態では、広幅周方向コード層21aと狭幅周方向コード層21bが重なり合う領域)と、タイヤ幅方向における単位幅当たりのタイヤ周方向剛性が低い、高剛性領域のタイヤ幅方向両側の低剛性領域(本実施形態では、広幅周方向コード層21aと狭幅周方向コード層21bが重なり合わない、広幅周方向コード層21aのみの領域)とを有する。
【0033】
乗用車用タイヤの中でも、傾斜ベルト層のコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度が大きい(30°以上)タイヤでは、400Hz〜2kHzの高周波域において、断面方向の1次、2次及び3次等の振動モードにおいて、トレッド面が一律に大きく振動する形状となる傾向にあるため、大きな放射音が生じる。そこで、トレッドの幅方向中央部の周方向剛性を局所的に増加させると、トレッドの幅方向中央部がタイヤ径方向に広がり難くなり、放射音が減少する。
【0034】
上記構成を有することにより、空気入りタイヤ20は、騒音の発生を改善することができる。騒音モードの改善は、第2周方向コード層15の剛性が大きすぎると効果が得られ難いが、第2周方向コード層15の弾性率は、第1周方向コード層14の弾性率よりも小さく(第2周方向コード層15<第1周方向コード層21)設定されているので、振動モードの改善効果が得られ易い。
【0035】
この空気入りタイヤ20において、狭幅周方向コード層21bを、タイヤ赤道CLに対して非対称に配置しても良い。
図2(b)に示すように、狭幅周方向コード層21bは、狭幅周方向コード層21bのタイヤ幅方向両端側の各ショルダ領域のタイヤ幅方向幅を、同一ではなく異ならせており、タイヤ赤道CLに対して狭幅周方向コード層21bをタイヤ幅方向断面視で非対称に(本実施形態では、図面に向かって右側にずれて)配置した構成としている。即ち、第1周方向コード層21の高剛性領域は、タイヤ赤道CLに対してタイヤ幅方向に非対称配置されている。そのため、上述したような、放射音の原因となる振動モードの振幅が抑制されるのみならず、振動モードが2つの振動モードに分離されることになり、その結果、音のピークレベルがより効果的に下がるため、タイヤから生じる放射音をより一層低減することが可能になり、更なる騒音の改善ができる。
【0036】
このように、タイヤに生じる振動の振幅自体を小さくするとともに、当該振幅を異なるモードに分離することによって音のピークレベルを低減させる本発明のタイヤでは、他のタイヤ構成、例えば、傾斜ベルト層のコード角度の大きさに関係なく、タイヤから生じる放射音を低減することができる。
【0037】
より具体的には、例えば、傾斜ベルト層13のタイヤ周方向に対するコード角度が30°以上であるタイヤでは、傾斜ベルト層13が一律に振動する変形モードとなるため放射音が特に大きくなる傾向にあるところ、上記の本発明の構成を適用する、特には比較的高剛性であるセンタ領域を所定の割合で設けることにより、傾斜ベルト層13が一律に振動する変形モードを改善することができる。さらに、比較的低剛性であるショルダ領域のタイヤ幅方向幅を一方側と他方側とで異にすることにより、振動モードを分離して放射音の発生を低減することができる。
同様に、傾斜ベルト層13のコード角度が30°未満のタイヤにおいても、本発明の構成を適用することにより、放射音の低減効果を得ることができる。
(第3実施形態)
【0038】
この発明の第3実施形態に係る空気入りタイヤ30は、傾斜ベルト層13を、タイヤ幅方向幅が大きく異なる2層の傾斜ベルト層31a,31bにより構成している他は、上記第1実施形態に係る空気入りタイヤ10と同様の構成及び作用を有している。
図3(a)に示すように、本実施形態において、空気入りタイヤ30は、第1周方向コード層14のタイヤ径方向外側に位置する傾斜ベルト層31を、タイヤ幅方向幅を大きく異ならせた、タイヤ幅方向幅が相対的に広い広幅傾斜ベルト層31aと、タイヤ幅方向幅が相対的に狭い狭幅傾斜ベルト層31bとから構成している。狭幅傾斜ベルト層31bは、広幅傾斜ベルト層31aのタイヤ幅方向幅の約0.5倍のタイヤ幅方向幅を有し、広幅傾斜ベルト層31a及び狭幅傾斜ベルト層31bは、何れもタイヤ幅方向中心をタイヤ赤道CLに位置させている(図3(a)参照)。
【0039】
従って、傾斜ベルト層31は、少なくともタイヤ赤道CLを含む、タイヤ幅方向幅の中央部分となるセンタ領域を、広幅傾斜ベルト層31a及び狭幅傾斜ベルト層31bの2層構造とし、該センタ領域の何れの部分のタイヤ周方向剛性を、センタ領域に隣接する両ショルダ領域の何れの部分のタイヤ周方向剛性よりも高くしている。即ち、傾斜ベルト層31は、タイヤ幅方向における単位幅当たりのタイヤ周方向剛性が高い、タイヤ赤道CLを含む高剛性領域(本実施形態では、広幅傾斜ベルト層31aと狭幅傾斜ベルト層31bが重なり合う領域)と、タイヤ幅方向における単位幅当たりのタイヤ周方向剛性が低い、高剛性領域のタイヤ幅方向両側の低剛性領域(本実施形態では、広幅傾斜ベルト層31aと狭幅傾斜ベルト層31bが重なり合わない、広幅傾斜ベルト層31aのみの領域)とを有する。
【0040】
これにより、上記第2実施形態に係る空気入りタイヤ20の場合と同様、トレッド16の幅方向中央部のタイヤ周方向剛性を局所的に増加させたことで、トレッド16の幅方向中央部がタイヤ径方向に広がり難くなり、放射音が減少する。このように、本発明のタイヤでは、転がり抵抗性能と騒音性能とを両立させることができる。
【0041】
上記構成を有することにより、空気入りタイヤ30は、騒音の発生を改善することができる。騒音モードの改善は、第2周方向コード層15の剛性が大きすぎると効果が得られ難いが、第2周方向コード層15の弾性率は、傾斜ベルト層13の弾性率よりも小さく(第2周方向コード層15<傾斜ベルト層31)設定されているので、振動モードの改善効果が得られ易い。
【0042】
この空気入りタイヤ30において、狭幅傾斜ベルト層31bを、タイヤ赤道CLに対して非対称に配置しても良い。
図3(b)に示すように、狭幅傾斜ベルト層31bは、狭幅傾斜ベルト層31bのタイヤ幅方向両端側の各ショルダ領域のタイヤ幅方向幅を、同一ではなく異ならせており、タイヤ赤道CLに対して狭幅傾斜ベルト層31bをタイヤ幅方向断面視で非対称に(本実施形態では、図面に向かって右側にずれて)配置した構成としている。即ち、傾斜ベルト層31の高剛性領域は、タイヤ赤道CLに対してタイヤ幅方向に非対称配置されている。そのため、上述したような、放射音の原因となる振動モードの振幅が抑制されるのみならず、振動モードが2つの振動モードに分離されることになり、その結果、音のピークレベルがより効果的に下がるため、タイヤから生じる放射音をより一層低減することが可能になり、更なる騒音の改善ができる。
【0043】
このように、タイヤに生じる振動の振幅自体を小さくするとともに、当該振幅を異なるモードに分離することによって音のピークレベルを低減させる本発明のタイヤでは、他のタイヤ構成、例えば、傾斜ベルト層のコード角度の大きさに関係なく、タイヤから生じる放射音を低減することができる。
【0044】
より具体的には、例えば、傾斜ベルト層13のタイヤ周方向に対するコード角度が30°以上であるタイヤでは、傾斜ベルト層13が一律に振動する変形モードとなるため放射音が特に大きくなる傾向にあるところ、上記の本発明の構成を適用する、特には比較的高剛性であるセンタ領域を所定の割合で設けることにより、傾斜ベルト層13が一律に振動する変形モードを改善することができる。さらに、比較的低剛性であるショルダ領域のタイヤ幅方向幅を一方側と他方側とで異にすることにより、振動モードを分離して放射音の発生を低減することができる。
同様に、傾斜ベルト層13のコード角度が30°未満のタイヤにおいても、本発明の構成を適用することにより、放射音の低減効果を得ることができる。
【0045】
なお、上記各空気入りタイヤ10,20,30において、トレッド16の、その接地幅内におけるネガティブ率を、傾斜ベルトの高剛性領域(本実施形態では、広幅傾斜ベルト層と狭幅傾斜ベルト層が重なり合う領域)の方が、傾斜ベルトの低剛性領域(本実施形態では、広幅傾斜ベルト層のみの領域)より低くなるようにしてもよい。これにより、トレッド陸部剛性のバランスがとれ、偏摩耗性能を改善することができる。また、トレッド16の、その接地幅内におけるネガティブ率を、傾斜ベルトの高剛性領域(本実施形態では、広幅傾斜ベルト層と狭幅傾斜ベルト層が重なり合う領域)の方が、傾斜ベルトの低剛性領域(本実施形態では、広幅傾斜ベルト層のみの領域)より高くなるようにしてもよい。これにより、振動モードの減衰性が更に改善され、騒音性能の更なる向上を図ることができる。
【0046】
ここで、「トレッド接地幅」とは、上述した規格の適用サイズにおける単輪の最大荷重(最大負荷能力)及び最大荷重に対応する空気圧を適用した状態において、タイヤ表面が地面と接触する面の最大幅、即ち、トレッド踏面のトレッド幅方向の最大直線距離を指し、「ネガティブ率」とは、トレッド踏面の面積に対する、溝の面積の割合を指す。
【0047】
本発明においては、タイヤ内圧を250kPa以上とした際に、タイヤの断面幅SWおよび外径ODは、関係式、OD≧−0.0187×SW+9.15×SW−380を満たすことが好ましい。空気抵抗値(Cd値)及び転がり抵抗値(RR値)を低減して燃費性を向上させることができるからである。
【符号の説明】
【0048】
10,20,30:空気入りタイヤ、 11:ビード部、 12:カーカス、
13,31:傾斜ベルト、 13a,31a:広幅傾斜ベルト層、
13b,31b:狭幅傾斜ベルト層、 14,21:第1周方向コード層、
21a:広幅周方向コード層、 21b:狭幅周方向コード層、
15:第2周方向コード層、 16:トレッド、 CL:タイヤ赤道
図1
図2
図3