(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
半導体ウェハ、ガラス基板、磁気ディスク等の材料(被研磨物)では、高精度な平坦性が要求されるため、研磨パッドを用いた研磨加工が行われている。通常、これらの被研磨物の研磨加工には、被研磨物の両面を同時に研磨加工する両面研磨機や被研磨物の片面を研磨加工する片面研磨機が使用されている。
【0003】
片面研磨機を使用した研磨加工では、被研磨物を保持する保持定盤と研磨パッド間の平行度のバラツキや研磨加工中に発生する偏荷重を吸収し、被研磨物を保持定盤に略平坦に保持する目的で、保持定盤に保持パッドが装着されている。保持パッドには、湿式成膜法で形成されたポリウレタン樹脂製の発泡シートが使用されている。湿式成膜法では、ポリウレタン樹脂を水混和性の有機溶媒に溶解させた樹脂溶液を成膜基材に塗布後、水系凝固液中に浸漬することで樹脂がシート状に凝固再生される。それによって得られる発泡シートでは、凝固液との界面に緻密なスキン層を有し、該スキン層より内側に厚さ方向に縦長で、スキン層の反対の面(以下、裏面という)側で拡径される複数の発泡と、この発泡の平均径より小さい平均径の多数の微細孔とが連続状に形成された連続発泡構造を有している。保持パッドは、このような発泡構造を有することで、研磨加工中にクッション性が発揮され、被研磨物を略平坦に保持することができる。保持面は、表面が平坦で被研磨物との接触性に優れ、被研磨物を水張り吸着により固定することで該被研磨物を確実に保持できる。即ち、保持シートの表面が被研磨物を保持するための保持面となる。
【0004】
保持パッドは被研磨物を交換しながら継続的に使用されるため、耐久性が要求される。ところが、湿式成膜法による保持パッドでは、研磨加工時に被研磨物が保持パッドに沈み込むため、研磨加工を続けると、被研磨物の外縁部と接触する保持面が傷つき易く、これによって損傷し、被研磨物の保持力が低下する場合がある。また、保持パッドは発泡のサイズが大きいほどクッション性を発揮する一方、樹脂密度が低くなるため、圧縮・回復を繰り返すことで隣り合う発泡と発泡の間の樹脂部が塑性変形し、クッション性が失われ平坦性が悪化する場合がある。
【0005】
そこで、特許文献1では、保持パッドの強度を高め破損しにくいものとするため、湿式凝固下にある発泡体の両表面を平滑部材で挟み加熱加圧し、両表面の発泡を緻密化する技術が示されている。
【0006】
一方、特許文献2には、数平均直径が1nm乃至5μmである繊維から構成され、極細繊維由来の緻密な保持面を有し、繊維がポリエステルである保持パッドによって、耐久性を高めることが提案されている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.保持パッドの構成
本発明の保持パッドは、被研磨物を保持する保持面を有し、該保持面より内部の側に該保持面に連通する発泡が形成されたポリウレタン発泡シートを備える。ポリウレタン発泡シートは、その全質量に対し、0.1乃至10質量%の微小繊維を含むポリウレタン樹脂溶液を湿式成膜して得られる。
【0016】
即ち、保持パッドでは、上述のポリウレタン発泡シートが、例えば0.1乃至0.5mmの範囲の厚さのポリエチレンテレフタレート(PET)製で可撓性を有する基材上に配されたたものである。
【0017】
(a)湿式成膜されたポリウレタン発泡シートは、被研磨物を保持するための保持面を有し、該保持面より内側に厚さ方向に縦長で、該保持面の反対の面(裏面)側で拡径される略涙形状の複数の涙形発泡を有し、この涙形発泡の平均径より小さい平均径の多数の微細孔とが連続状に形成された連続発泡構造を有し、圧縮率弾性率が大きく、また、多孔質構造に形成されるため、軟質となり、研磨加工中の弾性回復性を確保し、被研磨物を略平坦に保持することができる。
【0018】
保持パッドは、圧縮弾性率が70乃至100%であることが好ましく、より好ましくは80乃至100%であり、最も好ましくは90乃至100%である。圧縮弾性率を上記範囲内とすることにより、被研磨物に対する弾性回復性、及び保持パッドの平坦度を保ちつつ、繰り返し使用下での回復性が良好であり、被保持物への追従性や到達平坦度(立ち上がり)が良好となる。
【0019】
また、保持パッドは、ポリウレタン発泡シートの厚さが0.3〜2.0mmの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.5〜2.0mmであり、最も好ましくは0.7〜2.0mmである。厚みを上記範囲内とすることにより、被研磨物に対するクッション性能が十分に発揮され、被研磨物のうねりを低減できる。
【0020】
(b)湿式成膜されたポリウレタン発泡シートは、涙形発泡の成長時に、発泡が生じたところの周辺に分散されている微小繊維が発泡の成長とともに押し動かされ、より密な状態となって発泡間の樹脂に分散して当該樹脂を構造的に強化する。また、ポリウレタン発泡シートの樹脂中に分散された微小繊維とポリウレタン樹脂が相互作用し、ネットワークを形成するため、涙形発泡の発生による構造上の強度不足を改善する。これにより、保持面にスキン層を有する保持パッドの構造強度を高めて耐久性を向上させ、被研磨物を保持して研磨加工を続けたときに、被研磨物の外縁部との接触による保持面の傷つきを抑え、ひいてはスキン層の損傷を抑えることから、スラリーが保持パッドの内部に浸潤して被研磨物の保持力が低下することを回避できる。また、保持パッドの発泡部が圧縮・回復を繰り返すときに隣り合う発泡と発泡の間の樹脂部のへたり(塑性変形)を抑え、クッション性を維持し得る。即ち、耐摩耗性を向上し、パッド使用可能時間を向上させることができる。
【0021】
また、本実施形態では、ポリウレタン発泡シート厚みを均一化させるための目的としてスキン層を有する保持シートの裏面側をバフ処理する例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。研削工程ではバフ処理以外にも、厚みを均一化して平坦化させる方法であれば良い。例えば、クッション性を損なわない程度に熱プレスにて平坦化させても、スライス機を用いたスライス処理による平坦化等を施してもよい。本発明では、保持面側にスキン層が除去されない程度の軽度なサンディング(ドレス処理)を施しても良い。更に、スキン層側を研削処理して平坦化することも可能である。また、保持面側にバフ処理やスライス処理を施しスキン層を除去して平坦化してもよい。保持面にドレス処理やバフ処理等を施した場合、保持力は低下するものの、研磨加工後に被研磨物を保持パッドから取り外す作業は容易となる。
【0022】
更に、被研磨物の横ずれを抑制するため、保持パッドの保持面上に被研磨物の外周を取り囲むような、被研磨物を収容できる保持穴が1つ以上のある枠材を貼り合わせた保持具として本願発明の保持パッドを用いることができる。かかる保持具では、枠材の保持穴内に被研磨物を収容して保持パッドによって被研磨物を保持し、その状態で研磨加工を行うことができる。
【0023】
ポリウレタン発泡シートの全質量に対する微小繊維の添加量は、0.1乃至10質量%が好ましい。0.1質量%以上であると、耐摩耗性改善の効果が得られ好ましく、10質量%を以下であると、ポリウレタン樹脂溶液に添加・混合するときに該樹脂溶液の粘度上昇が抑えられ、微小繊維が樹脂中を流動・分散でき成膜に支障をきたすことがないため好ましい。
【0024】
(c)本発明に使用される微小繊維は、繊維径1乃至1000nm、アスペクト比10乃至10000であることが好ましく、繊維径5乃至800nm、アスペクト比10乃至5000であることがより好ましい。微小繊維のサイズが上述範囲にあると、微小繊維がポリウレタン樹脂に分散して存在し、保持パッドの強度が向上する。
【0025】
微小繊維はポリウレタン樹脂の溶媒(DMF)に分散させてポリウレタン樹脂溶液に混合させる。
【0026】
微小繊維の原料は、例えば、キチン、キトサン、コラーゲン、プルラン、セルロース、ヒアルロン酸、アルギン酸、シルクプロテイン等の天然高分子系、炭素繊維等の無機高分子系、ナイロン、ビニロン、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリエーテルスルフォン、ポリアミド等の合成高分子系を挙げることができる。
【0027】
微小繊維の製造方法としては電解紡糸、溶融紡糸、メルトブロー、遠心紡糸、フラッシュ紡糸等の紡糸によるものや、繊維質や繊維束(例えば、パルプ)を物理的解繊、化学的解繊によるもの等が挙げられる。
【0028】
2.微小繊維の具体的態様
(a)好ましい微小繊維
微小繊維の原料としては研磨パッドの剛性を高め、耐久性を向上させる観点から、水素結合を形成しうる多糖類から得られるものがより好ましい。本願において、「多糖類」という用語は、グリコシド結合によって共に連結され、繰り返され高分子化したものを意味する。多糖類の中でも強度の大きな微小繊維が得られるセルロース、キチン、キトサンが好ましい。多糖類から得られる微小繊維の形態としては、微小繊維状のセルロース、キチン、キトサン、セルロース、キチン、キトサンの微結晶、微小繊維状リグノセルロース、バクテリアセルロースが挙げられる。本発明では、これらの微小繊維のうちのいずれも使用できる。但し、この中でも微小繊維状セルロースがより好ましい。
【0029】
微小繊維状セルロースを添加することにより、樹脂部の剛性を上げることができる。これにより保持パッドの耐久性を向上させることができ、寿命を向上させることができる。
【0030】
(b)微小繊維状セルロースの製造方法
微小繊維状セルロースの製造方法としては高圧ホモジナイザー法、水中カウンターコリジョン法、グラインダー法、ボールミル法、2軸混練法等の物理的解繊によるもの、物理的解繊の前処理としてTEMPO触媒による化学処理を行う方法等、公知の方法により得られたものを使用することができる。
【0031】
微小繊維状セルロースの繊維径は3乃至1000nm、繊維長100乃至100000nmが好ましい。この範囲であればポリウレタン樹脂中に微小繊維状セルロースを均一に分散させることができる。アスペクト比は10乃至10000であることが好ましい。この範囲であれば、均一に分散した微小繊維が適度に接触し、水酸基とポリウレタン樹脂の結合力に基づき、ポリウレタン発泡シートの強度を向上させることができる。
【0032】
(c)微小繊維状セルロースの特性
天然セルロース繊維は、セルロースミクロフィブリル束とその間を埋めているリグニン及びヘミセルロースから構成された構造を有する。即ち、セルロースミクロフィブリル及び/又はセルロースミクロフィブリル束の周囲をヘミセルロースが覆い、更にこれをリグニンが覆った構造を有していると推測される。リグニンによってセルロースミクロフィブリル及び/又はセルロースミクロフィブリル束間は、強固に接着しており、植物繊維を形成している。そのため、植物繊維中のリグニンは予め除去されていることが、植物繊維中のセルロース繊維の凝集を防ぐことができるという点で好ましい。具体的には、植物繊維含有材料中のリグニン含有量は、通常40質量%程度以下、好ましくは10質量%程度以下である。また、リグニンの除去率の下限は、特に限定されるものではなく、0質量%に近いほど好ましい。一方、リグニンを含んだ状態で化学処理により有機溶剤中に分散可能な状態に処理された微小繊維状リグノセルロースも使用することができる。
【0033】
微小繊維状セルロースの多くは、セルロース繊維の最小単位であるセルロースミクロフィブリルを複数本、例えば数十本の束となって使用される。好ましい微小繊維状セルロースの繊維径(長さ方向と直交する方向の寸法であり、1本の場合には直径、複数本束の場合には束の径に相当)は、3乃至1000nm(複数本束にされた場合の幅を含む)である。特に微小繊維状セルロースの入手容易性を考慮すると、微小繊維状セルロースのより好ましい幅は3乃至300nmであることができ、更に3乃至150nmであることができ、特に3乃至100nmであることができる。尚、通常のセルロース繊維は、直径が10乃至50μm程度(マイクロメートルオーダー)であり、本発明で使用する微小繊維状セルロースとは10
3レベルのオーダー差がある。また、本発明で使用する微小繊維状セルロースのアスペクト比(繊維長/繊維径)は、平均値で、10乃至10000であることができ、更に10乃至1000であることができ、特に100乃至500であることができる。尚、微小繊維状セルロースの繊維径及び繊維長の平均値は、電子顕微鏡の視野内の微小繊維状セルロースの少なくとも50本以上について測定した算術平均値である。
【0034】
微小繊維状セルロースは、ナノメートルオーダーであることから、少量の添加でもポリウレタン樹脂中に分散し樹脂単位体積あたりの繊維本数を向上させることができるため、ポリウレタン発泡シートの剛性の向上に併せ、耐摩耗性を向上させることができる。添加量を多くすれば、耐摩耗性の更なる向上が期待できる。しかし、微小繊維状セルロースの添加は、原料粘度を増加させるため、多量に添加した場合には、分散不良を引き起こし、ひいては発泡バランスが崩れるおそれがある。そのため、前記微小繊維状セルロースの好ましい添加量は、ポリウレタン発泡シートの全質量に対し、0.1乃至10質量%、より好ましくは0.15乃至5質量%である。更に、樹脂溶媒が多量に添加される湿式凝固法は、原料配合液の粘度を低くできる一方、セルロース微小繊維の添加を容易にし、原料配合液中の微小繊維状セルロースの分散を良好にすることができる。更に、凝固再生後の乾燥工程により、分散した微小繊維状セルロースが水素結合によりウレタン樹脂とネットワークを形成し、ポリウレタン発泡シートの剛性を著しく向上させるため本発明のポリウレタン発泡シートは、湿式凝固法によって製造されたものが好ましい。微小繊維あるいは極細繊維を交絡して繊維と繊維を密に絡め合せ繊維を一体化させて得られる不織布や織物・編物にポリウレタン樹脂を含浸させたシートでは、微小繊維がポリウレタン樹脂中で流動し均一に分散することができないため好ましくない。
【0035】
3.保持パッドの製造方法
本発明の保持パッドは、湿式成膜法、例えば、ポリウレタン樹脂、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、添加剤、及び微小繊維を混合分散させたポリウレタン樹脂溶液を調製する工程と、ポリウレタン樹脂溶液を基材に塗布する工程と、ポリウレタン樹脂溶液が塗布された基材を凝固液に浸漬するポリウレタン樹脂の凝固再生工程とを含む方法により、製造することができる。
【0036】
(1)ポリウレタン樹脂溶液を調製する工程
i.ポリウレタン樹脂溶液中のウレタン樹脂の濃度は、例えば、10乃至50質量%、好ましくは20乃至40質量%である。この濃度範囲であれば、シート密度が適切な範囲に調整され、所望の発泡構造を形成することができる。
【0037】
ii.ポリウレタン樹脂の良溶媒であるDMFは、水に対して任意の割合で混合することができるため、凝固液(水)との置換速度が速く、ポリウレタン樹脂溶液の下層(基材の側)の一部の樹脂分が上層(表面層)の側へ移動し、下層の側に比較的大きな発泡(シート厚さ方向に縦長をなす発泡)を形成し易い。
【0038】
iii.本発明の保持パッドに添加する微小繊維状セルロースは、ポリウレタン樹脂の溶媒であるDMFへ分散させてからポリウレタン樹脂と混合する。DMFへの分散性を高めるため化学修飾されていても分散剤を添加しても良い。本発明において、微小繊維状セルロースをポリウレタン樹脂に添加するためには、微小繊維状セルロースの水酸基を修飾基により化学修飾し、水酸基の数を減じることが好ましい。微小繊維状セルロース間の水素結合による強固な密着を防ぐことで、ポリウレタン樹脂へ容易に分散させることができる。修飾する化合物としては、アルキル基、アシル基、アシルアミノ基、シアノ基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基、アリールオキシ基、シリル基、カルボキシル基等の官能基が挙げられ、微小繊維状セルロースに前記官能基を化学的に結合させることにより微小繊維状変性セルロースが得られる。
【0039】
iv.ポリウレタン樹脂溶液は、必要に応じて、更に添加剤を含んでいても良い。添加剤としては、特に制限されないが、ポリウレタン樹脂の凝固再生工程で、ポリウレタン樹脂の凝固速度を調整して所望の発泡形状を形成する点から、カーボンブラック等の顔料、疎水性活性剤、親水性活性剤が好ましい。これらの添加剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。添加剤の配合量は、特に制限されず、ウレタン樹脂含有溶液100質量部に対して、例えば、20質量部以下、好ましくは、0.1乃至15質量部である。
【0040】
(2)ポリウレタン樹脂溶液の塗布工程
ポリウレタン樹脂溶液の塗布工程で用いる基材は、可撓性を有する材料であれば良く、例えば、プラスチックフィルム(ポリエステルフィルム、ポリオレフィンフィルム等)、不織布等が挙げられる。基材にポリウレタン樹脂含有溶液を塗布する方法としては、特に制限されず、例えば、慣用のコーター(ナイフコーター、リバースコータ、ロールコータ等)を用いて塗布する方法が挙げられる。塗布厚みは、所定の発泡構造を形成する点から、例えば、0.3乃至2.5mm、好ましくは0.5乃至2.0mm、更に好ましくは0.8乃至1.5mmである。
【0041】
(3)ポリウレタン樹脂の凝固再生工程
ポリウレタン樹脂の凝固再生工程で、ポリウレタン樹脂溶液が塗布された基材を浸漬する凝固液は、ポリウレタン樹脂に対する貧溶媒(水等)を主成分とする。凝固液としては、例えば、水のみでも良いが、水と極性の溶剤(例えば、DMF、DMAc、THF、DMSO、NMP、アセトン等)との混合溶液等としても良い。尚、混合溶液中の極性の溶剤の濃度としては、0.1乃至30質量%が好ましい。
【0042】
ポリウレタン樹脂の凝固再生工程により、基材上で凝固したポリウレタン発泡シートが得られる。本発明の保持パッドの製造方法は、更に、基材上で凝固して得られたポリウレタン発泡シートを、必要により基材から剥離した後、洗浄及び乾燥する工程を含んでいても良い。
【0043】
(4)ポリウレタン樹脂の洗浄及び乾燥工程
洗浄及び乾燥により、ポリウレタン樹脂中に残留する溶剤(DMF)、及び凝固液(水)が除去される。洗浄に用いられる洗浄液は、通常、水が使用される。乾燥は、例えば、80乃至150℃で5乃至60分程度行う。
【0044】
4.保持パッドの発泡構造
本発明による保持パッドの製造に適用される湿式成膜法は、前述の通り、成膜するポリウレタン樹脂を有機溶媒に溶解させ、その樹脂溶液をシート状の基材に塗布後、該有機溶媒は溶解するが該樹脂は溶解しない凝固液中に浸漬して該有機溶媒を置換し、凝固させ、洗浄し、乾燥して発泡層を形成する。通常、湿式成膜法によりポリウレタン発泡シートを製造すると、上記発泡層は多孔質構造に形成されるが、そのメカニズムは前記ポリウレタン樹脂が凝固液中を通って凝固する際、ポリウレタン樹脂中の溶媒が凝固液中に抜け凝固液が樹脂層内に入り置換凝固するときに、ポリウレタン樹脂中に形成される空洞部が保持シートの発泡となる。この際、略涙形状のマクロ発泡(以下、涙形発泡という)とともに、この涙形発泡よりも小さく水や気体を通す微細発泡が連通してポリウレタン発泡シートの全体に形成される。
【0045】
涙形発泡は、ポリウレタン樹脂の凝固再生工程で形成され、異方性があり、研磨パッドの研磨層表面から底部に向けて発泡径が漸次大きくなる形状を意味し、通常、研磨層の研磨面の側が先細りとなる形状を意味する。涙形発泡は、微細発泡に比べるとはるかに大きな断面積又は体積を有する。従って、涙形発泡と微細発泡とは容易に区別することができる。この涙形発泡が成長するときに、発泡が生じたところの微小繊維状セルロースが発泡の成長とともに押し動かされ、発泡の成長により肉厚が薄く構造的に弱くなった涙形発泡セル間の樹脂部分により密な状態となって分散する。より密に分散した微小繊維状セルロースによって発泡セル間の樹脂部が強化される。
【0046】
涙形発泡が凝固再生工程で形成された後、洗浄工程を経て、乾燥工程で凝固浴の水分をポリウレタン発泡シートより除去すると、ポリウレタン樹脂中に均一かつ密に分散された微小繊維状セルロースが水素結合によりウレタン樹脂と強固なネットワークを形成し、この微小繊維状セルロースのネットワークが涙形発泡による構造上の強度不足を改善し、保持パッドの耐久性を向上させるとともに、ポリウレタン発泡シートの剛性を上げ、保持パッドとして使用されるときの耐摩耗性が向上しパッド使用可能時間を向上させることができる。
【0047】
5.具体的実施結果
5−1.実施例1乃至4、比較例1乃至3の保持パッドを製造した。
【0048】
(実施例1)
微小繊維として繊維径約40nm、アスペクト比約200のカーボン微小繊維1質量%量を分散させたDMF30部と100%モジュラス6.0MPaのポリエステル系ポリウレタン樹脂含有DMF溶液(固形分濃度30質量%)100部を混合することによりポリウレタン樹脂溶液を得た。得られたポリウレタン樹脂溶液をポリエステルフィルム(厚さ:188μm)上に塗工した。樹脂溶液を成膜基材上に塗布する際に、塗布装置のクリアランスを1.4mmに設定した。その後、樹脂含有溶液をキャストしたポリエステルフィルムを凝固浴(凝固液は水)に18℃で60分間浸漬し、該樹脂含有溶液を凝固させた後、洗浄・乾燥させて、成膜基材上より剥離し、厚み0.9mmのポリウレタン発泡シートを得た。
【0049】
得られたポリウレタン発泡シートの表面に形成されたスキン層とは反対側に研削処理を施した(研削量:100μm)。その後、ポリウレタン発泡シートの研削処理面にPET基材を接着剤を介して貼り合わせ、PET基材と両面テープとを貼り合わせ、厚さ1.25mmの保持パッドを得た。
【0050】
(実施例2)
微小繊維として微小繊維状キトサン(繊維径約300nm、アスペクト比約400)を使用した以外、実施例1と同様にして保持パッドを作製した。
【0051】
(実施例3)
微小繊維として微小繊維状セルロース(繊維径約100nm、アスペクト比約300)を使用した以外、実施例1と同様にして保持パッドを作製した。
【0052】
(実施例4)
実施例3の微小繊維状セルロースの添加量を3質量%とする以外、実施例1と同様にして保持パッドを作製した。
【0053】
(比較例1)
微小繊維を添加しない以外、実施例1と同様にして保持パッドを作製した。
【0054】
(比較例2)
微小繊維状セルロースの添加量を15質量%とした以外、実施例3と同様にして保持パッドを作製した。
【0055】
(比較例3)
セルロース微小繊維として繊維径3nm、アスペクト比5の微小繊維状セルロースを使用した以外、実施例3と同様にして保持パッドを作製した。
【0056】
5−2.各実施例及び比較例の保持パッドについて、ポリウレタン発泡シートの摩擦試験における摩耗量、圧縮弾性率、及び、破断強度、破断伸度、引裂き強度を調査し、表1の結果を得た。
【0057】
(摩耗試験)
各実施例及び比較例の各ポリウレタン発泡シートについて、日本工業規格(JIS K6902)に準じて以下の試験条件で摩擦摩耗試験を行い、摩耗量を比較した。即ち、砥粒を表面に付着させた研磨紙を外周に貼り付けた摩耗輪に研磨面を接触させて回転させたときに研磨面での回転数500回後の摩耗量を測定した。即ち、摩耗試験機は、試験試料が貼付され、回転駆動可能に軸支された回転盤を有している。回転盤の上方には、一対の円柱状の摩耗輪が端面を対向させて配置されている。摩耗輪の外周面が回転盤に貼付される試験試料と接触可能に配置されている。摩耗輪は、回転盤の回転軸に対して等距離となるように、回転盤の半径方向両側に配置されている。摩耗量の測定時には、回転盤と同形状に裁断された試験試料を回転盤に貼付する。研磨紙を貼り付けた摩耗輪を試験試料の上面に接触させ、荷重をかけながら押圧する。回転盤を回転させることで、外周面を試験試料に接触させた一対の摩耗輪が互いに反対方向に回転する。これにより、試験試料表面が摩耗される。本例では、回転盤を500回回転させる前後における試験試料の重量変化を摩耗量とした。測定結果は比較例1の摩耗量を1として、他のサンプルの摩耗量を比較例1の摩耗量に対する比の値で示した。つまり、数値が小さいほど摩耗量が少なく耐摩耗性に優れていることを示す。結果を表1に示す。
【0058】
試験条件
テーバー摩耗試験機:株式会社マイズ試験機 No.502 テーバーアブレーションテスター
研磨速度(回転数):70rpm
重り:250g
磨耗輪:内径15.88mm×外径50.0mm×厚さ13.0mm
研磨紙:♯1000サンドペーパー
【0059】
(圧縮弾性率)
圧縮弾性率は、ショッパー型厚さ測定器(製品名No.517厚さ測定器デジタル(株式会社マイズ試験機製);加圧面:直径1cmの円形)を用いて、日本工業規格(JIS L 1021)に準拠して測定される。この場合、初圧力で30秒間加圧した後の厚さt0を測定し、次に最終圧力のもとで5分間放置後の厚さt1を測定した。全ての荷重を除き、5分間放置後、再び初荷重で30秒間加圧した後の厚さt0’を測定する。このとき、初圧力は100g/cm
2、最終圧力は1120g/cm
2でとされる。そして、圧縮弾性率は、下記数式で算出される。
【0060】
数式:圧縮弾性率(%)=(t0’−t1)/(t0−t1)×100
【0061】
(破断強度)
ポリウレタン発泡シートをダンベル形状(長さ90mm、端部幅20mm、試料巾10mm)に打ち抜き、測定試料を測定機の上下エアチャックにはさみ、引張速度100mm/min、初期つかみ間隔50mmで測定を開始し、測定値がピーク(切断)に達した値を強力(最大荷重)として得た。n数2で行い、破断強度(kgf/mm
2)=強力(最大荷重)kgf/(厚さ(mm)×試料巾(10mm))より破断強度を算出し、その平均値から破断強度を算出した。尚、試料厚みは、測定試料をチャック装着する際、厚み計を用いて測定し、寸法表を用いて算出させた。
【0062】
(破断伸度)
ポリウレタン発泡シートの伸度は、前記引張り測定における破断した時の伸度である。引張時の破断強度および伸度は株式会社エー・アンド・デイ製、テンシロン万能試験機RTCにて日本工業規格(JIS K 6550)に準じた方法で測定した。
【0063】
(引裂き強度)
ポリウレタン発泡シート試料片(100mm×25mm)の長手方向端部より70mm切込みを入れ、該試料片における切込みの終端部より切込みに沿って25mmの位置の2箇所を治具で挟んで固定し、それらの2箇所を切込みに沿う反対方向(2箇所の一方を他方に対して180度回転させた方向)に万能材料試験機テンシロン(株式会社A&D テンシロン型万能試験機RTC-1210)で引張り、試料が切れるまで測定し,測定値がピークとなった強力(最大荷重)kgfを求めた。引き裂き強度(kgf/mm)=強力(最大荷重)kgf/厚さ(mm)より引裂き強度を求めた。
【0064】
(保持パッドの寿命測定)
研磨機(スピードファム株式会社製、商品名「SP−1200」)の所定の位置に保持パッドを装着した。次いで、保持パッドに備えられる樹脂シートの保持面に適量の水を吹き付け、適度に水切りをした後、被研磨物である液晶ディスプレイ用ガラス基板(470mm×370mm×0.5mm)を保持パッドに吸着させた。研磨パッドとしてポリパスFX−7M(フジボウ愛媛株式会社製商品名)を用い、下記の条件にて研磨加工を行った。保持パッドから被研磨物が外れ破損した時点、又は、保持パッドの表面が損傷した時点をライフエンドとして研磨ができなくなるまで研磨加工を行い、研磨が完了した被研磨物の枚数によって、保持パッドの寿命を評価した。尚、被研磨物の枚数は最大50枚とした。
【0065】
使用研磨機:オスカー研磨機SP−1200(スピードファム株式会社製商品名)
研磨速度(回転数):61rpm
加工圧力:76gf/cm
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スラリ:ショウロックス A−10(昭和電工株式会社製商品名)10%スラリー
研磨時間:10分/枚
【0067】
摩耗試験の結果、微小繊維を添加しない比較例と比べ、実施例では耐摩耗性が向上した。このことから実施例品では、保持面の損傷を抑制することができる。
【0068】
圧縮弾性率、破断強度、破断伸度、引裂き強度の調査の結果、微小繊維を添加しない比較例と比べ、実施例では圧縮弾性率、破断伸度は維持したまま強度が向上した。このことから、実施例品では圧縮・回復を繰り返すことで隣り合う発泡と発泡の間の樹脂部が塑性変形し、クッション性が失われることを抑制することができ、被研磨物の平坦性向上に寄与することができる。
【0069】
保持パッドの寿命評価の結果、比較例1、3では被研磨物のエッジで保持面が削られ、被研磨物が保持パッドの面内方向にずれた結果、研磨加工が困難となり10枚未満で使用することができなくなった。一方、実施例1〜4では強度が向上したことにより、被研磨物を50枚研磨した後もまだ問題なく使用できる状態であった。