特許第6935303号(P6935303)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6935303-負圧調整機構及び高層建物 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6935303
(24)【登録日】2021年8月27日
(45)【発行日】2021年9月15日
(54)【発明の名称】負圧調整機構及び高層建物
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/70 20060101AFI20210906BHJP
【FI】
   E04B1/70 B
【請求項の数】5
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2017-211569(P2017-211569)
(22)【出願日】2017年11月1日
(65)【公開番号】特開2019-85693(P2019-85693A)
(43)【公開日】2019年6月6日
【審査請求日】2020年9月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100070024
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 宣行
(72)【発明者】
【氏名】鰐渕 憲昭
【審査官】 新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−139118(JP,A)
【文献】 特開2003−083577(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0283708(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/70
F24F 13/15
F24F 7/00 − 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋上に開放するボイドを有する高層建物に適用される負圧調整機構であって、
前記高層建物の居室階より上方に位置する階に設けられ前記高層建物の外部に開放する一端及び前記ボイドに開放する他端を有する複数の風の通路と、
各通路に配置され各通路の一端から他端に向けての風の流動を許すダンパーとを備える、負圧調整機構。
【請求項2】
前記居室階より上方に位置する階は最上階からなる、請求項1に記載の負圧調整機構。
【請求項3】
複数の通路は前記ボイドの周りに互いに等間隔をおいて配置されている、請求項1又は2に記載の負圧調整機構。
【請求項4】
前記ダンパーは、電動力又は風力を駆動力として回転駆動される複数のルーバーを有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の負圧調整機構。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の負圧調整機構を備える、屋上に開放するボイドを有する高層建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋上に開放するボイド(吹き抜け)を有する高層建物に適用される負圧調整機構及び該負圧調整機構を備える高層建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、集合住宅やオフィスビル、複合ビルのような高層建物における換気性や採光性の向上のために、高層建物にその内部を上下方向へ伸び、その屋上に開放するボイドが設けられている(特許文献1参照)。
【0003】
ところで、軒高が比較的高い高層建物では、そのボイドの上空を通過する風のためにボイドの内部の圧力が低下し、ボイドが負圧の状態におかれることがある。ボイドを有する高層建物にあっては、ボイドが負圧状態になると、ボイドと該ボイドの周囲に設けられた各階の居室との間に圧力差が生じ、高層建物における生活、活動等に支障が生じることがある。例えば、居室を経て伸びる通気用ダクトの挿通路を風が高速で通過することによる気流音(騒音)の発生、玄関扉に設けられた錠のラッチボルトやデッドボルトとこれらの受座(ストライク)との高い接触圧による玄関扉の開閉の不具合等を招来する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−83577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明は、高層建物のボイドに生じる負圧を調整する負圧調整機構を提供し、また、前記負圧調整機構を備える高層建物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、屋上に開放するボイドを有する高層建物に適用される負圧調整機構及び該負圧調整機構を備える高層建物に係る。前記負圧調整機構は、前記高層建物の居室階より上方に位置する階に設けられ前記高層建物の外部に開放する一端及び前記ボイドに開放する他端を有する風を通す複数の通路と、各通路に配置され各通路の一端から他端に向けての風の流動を許すダンパーとを備える。
【0007】
本発明によれば、前記高層建物に設けられた複数の通路の任意の一つに向けて吹き付ける風を、前記一つの通路と該通路に配置されたダンパーとを通して、前記ボイドに導き入れることができる。このとき、他の通路においては、該他の通路に配置されたダンパーの働きにより、前記ボイドから前記高層建物の外部に向けての風の流動が阻止される。その結果、前記一つの通路を通しての前記ボイドへの風の導入により、前記ボイド内の圧力が増大し、前記ボイドにおける負圧の程度が軽減される。これにより、前記ボイドの負圧現象に起因して生じる高層建物の全ての居室における生活、活動等の支障を低減することができる。
【0008】
前記負圧調整機構は、好ましくは最上階に設けられ、また、複数の通路は前記ボイドの周りに互いに等間隔をおいて配置される。前記ダンパーは、例えば、電動力又は風力を駆動力として回転駆動される複数のルーバーを有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】負圧調整機構及び該負圧調整機構を備える高層建物の概略的な斜視図である。
図2図1に示す負圧調整機構及び高層建物の概略的な縦断面図である。
図3図1に示す高層建物の屋上の概略的な平面図である。
図4】負圧調整機構の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1図3を参照すると、本発明の実施の形態に係る負圧調整機構及び該負圧調整機構を備える高層建物が、それぞれ、全体に符号10及び符号12で示されている。符号14及び16は、それぞれ、高層建物12の屋上14及び該屋上に設けられた立ち上がり壁を示す。
【0011】
高層建物12は、集合住宅、オフィスビル、複合ビル、ホテル等からなり、その内部を鉛直に伸び、屋上14に開放する吹き抜けであるボイド18を備える。図示の高層建物12及びボイド18はそれぞれ矩形の横断面形状を有し、高層建物12は4つの外壁面12aと、ボイド18を規定する4つの内壁面12bであって、4つの外壁面12aとそれぞれ平行な4つの内壁面12bとを有する。高層建物12は、矩形以外の他の横断面形状、例えば三角形、円形等の横断面形状を有するものであってもよい。
【0012】
高層建物12の外壁面12aとボイド18を規定する内壁面12bとの間の空間には、ボイド18の周囲を取り巻く多数の居室階20、すなわち居住、執務、診療、宿泊、作業等の目的のために継続的に使用される1又は複数の居室をそれぞれ有する多数の階層が設けられている。なお、多数の居室階20については、図示上の煩雑を避けるため、これらを個々にではなく、全体として示した。
【0013】
ボイド18は、高層建物12の上空を比較的強い風W(図2)が流れるとき、ボイド18内の空気がその開放上端から吸い上げられ、ボイド18が負圧の状態におかれることがある。高層建物12に適用された負圧調整機構10は、ボイド18が負圧の状態におかれたとき、ボイド18内の圧力を高めること、すなわち負圧の大きさを低減する働きをなす。
【0014】
負圧調整機構10は、高層建物12の居室階20の上方に位置する階、好ましくは最上階に設けられている。これにより、前記負圧の低減効果を、負圧調整機構10の下方に位置する居室階20の全てに及ぼすことができる。
【0015】
負圧調整機構10は、複数(図示の例にあっては4つ)の風の通路22と、各通路22に配置されたダンパー24(図4)とを備える。
【0016】
複数の通路22は、ボイド18の周りに互いに等間隔をおいて配置されている。通路22の数は任意に定めることができる。図示の例では、吹き付ける風の向きを考慮して、4つの通路22がボイド18の周りに90度の角度的間隔をおいて配置されている。
【0017】
各通路22は、高層建物12の外部に開放する一端22a及びボイド18に開放する他端22bを有する。図示の例において、各通路22は、高層建物12の外壁面12aと内壁面12bとの間を水平に直線的に伸びており、通路22の一端22a及び他端22bがそれぞれ高層建物12の外壁面12a及び内壁面12bにおいて開放している。図示の通路22は矩形状の横断面形状を有し、ボイド18の横断面形状である前記矩形の各辺の長さに等しい水平方向長さと、高層建物12の前記階層の天井高さに等しい鉛直方向長さとを有する。
【0018】
図4に示すように、ダンパー24は通路22の他端22bに配置され、高層建物12に取り付けられている。ダンパー24は、図示の例に代えて、通路22の一端22a及び他端22b間、又は、一端22aに配置することができる。ダンパー24は、通路22の一端22aから他端22bに向けての風の流動、すなわち高層建物12の外部からその内部のボイド18に向けての風の流動を許す。したがって、反対方向への風の流動、すなわち通路22の他端22bから一端22aに向けての風の流動はダンパー24によって阻止される。
【0019】
図示の各ダンパー24は、複数の水平軸25にそれぞれ支持されまた複数の水平軸25を介してそれぞれ回転駆動される複数のルーバー26を有する。複数のルーバー26を回転駆動させることにより、風が通路22を流動し、あるいは、流動しないようにすることができる。複数のルーバー26は、図4で見て、これらが鉛直方向に整列しかつ互いに隣接する上下2つのルーバー26が重なり合う状態にあるとき、風の流動が止められる。反対に、互いに隣接する2つのルーバー26が重なり合うことなくこれらの間に隙間が存するとき(図4に示す状態のとき)、風の流動を許す。また、風の流量は、互いに隣接する2つのルーバー26間の前記隙間の大きさを調整することにより調節することができる。
【0020】
図2に示すように、高層建物12の一の外壁面12aに向けて吹き付ける風Wがあるとき、前記一の外壁面12において開放する1つの通路22すなわち風Wに向けて開口している1つの通路22を、ダンパー24の働きにより、風W(より詳細には風Wの一部である風w)が流動し、風wがボイド18内に流入する。このとき、ボイド18内に流入した風wはその一部分がボイド18内を下方に向けて流動し、また、他の一部分はボイド18内から上方へ抜け出る。他方、風Wの吹き付けを受けない他の3つの通路22においては、これらの3つの通路22にそれぞれ配置された3つのダンパー24の働きにより、これらの通路22の他端22bから一端22aに向けての空気の流動と、これに伴うボイド18内からボイド18外への空気の流出とが阻止される。これにより、ボイド18内の圧力が増大し、前記負圧の程度が軽減される。その結果、ボイド18の負圧現象に起因して生じる高層建物12の全ての居室における生活、活動等の支障の低減を図ることができる。
【0021】
複数のルーバー26は、例えば電動力を駆動力として、具体的にはダンパー24に取り付けられた電動モータ(図示せず)を介して、回転駆動させることができる。前記電動力を駆動力とする例においては、さらに、各通路22の一端22aの側に配置された風圧力センサ(図示せず)が感知する風の強さに応じて、前記電動モータを作動させることができる。
【0022】
複数のルーバー26は、前記した例に代えて、風力を駆動力して回転駆動させることができる。この例においては、例えば、複数のルーバー26が予め定められた大きさの風力を受けたとき、互いに重なり合った状態にある上下2つのルーバー26が一方向(図4において時計方向)へ回転するようにすることができる。また、例えば、ばね部材(図示せず)を介して、複数のルーバー26に予め回転抵抗を与えておき、前記回転抵抗を上回る回転駆動力を与える風力を受けたとき、複数のルーバー26が前記時計方向に回転するようにすることができる。
【0023】
高層建物12は、矩形以外の他の横断面形状、例えば三角形、円形等の横断面形状を有するものであってもよい。また、通路22は、他の横断面形状、例えば円形の横断面形状を有するものとすることができる。
【符号の説明】
【0024】
10 負圧調整機構
12 高層建物
18 ボイド
20 居室階
22 風の通路
24 ダンパー
26 ルーバー
図1
図2
図3
図4