(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記傾斜角θが、前記所定方向から見たときに、前記グリッド先端部の高さ方向の中心位置における前記グリッド先端部の前記側面の接線の傾斜角として規定され、その角度範囲がθ≦80度である請求項5に記載の偏光板。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳しく説明する。
【0025】
[偏光板]
本発明の一実施形態に係る偏光板は、ワイヤグリッド構造を有する無機偏光板であって、透明基板と、使用帯域の光の波長よりも短いピッチ(周期)で透明基板上に配列されて所定方向に延在する格子状凸部と、を備える。また、この格子状凸部が、透明基板側から順に、台座と、反射層と、誘電体層と、吸収層と、を有する。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態に係る偏光板1を示す断面模式図である。
図1に示すように、偏光板1は、使用帯域の光に透明な透明基板10と、透明基板10の一方の面上に使用帯域の光の波長よりも短いピッチで配列された格子状凸部11と、を備える。格子状凸部11は、透明基板10側から順に、台座12と、反射層13と、誘電体層14と、吸収層15と、を有する。即ち、偏光板1は、台座12、反射層13、誘電体層14及び吸収層15が透明基板10側からこの順に積層されて形成された格子状凸部11が、透明基板10上に一次元格子状に配列されたワイヤグリッド構造を有する。
【0027】
ここで、
図1に示すように格子状凸部11の延在する方向(所定方向)を、Y軸方向と称する。また、Y軸方向に直交し、透明基板10の主面に沿って格子状凸部11が配列する方向を、X軸方向と称する。この場合、偏光板1に入射する光は、透明基板10の格子状凸部11が形成されている側において、好適にはX軸方向及びY軸方向に直交する方向から入射する。
【0028】
偏光板1は、透過、反射、干渉及び光学異方性による偏光波の選択的光吸収の4つの作用を利用することで、Y軸方向に平行な電界成分をもつ偏光波(TE波(S波))を減衰させ、X軸方向に平行な電界成分をもつ偏光波(TM波(P波))を透過させる。従って、Y軸方向が偏光板1の吸収軸の方向であり、X軸方向が偏光板1の透過軸の方向である。
【0029】
偏光板1の格子状凸部11が形成された側から入射した光は、吸収層15及び誘電体層14を通過する際に一部が吸収されて減衰する。吸収層15及び誘電体層14を透過した光のうち、偏光波(TM波(P波))は高い透過率で反射層13を透過する。一方、吸収層15及び誘電体層14を透過した光のうち、偏光波(TE波(S波))は反射層13で反射される。反射層13で反射されたTE波は、吸収層15及び誘電体層14を通過する際に一部は吸収され、一部は反射して反射層13に戻る。また、反射層13で反射されたTE波は、吸収層15及び誘電体層14を通過する際に干渉して減衰する。以上のようにして、偏光板1は、TE波の選択的減衰を行うことにより、所望の偏光特性が得られる。
【0030】
格子状凸部11は、
図1に示すように各一次元格子の延在する方向(所定方向)から見たとき、つまり所定方向に直交する断面視で、台形状の台座12と、矩形状のグリッド脚部16と、先細形状のグリッド先端部17と、を有する。
グリッド脚部16は、台座12から垂直に延びて形成される。このグリッド脚部16は、反射層13で構成される。即ち、グリッド脚部16とグリッド先端部17との境界は、反射層13と誘電体層14の境界に位置する。
グリッド先端部17は、所定方向から見たときに、先端側(透明基板10の反対側)ほど幅が狭くなる方向に側面が傾斜した先細形状を有する。より詳しくは、本実施形態のグリッド先端部17は、等脚台形状を有する。このグリッド先端部17は、誘電体層14及び吸収層15で構成される。
【0031】
グリッド先端部17を先細形状とすることにより、TM波の透過率を高めることができる。このようにTM波の透過率が高まる理由としては、グリッド先端部17を先細形状とすることにより、角度バラツキを持って入射してくる光に対して散乱を抑制する効果があるためと考えられる。
【0032】
ここで、
図2は、本実施形態に係る偏光板1の形状パラメータを説明するための断面模式図である。以下の説明において、高さとは、透明基板10の主面に垂直な方向の寸法を意味し、幅とは、格子状凸部11の延びる方向に沿うY軸方向から見たときに、高さ方向に直交するX軸方向の寸法を意味する。また、偏光板1を格子状凸部11の延びる方向に沿うY軸方向から見たときに、格子状凸部11のX軸方向の繰り返し間隔をピッチPと称する。
【0033】
格子状凸部11のピッチPは、使用帯域の光の波長よりも短ければ特に制限されない。作製の容易性及び安定性の観点から、格子状凸部11のピッチPは、例えば、100nm〜200nmが好ましい。この格子状凸部11のピッチPは、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡で観察することにより測定することができる。例えば、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡を用いて、任意の4箇所についてピッチPを測定し、その算術平均値を格子状凸部11のピッチPとすることができる。以下、この測定方法を電子顕微鏡法と称する。
【0034】
また、格子状凸部11のグリッド先端部17におけるX軸方向の最大幅を、グリッド幅bと称する。本実施形態では、グリッド幅bは、グリッド先端部17における反射層13側の端部の幅を意味する。具体的には、このグリッド幅bは、35〜45nmであることが好ましい。なお、これらの幅は、例えば上述の電子顕微鏡法により測定可能である。
【0035】
また、グリッド先端部17の側面の透明基板10に対する傾斜角を傾斜角θと称し、グリッド先端部17の高さを高さaと称する。ただし、格子状凸部11は、非常に微細な構造であるため、グリッド先端部17の形状は、例えば
図3に示すように実際にはある程度の丸みを帯びている。そこで、傾斜角θを、グリッド先端部17の高さaの中心位置、即ち高さa/2の位置におけるグリッド先端部17の側面の透明基板10に対する傾斜角として規定する。このとき、具体的な傾斜角θの範囲は、θ≦80度であることが好ましい。なお、傾斜角θ及び高さaは、例えば上述の電子顕微鏡法により測定可能である。
【0036】
また、θ
0=arctan(2a/b)としたとき、本実施形態に係る偏光板1は、2/3≦a/b≦8/7を満たすとともに、θ
0≦θ<90度を満たすことが好ましい。このとき、傾斜角θは、可視光領域の所定の波長の光の吸収軸方向の反射率を10%以下とする角度範囲から選択されることが好ましい。
【0037】
透明基板10としては、使用帯域の光に対して透光性を示す基板であれば特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。「使用帯域の光に対して透光性を示す」とは、使用帯域の光の透過率が100%であることを意味するものではなく、偏光板としての機能を保持可能な透光性を示せばよい。使用帯域の光としては、例えば、波長380nm〜810nm程度の可視光が挙げられる。
【0038】
透明基板10の主面形状は特に制限されず、目的に応じた形状(例えば、矩形形状)が適宜選択される。透明基板10の平均厚みは、例えば、0.3mm〜1mmが好ましい。
【0039】
透明基板10の構成材料としては、屈折率が1.1〜2.2の材料が好ましく、ガラス、水晶、サファイア等が挙げられる。コスト及び透光率の観点からは、ガラス、特に石英ガラス(屈折率1.46)やソーダ石灰ガラス(屈折率1.51)を用いることが好ましい。ガラス材料の成分組成は特に制限されず、例えば光学ガラスとして広く流通しているケイ酸塩ガラス等の安価なガラス材料を用いることができる。
【0040】
また、熱伝導性の観点からは、熱伝導性が高い水晶やサファイアを用いることが好ましい。これにより、強い光に対して高い耐光性が得られ、発熱量の多いプロジェクタの光学エンジン用の偏光板として好ましく用いられる。
【0041】
なお、水晶等の光学活性の結晶からなる透明基板を用いる場合には、結晶の光学軸に対して平行方向又は垂直方向に格子状凸部11を配置することが好ましい。これにより、優れた光学特性が得られる。ここで、光学軸とは、その方向に進む光のO(常光線)とE(異常光線)の屈折率の差が最小となる方向軸である。
【0042】
台座12は、
図1に示すように各一次元格子の延在する方向(所定方向)から見たとき、つまり所定方向に直交する断面視で、台形状を有する。より詳しくは、本実施形態に係る台座12は、所定方向から見たときに、透明基板10側から反射層13側に向かうに従い幅が狭まるように側面が傾斜した等脚台形状を有する。
【0043】
台座12の最小幅は、反射層13の幅以上であることが好ましい。即ち、最も幅が狭い台座12における反射層13側の端部の幅は、反射層13の幅以上である。より好ましくは、台座12の最小幅は、反射層13の幅よりも大きく設定される。なお、これらの幅は、例えば上述の電子顕微鏡法により測定可能である。
【0044】
台座12の膜厚は、特に制限されず、例えば、10nm〜100nmが好ましい。なお、台座12の膜厚は、例えば上述の電子顕微鏡法により測定可能である。
【0045】
台座12は、吸収軸であるY軸方向に帯状に延びた誘電体膜が透明基板10上に配列されてなるものである。台座12の構成材料としては、使用帯域の光に対して透明であり、透明基板10よりも屈折率の小さい材料が好ましく、中でも、SiO
2等のSi酸化物が好ましい。
【0046】
台座12は、例えば、透明基板10上に形成された上記の誘電体からなる下地層18に対して、ドライエッチングによる等方性エッチングと異方性エッチングとのバランスを段階的に変化させることにより形成可能である。この場合、
図1に示すように、台座12は透明基板10上に形成された下地層18上に配置される。台座12を台形状に形成することにより、屈折率が緩やかに変化するようなモスアイ構造と同等の効果が得られ、光の反射を防止でき、高い透過率特性が得られるものと考えられる。
【0047】
反射層13は、台座12上に形成され、吸収軸であるY軸方向に帯状に延びた金属膜が配列されてなるものである。より詳しくは、反射層13は、台座12から垂直に延びており、上記所定方向から見たとき、つまり所定方向に直交する断面視で、矩形状を有する。この反射層13は、ワイヤグリッド型偏光子としての機能を有し、反射層13の長手方向に平行な方向に電界成分をもつ偏光波(TE波(S波))を減衰させ、反射層13の長手方向に直交する方向に電界成分をもつ偏光波(TM波(P波))を透過させる。
【0048】
反射層13の構成材料としては、使用帯域の光に対して反射性を有する材料であれば特に制限されず、例えば、Al、Ag、Cu、Mo、Cr、Ti、Ni、W、Fe、Si、Ge、Te等の元素単体又はこれらの1種以上の元素を含む合金が挙げられる。中でも、反射層13は、アルミニウム又はアルミニウム合金で構成されることが好ましい。なお、これらの金属材料以外にも、例えば着色等により表面の反射率が高く形成された金属以外の無機膜や樹脂膜で反射層13を構成してもよい。
【0049】
反射層13の膜厚は、特に制限されず、例えば、100nm〜300nmが好ましい。なお、反射層13の膜厚は、例えば上述の電子顕微鏡法により測定可能である。
【0050】
反射層13の幅cは、台座12の最小幅以下であることが好ましく、より好ましくは台座12の最小幅よりも小さく設定される。また、後述するように、反射層13の幅cは、誘電体層14の最大幅、即ちグリッド先端部17の最大幅であるグリッド幅bよりも小さいことが好ましい。具体的には、反射層13の幅cは、グリッド幅bに対する割合が52〜72%であることが好ましい。なお、これらの幅は、例えば上述の電子顕微鏡法により測定可能である。
【0051】
反射層13の幅を、台座12の幅やグリッド幅(誘電体層14の幅)bよりも小さくする方法としては、例えばウェットエッチングによる等方性エッチングが挙げられる。上述したように、反射層13は光を反射するが、反射層13の幅を制御することで、光の入射方向から見た反射層13の面積が変更され、反射層13で反射される光の量が変化する。従って、グリッド幅bに占める反射層13の幅の割合を制御することで、偏光板1の光透過特性を制御可能である。
【0052】
誘電体層14は、反射層13上に形成され、吸収軸であるY軸方向に帯状に延びた誘電体膜が配列されてなるものである。誘電体層14は、吸収層15で反射した偏光に対して、吸収層15を透過して反射層13で反射した偏光の位相が半波長ずれる膜厚で形成される。具体的には、誘電体層14の膜厚は、偏光の位相を調整して干渉効果を高めることが可能な1〜500nmの範囲で適宜設定される。この誘電体層14の膜厚は、例えば上述の電子顕微鏡法により測定可能である。
【0053】
誘電体層14を構成する材料としては、SiO
2等のSi酸化物、Al
2O
3、酸化ベリリウム、酸化ビスマス、等の金属酸化物、MgF
2、氷晶石、ゲルマニウム、二酸化チタン、ケイ素、フッ化マグネシウム、窒化ボロン、酸化ボロン、酸化タンタル、炭素、又はこれらの組み合わせ等の一般的な材料が挙げられる。中でも、誘電体層14は、Si酸化物で構成されることが好ましい。
【0054】
誘電体層14の屈折率は、1.0より大きく、2.5以下であることが好ましい。反射層13の光学特性は、周囲の屈折率によっても影響を受けるため、誘電体層14の材料を選択することで、偏光板特性を制御することができる。
また、誘電体層14の膜厚や屈折率を適宜調整することにより、反射層13で反射したTE波について、吸収層15を透過する際に一部を反射して反射層13に戻すことができ、吸収層15を通過した光を干渉により減衰させることができる。このようにしてTE波の選択的減衰を行うことにより、所望の偏光特性を得ることができる。
【0055】
吸収層15は、誘電体層14上に形成され、吸収軸であるY軸方向に帯状に延びて配列されたものである。吸収層15の構成材料としては、金属材料や半導体材料等の光学定数の消衰定数が零でない、光吸収作用を持つ物質の1種以上が挙げられ、適用される光の波長範囲によって適宜選択される。金属材料としては、Ta、Al、Ag、Cu、Au、Mo、Cr、Ti、W、Ni、Fe、Sn等の元素単体又はこれらの1種以上の元素を含む合金が挙げられる。また、半導体材料としては、Si、Ge、Te、ZnO、シリサイド材料(β−FeSi
2、MgSi
2、NiSi
2、BaSi
2、CrSi
2、CoSi
2、TaSi等)が挙げられる。これらの材料を用いることにより、偏光板1は、適用される可視光域に対して高い消光比が得られる。中でも、吸収層15は、Fe又はTaを含むとともに、Siを含んで構成されることが好ましい。
【0056】
吸収層15として半導体材料を用いる場合には、吸収作用に半導体のバンドギャップエネルギーが関与するため、バンドギャップエネルギーが使用帯域以下であることが必要である。例えば、可視光で使用する場合、波長400nm以上での吸収、即ち、バンドギャップとしては3.1ev以下の材料を使用する必要がある。
【0057】
吸収層15の膜厚は、特に制限されず、例えば、10nm〜100nmが好ましい。この吸収層15の膜厚は、例えば上述の電子顕微鏡法により測定可能である。
なお、吸収層15は、蒸着法やスパッタ法により、高密度の膜として形成可能である。また、吸収層15は、構成材料の異なる2層以上から構成されていてもよい。
【0058】
以上の構成を備える本実施形態に係る偏光板1は、誘電体層14と吸収層15との間に、拡散バリア層を有していてもよい。即ちこの場合には、格子状凸部11は、透明基板10側から順に、台座12と、反射層13と、誘電体層14と、拡散バリア層と、吸収層15と、を有する。拡散バリア層を有することにより、吸収層15における光の拡散が防止される。この拡散バリア層は、Ta、W、Nb、Ti等の金属膜で構成される。
【0059】
また、本実施形態に係る偏光板1は、光学特性の変化に影響を与えない範囲において、光の入射側の表面が、誘電体からなる保護膜により覆われていてもよい。具体的には、少なくともグリッド先端部17の側面(傾斜面)が保護膜により覆われていることが好ましい。保護膜は、誘電体膜で構成され、例えば偏光板1の表面(ワイヤグリッドが形成された面)上に、CVD(Chemical Vapor Deposition)やALD(Atomic Layer Deposition)を利用することにより形成可能である。これにより、金属膜に対する必要以上の酸化反応を抑制することができる。
【0060】
さらに、本実施形態に係る偏光板1は、光の入射側の表面が、有機系撥水膜により覆われていてもよい。具体的には、少なくともグリッド先端部17の側面(傾斜面)が有機系撥水膜により覆われていることが好ましい。有機系撥水膜は、例えばパーフルオロデシルトリエトキシシラン(FDTS)等のフッ素系シラン化合物等で構成され、例えば上述のCVDやALDを利用することにより形成可能である。これにより、偏光板1の耐湿性等の信頼性を向上できる。
【0061】
[偏光板の製造方法]
本実施形態に係る偏光板1の製造方法は、下地層形成工程と、反射層形成工程と、誘電体層形成工程と、吸収層形成工程と、エッチング工程と、を有する。
【0062】
下地層形成工程では、透明基板10上に下地層を形成する。反射層形成工程では、下地層形成工程で形成された下地層上に、反射層を形成する。誘電体層形成工程では、反射層形成工程で形成された反射層上に、誘電体層を形成する。吸収層形成工程では、誘電体層形成工程で形成された誘電体層上に、吸収層を形成する。これらの各層形成工程では、例えばスパッタ法や蒸着法により、各層を形成可能である。
【0063】
エッチング工程では、上述の各層形成工程を経て形成された積層体を選択的にエッチングすることにより、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで透明基板10上に配列される格子状凸部11を形成する。具体的には、例えばフォトリソグラフィ法やナノインプリント法により、一次元格子状のマスクパターンを形成する。そして、上記積層体を選択的にエッチングすることにより、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで透明基板10上に配列される格子状凸部11を形成する。エッチング方法としては、例えば、エッチング対象に対応したエッチングガスを用いたドライエッチング法が挙げられる。
【0064】
特に本実施形態では、エッチング条件(ガス流量、ガス圧、出力、透明基板の冷却温度)を最適化することにより、グリッド先端部17の側面に傾斜を持たせた先細形状を形成する。また、上記エッチング条件を最適化することにより、下地層18をエッチングして格子状凸部11の延在方向から見たときに台形状を有する台座12を形成する。
【0065】
なお、本実施形態に係る偏光板1の製造方法は、少なくともグリッド先端部17の側面(傾斜面)を保護膜で被覆する工程を有していてもよい。さらには、本実施形態に係る偏光板1の製造方法は、少なくともグリッド先端部17の側面(傾斜面)を有機系撥水膜で被覆する工程をさらに有していてもよい。
以上により、本実施形態に係る偏光板1が製造される。
【0066】
[光学機器]
本実施形態に係る光学機器は、上述した本実施形態に係る偏光板1を備える。光学機器としては、液晶プロジェクタ、ヘッドアップディスプレイ、デジタルカメラ等が挙げられる。本実施形態に係る偏光板1は、有機偏光板に比べて耐熱性に優れる無機偏光板であるため、耐熱性が要求される液晶プロジェクタ、ヘッドアップディスプレイ等の用途に好適である。
【0067】
本実施形態に係る光学機器が複数の偏光板を備える場合、複数の偏光板の少なくとも1つが本実施形態に係る偏光板1であればよい。例えば、本実施形態に係る光学機器が液晶プロジェクタである場合、液晶パネルの入射側及び出射側に配置される偏光板の少なくとも一方が本実施形態に係る偏光板1であればよい。
【0068】
以上説明した偏光板1及びその製造方法、並びに光学機器によれば、次のような効果が奏される。
【0069】
本実施形態に係る偏光板1では、透明基板10側から順に、台座12と、反射層13と、誘電体層14と、吸収層15と、を有する格子状凸部11を備えるワイヤグリッド構造の偏光板1において、台座12を台形状に形成することにより、台座12において屈折率が緩やかに変化するようなモスアイ構造と同等の効果が得られる。そのため、光の反射をより防止でき、高い透過率特性が得られると考えられる。従って、本実施形態によれば、高い透過率特性を有するとともに反射率特性の制御に優れた偏光板1及びその製造方法、並びにその偏光板1を備える光学機器を提供できる。
【0070】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形及び改良は本発明に含まれる。
【0071】
図4は、本実施形態の変形例1に係る偏光板1Aを示す断面模式図である。この偏光板1Aの格子状凸部11Aでは、グリッド脚部16Aを構成する反射層13Aの幅と、グリッド先端部17を構成する誘電体層14の最大幅(グリッド幅)とが同一となっている以外は、上記実施形態と同一の構成である。また、この偏光板1Aでは、反射層13Aの幅は、台座12の最小幅と同一となっている。
【0072】
この偏光板1Aによれば、上記実施形態と同様に、台座12を台形状に形成することにより、台座12において屈折率が緩やかに変化するようなモスアイ構造と同等の効果が得られる。そのため、光の反射をより防止でき、高い透過率特性が得られると考えられる。従って、この変形例1に係る偏光板1Aによれば、高い透過率特性を有するとともに反射率特性の制御に優れた偏光板1A及びその製造方法、並びにその偏光板1Aを備える光学機器を提供できる。
【0073】
なお、上記実施形態において、グリッド先端部とグリッド脚部との境界は反射層と誘電体層の境界にあり、グリッド先端部には誘電体層及び吸収層を含むものとしたが、これには限られない。グリッド先端部は、反射層を含んだ吸収層と誘電体層とで構成される構成、あるいは吸収層のみで構成される構成も可能である。ただし、グリッド先端部に反射層を含むことによって、偏光板を透過するTM波の透過率をより大きく向上させることができる。
また、本実施形態の偏光板の用途は、液晶プロジェクタに限られない。透過軸方向の偏光の透過率力が高い偏光板として、種々の用途に利用することが可能である。
【実施例】
【0074】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0075】
<実施例1及び2>
実施例1では、
図1に示す構造の偏光板1をシミュレーションに供した。また、実施例2では、
図4に示す構造の偏光板1Aをシミュレーションに供した。より具体的には、これらの偏光板の光学特性について、RCWA(Rigorous Coupled Wave Analysis)法による電磁界シミュレーションにより検証した。シミュレーションには、Grating Solver Development社のグレーティングシミュレータGsolverを用いた。なお、以下で説明する他の実施例のシミュレーションも同様である。
【0076】
図5は、
図1に示す構造の偏光板1と
図4に示す構造の偏光板1Aの透過軸透過率Tpをシミュレーションにより検証した結果を示すグラフである。
図5中、横軸が波長λ(nm)を示しており、縦軸が透過軸透過率Tp(%)を示している。ここで、透過軸透過率Tpとは、偏光板に入射する透過軸方向(X軸方向)の偏光(TM波)の透過率を意味する。また、
図5中、実線で示される反射層の幅が誘電体層の幅より狭いものが
図1の偏光板1を表しており、破線で示される反射層の幅が誘電体層の幅と同一のものが
図4の偏光板1Aを表している。
【0077】
この
図5に示すように、
図1に示す構造の偏光板1と
図4に示す構造の偏光板1Aいずれも高い透過軸透過率が得られることが確認された。また、誘電体層の幅よりも反射層の幅を小さく(狭く)することにより、青色帯域の光(λ=430〜510nm)から赤色帯域の光(λ=600〜680nm)に亘る可視光領域全体において透過軸透過率Tpが向上していることが確認された。
【0078】
<実施例3>
実施例3では、
図1に示す構造の偏光板1において、グリッド幅を35nm、40nm、45nm、50nm、55nmに変更するとともに、各グリッド幅に占める反射層の幅の比率を変化させた偏光板をシミュレーションに供した。より具体的には、入射光が緑色帯域の光(波長λ=520〜590nm)について、シミュレーションを実施した。
【0079】
図6は、
図1に示す構造の偏光板1の反射層の幅と透過軸透過率Tpとの関係をシミュレーションにより検証した結果を示すグラフである。より詳しくは、
図6は、グリッド幅に占める反射層の幅の比率と透過軸透過率Tpとの関係を示している。横軸が反射層の幅比率(%)を示しており、縦軸が透過軸透過率Tp(%)を示している。
また、
図7は、
図1に示す構造の偏光板1の反射層の幅とコントラストCRとの関係をシミュレーションにより検証した結果を示すグラフである。より詳しくは、グリッド幅に占める反射層の幅の比率とコントラストCRとの関係を示している。横軸が反射層の幅比率(%)を示しており、縦軸がコントラストCRを示している。
ここで、コントラストCRとは、吸収軸透過率Tsに対する透過軸透過率Tpの比(透過軸透過率Tp/吸収軸透過率Ts)を意味する。吸収軸透過率Tsとは、偏光板に入射する吸収軸方向(Y軸方向)の偏光(TE波)の透過率を意味する。
【0080】
図6に示すように、グリッド幅が狭くなるほど、透過軸透過率Tpは高くなることが分かる。また、グリッド幅が同じであれば、グリッド幅に占める反射層の幅の比率が小さくなるほど、透過軸透過率Tpは高くなることが分かる。例えば、グリッド幅が35nmであり、グリッド幅に占める反射層の幅の比率が100%である場合と、グリッド幅が45nmであり、グリッド幅に占める反射層の幅の比率が約67%である場合とを比較すると、概ね同じ透過軸透過率Tpが得られている。
【0081】
上述したように、グリッド幅を狭めることは製造バラツキの観点からも難易度が高く、グリッド幅を狭めたことにより偏光板としての信頼性を維持することも難しい。これに対して、本実施例によれば、グリッド幅に占める反射層の幅の比率を制御することで、実際のグリッド幅よりも狭いグリッド幅に対応する透過軸透過率Tpが得られる。そのため、本実施例によれば、必ずしも所望の光透過特性に合わせてグリッド幅を狭める必要がなくなるため、製造バラツキを抑制でき、信頼性を高めることができる。
【0082】
また、
図7に示すように、いずれのグリッド幅においても、グリッド幅に占める反射層の幅の比率の変化(透過軸透過率Tpの増加)に伴ってコントラストCRも変化することが分かる。従って、偏光板の透過率特性を向上させるとともに、任意のコントラストCRが得られることが分かる。
【0083】
ところで、上述したように偏光板の用途の1つとしてプロジェクタ用途がある。偏光板がプロジェクタに用いられる場合、近年ではより高い透過軸透過率とより高いコントラストが求められていることから、透過軸透過率Tpが93.5%以上であることが好ましく(
図6中のTp狙い値参照)、コントラストCRが500より大きいことが好ましい(
図7中のCR狙い値参照)とされている。
【0084】
ここで、各グリッド幅において、透過軸透過率Tpが93.5%以上となるときのグリッド幅に占める反射層の幅の比率と、コントラストが500となるときのグリッド幅に占める反射層の幅の比率を表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
表1に示すように、グリッド幅が45nmである場合に、コントラストCRが500となるときのグリッド幅に占める反射層の幅の比率が最も小さい。従って、コントラストCRを500より大きくするためには、グリッド幅に占める反射層の幅の比率は、概ね50%以上であることが好ましいと言える。
【0087】
また、透過軸透過率Tpが93.5%以上となるのは、グリッド幅が35nmの場合には、グリッド幅に占める反射層の幅の比率が72.0%以下の場合である。同様に、グリッド幅が40nmの場合には、グリッド幅に占める反射層の幅の比率が60.0%以下の場合であり、グリッド幅が45nmの場合には、グリッド幅に占める反射層の幅の比率が52.2%以下の場合である。従って、透過軸透過率Tpを93.5%以上とするためには、グリッド幅は35nm〜45nmの範囲であり、グリッド幅に占める反射層の幅の比率をX%とすると、X%の好ましい範囲は52%〜72%であると言える。
【0088】
なお、本実施例では、入射光が緑色帯域の光(波長λ=520〜590nm)についてシミュレーションを実施したが、入射光が赤色帯域の光(波長λ=600〜680nm)又は青色帯域の光(λ=430〜510nm)であっても、グリッド幅に占める反射層の幅の比率X%が多少前後するものの、同様の結果が得られる。
【0089】
<比較例1>
図8は、台座を有していない偏光板100を示す断面模式図である。偏光板100は、格子状凸部101が台座を有しておらず下地層108に直接設けられている以外は、
図4に示す構造の偏光板1Aと同様の構成である。
図8中、偏光板1と共通する構成については同一の符号を付している。この
図8に示す構造の偏光板100をシミュレーションに供した。
【0090】
図9は、
図4に示す構造の偏光板1Aと
図8に示す構造の偏光板100の透過軸透過率Tpをシミュレーションにより検証した結果を示すグラフである。
図9中、横軸が波長λ(nm)を示しており、縦軸が透過軸透過率Tp(%)を示している。また、
図9中、実線で示される台形状の台座を有するものが
図4の偏光板1Aを表しており、破線で示される台座なしのものが
図8の偏光板100を表している。
この
図9に示すように、台形状の台座を有することにより、青色帯域の光(λ=430〜510nm)から緑色帯域の光(波長λ=520〜590nm)にかけて透過軸透過率Tpが向上していることが確認された。
【0091】
<実施例4>
図10は、グリッド先端部17Bが矩形状の偏光板1Bを示す断面模式図である。この実施例4の偏光板1Bは、グリッド先端部17Bが先細形状ではなく矩形状の誘電体層14B及び吸収層15Bで構成されている以外は、
図1に示す構造の偏光板1と同様の構成である。
図10中、偏光板1と共通する構成については同一の符号を付している。偏光板1Bは、
図1に示す偏光板1のグリッド先端部の側面の傾斜角θが90度のものに相当する。
本実施例では、
図1に示す構造の偏光板1について、上記傾斜角θを変化させるとともにそれぞれグリッド先端部の高さaとグリッド幅bとの比を種々変更したものをシミュレーションに供した。また、本実施例では、透過軸透過率Tpと吸収軸反射率Rsのシミュレーションを実施した。ここで、吸収軸反射率Rsとは、偏光板の吸収軸方向(Y軸方向)の偏光(TE波)の反射率を意味する。なお、本実施例では、緑色帯域(波長λ=520〜590nm(所定の波長))の光に対して最適化されるよう設計された偏光板についてシミュレーションを実施した。
【0092】
図11は、
図1に示す構造の偏光板において、グリッド先端部の高さaとグリッド幅bの比がa:b=6:9の場合におけるグリッド先端部の傾斜角θと透過軸透過率Tpとの関係をシミュレーションにより検証した結果を示すグラフである。
図11中、横軸が傾斜角θ(°)を示しており、縦軸が透過軸透過率Tp(%)を示している。また、
図11中、破線が青色帯域(波長λ=430〜510nm)の光を示しており、実線が緑色帯域(波長λ=520〜590nm)の光を示しており、1点鎖線が赤色帯域(波長λ=600〜680nm)の光を示している。
【0093】
ここで、透過軸透過率Tpが高ければ、高い強度の所望の光が偏光板を透過することを意味する。
図11に示すように、傾斜角θが90度から傾くにつれて(即ち、グラフ上で右から左にずれるにつれて)、青色帯域(波長λ=430〜510nm)、緑色帯域(波長λ=520〜590nm)及び赤色帯域(波長λ=600〜680nm)の何れの帯域においても、透過軸透過率Tpが高くなる。特に、青色帯域については、透過軸透過率Tpの上昇幅が大きいことが分かる。
【0094】
図12は、
図1に示す構造の偏光板において、グリッド先端部の高さaとグリッド幅bの比がa:b=6:9の場合におけるグリッド先端部の傾斜角θと吸収軸反射率Rsとの関係をシミュレーションにより検証した結果を示すグラフである。
図12中、横軸が傾斜角θ(°)を示しており、縦軸が吸収軸反射率Rs(%)を示している。
図12に示すように、吸収軸反射率Rsが高くなると、偏光板により反射される吸収軸方向の偏光(TE波)が強くなることを意味する。このような反射光は消光比を低下させるため、吸収軸反射率Rsは低い方が好ましい。多くの液晶プロジェクタ用途では、吸収軸反射率Rsは10%未満であることが要求される。
【0095】
図12によれば、傾斜角θが小さいほど、このシミュレーションにおける偏光板の設計波長である緑色帯域の吸収軸反射率Rsが高くなり、傾斜角θが61度より小さくなると吸収軸反射率Rsが10%を超える。従って、液晶プロジェクタ用途で許容される傾斜角θの値は、61度≦θ<90度となる。この角度のことを、デバイス特性傾斜角と呼ぶ。なお、グリッド先端部の側面の傾きを大きくすると(傾斜角θを小さくすると)、吸収軸反射率Rsが高くなるのは、誘電体層及び吸収層の透明基板に沿う方向の大きさが小さくなるためにこれらによる反射光(TE波)の吸収効果が低下するためと考えられる。
【0096】
図13及び
図14は、グリッド先端部の高さaとグリッド幅bとの比がa:b=8:11の場合について、
図15及び
図16は、グリッド先端部の高さaとグリッド幅bとの比が8:9の場合について、
図17及び
図18は、グリッド先端部の高さaとグリッド幅bとの比がa:b=10:9の場合について、
図19及び
図20は、グリッド先端部の高さaとグリッド幅bとの比がa:b=8:7の場合について、それぞれ、グリッド先端部の傾斜角θに対する偏光板の透過軸透過率Tp及び吸収軸反射率Rsを示すグラフである。
【0097】
グリッド先端部の高さaとグリッド幅bとの比に関わらず、グリッド先端部の側面の傾斜が大きいほど(傾斜角θが小さいほど)、青色帯域、緑色帯域及び赤色帯域のいずれの帯域においても、透過軸透過率Tpの改善が認められた。また、いずれの場合も、青色帯域の透過軸透過率Tpの上昇が他の帯域よりも大きいことが分かった。
【0098】
一方、グリッド先端部の高さaとグリッド幅bとの比がa:b=8:7の場合に、
図20に示すように、θ<77度になると緑色帯域の波長の光の吸収軸反射率Rsが10%を超えている。従って、この場合のデバイス特性傾斜角度は、77度≦θ<90度である。また、グリッド先端部の高さaとグリッド幅bとの比a:b=8:9の場合に、
図15に示すようにグリッド先端部の側面を傾けることによる透過軸透過率Tpの特性向上効果が高く、傾斜角θは60度≦θ<90度とすることができる。
【0099】
ここで、
図11〜
図20のシミュレーション結果に基づいて、グリッド先端部の高さaとグリッド幅bとの比に対するグリッド先端部の傾斜角θの範囲を表2に示す。
【0100】
【表2】
【0101】
この表2において、シミュレーション傾斜角θは、シミュレーションを行った傾斜角の範囲であり、既に説明したようにθo≦θ<90度(θo=arctan(2a/b))の範囲である。
図11〜
図20でグリッド先端部の形状を高さaとグリッド幅bの比をa/bで示すとき、2/3≦a/b≦8/7に含まれるいずれの範囲においても、上記傾斜角θの範囲で各波長帯域の光の透過軸透過率が高くなることが確認された。また、上述のように、デバイス特性傾斜角は、吸収軸反射率Rsが10%を超えない範囲の傾斜角である。偏光板を液晶プロジェクタ等に使用する場合には、傾斜角θは、このデバイス特性傾斜角の範囲を満たすことが望ましい。
【0102】
<実施例5>
次に、実際に
図1に示すワイヤグリッド構造の偏光板を作製し、得られた光学特性とシミュレーション結果とを比較した。
図21は、グリッド先端部の高さaとグリッド幅bとの比が8:9の場合について、グリッド先端部の側面の傾斜角θに対する透過軸透過率Tpの実測値とシミュレーション結果とを対比して検証した結果を示すグラフである。
【0103】
図21において、白抜きの点は、
図15に示されたシミュレーション結果と同じものである。これに対して、傾斜角θの平均値が77度と74度の場合について、実測値を黒塗りの点で示している。ここで、傾斜角θの平均値が74度の場合は、青色帯域(波長λ=430〜510nm)の実測値と緑色帯域(波長λ=520〜590nm)の実測値とが92.6%付近で重なった点となっている。なお、傾斜角θの平均値としたのは、実際に作製した偏光板のグリッド先端部の側面の傾斜角度にはバラツキがあるためである。
【0104】
図21から分かるように、実測結果においても傾斜角θの平均値が77度の時よりも、傾斜角θの平均値が74度の場合の方が、全ての帯域で透過軸透過率Tpが高くなっている。特に青色帯域においては、透過軸透過率Tpが大幅に向上している。このように、グリッド先端部の側面をより傾けることにより(傾斜角θを小さくすることにより)、透過軸透過率Tpが向上することが確認された。
【0105】
次に、
図22〜
図25は、実際に作製した2つの偏光板について、それぞれ、透過軸透過率Tp、吸収軸透過率Ts、透過軸反射率Rp及び吸収軸反射率Rsの実測値を示すグラフである。ここで、透過軸反射率Rpとは、偏光板に入射する透過軸方向(X軸方向)の偏光(TM波)の反射率を意味する。それぞれのグラフで、破線で示される偏光板は、グリッド先端部の側面の傾斜角θが80度〜84度の範囲であり、実線で示される偏光板は、グリッド先端部の側面の傾斜角θが76〜80度の範囲である。なお、2つの偏光板のグリッドの高さaとグリッド幅bとの比は、2/3と8/11で近い値としている。
【0106】
図22に示す、偏光板のTM波の透過率を示す透過軸透過率Tpは、グリッド先端部の側面の傾斜角θを小さくしたときに、特に青色帯域(波長λ=430〜510nm)において大幅な向上が認められる。また、傾斜角θの値が、76〜80度の場合は、波長が430nm以上の青色帯域を含む可視光領域で、透過軸透過率Tpが波長によらず約92%〜93%で略一定となっており、十分な透過率の向上が得られている。従って、傾斜角θが80度以下の場合は、本発明による透過率の向上効果が大きいと考えられる。なお、
図11、
図15、
図17に示されるシミュレーションの例では、傾斜角θが80度以下であれば、青色帯域、緑色帯域及び赤色帯域の透過軸透過率Tpの間の差が、0.5〜1%程度の範囲の小さな値となっている。このため、偏光板を透過した光の波長帯域毎に均等に透過するので、色彩の変化が少ない。
【0107】
これに対して、
図23に示されるTE波の透過率を示す吸収軸透過率Tsと、
図24に示されるTM波の反射率を示す透過軸反射率Rpについては、傾斜角θが変化してもほとんど影響を受けない。また、
図25に示されるTE波の反射率を示す吸収軸反射率Rsについては、可視光全体で反射率が下がる傾向である。
【0108】
以上の結果から、ワイヤグリッド構造の格子状凸部における、透明基板上に台形状の台座を形成し、台座及び誘電体層の幅よりも反射層の幅を狭く制御し、グリッド先端部の側面の傾斜角度を制御することによって、透過軸方向の透過率、特に、可視光領域のうち青色帯域を含む短波長側の光に対して、透過軸透過率の向上効果が大きいと言える。
【0109】
また、基本的な構造は従来技術と同一でありながら、グリッド幅自体を狭くしなくても、狭いグリッド幅に対応する所望の光透過特性が得られるため、細いグリッドを形成することによるフォトリソグラフィ等でのマスクパターン倒れや、ドライエッチング等でのグリッド倒れ等が生じ難くなる。これにより、偏光板の製造を容易化でき、併せて製造バラツキを抑制でき、偏光板としての信頼性も維持することができる。