特許第6935401号(P6935401)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6935401可動コイルフレームを備えた高い動特性を有するアクチュエータ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6935401
(24)【登録日】2021年8月27日
(45)【発行日】2021年9月15日
(54)【発明の名称】可動コイルフレームを備えた高い動特性を有するアクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 33/18 20060101AFI20210906BHJP
   G02B 26/10 20060101ALI20210906BHJP
   G02B 26/08 20060101ALI20210906BHJP
【FI】
   H02K33/18 C
   G02B26/10 104Z
   G02B26/08 E
【請求項の数】15
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-531140(P2018-531140)
(86)(22)【出願日】2016年12月13日
(65)【公表番号】特表2019-500837(P2019-500837A)
(43)【公表日】2019年1月10日
(86)【国際出願番号】FR2016053363
(87)【国際公開番号】WO2017103424
(87)【国際公開日】20170622
【審査請求日】2019年10月17日
(31)【優先権主張番号】1562353
(32)【優先日】2015年12月15日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】501377391
【氏名又は名称】ムービング マグネット テクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ルザール、ギヨーム
(72)【発明者】
【氏名】ビベルシ、ステファーヌ
【審査官】 大島 等志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平6−168351(JP,A)
【文献】 特開2008−134329(JP,A)
【文献】 米国特許第6275319(US,B1)
【文献】 特開2006−227415(JP,A)
【文献】 特開2015−57041(JP,A)
【文献】 特開2000−102224(JP,A)
【文献】 特開平11−8964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 33/00−33/18
G02B 26/10−26/12
G02B 26/00−26/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動フレームを備えた回転アクチュエータであって、
回転軸Aを中心に角運動し、楕円の円筒形状を有するとともに固定磁石の磁場内に配置された電気コイル(1)を備え、コイル軸Bは前記回転軸Aと直交し、前記固定磁石は、前記電気コイル(1)を包囲するとともに2つの半円筒形部分(3,4)からなり、前記半円筒形部分の磁力線は前記回転軸Aに直交し、前記2つの半円筒形部分のうちの第1の部分は、前記電気コイル(1)に向けられたN極を有するとともに、前記磁力線の方向に直交して前記電気コイル(1)の外側に配置され、前記2つの半円筒形部分のうちの第2の部分は、前記電気コイルに向けられたS極を有するとともに、前記磁力線の方向に直交して前記第1の部分とは反対側の位置において前記電気コイル(1)の外側に配置され、前記回転アクチュエータは、前記電気コイルの内側における強磁性体の内側コア(6)と、前記固定磁石を囲む強磁性体の外側ヨーク(5)とを含み、前記電気コイル(1)は、前記内側コア(6)と、磁化された前記半円筒形部分(3,4)との間に形成される空隙内を移動する、回転アクチュエータ。
【請求項2】
前記電気コイル(1)は、前記外側ヨーク(5)によってガイドされる機械軸(2)に一体化されていることを特徴とする請求項1に記載の回転アクチュエータ。
【請求項3】
前記回転アクチュエータが弾性復帰素子を備えていないことを特徴とする請求項1に記載の回転アクチュエータ。
【請求項4】
100Hzより大きな1次周波数を有する信号を前記電気コイル(1)に供給する電子制御回路をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の回転アクチュエータ。
【請求項5】
機械軸(2)は、前記回転軸の直近に位置する反射面を有する素子を支持することを特徴とする請求項1に記載の回転アクチュエータ。
【請求項6】
前記電子制御回路は、高調波成分を有する1次周波数の周期信号を前記電気コイル(1)に供給し、前記高調波成分を有する1次周波数の周期信号は、前記1次周波数の振幅の10%よりも大きな振幅を有する、5次よりも大きな少なくとも1つの高調波パターンを有することを特徴とする請求項4に記載の回転アクチュエータ。
【請求項7】
前記電気コイル(1)の角度位置センサであって、角度位置に依存した速度基準プロファイルに応じて前記電気コイルの供給電圧を制御する信号を前記電子制御回路に供給する角度位置センサをさらに備えることを特徴とする請求項4に記載の回転アクチュエータ。
【請求項8】
前記電気コイル(1)は、長楕円形の非円形断面を有することを特徴とする請求項1に記載の回転アクチュエータ。
【請求項9】
前記電気コイル(1)は、長円形断面を有することを特徴とする請求項1に記載の回転アクチュエータ。
【請求項10】
機械軸(2)は、前記強磁性体の内側コア(6)と接触することなく、または前記内側コアによる案内なしに、前記内側コア(6)を貫通していることを特徴とする請求項1に記載の回転アクチュエータ。
【請求項11】
機械軸(2)は、前記強磁性体の外側ヨーク(5)と接触することなく、または前記外側ヨークによる案内なしに、前記内側コア(6)に案内されていることを特徴とする請求項1に記載の回転アクチュエータ。
【請求項12】
機械軸(2)は、磁気感知プローブ(9)の近傍に配置されたセンサ磁石(10)を有し、前記磁気感知プローブ(9)と相互作用して前記センサ磁石(10)の位置を検出することを特徴とする請求項7に記載の回転アクチュエータ。
【請求項13】
前記回転アクチュエータは、1次周波数の周期信号によって駆動され、前記センサ磁石(10)との磁気相互作用により前記1次周波数以下の機械的共振周波数を有することを特徴とする請求項12に記載の回転アクチュエータ。
【請求項14】
前記内側コア(6)および前記外側ヨーク(5)は強磁性体シートを積層することによって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の回転アクチュエータ。
【請求項15】
適応型照明システムのアクチュエータを制御する方法であって、
前記照明システムは請求項1に記載の回転アクチュエータを備え、
前記電気コイル(1)の供給電圧の値が、前記電気コイルの角度位置センサからの位置信号と、角度位置に従った速度プロファイルとに応じて周期的に変更される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動速度を変化させる大きな能力を与える機械的および電気的特性を有する可動コイルフレームを備えたアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
「検流計」と呼ばれるタイプのアクチュエータは、電流検出装置におけるそれらの本来の使用に関して既に周知であり様々な形態を取っている。これらは、可動鉄、可動磁石、または可動コイルコアを有し得る。これらは、典型的には数十または数百ヘルツで動作する動的発振器の用途において有利に使用されている。
【0003】
これらの検流計は、直線ストローク、または大抵の場合、一般には数度〜数十度の角度ストロークで移動する外側部材と一体化されている。典型的な例は、光ビーム偏向の用途を考慮した場合におけるミラーの変位である。この移動は、1次周波数に従った周期的なものであり、可動部分は所与のストローク内で振動する。
【0004】
これらの検流計が可動鉄心を有する場合、放熱が容易となる利点がある。電気コイルは固定子上に配置され、大きなサイズとすることができ、臨界加熱なしで高負荷を移動させることができる。しかし、これらの検流計は、高周波数の使用を禁止する大きな慣性および高いインダクタンスを有し、典型的には50Hz未満の動作周波数である。
【0005】
これらの検流計が可動磁石を有する場合、常に比較的大きな移動慣性を有する。これらの検流計は、可動鉄心アクチュエータよりも低いインダクタンスを有するが、典型的には100Hzよりも高い周波数での移動についてはその使用が想定されていない。レーザースキャナの検流計を提案する特許文献1に示された例では、動作周波数は最大約100ヘルツである。アクチュエータは、非線形応答を有する弾性ダウン−プル要素をさらに備える。この非線形性により、アクチュエータは加速および減速を補助することができ、構造の憂慮すべき寄生共振、とりわけ可動磁石の過度の慣性によって引き起こされる寄生共振を制限することができる。
【0006】
これらの検流計が可動コイルを有する場合、機械的支持体に巻回された、あるいはその構成されたコイルが例えば樹脂加工されている場合には自己支持された、1つ以上の輪の形態での導電体コイル(銅、アルミニウム、または銀の種類)で作られる。これらの利点は、小さな慣性および低いインダクタンスがそれらのレイアウトにより実現できる点にある。欠点は、形成される導電体の量が少ないことによって、また、これらのコイルは大抵の場合、熱伝導体と接触することなく、移動する空気に主に接触しているという事実によって、放熱が低く制限される点にある。
【0007】
可動フレーム解決策による小さな慣性および低いインダクタンスは、より高い(典型的には数十〜数百ヘルツの)動作周波数の用途での使用を可能にする。
従来技術のアクチュエータの動作は一般的には一定の動作周波数で行われるが、機械的剛性を有する弾性復帰素子とともにこれらのアクチュエータを使用することで、その剛性や質量または運動中の慣性に依存した特定の機械的共振周波数を設定できる利点があることは周知である。
【0008】
検流計タイプの可動フレームを用いた光ビーム偏向器を有する、例えば特許文献2などの装置を有する文献が存在する。この提案された解決策は、捩りばねを用いて動作させ、ばねの慣性、インダクタンス、機械的剛性に関わる機械的および電気機械的共振周波数を等化することによって単一の動作周波数を最適化することを目指している。
【0009】
この構造の欠点は、固定磁石によって提供される磁場内に置かれる可動フレームとしての機能だけでなく、光ビームの偏向に使用される反射器の機械的強度の機能も有する必要があるために、矩形状を有する比較的長い可動フレームの使用を選択する点にある。この解決策は、比較的大きい慣性および電気抵抗を有するものの大きなインダクタンスも含む。また、高い剛性を得るためにアルミニウムリボンコイルの構成を必要とする。その結果、寄生共振周波数の影響を受けるとともに、製造するのに(一般的ではないアルミテープが使用されるため)おそらく高価となる非効率的なアクチュエータとなり、周波数を設定し調整することが困難となる。また、このように構成されたRLシステム(抵抗Rとそれに直列なインダクタンスLとの組み合わせ)の電気的遮断周波数は、システムが電気機械的共振周波数(インダクタンスと慣性との間の共振)の付近でのみ効果的に使用可能となる非常に低い値の2.2Hzと見積もられ得る。
【0010】
また、圧縮機の動的動作を最適化する振動アクチュエータの一般的な分野において特許文献3が知られている。この文献では、システムの電気的点の負荷の問題を克服するためにシステムの機械的共振周波数と電気機械的共振周波数の双方を使用する賢明な提案がなされている。この点について、圧縮機の効率を考慮すると双方の周波数は十分に近い。
【0011】
この装置は、この低減された範囲から外れず、純粋な正弦波電源の使用下での、機械的共振によって固定された周波数(または、この固定周波数の1〜2ヘルツの逸脱)で使用される場合の振動アクチュエータの使用に完全に特化されている。このため、この解決策は、様々な周波数および/または有意な高調波成分で動作するシステムの使用に特化したものではない。
【0012】
2つの磁気部品の間に配置され、円筒コイルからなるミラーを移動させる可動フレームであって、2つの磁気部品の磁力線がコイルの回転軸に平行とされた可動フレームについて記載した特許文献4も知られている。
【0013】
このような実施形態は、大きな慣性をもたらすことによって可能フレームの動的な移動を制限する。また、高い抵抗と高いインダクタンスがもたらされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第6,275,319号明細書
【特許文献2】米国特許第3,735,258号明細書
【特許文献3】欧州特許第2686554号明細書
【特許文献4】特開平6−165466号公報
【特許文献5】欧州特許出願公開第2690352号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従来技術の装置は、周波数動作の効率の一般的な問題を解決することを意図している。これらのシステムでは、走査速度は主に一定周波数、具体的にはこの周波数内での単一の反復プロファイルを有する移動に従ったものとされる。このため、動作周波数はシステムの共振周波数によって主に調整される。
【0016】
これらの従来技術の装置は、低い高調波成分を有するこの一定周波数で動作するように使用されている。
ここで、例えば特許文献5に示されるような、走査速度を可変とすることが必要とされるシステムにおいては、これらの従来技術のアクチュエータは、その共振特性のために、アクチュエータの効率に大きな影響を与えることなく動作周波数を変更する能力を有していないため、満足な結果を提供することができない。
【0017】
また、例えば高い動的走査のレーザー型自動車照明(典型的な周波数は200Hz)の用途とする場合、制限が課された一定の走査周波数での移動内において、アクチュエータの角度ストロークの異なる位置でビームを加速または減速させることを実現しつつ大きな加速度可変性を得る必要がある。
【0018】
従来技術の装置は、捩りばねにより与えられた機械的剛性によって大きく影響を受ける速度特性を有し、放物線プロファイルは時間に依存し、使用する1次周波数内でこの速度プロファイルを変更することが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、機械的共振周波数の影響を最小化する、最適化された幾何学的および物理的特性を有するアクチュエータを提案することによって、従来技術の欠点を克服することを目的とする。機械的共振周波数frmの値は、次式、
【0020】
【数1】
で規定される。ここで、Kは機械的剛性(Nm/rad)であり、Jは移動慣性モーメント(kg・m)であり、機械的共振周波数frmは、電気的遮断周波数と、アクチュエータに供給する1次周波数周期信号よりもはるかに大きい電気機械的共振周波数とを得ることによって規定される。電気システムの遮断周波数fceは、次式、
【0021】
【数2】
で規定される。ここで、Rは電気抵抗(Ω)であり、Lはインダクタンス(H)である。アクチュエータの電気機械的周波数femは、次式、
【0022】
【数3】
で規定される。ここで、Ktはアクチュエータのトルク定数(Nm/A)である。
【0023】
これらの特性によって、本発明の別の態様は、高調波成分(contenu harmonique)が大きい1次周波数の周期信号による(典型的には、変調信号の振幅の10%より大きな振幅を有する5次の高調波パターンによる)アクチュエータの電力供給を可能にする。
【0024】
これらの機能を可能にするために、本発明は、楕円形状、好ましくは円形を有する可動フレームアクチュエータを提案し、これにより、移動する外側部材の慣性値までの値に概して調整される非常に小さな慣性を得ることを可能にするとともに、力特性、インダクタンス特性、および抵抗特性を最適化して、1次周波数の周期信号を超える遮断周波数fceや電気機械的周波数femを除外する。
【0025】
具体的には、これらの目的を達成するために、本発明は、可動フレームを備えた回転アクチュエータに関し、回転アクチュエータは、回転軸Aを中心に角運動する電気コイルであって、楕円の円筒形状を有するとともに、固定磁石の磁場内に配置された電気コイルを備えている。コイル軸Bは回転軸Aに直交している。本発明において、前記固定磁石は、前記電気コイルを囲むとともに2つの半円筒形部分からなり、半円筒形部分の磁力線は、前記回転軸Aに直交している。前記2つの半円筒形部分のうちの第1の部分は、前記電気コイルに向けられたN極を有するとともに、前記磁力線の方向に直交して前記電気コイルの外側に配置され、前記2つの半円筒形部分のうちの第2の部分は、前記電気コイルに向けられたS極を有するとともに、前記磁力線の方向に直交して前記第1の部分とは反対側の位置において前記電気コイルの外側に配置されている。前記回転アクチュエータは、前記電気コイルの内側における強磁性体の内側コアと、前記固定磁石を囲む強磁性体の外側ヨークとを含み、前記電気コイルは、前記内側コア(6)と磁化された前記半円筒形部分との間に形成された空隙内を移動する。
【0026】
好ましくは、前記電気コイルは、前記外側ヨークによって案内される機械軸に取り付けられている。
本発明の態様の一つは、弾性復帰素子を備えていなくても動作可能である。
【0027】
閉ループで動作可能とするために、システムはさらに、100Hzより大きな1次使用周波数を有する信号を前記電気コイルに供給する電子制御回路を備え得る。
光偏向用途の観点で、機械軸は、回転軸の直近に配置される反射面を有する素子を支持する。
【0028】
大きな速度変化が望まれる使用の場合、前記電子制御回路は、高調波成分を有する1次周波数の周期信号を前記電気コイルに供給する。前記1次周波数の周期信号は、前記1次周波数の振幅の10%より大きな振幅を有する5次の高調波パターンよりも大きな高調波成分を有する。
【0029】
閉制御ループの場合、前記回転アクチュエータは角度位置センサを備える。角度位置センサは、角度位置センサの角度位置を検出し、前記角度位置に応じた速度の基準プロファイルに従って前記電気コイルの供給電圧を制御するための信号を電子制御回路信号に送出する。
【0030】
好ましくは、前記電気コイルは楕円形の縦断面を有するが、非円形の楕円形状に設計することもできる。
好ましい形態では、前記機械軸は、前記強磁性体の外側ヨークと接触することなくまたは前記外側コアによる案内なしに前記強磁性体の内側コアに案内されるが、前記強磁性体の内側コアと接触することなくまたは前記内側コアによる案内なしに前記内側コアを貫通する。
【0031】
1つの特定の実施形態において、前記機械軸は、磁気感知プローブの近傍に配置されたセンサ磁石を有し、前記磁気感知プローブと相互作用して前記センサ磁石の位置を検出する。
【0032】
前記センサ磁石の使用中、前記回転アクチュエータは、1次周波数の周期信号によって制御され、前記センサ磁石との磁気相互作用により、前記1次周波数以下の機械的共振周波数を有する。
【0033】
前記電気コイルのインダクタンスを最小にするために、前記内側コアおよび前記外側ヨークは強磁性体シートを積層することによって形成することができる。
また、本発明は、上記アクチュエータを備える適応型照明システムのアクチュエータの制御方法も考慮し、前記電気コイルの供給電圧が、前記電気コイルの角度位置センサから出力される位置信号と、角度位置に従った速度プロファイルとに応じて周期的に変更される。
【0034】
本発明の他の特徴および利点は、添付の図面を参照して、以下の詳細な実施形態の例で理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1図1aは本発明におけるアクチュエータの前面図、図1bは本発明におけるアクチュエータの斜視図。
図2】磁化状態の第1実施形態に従ったアクチュエータの前面図。
図3】磁化状態の第2実施形態に従ったアクチュエータの前面図。
図4図4aは本発明におけるアクチュエータの断面図、図4bは本発明におけるアクチュエータの拡大斜視図。
図5】ミラーの位置を移動し検出するために用いられる位置センサおよびアクチュエータの斜視図。
図6図6a,6bはコイルがストロークの両端にある状態の回転軸Aの横断面図。
図7】固定強磁性体要素が積層スタックの外側に形成される場合の回転軸Aの横断面図。
図8】第1実施形態に従ったアクチュエータの回転軸Aに沿った縦断面図。
図9】コイルへの電源供給に関する第2実施形態に従ったアクチュエータの回転軸Aに沿った縦断面図。
図10】本発明に従って製造されたアクチュエータの前面図であって、磁化状態の第1実施形態による磁力線を重畳して示す図。
図11】本発明に従って製造されたアクチュエータの前面図であって、磁化状態の第2実施形態による磁力線を重畳して示す図。
図12】本発明におけるアクチュエータによる考えられる速度および位置の評価を速度の高調波分解とともに例示目的で示す図。
図13】縦断面が非円形の楕円形状であるコイルを有する本発明の代替実施形態によるアクチュエータの前面図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明は、移動速度を変化させる大きな能力を与える機械的および電気的特性を有する可動コイルフレームを備えたアクチュエータに関する。
大きな加速および減速の能力によって特徴付けられるこの非常に高い動特性は、決定された角度ストロークで振動する可動部材を、そのストローク上で大きな可変加速度を示す速度プロファイルで高精度に制御することを可能にする。特にこのようなアクチュエータは、照射領域における強度変動を伴うカスタマイズ可能な照明モードを可能にする適応型照明システムを実現するために用いることができる。
【0037】
好ましいが非網羅的な用途の1つは、ミラーで反射して道路を照射するように設計されたビームを生成するレーザー源を備えた自動車用の照明に関する。本発明によるアクチュエータの動特性品質は、例えば逆方向から来る運転者を眩惑させることを避けるために、例えば、道路の特定領域を避けたり、他の領域でのより強い照度を可能にしたり、または逆に光強度を低下させたりすることによって、非常に柔軟性の高い照明を可能にする。
【0038】
図1aおよび図1bは、本発明に従って製造されたアクチュエータを示す。アクチュエータは、軸(A)上で回転する可動電気コイル(1)を含み、このコイル(1)は導電性のらせん状に形成されている。コイル(1)は、楕円の円筒形状、ここでの好ましい形態では円形の円筒形状であり、らせんのコイル軸Bは回転軸(A)に対して直交している。軸(A)上でコイルが回転するので、コイル軸(B)は移動するが、常に回転軸(A)に直交するように配向される。
【0039】
コイル(1)は、コイルの支持部として設けられるとともに外部部材(図示略)を動かすための機械軸(2)に取り付けられている。コイル(1)が回転すると、2つの半円筒形の永久磁石(3,4)に対してコイル(1)が可動する。永久磁石(3,4)の磁力線(図示略)は回転軸Aに常に直交している。これらの永久磁石(3,4)は、その磁化の方向(1つまたは複数)が管状磁石の磁力線に直交するように磁化され、これにより、図10および図11に示されるように、磁石(3,4)により生成された磁場の大部分は、回転軸Aおよび磁化された半円筒形部分に垂直な軸によって規定される平面に平行な一連の平面内に配向される。
【0040】
磁石(3,4)の磁化は、一方の磁石(3)のN極が空隙およびコイル(1)を向いて配向されるとともに、他方の磁石(4)のN極がその空隙およびコイル(1)とは逆方向を向いて配向される必要があるが、磁石(3,4)の位置がコイル(1)の右側であるか左側であるかは重要ではない。図2に示されるように、磁石上の大きな白抜き矢印により表される磁化部分(3,4)の磁化は、その磁化部分(3,4)の円筒形状に対して半径方向であり得るか、または図3に示されるように、磁化部分(3,4)の円筒形状に対して直径方向であり得る。図2に示される半径方向の磁化の利点は、図2および図3のそれぞれの磁力線を示す図10および図11から分かるように、アクチュエータの最適トルク定数および空隙内の磁場の方向をより半径方向にすることを可能にしつつアクチュエータのより良い性能を得るのに役立つ点である。
【0041】
任意ではあるが、図2に示される穴(14)は、要素を割り出して固定するのに役立ち、これらは、本発明の目的におけるアクチュエータの性能に影響を与えない。
これらの磁石(3,4)は、コイル(1)の両側において外側に配置される。これらの磁石(3,4)は、磁石(3,4)間に磁束が流れることを可能としつつ、空隙の内側への誘導を最大にするために、磁石(3,4)を囲む軟強磁性材料からなる外側ヨーク(5)に固定されている。円筒形コイル(1)の内部には、コイル(1)に対し固定される内側コア(6)が設けられ、この内側コア(6)は、磁石(3,4)によって生成された磁場を導くために同様に軟強磁性材料で実現されている。このように、コイル(1)は、そのコイル(1)の一方の部分が、磁石(3)と内側コア(6)との間に形成された空隙内に配置され、コイル(1)の他方の部分が、磁石(4)と内側コア(6)との間に形成された空隙内に配置される。すべての固定部品、すなわち、磁石(3,4)、内側コア(6)、および外側ヨーク(5)の構成要素はすべて、この例では円形であり、これにより、構成要素の形態および体積を最適化することが可能になる。もちろん、アクチュエータの機能または性能を変更することなく、例えば、平行六面体の非円形外側ヨークを想定することも可能である。しかしながら、アクチュエータの最大の性能を可能にするので、コイルは略円形状であることが最適である。図13に示されているように、アクチュエータ(1)を特定の用途の構造に適合化させるために略楕円形状とすることもできる。
【0042】
周知のラプラス法に従ったアクチュエータの動作は以下の通りである。コイル(1)に電流が流れると、上記した2つの空隙の磁場内に置かれた導体は、回転軸(A)の周りにトルクを生成しようとする力を受ける。コイル(1)に流れる電流の方向を変えることによって、正または負のトルクを作用させることが可能となり、コイル(1)を回転軸(A)の周りで振動させることが可能となる。従って、コイル軸(B)が回転軸(A)に対して配向される。コイル(1)は生成された空隙内に完全に位置しているので、コイルの振動が数度(典型的には約20〜30度まで)に達すると、得られるトルク定数はストロークに沿ってほぼ一定となり、電流の強度を制御することによりアクチュエータの制御を容易にすることができる。
【0043】
アクチュエータに機械的または磁気的なバネは存在しないため、コイル(1)は完全に自由であり、電流によって生成される磁気トルクによって、コイル(1)は動かされる。従って、コイル(1)が回転中に内側コア(6)と接触することを防止するために機械的停止を実現することが重要となり得る。
【0044】
機械的または磁気的なバネがないことにより、コイル(1)の位置を容易に制御することが可能となる。同様に、コイル(1)および磁石(3,4)の楕円の円筒形状、ここでは特に円形の円筒形状によって非常に柔軟な移動の動特性が容易化され、このような円筒形状は、コイル(1)のインダクタンスおよび慣性を低減しつつ大きなトルク定数を維持するのに役立つ。これらのインダクタンスおよび慣性の要因とともにトルク定数が、従来技術のレイアウトと比較して大きく改善される。したがって、アクチュエータの電磁共振周波数は比較的高く、1次動作周波数(典型的な大きさでは、電気機械的周波数の場合、1次動作周波数1kHz〜1.5kHzに対して200Hz)を十分に上回る。この顕著な差は、高調波が大きい(典型的には、1次周波数の振幅の10%よりも大きな振幅を有する5次の高調波の)指令信号を想定し、要求された仕様に応じた非常に様々な速度プロファイルの生成を可能にする。また、システムの電気的遮断周波数も、抵抗とインダクタンスとの関係により、主動作周波数を超える大きさ(典型的には10kHzを超える大きさ)に押し上げられる。
【0045】
本発明に従って製造されたアクチュエータで達成され得る典型的な性能が、例として図12に示されている。理解されるように、非常に様々な時間に依存する速度プロファイルおよび位置がこのようなアクチュエータにより可能となる。これらの非常に様々なプロファイルは、実現される高調波分解を考慮することで具体的に評価することができる。とりわけ、この内容に制限されるものではないが、典型的には6次までの高振幅(>10%)の高調波を有する1次周波数信号(ここでは1次の高調波は200Hz)の振幅に比べて高調波成分が相対的に高いことが分かる。
【0046】
図4aは、図1bに示される中間面Pに沿った断面の斜視図を示す。とりわけ、機械軸(2)を回転中に案内するのを助けるベアリングなどのガイド要素(12)を設けることが有用である。非網羅的な利点として、機械軸(2)を剛性材料(金属や炭素繊維など)で形成することにより、運動中の慣性を最小限に抑えながら、アクチュエータが回転中に回転軸(A)に対して直交する方向に変形することを防止するのに十分な剛性を維持するための比較的小さな直径を維持することが可能となり、それにより、動作中の干渉周波数を制限することが可能となる。しかしながら、機械軸(2)は、好ましくは非磁性材料で形成される。ガイド要素(12)は、回転軸との摩擦係数を制限する材料、例えば、PTFE材料または低摩擦係数を有する熱可塑性ポリマーなどから形成されると有利である。悪影響を及ぼす静的不確定性を防止するために、好ましくは、コア(6)の通路の直径よりも機械軸(2)の直径が小さくされることにより、機械軸(2)がコア(6)で案内されないことが好ましい。
【0047】
図4bの拡大図は、機械軸(2)へのコイル(1)の取り付けを理解する助けとなる。実現性のある興味深い機械的構成は、コイル(1)を取り付ける平坦収容領域が形成されるように機械軸(2)上に平面(7)が形成される点である。好ましくは、回転軸(A)の近くに移動の慣性中心を維持するために、この回転軸(A)の近くにコイルを配置することがよく、このようにすることで、アクチュエータによって伝達される外部振動に対する感度を制限することができる。また、この位置決めによって、アクチュエータ内の最適トルク定数を保証することが好ましい。
【0048】
コイルは、有利には、熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ)内で巻かれて埋め込まれることでその軽さを保証しつつコイルに剛性が与えられ、それにより、その慣性モーメントを最小にすることができる。
【0049】
このように樹脂で被覆され剛性が付与されたコイルは、機械軸(2)上の平面(7)に配置(例えば接着)され得る。この点で、金属製の軸が好ましい。
コイル(1)と軸(2)との機械的接続の利点の1つは、平面(7)でコイル(1)と軸(2)との接触によって可能となる熱放出である。実際、この接触は、たとえ制限された接触であっても、軸(2)内でのコイル(1)のジュール効果によって生じる熱を排出するのに役立ち、したがって、コイル(1)が軸(2)と物理的に接触していない場合の空気中での熱抵抗と比較して、熱抵抗をより低くすることができる。
【0050】
本発明によるアクチュエータの好ましい用途は、例えば光ビームであるレーザーを反射するミラーの変位を通じたレーザー偏向である。これを実現するために、ミラー(11)を機械軸(2)やその軸の先端に接続し、ミラーの正確な変位を可能にするコイルの動きを正確に制御することができる。機械軸(2)の位置、すなわち、コイル(1)の位置を決定するために、機械軸(2)の他の端部に位置センサを配置することができる。機械軸の位置を知ることにより、コイル内の電流を調整し、閉ループの電子制御回路を使用して位置決めまたは速度ガイドラインを考慮することができる。
【0051】
図5の例において、位置センサは、大きな白抜き矢印の方向、すなわち、回転軸(A)と直交する方向に磁化されるセンサ磁石(10)によって構成される磁気センサである。このセンサ磁石(10)は回路基板(8)上に配置された感知プローブ(9)と相互作用して磁界の方向の変化を検出する。この種のセンサの市販の例は、メレキシス(Melexis)社によって製造されたTriaxis(登録商標)センサである。この種のセンサの利点は、その精密さと組み立ての容易さであり、外側ヨーク(5)によるアクチュエータの磁石(3,4)によって生成された磁束経路が磁気感知プローブ(9)上の外乱を打ち消す。
【0052】
しかしながら、センサ磁石(10)の使用は、そのセンサ磁石とアクチュエータとの間の磁気相互作用による磁気結合をアクチュエータにもたらし、機械的共振周波数を導入し得る。従って、共振周波数が典型的にはコイル(1)の1次供給周波数以下となるようにセンサ磁石(10)と外側ヨーク(5)との間の距離を設定することが望ましい。軸(A)に沿った磁石(10)の双極磁化を選択することもでき、これにより、センサとアクチュエータとの間の磁気結合を最小にすることができる。
【0053】
図6aおよび図6bは、回転軸(A)の横断面であって、コイル(1)が動作中に取り得る両端位置を示している。これらの位置は大きく離れていてもよいが所望のストロークに依存する。この例では、角度差は20°、すなわち、コイル(1)がストロークの中心にある位置に対して±10°である。アクチュエータの縦断面の平面Pは、アクチュエータが2つの部分による外側ヨーク(5)を有し、アクチュエータの構成を容易にすることができるように、アクチュエータの構成部分とすることができる。
【0054】
低剛性を付加する弾性復帰素子、すなわち外部弾性素子をアクチュエータが有していないため、中心位置の付近だけでなく変位した位置も考慮してアクチュエータの振動動作を想定することができる。例えば、アクチュエータは、図6aおよび図6bに示される2つの位置のうちの一方の付近で振動することができ、または両端位置の内側での任意の他の振動とすることができる。
【0055】
図6aおよび図6bの断面図では、コア(6)および外側ヨーク(5)の横断面の高さは、磁石(3,4)の横断面の高さよりも大きいことが有利である。これは、磁気飽和を防止しつつ、強磁性部品における磁気誘導を低減し性能を最適化するためである。
【0056】
コイルのインダクタンスが比較的低く、強磁性体のヨーク(5,13)およびコア(6)に対する磁石の動きがないため、磁気ヒステリシスまたは誘導電流による損失(一般に鉄損として知られる)は無視できる。しかしながら、磁気構造の完全な円筒形の性質および磁束の循環によって、鉄およびシリコンのシートなどのシート形態でのコア(6)および外側ヨーク(5)の形成を想定可能となる。これにより、実施形態における予想される利点および構造コストを実現することが可能になる。またこれは、コイル(1)のインダクタンスを低減するとともに、コイルにより生成されシートに対し好ましくない方向に(シートを横切って)シートを通過する磁束を低減するのに役立ち、コイル(1)における磁束を、コイル(1)の向きに対して(コイル(1)の配向に従った)略直交する方向に循環する磁石(3,4)によって生成された磁束に不利益をもたらすことなくこの位置で低減することができる。コイルの磁束の循環は、図7に示される点線により理解され得る。
【0057】
アクチュエータが満たすべき重要な課題の1つは、コイル(1)の効率的で耐久性のある接続を達成することである。実際、コイルは可動であるので、その供給は、好ましくは可動ワイヤを用いて行われ得る。図8は、回路基板(14)へのこれらの可動ワイヤ(16)の電気的接続の一例を示す。好ましくは、これらの可動ワイヤ(16)は回転軸(A)に可能な限り接近して回路基板(14)に接続されることにより、可動ワイヤの角度偏位およびそれらの変位を制限することができる。これらの可動ワイヤは、アクチュエータの前面(図8に示されるように)またはアクチュエータの背面(図示略)に延ばすことができる。可動ワイヤ(16)は回路基板(14)に半田付けされ、回路基板(14)に含まれる導電性の銅配線(15)を介して電源を供給することができる。
【0058】
コイル(1)の電力供給のための別の興味深い代替案は、図9に示されるように、回路基板(14)に取り付けられた1次コイル(17)を介して非接触給電を提供することである。アクチュエータのコイル(1)を短絡することで、出口でのワイヤの動きを防止する。アクチュエータのコイル(1)の電源供給は、変圧器と同様に1次コイル(17)に給電し、レンツの法則を適用することによって実現される。この解決策は、2つのコイル(1,17)におけるジュール効果と2つのコイル(1,17)間の不完全な結合によって引き起こされる損失のために、より多くの電気エネルギーを消費することを意味するが、最終的にはアクチュエータ接続の耐久性を向上させる。
図1a-1b】
図2
図3
図4a-4b】
図5
図6a-6b】
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13