(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6935420
(24)【登録日】2021年8月27日
(45)【発行日】2021年9月15日
(54)【発明の名称】改善された強度、延性及び成形加工性を有する鋼板を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/46 20060101AFI20210906BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20210906BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20210906BHJP
C23C 2/06 20060101ALI20210906BHJP
C23C 2/12 20060101ALI20210906BHJP
C23C 2/28 20060101ALI20210906BHJP
C23C 2/40 20060101ALI20210906BHJP
【FI】
C21D9/46 F
C22C38/00 301T
C22C38/38
C21D9/46 J
C22C38/00 301S
C23C2/06
C23C2/12
C23C2/28
C23C2/40
【請求項の数】12
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-551520(P2018-551520)
(86)(22)【出願日】2016年12月21日
(65)【公表番号】特表2019-505692(P2019-505692A)
(43)【公表日】2019年2月28日
(86)【国際出願番号】EP2016082192
(87)【国際公開番号】WO2017108956
(87)【国際公開日】20170629
【審査請求日】2019年11月21日
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2015/059837
(32)【優先日】2015年12月21日
(33)【優先権主張国】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジュン,ヒョン・ジョー
(72)【発明者】
【氏名】ベンカタスーリヤ,パバン
【審査官】
河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/051238(WO,A1)
【文献】
国際公開第2013/047836(WO,A1)
【文献】
特開2013−076139(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2016/0017472(US,A1)
【文献】
中国特許出願公開第102952996(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/46
C22C 38/00
C22C 38/38
C23C 2/06
C23C 2/12
C23C 2/28
C23C 2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板を製造するための方法であって、前記鋼板が、面積の割合により、20%〜50%の二相域フェライト、10%〜20%の残留オーステナイト、25%〜45%の焼戻しされたマルテンサイト、10%〜20%のフレッシュマルテンサイト、及びベイナイトからなり、焼戻しされたマルテンサイト及びベイナイトの面積割合の合計が30%〜60%の間に含まれる微細構造を有し、以下の連続ステップ:
− 以下の重量による化学組成を有する鋼でできた、冷間圧延鋼板を用意するステップであって:
0.18%≦C≦0.25%、
0.9%≦Si≦1.8%、
0.02%≦Al≦1.0%、
1.5%≦Mn≦2.5%、
0.010%≦Nb≦0.035%、
0.10%≦Cr≦0.40%
を含有し、ただし、1.0%≦Si+Al≦2.35%であり、
残り部分が、Fe及び不可避的な不純物である、ステップ、
− 50%〜80%のオーステナイト及び20%〜50%のフェライトを含む構造を得るように、30秒〜300秒の間に含まれるアニーリング時間tAにわたって780℃〜840℃の間に含まれるアニーリング温度TAで前記鋼板をアニーリングするステップ、
− 20℃/秒〜50℃/秒の間に含まれる冷却速度で、Ms−50℃〜Ms−5℃の間に含まれる焼入れ温度QTまで前記鋼板を焼入れするステップ、
− 前記鋼板を375℃〜450℃の間に含まれる分配温度PTに加熱し、少なくとも50秒の分配時間Ptにわたって前記鋼板を分配温度PTに維持するステップ、
− 前記鋼板を室温に冷却するステップ
を含み、
前記鋼板が、440〜750MPaの間に含まれる降伏強度、少なくとも980MPaの引張強度、少なくとも20%の全伸び及び少なくとも20%の穴広げ率HERを有する、
方法。
【請求項2】
前記鋼板が、焼入れの直後に、面積の割合により、少なくとも20%のオーステナイト、30%〜60%の間のマルテンサイト及び20%〜50%のフェライトからなる構造を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記鋼の化学組成が、1.25%≦Si+Al≦2.35%であるような組成である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記鋼板を分配温度PTに維持するステップと、前記鋼板を室温に冷却するステップとの間に、前記鋼板を溶融めっきコーティングするステップをさらに含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
分配温度PTが、400℃〜430℃の間に含まれる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
分配時間Ptが、50秒〜150秒の間に含まれる、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
溶融めっきコーティングするステップが、亜鉛めっきするステップである、請求項4から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
溶融めっきコーティングするステップが、480℃〜515℃の間に含まれる合金化温度GATによって合金化溶融亜鉛めっきするステップである、請求項4から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
分配時間Ptが、50秒〜140秒の間に含まれる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記鋼板を室温に冷却するステップが、分配時間Ptにわたって前記鋼板を分配温度PTに維持するステップの直後に実施され、分配時間Ptが、少なくとも100秒である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記鋼板が、少なくとも10℃/秒の冷却速度で室温に冷却される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記鋼板が焼入れ温度QTに焼入れされた後、且つ前記鋼板が分配温度PTに加熱される前に、前記鋼板が、2秒〜8秒の間に含まれる保持時間にわたって焼入れ温度QTに保持される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された強度、延性及び成形加工性を有する高強度鋼板を製造するための方法並びにこの方法によって得られた鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のボディ用構造部材及びボディパネルの部品等の様々な設備を製造するために、DP(二相)鋼又はTRIP(変態誘起塑性)鋼から製造されたコーティングされた鋼板を使用することが公知である。
【0003】
ベイナイト構造を有し、炭化物型析出物を不含であり、約0.2%のCと、約2%のMnと、約1.7%のSiとを含有する残留オーステナイトを有し、約750MPaの降伏強度、約980MPaの引張強度、約8%の全伸びを有する、鋼を使用することも公知である。これらの鋼板は、連続アニーリングラインを用いて、Ac
3変態点より高いアニーリング温度からMs変態点より高い保持温度に冷却し、所与の時間にわたって鋼板をこの温度に維持することによって、製造される。
【0004】
世界的な環境保護の観点から燃費を改善するという目的で、自動車の重量を低減するように、改善された降伏強度及び引張強度を有する鋼板を得ることが、望ましい。しかしながら、このような鋼板は、良好な延性及び良好な成型加も有さなければならない。
【0005】
この点に関して、440MPa〜750MPaの間に含まれる、好ましくは450MPa〜750MPaの間に含まれる降伏強度YS、少なくとも980MPaの引張強度TS、少なくとも20%、好ましくは少なくとも21%の全伸びTE及びISO規格16630:2009に従った少なくとも20%の穴広げ率HERを有する、コーティングされた又はコーティングされていない鋼板をもたらすことが、望ましい。引張強度TS及び全伸びTEは、2009年10月に公開されたISO規格ISO6892−1に従って測定される。測定法の差異のため、特に、使用された供試材の幾何形状の差異のため、ISO規格に従った全伸びTEの値は、JIS Z2201−05規格に従って測定された全伸びの値と大きく異なり、特に、JIS Z2201−05規格に従って測定された全伸びの値より低いことは、強調しなければならない。さらに、測定法の差異のため、ISO規格に従った穴広げ率HERの値は、JFS T1001(日本鉄鋼連盟規格)に従った穴広げ率λの値と大きく異なり、比較することができない。
【0006】
厚さが0.7〜3mmの範囲、より好ましくは1〜2mmの範囲である、上記機械的特性を有する鋼板を得ることも望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、上記機械的特性を有する鋼板及びこの鋼板を製造するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的のために、本発明は、面積の割合により、20%〜50%の二相域フェライト、10%〜20%の残留オーステナイト、25%〜45%の焼戻しされたマルテンサイト、10%〜20%のフレッシュマルテンサイト、及びベイナイトからなり、焼戻しされたマルテンサイト及びベイナイトの合計が30%〜60%の間に含まれる微細構造を有する鋼板を製造するための方法であって、次の連続するステップ:
・冷間圧延鋼板を用意するステップであって、
鋼の化学組成が、重量%により、
0.18%≦C≦0.25%、
0.9%≦Si≦1.8%、
0.02%≦Al≦1.0%、
1.5%≦Mn≦2.5%、
0.010%≦Nb≦0.035%、
0.10%≦Cr≦0.40%
を含有し、ただし、1.0%≦Si+Al≦2.35%であり、
残り部分が、Fe及び不可避的な不純物である、ステップ、
・50%〜80%のオーステナイト及び20%〜50%のフェライトを含む構造を得るように、アニーリング時間t
Aにわたってアニーリング温度T
Aで前記鋼板をアニーリングするステップ、
・20℃/秒〜50℃/秒の間に含まれる冷却速度で、Ms−50℃〜Ms−5℃の間に含まれる焼入れ温度QTまで前記鋼板を焼入れするステップ、
・前記鋼板を375℃〜450℃の間に含まれる分配温度PTに加熱し、少なくとも50秒の分配時間Ptにわたって前記鋼板を分配温度PTに維持するステップ、
・鋼板を室温に冷却するステップ
を含む、方法に関する。
【0009】
好ましくは、鋼板は、焼入れの直後に、面積の割合により、少なくとも20%のオーステナイト、30%〜60%の間のマルテンサイト及び20%〜50%のフェライトからなる構造を有する。
【0010】
特定の実施形態によれば、鋼の組成は、1.25%≦Si+Al≦2.35%であるような組成である。
【0011】
特定の実施形態によれば、本方法は、鋼板を分配温度PTに維持するステップと、鋼板を室温に冷却するステップとの間に、鋼板を溶融めっきコーティングするステップをさらに含む。
【0012】
この実施形態において、分配温度PTは、好ましくは、400℃〜430℃の間に含まれ、分配時間Ptは、好ましくは、50秒〜150秒の間に含まれる。
【0013】
例えば、溶融めっきコーティングするステップは、亜鉛めっきするステップである。
【0014】
別の例によれば、溶融めっきコーティングするステップは、480℃〜515℃の間に含まれる合金化温度GATによって合金化溶融亜鉛めっきするステップである。好ましくは、この例において、分配時間Ptは、50秒〜140秒の間に含まれる。
【0015】
別の特定の実施形態によれば、鋼板を室温に冷却するステップは、分配時間Ptにわたって鋼板を分配温度PTに維持するステップの直後に実施され、分配時間Ptは、少なくとも100秒である。
【0016】
好ましくは、鋼板は、少なくとも10℃/秒の冷却速度で室温に冷却される。
【0017】
好ましくは、鋼板が焼入れ温度QTに焼入れされた後、且つ鋼板が分配温度PTに加熱される前に、鋼板は、2秒〜8秒の間、好ましくは3秒〜7秒の間に含まれる保持時間にわたって焼入れ温度QTに保持される。
【0018】
本発明は、重量%により、
0.18%≦C≦0.25%、
0.9%≦Si≦1.8%、
0.02%≦Al≦1.0%、
1.5%≦Mn≦2.5%、
0.010%≦Nb≦0.035%、
0.10%≦Cr≦0.40%
を含み、だたし、1.0%≦Si+Al≦2.35%であり、残り部分が、Fe及び不可避的な不純物である、化学組成を有する鋼板において、
前記鋼の微細構造が、面積の割合により、
・20%〜50%の二相域フェライト、
・10%〜20%の残留オーステナイト、
・25%〜45%の焼戻しされたマルテンサイト、
・ベイナイトであって、焼戻しされたマルテンサイト及びベイナイトの合計が30%〜60%の間に含まれる、
・10%〜20%のフレッシュマルテンサイト
からなる、鋼板にも関する。
【0019】
好ましくは、鋼板は、440〜750MPaの間に含まれる降伏強度、少なくとも980MPaの引張強度、ISO規格ISO6892−1に従って測定された少なくとも20%の全伸び及びISO規格16630:2009に従って測定された少なくとも20%穴広げ率HERを有する。
【0020】
特定の実施形態によれば、鋼の組成は、1.25%≦Si+Al≦2.35%であるような組成である。
【0021】
好ましくは、残留オーステナイト中のC含量C
RA%は、0.9%〜1.3%の間に含まれる。
【0022】
特定の実施形態によれば、鋼板は、例えば、Zn若しくはZn合金又はAl若しくはAl合金によってコーティングされる。
【0023】
例えば、鋼板は、亜鉛めっきされる又は合金化溶融亜鉛めっきされる。
【0024】
次に、本発明を詳細に記述するが、限定を付するものではない。
【0025】
本発明による鋼の組成は、重量パーセントにより、以下を含む。
【0026】
・0.18%〜0.25%、好ましくは0.19%〜0.22%の炭素。満足な強度を確保するため及び残留オーステナイトの安定性を改善するためである。この残留オーステナイト含量は、十分な全伸びを得るために必要である。炭素含量が0.25%超である場合には、熱間圧延された鋼板が硬すぎて、冷間圧延することができず、溶接性が不十分である。炭素含量が0.18%未満である場合には、降伏強度及び引張強度のレベルは、それぞれ450MPa及び980MPaに到達せず、全伸びは、20%に到達しない。
【0027】
・1.5%〜2.5%のマンガン。最低値は、合計で少なくとも30%のマルテンサイト及びベイナイトを含有する微細構造並びに980MPa超の引張強度を得るために十分な硬化能を有するように規定されている。最大値は、延性に関して有害な偏析の問題を伴わないように規定されている。
【0028】
・0.9%〜1.8%のケイ素。オーステナイトを安定化するために、固溶体強化をもたらすために、及び、コーティング加工性に関して有害であろう、鋼板の表面における酸化ケイ素の形成を伴うことなく、過剰エージングしている間、すなわち、分配温度PTに維持している間における炭化物の形成を遅延させるためである。好ましくは、ケイ素含量は、1.1%以上である。ケイ素の量を増大すると、穴広げ率が改善される。好ましくは、ケイ素含量は、1.7%以下である。1.8%超のケイ素含量は、表面における酸化ケイ素の形成をもたらすことになる。
【0029】
・0.02%〜1.0%のアルミニウム。アルミニウムは、液体状の鋼を脱酸素するために添加され、製造法のロバスト性(robustness)を増大させ、特に、アニーリング温度を変更した場合のオーステナイト割合のバラつきを低減する。最大アルミニウム含量は、Ac
3変態点が、アニーリングがより困難になるであろう温度まで上昇しないように規定されている。アルミニウムはケイ素のように、マルテンサイトから、過剰エージングから生じたオーステナイトへの炭素の再分配中における、炭化物の形成を遅延させる。炭化物の形成を遅延させるためには、Al+Siの最低含量は、1.0%、好ましくは1.25%にすべきである。Al+Siの最大含量は、2.35%にすべきである。したがって、第1の実施形態によれば、1.0%≦Al+Si<1.25%である。第2の実施形態によれば、1.25%≦Al+Si≦2.35%である。
【0030】
・0.10%〜0.40%のクロム。硬化能を増大させるという目的、及び、過剰エージング中におけるベイナイトの形成を遅延させるという目的で、残留オーステナイトを安定化するために、少なくとも0.10%が必要とされる。0.40%のCrの最大値は、許容され、これを超えると飽和効果が認められ、Crの添加は、無駄な上に費用がかさむ。さらに、0.40%より高いCr含量は、酸化クロムを含み、熱間圧延及び冷間圧延中に鋼板の表面に強く接着し、酸洗いによる除去が非常に困難になる、スケールの形成をもたらすことになる。
【0031】
・0.010%〜0.035%のニオブ。オーステナイトグレインを製錬するため及び析出強化をもたらすためである。0.010%〜0.035%のNb含量により、満足な降伏強度及び伸び、特に少なくとも440MPaの降伏強度を得ることができる。
【0032】
残部は、鉄及び製鋼から生じた残留元素である。この点に関して、少なくともNi、Mo、Cu、Ti、V、B、S、P及びNは、不可避的な不純物である残留元素だと考えられる。したがって、Ni、Mo、Cu、Ti、V、B、S、P及びNの含量は、Niが0.05%未満であり、Moが0.02%であり、Cuが0.03%であり、Vが0.007%であり、Bが0.0010%であり、Sが0.005%であり、Pが0.02%であり、Nが0.010%である。Ti含量は、0.05%に限定されるが、理由は、このような値より高い場合、サイズが大きい炭窒化物が、主に液体段階において析出し、鋼板の成形加工性が低下し、20%という全伸びの目標の達成がより困難になるためである。
【0033】
鋼板は、当業者に公知の方法に従った熱間圧延及び冷間圧延によって調製される。冷間圧延板は、0.7mm〜3mmの間、例えば1mm〜2mmの間の厚さを有する。
【0034】
圧延の後、鋼板を酸洗い又は清浄化し、次いで、熱処理し、溶融めっきコーティング、電着又は真空コーティングのいずれかを行う。
【0035】
好ましくは連続アニーリングライン及び溶融めっきコーティングラインによって実施される熱処理は、次のステップを含む。
【0036】
・アニーリングするステップが終了したときに、鋼が、50%〜80%のオーステナイト及び20%〜50%のフェライト、好ましくは25%〜50%のフェライトからなる構造を有するように、アニーリング温度T
Aで鋼板をアニーリングするステップ。当業者は、膨張率測定試験からアニーリング温度T
Aをどのように判定するかを知っている。一般に、アニーリング温度は、780℃〜840℃の間に含まれる。好ましくは、鋼板は、少なくとも3℃/秒の加熱速度でアニーリング温度に加熱される。鋼板は、化学組成を均一化するのに十分なアニーリング時間t
Aにわたってアニーリング温度に維持され、すなわち、T
A−5℃〜T
A+10℃の間に維持される。このアニーリング時間t
Aは、好ましくは30秒超であるが、300秒超である必要はない。好ましくは、アニーリング時間は、少なくとも70秒である。
【0037】
・冷却中における新たなフェライト及びベイナイトを回避するのに十分なほど高い冷却速度で、アニーリング後に残留しているオーステナイトのMs変態点より低い焼入れ温度QTまで、鋼板を焼入れするステップ。Crは、このような形成を回避するのに役立つ。例えば、冷却速度は、20℃/秒より高い。焼入れ温度は、冷却直後に、少なくとも20%のオーステナイト、30〜60%の間のマルテンサイト及び二相域フェライトである20%〜50%のフェライトからなる構造を有するために、Ms−50℃〜Ms−5℃の間である。焼入れ温度QTがMs−50℃より低い場合、最終的な構造中における焼戻しされたマルテンサイト及び焼戻しされていないマルテンサイトの割合が高すぎて、10%超の十分な量の残留オーステナイトを安定化することができず、少なくとも20%の全伸びが得られない。さらに、焼入れ温度QTがMs−5℃より高い場合、形成されたマルテンサイトの割合が低すぎ、この結果、後続の分配するステップ中における炭素の分配が不十分になる。したがって、オーステナイトは、室温に冷却した後における残留オーステナイトの所望の割合を得るほど十分に安定化されず、少なくとも20%の伸びが得られない。
【0038】
・任意選択的に、2秒〜8秒の間、好ましくは3秒〜7秒の間に含まれる保持時間にわたって、焼入れされた鋼板を焼入れ温度に保持する。
【0039】
・375℃〜450℃の間に含まれる、好ましくは375℃〜430℃の間に含まれる分配温度PTに鋼板を再加熱するステップ。分配温度PTが450℃より高い場合、20%超の全伸びが得られない。分配温度PTが430℃より低い場合、少なくとも21%の全伸びを得ることができる。好ましくは、鋼板を、例えば亜鉛めっき又は合金化溶融亜鉛めっきによって溶融めっきコーティングすべき場合、分配温度PTは、400℃〜430℃の間に含まれる。再加熱速度は、再加熱が誘導加熱装置によって実施される場合は高くてもよいが、再加熱速度は、鋼板の最終的な特性に明らかな影響を与えなかった。
【0040】
・少なくとも50秒の分配時間Pt、例えば50秒〜250秒の間に含まれる分配時間Ptにわたって鋼板を分配温度PTに維持するステップ。この分配するステップ中に、炭素が分配され、すなわち、マルテンサイトからオーステナイト中に拡散し、この結果、オーステナイトは、炭素に富み、安定化される。鋼板を亜鉛めっきすべき場合、分配時間Ptは、好ましくは、50秒〜150秒の間に含まれる。鋼板を合金化溶融亜鉛めっきすべき場合、分配時間Ptは、好ましくは、50秒〜140秒の間に含まれる。鋼板が溶融めっきコーティングされていない場合、分配時間は、好ましくは、少なくとも100秒である。
【0041】
・任意選択的に、鋼板を溶融めっきコーティングすべき場合、鋼板の温度は、鋼板を溶融めっきコーティングしなければならない温度に等しくするために冷却又は加熱によって調節される。
【0042】
・任意選択的に、鋼板を溶融めっきコーティングするステップ。任意選択による溶融めっきコーティングは、例えば亜鉛めっきであってよいが、コーティング中に鋼板が到達する温度が480℃未満のままであることを条件にして、すべての金属溶融めっきコーティングが可能である。鋼板が亜鉛めっきされる場合には、亜鉛めっきは、通常の条件によって実施される。本発明による鋼板は、480℃〜515℃の間に含まれる、例えば480℃〜500℃の間に含まれる合金化溶融亜鉛めっき温度において合金化溶融亜鉛めっきして、鋼板をZn浴中に浸した後で実施されるFeとの相互拡散によってZnコーティングを合金化することができる。合金化溶融亜鉛めっき温度が515℃より高い場合には、全伸びは、20%未満に低下する。本発明による鋼板は、亜鉛−マグネシウム又は亜鉛−マグネシウム−アルミニウムのようなZn合金によって亜鉛めっきすることもできる。
【0043】
・溶融めっきコーティングするステップの後又は鋼板を分配温度に維持するステップの直後に、10℃/秒より高い冷却速度で鋼板を室温に冷却するステップ。
【0044】
溶融めっきコーティングを使用する代わりに、鋼板は、電気化学的方法、例えば電気亜鉛めっきによってコーティングすることもできるし、又は、プラズマ蒸着若しくはジェット蒸着のような任意の真空コーティング法によってコーティングすることもできる。任意の種類のコーティングを使用することが可能であり、特に、亜鉛又は亜鉛−ニッケル合金、亜鉛−マグネシウム合金若しくは亜鉛−マグネシウム−アルミニウム合金のような亜鉛合金を使用することが可能である。
【0045】
この処理により、最終的な構造を得ることができ、すなわち、分配、任意選択による溶融めっき及び室温への冷却の後において、20%〜50%の二相域フェライト、10%〜20%の残留オーステナイト、25%〜45%の焼戻しされたマルテンサイト、10%〜20%のフレッシュマルテンサイト及びベイナイト(焼戻しされたマルテンサイト及びベイナイトの合計が30%〜60%の間に含まれる)からなる、最終的な構造を得ることができる。
【0046】
さらに、この処理により、少なくとも0.9%、好ましくはさらには少なくとも1.0%、最大1.3%である、残留オーステナイト中におけるC含量を増大させることができる。
【0047】
このような処理を用いた場合には、450〜750MPaの間に含まれる降伏強度YS、少なくとも980MPaの引張強度、少なくとも20%の全伸び、さらには21%より高い全伸び及びISO規格16630:2009に従った少なくとも20%の穴広げ率HERを有する鋼板を、得ることができる。
【0048】
下記の例は、説明を目的としたものであり、本明細書における開示の範囲を限定するように解釈されることを意図するものではない。
【実施例】
【0049】
一例として、0.21%のC、1.5%のSi、1.9%のMn、0.015%のNb、0.2%のCr及び0.02%のAlを含む組成を有し、残り部分がFe及び不純物(組成番号1)である、鋼から製造された鋼板を、熱間圧延及び冷間圧延によって製造した。
【0050】
鋼のAc1点、Ac3点及びMs点は、Ac1=780℃、Ac3=900℃及びMs=250℃であるとして、膨張計実験によって判定された。
【0051】
第1の鋼板の試料を、温度TAで時間t
Aにわたってアニーリングし、温度QTにおいて50℃/秒の冷却速度で焼入れすることによって熱処理し、分配温度PTに再加熱し、分配時間Ptにわたって分配PTに維持し、次いで、室温に直ちに冷却した。
【0052】
熱処理条件及び得られた特性は、表Iに報告されている。
【0053】
下記の表において、TAは、アニーリング温度であり、t
Aは、アニーリング時間であり、QTは、焼入れ温度であり、PTは、分配温度であり、Ptは、分配温度に維持する時間であり、YSは、降伏強度であり、TSは、引張強度であり、UEは、一様伸びであり、TEは、全伸びであり、HERは、ISO規格に従って測定された穴広げ率である。
【0054】
下記の表I及び表II〜IVにおいて、下線が引かれた数値は、本発明によるものではなく、「nd」は、特性が測定されなかったことを意味する。
【0055】
【表1】
【0056】
例1〜12に関しては、アニーリング温度が820℃だったが、これにより、アニーリングするステップ後に、65%のオーステナイト及び35%の二相域フェライトからなる構造がもたらされた。
【0057】
例1〜4は、得られた機械的特性に及ぼされる焼入れ温度の影響を示している。これらの例は、焼入れ温度QTがMs−50℃〜Ms−5℃の範囲より低いか又は超える場合、全伸びTEが20%に到達しないことを示している。
【0058】
例5〜8は、分配温度PTに伴う機械的特性のバラつきを示しており、例6は、例3と同一である。これらの例は、分配温度PTが375℃〜450℃の間に含まれる場合、機械的特性が、目標とする値に到達することを示している。
【0059】
特に、分配温度PTが375℃〜425℃の間に含まれる場合、引張伸びTEは、21%をも超えており、降伏強度は、450MPaを超えている。
【0060】
例10〜12は、溶融めっきコーティングされていない鋼板に関して、機械的特性に及ぼされる分配時間Ptの影響を示している。例12は、例3及び6と同一である。
【0061】
これらの例は、溶融めっきコーティングするステップが無い場合において、少なくとも100秒の分配時間Ptにより、440〜750MPaの間に含まれる降伏強度、980MPaを超える引張強度、20%を超える全伸び、さらには21%より高い全伸び及び20%より高い穴広げ率、さらには30%より高い穴広げ率を得ることができることを示している。
【0062】
他の鋼板の試料を、50%〜80%のオーステナイト及び20%〜50%のフェライトを含む構造を得るように温度TAで時間t
Aにわたってアニーリングし、温度QTにおいて50℃/秒の冷却速度で焼入れすることによって熱処理し、分配温度PTに再加熱し、分配時間Ptにわたって分配PTに維持し、430℃で亜鉛めっきし、室温に冷却した。
【0063】
熱処理条件及び得られた特性は、表IIに報告されている。
【0064】
例13〜15は、亜鉛めっきされた鋼板に関して、分配温度PTに伴う機械的特性のバラつきを示している。これらの例は、鋼板が亜鉛めっきされる場合、400℃〜430℃の間に含まれる分配温度PTにより、20%より高い全伸びTEを得ることができ、全伸びTEが、分配温度の上昇にともなって低下することを示している。
【0065】
例16〜18は、820℃又は840℃のアニーリング温度T
Aによる、得られる特性に及ぼされる焼入れ温度QTの影響を示している。これらの例は、焼入れ温度がMs−50℃〜Ms−5℃の間に含まれる場合、得られた機械的特性が満足なものであることを示している。しかしながら、焼入れ温度QTがMs−5℃より高い場合、全伸びTEが20%より低く、これは、低すぎる割合のマルテンサイトの形成が原因である。
【0066】
例19〜24は、焼入れ温度QTが200℃(例19〜21)又は225℃(例22〜24)である場合における、分配温度PTに伴う得られた機械的特性のバラツキを示している。これらの例は、分配温度PTが高すぎる場合、20%を超える全伸びが得られないことを示している。
【0067】
【表2】
【0068】
例25及び26は、アニーリング時間t
A及び分配時間Ptが変化したときに達成された、機械的特性のバラつきを示している。これらの例は、アニーリング時間t
Aが変化したとき及びアニーリング時間Ptが少なくとも50秒である場合において、所望の機械的特性が常に得られるとしても、降伏強度YS及び全伸びTEが、アニーリング時間t
A及び分配時間Ptが増大したときに改善されることを示している。
【0069】
他の鋼板の試料を、50%〜80%のオーステナイト及び20%〜50%のフェライトを含む構造を得るように温度TAで時間t
Aにわたってアニーリングし、温度QTにおいて50℃/秒の冷却速度で焼入れすることによって熱処理し、分配温度PTに再加熱し、分配時間Ptにわたって分配PTに維持し、様々な合金化溶融亜鉛めっき温度GATで合金化溶融亜鉛めっきし、次いで、室温に冷却した。
【0070】
熱処理条件及び得られた特性は、表IIIに報告されている。
【0071】
【表3】
【0072】
これらの例は、合金化溶融亜鉛めっき温度GATが480℃〜515℃の間に含まれる場合、目標とする機械的特性が、50秒の分配時間Pt又は100秒の分配時間Ptのいずれかによって得られることを示している。合金化溶融亜鉛めっき温度GATが520℃である場合、全伸びは、20%未満に低下する。
【0073】
さらなる試験を実施して、製造中における鋼板の機械的特性に及ぼされるライン速度の影響、すなわち、ライン速度の変更に伴うこれらの機械的特性の安定性を調査した。
【0074】
これらの試験は、50m/分の最低ライン速度及び120m/分の最大ライン速度を有する連続アニーリングラインによって、最低ライン速度によって到達する最大浸漬時間及び分配時間が、それぞれ188秒及び433秒であるように構成された浸漬区画及び分配区画を用いて、実施された。最大ライン速度によって到達した最低浸漬時間及び分配時間は、それぞれ79秒及び188秒である。
【0075】
試験最低ライン速度及び最大ライン速度を使用して、225℃の焼入れ温度QT及び400℃の分配温度PTによって実施された。鋼板は、コーティングされなかった。
【0076】
熱処理条件及び得られた特性は、表IVに報告されている。
【0077】
【表4】
【0078】
これらの試験は、ライン速度が、得られた機械的特性の品質にほとんど影響を与えず、この結果、目標とする特性をライン速度の全範囲にわたって得ることができることを示している。これらの結果は、製造法が、ライン速度の変更に対して、非常にロバスト性であることも示している。
【0079】
さらなる試験が、表Vに報告された組成を有する鋼によって実施された。表Vにおいて、C、Mn、Si、Cr、Nb及びAl含量のみが報告されており、組成の残り部分は、鉄及び不可避的な不純物である。膨張計実験によって判定された鋼のAc1点、Ac3点及びMs点もまた、表Vに報告されている。
【0080】
【表5】
【0081】
これらの組成を有する鋼板を、熱間圧延及び冷間圧延によって製造した。
【0082】
これらの鋼板の試料を、50%〜80%のオーステナイト及び20%〜50%のフェライトを含む構造を得るように温度TAで時間t
Aにわたってアニーリングし、温度QTにおいて50℃/秒の冷却速度で焼入れすることによって熱処理し、分配温度PTに再加熱し、分配時間Ptにわたって分配PTに維持し、430℃で亜鉛めっきし、室温に冷却した。
【0083】
熱処理条件及び得られた特性は、表VIに報告されている。
【0084】
下記の表VIにおいて、「nd」は、特性が測定されなかったことを意味する。
【0085】
【表6】
【0086】
試料35〜41は、本発明による方法によって製造され、440〜750MPaの間に含まれる降伏強度、少なくとも980MPaの引張強度及び少なくとも20%の全伸びを有する。
【0087】
試料42は、Ms(Ms=180℃)を超える温度に焼入れされ、この結果、不十分な割合のオーステナイトは、分配中に安定化できた。この結果、試料42は、20%を十分に下回る全伸びを有する。
【0088】
組成番号4を有する他の鋼板の試料を、50%〜80%のオーステナイト及び20%〜50%のフェライトを含む構造を得るように温度TAで時間t
Aにわたってアニーリングし、温度QTにおいて50℃/秒の冷却速度で焼入れすることによって熱処理し、分配温度PTに再加熱し、分配時間Ptにわたって分配PTに維持し、様々な合金化溶融亜鉛めっき温度GATで合金化溶融亜鉛めっきし、次いで、室温に冷却した。
【0089】
熱処理条件及び得られた特性は、表VIIに報告されている。
【0090】
【表7】
【0091】
これらの例は、合金化溶融亜鉛めっき温度GATが480℃〜515℃の間に含まれる場合、目標とする機械的特性が得られることを示している。合金化溶融亜鉛めっき温度GATが520℃である場合、全伸びは、20%未満に低下する。
【0092】
さらなる試験を実施して、製造中に組成番号3を有する鋼板の機械的特性に及ぼされるライン速度の影響、すなわち、ライン速度の変更に伴うこれらの機械的特性の安定性を調査した。
【0093】
これらの試験は、50m/分の最低ライン速度及び120m/分の最大ライン速度を有する連続アニーリングラインによって、最低ライン速度によって到達する最大浸漬時間及び分配時間が、それぞれ188秒及び433秒であるように構成された浸漬区画及び分配区画を用いて、実施された。最大ライン速度によって到達した最低浸漬時間及び分配時間は、それぞれ79秒及び188秒である。
【0094】
試験は、最低ライン速度及び最大ライン速度を使用して実施された。鋼板は、コーティングされなかった。
【0095】
熱処理条件及び得られた特性は、表VIIIに報告されている。
【0096】
【表8】
【0097】
これらの試験はやはり、ライン速度が、得られた機械的特性の品質にほとんど影響を与えず、この結果、目標とする特性をライン速度の全範囲にわたって得ることができることを示している。これらの試験は、製造法が、ライン速度の変更に対して非常にロバスト性であることも示している。