(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フィールドプレート部の長さは、前記ゲート本体部と前記ドレイン電極との間の距離の1/10以上1/2以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の窒化物半導体デバイス。
前記ゲート絶縁膜は、前記フィールドプレート部の下の部分において、前記ゲート本体部の下の部分よりも大きな厚さを有している、請求項1〜4のいずれか一項に記載の窒化物半導体デバイス。
前記フィールドプレート部は、前記開口外の前記第1絶縁層および前記第2絶縁層の積層部分上に形成されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の窒化物半導体デバイス。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下では、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る窒化物半導体デバイス3を備える半導体パッケージ1の外観図である。
半導体パッケージ1は、端子フレーム2と、窒化物半導体デバイス3(チップ)と、樹脂パッケージ4とを含む。
【0008】
端子フレーム2は、金属製の板状である。端子フレーム2は、窒化物半導体デバイス3を支持するベース部5(アイランド)と、ドレイン端子6と、ソース端子7と、ゲート端子8とを含む。ドレイン端子6は、ベース部5と一体的に形成されている。ドレイン端子6、ソース端子7およびゲート端子8は、それぞれ、ボンディングワイヤ9〜11によって、窒化物半導体デバイス3のドレイン、ソースおよびゲートに電気的に接続されている。ソース端子7およびゲート端子8は、中央のドレイン端子6を挟むように配置されている。
【0009】
樹脂パッケージ4は、たとえば、エポキシ樹脂など公知のモールド樹脂からなり、窒化物半導体デバイス3を封止している。樹脂パッケージ4は、窒化物半導体デバイス3と共に端子フレーム2のベース部5およびボンディングワイヤ9〜11を覆っている。3本の端子6〜8の一部は、樹脂パッケージ4から露出している。
図2は、窒化物半導体デバイス3の模式的な断面図である。なお、
図2は、
図1の特定の位置での切断面を示しているものではなく、本実施形態の説明に必要と考えられる要素の集合体を一つの断面を示している。
【0010】
窒化物半導体デバイス3は、基板12と、基板12の表面に形成されたバッファ層13と、バッファ層13上にエピタキシャル成長された電子走行層14と、電子走行層14上にエピタキシャル成長された電子供給層15とを含む。さらに、窒化物半導体デバイス3は、電子供給層15の表面を覆うゲート絶縁膜16と、ゲート絶縁膜16に形成されたコンタクト孔17a,18aを貫通して電子供給層15にオーミック接触しているオーミック電極としてのソース電極17およびドレイン電極18とを含む。ソース電極17およびドレイン電極18は、間隔を開けて配置されており、それらの間に、ゲート電極19が配置されている。ゲート電極19は、ゲート絶縁膜16を介して電子供給層15に対向している。
【0011】
基板12は、たとえば、導電性のシリコン基板であってもよい。導電性シリコン基板は、たとえば、1.0×10
17cm
−3〜1.0×10
20cm
−3(より具体的には1.0×10
18cm
−3程度)の不純物濃度を有していてもよい。
バッファ層13は、第1バッファ層131と、第2バッファ層132とを積層した多層バッファ層であってもよい。第1バッファ層131は基板12の表面に接しており、この第1バッファ層131の表面(基板12とは反対側の表面)に第2バッファ層132が積層されている。第1バッファ層131は、本実施形態ではAlN膜で構成されており、その膜厚は、たとえば0.2μm程度であってもよい。第2バッファ層132は、本実施形態では、AlGaN膜で構成されており、その膜厚は、たとえば0.2μm程度であってもよい。
【0012】
ゲート絶縁膜16は、第1絶縁層161と、第2絶縁層162とを積層した多層ゲート絶縁膜であってもよい。第1絶縁層161は電子供給層15の表面に接しており、この第1絶縁層161の表面(電子供給層15とは反対側の表面)に第2絶縁層162が積層されている。第1絶縁層161は、本実施形態ではSiN膜で構成されており、その膜厚は、たとえば500Å程度であってもよい。このような第1絶縁層161は、プラズマCVD(化学的気相成長)法、熱CVD法、スパッタリングなどで形成することができる。第1絶縁層161には、第2絶縁層162を入り込ませて電子供給層15に接触させるための開口161aが形成されている。第2絶縁層162は、本実施形態ではSiO
2膜で構成されており、その膜厚は100nm以下(好ましくは、10nm〜50nm)であってもよい。このような第2絶縁層162は、第1絶縁層161と同様に、プラズマCVD(化学的気相成長)法、熱CVD法、スパッタリングなどで形成することができる。
【0013】
また、ゲート絶縁膜16は、全体として、その厚さd(nm)と比誘電率をεとの関係が、d/ε≦25であることが好ましい。この関係式を満たすことで、高い相互コンダクタンスgmを達成でき、低いゲート電圧でHEMTを駆動することができる。
電子走行層14と電子供給層15とは、Al組成の異なるIII族窒化物半導体(以下単に「窒化物半導体」と呼ぶ。)からなっている。たとえば、電子走行層14は、GaN層からなっていてもよく、その厚さは、0.5μm程度であってもよい。電子供給層15は、本実施形態では、Al
xGa
1-xN層(0<x<1)からなっており、その厚さは、たとえば5nm〜30nm(より具体的には20nm程度)である。
【0014】
このように、電子走行層14と電子供給層15とは、Al組成の異なる窒化物半導体からなっていて、ヘテロ接合を形成していると共に、それらの間には格子不整合が生じている。そして、ヘテロ接合およびの格子不整合に起因する分極のために、電子走行層14と電子供給層15との界面に近い位置(たとえば界面から数Å程度の距離の位置)には、二次元電子ガス20が広がっている。
【0015】
電子走行層14には、そのエネルギーバンド構造に関して、浅いドナー準位E
D、深いドナー準位E
DD、浅いアクセプタ準位E
A、深いアクセプタ準位E
DAが形成されていてもよい。
浅いドナー準位E
Dは、たとえば、電子走行層14の伝導帯の下端(底)のエネルギ準位E
Cから0.025eV以下の離れた位置でのエネルギ準位であり、深いドナー準位E
DDと区別できるのであれば、単に「ドナー準位E
D」と呼んでもよい。通常、この位置にドーピングされたドナーの電子は、室温(熱エネルギkT=0.024eV程度)でも伝導帯に励起されて自由電子となっている。浅いドナー準位E
Dを形成するためにGaN電子走行層14にドーピングする不純物としては、たとえば、Si、Oからなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。一方、深いドナー準位E
DDは、たとえば、電子走行層14の伝導帯の下端(底)のエネルギ準位E
Cから0.025eV以上の離れた位置でのエネルギ準位である。つまり、深いドナー準位E
DDは、励起に必要なイオン化エネルギが室温の熱エネルギよりも大きいドナーのドーピングによって形成されるものである。したがって、通常、この位置にドーピングされたドナーの電子は、室温において伝導帯に励起されず、ドナーに捉えられた状態となっている。
【0016】
浅いアクセプタ準位E
Aは、たとえば、電子走行層14の価電子帯の上端(頂上)のエネルギ準位E
Vから0.025eV以下の離れた位置でのエネルギ準位であり、深いアクセプタ準位E
DAと区別できるのであれば、単に「アクセプタ準位E
A」と呼んでもよい。通常、この位置にドーピングされたアクセプタの正孔は、室温(熱エネルギkT=0.024eV程度)でも価電子帯に励起されて自由正孔となっている。一方、深いアクセプタ準位E
DAは、たとえば、電子走行層14の価電子帯の上端(頂上)のエネルギ準位E
Vから0.025eV以上の離れた位置でのエネルギ準位である。つまり、深いアクセプタ準位E
DAは、励起に必要なイオン化エネルギが室温の熱エネルギよりも大きいアクセプタのドーピングによって形成されるものである。したがって、通常、この位置にドーピングされたアクセプタの正孔は、室温において価電子帯に励起されず、アクセプタに捉えられた状態となっている。
【0017】
深いアクセプタ準位E
DAを形成するためにGaNからなる電子走行層14にドーピングする不純物としては、たとえば、C、Be、Cd、Ca、Cu、Ag、Au、Sr、Ba、Li、Na、K、Sc、Zr、Fe、Co、Ni、ArおよびHeからなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。
深いアクセプタ準位E
DAのための不純物は、たとえば、電子走行層14をエピタキシャル成長させる過程で導入してもよい。この場合、GaN等の窒化物半導体の成長温度、成長圧力を制御することによって、導入量を調節することができる。たとえば、C(炭素)を導入する場合、成長温度および成長圧力を下げることで、導入量を増やすことができる。また、Ga原子の空孔欠陥も、同様に深いアクセプタとなり、成長条件の低温化により導入することができる。
【0018】
そして、本実施形態では、上記説明した浅いドナー準位E
D、深いドナー準位E
DD、浅いアクセプタ準位E
Aおよび深いアクセプタ準位E
DAを形成する不純物(ドーパント)の濃度を、それぞれ、浅いドナー濃度N
D、深いドナー濃度N
DD、浅いアクセプタ濃度N
A、深いアクセプタ濃度N
DAと呼ぶことにする。たとえば、深いアクセプタ準位E
DAを形成する不純物として、C(カーボン)のみが1.0×10
16cm
−3の濃度で電子走行層14にドーピングされている場合、このカーボン濃度が深いアクセプタ濃度N
DAと定義される。これらの濃度N
D、N
DD、N
AおよびN
DAは、たとえば、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry:二次イオン質量分析法)で測定することができる。
【0019】
この実施形態では、後述するように、ゲート閾値電圧Vthに影響を与える因子としてN
DA+N
A−N
DD−N
Dを例示している。このN
DA+N
A−N
DD−N
Dは、たとえば、
図3A〜
図3Cを参照して測定することができる。
まず、表裏面に電極が形成されたGaN層(厚さW)を、電子走行層14のモデル構造として考える。
図3Aに示すように、両電極間に電圧が印加されていないとき(無バイアス時)には、アクセプタE
Aおよび深いアクセプタE
DAが、ドナーE
Dおよび深いドナーE
DDが放出する電子を捕獲する。このとき、電子を放出したドナーE
Dおよび深いドナーE
DDによる正電荷と、電子を捕獲したアクセプタE
Aおよび深いアクセプタE
DAによる負電荷の数が等しいため、GaN層全体としては電気的に中性となる。
【0020】
次に、
図3Bに示すように電圧Vを印加していくと、正バイアス側で価電子帯(E
V)から深いアクセプタE
DAへ電子捕獲が起こり、負に帯電する。電圧の印加によって発生した電束は、この負帯電領域によって打ち消されるため、電子走行層の伝導帯E
Cへの電子注入は起こらず、流れる電流は極めて微小である。
そして、
図3Cに示すように、ある一定以上の電圧Vを印加すると全ての領域の深いアクセプタE
DAで電子捕獲が起きる。これ以上の電圧が印加されても電子捕獲が起こらず、電束を打ち消しきれないため、一方の電極から伝導帯E
Cへ電子が注入されて電流が流れ出す。このときの電圧Vを含む式が、ポアソン方程式からN
DA+N
A−N
DD−N
D=2Vε
0ε/qW
2と導かれる。なお、この式において、ε
0は真空の誘電率を示し、εはGaN層の比誘電率を示している。
【0021】
電子走行層14の全体としての不純物濃度は、N
DA+N
A−N
DD−N
D>0であることが好ましい。この不等式は、電子を放出し得るドナー原子の不純物濃度の総和(N
D+N
DD)よりも、当該放出された電子を捕獲し得るアクセプタ原子の不純物濃度の総和(N
A+N
DA)が大きいことを意味している。つまり、電子走行層14においては、浅いドナー準位および深いドナー準位から放出された電子のほぼ全部が伝導帯に励起されずに浅いアクセプタ準位もしくは深いアクセプタ準位で、主としては深いアクセプタ準位によって捕獲されるため、電子走行層14が半絶縁のi型GaNになっている。
【0022】
電子供給層15は、電子走行層14との界面に、数原子厚程度(5nm以下。好ましくは1nm〜5nm、より好ましくは1nm〜3nm)の厚さのAlN層を有していてもよい。このようなAlN層は、AlGaNでみられるような合金散乱を抑制できるため、電子移動度の向上に寄与する。
ゲート電極19は、ゲート絶縁膜16に接する下層と、この下層上に積層される上層とを有する積層電極膜からなっていてもよい。
【0023】
下層としては、たとえば、4.2eV〜5.0eVの範囲の仕事関数Φ
Mを有するメタルを、後述するN
DA+N
A−N
DD−N
D等の値に合わせて適宜選択できる。具体的には、下層は、Ni(Φ
M=4.8eV)、Pt(Φ
M=5.0eV)、Mo(Φ
M=4.3eV)、W(Φ
M=4.6eV)またはTiN(Φ
M=4.6eV)からなっていてもよい。一方、上層はAuまたはAlからなっていてもよい。
【0024】
ゲート電極19は、ソース電極17寄りに偏って配置され、これにより、ゲート−ソース間距離よりもゲート−ドレイン間距離の方を長くした非対称構造となっている。この非対称構造は、ゲート−ドレイン間に生じる高電界を緩和して耐圧向上に寄与する。
ゲート電極19は、ソース電極17とドレイン電極18との間において第2絶縁層162に形成された凹部162aに入り込んだゲート本体部191と、ゲート本体部191に連なり、開口161a外においてゲート絶縁膜16上をドレイン電極18に向かって延びたフィールドプレート部192とを有している。ゲート本体部191と第2絶縁層162との界面におけるドレイン電極18側の端部であるドレイン端191aからフィールドプレート部192のドレイン電極18側の端部までの距離L
fpは、フィールドプレート長と呼ばれる。一方、ゲート本体部191と第2絶縁層162との界面におけるドレイン端191aからソース電極17側の端部であるソース端191bまでの距離L
gは、ゲート長と呼ばれる。つまり、ゲート電極19と第2絶縁層162の凹部162aの底面との接触域である有効ゲート域(凹部162a内の領域)Gaの幅が、ゲート長と呼ばれる。さらに、この明細書では、ゲート本体部191とドレイン電極18との間の距離をL
gdと表す。
【0025】
フィールドプレート長L
fpは、ゲート−ドレイン間距離L
gdの1/10以上1/2以下であることが好ましい。具体的には、0.1μm以上0.5μm以下であってもよい。一方、ゲート長L
gは、0.1μm以上1.0μm以下であることが好ましい。具体的には、0.2μm以上0.5μm以下であってもよい。
ソース電極17およびドレイン電極18は、たとえば、TiおよびAlを含むオーミック電極であり、電子供給層15を介して二次元電子ガス20に電気的に接続されている。
【0026】
ドレイン電極18、ソース電極17およびゲート電極19に、それぞれ、
図1で示したボンディングワイヤ9〜11が接続されている。基板12の裏面には、裏面電極21が形成されており、この裏面電極21を介して、基板12がベース部5に接続されている。したがって、本実施形態では、基板12は、ボンディングワイヤ9を介してドレイン電極18と電気的に接続されてドレイン電位となる。
【0027】
窒化物半導体デバイス3では、電子走行層14上にAl組成の異なる電子供給層15が形成されてヘテロ接合が形成されている。これにより、電子走行層14と電子供給層15との界面付近の電子走行層14内に二次元電子ガス20が形成され、この二次元電子ガス20をチャネルとして利用したHEMTが形成されている。ゲート電極19は、ゲート絶縁膜16を挟んで電子供給層15に対向している。
【0028】
使用に際しては、たとえば、ソース電極17とドレイン電極18との間に、ドレイン電極18側が正となる所定の電圧(たとえば200V〜600V)が印加される。その状態で、ゲート電極19に対して、ソース電極17を基準電位(0V)に対して正値のオン電圧が印加される。
ここで、ソース−ドレイン間に電流が流れる仕組みを、
図4A〜
図4Cを参照して具体的に説明する。以下では、電子走行層14が半絶縁のi型のGaN層であることを前提に説明を加える。
【0029】
まず、半絶縁GaN層は無バイアス状態において、
図4Aに示すように、ドナーE
Dおよび深いドナーE
DDが供給する電子が主に深いアクセプタE
DAによって補償された層(アクセプタE
Aも電子を補償するのに寄与する)であり、イオン化ドナーによる正電荷密度とイオン化アクセプタによる負電荷密度が等しいため、電気的に中性となる。このとき、半絶縁GaN層のフェルミ準位は深いアクセプタ準位近傍に固定される。半絶縁GaNの深いアクセプタ準位は、例えば炭素やGa空孔欠陥を導入した場合など、多くの場合E
DA=2.4eV近傍に深いアクセプタ準位を形成する。
【0030】
次に、
図4Bに示すように、半絶縁GaN層上にゲート絶縁膜とゲート電極を形成したとき、これらのフェルミ準位E
Fが一致するように接合が形成される。一般的に金属の仕事関数は4.0〜5.0eVであり、GaNの深いアクセプタ準位E
DAに固定されたフェルミ準位E
Fは価電子帯から1.0eV(真空準位から6.0eV)近傍にある。このことから、ゲート電圧Vg=0Vにおいて、ゲート電極と半絶縁GaN層の間に1〜2Vのビルトインポテンシャルが形成される。このビルトインポテンシャルにより、Vg=0Vのときにでも、ゲート電極に正バイアスが印加されたようなポテンシャル分布をとるため、半絶縁GaN層のゲート絶縁膜側で深いアクセプタから正孔の放出が起こり、正孔放出が起こった領域ではイオン化ドナーの正電荷密度よりもイオン化アクセプタの負電荷密度が多くなるため、その総電荷密度はN
DA+N
A−N
DD−N
Dとなる。ゲート絶縁膜が薄く、ゲート絶縁膜の誘電率が高く、N
DA+N
A−N
DD−N
Dの値が小さい場合、ポテンシャルによりVg=0Vのときに、GaN/ゲート絶縁膜界面において、ビルトインポテンシャルにより、GaNのフェルミ準位E
Fが真性フェルミ準位E
i(バンドギャップ中央)を超えた状態、つまり『弱い反転』となり、ソース‐ドレイン間に微小な電流が流れる不完全なノーマリオフ状態となってしまう。Vg=0Vのときに、GaNのフェルミ準位E
Fが真性フェルミ準位E
iを超えない完全なノーマリオフにするには、ゲート電極を厚くするか、N
DA+N
A−N
DD−N
Dを大きくする必要がある。
【0031】
そして、
図4Cに示すように、ゲート電圧を印加すると、さらに広い範囲で正孔放出が起こり、あるゲート電圧を印加するとGaN/ゲート絶縁膜界面のフェルミ準位E
Fが伝導帯E
Cを超える。これ以上のゲート電圧を印加すると、GaN/ゲート界面における電子密度が指数関数的に増加する。このとき、ゲート絶縁膜が薄く、ゲート絶縁膜の誘電率が大きいほど、ゲート電圧に対する電子密度増加率は上昇し、電子密度増加率は半絶縁GaN層のN
DA+N
A−N
DD−N
Dには依存しない。
【0032】
上記のことから、ゲート絶縁膜を厚くする、または、誘電率を小さくすると、完全なノーマリオフを達成できる背反として、駆動ゲート電圧が上昇してしまう。それに対して、深いアクセプタを積極的に導入し、N
DA+N
A−N
DD−N
Dを大きくすることで、ゲート絶縁膜を薄く、誘電率を大きいまま、完全なノーマリオフが達成できるため、高い相互コンダクタンスgmが達成でき、駆動ゲート電圧を小さくすることができる。
【0033】
上記のように、理想的には、無バイアス時(ゲート印加電圧Vg=0V)には電流が流れていないはずであるが、本願発明者らの研究により、無バイアス時にも、弱い反転が起きることが分かった。つまり、
図5Aに示すゲート印加電圧Vgとドレイン電流Idとの関係(Id−Vg特性)のように、ゲート印加電圧Vg=0Vのときに微小電流Idが流れている。そこで、本願発明者らは、以下に示す方策によって、
図5Bに示すように、無バイアス時に弱い反転が開始しない、かつ低駆動ゲート電圧のノーマリオフ型のHEMTを提供する。
【0034】
より具体的には、ゲート印加電圧Vg≦0Vの領域で弱い反転が開始しないようにするため、つまり、ゲート閾値電圧Vth>0となるように、N
DA+N
A−N
DD−N
Dの条件を検討した。式(1)を満たす条件を検討した。
Vth=Ψ
S−(E+E
F−Φ
M)>0・・・(1)
(式中、Ψ
Sはゲート電極19とゲート絶縁膜16との界面のポテンシャル(表面ポテンシャル)を示し、Eは電子走行層14の電子親和力を示し、E
Fは半絶縁GaNのフェルミ準位(伝導帯の下端(底)のエネルギ準位E
Cを基準)を示し、Φ
Mはゲート電極19の仕事関数を示す。)
まず、式(1)において、半絶縁GaNのフェルミ準位E
Fは、電子走行層14(半絶縁GaN)の深いアクセプタ準位E
DAに置き換えることができることを示す。
図6Aは、半絶縁GaNのフェルミ準位E
Fの深いアクセプタ準位E
DAに対する依存性を示す図であり、
図6Bは、半絶縁GaNのフェルミ準位E
Fの深いアクセプタ準位E
DAに対する依存性を示す図である。なお、
図6Aおよび
図6Bでは、深いアクセプタ準位E
DAを基準に示している。
【0035】
図6Aによれば、ドナー濃度N
D=1.0×10
16cm
−3(一定)、深いアクセプタ濃度N
DA=2.0×10
16cm
−3(一定)の条件下において、半絶縁GaNのフェルミ準位E
Fは、価電子帯(Valence Band)を基準とした深いアクセプタ準位E
DA=0.5eV、1.0eVおよび1.5eVのいずれのケースにおいても、深いアクセプタ準位E
DAに一致している。
【0036】
一方、
図6Bによれば、ドナー濃度N
D=1.0×10
16cm
−3(一定)、深いアクセプタ準位E
DA=1.0eV(一定)の条件下において、半絶縁GaNのフェルミ準位E
Fは、深いアクセプタ濃度N
DA=2.0×10
16cm
−3、4.0×10
16cm
−3および2.0×10
17cm
−3のいずれのケースにおいても、一定である。
図7〜
図10は、半絶縁GaN中のN
DA+N
A−N
DD−N
Dが、ゲート閾値電圧Vthに与える影響を説明するための図である。より具体的には、
図7は、シミュレーションに用いたモデル構造の概略図である。
図8は、前記シミュレーションにおけるエネルギーバンド図である。なお、
図8において、E
0は真空準位を示し、E
iは真性フェルミ準位を示す。
【0037】
図7および
図8に示すように、モデル構造の半絶縁GaNの条件を次のように設定し、GaNに弱い反転および強い反転が起きるときのポテンシャル、電荷密度(負電荷密度)電界の大きさを、それぞれシミュレーションによって求めた。結果を
図9A〜
図9Cおよび
図10A〜
図10Cに示す。
図9A〜
図9Cおよび
図10A〜
図10Cにおいて、縦軸は半絶縁GaNのフェルミ準位を基準としたポテンシャル、横軸(Position)は、SiO
2と電極との界面(SiO
2表面)を基準とした深さを示している。50nmの位置がゲート電極と半絶縁GaN界面を意味し、弱い反転状態において、この位置のポテンシャルはE
i−E
DAに相当する0.7eV、強い反転状態において、この位置のポテンシャルはE
C-E
DAに相当する2.4eVとなる。
<シミュレーション条件>
・GaN(電子走行層14)のN
DA+N
A−N
DD−N
D=1.0×10
16cm
−3
または4.0×10
16cm
−3
・GaN(電子走行層14)の深いアクセプタ準位E
DA=2.4eV(E
C基準)
・SiO
2(ゲート絶縁膜16)の厚さ:50nm
・GaNの電子親和力E(E
0−E
C)=3.6eV
・電極の仕事関数Φ
M=4.3eV〜4.8eV
図9A〜
図9Cおよび
図10A〜
図10Cから、N
DA+N
A−N
DD−N
D=1.0×10
16cm
−3の場合に比べてN
DA+N
A−N
DD−N
D=4.0×10
16cm
−3の方がSiO
2表面でのポテンシャル(上記式(1´)の表面ポテンシャルΨ
S)が高いことが分かる。弱い反転状態における前者の表面ポテンシャルΨ
Sが1.3eVであるのに対し、後者の表面ポテンシャルΨ
Sは1.8eVである。すなわちゲート電極にMo(Φ
M=4.3eV)を用いたとき、前者のN
DA+N
A−N
DD−N
D=1.0×10
16cm
−3の条件では、上記式(1´)のΨ
S−(E
A+E
DA−Φ
M)=1.3−(3.6+2.4−4.3)=−0.4eVとなり、ゲート印加電圧Vgが−0.4V以上の場合に弱い反転が起き、これは、ゲート印加電圧Vgが印加されていないときにも弱い反転によって微小な電流が流れ、ノーマリオフになっていないことを意味している。それに対し後者は、上記式(1´)のΨ
S−(E
A+E
DA−Φ
M)=1.8−(3.6+2.4−4.3)=0.1eVとなり、ゲート電圧0Vでは弱い反転状態にはなく、ノーマリオフになっていることを意味している。この結果から、電子走行層14の電子親和力Eおよび深いアクセプタ準位E
DA、SiO
2の膜厚、電極の仕事関数Φ
Mに応じてN
DA+N
A−N
DD−N
Dの値を調節し、表面ポテンシャルΨ
Sを高くすることによって、ゲート閾値電圧Vth>0とできることが分かる。
【0038】
次に、下記表1〜表3に示す条件でシミュレーションすることによって、それぞれのN
DA+N
A−N
DD−N
Dとゲート閾値電圧Vthとの関係を求めた。結果を、表1〜表2および
図11〜
図12に示す。
表1〜表2および
図11〜
図12から、ゲート閾値電圧Vthが正の値(>0)の条件のものが完全なノーマリオフを達成しているものである。したがって、完全なノーマリオフを達成するには、たとえば、表1〜表2および
図11〜
図12に基づいて、ゲート閾値電圧Vth>0を満たすN
DA+N
A−N
DD−N
Dとなるように、GaNの深いアクセプタ濃度N
DAを調節すればよい。なお、深いアクセプタ濃度を導入する領域は、
図9A〜
図9Cおよび
図10A〜
図10Cに基づいて設計できる。たとえば、
図9A〜
図9Cに示すN
DA+N
A−N
DD−N
D=1.0×10
16cm
−3のケースでは、弱い反転状態の電位分布が深さ300nm以下の領域に生じているので、この領域のN
DA+N
A−N
DD−N
Dを1.0×10
16cm
−3以上とすればよい。一方、
図10A〜
図10Cに示すN
DA+N
A−N
DD−N
D=4.0×10
16cm
−3のケースでは、弱い反転状態の電位分布が深さ200nm以下の領域で生じているので、この領域のN
DA+N
A−N
DD−N
Dを4.0×10
16cm
−3以上とすればよい。
【0039】
以上を総括すると、
図12に示すように、ゲート電極19の仕事関数Φ
Mが比較的大きい範囲(たとえば、4.5eVを超えて5.0eV以下)では、電子走行層14(上記では半絶縁GaN)の電子親和力Eや深いアクセプタ準位N
DAの大きさにもよるが、概ね、N
DA+N
A−N
DD−N
Dが1.0×10
16cm
−3以上であれば、ゲート閾値電圧Vth>0にすることができる。一方、ゲート電極19の仕事関数Φ
Mが比較的小さい範囲(たとえば、4.0eV以上4.5eV以下)では、電子走行層14(上記では半絶縁GaN)の電子親和力Eや深いアクセプタ準位N
DAの大きさにもよるが、概ね、N
DA+N
A−N
DD−N
Dが3.0×10
16cm
−3以上であることが好ましい。
【0040】
また、
図11と
図12との比較から、SiO
2の厚さを半分(100nm→50nm)にしても、N
DA+N
A−N
DD−N
Dを適切に設計すれば、ゲート閾値電圧Vth>0にすることができる。したがって、ゲート絶縁膜16(上記ではSiO
2)を薄くすることで高速動作に与える影響を少なくできる。
【0043】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
たとえば、前述の実施形態では、電子走行層14がGaN層からなり、電子供給層15がAlGaNからなる例について説明したが、電子走行層14と電子供給層15とはAl組成が異なっていればよく、他の組み合わせも可能である。電子供給層/電子走行層の組み合わせは、AlGaN層/GaN層、AlGaN層/AlGaN層(ただしAl組成が異なるもの)、AlInN層/AlGaN層、AlInN層/GaN層、AlN層/GaN層、AlN層/AlGaN層のうちのいずれかであってもよい。より一般化すれば、電子供給層は、組成中にAlおよびNを含む。電子走行層は、組成中にGaおよびNを含み、Al組成が電子供給層とは異なる。電子供給層と電子走行層とでAl組成が異なることにより、それらの間の格子不整合が生じ、それによって、分極に起因するキャリアが二次元電子ガスの形成に寄与する。
【0044】
また、前述の実施形態では、電子供給層15が除去され、電子走行層の表面にゲート絶縁膜16が接している例について説明したが、基板12上の窒化物半導体層は、電子走行層ゲート絶縁膜16との間に電子供給層15がエッチングされずに残され、酸化する等、何らかの方法で電子供給層が不活性化されていてもよい。
また、前述の実施形態では、基板12の材料例としてシリコンを例示したが、ほかにも、サファイア基板やGaN基板などの任意の基板材料を適用できる。
【0045】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
なお、前述の実施形態の内容から、特許請求の範囲に記載した発明以外にも、以下のような特徴が抽出され得る。
たとえば、電子走行層、前記電子走行層に接し、前記電子走行層とは異なる組成を有する電子供給層を含む窒化物半導体層と、前記窒化物半導体層上のゲート電極と、前記ゲート電極と前記窒化物半導体層との間のゲート絶縁膜とを含み、前記ゲート絶縁膜と前記ゲート電極との界面から深さ250nmまでの領域に、1.0×10
16cm
−3以上の深いアクセプタ濃度を有する領域を含む、窒化物半導体デバイスが抽出される。
【0046】
また、電子走行層、前記電子走行層に接し、前記電子走行層とは異なる組成を有する電子供給層を含む窒化物半導体層と、前記窒化物半導体層上のゲート電極と、前記ゲート電極と前記窒化物半導体層との間のゲート絶縁膜とを含み、前記ゲート絶縁膜と前記ゲート電極との界面から深さ250nmまでの領域に、1.0×10
16cm
−3以上の炭素濃度を有する領域を含む、窒化物半導体デバイスが抽出される。
【0047】
前記窒化物半導体デバイスでは、前記深さ250nmまでの領域に、N
DA+N
A−N
DD−N
Dの値が1.0×10
16cm
−3以上である領域を含んでいてもよい。
(なお、N
A:浅いアクセプタ濃度、N
DA:深いアクセプタ濃度、N
D:浅いドナー濃度、N
DD:深いドナー濃度である。)
前記窒化物半導体デバイスでは、前記深さ250nmまでの領域に、N
DA−N
D−N
DDの値が1.0×10
16cm
−3以上である領域を含んでいてもよい。
(なお、N
DA:深いアクセプタ濃度、N
D:浅いドナー濃度、N
DD:深いドナー濃度である。)
前記窒化物半導体デバイスでは、前記ゲート電極の仕事関数Φ
Mが5.0eV以下であってもよい。
【0048】
前記窒化物半導体デバイスでは、前記ゲート絶縁膜の厚さd(nm)と前記ゲート絶縁膜の比誘電率をεとの関係が、d/ε≦25であってもよい。
また、電子走行層、前記電子走行層に接し、前記電子走行層とは異なる組成を有する電子供給層を含む窒化物半導体層と、前記窒化物半導体層上のゲート電極と、前記ゲート電極と前記窒化物半導体層との間のゲート絶縁膜とを含み、前記ゲート絶縁膜と前記ゲート電極との界面から深さ150nmまでの領域に、3.0×10
16cm
−3以上の深いアクセプタ濃度を有する領域を含む、窒化物半導体デバイスが抽出される。
【0049】
また、電子走行層、前記電子走行層に接し、前記電子走行層とは異なる組成を有する電子供給層を含む窒化物半導体層と、前記窒化物半導体層上のゲート電極と、前記ゲート電極と前記窒化物半導体層との間のゲート絶縁膜とを含み、前記ゲート絶縁膜と前記ゲート電極との界面から深さ150nmまでの領域に、3.0×10
16cm
−3以上の炭素濃度を有する領域を含む、窒化物半導体デバイスが抽出される。
【0050】
前記窒化物半導体デバイスでは、前記深さ150nmまでの領域に、N
DA+N
A−N
DD−N
Dの値が3.0×10
16cm
−3以上である領域を含んでいてもよい。
(なお、N
A:浅いアクセプタ濃度、N
DA:深いアクセプタ濃度、N
D:浅いドナー濃度、N
DD:深いドナー濃度である。)
前記窒化物半導体デバイスでは、前記深さ150nmまでの領域に、N
DA−N
D−N
DDの値が3.0×10
16cm
−3以上である領域を含んでいてもよい。
(なお、N
DA:深いアクセプタ濃度、N
D:浅いドナー濃度、N
DD:深いドナー濃度である。)
前記窒化物半導体デバイスでは、前記ゲート電極の仕事関数Φ
Mが4.5eV以下であってもよい。
【0051】
前記窒化物半導体デバイスでは、前記ゲート絶縁膜の厚さd(nm)と前記ゲート絶縁膜の比誘電率をεとの関係が、d/ε≦25であってもよい。
前記窒化物半導体デバイスでは、前記深いアクセプタ濃度または前記炭素濃度が、5.0×10
16cm
−3以下であってもよい。
前述のように、特許請求の範囲に記載した発明以外に抽出された窒化物半導体デバイスによれば、高速動作に与える影響が少なく、ゲート閾値電圧Vthを高くできる窒化物半導体デバイスを提供することができる。