(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6935503
(24)【登録日】2021年8月27日
(45)【発行日】2021年9月15日
(54)【発明の名称】焼結含油軸受
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20210906BHJP
B22F 5/00 20060101ALI20210906BHJP
C22C 1/10 20060101ALI20210906BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20210906BHJP
F16C 33/12 20060101ALI20210906BHJP
F16C 33/14 20060101ALI20210906BHJP
【FI】
C22C38/00 304
B22F5/00 C
C22C1/10 E
C22C33/02 103E
F16C33/12 A
F16C33/14 A
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-543687(P2019-543687)
(86)(22)【出願日】2018年9月20日
(86)【国際出願番号】JP2018034712
(87)【国際公開番号】WO2019059248
(87)【国際公開日】20190328
【審査請求日】2020年3月6日
(31)【優先権主張番号】特願2017-180541(P2017-180541)
(32)【優先日】2017年9月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306000315
【氏名又は名称】株式会社ダイヤメット
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】特許業務法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 義成
(72)【発明者】
【氏名】丸山 恒夫
【審査官】
鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2006/080554(WO,A1)
【文献】
特開平11−117940(JP,A)
【文献】
特開2001−123253(JP,A)
【文献】
特開2004−360731(JP,A)
【文献】
特開平01−176052(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
B22F 1/00−8/00
C22C 1/04− 1/05, 1/10,33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cuを15.0〜30質量%、Cを1〜4質量%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなり、少なくとも軸受表面に銅が溶融した金属組織を配置させ、素地にパーライト又は部分的にフェライトが点在するパーライト、銅リッチ相、遊離黒鉛を配置させ、素地に銅リッチ相が7〜25%の面積率で分散分布し、素地に遊離黒鉛が5〜25%の面積率で分散分布していることを特徴とする焼結含油軸受。
【請求項2】
前記銅リッチ相は素地中に網目状に分布し、前記遊離黒鉛は素地中に分散分布することを特徴とする請求項1記載の焼結含油軸受。
【請求項3】
さらに、Sn又はZnのうちの少なくとも一方を4質量%以下含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の焼結含油軸受。
【請求項4】
気孔率が12〜30%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の焼結含油軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などのモータでの高負荷な使用条件で用いられる、耐摩耗性に優れ相手攻撃性が低い焼結含油軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の電装用モータの出力軸やワイパーモータなど、比較的負荷が高い使用条件下においても焼結含油軸受が採用されている。近年、特に燃費向上のために、自動車に使用される部品は小型軽量化が進み、そこに使用されるモータ等の軸受も小型化されるため、軸受に作用する面圧は従来よりも高負荷になってきている。さらに、これらのモータに使用される軸受には、自動車からの振動により軸受がシャフトによってたたかれる叩きも加わり、使用条件は従来よりも過酷になっており、従来の焼結含油軸受では耐摩耗性が不十分であるという課題があった。
【0003】
この高負荷やシャフトからのたたきによる摩耗改善のため、焼結軸受材料の強度及び潤滑性の向上が検討されている。軸受材料の中でも強度の高い材料としては、鉄−黒鉛系及び鉄−銅−黒鉛系材料が知られているが、これらの材料は、焼結条件によっては鉄と黒鉛とが反応して硬いセメンタイトが多く析出し、相手シャフト材を傷つけてしまい摩耗が進行する場合や、逆に鉄と黒鉛の反応が少ない低温で焼結して硬いセメンタイトの析出を抑性したものの、強度が不十分で高い負荷や振動による叩きにより軸受が摩耗して
しまう場合があった。
【0004】
そこで、軸受材料の強度の確保とセメンタイトの析出抑性を両立させた鉄系の軸受材料として、合金成分にマンガンを加え1000℃〜1100℃の高温で焼結して、強度を確保しつつセメンタイトの析出を抑性した鉄系焼結摺動部材が知られている(特許文献1)。また、鉄系焼結材料としては、焼結合金の全体組成を質量比でCu:2.0〜9.0%、C:1.5〜3.7%、残部:Feおよび不可避不純物からなり、軸受内部は、面積率でフェライトが20〜85%およびパーライトからなる鉄合金相中に、軸受の軸方向に対して交差する方向に延在する銅相と黒鉛相および気孔が分散分布する金属組織を示し、軸受面に銅相が8〜40%の面積率で露出する鉄系焼結軸受が知られている(特許文献2)。
【0005】
しかし、特許文献1に示された鉄系摺動部材では、材料中の鉄の割合が多く、高い負荷や振動による叩きを受けた場合、相手シャフト材も鋼材であることから、同種金属に起こりやすい凝着により、軸受、シャフトとも摩耗抑性は難しい。また、特許文献2に開示された鉄系焼結軸受では、焼結温度も低く材料強度が不十分であり、高負荷や振動による叩きに対応することは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−42817号公報
【特許文献2】特開2010−77474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、自動車の電装用モータの出力軸やワイパーモータなど、高負荷で、振動によるシャフトからの叩きを受ける過酷な使用条件において、耐摩耗性及びコストパフォーマンスに優れる、新たな焼結含油軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明者らは鋭意検討した結果、焼結含油軸受の素地に、セメンタイト析出を抑性し、パーライト又は部分的にフェライトが点在するパーライトを分散分布させることで高い強度を確保することができ、さらに、網目状に配置された銅リッチ相及び遊離黒鉛を分散分布させることで潤滑性を高めることができることを見出し、本発明に想到した。
【0009】
すなわち、本発明の焼結含油軸受は、Cuを15
.0〜30質量%、Cを1〜4質量%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなり、少なくとも軸受表面に銅が溶融した金属組織を配置させ、素地にパーライト又は部分的にフェライトが点在するパーライト、銅リッチ相、遊離黒鉛を配置させ
、素地に銅リッチ相が7〜25%の面積率で分散分布し、素地に遊離黒鉛が5〜25%の面積率で分散分布していることを特徴とする。
【0010】
また、前記銅リッチ相は素地中に網目状に分布し、前記遊離黒鉛は素地中に分散分布することを特徴とする。
【0011】
また、さらに、Sn又はZnのうちの少なくとも一方を4質量%以下含むことを特徴とする
。
【0012】
また、気孔率が12〜30%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の焼結含油軸受によれば、Cuを15
.0〜30質量%、Cを1〜4質量%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなり、少なくとも軸受表面に銅が溶融した金属組織を有し、素地にパーライト又は部分的にフェライトが点在するパーライト、銅リッチ相、遊離黒鉛を
配置させ、素地に銅リッチ相が7〜25%の面積率で分散分布し、素地に遊離黒鉛が5〜25%の面積率で分散分布していることにより、軸受材料の強度を適正な範囲に制御し、かつ軸受材料に潤滑性をもたせることで、自動車の電装用モータの出力軸やワイパーモータなど、高負荷で、振動によるシャフトからの叩きを受ける過酷な使用条件において、耐摩耗性及びコストパフォーマンスに優れるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】銅リッチ相の面積率の測定方法を説明するための模式図であり、測定状態を示す。
【
図1B】銅リッチ相の面積率の測定方法を説明するための模式図であり、升目を塗り分けた状態を示す。
【
図2】本発明例の焼結含油軸受の切断面の金属組織写真である。
【
図3】本発明例の焼結含軸受の内径表面の電子顕微鏡写真及び遊離黒鉛のマッピング写真である。
【
図4】本発明例の銅リッチ相の成分分析の範囲を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の焼結含油軸受は、Cuを15
.0〜30質量%、Cを1〜4質量%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなり、少なくとも軸受表面に銅が溶融した金属組織を配置させているものである。そして、素地にパーライト又は部分的にフェライトが点在するパーライトを配置させることで高い強度を確保し、さらに、素地に銅リッチ相、遊離黒鉛を配置させることで潤滑性を高めている。また、潤滑性を高めるために、銅リッチ相は素地中に網目状に分布し、遊離黒鉛は素地中に分散分布させているのが好ましい。
【0016】
なお、「銅リッチ相」とは、銅を85質量%以上含む相、或いは、Sn又はZnを含む場合には銅とSn又はZnを合わせて85質量%以上含む相のことをいう。また、銅リッチ相に関して「網目状」とは、複数の筋が網目のように交差した模様、形状のことをいう。また、銅リッチ相は、素地中のパーライト又は部分的にフェライトが点在するパーライトを囲むように分布する。これにより、銅リッチ相は、網目状に分布するように見える。
【0017】
ここで、鉄−銅−炭素系の焼結材は、焼結条件により、材料強度や寸法精度が大きな影響を受けることが一般的に知られている。鉄−銅−炭素系の焼結部品は、所定の組成に配合された原料粉末を圧粉成形し、焼結し、ついでサイジングの工程を経て製造される。原料に銅粉を用い、銅の融点以上の温度で焼結することにより、鉄中へ銅と炭素の固溶と焼結が進み、材料強度が向上する。しかし、鉄と黒鉛は焼結反応が容易であり、銅の融点以上の温度では、素地中に遊離黒鉛を存在させることが難しい。そこで、原料粉末の配合組成を限定するほかに、原料粉末として用いる銅粉末と黒鉛粉末の平均粒径と焼結温度条件を最適化することで、少なくとも軸受表面に銅が溶融した金属組織を有し、素地にパーライト又は部分的にフェライトが点在するパーライト、銅リッチ相、遊離黒鉛を配置させた、本発明の焼結含油軸受が得られる。
【0018】
銅粉末としては、電解銅粉末やアトマイズ銅粉末を用いることができる。一般的な粉末冶金用の銅粉末よりも大きい、平均粒径が50〜100μmの銅粉末を用いることで、溶融した銅が銅リッチ相を形成しやすくなる。そして、焼結温度条件を銅の融点(1083℃)よりも高い温度、すなわち1085〜1105℃に制御すると、網目状に配置された銅リッチ相が形成される。
【0019】
一方、黒鉛粉末としては、天然黒鉛の鱗状黒鉛粉末、鱗片状黒鉛粉末、土状黒鉛粉末のほか、人造黒鉛粉末等が挙げられるが、黒鉛の潤滑性は結晶の発達度合いに影響を受けるため、本発明の焼結含油軸受には、結晶性が良く潤滑性に優れている天然の鱗状黒鉛粉末と鱗片状黒鉛粉末のうちの少なくとも1種が好適に用いられる。そして、平均粒径20〜100μmの鱗状黒鉛粉末と鱗片状黒鉛粉末のうちの少なくとも1種を原料粉末に用いて、上記と同様の1085〜1105℃で焼結することで、一部の黒鉛は鉄粉と反応して、パーライト又は部分的にフェライトが点在するパーライトが形成され、セメンタイトの析出を抑性することができる。それと同時に、素地は、遊離黒鉛が分散分布した金属組織となる。
【0020】
なお、銅粉末と黒鉛粉末の平均粒径とは、レーザー回折法による粒度分布測定値における平均粒径である。レーザー回折式の粒度分布測定装置としては、島津製作所のSALD3000等を用いることができる。
【0021】
以下、本発明の焼結含油軸受の組成等について、詳細に説明する。
【0022】
(1)Cu:15
.0〜30質量%
Cuは焼結時に溶融して、素地中に網目状の銅リッチ相を形成するとともに、素地中のFeと反応して、Cu、Fe及びCからなる固溶体を形成する。網目状の銅リッチ相は、相手シャフトよりも軟らかく、相手シャフトとのなじみ性を向上させる。一方、Cuが素地中のFeと反応して形成する、Cu、Fe及びCからなる固溶体は、パーライト又は部分的にフェライトが点在するパーライトの組織であり、材料強度を高める効果がある。この両方の効果をもって、軸受の耐摩耗性向上に寄与する。Cuの含有量が15
.0質量%未満では、所望の効果が得られないため好ましくない。一方、Cuの含有量が30質量%を超えると、材料強度が不足するようになり、高負荷や振動によるシャフトからの叩きによる条件での軸受摩耗が大きくなるので好ましくない。
【0023】
(2)黒鉛(C):1〜4質量%
黒鉛(C)は、軸受合金の素地中に遊離黒鉛として分散分布することで、軸受に優れた潤滑性を付与する。さらに、黒鉛(C)は、Feと反応して、Cu、Fe及びCからなる固溶体を形成する。固溶体は、パーライト又は部分的にフェライトが点在するパーライトの組織であり、軸受の強度を向上させる効果がある。その両方の効果をもって、軸受の耐摩耗性向上と摩擦係数低減に寄与する。黒鉛(C)の含有量が1質量%未満では所望の効果が得られないため好ましくない。一方、黒鉛(C)の含有量が4質量%を超えると、強度が著しく低下するようになるので好ましくない。
【0024】
(3)気孔率:12〜30%
気孔は素地に分散し、軸受が受ける強い摩擦を緩和し、潤滑油を保油する。相手シャフトとの摺動が行われると、気孔から相手シャフトとの摺動面に潤滑油が供給され、これによって摩擦係数が低減し、軸受の摩耗が抑制される。気孔率が12%未満ではその効果が十分でなくなるため好ましくない。一方、気孔率が30%を超えると材料強度が著しく低下するので好ましくない。
【0025】
(4)銅粉末:平均粒径50〜100μm
原料粉末に用いる銅粉末としては、電解銅粉末とアトマイズ銅粉末のうちの少なくとも1種が好適に用いられる。銅粉末は焼結時に溶融して、素地中に網目状の銅リッチ相を形成するとともに、素地中のFeと反応して、Cu、Fe及びCからなる固溶体を形成する。網目状の銅リッチ相は、相手シャフトよりも軟らかく、相手シャフトとのなじみ性を向上させる。一方、銅粉末が素地中のFeと反応して形成する、Cu、Fe及びCからなる固溶体は、セメンタイトの析出を抑性したパーライト又は部分的にフェライトが点在するパーライトの組織であり、材料強度を高める効果がある。この両方の効果をもって、軸受の耐摩耗性向上に寄与する。銅粉末の平均粒径が50μm未満では、所望の効果が得られないため好ましくない。一方、銅粉末の平均粒径が100μmを超えると、焼結が進みにくく材料強度が不足するようになり、高負荷や振動によるシャフトからの叩きによる条件での軸受摩耗が大きくなるので好ましくない。
【0026】
(5)黒鉛粉末:平均粒径20〜100μm
原料粉末に用いる黒鉛粉末としては、鱗状黒鉛粉末と鱗片状黒鉛粉末のうちの少なくとも1種が好適に用いられる。黒鉛粉末は、軸受合金の素地中に遊離黒鉛として分散分布することで、軸受に優れた潤滑性を付与する。さらに、黒鉛粉末は、Feと反応して、Cu、Fe及びCからなる固溶体を形成する。固溶体は、セメンタイトの析出を抑性したパーライト又は部分的にフェライトが点在するパーライトの組織であり、軸受の強度を向上させる効果がある。その両方の効果をもって、軸受の耐摩耗性向上と摩擦係数低減に寄与する。黒鉛粉末の平均粒径が20μm未満では、焼結時に原料粉末中の鉄粉と反応して素地中の遊離黒鉛量が低減し、その効果が得られないため好ましくない。一方、黒鉛粉末の平均粒径が100μmを超えると、材料強度が著しく低下するようになるので好ましくない。
【0027】
(6)焼結温度:1085〜1105℃
焼結温度は、本発明の焼結含油軸受を製造する上で重要である。すなわち、焼結温度を制御することで、少なくとも軸受表面に銅が溶融した金属組織を有し、素地にパーライト又は部分的にフェライトが点在するパーライト、網目状に配置された銅リッチ相を有するとともに、素地に遊離黒鉛が分散分布した金属組織を有する、本発明の焼結含油軸受を製造することが可能となる。焼結温度が1085℃未満では、銅の溶融が不十分で素地中のFeと十分反応が起こらず強度が低下し、軸受摩耗が大きくなるので好ましくない。一方、焼結温度が1105℃を超えると、遊離黒鉛が減少し、充分な潤滑効果を得られなくなるとともにセメンタイトが多量に析出するようになるので好ましくない。
【0028】
(7)銅リッチ相の面積率:7〜25%
網目状の銅リッチ相は、相手シャフトよりも軟らかく、相手シャフトとのなじみ性を向上させる。銅リッチ相の面積率が7%未満では、所望の効果が得られないため好ましくない。一方、銅リッチ相の面積率が25%を超えると、軸受強度が低下するようになるので好ましくない。
【0029】
(8)遊離黒鉛の面積率:5〜25%
遊離黒鉛は、軸受合金の素地中に分散分布することで、軸受に優れた潤滑性を付与する。遊離黒鉛の面積率が5%未満では、所望の効果が得られないため好ましくない。一方、遊離黒鉛の面積率が25%を超えると、軸受強度が低下するため好ましくない。
【0030】
(9)Sn又はZnのうちの少なくとも一方:4質量%以下
Sn又はZnは、Cuと共に素地中網目状に形成されている銅リッチ相を形成して材料強度を高め、それをもって耐摩耗性を高める効果がある。SnとZnの両方が4質量%を超えるとかえって摩耗が多くなるため好ましくない。
【0031】
以下、本発明の焼結含油軸受の具体的な実施例について説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。
【実施例】
【0032】
原料粉末に、粉末冶金用の還元鉄粉末、電解銅粉末、及び黒鉛粉末を用意した。このうち、銅粉末は、比較例5に平均粒径の小さなアトマイズ銅粉を、比較例6には平均粒径の大きな電解銅粉を使用したほかは、所定の平均粒径の電解銅粉末を用いた。黒鉛粉末は、比較例7に平均粒径の小さな人造黒鉛粉末を使用し、比較例8に平均粒径の大きな鱗状黒鉛粉末又は鱗片状黒鉛粉末を使用したほかは、所定の平均粒径の鱗状黒鉛粉末又は鱗片状黒鉛粉末を用いた。
【0033】
これらの原料粉末を表1に示した最終成分組成となるように配合し、ステアリン酸亜鉛を0.5%加えてV型混合機で20分間混合して混合粉末とした後、プレス成形して圧粉体を製作した。つぎに、この圧粉体を、天然ガスと空気を混合し加熱した触媒に通すことで分解変成させたエンドサーミックガス(endothermic gas)雰囲気中、1085〜1105℃の範囲内の所定の温度で焼結して焼結体を得た。そして、所定の圧力でサイジングを行い、その後、合成炭化水素系の潤滑油を含浸させた。これにより、いずれも外径:18mm×内径:8mm×高さ:8mmの寸法を有し、表1に示した組成成分を有し、素地中に遊離黒鉛が分散分布した、鉄銅基焼結含油軸受のリング状試験片を製作した。
【0034】
【表1】
【0035】
これらの焼結含油軸受を金属組織観察やSEM−EDXにより分析したところ、本発明例1〜11の焼結含油軸受はすべて、少なくとも軸受表面に銅が溶融した金属組織を有し、素地にパーライト又は部分的にフェライトが点在するパーライト、網目状に配置された銅リッチ相を有するとともに、素地に遊離黒鉛が分散分布していることが確認された。比較例1〜10については、本発明例に対し、材料成分範囲、軸受面に銅が溶融した金属組織、銅リッチ相の面積率或いは遊離黒鉛の面積率の何れかが外れていることが分かる。
【0036】
こうして得られたリング状の焼結含油軸受について、高負荷条件の摩耗試験を行った。リング状の焼結含油軸受に外径:8mmのSUS420J2焼入れ鋼製軸を挿入し、リング状軸受の外側から100kgfの荷重をかけながら、シャフトを50m/分で200時間回転させた。その後、リング状軸受摺動面の最大摩耗深さを測定し、耐摩耗性評価を行った。
【0037】
各試料の成分組成、気孔率、銅リッチ相と遊離黒鉛の面積率、及び摩耗試験後の軸受の摩耗深さを表2に示した。なお、銅リッチ相と遊離黒鉛の面積率はつぎのようにして求めた。
【0038】
(銅リッチ相の面積率の算出)
軸受を切断し、切断面を研磨した後、1%ナイタール腐食液にてエッチング処理を行った試料から、切断面の金属組織写真(光学顕微鏡によるカラー写真)を得た。その金属組織写真の上に2mm方眼の升目を有するフレームを重ね合わせ、升目法により銅リッチ相の面積率を算出した。その例を
図1A、
図1Bに示す。
【0039】
図1Aは軸受の切断面の金属組織写真を図案化したものであり、切断面には、銅リッチ相の銅範囲11と、鉄組織のパーライト、又はフェライトの鉄範囲12と、黒鉛の黒鉛範囲13と、気孔の気孔範囲14が表れる。なお、ここでは、縦10個×横10個の升目22を有するフレーム21を重ね合わせた例を示している。そして、銅範囲11、鉄範囲12、黒鉛範囲13、気孔範囲14のうちで、各升目22において最も大きな面積を占める範囲をその対応する範囲として数える。気孔範囲14を除いた範囲において銅範囲11が占める範囲の率を算出し、これを銅範囲11の面積率とする。
【0040】
説明のために
図1Bに升目22を各範囲11、12、13、14に塗り分けたものを示す。この例においては、各升目22の数は、銅範囲11が40個、鉄範囲12が30個、黒鉛範囲13が10個、気孔範囲14が20個である。気孔範囲14を除いた範囲において銅範囲11が占める面積率が銅リッチ相の面積率であるから、銅リッチの面積率は40/80×100=50%となる。
【0041】
一例として、
図2に本発明例の焼結含油軸受の切断面の金属組織写真を示す。
【0042】
(遊離黒鉛の面積率の測定)
軸受の内径表面について、SEM−EDXを用いて、倍率×100の電子顕微鏡写真及び遊離黒鉛のマッピング写真を撮影した。その一例を
図3に示す。電子顕微鏡写真及び遊離黒鉛のマッピング写真を対比させると、電子顕微鏡写真の気孔を除く黒色部と遊離黒鉛のマッピング写真の白色部が一致していることから、遊離黒鉛のマッピング写真の白色部が遊離黒鉛を示している。この遊離黒鉛のマッピング写真を画像解析することによって、遊離黒鉛の面積率を求めた。
【0043】
【表2】
【0044】
軸受の最大摩耗深さの試験結果から明らかなように、高負荷の過酷な試験条件において、本発明例の軸受は、比較例の軸受と比較して優れた耐摩耗性を有していることが確認された。
【0045】
(銅リッチ相の成分分析)
本発明例3の軸受断面を組織観察用に研摩を行い、ついで2%ナイタールでエッチング処理を行い、銅リッチ相やパーライトなどが表面に現れた組織観察試料を作製した。その軸受の断面の銅リッチ相について、
図4に示す範囲において、SEM−EDXを用いて定量分析を行った。なお、この時のSEMの加速電圧は20kVであった。分析結果は、C:3.69質量%、Fe:6.41質量%、Cu:89.9%であった。