(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記制振対象物の振動運動の軌道が、速度変位座標にてx=kv(x:変位、v:速度、k:定数)の関係式と交差すると、前記電源部へオンオフ信号を送るように構成した請求項1に記載の制振装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態について、図面を参照して具体的に説明する。なお、第2の実施形態以降の実施形態において、第1の実施形態に示した構成要素と同一のものに関しては同一符号を付して説明は省略する。
【0011】
(第1の実施形態)
(構成)
図1及び
図2に示すように、制振対象物1は、天井2の単一の支点から回転自在に吊り下げられた1本の振り子構造体3を介して懸垂された球体である。第1の実施形態は、制振対象物1の振動を抑制する制振装置9である。
【0012】
制振装置9には、容器4が設けられている。容器4は、振り子構造体3の中央に取り付けられている。容器4は鉛直方向に延びる中空の円筒状部材からなる。容器4内の中空部には磁性流体5が封入されている。容器4の側面には電磁石6が巻かれている。電磁石6は、励起した磁界により磁性流体5を変形させる部材である。
【0013】
磁性流体5は、電磁石6が励起した磁界により、容器4の内壁面に沿って鉛直方向に変形する。
図1に示した変形前の磁性流体5は、容器4内の底部から容器4の高さの1/4程度まで、容器4内の下部に溜められている。一方、
図2に示した変形後の磁性流体5は、電磁石6から励起した磁界を受け、上端部が天井2側に延びて細長い状態となる。
【0014】
磁性流体5がこのように変形することで制振対象物1の重心が上下方向に変わるようになっている。すなわち、変形前の磁性流体5は容器4の下部に溜まっているため、制振対象物1の重心は低い状態にある。変形後の磁性流体5は細長く上方に延びるため、制振対象物1の重心は高い状態となる。
【0015】
電磁石6には、電磁石6に電流を供給する電源部7が電気的に接続されている。電磁石6は、電源部7から供給された電流によって通電状態となると、磁界を励起する。電源部7には制御部である演算器8が電気的に接続されている。演算器8は制振装置9の制御部である。演算器8には、計測部8aと、演算部8bと、送信部8cとが設けられている。
【0016】
演算器8の送信部8cは電源部7に対し制御信号としてオンオフ信号を送信する。演算器8からオン信号を受け取った電源部7はスイッチオンとなり、電磁石6に電流を供給する。演算器8からオフ信号を受け取った電源部7はスイッチオフとなり、電磁石6への電流供給を停止する。
【0017】
制振対象物1、振り子構造体3、容器4、磁性流体5及び電磁石6は、全体として1つの振り子を形成する振り子構造となっている。そこで、これらの構成要素をまとめて、振り子10(点線にて図示)と総称する。制振対象物1の下端部には、振り子10の変位及び速度を計測するセンサ11が取り付けられている。センサ11は例えば加速度計でも良いし、変位計・近接センサでも良い。センサ11は最低1個で良く、計測した信号を積分・微分演算することによって速度と変位量を計測する。
【0018】
センサ11には演算器8が接続されている。センサ11は、振り子10(厳密には制振対象物1)の変位、速度を検出して、演算器8に送信する。演算器8には、計測部8aと、演算部8bと、送信部8cとが設けられている。このうち、計測部8aは、センサ11より送信された振り子10の変位及び速度を基にして、振り子10の軌道を計測する部分である。
【0019】
演算部8bは、計測部8aが計測したデータに基づいて自由振動の軌道切り替えタイミングを演算する部分である。演算部8bが求める軌道切り替えタイミングは、振り子10における自由振動の軌道が、自由振動の速度変位座標にてx=kv(x:変位、v:速度、k:定数)と交差するタイミングである。送信部8cは、既に述べたように、演算部8bの演算結果に基づいて電源部7に対し、制御信号であるオンオフ信号を送信する部分である。
【0020】
(作用)
以上の構成を有する制振装置9が、制振対象物1を含む振り子10の振動を、効率良く抑制あるいは増大させるためには、制振対象物1の重心を振り子10の半径方向に移動させて、振り子10の慣性モーメントを変動させ、自由振動の軌道を切り替えることが有効である。これは、ブランコを例にして、ブランコの漕ぎ手の重心の移動タイミングを考えれば、直観的に理解しやすい。
【0021】
すなわち、速度が最大の最下点で漕ぎ手は膝を曲げて重心を下げる。変位が最大となる両端では膝を伸ばして重心を上げる。タイミング良くこれらの運動を繰り返すことにより、ブランコを加振し、振幅を大きくすることができる。タイミングを反対にし、最下点で膝を伸ばし、両端で膝を曲げることにより、ブランコを制振し、振幅を小さくすることができる。膝の曲げ伸ばしは重心を移動させ、慣性モーメントを変化させている。
【0022】
ここで、振り子10の自由振動の軌道切り替えについて、
図3〜
図6を用いて説明する。
図3、
図4、
図6では振り子10の自由振動を実線で示している。振り子10の速度及び変位は、速度変位座標(X軸:速度、Y軸:変位)において、楕円軌道を描きながら原点に向けて収束する。
【0023】
このとき、自由振動の変位が短時間で小さくなれば、効率良く振動抑制が達成されたことになる(前述のブランコの例で言えば、急速に停止させることになる)。反対に、自由振動の変位が短時間で大きなれば、効率良く振動増大が達成されたことになる(前述のブランコの例で言えば、さらに大きく漕ぐことになる)。
【0024】
図3は、磁性流体5を変形させる前の(電源部7はスイッチオフ、電磁石6は非通電状態)、振り子10の自由振動の軌道例である。変形前の磁性流体5は容器4の下部に溜まっているため、容器4の重心は低い状態にあり、振り子10の慣性モーメントは大きい。したがって、
図3に示すように、振り子10は縦長の楕円軌道を描きながら原点に向けて収束する。
【0025】
図4は、磁性流体5を変形させた後の(電源部7はスイッチオン、電磁石6は通電状態)、振り子10の自由振動の軌道例である。変形後の磁性流体5は上方に向かって細長くなり、容器4の重心は振り子10の半径中心方向(
図1、
図2の上方)に移動する。したがって、振り子10の慣性モーメントは小さくなる。
【0026】
そのため、
図4に示すように、振り子10は円形に近い楕円軌道(
図3の楕円軌道と比べれば横長の楕円軌道)を描きながら原点に向けて収束する。
【0027】
図5に点線で示したx=kv(x:変位、v:速度、k:定数k=k1、k2、k3、k4)は、
図3と
図4に示した振り子10の自由振動の軌道を切り替えるタイミングを現したものである。k=k1、k2、k3、k4は任意の値である。振り子10の自由振動の軌道の切り替えタイミングは、計測部8aが計測したセンサ11の計測値に基づいて、演算部8bにて演算される。
【0028】
演算器8の演算部8bが求めた演算結果に基づいて、自由振動の軌道と関係式x=kvと交差するタイミングで、演算器8の送信部8cが電源部7にオンオフ信号を送信する。これらの制御信号を受けた電源部7はスイッチを切り替えて、電磁石6の通電状態を変化させる。その結果、磁性流体5が変形して容器4の重心が移動し、振り子10の慣性モーメントが変動する。
【0029】
上記の手法に従い、制振を目的とした自由振動の軌道切り替えを行った場合を、
図6に示す。振り子10の慣性モーメントを小さくするタイミングは、振り子10の自由振動の軌道が関係式x=kvと交差するときである。つまり、振り子10の自由振動の軌道が関係式x=kvと交差したタイミングで、演算器8の送信部8cが電源部7にオン信号を送信する。オン信号を受けた電源部7はスイッチオンとなり、電磁石6に電流を供給する。その結果、磁性流体5は細長く変形して、容器4の重心は半径中心方向(
図1、
図2の上方)に移動する。これにより、振り子10の慣性モーメントは小さくなる。
【0030】
また、振り子10の自由振動の軌道が次のx=kvを交差した時、演算器8の送信部8cは電源部7にオフ信号を送信する。オフ信号を受けた電源部7はスイッチオフとなり、電磁石6への電流供給を停止する。電磁石6の電流を止めると、電磁石6から磁界が励起されなくなり、細長い状態にあった磁性流体5の変形は消滅する。つまり、磁性流体5は通電する前の状態に戻り、容器4の重心は半径周縁方向(
図1、
図2の下方)に移動して、振り子10の慣性モーメントは変形前と同じになる。このように、電磁石6への通電をOFFにして磁性流体5を変形前の状態に戻せば、容器4の重心は低い位置に戻り、振り子10の慣性モーメントも元に戻る。
【0031】
図6のグラフから明らかなように、慣性モーメントの変動によって自由振動の軌道切り替えを行うことで、振り子10の自由振動の軌道が、原点に向かって急速に収束していき、振動を短時間で減衰させることができる。したがって、第1の実施形態では、
図3及び
図4と比べて、振り子10の自由振動を効率良く抑えることができる。
【0032】
なお、
図5におけるk1、k2、k3、k4を変化させることで、自由振動の軌道を切り替えるタイミングを変更すれば、振り子10の自由振動を効率良く増幅することも可能である。また、振り子10の慣性モーメントの変動は連続的である必要はなく、断続的であっても構わない。
【0033】
(効果)
第1の実施形態は、制振対象物1に取り付けた容器4内に磁性流体5を封入し、磁性流体5の周囲に電磁石6を設置する。電磁石6には電源部7を接続し、電源部7には演算器8を接続する。
【0034】
演算器8は、センサ11が計測した制振対象物1の変位及び速度に基づいて、振り子10の自由振動の軌道の切り替えタイミングを演算し、電源部7へ制御信号を送る。制御信号を受けた電源部7は、電磁石6への通電制御を行うため、電磁石6により励起された磁界の有無によって磁性流体5が変形し、容器4の重心が移動する。その結果、振り子10の慣性モーメントが変動して、制振対象物1の振動の抑制あるいは増大が可能になる。
【0035】
第1の実施形態において、振り子10の慣性モーメントを変動させる構成要素は、容器4に封入した磁性流体5を変形させる電磁石6と、その制御系である電源部7及び演算器8だけである。したがって、制振対象物1につけるマスを駆動させるモータなどは不要であり、駆動部が故障する心配が無い。その結果、モータのメンテナンスや調整を省くことができ、構成を簡略化することができ、且つ振動の抑制及び増大を実施する際の信頼性が向上する。
【0036】
また、第1の実施形態では、モータなどの駆動部を不要としたことで、低メンテナンスコストが見込める。さらに、電磁石6の通電制御は、電源部7における単純なオンオフ制御のスイッチングで良い。したがって、電源部7を制御する演算器8の構成もシンプルで済み、複雑な制御手法も必要ない。その結果、電源部7及び演算器8に要するコストは、一般的なアクティブ型の制振装置のコストよりも大幅に低減し、経済的にも極めて有利である。
【0037】
(第1の実施形態の変形例)
図1及び
図2に示した振り子構造体3は1本であるが、その本数は問わない。また、制振対象物1の構造も、自由振動が行われる限りは問わない。例えば、上記の第1の実施形態では単振り子構造であったが、
図7〜
図9に示す実施形態は、2個の制振対象物1、13に対する制振装置12に適用して二重の振り子構造をとっている。これらの実施形態では、第1の実施形態の構成に加えて、制振対象物13と振り子構造体14を接続している。他の構成は第1の実施形態と同じである。
【0038】
図7〜
図9に示す実施形態はそれぞれ、磁性流体5を封入した容器4の設置位置が異なる。
図7に示す実施形態では容器4が下段の振り子に設置され、
図8に示す実施形態では容器4が上段の振り子に設置され、
図9に示す実施形態では容器4が上段と下段の両方の振り子に設置されている。
【0039】
以上の実施形態でも前記第1の実施形態と同様、関係式x=kvにおいて任意のk=k1、k2、k3、k4で磁性流体5を変形させることにより、二重の振り子構造の慣性モーメントを変動させることができる。したがって、制振対象物1、13の振動を抑制あるいは増大させることが可能である。
【0040】
そのため、前記第1の実施形態と同じく、制振効果及び加振効果を確保しつつ、信頼性及び経済性の向上に寄与することができる。このような実施形態からも明らかなように、制振対象物1が振り子構造に含まれる場合は、制振対象物1、13の振動の抑制及び増大を効率良く実現させることができる。すなわち、制振対象物1の重心を移動させるように磁性流体5を変形させる本実施形態は、振り子構造に含まれる制振対象物1の制振装置9として、好適である。
【0041】
(第2の実施形態)
(構成)
第2の実施形態について、
図10及び
図11を参照して説明する。上記第1の実施形態は振り子構造に適用したが、振り子構造を持たない構造体に対しても適用可能である。第2の実施形態は、地面又は壁面に固定された一般的な構造体に対して適用した制振装置である。
図10に示す構造体15bは、地面又は壁面に固定された直方体状の構造体15(点線で示す)が、地震や外力等により変形した状態を示している。つまり、構造体15は所定の範囲に揺動する制振対象物である。
【0042】
図11に示すように、第2の実施形態に係る制振装置18は、磁性流体5を封入した容器4が構造体15の内部の中央に備え付けられている。磁性流体5は、電磁石6から励起された磁界により変形することで、構造体15の慣性モーメントを変動させるように構成されている。センサ11は、構造体15の上面部の中央に取り付けられている。センサ11は構造体15の揺動を検出して、演算器8に送信する。
【0043】
演算器8は、センサ11より送信された構造体15の揺動に関するデータを基にして、構造体15の揺動運動の軌道の切り替えタイミングを演算し、電源部7に制御信号としてオンオフ信号を送信する。演算器8が求める構造体15の軌道の切り替えタイミングは、構造体15における揺動運動の軌道が、当該運動の速度変位座標にてx=kv(x:変位、v:速度、k:定数)と交差するタイミングとする。他の構成は上記第1の実施形態と同一である。
【0044】
(作用と効果)
第2の実施形態でも前記第1の実施形態と同様、上記関係式中のk=k1、k2、k3、k4で、磁性流体5を変形させることによって、構造体15の慣性モーメントを変動させることができ、構造体15の振動を抑制あるいは増大させることができる。したがって、前記第1の実施形態と同じく、構造体15に対する制振効果及び加振効果を確保すると共に、信頼性及び経済性の向上を図ることが可能である。
【0045】
(第2の実施形態の変形例)
なお、
図11では、容器4は構造体15の中央に設置したが、構造体15のいかなる場所に設置しても、磁性流体5の変形により構造体の慣性モーメントを変動させることができれば、構造体15の振動の抑制効果及び増大効果は得られる。したがって、構造体15における容器4の設置場所や設置個数は限定されない。
【0046】
図11に示した第2の実施形態では地面又は壁面に固定された構造体15に適用したが、
図12に示す実施形態のように、海面に浮かばせた浮遊構造体16に適用してもよい。海面17に浮かばせた浮遊構造体16として例えば、強風時の姿勢制御が重視される洋上風車などがある。
【0047】
以上の実施形態でも前記第2の実施形態と同様、任意のk=k1、k2、k3、k4で磁性流体5を変形させることにより、浮遊構造体16の慣性モーメントを変動させて、その振動を抑制あるいは増大させることが可能である。このような実施形態によれば、接続の構造を簡易化できる。なお、一般的な構造体としては、質量を有し、且つ回転・揺動する構造体であれば、構造体がいかなる状態で存在しても形態を問わず、例えば空中に浮かぶ浮遊構造体であってもよい。
【0048】
(第3の実施形態)
(構成)
図13は、懸垂型高圧直流送電装置(HVDC:High Voltage Direct Current Transmission)の模式図である。懸垂型高圧直流送電装置では、天井2から多数のサイリスタモジュール22が懸垂構造体21を介して吊り下げられており、最下層にシールド23を備えている。懸垂構造体21とサイリスタモジュール22、シールド23、天井2の接続部は、回転フリーとなるように構成されており、サイリスタモジュール22及びシールド23は回転自在に設けられている。
【0049】
図13に示すように、第3の実施形態に係る制振装置24は、懸垂型高圧直流送電装置の各サイリスタモジュール22の上面中央並びにシールド23に取り付けられている。すなわち、サイリスタモジュール22及びシールド23が制振対象物である。制振装置24の構造は、基本的に第1の実施形態と同等であり、
図13において、サイリスタモジュール22並びにシールド23上に立てられている部分が、
図1などに示した容器4に相当する。
【0050】
第3の実施形態に係る制振装置24は、磁性流体5が電磁石6から励起された磁界により変形することで、サイリスタモジュール22及びシールド23の慣性モーメントを変動させるように構成されている。演算器8は、センサ11より送信されたサイリスタモジュール22及びシールド23の振動に関するデータを基にして、サイリスタモジュール22及びシールド23の振り子運動の軌道の切り替えタイミングを演算し、電源部7に制御信号としてオンオフ信号を送信する。
【0051】
演算器8が求めるサイリスタモジュール22及びシールド23の軌道の切り替えタイミングは、サイリスタモジュール22及びシールド23における振り子運動の軌道が、当該運動の速度変位座標にてx=kv(x:変位、v:速度、k:定数)と交差するタイミングとする。他の構成は上記第1の実施形態と同一である。
【0052】
なお、上記第1の実施形態ではセンサ11から演算器8への回路を構成したが、懸垂型高圧直流送電装置の各サイリスタモジュール22及びシールド23における振動が、どこでも同程度と考えられる場合には、全ての制振装置24に対してセンサ11を設置する必要がなく、用途に応じて制振装置24からセンサ11を省いても構わない。
【0053】
(作用と効果)
第3の実施形態でも前記第1及び第2の実施形態と同様、上記関係式中のk=k1、k2、k3、k4で、磁性流体5を変形させることによって、各サイリスタモジュール22及びシールド23の慣性モーメントを変動させることができ、各サイリスタモジュール22及びシールド23の振動を抑制あるいは増大させることができる。したがって、前記第1及び第2の実施形態と同じく、制振対象物である各サイリスタモジュール22及びシールド23の回転を抑制することが可能となり、且つ信頼性及び経済性の向上を図ることが可能である。
【0054】
(第3の実施形態の変形例)
図13ではサイリスタモジュール22を5段とし、各段に2個のサイリスタモジュール22が取り付けられる構成を示したが、第3の実施形態の効果は、上記に説明したような構造であれば、効果が現れる。そのため、サイリスタモジュール22の個数は制振の観点では何個でも問わない。
【0055】
すなわち、
図13に示した実施形態では、各サイリスタモジュール22に対して1個の制振装置24を備えたが、制振装置24の個数は十分な効果が表れれば、いくつでも構わない。例えば、
図14のように下段のサイリスタモジュール22及びシールド23に制振装置24を多数設置するようにしてもよい。このとき、上段のサイリスタモジュール22には制振装置24を設置しない構成としてもよい。各制振装置24のアースは設置されたサイリスタモジュール22に対して接続される。
【0056】
図15に示した実施形態では、各段のサイリスタモジュール22に制振装置24を設置せず、複数段にわたる大型化した制振装置25を1つ、シールド23上に取り付けている。大型化した制振装置25を取り付けるメリットは、大きな振動低減効果が得られる点にある。したがって、大規模な地震が生じた場合でも、許容範囲内にシールド23の振幅をとどめることができる。
【0057】
なお、
図15の制振装置25はシールド23の中央に1つ取り付けたが、その個数や設置場所は任意で構わない。例えば、
図16のようにシールド23の左右に各本ずつ、合計2本の制振装置25を設置しても構わない。
【0058】
また、
図14に示した実施形態と
図1に示した実施形態とを組み合わせて、
図17のような構成をとっても構わない。
図17に示した実施形態では、下段のサイリスタモジュール22及びシールド23に制振装置24を多数設置すると共に、大型化した制振装置25をシールド23上に取り付けている。なお、上段のサイリスタモジュール22には制振装置24を設置していない。
【0059】
以上の複数の実施形態からも明らかなように、制振対象物が懸垂構造に含まれる場合、制振対象物であるサイリスタモジュール22及びシールド23の配置構成に関係なく、制振対象物の振動の抑制及び増大を効率良く実現させることができる。すなわち、本実施形態は、懸垂型高圧直流送電装置に対する制振装置24、25として特に好適である。
【0060】
(第4の実施形態)
図18〜
図34を用いて、第4の実施形態及びその変形例について説明する。上記の実施形態では、磁性流体5が上方に行くに従い細長くなるように変形しているが、磁性流体5が容器4の内壁40の内側を上方に向かって円筒状のまま変形するようにしてもよい。以下、このような実施形態について説明する。まず、磁性流体5の変形について説明する。
【0061】
図18に示す装置は、電磁石6を巻いた内壁40の内側に、磁性流体5を封入したものである。磁性流体5が電磁石6から外へ出なければ、内壁40は無くてもよい。また内壁40の天板はあってもなくてもよい。
図18に示す装置に、電源部7を電磁石6に電気的に接続したものが
図19に示す装置である。電源部7より直流電流を一定値以上流すと、
図19に示すように、磁性流体5は内壁40の内面に沿って変形する。
【0062】
図20に示す装置は、
図19に示した装置を桶30から上方へオフセットして設置したものである。桶30のオフセットの仕方は問わない。桶30は磁性流体5を溜める機器であって、電磁石6が周囲に巻かれる容器の外径よりも大きい内径を有している。桶30は、磁性流体5の漏れが生じなければ、形状を問わない。
図20に示す装置では、内壁40の底面と天板はあってはならない。
【0063】
図21は、電源部7より直流電流を一定値以上流した時の磁性流体5の変形を示したものである。前記の
図19に示した装置では、磁性流体5は内壁40の内面に沿って変形したが、
図21及び
図22に示した装置では、これとは異なり、磁性流体5は、内壁40によって囲まれた空間の内部に充填されるように円筒形状に変形する。
【0064】
図23に示すように、磁性流体5が励磁された電磁石6内を通過したとする。この時の磁性流体5が受ける電磁力と重力の和をシミュレーションしたものを
図24に示す。
図24では横軸が電磁石6内の磁性流体5の位置である。磁性流体5が受ける力は電磁石6の下部では電磁力の影響が強く正であり、位置が高くなるにつれ重力の影響が大きくなり、負に転じる。
【0065】
上記のように磁性流体5に作用する力を予測することにより、電磁石6内での磁性流体5の位置を推定することが可能となる。
図25は、
図20に示した装置の実験結果とシミュレーション結果1を比較したグラフである。このグラフに示すように、実験結果とシミュレーション結果はよく一致しており、磁性流体5の挙動を正確に予測できていることが分かる。
【0066】
図26は電磁石6に流す電流を調節し、励磁される磁界の分布を変化させたときの磁性流体5の挙動を、シミュレーション結果2として追加したグラフである。シミュレーション結果2では、起ち上がりの速度がシミュレーション結果1より早くなっており、目標値に達する時間が短くなっていることが分かる。以上のことから、
図20〜
図22に示した制振装置で目標の変形量と、変形のスピードを得るための機器の設計は可能である。
【0067】
(構成)
第4の実施形態の構成について
図27〜
図31を用いて説明する。第4の実施形態は、
図20〜
図22に示した装置を、制振装置として適用したものである。第4の実施形態は、天井2の単一の支点から回転自在に吊り下げられた1本の振り子構造体3を介して懸垂された球体を制振対象物1とし、この制振対象物1の振動を抑制する制振装置9である。
【0068】
第4の実施形態には桶30が設けられている。第4の実施形態において、桶30以外の基本的な構成は前記第1の実施形態の構成と同様である。そのため、同一部材に関しては同一符号を付して説明は省略する。第4の実施形態では、制振対象物1、振り子構造体3、磁性流体5、電磁石6及び桶30が、全体として1つの振り子を形成する振り子構造となっている。桶30は、電磁石6の外径よりも大きい内径を有している。第4の実施形態では、桶30を含めて制振対象物1に取り付けられた部分(第1の実施形態で言えば容器4)が、制振装置9となっている。
【0069】
(作用)
第4の実施形態の制振装置9でも、先にも述べたように、ブランコを例にして、ブランコの漕ぎ手の重心の移動タイミングを考えると、振り子軌道の中心を過ぎた直後で、速度が最大になった漕ぎ手は膝を曲げて重心を下げる。振り子軌道の両端で、変位が最大となった直後では膝を伸ばして重心を上げる。タイミング良くこれらの運動を繰り返すことにより、ブランコを加振し、振幅を大きくすることができる。
【0070】
タイミングを反対にし、振り子軌道の中心を過ぎた直後で膝を伸ばし、振り子軌道の両端で、変位が最大となった直後で膝を曲げることにより、ブランコを制振し、振幅を小さくすることができる。膝の曲げ伸ばしは重心を移動させ、慣性モーメントを変化させている(振り子10の自由振動の軌道切り替えについては、第1の実施形態における段落0022〜0032を参照)。
【0071】
(効果)
本発明に係る実施形態の制振手法では、連動方程式において慣性項を変化させている。これに対して、一般的なアクティブ制振手法では、運動方程式の外力項を変化させており、作用が異なる。外力項を変化させる場合、運動している方向と逆方向にタイミングよく力をかけ、相殺させる必要があり、正確な制御を要する。また2方向以上の振動を抑制するために2個以上のアクチュエータを取り付けることが一般的であり、機構が複雑になる。
【0072】
そこで、本発明の実施形態では、磁性流体5の変形を径方向に生じさせることにより、1つのアクチュエータで慣性項を変化させている。例えば、
図27及び
図28に示した実施形態では、桶30に満たされて桶30の内径であった磁性流体5が、内壁40によって囲まれた空間の内部に充填されることで円筒形状に変形して径方向に小さくなる。すなわち、本発明の実施形態においては、運動方程式の外力項を変化させるのではなく、運動方程式において慣性項を変化させている。このように慣性項を変動させることで、様々な方向の振動を抑制できるというメリットが得られる。
【0073】
第4の実施形態は、制振対象物1に取り付けた制振装置9に磁性流体5を封入し、磁性流体5の周囲に電磁石6を設置する。電磁石6には電源部7を接続し、電源部7には演算器8を接続する。演算器8の動作については、上記第1の実施形態と同様である。第4の実施形態において、振り子10の慣性モーメントを変動させる構成要素は、制振装置9に封入した磁性流体5を変形させる電磁石6と、桶30と、制御系である電源部7及び演算器8である。したがって、制振対象物1につけるマスを駆動させるモータなどは不要であり、駆動部が故障する心配が無い。その結果、モータのメンテナンスや調整を省くことができ、構成を簡略化することができ、且つ振動の抑制及び増大を実施する際の信頼性が向上する。
【0074】
また、第4の実施形態では、第1の実施形態と同様、モータなどの駆動部を不要としたことで、低メンテナンスコストが見込める。さらに、電磁石6の通電制御は、電源部7における単純なオンオフ制御のスイッチングで良い。したがって、電源部7を制御する演算器8の構成もシンプルで済み、複雑な制御手法も必要ない。その結果、電源部7及び演算器8に要するコストは、一般的なアクティブ型の制振装置のコストよりも大幅に低減し、経済的にも極めて有利である。
【0075】
第4の実施形態の試験装置を製作し、性能を評価した結果の一例を
図29に示す。製作した試験装置は、
図27及び
図28に示す装置の天井2が可動部になっており、振り子10を強制加振する。
図29は振り子10の変位応答と、電源部7から入力される切り替え信号の波形を示すグラフでである。天井2の強制加振を開始すると振り子10の変位応答は増幅する。天井2での強制加振を続けながら切り替え信号を入力し、制振制御をかけた区間では、振り子10の変位応答は減衰し、一定値に収束する。制振制御をかけた区間での切り替え信号の拡大図を
図30に示す。
【0076】
第4の実施形態では演算器8が前記の
図5に示した切り替えのタイミングに従って指令を出し、その後、制振制御を解除した区間では変位応答は再び増幅する。天井2での振り子10の強制加振を解除した後は振り子10の変位応答は減衰に転じ、振幅が0になる。以上から制振制御区間では振り子10の変位応答を減衰させており、本発明の実施形態が制振装置として有効に作用していることを示している。
【0077】
(第4の実施形態の変形例)
図31〜
図35に示す実施形態は、上記第4の実施形態の変形例である。
図31〜
図33に示す各実施形態は、上記第1の実施形態の変形例である各実施形態(
図7〜
図9)に対応するものである。
図34に示す各実施形態は、上記第2の実施形態(
図11)に対応するものである。
図35に示す各実施形態は、上記第2の実施形態の変形例である実施形態(
図12)に対応するものである。これらの変形例においても、桶30を備え、桶30を含めて制振対象物1に取り付けられた部分(第1及び第2の実施形態で言えば容器4)が、制振装置9となっている。
【0078】
(他の実施形態)
本発明のいくつかの複数の実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0079】
制振対象物における容器あるいは制振装置の設置場所は適宜変更可能である。例えば、
図36に示す実施形態は、桶30の中に、
図20に示す装置を水平方向(図では左右方向)に2個並べて配置した制振装置26、26である。
図36に示す実施形態では、電磁石6の高さを低くして、磁性流体5が変形を終えるまでにかかる時間を短くしている。この場合、電磁石6の低背化により装置のコンパクト化が実現できる反面、慣性の変化量は小さくなる。
【0080】
そこで
図36に示す実施形態では、制振装置26を2個設置することで、低下した慣性の変化量を補うことができる。これにより、高い周波数での制振が可能になる。このように、目的に応じて、
図20に示した制振装置の個数を適宜設計し、最適なシステムを構築することが可能である。
【0081】
図37及び
図38に示す実施形態は、桶30の中に、
図20に示す装置を垂直方向(図では上下方向)に2個重ねて配置した制振装置27A、27Bである。下側の制振装置27Aにおける内壁を40a、電磁石を6aとし、上側の制振装置27Bにおける内壁を40b、電磁石を6bとする。
【0082】
制振装置27A、27Bにおいて磁性流体5が移動する内部空間の内径は同一とする。制振装置27A、27Bの内部空間の径方向は、磁性流体5の移動方向と直交する。このような実施形態では、タイミングよく、上下の電磁石6a、6bに電流を流すことで、磁性流体5が変形して、磁性流体5が下側の制振装置27Aにある状態(
図37)と、磁性流体5が上側の制振装置27Bにある状態(
図38)とを高速に繰り返すことができる。
【0083】
前述した
図20〜
図22に示した装置では、磁性流体5が変形する時に、磁性流体5が内壁40の下端部から内壁40の内側へと吸い込まれるような流れ(
図21の白抜きの矢印参照)が発生する。ここで、磁性流体5は、径の広い桶30から径の狭い内壁40の内側へと流れ込むので、磁性流体5に対する粘性抵抗が大きくなる。そのため、磁性流体5の変形にかかる時間が長くなり、制振できる周波数の帯域が制限される可能性がある。
【0084】
一方、
図37及び
図38に示す実施形態では、上下に配置した制振装置27A、27Bにおいて、磁性流体5が移動する内部空間の内径は同一としている。そのため、内壁40a、4bの内側を上下動する磁性流体5はスムーズに流れることができ、粘性抵抗は生じ難い。従って、制振装置27A、27Bでは、磁性流体5の変形にかかる時間が短くなり、
図20〜
図22に示した装置よりも制振できる周波数の帯域を高くすることができる。
【0085】
図37及び
図38に示す実施形態では、制振の必要が無い時は通電状態を切り、桶30に磁性流体5を保管する。例えば、地震が発生し制振が必要になったときには、初めに電磁石6aに通電し、磁性流体5を桶30から、下側の制振装置27Aの内部に移動させる。その後、電磁石6bを通電し、電磁石6aと電磁石6bとの間で磁性流体5を繰り返し往復させる。これにより、優れた制振性を発揮することが可能である。
【0086】
図39に示した実施形態は、
図37及び
図38に示した制振装置27A、27Bの径の一部を大きくした制振装置28A、28Bを備えている。下側の制振装置28Aでは、電磁石6aの下端部付近の径を大きくして、断面が逆T字状となるように電磁石6aを構成する。また、上側の制振装置28Bでは、電磁石6bの上端部付近の径を大きくして断面がT字状となるように電磁石6bを構成する。上下方向に2個重ねて配置した制振装置28A、28Bにおいて、互いに接する部分の内部空間の内径は同一である。
【0087】
このように、上下に配置された制振装置28A、28Bの内径の端部を広げることにより、磁性流体5による重心の移動量を大きくすることができ、より大きな対象物を制振できるようになる。
図36〜
図39に示した装置の例を組み合わせて、上記の第1〜第3の実施形態に適用することにより、目的に応じたシステムを設計することもできる。