(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項3に記載の車体管理システムにおいて、前記出力端末は、前記監視対象について予め設定された異常の発生を判定するための異常判定値又は異常の予兆を判定するための予兆判定値を前記統計データと共に出力することを特徴とする車体管理システム。
請求項1に記載の車体管理システムにおいて、前記パワートレインは、前記部品として、エンジン、前記エンジンで駆動される発電機、前記発電機の出力電力を直流電力に変換する整流器、前記整流器の出力電力を三相交流電力に変換するインバータ、前記インバータからの三相交流電力で駆動される走行用電動モータを含んでいることを特徴とする車体管理システム。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
【0010】
(第1実施形態)
−車体−
図1は本発明の第1実施形態に係る車体管理システムの管理対象の車体の一例としてダンプトラックを表す図である。同図に示したダンプトラック1は、車体フレーム2と、車体フレーム2に回転可能に設けられた複数の車輪とを備えている。車輪には、左右の前輪3fと左右の後輪3rとが含まれる。前輪3fは車体フレーム2の前部の左右両端に一輪ずつ配置されている。後輪3rは、車体フレーム2の後部の左右両端に二輪ずつ配置されている。前輪3fは、ステアリングハンドル等を介して入力されるステアリング角度に応じて操舵される操舵輪であり、ダンプトラック1が走行する走行路の路面を介して後輪3rに従動する従動輪である。駆動輪である後輪3rの回転軸には、左右の後輪3rを駆動する左右の走行用電動モータ15(
図2)と、左右の後輪3rの回転数を調整する減速機19(
図2)とが連結されている。
【0011】
また、ダンプトラック1には、デッキ4、キャブ5、コントロールキャビネット6、複数のグリッドボックス7が備わっている。デッキ4はオペレータが歩行するフロアであり、前輪3fの上方に配置されている。キャブ5はオペレータが搭乗する運転室であり、デッキ4の上面に設置されている。キャブ5には、オペレータが座る運転席の他、ダンプトラック1の走行速度を指令する操作ペダル(アクセスペダル、ブレーキペダル等)、前述したステアリングハンドルが備わっている。コントロールキャビネット6は各種の電力機器を収納する部屋であり、車体の前部に搭載されている。グリッドボックス7はダンプトラック1のパワートレイン10(
図2)において制動時に発生する回生電力による余剰エネルギーを熱として放散する装置であり、コントロールキャビネット6の後部に配置されている。
【0012】
ダンプトラック1には更に、荷台8、ホイストシリンダ9が備わっている。荷台8は土砂や鉱石等の積荷を積載する台であり、ヒンジピン8pを介して車体フレーム2に連結され、車体フレーム2対して起伏する。ホイストシリンダ9は、ヒンジピン8pよりも前方の位置において車体フレーム2と荷台8とを連結し、伸縮して荷台8を起伏させる。
図1においてダンプトラック1の前輪3fで隠れた部分には、原動機11(
図2)や発電機12(
図2)等が配置されており、これらの各機器の上方には車載コントローラ30(
図3)が搭載されている。
【0013】
なお、ダンプトラック1には、出力端末51(
図3)や遠隔地にあるサーバ40(
図3)等との間でデータを授受するための通信装置C1が備わっている。
【0014】
−パワートレイン−
図2は
図1に示したダンプトラックに備わったパワートレインの模式図である。同図において
図1で説明済みの要素には
図1と同符号を付して説明を省略する。
【0015】
図2に示したパワートレイン10は原動機の動力を駆動輪に伝えるシステムであり、原動機11、発電機12、整流器13、左右のインバータ14、左右の走行用電動モータ15等を含んで構成されている。
【0016】
原動機11はエンジン(内燃機関)であり、噴射された燃料を燃焼し燃料の熱量を機械的なエンジン出力(回転動力)に変換し、発電機12、冷却ファン16、油圧ポンプ(不図示)を駆動する。オペレータによってキャブ5に配置された操作ペダルが操作されると、原動機11においてペダル操作量に応じた燃料噴射量が噴射され、燃料噴射量に応じた回転数で原動機11が回転する。
【0017】
なお、上記冷却ファン16は原動機11等を冷却する冷却風を生起する装置であり、クラッチを介して原動機11に機械的に接続されている。油圧ポンプはホイストシリンダ9等の油圧アクチュエータの油圧源であり、原動機11に機械的に接続されている。
【0018】
発電機12は、機械的に原動機11に接続され、原動機11により駆動されてエンジン出力を三相交流電力に変換する。この発電機12で発生した電力は、主として左右の走行用電動モータ15の動力源となる。
【0019】
整流器13は発電機12が発生させる交流電力を直流電力に変換するAC−DC変換器であり、コンデンサ17、チョッパ18及び左右のインバータ14と共にコントロールキャビネット6に格納されている。整流器13及びコンデンサ17は、ユニット化された水冷構造になっており、発電機12からの三相交流電力を整流及び平滑化して直流電力に変換する。チョッパ18は、コンデンサ17とインバータ14との間に介在し、インバータ14で生じる回生電力を取り出す。
【0020】
左右のインバータ14は半導体素子の一種で絶縁耐圧の高いIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)を用いて構成されており、左右の走行用電動モータ15の動作を制御する。左のインバータ14は左の走行用電動モータ15に接続され、右のインバータ14は右の走行用電動モータ15に接続されている。これらの左右のインバータ14は、アクセルペダルが踏み込まれると整流器13からの直流電力を要求に応じた三相交流電力に変換し、ブレーキペダルが踏み込まれると左右の走行用電動モータ15で発生した電力を整流する。
【0021】
左右の走行用電動モータ15は三相誘導式の電動機で構成され、アクセルペダルが踏み込まれるとインバータ14からの三相交流電力によって駆動され、三相交流電力を機械的なモータ出力(回転動力)に変換する。左右の走行用電動モータ15の回転動力は減速機19を介して後輪3rに伝達され、これにより車体が走行する。ブレーキペダルが踏み込まれると走行用電動モータ15は発電し、走行用電動モータ15で発電された余剰の電力がインバータ14を通じてコンデンサ17に蓄えられたり放散されたりする。
【0022】
なお、ダンプトラック1には、センサS1〜S7(
図3)及び測位装置S8(同)等のセンサ類が備わっている。センサS1〜S7及び測位装置S8の信号は車載コントローラ30(
図3)に出力される。
【0023】
センサS1は、原動機11における燃料噴射量を検出する燃料噴射量センサである。このセンサS1には、燃料噴射量に応じた値として、例えば前述した操作ペダルの操作量を検出するポテンショメータを用いることができる。
【0024】
センサS2は、原動機11の出力を検出する原動機出力センサである。このセンサS2には、原動機出力に応じた値として、例えば原動機11の回転数を検出する回転数センサ、原動機11のトルクを検出するトルクセンサを用いることができる。回転数センサやトルクセンサは原動機11の出力軸に設けることができる。
【0025】
センサS3は発電機12で発電されて整流器13で直流化された直流電力を検出する直流電力センサ、センサS4はインバータ14から出力された交流電力を検出する交流電力センサである。これらセンサには、例えば電力計を用いることができる。
【0026】
センサS5は、走行用電動モータ15の出力を検出するモータ出力センサである。このセンサS5には、モータ出力に応じた値として、例えば走行用電動モータ15の回転数を検出する回転数センサ、走行用電動モータ15のトルクを検出するトルクセンサを用いることができる。回転数センサやトルクセンサは走行用電動モータ15の出力軸に設けることができる。
【0027】
センサS6は基準面(例えば水平面)に対するダンプトラック1の傾斜角を測定する車体傾斜角センサであり、例えば加速度センサ(IMU等)を用いることができる。センサS7は積載量つまり荷台8に積載された積荷の重量を測定する積載量センサであり、例えば歪ゲージを用いることができる。積荷の重量による例えば車体フレーム2の変形量から、或いは前輪3f及び後輪3rの車軸にかかる荷重から、積載量を演算することができる。
【0028】
測位装置S8は例えばGNSSの受信機であり、人工衛星ST(
図3)から受信したアンテナ位置のデータを車載コントローラ30に出力する。車載コントローラ30では、アンテナ位置とダンプトラック1の既知の機体寸法データから、地球座標系(独自に規定した座標系でも良い)におけるダンプトラック1の基準点(例えば車体重心)の位置が算出される。
【0029】
−車体管理システム−
図3は本発明の第1実施形態に係る車体管理システムの模式図である。同図に示した車体管理システムはダンプトラック1a,1b…を管理するシステムであり、処理装置20と、少なくとも1つ(同図では2つ例示)の出力端末51,52とを含んで構成されている。同図では2台のダンプトラック1a,1bを図示しているが、車体管理システムは3台以上のダンプトラックも管理可能である。ダンプトラック1a,1bはそれぞれ
図1及び
図2で説明したダンプトラック1に相当する。処理装置20について以下に説明した後、出力端末51,52については「−出力端末−」の欄で後述する。
【0030】
−処理装置−
処理装置20は少なくとも1つのコンピュータを含んで構成され、ダンプトラック1a,1bのパワートレイン10、パワートレイン10の部品又はサブシステムである監視対象(後述)の効率値を演算する機能を持つ。処理装置20において、効率値は、ダンプトラック1a,1bに設けられたセンサ(例えばセンサS1〜S7)により検出されるダンプトラック1a,1bの情報(データ)に基づいて演算される。本実施形態における処理装置20は、車載コントローラ30とサーバ40とを含んで構成されている。車載コントローラ30とサーバ40については「−車載コントローラ−」「−サーバ−」の欄でそれぞれ後述する。
【0031】
なお、「監視対象」とは、各ダンプトラックのパワートレイン10、パワートレイン10の個々の部品又はサブシステムである。例えば出力端末でいずれかの監視対象を選択することで、選択した監視対象の効率値のデータが処理装置から出力端末にダウンロードされ、出力端末で監視対象の効率値のデータを確認することができる。この場合、パワートレイン10の全体を監視対象として選択することも、1つの部品を監視対象として選択することも、1つのサブシステムを監視対象とすることもできる。また、効率値を確認する監視対象の選択は、逐次変更することができる。複数の監視対象を同時に選択可能な構成とすることもできる。
【0032】
「部品」とは、パワートレインを構成する個々の装置(主にエネルギーを変換する装置)である。
図2で説明した例では、原動機11、発電機12、整流器13、インバータ14、走行用電動モータ15等が部品に該当する。
【0033】
「サブシステム」とは、パワートレインよりも小さな単位のシステムであり、複数の部品を含んでパワートレインの一部を構成する。
図2の例において、原動機11、発電機12、整流器13、インバータ14、走行用電動モータ15を一連の部品とした場合、例えば、「原動機11+発電機12」、「原動機11+発電機+整流器13」がサブシステムの例である。発電機12を含むサブシステムとしては、この他にも「発電機12+整流器13」、「発電機12+整流器13+インバータ14」、「発電機12+整流器13+インバータ14+走行用電動モータ15」が該当する。その他、「整流器13+インバータ14」、「整流器13+インバータ14+走行用電動モータ15」、「インバータ14+走行用電動モータ15」も、それぞれサブシステムに該当する。
【0034】
「効率値」とは、監視対象の入力エネルギーに対する出力エネルギーの比であり、入力エネルギー及び出力エネルギーに基づいて演算される。一例としては、出力エネルギーを入力エネルギーで割ることで(百分率計算でも良い)効率値を演算することができる。監視対象の効率値が高いほど、その監視対象において入力エネルギーが高い割合で出力エネルギーに変換されたことを意味する。監視対象が何らかの異常を来している場合、その効率値は相対的に低下する。
【0035】
−車載コントローラ−
車載コントローラ30は、ダンプトラック1a,1bに搭載されたコンピュータであり、主に自己が搭載されたダンプトラックの監視対象の効率値等のデータを収集する機能を持つ。ここでは、ダンプトラック1aの車載コントローラ30について説明するが、他のダンププトラックの車載コントローラも同様の構成である。
【0036】
車載コントローラ30は、入力インタフェイス31、RTC(リアルタイムクロック)32、メモリ33、CPU34、及び出力インタフェイス35を備えている。
【0037】
入力インタフェイス31には、センサS1〜S7や測位装置S8等、ダンプトラックに搭載されたセンサ類からの信号が入力される。センサ類からの各種信号は、必要に応じてデジタル変換され、CPU34で各種入出力エネルギーとして演算され、必要に応じてメモリ33に記憶される。
【0038】
RTC32は車載コントローラ30の時計である。RTC32は例えば0.1秒単位で時間を刻み、RTC32が刻む時刻が、例えば前述した入出力エネルギー等に時刻データとして付加される。その他、車載コントローラ30において入出力エネルギーを基にCPU34で演算された値(例えば各監視対象の効率値)についても、演算の基礎となった入出力エネルギーの時刻データが引き継がれて付加される。演算した時刻が演算値に付加されるようにしても良い。
【0039】
メモリ33は、CPU34が実行するプログラム、CPU34で演算又は選別された各値、各値の時刻等を記憶する記憶領域を備えた記憶装置である。図示していないが、このメモリ33には、CPU34による演算を実行するためのプログラム及び各種値を格納するROMやHDD、CPU34がプログラムを実行する際の作業領域となるRAM等が含まれる。
【0040】
CPU34は、例えば車載コントローラ30に給電されている間、又はダンプトラックの走行中、メモリ33から読み込んだプログラムに従って各種の処理(監視対象の入出力エネルギーや効率値等の演算、各種判定等)を実行する役割を持つ(
図15及び
図16)。
【0041】
出力インタフェイス35は、上記通信装置C1やキャブ5内のモニタ(不図示)等といった他の車載機器に対してデータを出力する装置である。出力インタフェイス35から通信装置C1に出力されたデータは、通信装置C1、無線通信回線(電波)WL、最寄りの中継器RP及びネットワークNTを介してサーバ40に送信される。中継器RPは、例えば無線LANアクセスポイント、ルータ、基地局等である。ネットワークNTは例えばインターネットである。その他、通信装置C1は、ネットワークNTを介さずに無線媒体BTを介して出力端末51等の他の機器との間でデータを直接授受することもできる。無線媒体BTは例えば赤外線や電波である。
【0042】
−サーバ−
サーバ40は、ダンプトラック1a,1b…について各監視対象の効率値のデータを統計したり各監視対象の異常を判定したりする機能を持つコンピュータである。サーバ40は、例えば管理センタに設置されている。管理センタは、例えばダンプトラック1a等の製造元が運営する施設であるが、ダンプトラック1a,1bの製造元、ユーザ又はディーラから管理業務を受託した業者等が運営する施設であっても良い。サーバ40は、入出力インタフェイス41、メモリ42、及びCPU43等を備えている。
【0043】
入出力インタフェイス41はダンプトラックの通信装置C1に対応する役割を果たす装置であり、有線通信、無線通信又はLANといったネットワークを介して通信装置C2や出力端末52との間でデータを授受する。ネットワークNTを介して通信装置C2で受信したダンプトラック1a,1b…からの効率値のデータが、入出力インタフェイス41を介してサーバ40に入力され、メモリ42に記録される(アップロードされる)。例えば出力端末51からサーバ40にアクセスすることで、入出力インタフェイス41、通信装置C2、ネットワークNT、中継器RP及び無線通信回線WLを介してメモリ42に記録された所定のデータが出力端末51にダウンロードされる。
【0044】
メモリ42は、CPU43が実行するプログラム、サーバ40に入力された各データ、CPU43で演算されたデータ等を格納する記憶領域を備えた記憶装置である。図示していないが、このメモリ42には、CPU43による演算を実行するためのプログラム及び各種値を格納するROMやHDD、CPU43がプログラムを実行する際の作業領域となるRAM等が含まれる。
【0045】
CPU43は、メモリ42に格納された所定のプログラムに従って、車載コントローラ30で収集された効率値のデータを統計し、統計データを基に監視対象が正常であるか異常を来しているかを判定する機能等を果たす(
図17)。
【0046】
−出力端末−
出力端末51,52は、処理装置20で演算された監視対象の効率値や統計データ、判定結果等について表示等の出力をし、例えばダンプトラックの運転者、管理者、サービスマンが確認するための端末である。出力端末51は、ディスプレイを持つ携帯端末の例であり、例えばスマートフォン、タブレット型PC、ノート型PCである。出力端末52は、プリンタやデスクトップPCといった固定端末の例である。図示していないが、ダンプトラックのキャブ5の内部に出力端末を設置し、処理装置20で演算された監視対象の効率値や統計データ、判定結果等をキャブ内で運転者等が確認できるようすることもできる。サーバ40のモニタも出力端末の一種である。
【0047】
出力端末51は、最寄りの中継器RP及びネットワークNTを介してサーバ40にアクセス可能である。出力端末51はモバイル端末であり、最寄りの中継器RPの無線通信回線(電波)WLが受信可能な場所であれば、場所を選ばずサーバ40にアクセス可能である。また、例えばダンプトラック1aのデータを確認する場合、出力端末51とダンプトラック1aの距離が無線媒体BTの届く範囲であれば、ネットワークNTを介さず出力端末51から車載コントローラ30にアクセスすることも可能である。出力端末51によれば、インストールされた所定のアプリケーションにより、サーバ40又は車載コントローラ30からダウンロードしたデータを、そのディスプレイで閲覧することができる。ディスプレイには所定のレポート形式でデータが表示される。この場合、車載コントローラ30及びサーバ40において効率値等についてレポート形式の表示データが作成され、出力端末51でレポートや指定したダンプトラックの所定期間のデータを閲覧する構成とすることができる。また、車載コントローラ30及びサーバ40からダウンロードしたデータを出力端末51でアプリケーションによりレポート形式に変換して表示する構成とすることもできる。
【0048】
出力端末52は、サーバ40が設置された管理センタの内部でLAN等のクローズドネットワークを介してサーバ40にアクセス可能であり、サーバ40からダウンロードしたデータをディスプレイに表示したり印刷したりすることができる。出力端末51の場合と同じく、ディスプレイには所定のレポート形式でデータが表示され、印刷することもできる。サーバ40からダウンロードしたデータを出力端末52でアプリケーションによりレポート形式に変換して表示、印刷する構成としても良い。
【0049】
なお、
図3では管理センタ内に設置された出力端末52からLAN等のクローズドネットワークを介してサーバ40にアクセスする構成を例示したが、ネットワークNTに接続可能な他の固定端末からサーバ40にアクセスできるようにすることも可能である。
【0050】
−効率値の選別方法−
パワートレインの部品に異常が発生すると、部品のエネルギーロスが増加して効率値が低下する。そこで、監視対象の効率値を演算し監視することで、その監視対象の異常を判定することができる。
図2の例では、例えば、原動機11の燃料噴射量、原動機出力、整流器13が出力する直流電力、インバータ出力、モータ出力のうちの任意の2つの値の比を算出することで、それら値を入出力エネルギーとする監視対象の効率値が演算できる。燃料噴射量はセンサS1の信号から、原動機出力はセンサS2の信号から、直流電力はセンサS3の信号から、インバータ出力はセンサS4の信号から、モータ出力はセンサS5の信号から、車載コントローラ30で演算することができる。
【0051】
例えば原動機11の効率値は、センサS2の信号から演算した原動機出力(出力エネルギー)及びセンサS1の信号から演算した燃料噴射量(入力エネルギー)に基づいて演算することができる。原動機出力の効率値の計算結果の一例を
図4に示した。同様に、発電機12(部品)、又は発電機12及び整流器13(サブシステム)の効率値は、センサS2,S3の信号から求めることができる。発電機12及び整流器13からなるサブシステムの効率値の計算結果の一例を
図5に示した。インバータ14の効率値はセンサS3,S4の信号から、走行用電動モータ15の効率値はセンサS4,S5の信号から求められる。インバータ14の効率値の計算結果の一例を
図6に、走行用電動モータ15の効率値の計算結果の一例を
図7に示した。
【0052】
その他、原動機11、発電機12及び整流器13からなるサブシステムの効率値はセンサS1,S3の信号から、更にインバータ14を加えたサブシステムの効率値はセンサS1,S4の信号から求められる。発電機12、整流器13及びインバータ14からなるサブシステムの効率値はセンサS2,S4の信号から、更に走行用電動モータ15を加えたサブシステムの効率値はセンサS2,S5の信号から求められる。インバータ14及び走行用電動モータからなるサブシステムの効率値はセンサS3,S5の信号から求められる。パワートレイン全体の効率値はセンサS1,S5の信号から求められる。
【0053】
図4〜
図7に示した通り正常な監視対象の効率値は、入力エネルギーと出力エネルギーが概ね比例関係になる。しかし、例えば原動機11の場合、原動機11の回転数やブースト圧、排気温度、冷却温度等の影響を受け、効率値の演算結果にばらつきが生じる。また、発電機12と整流器13のサブシステムの場合、ダンプトラックの走行速度、冷却ポンプ、走行モータブロワ、インバータブロワ、発電効率、変換効率等の影響を受ける。インバータ14であれば直流変換(チョッパ)やインバータ温度の影響を受けるし、走行用電動モータ15であれば走行抵抗(路面勾配や加速度)やモータ温度等の影響を受ける。そのため、場面も考慮せずある時刻の入力エネルギーと出力エネルギーから監視対象の瞬間的な効率値を演算しても、演算された効率値が監視対象の調子を評価するための妥当な値であるとは必ずしも言えない。
【0054】
図8はダンプトラックの走行に伴って取得されたデータの一例である。同図では、上段から車速、積載量(荷台に積載された積荷重量)、燃料噴射量、直流電力(整流器の出力)、モータ出力を示している。
図2で説明したパワートレイン10について
図8のデータが得られたとすれば、
図8のデータに基づいて燃料噴射量(入力エネルギー)とモータ出力(出力エネルギー)の比をとればパワートレイン10の全体の効率値が演算できる。例えば、燃料噴射量と直流電力の値を用いて入出力エネルギーの比を取れば、発電機12及び整流器13からなるサブシステム又は部品としての原動機11の効率値が演算できる。直流電力とモータ出力を用いて入出力エネルギーの比を取れば、インバータ14と走行用電動モータ15からなるサブシステムの効率値が演算できる。必要なデータを検出すれば個々の部品(例えば原動機11)の効率値も当然に演算できるが、このように複数の部品を組み合わせたサブシステム単位でも効率値を演算できる。
【0055】
後述するように監視対象が正常であるか異常を来しているかをその監視対象の効率値で判断する場合、判断に用いられる効率値を高負荷条件下の運転時のデータに基づいて演算することが判断結果の精度を上げる上で重要となる。高負荷条件は原動機への入力エネルギーが所定値以上の条件である。原動機11にエンジンを採用した
図2の例では、代表的には燃料噴射量が負荷パラメータとなり、燃料噴射量が所定位置以上であることを1つの高負荷条件とすることができる。燃料噴射量は本実施形態では操作ペダルの操作量(センサS1の信号)から演算でき、自動速度調整装置を搭載する場合には自動速度調整装置によるエンジン制御信号からも演算できる。原動機11に電動モータを採用したダンプトラックの場合、電動モータへの供給電力(トロリー電力等)を負荷パラメータとすることができる。
【0056】
その他、上り勾配の路面を走行する場合に燃料噴射量又は供給電力が増加する傾向がある。この観点で走行路面の勾配も高負荷条件を定義する負荷パラメータの1つと捉えることができ、上り勾配が所定の負荷判定値以上であることを1つの高負荷条件とすることができる。走行路面の勾配はセンサS6の信号から演算できる。加速抵抗も高負荷条件を定義する負荷パラメータとして例示できる。また
図8において積載量に着目すると、積載量が小さい場合に比べて積載量が大きい場合に燃料噴射量が全体的に増加する傾向が見て取れる。この傾向から積載量も高負荷条件を定義する負荷パラメータの1つと捉えることができ、積載量が所定の負荷判定値以上であることも1つの高負荷条件とすることができる。
【0057】
図9は燃料噴射量に対する直流電力の値について
図8のデータから積載量が所定値よりも大きい条件下で得られたデータを抽出した結果である。原動機11、発電機12及び整流器13からなるサブシステム(
図9〜
図12に関する以下の説明において単にサブシステムと記載する)の効率値は直流電力/燃料噴射量で表せるので、
図9の個々のデータについてサブシステムの効率値を演算することができる。しかし、積載量のみのフィルタリングで抽出したデータは
図9のように運転状態等の種々の要因によるばらつきが残り、
図9のデータから演算した効率値によりサブシステムが正常であるか異常を来しているかを判断することは難しい。
【0058】
図10は
図9の個々のデータを付随する位置及び時刻のデータで区分し、燃料噴射量に対する直流電力の値について各区分の平均値を算出して得られた結果である。
図10にプロットされた各点は、時間帯と走行領域が同じデータを基礎として演算された平均燃料噴射量に対する平均直流電力を表している。走行領域は、例えば位置座標系をメッシュ(例えば30m×30m)で分割し、付随する位置データがどのメッシュに属しているかでデータを区分できる。時間帯は、所定時間毎に区切りをつけ、どの時間帯(時間区分)に取得されたかでデータを区分できる。
図9と
図10とを比較すると、
図9に対して
図10では効率値のデータのばらつきは減少したもののサブシステムが正常であるか異常であるかを精度良く判断することは難しい。
【0059】
図11は
図10に示したデータから平均値計算の基礎データ個数が所定値以上のものを抽出した結果である。つまり、所定値未満のデータ個数の平均値を
図10から除いたものが
図11である。
図11ではデータのばらつきが大分抑えられている。このように積載量に関する高負荷条件で大まかに選別したデータを走行領域及び時間帯で区分し、区分毎に平均値を出して基礎データ数が多いものを抽出した例において、走行環境や運転技能等の外乱によるデータのばらつきが抑えられた。
【0060】
図12は
図11を燃料噴射量と効率値(KPI)の関係に変換したデータである。
図12で確認できる通り、演算された効率値のばらつきは燃料噴射量が大きい高負荷領域でより小さくなる。高負荷領域では、エンジン回転数やブースト圧の変動が低負荷領域に対して小さく、また冷却ポンプやモータブロワ等の補機に取られるエネルギーが低負荷領域に対して小さいことが理由として考えられる。
図12において、例えば効率値のばらつきが所定の許容値以下の領域を燃料噴射量がXよりも大きな領域であるとする。この場合、燃料噴射量について予め設定した負荷判定値Xをメモリ33に格納しておき、負荷判定値Xよりも燃料噴射量が大きな高負荷領域のロバストな効率値を評価することで、監視対象が正常であるか異常を来しているかの判断の妥当性が向上する。
【0061】
なお、
図12のデータは予め積載量でフィルタリングされていることから(
図9)、燃料噴射量が負荷判定値X以上の値の抽出は2つ目の高負荷条件に関するフィルタリングになる。しかし、データ数の増加が許容できれば、積載量によるフィルタリング及び燃料噴射量によるフィルタリングのいずれか(例えば前者)を省略し、1つの高負荷条件でデータを抽出しても良い。反対に3つ以上の高負荷条件でデータを更に絞り込むこともできる。
【0062】
−異常の判定方法−
図13はパワートレインが正常であるときの効率値についての箱ひげ図の例、
図14はパワートレインに異常が発生した際の効率値についての箱ひげ図の例である。これらの図において、横軸は日付、縦軸は効率値を表し、1台のダンプトラックの1つの監視対象について日毎の効率値の統計値として四分位範囲及び中央値が演算されている。
図3の車体管理システムで効率値に基づいて監視対象の異常及び正常を判定するための判定値を設定する場合、例えばパワートレイン10の正常時に各監視対象について
図12のデータを所要期間分統計し、それを基に所要期間分の
図13のデータを作成する。そして、各監視対象について、データに基づいて、異常の発生を判定するための異常判定値D1、異常の予兆を判定するための予兆判定値D2を予め設定し、メモリ33,42(
図3)のうち少なくともメモリ42に格納しておく。
【0063】
異常判定値D1としては、
図13に示したように、例えば所定期間の日毎の効率値の四分位範囲の第1四分位点(各boxの下端の値)の最小値に対して所定のマージンだけ小さくとった値を設定することができる。その他、所定期間中の日毎の効率値の中央値(第2四分位点)の最小値に対して所定のマージンだけ小さくとった値を異常判定値D1として設定しても良い。CPU43(又はCPU34)で監視対象の効率値について四分位範囲を演算し、
図14に示したようにある監視対象について効率値の中央値が異常判定値D1を下回った場合、その監視対象に異常が発生したことを判定できる。
【0064】
予兆判定値D2としては、
図13に示したように、所定期間中の日毎の効率値の四分位範囲の最大値と最小値との差分(whiskerの長さ、つまりばらつきの大きさ)に対して所定のマージンだけ大きくとった値を設定できる。例えばCPU43(又はCPU34)で監視対象の効率値について四分位範囲を演算する。そして、
図14のようにある監視対象について四分位範囲の最大値と最小値の差分、つまりデータのばらつきの大きさが予兆判定値D2を超えた場合、その監視対象に異常が発生する予兆があることを判定できる。
【0065】
また、同一のダンプトラックについて異なる時間帯(例えば当日とその前日)の効率値の統計データを比較し、これら統計データが予め設定した判定値D3を超えて変化した場合にパワートレインに異常又はその予兆が生じていると判定することもできる。判定値D3はメモリ33,42(
図3)のうち少なくともメモリ42に格納しておく。判定値D3を用いて監視対象の調子を判定する場合、各監視対象について演算される効率値の統計データをメモリ33,42のうち少なくともメモリ42に蓄積する。例えば、同一のダンプトラックのある監視対象について、新たに演算された所定期間(例えば1日)分の効率値の統計データと、メモリに記憶されている過去の所定期間分(例えば前日分)の効率値の統計データとの差分をCPU43(又はCPU34)で演算する。この差分の大きさがメモリから読み出した判定値D3より大きい場合、その監視対象に異常又は異常の予兆があると判定することができる。比較する統計データとしては中央値を一例に挙げることができるが、四分位範囲の最大値と最小値の差分を比較することも考えられる。異常を判定する場合は判定値D3を大きめに設定し、予兆を判定する場合は判定値D3を小さめに設定することが考えられる。大小2つの判定値D3を設定して異常と予兆を区別することも考えられる。
【0066】
異なる複数のダンプトラックについて同じ時間帯に同じ走行領域を走行して得られた効率値の統計データ同士を比較し、これら統計データの差分が予め設定した判定値D4よりも大きい場合にパワートレインに異常又はその予兆が生じていると判定することもできる。判定値D4はメモリ33,42(
図3)のうち少なくともメモリ42に格納しておく。
図3のダンプトラック1a,1bが同一時間帯に同じサイト内を走行している場面を例として、ダンプトラック1aのパワートレインの異常又はその予兆を判定する場合を説明する。この場合、ダンプトラック1aが走行して得られたある監視対象の所定期間(例えば1日)分の効率値の統計データを、同一時間帯(例えば同日)に同じサイト内をダンプトラック1bが走行して得られたある監視対象の効率値の統計データと比較する。ダンプトラック1a,1bについての効率値の統計値はメモリ42に記憶されたデータで比較できる。ダンプトラック1aについての効率値の統計データZaがダンプトラック1bについての効率値の統計データZbよりも判定値D4を超えて小さい場合(Zb>Za+D4)、ダンプトラック1aの監視対象に異常又は異常の予兆があると判定することができる。比較する統計データとしては中央値を一例に挙げることができるが、四分位範囲の最大値と最小値の差分を比較することも考えられる。判定値D3と同様、異常を判定する場合は判定値D4を大きめに設定し、予兆を判定する場合は判定値D4を小さめに設定することが考えられる。大小2つの判定値D4を設定して異常と予兆を区別することも考えられる。
【0067】
なお、ダンプトラック1aの統計データを同一時間帯に同じ領域を走行する複数の他のダンプトラックの統計データと比較することもできる。この場合、他の複数のダンプトラックの統計データの代表値(例えば平均値、中央値、最大値)を演算し、ダンプトラック1aの統計データと比較することが考えられる。
【0068】
−効率値演算処理−
図15は処理装置による監視対象の効率値の演算手順の一例を表すフローチャートである。車載コントローラ30は、電力が供給されている間、又は自己が搭載されたダンプトラックの走行中、メモリ33に格納されたプログラムを読み込んでCPU34により
図15及び
図16のフローを0.1秒周期で繰り返し実行する。
図15の処理を経て、監視対象毎の高負荷条件下の効率値が演算され、位置コード(後述)と共にメモリ33に記録される。
【0069】
[ステップS11]
図15のフローを開始すると、車載コントローラ30は、ステップS11においてセンサS1〜S7及び測位装置S8の信号を入力し、入力した信号を基にパワートレイン10の少なくとも1種類の現在の負荷パラメータをCPU34でリアルタイムに演算する。「現在の」とは現在の(つまり今回の)処理サイクルの意味である。ここで演算する負荷パラメータは、前述した高負荷条件を判定するための値であり、例えば原動機11の燃料噴射量、積荷の積載量又は路面勾配である。燃料噴射量はセンサS1の信号から、積載量はセンサS7の信号から、路面勾配はセンサS6の信号から、それぞれ演算することができる。
【0070】
[ステップS12]
続くステップS12で、車載コントローラ30は、ステップS11で演算した負荷パラメータが、メモリ33から読み出した規定の負荷判定値Xよりも大きいかをCPU34で判定する。負荷パラメータが負荷判定値Xよりも大きい場合、車載コントローラ30はステップS12からステップS13に手順を移す。負荷パラメータが負荷判定値X以下である場合、車載コントローラ30は
図15のフローの現在の処理サイクルを終了し次回の処理サイクルに手順を移す。
【0071】
なお、ステップS11で負荷パラメータが複数種演算される場合、例えば全ての負荷パラメータがそれぞれの負荷判定値Xより大きい場合にステップS12の判定が満たされるようにプログラムすることができる。いずれかの負荷パラメータがその負荷判定値Xよりも大きい場合にステップS12の判定が満たされるようにしても良い。負荷パラメータが3種以上演算される場合、半数以上又は所定個数の負荷パラメータがそれぞれの負荷判定値Xより大きい場合にステップS12の判定が満たされるようにすることも考えられる。こうした判定条件は処理装置20の演算負荷等を考慮して決めれば良い。
【0072】
[ステップS13]
ステップS13に手順を移すと、車載コントローラ30は、各監視対象について、それぞれ入力エネルギーと出力エネルギーとの比をとって効率値を演算する(例えば出力エネルギーを入力エネルギーで割る)。最小二乗法により予め設定した効率関数(直線や低次曲線等)とマッチングすることにより効率計算を演算しても良い。負荷パラメータが負荷判定値Xより大きいことを条件として監視対象の効率値が演算され、負荷パラメータが負荷判定値X以下である間の効率値の演算は省略される。各入出力エネルギーは、現在の処理サイクルのステップS11でセンサS1〜S7から車載コントローラ30に入力された信号を基に演算され、信号入力の際にRTC32で計測された時刻のデータが付加される。
【0073】
[ステップS14]
続くステップS14において、車載コントローラ30は、ステップS11で入力された測位装置S8の受信データを基にダンプトラック(車載コントローラ30が搭載された自車両)の現在位置をCPU34で演算し、ステップS13で演算した効率値に付加する。本ステップで演算される位置は、一般の地球座標系の値でも良いし、独自に定義したxy座標系の値でも良い。また、測位装置S8の受信データから現在位置を演算する代わりに、例えばダンプトラックの車載カメラの画像を処理し各地点のデータベース(撮影画像データベース等)と照合することにより現在位置を演算することもできる。距離計の計測走行距離や操舵履歴を基に割り出した走行軌跡から現在位置を演算することも考えられる。
【0074】
[ステップS15]
続くステップS15において、車載コントローラ30は、ダンプトラックの現在位置が属するメッシュを割り出し、割り出したメッシュの位置コードを特定する。メッシュの位置コードは、独自に定義したものでも良いし、例えばジオハッシュ(Geohash)のような一般的なものでも良い。メッシュは一定の広さの走行領域を位置座標系上で定義するものであり、例えば現実の地表面上の30m×30mの領域に相当する領域といったものである。位置コードはメッシュ毎に割り当てられたデータであり、位置コードでメッシュつまり走行領域を認識することができる。
【0075】
[ステップS16]
続くステップS16で、車載コントローラ30は、ステップS13で演算された各種効率値とこれに付加された位置コード及び時刻とのデータセットをメモリ33に記録する。ステップS16の手順を終えたら、車載コントローラ30は
図15のフローの現在の処理サイクルを終了し次回の処理サイクルに手順を移す。車載コントローラ30はこのようにして各監視対象の効率値のデータを演算してメモリ33に逐次記録する。
【0076】
−効率値選別処理−
図16は処理装置による監視対象の効率値の選別手順の一例を表すフローチャートである。このフローチャートによる処理は、例えば
図15のステップS16で効率値が新たに記録される度に車載コントローラ30で実行される。
【0077】
[ステップS21]
図16のフローを開始すると、車載コントローラ30は、メモリ33に記録された最新の効率値について付随する位置コードを識別し、識別した位置コードについて初期時刻がメモリ33に登録されているかを判定する。この初期時刻は、各領域(メッシュ)におけるデータ計数について設定された制限時間の起算時刻である。車載コントローラ30は、効率値の位置コードについて初期時刻が登録されていればステップS21からステップS23に、初期時刻が登録されていなければステップS21からステップS22に、手順を移す。
【0078】
[ステップS22]
ステップS22に手順を移すと、車載コントローラ30は、ステップS21で識別した位置コードについて初期時刻をメモリ33に登録し、現在の処理サイクルを終了して次回の処理サイクルに手順を移す。ステップS22で登録する初期時刻には、現在の処理サイクルのステップS21で初期時刻の有無が判定された効率値に付加された時刻を用いることができる。こうして初期時刻が登録されることで、位置コードが共通する効率値が以降も連続する間、次回以降の処理サイクルでステップS21の判定が満たされる。ステップS22を次回実行する機会は、受信される効率値の位置コードが変わり、登録された初期時刻から設定時間T1が経過し、又は現在の位置コードの効率値のデータ数が設定データ数N1に到達した場合に到来する。設定時間T1及び設定データ数N1は予め設定されてメモリ33に記録された値である。
【0079】
[ステップS23]
ステップS23に手順を移すと、車載コントローラ30は、現在の処理サイクルのステップS21で初期時刻の登録が確認された効率値について、メモリ33に現在登録されている初期時刻から起算した経過時間をCPU34により演算する。経過時間は、現在時刻と初期時刻との差分をとって演算できる。ここで言う現在時刻には、例えば現在の処理サイクルのステップS21において現在初期時刻が登録されている位置コードを持つことが確認された効率値に付随する時刻を用いることができる。或いはRTC32がリアルタイムで計測する現在時刻を用いることもできる。
【0080】
[ステップS24]
続くステップS24において、車載コントローラ30はCPU34により、予め設定された設定時間T1をメモリ33から読み出し、ステップS23で演算した経過時間が設定時間T1以下であるかを判定する。判定の結果、車載コントローラ30は、経過時間が設定時間T1を超えていればステップS24からステップS28に手順を移し、経過時間が設定時間T1以下であればステップS24からステップS25に手順を移す。
【0081】
[ステップS25]
ステップS25に手順を移すと、車載コントローラ30は、現在メモリ33に登録されている初期時刻以降に記録された、現在の位置コードについての効率値のデータ数をCPU34により演算する。
【0082】
[ステップS26]
続くステップS26において、車載コントローラ30はCPU34により、予め設定された設定データ数N1をメモリ33から読み出し、ステップS25で演算したデータ数が設定データ数N1以上かを判定する。判定の結果、データ数が設定データ数N1に満たなければ、車載コントローラ30は
図16のフローの現在の処理サイクルを終了して次回の処理サイクルに手順を移す。データ数が設定データ数N1に到達していれば、車載コントローラ30はステップS26からステップS27に手順を移す。
【0083】
[ステップS27]
ステップS27に手順を移すと、車載コントローラ30は、初期時刻から設定時間T1以内に蓄積された同一位置コードのN1個の効率値の平均値をCPU34により演算する。こうしてダンプトラックの位置で効率値を区分し初期時刻からの経過時間を計測することで、ある領域(メッシュ)について設定時間T1以内に収集された設定データ数N1以上の効率値のみが有効データとして抽出され、それらの平均効率値が演算される。演算された平均効率値は、位置コード及び時間帯のデータと共にメモリ33に記録され、これらデータセットは逐次又は一定の時間間隔でサーバ40に送信される。また、メモリ33に記録されたデータセットは、
図3で説明した通り無線媒体BTを介して出力端末51にダウンロードして閲覧することもできる。
【0084】
サーバ40で管理するダンプトラックが複数台存在する場合、各ダンプトラックの車載コントローラ30から、平均効率値、位置コード及び時間帯に車体IDを加えたデータセットが送信されるようにする。
【0085】
なお、設定時間T1及び設定データ数N1は、例えばメッシュの大きさ(正方形の1辺の長さ)とサンプリング周期の他、走行路面の勾配及びその勾配を走行する際の走行速度について標準値を想定することで設定できる。例えば、サンプリング周期を0.1秒、メッシュの大きさを30m、標準の上り勾配を5m/sで走行する場面を想定した場合、30mの走行時間から設定時間T1を6秒、その間のサンプリング数から設定データ数N1を60とすることができる。このように設定時間T1と設定データ数N1を決めることで、ダンプトラックがメッシュを僅かに横切った際に演算された効率値のデータが除外されデータのばらつきが抑えられる。
【0086】
[ステップS28]
ステップS27で平均効率値を演算等したら、車載コントローラ30はステップS28に手順を移し、CPU34により初期化のために現在の位置コードについてメモリ33に登録されている初期時刻を消去する。初期時刻の登録を抹消したら、車載コントローラ30は
図16のフローの現在の処理サイクルを終了して次回の処理サイクルに手順を移し、次の時間帯又は次の位置コードの効率値のデータ統計に移行する。
【0087】
ステップS28の手順は、同一位置コードの効率値が設定データ数N1だけ集まる前に初期時刻から設定時間T1が経過した場合にもCPU34によって実行され、現在の位置コードについて登録されている初期時刻が消去される(ステップS24→S28)。同一の位置コードについて同一時間帯(初期時刻から設定時間T1以内)に設定データ数N1以上の効率値が集まらない場合、その時間帯の効率値は有効データとして扱われない。この間の無効データはメモリ33に蓄積されるようにしても良いが、必要以上のメモリ容量の使用を避けるべき場合は無効データをメモリ33に蓄積しない構成、又は一時的に記憶しても適宜上書きされる構成とすることができる。従って、本実施形態で有効データとしてメモリ33に記録されサーバ40に送信されるのは、負荷パラメータが負荷判定値Xを超えた同一位置コードの効率値について連続する設定時間T1以内に設定データ数N1のデータが収集された場合のみである。
【0088】
−異常判定処理−
図17は処理装置による監視対象の異常又はその予兆の判定手順の一例を表すフローチャートである。このフローチャートによる処理は、各監視対象についてそれぞれ所定期間毎(例えば日毎)にサーバ40により実行される。管理するダンプトラックが複数ある場合、各ダンプトラックについて監視対象毎に実行される。
【0089】
[ステップS31]
図17の処理を開始すると、サーバ40は、ステップS31で車載コントローラ30からアップロードされた所定期間分(例えば1日分)のデータをCPU43により統計する。本例では、異常や予兆の有無を判定する監視対象について上記平均効率値の所定期間毎(例えば日毎)のデータの中央値と四分位範囲(IQR)が統計データとして演算される。
【0090】
[ステップS32]
続くステップS32において、サーバ40はCPU43により、ステップS31で演算した統計データとメモリ42から読み出した対応する異常判定値D1とを比較し、監視対象の異常の有無を判定する。本例ではステップS31で演算した中央値が対応する異常判定値D1以上かがCPU43で判定され、中央値が異常判定値D1未満で監視対象の異常が推定される場合、サーバ40はステップS32からステップS38に手順を移す。中央値が異常判定値D1以上であれば、サーバ40はステップS32からステップS33に手順を移す。
【0091】
[ステップS33]
ステップS33に手順を移したら、サーバ40はCPU43により、ステップS31で演算した統計データとメモリ42から読み出した対応する予兆判定値D2とを比較し、監視対象の異常の予兆の有無を判定する。本例ではステップS31で演算した四分位範囲(四分位範囲の最大値と最小値との差分)が対応する予兆判定値D2以下かがCPU43で判定される。四分位範囲が予兆判定値D2より大きく監視対象が異常を来す予兆がある場合、サーバ40はステップS33からステップS37に手順を移す。四分位範囲が予兆判定値D2以下であれば、サーバ40はステップS33からステップS34に手順を移す。
【0092】
[ステップS34]
ステップS34に手順を移したら、サーバ40はCPU43により、ステップS31で演算した統計データと、同じダンプトラック(自車)についてメモリ42に記録されている過去の所定期間分(例えば前日分)の統計データとの差分を演算する。サーバ40は更に、演算した差分が判定値D3以下かをCPU43によって判定する。本例では最新の一日分の効率値を統計した中央値が前日分の効率値を統計した中央値に対して判定値D3を超えて低下していて監視対象に異常の予兆があると判定される場合、サーバ40はステップS34からステップS37に手順を移す。最新の中央値と前日の中央値の差分が判定値D3以下である場合、サーバ40はステップS34からステップS35に手順を移す。
【0093】
[ステップS35]
ステップS35に手順を移したら、サーバ40はCPU43により、ステップS31で演算した統計データと、他のダンプトラックについて演算した統計データとの差分を演算し、演算した差分の大きさが判定値D4以下かを判定する。本例では同一サイトを走行した別のダンプトラックの対応する監視対象について演算された同日の中央値よりもステップS31で演算した中央値が判定値D4を超えて低く、監視対象に異常の予兆があると判定される場合、サーバ40はステップS37に手順を移す。両ダンプトラックの同一サイトにおける同一時間帯の効率値の中央値の差分が判定値D4以下である場合、サーバ40はステップS35からステップS36に手順を移す。
【0094】
[ステップS36]
ステップS32〜S35の全ての判定で監視対象に異常もその予兆も推定されずにステップS36に手順を移したら、サーバ40は、CPU43により監視対象に異常がない旨の判定結果(正常判定)をメモリ42に記録する。この判定結果は、メモリ42に記録されると同時にCPU43によりレポート形式のデータに変換され、出力端末51又は出力端末52に通知されるようにしても良い。ステップS36の手順を終了したら、サーバ40は
図17の現在のフローを終了して次回(例えば翌日)のフローの開始時刻まで待機する(又は他のダンプトラック又は監視対象についての
図17のフローに手順を移す)。
【0095】
[ステップS37]
ステップS33〜S35のいずれかの判定で監視対象に異常の予兆が見られてステップS37に手順を移したら、サーバ40は、CPU43によって監視対象に異常が発生する予兆がある旨の判定結果(予兆判定)をメモリ42に記録する。この判定結果は、メモリ42に記録されると同時にCPU43によりレポート形式のデータに変換され、出力端末51又は出力端末52に通知されるようにしても良い。ステップS37の手順を終了したら、サーバ40は
図17の現在のフローを終了して次回(例えば翌日)のフローの開始時刻まで待機する(又は他のダンプトラック又は監視対象についての
図17のフローに手順を移す)。
【0096】
[ステップS38]
ステップS32の判定で監視対象における異常の発生が推定されてステップS38に手順を移したら、サーバ40は、CPU43によって監視対象に異常が発生した旨の判定結果(異常判定)をメモリ42に記録する。この判定結果は、メモリ42に記録されると同時にCPU43によりレポート形式のデータに変換され、出力端末51又は出力端末52に通知されるようにしても良い。ステップS38の手順を終了したら、サーバ40は
図17の現在のフローを終了して次回(例えば翌日)のフローの開始時刻まで待機する(又は他のダンプトラック又は監視対象についての
図17のフローに手順を移す)。
【0097】
−レポート表示−
図18及び
図19は出力端末におけるレポートの表示画面の一例を表した図である。
図17のステップS36〜S38の判定結果の出力端末51又は出力端末52への通知について先に触れた。
図18にはその際に出力端末に表示されるレポート画面60の一例を表している。例えば各ダンプトラックについて登録された出力端末に対して
図17の予兆判定や故障判定に伴って通知がされ、出力端末において通知に係るアプリケーションを起動させることによりその出力端末のディスプレイにレポート画面60が表示される。必要であれば正常判定がされた場合にもその旨が出力端末に通知される構成とすることができる。
【0098】
なお、
図18の画面は、サーバ40から通知があった場合に出力端末51等で表示される場合の他、出力端末51等からサーバ40にアクセスし、レポートをダウンロードして表示させることもできることは言うまでもない。この場合、出力端末51等でダンプトラックや監視対象を指定して、状態を知りたい任意の監視対象についてレポートを閲覧することができる。
【0099】
図18に例示したレポート画面60には、メッセージ欄61、選択ボタン62〜64が表示されている。メッセージ欄61には、監視対象が故障している旨や故障する予兆がある旨、或いは正常である旨のメッセージが表示される。
図18では故障する予兆がある旨を知らせるメッセージが例示してある。この例では「ダンプ(ID:XXX)のXXXに故障の予兆が見られます。」というようにどのダンプトラックのどの監視対象が故障しそうなのかを知らせている。
【0100】
選択ボタン62,63は、現状に対して推奨される対処法を知らせる
図19の画面70を表示させるボタンであると同時に、感覚的又は数値的に故障確率を表示する役割を果たす。選択ボタン62は状況に応じて表示色が変わり、表示色により閲覧者に状況を直感させる。いつ故障が発生してもおかしくない(例えば1週間以内に故障しそうな)状況では、選択ボタン62は例えば赤又は赤系統(警告色)で表示される。近々故障が発生そうな(例えば1月以内に故障しそうな)状況では、選択ボタン62は例えば黄又は黄系統(注意色)で表示される。猶予はあるが遠くないうちに故障が発生そうな(例えば1月以上先に故障しそうな)状況では、選択ボタン62は例えば青、緑又はその系統(通知色)で表示される。選択ボタン62を操作すると
図19に示した画面70が表示される。
【0101】
なお、故障確率の判定について
図17のフローでは説明していないが、例えばステップS33の四分位範囲と判定値D2を比較する際、四分位範囲と判定値D2との差分に対して2つの閾値α1,α2(α1<α2)を設定しておく。四分位範囲と判定値D2との差分がα2以上であれば警告色、α1以上α2未満であれば注意色、α1未満であれば通知色といったように予兆の程度を区分することができる。ステップS34,S35の判定においても、判定値との差分の程度で予兆の程度を区分することができる。
【0102】
選択ボタン63には部品別の負荷が表示される。例えば選択ボタン63を操作すると部品又は部位毎の負荷状態を表示する画面(不図示)に遷移し、それぞれの負荷状態を負荷の大きさレベルに応じて0から5のランクで表示する。これにより、部品又は部位毎の負荷状態を確認することができる。
【0103】
選択ボタン64を操作すると、監視対象について直近の所定期間の効率値のデータをまとめたグラフが表示される。表示されるグラフは異常や予兆等の監視対象の調子の程度が確認できるものであれば形態は限定されない。一例としては、例えば
図13や
図14に示したような、監視対象について予め設定された異常判定値や予兆判定値を統計データ(日毎の効率値の箱ひげ図)と共に表示したグラフを挙げることができる。異常判定値や予兆判定値までは表示されず、単に効率値(例えば所定期間毎(日毎等)の効率値)を表しただけのグラフが表示されるようにしても良い。出力端末51又は出力端末52にこうしたグラフを表示出力することで、処理装置20の判定結果とは別に管理者等が監視対象の調子を判断することができる。
【0104】
選択ボタン62を操作して表示される画面70(
図19)には、メッセージ欄71、連絡先欄72が表示されている。メッセージ欄71には、状況の詳細を説明するメッセージが表示されている。
図19の例では、1週間以内に故障が生じ得る旨と保守点検の勧告が記載されている。連絡先欄72には、監視対象の保守点検に関する業者や担当のサービスマン等の連絡先(例えば電話番号、URL、メールアドレス等)が表示されている。電話番号を表示した場合には、出力端末51がスマートフォンであれば連絡先を操作(タップ)するとその連絡先に電話が掛かるようにすることができる。URLを表示した場合には、連絡先を操作(タップ、クリック等)するとその連絡先のWEBページが表示されるようにすることができる。メールアドレスを表示した場合には、連絡先を操作(タップ、クリック等)するとその連絡先へのメール作成画面が表示されるようにすることができる。
【0105】
−効果−
(1)本実施形態によれば、監視対象の効率値を演算し、監視対象について効率値のデータを収集して記録し、又は出力端末51等に出力する。効率値は、運転者の運転技能や走行路面の状態、勾配等に受ける影響が燃費に比べて小さく、監視対象の調子(正常であるか異常であるか、異常の予兆があるか等)を判断するのに高いロバスト性が期待できる。しかし、パワートレインの負荷が低い状態では、前述した通り補機にとられるエネルギーの割合が高い等の理由で、同じような運転技能や路面状態でも効率値の演算結果のばらつきが増加し得る。この観点に基づき、本実施形態ではパワートレイン10の負荷状態に応じて変化する負荷パラメータ(代表的には燃料噴射量)を逐次演算し、負荷パラメータが負荷判定値Xよりも大きい条件下で監視対象の入出力エネルギーからその効率値を演算することとした。
【0106】
これにより効率値の演算結果のロバスト性が向上し、この効率値の演算結果を参照することで、パワートレイン10の異常を合理的に判断することができる。例えばあるサブシステム又はパワートレインに異常が見つかった場合、その構成部品のそれぞれの効率値のレポートを確認すれば、具体的に異常が発生している部品を特定できる。パワートレイン10の異常又はその予兆、またパワートレイン10のどの部品又はサブシステムに異常が生じているかが的確に判断できるため、故障又はその予兆に対して適切に対処することができる。パワートレイン10の故障に迅速に又は未然に対処できるので、二酸化炭素排出量や燃料消費量の抑制にも貢献できる。また効率値のデータから故障の予兆がある場合、交換部品の事前準備により故障発生時のダウンタイムが短縮できる。異常の判断のみならず、監視対象の効率値は監視対象の性能評価にも役立ち、性能面で改善の余地がある監視対象についてチューニングを施すことができるメリットもある。
【0107】
(2)
図10及び
図11で説明した通り、効率値のデータを走行領域で区分したり区分したデータをデータ数で選別したりした上で統計することで、効率値のロバスト性を更に高めることができる。特に本実施形態のように車載コントローラ30で効率値のデータを統計し、サーバ40で異常判定等を実行する場合、車載コントローラ30からサーバ40に送信されるデータ容量が絞られるため、通信コストやサーバ40の演算負荷を抑えることができる。
【0108】
(3)
図13や
図14に例示したような効率値の統計データ(例えば箱ひげ図)を異常判定値や予兆判定値をと共に出力端末51等に出力することで、効率値を判定値と比較することにより管理者等が視覚的に監視対象の調子を判断することができる。
【0109】
(4)処理装置20で異常判定値や予兆判定値と効率値とを比較し、監視対象の異常や予兆についての判定結果を記録又は出力端末に出力することで、管理者等にリアルタイムに監視対象の調子を知らせることができる。
【0110】
(5)効率値を統計して中央値を演算し、中央値が異常判定値を下回った場合に監視対象に異常が発生していると判定することで、ある時点の入出力エネルギーから演算した瞬間的な効率値で異常を判定するよりも精度良く異常判定をすることができる。
【0111】
(6)効率値を統計して四分位範囲を演算することで、四分位範囲の最大値と最小値との差分(つまりデータのばらつきの大きさ)により、監視対象が故障こそしていないものの故障しそうな状態(予兆)を検知することができる。
【0112】
(7)同一のダンプトラックについて過去のデータに比べて効率値がどの程度低下したかを判定することによっても、監視対象に異常又はその予兆があるかを判定することができる。
【0113】
(8)他のダンプトラックに比べて効率値がどの程度低いかを判定することによっても、監視対象に異常又はその予兆があるかを判定することができる。
【0114】
(9)ディスプレイを持つ携帯端末である出力端末51を用いることで、ダンプトラックの効率値や異常等の判定結果を場所によらず確認でき、監視対象の故障等について迅速かつ柔軟に対応することができる。
【0115】
(第2実施形態)
図20〜
図23を用いて本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、勾配を負荷パラメータとし、一定以上(=負荷判定値X以上)の勾配領域を走行している場合に効率を演算する例である。勾配はセンサS6の信号から求めることができるし、地形データが利用できればダンプトラックの位置と地形データから求めることもできる。また、地形データもセンサS6も用いない場合、走行した路面の勾配(上り勾配)が一定以上であるかを例えば燃料噴射量から推定することもできる。以下に走行した路面の勾配が一定以上であるかを推定する方法を説明する。
【0116】
図20〜
図22はメッシュ毎の燃料噴射量の平均値を位置座標系にプロットした例である。1点のプロットが1つのメッシュに相当する。いずれの図も同一のダンプトラック(1台)の1日分の走行データを元に作成してある。各図の横軸は緯度、縦軸は経度、プロットが連なって描かされた走行軌跡の濃度は燃料噴射量の大きさを示している。
【0117】
図20は積荷の運搬中であること(積載量が所定値より大きいこと)を条件として燃料噴射量のデータをフィルタリングした例である。同図によりダンプトラックがサイト内で様々な場所を往来していることが窺い知れる。
【0118】
図21は
図20のデータからメッシュ当たりのサンプリングデータ数が所定値よりも大きいデータを抽出した例である。この図で抽出された走行軌跡は、この日何度もダンプトラックが低速走行した場所であると推定される。
【0119】
図22は
図21のデータから燃料噴射量が所定値よりも大きいデータを抽出した例である。この図で抽出された走行軌跡は、加速抵抗又は勾配抵抗が大きな場所であると推定される。このとき、加速抵抗が増す走行加速中はパワートレインが過渡状態にあって効率値がばらつき易いため、勾配地でなくとも燃料噴射量が増加する場合がある。そこで、第1実施形態と同じ要領で、メッシュ内における所定時間内のデータサンプリング数でフィルタリングすれば、高速運転後の減速走行から再加速する場合のように効率が大きくばらつく条件を排除し、勾配地の走行データを抽出することができる。また
図22のデータを複数のダンプトラックについて演算し、平均効率のデータ数が所定値よりも多い場所を勾配地と推定することもできる。
【0120】
図23は処理装置による監視対象の効率値の演算手順の一例を表すフローチャートである。同図のフローチャートは第1実施形態の
図15のフローチャートに対応している。車載コントローラ30は、電力が供給されている間、又は自己が搭載されたダンプトラックの走行中、メモリ33に格納されたプログラムを読み込んでCPU34により
図23のフローを0.1秒周期で繰り返し実行する。本実施形態では、
図23の処理を経て、監視対象毎の高負荷条件下の効率値が演算され、位置コード(後述)と共にメモリ33に記録される。その後は第1実施形態と同様に
図16及び
図17の処理が実行される。
【0121】
[ステップS41]
図23のフローを開始すると、車載コントローラ30は、ステップS41においてセンサS1〜S7及び測位装置S8の信号を入力し、測位装置S8の受信データを基にダンプトラックの現在位置をCPU34で演算する。本ステップにおける位置の演算方法は、
図15のステップS14と同様である。
【0122】
[ステップS42]
続くステップS42において、車載コントローラ30は、ダンプトラックの現在位置が属するメッシュを割り出し、割り出したメッシュの位置コードを特定する。本ステップにおける位置コードの演算方法は、
図15のステップS15と同様である。
【0123】
[ステップS43]
続くステップS43において、車載コントローラ30は、ダンプトラックの現在位置する位置コードのメッシュの上り勾配(負荷パラメータ)が所定値(勾配についての負荷判定値X)より大きいかをCPU34で判定する。本ステップは、
図15のステップS12に対応する手順である。メッシュの勾配に関するデータは、地形データ(事前に測量等で得たデータ)又はセンサS6の信号から演算しても良いし、地形データやセンサS6を用いない場合は
図20〜
図22で説明した方法で演算しても良い。負荷パラメータが負荷判定値Xよりも大きい場合、車載コントローラ30はステップS43からステップS44に手順を移す。負荷パラメータが負荷判定値X以下である場合、車載コントローラ30は
図23のフローの現在の処理サイクルを終了し次回の処理サイクルに手順を移す。
【0124】
[ステップS44]
ステップS44に手順を移すと、車載コントローラ30は、各監視対象について、それぞれ入力エネルギーと出力エネルギーとの比をとって効率値を演算する。本ステップで実行される処理は、
図15のステップS13と同様である。
【0125】
[ステップS45]
続くステップS45で、車載コントローラ30は、ステップS44で演算された各種効率値とこれに付加された位置コード及び時刻とのデータセットをメモリ33に記録する。ステップS45の手順を終えたら、車載コントローラ30は
図15のフローの現在の処理サイクルを終了し次回の処理サイクルに手順を移す。本ステップで実行される処理は、
図15のステップS16と同様である。
【0126】
本実施形態のように効率値を演算しても第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、同じ場所を走行した結果を比較することにより、過去のデータとの比較(ステップS34)又は他車体のデータとの比較(ステップS35)において判定精度の向上が期待できる。
【0127】
(変形例)
以上においては、車載コントローラ30とサーバ40で処理装置20の機能を分担する構成を例に挙げて説明したが、例えば1台のみのダンプトラックについて監視対象の効率値を評価する場合、処理装置の全機能を車載コントローラ30で実行する構成にもできる。この場合、第1及び第2実施形態では日毎にバッチ処理されていた
図17の判定処理がリアルタイムに実行できるメリットがある。複数のダンプトラックを集中管理する場合であっても、例えばダンプトラック同士で通信可能な構成であれば、特定のダンプトラックの車載コントローラ30にサーバ40の機能を持たせ、特定のダンプトラックで各ダンプトラックの効率値を評価することもできる。
【0128】
反対に、第1及び第2実施形態では、
図16の処理を車載コントローラ30で実行する構成を例に挙げて説明したが、
図15及び
図23で演算された効率値のデータに車体IDを付加してサーバ40に送信し、
図16の処理をサーバ40で実行する構成としても良い。この場合、車載コントローラ30の演算負荷を軽減することができる。また、各ダンプトラックから集まる豊富な効率データを管理センタ等で分析し、サーバ40において設定時間T1や設定データ数N1等の判定値を調整し適正化することもできる。
【0129】
第1及び第2実施形態では監視対象の異常及びその予兆の双方を判定する場合を例に挙げて説明したが、監視対象の異常及びその予兆のいずれか一方のみを判定する構成としても良い。また、異常の予兆について
図17では3通りの判定手順(ステップS33,S34,S35)を実行する例を説明したが、このうちの1つ又は2つのみの判定を実行する構成としても良いし、更なる判定を加えて実行する構成としても良い。異常判定についても中央値の比較に限らず、効率値に応じた他の値(効率値そのものを含む)で異常を評価する構成としても良い。
図17で説明した処理は、あくまで効率値を用いた異常又はその予兆の判定の一例である。
【0130】
その他、第1及び第2実施形態では車体管理システムが管理する車体としてダンプトラックを例に挙げて説明したが、ホイールショベルやホイールローダ等の他の建設機械を車体管理システムで管理することもできる。基本的には相応の距離を移動するホイール式の車体が管理対象として想定されるが、必要であればクローラ式の車体であっても車体管理システムで管理できる。
【解決手段】原動機を含む複数の部品からなるパワートレインを有する車体を管理する車体管理システムであって、前記車体に設けられるセンサにより検出される前記車体の情報に基づき、前記パワートレイン、前記パワートレインの部品又はサブシステムである監視対象の効率値を演算する処理装置と、前記処理装置で演算された前記監視対象の効率値を出力する出力端末とを備え、前記処理装置が、前記パワートレインの負荷パラメータを演算し、前記負荷パラメータが予め設定された負荷判定値より大きいかを判定し、前記負荷パラメータが前記負荷判定値より大きいことを条件として、前記監視対象の入力エネルギー及び出力エネルギーに基づいて前記監視対象の効率値を演算し、演算した監視対象の効率値を記録する車体管理システムを提供する。