(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の軌条車両の異常検出装置について図面を参照して説明する。軌条車両は、敷設される軌道に沿って運行される車両であり、鉄道車両、モノレール車両、路面電車、新交通車両等を含む。軌条車両の代表例として、鉄道車両を取り上げて本発明の実施の形態を説明する。
【0012】
[実施形態1]
はじめに、鉄道車両の異常検出装置の構成について
図1を参照して説明する。
図1は、鉄道車両の異常検出装置のシステム構成を示す機能ブロック図である。
【0013】
軌道20上を走行する鉄道車両A,B(以下、車両A,Bという)は、それぞれ車体1と台車16とを備える。車体1は、空気ばね8を介して台車16に搭載されている。台車16は、台車枠11、空気ばね8、ヨーダンパ4、軸箱体12、輪軸13、軸ばね装置14、輪軸13の軸受けハウジングとなる軸箱の軸箱支持ゴム15、などで構成されている。
【0014】
輪軸13は、軸箱体12に対して回転可能に保持され、軸箱体12と台車枠11の間は、軸ばね装置14で鉛直方向に弾性支持されており、また軸箱支持ゴム15で水平方向に弾性支持されている。車体1と台車枠11との間には、空気ばね8が配置されており、この空気ばね8により、車体1が台車枠11に弾性支持されている。
【0015】
車体1の床面上には、例えば、車体1の振動に関するデータを取得するための振動データ検出部(振動データ取得部)60が設置されている。
なお、振動に関するデータを取得するために振動データ検出部60が検出する物理量としては、加速度に限るものではなく、速度、変位、ひずみ、音などでも良い。ただし、本実施形態では振動データ検出部60が加速度を検出するものとして説明する。
【0016】
また、振動データ検出部60は、設置スペースに比較的余裕がある車体1に設置されているが、車体1のみでなく、台車枠11や軸箱体12などへ設置されることにより、これらの振動を検出することも可能である。本実施形態では、振動データ検出部60を車体1に設置したものとして説明する。
【0017】
また、振動データ検出部60は、1つの車両に対して複数台設置しても良いが、本実施形態では単一の振動データ検出部60を設置したものとして説明する。また、振動データ検出部60の設置位置は、車体1の中央位置でも良いし、台車16の直上位置や、車両機器室位置などの車体1の端部でも良い。
【0018】
振動データ検出部60の振動取得方向は、鉄道車両の進行方向に対する前後、左右、および鉛直方向に対して、並進(前後並進・左右並進・上下並進)方向および回転(ロール・ピッチ・ヨー)方向のいずれにおいても適用可能である。本実施形態では、振動データ検出部60が左右並進方向の振動を検出するものとして説明する。
【0019】
車体1は、例えば、運行データを管理する運行管理システムから、走行速度、走行位置や乗車率などの運行データを取得する機能を有する運行データ検出部(運行データ取得部)50を備えている。
【0020】
なお、
図1では、2つの軌条車両(以下、単に車両という)のみに振動データ検出部60と運行データ検出部50を備えた例を示しているが、3つ以上の複数車両にそれらを備えても良い。
また、振動データ検出部60と運行データ検出部50は、1列車編成中の複数の車両に備えても良いし、同じ軌道上を走行する異なる列車編成それぞれの車両に備えることもできる。
【0021】
異常要因検出装置30は、データ分析部100、比較処理部200、パラメータ推定部300、異常要因判定部400、および判定結果出力部500を有し、鉄道車両の異常振動の要因を検出する異常検出装置を構成する。なお、パラメータ推定部300と異常要因判定部400が、診断部を構成する。
【0022】
なお、異常要因検出装置30は、車両の点検や整備を行う車両基地などの地上側に設置することがのぞましいが、車上側に設置しても良い。
【0023】
データ分析部100、比較処理部200、パラメータ推定部300、異常要因判定部400、および判定結果出力部500は、例えば、異常要因検出装置30の内部に格納されたプログラムに従って後述する各処理を実行する演算装置から構成される。
【0024】
データ分析部100は、複数の車両から振動データ検出部60で検出した振動データおよび運行データ検出部50で検出した運行データを取得し、取得したデータを分析して、その車両が正常状態か異常状態かを識別し、それらの車両の振動データおよび運行データを出力する機能を有する。データ分析部100が実行する具体的な処理フローについては後述する。
【0025】
比較処理部200は、データ分析部100で出力された異常状態および正常状態の車両の振動データおよび運行データを取得し、取得したデータに基づいて、異常状態の車両と正常状態の車両との比較結果を出力する機能を有する。比較処理部200が実行する具体的な処理フローについては後述する。
【0026】
パラメータ推定部300は、比較処理部200で出力した異常状態の車両と正常状態の車両との比較結果から、車両の内部状態に関するパラメータを推定する機能を有する。
【0027】
なお、この車両の内部状態に関するパラメータとは、鉄道車両の振動の異常要因となりうるパラメータのことであり、例えば、鉄道車両に設置された軸箱支持装置の軸箱支持ゴム15の剛性、ヨーダンパ4の減衰係数、および輪軸13の車輪踏面勾配などを指す。パラメータ推定部300が実行する具体的な処理フローについては後述する。
【0028】
異常要因判定部400は、パラメータ推定部300で出力したパラメータの推定値から、異常要因を判定する機能を有する。異常要因判定部400が実行する具体的な処理フローについては後述する。
【0029】
判定結果出力部500は、異常要因判定部400で出力した異常要因を、モニタやスピーカ等を介して、車体1の運転者および地上の運行管理者やメンテナンス員などに通知する機能を有する。
【0030】
次に、
図2〜
図10を用いて、本実施形態の鉄道車両の異常検出装置が異常要因を判定する具体的な処理フローについて説明する。
【0031】
ここでは、車両Bにおいて、ヨーダンパ4の油漏れによる減衰係数の低下を要因として、異常な振動が発生した場合(
図2の振動波形b参照)を例にとり、異常検出の処理フローを説明する。
なお、本実施形態では振動データ検出部60に、台車位置の直上に設置した左右並進方向の加速度センサ(以下、左右加速度センサ)を用いた場合で説明する。
【0032】
図2の振動波形aは、軌道の位置に対応して、車両Aに設置した左右加速度センサで測定した車体左右加速度621を示すチャートであり、
図2の振動波形bは、軌道の位置に対応して、車両Bに設置した左右加速度センサで測定した車体左右加速度622を示すチャートである。振動波形a,bにおいて、測定した加速度が高いほど波形の振幅が大きくなることを示している。
【0033】
車両Aのヨーダンパ4が正常であることを前提に、車両Bのヨーダンパ4に油漏れが生じた場合、その減衰係数の低下を要因として、車両Bは車両Aに比べて車体左右加速度の振幅が大きくなり、車両Bで異常振動が発生する。かかる状態は、
図2に示すように、振動波形aの振幅(たとえば平均値)よりも振動波形bの振幅が顕著に高くなることで判明する。
【0034】
図3は、
図1の鉄道車両の異常検出装置におけるデータ分析部100の処理手順を説明するフローチャートである。
図3のフローチャートに基づく動作は、以下のとおりである。
【0035】
まず、ステップS111において、データ分析部100は、複数の車両の左右加速度センサから、車体左右加速度を取得し、同時に、運行データ検出部50から走行位置、走行速度や乗車率などの運行データを取得する。
【0036】
次に、ステップS112では、データ分析部100は、ステップS111で取得した車体左右加速度に対して周知のフィルタリング技術を用いて、フィルタリングを行う。
【0037】
フィルタリングとしては、車体左右加速度から、人間が感じ取りやすい周波数帯のみを抽出する処理や、加速度のRMS(Root Mean Square)値や最大値を算出する処理など、ステップS113で行う分析処理のための前処理などが行われる。
【0038】
さらに、ステップS113では、データ分析部100は、フィルタリングした加速度から、特に振動が大きい走行区間などを代表区間に設定して、この代表区間において車両Aや車両Bなどの各車両の車体左右加速度データや、走行速度や乗車率などの運行データを抽出する処理を行う。
【0039】
ステップS113での処理により、車両Aと車両Bについて、同一区間での振動データを抽出することができる。
【0040】
なお、代表区間については、振動が大きい走行区間に限るものではなく、任意に定めることができる。また、代表区間は1つでもよいし、2つ以上の複数区間でもよい。
【0041】
また、代表区間については、車両Aや車両Bなどの各車両の走行速度が同じもしくは近いこと、乗車率が近いこと、および測定日時が近いことなどの測定条件が比較的近いデータがある区間を設定すればよい。
【0042】
ステップS114では、データ分析部100は、代表区間において各車両の車体左右加速度データの比較を行い、各車両が正常状態にあるか異常状態にあるかを識別する処理を行う。正常状態および異常状態にあるかの識別については、あらかじめ車体加速度に閾値を設けておいて、閾値を超過するか否かで判断する閾値処理でもよいし、マハラノビス・タグチ法(Mahalanobis−Taguchi System)などを用いて識別する周知の方法などを用いてもよい。
【0043】
本実施形態の場合は、閾値処理などにより、
図2に示す閾値922を超過した大きな振動が発生している車両Bは「異常状態」と判定され、閾値922を超過していない車両Aは「正常状態」と判定されることとする。
【0044】
ステップS115では、データ分析部100は、各車両について「異常状態」または「正常状態」であるという識別情報に加えて、ステップS113で抽出した代表区間における車体左右加速度や運行データを、比較処理部200へ出力する。
【0045】
図4は、
図1の鉄道車両の異常検出装置における比較処理部200の処理手順を説明するフローチャートである。
図4のフローチャートに基づく動作は、以下のとおりである。
【0046】
まず、ステップS211において、比較処理部200は、データ分析部100から出力された、車両Aが正常状態で、車両Bが異常状態であるなどの識別情報や、代表区間における車体左右加速度および運行データを取得する。
【0047】
次に、ステップS212では、比較処理部200は、取得した車体左右加速度から、各車両の車体左右加速度に対して、車体左右加速度PSD(Power Spectrum Density)を算出する。PSDとは、単位周波数幅(1Hz幅)当たりのパワー値として表現するスペクトル関数である。
【0048】
本実施形態の場合は、車両Aについて
図5Aのように正常状態の車両の車体左右加速度PSD721として算出され、車両Bについて
図5Bのように異常状態の車両の車体左右加速度PSD722として算出される。
【0049】
図5A,5Bに示すように、所定の周波数帯900において、車両Bの車体左右加速度PSD722は、車両Aの車体左右加速度PSD721よりも大きくなっている。
【0050】
ステップS213では、
図6のように、比較処理部200は、正常状態の車両Aの車体左右加速度PSD721と、異常状態の車両Bの車体左右加速度PSD722との比であるPSD比率821を算出する。
【0051】
このPSD比率821は、正常状態に対して異常状態においてPSDが異なる周波数帯域やその度合いを表すものである。ここでは、
図6から明らかなように、PSD比率821は、周波数帯900で顕著に増加している。
【0052】
なお、データ分析部100であらかじめ同一区間の振動データを抽出しているため、軌道の区間差などによる応答の差の影響を小さくした上で、車両の正常状態および異常状態での伝達特性の変化による応答の変化を、PSD比率821として抽出できる。
【0053】
なお、ステップS212からステップS213では、PSD比率821を用いた例について説明した。しかし、異常状態と正常状態との変化に関する特徴量を表す値であればPSD比率の代わりに使用することができ、一例としては、異常状態と正常状態との車体左右加速度のRMS値の比率などを用いることもできる。
【0054】
ステップS214では、比較処理部200は、このPSD比率821をパラメータ推定部300へ出力する。
【0055】
次に、パラメータ推定部300の処理フローについて、
図7を用いて説明する。
図7のフローチャートに基づく動作は、以下のとおりである。
【0056】
なお、本実施形態では、異常要因として推定するパラメータを、軸箱支持ゴム15のばね定数、ヨーダンパ4の減衰係数および輪軸13の車輪踏面勾配とした場合について説明する。
【0057】
まず、ステップS311において、パラメータ推定部300は、比較処理部200で出力したPSD比率821を取得する。これを実測PSD比率821という。
【0058】
次にステップS312では、パラメータ推定部300は、力学モデルを用いて車両の内部状態に関するパラメータが正常状態である場合の車体左右加速度PSDの解析値を算出する。
【0059】
この力学モデルは、鉄道車両の振動特性を予測するためのモデルである。例えば、軌道20の通り狂い(レール側面の長さ方向における凹凸の度合い)や軌間狂い(左右レール間隔の基本寸法に対する誤差)といった軌道不整を模擬した仮想軌道上を、車体1、台車16や輪軸13を剛体で、軸箱支持ゴム15やヨーダンパ4などをばねやダンパで模して、各剛体をばねやダンパで接続した仮想車両が走行した場合の、車体左右振動を予測する車両左右系力学モデルや、車体上下振動を予測する車両上下系力学モデルなど、予測したい振動の種類などに応じて多様な力学モデルを用いることができる。
【0060】
なお、軌道不整を模擬する仮想軌道を規定するには、実際に測定した軌道不整データがある場合はその軌道不整データを用いてもよい。しかし、軌道不整の実測データがない場合は、あらかじめ軌道の状態(軌道状態:「良い」、「普通」、「悪い」など)に応じた代表的な軌道不整データを用意し、営業車両の走行路線などに応じて選択して用いて仮想軌道を規定する手法などを採用してもよい。
【0061】
また、運行データ検出部50で検出した走行速度や乗車率などの条件を力学モデルの解析条件として用いることで、実走行条件を反映した高精度な推定ができる。
【0062】
本実施形態では、軸箱支持ゴム15のばね定数や、ヨーダンパ4の減衰係数、輪軸13の車輪踏面勾配などのパラメータを正常値に設定して、力学モデルを用いて車体左右加速度PSDの解析値が算出される。
【0063】
なお、正常値については、軸箱支持ゴム15のばね定数や、ヨーダンパ4の減衰係数については設計値や要素試験値、輪軸13の車輪踏面勾配については新製状態での値や保守時の管理値などが用いられる。
【0064】
ステップS313以降では、パラメータ推定部300は、異常状態の車両について、パラメータの推定を行う。
【0065】
まず、ステップS313では、パラメータ推定部300は、パラメータの初期推定値を設定する。パラメータの初期推定値は、パラメータの正常値でも良いし、ランダムに生成した値でも良い。
【0066】
本実施形態では、パラメータ推定部300は、軸箱支持ゴム15のばね定数や、ヨーダンパ4の減衰係数、輪軸13の車輪踏面勾配などの初期推定値を設定する。
【0067】
ステップS314では、パラメータ推定部300は、比較処理部200で処理した実測PSD比率821を用いて、異常状態でのパラメータを推定する。
【0068】
まず、ステップS313で設定したパラメータの初期推定値を用いて、パラメータ推定部300は、力学モデルによりパラメータの初期推定値における車体左右加速度PSDの解析値を算出する。
【0069】
次に、ステップS314で、パラメータ推定部300は、このパラメータの初期推定値における車体左右加速度PSDの解析値と、ステップS312で算出した正常状態でのパラメータにおける車体左右加速度PSDの解析値との比である解析PSD比率822を算出する。
【0070】
そして、パラメータ推定部300は、
図8A,8Bに示すように、この解析PSD比率822が、実測PSD比率821と一致するように、つまり、誤差が最小となるようにパラメータの推定値を決定する。
【0071】
誤差の評価指標としては、誤差を評価できるものであれば制約なく利用できるが、本実施形態では、
図8A,8Bに示すようにPSD比率の周波数ごとの実測PSD比率821と、解析PSD比率822の差分を積算した値(以下、積算差分値)とする。
【0072】
本実施形態では、軸箱支持ゴム15のばね定数や、ヨーダンパ4の減衰係数、輪軸13の車輪踏面勾配などに対して、
図8Bに示すように、算出したPSD比率の実測PSD比率821と解析PSD比率822が一致するようなパラメータの推定値を得る。
【0073】
図8Aは、横軸に周波数、縦軸にPSD比率を示し、パラメータ推定前における実線で示す実測PSD比率821と、点線で示す解析PSD比率822を示す特性図、
図8Bは、横軸に周波数、縦軸にPSD比率を示し、パラメータ推定後における実測PSD比率821と、点線で示す解析PSD比率822を示す特性図である。
【0074】
図8Aのパラメータ推定前では、異常振動が発生した一部の周波数帯において、実測値と解析値に大きな差が見られるが、
図8Bのパラメータ推定後では、実測値と解析値との差がほぼ一致している。
【0075】
推定が終了した後、ステップS315において、パラメータ推定部300は、このパラメータの推定値を異常要因判定部400へ出力する。
【0076】
なお、本実施形態では、左右加速度センサを車体1に1台設置したものとして説明した。これに対し、車体1、台車16および軸箱体12などに左右加速度センサがそれぞれ設置された場合は、それらから検出される複数の左右加速度の実測値と、解析値が一致するように、パラメータを更新することで、パラメータの推定を高精度化することができる。
【0077】
次に、異常要因判定部400の処理フローについて、
図9を用いて説明する。
図9のフローチャートに基づく動作は、以下のとおりである。
【0078】
まず、ステップS411において、異常要因判定部400は、パラメータ推定部300で出力したパラメータの推定値を取得する。
本実施形態では、異常要因判定部400は、軸箱支持ゴム15のばね定数や、ヨーダンパ4の減衰係数、輪軸13の車輪踏面勾配の推定値を取得する。
【0079】
次に、ステップS412において、異常要因判定部400は、各パラメータの推定値と正常値の比率を算出する。
【0080】
そして、ステップS413において、異常要因判定部400は、各パラメータについて、この比率と予め設定した閾値を比較し、正常状態と異常状態とを判別する。
【0081】
具体的には、異常要因判定部400は、この比率が閾値以下のパラメータであれば、正常状態に近いといえるため正常状態と判定する(ステップS414)。一方、該比率が閾値を超過したパラメータであれば、異常要因判定部400は、異常状態と判定する(ステップS415)。
【0082】
そして、異常状態と判定されたパラメータを異常要因として、異常要因判定部400は、ステップS416で判定結果出力部500に出力する。
【0083】
図10は、ステップS413におけるパラメータの正常および異常の判定例を模式的に示すものであり、軸箱支持ゴム15のばね剛性、ヨーダンパ4の減衰係数、車輪踏面勾配などの異常要因要素に対し、パラメータの推定値と正常値の比率、および閾値との関係を示した模式図である。
【0084】
図10の例では、パラメータの推定値と正常値の比率が閾値91を超過しているヨーダンパ4の減衰係数が異常状態と判定される。そして、ヨーダンパ4の減衰係数の低下が異常要因であるという判定結果が、異常要因判定部400から判定結果出力部500に出力される。
【0085】
なお、パラメータの推定値と正常値の比率が大きいほど、そのパラメータが正常値から大きく変化していることになるため、この比率の大きさにより、そのパラメータの異常の度合いを評価することができる。
【0086】
判定結果出力部500は、この異常要因の推定結果を、車上の運転者および地上の運行管理者やメンテナンス員などに周知の通信技術を用いて通知する。
【0087】
以上のように、本実施形態の鉄道車両の異常検出装置では、ヨーダンパ4の減衰係数の低下のような異常要因を推定することができる。
【0088】
[実施形態2]
本実施形態に係る車両の異常検出装置は、前記実施形態1と同様の構成を有するが、そのパラメータ推定部300は、
図11のフローチャートを用いて次に説明するような処理を実行する。なお、実施例1と異なる点のみを主として、以下に説明する。
【0089】
本実施形態は、実施形態1にて説明したパラメータ推定部300において、力学モデルによる解析で用いる軌道不整データについて、実測データなどあらかじめ用意した軌道不整データを用いない場合の処理として、ステップS312aを追加したものである。
【0090】
なお、実施形態1で説明した処理と同様の処理には、同一の符号を付し、その詳細な説明については省略する。
【0091】
まず、実施形態1と同様に、ステップS311において、パラメータ推定部300は比較処理部200で処理した実測PSD比率821を取得する。
【0092】
次に、ステップS312aにて、パラメータ推定部300は正常状態の車両の車体左右加速度PSDの実測値に基づいて軌道不整を同定する処理を行う。
【0093】
ここでは、パラメータ推定部300は、力学モデルを用いて算出した車両の車体左右加速度PSDの解析値と、車両の車体左右加速度PSDの実測値が一致するように軌道不整データを同定する処理を行う。
【0094】
本実施形態の場合は、正常状態である車両Aの車体左右加速度PSDから、力学モデルを用いて軌道不整データを同定することになる。
【0095】
パラメータ推定部300は、ステップS313〜S315までの処理では、ステップS312aで同定した軌道不整データを用いて、実施形態1と同様の処理を行う。
【0096】
なお、本実施形態では車体左右加速度PSDを用いた例を説明したが、軌道不整データを同定できれば、車体左右加速度PSDに限るものではない。
【0097】
以上のように、本実施形態の鉄道車両の異常検出装置では、あらかじめ軌道不整データを用意しておかなくても、車両の異常要因を判定できる。
【0098】
[実施形態3]
本実施形態に係る車両の異常検出装置は、前記実施形態1と同様の構成を有するが、そのパラメータ推定部300は
図12のフローチャートを用いて次に説明するような処理を実行する。なお、前記実施例と異なる点のみを主として、以下に説明する。
【0099】
本実施形態の異常検出装置は、前記実施形態の異常検出装置に対して、パラメータ推定部300において、パラメータの推定精度が低い場合の処理として、ステップS314aおよびステップS315aを追加したものである。
【0100】
実施形態1で説明したように、ステップS314では、パラメータ推定部300は、PSD比率の実測PSD比率821と解析PSD比率822の積算差分値が最小となるようにパラメータの推定を行う。ここで、積算差分値が推定精度を示す指標となる。
【0101】
ステップS314aで、パラメータ推定部300は、この積算差分値があらかじめ設定した閾値以下となる場合は、推定精度が基準レベル以上であると判断して、実施形態1と同様にステップS315にて、パラメータの推定値を異常要因判定部400へ出力する。
【0102】
しかし、積算差分値があらかじめ設定した閾値以下とならない場合は、パラメータ推定部300は、推定精度が基準レベルより低いと判断して、ステップS315aにて車両が異常であることに関する情報のみを出力し、パラメータの推定値(異常要因と推定されるパラメータ)を出力しない。
【0103】
以上のように、本実施形態の鉄道車両の異常検出装置では、パラメータの推定精度が十分でない場合においても、異常検出を中断することなく、少なくとも車両に異常があることを出力できる。