(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、様々なウイルス性感染症が人の接触や往来によって、これまでにない世界的規模で感染が拡大して、健康被害にだけでなく、経済的な影響が世界全体で問題となっている。特に、不特定多数の人が利用する公共施設や商業施設での公共交通での感染を抑制することが急務である。
感染症の病原菌の消毒や感染予防に、従来からアルコールや次亜塩素酸水によって人が接触する物品などのふき取り消毒除菌が広く行われてきた。これらの消毒除菌剤は即効性が高く、消毒除菌効果も大きいが、消毒除菌された清浄な状態を維持するためには、汚染のたびに消毒除菌作業を繰り返す必要がある。
【0003】
不特定多数が頻繁に利用する施設において、除菌された清浄な状態を維持するには、例えば、劇場などでは、毎回の公演終了時の観客の入れ替えの時に、または、飲食施設では、利用客の入れ替え毎に、客席や人の手の触れる箇所の消毒除菌の作業が必要となる。
このような毎回の消毒除菌作業は人的労力を要し、消毒除菌に用いられるアルコールや次亜塩素酸水などの消毒除菌剤の資源の消費も、社会全体では無視できない量となり、また、これらの排出に伴う環境負荷や生態系への影響も問題となる。
そのため、除菌された清浄な状態を持続できる抗菌・坑ウイルス剤や繰り返し使える抗菌・坑ウイルス剤の開発が検討されている。
以下、本明細書で用いる「抗菌」は特に明示しない限り「抗ウイルス」も含む広義の「抗菌」を示すものとする。
【0004】
引用文献1には、抗菌剤が徐々に溶出して表面を除菌する抗菌樹脂の技術が記載されている。このような抗菌樹脂は、例えば、公共施設のエスカレーターの手すりなどに設置され、不特定多数の人が触れる箇所の抗菌効果が期待される。しかし、様々な感染症の病原菌に有効で、人にアレルギーを起こさない無害な抗菌成分の開発は困難であり、樹脂への加工技術も個々の抗菌成分対して開発しなければならない。さらに、抗菌対象物毎に樹脂成形物を設計製造しなければならず、抗菌樹脂の利用は限定的である。
そこで、種々の物品表面に後から抗菌処理をすることができれば、その応用は広範囲なものとなり、このような汎用的な抗菌効果の付与技術が検討されている。
【0005】
後処理で抗菌効果の付与ができて、繰り返して使える抗菌剤として、光触媒を用いた抗菌が注目されている。
引用文献2には、建物の外装に用いた酸化チタンを含む白色塗料が外装に付着した廃棄ガスなどの汚染物を、太陽光の紫外光によって発生する活性酸素で酸化して水に可溶化する光触媒効果により、清浄表面を維持する技術を室内の汚染ガスの除去に用いる技術が記載されている。
しかしながら、感染症菌に対する充分な坑ウイルス性などが確認され、様々な基材の物品の抗ウイルス処理が可能な室内用抗ウイルス性光触媒塗料は開発されていないのが現状である。
この光触媒を公共施設や公共交通機関の室内での抗ウイルスに用いるためには、室内の微弱光や暗所での抗菌効果の発現に加えて、人が触れる様々な基材からなる物品の表面、例えば、ドアノブの金属やタッチパネルのガラスなどに塗布することができ、特に、人が操作する抗ウイルス対象物、例えば、操作タッチパネルの視認性を損なわない塗布膜でなければならない。
また、その抗ウイルス効果もさまざまな感染症の病原菌に広範囲に有効でなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、公共施設や公共交通機関の乗車券の発券機、金融機関の現金自動預け払い機、商業施設の支払い端末などキーボードやタッチパネルなどの様々な素材の坑ウイルス対象物にコーティングするだけで、白色蛍光灯や白色LEDの室内光による光触媒効果によって持続的な抗ウイルス効果が得られる室内で用いる抗ウイルスコーティング用組成物、抗ウイルスコーティング方法及び抗ウイルス物を提供することを目的とする。
室内光で抗ウイルス活性値(JIS R1756:2020準拠)が2.0を超え、暗所でも抗ウイルス効果を有し、抗ウイルス効果が塗布直後から長期に渡って発現でき、コーティングによって坑ウイルス対象物の視認性を損なわないような透明な抗ウイルスコーティング膜を与える抗ウイルスコーティング用組成物、抗ウイルスコーティング方法及び抗ウイルス物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、室内に用いる抗ウイルスコーティング用組成物であって、
水を主成分とする分散剤に分散され、抗ウイルスコーティング用組成物の水分散液の質量100に対し、質量%でチタン:0.3〜0.6%、白金:1×10
−5〜1×10
−4%、及び銀:3×10
−4〜6×10
−4%を含むことを特徴とする抗ウイルスコーティング用組成物である。
本発明の抗ウイルスコーティング用組成物のチタンはアナターゼ型酸化チタンとバインダーとしてペルオキソチタン酸からなり、白金は、超音波を照射した白金担持酸化チタンの水分散液からなり、体積基準の平均粒径が10〜100nmである。分散剤は、水に加え、エタノール、イソプロパノール、ひまし油からなる群から1以上選ばれることことができる。
さらに、香料及び界面活性剤を含む添加剤を含むことができる。
【0009】
本発明の室内に用いる抗ウイルスコーティング用組成物の抗ウイルスコーティング方法は、抗ウイルスコーティング用組成物を準備して攪拌する攪拌処理段階と、攪拌処理段階の後の処理物を抗ウイルス対象物に塗布する段階と、からなることを特徴とする抗ウイルスコーティング方法である。
【0010】
さらに、本発明の抗ウイルスコーティング方法は、抗ウイルスコーティング用組成物を準備して攪拌する攪拌処理段階と、坑ウイルス対象物にアンダーコーティング膜を形成する段階と、攪拌処理段階の後の処理物をアンダーコーティング膜上に塗布する段階と、からなる抗ウイルスコーティング方法であってもよい。
抗ウイルスコーティングに用いられるアンダーコーティング膜はシリカ系組成物からなり、シリカ系組成物は体積基準の平均半径100nm以下のシリカ粒子を含むことができる。
【0011】
また、攪拌処理段階の後の処理物を塗布する段階は、スプレーコーティング、ロールコーティング及び刷毛塗布法を含み、坑ウイルス対象物に2回以下コーティングすることを特徴とする抗ウイルスコーティング方法である。
本発明のコーティングは、白色蛍光灯500lx2時間の照射下での抗ウイルス活性値は2を超え、光触媒効果は0.6以上であり、水接触角の範囲が7°〜22°であり、波長300nmでの吸光度で除して規格化した波長400、450、500nmにおける規格化された吸光度は、それぞれ0.3以下、0.15以下及び0.1以下であり、ヘーズ値が6%以下であるようにコーティングする抗ウイルスコーティング方法である。
【0012】
本発明の抗ウイルス物は、基材と抗ウイルスコーティング膜からなり、抗ウイルスコーティング膜の質量100に対し、質量%でチタン:50.0〜65.0%、白金:0.005〜0.015%、及び銀:0.05〜0.08%を含む抗ウイルスコーティング膜を基材上に有する。
抗ウイルス物は、白色蛍光灯500lx2時間の照射下での抗ウイルス活性値は2.0を超え、光触媒効果は0.6以上であり、水接触角の範囲が7°〜22°であり、波長300nmでの吸光度で除して規格化した波長400、450、500nmにおける規格化された吸光度は、それぞれ0.3以下、0.15以下及び0.1以下であり、ヘーズ値が6%以下である抗ウイルスコーティング膜を基材上に有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、坑ウイルス対象物の基材上に形成された抗ウイルスコーティング膜は380nm以下の波長をカットした白色蛍光灯500lx2時間の照射下での抗ウイルス活性値は2.0を超え、光触媒効果0.6以上である高い抗ウイルス性を有する坑ウイルス物が得られる、室内で用いる抗ウイルスコーティング用組成物及び抗ウイルスコーティング方法が提供される。
また、本発明によって提供される抗ウイルス物の基材上の抗ウイルスコーティング膜は、波長300nmでの吸光度で除して規格化した波長400、450、500nmにおける規格化された吸光度は、それぞれ0.3以下、0.15以下及び0.1以下であり、可視領域での着色が抑制され、ヘーズ値が6%以下である曇り度の小さく透明性に優れる。そのため、さまざまな坑ウイルス対象物の基材の視認性を損なうことなしに塗布して、抗ウイルス性を付与することができるという効果を有している。
この抗ウイルス性は室内の白色蛍光灯などの照射下での光触媒効果によって発現される。そのため、持続的に抗ウイルス状態が保たれ、従来必要だった、アルコールや次亜塩素酸水でのふき取り作業を軽減でき、このことによって、人的労力の軽減や、アルコールや次亜塩素酸水などの消毒除菌剤の削減に貢献でき、また、環境負荷の軽減にも貢献することができる。
さらに、本発明により、抗ウイルス処理が必要な物品等の表面をコーティングするだけで、抗ウイルス活性値が2.0を超える抗ウイルス処理が行われた、抗ウイルス物を得ることができ、しかも、坑ウイルス成分の溶出による皮膚障害等が起きず、抗ウイルスコーティング膜形成直後から長期間、例えば、1年間にわたり抗ウイルス効果を発現させることができる。これらのことより、本発明の抗ウイルスコーティング用組成物の坑ウイルスコーティング方法は、公共施設や公共交通機関の室内の坑ウイルス対象物の抗ウイルス性付与に最適である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態及び実施態様に限定されず、適宜変更を加えて実施することができる。
【0015】
[抗ウイルスコーティング用組成物]
本発明の抗ウイルスコーティング用組成物は、金属酸化物などの半導体化合物で光触媒活性を示す化合物と金属成分からなる可視光応答形光触媒が水を主成分とする分散剤に分散され、この分散剤は水に加えて、エタノール、イソプロパノール、ひまし油、からなる群のいずれか1つ以上を含み、香料、界面活性剤などを含む添加剤を含むことができる。
【0016】
[可視光応答形光触媒]
本発明の可視光応答形光触媒は、白色蛍光灯や白色LEDなどの室内光の光を吸収して光触媒作用を示す物質である。室内光の吸収により光触媒に生じた励起された電子と正孔により発生した活性酸素によって表面に吸着した細菌やウイルスが分解される。
【0017】
[光触媒]
光触媒は、金属酸化物などの半導体化合物で光触媒活性を示す化合物、例えば、酸化チタン、過酸化チタン、酸化バナジウム、酸化鉄、酸化銅、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化ニオブ、酸化錫、酸化ガリウム、チタン酸アルカリ(土類)金属塩等からなる群より選ばれる1種以上があげられるが特に限定されない。金属酸化物は、一般には紫外光照射によって触媒効果が得られるが、室内で光触媒効果を得るためには、白色光に応答するために金属酸化物に不純物や色素を添加したり、微粒子にしたり、白色光に感度を有する金属酸化物の利用などの様々な可視光応答形光触媒についての公知の技術がある。
可視光応答形光触媒で、波長400nmから780nmの可視領域の吸収が大きくない光学特性、例えば、波長300nmでの吸光度で除して規格化した波長400、450、500nmにおける規格化された吸光度は、それぞれ0.3以下、0.15以下及び0.1以下であれば、各種元素でドーピングしたものでも良い。本発明では好ましくは、アナターゼ型酸化チタンを用いる。
【0018】
[金属成分]
金属成分は、細菌と接触することで抗菌作用を有するもので、金属単体、金属イオン、金属塩、金属酸化物、金属コロイドなどからなる群より選ばれるの1種以上があげられるが特に限定されない。好ましくは、金属単体又は金属イオンである。
金属成分の金属は、貴金属又は遷移金属であり、例えば、白金、金、銀、銅、あるいは亜鉛、鉄、ニッケル、クロム、コバルト、マンガン、ロジウム、パラジウム、ルテニウム及びイリジウム等からなる群より選ばれる1種以上があげられるが特に限定されない。
好ましくは、白金、金、銀、銅、からなる群より選ばれる1種以上が用いられる。特に好ましくは、白金、及び銀より選ばれる1種以上が用いられる。
【0019】
金属成分は抗菌効果に加えて、酸化チタンの光触媒効果を可視領域に増感する効果を有する。本発明では白金担持酸化チタンを用いることによって室内光で光触媒効果を発現させている。
また、本発明ではさらに銀イオンを用いることにより、銀イオンによって微弱光や暗所での抗菌・坑ウイルス効果も発現することができる。
金属成分や金属イオンは、二酸化チタンの光触媒効果によって還元されて金属微粒子となることが知られている。例えば、銀イオンが還元された銀粒子の場合には、銀粒子のプラズモンによる酸化チタンの可視光増感を行う効果がある。
また、白金微粒子などでは、光励起によってできた電子−正孔が解離して、再結合を抑制して、光触媒効果の増強も知られている。
【0020】
[分散剤]
可視光応答形光触媒を分散させる分散剤としては、水を主成分とする分散剤を用いるが、光触媒効果を損なわない範囲において、特に限定されず、塗布法に適するように水、有機溶剤、二酸化炭素などからなる群より選ばれる1種以上を用いることができる。
有機溶剤として、特に限定されないが、一般的なアルコール系溶剤、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノールなどや、ケトン系溶剤、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどや、エステル系溶剤、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、γ−ブチロラクトンなどや、エーテル系溶剤、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテルなどや、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素系溶剤や、芳香族炭化水素系溶剤、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどや、アミド系溶剤、例えば、メチルピロリドン、ジメチルアセトアミドなどや、ミネラルスピリット等の脂肪族炭化水素系溶剤からなる群より選ばれる1種以上を用いることができる。
【0021】
[バインダー]
本発明では、バインダー及び分散媒体としてペルオキソチタン酸を用いているが、光触媒効果を損なわない範囲で、一般的に用いられるバインダー(結合剤)などを加えても良い。さらに、吸着剤を加えても良い。
[添加剤]
添加剤としては、光触媒効果を損なわない範囲で、酸化チタンや金属微粒子の分散の目的で、一般的に用いられる界面活性剤や分散剤などの添加物を加えても良い。
また、要求される目的等に応じて、抗ウイルスコーティング膜を形成するために一般的に用いられている各種成分を添加して用いてもよい。例えば、香料、着色剤、充填剤、粘度調整剤、殺菌剤、防腐剤、表面調整剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、消泡剤などがあげられるが特に限定されない。各成分の含有量は、光触媒効果を損なわない範囲で、添加目的等に応じて、任意に調整することができる。
本発明では、酸化チタン微粒子の分散を安定化させる、公知の分散剤、高分子分散剤を光触媒効果を損なわない範囲で用いることができる。
【0022】
[抗ウイルスコーティング方法]
抗ウイルスコーティング膜を坑ウイルス物の基材等の上に形成する抗ウイルスコーティング方法として、一般的な塗布法を用いることができる。
塗布法として、例えば、エアスプレー、エアレススプレー、ハンドガン、静電、回転霧化、浸漬、ロールコーター、カーテンフローコーター、ローラーカーテンコーター、ダイコーター、インクジェットなどからなる群より選ばれる1種以上があげられる。
好ましくは、スプレーコーティング、ロールコーティング及び刷毛塗布法が含まれる。
抗ウイルスコーティング膜形成に際しては、1回のコーティングで形成してもよく、2回以上のコーティングで形成してもよい。2回以上のコーティングを行う場合には、途中で乾燥工程を設けてもよく、また、途中で乾燥工程を設けることなくウエットオンウエット(Wet on Wet)で行ってもよく、これらを組み合わせてもよい。また、適切な布を用いて塗広げても良い。
本発明の抗ウイルスコーティング用組成物の抗ウイルスコーティング方法の一形態として、スプレーコーティング、ロールコーティング及び刷毛塗布法のいずれか1方法によるコーティングを2回以下行うことによって、ヘーズ値が小さく透明な抗ウイルスコーティング膜を形成できる。
【0023】
[超音波処理]
散乱の少ない透明な抗ウイルスコーティング膜を形成するために、水に分散された分散液の抗ウイルスコーティング用組成物の分散状態は重要である。
本発明において、抗ウイルスコーティング用組成物の成分の中で、白金成分である白金担持酸化チタンの水分散液の分散状態は、特に重要である。
白金担持酸化チタンの水分散液は、超音波を照射する超音波処理を予め行った後に、酸化チタンや銀イオンなどの他の成分を含む分散液に混合して、抗ウイルスコーティング用組成物を製造する。
白金担持酸化チタンの水分散液の超音波処理の周波数、出力、照射時間は、特に限定されないが、20kHz540Wで超音波照射を1リットルあたり300秒、コンディション50%(1秒程度の照射を1秒ごとに繰り返し)とすることができる。この超音波処理により、白金担持酸化チタンの水分散液を混合した坑ウイルスコーティング用組成物である分散液は白濁が消え、淡黄色に着色透明な分散液となる。
【0024】
[アンダーコーティング]
抗ウイルスコーティング用組成物を坑ウイルス対象物の基材にコーティングする際、基材と抗ウイルスコーティング膜との間の付着性、基材の耐食性を改善するために、粗面化処理、プラズマ処理、プライマー処理などの公知の表面処理や一般的なアンダーコーティング材の塗布を抗ウイルスコーティング膜の機能を損ない範囲で行ってもよい。
本発明の一形態として、抗ウイルスコーティングに用いられるアンダーコーティング膜はシリカ系組成物からなり、シリカ系組成物は体積基準の平均半径100nm以下のシリカ粒子を含むことができる。
【0025】
[抗ウイルス対象物]
本発明の抗ウイルス対象物は、坑ウイルス性を付与するために抗ウイルスコーティング用組成物をコーティングできるものであれば、どのような物でも良い。
抗ウイルス対象物としては、特に限定されないが、不特定多数が利用するような施設、例えば、公共施設、金融機関、商業施設、教育施設、医療施設、介護施設、飲食施設、工場、公共交通機関などに設置されている設備や使用される各種機器など、例えば、公共交通機関での乗車券の発券機、金融機関の現金自動預け払い機、商業施設の支払い端末などがある。また、人が直接触れる物品としては、例えば、ドア、ドアノブ、手すり、ハンドル、壁、ガラス、建材、テーブル、いす、家電製品、筆記具、文房具、事務用品、医療機器、押しボタン、パソコン、キーボード、マウス、タッチパネル、携帯通信機器、電子カルテ、表示装置、机、引き出し、ファイル、名札・表示板、操作ボタン、スイッチ、等があげられる。
特に、坑ウイルス対象物として、不特定多数が触れ、視認性が要求される、現金自動預け払い機の操作用タッチパネル、ボタン、支払い端末の操作用タッチパネル、ボタン、乗車券の発券機操作用タッチパネル、ボタンなどが好適である。
【0026】
[抗ウイルス物]
本発明の抗ウイルス物は、坑ウイルス性を付与するために抗ウイルスコーティング用組成物をコーティングした抗ウイルス対象物であり、基材と基材上に形成された抗ウイルスコーティング膜からなる。
【0027】
[基材]
抗ウイルス物の基材としては、抗菌性能を付与するものであって、抗ウイルスコーティングできるものであればどのようなものでもよい。
基材としては、特に限定されないが、例えば、鉄、アルミニウム等の金属、ガラスプラスチックなどがあげられ、これらの複合材でもよい。
特に、坑ウイルス物として、不特定多数が触れ、視認性が要求される、操作用タッチパネルなどが好適である。
[抗ウイルスコーティング膜]
抗ウイルスコーティング膜は、抗ウイルス物の基材上に、抗ウイルスコーティング用組成物を抗ウイルスコーティング方法で形成したコーティング膜である。
本発明の抗ウイルスコーティング膜は、波長380nm以下の波長をカットした白色蛍光灯500lx2時間の照射下での抗ウイルス活性値が2.0を超え、さらに、光触媒効果が0.6以上の要件を満たす抗ウイルス性を有する。
【0028】
本発明の課題を解決するのに重要な要件で、抗ウイルス物の基材上に形成された抗ウイルスコーティング膜が備えるべき特性について述べる。
[抗ウイルス膜の吸光度]
光触媒性能に影響する要因の一つとして、光触媒の光吸収の度合い(吸光度)がある。これは、光触媒によって生じる活性酸素は、光吸収によって励起された電子と正孔による酸化還元反応に起因するためである。しかし、吸光度が大きくても励起された電子が正孔と再結合して失活したりする場合がある。
特に、本発明の抗ウイルス膜は、代表的な室内光源の白色蛍光灯や白色LEDの発光波長に吸収を有して、且つ、さまざまな坑ウイルス対象物に坑ウイルス処理するために、可能な限り着色していない方が望ましい。
そこで、本発明では、抗ウイルス膜の要件として、波長400nm〜780nmの可視光領域の、特に、光触媒の吸収端付近である波長400nm〜500nmの吸光度に注目した。吸光度は膜厚にも依存するが、典型的な抗ウイルス施工として、例えば、90平方メートル当たり抗ウイルス組成物1リットルで形成される抗ウイルス膜の吸光度を目安とした。
本発明では、波長300nmでの吸光度で除して規格化した波長400、450、500nmにおける規格化された吸光度は、それぞれ0.3以下、0.15以下及び0.1以下であり、ヘーズ値が6%以下であることが好ましい。
これは、薄黄色の着色透明膜であり、さまざまな室内の坑ウイルス対象物の基材上にコーティングしても、例えば、タッチパネルなど坑ウイルス対象物の視認性を損なわないもので好適である。
【0029】
[抗ウイルスコーティング膜厚]
抗ウイルス物において、抗ウイルスコーティング用組成物により形成される抗ウイルスコーティング膜の膜厚は、用途等に合わせて適宜調整することができる。例えば、乾燥膜厚で0.1〜20μmとすることができ、10μm以下、好ましくは5μm以下、より好ましくは1μm以下の範囲内とすることができる。
膜厚は厚くなるにつれて、吸光度が増大し、さらに曇り度も増大して視認性が悪くなる。坑ウイルス対象物の基材や必要とされる視認性の程度などよって適宜調整することができる。
【0030】
[抗ウイルス活性値]
本発明において、抗ウイルス物の基材に形成された抗ウイルスコーティング膜の抗ウイルス活性値は、380nm以下の紫外光をカットした白色蛍光灯500lx2時間の照射下での抗ウイルス活性値は2.0を超える値である。この抗ウイルス活性値は、JIS R1756:2020可視光応答型ウイルス試験方法に準拠した指標値である。JISに基づく抗ウイルス活性値は、坑ウイルスコーティングした基板とコーティングしていない基板とに所定の細菌を接種し24時間培養した後、両者の生菌数の対数値の平均値の差として求められる値であって、抗ウイルス活性値が2.0以上のとき抗ウイルス効果があると認定される。
【0031】
[体積平均分散粒子径]
本発明において抗ウイルスコーティング用組成物のアナターゼ型酸化チタンの体積平均分散粒子径(D50)は、公知の製造方法に従っており、10〜100nm以下とすることができる。好ましくは、10nmの微粒子である。
また、白金や銀の金属微粒子の体積平均分散粒子径(D50)も、10〜100nm以下とすることができる。
微粒子を用いることにより光散乱が小さく、さまざまな基材からなる抗ウイルス対象物の視認性を損なわずに抗ウイルス性を付与できる。
【0032】
[ヘーズ値]
本発明において、抗ウイルス物における抗ウイルスコーティング膜のヘーズ値(曇り度)は、20%以下、好ましくは10%以下、さらに好ましくは6%以下とすることができる。
本発明において、抗ウイルス膜のヘーズ値は、JIS K 7136:2000「プラスチック−透明材料のヘーズの求め方」における試験方法に準拠した指標値である。ヘーズ値は、抗ウイルスコーティング膜の透明度/曇り度を示す指標であり、ヘーズ値が低いと透明度が高いといえる。一般的には濁度計により測定することができる。
抗ウイルス膜のヘーズ値を10%以下とするためには、室内用コーティング用組成物の成分の酸化チタンや金属微粒子は、それぞれ100nm以下の平均半径の微粒子を用いると、光散乱が小さく好ましい。適宜、添加する添加剤も透明性の高いものが好ましい。
抗ウイルス膜のヘーズ値を6%以下とすることで、坑ウイルス対象物として高い視認性が要求されるタッチパネルなどの人の接触する操作画面の感染症予防として抗ウイルス処理が可能となる。
【0033】
本発明の抗ウイルス物に形成される抗ウイルスコーティング膜は、下記の要件を満たす。
(1)波長300nmでの吸光度で除して規格化した波長400、450、500nmにおける規格化された吸光度は、それぞれ0.3以下、0.15以下及び0.1以下、
(2)ヘーズ値が6.0%以下、
(3)白色蛍光灯500lx(380nm以下の波長をカット)2時間の照射での抗ウイルス活性値が2.0を超え、
(4)光触媒効果0.6以上、である。
これらのことによって、本発明の坑ウイルスコーティング用組成物を、公共施設や公共交通機関の様々な基材の坑ウイルス対象物に抗ウイルスコーティングするだけで、白色蛍光灯や白色LEDの室内光による光触媒効果によって持続的な抗ウイルス効果が得られる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例をあげて本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例において、抗ウイルスコーティング用組成物の特性等及び抗ウイルス膜の特性等の測定・評価は、以下に示す方法で測定した。
【0035】
[抗ウイルス物の光学的評価]
25mm×25mm×1mmの合成石英基板に抗ウイルスコーティング膜を作成して、その紫外可視吸光スペクトルは自記式紫外可視分光光度計(V−630 日本分光製)を用いて、コーティングしていない合成石英基板をレファレンスとして測定した。
また、50mm×50mm×1mmのガラス基板に抗ウイルスコーティング膜を作成して、抗ウイルスコーティング膜のヘーズ値を、濁度計(NDH2000 日本電色工業製)を用いて測定した。
【0036】
[抗ウイルスコーティング用組成物の調製]
本発明でバインダーとして用いるペルオキソチタン酸水溶液は、本発明の実施に支障のないものであれば、何れの方法によって製造したものでも、又は、市販されているペルオキソチタン酸水溶液でも使用することができる。例えば、特許文献3に記載されているように、チタン原料含有水溶液に、反応当量より過剰の過酸化水素水を加え、次いでアンモニア水を加えて中和し、得られた黄色溶液を置してペルオキソチタン酸塩を沈殿させ、沈殿をろ取・洗浄し、水に懸濁させて過酸化水素水を加えると、黄色透明なペルオキソチタン酸水溶液が得られる。
貴金属、例えば白金担持二酸化チタン(特許文献4)や銀イオン(特許文献5)は、本発明の目的に合致する物であれば、公知のものを使用することができる。
以下に、本発明で用いる組成物の各成分について述べる。ここでは、水溶液はいずれも質量容積パーセント濃度を表す。
[ペルオキソチタン酸水溶液(A液)の製造]
四塩化チタンの60%水溶液39.6mlに蒸留水を加え、波長4000mlとした溶液に、2.5%アンモニア水440mlを滴下して水酸化チタンを沈殿させた。沈殿物をろ取し、蒸留水で洗浄した水酸化チタンに、蒸留水を加えて720mlとした水酸化チタン懸濁液に、30%過酸化水素水80mlを加えて攪拌した。7℃において24時間放置して余剰の過酸化水素水を分解させて、黄色粘性のペルオキソチタン酸水溶液1000mlを得た。
[アナターゼ型酸化チタン分散液(B液)の製造]
得られたペルオキソチタン酸水溶液(A液)を耐圧ガラス容器に密閉して水浴中で12時間煮沸(98〜100℃)して、淡黄色半透明の1.00%のアナターゼ型酸化チタン分散液(B液)が生成した。
[白金担持酸化チタン分散液(C液)の製造]
300mlの蒸留水に、白金硝酸アンモニウムを1.7g溶解させ、白金塩の溶液を調製した。この白金塩溶液に、30gのアナターゼ型酸化チタン粉末を添加し、30分間混合した。この混合液を110℃にて蒸発乾固させた。得られた固体を粉砕した粉末を1℃/分で300℃まで昇温し、300℃にて10時間維持して焼成した。得られた酸化白金を担持した二酸化チタン粉末30gを69.9gの蒸留水に分散し、ポリアクリル酸アンモニウム0.1g添加して、30分攪拌した後、超音波処理を行い白金担持酸化チタン分散液(C液)を製造した。
[銀イオン溶液(D液)の製造]
蒸留水994mlに50%フィチン酸溶液を6ml、酢酸銀433.0mgを完全に溶解させた。得られた酢酸銀水溶液に重炭酸ナトリウムを2g、分散剤のポリアクリル酸ナトリウムを6g添加し紫紺色透明な銀イオン溶液(D液)を製造した。
<抗ウイルスコーティング用組成物1>
光触媒二酸化チタンとしてアナターゼ型酸化チタン分散液(B液)25ml、バインダーとしてペルオキソチタン酸水溶液(A液)25ml、白金担持酸化チタン分散液(C液)8.0mg、銀イオン溶液(D液)1mlを混合し、蒸留水を加えて全体を100gとして、抗ウイルスコーティング用組成物1を調製した。
抗ウイルスコーティング用組成物1の金属成分は原子吸光によって確認した。その組成は、抗ウイルスコーティング用組成物1の質量100に対して、質量%でチタン0.3%、白金0.00008%、銀0.00028%であった。
<抗ウイルスコーティング用組成物2>
光触媒二酸化チタンとしてアナターゼ型酸化チタン分散液(B液)54ml、バインダーとしてペルオキソチタン酸水溶液(A液)27ml、白金担持酸化チタン分散液(C液)5mg、銀イオン溶液(D液)2.1mlを混合し、蒸留水を加えて全体を100gとして、抗ウイルスコーティング用組成物2を調製した。白金担持酸化チタン分散液(C液)は予め超音波処理を行った後に添加した。
抗ウイルスコーティング用組成物2の金属成分は原子吸光によって確認した。その組成は、抗ウイルスコーティング用組成物2の質量100に対して、質量%でチタン0.49%、白金0.00005%、銀0.00059%であった。
<抗ウイルスコーティング用組成物3>
光触媒二酸化チタンとしてアナターゼ型酸化チタン分散液(B液)45ml、バインダーとしてペルオキソチタン酸水溶液(A液)45ml、白金担持酸化チタン分散液(C液)5mg、銀イオン溶液(D液)2.1mlを配合して、抗ウイルスコーティング用組成物3を調製した。白金担持酸化チタン分散液(C液)は予め超音波処理を行った後に添加した。
抗ウイルスコーティング用組成物3の金属成分は原子吸光によって確認した。その組成は、抗ウイルスコーティング用組成物3の質量100に対して、質量%でチタン0.54%、白金0.00005%、銀0.00060%であった。
【0037】
[抗ウイルスコーティング方法]
<Aコーティング方法>
スプレイガンを用いて、坑ウイルス物の基材としてガラス基板又は合成石英基板に抗ウイルスコーティング用組成物を30回から60回スプレーコーティングを繰り返すことによって膜厚1μmになるようにコーティングを行った。
<Bコーティング方法>
スプレイガンを用いて、坑ウイルス物の基材としてガラス基板又は合成石英基板に抗ウイルスコーティング用組成物を2回スプレーコーティングして膜厚1μmになるようにコーティングを行った。
【0038】
[実施例1]
抗ウイルスコーティング用組成物1を準備して、基材としてガラス基板又は合成石英基板にAコーティング方法によってコーティングして坑ウイルス物を作成した。
【0039】
[実施例2]
抗ウイルスコーティング用組成物2を準備して、基材としてガラス基板又は合成石英基板にAコーティング方法によってコーティングして坑ウイルス物を作成した。
【0040】
[実施例3]
抗ウイルスコーティング用組成物3を準備して、基材としてガラス基板又は合成石英基板にAコーティング方法によってコーティングして坑ウイルス物を作成した。
【0041】
[実施例4]
抗ウイルスコーティング用組成物3を準備して、合成石英基板又はガラス基板にBコーティング方法によってコーティングして坑ウイルス物を作成した。
【0042】
[実施例5]
抗ウイルスコーティング用組成物3を準備して、基材としてガラス基板又は合成石英基板にアンダーコーティングを行った後にAコーティング方法によってして坑ウイルス物を作成した。
【0043】
[実施例6]
抗ウイルスコーティング用組成物3を準備して、基材としてガラス基板又は合成石英基板にアンダーコーティングを行った後にBコーティング方法によってコーティングして坑ウイルス物を作成した。
【0044】
[比較例1]
ガラス基板又は合成石英基板に、アンダーコーティングを行いアンダーコーティング膜を作成した。
【0045】
[抗ウイルス物の表面濡れ性]
50mm×50mm×1mmのガラス基板にコーティングした後、暗所に保管しておいた実施例1乃至6及び比較例1のコーティング表面に蒸留水2μlの水滴を滴下して水との接触角をFTÅ188(First Ten Ångstroms製)を用いて測定した。表1に実施例1乃至6及び比較例1の水接触角示す。
【0046】
【表1】
表面と水との接触角の値は、表面の疎水性又は親水性の濡れ性に影響され、さらに表面の微細構造による表面積の影響を受けることが知られている。
表1において、同じAコーティング方法でコーティングした組成の異なる実施例1乃至3を比べると、接触角は銀イオン濃度の増加により小さくなり、親水性が増大していることが示された。
アンダーコーティングによる影響について、同じ組成でアンダーコーティング膜を設けた実施例5及び実施例6と、対応するアンダーコーティング膜のない実施例3及び実施例4とを比較すると、アンダーコーティング膜を設けた実施例5及び6の方は接触角が小さく、親水性が増大していることが示唆された。
コーティング方法による影響について、コーティング方法の異なる実施例3と実施例4とを比較し、さらにアンダーコーティング膜を設けた実施例5と実施例6とを比較すると、Aコーティング方法の方がいずれもBコーティング方法より接触角は小さい。この同一組成での接触角の違いは、コーティング方法によって表面構造が異なり、Aコーティング方法の方が表面積は大きいことが示唆される。
【0047】
[抗ウイルス物のセルフクリーニング性能試験]
抗ウイルス物の可視光照射に対する光触媒性を、JIS R 1753:2013「可視光応答形光触媒材料のセルフクリーニング性能試験方法」に準拠して調べた。抗ウイルス物の基材として、50mm×50mm×1mmのガラス基板を用いた実施例1及び実施例2のコーティング表面にステアリン酸を付着させ、蒸留水2μlの水滴を滴下して、水との初期接触角を測定してから、白色蛍光灯の波長380nm以下の紫外光をカットするフィルターによって得られる可視光を照射し、照度10000lxの可視光照射による接触角の経時変化を測定した。
可視光照射を開始してから接触角が初期接触角の半分の値になるまでの時間(初期接触角半減時間)及び10°以下となるまでの時間(水接触角接触角減少時間(10°))を求め、可視光応答形光触媒活性の指針とした。
実施例1及び実施例2の接触角の測定結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
本願発明の組成物は可視光応答形光触媒活性を示すことが確認された。
【0049】
室内のさまざまな坑ウイルス対象物の基材上に抗ウイルス性を付与するために基材上に形成する抗ウイルスコーティング膜は、可視光応答形光触媒活性に加えて、コーティングされた坑ウイルス対象物の視認性を確保する必要がある。
そこで、抗ウイルスコーティング膜の着色の度合いや曇り度を小さくするために、坑ウイルスコーティング用組成物の成分やその濃度及び坑ウイルスコーティング方法を検討した。
[坑ウイルス物の光学評価]
抗ウイルスコーティング膜の紫外可視吸収スペクトル及びヘーズ値を測定して、抗ウイルスコーティング膜の着色や曇り度に影響を与える組成の影響について調べた。
抗ウイルス物の基材として合成石英基板を用いた実施例1及び実施例4について、紫外可視分光光度計を用いてコーティングしていない合成石英基板をレファレンスとして測定した。
抗ウイルスコーティング膜の吸収スペクトルは、酸化チタンに基づく波長300nm付近に大きな吸収があり、波長400nm以上の可視領域へ吸収の裾を引くスペクトル形状である。この波長400nm以上の可視領域へ吸収の裾の吸光度が増大すると、抗ウイルスコーティング膜は黄色に着色いた度合いが大きくなり、コーティングされた基材の視認性が悪くなる。一方、可視領域へ吸収の裾の吸光度が減少すると、抗ウイルスコーティング膜の着色の度合いが小さくなり基材の視認性が良くなる。
坑ウイルスコーティング用組成物の組成の違いによる抗ウイルスコーティング膜の着色度合いを示す指標として、吸収スペクトルの300nmでの吸光度で、各波長での吸光度を除して規格化した。
実施例1及び実施例4について、300nmでの吸光度で除して規格化した波長400、450、500nmにおける規格化された吸光度を表3にまとめる。
【0050】
【表3】
本願発明の坑ウイルスコーティング用組成物の成分のなかで、白金担持酸化チタンの含有量を小さくすることにより、波長400nm以上の可視領域の吸収端の裾の吸光度が減少し、着色が軽減していることが確認された。
【0051】
[抗ウイルスコーティング膜のヘーズ値]
坑ウイルス物の坑ウイルスコーティングされた基材の視認性の評価として、抗ウイルス物の基材として、50mm×50mm×1mmのガラス基板を用いた実施例1及び実施例4のヘーズ値を測定した。JIS K 7136「プラスチックの透過率および濁度の測定」に準拠して、濁度計(NDH2000 日本電色工業製)でD
65光源を用いて、測定径20mm、3回測定の平均値から求めたヘーズ値(%)を表4にまとめる。
【0052】
【表4】
実施例4は実施例1に比べてヘーズ値が大きく減少していることが確認された。
【0053】
[坑ウイルス物の抗ウイルス活性と光触媒効果評価]
JIS R1756:2020「ファインセラミックス−可視光応答形光触媒材料の抗ウイルス性試験方法−バクテリオファージQβを用いる方法」に準拠して、坑ウイルス物の抗ウイルス活性と光触媒効果評価を行った。坑ウイルス物の基材として、50mm×50mm×2mmのガラス基板を用いた実施例4(以下、試験片と称する)をシャーレに置き、バクテリオファージ液(Qβ:NBRC20012)を試験片に滴下し、密着フィルム(OHPフィルム)でバクテリオファージ液を覆い、保湿ガラス(テンパックスガラス)をシャーレの上にかぶせた。試験片を入れたシャーレに波長380nm以下をカットした白色蛍光灯による可視光を規定時間照射後、試験片及び密着フィルムからバクテリオファージ液を洗い出し、この洗い出されたバクテリオファージの感染価をバクテリオファージに感受性をもつ大腸菌(NBRC106373)を用いたプラーク形成法によって測定した。コントロールとしてコーティングしていない50mm×50mm×2mmのガラス基板を用い、抗ウイルス物の試験片と同様の条件で可視光照射をしたコントロール、暗所に置いた抗ウイルス物の試験片及びコントロールの測定結果とを比較して抗ウイルス活性と光触媒効果の値を算出した。
表5に坑ウイルス試験の結果をまとめる。
【0054】
【表5】
波長380nm以下の紫外光をカットした白色蛍光灯500lx2時間照射で坑ウイルス活性値が2.0を超える値が得られた。即ち、ウイルス増殖を抑制する値が99%を超える値である。実施例4の抗ウイルスコーティング膜には銀イオンが含まれるため、銀イオンによる坑ウイルス効果も含まれる。しかしながら、光照射による坑ウイルス活性値と暗所での坑ウイルス活性値との差である光触媒効果0.6が得られており、光触媒効果による坑ウイルス性の寄与が大きいことが確認された。
【0055】
表1乃至表5の結果より、本発明によって、室内の坑ウイルス対象物にコーティングすることにより、白色蛍光灯500lxの照射での光触媒効果によって抗ウイルス活性値2.0を超える抗ウイルス性能を有する坑ウイルス物を簡便に得ることができる。本発明の抗ウイルスコーティング膜は、透明性が高く、曇り度が低いために視認性があり、広くさまざまな坑ウイルス対象物にコーティングできる。
【課題】室内光で抗ウイルス活性値が2.0を超え、暗所でも抗ウイルス効果を有し、抗ウイルス効果が塗布直後から長期に渡って発現でき、コーティングによって坑ウイルス対象物の視認性を損なわないような透明な抗ウイルス膜を与える抗ウイルスコーティング用組成物、抗ウイルスコーティング方法及び抗ウイルス物を提供する。
%を含み、本発明の抗ウイルス物の基材上の抗ウイルスコーティング膜は、白色蛍光灯500lx2時間の照射下での抗ウイルス活性値は2.0を超え、光触媒効果は0.6以上であり可視領域での着色が抑制され、ヘーズ値が6%以下である曇り度の小さく透明性に優れる。