(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
変性ナノセルロースの含有量が、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)100重量部に対して1〜100重量部である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明を詳述する。
本発明は、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)及び変性ナノセルロースを含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物に関する。以下では、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)をP3HAと略して言及する。
【0021】
(P3HA)
本発明で用いられるP3HAとは、モノマー単位として3−ヒドロキシアルカン酸単位を含有するポリエステルであり、特に、式:[−CHR−CH
2−CO−O−](式中、RはC
nH
2n+1で表される直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を示し、nは1以上15以下の整数である。)で示される繰り返し単位を含むポリエステルが好ましい。該ポリエステルは単独重合体であってよいし、前記繰り返し単位を2種類以上含む共重合体であってもよい。このような共重合体は、単独重合体と比較して融点が低くなり得るために、溶融時の温度を低くすることができ、高温による変性ナノセルロースの変質を抑制できるため好ましい。
【0022】
また、P3HAは、モノマー単位として3−ヒドロキシアルカン酸単位のみを含有するポリエステルであってもよいが、モノマー単位として3−ヒドロキシアルカン酸単位と共に、他のヒドロキシアルカン酸単位(例えば、4−ヒドロキシアルカン酸単位)を含有する共重合ポリエステルであってもよい。前記共重合ポリエステルでは、全ヒドロキシアルカン酸単位のうち3−ヒドロキシアルカン酸単位が占める含有割合は特に限定されないが、例えば50モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましく、70モル%以上がさらに好ましく、80モル%以上が特に好ましく、90モル%以上が最も好ましい。
【0023】
本発明におけるP3HAの具体例としては、例えば、PHB〔ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、又はポリ3−ヒドロキシ酪酸〕、PHBH〔ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)、又はポリ(3−ヒドロキシ酪酸−co−3−ヒドロキシヘキサン酸)〕、PHBV〔ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート)、又はポリ(3−ヒドロキシ酪酸−co−3−ヒドロキシ吉草酸)〕、P3HB4HB〔ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)、又はポリ(3−ヒドロキシ酪酸−co−4−ヒドロキシ酪酸)〕、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシオクタノエート)、又はポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシオクタデカノエート)等が挙げられる。これらのなかでも、工業的に生産が容易であるものとして、PHB、PHBH、PHBV、P3HB4HBが好ましく、PHBHがより好ましい。
【0024】
P3HAは、柔軟性と強度の観点から、3−ヒドロキシブチレート単位を含む単独重合体又は共重合体が好ましい。なかでも、柔軟性と強度のバランスの観点から、P3HAに含まれる3−ヒドロキシブチレート単位の平均組成比が80モル%〜99モル%を示すものがより好ましく、85モル%〜97モル%を示すものがさらに好ましい。3−ヒドロキシブチレート単位の平均組成比が80モル%未満であると剛性が不足する傾向があり、99モル%より多いと柔軟性が不足する傾向がある。
【0025】
本発明において、P3HAは1種類のみを単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。また、P3HAとしてPHBH等の共重合体を使用する場合には、3−ヒドロキシブチレート単位等のモノマー単位の平均組成比が異なる2種類以上の共重合体を混合して使用することもできる。
【0026】
本発明で使用するP3HAの分子量は、最終物の成形体が目的とする用途で、実質的に十分な物性を示すものであればよく、特に限定されない。しかし、分子量が低いと成形体の強度が低下する傾向があり、逆に高いと加工性が低下し、加工が困難になる場合があるので、それらを勘案して分子量を決定すればよい。この観点から、本発明で使用するP3HAの重量平均分子量の範囲は、50,000〜3,000,000が好ましく、100,000〜1,500,000がより好ましい。なお、ここでの重量平均分子量は、クロロホルム溶離液を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリスチレン換算の分子量として測定されたものをいう。当該GPCにおけるカラムとしては、前記分子量を測定するのに適切なカラムを使用すればよい。
【0027】
本発明で使用するP3HAのガラス転移温度は特に限定されないが、−30〜10℃が好ましい。本発明において、ガラス転移温度は、示差走査熱量分析で10℃/minの昇温速度にて測定される。
【0028】
P3HAを製造する方法としては特に限定されないが、例えば、P3HA産生能を有する微生物によりP3HAを産生させる方法が挙げられる。そのような微生物としては特に限定されないが、例えば、PHB生産菌としては、1925年に発見されたBacillus megateriumの他、カプリアビダス・ネケイター(Cupriavidus necator)(旧分類:アルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus、ラルストニア・ユートロフア(Ralstonia eutropha))、アルカリゲネス・ラタス(Alcaligenes latus)等が挙げられる。また、3−ヒドロキシブチレートとその他のヒドロキシアルカノエートとの共重合体生産菌としては、PHBVおよびPHBH生産菌であるアエロモナス・キヤビエ(Aeromonas caviae)、P3HB4HB生産菌であるアルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)等が挙げられる。特に、PHBH生産菌としては、PHBHの生産性を上げるためにPHA合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus AC32, FERM BP−6038)(T.Fukui,Y.Doi,J.Bacteriol.,179,p4821−4830(1997))が挙げられる。
【0029】
これらの微生物を適切な条件で培養して菌体内にP3HAを蓄積させ、そのP3HAを回収することでP3HAを製造することができる。用いる微生物にあわせて、基質の種類を含む培養条件を最適化することができる。また、上掲した微生物以外にも、生産したいP3HAに合わせて、各種P3HA合成関連遺伝子を導入した遺伝子組換え微生物を培養してP3HAを製造することもできる。
【0030】
(変性ナノセルロース)
次に、本発明における変性ナノセルロースについて説明する。
植物の細胞壁の中では、幅4nm程のセルロースミクロフィブリル(シングルセルロースナノファイバー)が最小単位として存在しており、このセルロースミクロフィブリルが集まってセルロース繊維を構成し、植物の骨格を形成している。本発明でいう「ナノセルロース」とは、セルロース繊維を含む植物材料(例えば、木材パルプ等)を処理して、繊維をナノサイズレベルまで解きほぐして(解繊処理して)得られたセルロースナノファイバー(CNF)のことをいう。
【0031】
CNFは、セルロース繊維に機械的解繊等の処理を施すことで得られる微小な繊維であり、繊維径4〜200nm程度、繊維長5μm程度以上の繊維である。CNFの比表面積としては、70〜300m
2/g程度が好ましく、70〜250m
2/g程度がより好ましく、100〜200m
2/g程度がさらに好ましい。CNFの比表面積を大きくすることで、P3HAと組み合わせて樹脂組成物とした場合に、接触面積が大きくなり、成形体の強度を向上させることができる。しかし、CNFの比表面積が極端に大きくなると、樹脂組成物中でCNFの凝集が起こりやすくなり、目的とする高強度材料が得られないことがある。
【0032】
CNFの繊維径は、平均値が通常4〜200nm程度、好ましくは4〜150nm程度、特に好ましくは4〜100nm程度である。なお、CNFの繊維径の平均値(平均繊維径、平均繊維長、平均結晶幅、平均結晶長ともいう。)は、電子顕微鏡の視野内のナノセルロースの少なくとも50本以上について測定した時の平均値である。
【0033】
CNFの原材料として用いられる植物繊維としては特に限定されないが、例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、綿、ビート、農産物残廃物、布といった天然植物原料から得られるパルプや、紙、レーヨン、セロファン等の再生セルロース繊維等が挙げられる。木材としては、例えば、シトカスプルース、スギ、ヒノキ、ユーカリ、アカシア等が挙げられ、紙としては、脱墨古紙、段ボール古紙、雑誌、コピー用紙等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。植物繊維は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
植物繊維のなかでは、パルプや、パルプをフィブリル化したフィブリル化セルロースが好ましい原材料である。前記パルプとしては特に限定されないが、例えば、植物原料を化学的、若しくは機械的に、又は両者を併用してパルプ化することで得られるケミカルパルプ(クラフトパルプ(KP)、亜硫酸パルプ(SP))、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグランドパルプ(CGP)、ケミメカニカルパルプ(CMP)、砕木パルプ(GP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、及びこれらのパルプを主成分とする脱墨古紙パルプ、段ボール古紙パルプ、雑誌古紙パルプなどが挙げられる。これらの原材料は、必要に応じ、脱リグニン、又は漂白を行い、当該パルプ中のリグニン量を調整することができる。
【0035】
これらのパルプの中でも、繊維の強度が強い針葉樹由来のクラフトパルプが好ましく、針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹酸素晒し未漂白クラフトパルプ(NOKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)がより好ましい。
【0036】
パルプは主にセルロース、ヘミセルロース、リグニンから構成される。パルプ中のリグニン含有量は、特に限定されるものではないが、通常0〜40重量%程度、好ましくは0〜10重量%程度である。リグニン含有量の測定は、Klason法により測定することができる。
【0037】
植物繊維を解繊し、CNFを調製する方法としては、パルプ等のセルロース繊維含有材料を解繊する方法が挙げられる。解繊方法としては、例えば、セルロース繊維含有材料の水懸濁液又はスラリーを、リファイナー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、一軸又は多軸混練機(好ましくは二軸混練機)、ビーズミル等による機械的な摩砕、ないし叩解することにより解繊する方法が使用できる。必要に応じて、上記の解繊方法を組み合わせて処理してもよい。これらの解繊処理の方法としては、例えば、特開2011−213754号公報、特開2011−195738号公報に記載された解繊方法等を用いることができる。
【0038】
本発明で使用する変性ナノセルロースとは、CNFを構成するセルロースが有する水酸基(糖鎖の水酸基)が、化学的に変性されているCNFのことをいう。なお、本発明の変性ナノセルロースにおいて、CNFを構成するセルロースが有する全ての水酸基が変性されている必要はなく、CNFを構成するセルロースが有する水酸基のうち一部の水酸基が変性されていればよい。
【0039】
変性ナノセルロースとしては、具体的には、アシル基、アルキル基での修飾によってCNFの表面に存在する水酸基が疎水化された疎水化CNF;アミノ基を有するシランカップリング剤、グリシジルトリアルキルアンモニウムハライド又はそのハロヒドリン型化合物等の修飾により、CNFの表面に存在する水酸基がカチオン変性された変性CNF;無水コハク酸、アルキル基又はアルケニル基を有する無水コハク酸のような環状酸無水物によるモノエステル化、カルボキシル基を有するシランカップリング剤による修飾等により、CNFの表面に存在する水酸基がアニオン変性された変性CNF等を使用することができる。
【0040】
これら変性ナノセルロースのうち、セルロースの有する水酸基がエステル化されている変性ナノセルロースが好ましい。このような変性ナノセルロースとしては、セルロースの有する水酸基が、飽和脂肪酸、不飽和カルボン酸、モノ不飽和脂肪酸、ジ不飽和脂肪酸、トリ不飽和脂肪酸、テトラ不飽和脂肪酸、ペンタ不飽和脂肪酸、ヘキサ不飽和脂肪酸、芳香族カルボン酸、ジカルボン酸、アミノ酸、窒素原子上にカルボキシアルキル基を有するマレイミド誘導体、窒素原子上にカルボキシアルキル基を有するフタルイミド誘導体からなる群より選択される少なくとも1種の化合物のカルボキシル基から水素原子を除いた残基によって置換されている変性ナノセルロースが好ましい。
【0041】
前記飽和脂肪酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ピバル酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸及びアラキジン酸等が好ましい。
【0042】
前記不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸等が好ましい。
【0043】
前記モノ不飽和脂肪酸としては、クロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リシノール酸等が好ましい。前記ジ不飽和脂肪酸としては、ソルビン酸、リノール酸、エイコサジエン酸等が好ましい。前記トリ不飽和脂肪酸としては、リノレン酸、ピノレン酸、エレオステアリン酸等が好ましい。前記テトラ不飽和脂肪酸としては、ステアリドン酸及びアラキドン酸から選ばれる等が好ましい。前記ペンタ不飽和脂肪酸としては、ボセオペンタエン酸、エイコサペンタエン酸等が好ましい。前記ヘキサ不飽和脂肪酸としては、ドコサヘキサエン酸、ニシン酸等が好ましい。
【0044】
前記芳香族カルボン酸としては、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、没食子酸(3,4,5−トリヒドロキシベンゼンカルボン酸)、ケイ皮酸(3−フェニルプロパ−2−エン酸)等が好ましい。
【0045】
前記アミノ酸としては、グリシン、β−アラニン、ε−アミノカプロン酸(6−アミノヘキサン酸)等が好ましい。
【0046】
本発明の好適な実施形態によると、変性ナノセルロースは、セルロースの有する水酸基が、下記の式(1)で表される構造に改変されている。
【0048】
式中、Xは、アルキル基、アルケニル基、芳香環を含むアルキル基、芳香環を含むアルケニル基、環状アルキル基、環状アルケニル基、又は、一価の芳香環基を示すことができ、これら各基は、カルボキシル基、ハロゲン、アミノ基、チオール基、スルフィド基、又は、ジスフフィド基等の置換基を有していてもよい。
【0049】
アルキル基としては、1〜30個の炭素原子を有する直鎖又は分岐鎖状のアルキル基(−C
nH
2n−)が好ましく、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル等が挙げられる。アルキル基の炭素原子数は、1〜18個がより好ましい。
【0050】
アルケニル基としては、2〜30個の炭素原子を有する直鎖又は分岐鎖状のアルケニル基が好ましく、ビニル(エテニル)、アリル(プロペニル)、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル等が挙げられる。アルケニル基の炭素原子数は、6〜18個がより好ましい。アルケニル基が有する不飽和結合は、二重結合に限定されず、三重結合であってもよい。また、1個の不飽和結合を含む基であってもよいし、2個以上の不飽和結合を含む基であってもよい。不飽和結合が二重結合である場合、シス体又はトランス体のいずれであってもよい。
【0051】
芳香環を含むアルキル基又は芳香環を含むアルケニル基とは、前述したアルキル基又はアルケニル基が、1価または2価の芳香環を含むものである。芳香環としては、例えば、ベンゼン環、縮合ベンゼン環(ナフタレン環、ピレン環、アントラセン環、ビフェニル環等)、非ベンゼン系芳香環(トロピリウム環、シクロプロペニウム環等)、複素芳香環(ピリジン環、ピリミジン環、ピロール環、チオフェン環等)等が挙げられる。
【0052】
環状アルキル基、又は、環状アルケニル基としては、5〜30個の炭素原子を有する環状アルキル基、又は、環状アルケニル基が好ましく、シクロペンチル、シクロヘキシル等が挙げられる。
【0053】
一価の芳香環基としては、上述した芳香環からなる一価の基が挙げられる。
【0054】
Xは、オレフィン系モノマー、スチレン系モノマー、及びアクリル系モノマーからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーがリビング重合してなる構造を含む置換基であってよい。アクリル系モノマーとしては、例えば、アクリル酸、アクリル酸アリル、アクリル酸エチル、アクリル酸メチル等のアクリル酸系モノマー、メタクリル酸、メタクリル酸アリル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸ビニル、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸系モノマー等が挙げられる。リビング重合の程度は、n=10〜100程度が好ましく、n=10〜30程度がより好ましい。また、Xは、アクリル系重合体、メタクリル系重合体等がブロック重合した構造を含む置換基であってよい。
【0055】
Xは、ハロゲン、又はアミノ基を含む置換基であってよい。前記ハロゲンは、撥水性、耐薬品性、耐熱性を持つフッ素(F)であってもよく、種々の求核試薬による置換反応が容易である、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)であってもよい。Xがアミノ基を含む場合、機能性カルボン酸誘導体によるアミド化が可能となり、P3HAとの複合材料を調製する際に好適な変性ナノセルロースとなる。
【0056】
Xは、チオール基(−SH)、スルフィド基(−SR
2)、又は、ジスルフィド基(−SSR
3)を含む置換基であってよい。これらの基を有すると、種々の金属ナノ粒子(例えばAu)に対し化学結合による吸着が可能で、導電性や、特定の光を吸収する特性を持つ変性ナノセルロースの製造が可能になる。これらの基中のR
2又はR
3としては特に限定されないが、前述したアルキレン基、アルケニレン基、芳香環を含むアルキレン基又は芳香環を含むアルケニレン基等が挙げられる。
【0057】
このような変性ナノセルロースのなかでも、成形体の強度向上の観点から、セルロースの有する水酸基がジカルボン酸によってエステル化されている変性ナノセルロースがより好ましい。セルロースの有する水酸基がジカルボン酸によってモノエステル化されると、水酸基が、カルボキシル基を有する置換基に改変されることになる。これにより変性ナノセルロースはカルボキシル基を有することになる。セルロースにカルボキシル基が導入されることにより、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)と類似構造を有することとなり、その結果、変性ナノセルロース/ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)の界面接着強度が向上して成形体の強度が向上するものと推測される。
【0058】
本発明のより好適な実施形態によると、このようなジカルボン酸によってモノエステル化された変性ナノセルロースは、セルロースの有する水酸基が、式(I)で表される構造に改変されている。
【0060】
式(I)中、R
1は、直接結合、2価の芳香環、又は、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基、アルケニレン基、環状アルキレン基、若しくは環状アルケニレン基を示す。
【0061】
前記ジカルボン酸としては、カルボキシル基を1分子内に2個有する化合物であれば特に限定されないが、炭素数2〜30のジカルボン酸が好ましく、炭素数4〜30のジカルボン酸が好ましい。具体的には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、メチルナジック酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、アルケニルコハク酸、ドデセニルコハク酸等が挙げられる。これらの中で、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸が好ましい。これら各種ジカルボン酸は、アルキル基またはアルケニル基等の置換基を有していてもよい。ジカルボン酸は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0062】
なかでも、P3HA中で変性ナノセルロースの分散性が高く、成形体に極めて高い強度を付与でき、エステル化反応時の条件が温和でCNFを傷めにくく、変性ナノセルロースの熱安定性が高いなどの点から、ジカルボン酸としては、アルキル基またはアルケニル基を有するコハク酸が好ましい。コハク酸は、アルケニル基またはアルケニル基を1個有していてもよいし、2個有していてもよい。前記アルキル基またはアルケニル基の炭素数は、1〜30であることが好ましく、5〜20であることがより好ましく、8〜20であることがさらに好ましい。具体的には、オクチルコハク酸、ドデシルコハク酸、ヘキサデシルコハク酸、オクタデシルコハク酸等のアルキルコハク酸;ペンテニルコハク酸、ヘキセニルコハク酸、オクテニルコハク酸、デセニルコハク酸、ウンデセニルコハク酸、ドデセニルコハク酸、トリデセニルコハク酸、ヘキサデセニルコハク酸、オクタデセニルコハク酸等のアルケニルコハク酸などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明で用いる変性ナノセルロースのエステル置換度は、特に限定されず、成形物の強度や成形加工性の観点から適宜調節可能である。しかし、変性ナノセルロースをP3HA中で均一に分散させると共に、変性による効果が得やすい点から、0.05〜2.0程度が好ましく、0.1〜2.0程度がより好ましく、0.1〜0.8程度が更に好ましい。なお、上記エステル置換度とは、変性ナノセルロースにおけるセルロースを構成するグルコース骨格(グルコピラノース単位)に存在する3つの水酸基(2位、3位及び6位の水酸基)のうち、エステルで置換されたものの数(平均値)を示す。当該エステル置換度は、アルカリを添加し、エステル結合を加水分解することにより発生したカルボン酸量を滴定することにより算出できる。
【0063】
P3HAと混練する前の変性ナノセルロースの粒子サイズ(メッシュ径)は特に限定されず、混練装置の能力により適宜調整されるが、通常、変性ナノセルロースは分散性向上の観点から微細な粒子であることが望ましい。好ましくは50メッシュを通過できるもの、より好ましくは200メッシュを通過できるものである。ただし、押出機等の混練装置で混合する場合、50メッシュを通過できないものでも混練装置の種類や条件によっては高剪断応力で変性ナノセルロース粒子の粉砕が進むことがある。そのため、変性ナノセルロースの粒子サイズは、変性ナノセルロースを押出機に投入でき、混練後の組成物に不分散塊状物が残存せず、力学的な物性を著しく低下させないレベルに粒子の粉砕が進むようであれば、特に限定されない。
【0064】
また、変性ナノセルロースは吸湿性があるため、P3HAに配合する際には、あらかじめ乾燥させておくことが好ましい。乾燥は、樹脂組成物を加熱成形する時に水分の気化による気泡などを生じないレベルまで適宜実施すればよい。また、変性ナノセルロースが適度に乾燥していると、P3HAと混練する場合に分散されやすい。但し160℃を超えるような高温で変性ナノセルロースを乾燥すると、セルロース中のフリーの水酸基が縮重または減少して変質が進行するため、P3HAとの親和性や接着性が悪化する場合がある。
【0065】
(変性ナノセルロースの製造方法)
CNFを変性して変性ナノセルロースを製造する方法は常法に従うことができる。特にジカルボン酸によってエステル化されている変性ナノセルロースを製造する方法について説明すると、CNFに対してジカルボン酸の無水物(無水ジカルボン酸)を反応させてモノエステル化させることで、式(I)で表される構造を有する変性ナノセルロースを製造することができる。無水ジカルボン酸を使用することで、触媒を用いなくてもモノエステル化を実施でき、CNFを効率よく変性できるため好ましい。
【0066】
この時、無水ジカルボン酸の配合量は、CNF中の水酸基1モルに対して0.1モル程度以上が好ましく、0.3モル程度以上がより好ましい。無水ジカルボン酸の配合量を上記の範囲に設定することにより、所望のエステル置換度を有する変性ナノセルロースを得ることができる。
【0067】
CNFを無水ジカルボン酸でエステル化する際の反応溶媒としては特に限定されないが、例えば、NMP、DMF、DMAc等の非プロトン性溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル等のエステル系溶媒等が挙げられる。これらの溶媒の中で、NMP、アセトンが、CNFの分散性の観点から好ましい。また、反応後、未反応の無水ジカルボン酸を除去しない場合は、樹脂との混合時に溶媒が除去されやすいように、溶媒としてアセトンを使用することが特に望ましい。
【0068】
CNFを無水ジカルボン酸でエステル化する際の反応温度としては特に限定されないが、例えば、30〜200℃程度が好ましく、50〜150℃程度がより好ましい。
【0069】
CNFを無水ジカルボン酸でエステル化した後、未反応の無水ジカルボン酸はそのまま残留させてもよいし、必要に応じて除去しても良い。また、樹脂との混合時に溶媒が除去されやすいようにするために、エステル化反応後の変性ナノセルロースを別の溶媒で洗浄し、反応時に用いた溶媒を除去していてもよい。エステル化反応後の洗浄に用いる溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;メタノール、エタノール系のアルコール系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;NMP、DMF、DMAc等の非プロトン性溶媒が挙げられる。これらの中で、溶媒の除去が容易であり、変性ナノセルロースを良好に分散できるという点から、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル等が好ましい。
【0070】
(含有量)
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物におけるP3HAの含有量は、特に限定されないが、50〜99重量%が好ましく、より好ましくは60〜98重量%、さらに好ましくは70〜95重量%である。
【0071】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物において、変性ナノセルロースの含有量は特に限定されないが、P3HA100重量部に対して1重量部〜100重量部であることが好ましく、より好ましくは1.5〜60重量部、さらに好ましくは2〜50重量部である。変性ナノセルロースの含有量が1重量部未満の場合、変性ナノセルロースを添加することによる効果が見られない場合がある。ロール成形機や開放系ニーダーで混練する場合は変性ナノセルロースを多量に混合することが可能である。しかし、汎用の押出成形機によって混練を実施する場合は、変性ナノセルロースの含有量が100重量部を超えると、混練物の粘度が高くなり過ぎ、熱可塑性樹脂として機能することが困難となり、押出を安定して実施しにくい場合がある。但し、100重量部を超える場合でも、低分子量で低粘度のP3HAを使用するか、又は、可塑剤、滑剤、その他の低粘度樹脂等を混合することで押出成形機の負荷を下げたり、高粘度でも混練が可能で、均質性を有する組成物を与え得る押出機を使用して本発明の樹脂組成物を得ることは可能である。また、変性ナノセルロースを多量にP3HAに配合した樹脂組成物やその成形体は、廃棄の際に最終的に全て生分解するため、無機系核剤を多量にP3HAに配合した従来の樹脂組成物やその成形体と比較して廃棄時の残存物の問題がない点で優れている。
【0072】
(任意成分)
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で公知の添加剤を添加することができる。具体的には、汎用プラスチックやポリ乳酸系樹脂等に対する増粘剤または結晶核剤を添加剤として配合することができる。そのような増粘剤または結晶核剤としては特に限定されないが、例えば、カーボンブラック、炭酸カルシウム、酸化ケイ素、ケイ酸塩、亜鉛華、ハイサイトクレー、カオリン、塩基性炭酸マグネシウム、マイカ、タルク、石英粉、ケイ藻土、ドロマイト粉、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、アルミナ、ケイ酸カルシウム、窒化ホウ素、塩化アンモニウム、架橋高分子ポリスチレン、ロジン系金属塩や、ガラス繊維、ウィスカー、炭素繊維等の無機繊維や、人毛、羊毛、竹繊維、パルプ繊維の有機繊維等が挙げられる。
【0073】
必要に応じて、本発明の樹脂組成物には、顔料、染料などの着色剤、無機系または有機系粒子、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの安定剤、滑剤、離型剤、撥水剤、抗菌剤等の副次的添加剤を配合してもよい。これら添加剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、可塑剤(滑剤)を配合してもよい。可塑剤を配合することで、加熱加工時、特に押出加工時の溶融粘度を低下させ、剪断発熱等による分子量の低下を抑制することが可能であり、場合によっては結晶化速度の向上も期待でき、更にフィルムやシートを成形品として得る場合には伸び性などを付与できる。
【0075】
可塑剤としては特に限定されないが、例えば、エーテル系可塑剤、エステル系可塑剤、フタル酸系可塑剤、リン系可塑剤が好ましく、P3HAとの相溶性に優れる点から、エーテル系可塑剤、エステル系可塑剤がより好ましい。エーテル系可塑剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコール等を挙げることができる。エステル系可塑剤としては、例えば、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族アルコールとのエステル類等を挙げることができ、脂肪族ジカルボン酸として、例えばシュウ酸、コハク酸、セバシン酸、アジピン酸等を挙げることができ、脂肪族アルコールとして、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ヘキサノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、n−ドデカノール、ステアリルアルコール等の一価アルコール;エチレングリコール、1、2−プロピレングリコール、1、3−プロピレングリコール、1、3−ブタンジオール、1、5−ペンタンジオール、1、6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール等の2価アルコール;グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリストール等の多価アルコールを挙げることができる。また、上記脂肪族ジカルボン酸及び/又は脂肪族アルコールの2種以上の組み合わせを含む共重合体(ジ−コポリマー、トリ−コポリマー、テトラ−コポリマーなど)、または、これらのホモポリマーおよびコポリマーから選ばれる2種以上のブレンド物が挙げられる。更に、ヒドロキシカルボン酸のエステル化物も挙げられる。上記可塑剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、脂肪酸アミドを配合してもよい。本発明の樹脂組成物において脂肪酸アミドは、結晶核剤として、又は、内滑剤及び外滑剤として作用し得ると考えられる。
【0077】
脂肪酸アミドとしては、式:R
4−C(=O)−NR
5R
6で表される化合物が挙げられる。ここで、R
4、R
5、R
6は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1〜30の炭化水素基を表す。当該炭化水素基は、飽和であってもよいし、不飽和であってもよい。また、当該炭化水素基は、置換基を有していなくてもよいし、水酸基、アルコキシ基、ハロゲン基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基等の置換基を有してもよい。さらに、R
4とR
5又はR
6とが結合して環状構造を形成してもよい。
【0078】
脂肪酸アミドの具体例としては、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド(EA)、ベヘン酸アミド(BA)、リシノール酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスカプリル酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、N,N’−ジステアリルセバシン酸アミド、ヘキサンメチレンビスステアリン酸アミド等が挙げられる。脂肪酸アミドは1種類を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0079】
脂肪酸アミドとしては、100〜150℃(特に100〜120℃)程度の融点を持つ化合物が好ましい。このような融点を示す脂肪酸アミドを、融点が90℃以上のP3HAに対して配合すると、当該P3HAの融点よりも10〜30℃高い温度での成形加工において結晶化速度が向上し、成形加工性を改善することができる。
【0080】
脂肪酸アミドのうち、前記式においてR
4が炭素数1〜30(特に炭素数10〜20)の脂肪族炭化水素基を表し、R
5及びR
6が水素原子を表す1級アミドが好ましい。なかでも、ベヘン酸アミド(融点114℃)、ステアリン酸アミド(融点102℃)、エチレンビスステアリン酸アミド(融点147℃)、ヒドロキシステアリン酸アミド(107℃)、メチロールベヘン酸アミド(融点110℃)が好ましい。
【0081】
本発明の樹脂組成物における脂肪酸アミドの含有量は、特に限定されないが、P3HA100重量部に対して0.1〜10重量部が好ましく、より好ましくは0.2〜5重量部、さらに好ましくは0.5〜3重量部である。脂肪酸アミドの含有量を上記範囲に制御することにより、樹脂組成物の成形加工性がいっそう向上する傾向がある。
【0082】
(樹脂組成物の製造方法)
本発明の樹脂組成物は、公知の方法で製造することができる。例えば、加熱溶融しつつP3HA、変性ナノセルロース、及び他の添加剤を混合して製造することができる。その際には、単軸押出機、2軸押出機、ニーダー、ギアポンプ、混練ロール、撹拌機を持つタンクなどを使用した機械的撹拌による混合や、流れの案内装置により分流と合流を繰り返す静止混合器を適用することができる。より具体的には、P3HA、変性ナノセルロース、及び他の添加剤を押出機、ロールミル、バンバリーミキサーなどにより溶融混練してペレット状とし、成形に供する方法、P3HAと高濃度の変性ナノセルロースを含有するマスターバッチを予め調製しておき、これとP3HAを所望の割合で溶融混練して成形に供する方法などが挙げられる。P3HAと変性ナノセルロースは混練機に同時に添加してもよいし、あるいは、P3HAを溶融させた後に変性ナノセルロースを添加して両成分の溶融混練を実施することもできる。
【0083】
加熱溶融は、熱分解によるP3HAの分子量低下を回避又は抑制するため、180℃以下の温度で実施することが好ましく、高温による変性ナノセルロースの変質を抑制するためには、160℃以下の温度で実施することが好ましい。特に好ましい加熱溶融温度はP3HAの融点±10℃である。このような温度で溶融した樹脂組成物を、P3HAの結晶化温度以下にまで冷却しながら樹脂の結晶化を促進させ、高粘度でありながら変性ナノセルロースとの密着性を高めた溶融物とすると、変性ナノセルロースとP3HAが高い親和性を有し、樹脂組成物での変性ナノセルロースの微分散が進むためさらに好ましい。
【0084】
本発明の樹脂組成物は、上述のように溶融混練した後、それをストランド状に押し出してからカットして、円柱状、楕円柱状、球状、立方体状、直方体状などの粒子形状のペレットとすることができる。得られたペレットを、40〜80℃で十分に乾燥させて水分を除去した後、公知の成形加工方法で成形加工でき、任意の成形体を得ることができる。成形加工方法としては、例えば、フィルム成形、シート成形、射出成形、ブロー成形、ブロー成形、繊維の紡糸、押出発泡、ビーズ発泡等が挙げられる。
【0085】
フィルム成形体の製造方法としては、例えば、Tダイ押出し成形、カレンダー成形、ロール成形、インフレーション成形が挙げられる。ただし、フィルム成形法はこれらに限定されるものではない。また、本発明の樹脂組成物から得られたフィルムは、加熱による熱成形、真空成形、プレス成形が可能である。
【0086】
射出成形体の製造方法としては、例えば、熱可塑性樹脂を成形する場合に一般的に採用される射出成形法、ガスアシスト成形法、射出圧縮成形法等の射出成形法を採用することができる。また、その他の目的に合わせて、上記の方法以外でもインモールド成形法、ガスプレス成形法、2色成形法、サンドイッチ成形法、PUSH−PULL、SCORIM等を採用することもできる。ただし、射出成形法はこれらに限定されるものではない。
【0087】
本発明の樹脂組成物は、押出成形機を用いてペレット、または、フィルム状、シート状、又は繊維状等の成形体に加工しても良いし、射出成形により所定形状の成形体に加工することも可能である。P3HA中での変性ナノセルロースの分散性や、P3HAと変性ナノセルロースの密着(接着)性が良好となるように、一旦ペレット状に加工した後、当該ペレットを押出成形機でフィルム状、シート状、又は繊維状等に加工したり、あるいは、射出成形を行なってもよい。また、前述したようにロール成形機を使用すれば、変性ナノセルロースの混合比率が高い場合でも溶融混練によりフィルム化、又はシート化が可能である。
【0088】
また、本発明の樹脂組成物が発泡剤を含有する場合、本発明の成形体は発泡性の成形体であってもよいし、加工後に発泡させることで成形発泡体としてもよい。
【0089】
本発明の樹脂組成物から得られたフィルム又はシートは、変性ナノセルロースを含まない樹脂組成物よりも溶融時のドローダウン性や離型性に優れるため、加熱による金型真空成形を実施しやすい利点がある。
【0090】
本発明の樹脂組成物は各種形状の成形体に加工することができる。該成形体としては、例えば、紙、フィルム、シート、チューブ、板、棒、容器、袋、部品が挙げられる。また、本発明の成形体は、その物性を改善するために、本発明の樹脂組成物とは異なる材料から構成される成形体(例えば、繊維、糸、ロープ、織物、編物、不織布、紙、フィルム、シート、チューブ、板、棒、容器、袋、部品、発泡体等)と複合化することもできる。本発明の成形品の用途は特に限定されず、農業、漁業、林業、園芸、医学、衛生品、衣料、非衣料、包装、自動車、建材、その他の分野に好適に用いることができる。
【実施例】
【0091】
次に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに制限されるものではない。
【0092】
<分子量測定法>
PHBHの重量平均分子量MwをGPC測定により求めた。GPC装置はLC−10Aシステム(島津製作所製)を使用し、カラムはGPCK−806M(昭和電工製)を使用し、カラム温度は40℃とした。対象物質3mgをクロロホルム2mlに溶解したものを、10μl注入して、ポリスチレン換算によりMwを求めた。
【0093】
<P3HA>
各実施例又は比較例では、P3HAとして、PHBH:ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)を使用した。このPHBHは、PHBH生産菌を培養した後、菌体から樹脂成分を回収して得たもので、HH率:PHBH中の3−ヒドロキシヘキサノエートのモル分率(mol%)は5.8mol%、Mwは55.6万である。なお、PHBH生産菌としては、Alcaligenes eutrophusに、Aeromonas caviae由来のPHA合成酵素遺伝子を導入したAlcaligenes eutrophus AC32(J.Bacteriol.,179,4821(1997))を使用した。
【0094】
<変性ナノセルロース>
各実施例では、変性ナノセルロースとして、ヘキサデセニル基(炭素数が16のアルケニル基)を有する無水コハク酸でナノセルロースをモノエステル化した変性ナノセルロースを使用した。なお、当該変性ナノセルロースは、特許第5496435号公報に開示された製造方法により製造した。
【0095】
(実施例1)
PHBH100重量部に対してベヘン酸アミド(BA)0.5重量部、エルカ酸アミド(EA)0.5重量部をドライブレンドして粉体の混合物(以下、「粉体混合物」と称する場合がある)を得た。
【0096】
粉体混合物60重量部に対して、変性ナノセルロース40重量部を添加し、ヘンシェル型ミキサーで混合して混合物を得た。該混合物にはセルロース分が30%含まれているため、以下では、該混合物を、30%粉マスターバッチまたは30%粉MBという。
まず、粉体混合物66重量部と30%粉MB33重量部を押出機外で混合した後、押出機に供給してペレット化した後、射出成形を行なって大きさが10mm×80mm×4mmの短冊状の試験片を得た。以下では、これを、一度練りの試験片という。
【0097】
また、30%粉MBを押出機で混練して、ペレットを得た。以下では、該ペレットを、30%ペレットMBという。粉体混合物66重量部と30%ペレットMB33重量部を押出機外で混合した後、押出機に供給してペレット化した後、射出成形を行なって大きさが10mm×80mm×4mmの短冊状の試験片を得た。以下では、これを、二度練りの試験片という。
【0098】
さらに、30%粉MBを押出機で混練して、30%ペレットMBを得た後、再度該30%ペレットMBを押出機で混練して、30%ペレットMB(2)を得た。粉体混合物66重量部と30%ペレットMB(2)33重量部を押出機外で混合した後、押出機に供給してペレット化した後、射出成形を行なって大きさが10mm×80mm×4mmの短冊状の試験片を得た。以下では、これを、三度練りの試験片という。
【0099】
各試験片は、変性剤(アルケニル基含有無水コハク酸)に由来する部分の重量を除いたナノセルロースが樹脂組成物全体に対して10重量%を占める量で、変性ナノセルロースを含むものである。
【0100】
以上では、押出機として、二軸押出機(テクノベル社製φ15mm,L/D45二軸)を使用し、該押出機の各シリンダー温度を150℃、ダイスヘッドの温度を160℃、スクリュー回転数を200rpmに設定した。射出成形には日精樹脂工業(株)製 NPX7を使用し、シリンダー温度を140〜150℃、金型温度を17℃に設定した。
【0101】
各試験片中のPHBHの結晶化を進めるために、射出成形後に、各試験片を70℃設定の乾燥機で一晩静置してアニーリングを実施した。ただし、アニーリングを実施しない場合は、乾燥機に入れずに各試験に供した。
【0102】
(比較例1)
粉体混合物を押出機に供給してペレット化した後、射出成形を行なって大きさが10mm×80mm×4mmの短冊状の試験片を得た。射出成形時の金型温度を35℃に変更した以外の製造条件は実施例1と同様である。該試験片はセルロース系材料を含有していない。
【0103】
(比較例2)
変性ナノセルロースの代わりに、未変性ナノセルロース(セリッシュKY100G、ダイセルファインケム(株)製)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、各試験片を得た。ただし、射出成形時の金型温度を35℃に変更した。各試験片は、樹脂組成物全体に対して10重量%を占める量でナノセルロースを含む。
【0104】
(比較例3)
変性ナノセルロースの代わりに、未変性の漂白パルプを使用したこと以外は実施例1と同様にして、各試験片を得た。ただし、射出成形時の金型温度を35℃に変更した。各試験片は、樹脂組成物全体に対して10重量%を占める量で漂白パルプを含む。
【0105】
(光学顕微鏡観察)
アニールを実施していない実施例1の三度練りの試験片を150℃の条件で加熱プレスして、光学顕微鏡によりクロスニコル下で偏光観察を行なった。撮影した顕微鏡写真を
図1に示す。
【0106】
図1の顕微鏡写真より、樹脂マトリックス中に繊維状の変性ナノセルロースが分散されていることが分かる。
【0107】
(曲げ試験)
万能試験機((株)島津製作所製、AG5000E型)を用いて速度10mm/min,支点間距離=64mmで三点曲げ試験を行い、各試験片の曲げ弾性率と曲げ強度を測定した。結果を表1及び2に示す。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】
【0110】
以上の結果から、練りの回数に関わらず、変性ナノセルロースを添加した実施例1の各試験片は、セルロース系材料を添加していない比較例1、未変性のナノセルロースを添加した比較例2、及び、未変性の漂白パルプを添加した比較例3の試験片よりも曲げ弾性率及び曲げ強度が大きく向上していることが分かる。このことより、P3HAに変性ナノセルロースを配合することで、強度が向上した成形体が得られることが確認された。
【0111】
(示差走査熱量測定)
日立ハイテクサイエンス社製DSC6220を用いて、各試験片の温度を23℃から200℃まで上昇させた後、23℃まで降下させることにより、結晶化ピーク温度(Tch)を測定した。また、結晶化度は、Macromolecules,28(1995),pp.4822−4828(「参考文献」と称する)に記載のP(3HB−co−5% 3HH)の結晶化度(参考文献のTable2,no2に記載)と、結晶化ピーク面積(ΔHm、参考文献のTable3,no2に記載)の値を元に、各試験片の結晶化ピーク面積(ΔHm)に係数0.609(非特許文献1から算出した係数)を乗じ、樹脂成分の含有率で除した下記の計算式1により算出した。結果を表3に示す。
結晶化度(%)=ΔHm x 0.609/(樹脂成分含有率)
【0112】
【表3】
【0113】
以上の結果から、実施例1の試験片は、結晶化温度(Tch)が高温側にシフトしており、P3HAがより結晶化しやすくなっていること、及び、結晶化度が増加し、P3HAの結晶量が増大していることが分かる。いずれの結果も、変性ナノセルロースの添加によりP3HAの成形加工性が改善されることを示している。
【0114】
(実施例2〜5及び比較例4)
<ペレットの調製>
上述した粉体混合物と30%粉MBを、樹脂組成物全体に対する変性ナノセルロース濃度が0.25重量%、5.0重量%、又は10重量%になるような割合で押出機外で混合した。次に、東芝機械社製の2軸押出機TEM26SSを用いて、各濃度の混合物をシリンダー温度120〜140℃で溶融混練し、φ4mm、3穴のストランドから溶融樹脂を吐出させ、設定60℃の温水で満たされた1.5m長の温浴槽内を通過させて結晶化、固化して、ペレタイザーにてペレット状にカットした。最後にカットしたペレットを60℃で一昼夜乾燥して固化試験に使用した。
【0115】
<固化試験>
固化試験は次のように実施した。DSM社製小型混練機XPloreシリーズMC5を用いて、変性ナノセルロース濃度が異なる各ペレットを設定温度170℃、スクリュー回転数100rpm、混練時間3分で溶融混練した後、溶融した樹脂を約55℃の温浴に投入し、溶融樹脂が固化するのに要した時間を測定した。結晶化が早いほど固化時間が短くなるので、固化試験では数字が小さいほど固化特性が優れていることを意味する。固化特性に優れていることは、成形加工の際に迅速に固化させることができ、成形体を優れた生産性で製造できる(即ち、成形加工性に優れる)ことを意味する。同じ手順で固化時間の測定を3回行い、その平均値を表4に示した。
【0116】
なお、30%粉MBをそのまま固化試験に使用して得られた結果を、変性ナノセルロース濃度が30%の結果とし、粉体混合物をそのまま固化試験に使用したものを、変性ナノセルロース濃度が0%の結果とした。
【0117】
【表4】
【0118】
以上の結果より、変性ナノセルロースを配合することでP3HAの固化時間が短くなり、優れた成形加工性を有する樹脂組成物が得られることが確認された。このような効果が得られたのは、変性ナノセルロースがP3HAに対する結晶核剤として作用したためと推測される。