特許第6935797号(P6935797)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6935797エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体フィルムおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6935797
(24)【登録日】2021年8月30日
(45)【発行日】2021年9月15日
(54)【発明の名称】エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体フィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20210906BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20210906BHJP
   C08F 214/26 20060101ALI20210906BHJP
【FI】
   C08J5/18CEW
   C08L27/18
   C08F214/26
【請求項の数】10
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2018-526344(P2018-526344)
(86)(22)【出願日】2017年6月30日
(86)【国際出願番号】JP2017024236
(87)【国際公開番号】WO2018008562
(87)【国際公開日】20180111
【審査請求日】2020年2月6日
(31)【優先権主張番号】特願2016-132442(P2016-132442)
(32)【優先日】2016年7月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笠井 渉
(72)【発明者】
【氏名】川原 健吾
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−331938(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/103845(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/115187(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/198986(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/068807(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/002887(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/133630(WO,A1)
【文献】 特開2015−157488(JP,A)
【文献】 特開2002−110722(JP,A)
【文献】 特開2001−168117(JP,A)
【文献】 特表2015−519728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
C08F 214/26
C08L 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体フィルムであって、
X線回折法で測定して得られる回折強度曲線における2θ=20°付近のピーク面積S20と、2θ=19°付近のピーク面積S19と、2θ=17°付近のピーク面積S17とから、下式(1)により求められる結晶化度が55〜70%であり、下式(2)により求められる準結晶層の割合が10〜20%であることを特徴とするフィルム。
結晶化度(%)=(S19+S20)/(S17+S19+S20)×100 ・・・(1)
準結晶層の割合(%)=S20/(S17+S19+S20)×100 ・・・(2)
【請求項2】
下記ETFE(A)と下記ETFE(B)との質量比が80/20〜95/5の混合物からなる、請求項1に記載のフィルム。
ETFE(A):テトラフルオロエチレン単位と、エチレン単位と、テトラフルオロエチレンおよびエチレン以外の単量体に基づく第三の単位とを有し、前記テトラフルオロエチレン単位と前記エチレン単位とのモル比が45/55〜65/35であり、前記テトラフルオロエチレン単位と前記エチレン単位との合計に対する前記第三の単位の割合が0.5〜1.5モル%である、エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体。
ETFE(B):テトラフルオロエチレン単位と、エチレン単位と、テトラフルオロエチレンおよびエチレン以外の単量体に基づく第三の単位とを有し、前記テトラフルオロエチレン単位と前記エチレン単位とのモル比が45/55〜65/35であり、前記テトラフルオロエチレン単位と前記エチレン単位との合計に対する前記第三の単位の割合が3.5〜6モル%である、エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体。
【請求項3】
前記ETFE(A)および前記ETFE(B)における前記テトラフルオロエチレンおよびエチレン以外の単量体が、それぞれ独立に、フッ素原子を有する単量体を含む、請求項2に記載のフィルム。
【請求項4】
前記ETFE(A)および前記ETFE(B)における前記テトラフルオロエチレンおよびエチレン以外の単量体が、それぞれ独立に、式X(CFCY=CHで表されるフルオロアルキルエチレンを含み、式中、XおよびYはそれぞれ独立に水素原子またはフッ素原子であり、nは2〜8の整数である、請求項3に記載のフィルム。
【請求項5】
前記式X(CFCY=CH中、Xがフッ素原子であり、Yが水素原子である、請求項4に記載のフィルム。
【請求項6】
半導体素子製造用離型フィルムである、請求項1〜のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項7】
エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体の溶融物を押出成形装置からフィルム状に押し出し、第一の冷却手段のフィルムに接する表面温度が前記共重合体の結晶化温度超かつ前記共重合体の融点未満である前記第一の冷却手段に3〜20秒間接触させて一次冷却物とし、次いで、前記一次冷却物を前記第一の冷却手段から剥離し、剥離した時点から1秒以内に、第二の冷却手段により(前記共重合体の融点−120℃)以上かつ(前記共重合体の融点−80℃)以下の温度に冷却することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載のフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体が、テトラフルオロエチレン単位と、エチレン単位と、テトラフルオロエチレンおよびエチレン以外の単量体に基づく第三の単位とを有する共重合体である、請求項に記載のフィルムの製造方法。
【請求項9】
前記一次冷却物の冷却を、冷却ロールとの接触、エアナイフ、または水中への浸漬により行う、請求項7または8に記載のフィルムの製造方法。
【請求項10】
下記ETFE(A)と下記ETFE(B)との質量比が80/20〜95/5の溶融混合物を押出成形装置からフィルム状に押し出した後、冷却し、請求項1〜6のいずれか一項に記載のフィルムを製造することを特徴とするエチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体フィルムの製造方法。
ETFE(A):テトラフルオロエチレン単位と、エチレン単位と、テトラフルオロエチレンおよびエチレン以外の単量体に基づく第三の単位とを有し、前記テトラフルオロエチレン単位と前記エチレン単位とのモル比が45/55〜65/35であり、前記テトラフルオロエチレン単位と前記エチレン単位との合計に対する前記第三の単位の割合が0.5〜1.5モル%である、エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体。
ETFE(B):テトラフルオロエチレン単位と、エチレン単位と、テトラフルオロエチレンおよびエチレン以外の単量体に基づく第三の単位とを有し、前記トラフルオロエチレン単位と前記エチレン単位とのモル比が45/55〜65/35であり、前記トラフルオロエチレン単位と前記エチレン単位との合計に対する前記第三の単位の割合が3.5〜6モル%である、エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体(以下、「ETFE」ともいう。)フィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップは通常、外気からの遮断・保護のため、パッケージと呼ばれる容器に収容(封止)され、半導体素子として基板上に実装されている。パッケージには、エポキシ樹脂等の硬化性樹脂が用いられている。
半導体素子の製造方法としては、半導体チップ等を、金型内の所定の場所に位置するように配置し、金型内に硬化性樹脂を充填して硬化させる、トランスファ成形法または圧縮成形法による方法が知られている。
前記トランスファ成形法または圧縮成形法においては、金型とパッケージとの離型を容易にするために、金型の硬化性樹脂が接する面に離型フィルムを配置することがある。
前記離型フィルムとしては、その離型性と金型追従性の良さから、フッ素樹脂フィルム、特にETFEフィルムが用いられている。
【0003】
近年、大容量のNAND型フラッシュメモリが増えてきている。これはメモリチップを多段に積層するため、全体の厚みが大きい。したがって、これを製造するための金型のキャビティも深くなってきている。
圧縮成形法にて離型フィルムを用いる場合、圧縮成形の作動機構上、金型の表面に配置された離型フィルムは一度伸ばされ、その後に縮められるため、離型フィルムにシワが発生する問題がある。シワの問題は、金型のキャビティが深くなるにつれて顕著になり、場合によっては、シワになった離型フィルムが硬化性樹脂に食い込み、離型しない、という現象が発生する。
かかる問題に対し、特許文献1では、フィルムに発生するシワを除去するために、特定構造の圧縮成形用型を備える圧縮成形装置が提案されている。
【0004】
特許文献2には、半導体素子の製造に用いられる離型フィルムとして、132℃における引張弾性率が10〜24MPaであり、剥離力の最大値が0.8N/25mm以下である離型フィルムが提案されている。
【0005】
一方、フッ素樹脂フィルムの製造方法としては、溶融させたフッ素樹脂をダイにより押し出し、冷却して固化させる溶融成形法が汎用されている。
特許文献3では、Tダイにより押し出された溶融フッ素樹脂を冷却ロールに接触させて冷却固化させた後巻き取ってフラットフィルムを得るに際し、冷却ロールの表面温度を80〜140℃に設定し、かつ、この冷却ロール上のフィルムに50〜160℃の熱風を吹き付けるようにしたフッ素樹脂フィルムの製造方法が提案されている。この方法によれば、フッ素樹脂の優れた性質を損なうことなく、光学的性質とフラット性に優れたフッ素樹脂フィルムを製造できるとされている。
特許文献4では、エチレン単位、テトラフルオロエチレン単位および特定の(フルオロアルキル)エチレン単位を含む共重合体を融点以上に加熱する溶融工程、溶融した共重合体をフィルムに成形する成形工程、得られたフィルムを共重合体の結晶化温度を保ったままで、上記フィルムのガラス転移温度よりも10℃高い温度以下である冷却ロールに接触させて急冷する冷却工程、および急冷したフィルムを回収する回収工程、を含むフィルムの製造方法が提案されている。この方法によれば、X線回折測定により求められる結晶化度が68%以下であるフィルムを製造でき、該フィルムは、透明性および耐熱性に優れるとされている。
特許文献3〜4では、得られるフッ素樹脂フィルムを、前述の圧縮成形法における離型フィルムとして用いる検討はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−180461号公報
【特許文献2】国際公開第2013/115187号
【特許文献3】特開昭61−27231号公報
【特許文献4】特開2014−141646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の圧縮成形装置は、その装置構造が冗長となり、また、本発明者によれば、シワの除去効果も充分ではなかった。
特許文献2に記載の離型フィルムは、本発明者によれば、圧縮成形時のシワの発生を抑制する効果は充分ではなかった。
本発明者が、特許文献3〜4に記載の方法で得られるフッ素樹脂フィルムを、前述の圧縮成形法における離型フィルムとして用いたところ、圧縮成形時のシワの発生を抑制する効果は充分ではなかった。
本発明の目的は、伸縮させたときにシワが発生しにくいETFEフィルムおよびその製造方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の[1]〜[10]の構成を有する、ETFEフィルムおよびその製造方法を提供する。
[1]エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体フィルムであって、
X線回折法で測定して得られる回折強度曲線における2θ=20°付近のピーク面積S20と、2θ=19°付近のピーク面積S19と、2θ=17°付近のピーク面積S17とから、下式(1)により求められる結晶化度が55〜70%であり、下式(2)により求められる準結晶層の割合が10〜20%であることを特徴とするフィルム。
結晶化度(%)=(S19+S20)/(S17+S19+S20)×100 ・・・(1)
準結晶層の割合(%)=S20/(S17+S19+S20)×100 ・・・(2)
[2]下記ETFE(A)と下記ETFE(B)との質量比が80/20〜95/5の混合物からなる、[1]に記載のフィルム。
ETFE(A):テトラフルオロエチレン単位と、エチレン単位と、テトラフルオロエチレンおよびエチレン以外の単量体に基づく第三の単位とを有し、前記テトラフルオロエチレン単位と前記エチレン単位とのモル比が45/55〜65/35であり、前記テトラフルオロエチレン単位と前記エチレン単位との合計に対する前記第三の単位の割合が0.5〜1.5モル%である、エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体。
ETFE(B):テトラフルオロエチレン単位と、エチレン単位と、テトラフルオロエチレンおよびエチレン以外の単量体に基づく第三の単位とを有し、前記テトラフルオロエチレン単位と前記エチレン単位とのモル比が45/55〜65/35であり、前記テトラフルオロエチレン単位と前記エチレン単位との合計に対する前記第三の単位の割合が3.5〜6モル%である、エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体。
[3]前記ETFE(A)および前記ETFE(B)における前記テトラフルオロエチレンおよびエチレン以外の単量体が、それぞれ独立に、フッ素原子を有する単量体を含む、[2]に記載のフィルム。
[4]前記ETFE(A)および前記ETFE(B)における前記テトラフルオロエチレンおよびエチレン以外の単量体が、それぞれ独立に、式X(CFCY=CHで表されるフルオロアルキルエチレンを含み、式中、XおよびYはそれぞれ独立に水素原子またはフッ素原子であり、nは2〜8の整数である、[3]に記載のフィルム。
[5]前記式X(CFCY=CH中、Xがフッ素原子であり、Yが水素原子である、[4]に記載のフィルム。
]半導体素子製造用離型フィルムである、[1]〜[]のいずれか一項に記載のフィルム。
【0009】
]エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体の溶融物を押出成形装置からフィルム状に押し出し、第一の冷却手段のフィルムに接する表面温度が前記共重合体の結晶化温度超かつ前記共重合体の融点未満である前記第一の冷却手段に3〜20秒間接触させて一次冷却物とし、次いで、前記一次冷却物を前記第一の冷却手段から剥離し、剥離した時点から1秒以内に、第二の冷却手段により(前記共重合体の融点−120℃)以上かつ(前記共重合体の融点−80℃)以下の温度に冷却することを特徴とする、[1]〜[6]のいずれか一項に記載のフィルムの製造方法
8]前記エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体が、テトラフルオロエチレン単位と、エチレン単位と、テトラフルオロエチレンおよびエチレン以外の単量体に基づく第三の単位とを有する共重合体である、[7]に記載のフィルムの製造方法。
[9]前記一次冷却物の冷却を、冷却ロールとの接触、エアナイフ、または水中への浸漬により行う、[7]または[8]に記載のフィルムの製造方法。
【0010】
10]下記ETFE(A)と下記ETFE(B)との質量比が80/20〜95/5の溶融混合物を押出成形装置からフィルム状に押し出した後、冷却し、[1]〜[6]のいずれか一項に記載のフィルムを製造することを特徴とするエチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体フィルムの製造方法。
ETFE(A):テトラフルオロエチレン単位と、エチレン単位と、テトラフルオロエチレンおよびエチレン以外の単量体に基づく第三の単位とを有し、前記テトラフルオロエチレン単位と前記エチレン単位とのモル比が45/55〜65/35であり、前記テトラフルオロエチレン単位と前記エチレン単位との合計に対する前記第三の単位の割合が0.5〜1.5モル%である、エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体。
ETFE(B):テトラフルオロエチレン単位と、エチレン単位と、テトラフルオロエチレンおよびエチレン以外の単量体に基づく第三の単位とを有し、前記テトラフルオロエチレン単位と前記エチレン単位とのモル比が45/55〜65/35であり、前記テトラフルオロエチレン単位と前記エチレン単位との合計に対する前記第三の単位の割合が3.5〜6モル%である、エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体
【発明の効果】
【0011】
本発明のETFEフィルムは、伸縮させたときにシワが発生しにくい。
本発明のETFEフィルムの製造方法によれば、伸縮させたときにシワが発生しにくいETFEフィルムを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の製造方法(i)の第一実施形態を説明する概略図である。
図2】製造方法(i)の第二実施形態を説明する概略図である。
図3】製造方法(i)の第三実施形態を説明する概略図である。
図4】半導体素子の製造方法の一実施形態における工程(1)、(2)を説明する断面図である。
図5】半導体素子の製造方法の一実施形態における工程(3)を説明する断面図である。
図6】半導体素子の製造方法の一実施形態における工程(3)を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書における用語の意味は以下の通りである。
「単位」とは、単量体の重合により直接形成された、該単量体1分子に由来する原子団と、該原子団の一部を化学変換して得られる原子団との総称である。また、特定の単量体に基づく単位をその単量体名に「単位」を付して表す。なお、以下、テトラフルオロエチレンを「TFE」、テトラフルオロエチレン単位を「TFE単位」ともいい、エチレン単位を「E単位」ともいう。
「ETFE」(エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体)とは、TFE単位とE単位とを含む共重合体である。
「ETFEフィルム」とは、ETFEをフィルム状またはシート状(まとめて「フィルム状等」ともいう。)に成形した成形体である。ETFEフィルムには、添加剤が含まれていてもよい。
「伸縮性」は、荷重をかけて引き伸ばしたときに破れにくいこと、および前記荷重を取り去った後の残留変位が少ないこと、の両方を包含する。
「算術平均粗さRa」は、JIS B0601:2013(ISO 4287:1997,Amd.1:2009)に基づき測定される値である。粗さ曲線用の基準長さlr(カットオフ値λc)は0.8mmとする。
ETFEの「溶融流量」は、ASTM D3159に準拠して、荷重49N、297℃にて測定される値である。「溶融流量」は、「MFR」ともいう。MFRは、分子量の目安であり、MFRが大きいほど、分子量が小さい傾向がある。
【0014】
本発明におけるETFEフィルムは、X線回折法で測定して得られる回折強度曲線における2θ=20°付近のピーク面積S20と、2θ=19°付近のピーク面積S19と、2θ=17°付近のピーク面積S17とから、下式(1)により求められる結晶化度が55〜70%であり、下式(2)により求められる準結晶層の割合が10〜20%であるETFEフィルム(以下、かかる特定の結晶化度と準結晶層の割合を有するETFEフィルムを「ETFEフィルム(I)」ともいう。)である。
結晶化度(%)=(S19+S20)/(S17+S19+S20)×100 ・・・(1)
準結晶層の割合(%)=S20/(S17+S19+S20)×100 ・・・(2)
【0015】
ETFEフィルム(I)を得るための手段としては、下記2つの手段が好ましく、これら2つの手段を併用することもできる。ただし、ETFEフィルム(I)を得るための手段はこれらに限られるものではない。また、下記2つの手段は、ETFEフィルム(I)を得るための手段として限定されるものでもない。
1つ目が、ETFEフィルムを構成するETFEが、以下のETFE(A)とETFE(B)とからなり、前記ETFE(A)と前記ETFE(B)との質量比が80/20〜95/5であるETFEを用いる方法である。
ETFE(A):TFE単位とE単位と、TFEおよびエチレン以外の単量体に基づく第三の単位とを有し、TFE単位とE単位とのモル比が45/55〜65/35であり、TFE単位とE単位との合計に対する前記第三の単位の割合が0.5〜1.5モル%である共重合体。
ETFE(B):TFE単位とE単位と、TFEおよびエチレン以外の単量体に基づく第三の単位とを有し、TFE単位とE単位とのモル比が45/55〜65/35であり、TFE単位とE単位との合計に対する前記第三の単位の割合が3.5〜6モル%である共重合体。
そして、2つ目が、溶融ETFEを押出成形装置からフィルム状に押し出し、フィルムの表面温度が該ETFEの結晶化温度(以下、ETFEの結晶化温度を「Tc」ともいう。)超かつ該ETFEの融点(以下、ETFEの融点を「Tm」ともいう。)未満である第一の冷却手段に所定時間接触させて一次冷却物とし、次いで、前記一次冷却物を前記第一の冷却手段から剥離し、剥離した時点から所定時間以内に、第二の冷却手段により(Tm−120℃)以上かつ(Tm−80℃)以下の温度に冷却することを特徴とするフィルムの製造方法である。
【0016】
ETFEのTcは、走査型示差熱分析器(SIIナノテクノロジーズ社製、DSC220CU)を用いて、ETFEを空気雰囲気下に350℃まで10℃/分で加熱し、200℃まで10℃/分で冷却した際の放熱ピークから求める。
ETFEのTmは、走査型示差熱分析器(SIIナノテクノロジーズ社製、DSC220CU)を用いて、ETFEを空気雰囲気下に350℃まで10℃/分で加熱し、200℃まで10℃/分で冷却し、再度350℃まで10℃まで10℃/分で加熱した際の吸熱ピークから求める。
以下、それぞれについて説明する。
【0017】
〔ETFEフィルム(I)〕
回折強度曲線にて2θ=20°付近のピークは、ETFEの準結晶層に由来するピークであり、2θ=19°付近のピークは、ETFEの完全結晶層に由来するピークであり、2θ=17°付近のピークは、ETFEの非晶質層に由来するピークである。
したがって、前記式(1)により求められる結晶化度(%)は、ETFEフィルム中のETFEの準結晶層と完全結晶層と非晶質層との合計に対する、準結晶層と完全結晶層との合計の比率を示す。前記式(2)により求められる準結晶層の割合は、準結晶層と完全結晶層と非晶質層との合計に対する準結晶層の比率を示す。
【0018】
前記結晶化度は、55〜70%であり、60〜70%が好ましい。結晶化度が前記範囲内であることにより、ETFEフィルムが引き伸ばされたときに破れにくい。前記結晶化度が55%未満であると、ETFEフィルムの強度が低くなり破れやすくなる。前記結晶化度が70%超であると、ETFEフィルムが脆くなり破れやすくなる。
前記準結晶層の割合は、10〜20%であり、10〜17%が好ましい。準結晶層の割合が10%以上であれば、ETFEフィルムが伸縮性に優れ、引き伸ばした後の残留変位が少ない。そのため、例えばETFEフィルムを離型フィルムとして用いて圧縮成形法により半導体素子を製造する場合に、硬化性樹脂による封止後の離型を困難にするようなシワが発生しにくい。前記準結晶層の割合が20%以下であることにより、寸法安定性に優れる。
【0019】
ETFEフィルムのX線回折法による測定は、ETFEフィルムの一部を切り取って作製されるサンプルをサンプル用石英板に貼り付け、サンプル台に固定し、粉末X線回折装置を用いて、以下の測定条件にて行われる。
(測定条件)
測定装置: Bruker社製、D2 PHASER
測定方法: 2θ/θ法
測定範囲: 2θ=10〜30°
X線強度: 30kV、10mA
X線源: CuKα線
解析ソフト: Bruker社製、TOPAS Ver.4.2
測定温度: 室温(20〜25℃)
【0020】
得られた回折強度曲線について、解析ソフトを用いてカーブフィッティングを行う。関数はピアソンvii関数を用い、フィッティングカーブと実曲線の差が10%以下となるように行う。ピーク分離法を用い、非結晶部分のピーク位置は、2θ=17.268°とし、二つの結晶ピークについては20°、19°を開始点として、カーブの最適化を自動検出させる。ピークの半価幅は自動最適化させた。結晶ピークは2つあり、それぞれの面積比を求める。求めた面積比に基づき、上記の式に従って結晶化度および準結晶層の割合を算出する。
回折強度曲線において、2θ=20°付近のピークは、通常2θ=20°±0.4の範囲内に観察され、2θ=19°付近のピークは、通常2θ=19°±0.4の範囲内に観察され、2θ=17°付近のピークは、通常2θ=17°±0.4の範囲内に観察される。
【0021】
ETFEフィルム(I)を構成するETFEとしては、TFE単位と、E単位と、TFEおよびエチレン以外の単量体(以下、「第三の単量体」ともいう。)に基づく第三の単位とを含む重合体が好ましい。第三の単位の種類や含有量によってETFEの結晶化度を調整できる。例えば第三の単位をフッ素原子を有する単量体に基づく単位にすると、結晶化度が低くなり、高温(特に180℃前後における引張強伸度)が向上する。
【0022】
第三の単量体としては、フッ素原子を有する単量体と、フッ素原子を有しない単量体とが挙げられる。
フッ素原子を有する単量体としては、炭素数2または3のフルオロオレフィン、式X(CFCY=CH(ただし、X、Yは、それぞれ独立に水素原子またはフッ素原子であり、nは2〜8の整数である。)で表されるフルオロアルキルエチレン、フルオロビニルエーテル、脂肪族環構造を有する含フッ素単量体等が挙げられる。
【0023】
前記フルオロオレフィンの具体例としては、フルオロエチレン(トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、クロロトリフルオロエチレン等)、フルオロプロピレン(ヘキサフルオロプロピレン(以下、「HFP」ともいう。)、2−ヒドロペンタフルオロプロピレン等)が挙げられる。
【0024】
前記フルオロアルキルエチレンとしては、nが2〜6の単量体が好ましく、nが2〜4の単量体がより好ましい。また、Xがフッ素原子、Yが水素原子である単量体、すなわち(ペルフルオロアルキル)エチレンが特に好ましい。
前記フルオロアルキルエチレンの具体例としては、CH=CHCFCF、CH=CHCFCFCFCF((ペルフルオロブチル)エチレン。以下、「PFBE」ともいう。)、CH=CFCFCFCFCF、CH=CFCFCFCFH、CH=CFCFCFCFCFHが挙げられる。
【0025】
前記フルオロビニルエーテルの具体例としては、CF=CFOCF、CF=CFOCFCF、CF=CFO(CFCF(ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)。以下、「PPVE」ともいう。)、CF=CFOCFCF(CF)O(CFCF、CF=CFO(CFO(CFCF、CF=CFO(CFCF(CF)O)(CFCF、CF=CFOCFCF(CF)O(CFCF、CF=CFOCFCF=CF、CF=CFO(CFCF=CFが挙げられる。なお、上記のうちジエンである単量体は、環化重合し得る単量体である。
【0026】
また、前記フルオロビニルエーテルは、官能基を有していてもよい。
前記官能基を有するフルオロビニルエーテルの具体例としては、CF=CFO(CFCOCH、CF=CFOCFCF(CF)O(CFCOCH、CF=CFOCFCF(CF)O(CFSOFが挙げられる。
【0027】
前記脂肪族環構造を有する含フッ素単量体の具体例としては、ペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)、2,2,4−トリフルオロ−5−トリフルオロメトキシ−1,3−ジオキソール、ペルフルオロ(2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)が挙げられる。
【0028】
フッ素原子を有しない単量体としては、オレフィン、ビニルエステル、ビニルエーテル、不飽和酸無水物等が挙げられる。
前記オレフィンの具体例としては、プロピレン、イソブテンが挙げられる。
前記ビニルエステル化合物の具体例としては、酢酸ビニルが挙げられる。
前記ビニルエーテル化合物の具体例としては、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテルが挙げられる。
前記不飽和酸無水物の具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水ハイミック酸(5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物)が挙げられる。
【0029】
第三の単量体は、1種を単独使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
第三の単量体としては、結晶化度を調整しやすい点から、X(CFCY=CHで表されるフルオロアルキルエチレン、HFP、PPVE、酢酸ビニルが好ましく、高温(特に180℃前後)における引張強伸度に優れる点から、HFP、PPVE、CFCFCH=CH、PFBEがより好ましく、PFBEが特に好ましい。すなわち、ETFEとしては、TFE単位と、E単位と、PFBE単位とを有する共重合体が特に好ましい。
【0030】
ETFE(I)において、TFE単位とE単位とのモル比(TFE単位/E単位)は、ETFEの耐熱性および機械的強度に優れる点から、45/55〜65/35であり、50/50〜65/35が好ましく、50/50〜60/40が特に好ましい。
ETFE(I)において、TFE単位とE単位との合計に対する第三の単位の割合は、ETFEの耐熱性および機械的強度に優れる点から、0.5〜10.0モル%が好ましく、1.0〜8.0モル%がより好ましく、1.2〜4.0モル%が特に好ましい。
なお、ETFEの全単位の合計のうち、TFE単位と単位E単位と第三の単位との合計は100モル%である。
【0031】
ETFEフィルム(I)は、樹脂成分のみからなるものでもよく、他の成分をさらに含有してもよい。他の成分の具体例としては、滑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、可塑剤、離型剤等の各種の添加剤が挙げられる。これらの添加剤は、1種を単独使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
ETFEフィルム(I)を半導体素子製造用離型フィルムとして用いる場合、ETFEフィルム(I)は、金型やパッケージを汚しにくい点で、他の成分を含まないのが好ましい。
ETFEフィルム(I)は、単層フィルムが好ましい。
【0032】
ETFEフィルム(I)の表面は平滑でもよく凹凸が形成されていてもよく、一方の表面が平滑で、他方の表面に凹凸が形成されていてもよい。
凹凸が形成されている場合の表面形状は、複数の凸部および凹部のうち一部または全部がランダムに分布した形状でもよく、複数の凸部および凹部のうち一部または全部が規則的に配列した形状でもよい。凸部および凹部の形状や大きさは、同じでもよく異なってもよい。
凸部としては、離型フィルムの表面に延在する長尺の凸条、点在する突起等が挙げられ、凹部としては、離型フィルムの表面に延在する長尺の溝、点在する穴等が挙げられる。
凸条または溝の形状としては、直線、曲線、折れ曲がり形状等が挙げられる。離型フィルム表面においては、複数の凸条または溝が平行に存在して縞状をなしていてもよい。凸条または溝の、長手方向に直交する方向の断面形状としては、三角形(V字形)等の多角形、半円形等が挙げられる。
突起または穴の形状としては、三角錐形、四角錐形、六角錐形等の多角錐形、円錐形、半球形、多面体形、その他各種不定形等が挙げられる。
【0033】
ETFEフィルム(I)を半導体素子製造用離型フィルムとして用いる場合、ETFEフィルム(I)の、樹脂封止部の形成時に金型と接する表面の算術平均粗さRaは、0.2〜2.5μmが好ましく、0.2〜2.0μmが特に好ましい。前記算術平均粗さRaが前記範囲の下限値以上であれば、前記表面と金型がブロッキングを起こしにくく、ブロッキングによるシワが生じにくい。また、ETFEフィルム(I)の金型からの離型性がより優れる。前記算術平均粗さRaが2.5μm以下であれば、離型フィルムにピンホールが開きにくい。
【0034】
ETFEフィルム(I)の厚さは、50〜100μmが好ましく、50〜75μmが特に好ましい。ETFEフィルム(I)の厚さが前記範囲の下限値以上であれば、ETFEフィルム(I)の取り扱い(例えばロール・トゥ・ロールでの扱い)が容易であり、ETFEフィルム(I)を引っ張りながら金型のキャビティを覆うように配置する際に、シワが発生しにくい。ETFEフィルム(I)の厚さが100μm以下であれば、ETFEフィルム(I)が容易に変形可能であり、金型追従性に優れる。
【0035】
ETFEフィルム(I)は、結晶化度および準結晶層の割合がそれぞれ前記範囲内であることにより、伸縮性に優れ、荷重をかけて引き伸ばしたときに破れにくく、また、その荷重を取り去った後の残留変位が少ない。残留変位が少ないことから、伸縮させたときにシワが発生しにくい。例えば圧縮成形法による半導体素子の製造において、ETFEフィルム(I)を離型フィルムとして金型に配置し、硬化性樹脂によって封止する際、金型に密着させた離型フィルムのシワが従来よりも軽減される。例えば、離型できなくなるような、離型フィルムのパッケージへの食い込みが抑制される。
ETFEフィルム(I)は、従来離型フィルムとして用いられているETFEフィルムに比べて結晶層の割合(結晶化度)が高く、また、結晶層に占める準結晶層の割合が高い。準結晶層は剛直さとフレキシブルさのバランスが良く、擬架橋構造として働くため、フィルムの伸縮性が高くなると考えられる。
また、残留変位が少ないことから、建造物用として、2枚のフィルムを貼り合わせた間に空気を入れる、いわゆる空気膜構造を作る際に、空気を入れて膨らませてもフィルムが破れにくく、空気を抜いた際にフィルムが縮むため、繰り返し使用できる。
また、残留変位が少ないことから、農業ハウス用のフィルムとして使用する際に、雨等でフィルムに水がたまり、フィルムが伸びてしまう現象を防ぎやすく、水を取り去ると速やかに元の張りに戻る。
【0036】
本発明は、また、ETFE(A)とETFE(B)とを前記の質量比で組み合わせた混合物を用いて得られたETFEフィルムである。かかるETFEフィルムを、以下、「ETFEフィルム(II)」という。ETFEフィルム(II)は、伸縮させたときにシワが発生しにくい。
ETFEフィルム(II)において、ETFE(B)は、第三の単位の含有量が多いことでETFE(A)よりも結晶化しにくい。ETFE(A)の結晶化の際、ETFE(B)が入り込むことでETFE(A)の結晶化を阻害し、完全結晶層の成長を抑制し、準結晶層の割合を高める。これにより、得られるETFEフィルムが、結晶層の割合(結晶化度)が高く、また、結晶層に占める準結晶層の割合が高くなると考えられ、伸縮させたときにシワが発生しにくいフィルムとなる。
ETFEフィルム(II)は、ETFEフィルム(I)と同じ結晶化度および準結晶層の割合を有していることが好ましい。すなわち、ETFEフィルム(II)はETFEフィルム(I)であることが好ましい。
【0037】
(ETFE(A))
ETFE(A)は、TFE単位とE単位と第三の単位とを有する。
ETFE(A)における第三の単位となる単量体としては、前記ETFE(I)における第三の単量体が挙げられる。ETFE(A)における第三の単位は2種以上の単位からなっていてもよい。ETFE(A)における第三の単位としては、(ペルフルオロアルキル)エチレン単位が特に好ましい。
【0038】
ETFE(A)において、TFE単位とE単位とのモル比(TFE単位/E単位)は、ETFEの耐熱性および機械的強度に優れる点から、45/55〜65/35であり、50/50〜65/35が好ましく、50/50〜60/40が特に好ましい。
【0039】
ETFE(A)において、TFE単位とE単位との合計に対する第三の単位の割合は、0.5〜1.5モル%であり、0.8〜1.5モル%が好ましく、1.0〜1.5モル%が特に好ましい。第三の単位の割合が1.5モル%以下であれば、ETFE(A)が結晶化しやすく、完全結晶層が形成されやすい。そのため、これを含むフィルムの結晶化度を高く、例えば55%以上とすることができる。また、耐熱性にも優れる。第三の単位の割合が0.5モル%以上であれば、機械的強度に優れる。
なお、ETFE(A)の全単位の合計のうち、TFE単位とE単位と第三の単位との合計は100モル%である。
【0040】
ETFE(A)のMFRは、ETFEの成形性が向上し、ETFEフィルムの機械的強度に優れる点から、2〜40g/10分が好ましく、5〜30g/10分がより好ましく、10〜20g/10分が特に好ましい。
【0041】
(ETFE(B))
ETFE(B)は、TFE単位とE単位と第三の単位とを有する。
ETFE(B)における第三の単位となる単量体としては、前記ETFE(I)における第三の単量体が挙げられる。ETFE(B)における第三の単位は2種以上の単位からなっていてもよい。また、ETFE(B)における第三の単位は、ETFE(A)における第三の単位と同じであってもよく異なってもよい。ETFE(B)における第三の単位としては、(ペルフルオロアルキル)エチレン単位が特に好ましい。
ETFE(B)におけるTFE単位とE単位とのモル比は、ETFE(A)と同様に、45/55〜65/35であり、好ましい範囲もETFE(A)と同様である。
【0042】
ETFE(B)において、TFE単位とE単位との合計に対する第三の単位の割合は、3.5〜6モル%であり、3.5〜5.5モル%が好ましく、3.5〜4.5モル%が特に好ましい。第三の単位の割合が3.5モル%以上であれば、ETFE(B)が結晶化しにくい。そのため、ETFE(B)をETFE(A)とともに成形してフィルムを得る際に、ETFE(B)によってETFE(A)の結晶化が阻害され、完全結晶層の成長が抑制され、準結晶層が成長する。そのため、例えば準結晶層の割合が10%以上、かつ結晶化度が70%以下であるETFEフィルムを得られる。第三の単位の割合が5.5モル%以下であれば、ETFEフィルムの耐熱性が優れる。
なお、ETFE(B)の全単位の合計のうち、TFE単位とE単位と第三の単位との合計は100モル%である。
ETFE(B)のMFRの好ましい範囲はETFE(A)と同様である。
【0043】
(ETFE(A)とETFE(B)との質量比)
ETFE(A)とETFE(B)との質量比(ETFE(A)/ETFE(B))は、80/20〜95/5であり、85/15〜95/5が好ましく、90/10〜95/5が特に好ましい。
ETFE(A)とETFE(B)との合計100質量部に対してETFE(A)が80質量部以上であれば、ETFE(A)とETFE(B)との混合物を成形してフィルムを得る際に、結晶化度が高く、例えば55%以上となりやすい。
また、ETFE(A)とETFE(B)との合計100質量部に対してETFE(B)が5質量部以上であれば、ETFE(A)とETFE(B)との混合物を成形してフィルムを得る際に、ETFE(B)によってETFE(A)の結晶化が阻害され、完全結晶層の成長が抑制されて準結晶層が成長する。そのため、例えば準結晶層の割合が10〜20%、かつ結晶化度が70%以下であるETFEフィルムを得ることができる。
ETFE(A)とETFE(B)との合計100質量部に対してETFE(B)が20質量部を超えると、ETFE(A)とETFE(B)が相容の状態になりづらく、ETFE(B)によってETFE(A)の結晶化が充分に阻害されず、準結晶層が充分に成長しないおそれがある。
【0044】
ETFEフィルム(II)は、ETFE(A)およびETFE(B)のみからなるものでもよく、ETFE(A)およびETFE(B)に加えて、ETFE以外の他の成分をさらに含んでもよい。ETFEフィルムを半導体素子製造用離型フィルムとして用いる場合、金型やパッケージを汚しにくい点では、他の成分を含まないことが好ましい。
ETFEフィルム(II)は、単層フィルムであることが好ましい。
【0045】
ETFEフィルム(II)の表面は平滑でもよく凹凸が形成されていてもよく、一方の表面が平滑で、他方の表面に凹凸が形成されていてもよい。
ETFEフィルム(II)を半導体素子製造用離型フィルムとして用いる場合、離型性に優れる点では、上述した通り、凹凸が形成されていることが好ましい。
ETFEフィルム(II)を半導体素子製造用離型フィルムとして用いる場合、ETFEフィルム(II)の、樹脂封止部の形成時に金型と接する表面の算術平均粗さRaの好ましい範囲は、ETFEフィルム(I)と同様である。
ETFEフィルム(II)の厚さの好ましい範囲は、ETFEフィルム(I)と同様である。
【0046】
(ETFEフィルム(II)の製造方法)
ETFE(A)とETFE(B)との前記質量比の溶融混合物を押出成形装置からフィルム状に押し出した後、冷却することにより、ETFEフィルム(II)を製造できる。
かかるETFEフィルム(II)の製造は、例えば、押出成形装置と、冷却ロール等の冷却手段と、巻取ロールとを備えた製造装置を用いて実施できる。
押出成形装置は、ETFEを溶融させ、ダイから任意の押出速度で連続的に押し出すために用いられる。ダイは、溶融ETFEをフィルム状等に賦形するものであり、フラットダイ(Tダイ)等が挙げられる。押出成形装置としては、特に限定されず、単軸押出機、二軸押出機等の公知の押出成形装置を用いることができる。
押出成形装置に供給するETFE(A)とETFE(B)としては、あらかじめ溶融混合された混合物であってもよく、あらかじめ溶融混合されていないETFE(A)とETFE(B)とを供給して押出成形装置内で溶融混合してもよい。好ましくは、ETFE(A)とETFE(B)とをあらかじめ溶融混合してペレット化し、得られたペレットを押出成形装置に供給してフィルムを製造する。
冷却ロールとしては、表面温度を調節できるものが好ましく用いられる。なお、後述のように、冷却ロールを2つ以上用い、段階的に冷却してもよい。
溶融温度、冷却温度は適宜決定できる。
押出成形装置に供給するETFE(A)やETFE(B)またはそれらの混合物に予めETFE以外の添加剤が添加されていてもよく、押出成形装置にそれらとともに添加剤を供給してもよい。
ただしETFEフィルム(II)の製造方法は、これに限定されるものではなく、ETFEとして、ETFE(A)とETFE(B)とを前記の質量比で用いる以外は公知の方法で製造できる。
【0047】
本発明は、さらに、2段冷却によるETFEフィルムの製造方法であり、伸縮させたときにシワが発生しにくいフィルムを製造することができる。この製造方法は、ETFEフィルム(I)を製造する方法として好ましい方法であるが、これに限られず、ETFEフィルム(II)やそれ以外のETFEフィルムを製造する方法としても適している。
以下、この2段冷却によるETFEフィルムの製造方法を「製法方法(i)」ともいう。
【0048】
製法方法(i)において、原料として用いられるETFEは、特に限定されない。
ETFEにおいて、TFE単位とE単位とのモル比(TFE単位/E単位)は、ETFEの耐熱性および機械的強度に優れる点から、45/55〜65/35が好ましく、50/50〜65/35がより好ましく、50/50〜60/40が特に好ましい。
【0049】
ETFEにおいて、TFE単位とE単位との合計に対する第三の単位の割合は、ETFEの耐熱性および機械的強度に優れる点から、0.5〜10.0モル%が好ましく、1.0〜8.0モル%がより好ましく、1.2〜4.0モル%が特に好ましい。
なお、ETFEの全単位の合計のうち、TFE単位と単位E単位と第三の単位との合計は100モル%である。
【0050】
原料として用いられるETFEは1種でもよく2種以上でもよい。例えば、前記ETFE(A)およびETFE(B)を含む特定の混合物のように、2種類以上の共重合体を混合して用いてもよい。ETFEが2種以上の場合、ETFEの全単位の合計のうち、TFE単位とE単位との合計に対する第三の単位の割合が平均して上記の範囲にあることが好ましい。
ETFEとして2種の混合物を用いる場合には、Tcは、下式(3)により求められる値であり、Tmは下式(4)により求められる値である。
Tc(℃)=[ETFE(A)のTc)×(前記ETFE中のETFE(A)の質量割合(%))/100]+[(ETFE(B)のTc)×(前記ETFE中のETFE(B)の質量割合(%)/100)]・・・(3)
Tm(℃)=[ETFE(A)のTm)×(前記ETFE中のETFE(A)の質量割合(%)/100)]+[(ETFE(B)のTm)×(前記ETFE中のETFE(B)の質量割合(%)/100)]・・・(4)
押出成形装置に供給するETFEに予めETFE以外の添加剤が添加されていてもよく、押出成形装置にETFEとともに添加剤を供給してもよい。
【0051】
本発明の製法方法(i)において、第一の冷却手段としては、例えば表面温度を調節できるロール(冷却ロール)が用いられる。一次冷却物の冷却手段、すなわち、第二の冷却手段としては、例えば、冷却ロール、エアナイフ、水中への浸漬(水槽等)が用いられる。以下、第一の冷却手段として冷却ロール(以下、「第一冷却ロール」という。)を使用し、第二の冷却手段として冷却ロール(第一の実施形態)、エアナイフ(第二の実施形態)、または水槽(第三の実施形態)を用いる場合を説明する。
【0052】
(第一の実施形態)
図1の製造装置10は、図示しない押出成形装置におけるダイ11と、第一冷却ロール13(第一の冷却手段)と、第二の冷却手段としての冷却ロール15(以下、「第二冷却ロール」という。)と、巻取ロール17とを備える。
【0053】
ダイ11は、溶融ETFEをフィルム状等に賦形するものであり、フラットダイ(Tダイ)等が挙げられる。
ダイ11を有する押出成形装置は、ETFEを溶融させ、ダイ11から任意の押出速度で連続的に押し出すために用いられる。押出成形装置としては、特に限定されず、単軸押出機、二軸押出機等の公知の押出成形装置を用いることができる。
【0054】
第一冷却ロール13としては、表面温度を調節できるものが用いられる。第一冷却ロール13としては、公知のものを用いることができ、例えば、回転軸に取り付けられる内筒と、内筒の外側に配置される外筒とを備え、内筒と外筒との間に熱媒体(冷媒)を流通または保持するロールが挙げられる。
第二冷却ロール15としては、第一冷却ロール13と同様のものが挙げられる。
【0055】
製造装置10では、以下の手順でETFEフィルムが製造される。
ETFEを押出成形装置(図示略)に供給し、該ETFEのTm以上の温度に加熱して溶融させ、その溶融物1を連続的にダイ11に供給してフィルム状に押し出す。押し出されたフィルム状の溶融物1を、ダイ11の下方に配置された第一冷却ロール13に引き取り、回転する第一冷却ロール13に沿って移動させて一次冷却物を得る。
得られた一次冷却物を第一冷却ロール13から剥離し、第二冷却ロールに接触させてさらに冷却してETFEフィルム3を得る。
得られたETFEフィルム3は巻取ロール17で巻き取られてロール状とされる。
【0056】
押出成形装置内の温度は、ETFEを溶融させるために、供給したETFEのTm以上であり、(ETFEのTm+10℃)以上かつ(ETFEのTm+150℃)以下が好ましく、(ETFEのTm+20℃)以上(ETFEのTm+100℃)以下が特に好ましい。押出成形装置内の温度がETFEのTm以上であると、均質な溶融物を得られるので安定した押出成形が可能である。押出成形装置内の温度が(ETFEのTm+100℃)以下であると、熱分解に伴う材料の劣化を抑えられる。
ダイ11内の温度の好ましい範囲も同様である。
【0057】
ダイ11と第一冷却ロール13との間のエアギャップ(ダイ11の出口と第一冷却ロール13との間の最短距離)は、100mm以下が好ましく、50mm以下が特に好ましい。エアギャップが100mm以下であれば、ダイ11から押し出された溶融物1が最初に第一冷却ロール13と接触するまでの時間が充分に短く、第一冷却ロール13と接触するまでに溶融物1の温度がETFEのTc以下になることを防止でき、完全結晶層が成長しにくいため、結晶化度の低いETFEフィルムを得やすい。
【0058】
第一冷却ロール13と接触した溶融物1は、回転する第一冷却ロール13に沿って移動しながら第一冷却ロール13の表面温度にまで冷却され、その温度に保持されることで一次冷却物となる。
第一冷却ロール13の表面温度は、ETFEのTc超かつTm未満であり、(ETFEのTc+2℃)以上かつ(ETFEのTm−1℃)以下が好ましく、(ETFEのTc+4℃)以上かつ(ETFEのTm−1℃)以下がより好ましい。
また、溶融物1と第一冷却ロール13とが接触した状態を、所定時間保持する(以下、この時間を「保持時間」ともいう。)。すなわち、保持時間とは、溶融物1が最初に第一冷却ロール13と接触した時点から、第一冷却ロール13から剥離されるまでに保持される所定時間を指す。保持時間は、完全結晶層および準結晶層が充分に成長し、かつ、一次冷却物が第一冷却ロールから剥がれる「だれ」が生じにくくなるように、適宜決定できる。保持時間は、3〜20秒間が好ましく、3〜15秒間がより好ましく、5〜12秒間が特に好ましい。
第一冷却ロール13の表面温度がETFEのTc超かつTm未満であり、保持時間が3秒間以上であれば、完全結晶層および準結晶層を充分に成長させ、結晶化度が55%以上、かつ準結晶層の割合が10%以上のETFEフィルムが得られる。第一冷却ロール13の表面温度がETFEのTc超かつTm未満であり、保持時間が20秒間以下であれば、結晶化度が75%以下、かつ準結晶層の割合が20%以下のETFEフィルムが得られる。また、一次冷却物が第一冷却ロールから剥がれる「だれ」が生じにくい。
第一冷却ロール13の表面温度が前記範囲のETFEのTc未満であると、準結晶層が充分に成長せず、得られるETFEフィルムの準結晶層の割合が低くなり、結晶化度が75%を超えるおそれがある。
【0059】
得られた一次冷却物は、第一冷却ロール13から剥離され、第二冷却ロール15にて冷却されてETFEフィルム3となる。
このときの冷却条件は、得られるETFEフィルム3の温度、つまり冷却後の一次冷却物の温度(以下、「冷却温度」ともいう。)が、第一冷却ロール13から剥離した時点から所定時間以内に(ETFEのTm−120℃)以上かつ(ETFEのTm−80℃)以下となるように設定される。冷却温度は、150℃以上かつ(第一冷却ロール13の温度−120℃)以下が好ましく、180℃以上かつ(第一冷却ロール13の温度−130℃)以下がより好ましい。
第二冷却ロール15は、第一冷却ロール13から剥離した一次冷却物を、剥離した時点から1秒間以内に(ETFEのTm−120℃)以上かつ(ETFEのTm−80℃)以下に冷却できるように、第一冷却ロール13との間の距離および表面温度が設定されればよい。
第二冷却ロール15の表面温度は、(第一冷却ロール13の表面温度−180℃)以上かつ(第一冷却ロール13の表面温度−120℃)以下が好ましい。第二冷却ロール15の表面温度がこの範囲内であれば、第一冷却ロール13および第二冷却ロール15それぞれの表面温度を一定に保ちながら、冷却直後のフィルムの温度を適切な範囲にできる。
また、一次冷却物を第一冷却ロール13から剥離した時点から第二冷却ロール15にて前記の冷却温度にまで冷却する時間(以下、「冷却時間」ともいう。)は、充分に冷却でき、かつ、完全結晶層および準結晶層を固定できるように、適宜決定できる。冷却時間は、1秒間以内が好ましく、0.5秒間以内が好ましく、0.2秒間以内が特に好ましい。
前記冷却時間で前記冷却温度まで急冷することにより、成長した完全結晶層および準結晶層を固定できる。冷却温度が(ETFEのTm−80℃)よりも高い場合は、冷却が不充分で、準結晶層が完全結晶層に転移してしまうおそれがある。
一方で、冷却温度が(ETFEのTm−120℃)未満であると、溶融状態から急激に冷却され、完全結晶層含め結晶化自体が起こりにくく、結晶化度が低くなりすぎやすい。
第一冷却ロール13の一次冷却物を剥離する位置から第二冷却ロール15までの距離は、2〜10cmが好ましく、2〜5cmが特に好ましい。
一次冷却物が上記の冷却温度に急冷されたかどうかは、一次冷却物が第一冷却ロール13から離れてから所定の冷却時間後(例えば、1秒後)に到達する位置に、プラスチックフィルム測定用非接触温度センサ(シロ産業社製のM1241−IR14−790−T10SF−C3シリーズ(測定波長7.9μm)等)を設置し、ETFEフィルムの表面温度を測定することにより確認できる。ETFEフィルム表面温度が上記の冷却温度になっている場合は急冷されたと判断できる。
【0060】
(第二の実施形態)
図2の製造装置20は、図示しない押出成形装置におけるダイ11と、第一冷却ロール13(第一の冷却手段)と、エアナイフ25(第二の冷却手段)と、巻取ロール17とを備える。
製造装置20は、第二冷却ロール15の代わりにエアナイフ25を備える以外は、製造装置10と同様である。
エアナイフ25は、公知のものを用いることができる。
【0061】
製造装置20では、以下の手順でETFEフィルムが製造される。
前記と同様に一次冷却を行い、次いで、得られた一次冷却物を第一冷却ロール13から剥離し、エアナイフ25によりさらに冷却してETFEフィルム3を得る。
得られたETFEフィルムは巻取ロール17で巻き取られてロール状とされる。
【0062】
第二の実施形態におけるETFEフィルムの製造は、第二冷却ロール15と接触させる代わりにエアナイフ25を用いて一次冷却物を冷却する以外は、第一実施形態と同様にして行うことができる。
エアナイフ25による冷却は、層状のエア流を一次冷却物に吹き付けて行う。
このときの冷却条件は、得られるETFEフィルム3の温度(冷却温度)が所定の冷却時間内に(Tm−120℃)以上かつ(Tm−80℃)以下となるように設定される。冷却温度および冷却時間の好ましい範囲は第一実施形態と同様である。
エアナイフ25から吹き付けるエアの温度は、80℃以下が好ましく、70℃以下が特に好ましい。
エアナイフ25から吹き付けるエアの流速は、10〜20m/秒が好ましく、12〜18m/秒が特に好ましい。エアの流速が10m/秒以上であれば、一次冷却物を目的の温度にまで冷却する時間が充分に短くなる。エアの流速が20m/秒以下であれば、一次冷却物のばたつきを少なく抑えられる。
第一冷却ロール13の一次冷却物を剥離する位置からエアナイフ25までの距離は、2〜15cmが好ましく、3〜10cmが特に好ましい。
本実施形態では、第一実施形態と同様に、一次冷却物が第一冷却ロール13から離れてから所定の冷却時間後に到達する位置に、プラスチックフィルム測定用非接触温度センサを設置し、フィルムの表面温度を測定することにより、一次冷却物が上記の冷却温度に急冷されたかどうかを確認できる。保持時間や冷却時間の好ましい範囲は第一実施形態と同様である。
【0063】
(第三の実施形態)
図3の製造装置30は、図示しない押出成形装置におけるダイ11と、第一冷却ロール13(第一の冷却手段)と、複数のガイドロール31および33と、水槽35(第二の冷却手段)と、巻取ロール17とを備える。
水槽35は、一次冷却物を冷却するための水を収容する。
製造装置30は、第二冷却ロール15の代わりに水槽35を備え、さらに複数のガイドロール31および33を備える以外は、製造装置10と同様である。
【0064】
製造装置30では、以下の手順でETFEフィルムが製造される。
前記と同様に一次冷却を行い、次いで、得られた一次冷却物を、ガイドロール31により第一冷却ロール13から剥離し、ガイドロール33により水槽35に導入し、水槽35内の水中に浸漬することによりさらに冷却して、ETFEフィルム3を得る。
得られたETFEフィルムは巻取ロール17で巻き取られてロール状とされる。
【0065】
第三の実施形態におけるETFEフィルムの製造は、第二冷却ロール15と接触させる代わりに水槽35内の水中に浸漬することにより一次冷却物を冷却する以外は、第一実施形態と同様にして行うことができる。
このときの冷却条件は、得られるETFEフィルム3の温度(冷却温度)が所定の冷却時間内に(Tm−120℃)以上(Tm−80℃)以下となるように設定される。冷却温度および冷却時間の好ましい範囲は第一実施形態と同様である。
一次冷却物が第一冷却ロール13から離れて水槽35の水中に入るまでの時間は、1秒以内が好ましい。前記時間が1秒を超えると、一次冷却物の温度が、一時冷却物が水に浸かる前に下がるため、完全結晶が多くなりやすい。第一冷却ロール13の一次冷却物を剥離する位置から水槽35までの距離は、1秒間以内に一次冷却物を水槽35に入れやすい点で、15cm以下が好ましく、3〜15cmがより好ましく、3〜12cmが特に好ましい。
水槽35内の水の温度は、80℃以下が好ましく、70℃以下が特に好ましい。
一次冷却物が水槽35内の水に浸かっている時間は、3秒間以上が好ましい。
本実施形態では、一次冷却物が第一冷却ロール13から離れて所定時間以内に水槽35に入り、水槽35に入ってから1秒後の位置で空気中に一瞬出る構造にし、該位置でプラスチックフィルム測定用非接触温度センサにてフィルムの表面温度を測定する。フィルム表面温度が上記の冷却温度となっている場合は急冷されたと判断できる。
【0066】
以上、製造方法(i)について、第一〜第三の実施形態を示して説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。上記実施形態における各構成およびそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
例えば、一次冷却物の冷却を、冷却ロールとの接触、エアナイフ、または水中への浸漬により行う例を示したが、これら以外の他の冷却手段を用いてもよい。
【0067】
製造装置10、20、30において、ダイ11の近傍に、ダイ11から押し出された溶融物を第一冷却ロール13の表面に密着させるために、押し当てロールまたは静電ピンニングを配置してもよい。静電ピンニングには電極が設けられており、電極に電圧を印加することにより静電気が発生し、その作用により溶融物と第一冷却ロールとが密着する。電極が溶融物と第一冷却ロール13との密着性が高まることで、温度のムラが少なくなる。
【0068】
製造装置10、20、30において、ダイ11の出口付近に温度調節可能なチャンバーを配置し、このチャンバー内に第一冷却ロール13を配置してもよい。この場合、チャンバー内の温度をETFEのTc以上Tm未満として、ダイ11の出口から第一冷却ロール13に接触するまでの間に溶融物1の温度がTc以下となるのを防ぐ。
【0069】
製造装置10、20、30において、ダイ11の出口付近に、表面に凹凸が形成された元型ロールを配置し、溶融物1を元型ロールと第一冷却ロール13との間に通し、溶融物1の片面に元型ロールの表面に形成された凹凸を連続的に転写するようにしてもよい。この場合、片面に凹凸が形成されたETFEフィルムが得られる。
【0070】
製造方法(i)にあっては、ETFEフィルム(I)、すなわち結晶化度が55〜70%で、準結晶層の割合が10〜20%であるETFEフィルムを製造できる。
なお、前述の特許文献2〜4に記載の製造方法では、上記結晶化度と準結晶層の割合とを共に前記範囲内とすることは困難である。これらの方法では、結晶化度が前記の範囲内である場合は、準結晶層の割合が10%未満となり、準結晶層の割合が前記範囲内である場合は、結晶化度が70%を超えてしまう。
特許文献2の[実施例]中の例3では、2種のETFEを混ぜたETFEフィルムが製造されているが、このETFEフィルムの伸縮性は低い。これは、結晶化しにくいETFE同士を混ぜているために、完全結晶層、準結晶層ともに充分に成長しなかったためと考えられる。
特許文献3には、冷却ロールの表面温度を80〜140℃に設定し、かつ、この冷却ロール上のフィルムに50〜160℃の熱風を吹き付けるようにして製造されたETFEフィルムが記載されているが、このETFEフィルムの伸縮性は低い。これは、ロール温度、および熱風の温度ともに低すぎ、準結晶層が充分に成長しなかったためと考えられる。
特許文献4には、結晶化度が低く、透明度の高いETFEフィルムが記載されているが、このETFEフィルムの伸縮性は低い。これは、冷却ロール温度が低すぎ、準結晶層が充分に成長しなかったためと考えられる。
【0071】
〔半導体素子の製造方法〕
前述のETFEフィルム(I)、ETFEフィルム(II)または本発明の製造方法で得られたETFEフィルムは、例えば以下のような、半導体素子の製造方法において用いられる半導体素子製造用離型フィルム(以下、「離型フィルム」ともいう。)として有用である。
金型の硬化性樹脂が接する面に、半導体素子製造用離型フィルムを配置する工程と、
半導体チップと前記半導体チップが実装された基板とを備える構造体を前記金型内に配置し、前記金型内の空間に硬化性樹脂を満たして硬化させ、樹脂封止部を形成することにより、前記構造体と前記樹脂封止部とを有する封止体を得る工程と、
前記封止体を前記金型から離型する工程と、を含む半導体素子の製造方法。
【0072】
かかる製造方法において、離型フィルムは、例えば、樹脂封止部を形成する際に、該樹脂封止部の形状に対応する形状のキャビティ(空間)を有する金型の前記キャビティを形成する面(以下、「キャビティ面」ともいう。)を覆うように配置され、形成した樹脂封止部と金型のキャビティ面との間に配置されることによって、得られた封止体の金型からの離型を容易にする。
樹脂封止部を形成する際、離型フィルムが半導体チップの表面の少なくとも一部に密着してもよい。これにより、その部分への硬化性樹脂の入り込みを防ぐことができ、半導体チップの一部が露出した半導体素子を得ることができる。
【0073】
半導体素子としては、トランジスタ、ダイオード等を集積した集積回路、発光素子を有する発光ダイオード等が挙げられる。
集積回路のパッケージ形状としては、集積回路全体を覆うものでも集積回路の一部を覆う(集積回路の一部を露出させる)ものでもよく、具体例としては、BGA(Ball Grid Array)、QFN(Quad Flat Non−leaded package)、SON(Small Outline Non−leaded package)が挙げられる。
半導体素子としては、生産性の点から、一括封止およびシンギュレーションを経て製造されるものが好ましく、具体例としては、封止方式がMAP(Moldied Array Packaging)方式、またはWL(Wafer Lebel packaging)方式である集積回路が挙げられる。
半導体素子としては、本発明の有用性の点から、樹脂封止部の厚さが厚いもの、つまり金型のキャビティの深さが深いものが好ましく、例えば、NAND型フラッシュメモリ、パワーデバイス、センサが挙げられる。樹脂封止部の厚さは、0.5〜3.0mmが好ましい。
【0074】
半導体素子の製造方法としては、公知の製造方法を採用できる。製造条件も、公知の半導体素子の製造方法における条件と同じ条件とすればよい。
樹脂封止部の形成方法としては、圧縮成形法が好ましい。この際に使用する装置としては、公知の圧縮成形装置を用いることができる。
【0075】
図4〜6を用いて、圧縮成形法による半導体素子の製造方法の一実施形態を説明する。
本実施形態の半導体素子の製造方法は下記の工程(1)〜(5)を含む。
工程(1):固定上型120と、キャビティ底面部材122と、キャビティ底面部材122の周縁に配置された枠状の可動下型124とを有する金型において、離型フィルム100が前記金型のキャビティ126を覆うように離型フィルム100を配置し、金型のキャビティ底面部材122側に真空吸引する工程(図4)。
工程(2):離型フィルム100で表面が覆われたキャビティ126内に硬化性樹脂140を充填し、また、基板110と基板110に実装された複数の半導体チップ112とを備える構造体をキャビティ126内の所定の位置に配置する工程(図4)。
工程(3):金型を型締めし(図5)、キャビティ底面部材122のみ上昇させるとともに硬化性樹脂140を溶融、硬化させて、複数の半導体チップ112を一括封止する樹脂封止部114を形成する(図6)ことにより、基板110と複数の半導体チップ112と樹脂封止部114とを有する一括封止体を得る工程。
工程(4):金型内から前記一括封止体を取り出す工程。
工程(5):前記複数の半導体チップ112が分離するように、前記一括封止体の基板110および樹脂封止部114を切断することにより、基板110と基板110上に実装された少なくとも1つの半導体チップ112と、半導体チップ112を封止する樹脂封止部114とを有する半導体素子を得る工程。
離型フィルム100としては前述のETFEフィルム(I)または(II)が用いられる。
【0076】
ただし、半導体素子の製造方法は上記実施形態に限定されない。上記実施形態における各構成およびそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
離型フィルム100および硬化性樹脂140をキャビティ126に配置するタイミングは、あらかじめ離型フィルム100上に硬化性樹脂140を配置したのち、前記状態の離型フィルム100を、キャビティ126を覆うように配置してもよい。
離型フィルム100を金型のキャビティ底面部材122側に真空吸引するタイミングは、金型を型締めした後であってもよい。
離型フィルム100と一括封止体とを剥離するタイミングは、金型から一括封止体を取り出す時に限定されない。例えば金型から離型フィルムとともに一括封止体を取り出し、その後、一括封止体から離型フィルムを剥離してもよい。
一括封止する複数の半導体素子各々の間の距離は均一でも不均一でもよい。封止を均質にでき、複数の半導体素子各々にかかる負荷が均一になる(負荷が最も小さくなる)点から、複数の半導体素子各々の間の距離を均一にすることが好ましい。
金型としては、図4〜6に示すものに限定されず、圧縮成形法に用いる金型として公知のものを使用できる。
工程(4)または(5)の後、樹脂封止部114の表面に、インクを用いてインク層を形成する工程を行ってもよい。ただし、半導体素子として発光ダイオードを製造する場合、樹脂封止部はレンズ部としても機能するため、通常、樹脂封止部の表面にはインク層は形成されない。
製造される半導体素子は、上記実施形態に示すものに限定されない。製造する半導体素子によっては工程(5)を行わなくてもよい。樹脂封止部に封止される半導体素子は1つでも複数でもよい。樹脂封止部の形状は、図6に示すような矩形のものに限定されず、段差等があってもよい。樹脂封止部がレンズ部である場合、樹脂封止部の形状は、略半球型、砲弾型、フレネルレンズ型、蒲鉾型、略半球レンズアレイ型等の各種のレンズ形状が採用できる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
後述する例1〜28のうち、例1〜5、17〜23は実施例であり、例6〜16、24〜28は比較例である。
各例で使用した評価方法および材料を以下に示す。
【0078】
〔評価方法〕
(厚さ)
ETFEフィルムの厚さ(μm)は、ISO 4591:1992(JIS K7130:1999のB1法、プラスチックフィルムまたはシートから採った試料の質量法による厚さの測定方法)に準拠して測定した。
【0079】
(結晶化度、準結晶層の割合)
ETFEフィルムの結晶化度および準結晶層の割合は、X線回折法より得られた回折ピークの積分強度より求めた。
ETFEフィルムを下記の形状に切り取ってサンプルを作製した。作製したサンプルを、サンプル用石英板に貼り付け、サンプル台に固定し、粉末X線回折装置を用いてX線回折測定を行った。
サンプルの形状: 厚さ50μm、1.5cm×1.5cmのフィルム
測定装置: Bruker社製、D2 PHASER
測定方法: 2θ/θ法
測定範囲: 2θ=10〜30°
X線強度: 30kV、10mA
X線源: CuKα線
解析ソフト: Bruker社製、TOPAS Ver.4.2
測定温度: 室温(20〜25℃)
【0080】
得られた回折強度曲線について、解析ソフトを用いてカーブフィッティングを行った。関数はピアソンvii関数数を用い、フィッティングカーブと実曲線の差が10%以下となるように行った。ピーク分離法を用い、非結晶部分のピーク位置は、2θ=17.268°とし、二つの結晶ピークについては20°、19°を開始点として、カーブの最適化を自動検出させた。ピークの半価幅は自動最適化させた。結晶ピークは2つあり、それぞれの面積比を求めた。
2θ=20°付近のピーク面積S20と、2θ=19°付近のピーク面積S19と、2θ=17°付近のピーク面積S17とから、下式(1)により結晶化度(%)を、下式(2)により準結晶層の割合(%)をそれぞれ求めた。
結晶化度(%)=(S19+S20)/(S17+S19+S20)×100 ・・・(1)
準結晶層の割合(%)=S20/(S17+S19+S20)×100 ・・・(2)
【0081】
(成形時破れ、成形時シワ)
各例で作製したETFEフィルムを離型フィルムとして用い、以下の手順による圧縮成形試験を、以下の条件で行った。
試験には半導体封止用圧縮成形装置PMC1040(商品名。TOWA社製)を使用した。半導体封止用圧縮成形装置PMC1040は、図4に示すような金型(固定上型120、キャビティ底面部材122、可動下型124)を備えるものである。
【0082】
<圧縮成形手順>
半導体封止用圧縮成形装置PMC1040において、離型フィルム(ETFEフィルム)は、ロールから巻きだされ、ステージ上に固定されたのち、一定長さに切断される。その後、離型フィルム上に硬化性樹脂が播かれ、その状態で、キャビティ底面部材122および可動下型124によって形成されたキャビティ上へ運ばれる。離型フィルムがキャビティ上に設置された後、固定上型120と可動下型124とが型締めされ、キャビティ周縁部の真空吸着孔から真空ポンプで空気が抜かれ、離型フィルムのキャビティ面への追従と、硬化性樹脂の気泡抜きが行われる。その後、所定の最終深さおよびクランプ力となるようにキャビティ底面部材122が上昇し、その状態が所定のクランプ時間保持されて圧縮成形が行われる。
【0083】
<圧縮成形条件>
金型温度:180℃。
キャビティ大きさ:210mm×70mm。
キャビティの初期深さ:1.8mm。
キャビティの最終深さ:0.6mm。
硬化性樹脂:スミコンEME G770H type F Ver.GR(住友ベークライト社製)。
キャビティ面への追従時の真空度:−85kPa。
硬化性樹脂気泡抜き時の真空度:−80kPa。
硬化性樹脂気泡抜き時間:10秒。
クランプ時間:150秒。
クランプ力:9.8×10N。
【0084】
成形後、樹脂封止部の側面を観察しシワを確認した。また、フィルムを観察し、破れの状態を以下の基準で評価した。
【0085】
<成形時破れ>
○(良好):目視でETFEフィルムのピンホールは確認できなかった。
×(不良):目視でETFEフィルムのピンホールが確認できた。
【0086】
<成形時シワ>
○(良好):樹脂封止部の側面に、ETFEフィルムが食い込んだことによるへこみは見られなかった。
×(不良):樹脂封止部の側面に、ETFEフィルムが食い込んだことによるへこみが見られた。
ただし、成形時破れの評価結果が不良であったものは、フィルムの破れ箇所から樹脂が漏出しており、シワの判定が困難であったので、成形時シワの評価を行わなかった。
【0087】
〔使用材料〕
樹脂1:TFE単位/E単位/PFBE単位=57.1/42.9/1.3(モル比)の共重合体(MFR15g/10分、Tc241℃、Tm253℃、ダイキン工業社製「EP−526」)。
樹脂2:TFE単位/E単位/PFBE単位=55.8/44.2/1.4(モル比)の共重合体(MFR12g/10分、Tc243℃、Tm257℃、後述の製造例1で製造した合成品)。
樹脂3:TFE単位/E単位/PFBE単位=58.5/41.5/3.7(モル比)の共重合体(MFR15g/10分、Tc209℃、Tm222℃、後述の製造例2で製造した合成品)。
樹脂4:TFE単位/E単位/PFBE単位=58.3/41.70/7.0(モル比)の共重合体(MFR16.2g/10分、Tc183℃、Tm195℃、後述の製造例3で製造した合成品)。
樹脂5:樹脂1/樹脂3=95/5(質量比)のブレンド樹脂(Tc239℃、Tm251℃)。
樹脂6:樹脂1/樹脂3=85/15(質量比)のブレンド樹脂(Tc236℃、Tm248℃)。
樹脂7:樹脂2/樹脂3=95/5(質量比)のブレンド樹脂(Tc241℃、Tm255℃)。
樹脂8:樹脂1/樹脂3=75/25(質量比)のブレンド樹脂(Tc241℃および212℃、Tm253℃および227℃)。
樹脂9:樹脂1/樹脂3=99/1(質量比)のブレンド樹脂(Tc241℃、Tm253℃)。
樹脂10:樹脂1/樹脂2=90/10(質量比)のブレンド樹脂(Tc241℃、Tm253℃)。
樹脂11:樹脂3/樹脂4=90/10(質量比)のブレンド樹脂(Tc196℃、Tm209℃)。
【0088】
樹脂5〜11は、下記のブレンド樹脂の製造方法によって各樹脂を上記の質量比でブレンドして得た。
樹脂1〜4のTcおよびTmはそれぞれ、走査型示差熱分析器(SIIナノテクノロジーズ社製、DSC220CU)を用いて、前述の手順で求めた。
ブレンド樹脂である樹脂5〜7、9〜11のTcは上述した式(3)により、Tmは上述した式(4)により算出した。これらのブレンド樹脂について、上記の走査型示差熱分析器を用いた測定方法でTc、Tmの値を求めたところ、算出した値と一致した。
樹脂8は、2種の樹脂が均一に混ざらず完全に分離したため、式(3)によるTc、式(4)によるTmそれぞれの算出は行わなかった。これらのブレンド樹脂について、上記の走査型示差熱分析器を用いた測定方法でTc、Tmの値を求めたところ、それぞれ2つの値が観測された。
【0089】
(製造例1)
真空引きした94Lのステンレス製オートクレーブに、1−ヒドロトリデカフルオロヘキサンの107.7kg、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン(商品名「AK225cb」旭硝子社製。以下、「AK225cb」ともいう。)の41.0kg、PFBEの0.85kgを仕込み、撹拌しながら66℃まで昇温し、TFE/エチレン=89/11(モル比)の単量体の混合ガスを1.5MPaGになるまで導入し、50質量%のtert−ブチルペルオキシピバレートのAK225cb溶液を30.2g仕込んで重合を開始した。重合中は、圧力が1.5MPaGとなるようにTFE/エチレン=54/46(モル比)の混合ガスおよび該混合ガスに対して1.4モル%に相当する量のPFBEを連続的に添加し、前記TFE/エチレン=54/46(モル比)の混合ガスを合計で7.19kgを仕込んだ後にオートクレーブを冷却し、残留ガスをパージし、重合を終了させた。重合に要した時間は305分であった。得られたETFEのスラリーを220Lの造粒槽へ移し、77Lの水を加えて撹拌しながら加熱し、重合溶媒や残留する単量体を除去し、粒状の樹脂2の7.2kgを得た。
なお、「MPaG」におけるGはゲージ圧であることを示し、以下同様である。
【0090】
(製造例2)
真空引きした94Lのステンレス製オートクレーブに、1−ヒドロトリデカフルオロヘキサンの85.2kg、AK225cbの6.31kg、PFBEの1.22kgを仕込み、撹拌しながら66℃まで昇温し、TFE/エチレン=89/11(モル比)の混合ガスを1.5MPaGになるまで導入し、50質量%のtert−ブチルペルオキシピバレートのAK225cb溶液を30.2g仕込んで重合を開始した。重合中は、圧力が1.5MPaGとなるようにTFE/エチレン=60/40(モル比)の混合ガスおよび該混合ガスに対して3.8モル%に相当する量のPFBEを連続的に添加し、前記TFE/エチレン=60/40(モル比)の混合ガスを合計で7.19kgを仕込んだ後にオートクレーブを冷却し、残留ガスをパージし、重合を終了させた。重合に要した時間は305分であった。得られたETFEのスラリーを220Lの造粒槽へ移し、77Lの水を加えて撹拌しながら加熱し、重合溶媒や残留する単量体を除去し、粒状の樹脂3の7.5kgを得た。
【0091】
(製造例3)
真空引きした94Lのステンレス製オートクレーブに、1−ヒドロトリデカフルオロヘキサンの87.3kg、AK225cbの4.21kg、PFBEの2.13kgを仕込み、撹拌しながら66℃まで昇温し、TFE/エチレン=89/11(モル比)の混合ガスを1.5MPaGになるまで導入し、50質量%のtert−ブチルペルオキシピバレートのAK225cb溶液の60.4gを仕込んで重合を開始した。重合中は、圧力が1.5MPaGとなるようにTFE/エチレン=60/40(モル比)の混合ガスおよび該混合ガスに対して7.0モル%に相当する量のPFBEを連続的に添加し、前記TFE/エチレン=60/40(モル比)の混合ガスを合計で7.19kgを仕込んだ後にオートクレーブを冷却し、残留ガスをパージし、重合を終了させた。重合に要した時間は333分であった。得られたETFEのスラリーを220Lの造粒槽へ移し、77Lの水を加えて撹拌しながら加熱し、重合溶媒や残留する単量体を除去し、粒状の樹脂4の7.2kgを得た。
【0092】
(ブレンド樹脂ペレットの製造方法)
口径15mm、L/D(シリンダー長さ/シリンダー内径)=30の二軸押出機を使用して二種類の樹脂ペレットを所定の質量比で混合して供給し、ブレンド樹脂ペレットを製造した。押出機の温度は320℃とした。
【0093】
〔例1〕
樹脂5を、Tダイを備えた押出成形装置に供給して溶融させ、Tダイを通してフィルム状に押し出し、第一冷却ロールに引き取り、第一冷却ロールの表面に接触させた状態を10秒間保持して厚さ50μmのETFEフィルムを製膜した。押出成形装置内の溶融混練部分およびTダイ部分の温度(以下、「押出温度」という。)は340℃、第一冷却ロールの表面温度は80℃、引き取り速度は5m/分、Tダイと第一冷却ロールとのエアギャップは15mmとした。引き取りの際、静電ピンニングにより溶融した樹脂5を第一冷却ロールに密着させた。第一冷却ロールに接する直前の、溶融した樹脂5の表面温度は330℃であった。
【0094】
〔例2〜16〕
樹脂の種類、第一冷却ロールの表面温度、エアギャップ、静電ピンニングの有無(第一冷却ロールへの接触方法)を表1〜2に示すようにした以外は例1と同様にして、厚さ50μmのETFEフィルムを得た。
【0095】
〔例17〕
樹脂1を、例1と同じ押出成形装置からフィルム状に押し出し、静電ピンニングをしながら第一冷却ロールに引き取り、第一冷却ロールの表面に接触させた状態を10秒間保持し、得られた一次冷却物を第一冷却ロールから剥離した後、表面温度100℃の第二冷却ロールに接触させて150℃まで冷却し、厚さ50μmのETFEフィルムを製膜した。押出温度は340℃、第一冷却ロールの表面温度は250℃、引取り速度は5m/分、Tダイと第一冷却ロールとのエアギャップは15mmとした。剥離した時点から1秒後のETFEフィルムの温度(以下、「冷却直後フィルム温度」ともいう。)は150℃であった。
【0096】
〔例18〜28〕
樹脂の種類、ダイ温度、第一冷却ロールの表面温度、一次冷却物を冷却する冷却装置の種類および冷却条件、冷却直後フィルム温度を表3〜4に示すようにした以外は例17と同様にして、厚さ50μmのETFEフィルムを得た。
【0097】
各例で得られたETFEフィルムについて、結晶化度、準結晶層の割合、成形時シワ、成形時破れの評価結果を表1〜4に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
【表3】
【0101】
【表4】
【0102】
上記結果に示すとおり、例1〜5、17〜23のETFEフィルムは、結晶化度が55〜70%であり、準結晶層の割合が10〜20%であった。そして成形時のシワや破れの評価結果も良好であり、伸縮性に優れていた。
【0103】
一方、ETFEとしてETFE(A)とETFE(B)とを80/20〜95/5で用いなかった、または第一冷却ロールの表面温度をTc以下とした例6〜16、24〜28のETFEフィルムは、結晶化度および準結晶層の割合の少なくとも一方が前記の範囲から外れていた。また、伸縮性が不良で、成形時破れの評価結果が不良であったり、そうでない場合でも成形時シワの評価結果が不良であった。
具体的には、ETFE(A)に相当する樹脂1または2を単独で用い、第一冷却ロールの表面温度をTc以下とした例6〜8のETFEフィルムは、完全結晶層の成長を阻害する成分がなく、完全結晶層が準結晶層よりも優位に成長したため、準結晶層の割合が低かった。また、成形時シワの評価結果が不良であった。
第一冷却ロールの表面温度をTc以下であるものの例6、8よりも高い温度とした以外は例6、8と同じ条件で実施した例9のETFEフィルムは、第一冷却ロールの温度がTc以下で、かつ高温のロールに接触するので完全結晶層がより成長しやすく、結晶化度が高かった。また、成形時破れの評価結果が不良であった。
エアギャップを150mmとした以外は例6と同じ条件で実施した例10のETFEフィルムは、第一冷却ロールに接する前に結晶化が始まり、空気中で徐々に冷却されたために安定結晶がより成長しやすく、結晶化度が高かった。また、成形時破れの評価結果が不良であった。
静電ピンニングを行わなかった以外は例6と同様にした例11のETFEフィルムは、結晶化度、準結晶の割合ともに高かった。また、成形時シワの評価結果が不良であった。これは、溶融したETFEフィルムと第一冷却ロールとの密着性が低かったためと考えられる。
ETFE(B)に相当する樹脂3を単独で用い、第一冷却ロールの表面温度をTc以下とした例12のETFEフィルムは、結晶化を阻害する、TFEおよびエチレン以外の単量体が多く含まれているため、結晶化度が低かった。また、成形時破れの評価結果が不良であった。
【0104】
ETFE(A)に相当する樹脂1とETFE(B)に相当する樹脂3とを75/25の質量比でブレンドした樹脂8を用い、第一冷却ロールの表面温度を80℃とした例13のETFEフィルムは、完全結晶層の成長を阻害するETFE(B)に相当する樹脂を入れ過ぎたため、ETFE(A)とETFE(B)が完全に非相容の状態となり、完全結晶層の成長が充分に阻害されないため、準結晶層の割合が低かった。また、成形時シワの評価結果が不良であった。
樹脂1と樹脂3とを99/1の質量比でブレンドした樹脂9を用い、第一冷却ロールの表面温度を80℃とした例14のETFEフィルムは、ETFE(B)の量が少なすぎ、完全結晶層の成長が充分に阻害されないため、準結晶層の割合が低かった。また、成形時シワの評価結果が不良であった。
いずれもETFE(A)に相当する樹脂1と樹脂2とをブレンドした樹脂10を用い、第一冷却ロールの表面温度をTc以下とした例15のETFEフィルムは、完全結晶層の成長を阻害する成分がなく、かつ第一冷却ロールの表面温度がTc以下であることから完全結晶が優位に成長するため、準結晶層の割合が低かった。また、成形時シワの評価結果が不良であった。
ETFE(B)に相当する樹脂3と、ETFE(A)、(B)のどちらにも相当しない樹脂4とをブレンドした樹脂11を用い、第一冷却ロールの表面温度を80℃とした例16のETFEフィルムは、もともと結晶化度自体が低い樹脂にさらに結晶化度の低い樹脂を混ぜたので、結晶化度、準結晶層の割合ともに低かった。また、成形時破れの評価結果が不良であった。
樹脂2を単独で用い、一次冷却物の急冷を行わず、冷却直後フィルム温度がTm−80℃よりも高い例24のETFEフィルムは、第一冷却ロール上で準結晶層が成長しても、その後の徐冷中に準結晶層が完全結晶層に転移するので、結晶化度が高かった。また、結晶化度が高いためにETFEフィルムが脆く、成形時シワの評価結果が不良であった。
樹脂2または1を単独で用い、第一冷却ロールの表面温度をTc以下とした例25〜26のETFEフィルムは、第一冷却ロールの温度がTc以下で、かつ高温のロールに接触するので完全結晶がより成長しやすく、結晶化度が高かった。また、成形時破れの評価結果が不良であった。
樹脂1を単独で用い、一次冷却物の冷却直後フィルム温度をTm−120℃未満とした例27のETFEフィルムは、溶融状態から急激に冷却され、完全結晶層含め結晶化自体が起こりにくかったので、結晶化度が低かった。また、成形時破れの評価結果が不良であった。
樹脂3を単独で用い、一次冷却物の冷却直後フィルム温度をTm−120℃未満とした例28のETFEフィルムは、準結晶層の割合が低かった。また、成形時シワの評価結果が不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
ETFEフィルム(I)、ETFEフィルム(II)および製造方法(i)により得られるETFEフィルムそれぞれの用途は特に限定されず、具体例としては、半導体素子製造用離型フィルム、農業ハウス用フィルム、テント膜等の建造物用フィルム、薬品保管袋用フィルム等が挙げられる。
これらのETFEフィルムは、伸縮性に優れ、伸縮させたときに破れにくく、シワが発生しにくいことから、半導体素子製造用離型フィルムとしての有用性が高く、特に圧縮成形法による半導体素子製造用離型フィルムとして好適である。
なお、2016年07月04日に出願された日本特許出願2016−132442号の明細書、特許請求の範囲、図面および要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0106】
1 溶融物、3 ETFEフィルム、10 製造装置、11 ダイ、13 第一冷却ロール、15 第二冷却ロール、17 巻取ロール、20 製造装置、25 エアナイフ、30 製造装置、31,33 ガイドロール、35 水槽、100 離型フィルム、110 基板、112 半導体チップ、114 樹脂封止部、120 固定上型、122 キャビティ底面部材、124 可動下型、126 キャビティ、140 硬化性樹脂
図1
図2
図3
図4
図5
図6