(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記車両情報には、車速情報、加減速度情報、操舵情報、路面情報、タイヤ空気圧情報、荷重情報、天気情報、位置情報、温度情報の少なくとも1つが含まれ、前記車両情報に基づいて前記摩耗データから有効なデータを選定し、選定された有効な前記摩耗データに基づいて前記タイヤ摩耗状態を判定する請求項3に記載のタイヤ摩耗検知装置。
前記信号処理部は、前記タイヤの振動波形を示す前記検出信号の取込みを行う波形取込部(13a)と、前記波形取込部が取り込んだ前記検出信号から前記所定周波数帯の振動成分を抽出するフィルタ部(13b)と、抽出された前記所定周波数帯の振動成分の振動レベルの積分値である積分したレベル値を演算する積分演算部(13c)と、を備え、前記積分したレベル値を前記摩耗データとしている請求項1ないし4のいずれか1つに記載のタイヤ摩耗検知装置。
前記車体側システムは、日射センサの検出信号情報、カメラの画像情報、地図情報、天気情報、時刻情報、車両の向き情報、タイヤ位置情報の少なくとも1つの情報を取得する情報取得部(24)を有し、
前記時間推定部は、前記情報取得部で取得した情報に基づいて前記光照射累計時間を推定する請求項6ないし10のいずれか1つに記載のタイヤ摩耗検知装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0014】
(第1実施形態)
図1〜
図10を参照して、本実施形態にかかるタイヤ摩耗状態の検知機能を有するタイヤシステム100について説明する。本実施形態にかかるタイヤシステム100は、タイヤ側装置1と車体側システム2を有して構成されている。そして、タイヤシステム100は、タイヤ側装置1からタイヤ摩耗に関する情報を車体側システム2に伝え、車体側システム2にてタイヤ摩耗状態を判定してユーザに報知するなどの処理を行うものである。
【0015】
図1および
図2に示すようにタイヤシステム100は、車輪側に設けられたタイヤ側装置1と、車体側に備えられた各部を含む車体側システム2とを有する構成とされている。車体側システム2には、受信機21、ブレーキ制御用の電子制御装置(以下、ブレーキECUという)22、報知装置23などが備えられている。なお、このタイヤシステム100のうちタイヤ摩耗状態の検知機能を実現する部分がタイヤ摩耗検知装置に相当する。本実施形態の場合、タイヤ側装置1と車体側システム2のうちの受信機21がタイヤ摩耗検知装置を構成している。以下、タイヤ側装置1と車体側システム2を構成する各部の詳細について説明する。
【0016】
まず、タイヤ側装置1について説明する。タイヤ側装置1は、
図2に示すように、振動センサ部11、車速推定部12、制御部13およびデータ通信部14を備えた構成とされ、例えば、
図3に示されるように、タイヤ3のトレッド31の裏面側に設けられる。
【0017】
振動センサ部11は、タイヤ3に加わる振動を検出するための振動検出部を構成するものである。例えば、振動センサ部11は、加速度センサによって構成される。本実施形態の場合、振動センサ部11は、例えば、タイヤ3が回転する際にタイヤ側装置1が描く円軌道に対する径方向、つまり
図3中の矢印Zで示すタイヤ径方向の振動の大きさに応じた検出信号として、加速度の検出信号を出力する。より詳しくは、振動センサ部11は、矢印Zで示す二方向のうちの一方向を正、反対方向を負とする出力電圧などを検出信号として発生させる。例えば、振動センサ部11は、タイヤ3が1回転するよりも短い周期に設定される所定のサンプリング周期ごとに加速度検出を行い、それを検出信号として出力している。なお、振動センサ部11の検出信号は、出力電圧もしくは出力電流として表されるが、ここでは出力電圧として表される場合を例に挙げる。
【0018】
車速推定部12は、タイヤ側装置1を備えたタイヤ3が取り付けられた車両の速度(以下、単に車速という)の推定を行う。ここでは、車速推定部12は、振動センサ部11の検出信号に基づいて車速を推定している。
【0019】
タイヤ回転時における振動センサ部11の検出信号の出力電圧波形は、例えば
図4に示す波形となる。この図に示されるように、タイヤ3の回転に伴ってトレッド31のうちタイヤ側装置1の配置箇所と対応する部分(以下、装置配置箇所という)が接地し始めた接地開始時に、振動センサ部11の出力電圧が極大値をとる。以下、この振動センサ部11の出力電圧が極大値をとる接地開始時のピーク値を第1ピーク値という。また、
図4に示されるように、タイヤ3の回転に伴って装置配置箇所と対応する部分が接地していた状態から接地しなくなる接地終了時に、振動センサ部11の出力電圧がもう一度極大値をとる。以下、この振動センサ部11の出力電圧が極大値をとる接地終了時のピーク値を第2ピーク値という。さらに、
図4に示されるように、装置配置箇所の接地中には、遠心加速度の影響を受けなくなるため、振動センサ部11の出力電圧が最も低い値になる。
【0020】
振動センサ部11の出力電圧が上記のようなタイミングでピーク値をとるのは、以下の理由による。すなわち、タイヤ3の回転に伴って装置配置箇所が接地する際、振動センサ部11の近傍においてタイヤ3のうちそれまで略円筒面であった部分が押圧されて平面状に変形する。このときの衝撃を受けることで、振動センサ部11の出力電圧が第1ピーク値をとる。また、タイヤ3の回転に伴って装置配置箇所が接地面から離れる際には、振動センサ部11の近傍においてタイヤ3は押圧が解放されて平面状から略円筒状に戻る。このタイヤ3の形状が元に戻るときの衝撃を受けることで、振動センサ部11の出力電圧が第2ピーク値をとる。このようにして、振動センサ部11の出力電圧が接地開始時と接地終了時でそれぞれ第1、第2ピーク値をとるのである。
【0021】
ここで、タイヤトレッド31のうち装置配置箇所が路面に接地した瞬間を「踏み込み領域」、路面から離れる瞬間を「蹴り出し領域」とする。「踏み込み領域」には、第1ピーク値となるタイミングが含まれ、「蹴り出し領域」には、第2ピーク値となるタイミングが含まれる。また、踏み込み領域の前を「踏み込み前領域」、踏み込み領域から蹴り出し領域までの領域、つまり装置配置箇所が接地中の領域を「蹴り出し前領域」、蹴り出し領域後を「蹴り出し後領域」とする。このように、装置配置箇所が接地する期間およびその前後を5つの領域に区画することができる。なお、
図4中では、検出信号のうちの「踏み込み前領域」、「踏み込み領域」、「蹴り出し前領域」、「蹴り出し領域」、「蹴り出し後領域」を順に5つの領域R1〜R5として示してある。
【0022】
このように、タイヤ3が1回転すると、振動センサ部11の検出信号が
図4に示す振動波形を示す。このため、例えば第1ピーク値同士もしくは第2ピーク値同士の時間間隔は、タイヤ3が1回転するのに掛かった時間となる。したがって、車速推定部12は、タイヤ3が1回転するのに掛かった時間とタイヤ3の1周の長さとから車速を推定している。
【0023】
制御部13は、検出対象に関するデータを作成する信号処理部に相当する部分であり、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えたマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従って各種処理を行っている。例えば、制御部13は、振動センサ部11の検出信号をタイヤ径方向の振動データを表す検出信号として用いて、この信号を処理することでタイヤ摩耗状態に関するデータ(以下、摩耗データという)を得て、それをデータ通信部14に伝える処理を行う。
【0024】
具体的には、制御部13は、振動センサ部11の検出信号が示す振動波形の波形処理を行うことで、タイヤ3の振動レベルを求め、この振動レベルに対応するデータを摩耗データとしてデータ通信部14に伝える。ここでは、制御部13は、振動センサ部11の検出信号の所定周波数帯における振動レベルのレベル値を演算している。レベル値については、任意の周波数のレベル値であっても良いが、ここでは制御部13は、所定周波数帯でのレベル値の積分値、換言すれば積分したレベル値を求めるようにしている。より詳しくは、制御部13は、振動データを取得するための機能部として、波形取込部13a、フィルタ部13bおよび積分演算部13cを有した構成とされている。
【0025】
波形取込部13aは、振動センサ部11の検出信号の取込みを行う部分である。ここでは、波形取込部13aは、タイヤ3の1回転分を取込み範囲として設定し、振動センサ部11の検出信号からタイヤ3の1回転分の波形を取込んでいる。具体的には、波形取込部13aは、車速推定部12での車速の検出結果に基づいて、タイヤ3が1回転するのに掛かる時間を算出し、その時間分、振動センサ部11の検出信号を取り込むようにしている。
【0026】
フィルタ部13bは、波形取込部13aが取り込んだタイヤ3の1回転分の振動センサ部11の検出信号から所定の周波数帯をフィルタリングすることで、特定周波数帯の振動成分を抽出する。ここでは、フィルタ部13bをハイパスフィルタで構成しており、フィルタ部13bを通過させることにより、振動センサ部11の検出信号から例えば1.5kHz以上の周波数帯が抽出している。
【0027】
タイヤ3の踏み込み領域や蹴り出し領域での振動レベルの周波数特性は、ゴムブロックを含むタイヤ3の振動特性に基づいて決まり、ゴムブロックを含むタイヤ3の固有振動周波数において振動レベルがピークとなる。そして、その固有振動周波数よりも高周波数帯ではゴムブロックによる防振効果により、振動レベルが減衰する。このゴムブロックを含むタイヤ3の固有振動周波数については、ゴムブロックの摩耗状態に応じて変化し、ゴムブロックの摩耗が進むほど増加する。
【0028】
これについて、図面を参照して説明する。
図5は、タイヤ3の振動モデルを示している。タイヤ3のトレッド面32およびゴムブロック33のうちタイヤ側装置1に加わる振動に影響を与える部分の質量をMt、バネ定数をKt、ゴムブロック33の質量をMb、バネ定数をKb、ダンパ減衰係数をCとして記載してある。タイヤ3においては、路面からの入力振動に対してゴムブロック33が防振材となることでローパスフィルタとしての役割を果たすことになる。
【0029】
タイヤ3が新品の状態においては、タイヤトレッド31の溝が深く、ゴムブロック33の高さが高いが、タイヤ摩耗が進むと、タイヤトレッド31の溝が浅くなり、ゴムブロック33の高さが低くなる。このため、タイヤ3が新品の場合と比較して、タイヤ摩耗が進んだ場合には、ゴムブロック33の質量Mbが小さくなり、バネ定数Kbは大きくなる。そして、ゴムブロック33でのローパスフィルタとしての機能が低下し、タイヤ振動の高周波成分が大きくなる。
【0030】
ここで、一般的な振動モデルは、
図6のように表され、この振動モデルにおける固有振動周波数Fnは、次式で表される。なお、数式1中において、kは振動モデルにおける防振材のバネ定数、mは振動源の質量である。
【0031】
【数1】
なお、バネ定数kは、振動モデルを構成する振動対象、本実施形態の場合はゴムブロック33の材料で決まるヤング率に振動対象の面積を掛け算し、振動対象の厚み、換言すれば高さで割った値として定義される。
【0032】
図5に示したタイヤ3の振動モデルにおいては、質量Mtが質量Mbよりも十分に大きく、バネ定数Ktの方がバネ定数Kbよりも十分に大きくなっている。このため、実質的に質量Mtおよびバネ定数Kbのみを考慮して、
図6に示した一般的な振動モデルと見做すことができる。つまり、数式1の質量mおよびバネ定数kを、それぞれ、
図5における質量Mtおよびバネ定数Kbに置き換えることができる。そして、ゴムブロック33が摩耗して高さが低くなると、それに伴って質量Mbが小さくなり、バネ定数Kbが大きくなる。この場合、質量Mtはあまり変化せず、バネ定数Kbが大きくなったことを想定すると、数式1で示される固有振動周波数Fnが増加する。
【0033】
このように、タイヤ3の踏み込み領域や蹴り出し領域での振動レベルの周波数特性は、ゴムブロック33を含むタイヤ3の振動特性に基づいて決まり、ゴムブロック33を含むタイヤ3の固有振動周波数Fnにおいて振動レベルがピークとなる。そして、この固有振動周波数Fnは、ゴムブロック33が摩耗して高さが低くなるほど増加する。例えば
図7に示すようにタイヤ3が新品で溝深さが8mmの場合には固有振動周波数Fnが1.0kHz、タイヤ3が摩耗して溝深さが1.6mmの場合には固有振動周波数Fnが1.5kHzとなった。この固有振動周波数Fnは、タイヤ3の材質などによって異なった値になるが、タイヤ3の材質にかかわらず、タイヤ3が摩耗するほど固有振動周波数Fnが増加する。
【0034】
したがって、タイヤ3の交換目安となる溝深さを決めておき、タイヤ3の溝深さが交換目安になったときの固有振動周波数Fnを特定周波数とし、それ以上の周波数帯を特定周波数帯として、フィルタ部13bで抽出できるようにしている。例えば、タイヤ3の交換推奨溝深さが3.0mmとされており、その深さをタイヤ3の交換目安となる溝深さとする場合には、フィルタ部13bで例えば1.5kHz以上の高周波数帯の成分を抽出すれば良い。
【0035】
積分演算部13cは、フィルタ部13bで抽出された特定周波数帯における振動レベルのレベル値を演算するレベル演算部に相当する部分であり、振動レベルに対応する摩耗データを生成する。ここでは、積分演算部13cにて、特定周波数帯における振動レベルのレベル値の積分値を演算し、これを摩耗データとしている。レベル値の演算については、タイヤ3の1回転分の検出信号から演算しても良いが、タイヤ3の複数回転分の検出信号の積算値として演算しても良く、その積算値をタイヤ3の回転数で割った平均値として演算しても良い。
【0036】
上記したように、タイヤ3の摩耗に応じて固有振動周波数Fnが増加する。そして、同じ周波数で見ると、振動センサ部11の検出信号の振動レベルは、タイヤ3の摩耗が大きくなるほど大きくなる。したがって、タイヤ3の摩耗状態に応じて、特定周波数帯での振動レベルのレベル値に差が生じ、その積分値についても差が生じることになる。
【0037】
参考として、タイヤ3の摩耗状態に応じて振動センサ部11の検出信号や振動レベルがどのように変化するかについて調べた。なお、路面の凹凸に基づく振動の影響を排除すべく、平坦路面を走行している場合の測定結果としている。
図8は、タイヤ3が新品で溝深さが8mmのときと摩耗が進んで溝深さが1.6mmとなったときの振動センサ部11の検出信号を示している。
図9は、タイヤ3の溝深さが8mm、3mm、1.6mmのときの振動スペクトル、本実施形態の場合は加速度スペクトルの周波数特性を示したものである。
図9については、タイヤ3の1回転分の振動スペクトルの周波数特性を示してあるが、タイヤ3の10回転分の振動スペクトルを取得し、それの平均値を求めることで1回転分の振動スペクトルとしてある。
【0038】
図8に示されるように、タイヤ3が新品で摩耗しておらず溝深さが十分に有る場合には、振動センサ部11の検出信号の振動が小さいが、タイヤ3が摩耗して溝深さが少ない場合には、振動センサ部11の検出信号の振動が大きくなっている。また、
図9に示されるように、振動センサ部11の検出信号の振動スペクトルについても、固有振動周波数Fn以上の周波数帯域において、タイヤ3の摩耗状態が進むほど、振動スペクトルが大きくなっていることが判る。このことからも、固有振動周波数Fn以上の特定周波数帯の振動レベルのレベル値、例えばその積算値を調べることで、タイヤ3の摩耗状態を検出できることが判る。
【0039】
また、タイヤ3の種類を変えても、溝深さと特定周波数帯の振動レベルの積算値との関係が成り立つかについても調べた。
図10は、その結果を示した図であり、1.5Hz以上の周波数帯域において振動センサ部11の検出信号の振動レベルの積算値を算出したものである。積算値についてはタイヤ3の10回転分を算出しており、各周波数について最高値と最低値を示すと共に中央値をプロットで示してある。
【0040】
この図に示されるように、タイヤ3が種類Xの場合と種類Yの場合、いずれにおいても、溝深さが浅くなるほど、つまりタイヤ3の摩耗が進むほど、積分値が大きくなっている。このため、タイヤ3の種類にかかわらず、固有振動周波数Fn以上の特定周波数帯の振動レベルのレベル値、例えばその積算値を調べることで、タイヤ3の摩耗状態を検出することが可能となる。そして、例えば閾値を0.3[V]に設定しておけば、タイヤ3の溝深さが3mmになったと判定されたときに報知装置23より報知することができる。さらに、タイヤ3の交換目安となる閾値に加えて警告閾値を設定し、例えば警告閾値を0.42[V]に設定しておけば、タイヤ3の溝深さが1.6mmになったと判定されたときに報知装置23よりタイヤ3の交換が早急に必要であることを警告することができる。
【0041】
また、制御部13は、摩耗データの取得タイミングおよびデータ通信部14からのデータ送信を制御している。具体的には、制御部13は、タイヤ3の摩耗状態の検知を行いたいタイミングで波形取込部13a、フィルタ部13bおよび積分演算部13cを機能させ、振動センサ部11の検出信号の振動レベルと対応する摩耗データをデータ通信部14に伝えている。タイヤ3の種類や車両の車種、走行の仕方にも依るが、タイヤ3は一般的に5000kmの走行毎に1mm程度摩耗すると言われている。このため、ここでは、制御部13は、タイヤ3の回転数から車両の走行距離を算出し、1〜数百km走行する毎に、タイヤ3の摩耗状態の検知を行うようにしている。
【0042】
勿論、振動センサ部11の検出信号に基づいて車両が走行したことを検知したタイミングごとにタイヤ3の摩耗状態が検知されるようにしても良いし、制御部13にタイマを備えておいて、所定期間毎にタイヤ3の摩耗状態が検知されるようにしても良い。
【0043】
データ通信部14は、車体側システム2との間において通信を行う第1データ通信部に相当する部分である。データ通信部14は、例えば、制御部13から摩耗データが伝えられると、そのタイミングでデータ送信を行う。データ通信部14からのデータ送信のタイミングについては、制御部13によって制御される。例えば摩耗データの場合、制御部13から車両が所定距離走行して摩耗データが送られてくるたびに、データ通信部14からのデータ送信が行われるようになっている。
【0044】
なお、タイヤ側装置1には、ボタン電池などによって構成される図示しない電源部が備えられており、電源部からの電力供給に基づいて、各部が作動させられる。電源部は、例えばボタン電池等の電池で構成されるようになっている。
【0045】
続いて、車体側システム2について説明する。車体側システム2には、上記したように、受信機21、ブレーキECU22、報知装置23などが備えられている。
【0046】
受信機21は、タイヤ側装置1より送信された摩耗データを受信し、タイヤ3の摩耗状態を検出する。具体的には、受信機21は、データ通信部21aと制御部21bとを有した構成とされている。
【0047】
データ通信部21aは、第2データ通信部を構成する部分であり、タイヤ側装置1のデータ通信部14より送信された摩耗データを受信し、制御部21bに伝える役割を果たす。
【0048】
制御部21bは、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えたマイコンにより構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従って各種処理を行う。制御部21bには、摩耗判定部21baが備えられており、この摩耗判定部21baが摩耗データに基づいてタイヤ摩耗状態の判定に関する各種処理を行うことにより、タイヤ摩耗を検知している。
【0049】
本実施形態の場合、所定周波数帯でのレベル値の積分値を摩耗データとしているため、摩耗判定部21baは、その積分値に基づいてタイヤ摩耗状態を判定している。例えば、摩耗判定部21baは、積分値を実験等によって求めておいた閾値と比較することでタイヤ摩耗状態を判定している。例えば、閾値については、タイヤ3の交換目安となる溝深さと対応する積分値とすることができる。すなわち、タイヤ3の摩耗が進み、タイヤ3の溝深さが交換目安となる溝深さになったときに、振動センサ部11の検出信号に基づいて積分演算部13cで演算されると想定される積算値を閾値に設定してある。したがって、摩耗判定部21baは、摩耗データが示す積分値が閾値を超える場合に、タイヤ3の溝深さがタイヤ3の交換目安となる溝深さになったと想定されるタイヤ摩耗状態になったことを検知する。
【0050】
また、積分値が大きくなるほどタイヤ3の摩耗が進んでいることを示していることから、摩耗判定部21baにて、積分値の大きさに応じてタイヤ3の摩耗状態、換言すればタイヤ3の溝深さを判定することもできる。
【0051】
なお、ここでは摩耗判定部21baは、積分値に基づいてタイヤ摩耗状態を判定しているが、積分値に限らず、特定周波数帯におけるタイヤ3の振動レベルのレベル値を用いて、例えば任意の周波数のレベル値に基づいてタイヤ摩耗状態を判定することができる。
【0052】
また、摩耗判定部21baは、必要に応じて、タイヤ摩耗状態の検知結果を報知装置23に伝え、報知装置23よりタイヤ摩耗状態をドライバに伝える。これにより、ドライバはタイヤ3を交換するまでの間はタイヤ摩耗状態に対応した運転を心掛けるようになり、車両の危険性を回避することが可能となるし、摩耗したタイヤ3を適切に交換することが可能となる。
【0053】
また、摩耗判定部21baからブレーキECU22などの車両運動制御を実行するためのECUに対してタイヤ摩耗状態を伝えており、伝えられたタイヤ摩耗状態に基づいて車両運動制御が実行されるようにしている。
【0054】
ブレーキECU22は、様々なブレーキ制御を行う制動制御装置を構成するものであり、ブレーキ液圧制御用のアクチュエータを駆動することで自動的にブレーキ液圧を発生させ、ホイールシリンダを加圧して制動力を発生させる。また、ブレーキECU22は、各車輪の制動力を独立して制御することもできる。
【0055】
上記したように、ブレーキECU22には、摩耗判定部21baからタイヤ摩耗状態の判定結果が伝えられる。これに基づき、ブレーキECU22は、タイヤ摩耗状態に応じたブレーキ制御を行っている。具体的には、ブレーキECU22は、車両運動制御として、タイヤ3の摩耗が進んでいるほどブレーキが効きにくくなることを想定したブレーキ制御が実行されるようにする。例えば、ブレーキECU22は、自動運転などにおけるブレーキ制御であれば、ブレーキを掛けるタイミングをタイヤ3の摩耗状態が進むほど早めるというような制御を実行する。また、タイヤ3の摩耗が進むとスリップし易くなるため、ブレーキ力が高くなるとタイヤ3がスリップする可能性があることから、ブレーキECU22は、より早くから摩耗前よりも低いブレーキ力を発生させる制御を実行する。
【0056】
報知装置23は、例えばメータ表示器などで構成され、ドライバに対して運転をより慎重に行う必要があるタイヤ摩耗状態であることの報知に用いられる。報知装置23をメータ表示器で構成する場合、ドライバが車両の運転中に視認可能な場所に配置され、例えば車両におけるインストルメントパネル内に設置される。メータ表示器は、受信機21からタイヤ摩耗状態を示すデータが伝えられると、その内容が把握できる態様で表示を行うことで、視覚的にドライバに対して報知することができる。報知装置23については、ブザーや音声案内装置などで構成することもできる。
【0057】
以上のようにして、本実施形態にかかるタイヤシステム100が構成されている。なお、車体側システム2を構成する各部は、例えばCAN(Controller Area Networkの略)通信などによる車内LAN(Local Area Networkの略)を通じて接続されている。このため、車内LANを通じて各部が互いに情報伝達できるようになっている。
【0058】
このように構成されるタイヤシステム100では、上記したように、振動センサ部11の検出信号の振動レベルのレベル値に基づいてタイヤ3の摩耗状態を検知している。タイヤ3の摩耗により、ゴムブロック33が薄くなり、バネ定数Kbが大きくなることから、振動センサ部11の検出信号の高周波成分の振動レベルのレベル値が大きくなる。そして、振動センサ部11の検出信号の高周波成分の振動レベルについては、タイヤ3の1回転のどの部分においても、摩耗が進んだ後の方が摩耗前の新品の時よりも大きくなる。
【0059】
したがって、踏み込み領域や蹴り出し領域の加速度波形を的確に抽出する必要はなく、タイヤ3の1回転中の振動波形を取り込めば良い。そして、タイヤ3の1回転中の振動波形における特定周波数帯の振動レベルのレベル値に基づいて、的確にタイヤ摩耗状態を検知できる。これにより、より精度良くタイヤ摩耗状態を検知することが可能となる。
【0060】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して更に精度良くタイヤ摩耗状態を検知できるようにするものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0061】
図11に示すように、本実施形態では、受信機21の制御部21bに車両情報取得部21bbを備えている。車両情報取得部21bbは、車両の走行に関連する情報(以下、車両情報という)を取得するものである。タイヤ摩耗状態の検知を行う際には、できるだけ振動センサ部11の検出信号に車両の走行状態に起因する影響が現れていない状況であるのが好ましい。
【0062】
したがって、本実施形態では、車両情報取得部21bbにて車両情報を取得し、振動センサ部11の検出信号に影響を及ぼすような走行状態である場合が除外されるように、送られてきた摩耗データからタイヤ摩耗状態の検知に有効なデータを選定する。これにより、より精度良く、タイヤ摩耗状態の検知が行われるようにする。
【0063】
ここで、車両情報としては、例えば車速情報、加減速度情報、操舵情報、路面情報、タイヤ空気圧情報、荷重情報、天気情報、位置情報、温度情報などが挙げられる。これらの車両情報については、車両情報取得部21bbで少なくとも1つを取得すれば良いが、複数取得できるようにすると好ましい。
【0064】
車速情報については、例えばメータ制御用の電子制御装置(以下、ECUという)などで取り扱っているため、車内LANなどを通じて、メータECUから車両情報取得部21bbに伝えることができる。加減速度情報については、エンジンECUなどで取り扱われているため、車内LANなどを通じて、メータECUから車両情報取得部21bbに伝えることができるし、車速情報が示す車速を時間微分することで取得することもできる。操舵情報については、ステアリングECUなどで取り扱われているため、車内LANなどを通じて、ステアリングECUから車両情報取得部21bbに伝えることができる。
【0065】
路面情報については、例えば車載カメラで得た路面画像の画像処理を行うことで取得したり、振動センサ部11の検出信号が路面状態も表していることを利用して、検出信号から得た路面データをタイヤ側装置1から取得し、これに基づいて検出したりできる。なお、路面状態の検出手法については、周知となっている手法、例えば、路面データからタイヤ振動の特徴量を取得し、サポートベクタなどの教師データと特徴量との類似度から路面状態を推定する手法などを適用できる。
【0066】
タイヤ空気圧情報については、例えばタイヤ空気圧モニタリングシステムのECU(以下、TPMS−ECUという)から得ることができる。例えば、タイヤ側装置1にタイヤ空気圧の測定機能を備えておき、それをTPMS−ECUに伝える構成とすることができ、TPMS−ECUで得られたタイヤ空気圧が車両情報取得部21bbに伝えられるようにできる。また、荷重情報については、
図4に示した振動センサ部11の検出信号の振動波形の第1ピーク値と第2ピーク値との間がタイヤ3の接地長を示していることから、タイヤ空気圧と接地長とから算出することができる。また、サスペンションECUなどで荷重情報を取り扱っている場合には、そこから荷重情報を車両情報取得部21bbに伝えることもできる。
【0067】
天気情報や位置情報、さらに温度情報については、例えばナビゲーションECUを通じて取得できる。
【0068】
例えば、車速情報については、好ましい車速範囲においてタイヤ摩耗状態の検知が行われるようにするために用いることができる。振動センサ部11の検出信号の振動レベルは、車速が小さいと小さく、車速が大きいと大きくなる。このため、振動レベルが小さすぎず、大きすぎない車速のときにタイヤ摩耗状態の検知が行われるのが好ましい。したがって、車速情報に基づいて、車速が所定速度範囲、例えば40km/h±αの際にタイヤ摩耗状態の検知が行われるようにする。
【0069】
加減速度情報については、急加速時や急ブレーキ時ではないことの検出に用いている。急加速時や急ブレーキ時には、振動センサ部11の検出信号にその影響が現れ得る。したがって、例えば加減速度が所定値以下の際にタイヤ摩耗状態の検知が行われるようにする。
【0070】
操舵情報については、例えば直進走行であることの検出に用いている。車両の旋回中などには、振動センサ部11の検出信号にその影響が現れ得る。したがって、例えば操舵角が所定値以下、好ましくは直進走行の際にタイヤ摩耗状態の検知が行われるようにする。
【0071】
路面情報については、平坦路面であることの検出に用いている。例えば、雨天走行時にはタイヤ3がスリップすることがあるし、砂利道などの凹凸路面ではその凹凸による振動が発生し、振動センサ部11の検出信号に影響が現れ得る。したがって、例えばアスファルト路面のような平坦路で、かつ、ドライ路面を走行している際にタイヤ摩耗状態の検知が行われるようにする。
【0072】
タイヤ空気圧情報については、適正空気圧範囲であることの検出に用いている。タイヤ空気圧が高すぎると路面の凹凸の影響を大きく受けてタイヤ3が振動し易くなるし、タイヤ空気圧が低くなるとタイヤ3が振動し難くなる。このため、振動センサ部11の検出信号にタイヤ空気圧の影響が現れ得る。したがって、タイヤ空気圧が予め決められた適正空気圧範囲である際にタイヤ摩耗状態の検知が行われるようにする。
【0073】
荷重情報については、荷重が掛かりすぎていないこと、具体的には過積載時ではないことの検出に用いている。過積載時には、通常時と比較してタイヤ3の振動特性が変化し得る。したがって、荷重が予め決められた適正荷重範囲である際にタイヤ摩耗状態の検知が行われるようにする。
【0074】
天気情報については、タイヤ摩耗状態の検知に適さない環境、例えば降雨、積雪、凍結などの状況ではないことの検出に用いている。降雨、積雪、凍結などの際にはタイヤ3のスリップなどが発生し、振動センサ部11の検出信号に影響が現れ得る。したがって、例えばスリップの影響が発生しにくいドライ路になっていると想定される晴天時に、タイヤ摩耗状態の検知が行われるようにする。
【0075】
位置情報については、坂道や工事中の路面のようにタイヤ摩耗状態の検知に適さない場所を走行中であることの検出や、高速道路のようにタイヤ摩耗状態の検知に適した場所を走行中であることの検出に用いている。タイヤ摩耗状態の検知は、一定速度で安定した走行が行われる際に実施されるのが好ましい。したがって、坂道や工事中ではない平坦な舗装道路、好ましくは高速道路の走行中にタイヤ摩耗状態の検知が行われるようにする。
【0076】
なお、位置情報については、天気情報との組み合わせとして使用することもできる。すなわち、天気情報は、地域毎に出されることから、位置情報から車両の走行場所を特定し、その走行場所の地域の天気を天気情報から取得するようにすれば、より正確な天気情報に基づいてタイヤ摩耗状態の検知が行われるようにすることができる。
【0077】
温度情報については、タイヤ摩耗状態の検知に適さない温度であることの検出に用いている。ゴム製品であるタイヤ3は、高温になると柔らかくなり、バネ特性が変化してしまい、タイヤ摩耗状態の検知に適さない状況になり得る。したがって、外気温が所定温度以上であると、タイヤ摩耗状態の検知が行われないようにする。
【0078】
このように、車両情報取得部21bbにて車両情報を取得し、車両情報に基づいて、より適した条件のときに、タイヤ摩耗状態の検知が行われるようにすることができる。すなわち、タイヤ側装置1から摩耗データが送られてきたときに、車両情報取得部21bbで取得した車両状態に基づいて、送られてきた摩耗データからタイヤ摩耗状態の検知に有効なデータを選定することができる。例えば、所定速度範囲内において、直進一定速度で車両が走行している際の摩耗データのように、特にタイヤ摩耗状態の検知に有効と考えられるデータを選定できる。これにより、さらに精度良くタイヤ摩耗状態を検知することが可能となる。
【0079】
なお、タイヤ摩耗を的確に検知できるように、例えば車速が所定速度範囲内のときにタイヤ摩耗検知が行われるようにする場合、タイヤ側装置1でその条件を満たす場合にのみ摩耗データを送信するようにしても良い。例えば、タイヤ側装置1では、車速推定部12で車速を算出できることから、算出された車速が所定速度範囲内のときにのみ、波形取込部13aによる振動センサ部11の検出信号の取込みが行われるようにする。このようにすれば、タイヤ摩耗状態の検知に適した場合に摩耗データが送信されるようにでき、より精度良くタイヤ摩耗状態を検知できるのに加えて、送信頻度を減らすことが可能となって、電力消費量の低減を図る事も可能となる。
【0080】
(第3実施形態)
第3実施形態について説明する。本実施形態は、第1、第2実施形態に対してタイヤ摩耗状態の初期設定を行えるようにしたものであり、その他については第1、第2実施形態と同様であるため、第1、第2実施形態と異なる部分についてのみ説明する。なお、ここでは第1実施形態に対して本実施形態の構成を適用した場合を例に挙げて説明するが、第2実施形態に対しても適用可能である。
【0081】
図12に示すように、本実施形態では、制御部21bに初期値設定部21bcを備えている。初期値設定部21bcは、タイヤ摩耗状態の初期値を設定するものである。
【0082】
第1実施形態で説明したが、
図10に示されるように、タイヤ3の種類に応じてタイヤ3の溝深さ毎の積分値に差があるため、多種に対応できる閾値や警報閾値の設定が難しいこともあり得る。これを考慮すると、振動レベルのレベル値、ここでは積分値について、摩耗前のタイヤ3のタイヤ摩耗状態に相当する値、すなわちタイヤ3が新品のときのタイヤ摩耗状態に相当する値を初期値として、それに基づいて規格化を行うのが好ましい。
【0083】
図13は、タイヤ3が新品で溝深さが8mmのときの積分値を基準として規格化を行った規格化積分値を求めたものである。具体的には、タイヤ3が新品のときの積分値を1とし、溝深さ毎の積分値の変化量に比例して、この変化量が大きいほど大きな値となるような規格化積分値としている。この図に示すように、タイヤ3の種類にかかわらず、タイヤ3の溝深さ毎の規格化積分値がほぼ同じ値になった。
【0084】
したがって、初期値設定部21bcにて、タイヤ3が新品のときに得られた積分値を初期値として設定し、摩耗判定部21baにて、タイヤ摩耗状態の検知の際に得られた積分値を初期値に対する相対変化として表される規格化積分値として求めるようにする。このようにすれば、規格化積分値を閾値や警報閾値と比較することで、タイヤ3の種類にかかわらず、より精度良くタイヤ摩耗状態を検知することが可能となる。
【0085】
(第4実施形態)
第4実施形態について説明する。本実施形態は、第1〜第3実施形態に対してタイヤ3のゴム劣化に基づく補正を行うようにしたものであり、その他については第1〜第3実施形態と同様であるため、第1〜第3実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0086】
上記第1〜第3実施形態では、タイヤ3の摩耗によってゴムブロック33が薄くなり、バネ定数Kbが変化することで振動センサ部11の検出信号の高周波成分の振動レベルが変わることに基づいてタイヤ摩耗状態を検知している。しかしながら、タイヤ3はゴム製品であり、ゴム劣化に伴ってゴムブロック33のバネ定数Kbが変化し、タイヤ摩耗状態を的確に検知できなくなる可能性がある。
【0087】
タイヤ3が新品のときと3年相当の紫外線照射を行った紫外線劣化品それぞれについて、ゴムブロック33を切り出してロードセルにて荷重を加え、レーザ変位計を用いてゴムブロック33の変位を計測することでバネ定数Kbや積分値の変化を調べた。
図14Aおよび
図14Bは、その結果を示している。
図14Aに示されるように、紫外線劣化品についてはバネ定数Kbが10%程度増加していた。このように、光照射などによるゴム劣化に起因してバネ定数Kbが高くなることで振動センサ部11の検出信号の振動レベルが高くなる。そして、
図14Bに示すように、新品時と比較してゴム劣化時には積分値が20%程度増加しており、タイヤ3の溝深さに換算すると1mm程度誤検出してしまうことが確認された。このため、本実施形態では、ゴム劣化に対応した補正を行う。以下、
図15を参照して本実施形態のタイヤ摩耗検知装置について説明する。
【0088】
図15に示すように、本実施形態のタイヤ摩耗検知装置では、車体側システム2における受信機21の制御部21bに時間推定部21bdを備え、時間推定部21bdに情報取得部24からの情報が入力されるようになっている。また、タイヤ側装置1の制御部13に定数補正部13dを備えている。また、タイヤ側装置1のデータ通信部14と車体側システム2のデータ通信部21aは双方向通信が行えるようにされている。
【0089】
時間推定部21bdは、情報取得部24からの情報に基づいて、光照射累計時間を推定する。情報取得部24は光照射累計時間の推定に用いられる情報を取得するものであり、日射センサの検出信号情報、カメラの画像情報、地図情報、天気情報、時刻情報、車両の向き情報、タイヤ位置情報の少なくとも1つが該当する。例えば、日射センサの検出信号情報を用いて光照射累計時間を推定する場合には、日射センサが情報取得部24に該当する。カメラ画像情報を用いて光照射累計時間を推定する場合には、カメラが情報取得部24に該当する。地図情報、天気情報、時刻情報、車両の向き情報を用いて光照射累計時間を推定する場合には、ナビゲーションシステムなどが情報取得部24に該当する。
【0090】
日射センサの検出信号情報は、日射状態を示していることから、日射センサの検出信号情報に基づいて時間推定部21bdにて光照射累計時間が推定される。カメラの画像情報は、天候を示す情報であるため、画像情報に基づき時間推定部21bdにて例えば晴天のときの累計時間から光照射累計時間を推定される。地図情報は、例えば駐車場が屋内と屋外のいずれであるかという情報や、天気情報および時刻情報と共に、駐車もしくは走行している場所の天候に関する情報となる。このため、地図情報、天気情報、時刻情報に基づいて、時間推定部21bdにて光照射累計時間が推定される。また、車両の向きやタイヤ情報は、タイヤ位置を示す情報となる。例えば、晴天であってもタイヤ位置によって光の照射量が異なってくる。このため、時間推定部21bdは、車両の向きおよびタイヤ情報から、例えば晴天時の光照射累計時間を南側のタイヤ3に適用し、北側のタイヤ3については南側のタイヤ3の光照射累計時間を減らすように補正することで、各タイヤ3の光照射累計時間を推定する。
【0091】
このようにして、時間推定部21bdにて光照射累計時間が推定されると、その推定結果を示す情報がデータ通信部21aを通じてタイヤ側装置1に送信される。そして、その推定結果を示す情報がデータ通信部14を通じて、タイヤ側装置1で受信されるようになっている。
【0092】
定数補正部13dは、車体側システム2から送られてきた光照射累計時間の推定結果を示す情報に基づいてフィルタ部13bにおけるフィルタ定数の補正値を算出する。タイヤ3のゴム劣化時における振動センサ部11の検出信号から得られる振動スペクトルはゴムブロック33のバネ定数の変化が支配的に影響しており、バネ定数Kbの1/2乗倍で振動スペクトルのシフト量が推定できる。したがって、予め光照射累計時間に対するバネ定数の変化率を実験などで調べておき、その関係を示す関数式やマップなどを定数補正部13dで保有しておけば、定数補正部13dは、その関数式やマップを用いて、光照射累計時間に対応する補正値を決定できる。具体的には、光照射累計時間が長くなるほど、カットオフ周波数が高くなる補正が行われるようにする。
【0093】
例えば、関数式を用いる場合、光照射累計時間に対応するバネ定数変化分に対して、カットオフ周波数を1/2乗倍することでフィルタ定数を補正する。より詳しくは、
図6に示す振動モデルを例に挙げて説明すると、固有振動周波数Fnが上記した数式1のように表され、タイヤ3のゴム劣化に伴ってバネ定数kが大きくなって、固有振動周波数Fnがバネ定数kの変化の平方根倍で変化する。このため、例えばフィルタ部13bのフィルタ定数を1.5kHzとした場合においてバネ定数kがゴム劣化によって新品時の1.1倍になった場合、固有振動周波数Fnも1.5×1.1
1/2倍し、その値をフィルタ定数として設定する。
【0094】
以上のようにして、本実施形態のタイヤ摩耗検知装置が構成されている。このような構成のタイヤ摩耗検知装置では、光照射累計時間に基づいてフィルタ部13bのフィルタ定数の補正値を行っている。このため、タイヤ3のゴム劣化に伴ってゴムブロック33のバネ定数Kbが変化しても、それに対応してフィルタ定数を補正できることから、タイヤ3の溝深さを誤検出することを抑制でき、より精度良くタイヤ摩耗状態を検知することが可能となる。
【0095】
(第5実施形態)
第5実施形態について説明する。本実施形態も、第4実施形態と同様に、第1〜第3実施形態に対してタイヤ3のゴム劣化に基づく補正を行うようにしたものであるが、本実施形態では、フィルタ定数では無く積分演算部13cでの積分値について補正する。その他については第4実施形態と同様であるため、第4実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0096】
図16に示すように、本実施形態では、積分値の補正を行うための演算値補正部13eを備えている。演算値補正部13eは、車体側システム2から送られてきた時間推定部21bdでの光照射累計時間の推定結果を示す情報に基づいて積分演算部13cにおける演算値の補正値を算出する。
【0097】
上記したように、タイヤ3のゴム劣化時にバネ定数Kbが高くなることで振動センサ部11の検出信号の振動レベルが高くなる。このため、第4実施形態のようにフィルタ定数の補正を行わない場合には、フィルタ部13bを通過する成分が多くなり、積分演算部13cでの積分値が高い値となってしまう。これを考慮して、積分演算部13cでの積分値を補正し、光照射累計時間が長くなるほど積分値が小さくなるように補正する。例えば、積分値に対して、1未満の補正係数を掛けることによって補正を行う。
【0098】
なお、タイヤ3のゴム劣化時にフィルタ部13bを通過する成分がどのくらい増えるかについては、一義的に決まらない。このため、実験的に、新品時とゴム劣化後それぞれにおける積分値の差を同じ走行条件で調べておき、その実験結果に基づいて補正定数を決定すれば良い。
【0099】
以上説明したように、光照射累計時間に基づいて積分演算部13cでの積分値の補正を行っている。このようにしても、タイヤ3の溝深さを誤検出することを抑制でき、より精度良くタイヤ摩耗状態を検知することが可能となる。
【0100】
(第6実施形態)
第6実施形態について説明する。本実施形態は、第1〜第5実施形態に対してタイヤ側装置1に備えられていた構成の一部を車体側システム2における受信機21に備えるようにしたものである。その他については第1〜第5実施形態と同様であるため、第1〜第5実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0101】
図17に示すように、本実施形態では、タイヤ側装置1の制御部13に、波形取込部13aが備えられているものの、フィルタ部13bや積分演算部13cが備えられていない。一方、受信機21の制御部21bに、摩耗判定部21baに加えて、フィルタ部21beや積分演算部23bfを備えている。フィルタ部21beや積分演算部23bfについては、第1実施形態などで説明したフィルタ部13bや積分演算部13cと同様の機能を果たすものである。
【0102】
このような構成においては、タイヤ側装置1から、波形取込部13aで取り込まれた振動センサ部11の検出信号の生データがデータ通信部14を通じて車体側システム2に伝えられる。また、車体側システム2では、受信機21において、データ通信部21aを通じてタイヤ側装置1から送信された生データが受信され、フィルタ部21beにてフィルタリングされることで特定周波数帯の振動レベルが抽出される。そして、積分演算部23bfで抽出された振動レベルのレベル値の積分値が演算される。
【0103】
このように、タイヤ側装置1ではなく、車体側システム2側にフィルタ部21beや積分演算部23bfを備えることもできる。これによっても、上記各実施形態と同様の効果を得ることができる。なお、ここでは第2実施形態の構成に対する変更点として記載したが、第1実施形態のように車両情報取得部21bbを備えていないものや、第3〜第5実施形態のように初期値設定部21bc、時間推定部21bd、情報取得部24を備える構造としても良い。
【0104】
(他の実施形態)
本開示は、上記した実施形態に準拠して記述されたが、当該実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0105】
(1)例えば、上記各実施形態では、振動センサ部11にてタイヤ3の径方向の振動の大きさに応じた検出信号を出力させているが、これはタイヤ3の摩耗状態に応じて振動の変化が最も大きく現れる方向であるためである。しかしながら、タイヤ3の接線方向、幅方向についても、タイヤ3の摩耗状態に応じて振動が変化することから、振動センサ部11にて、タイヤ3の接線方向もしくは幅方向の振動の大きさに応じた検出信号を出力させ、それに基づいてタイヤ摩耗検知を行っても良い。
【0106】
(2)また、上記各実施形態では、タイヤ3の摩耗状態の検知を1〜数百km走行する毎に実施することについて説明した。これも一例を示したに過ぎず、それよりも短距離毎に、もしくは長距離毎に、タイヤ3の摩耗状態の検知が実施されるようにしても良い。そして、タイヤ3の摩耗状態の検知を行う際には、タイヤ側装置1から摩耗データを1回のみ送信するのではなく、複数回送信するようにしても良い。
【0107】
特に、第2実施形態においては、タイヤ側装置1から送られてきた摩耗データが有効なデータとして選定されなかった場合、その摩耗データに基づいてはタイヤ3の摩耗状態の検知が行われないことになる。このため、タイヤ側装置1から摩耗データが複数回送信されるようにし、いずれかの摩耗データに基づいてタイヤ3の摩耗状態の検知が行われるようにすると好ましい。さらに、複数回送信する場合であっても車両の走行状態が変化していないと、再び摩耗データが有効なデータとして選定されない可能性がある。このため、走行状態が異なる状態になっていることを想定して、摩耗データの取得および送信間隔を数百m〜数km毎とすると好ましい。
【0108】
(3)また、上記各実施形態では、タイヤ3の摩耗状態の検知結果を報知装置23より報知したり、ブレーキECU22に伝えることで車両運動制御に用いたりする場合について説明した。しかしながら、これも一例を示したに過ぎない。例えば、車体側システム2として、車両外部の通信媒体との間において通信を行うことができる車両通信装置を備え、この車両通信装置を通じて、携帯電話などの携帯機や通信センターなどに通知することもできる。携帯機へ通知を行えば、携帯機を通じてユーザにタイヤ3の交換を勧めることができる。通信センターへの通知を行えば、通信センターを通じてディーラ等の車両整備工場にタイヤ3の摩耗状態を通知することができる。それにより、車両整備工場からユーザに対してタイヤ3の交換の案内通知を行うこと等が可能となる。
【0109】
(4)また、上記各実施形態では、車速推定部12が振動センサ部11の検出信号に基づいて車速を推定する場合について説明した。しかしながら、これも一例を示したに過ぎず、タイヤ側装置1と受信機21とによって双方向通信を可能とし、データ通信部14を通じて受信機21から車速に関するデータを取得することで、車速推定部12にて車速を推定するようにしても良い。その場合、受信機21から送られた車速に関するデータが示す車速がそのときの車速と推定されるため、車速推定部12は、車速に関するデータをそのまま波形取込部13aに伝え、波形取込部13aでの取込み範囲の設定に用いられるようにすれば良い。受信機21は、車速に関するデータとして、車両情報取得部21bbで車両情報として得た車速情報を用いれば良い。
【0110】
なお、上記第4、第5実施形態を含め、タイヤ側装置1と受信機21との間において双方向通信を行う場合、双方向通信の形態については様々なものを適用することができる。例えば、BLE(Bluetooth Low Energyの略)通信を含むブルートゥース通信、wifiなどの無線LAN(Local Area Networkの略)、Sub-GHz通信、ウルトラワイドバンド通信、ZigBeeなどを双方向通信として適用できる。なお、「ブルートゥース」は登録商標である。
【0111】
さらに、タイヤ側装置1と受信機21との間において双方向通信を行える形態とする場合、第2実施形態のように、摩耗データを選定することを、摩耗データの作成タイミングの選定とすることができる。すなわち、車両情報取得部21bbで取得した車両情報に基づいて、受信機21側でタイヤ3の摩耗状態の検知に有効な走行状態であることを選定し、そのタイミングでタイヤ側装置1に対して摩耗データの要求信号を出力する。そして、タイヤ側装置1では、要求信号を受信したときに、摩耗データの送信が行われるようにする。このようにすれば、タイヤ3の摩耗状態の検知に有効な走行状態となっているときに摩耗データが受信機21に届けられるため、その摩耗データに基づいて、精度良くタイヤ3の摩耗状態を検知することが可能となる。
【0112】
(5)また、上記各実施形態では、複数のタイヤ3のそれぞれに対してタイヤ側装置1を備えるようにしたが、少なくとも1つに備えられていればよい。すなわち、タイヤ摩耗状態は、概ね複数のタイヤ3で同様になることから、少なくとも1つのタイヤ側装置1を備えるようにすれば、そこで作成される摩耗データに基づいてタイヤ摩耗状態を検出すれば、他のタイヤ3についても同様の摩耗状態と推定できる。
【0113】
(6)また、上記第5実施形態では、積分演算部13cでの積分値を補正するように下が、摩耗判定部21baでの摩耗判定を行う際の閾値を補正することもできる。例えば、タイヤ3のゴム劣化を加味し、光照射累計時間が長くなるほど閾値を大きな値にすれば良い。その場合、車体側システム2において補正を行えるため、双方向通信によって光照射累計時間に関する情報を伝える必要はない。
【0114】
(7)さらに、上記各実施形態では、摩耗判定部21baが受信機21に備えられている場合を例に挙げたが、タイヤ側装置1の制御部13に摩耗判定部も備えておき、タイヤ側装置1から摩耗判定部での判定結果のみを受信機21側に伝えるようにしても良い。