特許第6935897号(P6935897)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6935897マグネトロンスパッタ法による反応膜の形成装置および形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6935897
(24)【登録日】2021年8月30日
(45)【発行日】2021年9月15日
(54)【発明の名称】マグネトロンスパッタ法による反応膜の形成装置および形成方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20210906BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20210906BHJP
   C23C 14/22 20060101ALI20210906BHJP
【FI】
   C23C14/34 U
   C23C14/06 A
   C23C14/22 F
【請求項の数】6
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-5657(P2017-5657)
(22)【出願日】2017年1月17日
(65)【公開番号】特開2018-115356(P2018-115356A)
(43)【公開日】2018年7月26日
【審査請求日】2019年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000192567
【氏名又は名称】神港精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090310
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 正俊
(72)【発明者】
【氏名】寺山 暢之
【審査官】 宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05232571(US,A)
【文献】 特開2009−084618(JP,A)
【文献】 特開平11−264071(JP,A)
【文献】 特開昭61−292817(JP,A)
【文献】 特開昭60−046368(JP,A)
【文献】 特開2001−152330(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
C23C 14/06
C23C 14/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に被処理物が収容される真空槽と、
ターゲットと該ターゲットの被スパッタ面の近傍に磁界を発生させる磁界発生手段とを有しており該被スパッタ面が上記被処理物の被処理面と対向するように上記真空槽の内部に設けられたマグネトロンカソードと、
プラズマの発生に供される放電用ガスと上記被処理面に形成される反応膜の材料となる反応性ガスとを上記真空槽の内部に導入するガス導入手段と、
上記真空槽を陽極とし上記マグネトロンカソードを陰極としてこれら両者にスパッタ電力を供給することによって上記放電用ガスを放電させて該真空槽の内部に上記プラズマを発生させるスパッタ電力供給手段と、
を具備し、
上記プラズマ中のイオンが上記被スパッタ面に衝突することによって該被スパッタ面から叩き出されたスパッタ粒子と該プラズマによって分解された上記反応性ガスの粒子である反応性粒子とを成分として含む上記反応膜を上記被処理面に形成する、
マグネトロンスパッタ法による反応膜の形成装置において、
上記被スパッタ面と上記被処理面との間に設けられており該被スパッタ面を該被処理面に向けて露出させる開状態と該被スパッタ面を該被処理面から遮蔽する閉状態とに遷移可能なシャッタ手段と、
上記シャッタ手段が上記開状態と上記閉状態とに交互に遷移するように該シャッタ手段を制御するシャッタ制御手段と、
をさらに具備し、
上記シャッタ手段が上記閉状態にあるとき、上記ガス導入手段は上記真空槽の内部への上記反応性ガスの導入を停止すると共に上記放電用ガスの導入を継続し、かつ上記スパッタ電力供給手段は、上記スパッタ電力の供給を継続し、
上記被スパッタ面と上記被処理面との間における上記シャッタ手段よりも該被スパッタ面に近い位置に設けられており熱電子放出用電力の供給を受けることで加熱されて熱電子を放出するフィラメントと、
上記真空槽を陽極とし上記フィラメントを陰極としてこれら両者に放電用電力を供給することによって上記熱電子を加速させて該フィラメントの周囲にアーク放電を誘起させる放電用電力供給手段と、
をさらに具備する、
反応膜の形成装置。
【請求項2】
上記マグネトロンカソードは上記磁界発生手段が固定された磁界固定型のものである、
請求項1記載の反応膜の形成装置。
【請求項3】
上記シャッタ手段が上記開状態にある期間に対する該シャッタ手段が上記閉状態にある期間の比率は0.05〜0.5である、
請求項1または2に記載の反応膜の形成装置。
【請求項4】
上記シャッタ手段が上記閉状態にあるときの上記スパッタ電力は該シャッタ手段が上記開状態にあるときの該スパッタ電力よりも大きい、
請求項1ないし3のいずれかに記載の反応膜の形成装置。
【請求項5】
上記シャッタ手段が上記開状態にあるとき、上記真空槽内への上記放電用ガスの導入が停止される
請求項1ないし4のいずれかに記載の反応成膜の形成装置。
【請求項6】
被処理物が収容されると共にマグネトロンカソードが設けられ、上記マグネトロンカソードは、ターゲットと、該ターゲットの被スパッタ面の近傍に磁界を発生させる磁界発生手段とを有しており、上記被スパッタ面が上記被処理物の被処理面と対向するように設けられた真空槽の内部に、プラズマの発生に供される放電用ガスと、上記被処理物の被処理面に形成される反応膜の材料となる反応性ガスとを、導入するガス導入過程と、
上記真空槽を陽極とし上記マグネトロンカソードを陰極としてこれら両者にスパッタ電力を供給することによって上記放電用ガスを放電させて上記真空槽の内部に上記プラズマを発生させるスパッタ電力供給過程と、
を具備し、
上記プラズマ中のイオンが上記被スパッタ面に衝突することによって上記被スパッタ面から叩き出されたスパッタ粒子と該プラズマによって分解された上記反応性ガスの粒子である反応性粒子とを成分として含む上記反応膜を上記被処理面に形成する、
マグネトロンスパッタ法による反応膜の形成方法において、
上記被スパッタ面と上記被処理面との間に設けられており上記被スパッタ面を上記被処理面に向けて露出させる開状態と上記被スパッタ面を該被処理面から遮蔽する閉状態とに遷移可能なシャッタ手段が該開状態と該閉状態とに交互に遷移するように該シャッタ手段を制御するシャッタ制御過程を、
さらに具備し、
上記シャッタ手段が上記閉状態にあるときに、上記ガス導入過程では上記真空槽の内部への上記反応性ガスの導入を停止すると共に上記放電用ガスの導入を継続し、かつ上記スパッタ電力供給過程は、上記スパッタ電力の供給を継続し、
上記被スパッタ面と上記被処理面との間における上記シャッタ手段よりも上記被スパッタ面に近い位置に設けられたフィラメントが熱電子放出用電力の供給を受けることで加熱されて熱電子を放出する熱電子放出過程と、
上記真空槽を陽極とし上記フィラメントを陰極としてこれら両者に放電用電力を供給することによって上記熱電子を加速させて該フィラメントの周囲にアーク放電を誘起させる放電用電力供給過程とを、
具備する反応膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトロンスパッタ法による反応膜の形成装置および形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の発明者は、先に、特願2015−193124にて提案されているアーク放電を用いたマグネトロンスパッタ法、言わばアーク放電型マグネトロンスパッタ法、による成膜装置および成膜方法を発明した。この従来技術によれば、真空槽の内部に被処理物が収容される。真空槽内には、マグネトロンカソードが設けられている。このマグネトロンカソードは、ターゲットと、このターゲットの被スパッタ面の近傍に磁界を発生させる磁界発生手段と、を有している。そして、このマグネトロンカソードは、ターゲットの被スパッタ面が被処理物の被処理面と対向するように設けられている。この真空槽内に、プラズマの発生に供される放電用ガスが導入される。併せて、真空槽を陽極とし、マグネトロンカソードを陰極として、これら両者にスパッタ電力が供給される。すると、放電用ガスの粒子が放電して、真空槽内にプラズマが発生する。ここで、ターゲットの被スパッタ面の近傍には上述の如く磁界が発生しているので、この磁界の作用を受けてプラズマ中の電子(2次電子)が螺旋運動(サイクロイド運動またはトロコイド運動)する。これにより、当該被スパッタ面の近傍におけるプラズマの密度が向上する。このプラズマの放電態様は、高電圧小電流のグロー放電である。そして、このプラズマ中のイオンがターゲットの被スパッタ面に衝突することによって、当該被スパッタ面からターゲットの粒子が叩き出される。この叩き出されたスパッタ粒子は、被処理物の被処理面に向かって飛翔して、当該被処理面に付着し、堆積する。この結果、被処理物の被処理面にスパッタ粒子を成分として含む被膜が形成される。さらに、ターゲットの被スパッタ面と被処理物の被処理面との間に、フィラメントが設けられている。このフィラメントは、熱電子放出量電力の供給を受けることで加熱されて、熱電子を放出する。併せて、真空槽を陽極とし、フィラメントを陰極として、これら両者に放電用電力が供給される。これにより、フィラメントから放出された熱電子が加速され、この加速された熱電子が放電用ガスの粒子と衝突する頻度が増大して、当該フィラメントの周囲に低電圧高電流のアーク放電が誘起される。
【0003】
即ち、この従来技術によれば、グロー放電によるプラズマに加えて、アーク放電による極めて高密度なプラズマが、ターゲットの被スパッタ面と被処理物の被処理面との間に発生する。このため、ターゲットの被スパッタ面から叩き出されたスパッタ粒子は、被処理物の被処理面に向かって飛翔する途中で、このアーク放電による極めて高密度なプラズマ中を通過する。これにより、スパッタ粒子が活性化され、さらにはイオン化されて、少なくとも中性の状態よりは高いエネルギを持つようになる。そして、この高いエネルギを持つスパッタ粒子が被処理物の被処理面に付着して堆積することで、当該被処理面に高硬度かつ緻密な被膜が形成される。
【0004】
なお、この従来技術によれば、反応膜(化合物膜)を形成することもできる。この場合、反応膜の材料となる反応性ガス、換言すればスパッタ粒子と反応する性質を持つ当該反応性ガスが、真空槽内に導入される。すると、この反応性ガスは、プラズマによって分解され、イオン化される。そして、このイオン化された反応性ガスの粒子と、イオン化されたスパッタ粒子とが、互いに反応して、これらの粒子を成分とする反応膜が被処理物の被処理面に形成される。このような反応膜の形成においては、真空槽を陽極とし、被処理物を陰極として、これら両者にバイアス電力が供給されるのが、望ましい。このバイアス電力が供給されることによって、イオン化されたスパッタ粒子とイオン化された反応性ガスの粒子とが被処理物の被処理面に向かって加速されて、当該被処理面に形成される反応膜のさらなる高硬度化が図られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この従来技術において、ターゲットの被スパッタ面を観測すると、スパッタされ難い非エロージョン領域にも反応膜が形成され、言わば不本意な被膜が形成される。そして、この不本意膜は、被処理物の被処理面に形成される言わば本意的な反応膜と同様、成膜時間が長くなるに連れて成長する。ところが、この不本意膜は、或る程度にまで成長すると、自身の内部応力によって非エロージョン領域から微粉末状に剥離する。そして、この剥離した微粉末がエロージョン領域に落下して、これがスパッタされると、このスパッタによって飛散(スプラッシュ)した粒子、言わばスプラッシュ粒子が、被処理物の被処理面に付着し、厳密には当該被処理面に形成された反応膜の表面に付着する。この結果、当該反応膜の表面が粗化されてしまう、という不都合が生じる。因みに、成膜時間が比較的に短い場合には、換言すれば形成しようとする反応膜の膜厚が例えば1μm以下程度である場合には、このような不都合は生じない。一方、成膜時間が比較的に長い場合に、例えば形成しようとする反応膜の膜厚が3μmを超えるような場合に、当該不都合が生じる。
【0006】
即ち、従来技術では、膜厚が大きくても表面が滑らかな反応膜を形成することができない、という問題がある。この問題は、アーク放電型マグネトロンスパッタ法に限らず、グロー放電のみを用いた言わば一般的なマグネトロンスパッタ法においても、同様に発生する。なお、反応膜ではなく、例えば金属単体の被膜を形成する場合には、上述のような不本意膜は形成されず、つまり当該問題は発生しない。
【0007】
そこで、本発明は、膜厚が大きくて、しかも、表面が滑らかな、反応膜を形成することができる、マグネトロンスパッタ法による当該反応膜の形成装置および形成方法を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために、本発明は、マグネトロンスパッタ法による反応膜の形成装置に係る第1の発明と、当該マグネトロンスパッタ法による反応膜の形成方法に係る第2の発明と、を含む。
【0009】
まず、第1発明は、上述の如くマグネトロンスパッタ法による反応膜の形成装置に係るものであり、内部に被処理物が収容される真空槽を、備えている。真空槽内には、マグネトロンカソードが、設けられている。このマグネトロンカソードは、ターゲットと、このターゲットの被スパッタ面の近傍に磁界を発生させる磁界発生手段と、を有している。そして、マグネトロンカソードは、ターゲットの被スパッタ面が被処理物の被処理面と対向するように設けられている。さらに、プラズマの発生に供される放電用ガスと、被処理物の被処理面に形成される反応膜の材料となる反応性ガスと、を真空槽の内部に導入するガス導入手段が、設けられている。加えて、真空槽を陽極とし、マグネトロンカソードを陰極として、これら両者にスパッタ電力を供給するスパッタ電力供給手段が、設けられている。このスパッタ電力が供給されると、放電用ガスの粒子が放電して、真空槽の内部にプラズマが発生する。特に、ターゲットの被スパッタ面の近傍には磁界が発生しているので、この磁界の作用を受けてプラズマ中の電子が螺旋運動する。これにより、当該被スパッタ面の近傍におけるプラズマの密度が向上する。このプラズマの放電態様は、グロー放電である。そして、このプラズマ中のイオンがターゲットの被スパッタ面に衝突することによって、当該被スパッタ面からターゲットの粒子が叩き出される。この叩き出されたスパッタ粒子は、被処理物の被処理面に向かって飛翔する。併せて、反応性ガスの粒子がプラズマによって分解される。この分解された反応性ガスの粒子である反応性粒子は、被処理物の被処理面に向かって飛翔するスパッタ粒子と反応して、当該被処理物の被処理面に付着し、堆積する。この結果、被処理物の被処理面にスパッタ粒子と反応性粒子とを成分として含む反応膜が形成される。その上で、本第1発明は、シャッタ手段と、シャッタ制御手段と、をさらに備えている。このうちのシャッタ手段は、ターゲットの被スパッタ面と被処理物の被処理面との間に設けられている。このシャッタ手段は、ターゲットの被スパッタ面を被処理物の被処理面に向けて露出させる開状態と、ターゲットの被スパッタ面を被処理物の被処理面から遮蔽する閉状態と、に遷移可能である。そして、シャッタ制御手段は、(反応膜の形成時に)シャッタ手段が開状態と閉状態とに交互に遷移するように、当該シャッタ手段を制御する。これに加えて、ガス導入手段は、シャッタ手段が閉状態にあるときに、真空槽の内部への反応性ガスの導入を停止する。
【0010】
即ち、本第1発明によれば、シャッタ手段が開状態となることによってターゲットの被スパッタ面が被処理物の被処理面に向かって露出される言わば第1の状態と、当該シャッタ手段が閉状態となることによってターゲットの被スパッタ面が被処理物の被処理面から遮蔽される言わば第2の状態と、が交互に繰り返される。ここで、第1状態(シャッタ手段が開状態)にあるときには、ターゲットの被スパッタ面が被処理物の被処理面に向かって露出されているので、当該被処理物の被処理面に反応膜が形成される。また、ターゲットの被スパッタ面に非エロージョン領域がある場合には、当該非エロージョン領域にも、反応膜が形成され、言わば不本意な被膜が形成される。この不本意膜は、上述の従来技術におけるのと同様、成膜時間が長くなるに連れて成長し、ひいては被処理物の被処理面に形成される言わば本意的な反応膜の表面を粗化する要因となる。一方、第2状態(シャッタ手段が閉状態)にあるときには、ターゲットの被スパッタ面が被処理物の被処理面から遮蔽される。併せて、真空槽内への反応性ガスの導入が停止される。これにより、反応膜を形成するための成膜処理が中断される。ただし、真空槽内への放電ガスの導入は継続されており、また、スパッタ電力の供給も継続されているので、プラズマ中のイオンは、引き続きターゲットの被スパッタ面に衝突し、つまり非エロージョン領域を含む当該被スパッタ面をスパッタする。これにより、非エロージョン領域に形成された不本意膜が除去され、つまり当該非エロージョン領域を含む被スパッタ面が洗浄される。このとき、ターゲットの被スパッタ面はシャッタ手段によって被処理物の被処理面から遮蔽されているので、当該被スパッタ面の非エロージョン領域から除去された不本意膜の粒子が被処理物の被処理面に付着して、厳密には当該被処理面に形成された反応膜の表面に付着して、当該反応膜の表面が粗化されてしまうようなことはない。これらの第1状態と第2状態とが交互に繰り返されることによって、非エロージョン領域に形成される不本意膜に起因する反応膜の表面の粗化が抑制されつつ、長時間にわたる成膜処理の実施が可能となり、つまり膜厚の大きい当該反応膜の形成が可能となる。この結果、膜厚が大きくて、しかも、表面が滑らかな、反応膜を形成することができる。
【0011】
さらに、本第1発明は、フィラメントと、放電用電力供給手段とが、設けられる。フィラメントは、ターゲットの被スパッタ面と被処理物の被処理面との間におけるシャッタ手段よりも当該ターゲットの被スパッタ面に近い位置に設けられる。そして、このフィラメントは、熱電子放出用電力の供給を受けることで加熱されて熱電子を放出する。一方、放電用電力供給手段は、真空槽を陽極とし、フィラメントを陰極として、これら両者に放電用電力を供給する。これにより、フィラメントから放出された熱電子が加速され、この加速された熱電子が放電用ガス(および反応性ガス)の粒子と衝突する頻度が増大して、当該フィラメントの周囲にアーク放電が誘起される。
【0012】
この構成によれば、上述のグロー放電によるプラズマに加えて、アーク放電による極めて高密度なプラズマが、ターゲットの被スパッタ面と被処理物の被処理面との間に発生する。従って、上述の第1状態にあるとき、つまり成膜処理が行われるとき、ターゲットの被スパッタ面から叩き出されたスパッタ粒子は、被処理物の被処理面に向かって飛翔する途中で、このアーク放電による極めて高密度なプラズマ中を通過する。これにより、スパッタ粒子が活性化され、さらにはイオン化されて、少なくとも中性の状態よりは高いエネルギを持つようになる。併せて、反応性ガスの粒子もまた、より効率的に分解され、イオン化される。この結果、被処理物の被処理面に形成される反応膜の高硬度化および緻密化が図られる。なお、フィラメントは、シャッタ手段よりもターゲットの被スパッタ面に近い位置に設けられているので、上述の第2状態にあるときにも、つまり非エロージョン領域に形成された不本意膜を除去するべく当該非エロージョン領域を含む被スパッタ面を洗浄するための処理が行われるときにも、アーク放電による極めて高密度なプラズマの作用が及ぶ。即ち、アーク放電による極めて高密度なプラズマの作用によって、ターゲットの被スパッタ面を洗浄するための処理が効率的に行われる。
【0013】
また、本第1発明は、マグネトロンカソードとして、磁界発生手段の位置が固定された磁界固定型のものが採用される構成に、好適である。
【0014】
即ち、ここで言う不本意膜は、上述の如くターゲットの被スパッタ面の非エロージョン領域に形成される。この非エロージョン領域は、基本的に、磁界発生手段が固定された、つまり当該磁界発生手段の位置が動かない、磁界固定型のマグネトロンカソードにおいて生じる。従って、本第1発明は、磁界固定型のマグネトロンカソードが採用される構成に、極めて好適である。
【0015】
さらに、本第1発明においては、第1状態にあるときの期間に対する第2状態にあるときの期間の比率が、0.05〜0.5とされる。
【0016】
この比率については、例えばこれが過大であると、つまり第2状態にあるときの期間が過度に長いと、ターゲットの被スパッタ面を洗浄するための処理が必要以上に行われることになり、生産性が低下する。一方、この比率が過小であると、つまり第2状態にあるときの期間が過度に短いと、ターゲットの被スパッタ面を洗浄するための処理が十分に行われず、つまり上述の不本意膜が十分に除去されない虞がある。これらのことから、第1状態にあるときの期間に対する第2状態にあるときの期間の比率は、0.05〜0.5とされ、望ましくは例えば0.1〜0.3とされる。なお、第1状態にあるときの期間そのものは、スパッタ電力やターゲットの種類(素材)等の諸条件に応じて適宜に定められる。第2条体にあるときの期間そのものについても、同様である。
【0017】
さらに、第2状態にあるときのスパッタ電力は、第1状態にあるときの当該スパッタ電力よりも大きいのが、望ましい。
【0018】
即ち、第1状態にあるときのスパッタ電力は、諸条件に応じて適宜に定められる。一方、第2状態にあるときのスパッタ電力は、ターゲットの被スパッタ面を効率的に洗浄しつつ、当該第2状態にあるときの期間を短縮し、ひいては生産性の向上を図る、という観点から、可能な限り大きいのが、望ましい。ゆえに、第2状態にあるときのスパッタ電力は、第1状態にあるときの当該スパッタ電力よりも大きいのが、望ましい。
【0019】
また、反応性ガスの種類およびターゲットの種類によっては、当該反応性ガスは、放電用ガスとして兼用されてもよい。具体的には、第1状態にあるときに、真空槽内への放電用ガスの導入が停止されてもよく、詳しくは当該放電用ガスとしての希ガスの導入が停止されてもよい。つまりはそうなるように、ガス導入手段が構成されてもよい。この場合、第1状態にあるときには、反応性ガスは、放電用ガスとしても機能し、つまり当該放電用ガスとして兼用される。併せて、当該反応性ガスは、ターゲットの被スパッタ面をスパッタするスパッタガスとしても機能する。
【0020】
このように反応性ガスが放電用ガスとして兼用されることによって、放電用ガスの消費が抑えられ、ひいては反応膜を形成するためのコストの低減が図られる。
【0021】
次に、第2発明は、上述の如くマグネトロンスパッタ法による反応膜の形成方法に係るものであり、ガス導入過程と、スパッタ電力供給過程と、を備えている。このうちのガス供給過程では、被処理物が収容されると共にマグネトロンカソードが設けられた真空槽の内部に、プラズマの発生に供される放電用ガスと、当該被処理物の被処理面に形成される反応膜の材料となる反応性ガスと、が導入される。そして、スパッタ電力供給過程では、真空槽を陽極とし、マグネトロンカソードを陰極として、これら両者にスパッタ電力が供給される。これにより、放電用ガスが放電して、真空槽の内部にプラズマが発生する。ここで、マグネトロンカソードは、ターゲットと、このターゲットの被スパッタ面の近傍に磁界を発生させる磁界発生手段と、を有している。このターゲットの被スパッタ面の近傍に発生している磁界の作用を受けて、プラズマ中の電子が螺旋運動する。これにより、ターゲットの被スパッタ面の近傍におけるプラズマの密度が向上する。このプラズマの放電態様は、グロー放電である。そして、このプラズマ中のイオンがターゲットの被スパッタ面に衝突することによって、当該被スパッタ面からターゲットの粒子が叩き出される。また、マグネトロンカソードは、ターゲットの被スパッタ面が被処理物の被処理面と対向するように設けられている。従って、ターゲットの被スパッタ面から叩き出されたスパッタ粒子は、被処理物の被処理面に向かって飛翔する。併せて、反応性ガスの粒子がプラズマによって分解される。この分解された反応性ガスの粒子である反応性粒子は、被処理物の被処理面に向かって飛翔するスパッタ粒子と反応して、当該被処理物の被処理面に付着し、堆積する。この結果、被処理物の被処理面にスパッタ粒子と反応性粒子とを成分として含む反応膜が形成される。その上で、本第2発明は、シャッタ制御過程を、さらに備えている。このシャッタ制御過程では、ターゲットの被スパッタ面と被処理物の被処理面との間に設けられているシャッタ手段が制御される。具体的には、シャッタ手段は、ターゲットの被スパッタ面を被処理物の被処理面に向けて露出させる開状態と、当該ターゲットの被スパッタ面を被処理物の被処理面から遮蔽する閉状態と、に遷移可能とされている。そして、シャッタ制御過程では、(反応膜の形成時に)このシャッタ手段が開状態と閉状態とに交互に遷移するように、当該シャッタ手段を制御する。これに加えて、シャッタ手段が閉状態にあるときに、ガス導入過程では、真空槽の内部への反応性ガスの導入を停止すると共に放電用ガスの導入を継続し、かつ上スパッタ電力供給過程では、スパッタ電力の供給を継続する。さらに、本第2の発明は、上記被スパッタ面と上記被処理面との間における上記シャッタ手段よりも上記被スパッタ面に近い位置に設けられたフィラメントが熱電子放出用電力の供給を受けることで加熱されて熱電子を放出する熱電子放出過程と、上記真空槽を陽極とし上記フィラメントを陰極としてこれら両者に放電用電力を供給することによって上記熱電子を加速させて該フィラメントの周囲にアーク放電を誘起させる放電用電力供給過程とを、備えている。
【0022】
即ち、本第2発明は、いわゆる物の発明としての第1発明に対応する方法の発明である。従って、本第2発明によれば、第1発明と同様の作用が奏される。
【発明の効果】
【0023】
上述したように、本発明によれば、膜厚が大きくて、しかも、表面が滑らかな、反応膜を形成することができる。このことは、金型,工具,摺動部品等の長寿命化や相手攻撃性の低減に大きく貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係るアーク放電型マグネトロンスパッタ装置の概略構成を示す図解図である。
図2】同マグネトロンスパッタ装置の内部を上方から見た図解図である。
図3】同実施形態におけるマグネトロンカソードの概略構成を示す図解図である。
図4】同実施形態におけるマグネトロンカソードとフィラメントとの相互の位置関係を示す図解図である。
図5】同実施形態において比較対象としての従来技術における不都合を再現したときのマグネトロンカソードの状態を示す写真である。
図6】同実施形態におけるコントローラによる制御要領を示す図解図である。
図7】従来技術における同制御要領を示す図解図である。
図8】同実施形態における反応膜の性状を従来技術におけるものと比較して示す一覧である。
図9】同実施形態における反応膜の顕微鏡による観察画像を従来技術におけるものと比較して示す図である。
図10図6とは異なる要領を示す図解図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の一実施形態について、以下に詳しく説明する。
【0026】
図1および図2に示すように、本実施形態に係るアーク放電型マグネトロンスパッタ装置10は、中空の概略直方体状の真空槽12を備えている。この真空槽12は、当該直方体の1つの面に当たる部分を上面とし、当該上面と対向する別の1つの面に当たる部分を下面とし、それ以外の4つの面に当たる部分を側面とした状態で、設置されている。この真空槽12の内部は、その水平方向においては、1つの側面の長さ寸法が例えば1100mm程度とされている。そして、当該真空槽12の内部の高さ寸法は、例えば800mm程度とされている。なお、この真空槽12の形状および寸法は、飽くまでも一例であり、後述する被処理物100の大きさや個数等の諸状況に応じて適宜に定められる。また、真空槽12自体は、耐食性および耐熱性の高い金属製、例えばSUS304等のステンレス鋼製、であり、その壁部は、基準電位としての接地電位に接続されている。
【0027】
この真空槽12の壁部の適宜位置、例えば下面を成す壁部の中央から外れた位置(図1における左寄りの位置)には、排気口14が設けられている。そして、この排気口14には、真空槽12の外部において、図示しない排気管を介して図示しない排気手段としての真空ポンプが結合されている。なお、真空ポンプは、真空槽12内の圧力Pを制御する圧力制御手段としても機能する。加えて、排気管の途中には、図示しない自動圧力制御装置が設けられており、この自動圧力制御装置もまた、圧力制御手段として機能する。
【0028】
さらに、真空槽12の側面を成す壁部の内側の適宜位置(図1および図2における右側の側壁部の適宜位置)に、当該真空槽12とは電気的に絶縁された状態で、マグネトロンカソード16が配置されている。図3を併せて参照して、このマグネトロンカソード16は、概略矩形平板状のターゲット162と、このターゲット162の一方主面である背面側に設けられた磁石ユニット164と、を有している。そして、磁石ユニット164は、磁界発生手段としての永久磁石166と、この永久磁石166を収容する筐体168と、を有している。さらに、永久磁石166は、ターゲット162の背面に密着しつつ当該ターゲット162の周縁に沿うように設けられた概略矩形枠状の一方磁極としての例えばN極166aと、このN極166aの内側においてターゲット162の背面に密着しつつ当該ターゲット162の長手方向に沿って延伸するように設けられた概略角棒状の他方磁極としてのS極166bと、を有している。なお、ターゲット162としては、例えば純度の高い(詳しくは99.99%以上の純度の)チタン(Ti)製のものが採用される。そして、このターゲット162の寸法は、例えばその長手方向(長さ寸法)が457mmであり、短手方向(幅寸法)が127mmであり、厚さ方向(厚さ寸法)が8mmである。また、永久磁石166のN極166aとS極166bとの間には、概略矩形溝状の間隙166cが設けられている。さらに、筐体168には、当該筐体168を含むマグネトロンカソード16全体を冷却するための図示しない冷却手段としての例えば水冷機構が付属されている。
【0029】
このマグネトロンカソード16は、ターゲット162の他方主面(前面)である被スパッタ面を真空槽12の中心方向に向け、かつ、当該ターゲット162の長手方向が垂直方向に沿って延伸するように、配置されている。そして、このマグネトロンカソード16は、ターゲット162の被スパッタ面を除いてアースシールド18によって覆われており、換言すれば被スパッタ面を露出させた状態で当該アースシールド18によって覆われている。アースシールド18は、耐食性および耐熱性の高い金属製、例えばSUS304等のステンレス鋼製、である。そして、このアースシールド18は、マグネトロンカソード16とは電気的に絶縁されており、かつ、真空槽12と電気的に接続されている。なお、図示は省略するが、真空槽12の壁部のうちマグネトロンカソード16およびアースシールド18が設けられている部分については、ターゲット162の交換を含む当該マグネトロンカソード16およびアースシールド18のメンテナンス時の作業性等を考慮して、引き戸や開き戸の如く開閉可能とされるのが、望ましい。
【0030】
また、図1に示すように、マグネトロンカソード16は、真空槽12の外部において、スパッタ電力供給手段としてのスパッタ電源装置20に接続されている。そして、当該マグネトロンカソード16は、このスパッタ電源装置20からスパッタ電力Esとして接地電位を基準とする負電位の直流電力の供給を受ける。言い換えれば、真空槽12を陽極とし、マグネトロンカソード16を陰極として、これら両者に直流のスパッタ電力Esが供給される。なお、このスパッタ電力Esの供給源であるスパッタ電源装置20は、当該スパッタ電力Esの電力値が一定となるように動作する定電力モードと、当該スパッタ電力Esの電圧成分である言わばスパッタ電圧(またはターゲット電圧とも言う。)Vsが一定となるように動作する定電圧モードと、当該スパッタ電力Esの電流成分である言わばスパッタ電流(またはターゲット電流とも言う。)Isが一定となるように動作する定電流モードと、の3つの動作モードを備えており、ここでは、定電力モードで動作するように設定されている。
【0031】
加えて、マグネトロンカソード16の前方、詳しくはターゲット162の被スパッタ面の前方に、熱電子放出手段としてのフィラメント22が設けられている。このフィラメント22は、例えば直径が約1mmの直線状の線状体であり、その素材としては、高融点金属、例えばタングステン(W)、が用いられている。ここで、図4を併せて参照して、とりわけ図4(a)を参照して、このフィラメント22は、これを水平方向におけるマグネトロンカソード16が配置されている方向とは反対側の方向から、例えば真空槽12の中心方向から、見たときに、ターゲット162の被スパッタ面の中央を垂直方向に沿って、つまり当該ターゲット162の長手方向に沿って、さらに換言すれば当該ターゲット162の被スパッタ面と平行を成して、延伸するように、設けられている。また、とりわけ図4(b)に示すように、このフィラメント22は、ターゲット162の被スパッタ面との間に所定の距離Dを置いている。この距離Dは、例えばこれが過度に小さいと、フィラメント22がターゲット162の被スパッタ面またはアースシールド18と接触する虞があり、甚だ不都合である。一方、当該距離Dが過度に大きいと、フィラメント22の周囲における上述の磁石ユニット164(永久磁石166)による磁界の作用が弱くなり、後述するアーク放電の誘起が困難になる。このようなことから、当該距離Dは、5mm〜50mmが適当であり、例えば25mmとされている。そして、フィラメント22の長さ寸法は、ターゲット162の長さ寸法と同等かそれ以上であり、厳密には当該ターゲット162の後述するエロージョン領域162aの長さ寸法と同等かそれ以上であり、例えば500mmである。加えて、図示は省略するが、フィラメント22の両端部またはいずれか一方の端部には、当該フィラメント22の直線状の状態を維持するべく当該フィラメント22に適当な張力を付与するための張力付与手段としての張力付与機構が設けられている。
【0032】
改めて図1を参照して、フィラメント22の両端部は、真空槽12の外部において、熱電子放出用電力供給手段としての例えば交流のカソード電源装置24に接続されている。そして、フィラメント22は、このカソード電源装置24から熱電子放出用電力としてのカソード電力Ecの供給を受けて2000℃以上に加熱されることで、熱電子を放出する。なお、カソード電源装置24は、交流のものに限らず、直流のものであってもよい。
【0033】
さらに、フィラメント22は、真空槽12の外部において、放電用電力供給手段としての放電用電源装置26に接続されている。そして、フィラメント22は、この放電用電源装置26から放電用電力Edとして接地電位を基準とする負電位の直流電力の供給を受ける。言い換えれば、真空槽12を陽極とし、フィラメント22を陰極として、これら両者に直流の放電用電力Edが供給される。なお、この放電用電力Edの供給源である放電用電源装置26は、上述のスパッタ電源装置20と同様、当該放電用電力Edの電力値が一定となるように動作する定電力モードと、当該放電用電力Edの電圧成分である言わば放電電圧Vdが一定となるように動作する定電圧モードと、当該放電用電力Edの電流成分である言わば放電電流Idが一定となるように動作する定電流モードと、の3つの動作モードを備えている。ただし、この放電用電源装置26は、定電圧モードで動作するように設定されている。
【0034】
そして、真空槽12内のフィラメント22が設けられている位置よりも内側に注目すると、当該真空槽12内には、複数の被処理物100,100,…が配置される。具体的には、真空槽12内の水平方向における略中央には、垂直方向に沿って延伸する中心軸Xaが設定されており、各被処理物100,100,…は、当該中心軸Xaを中心とする円の円周方向に沿って等間隔に配置されている。それぞれの被処理物100は、例えばドリル刃等のような細長い円柱状のものであり、垂直方向に沿って延伸するように、つまり真空槽12の中心軸Xaに沿う方向に延伸するように、保持手段としてのホルダ28によって保持されている。そして、それぞれのホルダ28は、ギア機構30を介して、円盤状の公転台32の周縁近傍に結合されている。この公転台32の中心は、真空槽12の中心軸Xa上に位置しており、当該公転台32の中心には、真空槽12の中心軸Xaに沿って延伸する回転軸34の一方端が固定されている。そして、回転軸34の他方端は、真空槽12の外部において、回転駆動手段としてのモータ36のシャフト36aに結合されている。
【0035】
即ち、モータ36が駆動して、当該モータ36のシャフト36aが例えば図1に矢印200で示す方向に回転すると、公転台32が同方向に回転し、つまり図2においても矢印200で示す方向に回転する。これに伴って、それぞれの被処理物100が真空槽12の中心軸Xaを中心として回転し、言わば公転する。併せて、それぞれのギア機構30による回転駆動力伝達作用によって、それぞれのホルダ28が、自身を通る垂直軸Xbを中心として例えば図1および図2のそれぞれに矢印202で示す方向に回転する。そして、このホルダ28自身の回転に伴って、当該ホルダ28によって保持されている被処理物100もまた、同じ方向に回転し、言わば自転する。なお、被処理物100の公転経路の直径(PCD;Pitch Circle Diameter)は、例えば約600mmである。そして、この被処理物100の公転速度(公転台32の回転速度)は、例えば0.5rpm〜1rpmである。これに対して、被処理物100の自転速度(垂直軸Xbを中心とするホルダ28自身の回転速度)は、例えば30rpm〜60rpmであり、つまり公転速度の60倍である。なお、図1および図2においては、12個の被処理物100,100,…(ホルダ28,28,…およびギア機構30,30,…)が設けられているが、この個数は一例であり、これ以外の個数であってもよい。
【0036】
併せて、それぞれの被処理物100には、ホルダ28,ギア機構30,公転台32および回転軸34を介して、真空槽12の外部にあるバイアス電力供給手段としての基板バイアス電源装置38から基板バイアス電力Ebが供給される。この基板バイアス電力Ebは、その電圧成分である言わば基板バイアス電圧Vbの値が、接地電位を基準とする正電位のハイレベル値と、当該接地電位を基準とする負電位のローレベル値と、に交互に遷移する、いわゆるバイポーラパルス電力である。この基板バイアス電圧Vbのハイレベル値は、一定であり、例えば接地電位を基準として+37Vである。一方、基板バイアス電圧Vbのローレベル値は、任意に調整可能とされており、このローレベル値によって、当該基板バイアス電圧Vbの平均値(直流換算値)が任意に設定可能とされている。さらに、この基板バイアス電力Ebの周波数もまた、例えば50kH〜250kHの範囲内で任意に設定可能とされている。そして、当該基板バイアス電力Ebのデューティ比(基板バイアス電圧Vbの1周期において当該基板バイアス電圧Vbの値がハイレベル値となる期間の比率)もまた、任意に設定可能とされている。なお、ここでは、当該基板バイアス電力Edの周波数については、例えば100kHzとされ、デューティ比については、例えば30%とされる。
【0037】
さらに、真空槽12の側面を成す壁部の内側の適宜位置であって、被処理物100,100,…の公転経路よりも外方の適当な位置、例えば真空槽12の中心軸Xaを挟んで上述のマグネトロンカソード16が設けられている位置とは反対側の位置(図1および図2における左側の位置)に、温度制御手段としての例えばカーボンヒータ40が設けられている。このカーボンヒータ40は、真空槽12の外部において、図示しないヒータ加熱用電源装置に接続されている。そして、当該カーボンヒータ40は、このヒータ加熱用電源装置から直流または交流のヒータ加熱用電力の供給を受けて発熱し、とりわけ、被処理物100,100,…を加熱する。
【0038】
また、図1に示すように、真空槽12内の適宜位置、好ましくはフィラメント22の近傍の位置に、放電用ガス等の各種ガスを当該真空槽12内に導入するためのガス導入管42が設けられている。そして、このガス導入管42には、真空槽12の外部において、個別の複数の、例えば3本の、支管44,46および48が結合されている。これら3本の支管44,46および48のうちの1本、例えば支管44は、真空槽12内に放電用ガスとしての希ガス、例えばアルゴン(Ar)ガス、を導入するためのものであり、つまり図示しない当該アルゴンガスの供給源に結合されている。この言わばアルゴンガス用の支管44には、当該アルゴンガスの流通を開閉するための開閉手段としての開閉バルブ44aと、当該アルゴンガスの流量を制御するための流量制御手段としてのマスフローコントローラ44bと、が設けられている。そして、他の支管46および48のうちの1本、例えば支管46は、真空槽12内に洗浄用ガスとしての例えば水素(Hガスを導入するためのものであり、つまり図示しない当該水素ガスの供給源に結合されている。この水素ガス用の支管46にも、当該水素ガスの流通を開閉するための開閉バルブ46aと、当該水素ガスの流量を制御するためのマスフローコントローラ46bと、が設けられている。さらに、残りの支管48は、真空槽12内に反応性ガスとしての例えば窒素(N)を導入するためのものであり、つまり図示しない当該窒素ガスの供給源に結合されている。この窒素ガス用の支管48にも、当該窒素ガスの流通を開閉するための開閉バルブ48aと、当該窒素ガスの流量を制御するためのマスフローコントローラ48bと、が設けられている。なお、各開閉バルブ44a,46aおよび48aは、手動のものであるが、各マスフローコントローラ44b,46bおよび48bは、後述する制御手段としてのメインコントローラ50によって制御される。これらのガス導入管42と、各支管44,46および48と、各開閉バルブ44a,46aおよび48aと、各マスフローコントローラ44b,46bおよび48bとは、(厳密にはメインコントローラ50を含め)ガス導入手段として機能する。
【0039】
加えて、マグネトロンカソード16と被処理物100の公転経路との間、詳しくはターゲット162の被スパッタ面(厳密にはアースシールド18の外側面)と当該被スパッタ面に最接近した被処理物100の表面との間、であって、フィラメント22よりも被処理物100に近い位置に、シャッタ手段としてのシャッタ52が設けられている。このシャッタ52は、概略矩形平板状のものであり、その両主面をターゲット162の被スパッタ面に沿う方向に沿わせた状態にある。そして、このシャッタ52は、図示しないシャッタ駆動手段としてのモータによる駆動力によって、図2に矢印204で示す如く水平方向に移動(スライド)する。言い換えれば、シャッタ52は、ターゲット162の被スパッタ面を被処理物100,100,…が置かれた空間に向けて露出させる開状態と、当該ターゲット162の被スパッタ面を被処理物100,100,…が置かれた空間から遮蔽する閉状態と、に遷移可能とされている。なお、このシャッタ52を駆動するためのシャッタ駆動手段としてのモータもまた、メインコントローラ50によって制御される。
【0040】
メインコントローラ50は、上述の如く各マスフローコントローラ44b,46bおよび48bと、シャッタ駆動手段としてのモータと、の制御を司る。また、このメインコントローラ50は、上述したスパッタ電源装置20,カソード電源装置24および放電用電源装置26の制御をも司る。さらに、メインコントローラ50は、回転駆動手段としてのモータ36の制御をも司る。このようなメインコントローラ50は、例えばパーソナルコンピュータによって実現される。なお、メインコントローラ50と当該メインコントローラ50による各制御対象とを結ぶ線路については、図面の見易さを考慮して、図示を省略してある。
【0041】
このように構成された本実施形態のアーク放電型マグネトロンスパッタ装置10は、ハードウェア的には、上述の(特願2015−193124にて提案されている)従来技術におけるものと同様である。ただし、メインコントローラ50の構成、詳しくはソフトウェア的な構成、が異なり、とりわけ窒素ガス用のマスフローコントローラ48bの制御要領およびシャッタ駆動手段としてのモータの制御要領が異なる。なお、従来技術においては、メインコントローラ50およびシャッタ52について特段に言及されていないが、当該従来技術においても、実際にはこれらは同様に設けられている。また、従来技術においては、真空槽が概略円筒形状であり、本実施形態における概略直方体状のものと異なるが、この真空槽の形状は、被処理物100の数や大きさ等の諸状況に応じて適宜に定められ、本実施形態の本旨に直接的に関係する要素ではない。
【0042】
さて、本実施形態のアーク放電型マグネトロンスパッタ装置10によれば、それぞれの被処理物100の表面、つまり被処理面に、反応膜としての窒化チタン(TiN)膜を形成することができる。なお厳密には、窒化チタン膜の形成に先立って、中間層としてのチタン層が形成される。その上で、言わば主層としての窒化チタン膜が形成される。このように中間層としてのチタン層が設けられることによって、それぞれの被処理物100の被処理面に対する窒化チタン膜の密着力の向上が図られる。
【0043】
具体的にはまず、真空槽12内に被処理物100,100,…が設置され、つまり各ホルダ28,28,…に当該被処理物100,100,…が設置される。その上で、真空槽12内が真空ポンプによって排気され、例えば2×10−3Pa程度の圧力Pになるまで排気される。このいわゆる真空引きの後、または、この真空引きと並行して、モータ36が駆動され、被処理物100,100,…の自公転が開始される。そして、カーボンヒータ40によって、被処理物100,100,…が例えば150℃程度にまで加熱される。これにより、被処理物100,100,…に含まれている不純物ガスが排出され、いわゆる脱ガス処理が行われる。なお、この脱ガス処理においては、シャッタ52は、開状態とされてもよいし、閉状態とされてもよい。
【0044】
この脱ガス処理が所定時間(30分間〜1時間ほど)にわたって行われた後、カーボンヒータによる加熱が停止されて、次に、放電洗浄処理が行われる。この放電洗浄処理においては、シャッタ52は、開状態とされる。そして、フィラメント22にカソード電力Ecが供給される。これにより、フィラメント22が2000℃以上に加熱されて、当該フィラメント22から熱電子が放出される。併せて、フィラメント22に放電用電力Edが供給される。即ち、真空槽12を陽極とし、フィラメント22を陰極として、これら両者に当該放電用電力Edが供給される。これにより、陰極であるフィラメント22から放出された熱電子が、陽極である真空槽12の壁部に向かって、とりわけ当該フィラメント22に近い位置にあって真空槽12と同電位であるアースシールド18に向かって、加速される。この状態で、真空槽12内にアルゴンガスが導入される。すると、加速された熱電子がアルゴンガスの粒子に衝突して、その衝撃により、当該アルゴンガス粒子が電離して、プラズマ300が発生する。ここで、フィラメント22の周囲を含むターゲット162の被スパッタ面の近傍には、上述した永久磁石166による磁界が発生しているので、当該フィラメント22から放出された熱電子は、この磁界の作用を受けて螺旋運動する。これにより、熱電子がアルゴンガス粒子に衝突する頻度が増大して、プラズマ300が高密度化される。このようなプラズマ300の態様は、低電圧大電流のアーク放電である。さらに、真空槽12内に水素ガスが導入される。すると、この水素ガスの粒子もまた電離して、プラズマ300を形成する。なお、真空槽12内へのアルゴンガスの導入と、当該真空槽12内への水素ガスの導入とは、同時に開始されてもよい。
【0045】
このようにアーク放電によるプラズマ300が発生している状態で、被処理物100,100,…に基板バイアス電力Ebが供給されると、当該プラズマ300中のアルゴンイオンおよび水素イオンがそれぞれの被処理物100の被処理面、とりわけプラズマ300に晒されている状態にある被処理物100の被処理面に、積極的に入射される。この結果、アルゴンイオンがそれぞれの被処理物100の被処理面に衝突することによるスパッタ作用と、水素イオンがそれぞれの被処理物100の被処理面に付着している不純物と化学的に反応することによる化学反応作用と、によって、当該それぞれの被処理物100の被処理面から不純物が取り除かれ、つまり放電洗浄処理が行われる。この放電洗浄処理におけるアルゴンガスは、プラズマ300を発生させるための放電用ガスとして機能すると共に、上述の如くスパッタ作用によって当該放電洗浄処理を実現する洗浄用ガスとしても機能する。一方、水素ガスは、上述の如く化学反応作用によって放電洗浄処理を実現する洗浄用ガスとして機能すると共に、放電用ガスとしても機能する。
【0046】
この放電洗浄処理においては、アルゴンガスの流量は、例えば50mL/minとされ、水素ガスの流量は、例えば150mL/minとされる。そして、真空槽12内の圧力Pは、例えば0.2Paとされる。さらに、放電用電力Edは、例えば500Wとされる。具体的には、この放電用電力Edの電圧成分である放電電圧Vdが50Vとなるように、当該放電用電力Edの供給源である放電用電源装置26が上述の如く定電圧モードで動作する。この状態で、放電用電力Edの電流成分である放電電流Idが10Aになるように、カソード電力Ecによってフィラメント22の加熱温度が制御され、つまり当該フィラメント22からの熱電子の放出量が制御される。これにより、放電用電力Edが500W(=50V×10A)とされる。加えて、基板バイアス電力Ebについては、その電圧成分である基板バイアス電圧Vbの平均値が−600Vとされる。因みに、この基板バイアス電圧Vbの平均値が−600Vであるときの当該基板バイアス電圧Vbのローレベル値は、約−873V(=[−600V−{37V×0.3}]/0.7)である。また、このときの基板バイアス電力Ebの電流成分である基板バイアス電流Ibは、約4Aである。これは即ち、この約4Aという比較的に大きな基板バイアス電流Ibが被処理物100,100,…に流れていることを示しており、つまりそれだけ多くのイオンが当該被処理物100,100,…の被処理面に入射されていることを示しており、ひいてはそれだけ大きな放電洗浄処理効果(とりわけアルゴンイオンのスパッタ作用によるボンバードメント効果)が得られることを示している。
【0047】
この放電洗浄処理が所定時間(約30分間)にわたって行われた後、ターゲット162の被スパッタ面を洗浄するためのプレスパッタ処理が行われる。そのために、真空槽12内への水素ガスの導入が停止される。併せて、シャッタ52が閉状態とされる。その上で、マグネトロンカソード16にスパッタ電力Esが供給される。即ち、真空槽12を陽極とし、マグネトロンカソード16を陰極として、これら両者に当該スパッタ電力Esが供給される。すると、プラズマ300中のアルゴンイオンが、陰極であるマグネトロンカソード16に向かって加速され、とりわけターゲット162の被スパッタ面に衝突し、つまりスパッタする。このアルゴンイオンによるスパッタ作用によって、ターゲット162の被スパッタ面に付着している酸化物や有機不純物等の汚れが除去され、当該被スパッタ面が洗浄される。なお、このプレスパッタ処理においては、スパッタ電力Esの供給によっても、アルゴンガス粒子が放電し、高電圧小電流のグロー放電が誘起される。即ち、プラズマ300は、上述のアーク放電に加えて、当該グロー放電を含んだ(混合した)状態になる。そして、このアーク放電を含む極めて高密度なプラズマ300の作用によって、ターゲット162の被スパッタ面の洗浄が効率的に行われる。また上述したように、ターゲット162の被スパッタ面の近傍には磁界が発生しているので、とりわけ当該ターゲット162の被スパッタ面の近傍におけるプラズマ300の密度が高くなる。これにより、ターゲット162の被スパッタ面の洗浄がより効率的に行われる。
【0048】
このプレスパッタ処理におけるアルゴンガスの流量は、例えば150mL/minとされる。そして、真空槽12内の圧力Pは、例えば0.5Paとされる。さらに、放電用電力Edは、例えば500W(=50V×10A)とされる。加えて、スパッタ電力Esは、例えば8kWとされる。このスパッタ電力Esの供給源であるスパッタ電源装置20は、上述したように当該スパッタ電力Esが一定となるように定電力モードで動作する。また、基板バイアス電力Ebについては、その電圧成分である基板バイアス電圧Vbの平均値が−100Vとされる。因みに、この基板バイアス電圧Vbの平均値が−100Vであるときの当該基板バイアス電圧Vbのローレベル値は、約−159V(=[−100V−{37V×0.3}]/0.7)である。なお、このプレスパッタ処理においては、シャッタ52が閉状態とされるので、ターゲット162の被スパッタ面から除去された汚れが被処理物100,100,…の被処理面に付着して、当該被処理物100,100,…の被処理面が汚れてしまうようなことはない。
【0049】
このプレスパッタ処理が所定時間(3分間〜5分間ほど)にわたって行われた後、中間層としてのチタン層を形成するための成膜処理が行われる。そのために、シャッタ52が開状態とされる。すると、プラズマ300中のアルゴンイオンがプレスパッタ処理後のターゲット162の被スパッタ面に衝突して、当該被スパッタ面からターゲット162の粒子が叩き出される。そして、この叩き出されたスパッタ粒子は、被処理物100,100,…の被処理面に向かって、とりわけプラズマ300に晒されている状態にある被処理物100の被処理面に向かって、飛翔して、当該被処理面に付着する。この結果、被処理物100,100,…の被処理面にチタン層が形成される。ここで、ターゲット162の被スパッタ面から叩き出されたスパッタ粒子は、被処理物100,100,…の被処理面に向かって飛翔する途中で、アーク放電を含む極めて高密度なプラズマ300中を通過する。これにより、スパッタ粒子が活性化され、さらにはイオン化されて、少なくとも中性の状態よりは高いエネルギを持つようになる。そして、チタン層の高硬度化および緻密化が図られる。
【0050】
このチタン層を形成するための成膜処理におけるアルゴンガスの流量は、例えば150mL/minとされる。そして、真空槽12内の圧力Pは、例えば0.5Paとされる。さらに、放電用電力Edは、例えば1000Wとされる。具体的には、放電用電力Edの電圧成分である放電電圧Vdが50Vとされ、当該放電用電力Edの電流成分である放電電流Idが20Aとなるように、カソード電力Ecによってフィラメント22の加熱温度が制御される。これにより、放電用電力Edが1000W(=50V×20A)とされる。加えて、スパッタ電力Esは、例えば8kWとされる。そして、基板バイアス電力Ebについては、その電圧成分である基板バイアス電圧Vbの平均値が−100Vとされる。このような条件による成膜処理が例えば5分間〜10分間にわたって行われることで、膜厚が0.1μm〜0.2μmのチタン層が形成される。
【0051】
このチタン層を形成するための処理が行われた後、窒化チタン膜を形成するための成膜処理が行われる。そのために、真空槽12内に窒素ガスが導入される。すると、この窒素ガスの粒子がプラズマ300によって分解される。そして、この分解された窒素ガスの粒子、とりわけ窒素イオンは、被処理物100,100,…の被処理面に向かって飛翔するスパッタ粒子、とりわけチタンイオンと、反応して、当該被処理物100,100,…の被処理面に付着し、とりわけプラズマ300に晒されている状態にある被処理物100の被処理面に付着し、堆積する。この結果、被処理物100,100,…の被処理面に窒素とチタンとの反応膜としての窒化チタン膜が形成される。
【0052】
なお、この窒化チタン膜を形成するための成膜処理においては、アルゴンガスの流量は、例えば150mL/minとされる。そして、窒素ガスの流量は、例えば40mL/minとされる。ただし、この窒素ガスの導入開始直後においては、当該窒素ガスの流量は、直ちに40mL/minという所期の流量とされるのではなく、所定の時間(数分間)を掛けて段階的または連続的に漸増され、最終的に当該40mL/minという所期の流量とされる。これにより、窒化チタン膜のチタン層との境界付近において、当該窒化チタン膜の膜厚方向に沿って窒素とチタンとの組成比が段階的または連続的に変化する言わば傾斜層が形成される。このような傾斜層が形成されることによって、窒化チタン膜の密着力のさらなる向上が図られる。また、この窒化チタン膜を形成するための成膜処理において、真空槽12内の圧力Pは、例えば0.5Paとされる。さらに、放電用電力Edは、例えば1000W(=50V×20A)とされる。加えて、スパッタ電力Esは、例えば8kWとされる。そして、基板バイアス電力Ebについては、その電圧成分である基板バイアス電圧Vbの平均値が−100Vとされる。
【0053】
ところで、この窒化チタン膜を形成するための成膜処理が行われることによって、ターゲット162の被スパッタ面がスパッタされるが、とりわけプラズマ300の密度が高い部分が効率的にスパッタされる。この結果、ターゲット162の被スパッタ面にスパッタ痕であるエロージョン領域162aが現れ、詳しくは図4に示した如く概ね永久磁石166の間隙166cに倣うように概略矩形ループ状(または長円ループ状)の当該エロ−ジョン領域162aが現れる。
【0054】
そしてさらに、窒化チタン膜を形成するための成膜処理が続けられると、ターゲット162の被スパッタ面にも、詳しくはエロージョン領域162a以外の領域である非エロージョン領域にも、窒化チタン膜が形成され、言わば不本意な窒化チタン膜が形成される。これが顕著な状態を、図5に示す。
【0055】
この図5に示す非エロージョン領域に形成された不本意膜は、被処理物100,100,…の被処理面に形成される言わば本意的な窒化チタン膜と同様、成膜時間が長くなるに連れて成長する。ところが、この不本意膜は、或る程度にまで成長すると、自身の内部応力によって非エロージョン領域から微粉末状に剥離する。そして、この剥離した微粉末がエロージョン領域162aに落下して、これがスパッタされると、このスパッタによって飛散した粒子、言わばスプラッシュ粒子が、被処理物100,100,…の被処理面に付着し、厳密には当該被処理面に形成された本意的な窒化チタン膜の表面に付着する。この結果、当該本意的な窒化チタン膜の表面が粗化されてしまう、という不都合が生じる。
【0056】
そこで、窒化チタン膜を形成するための成膜処理の途中で、例えばターゲット162の被スパッタ面の非エロージョン領域に上述の不本意膜が形成されそうなとき、或いは当該不本意膜が形成されて間もないとき、つまりは少なくとも当該不本意膜が非エロージョン領域から剥離する前に、当該成膜処理が中断される。そして、この成膜処理が中断されている期間中に、換言すれば当該成膜処理に代えて、ここで言う不本意膜を除去するべく非エロージョン領域を含むターゲット162の被スパッタ面を洗浄するための処理が行われる。
【0057】
具体的にはまず、シャッタ52が閉状態とされる。その上で、真空槽12内への窒素ガスの導入が停止される。要するに、上述のプレスパッタ処理のときと同様の状態が形成される。これにより、プレスパッタ処理のときと同様に、アルゴンイオンのスパッタ作用によって、ターゲット162の被スパッタ面が洗浄され、とりわけ非エロージョン領域から不本意膜が除去される。このターゲット162の被スパッタ面を洗浄するための処理においても、アーク放電を含む極めて高密度なプラズマ300の作用が及び、当該処理が効率的に行われる。
【0058】
なお、このターゲット162の被スパッタ面を洗浄するための処理においては、アルゴンガスの流量は、例えば150mL/minとされる。そして、真空槽12内の圧力Pは、例えば0.5Paとされる。さらに、放電用電力Edは、例えば500W(=50V×10A)とされる。加えて、スパッタ電力Esは、例えば8kWとされる。また、基板バイアス電力Ebについては、その電圧成分である基板バイアス電圧Vbの平均値が−100Vとされる。因みに、このターゲット162の被スパッタ面を洗浄するための処理においても、プレスパッタ処理のときと同様に、シャッタ52が閉状態とされるので、非エロージョン領域から除去された不本意膜の粒子が被処理物100,100,…の被処理面に付着して、厳密には当該被処理面に形成された窒化チタン膜の表面に付着して、当該窒化チタン膜の表面が粗化されてしまうようなことはない。
【0059】
そして、このターゲット162の被スパッタ面を洗浄するための処理によって当該被スパッタ面が十分に洗浄された(とみなされた)後、改めて窒化チタン膜を形成するための成膜処理が行われる。即ち、改めて真空槽12内に窒素ガスが導入される。その上で、改めてシャッタ52が開状態とされる。そして、所期の膜厚の窒化チタン膜が形成されるまで、この窒化チタン膜を形成するための成膜処理と、ターゲット162の被スパッタ面を洗浄するための処理とが、交互に繰り返される。
【0060】
所期の膜厚の窒化チタン膜が形成されると(みなされると)、真空槽12内へのアルゴンガスおよび窒素ガスの導入が停止される。併せて、マグネトロンカソード16へのスパッタ電力Esの供給が停止されると共に、フィラメント22へのカソード電力Ecおよび放電用電力Edの供給が停止される。これにより、プラズマ300が消失する。さらに、被処理物100,100,…への基板バイアス電力Ebの供給が停止される。そして、真空槽12内の圧力が大気圧付近にまで徐々に戻されながら、一定の冷却期間が置かれる。その後、モータ36の駆動が停止されることによって、被処理物100,100,…の自公転が停止される。その上で、真空槽12内が外部に開放されて、当該真空槽12内から被処理物100,100,…が外部に取り出される。これをもって、窒化チタン膜を形成するための処理を含む一連の処理が終了する。
【0061】
この一連の処理におけるメインコントローラ50による制御要領、とりわけアルゴンガス,水素ガスおよび窒素ガスそれぞれの導入/非導入,放電用電力Ed,スパッタ電力Esおよび基板バイアス電力Ebそれぞれの供給/非供給ならびにシャッタ52の開状態/閉状態についての制御要領を、図示すると、図6のようになる。なお、アルゴンガス,水素ガスおよび窒素ガスそれぞれの導入/非導入についての制御は、対応するマスフローコントローラ44b,46bおよび48bを介して行われる。そして、放電用電力Ed,スパッタ電力Esおよび基板バイアス電力Ebそれぞれの供給/非供給についての制御は、放電用電源装置26,スパッタ電源装置20および基板バイアス電源装置38を介して行われる。さらに、シャッタ52の開状態/閉状態についての制御は、シャッタ駆動手段としてのモータを介して行われる。
【0062】
図6に示すように、上述の脱ガス処理が行われた後の時点t0において、真空槽内12にアルゴンガスが導入されると共に、当該真空槽12内に水素ガスが導入される。併せて、フィラメント22に放電用電力Edが供給される。なお、この図6では省略されているが、放電用電力Edの供給と共に、フィラメント22にカソード電力Ecも供給される。さらに、被処理物100,100,…に基板バイアス電力Ebが供給される。そして、シャッタ52が開状態とされる。これにより、放電洗浄処理が行われる。
【0063】
そして、この放電洗浄処理が所定時間にわたって行われた後の時点t1において、真空槽1内への水素ガスの導入が停止されると共に、シャッタ52が閉状態とされる。これにより、放電洗浄処理が終了される。そして、この放電洗浄処理が終了された後の時点t2において、マグネトロンカソード16にスパッタ電力Esが供給される。これにより、プレスパッタ処理が行われる。
【0064】
さらに、このプレスパッタ処理が所定時間にわたって行われた後の時点t3において、シャッタ52が開状態とされる。これにより、中間層としてのチタン層を形成するための成膜処理が行われる。
【0065】
そして、この中間層としてのチタン層を形成するための成膜処理が所定時間にわたって行われた後の時点t4において、真空槽12内に窒素ガスが導入される。これにより、窒化チタン膜を形成するための成膜処理が行われる。なお、この時点t4においては、窒素ガスの流量が直ちに所期の流量とされるのではなく、所定の時間を掛けて段階的または連続的に漸増され、最終的に当該所期の流量とされる。これにより、上述した傾斜層が形成される。
【0066】
さらに、この窒化チタン膜を形成するための成膜処理が行われている途中の時点t5において、シャッタ52が閉状態とされる。その上で、真空槽12内への窒素ガスの導入が停止される。これにより、上述した不本意膜を除去するべくターゲット162の被スパッタ面を洗浄するための処理が行われる。なお、図6では、この時点t5において、シャッタ52が閉状態とされると同時に、真空槽12内への窒素ガスの導入が停止されるように、見受けられるが、実際には、シャッタ52が完全に閉状態とされてから少しの時間(数秒間、例えば3秒間〜5秒間程度)が経過した後に、真空槽12内への窒素ガスの導入が停止される。これは、シャッタ52が開状態から閉状態に完全に遷移するのに多少の時間(数秒間、例えば1秒間〜3秒間程度)が掛かるのに対して、真空槽12内に窒素ガスが導入されている状態から当該窒素ガスが非導入とされる状態に遷移するのは瞬間的であることによる。言い換えれば例えば、これらの制御が同時に行われるとすると、シャッタ52が完全に閉状態となる前に、真空槽12内への窒素ガスの導入が停止されることになり、そうなると僅かではあるがチタン層が形成されることになるからである。このチタン層が形成されるのを回避するために、シャッタ52が完全に閉状態とされた後に、真空槽12内への窒素ガスの導入が停止され、言わばこれらの制御にタイムラグが設けられる。
【0067】
このターゲット162の被スパッタ面を洗浄するための処理によって当該被スパッタ面が十分に洗浄された(とみなされた)時点t6において、改めて真空槽12内に窒素ガスが導入される。その上で、シャッタ52が開状態とされる。これにより、改めて窒化チタン膜を形成するための成膜処理が行われる。なお、図6では、この時点t6において、真空槽12内に窒素ガスが導入されると同時に、シャッタ52が開状態とされるように、見受けられるが、実際には、真空槽12内に窒素ガスが導入されてから少しの時間(数秒間〜最大1分間、例えば10秒間)が経過した後に、シャッタ52が開状態とされる。即ち、上述の時点t5とは逆の関係のタイムラグが設けられる。これもまた、窒化チタン膜の途中にチタン層が形成されるのを回避するためである。
【0068】
そして、この窒化チタン膜を形成するための成膜処理が行われている途中の時点t7において、改めてシャッタ52が閉状態とされる。その上で、真空槽12内への窒素ガスの導入が停止される。これにより、改めてターゲット162の被スパッタ面を洗浄するための処理が行われる。なお、この時点t7においても、上述の時点t5と同様に、シャッタ52が閉状態とされる制御と、真空槽内12内への窒素ガスの導入が停止される制御とに、タイムラグが設けられる。
【0069】
さらに、このターゲット162の被スパッタ面を洗浄するための処理によって当該被スパッタ面が十分に洗浄された(とみなされた)時点t8において、改めて真空槽12内に窒素ガスが導入される。その上で、シャッタ52が開状態とされる。これにより、改めて窒化チタン膜を形成するための成膜処理が行われる。なお、この時点t8においても、上述の時点t6と同様のタイムラグが設けられる。
【0070】
これ以降、所期の膜厚の窒化チタン膜が形成されるまで、当該窒化チタン膜を形成するための成膜処理と、ターゲット162の被スパッタ面を洗浄するための処理と、が交互に繰り返される。そして、所期の膜厚の窒化チタンが形成された(とみなされた)時点10において、真空槽12内へのアルゴンガスおよび窒素ガスの導入が停止される。併せて、マグネトロンカソード16へのスパッタ電力Esの供給が停止されると共に、フィラメント22への放電電力Edの供給が停止される。このとき、フィラメント22へのカソード電力Ecに供給も停止される。さらに、被処理物100,100,…への基板バイアス電力Ebの供給が停止される。そして、一連の処理の終了へと進む。
【0071】
このように本実施形態では、窒化チタン膜を形成するための処理と、ターゲット162の被スパッタ面を洗浄するための処理と、が交互に繰り返されるが、このうちの窒化チタン膜を形成するための処理が行われる1回当たりの時間Td(=t5−t4,t7−t6,…)そのものは、スパッタ電力Esやターゲット162の種類等の諸条件によって変わる。本実施形態では、当該時間Tdは、例えば60分間とされる。一方、ターゲット162の被スパッタ面を洗浄するための処理が行われる1回当たりの時間Tc(=t6−t5,t8−t7,…)そのものもまた、諸条件によって変わる。本実施形態では、当該時間Tcは、例えば10分間とされている。
【0072】
ただし、時間Tdに対する時間Tcの比率(=Tc/Td)は、0.05〜0.5とされるのが、望ましい。即ち、この比率が例えば過大であると、つまり時間Tcが過度に長いと、ターゲット162の被スパッタ面を洗浄するための処理が必要以上に行われることになり、生産性が低下する。一方、この比率が過小であると、つまり時間Tcが過度に短いと、ターゲット162の被スパッタ面を洗浄するための処理が十分に行われず、当該被スパッタ面に形成された不本意膜が十分に除去されない虞がある。これらのことから、時間Tdに対する時間Tcの比率は、0.05〜0.5とされ、より望ましくは例えば0.1〜0.3とされる。
【0073】
このように本実施形態によれば、窒化チタン膜を形成するための成膜処理と、ターゲット162の被スパッタ面を洗浄するための処理と、が交互に繰り返されることによって、当該被スパッタ面の非エロージョン領域に形成された不本意膜に起因する窒化チタン膜の表面の粗化が抑制されつつ、長時間にわたっての当該窒化チタン膜の成膜処理を実現することができる。この結果、膜厚が大きくて、しかも、表面が滑らかな、窒化チタン膜を形成することができる。
【0074】
これに対して例えば、上述の従来技術において、窒化チタン膜を形成する場合の制御要領、とりわけアルゴンガス,水素ガスおよび窒素ガスそれぞれの導入/非導入,放電用電力Ed,スパッタ電力Esおよび基板バイアス電力Ebそれぞれの供給/非供給ならびにシャッタ52の開状態/閉状態についての制御要領を、図示すると、図7のようになる。
【0075】
即ち、この図7に示す時点t0’〜時点t4’においては、図6に示した時点t0〜時点t4と同様の制御が成される。そして、時点t4’において、窒化チタン膜を形成するための成膜処理が開始された後、この成膜処理は、所期の膜厚の当該窒化チタン膜が形成される(とみなされる)時点t10’まで、継続される。この成膜時間TD’が長くなると、図5に示した如くターゲット162の被スパッタ面の非エロージョン領域に不本意膜が形成される。なお、図5は、当該成膜時間TD’が5時間の場合の状態を示す。そして、この不本意膜に起因して、窒化チタン膜の表面が粗化される。要するに、従来技術では、膜厚が大きくても表面が滑らかな窒化チタン膜を形成することができない。
【0076】
図8に、本実施形態による窒化チタン膜と、従来技術による窒化チタン膜と、の性状を比較して示す。なお、この図8における本実施形態による窒化チタン膜の性状は、上述した60分間という時間Tdにわたる成膜処理が5回繰り返されたときの、つまり合計で5時間という成膜時間TD(=5×Td)にわたって形成された、当該窒化チタン膜の性状である。そして、従来技術による窒化チタン膜の性状もまた、5時間という成膜時間TD’にわたって形成された当該窒化チタン膜の性状である。
【0077】
この図8に示すように、膜厚,処理温度,内部応力およびヌープ硬度については、いずれも、本実施形態による窒化チタン膜と、従来技術による窒化チタン膜と、で略同程度である(両者の差異は誤差程度である)。ところが、表面粗さについては、中心線平均粗さRaおよび十点平均高さRzのいずれも、本実施形態による窒化チタン膜の方が、従来技術による窒化チタン膜に比べて、遥かに小さい。即ち、本実施形態による窒化チタン膜の方が、従来技術による窒化チタン膜に比べて、遥かに滑らかである。さらに、色調については、L値,a値およびb値のいずれも、本実施形態による窒化チタン膜の方が、従来技術による窒化チタン膜に比べて、大きい。これは即ち、本実施形態による窒化チタン膜の方が、従来技術による窒化チタン膜に比べて、明るく鮮やかな色調であることを示す。
【0078】
そして、図9に、本実施形態による窒化チタン膜と、従来技術による窒化チタン膜と、の顕微鏡による観察画像を比較して示す。この図10から分かるように、例えば(b)に示す従来技術による窒化チタン膜においては、直径が最大で60μm程度の大きなスプラッシュ粒子が数多く見られるが、(a)に示す本実施形態による窒化チタン膜においては、そのような大きなスプラッシュ粒子は見られず、ほんの小さい粒子状の物質(これもスプラッシュ粒子と思われる)が見られる程度である。このことからも、本実施形態によれば、従来技術に比べて、滑らかな窒化チタン膜を形成できることが分かる。
【0079】
以上のように、本実施形態によれば、膜厚が大きくて、しかも、表面が滑らかな、窒化チタン膜を形成することができる。このことは、金型,工具,摺動部品等の長寿命化や相手攻撃性の低減に大きく貢献する。
【0080】
なお、本実施形態は、本発明の1つの具体例であり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0081】
例えば、ターゲット162の被スパッタ面を洗浄するための処理時は、窒化チタン膜を形成するための成膜処理時に比べて、大きなスパッタ電力Esが供給されてもよい。これにより、ターゲット162の被スパッタ面を洗浄するための処理が効率的に行われ、この処理時間Tcの短縮化が図られ、ひいては生産性の向上が図られる。
【0082】
また、図10に示すように、窒化チタン膜を形成するための成膜処理が行われている期間(t4〜t5,t6〜t7,…)中は、真空槽12内へのアルゴンガスの導入が停止されてもよい。この場合、当該期間中は、反応性ガスとしての窒素ガスが放電用ガスとしても機能する。言い換えれば、窒素ガスは、放電用ガスとして兼用される。併せて、当該窒素ガスは、ターゲット162の被スパッタ面をスパッタするスパッタガスとしても機能する。これにより、アルゴンガスの消費が抑えられ、窒化チタン膜を形成するためのコストの低減が図られる。
【0083】
そして、マグネトロンカソード16については、永久磁石166が固定された、つまり当該永久磁石166の位置が動かない、磁石(磁界)固定型のものが採用されたが、これに限らない。例えば、永久磁石166がターゲット162の背面に沿って動くことで当該ターゲット166の被スパッタ面を広域的にスパッタし、ひいては非エロージョン領域の低減を図る、いわゆる広域エロージョン型のものが採用されてもよい。ただし上述したように、不本意膜はターゲット162の被スパッタ面の非エロージョン領域に形成されるので、広域エロージョン型に比べて当該非エロージョン領域が大きく現れる磁石固定型のマグネトロンカソード16が採用される構成に、本発明は特に好適である。
【0084】
加えて、本実施形態においては、中間層としてのチタン膜が設けられたが、このチタン膜については、設けられなくてもよい。ただし、当該チタン膜が設けられた方が、主層としての窒化チタン膜の密着力の向上が図られることは、上述した通りである。
【0085】
また、本実施形態においては、反応膜として窒化チタン膜を例に挙げたが、この窒化チタン膜以外の反応膜を形成する場合にも、本発明を適用することができる。例えば、窒化クロム(CrN)膜,窒化アルミニウム(AlN)膜,窒化チタンアルミニウム(TiAlN)膜,窒化アルミニウムクロム(AlCrN)膜等の窒化膜,炭化チタン(TiC)膜等の炭化膜,炭窒化チタン(TiCN)膜,炭窒化クロム(CrCN)膜等の炭窒化膜,酸化珪素(SiO)等の酸化膜,酸窒化アルミニウム(AlON)膜等の酸窒化膜等を形成する場合にも、本発明を適用することができる。なお、形成しようとする反応膜の種類に応じて反応性ガスおよびターゲット162の種類が変わることは、言うまでもない。併せて、スパッタ電力Esや放電用電力Ed等の諸条件も適宜に定められる。特にターゲット162が絶縁物である場合には、スパッタ電力Esおよび放電用電力Edとして交流電力が採用される。そして、反応膜を形成するための成膜処理に掛けられる時間Tdと、ターゲット162の被スパッタ面を洗浄するための処理に掛けられる時間Tcと、これら各時間TdおよびTcの相互比率と、についても、適宜に定められる。
【0086】
さらに、シャッタ52として概略矩形平板状のものが採用されたが、これに限らない。このシャッタ52の形状等の態様については、マグネトロンカソード16や真空槽12等の態様に応じて適宜に定められる。
【0087】
そして、マグネトロンカソード16のターゲット162は、概略矩形平板状のものに限らず、例えば概略円板状のものであってもよく、極端には、その被スパッタ面が曲面状のものであってもよい。また、このターゲット16(被スパッタ面)の形状に応じて、フィラメント22に形状も適宜に定められる。
【0088】
加えて、マグネトロンカソード16は、1つに限らず、複数設けられてもよい。この場合、真空槽12の中心軸Xaの円周方向に沿って当該マグネトロンカソード16が複数設けられるのが、望ましい。併せて、それぞれのマグネトロンカソード16にフィラメント22が付随されるのが、望ましい。この構成によれば、反応膜の形成速度の向上が図られ、ひいては生産性のさらなる向上が図られる。
【0089】
また、基板バイアス電力Ebとしてバイポーラパルス電力が採用されたが、これに限らない。例えば、被処理物100,100,…が導電性物質である場合には、直流電力が採用されてもよい。ただし、被処理物100,100,…に含まれるガス等によって異常放電が生じる場合があるので、このような異常放電を防止する観点から、バイポーラパルス電力が採用されるのが、望ましい。また、このバイポーラパルス電力以外のパルス電力や高周波電力が採用されてもよい。
【0090】
そして、本実施形態においては、アーク放電型マグネトロンスパッタ装置10に本発明を適用する場合について説明したが、これに限らない。即ち、グロー放電のみを用いた一般的なマグネトロンスパッタ装置にも、本発明を適用することができる。ただし上述したように、アーク放電型マグネトロンスパッタ装置10によれば、一般的なマグネトロンスパッタ装置に比べて、高硬度かつ緻密な反応膜を形成することができる。
【符号の説明】
【0091】
10 アーク放電型マグネトロンスパッタ装置
12 真空槽
16 マグネトロンカソード
20 スパッタ電源装置
22 フィラメント
24 カソード電源装置
26 放電用電源装置
38 基板バイアス電源装置
42 ガス導入管
44,46,48 支管
44a,46a,48a 開閉バルブ
44b,46b,48b マスフローコントローラ
50 メインコントローラ
52 シャッタ
100 被処理物
162 ターゲット
164 磁石ユニット
300 プラズマ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10