(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6935954
(24)【登録日】2021年8月30日
(45)【発行日】2021年9月15日
(54)【発明の名称】チェーンソー用のストッパー、及び、巻き枯らし間伐の作業方法
(51)【国際特許分類】
A01G 23/08 20060101AFI20210906BHJP
B27B 17/02 20060101ALI20210906BHJP
B27B 17/00 20060101ALI20210906BHJP
B27G 19/06 20060101ALI20210906BHJP
【FI】
A01G23/08 501G
B27B17/02
B27B17/00 F
B27G19/06 Z
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2020-141390(P2020-141390)
(22)【出願日】2020年8月25日
【審査請求日】2021年4月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520323780
【氏名又は名称】定山 剛士
(74)【代理人】
【識別番号】110003155
【氏名又は名称】特許業務法人バリュープラス
(72)【発明者】
【氏名】定山 剛士
【審査官】
田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭54−005893(JP,U)
【文献】
実開平03−085843(JP,U)
【文献】
特開2015−174445(JP,A)
【文献】
米国特許第03680607(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0146086(US,A1)
【文献】
徳島県立農林水産総合技術支援センター 森林林業研究所,巻き枯らし間伐用チェーンソーの開発,2008年05月20日,http://www.foresternet.jp/files/0000/0221/徳島2003_05.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 23/08
B27B 17/02
B27B 17/00
B27G 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チェーンソーのガイドバーの側面から突出し、前記ガイドバーに装着されたソーチェーンによる樹木の幹の切断深さが所定の深さを超えることを阻止する、チェーンソー用のストッパーであって、
前記ガイドバーの長手方向における中間部分に前記長手方向に延伸するように設けられ、前記切断深さが所定の深さに達すると幹の外周面に当たる本体部と、
前記本体部の先端側に一体化され、キックバック現象が生じないように、前記樹木などの他の物体に対し前記ソーチェーンの先端部が接触することを阻止する先端部とを備え、
前記先端部は、先端側のガード部と、前記ガード部と前記本体部を接続して前記ガード部から前記本体部に近づくに従って幅が小さくなる連続部とを有する、チェーンソー用のストッパー。
【請求項2】
樹木を立木のまま枯らしていく巻き枯らし間伐の作業方法であって、
請求項1に記載のストッパーが前記ガイドバーの少なくとも片方の側面から突出するチェーンソーを用いて、樹木の幹における辺材組織に対し周方向に亘って切り込みを入れる、巻き枯らし間伐の作業方法。
【請求項3】
前記切り込みを入れるのに、前記ストッパーが前記ガイドバーの両側面にそれぞれ設けられたチェーンソーを用いる、請求項2に記載の巻き枯らし間伐の作業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻き枯らし間伐に用いられるチェーンソー用のストッパー等に関する。
【背景技術】
【0002】
健全な森林に導くために、森林から一部の樹木を間引く間伐を行うことは重要である。間伐を行うことで、樹木が混み合った状態が解消され、森林内に適度に日光が射し込むようになり、樹木が育ちやすい環境となる。
【0003】
ここで、間伐では樹木を伐倒することが一般的であるが、新しい間伐の手法として、樹木を立木のまま枯らしていく巻き枯らし間伐が知られている。非特許文献1には、巻き枯らし間伐について、伐倒する場合に比べて作業を安全に行えることが記載されている。また、巻き枯らし間伐の作業方法として、ナタにより幹の外周部分を切断する方法、チェーンソーにより幹の外周部分を切断する方法なども記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】埼玉県農林総合研究センター森林・緑化研究所、“巻き枯らし間伐の現地適応”、[online]、[令和2年8月21日検索]、インターネット <URL:http://www.foresternet.jp/app/srch2/get_file/829>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、日本では、人手不足等の理由により、間伐などの手入れが不足した森林が数多く見られるようになっている。このような問題に対し、本願の発明人は、林業への新規就労者を活用することが重要であると考えている。しかし、巻き枯らし間伐の作業方法として、ナタにより幹の外周部分を切断する方法は多大な労力を要する。また、チェーンソーにより幹の外周部分を切断する方法は、チェーンソーを用いた間伐技術の習得に長期の訓練を要する。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、チェーンソーを用いる巻き枯らし間伐の作業について、林業への新規就労者であっても、短期の訓練で、安全且つ容易に行うことができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するべく、第1の発明は、チェーンソーのガイドバーの側面から突出し、ガイドバーに装着されたソーチェーンによる樹木の幹の切断深さが所定の深さを超えることを阻止する、チェーンソー用のストッパーであって、ガイドバーの長手方向における中間部分に長手方向に延伸するように設けられ、切断深さが所定の深さに達すると幹の外周面に当たる本体部と、本体部の先端側に一体化され、キックバック現象が生じないように、樹木などの他の物体に対しソーチェーンの先端部が接触することを阻止する先端部とを備えている。
【0008】
第2の発明は、樹木を立木のまま枯らしていく巻き枯らし間伐の作業方法であって、第1の発明のストッパーがガイドバーの少なくとも片方の側面から突出するチェーンソーを用いて、樹木の幹における辺材組織に対し周方向に亘って切り込みを入れる。
【0009】
第3の発明は、第2の発明において、切り込みを入れるのに、ストッパーがガイドバーの両側面にそれぞれ設けられたチェーンソーを用いる。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、チェーンソーによる樹木の幹の切断深さが所定の深さを超えることを阻止する機能を有するストッパーが、キックバック現象を防止する機能も有する。そのため、巻き枯らし間伐の作業において樹木の幹を深く切断しすぎることがなく、樹木の幹を所定の深さに切断する作業を容易化することができ、またキックバック現象も生じない。本発明によれば、チェーンソーを用いる巻き枯らし間伐の作業について、林業への新規就労者であっても、短期の訓練で、安全且つ容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、チェーンソー用のストッパーが装着されたチェーンソーの側面図である。
【
図2】
図2は、チェーンソー用のストッパーが装着されたチェーンソーの上面図である。
【
図3】
図3は、チェーンソー用のストッパーの斜視図である。
【
図4】
図4は、チェーンソー用のストッパーが装着されたチェーンソーを用いて、樹木を切断する様子を上から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の一例であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0013】
本実施形態は、チェーンソー10による樹木の幹の切断深さが所定の深さを超えることを阻止する機能を備えた、チェーンソー用のストッパー20(以下、単に「ストッパー」という。)である。ストッパー20は、チェーンソー10のガイドバー12の側面から突出するように設けられ、巻き枯らし間伐の作業において使用される。以下では、ストッパー20について説明を行う前に、まずチェーンソー10について説明を行う。
【0014】
[チェーンソーの概略構成]
チェーンソー10は、
図1及び
図2に示すように、電動モータを収容する本体ケーシング11、本体ケーシング11から前方に突出するガイドバー12、及び、ガイドバー12の外周部に装着されたソーチェーン13を備えている。ガイドバー12は、長細い板状に形成されている。ガイドバー12の先端部は、外周形状が円弧状である。また、ソーチェーン13は、電動モータにより回転するスプロケットと、ガイドバー12の先端部に回転自在に設けられたスプロケットとに巻き掛けられている。ソーチェーン13は、電動モータの駆動によりガイドバー12の外周に沿って回転する。なお、ガイドバー12は、スプロケットノーズタイプに限定されず、ハードノーズタイプなど他のタイプであってもよい。
【0015】
また、本体ケーシング11には、第1ハンドル14、第2ハンドル15、及び、ハンドガード16が設けられている。ハンドガード16は、前後に回動可能に設けられている。キックバック現象が生じた際、チェーンソー10の使用者にハンドガード16が接触してハンドガード16が前方に回動すると、ブレーキ機構が作動し、ソーチェーン13の回転が停止する。
【0016】
[ストッパーの構成]
ストッパー20は、ガイドバー12の側面上に着脱自在に取り付けられるアタッチメントである。ストッパー20は、
図3に示すように、一方向に延びる棒状で、先端側が幅広に形成された平板状を呈する。ストッパー20の材料には、金属など硬度が高い材料が用いられる。
【0017】
ストッパー20は、その長さ方向をガイドバー12の長手方向(
図1における左右方向)に合わせ、且つ、その幅方向の中心をガイドバー12の幅方向(
図1における上下方向)の中心に合わせて、ガイドバー12に着脱自在に設けられる。なお、1つのチェーンソー10には2つのストッパー20が用いられ、
図2に示すように、ガイドバー12の両側面にそれぞれストッパー20が固定される。
【0018】
具体的に、ストッパー20は、ガイドバー12の長手方向における中間部分にその長手方向に延伸するように設けられ、切断深さが所定の深さ(例えば、1〜3cmの範囲で決めた深さ)に達すると幹の外周面に当たる幅に設計された本体部21と、本体部21の先端側に一体化され、キックバック現象が生じないように、樹木などの他の物体に対しソーチェーン13の先端部13aが接触することを阻止する先端部22とを備えている。
【0019】
本体部21は、長細い矩形の板状に形成されている。本体部21の長さは、例えば、ガイドバー12の長さの半分程度である。但し、本体部21の長さは、上記半分程度の長さより短くてもよいし、長くてもよい。また、本体部21の幅は、ガイドバー12の幅よりも小さい。そのため、幅方向の中心を互いに合わせてストッパー20が装着されたガイドバー12において、幅方向におけるソーチェーン13の外端から本体部21までの距離Dが、巻き枯らし間伐において樹木の幹にソーチェーン13を食い込ませる深さ(上述の所定の深さ)となる。
【0020】
先端部22は、樹木などの他の物体に対し、ソーチェーン13における円弧状の先端部13aが接触することを阻止することが可能な形状を呈し、本体部21の先端側に一体形成されている。先端部22の厚みは、例えば5mm〜8mmとすることができる。先端部22は、ソーチェーン13の先端部13aに沿う外周形状を有する略円弧状のガード部22aと、ガード部22aと本体部21とを接続する接続部22bとを備えている。接続部22bは、先端部22に連続形成され、その幅が本体部21に近づくに従って小さくなる。
【0021】
また、ストッパー20がガイドバー12に装着された装着状態におけるガイドバー12の側面視において、ガード部22aの外周部分は、全長に亘って、ソーチェーン13の先端部13aより外側に突出している。側面視において、ガード部22aにより、ソーチェーン13の先端部13aは隠されている。
【0022】
また、ガイドバー12へのストッパー20の取付構造について、本実施形態では、ボルト25が用いられている。具体的に、ガイドバー12の各側面には、ストッパー20が重なる領域に複数のボルト穴(図示省略)が形成されている。また、ストッパー20には、複数のボルト穴に対応する複数の挿通孔26が形成されている。ガイドバー12の各側面では、複数のボルト穴に対し複数の挿通孔26が重なるようにストッパー20が配置された状態で、各挿通孔26を通してボルト25がボルト穴に螺合されることで、ガイドバー12にストッパー20が固定される。なお、ガイドバー12へのストッパー20の取付構造は、ボルト25を用いる構造に限定されず、他の構造を採用してもよい。
【0023】
[巻き枯らし間伐の作業方法]
巻き枯らし間伐の作業方法の一部として、ストッパー20が装着されたチェーンソー10を用いた作業方法について説明を行う。この作業方法における樹木の幹の切断では、幹の辺材組織(外周部分)が周方向に亘ってリング状に切断される。以下では、この切断を「リング間伐」と言う場合がある。
【0024】
作業者は、森林において間引く樹木として、幹の辺材組織の道管が切断される切断深さでリング間伐を行っても、容易に風倒しない樹木だけを選定する。例えば、作業者は、幹が所定の太さ以上(例えば、25cm以上)の樹木だけを選定する。
【0025】
そして、作業者は、チェーンソー10を駆動させて、ソーチェーン13により、選定した樹木の幹に周方向に切り込みを入れる。具体的に、作業者は、
図4に示すように、ソーチェーン13の中間部分により、ストッパー20の本体部21が幹30の外周面に当たるまで(つまり、切断深さが所定の深さに達するまで)、樹木の幹30に対し、横方向の切り込みを入れる。作業者は、チェーンソー10を周方向に移動させながら、幹30の全周に亘って、切断深さが所定の深さとなる切り込みを入れる。これにより、1つの樹木に対するリング間伐が完了し、幹30は全周に亘って辺材組織が破壊された状態となる。
【0026】
リング間伐がなされた樹木は、立木のまま乾燥(樹木中の水分の蒸発・蒸散)が進行していき、半年から一年で枝葉の変色が見られる。そして、強風により倒されることがなければ、数年間後に作業者により倒されて森林から搬出され、強風により倒された場合は、その倒された時に作業者により搬出される。
【0027】
[本実施形態の効果等]
本実施形態では、チェーンソー10による樹木の幹の切断深さが所定の深さを超えることを阻止する機能を有するストッパー20が、キックバック現象を防止する機能も有する。そのため、リング間伐の作業において樹木の幹を深く切断しすぎることがなく、樹木の幹を所定の深さに切断する作業を容易化することができ、またキックバック現象も生じない。本実施形態によれば、チェーンソー10を用いるリング間伐の作業について、林業への新規就労者であっても、短期の訓練で、安全且つ容易に行うことができる。すなわち、リング間伐でのチェーンソー10の操作性及び安全性が向上する。これにより、リング間伐を行うための新規就労者の育成期間を短縮することができ、リング間伐の作業者の増加を促すことができ、間伐が不十分な森林を減らすことができる。
【0028】
また、本実施形態では、森林施業における間伐作業が、樹木に切り込みを入れるだけであり、樹木を倒す作業が必要な伐倒に比べて、間伐作業の時間を短縮化及び簡素化することができる。
【0029】
また、本実施形態では、リング間伐を施した樹木が時間の経過とともに軽くなり、数年後に倒した樹木は、伐倒する場合に比べて大幅に軽くなる。そのため、森林からの搬出や、林内輸送及び林外輸送における作業負荷及び燃料消費量を低減させることができるし、森林施業の進行を効率化することができる。また、伐倒の場合は、倒した樹木を乾燥させるために、広いストックヤードが必要となるが、本実施形態では、立木のまま乾燥させるため、ストックヤードを縮小させることもできる。
【0030】
[その他の実施形態]
上述の実施形態では、ガイドバー12に対して各ストッパー20が着脱自在であるが、ガイドバー12に対して、溶接等により各ストッパー20を着脱不能に固定してもよい。
【0031】
上述の実施形態では、ガイドバー12の両側面にそれぞれストッパー20を設けたチェーンソー10を用いてリング間伐を行うが、ガイドバー12の片面だけにストッパー20を設けたチェーンソー10を用いてリング間伐を行ってもよい。この場合に、ストッパー20のガード部22aが、ガイドバー12のもう片面側からもソーチェーン13の先端部13aを覆うように、ガード部22aの外周部分がガイドバー12のもう片面側に折れ曲がっていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、巻き枯らし間伐に用いられるチェーンソー用のストッパー等に適用可能である。
【符号の説明】
【0033】
10 チェーンソー
11 本体ケーシング
12 ガイドバー
13 ソーチェーン
20 ストッパー
21 本体部
22 先端部
【要約】
【課題】チェーンソーを用いる巻き枯らし間伐の作業について、林業への新規就労者であっても、短期の訓練で、安全且つ容易に行うことができるようにする。
【解決手段】チェーンソー用のストッパー20は、チェーンソー10のガイドバー12の側面から突出し、ガイドバー12に装着されたソーチェーン13による樹木の幹の切断深さが所定の深さを超えることを阻止するものである。ストッパー20は、ガイドバー12の長手方向における中間部分に長手方向に延伸するように設けられ、切断深さが所定の深さに達すると幹の外周面に当たる本体部21と、本体部21の先端側に一体化され、キックバック現象が生じないように、樹木などの他の物体に対しソーチェーン13の先端部13aが接触することを阻止する先端部22とを備えている。
【選択図】
図1