特許第6936059号(P6936059)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6936059
(24)【登録日】2021年8月30日
(45)【発行日】2021年9月15日
(54)【発明の名称】ゴム物品補強用スチールコード
(51)【国際特許分類】
   D07B 1/06 20060101AFI20210906BHJP
【FI】
   D07B1/06 Z
【請求項の数】13
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-129979(P2017-129979)
(22)【出願日】2017年6月30日
(65)【公開番号】特開2019-11536(P2019-11536A)
(43)【公開日】2019年1月24日
【審査請求日】2019年12月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】尾花 直彦
【審査官】 小石 真弓
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第102975422(CN,A)
【文献】 特表2003−532808(JP,A)
【文献】 特開昭54−053481(JP,A)
【文献】 特開昭55−093706(JP,A)
【文献】 特開2004−058999(JP,A)
【文献】 特開2007−107136(JP,A)
【文献】 特開平08−284079(JP,A)
【文献】 特開昭56−086639(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D07B 1/00−9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本のスチールフィラメントが撚り合わされた少なくとも1本のコアストランドの周りに、複数本のスチールフィラメントが撚り合わされた複数本のシースストランドが撚り合わされてなるゴム物品補強用スチールコードにおいて、
前記コアストランドおよび前記シースストランドが、1または2本のコアフィラメントと複数本のシースフィラメントとが撚り合わされてなり、
前記コアストランドのコアフィラメントの線径をdcc、前記コアストランドのシースフィラメントの線径をdcs、前記シースストランドのコアフィラメントの線径をdsc、および前記シースストランドのシースフィラメントの線径をdssとしたとき、下記式(1)、
dcc>dcs≧dsc>dss (1)
で表される関係を満足し、
前記スチールフィラメントの抗張力T(MPa)が、下記式、
(−2000×d+3825)≦T<(−2000×d+4525)
で表される関係を満足することを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【請求項2】
前記コアストランドのコアフィラメントの抗張力をTcc、前記コアストランドのシースフィラメントの抗張力をTcs、前記シースストランドのコアフィラメントの抗張力をTsc、および前記シースストランドのシースフィラメントの抗張力をTssとしたとき、下記式(2)、
Tss>Tsc≧Tcs>Tcc (2)
で表される請求項1記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項3】
前記スチールフィラメントの径dが、0.3〜0.8mmである請求項1または2記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項4】
前記コアストランドの同一シースフィラメント層における隣り合うシースフィラメント同士の隙間間隔の平均が、35〜76μmであり、前記シースストランドの同一シースフィラメント層における隣り合うシースフィラメント同士の隙間間隔の平均が、20〜76μmである請求項1〜3のうちいずれか一項記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項5】
前記コアストランドおよび前記シースストランドのコアフィラメントが撚られておらず、かつ、前記コアストランドおよび前記シースストランドが、ストランドの長手方向に直交する方向における断面視で、短軸/長軸が0.7〜0.85である請求項1〜4のうちいずれか一項記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項6】
前記コアストランドおよび前記シースストランドが、2+m構造または2+m+n構造であって、m=8〜9、n=14〜15である請求項1〜5のうちいずれか一項記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項7】
前記コアストランドが、2層以上のシースフィラメント層を有し、ストランド径方向外側の前記シースフィラメント層ほど、前記シースフィラメントの径dcsが小さくなり、かつ、前記シースストランドが、2層以上のシースフィラメント層を有し、ストランド径方向外側の前記シースフィラメント層ほど、前記シースフィラメントの径dssが小さくなる請求項1〜6のうちいずれか一項記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項8】
前記コアストランドおよび前記シースストランドのシースフィラメント層が2層以上の場合、ストランド径方向外側のシースフィラメント層の隣接シースフィラメント間の隙間
間隔の平均が、ストランド径方向内側のシースフィラメント層の隣接シースフィラメント間の隙間間隔の平均よりも大きい請求項1〜7のうちいずれか一項記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項9】
前記シースストランドの長軸:前記コアストランドの長軸が、100:105〜130である請求項1〜8のうちいずれか一項記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項10】
スチールコードの長手方向に直交する方向における断面視で、短軸/長軸が、0.80〜0.95である請求項1〜9のうちいずれか一項記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項11】
前記スチールフィラメントに、ブラスめっきおよび亜鉛めっきが順次施されている請求項1〜10のうちいずれか一項記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項12】
前記スチールフィラメントの径をdとしたとき、前記スチールフィラメントの前記ブラスめっきの付着量(g/m)が6d〜10dであり、亜鉛めっき付着量(g/m)が25d〜95dである請求項11記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項13】
コンベア用である請求項1〜12のうちいずれか一項記載のゴム物品補強用スチールコード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム物品補強用スチールコード(以下、単に「スチールコード」とも称する)に関し、詳しくは、重量を増加させることなく、耐食性を向上させたゴム物品補強用スチールコードに関する。
【背景技術】
【0002】
コンベアベルトやタイヤ等のゴム物品においては、補強材として、複数本のスチールフィラメント(以下、単に「フィラメント」とも称する)が撚り合わされてなるスチールコードが汎用されている。このようなスチールコードについては、これまで多くの提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1では、複撚り構造のスチールコードにおいて、コアストランドのコアフィラメントを2本とし、かつ、シースストランドの最外層シースフィラメントの径をシースストランドの最外層シース内部のフィラメントの径より大きくすることで、スチールコードの径および重量の増大を回避しつつ、耐カット性を向上させたスチールコードが提案されている。また、特許文献2では、複撚り構造のスチールコードにおいて、コアストランドのシースフィラメントの径dcと、シースストランドの最外層シースフィラメントの径dsとの比dc/dsを、1.25を超え1.50以下とすることで、スチール量を維持しつつ、耐カット性を向上させたスチールコードが提案されている。さらに、特許文献3では、2本または3本のコアフィラメントからなるコアと、少なくとも1層のシースとからなる層撚り構造を有するストランドが、複数本撚り合わされてなる複撚り構造のスチールコードにおいて、ストランドの最外層シースを構成するフィラメント同士の隙間を、最外層シースフィラメント13の径の0.5〜4.0%とすることで、最外層フィラメントの先行破断の発生を防止したスチールコードが提案されている。
【0004】
また、特許文献4では、層撚り構造を有する1本のコアストランドと、層撚り構造を有する複数本のシースストランドとからなり、コアストランドの最外層シースフィラメント間の隙間量の平均値を0.073〜0.130mmとし、かつ、最外層シースフィラメントの本数を7〜10本とすることで、防錆性とコード強力および耐せん断性とを改善したスチールコードが提案されている。さらに、特許文献5では、2+M+N構造のスチールコードであって、各層に所定の線径のフィラメントを用いて、所定の撚りピッチで撚り合わせ、充填ゴムを所定の量とすることで、生産性を改善し、耐疲労腐食性を向上させたスチールコードが提案されている。さらにまた、特許文献6では、最外層フィラメント、および内側フィラメントを有するストランドが複数撚り合わされてなり、外周部を構成する最外層ストランドの最外層フィラメントには、ブラスめっき処理を施し、最外層ストランドよりも内側に位置する少なくとも1つのフィラメントに、亜鉛めっき処理を施すことで、ゴムとの接着性の改善を図ったスチールコードが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−69774号公報
【特許文献2】特開2016−30863号公報
【特許文献3】特開2009−108460号公報
【特許文献4】国際公開第2016/017654号
【特許文献5】国際公開第2011/000950号
【特許文献6】特開2011−202291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コンベアベルト用スチールコードには、通常、亜鉛めっき処理が施されている。その理由は、輸送する輸送物によってコンベアベルトに生じたカット等から、フィラメントに雨水等が到達してしまった場合であっても、亜鉛めっきをフィラメントよりも優先的に腐食させることにより、フィラメントの腐食を遅らせることができからである。しかしながら、亜鉛めっきが施されていなくても、スチールコード内部へのゴムの侵入(以下、「ゴムペネ性」とも称す)がなされていれば、そもそも水分がフィラメントまで到達しないため、耐食性には好ましい。
【0007】
ところが、スチールコードの内部にゴムが侵入しやすいということは、スチールコード中の隙間が大きいということになるが、この場合、コード外接円に対するフィラメントの占有率が低下してしまい、その分強力が低下することにつながる。そこで、強力を確保するためにフィラメント径を大きくすると、ゴムペネ性が悪化し、また、コード重量増につながる。このような課題については、従来、複撚り構造のスチールコードについては、十分に検討がなされておらず、さらなる改善の余地が残されているのが現状である。
【0008】
そこで、本発明の目的は、重量を増加させることなく、耐食性を向上させたゴム物品補強用スチールコードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解消するために鋭意検討した結果、複撚り構造のスチールコードを構成するフィラメントの径が所定の関係を満足することで、上記課題を解消できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明のゴム物品補強用スチールコードは、複数本のスチールフィラメントが撚り合わされた少なくとも1本のコアストランドの周りに、複数本のスチールフィラメントが撚り合わされた複数本のシースストランドが撚り合わされてなるゴム物品補強用スチールコードにおいて、
前記コアストランドおよび前記シースストランドが、1または2本のコアフィラメントと複数本のシースフィラメントとが撚り合わされてなり、
前記コアストランドのコアフィラメントの線径をdcc、前記コアストランドのシースフィラメントの線径をdcs、前記シースストランドのコアフィラメントの線径をdsc、および前記シースストランドのシースフィラメントの線径をdssとしたとき、下記式(1)、
dcc>dcs≧dsc>dss (1)
で表される関係を満足し、
前記スチールフィラメントの抗張力T(MPa)が、下記式、
(−2000×d+3825)≦T<(−2000×d+4525)
で表される関係を満足することを特徴とするものである。
【0011】
本発明のスチールコードにおいては、前記コアストランドのコアフィラメントの抗張力をTcc、前記コアストランドのシースフィラメントの抗張力をTcs、前記シースストランドのコアフィラメントの抗張力をTsc、および前記シースストランドのシースフィラメントの抗張力をTssとしたとき、下記式(2)、
Tss>Tsc≧Tcs>Tcc (2)
で表されることが好ましい。さらに、本発明のスチールコードにおいては、前記スチールフィラメントの径dは、0.3〜0.8mmであることが好ましい。さらにまた、本発明のスチールコードにおいては、前記コアストランドの同一シースフィラメント層における隣り合うシースフィラメント同士の隙間間隔の平均は、35〜76μmであり、前記シースストランドの同一シースフィラメント層における隣り合うシースフィラメント同士の隙間間隔の平均は、20〜76μmであることが好ましい。
【0012】
また、本発明のスチールコードにおいては、前記コアストランドおよび前記シースストランドのコアフィラメントが撚られておらず、かつ、前記コアストランドおよび前記シースストランドが、ストランドの長手方向に直交する方向における断面視で、短軸/長軸が0.7〜0.85であることが好ましい。さらに、本発明のスチールコードにおいては、前記コアストランドおよび前記シースストランドは、2+m構造または2+m+n構造であって、m=8〜9、n=14〜15であるスチールコードに好適に適用することができる。さらにまた、本発明のスチールコードにおいては、前記コアストランドが、2層以上のシースフィラメント層を有する場合、ストランド径方向外側の前記シースフィラメント層ほど、前記シースフィラメントの径dcsが小さくなり、かつ、前記シースストランドが、2層以上のシースフィラメント層を有する場合、ストランド径方向外側の前記シースフィラメント層ほど、前記シースフィラメントの径dssが小さくなることが好ましい。
【0013】
また、本発明のスチールコードにおいては、前記コアストランドおよび前記シースストランドのシースフィラメント層が2層以上の場合、ストランド径方向外側のシースフィラメント層の隣接シースフィラメント間の隙間間隔の平均が、ストランド径方向内側のシースフィラメント層の隣接シースフィラメント間の隙間間隔の平均よりも大きいことが好ましい。さらに、本発明のスチールコードにおいては、前記シースストランドの長軸:前記コアストランドの長軸は、100:105〜130であることが好ましい。さらにまた、本発明のスチールコードにおいては、スチールコードの長手方向に直交する方向における断面視で、短軸/長軸が、0.80〜0.95であることが好ましい。
【0014】
また、本発明のスチールコードにおいては、前記スチールフィラメントに、ブラスめっきおよび亜鉛めっきが順次施されていることが好ましい。さらに、本発明のスチールコードにおいては、前記スチールフィラメントの径をdとしたとき、前記スチールフィラメントの前記ブラスめっきの付着量(g/m)が6d〜10dであり、亜鉛めっき付着量(g/m)が25d〜95dであることが好ましい。本発明のスチールコードは、コンベアの補強に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、重量を増加させることなく、耐食性を向上させたゴム物品補強用スチールコードを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一好適な実施の形態に係るゴム物品補強用スチールコードの断面図である。
図2】本発明の他の好適な実施の形態に係るゴム物品補強用スチールコードの断面図である。
図3】本発明の他の好適な実施の形態に係るゴム物品補強用スチールコードの断面図である。
図4】本発明の他の好適な実施の形態に係るゴム物品補強用スチールコードの断面図である。
図5】本発明の他の好適な実施の形態に係るゴム物品補強用スチールコードの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のゴム物品補強用スチールコードについて、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本発明の一好適な実施の形態に係るゴム物品補強用スチールコードの断面図である。本発明のスチールコード1は、複数本のフィラメントが撚り合わされた少なくとも1本のコアストランド2の周りに、複数本のフィラメントが撚り合わされた複数本のシースストランド3が撚り合わされてなる複撚り構造を有している。また、コアストランド2およびシースストランド3は、1または2本のコアフィラメントと複数本のシースフィラメントとが撚り合わされてなる。図示するスチールコード1は、1本のコアストランド2の周りに、6本のシースストランド3が撚り合わされており、コアストランド2およびシースストランド3がともに、2本のコアフィラメント2c、3cが撚り合わされることなく並列に引き揃えられたコアと、このコアの周りに撚り合わされた8本のシースフィラメント2s、3sからなる、(2+8)+6×(2+8)構造である。
【0018】
本発明のスチールコード1において、コアストランド2およびシースストランド3のコアを、1本または2本のコアフィラメントで構成している理由は、コアを3本以上のコアフィラメントで構成すると、コア内部にゴムが侵入しない空隙ができるため、耐食性が得られない場合があるからである。
【0019】
本発明のスチールコード1においては、コアストランド2のコアフィラメント2cの線径をdcc、コアストランド2のシースフィラメント2sの線径をdcs、シースストランド3のコアフィラメント3cの線径をdsc、およびシースストランド3のシースフィラメント3sの線径をdssとしたとき、下記式(1)、
dcc>dcs≧dsc>dss (1)
で表される関係を満足する。すなわち、スチールコード1を構成するフィラメントの径をコード径方向外側に向かうにつれて小さくすることで、ゴムペネ性を向上させている。
【0020】
なお、本発明のスチールコードにおいて、コアストランドおよびシースストランドが、2層のシースフィラメント層を有している場合、コアストランドの第1シースフィラメントの線径をdcs1、コアストランドの第2シースフィラメントの線径をdcs2、シースストランドの第1シースフィラメントの線径をdss1、シースストランドの第2シースフィラメントの線径をdss2としたとき、下記式(3)、
dcc>dcs1>dcs2≧dsc>dss1>dss2 (3)
で表される関係を満足する。なお、コアストランドまたはシースストランドの一方のみが、シースフィラメント層が2層である場合、上記式(3)から、シースフィラメント層が1層である方のdcs2またはdss2を除けばよい。
【0021】
本発明のスチールコード1においては、コアストランド2のコアフィラメント2cの抗張力をTcc、コアストランド2のシースフィラメント2sの抗張力をTcs、シースストランド3のコアフィラメント3cの抗張力をTsc、およびシースストランド3のシースフィラメント3sの抗張力をTssとしたとき、下記式(2)、
Tss>Tsc≧Tcs>Tcc (2)
で表されることが好ましい。すなわち、スチールコード1を構成するフィラメントの抗張力Tをコード径方向外側に向かうにつれて大きくしている。スチールコード1に曲げ入力が加わった場合、コード径方向外側のフィラメントほど大きな入力が加わる。そこで、本発明のスチールコード1においては、スチールコード1を構成するフィラメントの抗張力Tをコード径方向外側に向かうにつれて大きくすることで、疲労耐久性を向上させている。
【0022】
本発明のスチールコード1においては、スチールフィラメントの抗張力T(MPa)は、下記式(2)、
(−2000×d+3825)≦T<(−2000×d+4525) (2)
で表される関係を満足することが好ましい。抗張力Tを(−2000×d+3825)以上とすることで、軽量効果が得られ、また、細いフィラメントを使用できるため、繰り返し曲げ疲労性が向上する。一方、Tが(−2000×d+4525)以上となると、伸線加工性が低下し、フィラメントの生産性に支障をきたす場合がある。なお、本発明のスチールコード1においては、フィラメントの径dは、0.3〜0.8mmの範囲であることが好ましい。フィラメントの径dが0.3mm未満では必要強力が得られない場合があり、一方、0.8mmを超えると必要抗張力が得られない場合があるからである。
【0023】
また、本発明のスチールコード1においては、コアストランド2の同一シースフィラメント層における隣り合うシースフィラメント2s同士の隙間間隔Gcの平均は、35〜76μmが好ましく、シースストランド3の同一シースフィラメント層における隣り合うシースフィラメント3s同士の隙間間隔Gsの平均は、20〜76μmであることが好ましい。シースフィラメント2s、3s同士の隙間間隔Gc、Gsの平均が上記範囲未満であると、スチールコード1内部にゴムが侵入しにくくなるため、好ましくない。一方、シースフィラメント2s、3s同士の隙間間隔Gc、Gsの平均が上記範囲を超えると、コード外接円中に占めるスチールの割合が低下し、その結果コード強力が低下してしまう。そこで、コード強力を確保するためにはフィラメント径を大きくする必要が生じるが、これではコード径が大きくなってしまい、被覆ゴムのゲージが厚くなり、軽量性の面で不利になる。
【0024】
さらに、本発明のスチールコード1においては、図1に示すように、コアストランド2およびシースストランド3のコアフィラメント2c、3cが撚られておらず、かつ、コアストランド2およびシースストランド3が、ストランドの長手方向に直交する方向における断面視で、短軸/長軸が0.7〜0.85であることが好ましい。すなわち、ストランドの長手方向に直交する方向における断面を扁平化している。短軸/長軸が0.7未満になると、同一シースフィラメント層内におけるシースフィラメント同士の隙間間隔Gc、Gsが小さくなり、ゴムペネ性が悪化してしまう。一方、短軸/長軸が0.85を超えると、ストランドの断面ストランドの長手方向に直交する方向における断面が円形に近づくため、コード径が大きくなってしまい軽量性の面で不利になってしまう。
【0025】
さらにまた、本発明のスチールコード1においては、コアストランド2が、2層以上のシースフィラメント層を有する場合、ストランド径方向外側のシースフィラメント層ほど、シースフィラメントの径dcsが小さくなることが好ましい。このような構成とすることで、ゴムペネ性が向上するため、本発明の効果を良好に得ることができる。同様に、シースストランド3が、2層以上のシースフィラメント層を有する場合、ストランド径方向外側のシースフィラメント層ほど、シースフィラメント3sの径dssが小さくなることが好ましい。
【0026】
また、本発明のスチールコード1においては、コアストランドおよびシースストランドのシースフィラメント層が2層以上の場合、ストランド径方向外側のシースフィラメント層の隣接シースフィラメント間の隙間間隔の平均が、ストランド径方向内側のシースフィラメント層の隣接シースフィラメント間の隙間間隔の平均よりも大きいことが好ましい。やはり、このような構成とすることで、ゴムペネ性が向上するため、本発明の効果を良好に得ることができる。
【0027】
さらに、本発明のスチールコード1においては、図1に示すように、シースストランド3の長軸:コアストランド2の長軸は、100:105〜130であることが好ましい。上記比率が105未満であると、コアストランド2とシースストランド3の径がほぼ同じとなるため、同一シースストランド層内におけるシースストランド3同士の隙間間隔が小さくなり、ゴムペネ性が悪化してしまう。一方、上記比率が130を超えると、必要強力を得ようとすると、コード径が大きくなってしまい、被覆ゴムのゲージが厚くなり、軽量性の面で不利になる。
【0028】
さらにまた、本発明のスチールコード1においては、図1に示すように、スチールコードの長手方向に直交する方向における断面視で、短軸/長軸が、0.80〜0.95であることが好ましい。上記比率が0.80未満であると、スチールコード1が扁平になりすぎてしまうため、同一シースストランド層内におけるシースストランド3同士の隙間間隔が小さくなり、ゴムペネ性が悪化してしまう。一方、上記比率が0.95を超えると、スチールコードが円形に近づくため、被覆ゴムのゲージが厚くなり、軽量性の面で不利になる。
【0029】
また、本発明のスチールコード1においては、フィラメントに、ブラスめっきおよび亜鉛めっきが順次施されていることが好ましい。このような構成とすることで、亜鉛めっきが、フィラメントよりも優先的に腐食するため、フィラメントの腐食を遅らせることができる。また、亜鉛めっきであれば、ゴムとの接着性を阻害することもない。なお、このようなフィラメントを製造するにあたっては、ブラスめっきが施されたスチール線材に伸線加工を施してフィラメントとし、その後に亜鉛めっきを施して製造することが好ましい。亜鉛めっきを施したスチール線材に対して伸線加工を施すと、亜鉛めっきの脱落やダイスの摩耗等が生じ、これにより生産性が悪化してしまうからである。そこで、亜鉛めっきを伸線工程後に行うことによって、スチール線材の伸線速度の低下を防止し、めっきの脱落およびダイスの摩耗という問題を回避することができる。特に、ストランド撚り合わせ工程の前、または後に亜鉛めっきを行う亜鉛めっき工程を設ければ、複数本のフィラメントに対して同時に亜鉛めっきを施すことができるため好ましい。
【0030】
なお、亜鉛めっき工程は、電気めっきにて行うことが好ましい。一般的な亜鉛めっきである溶融亜鉛めっきでは、450℃以上の溶融亜鉛にフィラメントを浸漬してめっき処理するため、強度が2,500MPa以上のフィラメントの場合、強度が大きく低下してしまう。そこで、本発明の製造方法においては、亜鉛めっき工程を、電気めっきにて行うことで、上記問題を回避することができる。
【0031】
本発明のスチールコード1においては、スチールフィラメントの径をdとしたとき、スチールフィラメントのブラスめっきの付着量(g/m)が6d〜10dであり、亜鉛めっき付着量(g/m)が25d〜95dであることが好ましい。ブラスめっきの付着量が6d未満では、伸線加工性が低下してしまうため好ましくない。一方、10dより多いと生産性が低下し経済性面で不利となるため好ましくない。また、亜鉛めっき付着量が、25d未満では、防食性が低下する場合があり好ましくなく、一方、95dより多いと生産性が低下し経済性面で不利となるため、好ましくない。
【0032】
なお、スチール線材上にブラスめっきを施す手段としては特に制限はなく、銅および亜鉛を順次めっきし、その後に熱拡散処理を行うことによりブラスめっき層を形成してもよく、銅と亜鉛を同時にめっきすることによりブラスめっき層を形成してもよい。
【0033】
本発明のスチールコード1においては、上記構成を満足するものであれば、それ以外の構成については、特に制限はない。本発明の他の好適な実施の形態に係るゴム物品補強用スチールコードの断面図を図2〜5に示す。
【0034】
図2に示すスチールコード11は、1本のコアストランド12に、6本のシースストランド13が巻き付けられており、コアストランド12およびシースストランド13ともに、1本のコアフィラメント12c、13cの周りに6本のシースフィラメント12s、13sが撚り合わされた構造である。図3に示すスチールコード21は、1本のコアストランド22に、6本のシースストランド23が巻き付けられており、コアストランド22およびシースストランド23ともに、2本のコアフィラメント22c、23cが撚り合わされてなるコアに、8本のシースフィラメント22s、23sが撚り合わされた構造である。図4に示すスチールコード31は、1本のコアストランド32に、6本のシースストランド33が巻き付けられており、コアストランド32およびシースストランド33ともに、1本のコアフィラメント32c、33cの周りに6本のシースフィラメント32s、33sが撚り合わされ、さらにそこに12本のシースフィラメント32s、33sが撚り合わされた構造である。図5に示すスチールコード41は、1本のコアストランド42に、6本のシースストランド43が巻き付けられており、コアストランド42およびシースストランド43ともに、2本のコアフィラメント42c、43cが撚り合わされてなるコアに、8本のシースフィラメント42s、43sが撚り合わされ、さらにそこに14本のシースフィラメント42s、43sが撚り合わされた構造である。
【0035】
本発明のスチールコードにおいては、本発明の効果を良好に得ることができる、2+m構造または2+m+n構造であって、m=8〜9、n=14〜15のものが好適である。本発明のスチールコードにおいては、各ストランドを構成するコアフィラメントおよびシースフィラメントの撚りピッチ、撚り方向についても、常法に従い、適宜選定することができる。さらにまた、ストランドの撚り方向、撚りピッチ等についても特に制限はなく、常法に従い、適宜選定することができる。
【0036】
さらに、本発明のスチールコード1に用いるフィラメントとしては、従来用いられているものであれば何れでも用いることができるが、炭素成分が0.80質量%以上である高炭素鋼であることが好ましい。フィラメントの素材を高硬度である炭素成分が0.80質量%以上の高炭素鋼とすることで、タイヤやコンベアベルトのようなゴム物品の補強効果を十分に得ることができる。一方、炭素成分が1.5%を超えると、延性が低くなり耐疲労性が悪化してしまうので好ましくない。
【0037】
本発明のスチールコード1の用途としては、特に制限はないが、自動車用等のタイヤ、動伝達ベルト、コンベアベルト等の工業用ベルト、ゴムクローラ、ホース、免震用のゴム支承体等の各種ゴム製品や部品類に広く使用することができる。これらの中でも、特に、カット傷を受けやすい、コンベアベルトの補強材に好適に用いることができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
<従来例、比較例1〜3、実施例1〜8および参考例>
表1〜4に示す構造のスチールコードを製造した。スチール線材としては、線径5.5mmの炭素含有量0.82質量%のピアノ線材を伸線加工、パテンティングをおこない、線径1.86〜2.62mmのスチール線材とした。これを再度伸線加工して各種線径を有するフィラメントを得た。その後、フィラメントを撚り合わせてストランドとし、このストランドに亜鉛めっきを電気めっきで施し、さらにストランドを撚り合わせてスチールコードを得た。なお、実施例4については、パテンティング後のスチール線材に銅・亜鉛めっきを施した後、熱拡散してブラスめっきとし、これを再度伸線加工して所定の線径を有するフィラメントとした。このフィラメントを撚り合わせてストランドとし、このストランドに亜鉛めっきを電気めっきで施し、さらにストランドを撚り合わせてスチールコードを得た。
【0039】
得られた各スチールコードにつき、そのゴムペネ性、耐食性、コード重量および繰り返し曲げ疲労性につき評価した。ゴムペネ性、耐食性、コード重量および繰り返し曲げ疲労性については、以下の手法により試験を行った。
【0040】
<ゴムペネ性>
各スチールコードを未加硫ゴム中に埋設し、145℃で45分間の加硫処理を施して評価サンプルを作製し、サンプル中のスチールコードの横断面観察によりゴム侵入状態を評価した。コアストランドの中心部までゴムが浸入している場合を○とし、コアストランド中心部までゴムが浸入していない場合を×とした。結果を表1〜4中に併記する。
【0041】
<耐食性試験>
各スチールコードを2.0mm間隔で平行に並べ、この並べたコードを上下両側からゴムシートでコーティングして、これを145℃×40分の条件で加硫処理を施して評価サンプルを作製した。得られたサンプルから200mmに切断した各スチールコードを取り出し、これを少量の硝酸イオンおよび硫酸イオンを含む中性の水溶液に浸し、毎分1000回転の速度で300N/mmの繰り返し曲げ応力を与えてスチールワイヤが破断に至るまでの回転数を求めた。回転数は最大で100万回まで測定した。得られた結果につき、実施例1のスチールコードを100とした指数にて表記した。結果を表1〜4中に併記する。
【0042】
<コード重量>
スチールコード1m当たりの重量を測定し、実施例1のスチールコードを100とした指数にて表記した。結果を表1〜4中に併記する。
【0043】
<繰り返し曲げ疲労性>
各スチールコードを2.0mm間隔で平行に並べ、この並べたコードを上下両側からゴムシートでコーティングして、これを145℃×40分の条件で加硫した。加硫後にコード3本の束を切り出して得られたサンプルを、径50mmのプーリーに通して、コード強力8.0%のテンションを掛けた状態でサンプルを上下に駆動させる疲労試験を行い、サンプルが破断するまでの繰り返し回数を測定し、実施例1のスチールコードを100とした指数にて表記した。結果を表1〜4中に併記する。
【0044】
【表1】
※1:隣り合うシースフィラメント同士の隙間間隔の平均
※2:(コアストランドとシースストランドの平均)
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
表1〜4より、本発明のスチールコードは、重量を増加させることなく、耐食性を向上さしていることがわかる。なお、実施例3は、ストランドが2層撚りコードでなく3層撚りコードなのでコード強力が高く、コード径も大きくコード重量も実施例1対比重くなっている。
【符号の説明】
【0049】
1、11、21、31、41 スチールコード
2、12、22、32、42 コアストランド
2c、12c、22c、32c、42c コアフィラメント
2s、12s、22s、32s、42s シースフィラメント
3、13、23、33、43 シースストランド
3c、13c、23c、33c、43c コアフィラメント
3s、13s、23s、33s、43s シースフィラメント
図1
図2
図3
図4
図5