(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
タイヤのパンクに備えてスペアタイヤが自動車に搭載されていたが、近年では、軽量化やラゲッジスペース確保のために、スペアタイヤの代わりに、パンク修理キットが搭載されるようになってきている。パンク修理キットの一例は、液状シーリング剤が収容されたボトルに圧縮空気を供給し、ボトル内の液状シーリング剤を、ホースを介してタイヤに圧送すると共に、圧縮空気によりタイヤを膨らませることを基本構造とし、空気を圧縮するためのコンプレッサ、コンプレッサを駆動するためのモータ、モータと同軸に接続されたファン等を、ケースに収容している(特許文献1)。
【0003】
パンク修理キットのコンプレッサは安全弁を備え、コンプレッサにより圧縮された空気の圧力が所定圧力を超えるときに安全弁が開放されるようにして、パンク修理キット使用時の安全性を確保しつつ、ボトル及びタイヤに導く圧縮空気を所定の高圧に維持するようにしている。安全弁から排出される空気は断熱圧縮により高温になっていることから、パンク修理キット使用時にはパンク修理キットのケース内の温度が上昇し易く、安全弁の周囲は、ケース外からも熱く感じられるおそれがあった。
【0004】
パンク修理キットのモータに接続されたたファンは、ケース内で発熱するコンプレッサ及びモータの冷却並びにケース内外の換気に用いられ、パンク修理キットのケース内の温度上昇を抑制する。しかし、パンク修理キットは省スペースのために小型化が求められているので、ファンの送風能力の向上には限度があり、ケース内に熱が籠り易かった。
しかし、これまでパンク修理キットの排出熱についての検討はそれほどされてこなかった。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のパンク修理キットについて、図面を用いてより具体的に説明する。なお、以下の説明において位置を表すときの上、下とは垂直方向の上、下を意味する。
図1に、本発明の一実施形態のパンク修理キット1の斜視図を示し、
図2に、
図1のパンク修理キット1を下面側から見た斜視図を示す。
【0014】
図1のパンク修理キット1は、主要部材がケース10に収容された外観を有している。ケース10は、ケース基部11と、ケース基部11の上方に設けられたケース蓋部12とからなり、概略直方体形状を有している。ケース基部11は、概略四角形の底面及び底面の側縁に沿って立設された4つの側面を有し、上方が開口した箱の形状を有している。ケース基部11の対抗する2つの側面の一方に吸気口11aが形成され、他方に排気口11bが形成されている。
【0015】
ケース蓋部12は、第1ケース蓋部121と、第2ケース蓋部122と、第3ケース蓋部123とに三分割されている。第1ケース蓋部121、第2ケース蓋部122及び第3ケース蓋部123は、それぞれケース基部11の上端の一辺を回転軸として回動可能になっている。第1ケース蓋部121に、圧力計の表示部13が設けられている。また、第1ケース蓋部121の側面に排気口121bが形成されている。第2ケース蓋部122の側面に、吸気口122aが形成されている。また、第2ケース蓋部122に、パンク修理キット1の動作及び停止を切り替えるスイッチ14を露出するための開口122bが設けられている。
【0016】
図2に示されるように、ケース基部11の裏面に、側縁に沿って凹部11cが形成されていて、この凹部11cに耐圧ホース15が収容されている。耐圧ホース15の先端にタイヤのバルブに接続する金具15aを有している。
【0017】
図3に、パンク修理キット1の第1ケース蓋部121、第2ケース蓋部122及び第3ケース蓋部123を、ケース基部11の上端の一辺を回転軸として回動させたときの展開図を示す。ケース基部11の内側に、スイッチ14、モータ16、ファン17、コンプレッサ18、安全弁19、ボトル取り付け部20、シガープラグ21等のパンク修理キット1の部材が収容されている。
【0018】
モータ16は、コンプレッサ18を駆動するためのものであり、使用時には自動車のシガーソケットに装着されたシガープラグ21から電源コード22を通して駆動電力が供給される。ファン17は、モータ16の回転軸に取り付けられ、モータ16を冷却するとともに、ケース10の内側、なかでもケース基部11と、第1ケース蓋部121と第2ケース蓋部122とで囲われた内部空間の換気を図る。
【0019】
ケース10内の換気をより具体的に説明すると、ケース基部11の一方の側面に吸気口11aが形成され、この吸気口11aの近傍で第2ケース蓋部122の側面に、吸気口122aが形成されている。また、ケース基部11の吸気口11aが形成された側面に対向する側面に排気口11bが形成され、この排気口11bの近傍で第1ケース蓋部121の側面に排気口121bが形成されている。ケース10は、ケース基部11と、第1ケース蓋部121及び第2ケース蓋部122とで囲われた部分においては、上述した吸気口11a、吸気口122a、排気口11b及び排気口121b以外の開口は、ほとんどない。つまり、ケース10は、コンプレッサ18、モータ16及びファン17を収容する部分が、吸気口11a、吸気口122a、排気口11b及び排気口121bを除いて密閉可能となっている。したがって、モータ16の回転軸に直結して取り付けられたファン17を作動させると、ケース基部11の吸気口11a及び第2ケース蓋部122の吸気口122aからケース内に空気が導入され、ケース基部11の排気口11b及び第1ケース蓋部121の排気口121bからケース内の空気が排出されるような空気の流れが、ケース10内に生じ、換気が図られる。
【0020】
コンプレッサ18は、クランク部181と、シリンダ部182とを備えている。クランク部181は、減速機及びクランク軸を含む。シリンダ部182は、クランク部181のクランク軸に接続して往復運動するピストンを内蔵している。シリンダ部182のシリンダヘッド182aに、ピストンの往復運動により圧縮された空気をボトル取り付け部20に導く配管23が接続されているとともに、安全弁19に接続される可撓性の耐圧ホース24が接続されている。
図3において、配管23は、シガープラグ21よりもケース基部11の下側に位置している。
【0021】
図4に、パンク修理キット1のケース基部11及びその近傍並びに当該ケース基部11に収容された各部材の拡大平面図を示す。
図4は、シガープラグ21を当該シガープラグ21の取り付け位置から取り外したときの状態を示している。
図4から、配管23の一端が、ボトル取り付け部20に接続されていることが理解される。ボトル取り付け部20は、耐圧ホース15(
図2参照)の一端と接続されていて、ボトル取り付け部20にボトル2(
図5参照)に取り付けられているときに、配管23から導かれる圧縮空気をボトル2内に導いて、ボトル2内の液状シーリング剤を、耐圧ホース15を介してタイヤに注入すると共に、圧縮空気によりタイヤを膨らませることができるようにしている。
【0022】
また、配管23とモータ16との間に、仕切り11dが設けられている。この仕切り11dにより、ケース基部11を、モータ16が収容されている部分と、ボトル取り付け部20、シガープラグ21及び電源コード22が収容されている部分とを区画している。これは、パンク修理キット1を使用するときには、三分割されているケース蓋部12のうち、ボトル取り付け部20、シガープラグ21及び電源コード22が収容されている部分に対応する第3ケース蓋部123のみを開ければよいようにするためである。つまり、パンク修理キット1を使用するときには、第1ケース蓋部121と、第2ケース蓋部122とは、ケース基部11と接して閉じた状態のままである。
【0023】
安全弁19は、第1ケース蓋部121の側面121a近傍で、長手方向が側面121aに平行に取り付けられている。安全弁19は、図示した例では概略円筒の外形をなす外筒部19aと、外筒部19a、の内部空間に収容され、気密に摺動可能な円盤状の弁体と、当該弁体に接続するばねと、当該弁体に一端が接続するとともに、他端が安全弁19の一端から延出しているゲージ棒19bと備えている。弁体やばねは、図面には表れない。安全弁19の外筒部19aの一端に耐圧ホース24が接続されている。コンプレッサ18から導かれた圧縮空気により、安全弁19の弁体は、外筒部19aの内部空間でばねを圧縮し、ばねの反力を受けながら摺動する。この弁体の摺動に伴うゲージ棒19bの直線的な移動を利用してゲージ棒19bの先端を、圧力計のゲージとしている。外筒部19aは、所定の位置に吐出口19c(
図7、
図8参照)が形成されている。安全弁19に導かれた圧縮空気の圧力が、設定圧力よりも高い圧力になったときに、安全弁19は、弁体が吐出口19cを通過し、吐出口19cから圧縮空気が吐出するような構造になる。これにより、設定圧力を超える高圧にならないようにしている。
図4に示した本実施形態のパンク修理キット1においては、安全弁19の吐出口19cは、外筒部19aの周面において、第1ケース蓋部121の側面121aに対向する向きとは反対側の向き、すなわち、第1ケース蓋部121を閉じているときに、ケース10内の奥行方向に圧縮空気が吐出するような向きに開口されている。もっとも本発明のパンク修理キットにおいて、安全弁は
図3及び
図4に示したものに限られない。いずれの安全弁にあっても、コンプレッサ18で生成される圧縮空気の圧力が、所定の圧力を超える場合には、断熱圧縮により高温になっている空気が安全弁からケース10内に吐出されるような構造とする。したがって、ユーザが高温の空気に直接的に触れることを回避することができる。
【0024】
図3及び
図4に示したボトル取り付け部20に取り付けられるボトル2の一例を
図5に分解図で示す。ボトル2は、ボトル本体2aとキャップ2bとを有し、キャップ2bはボトル本体2aの先端部に螺着されている。キャップ2bは、パンク修理時に取り外される。ボトル本体2aの先端部の開口は、シール部材により封止されている。パンク修理キット1のボトル取り付け部20は、ボトル本体2aの先端部の雄ねじとねじ結合する雌ねじのねじ山を有しているとともに、ボトル本体の先端部のシール部材を破る突起を有し、ボトル本体2aの先端部がボトル取り付け部20に螺着されたときに、ボトル本体2aの先端部のシール部材が破れるようになっている。
【0025】
図6に、パンク修理時のパンク修理キット1の斜視図を示す。三分割されているケース蓋部12のうち、第3ケース蓋部123のみが開かれ、ボトル取り付け部20に、ボトル2のボトル本体2aが螺着されている。ケース基部11の裏面から耐圧ホース15の先端が取り外され、タイヤのバルブに接続される。シガープラグ21は引き出されて自動車のシガーソケットに接続される。
【0026】
パンク修理時に、三分割されているケース蓋部12のうち、第1ケース蓋部121及び第2ケース蓋部122は、ケース基部11と接している閉じた状態のままである。第1ケース蓋部121の裏側に取り付けられている安全弁19の吐出口19cから吐出される高温の空気により、ケース10内の温度が高まるのを抑制するために、本実施形態のパンク修理キット1は、ケース10が、吸気口11a及び吸気口122aから排気口11b、排気口121bに向かう気流に、安全弁19から排出される空気がケース10内で迂回して混合される経路が形成されている。この経路について、
図7及び
図8を用いて説明する。
【0027】
図7は、パンク修理時のパンク修理キット1の平面図を示し、
図8は、
図7に示す安全弁19近傍の拡大図である。
図7及び
図8において、ボトル取り付け部20及び配管23は、簡略化して記載し、また、圧力計の表示部13、スイッチ14、シガープラグ21及び電源コード22は記載を省略している。第1ケース蓋部121の裏面には、安全弁19の近傍に、内壁121c、内壁121d及び内壁121eが設けられている。内壁121c、内壁121d及び内壁121eは、
図7において、第1ケース蓋部121の裏面から垂直方向の下向きに延びる板状の壁であり、一般的なプラスチック成形法により第1ケース蓋部121の裏面と一体的に形成されている。内壁121cは、安全弁19の固定手段を兼備していて、安全弁19の中央寄りで概略U字形の平面形状を有している。内壁121cは、安全弁19の吐出口19cから吐出される高温の空気の流れをケース10内でほぼ半周回させるときの内周側の壁である。内壁121dは、内壁121cから見て安全弁19の吐出口19cよりも離れて位置し、安全弁19の一端の近傍から内壁121eまで延びている。内壁121eは、安全弁19から離れて位置し、内壁121dと共に安全弁19の吐出口19cから吐出される高温の空気の流れをケース10内でほぼ半周回させるときの外周側の壁である。なお、内壁121dは、内壁121c及び内壁121eに比べて垂直方向の長さが短い。したがって、内壁121dの下端よりも下方を通って、ファンによるケース10内の気流(図中で矢印A1で示す)が通過可能となっている。
【0028】
本実施形態のパンク修理キット1の作用効果について
図8を用いて説明する。内壁121c、内壁121d及び内壁121eは、内壁121cを内周とし、内壁121d及び内壁121eを外周とする、ほぼ半周回の迂回経路が形成している。安全弁19の吐出口19cは、第1ケース蓋部121の側面121aに対向する向きとは反対側の向きに開口している。なおかつ、
図8に示した例では、やや上向きに開口されている。そのため、吐出口19cから吐出される高温の空気は、内壁121c、内壁121d及び内壁121eにより形成された迂回経路をほぼ半周回してから排気口121b及び図には表れない排気口11bから排出される気流(図中で矢印A2で示す)が生じる。
【0029】
迂回経路を経る過程で、吐出口19cから吐出される高温の空気は、温度が低下する。吐出口19cから吐出される高温の空気は、ケース10内での移動距離が長いほど温度が経過するところ、本実施形態のパンク修理キット1は、吐出口19cの近傍で、上述した迂回経路により、十分に温度を低下させるのに必要な移動距離が確保できるので、排気口121b及び図には表れない排気口11bからケース10外に排出されるときの温度を十分に低下させることができるし、また、吐出口19c近傍のケース内温度を抑制することができる。
【0030】
また、内壁121dの下端よりも下方を通って、ファン17によるケース10内の気流(図中で矢印A1で示す)が、吐出口19cから吐出される高温の空気と混合される。したがって、吐出口19cから吐出される高温の空気は、ファン17によるケース10内の気流により冷やされて温度が低下する。したがって、上述した迂回経路の効果と相俟って、排気口121b及び図には表れない排気口11bからケース10外に排出されるときの温度を十分に低下させることができる。よって、ユーザが高温の空気に触れるのを抑制することができるし、吐出口19c近傍のケース内温度を抑制することができる。
【0031】
更に、内壁121c、内壁121d及び内壁121eにより、吐出口19cから吐出される高温の空気の迂回は、安全弁19近傍に限定される。また、ファン17による気流が、内壁121dの下端よりも下方を通って、排気口121b及び図には表れない排気口11bに向かうので、吐出口19cから吐出される高温の空気が、シリンダ部182やモータ16に向けて逆流することはない。したがって、モータ16やシリンダ部182近傍のケース内温度の上昇を抑制することができる。
【0032】
加えて、内壁121c、内壁121d及び内壁121eによる迂回経路の後半は、ファン17によるケース10内の気流と同じ方向である。したがって、吐出口19cから吐出される高温の空気の気流は、ファン17によるケース10内の気流と合流するので、当該高温の空気の排出効率を上げることができる。
【0033】
次に、パンク修理キット1は、内壁121c、内壁121d及び内壁121eとファン17との間に、整流板を備えている。
図7において、第1ケース蓋部121に、整流板121f及び整流板121gが形成され、第2ケース蓋部122に、整流板122c及び整流板122dが形成されている。
【0034】
図9に、第1ケース蓋部121の裏面の拡大図を示す。
図9において、整流板121f及び整流板121gは、第1ケース蓋部121の裏面から垂直方向の下向きに延びる板であり、一般的なプラスチック成形法により第1ケース蓋部121の裏面と一体的に形成されている。整流板121gの一端は、第2ケース蓋部122の整流板122cの一端と接続し、他端は、整流板121fと接続する。整流板121fは、側面121aと平行に延び、一端が安全弁19近傍に位置する。整流板121f及び整流板121gにより、ファン17によるケース10内の気流を、排気口11b及び排気口121bに向けて整流することができ、ひいては冷却効率を向上させることができる。
【0035】
図10に、第2ケース蓋部122の裏面の拡大図を示す。
図10において、整流板122c及び整流板122dは、第2ケース蓋部122の裏面から垂直方向の下向きに延びる板であり、一般的なプラスチック成形法により第2ケース蓋部122の裏面と一体的に形成されている。整流板122c及び整流板122dは、モータ16を挟み、第1ケース蓋部に向けて延びている。整流板122c及び整流板122dにより、ファン17によるケース10内の気流を、排気口11b及び排気口121b(
図9参照)に向けて整流することができ、ひいては冷却効率を向上させることができる。
【0036】
本実施形態のパンク修理キット1について、パンク修理時における排気口121bから排出される空気の温度を測定し、モータ16の始動時からの経時変化のグラフで
図11に示す。比較例1は、排気口の位置を変更し、かつ、安全弁19の吐出口19cからの高温の空気を、排気口から直接に排気するように試作したパンク修理キットの例である。
図11から、本実施形態のパンク修理キット1は、ケース10外に排出される空気の温度が、ユーザが刺激的な熱さを感じさせない程度のものなっていた。これに対して、比較例1は、高温の空気がケース外に排出された。
【0037】
本実施形態のパンク修理キット1について、ケース10内のモータ16及びシリンダヘッド182aの温度を、モータ16の始動時から10分後に測定した結果をグラフで
図12に示す。比較例2は、安全弁19の近傍に、内壁121c、内壁121d及び内壁121eが設けなかった従来のパンク修理キットの例である。
図12から、本実施形態のパンク修理キット1は、モータ16及びシリンダヘッド182aの温度が比較例2よりも低く、モータ16及びシリンダヘッド182aに対して冷却効果が向上した。
【0038】
本実施形態のパンク修理キット1について、パンク修理時における安全弁19の温度を測定し、モータ16の始動時からの経時変化のグラフで
図13に示す。比較例1は、
図11に示した比較例1と同じである。
図11から、本実施形態のパンク修理キット1は、安全弁の温度が比較例1よりも低く、安全弁19に対して冷却効果が向上した。
【0039】
以上、本発明のパンク修理キットを、実施形態及び図面により説明したが、本発明のパンク修理キットは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で幾多の変形が可能である。